説明

多層膜の製造方法

【課題】隣接する薄膜間に勾配層が形成された多層膜であって、勾配層における濃度勾配がなだらかな多層膜を形成し得る方法を提供する。
【解決手段】円筒型の第1及び第2のターゲット31b,32bを、第1のターゲット31bからのスパッタ粒子の飛散領域である第1の飛散領域R1と、第2のターゲット32bからのスパッタ粒子の飛散領域である第2の飛散領域R2とが重なるように配列し、第1のターゲット31b内の第1のカソード31aと第2のターゲット32b内の第2のカソード32aとの間に交流電圧を印加した状態で、基体10を、第1及び第2のターゲット31b,32bの配列方向において、第1のターゲット31b側から第2のターゲット32b側に向けて移動させ、第1及び第2の飛散領域R1,R2を通過させることによって基体10の上に、第1及び第2の薄膜11,13と勾配層12とを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、相対的に屈折率が高い高屈折率膜と、相対的に屈折率が低い低屈折率膜とが交互に積層された反射防止膜などの多層膜が種々知られている。このような多層膜においては、隣接する薄膜において組成が異なる。このため、多層膜では、薄膜のはがれが生じやすく、この薄膜のはがれを如何に抑制するかが大きな問題となっている。
【0003】
薄膜のはがれを抑制する方法としては、隣接している薄膜間に、一方側の薄膜の組成から、他方側の薄膜の組成へと組成が徐変していく勾配層を設ける方法がある。勾配層を設けることによって、隣接している薄膜間の界面での剥離を効果的に抑制することができる。
【0004】
例えば下記の特許文献1には、勾配層を有する多層膜の形成方法として、図5に示す多層膜形成装置100を用いた方法が記載されている。
【0005】
図5に示すように、多層膜形成装置100は、第1及び第2のカソード102a、102bと、第1または第2のカソード102a、102bの上に設けられている平板状の第1及び第2のターゲット101a、101bと、第1及び第2のカソード102a、102bに電圧を印加する電源103とを有する。第1のターゲット101aと第2のターゲット101bとでは、成分が互いに異なる。
【0006】
電源103は、第1及び第2のカソード102a、102bに、プラスの電圧とマイナスの電圧とを、交互に、かつ、第1及び第2のカソード102a、102b間で電圧が逆極性となるように電圧を印加する。この電源103によって第1及び第2のカソード102a、102bに対して電圧を印加した状態で、基板104を第1及び第2のターゲット101a、101bの配列方向において、第1のターゲット101a側から第2のターゲット101b側へと移動させることにより基板104上に多層膜を形成することができる。得られた多層膜には、第1のターゲット101aから飛散したスパッタ粒子が堆積することにより形成された第1の薄膜と、第2のターゲット101bから飛散したスパッタ粒子が堆積することにより形成された第2の薄膜と、第1及び第2の薄膜間に位置しており、第1及び第2のターゲット101a、101bから飛散したスパッタ粒子が堆積することにより形成された勾配層とが形成される。勾配層においては、第1の薄膜側から第2の薄膜側に向かって、第1の薄膜の組成から、第2の薄膜の組成へと組成が徐変していく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−3166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
多層膜形成装置100では、第1及び第2のターゲット101a、101bが平板状に形成されている。このため、第1及び第2のターゲット101a、101bのそれぞれから飛散するスパッタ粒子の拡散角が小さい。よって、第1及び第2のターゲット101a、101bの両方からのスパッタ粒子が堆積する領域を確保するためには、第1及び第2のターゲット101a、101bを近接して配置しなければならない。そのためには、第1及び第2のカソード102a、102bも近接して配置しなければならない。
【0009】
しかしながら、第1及び第2のカソード102a、102bを近接させすぎると、第1及び第2のカソード102a、102bのマグネットが形成する磁場が相互干渉することにより、異常放電が発生し、第1及び第2のカソード102a、102bが損傷したり、薄膜に不純物が混入したりしてしまう。従って、特許文献1に記載の方法では、濃度勾配が十分になだらかな勾配層を形成することが困難であるという問題がある。
【0010】
本発明は、係る点に鑑みてなされたものであり、その目的は、隣接する薄膜間に勾配層が形成された多層膜であって、異常放電が生じることなく、勾配層における濃度勾配がなだらかな多層膜を形成し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る多層膜の形成方法は、第1の薄膜と、第1の薄膜の上に形成されている第2の薄膜と、第1の薄膜と第2の薄膜との間に形成されており、第1の薄膜側から第2の薄膜側に向かって第1の薄膜の組成から第2の薄膜の組成へと徐変していく勾配層とを含む多層膜を基体の上に形成する方法に関する。本発明に係る多層膜の形成方法では、第1の薄膜の組成に対応した組成を有し、内部に第1のカソードが配置された円筒型の第1のターゲットと、第2の薄膜の組成に対応した組成を有し、内部に第2のカソードが配置された円筒型の第2のターゲットとを、第1のターゲットからのスパッタ粒子の飛散領域である第1の飛散領域と、第2のターゲットからのスパッタ粒子の飛散領域である第2の飛散領域とが重なるように配列し、第1のカソードと第2のカソードとの間に交流電圧を印加した状態で、基体を、第1及び第2のターゲットの配列方向において、第1のターゲット側から第2のターゲット側に向けて移動させ、第1及び第2の飛散領域を通過させることによって基体の上に、第1及び第2の薄膜と勾配層とを形成する。
【0012】
本発明においては、円筒型の第1及び第2のターゲットを用いるため、第1及び第2のカソードを異常放電が生じるほど近づけることなく、第1及び第2の飛散領域が重なる領域を大きくできる。このため、勾配層における濃度勾配がなだらかな多層膜を形成することができる。
【0013】
勾配層における濃度勾配をよりなだらかにする観点からは、第1及び第2の飛散領域が重なる領域をより大きくする方が好ましい。但し、第1及び第2の飛散領域が重なる領域が大きすぎると、その重畳領域におけるスパッタ粒子の基体への入射角が大きくなりすぎ、勾配層における膜質が低下する場合がある。このため、第1のターゲットの内側に設けられている第1のマグネットを、第1のターゲットの第1のマグネットの中心軸が第1のターゲットの中心軸よりも第2のターゲットとは反対側に位置するように配置することが好ましい。また、第2のターゲットの内側に設けられている第2のマグネットを、第2のターゲットの第2のマグネットの中心軸が第2のターゲットの中心軸よりも第1のターゲットとは反対側に位置するように配置することが好ましい。そうすることにより、第1及び第2のターゲットのそれぞれから飛散するスパッタ粒子の基体への入射角が大きくなりすぎることを抑制することができる。その結果、勾配層の膜質を改善することができる。
【0014】
また、第1のターゲットの第2のターゲットとは反対側に設けられており、第1のターゲットから飛散するスパッタ粒子の一部を遮蔽する第1の遮蔽部材と、第2のターゲットの第1のターゲットとは反対側に設けられており、第2のターゲットから飛散するスパッタ粒子の一部を遮蔽する第2の遮蔽部材とを配置した状態で第1及び第2の薄膜と勾配層とを形成することが好ましい。そうすることにより、第1及び第2のターゲットのそれぞれから、第2または第1のターゲットとは反対側に飛散するスパッタ粒子の基体への入射角が大きくなりすぎることを抑制することができる。その結果、第1の薄膜の第2の薄膜とは反対側の表層、及び第2の薄膜の第1の薄膜とは反対側の表層の膜質を改善することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、隣接する薄膜間に勾配層が形成された多層膜であって、異常放電が生じることなく、勾配層における濃度勾配がなだらかな多層膜を形成し得る方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態において作製する多層膜の模式的断面図である。
【図2】本発明の一実施形態において作製する多層膜における濃度勾配を説明するための模式図である。
【図3】本発明の一実施形態における第1及び第2の薄膜と勾配層との形成工程を説明するための模式図である。
【図4】変形例における第1及び第2の薄膜と勾配層との形成工程を説明するための模式図である。
【図5】特許文献1に記載の多層膜形成装置の模式的側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施した好ましい形態について、図1に示す多層膜2の形成方法について説明する。但し、本実施形態において説明する多層膜2の形成方法は単なる例示である。本発明は、以下の多層膜2の形成方法に何ら限定されない。
【0018】
図1は、本実施形態において作製する多層膜の模式的断面図である。図2は、本実施形態において作製する多層膜における濃度勾配を説明するための模式図である。
【0019】
まず、図1及び図2を参照しながら、本実施形態において形成する多層膜2の構成について説明する。図1に示すように、多層膜2は、基体10の上に形成されている。基体10は、多層膜2を形成し得るものである限りにおいて特に限定されない。基体10は、例えば、ガラス製、セラミック製などであってもよい。また、基体10の形状も特に限定されない。基体10は、例えば、基板であってもよいし、多層膜2の形成面が曲面状である立体物であってもよい。
【0020】
多層膜2は、複数の薄膜の積層体である。多層膜2において、隣接している薄膜間には、勾配層が形成されている。この勾配層の組成は、厚み方向において、一方側の薄膜側から他方側の薄膜側へと、一方側の薄膜の組成から他方側の薄膜の組成へと徐変している。すなわち、勾配層においては、一方側の薄膜側から他方側の薄膜側に向かうに従って一方側の組成の濃度が低くなる一方、他方側の組成の濃度が高くなる。すなわち、勾配層は、濃度勾配を有する層である。
【0021】
なお、多層膜2を構成している薄膜の組成は、多層膜2に付与しようとしている機能などに応じて適宜設定することができる。例えば、多層膜2に反射抑制膜や反射膜としての機能を付与する場合は、多層膜2を高屈折率薄膜と低屈折率薄膜とが交互に積層された積層体とすることができる。高屈折率薄膜は、例えば、酸化ニオブ、酸化チタン、酸化ジルコン、酸化タンタル、酸化ランタン、酸化イットリウム、ITO(Indium Tin Oxide)などにより形成することができる。一方、低屈折率薄膜は、例えば、酸化ケイ素などにより形成することができる。
【0022】
また、多層膜2に耐熱膜としての機能を付与しようとする場合は、薄膜を、例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素、金属チタン、酸化チタン、窒化チタン、酸化ジルコンなどにより形成することができる。
【0023】
多層膜2を構成している薄膜の厚みや層数も、多層膜2に付与しようとする機能に応じて適宜設定することができる。薄膜の厚みは、例えば、数nm〜数百μm程度とすることができる。多層膜2を構成している薄膜の層数は、例えば、2〜数百程度とすることができる。
【0024】
具体的には、本実施形態では、多層膜2が第1〜第3の薄膜11、13、15を有する例について説明する。第1の薄膜11と第2の薄膜13との間には勾配層12が設けられている。第2の薄膜13と第3の薄膜15との間には、勾配層14が設けられている。図2に示すように、この勾配層12の組成は、第1の薄膜11側から第2の薄膜13側に向かって第1の薄膜11の組成から第2の薄膜13の組成へと徐変している。第2の薄膜13と第3の薄膜15との間には、勾配層14が設けられている。この勾配層14の組成は、第2の薄膜13側から第3の薄膜15側に向かって第2の薄膜13の組成から第3の薄膜15の組成へと徐変している。
【0025】
次に、多層膜2の形成方法について説明する。多層膜2は、マグネトロンスパッタリング法により形成する。なお、本実施形態において、隣り合う薄膜及びその間に位置している勾配層の形成方法は共通であるため、ここでは、第1及び第2の薄膜11,13と、その間に位置している勾配層12の形成方法を例に挙げて説明する。その他の薄膜や勾配層の形成方法に関しては、以下の薄膜11,13及び勾配層12の形成方法を援用するものとする。
【0026】
まず、図3を参照しながら、第1及び第2の薄膜11,13並びに勾配層12の形成に用いる形成装置3について説明する。
【0027】
図3に示すように、形成装置3は、図示しない成膜チャンバ内に配置されている第1及び第2のターゲット31b,32bを備えるデュアルカソード方式のマグネトロンスパッタリング装置である。
【0028】
なお、成膜チャンバには、減圧機構とスパッタガス供給機構とが接続されている。減圧機構は、成膜チャンバ内を減圧するための機構である。減圧機構は、例えば、真空ポンプなどにより構成することができる。一方、スパッタガス供給機構は、成膜チャンバに対して、成膜に必要なスパッタガスを供給するための機構である。このスパッタガス供給機構と上記減圧機構とにより、成膜チャンバ内が、スパッタガスにより満たされた減圧雰囲気とされる。なお、スパッタガス供給機構は、例えば、ガスボンベなどにより構成することができる。スパッタガスの種類は特に限定されない。スパッタガスは、成膜しようとする薄膜の種類に応じて適宜選択することができる。
【0029】
第1のターゲット31bは、第1の薄膜11の組成に対応した組成を有するターゲットである。例えば、第1の薄膜11が酸化ケイ素からなる場合は、第1のターゲット31bとして、ケイ素を含むターゲットを用いることができる。具体的には、第1のターゲット31bとして、シリコンターゲットや酸化ケイ素ターゲットを用いることができる。第2のターゲット32bは、第2の薄膜13の組成に対応した組成を有するターゲットである。例えば、第2の薄膜13が酸化チタンからなる場合は、第2のターゲット32bとして、チタンを含むターゲットを用いることができる。具体的には、第2のターゲット32bとして、チタンターゲットや酸化チタンターゲットを用いることができる。
【0030】
第1及び第2のターゲット31b,32bのそれぞれは、中心軸C1,C2がz方向に沿って延びる円筒状に形成されている。第1及び第2のターゲット31b,32bのそれぞれは、中心軸C1,C2を中心に、一方向に回転可能である。第1及び第2のターゲット31b,32bは、x方向に沿って配列されている。
【0031】
第1及び第2のターゲット31b、32bのそれぞれの内側には、円柱状の第1または第2のカソード31a、32aが設けられている。また、本実施形態の形成装置3は、マグネトロンスパッタリング装置であるため、各ターゲット31b,32bの内側には、第1及び第2のマグネット33,34が配置されている。これらマグネット33,34により、第1及び第2のターゲット31b,32bに磁界が付与される。この磁界により、グロー放電によって生じるプラズマが閉じ込められる。その結果、高いスパッタリングの効率が実現されている。
【0032】
本実施形態においては、第1のターゲット31bの第1のマグネット33のz方向に延びる中心軸M1が第1のターゲット31bの中心軸C1よりも第2のターゲット32bとは反対側に位置するように第1のマグネット33が配置されている。すなわち、第1のマグネット33が配置されている領域r1のうち、中心軸C1を含み、y方向に延びる平面P1よりもx2側に位置する部分が、x1側に位置する部分よりも小さくなるように、第1のマグネット33が配置されている。
【0033】
第2のターゲット32bの第2のマグネット34の中心軸M2が第2のターゲット32bの中心軸C2よりも第1のターゲット31bとは反対側に位置するように第2のマグネット34が配置されている。すなわち、第2のマグネット34が配置されている領域r2のうち、中心軸C2を通過し、y方向に延びる平面P2よりもx1側に位置する部分が、x2側に位置する部分よりも小さくなるように、第2のマグネット34が配置されている。
【0034】
第1及び第2のターゲット31b,32bは、第1及び第2のターゲット31b,32b間で異常放電が生じず、かつ、第1のターゲット31bからスパッタ粒子が飛散する領域である第1の飛散領域R1と、第2のターゲット32bからスパッタ粒子が飛散する領域である第2の飛散領域R2とが重なるように配置されている。具体的には、第1の飛散領域R1と第2の飛散領域R2との重畳領域R3が、第1,第2の飛散領域R1,R2の3%〜60%となるように配置されている。
【0035】
形成装置3は、交流電源40を有している。この交流電源40は、第1及び第2のカソード31a,32a間に交流電圧を印加する。このため、第1及び第2のカソード31a,32aには、第1及び第2のカソード31a,32a間で極性が逆となるように、プラスの電圧とマイナスの電圧とが交互に印加される。具体的には、第1のカソード31aにマイナスの電圧が印加される一方、第2のカソード32aにプラスの電圧が印加される状態と、第1のカソード31aにプラスの電圧が印加される一方、第2のカソード32aにマイナスの電圧が印加される状態とが繰返される。
【0036】
第1又は第2のカソード31a,32aにマイナスの電荷が供給されている期間に、第1又は第2のターゲット31b,32bのマグネット33,34近傍の表面でグロー放電プラズマが生起される。その結果、第1または第2のターゲット31b,32bがスパッタリングされ、スパッタ粒子が飛散する。第1又は第2のカソード31a,32aにプラスの電荷が印加されている期間には、そのプラスの電荷は第1又は第2のターゲット31b、32bに流入する電子により相殺される。このため、電気絶縁膜の絶縁破壊に伴うアーキングによるターゲットの損傷を回避でき、グロー放電プラズマを安定的に持続することができる。
【0037】
第1及び第2のターゲット31b,32bの外側には、第1及び第2の遮蔽部材35,36が配置されている。第1の遮蔽部材35は、第1のターゲット31bのx1側に配置されている。この第1の遮蔽部材35によって、第1のターゲット31bから飛散するスパッタ粒子の一部が遮蔽されている。すなわち、第1の遮蔽部材35によって、第1のターゲット31bの飛散領域のうち第1の飛散領域R1より外側部分がカットされている。
【0038】
一方、第2の遮蔽部材36は、第2のターゲット32bのx2側に配置されている。この第2の遮蔽部材36によって、第2のターゲット32bから飛散するスパッタ粒子の一部が遮蔽されている。すなわち、第2の遮蔽部材36によって、第2のターゲット32bの飛散領域のうち第2の飛散領域R2より外側部分がカットされている。
【0039】
第1及び第2の遮蔽部材35,36のそれぞれは、y方向及びz方向に沿って配置されている板状部35a、36aと、板状部35a、36aの中心軸C1,C2よりもy1側に位置している部分からx方向に延びる起立部35b、36bとを有する。もっとも、起立部35b、36bは、板状部35a、36aに対して傾斜した方向に延びるように形成されていてもよい。
【0040】
次に、形成装置3を用いた多層膜2の形成方法について説明する。
【0041】
第1及び第2のカソード31a,32aに交流電圧を印加すると共に、第1及び第2のターゲット31b,32bのそれぞれを回転させた状態で、基体10が固定されたキャリア50をx1側からx2側に、第1及び第2のターゲット31b,32bの前を移動させる。そうすることにより、まず、基体10は、第1の飛散領域R1を通過する。その間に、基体10の上に、第1の薄膜11が形成される。
【0042】
次に、基体10は、重畳領域R3を通過する。この重畳領域R3のうち、x1側の部分には、第1のターゲット31bからのスパッタ粒子が主として飛散する一方、x2側の部分には、第2のターゲット32bからのスパッタ粒子が主として飛散する。重畳領域R3においては、x1側からx2側に向かって第1のターゲット31bから飛散するスパッタ粒子が少なくなる一方、第2のターゲット32bから飛散するスパッタ粒子が多くなる。このため、基体10がこの重畳領域R3を通過することによって、第1の薄膜11の上に勾配層12が形成される。
【0043】
次に、基体10は、第2の飛散領域R2を通過する。その際に、勾配層12の上に、第2のターゲット32bから飛散したスパッタ粒子が堆積する。これにより、勾配層12の上に、第2の薄膜13が形成される。
【0044】
以上説明したように、本実施形態では、第1及び第2のターゲット31b,32bのそれぞれを円筒型とするため、プレーナーと呼ばれる平板状のターゲットを用いる場合とは異なり、第1及び第2のターゲット31b,32bをそれほど近づけることなく、十分な大きさの重畳領域R3を確保することができる。よって、異常放電を生じることなく、勾配層における濃度勾配がなだらかであり、薄膜間の密着強度が高い多層膜2を形成することができる。
【0045】
ところで、図4に示すように、マグネット133,134は、領域r1、r2が平面P3,P4に対して面対称となるように、言い換えれば、円筒型のターゲット131b,132bを用いてマグネトロンスパッタリングを行う場合、マグネット133,134の中心軸M3,M4とそれぞれ中心軸C3,C4を含む平面P3,P4が基体110と直交するように配置することも考えられる。また、このようにした場合、第1のターゲット131bからのスパッタ粒子と第2のターゲット132bからのスパッタ粒子との両方が飛散する重畳領域をより大きくすることができる。
【0046】
しかしながら、この場合は、上記重畳領域の端部において第1のターゲット131bから飛散するスパッタ粒子の基体110への入射角θ101、及び第2のターゲット132bから飛散するスパッタ粒子の基体110への入射角θ102が大きくなりすぎる場合がある。入射角θ101、θ102が大きくなりすぎると、形成される勾配層が粗密となり、勾配層の膜質が低下してしまう場合がある。
【0047】
それに対して、本実施形態では、中心軸M1が第1のターゲット31bの中心軸C1よりも第2のターゲット32bとは反対側に位置するように第1のマグネット33が配置されている。このため、重畳領域R3における第1のターゲット31bから飛散するスパッタ粒子の基体10への入射角θが大きくなりすぎることを抑制することができる。また、中心軸M2が第2のターゲット32bの中心軸C2よりも第1のターゲット31bとは反対側に位置するように第2のマグネット34が配置されている。このため、重畳領域R3における第2のターゲット32bから飛散するスパッタ粒子の基体10への入射角θが大きくなりすぎることを抑制することができる。従って、勾配層12が粗密になり、膜質が低下しすぎることを効果的に抑制することができる。つまり、本実施形態においては、高い膜質の多層膜2を形成することができる。
【0048】
また、本実施形態では、第1及び第2の遮蔽部材35,36が設けられているため、第1及び第2の飛散領域R1,R2の外側端も規制される。このため、第1及び第2の飛散領域R1,R2の外側端におけるスパッタ粒子の入射角が大きくなりすぎることも抑制することができる。従って、第1及び第2の薄膜11,13の勾配層12とは反対側の表層における膜質の劣化も効果的に解消することができる。
【符号の説明】
【0049】
2…多層膜
3…形成装置
10…基体
11…第1の薄膜
12…勾配層
13…第2の薄膜
14…勾配層
15…第3の薄膜
31a…第1のカソード
32a…第2のカソード
31b…第1のターゲット
32b…第2のターゲット
33…第1のマグネット
34…第2のマグネット
35…第1の遮蔽部材
36…第2の遮蔽部材
35a、36a…板状部
35b、36b…起立部
40…交流電源
50…キャリア
R1…第1の飛散領域
R2…第2の飛散領域
R3…重畳領域
C1,C2…中心軸
M1,M2…マグネットの中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の薄膜と、前記第1の薄膜の上に形成されている第2の薄膜と、前記第1の薄膜と前記第2の薄膜との間に形成されており、前記第1の薄膜側から前記第2の薄膜側に向かって前記第1の薄膜の組成から前記第2の薄膜の組成へと徐変していく勾配層とを含む多層膜を基体の上に形成する方法であって、
前記第1の薄膜の組成に対応した組成を有し、内部に第1のカソードが配置された円筒型の第1のターゲットと、前記第2の薄膜の組成に対応した組成を有し、内部に第2のカソードが配置された円筒型の第2のターゲットとを、前記第1のターゲットからのスパッタ粒子の飛散領域である第1の飛散領域と、前記第2のターゲットからのスパッタ粒子の飛散領域である第2の飛散領域とが重なるように配列し、前記第1のカソードと前記第2のカソードとの間に交流電圧を印加した状態で、前記基体を、前記第1及び第2のターゲットの配列方向において、前記第1のターゲット側から前記第2のターゲット側に向けて移動させ、前記第1及び第2の飛散領域を通過させることによって前記基体の上に、前記第1及び第2の薄膜と前記勾配層とを形成する、多層膜の形成方法。
【請求項2】
前記第1及び第2のターゲットのそれぞれの内側には、第1または第2のマグネットが配置されており、
前記第1のターゲットの前記第1のマグネットの中心軸が前記第1のターゲットの中心軸よりも前記第2のターゲットとは反対側に位置するように前記第1のマグネットを配置し、前記第2のターゲットの前記第2のマグネットの中心軸が前記第2のターゲットの中心軸よりも前記第1のターゲットとは反対側に位置するように前記第2のマグネットを配置した状態で前記第1及び第2の薄膜と前記勾配層とを形成する、請求項1に記載の多層膜の形成方法。
【請求項3】
前記第1のターゲットの前記第2のターゲットとは反対側に設けられており、前記第1のターゲットから飛散するスパッタ粒子の一部を遮蔽する第1の遮蔽部材と、
前記第2のターゲットの前記第1のターゲットとは反対側に設けられており、前記第2のターゲットから飛散するスパッタ粒子の一部を遮蔽する第2の遮蔽部材とを配置した状態で前記第1及び第2の薄膜と前記勾配層とを形成する、請求項2に記載の多層膜の形成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−92410(P2012−92410A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242577(P2010−242577)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】