説明

多段式過給機

【課題】多段式過給機において、排気ガス切替バルブより下流側における排気ガス流路の圧力損失を低減させる。
【解決手段】排気ガス切替バルブVOが、上流側の過給機のタービンから排出された前記排気ガスを下流側の過給機のタービンインペラに導入する排気ガス流路11に向けて開口する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガスの流れ方向に直列に接続される複数の過給機と、上流側の上記過給機をバイパスして下流側の上記過給機のタービンに上記排気ガスを供給するための排気ガス切替バルブとを備える多段式過給機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、過給機は、ディーゼルエンジン等の内燃機関において、より高出力を得るために用いられている。
このターボ過給機は、内燃機関の排気管から廃棄される排気ガスの運動エネルギー及び圧力を利用してタービンを高速回転させ、その回転力でコンプレッサを回転駆動させることにより空気を圧縮し、その圧縮された空気をエンジン内に送り込むように構成されている。
【0003】
ところで、ターボ過給機は、容量が大きいと低速においてトルクが出ず、小さいと高速でトルクが出ない。このため、単一のターボ過給機ではエンジンの低い回転数から高い回転数に渡って安定した高いトルクを得ることができないという欠点を有している。このため、この欠点を解決するために2段式過給機が提案されている。
2段過給式ターボ過給機は、エンジンから排出される排気ガスの流路に、その排気ガスにより駆動される高圧段タービンを備えた高圧段過給機と、その高圧段過給機を駆動した後の排気ガスにより駆動される高圧段タービン径よりも大径の低圧段タービンを備えた低圧段過給機とを直列に配置して構成されている。
そして、この2段過給式ターボ過給機では、低圧段過給機の低圧段コンプレッサで生成された給気ガスを高圧段過給機の高圧段コンプレッサに送出してさらに加圧を行い、その生成された給気ガスをエンジンに供給するように構成されている。
【0004】
この2段過給式ターボ過給機についてさらに説明すると、2段過給式ターボ過給機は、高圧段タービンとこの高圧段タービンに同軸で回転駆動される高圧段コンプレッサとを備えた高圧段過給機、及び低圧段タービンとこの低圧段タービンに同軸で回転駆動される低圧段コンプレッサとを備えた低圧段過給機の2つの過給機を有している。
そして、エンジンのシリンダから排出された排気ガスは、高圧段過給機の高圧段タービンのみならず、排気ガス切替バルブによって開口調節されるバイパス管を介して低圧段過給機の低圧段タービンに直接供給できるように構成されている。
【0005】
そして、その排気ガス切替バルブの開度は、エンジンの回転数に基づいて制御され、高圧段過給機へ送られる排気ガス量と、その高圧段過給機を迂回して低圧段過給機へ送られる排気ガス量との関係が調整されるように構成されている。
より詳細には、エンジンの回転数が低く、排気ガス切替バルブが閉じられたときは、排気ガスは高圧段過給機を迂回することなく高圧段過給機に供給され、他方、エンジンの回転数が高く、排気ガス切替バルブが開かれたときは、排気ガスは高圧段過給機を迂回する形で低圧段過給機に供給されるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4930315号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、過給機のタービンは、排気ガスによって回転駆動されるタービンインペラへ、排気ガスを導入するためのスクロール流路を備えている。また、2段式過給機の低圧段過給機が備える低圧段タービンも同様に、図5に示すように、上記スクロール流路100を備えている。
そして、上述の排気ガス切替バルブ200は、図5に示すように、低圧段タービンのケーシング300内に設置されており、スクロール流路100に近接された位置に配置されている。
【0008】
しかしながら、従来の2段式過給機では、図5に示すように、排気ガス切替バルブ200が、スクロール流路100に背を向けて開口される構成を採用している。この結果、排気ガス切替バルブ200が開放されて排気ガスが流入する場合に、排気ガスが低圧段タービンのケーシング300に向けて噴出されると共にケーシング300の内壁面に勢い良く衝突する。このため、排気ガス切替バルブ200から先の流路(例えばスクロール流路)が昇圧され、排気ガス流路の圧力損失が大きくなるという弊害が生じていた。
【0009】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、多段式過給機において、排気ガス切替バルブより下流側における排気ガス流路の圧力損失を低減させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0011】
第1の発明は、排気ガスの流れ方向に直列に接続される複数の過給機と、上流側の上記過給機をバイパスして下流側の上記過給機のタービンに上記排気ガスを供給するための排気ガス切替バルブとを備える多段式過給機であって、上記排気ガス切替バルブが、上記排気ガスを下流側の上記過給機のタービンインペラに導入する排気ガス流路に向けて開口するという構成を採用する。
【0012】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記排気ガス切替バルブが、上流側の上記過給機を迂回して下流側の上記過給機に接続されるバイパス流路を開閉する弁体と、上記弁体に対して上記排気ガス流路と反対側に設置されると共にアクチュエータによって回動される支軸と該支軸と上記弁体とを連結するアームとを備えるという構成を採用する。
【0013】
第3の発明は、上記第2の発明において、上記弁体の最大開口角度が25°以上であるという構成を採用する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、排気ガス切替バルブが、排気ガスを下流側の過給機が備えるタービンインペラに導入するための排気ガス流路(例えばスクロール管)に向けて開口される。
このため、排気ガス切替バルブを介して噴出される排気ガスをスムーズに排気ガス流路に供給することができ、排気ガス切替バルブの下流側における排気ガス流路の圧力が低下することを抑制することができる。
したがって、本発明によれば、排気ガス切替バルブより下流側における排気ガス流路の圧力損失を低減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態における2段式過給機の概略構成を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態における2段式過給機が備える排気ガス切替バルブを含む拡大図である。
【図3】本発明の一実施形態における2段式過給機と従来の2段式過給機との全圧を比較する図である。
【図4】本発明の一実施形態における2段式過給機が備える排気ガス切替バルブの開口角度と圧力損失との関係を示すグラフである。
【図5】従来の2段式過給機が備える排気ガス切替バルブを含む拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明に係る多段式過給機の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
なお、以下の説明においては、本発明の多段式過給機を2段式過給機に適用した例について説明する。
【0017】
図1は、本実施形態の2段式過給機の概略構成を示す模式図である。この図に示すように、本実施形態の2段式過給機Sは、高圧段過給機HCと低圧段過給機LCと、排気ガス供給流路POと、排気ガスバイパス流路BOと、排気ガス切替バルブVOと、空気供給流路PIと、空気バイパス流路BIと、空気切替バルブVIとを備える。
【0018】
高圧段過給機HCと低圧段過給機LCとは、エンジンEからの排気ガスの流れ方向に直列に接続されている。
高圧段過給機HCは、エンジンEから排気ガスの流れ方向の上流側に配置されており、高圧段タービンHC1(上流側の過給機のタービン)と、高圧段圧縮機HC2とを備えている。
高圧段タービンHC1は、内部にスクロール流路1が形成されたタービンハウジング内に収容されるタービンインペラ2を備えている。
高圧段圧縮機HC2は、内部にスクロール流路3が形成されたコンプレッサハウジング内に収容されるコンプレッサインペラ4を備えている。
また、高圧段過給機HCは、タービンインペラ2とコンプレッサインペラ4とを連結する軸5を備えている。この軸5で連結されることによって、タービンインペラ2とコンプレッサインペラ4とは同軸回転されるように構成されている。
なお、高圧段タービンHC1のスクロール流路1は、エンジンEから排出された排気ガスをタービンインペラ2に導入するための排気ガス流路である。
【0019】
低圧段過給機LCは、エンジンEから排気ガスの流れ方向の後流側に配置されており、高圧段過給機HCよりも大きく構成されている。そして、この低圧段過給機LCは、低圧段タービンLC1(下流側の過給機のタービン)と、低圧段圧縮機LC2とを備えている。
低圧段タービンLC1は、内部にスクロール流路11が形成されたタービンハウジング内に収容されるタービンインペラ12を備えている。
低圧段圧縮機LC2は、内部にスクロール流路13が形成されたコンプレッサハウジング内に収容されるコンプレッサインペラ14を備えている。
また、低圧段過給機LCは、タービンインペラ12とコンプレッサインペラ14とを連結する軸15を備えている。この軸15で連結されることによって、タービンインペラ12とコンプレッサインペラ14とは同軸回転されるように構成されている。
なお、低圧段タービンLC1のスクロール流路11は、高圧段タービンHC1から排出された排気ガスをタービンインペラ12に導入するための排気ガス流路である。
【0020】
排気ガス供給流路POは、高圧段タービンHC1と低圧段タービンLC1とにエンジンEからの排気ガスを供給するための流路であり、エンジンEと高圧段タービンHC1のスクロール流路1とを接続し、また高圧段タービンHC1の排出口と低圧段タービンLC1のスクロール流路11とを接続する。
【0021】
排気ガスバイパス流路BOは、エンジンEから排出された排気ガスを、高圧段タービンHC1を介することなく低圧段タービンLC1に供給するための流路であり、低圧段タービンLC1のスクロール流路11に接続されている。
【0022】
排気ガス切替バルブVOは、高圧段タービンHC1をバイパスして低圧段タービンLC1に排気ガスを供給するためのものであり、排気ガスバイパス流路BOの途中部位に設置されている。そして、排気ガス切替バルブVOが開放されることで排気ガスバイパス流路BOを介して、低圧段タービンLC1にエンジンEから排気ガスの少なくとも一部が直接供給される。なお、この排気ガス切替バルブVOは、不図示のアクチュエータにて開閉制御されるように構成されている。
【0023】
具体的には、この排気ガス切替バルブVOは、図2に示すように、排気ガスバイパス流路BO内であって、排気ガスバイパス流路BOが低圧段タービンLC1のスクロール流路11と接続される近傍の領域に配置されている。
そして、本実施形態において排気ガス切替バルブVOは、図2に示すように、低圧段タービンLC1のスクロール流路11に向けて開口されるように構成されている。
【0024】
この排気ガス切替バルブVOは、図2に示すように、排気ガスバイパス流路BOを開閉する弁体20と、弁体20に対してスクロール流路11と反対側に設置されると共にアクチュエータによって回動される支軸22と、該支軸22と弁体20とを連結するアーム21とを備える
さらに、本実施形態において弁体20の最大開口角度は、60°程度(25°以上)とされている。つまり、弁体20は、図2に示す実線位置の全閉から二点鎖線で示される60°程度まで開くことができる。
【0025】
なお、ここで言う弁体20の開口角度とは、弁体20が閉鎖された状態を0°とした場合における弁体20の開き角度を意味し、さらに弁体20の最大開口角度とは、アーム21や弁体20が流路内壁に干渉することなく移動可能な範囲における最大の開き角度を意味する。つまり、弁体20の最大開口角度とは、弁体20が物理的に開口可能な最大の開き角度を意味する。
【0026】
図1に戻り、空気供給流路PIは、高圧段圧縮機HC2と低圧段圧縮機LC2とエンジンEとに空気を供給するための流路であり、低圧段圧縮機LC2のスクロール流路13と高圧段圧縮機HC2の吸気口とを接続し、また高圧段圧縮機HC2のスクロール流路3とエンジンEとを接続する。
【0027】
空気バイパス流路BIは、低圧段圧縮機LC2のスクロール流路13から排出された空気を、高圧段タービンHC1を介することなくエンジンEに供給するための流路である。
【0028】
空気切替バルブVIは、高圧段圧縮機HC2をバイパスしてエンジンEに空気を供給するためのものであり、空気バイパス流路BIの途中部位に設置されている。そして、空気切替バルブVIが開放されることで空気バイパス流路BOを介して、低圧段圧縮機LC2から排出される空気の少なくとも一部がエンジンEに直接供給される。なお、この排気ガス切替バルブVOは、不図示のアクチュエータにて開閉制御されるように構成されている。
【0029】
このような構成を有する本実施形態の2段式過給機Sでは、例えば、エンジンEが低速回転である場合には、排気ガス切替バルブVO及び空気切替バルブVIが閉鎖される。この結果、エンジンEから排気された排気ガスは、全てが高圧段タービンHC1と低圧段タービンLC1とに供給される。また、吸気された空気の全ては低圧段圧縮機LC2と高圧段圧縮機HC2とに供給される。
【0030】
一方、例えばエンジンEが高速回転である場合には、排気ガス切替バルブVO及び空気切替バルブVIが開放される。この結果、エンジンEから排気された排気ガスの大部分が排気ガスバイパス流路BOを介して低圧段タービンLC1に直接供給される。また、低圧段圧縮機LC2から排出された空気の一部は空気バイパス流路BIを介してエンジンEに直接供給される。
【0031】
そして、本実施形態の2段式過給機Sにおいては、図3に示すように、排気ガス切替バルブVOは、図2に示すように、低圧段タービンLC1のスクロール流路11に向けて開口されるように構成されている。
このため、排気ガス切替バルブVOを介して噴出される排気ガスをスムーズにスクロール流路11に供給することができ、排気ガス切替バルブの下流側における排気ガス流路の圧力が低下することを抑制することができる。
したがって、本実施形態の2段式過給機Sによれば、排気ガス切替バルブVOより下流側における排気ガス流路の圧力損失を低減させることが可能となる。
そして、このように排気ガス切替バルブVOより下流側における排気ガス流路の圧力損失が低減されることによって、低圧段タービンLC1への排気ガスの供給が容易となり、エンジンEの燃費改善を図ることもできる。
【0032】
図3は、図5に示す従来の2段式過給機における排気ガス切替バルブより下流側における排気ガス流路の全圧と、本実施形態の2段式過給機における排気ガス切替バルブVOより下流側における排気ガス流路の全圧とを比較した図である。
この図に示すように、本実施形態の2段式過給機では、スクロール流路途中の全圧及び流出境界の全圧が排気ガス切替バルブ位置の全圧に近く、圧力損失が低減していることが分かる。
【0033】
また、図4は、排気ガス切替バルブVOの開口角度と排気ガス切替バルブVOにおける圧力損失との関係を示したグラフである。
この図から分かるように、排気ガス切替バルブVOの開口角度が25°以上であれば、排気ガス切替バルブVOにおける圧力損失を最も低減できることが分かる。
したがって、本実施形態のように、排気ガス切替バルブVOの最高開口角度が60°程度である場合には、排気ガス切替バルブVOにおける圧力損失を最低限に抑えることが可能となる。
【0034】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0035】
例えば、上記実施形態においては、2段式過給機について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばさらに多数の過給機を備える多段式過給機に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0036】
S……2段式過給機(多段式過給機)、HC……高圧段過給機(上流側の過給機)、HC1……高圧段タービン、HC2……高圧段圧縮機、LC……低圧段過給機(下流側の過給機)、LC1……低圧段タービン、LC2……低圧段圧縮機、PO……排気ガス供給流路、PI……空気供給流路、BO……排気ガスバイパス流路、BI……空気バイパス流路、VO……排気ガス切替バルブ、VI……空気切替バルブ、1……スクロール流路、2……タービンインペラ、3……スクロール流路、4……コンプレッサインペラ、5……軸、11……スクロール流路(排気ガス流路)、12……タービンインペラ、13……スクロール流路、14……コンプレッサインペラ、15……軸、20……弁体、21……アーム、22……支軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガスの流れ方向に直列に接続される複数の過給機と、上流側の前記過給機をバイパスして下流側の前記過給機のタービンに前記排気ガスを供給するための排気ガス切替バルブとを備える多段式過給機であって、
前記排気ガス切替バルブは、前記排気ガスを下流側の前記過給機のタービンインペラに導入する排気ガス流路に向けて開口することを特徴とする多段式過給機。
【請求項2】
前記排気ガス切替バルブは、
上流側の前記過給機を迂回して下流側の前記過給機に接続されるバイパス流路を開閉する弁体と、
前記弁体に対して前記排気ガス流路と反対側に設置されると共にアクチュエータによって回動される支軸と
該支軸と前記弁体とを連結するアームと
を備えることを特徴とする請求項1記載の多段式過給機。
【請求項3】
前記弁体の最大開口角度が25°以上であることを特徴とする請求項2記載の多段式過給機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−106358(P2011−106358A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262870(P2009−262870)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】