説明

多軸駆動装置

【課題】部品点数およびコストの増大を招かず、またスペースをとることなく、効果的にクリック感発生手段を設けることができる多軸駆動装置を提供する。
【解決手段】セレクタ10のカム面11,12に、少なくとも1組の出力側クラッチ部材32と入力側クラッチ部材50とが接続した時に、他の組の出力側クラッチ部材32のピン35が嵌って内面61に突き当たることによりクリック感を発生させるクリック溝60A〜60Cを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両用電動シート等に適用されて好適な1つのモータで複数の出力軸を駆動する多軸駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートにあっては、全体の前後方向のスライドや座面高さの上下動、あるいはシートバック(背もたれ)のリクライニング等、複数箇所の位置を調節可能として、乗員の体形や姿勢に適合できるようにした形式のものが多い。これらの可動部位の調節は手動でなされるものであったが、より便利なものとして、モータ駆動により調節する電動シートが提供されている。
【0003】
複数の可動部位をそれぞれ独立して駆動するには、可動部位に連結した各出力軸ごとにモータを1つ1つ連結させる構成が考えられるが、これではモータの数が多くなる。そこで、1つのモータで複数の出力軸を駆動すれば効率的であり、そのために、複数の可動部位に連結した各出力軸に、クラッチを介してモータの動力が伝達されるようにし、クラッチを断接して各可動部位を選択的に駆動するものが提案されている(特許文献1等参照)。このようないわゆる多軸駆動装置としては、複数の出力軸上に軸方向に移動自在にそれぞれ設けた従動側ベベルギヤを、モータ軸上の駆動側ベベルギヤに対して噛み合い可能に付勢した状態で設け、従動側ベベルギヤを押圧するカムによって従動側ベベルギヤを駆動側ベベルギヤに対して離接させて動力伝達の経路を切り換えるものが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−156123号公報
【特許文献2】特公昭54−41898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献2に記載されるような多軸駆動装置にあっては、カムを回転させて目的の出力軸を選択した時に、操作者がクリック感を得て目的の出力軸を選択したことを明確に判別できるようにすると、使い勝手や操作感が良好となって好ましい。しかしながらクリック感を発生させるための手段を別途設けると、部品点数およびコストの増大を招いたりスペースの面で不利になったりするという問題が生じる。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、部品点数およびコストの増大を招かず、またスペースをとることなく、効果的にクリック感発生手段を設けることができる多軸駆動装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、車両に具備される複数の可動機構を1つのモータによって選択的に駆動する多軸駆動装置であって、回転または直線移動することにより変位するカム面を有し、該カム面に変位方向に沿って複数のカム部が形成されたセレクタと、前記カム面に対向した状態で配設され、前記可動機構に接続される複数の出力軸と、この出力軸に、該出力軸と一体回転可能、かつ前記カム面に対し出力軸の軸方向に沿って進退自在に設けられた出力側クラッチ部材と、この出力側クラッチ部材を前記カム面に向かって進出するように付勢する付勢部材と、前記モータの動力が伝達され、前記付勢部材で付勢された前記出力側クラッチ部材が前記セレクタの前記カム部に作用した時に、該出力側クラッチ部材が接続する入力側クラッチ部材とを備え、前記セレクタのカム面には、少なくとも1組の前記出力側クラッチ部材と前記入力側クラッチ部材とが接続した時に、他の組の前記出力側クラッチ部材が作用することでクリック感を発生させるクリック感発生手段が設けられていることを特徴とする。
【0008】
本発明では、前記クリック感発生手段は、前記出力側クラッチ部材が二点接触する内面を有する溝である形態を含む。
【0009】
また、本発明では、前記カム部は、凹部または凸部である形態を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、セレクタのカム面に、少なくとも1組の出力側クラッチ部材と入力側クラッチ部材とが接続した時に、他の組の出力側クラッチ部材が作用することでクリック感を発生させるクリック感発生手段が設けられているため、部品点数およびコストの増大を招かず、またスペースをとることなく、効果的にクリック感発生手段が設けられる多軸駆動装置が提供されるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る多軸駆動装置を示す平面図であって、第1出力部がクラッチ接続状態となっている状態を示している。
【図2】図1のII矢視図である。
【図3】図1のIII矢視図である。
【図4】セレクタのクリック溝に出力側クラッチ部材のピンが嵌った状態を示す平面図である。
【図5】一実施形態に係る多軸駆動装置の平面図であって、第2出力部がクラッチ接続状態となっている状態を示している。
【図6】一実施形態に係る多軸駆動装置の平面図であって、第3出力部がクラッチ接続状態となっている状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、車両用電動シートを駆動する一実施形態に係る多軸駆動装置を説明する。
【0013】
(1)多軸駆動装置の構成
図1〜図3は、一実施形態に係る多軸駆動装置を示している。これら図で符号10はセレクタである。セレクタ10はY方向に長い略長方形状の板状部材であって、幅方向(X方向)の中央部にはY方向に延びる2つのガイド孔17が形成されている。これらガイド孔17には、図示せぬフレーム等に形成されたガイド突起19がそれぞれ挿入されており、セレクタ10はガイド孔17がガイド突起19にガイドされることによりY方向にスライド自在に支持されている。セレクタ10の長手方向に沿う両側面のうち、図1で右側の側面は第1カム面11に形成されている。また、左側の側面の下側は第2カム面12に形成されており、上側にはY方向に歯列が並ぶラック18が形成されている。ラック18には図示せぬフレーム等に回転自在に支持されるピニオン21が噛み合わされている。ピニオン21には図示せぬダイヤルが回転軸を介して固定されている。このダイヤルを回転させるとピニオン21が回転し、これによってラック18を介してセレクタ10がダイヤルの回転方向に応じてY方向に往復移動させられるようになっている。
【0014】
第1カム面11の所定箇所には、厚さ方向に開放する所定形状の複数(この場合、2つ)の第1凹部13Aおよび第2凹部13Bが、Y方向に離間して形成されている。第1凹部13Aにおいては、Y2側は斜面14を経て第1カム面11に連なっているが、Y1側にはストッパ面15が形成されている。また、第2凹部13Bにおいては、両側の斜面16を経て第1カム面11に連なっている。一方、第2カム面12のY2側の端部は、R状に形成された角部を経てX2方向に向かって傾斜する傾斜面13Cに形成されている。
【0015】
図1においてセレクタ10のX方向の両側には、出力部30が配設されている。この場合、第1カム面11側に第1出力部30Aと第2出力部30BがY方向に離間して配設され、第2カム面12側に第3出力部30Cが配設されている。各出力部30(30A〜30C)は、それぞれカム面11(12)に対向した状態で配設された出力軸31と、出力軸31と一体回転可能、かつカム面11(12)に対し出力軸31の軸方向に沿って進退自在に設けられた出力側クラッチ部材32と、出力側クラッチ部材32をカム面11(12)に向かって進出するように付勢するコイルばね36とから構成されている。
【0016】
出力軸31は、図示せぬ回転支持部材により回転自在に支持されている。出力軸31は、車両用電動シートの、例えばシート座面の高さを調節する機構、シートバック(背もたれ部)の角度を調節するリクライニング機構、およびシートの前後位置を調節する機構等の可動機構に対し、図示せぬトルクケーブルを介してそれぞれ接続される。トルクケーブルは、出力軸31の後端面に形成された断面矩形状の装着穴31b(図2参照)にその一端部が挿入され、出力軸31とともに回転する。
【0017】
出力側クラッチ部材32は、出力軸31のセレクタ10側にスプライン結合されて出力軸31に沿って進退自在に挿入された軸部33と、この軸部33の先端側に一体形成された歯面がセレクタ10側に向く出力側ベベルギヤ34と、出力側ベベルギヤ34の中心から軸方向に突設されたピン35とから構成されている。
【0018】
コイルばね36は、出力軸31の後端大径部31aと出力側ベベルギヤ34との間に圧縮状態で外装されており、このコイルばね36によって出力側クラッチ部材32はセレクタ10方向に付勢されてピン35の先端がカム面11(12)に突き当たるようになっている。ピン35の先端面は球面状に形成されており、ピン35は、上記ダイヤルによってセレクタ10がY方向に送られると突き当たっているカム面11(12)を摺接する。そして、セレクタ10の移動に応じて、第1出力部30Aのピン35は第1凹部13Aに、また、第2出力部30Bのピン35は第2凹部13Bに、それぞれ突出して嵌り込むというように作用し、また、第3出力部30Cのピン35は傾斜面13Cに突出するように作用する。
【0019】
図3に示すように、セレクタ10の下方には、モータ軸41が上方に延びる状態にモータ40が配置されている。モータ軸41上には、図1に示すピニオン42が固定されており、このピニオン42の周囲に、各出力部30に対応して3つの入力側クラッチ部材50が配設されている。入力側クラッチ部材50は、平歯車からなりピニオン42に噛み合う入力ギヤ51と、入力ギヤ51の上面に一体に形成され、出力側ベベルギヤ34にそれぞれ噛み合わされる入力側ベベルギヤ52とから構成されている。モータ40は、例えば上記ダイヤルに設けられるスイッチによってON・OFFされるようになっており、モータ40が稼働すると、全ての入力側クラッチ部材50が回転する。
【0020】
図1に示すように、セレクタ10の第1カム面11および第2カム面12の所定箇所には、セレクタ10の厚さ方向に延びる複数の細いクリック溝60A〜60Cが形成されている。クリック溝60A〜60Cは、図4に示すように、出力側クラッチ部材32のピン35の先端面が僅かに嵌るように形成されたもので、開口部のカム面11(12)側には、ピン35の先端が二点接触する傾斜した内面61が形成されている。
【0021】
コイルばね36で付勢されたピン35がクリック溝60A〜60Cに嵌って先端が内面61に接触すると、クリック感が発生するようになっている。この場合、第1カム面11には、第2凹部13BのY1側に第1クリック溝60Aが形成され、第1凹部13Aと第2凹部13Bの間に第3クリック溝60Cが形成され、第1凹部13AのY2側に第2クリック溝60Bおよび第3クリック溝60Cが形成されている。また、第2カム面12には、傾斜面13CのY1側に第2クリック溝60Bおよび第1クリック溝60Aが形成されている。
【0022】
(2)多軸駆動装置の作用
次に、上記多軸駆動装置の作用を説明する。
図1は、上記ダイヤルを回転させてセレクタ10をY方向に送ることにより、第1出力部30Aにおける出力側クラッチ部材32のピン35が第1凹部13Aに突出して嵌り込んだ状態を示している。この時、第1出力部30Aの出力側ベベルギヤ34は、第1出力部30Aに対応する入力側ベベルギヤ52に噛み合い、クラッチ接続の状態となる。
【0023】
このように第1出力部30Aがクラッチ接続状態となった瞬間には、第2出力部30Bと第3出力部30Cにおいては、ピン35の先端が、それぞれ第1カム面11の第1クリック溝60Aおよび第2カム面12の第1クリック溝60Aに嵌って内面61に突き当たることにより、クリック感が発生する。ピン35がクリック溝60に嵌っても、出力側クラッチ部材32はカム面11(12)でセレクタ10から離れる方向に押されていることにより、出力側ベベルギヤ34は対応する入力側ベベルギヤ52に噛み合っておらず、それらの入力側ベベルギヤ52が空転し、クラッチ切断状態となっている。
【0024】
続いて、図5に示すようにセレクタ10がY1方向に送られると、第2出力部30Bのピン35が第2凹部13Bに突出して嵌り込み、当該第2出力部30Bの出力側ベベルギヤ34が対応する入力側ベベルギヤ52に噛み合い、クラッチ接続状態となって出力軸31が回転する。また、第1出力部30Aにおいては、ピン35が第1カム面11に乗り上げて出力側クラッチ部材32がセレクタ10から離れる方向に押され、出力側ベベルギヤ34が入力側ベベルギヤ52から離れてクラッチ切断状態となる。また、第3出力部30Cは、クラッチ切断状態が維持される。
【0025】
このように第2出力部30Bがクラッチ接続状態となった瞬間には、第1出力部30Aと第3出力部30Cにおいては、ピン35の先端が、それぞれ第1カム面11の第2クリック溝60Bと第2カム面12の第2クリック溝60Bに嵌って内面61に突き当たることにより、クリック感が発生する。
【0026】
続いて、図6に示すようにセレクタ10がさらにY1方向に送られると、第3出力部30Cのピン35が傾斜面13Cに沿って突出し、当該第3出力部30Cの出力側ベベルギヤ34が対応する入力側ベベルギヤ52に噛み合い、クラッチ接続状態となって出力軸31が回転する。また、第2出力部30Bにおいては、ピン35が第1カム面11に乗り上げて出力側クラッチ部材32がセレクタ10から離れる方向に押され、クラッチ切断状態となる。また、第1出力部30Aは、クラッチ切断状態が維持される。
【0027】
このように第3出力部30Cがクラッチ接続状態となった瞬間には、第1出力部30Aと第2出力部30Bにおいては、ピン35の先端が、それぞれ第1カム面11の第3クリック溝60Cに嵌って内面61に突き当たることにより、クリック感が発生する。
【0028】
以上のように、第1〜第3出力部30A〜30Cのうちの1つの出力部30が、出力側ベベルギヤ34が対応する入力側ベベルギヤ52に噛み合ってクラッチ接続状態となるように選択され、クラッチ接続状態となった出力部30の出力軸31が回転する。そして、クラッチ接続状態で、上記スイッチをONにしてモータ40を稼働させると、モータ40の動力が入力側ベベルギヤ52から出力側ベベルギヤ34に伝わり、出力側クラッチ部材32全体が回転して出力軸31が回転する。これにより、選択された出力部30の出力軸31に接続されているトルクケーブルが回転して作動する。
【0029】
本実施形態によれば、1つの出力部30の出力側ベベルギヤ34が入力側ベベルギヤ52に噛み合ってクラッチ接続状態となる瞬間に、同期して他の2つの出力部30のピン35がクリック溝60A(60B,60C)に嵌って内面61に突き当たることによりクリック感が発生し、上記ダイヤルを回転させる操作者はクリック感を得ることができる。これにより、操作者は目的の出力軸31を選択したことを明確に判別でき、操作感が良好となる。
【0030】
本実施形態では、セレクタ10のカム面11,12に形成したピン35が僅かに嵌るクリック溝60A〜60Cを、クリック感を発生させる手段としている。したがってクリック感を発生させる手段を別途設ける必要がない。このため、部品点数およびコストの増大を招かず、またスペースをとることなく、効果的にクリック感発生手段を設けることができる。
【0031】
なお、上記実施形態では、本発明のセレクタを直線運動するものとしたが、本発明ではセレクタを円板状の回転部材とし、その周面をカム面として複数の出力部30を該カム面の周囲に配置する形態に変更することができる。また、カム面11,12に、上記凹部13A,13Bおよび傾斜面13Cに代えて凸部を形成し、該凸部で出力側クラッチ部材32をセレクタ10から離れる方向に押すとクラッチ接続状態となるように構成してもよい。
【符号の説明】
【0032】
10…セレクタ
11,12…カム面
13A,13B…凹部(カム部)
13C…傾斜面(カム部)
31…出力軸
32…出力側クラッチ部材
35…コイルばね(付勢部材)
40…モータ
50…入力側クラッチ部材
60A,60B,60C…クリック溝(クリック感発生手段)
61…内面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に具備される複数の可動機構を1つのモータによって選択的に駆動する多軸駆動装置であって、
回転または直線移動することにより変位するカム面を有し、該カム面に変位方向に沿って複数のカム部が形成されたセレクタと、
前記カム面に対向した状態で配設され、前記可動機構に接続される複数の出力軸と、
この出力軸に、該出力軸と一体回転可能、かつ前記カム面に対し出力軸の軸方向に沿って進退自在に設けられた出力側クラッチ部材と、
この出力側クラッチ部材を前記カム面に向かって進出するように付勢する付勢部材と、
前記モータの動力が伝達され、前記付勢部材で付勢された前記出力側クラッチ部材が前記セレクタの前記カム部に作用した時に、該出力側クラッチ部材が接続する入力側クラッチ部材と、
を備え、
前記セレクタのカム面には、
少なくとも1組の前記出力側クラッチ部材と前記入力側クラッチ部材とが接続した時に、他の組の前記出力側クラッチ部材が作用することでクリック感を発生させるクリック感発生手段が設けられていること
を特徴とする多軸駆動装置。
【請求項2】
前記クリック感発生手段は、前記出力側クラッチ部材が二点接触する内面を有する溝であることを特徴とする請求項1に記載の多軸駆動装置。
【請求項3】
前記カム部は、凹部または凸部であることを特徴とする請求項1または2に記載の多軸駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−176734(P2012−176734A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41898(P2011−41898)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】