説明

多層ポリエステル容器及びその製法

【課題】中間層として延伸応力の大きい機能性樹脂或いは機能性樹脂組成物を用いた場合にも、透明性及びバリア性能等の機能に優れた多層ポリエステル容器を提供することである。
【解決手段】ポリエステル樹脂から成る内外層、及び機能性樹脂から成る少なくとも一層の中間層から成る多層ポリエステル容器において、前記ポリエステル内層の、0.5Hzでの動的粘弾性(DMS)測定における80℃及び60℃におけるtanδの差が0.035以下であることを特徴とする多層ポリエステル容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性樹脂から成る中間層を有する多層容器に関し、より詳細には、中間層に延伸応力の高い機能性樹脂を用いた場合にも透明性及びバリア性能に優れた多層ポリエステル容器及びその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック包装容器の内容物の保存性を向上させるために、従来より、容器壁を多層構造とし、内外層としてポリエステル樹脂、中間層としてガスバリア性を向上させるエチレンビニルアルコール共重合体やキシリレン基含有ポリアミド樹脂、或いは水蒸気(水分)バリア性を向上させる環状オレフィンコポリマー等の機能性樹脂を有する樹脂を用いることが行われている。
【0003】
また、このようなガスバリア性等の機能を更に向上させ、或いは他の機能を付与するために、機能性樹脂に無機充填剤や或いは他の樹脂組成物を含有させることも行われており、例えば、キシリレン基含有ポリアミド樹脂のガスバリア性能を更に向上させるものとして、キシリレン基含有ポリアミドに有機化クレイを配合することも提案されている(特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−142444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したような機能性樹脂を中間層として、単層のポリエステルボトルと同様の条件で二軸延伸ブロー成形を行うと、延伸に伴い中間層内に剥離を生じて、大小のボイドが発生し、透明性及びバリア性能が低下するという問題を生じた。
また、キシリレン基含有ポリアミドに有機化クレイを配合して成る樹脂組成物をポリエステル樹脂から成る内外層の中間層とする延伸ブロー成形による多層容器においては、延伸時に高負荷が生じやすいという延伸特性を有するため、延伸倍率や有機化クレイ配合樹脂組成物の使用量に限界があり、ガスバリア性の向上には限界があった。
【0006】
従って、本発明の目的は、中間層として延伸応力の大きい機能性樹脂或いは機能性樹脂組成物を用いた場合にも、透明性及びバリア性能等の機能に優れた多層ポリエステル容器を提供することである。
また本発明の他の目的は、中間層として延伸応力の大きい機能性樹脂或いは機能性樹脂組成物を用いた場合に、透明性及びバリア性能等の機能を低下させることなく、多層ポリエステル容器を成形し得る製法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、ポリエステル樹脂から成る内外層、及び機能性樹脂から成る少なくとも一層の中間層から成る多層ポリエステル容器において、前記ポリエステル内層の、0.5Hzでの動的粘弾性(DMS)測定における80℃及び60℃におけるtanδの差が0.035以下であることを特徴とする多層ポリエステル容器が提供される。
本発明の多層ポリエステル容器においては、
1.機能性樹脂が、厚さ1.5mmの射出成形板を115℃で延伸したときの延伸応力の最大値が50N以上であること、
2.機能性樹脂が、エチレン−ビニルアルコール共重合体又はポリメタキシリレンアジパミドを基材樹脂として含有するものであること、
3.機能性樹脂が、クレイを分散させたものであること、
4.機能性樹脂が、環状オレフィン系樹脂であること、
が好適である。
【0008】
本発明によればまた、ポリステル樹脂から成る内外層、及び機能性樹脂から成る少なくとも一層の中間層から成る多層プリフォームを二軸延伸ブロー成形して成る多層ポリエステル容器の製法において、前記二軸延伸ブロー成形に際して、多層プリフォームを105乃至120℃の温度に加熱すると共に、多層プリフォームを300乃至600℃に加熱された加熱体を用いて内部加熱すること及び/又は150乃至220℃のホットエアーを用いることを特徴とする多層ポリエステル容器の製法が提供される。
本発明の多層ポリエステル容器の製法においては、厚さ1.5mmの射出成形板を115℃で延伸したときの延伸応力の最大値が50N以上である機能性樹脂を好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ポリエステル樹脂から成る内外層、及び機能性樹脂から成る少なくとも一層の中間層から成る多層ポリエステル容器において、延伸によるボイドの発生が抑制され、透明性及び機能性樹脂による優れた機能を発現し得ることが可能となる。
また、本発明の製法によれば、透明性及び機能性樹脂による優れた機能を損なうことなく、ポリエステル樹脂から成る内外層、及び機能性樹脂から成る少なくとも一層の中間層から成る多層ポリエステル容器を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、ポリエステル樹脂から成る内外層、及び機能性樹脂から成る少なくとも一層の中間層から成る多層ポリエステル容器において、前記ポリエステル内層の、0.5Hzでの動的粘弾性(DMS)測定における80℃及び60℃におけるtanδ(損失正接)の差が0.035以下であることが重要な特徴である。
前述した通り、ポリエステル樹脂を内外層、機能性樹脂を中間層とする多層ポリエステル容器において、内外層を構成するポリエステル樹脂に比して中間層を構成する機能性樹脂は一般に延伸応力が高いため、通常の多層のポリエステル容器の延伸と同様に延伸成形を行った場合には、中間層の延伸が内外層の延伸に追従できず、その結果、中間層にボイドが発生してしまい、透明性を損なうと共に、中間層として用いた機能性樹脂の機能を十分に発現できなかった。
本発明においては、このような機能性樹脂からなる中間層であっても、ポリエステル内層の0.5Hzでの動的粘弾性(DMS)測定における80℃及び60℃におけるtanδの差が0.035以下であることにより、このようなボイドの発生が有効に防止され、透明性及びバリア性等中間層の樹脂が本来有する機能が十分に発現されることを見出したのである。
【0011】
動的粘弾性(DMS)測定におけるtanδの値は、損失弾性率E’’を貯蔵弾性率E’で除した値、すなわち、その値は損失成分に寄与する非晶部分と、貯蔵成分に寄与する結晶部の比であることから、その絶対値が小さいということは延伸による歪が小さく、80℃及び60℃におけるtanδの値の差が小さいということは、残存歪量の温度依存性が弱く、この温度域で歪が緩和されていることを意味している。
尚、本発明において、80℃及び60℃におけるtanδの値を基準としたのは、実験により、かかる温度における値が最も本発明の特徴を端的に現すことを見出したからである。
【0012】
本発明においては、延伸応力の大きい機能性樹脂から成る中間層が延伸に際して歪緩和されていることが重要であることから、中間層のtanδを測定し、歪が緩和されていることが確認されていることが理想であるが、一般に中間層はその厚みが薄く、また機能性樹脂はその性質上吸湿性が高い等、tanδを正確に測定することが困難である。そのため本発明においては、二軸延伸ブロー成形に際し、容器の厚み方向における延伸倍率が最も高く、歪が大きいポリエステル最内層に着目し、かかるポリエステル最内層が充分に歪緩和されている場合には、当然機能性樹脂から成る中間層の歪も緩和されていると考えられ、事実ポリエステル内層のtanδの値を測定すると共に、その値における中間層のボイド観察、透明性及びバリア性等の機能の評価を行った結果、ポリエステル内層のtanδの値と中間層の歪緩和の程度には相関関係があることを見出したのである。
また二軸延伸ブロー成形された容器においては、胴部は容器の部位の中でも最も延伸されているため、歪緩和の影響を測定しにくいことから、歪緩和の影響を測定しやすい個所でtanδの値を測定すべきであり、延伸があまりかかっていない接地面近傍或いはネック下近傍、特にネック下近傍を測定することが必要である。
【0013】
本発明の多層ポリエステル容器のかかる作用効果は、後述する実施例の結果からも明らかである。すなわちポリエステル内層の、0.5Hzでの動的粘弾性(DMS)測定における80℃及び60℃におけるtanδの差が0.035よりも大きい場合には、ボイドに起因して透明性及びバリア性が低下している(比較例1〜4)。これに対して、tanδの差が0.035以下の場合には、優れた透明性及びバリア性を有している(実施例1〜5)。
【0014】
(機能性樹脂)
本発明において中間層を構成する機能性樹脂としては、ガスバリア性、水蒸気バリア性、酸素吸収性、酸素吸収ガスバリア性等の従来公知の機能性樹脂或いは機能性樹脂をマトリックスとする樹脂組成物を使用することができるが、本発明においては特に、厚さ1.5mmの射出成形板を115℃で延伸したときの延伸応力の最大値が50N以上である機能性樹脂に好適に使用できる。このように延伸応力の大きな機能性樹脂は延伸によりボイドが発生しやすく、延伸により透明性及び機能性樹脂に基づく機能が損なわれやすいが、本発明においては、かかる延伸応力の大きい機能性樹脂を中間層とした場合にも優れた透明性及び機能を発揮することが可能となるのである。
【0015】
本発明において、中間層に用いる機能性樹脂としては、ガスバリア性樹脂のポリメタキシリレンアジパミド、ポリメタキシリレンセバカミド等のポリアミド樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体等や、水蒸気バリア性樹脂の環状オレフィン系樹脂等を挙げることができるが、これらは何れも上述した条件で測定した延伸応力の最大値が50N以上と延伸応力が大きく、延伸し難い樹脂である。
また、上記ガスバリア性樹脂に、有機化クレイを分散させてガスバリア性樹脂組成物層として用いることもできるし、または、酸化性有機成分及び遷移金属触媒を有機化クレイと共に或いはこれらのみを含有させて、酸素吸収性ガスバリア樹脂組成物層として用いることもできる。このような有機化クレイ等が配合された機能性樹脂組成物は、一般に、機能性樹脂単独よりも延伸応力が大きくなり、ボイドの発生による透明性及びガスバリア性等の機能が損なわれやすいものである。
【0016】
有機化クレイとは、クレイを有機化剤で膨潤化処理したものであり、有機化クレイ中のクレイは、マイカ、バーミキュライト、スメクタイト等であり、好ましくは0.25〜0.6の電荷密度を有する2−八面体型や3−八面体型の層状珪酸塩であり、2−八面体型としては、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト等、3−八面体型としてはヘクトライト、サポナイト等が挙げられる。これらの中でも、モンモリロナイトは高膨潤性を有し、有機化剤の浸透による膨潤が起こり層間が広がりやすいため特に好ましい。
有機化剤としては、第4級アンモニウム塩が好ましく使用できるが、より好ましくは、炭素数12以上のアルキル基を少なくとも一つ以上有する第4級アンモニウム塩、具体的には、トリメチルドデシルアンモニウム塩、トリメチルテトラデシルアンモニウム塩等が用いられる。
有機化クレイ含有機能性樹脂においては、有機化クレイを機能性樹脂100重量部当たり1乃至10重量部、特に1乃至8重量部の割合で配合することが好ましい。上記範囲よりも有機化クレイの量が少ない場合には、有機化クレイを配合することにより得られるガスバリア性を上記範囲にある場合に比して充分に得ることができず、一方上記範囲よりも有機化クレイの量が多い場合には、上記範囲にある場合に比して成形性に劣るようになるので好ましくない。
【0017】
酸化性有機成分及び遷移金属触媒の組み合わせは、従来公知の酸素吸収性樹脂組成物に用いられているものを使用することができ、酸化性有機成分としては、側鎖または末端に官能基を有し且つ酸化可能なもの、具体的には、ブタジエン、無水マレイン酸変性ブタジエン等の酸乃至酸無水物で変性されたポリエンオリゴマー乃至ポリマーを挙げることができ、また遷移金属触媒としては、鉄、コバルト、ニッケル等の周期律表第VIII族金属成分が使用されるが、勿論、これらの例に限定されない。
酸化性有機成分の配合量は、機能性樹脂100重量部当たり2乃至10重量部の量で配合されていることが好ましく、また遷移金属触媒は、金属換算で少なくとも300ppm配合されていることが好ましい。
【0018】
本発明に用いる機能性樹脂には、上述したような有機化クレイ、酸化性成分及び遷移金属触媒の組み合わせの他、脱酸素剤、充填剤、着色剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、酸化防止剤、老化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、金属セッケンやワックス等の滑剤、改質用樹脂乃至ゴム等の公知の樹脂配合剤を、本発明の目的を損なわない範囲で、それ自体公知の処方に従って配合できる。
【0019】
(ポリエステル樹脂)
本発明の内外層に用いるポリエステル樹脂は、従来公知のジカルボン酸成分及びジオール成分から成るポリエステル樹脂を用いることができる。
ジカルボン酸成分としては、ジカルボン酸成分の50%以上、特に80%がテレフタル酸であることが機械的性質や熱的性質から好ましいが、テレフタル酸以外のカルボン酸成分を含有することも勿論できる。テレフタル酸以外のカルボン酸成分としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、p−β−オキシエトキシ安息香酸、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェノキシエタン−4,4’−ジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、アジピン酸、セバシン酸等を挙げることができる。
【0020】
ジオール成分としては、ジオール成分の50%以上、特に80%以上がエチレングリコールであることが、機械的性質や熱的性質から好ましく、エチレングリコール以外のジオール成分としては、1,4−ブタンジオール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6−へキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、グリセロール、トリメチロールプロパン等を挙げることができる。
【0021】
また上記ジカルボン酸成分及びジオール成分には、三官能以上の多塩基酸及び多価アルコールを含んでいてもよく、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸、ヘミメリット酸,1,1,2,2−エタンテトラカルボン酸、1,1,2−エタントリカルボン酸、1,3,5−ペンタントリカルボン酸、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸、ビフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸等の多塩基酸や、ペンタエリスリトール、グリセロール、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオール、ソルビトール、1,1,4,4−テトラキス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン等の多価アルコールが挙げられる。
【0022】
本発明の内外層に用いるポリエステル樹脂は、重量比1:1のフェノール/テトラクロロエタン混合溶媒を用い、30℃にて測定した固有粘度が、0.60乃至1.40dL/gの範囲にあることが好ましい。また多層容器の耐熱性、加工性等を向上するため、200乃至275℃の融点(Tm)を有することが好ましい。またガラス転移点は、30℃以上、特に50乃至120℃の範囲であることが好ましい。
【0023】
本発明の内外層に用いるポリエステル樹脂には、それ自体公知の樹脂用配合剤、例えば着色剤、抗酸化剤、安定剤、各種帯電防止剤、離型剤、滑剤、核剤等を最終成形品の品質を損なわない範囲で公知の処方に従って配合することができる。
【0024】
(多層ポリエステル容器)
本発明の多層ポリエステル容器は、ポリエステル樹脂から成る内外層、機能性樹脂或いは機能性樹脂を基材樹脂とする機能性樹脂組成物から成る中間層を少なくとも1層有する限り種々の層構成を採用することができ、図1に示すように、ポリエステル樹脂から成る内層1及び外層2の間に機能性樹脂から成る中間層3を有する層構成のものでもよいし、図2に示すように、ポリエステル樹脂から成る内層1及び外層2に、ポリエステル樹脂からなる内層1とポリエステル樹脂から成る中間層4の間及びポリエステル樹脂から成る外層2及びポリエステル樹脂から成る中間層4の間に、機能性樹脂から成る中間層3a,3bが2つ形成された層構成等であってもよい。
【0025】
多層容器の製造に当たって、一般には不要であるが、各樹脂層間に接着剤樹脂を介在させることもできる。このような接着剤樹脂としては、カルボン酸、カルボン酸無水物、カルボン酸塩、カルボン酸アミド、カルボン酸エステル等に基づくカルボニル(−CO−)基を主鎖又は側鎖に、1乃至700ミリイクイバレント(meq)/100g樹脂、特に10乃至500meq /100g樹脂の濃度で含有する熱可塑性樹脂が挙げられる。接着剤樹脂の適当な例は、エチレン−アクリル酸共重合体、イオン架橋オレフイン共重合体、無水マレイン酸グラフトポリエチレン、無水マレイン酸グラフトポリプロピレン、アクリル酸グラフトポリオレフイン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、共重合ポリエステル等である。
【0026】
本発明の多層容器において、胴部の厚みは、容器の容積(目付)や容器の用途によっても相違するが、全体の厚みが200乃至600μm、特に240乃至500μmの範囲にあるのがよい。
中間層である機能性樹脂層の厚みは30μm以下であることが容器の透明性の点から重要であり、特に10乃至30μmの範囲にあることが好ましく、中間層が胴部の全厚みの3乃至15%の範囲にあることが好ましい。
また機能性樹脂から成る中間層を複数存在させるときは、一つの中間層の厚みが25μm以下、特に10乃至25μmの範囲にあることが好ましく、中間層全体として胴部の全厚みの3乃至25%の範囲にあることが好ましい。
【0027】
(多層容器の製造方法)
本発明の多層容器は、上記多層構造を有するプリフォームを成形し、このプリフォームを105℃以上の高温に加熱して、このプリフォームを軸方向に引っ張り延伸すると共に周方向にブロー延伸し、必要により熱固定することにより製造することができる。
多層プリフォームの製造は、それ自体公知の成形法で行うことができ、例えば機能性樹脂とポリエステル樹脂とを共押出する共押出成形法:機能性樹脂とポリエステル樹脂とを金型内に同時に射出する同時射出成形法:ポリエステル樹脂、機能性樹脂、ポリエステル樹脂を金型内に逐次射出する逐次射出法:機能性樹脂とポリエステル樹脂との共押出物をコア型とキャビティ型とで圧縮成形する圧縮成形法で製造することができる。
これら何れの方式による場合にも、形成されるプリフォームは過冷却状態、即ち非晶質状態にあるべきであり、また機能性樹脂中間層は、熱可塑性ポリエステルの内外層中に内封されていることが好ましい。
【0028】
多層プリフォームの成形とその延伸ブロー成形とは、上記の通りコールドパリソン方式で実施することが好ましいが、形成される多層プリフォームを完全に冷却しないで延伸ブロー成形を行うホットパリソン方式にも適用できる。
【0029】
延伸ブロー成形に先立って、プリフォームを熱風、赤外線ヒーター、高周波誘導加熱等の手段で延伸温度まで予備加熱するが、本発明においては、特に105乃至120℃、特に108乃至118℃の通常の延伸ブロー成形よりも高温に加熱して延伸ブローすることが重要である。すなわち上記温度よりもプリフォームの温度が低い場合には、機能性樹脂中間層の延伸応力が大きくなるためボイドが発生し易くなって、得られる多層容器の透明性に劣り、一方上記範囲よりも大きい場合には、プリフォームが軟化して延伸ブロー成形時に芯ズレを生じて成形性が悪化して、得られる多層容器の肉厚分布が不均一になったり、プリフォームが延伸ブロー成形前に結晶化してしまい、成形が不可能となる。
【0030】
この加熱されたプリフォームを、それ自体公知の延伸ブロー成形機中に供給し、金型内にセットして、延伸棒の押し込みにより軸方向に引張延伸すると共に、流体の吹き込みにより周方向に延伸するが、本発明においては、この際、多層プリフォームを300乃至600℃に加熱された加熱体を用いて内部加熱すること及び/又は150乃至220℃、特に170乃至210℃のホットエアーを用いることが重要である。
すなわち、上記温度範囲に加熱されたプリフォームを二軸延伸ブロー成形するに際して、プリフォーム内部に高温に加熱された加熱体が挿入されて内部加熱されていること及び/又は高温の熱風が圧入されていることにより、プリフォーム内部の温度がより高温となり及び/又は延伸ブロー成形時においてプリフォーム内部の温度が高温に保たれるため、歪の緩和が促進され、延伸応力の高い機能性樹脂から成る中間層の歪も緩和されるため、ボイドの形成が抑制され、透明性及びガスバリア性等の機能を損なうことがないのである。
本発明においては、加熱体及びホットエアーの温度が上記範囲にあることも重要であり、上記範囲よりも温度が低い場合には、プリフォームの内部加熱が不十分であり、効率よく歪緩和を促進することができず、一方上記範囲よりも温度が高い場合には、内層ポリエステルまたは機能性樹脂層の結晶化による白化や延伸が不均一になったり、或いは機能性樹脂層の延伸が不均一になって、成形性に劣る。
【0031】
最終製品である多層ポリエステル容器における延伸倍率は、面積倍率で1.5乃至25倍、軸方向延伸倍率で1.2乃至6倍、周方向延伸倍率で1.2乃至4.5倍の範囲にあることが好ましい。
本発明方法により得られた多層ポリエステル容器は、ポリエステル内層の結晶化度が25%以上と、単層のプリフォームを通常の条件で延伸ブロー成形した容器と同様の配向及び結晶化度を得ることが可能となる。
【0032】
延伸ブロー成形されたボトルは、それ自体公知の手段で熱固定することもできる。熱固定は、ワンモールド法で、ブロー成形金型中で行うこともできるし、また、ツーモールド法で、ブロー成形金型とは別個の熱固定用金型で行うこともできる。熱固定の温度は100乃至200℃の範囲が適当である。
【0033】
他の延伸ブロー成形としては、本願の出願人に係わる特許第2917851号公報に例示されるように、プリフォームを、一次ブロー金型を用いて最終ブロー成形体よりも大きい寸法の一次ブロー成形体とし、次いで、この一次ブロー成形体を加熱収縮させた後、二次ブロー金型を用いて二軸延伸ブロー成形を行って最終ブロー成形体とする二段延伸ブロー成形が挙げられる。この延伸ブロー成形によれば、底部が十分に延伸薄肉化され、熱間充填、加熱滅菌時の底部の変形、耐衝撃性に優れたブロー成形体を得ることができる。
本発明においては、かかる二段延伸ブロー成形においても、一次ブローの際に300乃至600℃に加熱された加熱体を用いて内部加熱すること及び/又は150乃至220℃のホットエアーを用いることが重要である。
【0034】
本発明の多層容器は、ポリエステル内層の、0.5Hzでの動的粘弾性(DMS)測定における80℃及び60℃におけるtanδの差が0.035以下である限り、上述した二軸延伸ブロー成形ボトルに限定されず、カップ等の形の延伸成形多層容器であってもよい。すなわち、機能性樹脂を中間層及び熱可塑性ポリエステルを内外層とする多層シートを製造し、この多層シートを、真空成形、圧空成形、張出成形、プラグアシスト成形等の手段に付す際、或いは多層プリフォームを製造し、二軸延伸ブロー成形に付す際に、ポリエステル内層の歪を緩和する手段を採用することにより、少なくとも胴部が延伸されたカップ状の多層プラスチック容器を製造することができる。
【0035】
本発明の多層ポリエステル容器は、中間層に用いる機能性樹脂により、ガスバリア性、酸素吸収性、水蒸気バリア性等の種々の機能を有するため、例えば酸素による内容物の香味低下を防止しうる容器等として有用である。充填できる内容物としては、飲料ではビール、ワイン、フルーツジュース、炭酸ソフトドリンク、果汁入り炭酸飲料等、食品では果物、ナッツ、野菜、肉製品、幼児食品、コーヒー、ジャム、マヨネーズ、ケチャップ、食用油、ドレッシング、ソース類、佃煮類、乳製品等、その他では医薬品、化粧品、ガソリン等、酸素存在下で劣化を起こしやすい内容品などが挙げられるが、これらの例に限定されない。
【実施例】
【0036】
本発明を次の例によりさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に規制されるものではない。
【0037】
[機能性樹脂の延伸応力測定]
厚さ1.5mmの機能性樹脂から成る射出成形板を、二軸延伸試験装置(東洋精機(株)製)を用いて、温度115℃、延伸速度2.5m/分で、縦3倍×横3倍に設定し、二軸延伸を行ったときの延伸応力を、上記二軸延伸試験装置付属の応力測定計にて測定した。
【0038】
[tanδの差の測定]
作成した多層容器のネック部の下端から肩部の形状に沿って10mmの位置から、幅1cm、長さ2cmの試験片を切り出し、厚さ100μmの最内ポリエステル層のみをはがし取った。はがし取った試験片を用い、試験片標点間距離を10mm、振動数を0.5Hz、歪み振幅を10μm、最小張力/圧縮力を200mN、昇温速度毎分5℃の測定条件で、粘弾性測定装置[EXSTAR 6000 SERIES−DMS 6100(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製)]を用いてtanδの測定を行った。得られたスペクトルから、60℃および80℃におけるtanδの値を読みとり、その差を求めた。
【0039】
[内部ヘイズの測定]
作成した多層容器の胴部中央から幅30mm、長さ40mmの試験片を切り出した。この試験片から機能性樹脂中間層のみをはがし取り、外部ヘイズを除去する目的で表面に流動パラフィンを薄く塗布した後、[S&M COLOUR COMPUTER MODEL SM−4(スガ試験機(株)製)]にてヘイズ(%)を測定した。
【0040】
[酸素透過係数の測定]
作成した多層容器の胴部より、幅13cm、長さ9cmの試験片を切り出した。この試験片から機能性樹脂中間層のみをはがし取り、温度40℃相対湿度90%RHの条件で、[OX−TRAN 2/20 Oxygen Transmission Analysis System(mocon社製)]により酸素透過率(ml.mm/day.atm)を測定し、先に測定しておいたサンプルの厚み(mm)から、酸素透過係数(ml.mm/m.day.atm)を算出した。
【0041】
[水蒸気透過係数の測定]
作成した多層容器の胴部より、幅13cm、長さ9cmの試験片を切り出した。この試験片から機能性樹脂中間層のみをはがし取り、温度40℃相対湿度90%RHの条件で、PERMATRAN−W 3/30 Water Vapor Permiation Analysis System(mocon社製)により水蒸気透過率(g.mm/day.atm)を測定し、先に測定しておいたサンプルの厚み(mm)から、水蒸気透過係数(g.mm/m.day.atm)を算出した。
【0042】
[実施例1]
内外層PET用射出機(a)、中間層PET用射出機(b)、機能性樹脂用射出機(c)の3台の射出機を備えた共射出成形機を用い、射出機(a)及び(b)には150℃で4時間乾燥処理を行ったポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂[RT543CTHP(日本ユニペット(株)製)]、射出機(c)には機能性樹脂としてポリメタキシリレンアジパミド樹脂(MXD6)[S6121(三菱瓦斯化学(株)製)](延伸応力:55N)を用いて、内外層及び中間層がPET層、それらの間が機能性樹脂から成る機能性樹脂中間層である2種5層(a/c/b/c/a)の多層プリフォームを逐次射出成形により作成した。プリフォーム重量は32g、そのうち機能性樹脂の占める割合は全膜厚の5%であった。
次いで、クオーツヒーターを用いて外部から表面温度113℃まで予備加熱し、150℃に熱した圧縮空気を用いて延伸ブロー成形を行い、内容積530ml、胴部における各層の厚み、最内PET層(100μm)/機能性樹脂中間層(11μm)/中間PET層(180μm)/機能性樹脂中間層(11μm)/最外PET層(150μm)の2種5層の多層ボトルを作成した。
得られたボトルのネック下近傍からサンプルを切り出してtanδの測定を行い、また、胴部より切り出したサンプルを用いて、内部ヘイズおよび酸素透過係数の測定を行った。
測定結果を表1に示す。
【0043】
[実施例2]
機能性樹脂として、ポリメタキシリレンアジパミド[T630(東洋紡績(株)製)]と、膨潤化処理を行った天然モンモリロナイト3重量%を、二軸押出機にて溶融混練して得られた樹脂組成物(延伸応力:70N)を用い、プリフォーム予備加熱時に530℃に加熱した鉄芯をプリフォーム内部に10秒間挿入して加熱を行い、ブローエアーに室温の圧縮空気を用いた以外は、実施例1と同様に多層プリフォーム及び多層ボトルの成形を行った。
得られたボトルを実施例1と同様に測定を行った。
【0044】
[実施例3]
得られたプリフォームを、クオーツヒーターを用いて116℃まで加熱し、鉄芯による内部加熱を行わずに190℃に加熱したホットエアーで延伸ブロー成形を行った以外は、実施例2と同様に多層プリフォーム及び多層ボトルの成形を行った。
得られたボトルを実施例2と同様に測定を行った。
【0045】
[実施例4]
機能性樹脂として、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)(エバール F101:(株)クラレエバールカンパニー製)と膨潤化処理を行った天然モンモリロナイト3重量%を二軸押出機にて溶融混練して得られた樹脂組成物(延伸応力:65N)を用いた以外は、実施例2と同様に多層プリフォーム及び多層ボトルの成形を行った。
得られたボトルを実施例2と同様に測定を行った。
【0046】
[実施例5]
機能性樹脂として、環状オレフィンコポリマー(COC)[APL6509T:(三井化学(株)製)](延伸応力:100N以上)を用い、得られたプリフォームに530℃に加熱した鉄芯をプリフォーム内部に10秒間挿入して加熱を行った以外は、実施例3と同様に多層プリフォーム及び多層ボトルの成形を行った。
得られたボトルを実施例3と同様に測定を行った。
【0047】
[比較例1]
クオーツヒーターによるプリフォーム加熱温度を98℃とした以外は、実施例1と同様に多層プリフォーム及び多層ボトルの成形を行ったが、得られたボトルのバリア層は白化していた。
得られたボトルを実施例1と同様に測定を行った。
【0048】
[比較例2]
クオーツヒーターによるプリフォーム加熱温度を100℃とし、530℃に加熱した鉄芯による内部加熱を行わなかった以外は、実施例2と同様に多層プリフォーム及び多層ボトルの成形を行ったが、得られたボトルのバリア層は白化していた。
得られたボトルを実施例2と同様に測定を行った。
【0049】
[比較例3]
クオーツヒーターによるプリフォーム加熱温度を95℃とした以外は、実施例4と同様に多層プリフォーム及び多層ボトルの成形を行ったが、得られたボトルのバリア層は白化していた。
得られたボトルを実施例4と同様に測定を行った。
【0050】
[比較例4]
クオーツヒーターによるプリフォーム加熱温度を100℃とした以外は、実施例5と同様に多層プリフォーム及び多層ボトルの成形を行ったが、得られたボトルのバリア層は白化していた。
得られたボトルを実施例5と同様に測定を行った。
【0051】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の多層ポリエステル容器の断面構造の一例を説明する図である。
【図2】本発明の多層ポリエステル容器の断面構造の一例を説明する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂から成る内外層、及び機能性樹脂から成る少なくとも一層の中間層から成る多層ポリエステル容器において、
前記ポリエステル内層の、0.5Hzでの動的粘弾性(DMS)測定における80℃及び60℃におけるtanδの差が0.035以下であることを特徴とする多層ポリエステル容器。
【請求項2】
前記機能性樹脂が、厚さ1.5mmの射出成形板を115℃で延伸したときの延伸応力の最大値が50N以上である請求項1記載の多層ポリエステル容器。
【請求項3】
前記機能性樹脂が、エチレン−ビニルアルコール共重合体又はポリメタキシリレンアジパミドを基材樹脂として含有するものである請求項1又は2記載の多層ポリエステル容器。
【請求項4】
前記機能性樹脂が、クレイを分散させたものである請求項1乃至3の何れかに記載の多層ポリエステル樹脂。
【請求項5】
前記機能性樹脂が、環状オレフィン系樹脂である請求項1又は2記載の多層ポリエステル樹脂。
【請求項6】
ポリステル樹脂から成る内外層、及び機能性樹脂から成る少なくとも一層の中間層から成る多層プリフォームを二軸延伸ブロー成形して成る多層ポリエステル容器の製法において、
前記二軸延伸ブロー成形に際して、多層プリフォームを105乃至120℃の温度に加熱すると共に、多層プリフォームを300乃至600℃に加熱された加熱体を用いて内部加熱すること及び/又は150乃至220℃のホットエアーを用いることを特徴とする多層ポリエステル容器の製法。
【請求項7】
前記機能性樹脂が、厚さ1.5mmの射出成形板を115℃で延伸したときの延伸応力の最大値が50N以上である請求項6記載の多層ポリエステル容器の製法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−99360(P2007−99360A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−293292(P2005−293292)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】