説明

多結晶シリコンブロック材の製造方法、多結晶シリコンウエハの製造方法及び多結晶シリコンブロック材

【課題】熱処理を適正に行うことができ、ライフタイムが向上した高品質な多結晶シリコンウエハを製出することが可能な多結晶シリコンブロック材の製造方法、多結晶シリコンウエハの製造方法及び多結晶シリコンブロック材を提供する。
【解決手段】太陽電池用基板の素材として使用される多結晶シリコンブロック材の製造方法であって、シリコン融液を凝固させて多結晶シリコンインゴットを製出する鋳造工程S1と、得られた多結晶シリコンインゴットを切断して、多角形柱状をなし、この多角形面の対角線長さが150mm以上400mm以下とされ、その高さが100mm以上500mm以下とされたブロック素体を切り出す切断工程S2と、このブロック素体に、温度;500℃以上600℃以下、保持時間;15分以上60分以下、冷却速度;10℃/min以上60℃/min以下、の熱処理を行う熱処理工程S3と、を備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用基板の素材として使用される多結晶シリコンブロック材の製造方法、多結晶シリコンウエハの製造方法及び多結晶シリコンブロック材に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池用基板として、単結晶シリコンや多結晶シリコンからなるシリコンウエハが用いられている。例えば、特許文献1には、一方向凝固で得た多結晶シリコンインゴットを切断して得られた多結晶シリコンウエハを太陽電池用基板として用いる技術が開示されている。
このような太陽電池においては、太陽電池用基板(多結晶シリコンウエハ)の特性が、変換効率等の性能を大きく左右することになる。
【0003】
多結晶シリコンウエハの品質を評価する指標して、いわゆるライフタイムが使用されている。このライフタイムとは、励起したキャリアが消滅するまでの時間であり、多結晶シリコンウエハのライフタイムが長いほど、太陽電池の変換効率が向上することが知られている。
このライフタイムは、多結晶シリコンウエハ内の不純物量と関係があり、不純物量が多くなるとライフタイムが短くなる傾向を示すことになる。このため、高純度の多結晶シリコンインゴットを製出することで、多結晶シリコンウエハのライフタイムを向上させることが可能となる。
【0004】
しかしながら、従来より、高純度の多結晶シリコンインゴットを製出することを目的として開発が進められており、さらなる高純度化は非常に困難である。また、極めて高純度の多結晶シリコンインゴットを製出するためには、莫大なコストが必要となり、工業的に太陽電池用基板として広く使用することはできない。
そこで、例えば特許文献2には、多結晶シリコンウエハに対して熱処理を施すことにより、不純物をシリコンウエハの表面等に凝集させることで、ライフタイムを向上させる方法が開示されている。
【0005】
また、多結晶シリコンに含まれている酸素ドナーも、前述のライフタイムを短くする要因である。ここで、非特許文献1には、650℃付近で酸素ドナーが消滅し、450℃付近を急速に通過させることで、酸素ドナーの再発が防止されることが開示されている。すなわち、特許文献2に記載されているように、多結晶シリコンウエハに対して熱処理を施すことによって、酸素ドナーの影響も抑制することが可能となるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−245216号公報
【特許文献2】特開2005−166994号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】アドバンスト エレクトロニクスI−4 バルグ結晶成長技術 編者:干川圭吾、発行者:山本格、発行所:株式会社培風館、P.9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献2に記載されたように、多結晶シリコンウエハを熱処理する場合には、表面酸化を起こし易いため、熱処理時において雰囲気制御を精度良く行う必要があった。また、薄くスライスされた多結晶シリコンウエハを取り扱うことから、熱処理作業が非常に煩雑であった。
ここで、効率良く熱処理を実施するために、多結晶シリコンインゴットのまま熱処理した場合、450℃付近を急速に通過させるために急冷すると多結晶シリコンインゴットに割れが生じてしまう。よって、酸素ドナーの再発を防止することができず、ライフタイムを向上させることができなかった。
【0009】
本発明は、上述した状況に鑑みてなされたものであって、熱処理を適正に行うことができ、ライフタイムが向上した高品質な多結晶シリコンウエハを製出することが可能な多結晶シリコンブロック材の製造方法、多結晶シリコンウエハの製造方法及び多結晶シリコンブロック材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る多結晶シリコンブロック材の製造方法は、太陽電池用基板の素材として使用される多結晶シリコンブロック材の製造方法であって、シリコン融液を凝固させて多結晶シリコンインゴットを製出する鋳造工程と、得られた多結晶シリコンインゴットを切断して、多角形柱状をなし、この多角形面の対角線長さが150mm以上400mm以下とされ、その高さが100mm以上500mm以下とされたブロック素体を切り出す切断工程と、このブロック素体に、温度;500℃以上600℃以下、保持時間;15分以上60分以下、冷却速度;10℃/min以上60℃/min以下、の熱処理を行う熱処理工程と、を備えていることを特徴としている。
【0011】
この構成の多結晶シリコンブロック材の製造方法によれば、多結晶シリコンインゴットを切断して、この多角形面の対角線長さが150mm以上400mm以下とされ、その高さが100mm以上500mm以下とされたブロック素体を切り出し、このブロック素体に対して熱処理を行う構成とされていることから、取扱いが比較的容易であって、かつ、表面酸化の影響も少ないことから、熱処理作業を簡単に行うことができる。
【0012】
また、熱処理が施されるブロック素体は、多角形面の対角線長さが400mm以下とされ、その高さが500mm以下とされていることから、熱処理において450℃付近を急速に通過させるために急冷したとしても、ブロック素体に割れが生じることがない。よって、熱処理の冷却過程において、酸素ドナーが再発することがなく、高品質の多結晶シリコンブロック体を製出することができる。
【0013】
また、熱処理工程の温度条件を500℃以上とし、保持時間を15分以上に設定しているので、確実に酸素ドナーを消滅させてライフタイムを向上させることができる。
一方、熱処理工程の温度条件を600℃以下とし、保持時間を60分以下に設定しているので、ブロック素体中の不純物元素が拡散することを抑制することができる。
さらに、熱処理工程における冷却速度を10℃/min以上に設定しているので、冷却時に酸素ドナーが再発することを抑制することができる。
一方、熱処理工程における冷却速度を60℃/min以下に設定しているので、冷却時にブロック素体が割れるおそれがない。
【0014】
ここで、本発明の多結晶シリコンブロック材の製造方法においては、前記鋳造工程は、一方向凝固法によって前記多結晶シリコンインゴットを製出する構成とされていることが好ましい。
シリコンは、凝固時に膨張する金属であるため、インゴットの内部に溶湯が残存しないように鋳造を行う必要がある。そこで、一方向凝固とすることで、インゴットの内部に溶湯が残存することがなくなり、製出された多結晶シリコンインゴットに割れが発生することを防止できる。また、一方向凝固法では、シリコン融液中の不純物元素が固相(鋳塊)から液相(溶湯)に排出されるため、高純度の多結晶シリコンインゴットを、比較的容易に得ることができる。
【0015】
本発明に係る多結晶シリコンウエハの製造方法は、太陽電池用基板として使用される多結晶シリコンウエハの製造方法であって、前述の多結晶シリコンブロック材の製造方法によって製造された多結晶シリコンブロック材を、所定厚さにスライスするスライス工程を備えていることを特徴としている。
【0016】
この構成の多結晶シリコンウエハの製造方法によれば、熱処理された多結晶シリコンブロック材を所定厚さにスライスするので、ウエハの状態で熱処理を行う必要がなく、ライフタイムが長く表面酸化のない高品質の多結晶シリコンウエハを、容易に、かつ、低コストで製造することができる。
【0017】
本発明に係る多結晶シリコンブロック材は、太陽電池用基板の素材として使用される多結晶シリコンブロック材であって、多角形柱状をなし、この多角形面の対角線長さが150mm以上400mm以下とされ、その高さが100mm以上500mm以下とされており、不純物量が0.01ppm以上1ppm以下の範囲内とされ、そのライフタイムが1μsec以上とされていることを特徴としている。
【0018】
この構成の多結晶シリコンブロック材においては、多角形柱状をなし、この多角形面の対角線長さが150mm以上400mm以下とされていて、多結晶シリコンウエハの断面と略等しい形状となっているので、この多結晶シリコンブロック材をスライスすることで、多結晶シリコンウエハを製出することが可能である。
また、多角形面の対角線長さが150mm以上とされ、その高さが100mm以上とされていることから、取扱いが容易であって熱処理を簡単に行うことができる。また、表面酸化の影響が少ないことから、雰囲気制御を必要以上に行う必要がない。
【0019】
さらに、多角形面の対角線長さが400mm以下とされ、その高さが500mm以下とされていることから、熱処理において、450℃付近を急速に通過させるために急冷したとしても、多結晶シリコンブロック材に割れが生じることがない。
このように、熱処理を適正に行うことが可能であることから、多結晶シリコンブロック材内部の酸素ドナーが消滅されるとともに不純物が凝集され、ライフタイムが向上することになる。
【0020】
よって、不純物量が0.01ppm以上1ppm以下の範囲内とされていても、ライフタイムを1μsec以上と長くすることが可能となる。すなわち、極めて高純度の多結晶シリコンインゴットを製出することなく、ライフタイムが十分長い高品質な多結晶シリコンウエハを製出することが可能となるのである。
なお、ライフタイムを測定する場合には、その表面粗度が大きく影響を与えることになる。よって、測定試料の表面粗さは、十点平均粗さRzjis(JIS B 0601:2001)で1μmとなるように設定している。
【0021】
ここで、本発明の多結晶シリコンブロック材においては、一方向凝固法によって成形され、凝固方向に向けて延びる複数の柱状晶によって構成されていることが好ましい。
一方向凝固法では、シリコン融液中の不純物元素が固相(鋳塊)から液相(溶湯)に排出されるため、多結晶シリコンブロック材の純度が高くなる。よって、この多結晶シリコンブロック材のライムタイムを長くすることができる。
【発明の効果】
【0022】
このように、本発明によれば、熱処理を適正に行うことができ、ライフタイムが向上した高品質な多結晶シリコンウエハを製出することが可能な多結晶シリコンブロック材の製造方法、多結晶シリコンウエハの製造方法及び多結晶シリコンブロック材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態である多結晶シリコンブロック材の概略説明図である。
【図2】図1に示す多結晶シリコンブロック材の素材となる多結晶シリコンインゴットの概略説明図である。
【図3】図2に示す多結晶シリコンインゴットを製造するのに使用される多結晶シリコンインゴット製造装置の概略説明図である。
【図4】本発明の実施形態である多結晶シリコンブロック材の製造方法及び多結晶シリコンウエハの製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施形態である多結晶シリコンブロック材の製造方法、多結晶シリコンウエハの製造方法及び多結晶シリコンブロック材について、添付した図面を参照にして説明する。
本実施形態である多結晶シリコンブロック材1は、太陽電池用基板として使用される多結晶シリコンウエハの素材となるものである。
【0025】
この多結晶シリコンブロック材1は、図1に示すように、多角形柱状をなしており、本実施形態では、四角形柱状をなしている。そして、この多結晶シリコンブロック材1の高さH1は、100mm≦H1≦500mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、H1=300mmに設定されている。
また、四角形面の対角線長さD1が150mm≦D1≦400mmの範囲内に設定されている。なお、本実施形態では、四角形面は、一辺が156mmの正方形をなしており、その対角線長さD1は、約221mmとされている。
【0026】
また、この多結晶シリコンブロック材1の不純物量は、0.01ppm以上1ppm以下の範囲内とされており、そのライフタイムが1μsec以上とされている。
ここで、ライフタイムは、測定試料の表面に光を照射して、光励起によって発生したキャリア(光電子・正孔対)が消滅するまでの時間のことである。ライムタイムを測定する際には、測定試料の表面状態が大きく影響を与えることが知られている。そこで、本実施形態の多結晶シリコンブロック材1におけるライフタイムは、測定試料の表面粗さを、十点平均粗さRzjis(JIS B 0601:2001)で1μmとして測定された値とした。
【0027】
このような多結晶シリコンブロック材1は、図2に示す多結晶シリコンインゴット10を切断することによって得られるものである。
この多結晶シリコンインゴット10は、図2に示すように、四角形柱状をなしており、その高さH2は、100mm≦H2≦500mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、H2=300mmに設定されている。
【0028】
また、四角形面の対角線長さD2が150mm≦D2≦1600mmの範囲内に設定されている。なお、本実施形態では、四角形面は、一辺が680mmの正方形をなしており、その対角線長さD2は、約962mmとされている。
この多結晶シリコンインゴット10からは、図2に示すように、16個の多結晶シリコンブロック材1が製出されることになる。
【0029】
次に、この多結晶シリコンインゴット10を製造する際に用いられる多結晶シリコンインゴット製造装置20について、図3を参照して説明する。
この多結晶シリコンインゴット製造装置20は、シリコン融液Lが貯留されるルツボ21と、このルツボ22が載置されるチルプレート22と、このチルプレート22を下方から支持する床下ヒータ23と、ルツボ21の上方に配設された天井ヒータ24と、を備えている。また、ルツボ21の周囲には、断熱材25が設けられている。
【0030】
ここで、ルツボ21は、水平断面形状が角形(四角形)又は丸形(円形)をなすシリカ製とされている。本実施形態では、水平断面形状が角形(四角形)とされている。
また、チルプレート22は、中空構造とされており、供給パイプ26を介して内部にArガスが供給される構成とされている。
【0031】
次に、本実施形態である多結晶シリコンブロック材の製造方法及び多結晶シリコンウエハの製造方法について、図4に示すフロー図を参照して説明する。
【0032】
(鋳造工程S1)
最初に、前述の多結晶シリコンインゴット製造装置20を用いて、多結晶シリコンインゴット10を鋳造する。
前述の多結晶シリコンインゴット製造装置20により多結晶シリコンインゴット10を作製する際には、まず、ルツボ21内にシリコン原料を装入する。このシリコン原料を、天井ヒータ24と床下ヒータ23とに通電して加熱して溶解する。これにより、ルツボ21内には、シリコン融液Lが貯留されることになる。
【0033】
次に、床下ヒータ23への通電を停止し、チルプレート22の内部に供給パイプ26を介してArガスを供給する。これにより、ルツボ21の底部を冷却する。さらに、天井ヒータ24への通電を徐々に減少させることにより、シリコン融液Lは、ルツボ21の底部から冷却されて下部から上方に向けて一方向凝固することになる。これにより、下部から上方に向けて延びる柱状晶からなす多結晶シリコンインゴット10が製出される。
【0034】
このようにして、図2に示す四角柱状の多結晶シリコンインゴット10が、一方向凝固法によって成形されるのである。
なお、この多結晶シリコンインゴット10における不純物量が0.01ppm以上1ppm以下の範囲内となるように調整されている。
【0035】
(切断工程S2)
鋳造工程S1によって得られた多結晶シリコンインゴット10を、図2に示すように、四角形面の一辺を4等分するように、バンドソー等によって切断し、16個のブロック素体11を製出する。このブロック素体11は、四角柱状をなしており、四角形面の対角線長さが150mm以上400mm以下とされ、その高さが100mm以上500mm以下とされており、本実施形態では、四角形面の対角線長さが約221mm、高さが300mmとされている。
【0036】
(熱処理工程S3)
次に、ブロック素体11に対して熱処理を行う。Arガス雰囲気とした熱処理炉を用いて、熱処理温度を500℃以上600℃以下、保持時間を15分以上60分以下、冷却速度を10℃/min以上60℃/min以下(熱処理温度から室温まで)で、熱処理を行う構成とされている。なお、本実施形態では、温度を600℃、保持時間を60分、冷却速度を30℃/minとした。
この熱処理によって、ブロック素体11中の酸素ドナーが消滅するとともに、不純物が凝集され、不純物量が0.01ppm以上1ppm以下の範囲内であっても、ライフタイムが1μsec以上とされた、図1に示す多結晶シリコンブロック材1が製出されることになる。
【0037】
(スライス工程S4)
そして、前述のようにして得られた多結晶シリコンブロック材1を、所定厚さにスライスする。これにより、多結晶シリコンウエハが製出されることになる。
【0038】
このような構成とされた本実施形態である多結晶シリコンブロック材の製造方法、多結晶シリコンウエハの製造方法及び多結晶シリコンブロック材1によれば、多結晶シリコンインゴット10を切断して、多角形面(四角形面)の対角線長さが150mm以上400mm以下(本実施形態では約221mm)とされ、その高さが100mm以上500mm以下(本実施形態では300mm)とされたブロック素体11を切り出し、このブロック素体11に対して熱処理を行う構成とされていることから、取扱いが比較的容易であって表面酸化の影響も少なく、熱処理作業を簡単に行うことができる。
また、熱処理が施されるブロック素体11は、多角形面(四角形面)の対角線長さが400mm以下とされ、その高さが500mm以下とされていることから、熱処理において450℃付近を急速に通過させるために急冷したとしても、ブロック素体11に割れが生じることがない。
【0039】
また、熱処理工程S3の温度条件を500℃以上とし、保持時間を15分以上に設定しているので、ブロック素体11中の酸素ドナーを消滅させてライフタイムを向上させることができる。
一方、熱処理工程S3の温度条件を600℃以下とし、保持時間を60分以下に設定しているので、不純物元素が拡散することを抑制することができ、ライムタイムの向上を図ることができる。
【0040】
さらに、熱処理工程S3における冷却速度を10℃/min以上に設定しているので、冷却時に酸素ドナーが再発することを抑制することができる。
一方、熱処理工程S3における冷却速度を60℃/min以下に設定しているので、冷却時にブロック素体11が割れるおそれがない。
【0041】
また、本実施形態である多結晶シリコンブロック材1においては、多角形柱状をなし、この多角形面の対角線長さが150mm以上400mm以下とされていて、製出される多結晶シリコンウエハの断面と略等しい形状とされているので、この多結晶シリコンブロック材1をスライスすることで多結晶シリコンウエハを製出することが可能となる。
また、熱処理を適正に行うことが可能であることから、多結晶シリコンブロック材1内部の酸素ドナーが消滅されるとともに不純物が凝集され、ライフタイムが向上することになる。よって、不純物量が0.01ppm以上1ppm以下の範囲内とされていても、ライフタイムを1μsec以上と長くすることが可能となる。
【0042】
さらに、本実施形態では、多結晶シリコンブロック材1は、一方向凝固法によって成形された多結晶シリコンインゴット10を切断することによって製造されている。ここで、シリコンは、凝固時に膨張する金属であるため、多結晶シリコンインゴット10の内部に溶湯が残存しないように鋳造を行う必要がある。そこで、一方向凝固とすることで、多結晶シリコンインゴット10の内部に溶湯が残存することがなく、多結晶シリコンインゴット10における割れの発生を防止できる。また、一方向凝固法では、シリコン融液中の不純物元素が固相(鋳塊)から液相(溶湯)に排出されるため、高純度の多結晶シリコンインゴット10を比較的容易に得ることができる。
【0043】
以上、本発明の実施形態である多結晶シリコンブロック材の製造方法、多結晶シリコンウエハの製造方法及び多結晶シリコンブロック材について説明したが、これに限定されることはなく、適宜設計変更することができる。
例えば、図3に示す多結晶シリコンインゴット製造装置によって、多結晶シリコンインゴットを製出するものとして説明したが、これに限定されることはなく、他の構造の多結晶シリコンインゴット製造装置によって多結晶シリコンインゴットを製出してもよい。
【0044】
また、多結晶シリコンインゴットの大きさや形状は、本実施形態に限定されることはなく、本発明の多結晶シリコンブロック材を得られる大きさや形状であれば良い。
さらに、多結晶シリコンブロック材を、四角柱状のものとして説明したが、これに限定されることはなく、多角形柱状をなしていればよい。
【実施例】
【0045】
本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果を示す。本実施形態で説明した多結晶シリコンインゴット製造装置を用いて、不純物量の異なる複数の多結晶シリコンインゴットを製出した。また、これらの多結晶シリコンインゴットを、バンドソーで切断し、大きさの異なる複数のブロック素体を得た。
このようにして得られた複数のブロック素体に対して、種々の熱処理条件で熱処理を実施し、多結晶シリコンブロック材を製出した。
【0046】
前述のようにして得られたブロック素体及び多結晶シリコンブロック材のライフタイムを測定し、熱処理前後のライフタイムを確認した。
なお、ライフタイムの測定は、マイクロ波光導電減衰法(μ−PCD)により測定した。測定装置として、SEMILAB社製のWT−2000を用いた。また、マイクロ波の波長を904nmとした。さらに、測定試料の表面粗さを、十点平均粗さRzjis(JIS B 0601:2001)で1μmとなるように調整した。
結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
対角線長さが600mmとされた比較例1、高さが600mmとされた比較例2、並びに、冷却速度が80℃/minとされた比較例8においては、熱処理後にブロック体に割れが認められた。ブロック体の大きさに対して冷却速度が速すぎるために、ブロック体の内部と外部とで温度差が生じ、この温度差による熱歪みによって割れが生じたと推測される。
【0049】
また、比較例3−7においては、いずれもライフタイムの大幅な向上が認められなかった。
熱処理の保持時間が400℃とされた比較例3及び熱処理の保持時間が10minとされた比較例5においては、熱処理が不十分であり、酸素ドナーの消滅や不純物元素の凝集を十分に行うことができなかったために、ライフタイムが向上しなかったと推測される。
熱処理の保持時間が700℃とされた比較例4及び熱処理の保持時間が80minとされた比較例6においては、ブロック体内部の不純物元素が広く拡散してしまったために、ライフタイムが向上しなかったと推測される。
冷却速度が5minとされた比較例7では、冷却の過程で酸素ドナーが再発したために、ライフタイムが向上しなかったと推測される。
【0050】
これに対して、本発明例1−9においては、ライフタイムが十分に向上しており、特に、不純物量が0.01ppm以上となっていて、熱処理前のライフタイムが1μsec以下とされた本発明例7,8においても、熱処理後のライフタイムが1μsec以上とされている。なお、不純物量が1ppm以上とされた本発明例9では、ライフタイムは向上したが、熱処理によって不純物を凝集させてもブロック体の内部に不純物が残存するために、ライフタイムが1μsec以上にはならなかった。
このように、本発明によれば、ライフタイムが長い高品質の多結晶シリコンブロック材及び多結晶シリコンウエハを提供できることが確認された。
【符号の説明】
【0051】
1 多結晶シリコンブロック材
10 多結晶シリコンインゴット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池用基板の素材として使用される多結晶シリコンブロック材の製造方法であって、
シリコン融液を凝固させて多結晶シリコンインゴットを製出する鋳造工程と、
得られた多結晶シリコンインゴットを切断して、多角形柱状をなし、この多角形面の対角線長さが150mm以上400mm以下とされ、その高さが100mm以上500mm以下とされたブロック素体を切り出す切断工程と、
このブロック素体に、温度;500℃以上600℃以下、保持時間;15分以上60分以下、冷却速度;10℃/min以上60℃/min以下、の熱処理を行う熱処理工程と、
を備えていることを特徴とする多結晶シリコンブロック材の製造方法。
【請求項2】
前記鋳造工程は、一方向凝固法によって前記多結晶シリコンインゴットを製出することを特徴とする請求項1に記載の多結晶シリコンブロック材の製造方法。
【請求項3】
太陽電池用基板として使用される多結晶シリコンウエハの製造方法であって、
請求項1又は請求項2に記載された多結晶シリコンブロック材の製造方法によって製造された多結晶シリコンブロック材を、所定厚さにスライスするスライス工程を備えていることを特徴とする多結晶シリコンウエハの製造方法。
【請求項4】
太陽電池用基板の素材として使用される多結晶シリコンブロック材であって、
多角形柱状をなし、この多角形面の対角線長さが150mm以上400mm以下とされ、その高さが100mm以上500mm以下とされており、
不純物量が0.01ppm以上1ppm以下の範囲内とされ、そのライフタイムが1μsec以上とされていることを特徴とする多結晶シリコンブロック材。
【請求項5】
一方向凝固法によって成形され、凝固方向に向けて延びる複数の柱状晶によって構成されていることを特徴とする請求項4に記載の多結晶シリコンブロック材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−138866(P2011−138866A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296874(P2009−296874)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(597065282)三菱マテリアル電子化成株式会社 (151)
【Fターム(参考)】