説明

多段過給機構造

【課題】高圧段過給機で放風される圧縮空気を有効利用することにより、2段以上の多段過給機における過給機効率の低下を防止する。
【解決手段】内燃機関から排出される排熱を利用して駆動される排気タービンと同軸のコンプレッサで空気を圧縮する過給機が、コンプレッサを直列に接続して順次昇圧させるよう2段設けられ、かつ、コンプレッサの高圧段側で圧縮空気の一部を放風してスラスト力の調整を行うように構成された2段過給機TCにおいて、高圧段側の高圧コンプレッサ20Hから放風される圧縮空気を低圧段側となる低圧コンプレッサ20Lの圧縮空気出口に導いて合流させる放風戻し流路60を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い供給圧力の圧縮空気を必要とする内燃機関に適用される多段過給機構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関から排出される排熱を利用することにより、内燃機関の燃焼用空気として圧縮空気を供給する過給機が広く用いられている。このような過給機において、内燃機関に供給する圧縮空気に高い圧力が要求される場合には、たとえば低圧段過給機及び高圧段過給機を直列に接続した2段過給機のように、複数段の圧縮を行って高圧を得るように構成された多段過給機を使用している。
【0003】
上述した従来の2段過給機において、低圧段過給機は、たとえば船舶ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排気ガスの排熱で駆動される低圧排気タービンと、外気導入した空気を圧縮する低圧コンプレッサとがロータ軸により連結され、低圧排気タービンが排気ガスの供給を受けて発生させる出力で駆動される低圧コンプレッサにより第1段階の空気圧縮が行われる。
高圧段過給機は、内燃機関から排出される排気ガスの排熱で駆動される高圧排気タービンと、低圧段過給機から導入した圧縮空気(低圧圧縮空気)を加圧して昇圧させる高圧コンプレッサとがロータ軸により連結され、高圧排気タービンが排気ガスの供給を受けて発生させる出力で駆動される高圧コンプレッサにより第2段階の空気圧縮が行われる。
【0004】
このように、2段過給機は、低圧コンプレッサと高圧コンプレッサとが直列に接続された構成とされ、高圧コンプレッサで昇圧した圧縮空気(高圧圧縮空気)が、内燃機関の燃焼用空気として燃焼室に供給される。
また、低圧段過給気及び高圧段過給機の2段の過給機を有するエンジンにおいては、エンジンが低中速及び高負荷領域の給気圧を上昇させて、燃焼性能を向上させるとともに、エンジン出力を増加させる技術が下記の特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−28287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した従来の2段過給機は、低圧段過給機と高圧段過給機とが直列に接続された構成とされるが、高圧段過給機では、羽根車背面の圧力を低下させてスラスト力を調整するため、羽根車背面部から圧縮空気の一部を放風させている。しかし、このような放風は、せっかく圧縮した空気を大気に捨てるものであるから、過給機効率を低下させる原因となり好ましくない。このような過給機高率の低下は、2段以上の多段過給機においても同様である。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、高圧段過給機で放風される圧縮空気を有効利用することにより、2段以上の多段過給機における過給機効率の低下を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するため、下記の手段を採用した。
本発明の多段過給機構造は、内燃機関から排出される排熱を利用して駆動される排気タービンと同軸のコンプレッサで空気を圧縮する過給機が、中間冷却器を介して、前記コンプレッサを直列に接続して順次昇圧させるよう複数段設けられ、かつ、高圧段側の前記コンプレッサで圧縮空気の一部を放風してスラスト力の調整を行うように構成された多段過給機構造であって、前記高圧段側のコンプレッサから放風される圧縮空気を低圧段側のコンプレッサ圧縮空気出口に導いて合流させる放風戻し流路を設けたことを特徴とするものである。
【0008】
このような多段過給機構造によれば、高圧段側のコンプレッサから放風される圧縮空気を低圧段側のコンプレッサ圧縮空気出口に導いて合流させる放風戻し流路を設けたので、大気に捨てられていた圧縮空気の放風分を低圧段側に回収して利用できるようになる。すなわち、高圧段側のコンプレッサで圧縮した圧縮空気を大気に捨てる放風空気がなくなるので、過給機の総合効率向上が可能となる。
【0009】
この場合、前記高圧段側のコンプレッサから放風される圧縮空気を前記低圧段側のコンプレッサ圧縮空気出口と前記中間冷却器の間に導いて合流させるのが望ましい。
【0010】
このような多段過給機構造によれば、高圧コンプレッサから放風される圧縮空気は、低圧コンプレッサで圧縮された圧縮空気と同様に温度上昇しているので、中間冷却器の上流側に合流させて冷却後に戻すことができる。よって、過給機効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0011】
上述した本発明によれば、高圧段の過給機でスラスト力調整に使用される圧縮空気の放風を放風戻し流路によって回収するので、高圧段側の過給機で放風される圧縮空気を有効利用できるようになり、多段過給機の過給機総合効率を向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る多段過給機の一実施形態として、2段過給機の構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る多段過給機の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示す実施形態の多段過給機は、たとえば舶用ディーゼルエンジン等の内燃機関に搭載される低圧段過給機1L及び高圧段圧縮機1Hよりなる2段過給機TCである。この2段過給機TCは、低圧段過給機1L及び高圧段圧縮機1Hのコンプレッサが圧縮空気流路40を介して直列に連結されており、低圧段過給機1Lが外気を吸入して第1段圧縮を行った後、高圧段圧縮機1Hが低圧段過給機1Lから供給される圧縮空気の第2段圧縮を行って昇圧させるように構成されている。
なお、圧縮空気流路40には、低圧段過給機1Lから高圧段過給機1Hへ供給する圧縮空気を冷却するため、中間冷却器50が設けられている。
【0014】
この2段過給機TCにおいて、低圧段過給機1Lは、内燃機関から排出される排気ガスの排熱で駆動される低圧排気タービン10Lと、外気導入した空気を圧縮する低圧コンプレッサ20Lとがロータ軸30Lにより連結されている。
図示の低圧排気タービン10Lは、低圧コンプレッサ20Lを回転させて外気を高密度に圧縮するため、導入した内燃機関の排気ガスが膨張して得られる軸出力により、ロータ軸30Lを介して同軸に連結された低圧コンプレッサ20Lを駆動する軸流式のタービンである。この低圧排気タービン10Lは、ロータディスク11を収納するとともに、排気ガス流路12を形成するように構成されたケーシング13を備えている。なお、ケーシング13の外周面は、必要に応じて断熱材14により被覆されている。
【0015】
ロータディスク11はロータ軸30Lに固定され、その周縁部には周方向に配列した多数のタービン動翼11aが取り付けられている。
排気ガス流路12は、排気ガス入口12aからタービンノズル12bを経由して排ガス出口12cに至る流路である。従って、排気ガス入口12aから排気ガス流路12内に導入された高温の排気ガスは、タービンノズル12bから噴出してタービン動翼11aを通過する際に膨張し、ロータディスク11及びロータ軸30Lを回転させた後に排気ガス出口12cから流出する。なお、排気ガス出口12cから流出した排気ガスは、必要な排ガス処理を施した後、煙突から大気に放出される。
【0016】
低圧コンプレッサ20Lは、ロータ軸30Lを介して同軸に連結された排気タービン10Lを駆動源とし、吸入した外気を圧縮して高圧段過給機1Hに供給する遠心圧縮機である。この低圧コンプレッサ20Lは、羽根車21を収納するとともに空気流路22を形成するケーシング23を備えている。なお、ケーシング23の外周面は、必要に応じて断熱材24により被覆されている。
【0017】
空気流路22は、空気入口22aから羽根車21を経由して空気出口22bに至る流路である。従って、羽根車21の回転により外気が空気入口22aから空気流路22内に導入され、大気圧の外気は、羽根車21を通過する際に圧縮されて圧縮空気となり、空気出口22bから圧縮空気流路40へ流出する。
【0018】
高圧段過給機1Hは、内燃機関から排出される排気ガスの排熱で駆動される高圧排気タービン10Hと、低圧段過給機1Lから導入した圧縮空気を再度圧縮して昇圧させる低圧コンプレッサ20Hとがロータ軸30Hにより連結されている。
図示の高圧排気タービン10Hは、高圧コンプレッサ20Hを回転させて外気を高密度に圧縮して昇圧させるため、排気ガスが膨張して得られる軸出力により、ロータ軸30Hを介して連結された高圧コンプレッサ20Hを駆動するラジアルタービンである。この高圧排気タービン10Hは、羽根車11Hを収納するとともに、排気ガス流路12Hを形成するように構成されたケーシング13Hを備えている。なお、ケーシング13Hの外周面は、必要に応じて断熱材14により被覆されている。
【0019】
羽根車11Hは、ロータ軸30Hに固定されている。
排気ガス流路12Hは、排気ガス入口(不図示)から羽根車11Hを経由して排ガス出口(不図示)に至る流路であり、排気ガス入口から排気ガス流路12内に導入された高温の排気ガスは、羽根車11Hを通過する際に膨張してロータ軸30Hを回転させた後、排気ガス出口から流出する。なお、排気ガス出口から流出した排気ガスは、必要な排ガス処理を施した後、煙突から大気に放出される。
【0020】
高圧コンプレッサ20Hは、ロータ軸30Hを介して同軸に連結された排気タービン10Hを駆動源とし、吸入した圧縮空気を圧縮して昇圧させて内燃機関に供給する遠心圧縮機である。この高圧コンプレッサ20Hは、羽根車21を収納するとともに空気流路22を形成するケーシング23を備えている。
【0021】
空気流路22は、空気入口22aから羽根車21を経由して空気出口22bに至る流路である。従って、羽根車21の回転により空気入口22aから空気流路22内に導入された圧縮空気は、羽根車21を通過する際に再度圧縮されて昇圧した圧縮空気となり、空気出口22bから内燃機関へ流出する。
【0022】
すなわち、本実施形態の多段過給機は、内燃機関から排出される排気ガスの排熱を利用して駆動される排気タービン(低圧排気タービン10L,高圧排気タービン10H)と同軸(ロータ軸30L,30H)のコンプレッサ(低圧コンプレッサ20L,高圧コンプレッサ20H)で空気を圧縮する2段過給機TCであり、低圧コンプレッサ20L及び高圧コンプレッサ20Hを直列に接続して順次昇圧させるように構成されている。
【0023】
そして、2段過給機TCの高圧コンプレッサ20Hにおいては、圧縮空気の一部を放風してスラスト力の調整を行うように構成されている。
この放風は、高圧コンプレッサ20Hで圧縮した圧縮空気の一部をケーシング23の外部、すなわち、空気流路22の外部へ流出させることにより、羽根車21の背面圧力を低下させてロータ軸30Hに作用するスラスト力を調整するものである。なお、スラスト力の調整は、羽根車21の背面側(高圧排気タービン10H側)の適所に設けた放風出口径(オリフィス径)を適宜設定し、圧縮空気の放風量を最適化することにより行われる。
【0024】
さて、本実施形態の2段過給機TCには、上述した高圧コンプレッサ20Hの放風を有効利用するため、高圧コンプレッサ20Hから放風される圧縮空気を低圧コンプレッサ20Lの出口圧縮空気出口に導いて合流させる放風戻し流路60が設けられている。この放風戻し流路60は、ケーシング23に設けた放風出口25と圧縮空気流路40との間を連結した圧縮空気流路である。なお、高圧コンプレッサ20Hから放風される圧縮空気は、低圧コンプレッサ20Lで圧縮された圧縮空気と同様に温度上昇しているので、低圧段側のコンプレッサ圧縮空気出口と前記中間冷却器の間に導いて合流させて冷却後に戻すことが望ましい。よって、過給機効率を向上させることができる。
【0025】
このように、スラスト力調整に使用した放風を高圧コンプレッサ20Hの上流側へ戻すことにより、放風した圧縮空気を再度高圧段過給機1Hに導入して昇圧させることができるので、高圧段過給機1Hから大気への放風量をなくすことができる。すなわち、高圧コンプレッサ20Hで昇圧された圧縮空気は、その一部が放風されてスラスト力の調整に使用されるものの、この放風の全量を回収することにより、2段過給機TCの過給機総合効率が低下することを防止できる。特に、高圧段から回収される放風は圧力が高いため、回収するエネルギー量も大きくなる。
なお、低圧段過給機1Lにおいても、放風によるスラスト力の調整を行うが、この場合の放風は大気に放出される。
【0026】
換言すれば、放風戻し流路60を設けることにより、高圧段過給機1Hのロータ軸30Hに取り付けられた羽根車21の背面放風空気を、低圧段過給機1Lの空気出口22bから圧縮空気流路40に流入する圧縮空気と合流させるようにしたので、高圧段過給機1Hから大気に捨てられていた圧縮空気の放風分を低圧段過給機1L側に回収して有効利用できるようになる。この結果、高圧段過給機1H側の高圧コンプレッサ20Hで圧縮した圧縮空気を大気に捨てる放風空気がなくなるので、2段過給機TC全体としての過給機総合効率を向上させることができる。
【0027】
ところで、上述した実施形態では、低圧段過給機1L及び高圧段圧縮機1Hよりなる2段過給機TCについて説明したが、3段圧縮以上の複数段(多段)圧縮を行う多段過給機においても、高圧段側から低圧段側へ放風を戻して合流させる放風戻し流路を設けることで、多段過給機の過給機総合効率を向上させることができる。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0028】
1L 低圧段過給機
1H 高圧段過給機
10L 低圧排気タービン
10H 高圧排気タービン
11 ロータディスク
11H,21 羽根車
12,12H 排気ガス流路
13,13H,23 ケーシング
20L 低圧コンプレッサ
20H 高圧コンプレッサ
22 空気流路
25 放風出口
30L,30H ロータ軸
40 圧縮空気流路
50 中間冷却器
60 放風戻し流路
TC 2段過給機


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関から排出される排熱を利用して駆動される排気タービンと同軸のコンプレッサで空気を圧縮する過給機が、中間冷却器を介して、前記コンプレッサを直列に接続して順次昇圧させるよう複数段設けられ、かつ、高圧段側の前記コンプレッサで圧縮空気の一部を放風してスラスト力の調整を行うように構成された多段過給機構造であって、
前記高圧段側のコンプレッサから放風される圧縮空気を低圧段側のコンプレッサ圧縮空気出口に導いて合流させる放風戻し流路を設けたことを特徴とする多段過給機構造。
【請求項2】
前記高圧段側のコンプレッサから放風される圧縮空気を前記低圧段側のコンプレッサ圧縮空気出口と前記中間冷却器の間に導いて合流させることを特徴とする請求項1に記載の多段過給機構造。


【図1】
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【公開番号】特開2012−177329(P2012−177329A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40580(P2011−40580)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】