説明

多数個取り配線基板

【課題】 非金属無機材料の焼結体で母基板が形成された多数個取り配線基板であって、配線基板領域の境界において母基板をダイシング加工により、チッピング等の不具合の発生を抑制しながら、作業性を良好として切断することが可能な多数個取り配線基板を提供する。
【解決手段】 非金属無機材料の焼結体からなる母基板1に複数の配線基板領域2が縦横の並びに配列形成されてなり、配線基板領域2の境界2bにおいてダイシング加工により分割される多数個取り配線基板9であって、母基板1のうち配線基板領域2の境界2b上に位置する部位に、酸化ケイ素,セラミック材料およびダイヤモンドの少なくとも1種からなる硬質粒子6が分散された樹脂層5が被着されている。硬質粒子6により、母基板1を切断するダイシングブレードにおいて新たな砥粒の露出が促進されるため、母基板1を、チッピング等の不具合の発生を抑制しながら切断することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子や弾性表面波素子等の電子部品を搭載するために用いられる配線基板となる配線基板領域が複数個、母基板に縦横の並びに配列されてなり、配線基板領域の境界においてダイシング加工により切断される多数個取り配線基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば半導体素子や弾性表面波素子等の電子部品を搭載するために用いられる配線基板は、酸化アルミニウム質焼結体やガラスセラミック焼結体等の非金属無機材料の焼結体から成る四角形板状の絶縁基体の上面に電子部品を搭載するための搭載部を有し、この搭載部またはその周辺から絶縁基体の下面にかけてタングステン等の金属材料から成る複数の配線導体が形成された構造を有している。
【0003】
このような配線基板は、一般に、1枚の広面積の母基板から複数個の配線基板を同時集約的に得るようにした、いわゆる多数個取り配線基板の形態で製作されている。
【0004】
多数個取り配線基板は、例えば、平板状の母基板に配線基板となる配線基板領域が縦横の並びに複数個配列形成された構造を有している。
【0005】
このような多数個取り配線基板は、配線基板領域の境界において母基板にダイシング加工等の切断加工を施すことにより、個片の配線基板に分割される。ダイシング加工には、ダイヤモンドや酸化アルミニウム等の砥粒(研削材)を樹脂やガラス等の非金属無機材料,金属材料等の結合材で結合した円盤状のダイシングブレードが用いられる。このダイシングブレードを高速で回転させて母基板を切削することにより、多数個取り配線基板が個片の配線基板に分割される。
【特許文献1】特開2002−350817号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術の多数個取り配線基板は、ダイシングブレードを用いて母基板を分割する場合に、酸化アルミニウム質焼結体等の硬い非金属無機材料の焼結体からなる母基板を切削することによりダイシングブレードの砥粒がすぐに磨耗したり、ダイシングブレードに母基板の切削くずが付着(いわゆる目詰まり)したりして、ダイシングブレードの切断力が低下しやすい。
【0007】
そのため、切断加工時にダイシングブレードに掛かる負荷が大きくなってダイシングブレードが破壊されたり、頻繁にダイシングブレードを交換しなければならなくなったりするという問題があった。
【0008】
また、ダイシング加工をしている(ダイシングブレードが回転して母基板を切断している)最中にダイシングブレードの切断力が低下した場合には、母基板のダイシングブレードとの接触部分が良好に切削されずに母基板に掛かる負荷が増大し、この部分で母基板、つまりは個片の配線基板にチッピング(微細な欠け)やクラック(割れ)等の不具合を発生させてしまうという問題があった。特に、近年、個片の配線基板の小型化が著しいため、わずかなチッピング等の発生でも、配線基板としての機械的強度や気密封止の信頼性等が不十分になりやすい。
【0009】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みて完成されたものであり、その目的は、非金属無機材料の焼結体で母基板が形成された多数個取り配線基板であって、配線基板領域の境界において母基板をダイシング加工により、チッピング等の不具合の発生を抑制しながら、作業性を良好として切断することが可能な多数個取り配線基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の多数個取り配線基板は、非金属無機材料の焼結体からなる母基板に複数の配線基板領域が縦横の並びに配列形成されてなり、前記配線基板領域の境界においてダイシング加工により分割される多数個取り配線基板であって、前記母基板のうち前記配線基板領域の境界上に位置する部位に、酸化ケイ素,セラミック材料およびダイヤモンドの少なくとも1種からなる硬質粒子が分散された樹脂層が被着されていることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の多数個取り配線基板は、上記構成において、前記母基板がガラスセラミック焼結体からなり、前記硬質粒子が酸化ケイ素からなることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の多数個取り配線基板は、上記構成において、前記母基板が酸化アルミニウム質焼結体からなり、前記硬質粒子が酸化アルミニウム質焼結体からなることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の多数個取り配線基板は、上記構成において、前記母基板の外周に前記配線基板領域を囲むようにダミー領域が設けられているとともに、前記配線基板領域の境界を前記ダミー領域に延長にした延長線上に前記樹脂層が、前記配線基板領域の境界における幅よりも広い幅で被着されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の多数個取り配線基板によれば、母基板のうちダイシング加工される部位である配線基板領域の境界上に位置する部位に、酸化ケイ素,セラミック材料およびダイヤモンドの少なくとも1種からなる硬質粒子が分散された樹脂層が被着されていることから、ダイシング加工に用いられるダイシングブレードに対して、母基板を切削する加工とともにダイシングブレードの表面に新たな砥粒を露出させる作用(いわゆる自生発刃)が促進される。
【0015】
すなわち、ダイシングブレードのダイヤモンド等の砥粒に対して、樹脂層中の硬質粒子が一定の力で押し付けられるように接触し、ダイシングブレードの表面に露出している磨耗した砥粒の脱落が促進され、結合材の内部に結合されていた砥粒が新たにダイシングブレードの表面に露出するようになり、切断力が回復する。
【0016】
この場合、硬質粒子は、樹脂層の樹脂材料で保持されているだけであるため、新たにダイシングブレードの表面に露出した砥粒を再度磨耗させる程度に強くダイシングブレードに接触し続けることはなく、ダイシングブレードからの砥粒の脱落とともに母基板(樹脂層)から脱落する。そして、ダイシングブレードの表面(切削面)に新たに露出した砥粒により母基板の切削が行なわれるため、母基板およびダイシングブレードに大きな負荷を掛けることなく切削加工を続けて安定して施すことができる。したがって、配線基板領域の境界において母基板をダイシング加工により、チッピング等の発生を抑制しながら、作業性を良好として切断することが可能な多数個取り配線基板を提供することができる。
【0017】
また、本発明の多数個取り配線基板において、母基板がガラスセラミック焼結体からなり、硬質粒子が酸化ケイ素からなる場合には、例えば1000℃程度のいわゆる低温焼成が可能であるものの機械的な強度が低く、ダイシング加工時にチッピング等の機械的な破壊が発生しやすいガラスセラミック焼結体で母基板が形成されていたとしても、ダイシングブレードにおいて新たな砥粒の露出が促進されるため、母基板に大きな負荷を掛けることなく切削加工を施すことができ、チッピング等の不具合が発生することを効果的に抑制することができる。
【0018】
この場合、酸化ケイ素からなる硬質粒子の硬さが、母基板を形成するガラスセラミック焼結体中の酸化ケイ素を含むガラス成分の硬さと近いため、母基板の切削に適当な砥粒がダイシングブレードの表面に露出するようになると考えられる。
【0019】
つまり、母基板を効果的に切削できない程度に磨耗した砥粒は、硬質粒子に対する切削も難しくなり、硬質粒子に接したときに結合材から剥がれる方向に大きな応力を生じてダイシングブレードの結合材から脱落すると考えられる。
【0020】
そして、例えばダイヤモンド(モース硬度が10)からなるダイシングブレードの砥粒に比べて酸化ケイ素からなる砥粒の硬度が低く(例えば石英ではモース硬度は7)、かつ硬質粒子が樹脂層の樹脂材料で保持されているだけであるため、新たに露出する砥粒が硬質粒子との接触により磨耗することを抑制することができる。
【0021】
そのため、ダイシングブレードの切断力が十分に確保され、機械的な強度の低いガラスセラミック焼結体で母基板が形成されている場合でも、母基板に大きな負荷を掛けることなく切断することができ、チッピング等の不具合の発生を抑制しながら個片の配線基板に分割することができる。
【0022】
また、本発明の多数個取り配線基板において、母基板が酸化アルミニウム質焼結体からなり、硬質粒子が酸化アルミニウム質焼結体からなる場合には、機械的な強度が高いものの、硬く切削しにくい酸化アルミニウム質焼結体で母基板が形成されていたとしても、ダイシングブレードにおいて新たな砥粒の露出が促進されるため、母基板に大きな負荷を掛けることなく切削加工を施すことができ、チッピング等の不具合が発生することを効果的に抑制することができる。
【0023】
この場合、酸化アルミニウム質焼結体からなる硬質粒子の硬さが、母基板を形成する酸化アルミニウム質焼結体の硬さと近いため、母基板の切削に適当な砥粒がダイシングブレードの表面に露出するようになると考えられる。
【0024】
つまり、母基板を効果的に切削できない程度に磨耗した砥粒は、硬質粒子に対する切削も難しくなり、硬質粒子に接したときに結合材から剥がれる方向に大きな応力を生じてダイシングブレードの結合材から脱落すると考えられる。
【0025】
そして、例えばダイヤモンド(モース硬度が10)からなるダイシングブレードの砥粒に比べて酸化アルミニウム質焼結体(酸化アルミニウムのモース硬度は9)からなる砥粒の硬度が低く、かつ硬質粒子が樹脂層の樹脂材料で保持されているだけであるため、新たに露出する砥粒が硬質粒子との接触により磨耗することを抑制することができる。
【0026】
そのため、ダイシングブレードの切断力が十分に確保されることとなり、硬く切削しにくい酸化アルミニウム質焼結体で母基板が形成されている場合でも、母基板に大きな負荷を掛けることなく切断することができ、チッピング等の不具合の発生を抑制しながら個片の配線基板に分割することができる。
【0027】
また、本発明の多数個取り配線基板は、上記構成において、母基板の外周に配線基板領域を囲むようにダミー領域が設けられているとともに、配線基板領域の境界をダミー領域に延長にした延長線上に樹脂層が、配線基板領域の境界における幅よりも広い幅で被着されている場合には、より容易かつ確実に、ダイシングブレードの幅に比べて十分に広い幅の樹脂層を母基板に被着させることができる。
【0028】
そして、ダミー領域も配線基板領域の境界の延長線に沿ってダイシングブレードで切削することにより、ダイシングブレードの幅いっぱいに、より効果的に新たな砥粒の露出を促進することができる。従って、この場合には、より効果的にチッピング等の発生を抑制することが可能で、切断の作業性をより良好とすることが可能な多数個取り配線基板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の多数個取り配線基板について、添付の図面を参照しつつ説明する。
【0030】
図1(a)は、本発明の多数個取り配線基板の実施の形態の一例を示す平面図であり、図1(b)は、図1(a)のA−A線における断面図である。図1において、1は母基板、2は配線基板領域である。母基板1に複数の配線基板領域2が縦横の並びに配列されて多数個取り配線基板9が基本的に形成されている。
【0031】
母基板1は、ガラスセラミック焼結体,酸化アルミニウム質焼結体,窒化アルミニウム質焼結体,炭化珪素質焼結体,窒化珪素質焼結体,ムライト質焼結体等の、非金属無機材料の焼結体により形成されている。
【0032】
母基板1に配列された複数の配線基板領域2は、それぞれが個片の配線基板(図示せず)となる領域である。母基板1が配線基板領域2の境界2bにおいて切断されることにより、複数の配線基板が製作される。
【0033】
個片の配線基板が電子部品搭載用基板として使用される場合には、配線基板領域2の上面の中央部や下面等に電子部品の搭載部が設けられる。この例においては、配線基板領域2の上面の中央部に凹部2aが設けられ、その凹部2aの底面が電子部品の搭載部(符号なし)とされた例を示している。
【0034】
なお、母基板1は、このような凹部2aを配線基板領域2に有しているものである必要はなく、平板状のもの(図示せず)として、配線基板領域2の平坦な上面や下面の一部を搭載部としたものでもよい。
【0035】
搭載部に搭載される電子部品(図示せず)としては、ICやLSI等の半導体集積回路素子、およびLED(発光ダイオード)やPD(フォトダイオード),CCD(電荷結合素子)等の光半導体素子を含む半導体素子、弾性表面波素子や水晶振動子等の圧電素子、容量素子、抵抗器、半導体基板の表面に微小な電子機械機構が形成されてなるマイクロマシン(いわゆるMEMS素子)等の種々の電子部品が挙げられる。
【0036】
電子部品は、搭載部に、例えばエポキシ系樹脂,ポリイミド系樹脂,アクリル系樹脂,シリコーン系樹脂,ポリエーテルアミド系樹脂等の樹脂接着剤や、Au−Sn,Sn−Ag−Cu,Sn−Cu,Sn−Pb等のはんだや、ガラス等で接着される。
【0037】
また、この例においては、搭載部の外周部分から配線基板領域2の下面にかけて、配線導体3が形成されている。配線導体3は、搭載部に搭載される電子部品と電気的に接続されて、電子部品を外部の電気回路に電気的に接続する導電路として機能する。
【0038】
配線導体3は、銅や銀,パラジウム,白金,金,タングステン,モリブデン,マンガン等の金属材料からなるメタライズ層により形成されている。
【0039】
電子部品と配線導体3との電気的な接続は、例えば、配線導体3のうち搭載部の周辺に露出している部位に電子部品の電極(図示せず)を、ボンディングワイヤやはんだ等の導電性接続材を介して接続することにより行なうことができる。
【0040】
このような、それぞれが配線導体3を有する複数の配線基板領域2が縦横の並びに配列された母基板1は、例えば、次のようにして製作することができる。
【0041】
まず、二酸化ケイ素を含むホウケイ酸ガラス等のガラス粉末と酸化アルミニウム等のセラミック粉末とを主成分とする原料粉末を、有機溶剤,バインダと混練するとともにドクターブレードやリップコータ法等の成形方法でシート状に成形してセラミックグリーンシートを作製する。次に、銅や銀等の金属材料の粉末を有機溶剤,バインダとともに混練して金属ペーストを作製する。次に、セラミックグリーンシートを母基板1の外形寸法に切断するとともに配線基板領域2となる領域のそれぞれに、所定の配線導体3のパターンにスクリーン印刷法等の印刷法で金属ペーストを印刷する。そして、複数のセラミックグリーンシートを積層した後、約900〜1000℃程度の焼成温度で焼成することにより、それぞれが配線導体3を有する複数の配線基板領域2が縦横の並びに配列された母基板1を製作することができる。
【0042】
なお、この例において、母基板1の外周には、配列された複数の配線基板領域2を取り囲むようにダミー領域4が設けられている。ダミー領域4は、多数個取り配線基板9の取り扱いを容易とすること等のために設けられている。
【0043】
この多数個取り配線基板9は、配線基板領域2の境界2b(この例では、配線基板領域2同士の境界および配線基板領域2とダミー領域4との境界)においてダイシング加工を施して切断することにより、個片の配線基板(図示せず)に分割される。
【0044】
ダイシング加工による母基板1の分割は、ダイヤモンドや酸化アルミニウム等の砥粒がガラス等の無機材料(いわゆるビトリファイド)や金属材料や樹脂材料からなる結合材で結合されてなるダイシングブレードを高速(約5000〜15000回転/分)で回転させて、配線基板領域2の境界2bにおいて母基板1を切削することにより行なわれる。ダイシングブレードの母基板1に対する位置決めは、例えば母基板1にあらかじめ位置決め用のマーク(図示せず)を形成しておいて、その位置を画像認識装置で認識させることにより行なう。この位置決め用のマークは、例えば配線導体3と同様の材料を用い、同様の方法で母基板1に形成することができる。
【0045】
そして、図1および図2に示すように、この多数個取り配線基板9は、母基板1のうち配線基板領域2の境界2b上に位置する部位に、酸化ケイ素,セラミック材料およびダイヤモンドの少なくとも1種からなる硬質粒子6が分散された樹脂層5が被着されている。なお、図2は図1に示す多数個取り配線基板9の要部を拡大して模式的に示す断面図である。図2において図1と同様の部位には同様の符号を付している。
【0046】
このように、母基板1のうちダイシング加工される部位である配線基板領域2の境界2b上に位置する部位に硬質粒子6が分散された樹脂層5が被着されていることから、ダイシング加工時にダイシングブレードに対して、母基板1を切削する加工とともに新たな砥粒を露出させる作用が促進される。
【0047】
すなわち、図3に示すように、R方向に回転するダイシングブレードBのダイヤモンド等の砥粒Dに対して、樹脂層5中の硬質粒子6が一定の力でR方向に押し付けられるように接触し、ダイシングブレードBの表面に露出している磨耗した砥粒Dの脱落が促進され、結合材(符号なし)の内部に結合されていた砥粒Dが新たにダイシングブレードBの表面に露出するようになり、切断力が回復する。なお、図3は、図1および図2に示す多数個取り配線基板9に対してダイシング加工を施すときの要部の状態を拡大して模式的に示す拡大断面図であり、図1および図2と同様の部位には同様の符号を付している。
【0048】
この場合、硬質粒子6は樹脂層5の樹脂材料(符号なし)で保持されているだけであるため、ダイシングブレードBの新たに露出した砥粒Dを再度磨耗させる程度に強くダイシングブレードBに接触し続けることはなく、ダイシングブレードBからの砥粒Dの脱落とともに母基板1(樹脂層5)から脱落し、新たな砥粒Dの露出を効果的に促進する。そして、新たに露出した砥粒Dにより、母基板1の切削が行なわれるため、母基板1に大きな負荷を掛けることなく切削加工を続けて安定して施すことができる。したがって、配線基板領域2の境界2bにおいて母基板1をダイシング加工により、チッピング等の発生を抑制しながら、作業性を良好として切断することが可能な多数個取り配線基板9を提供することができる。
【0049】
なお、樹脂層5を形成する樹脂材料としては、エポキシ樹脂,ポリイミド樹脂,フェノール樹脂,アクリル樹脂,ウレタン樹脂等の熱硬化性や光(紫外線)硬化性の樹脂材料を用いることができる。
【0050】
また、この樹脂材料は、母基板1との接合の強度を確保する上で、分子鎖中にエポキシ基やイミド基等の極性基を含むものが好ましい。この場合、極性基が、母基板1を形成する非金属無機材料の焼結体と水素結合等により結合することができるため、樹脂層5が母基板1から誤って剥がれるようなことを効果的に防止することができる。このような極性基を含む樹脂材料としては、エポキシ樹脂やポリイミド樹脂等が挙げられる。また、硬質粒子6が酸化ケイ素からなる場合にも、このような極性基を有する樹脂材料を用いると、酸化ケイ素の酸素と樹脂材料の極性基とが結合しやすいため、樹脂層5からの硬質粒子6の不用意な脱落を抑制することができる。
【0051】
また、樹脂材料は、耐薬品(アルカリ性薬品)性や母基板1との熱膨張の差を小さくすること(熱応力の抑制)等を考慮すれば、エポキシ樹脂やポリイミド樹脂が好ましい。このようなエポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂を用いることができ、特に耐薬品性を良好とする上ではノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。
【0052】
また、硬質粒子6は、ダイヤモンドや酸化アルミニウム質焼結体からなる砥粒Dと硬さの差が小さい材料(例えばモース硬度が7以上の材料)が用いられる。このような硬質粒子6としてのセラミック材料には、酸化アルミニウム質焼結体,窒化ホウ素質焼結体,窒化ケイ素質焼結体,炭化ケイ素質焼結体等の材料を用いることができる。また、硬質粒子6としての酸化ケイ素は、例えば石英やクリストバライト等の結晶性の二酸化ケイ素を用いることができる。
【0053】
この場合、硬質粒子6は、砥粒Dよりも硬さ(硬度)が若干低いものであることが、新たに露出する砥粒Dの磨耗を防ぐために好ましい。例えば、砥粒Dがダイヤモンドからなる場合であれば硬質粒子6は酸化アルミニウム等のセラミック材料や酸化ケイ素からなるものであることが好ましく、砥粒Dが酸化アルミニウム質焼結体(いわゆるコランダム砥粒等)からなる場合であれば硬質粒子6は酸化ケイ素からなるものであることが好ましい。
【0054】
また、硬質粒子6は、ダイシングブレードBから磨耗した砥粒Dを効果的に脱落させる上では、その粒径が大きい方が好ましい。硬質粒子6の粒径が小さ過ぎると、砥粒Dに対して硬質粒子6から作用する応力が不十分になり、砥粒Dを脱落させる作用が低くなる可能性がある。この場合、硬質粒子6の脱落も促進して新たに露出した砥粒Dの磨耗を防止するために、硬質粒子6の粒径は、砥粒Dの粒径と同程度または若干大きいことが好ましい。例えば、砥粒Dの平均粒径が約30〜60μm程度(ダイシングブレードBが約♯300〜♯500程度のもの等)の場合であれば、硬質粒子6の粒径は30〜100μm程度が適している。
【0055】
また、硬質粒子6は、より大きな石英や酸化アルミニウム等の原材料が機械的な加工で破砕されてなる不定形の破片状のものや、球状や表面の一部に凹凸を有する球状のものを用いることができる。いずれの形状でも、ダイシングブレードBの表面に新たな砥粒Dを露出させる効果を得ることは可能である。なお、硬質粒子6は、樹脂層5中への分散を均一に行なわせる上では、球状または表面の一部に凹凸を有する球状のものが好ましい。
【0056】
また、硬質粒子6は、前述したように樹脂層5を形成する樹脂材料としてエポキシ樹脂等の極性基を有する樹脂材料を用いた場合には、樹脂材料との接合(結合)の強度や分散性を良好に確保するために、酸化アルミニウム質焼結体等の酸化物系のセラミック材料や二酸化ケイ素を用いることが好ましい。なお、硬質粒子6が、窒化アルミニウム質焼結体や炭化珪素質焼結体,窒化珪素質焼結体等の非酸化物系のセラミック材料からなる場合でも、通常その表面には酸化物膜が生じているので、樹脂材料(エポキシ樹脂等)と硬質粒子6との接合の強度を、硬質粒子6が不用意に脱落しない程度に確保することはできる。
【0057】
このような硬質粒子6が分散された樹脂層5は、例えば、酸化ケイ素の粉末をエポキシ樹脂の未硬化物とともに混練してペースト状とした混合物を、母基板1のうち配線基板領域2の境界2b上にスクリーン印刷やロールコート等の方法で塗布し、その後、樹脂の未硬化物を加熱や紫外線照射等の硬化手段で硬化させることにより形成することができる。酸化ケイ素の粉末としては、例えば平均粒径が約30〜100μmの球状や表面に凹凸を有する球状のもの等を用いることができる。
【0058】
硬質粒子6の樹脂層5への添加量は、例えば硬質粒子6の樹脂材料による保持や分散を均一に行なわせるために20〜80質量%程度とすればよい。この場合、樹脂層5にエポキシシランやビニルシラン等の有機シラン化合物(いわゆるシランカップリング剤)等の分散剤を添加し、硬質粒子6を樹脂層5中により均一に分散させるようにしてもよい。
【0059】
樹脂層5の厚さは、多数個取り配線基板9の生産性や取り扱いやすさ、信頼性等を考慮すれば、500μm以下であることが好ましい。すなわち、樹脂層5が厚い場合には、樹脂層5が母基板1の表面から突出し過ぎるため、多数個取り配線基板9の取り扱いの際に、装置や作業者等と誤って接触したときに母基板1から剥がれやすくなる。また、樹脂層5となる混合物について、厚いために塗布が難しくなることや、塗布した後の混合物の硬化前における自重による変形が発生しやすくなること等の不具合を生じやすくなる。
【0060】
また、樹脂層5は、少なくとも硬質粒子6を保持する必要があるため、少なくとも硬質粒子6の粒径と同程度の厚さであることが望ましい。例えば、硬質粒子6が前述したような平均粒径が約30〜100μmのものであれば、樹脂層5の厚さは100μm以上であることが望ましく、ダイシングブレードBに対していわゆる自生発刃をより確実に行なわせる上では150μm以上であることがより望ましい。
【0061】
また、樹脂層5の幅は、ダイシングブレードBの幅(約50〜300μm)と同じ程度の幅に設定するのがよい。樹脂層5の幅をダイシングブレードBの幅と同じ程度にしておくと、母基板1を切断するときに、ダイシングブレードBの幅の全部において効果的に新たな砥粒Dの露出を促進して、母基板1にチッピング等の不具合が発生することを抑制することができる。また、切断された個片の配線基板に不要な樹脂層5が残留することを効果的に防止することができる。
【0062】
なお、この例では、母基板1の外周部に設けたダミー領域4にも樹脂層5を延長して被着させている。樹脂層5のダミー領域4への延長部分5aも、樹脂層5と同様の材料を用い、同様の方法で被着させることができる。母基板1がダミー領域4を有する場合には、ダイシングブレードBによる母基板1の切断をより確実に不具合なく行なわせるために、ダミー領域4に樹脂層5の延長部分5aを被着させることが好ましい。
【0063】
ダミー領域4に樹脂層5の延長部分5aを被着させた多数個取り配線基板9において、前述した位置決め用のマークが配線基板領域2の境界2bのダミー領域4への延長線(符号なし)上に形成されている場合には、樹脂層5をアクリル樹脂等の透明な樹脂材料で形成したり、マークの部分のみ樹脂層5を形成しないようにしたりしてマークを認識しやすくしてもよい。
【0064】
また、樹脂層5に有機染料等の着色剤を添加して樹脂層5の色調を母基板1の色調と異ならせ、目視による認識や画像認識を利用しやすくしておいて、樹脂層5を母基板1にダイシング加工を施すときの位置決め用のパターンとして利用するようにしてもよい。
【0065】
また、この多数個取り配線基板9において、母基板1がガラスセラミック焼結体からなり、硬質粒子6が酸化ケイ素からなる場合には、母基板1が、例えば1000℃程度の低温での焼成が可能である。そのため、銅や銀,金等の低電気抵抗の金属材料(融点が1000℃程度)からなるメタライズ層を配線導体3として絶縁基体1との同時焼成により形成し、配線導体3の電気抵抗を低く抑えることができる。また、このような低温での焼成が可能であるものの強度が低く、ダイシング加工時にチッピング等の機械的な破壊が発生しやすいガラスセラミック焼結体で母基板1が形成されていたとしても、ダイシング加工中にダイシングブレードBにおいて新たな砥粒Dの露出が促進されるため、母基板1に大きな負荷を掛けることなく切削を施すことができ、チッピング等の不具合が発生することを効果的に抑制することができる。そのため、低電気抵抗の個片の配線基板を、チッピング等の不具合の発生を抑えて製作することが可能な多数個取り配線基板9とすることができる。
【0066】
この場合、酸化ケイ素からなる硬質粒子6の硬さが、母基板1を形成するガラスセラミック焼結体中の酸化ケイ素を含むガラス成分の硬さと近いため、母基板1の切削に適当な砥粒DがダイシングブレードBの表面に露出するようになると考えられる。
【0067】
つまり、母基板1を切削できない程度に磨耗した砥粒Dは、硬質粒子6に対する切削も効果的にできないようになり、硬質粒子6に接したときに結合材から剥がれる方向に大きな応力を生じてダイシングブレードBの結合材から脱落する。
【0068】
そして、例えばダイヤモンド(モース硬度が10)からなるダイシングブレードBの砥粒Dに比べて酸化ケイ素からなる硬質粒子6の硬度が低く(例えば、石英はモース硬度は7)、かつ樹脂層5の樹脂材料で保持されているだけであるため、砥粒Dと硬質粒子6との接触により新たに露出する砥粒Dが磨耗するということが抑制される。
【0069】
そのため、ダイシングブレードBの切断力が十分に確保され、機械的な強度の低いガラスセラミック焼結体で母基板1が形成されている場合でも、母基板1に大きな負荷を掛けることなく安定して切断することができ、チッピング等の不具合の発生を抑制しながら個片の配線基板に分割することができる。
【0070】
母基板1を形成するガラスセラミック焼結体としては、前述したような、ホウケイ酸ガラスと酸化アルミニウムとを主成分とするものに限らず、リチウム系ガラスやフォルステライトを酸化アルミニウムとともに焼結させた焼結体や、酸化ジルコニウム,酸化マグネシウム,酸化カルシウム,酸化亜鉛等の添加剤を含む焼結体等を用いることができる。
【0071】
また、この多数個取り配線基板9において、母基板1が酸化アルミニウム質焼結体からなり、硬質粒子6が酸化アルミニウム質焼結体からなる場合には、機械的な強度が高いものの、硬く切削しにくい酸化アルミニウム質焼結体で母基板1が形成されていたとしても、ダイシングブレードにおいて新たな砥粒Dの露出が促進されるため、母基板1に大きな負荷を掛けることなく切削加工を施すことができ、チッピング等の不具合が発生することを効果的に抑制することができる。
【0072】
この場合、酸化アルミニウム質焼結体からなる硬質粒子6の硬さが、母基板1を形成する酸化アルミニウム質焼結体の硬さと近いため、母基板1の切削に適当な砥粒DがダイシングブレードBの表面に露出するようになると考えられる。
【0073】
つまり、母基板1を効果的に切削できない程度に磨耗した砥粒Dは、硬質粒子6に対する切削も難しくなり、硬質粒子6に接したときに結合材から剥がれる方向に大きな応力を生じてダイシングブレードBの結合材から脱落すると考えられる。
【0074】
そして、例えばダイヤモンド(モース硬度が10)からなるダイシングブレードBの砥粒Dに比べて酸化アルミニウム質焼結体(酸化アルミニウムのモース硬度は9)からなる砥粒Dの硬度が低く、かつ硬質粒子6が樹脂層5の樹脂材料で保持されているだけであるため、新たに露出する砥粒Dが硬質粒子6との接触により磨耗することを抑制することができる。
【0075】
そのため、ダイシングブレードBの切断力が十分に確保されることとなり、硬く切削しにくい酸化アルミニウム質焼結体で母基板1が形成されている場合でも、母基板1に大きな負荷を掛けることなく切断することができ、チッピング等の不具合の発生を抑制しながら個片の配線基板に分割することができる。
【0076】
酸化アルミニウム質焼結体からなる母基板1は、酸化アルミニウム粉末に酸化ケイ素粉末や酸化カルシウム粉末等を混合した原料粉末を有機溶剤,バインダとともにシート状に成形してセラミックグリーンシートを作製し、このセラミックグリーンシートに切断や積層等の所定の加工を施した後、約1300〜1600℃程度の焼成温度で焼成することにより製作することができる。
【0077】
また、この場合の配線導体3は、タングステンやモリブデン等の金属材料の粉末を有機溶剤,バインダとともに混練して作製した金属ペーストを母基板1となるセラミックグリーンシートに印刷しておき、同時焼成することにより形成ことができる。
【0078】
なお、硬質粒子6として用いる酸化アルミニウム質焼結体は、母基板1を製作する際に用いる酸化アルミニウム質焼結体の粉末と同様の組成のものを用いることができる。
【0079】
また、例えば図4に平面図で示すように、この多数個取り配線基板9は、母基板1の外周に配線基板領域2を囲むように前述したダミー領域4が設けられているとともに、配線基板領域1の境界2bをダミー領域4に延長にした延長線上に樹脂層5(樹脂層5の延長部分5a)が、配線基板領域1の境界における幅よりも広い幅で被着されている場合には、より容易かつ確実に、ダイシングブレードBの幅に比べて十分に広い幅の樹脂層5(5a)を母基板1に被着させることができる。なお、図4は本発明の多数個取り配線基板9の実施の形態の他の例を示す平面図である。図4において図1と同様の部位には同様の符号を付している。
【0080】
そして、ダミー領域4を配線基板領域の境界2bの延長線に沿ってダイシングブレードBで切削することにより、ダイシングブレードBの幅いっぱいに、より効果的に新たな砥粒Dの露出を促進することができる。従って、この場合には、より効果的にチッピング等の発生を抑制することが可能で、切断の作業性をより良好とすることが可能な多数個取り配線基板9を提供することができる。
【0081】
なお、配線基板領域1の境界2bをダミー領域4に延長した延長線上に樹脂層5(5a)を、配線基板領域の境界2bにおける幅よりも広くして被着させる場合、その幅は、前述したような効果を得る上では広いほど好ましい。
【0082】
また、このような構成は、例えば、分割された個片の配線基板に不要な樹脂層5が残留することをより確実に抑制するために配線基板領域2同士の境界2bにおける樹脂層5の幅をダイシングブレードBよりもわずかに狭くしておくような場合に、特に有効である。すなわち、このような場合には、配線基板領域の境界2b部分のみの切削では、ダイシングブレードBの幅方向の両外縁部分(符号なし)において、樹脂層5を切削することによる新たな砥粒Dの露出の促進が難しくなる。これに対し、ダミー領域4に広い幅で樹脂層5(5a)を被着させておくと、ダイシングブレードBの幅方向の両外縁部分も、いわゆるエッジ部分も含めて、ダミー領域4において硬質粒子6による砥粒Dの露出を促進することができるようになる。そのため、ダイシングブレードBの幅いっぱいに、より効果的に新たな砥粒Dの露出を促進することができる。
【0083】
この場合、配線基板領域2とダミー領域4との境界に被着された樹脂層5について、ダミー領域4側に幅を広げるようにしてもよい。このような構成にしておくと、四角形状の母基板1の一つの辺において配線基板領域2とダミー領域4との境界を切削する際に、ダイシングブレードBの幅方向の一方の外縁部分で新たな砥粒Dの露出を促進することができ、これと向かい合う他の辺においてはダイシングブレードBの他方の外縁部分で新たな砥粒Dの露出を促進することができる。そのため、ダイシングブレードBの両外縁部分において、より効果的に新たな砥粒Dの露出を促進することができる。
【0084】
また、前述のように(幅を広くして)ダミー領域4に樹脂層5(5a)を被着させる場合には、例えば図5に拡大断面図として示すように、その樹脂層5(5a)の厚みが幅方向の両端部において中央部よりも厚くなるようにして被着させてもよい。なお、図5は、図4に示す多数個取り配線基板1のB−B線における断面の一例を拡大して示す要部拡大断面図である。図5において図1および図4と同様の部位には同様の符号を付している。また、図5では、樹脂層5の厚さ(樹脂層5の厚さの幅に対する比率)を実際よりも大きくして示している。
【0085】
このような構成は、配線基板領域2同士の境界2bに比べて相対的に短いダミー領域4(配線基板領域2の境界2bの延長線)に被着された樹脂層5(5a)において、ダイシングブレードBの幅方向の両外縁部分における新たな砥粒Dの露出をより効果的に促進する上で有効である。すなわち、この場合には、ダミー領域4においては、主にダイシングブレードBの幅方向の両外縁部分が樹脂層と接することになるので、その両外縁部分において新たな砥粒Dの露出を効果的に促進することができる。
【0086】
ダミー領域4における樹脂層5(5a)について、その厚みが幅方向の両端部において中央部よりも厚くなるようにして被着させるには、例えば、まず樹脂層5(5a)となる樹脂の未硬化物と硬質粒子6との混合物を樹脂層5(5a)の所定の幅に、中央部における厚みに相当する厚みで塗布した後、幅方向の両端部にその混合物を追加して塗布するようにすればよい。
【0087】
なお、ダミー領域4における樹脂層5(5a)は、図4に示す例に限らず、例えば、母基板1の外側面にまで延長して被着されたものや、ダミー領域4の全面を覆うようなものでもよい。ダミー領域4の全面を覆うように樹脂層5(5a)を被着させる場合には、例えば図6に要部を拡大して示すように、ダミー領域4の外縁において、配線基板領域2の境界2bの延長線上または延長線を挟む部分に樹脂層5(5a)が被着されない部分Cを設けて、ダイシングブレードBの位置決め用のマークとして利用するようにしてもよい。この、樹脂層5(5a)が被着されない部分Cは、例えば長方形状等の四角形状や三角形状等、位置決め用のマークとして使用できるような形状であればよい。なお、図6は本発明の多数個取り配線基板1の実施の形態の他の例を示す要部拡大平面図である。図6において図1および図4と同様の部位には同様の符号を付している。
【0088】
この場合、前述した着色剤の添加等の手段で樹脂層5の色調を母基板1の色調と異ならせておけば、樹脂層5(5a)が被着されない部分Cの画像認識等による認識をより容易に行なうことができる。
【0089】
なお、配線基板領域2の個片への分割は、配線基板領域2に電子部品を搭載した後で行なってもよい。配線基板領域2に電子部品を搭載した後にダイシング加工を行なうときに、特に電子部品がMEMS素子や弾性表面波素子のように機械的な動きをする機構を有するものの場合には、ダイシングに伴う切削屑が電子部品に付着すると、その機械的な動きが妨げられて誤作動する可能性が大きくなる。そのため、この場合には、まず蓋体や封止樹脂等の封止手段(図示せず)で電子部品を封止してから、母基板1にダイシング加工を施すことが好ましい。
【0090】
個片の配線基板に電子部品が搭載されてなる電子装置は、コンピュータや携帯電話,デジタルカメラ,加速度や圧力等の各種センサ等の種々の電子機器において部品として使用される。電子装置と電子機器(電子機器を構成する回路基板等)との電気的な接続は、例えば配線導体3のうち配線基板(配線基板領域2)の下面に露出する部位を、はんだや導電性接着剤等の導電性接合材を介して接合することにより行なわせることができる。
【実施例】
【0091】
厚さが1mm、外形寸法が50×50mmの正方形平板状の母基板をガラスセラミック焼結体により作製した。母基板の中央部に、1辺の長さが2.5×3.5mmの長方形状の配線基板領域を16×13個の縦横の並びに配列し、外周部(配線基板領域の並びの外側)にダミー領域を設けて多数個取り配線基板とした。
【0092】
ガラスセラミック焼結体からなる母基板は、二酸化ケイ素を含むホウケイ酸ガラス約50質量%および酸化アルミニウム約40質量%を主成分とし、酸化マグネシウム,酸化カルシウム等の助剤を添加して作製した原料粉末を有機溶剤,バインダとともにドクターブレード法でシート状に成形して複数のセラミックグリーンシートを作製し、これを積層(5層)した後、約1000℃で焼成することにより製作した。
【0093】
母基板には、配線基板領域の上面の中央部に電子部品の搭載部を設け、搭載部から母基板の内部を通り下面にかけて、銅のメタライズ層からなる配線導体を形成した。銅のメタライズ層は、銅粉末を有機溶剤,バインダとともに混練して作製した銅の金属ペーストを、セラミックグリーンシートの表面およびセラミックグリーンシートにあらかじめ形成しておいた貫通孔の内部にスクリーン印刷法で塗布,充填することにより形成した。セラミックグリーンシートの貫通孔は、金属ピンをセラミックグリーンシートの厚み方向に貫通させて打ち抜く、機械的な孔開け加工により行なった。
【0094】
この母基板について、配線基板領域の境界(配線基板領域同士の境界および配線基板領域とダミー領域との境界)上に位置する部位に、酸化ケイ素からなる硬質粒子が分散された樹脂層を被着させて実施例の多数個取り配線基板を製作した。
【0095】
樹脂層を形成する樹脂材料には熱硬化型のエポキシ樹脂を用いた。硬質粒子の酸化ケイ素としては結晶性の二酸化ケイ素(SiO)である石英を用い、球状のものを50質量%の割合で樹脂層に分散させた。この樹脂層の被着は、未硬化で流動性を有するエポキシ樹脂に酸化ケイ素粉末を添加して混練し、ペースト状としたものを配線基板領域の境界にスクリーン印刷法で塗布することにより行なった。
【0096】
また、比較例として、前述のようにして作製した母基板に樹脂層を被着させない多数個取り配線基板を作製した。
【0097】
これらの実施例および比較例の多数個取り配線基板について、ダイシング加工装置のステージ上にセットし、画像認識装置で配線基板領域の境界を認識させながらダイシング加工を施した。画像認識装置による配線基板領域の境界の位置の認識は、ダミー領域に、配線基板領域の延長線を挟むように一対の長方形状の位置決め用のマークを形成しておいて、その一対のマークの間を配線基板領域の境界として認識させることにより行なった。位置決め用のマークは、配線導体を形成するのと同様の金属ペーストを、配線導体用の金属ペーストの印刷と同時に(同じ版面に両方の印刷パターンを設けておいて)セラミックグリーンシートに印刷することにより形成した。
【0098】
ダイシング加工は、ダイヤモンドからなる砥粒をガラスで結合したダイシングブレード(幅100μm)を約5000回転/分の回転速度で回転させて母基板を切削することにより行ない、母基板を配線基板領域の境界において分割して個片の配線基板を作製した。そして、個片の配線基板について、チッピングおよびクラックの有無を外観の観察(倍率20倍)により確認した。
【0099】
その結果、本発明の多数個取り配線基板の実施例においては、個片の配線基板において不良品となるようなチッピングおよびクラックが発生しなかったのに対し、比較例では約10%の個片の配線基板においてチッピングが発生していた。これにより、本発明の多数個取り配線基板は、配線基板領域の境界において母基板をダイシング加工により、チッピング等の不具合の発生を抑制しながら切断することが可能であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】(a)は本発明の多数個取り配線基板の実施の形態の一例を示す平面図であり、(b)はそのA−A線における断面図である。
【図2】図1に示す多数個取り配線基板の要部を拡大して模式的に示す拡大断面図である。
【図3】図1および図2に示す多数個取り配線基板に対してダイシング加工を施すときの要部の状態を拡大して模式的に示す拡大断面図である。
【図4】本発明の多数個取り配線基板の実施の形態の他の例を示す平面図である。
【図5】図4に示す多数個取り配線基板における要部の一例を拡大して示す要部拡大断面図である。
【図6】本発明の多数個取り配線基板の実施の形態の他の例を示す要部拡大平面図である。
【符号の説明】
【0101】
1・・・母基板
2・・・配線基板領域
2a・・凹部
2b・・配線基板領域の境界
3・・・配線導体
4・・・ダミー領域
5・・・樹脂層
5a・・樹脂層の延長部分
6・・・硬質粒子
9・・・多数個取り配線基板
B・・・ダイシングブレード
D・・・砥粒
C・・・樹脂層が被着されない部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非金属無機材料の焼結体からなる母基板に複数の配線基板領域が縦横の並びに配列形成されてなり、前記配線基板領域の境界においてダイシング加工により分割される多数個取り配線基板であって、前記母基板のうち前記配線基板領域の境界上に位置する部位に、酸化ケイ素,セラミック材料およびダイヤモンドの少なくとも1種からなる硬質粒子が分散された樹脂層が被着されていることを特徴とする多数個取り配線基板。
【請求項2】
前記母基板がガラスセラミック焼結体からなり、前記硬質粒子が酸化ケイ素からなることを特徴とする請求項1記載の多数個取り配線基板。
【請求項3】
前記母基板が酸化アルミニウム質焼結体からなり、前記硬質粒子が酸化アルミニウム質焼結体からなることを特徴とする請求項1記載の多数個取り配線基板。
【請求項4】
前記母基板の外周に前記配線基板領域を囲むようにダミー領域が設けられているとともに、前記配線基板領域の境界を前記ダミー領域に延長した延長線上に前記樹脂層が、前記配線基板領域の境界における幅よりも広い幅で被着されていることを特徴とする請求項1記載の多数個取り配線基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−270725(P2008−270725A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15807(P2008−15807)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】