説明

多結晶セラミック磁性体材料、マイクロ波磁性体、及びこれを用いた非可逆回路素子

【課題】 低温焼成や、低抵抗の金属材料との同時焼成が可能で、Bi置換型においても異相の生成がなく、強磁性共鳴半値幅及び誘電損失が小さい多結晶セラミック磁性体材料と、マイクロ波磁性体及びこれを用いた非可逆回路素子を提供する。
【解決手段】 主成分が、一般式(Y3.0−x−y−zBiCaGd)(Fe5−α−β−γInαAlβγ)O12で表される組成を有し、x、y、zの値が、0.5≦x≦0.9、0.5≦y≦0.9、0≦z≦0.4であり、α、β、γの値が、0.05≦α≦0.4、0≦β≦0.45、0.25≦γ≦0.45の範囲内にあって、副成分としてCuとZrとFeを含み、その含有量は、主成分100重量部に対して、CuをCuO換算で0.1重量%≦CuO≦0.5重量%、ZrをZrO換算で0.05重量%≦ZrO≦0.5重量%、FeをFe換算で0重量%<Fe≦1.0重量%とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波回路部品に使用されるマイクロ波用磁性体材料であり、さらに銀や銅といった電極用材料との同時焼成が可能な多結晶セラミック磁性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車電話、携帯電話、衛星放送など、マイクロ波領域の電磁波を利用する通信技術の進展に伴い、機器の小型化が要求されている。このためには、機器を構成する個々の部品の小型化、低背化の要求が益々増大している。
【0003】
通信機器の分野において用いられる代表的な高周波回路部品として、たとえば、サーキュレータ、アイソレータなどのマイクロ波非可逆回路素子がある。一般にアイソレータは、信号の伝送方向にはほとんど減衰がなく、かつ逆方向には減衰が大きくなる様な機能を有しており、たとえばマイクロ波帯、UHF帯で使用される携帯電話、自動車電話等の移動体通信器の送受信回路に用いられている。
【0004】
サーキュレータ、アイソレータなどの非可逆回路素子は、互いに絶縁された状態で配置した複数の電極ラインを有する中心導体と、これら中心導体に密接して配置されるマイクロ波用磁性体と、前記中心導体及び前記マイクロ波用磁性体からなる中心導体組立体に直流磁界を印可する永久磁石を備えた構成であって、中心導体とマイクロ波用磁性体は互いに別の部品として製造され、前記中心導体については、従来、銅箔をマイクロ波用磁性体に巻きつけたり、マイクロ波用磁性体に銀ペーストを印刷、焼結して一体的に形成するなど、様々な形態が提案されている。
【0005】
前述したような小型化の要求に応えるため、たとえば特許文献1に記載されるように、中心導体の材料として、パラジウムもしくは白金等の導電性粉末及び有機溶剤を混合してなる導電ペーストを用い、1300〜1600℃の温度で、マイクロ波用磁性体材料と中心導体とを一体焼成することが提案されている。
【特許文献1】特開平6−61708号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したパラジウムまたは白金は、融点が1300℃以上と高く、ほとんどのマイクロ波用磁性体材料との一体焼成が容易であるという長所をもつ反面、比抵抗が高く、たとえばアイソレータ素子に使用した場合、挿入損失が大きくなるという欠点を有している。
【0007】
低抵抗の銀や銅を用いる場合、同時焼成可能なように、多結晶セラミック磁性材料にBiを置換したものを用いる場合がある。しかしながら、Biの酸化物は他の構成元素の酸化物に比べて低融点であり、結晶格子内に取り込まれずに粒界に異相として析出する場合があった。
一般に、ガーネットのように単相領域が狭いマイクロ波用磁性体材料は、異相の生成や空孔量の増加などが発生しやすいものであるが、Biは顕著であって、その異相の生成は、ガーネットの強磁性共鳴半値幅ΔHや誘電損失tanδの増大を招く。また異なる色調のため外観状態においても好ましくは無い。
【0008】
またマイクロ波用非可逆回路素子では永久磁石と組み合わせて使用されるが、マイクロ波用磁性体材料の飽和磁化4πMsの温度特性が、永久磁石の温度特性を補償することが理想とされる。
【0009】
そこで本発明は、上述したような問題を解決し、しかも860℃以上950℃未満の低温で焼成することができ、Bi置換型においても異相の生成を抑え、強磁性共鳴半値幅ΔHおよび誘電損失tanδが小さく、永久磁石の温度特性を補償するような温度係数αmおよび飽和磁化4πMsを有する多結晶セラミック磁性体材料と、マイクロ波磁性体及びこれを用いた非可逆回路素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、主成分が、一般式(Y3.0−x−y−zBiCaGd)(Fe5−α−β−γInαAlβγ)O12で表される組成を有し、x、y、zの値が、0.5≦x≦0.9、0.5≦y≦0.9、0≦z≦0.4であり、α、β、γの値が、0.05≦α≦0.4、0≦β≦0.45、0.25≦γ≦0.45の範囲内にあって、副成分としてCuとZrとFeを含み、その含有量は、前記主成分100重量部に対して、CuをCuO換算で0.1重量%≦CuO≦0.5重量%、ZrをZrO換算で0.05重量%≦ZrO≦0.5重量%、FeをFe換算で0重量%<Fe≦1.0重量%でることを特徴とする多結晶セラミック磁性体材料である。
【0011】
本発明に係る多結晶セラミック磁性体材料は、飽和磁化4πMsが70mT〜110mTであり、その温度係数αmが、−0.35%/℃〜−0.21%/℃であり、強磁性共鳴半値幅ΔHが8000A/m以下であることも特徴とする。
【0012】
第2の発明は、第1の発明の多結晶セラミック磁性体材料と、Ag、Ag合金のいずれかを含む導体ペーストとを一体焼結してなるマイクロ波磁性体であって、前記マイクロ波磁性体の内部及び/又は表面に前記導体ペーストで形成された電極パターンを備えることを特徴とするマイクロ波磁性体である。
【0013】
第3の発明は、第2の発明のマイクロ波磁性体に形成された電極パターンを中心導体とし、前記中心導体に接続するコンデンサと、前記マイクロ波磁性体に直流磁界を与えるフェライト磁石を備えたことを特徴とする非可逆回路素子である。
【0014】
前記フェライト磁石は、残留磁束密度Brが420mT以上であり、その温度係数が−0.15%/℃〜−0.25%/℃であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、860℃以上950℃未満の低温で焼成することができ、銀や銅といった低抵抗の金属材料との同時焼成が可能で、Bi置換型においても異相の生成がなく、強磁性共鳴半値幅ΔHおよび誘電損失tanδが小さい多結晶セラミック磁性体材料と、マイクロ波磁性体及びこれを用いた非可逆回路素子を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の多結晶セラミック磁性体材料は、主成分が、一般式(Y3.0−x−y−zBiCaGd)(Fe5−α−β−γInαAlβγ)O12で表される組成を有し、x、y、zの値が、0.5≦x≦0.9、0.5≦y≦0.9、0≦z≦0.4であり、α、β、γの値が、0.05≦α≦0.4、0≦β≦0.45、0.25≦γ≦0.45の範囲内にあって、副成分としてCuとZrとFeを含み、その含有量は、前記主成分100重量部に対して、CuをCuO換算で0.1重量%≦CuO≦0.5重量%、ZrをZrO換算で0.05重量%≦ZrO≦0.5重量%であり、FeをFe換算で0重量%≦Fe≦1.0重量%の範囲内にあって、ガーネット構造を有する相を主成分とし、860℃以上950℃以下の温度で焼結することを特徴とする多結晶セラミック磁性体材料である。
【0017】
焼結温度、強磁性共鳴半値幅ΔH、誘電損失tanδ、飽和磁化4πMs、飽和磁化4πMsの温度特性等は、多結晶セラミック磁性体材料の主成分組成により大きく影響され、主成分組成が上記の本発明の組成範囲から外れると以下のような不具合が生じる。
【0018】
Biは低温焼結化に寄与する。xが、x<0.5であると、異相の生成は抑制されるが950℃未満での焼結が困難になる。また、x>0.9であると、860℃以上950℃未満での焼結は可能になるが、焼結体に異相が生じ易く誘電損失tanδがtanδ>10×10−4および強磁性共鳴半値幅ΔHがΔH>8000(A/m)と著しく大きくなる。このため、xは0.5≦x≦0.9であることが望ましい。好ましくは、0.55≦x≦0.75である。
【0019】
Caは後述するVとともに加えられ、焼結時に低融点のVの蒸散を防ぐのに寄与する。このような効果を発揮させるには、yは0.5≦y≦0.9とするのが好ましい。
【0020】
Gdは飽和磁化4πMsの温度係数αmの調整に寄与する。zが、0.4を超えると、−20から60℃までの飽和磁化4πMsの温度係数αmが、αm<−0.21(%/℃)となる場合があり、永久磁石との温度特性を補償することができない。また誘電損失tanδがtanδ≧10×10−4、および、強磁性共鳴半値幅ΔHがΔH>8000(A/m)と著しく大きくなる。このため、zは0≦z≦0.4であることが望ましい。
【0021】
In,Al,Vは飽和磁化4πMsの温度係数αmの調整、低温焼結化に寄与する。α、β、γの値を、それぞれ0.05≦α≦0.4、0≦β≦0.45、0.25≦γ≦0.45の範囲内とするのが好ましい。In,Al,Vが上記範囲よりも少ないと950℃未満での焼結が困難になる。また前記範囲よりも少ないと、飽和磁化4πMsが4πMs>110(mT)となり、所定の形状による永久磁石の磁力が不足してしまう。また誘電損失tanδがtanδ≧10×10−4、および、強磁性共鳴半値幅ΔHがΔH>8000(A/m)と著しく大きくなる。また多い場合には、飽和磁化4πMsが4πMs<70(mT)となり、永久磁石との温度特性を補償することができない。
【0022】
また、本発明の多結晶セラミック磁性体材料における副成分は、異相の抑制、低温焼結化に寄与するが、組成が上記の本発明の組成範囲から外れると、以下のような不具合が生じる。
【0023】
まず、CuOが主成分に対して0.5重量%より大きいと、低温での焼結は可能になるが誘電損失tanδがtanδ≧10×10−4、および、強磁性共鳴半値幅ΔHがΔH>8000(A/m)と著しく大きくなる。0重量%であると950℃未満での焼結が困難になる。このため、CuOは主成分に対して0.1重量%≦CuO≦0.5重量%であることが望ましい。好ましくは、0.2重量%≦CuO≦0.4重量%である。
【0024】
また、ZrOが主成分に対して0.50重量%より大きいと、焼結体に異相を生じやすく強磁性共鳴半値幅ΔHがΔH>8000(A/m)と著しく大きくなる。0重量%であると誘電損失tanδがtanδ≧10×10−4、および、強磁性共鳴半値幅ΔHがΔH>8000(A/m)と大きくなる。このため、ZrOは主成分に対して0.05重量%≦ZrO≦0.50重量%であることが望ましい。好ましくは、0.07重量%≦ZrO≦0.20重量%である。
【0025】
また、Feが主成分に対して1.0重量%より大きいと、低温での焼結は可能になるが強磁性共鳴半値幅ΔHがΔH>8000(A/m)と著しく大きくなる。またイットリウム(Y)サイトのBiによる異相の生成は抑制されるが、鉄(Fe)サイトの異相が発生しやすくΔH>8000(A/m)と著しく大きくなる。
【0026】
上記の成分組成により、860℃以上950℃以下の低温で焼結することができ、飽和磁化4πMsが70mT〜110mTであり、その温度係数αmが、−0.35%/℃〜−0.21%/℃であり、強磁性共鳴半値幅ΔHが8000A/m以下の多結晶セラミック磁性体材料を得ることができる。
従って、本発明の多結晶セラミック磁性体材料は、銀や銅といった高い導電率を有する金属材料を内部電極として用い、一体焼結を行うことができる。よって、磁性体材料の有する高いQ値と、内部電極の電気抵抗による損失を抑え、極めて損失の小さいマイクロ波磁性体を構成することができる。これにより、アイソレータ、サーキュレータなどのマイクロ波非可逆回路素子に応用して、優れたマイクロ波特性と低損失を実現することができる。
【実施例1】
【0027】
以下、実施例について詳細に説明する。
出発原料として純度99.0%以上の酸化ガドリニウム(Gd)、酸化イットリウム(Y)、炭酸カルシウム(CaCO)、酸化ビスマス(Bi)、酸化鉄(Fe)、酸化インジウム(In)、酸化バナジウム(V)および酸化アルミニウム(Al)を用意し、これらを表1に示す組成比率になるように秤量し、スラリー濃度40%となるようにイオン交換水を加え、ボールミルにて25時間から45時間湿式混合し、その後、乾燥した。この乾燥した粉末に対して800℃から875℃の温度で1.5時間から2時間保持して仮焼を行った。なお仮焼は、後工程である焼結工程での焼結温度よりも40℃〜70℃低温に設定される。
【0028】
次に、副成分として酸化銅(CuO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化鉄(Fe)を用意し、上記のようにして得た母材粉末に対して、これらを表1に示す組成比率になるように秤量し加え、スラリー濃度40%となるようにイオン交換水を加え、ボールミルにて20から30時間湿式粉砕し、その後、乾燥して磁性体磁器組成物を得た。なお上記のようにして得られた粉末の平均粒径は0.25μmから1.5μmとなるように調整した。副成分の添加は、主成分秤量時に添加しても同様の効果が得られた。
【0029】
次に、上記のようにして得られた磁性体磁器組成物にバインダー水溶液を添加混錬して得た造粒粉末を、1ton/cmから2ton/cmの圧力で加圧して成形体とした。これを空気中において表1に示す焼成温度で5時間焼成し、焼結体を得た。
【0030】
次に、得られた焼結体を用いて誘電体円柱共振器を作製し、ハッキ・コールマン法により、誘電損失tanδを測定した。また、評価用試料の飽和磁化Msは振動型磁力計を用いて測定した。さらに得られた焼結体を0.15mmから0.25mmの厚さに薄円板状に加工し、短絡同軸線路法により強磁性共鳴半値幅ΔHを測定した。この結果を表1に示す。なお焼成温度は焼結体が緻密化した温度であって、焼結体密度と焼成温度との関係において、焼結体密度が焼成温度に対して実質的に変化を示さなくなる温度である。
【0031】
【表1】

【0032】
表1に示される*印はこの発明範囲外の比較例であり、それ以外はすべてこの発明範囲内の実施例である。表1に示すとおり、試料No.1では異相の生成は抑制されたが0.5≦x≦0.90の範囲から外れるために950℃未満の焼成温度では、緻密な焼結体を得ることができなかった。試料No.2、3、4では、副成分であるCuとZrとFeがそれぞれCuをCuO換算で0.1重量%≦CuO≦0.5重量%、ZrをZrO換算で0.05重量%≦ZrO≦0.5重量%、FeをFe換算で0重量%<Fe≦1.0重量%の範囲から外れるために、イットリウム(Y)サイトのBiによる異相が生成され、誘電損失tanδが10×10−4を超えるとともに、磁性共鳴半値幅ΔHが8000A/mを超えた。試料No.8、12では、副成分であるFeがFe換算で0重量%≦Fe≦1.0重量%の範囲から外れるために、鉄(Fe)サイトの異相が発生し、磁性共鳴半値幅ΔHが8000A/mを超えた。
【0033】
本発明の範囲内の実施例においては、共に860℃以上950℃未満の温度で緻密な焼結体を得ることができ、かつ誘電損失tanδがtanδ≦10×10−4および強磁性共鳴半値幅ΔHがΔH<8000(A/m)となる。また、−20から60℃までの飽和磁化4πMsの温度係数αmが、−0.35%/℃〜−0.21%/℃となり、永久磁石との温度特性を補償することができる。また、副成分としてFeがFe換算で0重量%<Fe≦1.0重量%添加されることで、イットリウム(Y)サイトのBiによる異相の生成が抑制される。
【実施例2】
【0034】
本発明に係る多結晶セラミック磁性体材料からなるマイクロ波磁性体と、それを用いた非可逆回路素子について説明する。図1は、この発明の一実施例に用いたマイクロ波磁性体(中心導体組立体)の外観を示す斜視図である。図2は前記中心導体組立体の分解斜視図であり、図3は本発明の一実施例に係る非可逆回路素子の分解斜視図である。
この非可逆回路素子の基本構成としては、中心導体組立体4、中央部の透孔の中に前記中心導体組立体4を組み込むようになしたコンデンサ積層体5、このコンデンサ積層体5に組み入れられるチップあるいは抵抗膜で形成した抵抗体90、中心導体組立体4に直流磁界を印加する永久磁石3、磁性ヨークを兼ねる金属製の上ケース1と同じく下ケース2とからなっている。コンデンサ積層体5と下ケース2との間に、実装基板との接続端子を備え、中心導体組立体4とコンデンサ積層体5を接続する接続電極を備えた樹脂ベース6を配置している。
【0035】
前記中心導体組立体4は、相対向する第1および第2の主面と当該主面間を連結する側面を備えた矩形状のマイクロ波磁性体に中心導体を積層配置するものである。
この中心導体組立体4の作製工程は次の通りである。まず、Bi、Y、CaCO、Fe、In、Vを出発原料として、主成分が一般式(Y1.53Bi0.65Ca0.82)(Fe4.03In0.26Al0.300.41)O12(原子%)(試料No.9)となるように秤量し、前記出発原料をボールミルにて湿式混合し、得られたスラリーを乾燥した後、850℃の温度で仮焼し、ボールミルにて湿式粉砕した。
次に、副成分として酸化銅(CuO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化鉄(Fe)を用意し、上記のようにして得た母材粉末100重量部に対して、CuO 0.20重量%、ZrO 0.10重量%、Fe 0.30重量%になるように秤量し加え、スラリー濃度40%となるようにイオン交換水を加え、ボールミルにて20から30時間湿式粉砕し、その後、乾燥して多結晶セラミック磁性体材料を得た。なお上記のようにして得られた粉末の平均粒径は0.25μmから1.5μmとなるように調整した。
この磁性材料粉末と有機バインダー、可塑材、および、有機溶剤をボールミルにて混合し粘度を調整した後、ドクターブレード法にて40μm〜150μmの磁性体セラミックグリーンシートを作製した。
【0036】
得られたセラミックグリーンシートに、φ0.1〜φ0.4のビアホール(図中、黒丸で表示)をレーザ加工にて形成し、中心導体となる導電性ペーストを印刷し、さらにグリーンシートを重ねて80℃に加熱して12MPaの圧力で熱圧着して積層体とした後、所定の大きさ、形状となるように、例えばダイシングソーや鋼刃で前記積層体を切断した後、920℃で、8時間焼成した。前記ビアホールには、Ag導体が充填されており、各中心導体44a〜44cとグランド電極Gnd、入出力電極In、Out、Loadを接続している。このようにして、中心導体44a〜44cが互いに絶縁を保って等角度で交差し、第2の主面43fにグランド電極GNDと入出力電極In、Out、LoadをLGA(Land Grid Array)として備える中心導体組立体4を得た。
【0037】
前記コンデンサ積層体5は、その上面および積層体内部には整合容量を形成するための入力容量電極C1、出力容量電極C2、ロード容量電極C3と、終端抵抗90が配置されるグランド電極Gndが形成されている。また、コンデンサ積層体5の裏面には樹脂ベース6に対して電気的に接続するための入出力電極In、Out、Load、グランド電極Gndがそれぞれ設けられている。
【0038】
前記樹脂ベース6は、例えば0.1mm厚さの銅板を用い、射出成形によりこの銅板と液晶ポリマーを一体成形して製造される。この樹脂ベース6の上面、すなわちコンデンサ積層体5との接続面側には、接続電極In、Out、Load、GNDが導体板で形成され、樹脂部分を含めて平面状に構成されている。しかも、接続電極In、Out、Load、GNDは同一平面上に形成され、接続電極GND、Loadと端子G、接続電極In、Outは端子電極P1、P2と、それぞれ同一の導体板で構成され、電気的に接続している。
【0039】
永久磁石は、日立金属株式会社製のLa−Co置換フェライト磁石YBM−9BEを方形に形成したものを用いた。この永久磁石は、残留磁束が430mTから450mTであり、残留磁束密度の温度係数が−0.20%〜−0.18%である。なお、永久磁石の形状については。円盤状、六角形など任意の形状のものを採用し得る。このことは、ガーネットの形状についても同様である。
【0040】
得られた中心導体組立体4をコンデンサ積層体5の透孔内に配置した後、樹脂ベース6の接続電極を介して接続し、中心導体組立体4の上側に永久磁石3を配置し、これらを上ケース1と下ケース2で覆って非可逆回路素子とした。本発明の非可逆回路素子の挿入損失について温度特性を評価したが、温度変化にともなう挿入損失が最小となる周波数の変動が小さく、優れた温度特性を備えた非可逆回路素子が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、860℃以上950℃未満の低温で焼成することができ、銀や銅といった低抵抗の金属材料との同時焼成が可能で、Bi置換型においても異相の生成がなく強磁性共鳴半値幅ΔHおよび誘電損失tanδが小さい多結晶セラミック磁性体材料と、マイクロ波磁性体及びこれを用いた非可逆回路素子を提供することが出来る。これにより、サーキュレータ、アイソレータなどのマイクロ波非可逆回路素子に応用して、優れたマイクロ波特性と低損失を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施例に係る非可逆回路素子のマイクロ波磁性体(中心導体組立体)の外観を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施例に係る非可逆回路素子のマイクロ波磁性体(中心導体組立体)の分解斜視図である。
【図3】本発明の一実施例に係る非可逆回路素子の分解斜視図である。
【符号の説明】
【0043】
1 上ケース
2 下ケース
3 永久磁石
4 中心導体組立体
5 コンデンサ積層体
6 樹脂ベース
44a〜44c 中心導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分が、一般式(Y3.0−x−y−zBiCaGd)(Fe5−α−β−γInαAlβγ)O12で表される組成を有し、
x、y、zの値が、0.5≦x≦0.9、0.5≦y≦0.9、0≦z≦0.4であり、
α、β、γの値が、0.05≦α≦0.4、0≦β≦0.45、0.25≦γ≦0.45の範囲内にあって、副成分としてCuとZrとFeを含み、その含有量は、前記主成分100重量部に対して、CuをCuO換算で0.1重量%≦CuO≦0.5重量%、ZrをZrO換算で0.05重量%≦ZrO≦0.5重量%、FeをFe換算で0重量%<Fe≦1.0重量%であることを特徴とする多結晶セラミック磁性体材料。
【請求項2】
飽和磁化4πMsが70mT〜110mTであり、その温度係数αmが、−0.35%/℃〜−0.21%/℃であり、強磁性共鳴半値幅ΔHが8000A/m未満であることを特徴とする請求項1に記載の多結晶セラミック磁性体材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の多結晶セラミック磁性体材料と、Ag、Cu、Ag合金、Cu合金のいずれかを含む導体ペーストとを一体焼結してなるマイクロ波磁性体であって、前記マイクロ波磁性体の内部及び/又は表面に前記導体ペーストで形成された電極パターンを備えることを特徴とするマイクロ波磁性体。
【請求項4】
請求項3に記載のマイクロ波磁性体に形成された電極パターンを中心導体とし、前記中心導体に接続するコンデンサと、前記マイクロ波磁性体に直流磁界を与えるフェライト磁石を備えたことを特徴とする非可逆回路素子。
【請求項5】
前記フェライト磁石は、残留磁束密度Brが420mT以上であり、その温度係数が−0.15%/℃〜−0.25%/℃であることを特徴とする請求項4に記載の非可逆回路素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−83689(P2010−83689A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252293(P2008−252293)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】