説明

多重通信システム

【課題】通信バスが正常な間は通信バスのバイアスレベルを正常な値に維持しながら、通信バスに故障が発生したときには、バイアスレベルを補正することによる悪影響によって受信側の通信装置が誤動作するといった不都合を未然に防止する。
【解決手段】通信バス10が正常な状態では、電流検出回路24によって通信バス10を流れる電流の状態を検出して、その検出結果に基づいてバイアス補正回路25を動作させることによって、何れかの通信ノードの電源がオフされている場合のリーク電流に起因してバイアスレベルが低下することを防止するとともに、通信バス10を構成する第1ライン11または第2ライン12に断線等の故障が発生したときには、受信判断回路26によってその故障を検出して、バイアス補正禁止回路27がバイアス補正回路25による補正動作を禁止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2本の電線によって構成される通信バスで複数の通信装置を接続した多重通信システムに関し、特に通信バスの故障時における通信装置の誤動作を低減させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の通信装置を2本の電線から構成される通信バスで接続し、これら通信バスの2本の電線の電位差によって、複数の通信装置間で信号を伝送する多重通信システムが知られており、例えば、車両内部の電子制御装置間で情報を転送するためのネットワーク(CAN:Controller Area Network)などとして実用化されている。
【0003】
以上のような多重通信システムは、例えばCANの例では、通信バスを構成する2本の電線の1方をトランジスタを介して3.5Vの電源に接続し、他方をトランジスタを介して1.5Vの電源に接続している。また、これら2本の電線は、バイアス回路によって2.5Vにバイアスされるようにしている。そして、この多重通信システムは、トランジスタをオンさせることで2本の電線間に2Vの電位差を持たせるか、或いはトランジスタをオフさせることで2本の電線間の電位差を0Vにするかを切り替えることで、信号を伝送する仕組みとなっている。
【0004】
ところで、以上のような多重通信システムにおいては、通信バスで接続された複数の通信装置の中で何れかの電源がオフされている状態で他の通信装置間で通信を行った場合、電源がオフされている通信装置への流入電流が増大することによって、通信バスのバイアスレベル低下という現象が生じることが分かってきた。そこで、このような通信バスのバイアスレベル低下を抑制することを目的として、通信バスの2本の電線を流れる電流方向または電流の存在を検出し、その検出結果に応じてバイアスレベルを補正することによって、通信バスのバイアスレベルが適正値に保たれるようにするという技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−247821号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の技術では、通信バスを構成する何れかの電線に断線等の故障が生じた場合、故障が生じた電線に対してもバイアス補正をかけてしまうために、故障が生じた電線に接続された通信装置から何らかの信号を送信したときに電位差が不安定な信号を送信してしまうことになるため、受信側の通信装置での論理判定が不安定な状態となって、誤動作の要因となるといった不都合が懸念される。
【0006】
本発明は、以上のような従来技術が有する問題点を解消すべく創案されたものであって、通信バスが正常な間は通信バスのバイアスレベルを正常な値に維持しつつ、通信バスに故障が発生したときには、バイアスレベルを補正することによる悪影響によって受信側の通信装置が誤動作するといった不都合を未然に防止することが可能な多重通信システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る多重通信システムでは、前記目的を達成するために、通信バスを構成する第1の電線と第2の電線との何れかの故障を検出する電線故障検出手段と、この電線故障検出手段によって第1の電線または第2の電線の故障が検出されたときに、通信バスのバイアスレベルを補正するバイアス補正回路による補正動作を禁止するバイアス補正禁止手段とを設け、通信バスを構成する第1の電線と第2の電線との何れかに故障が生じたときは、通信バスのバイアスレベルを補正しないようにしている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、通信バスを構成する第1の電線と第2の電線との何れかに故障が生じたときにバイアス補正回路による補正動作を禁止することで、通信バスが正常な間は通信バスのバイアスレベルを正常な値に維持しながら、通信バスに故障が発生したときには、バイアスレベルを補正することによる悪影響によって受信側の通信装置が誤動作するといった不都合を未然に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
まず、本発明を適用した第1の実施形態の多重通信システムについて説明する。図1は本実施形態の多重通信システムの構成図である。この多重通信システムは、車両内部の電子制御装置間で情報を転送するシステムであるCANへの適用例であり、図1に示すように、複数の通信ノード(ここでは第1〜第4の4つの通信ノード1,2,3,4)が、第1ライン11及び第2ライン12の2本の電線からなる通信バス10によって接続された構成とされ、4つの通信ノード1,2,3,4間で通信ライン10を介して信号の送受信を行うものである。
【0011】
通信ライン10は、終端抵抗13,14で第1ライン11及び第2ライン12の2本の電線の両端部を結んだ幹線と、この幹線から各通信ノード1,2,3,4へと分岐する枝線とを有している。なお、以下、通信ライン10の幹線と枝線とを区別して説明する場合には、便宜上、第1通信ノード1へと分岐する枝線の第1ライン11を第1ライン11a、第2ライン12を第2ライン12aと表記し、第2通信ノード1へと分岐する枝線の第1ライン11を第1ライン11b、第2ライン12を第2ライン12bと表記し、第3通信ノード3へと分岐する枝線の第1ライン11を第1ライン11c、第2ライン12を第2ライン12cと表記し、第4通信ノード4へと分岐する枝線の第1ライン11を第1ライン11d、第2ライン12を第2ライン12dと表記する。
【0012】
本実施形態の多重通信システムにおいて、通信ライン10で接続される4つの通信ノード1,2,3,4は、通信に関わる部分の構成が互いに共通となっている。以下、第1通信ノード1を代表として例に挙げて、各通信ノード内部の通信に関わる部分の構成を説明する。
【0013】
第1通信ノード1の内部には、バイアス回路21、送信回路22、受信回路23、電流検出回路24、バイアス補正回路25が設けられている。また、特に本実施形態の多重通信システムにおいては、第1通信ノード1の内部に、さらに、受信判断回路26と、バイアス補正禁止回路27とが設けられている。
【0014】
バイアス回路21は、第1通信ノード1内の第1ライン11aと第2ライン12aとを2.5Vにバイアスしている。
【0015】
送信回路22は、3.5V電源と第1ライン11aとの間に設けられたトランジスタ28と、1.5V電源と第2ライン12aとの間に設けられたトランジスタ29とを有し、これらトランジスタ28,29のオンオフ制御により、送信信号を出力する。すなわち、この送信回路22は、2つのトランジスタ28,29を同時にオンして通信バス10の終端抵抗13,14に電流を流すことにより、第1ライン11aを3.5V、第2ライン12aを1.5Vとし、これら2線間に2Vの電位差をもたせるか、或いは、2つのトランジスタ28,29をオフすることで、第1ライン11aと第2ライン12aの双方を2.5Vとし、これら2線間の電位差を0Vにすることで、論理値を出力する。具体的には、この送信回路22は、第1ライン11aと第2ライン12aとの間に2Vの電位差をもたせた状態を論理値[0]、第1ライン11aと第2ライン12aとの間に電位差がない状態を論理値[1]として、この論理値を送信信号として出力する。
【0016】
受信回路23は、第1通信ノード1内の第1ライン11aと第2ライン12aとの間の電位差の有無を判定することによって、他の通信ノードから送信された信号(論理値[0]または[1])を受信する。
【0017】
電流検出回路24は、第1ライン11aに直列に接続された抵抗31、第2ライン12aに直列に接続された抵抗32のそれぞれの両端(合計4箇所)の電圧を電圧比較器33に入力することで、第1ライン11aおよび第2ライン12aの電流状態を検出する。
【0018】
バイアス補正回路25は、プルダウン抵抗34,35、プルアップ抵抗36,37にて第1ライン11aおよび第2ライン12aのレセッシブ電位(バイアスレベル)を2.5Vに保持し、電流検出回路24によって検出された検出信号に基づいてレセッシブ電位(バイアスレベル)の低下を検出すると、スイッチ38,39をオンし、プルアップ抵抗40,41を接続して電流をソースすることによりバイアスレベルの補正を行う。
【0019】
受信判断回路26は、受信回路23により受信される信号を判定することで、第1ライン11aまたは第2ライン12aの断線等の故障を検出するものである。具体的には、この受信判断回路26は、通信バス10を流れて受信回路23により受信されるはずの信号ID(信号の識別情報)を予め記憶しており、この記憶している信号IDと受信回路23で実際に受信された信号の信号IDとを比較して、受信信号に欠落が生じていないかどうかを判定する。そして、受信信号に欠落が生じている場合には、第1ライン11aまたは第2ライン12aに断線等の故障が生じているものと判断する。
【0020】
バイアス補正禁止回路27は、受信判断回路26によって第1ライン11aまたは第2ライン12aに故障が生じていることが検出されたときに、バイアス補正回路25によるバイアスレベルの補正を禁止する。具体的には、このバイアス補正禁止回路27は、受信判断回路26により信号IDの比較結果が等しくないと判定されたときに、電流検出回路24の動作が無効となるような信号を送信することによって、バイアス補正回路25によるバイアスレベルの補正が行われないようにする。
【0021】
次に、以上のように構成された本実施形態の多重通信システムにおける動作について、第1通信ノード1が信号を送信する場合を例に挙げて説明する。
【0022】
まず、第1通信ノード1から送信された信号を、第2通信ノード2、第3通信ノード3、第4通信ノード4がそれぞれ受信する場合について説明する。
【0023】
第1通信ノード1が論理値[0]を出力する場合、送信回路22は、トランジスタ28,29を同時にオンさせる。これにより、通信バス10の終端抵抗13,14に電流が流れることにより、第1ライン11aは3.5Vに、また第2ライン12aは1.5Vになり、この信号が、通信バス10に出力される。
【0024】
また、第1の通信ノード1が論理値[1]を出力する場合、送信回路22は、トランジスタ28,29を同時にオフさせる。これにより、第1ライン11aおよび第2ライン12aは両方とも、バイアス回路21とバイアス補正回路25内のプルアップ抵抗36,37及びプルダウン抵抗34,35の作用によってバイアスされてバイアス電圧2.5Vとなり、その信号通信がバス10に出力される。
【0025】
第2通信ノード2や第3通信ノード3、第4通信ノード4は、それぞれ第1通信ノード1と共通の内部構成となっていることから、第1通信ノード1から送信された信号(論理値[0]または[1])は、これら第2通信ノード2、第3通信ノード3、第4通信ノード4内にある受信回路23によってそれぞれ受信される。図2は、この場合の受信信号の波形(第1ライン11b,11c,11dの電圧値及び第2ライン11b,11c,11dの電圧値)及び受信信号の論理値の例を示したものである。
【0026】
次に、第2通信ノード2の電源がオフされており、第1通信ノード1から送信された信号を、第3通信ノード3と第4通信ノード4が受信する場合について説明する。
【0027】
第2通信ノード2の電源がオフしたことにより、第2通信ノード2にリーク電流Ileakが流れ込むようになる。このときの様子を図3に示す。図3中太線の矢印で示すラインがリーク電流Ileakが流れるルートである。第2の通信ノード2のバイアス回路21には、グランドに接地された仮想的な内部抵抗42,43が存在するため、リーク電流Ileakがこの仮想的な内部抵抗42,43に流れることにより、電圧降下が発生し、第1ライン11、第2ライン12のバイアス電圧は2.5Vよりも低い電圧となる。図4は、この場合の通信バス10を流れる信号波形の様子を例示したものである。
【0028】
以上のようなバイアス電圧の降下を防ぐために、本実施形態の多重通信システムにおいては、通信ノード内部に電流検出回路24やバイアス補正回路25を設けてバイアス補正を行っている。バイアス補正を行っているときの多重通信システムの様子を図5に示す。
【0029】
第1ライン11や第2ライン12のバイアス電圧が低下すると、第1通信ノード1内の電流検出回路26が、第1ライン11aに直列に挿入された抵抗31、第2ライン12aに直列に挿入された抵抗32による電位差を検出することにより、第1ライン11aや第2ライン12aの電圧低下を検出する。この電流検出回路26による検出結果を受けて、バイアス補正回路25内のスイッチ38,39がオンされる。これにより、電源に接続されたプルアップ抵抗40,41より電流がソースされて、第1ライン11aおよび第2ライン12aの電圧の低下が補正される。以上のような動作は、第3通信ノード3や第4通信ノード4においても同様に実施され、プルアップ抵抗40,41を接続することによって第1ライン11c,11dおよび第2ライン12c,12dの電圧低下が補正される。なお、第1通信ノード1、第3通信ノード3、第4通信ノード4がそれぞれに内蔵された送信回路22内のトランジスタ28,29をオンする場合は、+3.5Vと+1.5Vに直接ドライブされるため、バイアス補正回路25には影響を受けない。
【0030】
次に、第2通信ノード2の電源がオフされた状態で、通信バス10の一方の電線である第2ライン12aに断線等の故障が生じた場合を考える。この場合、第2通信ノード2の電源がオフされているので、上述したように、第1通信ノード1では、電流検出回路24により通信バス10のバイアス電圧(レセッシブ電圧)の低下を検出し、バイアス補正回路25により通信バス10のバイアス電圧(レセッシブ電圧)を2.5Vに補正する。この補正動作は、第1通信ノード1のみならず、第3通信ノード3、第4通信ノード4においても同時に行われており、断線した第2ライン12aに対しては第1通信ノード1が補正を行い、通信バス10の幹線に対しては第1通信ノード1、第3通信ノード3、第4通信ノード4にて2.5Vとなるように補正されている。このとき、第1通信ノード1、第3通信ノード3、第4通信ノード4がそれぞれ通信を実施していない状態では、各通信ノード1,3,4の送信回路22のトランジスタ28,29がオフしている状態であるため、通信バス10の第1ライン11および第2ライン12の双方が2.5Vであり、各通信ノード1,3,4内の受信回路22は電位差を検出しないため、論理値[1]を正常受信している。
【0031】
一方、第1通信ノード1の送信回路22が信号を送信する場合は、図6に示すように、第1通信ノード1内の第2ライン12aが断線しているため、第1通信ノード1内の送信回路22のトランジスタ29の作動は通信バス10に影響を与えず、トランジスタ28の作動のみが通信バス10に影響を与えることになる。すなわち、トランジスタ28がオンすることにより、第1ライン11a及び通信バス10の終端抵抗13,14上流側(図中上側)の電位は3.5Vとなる。一方、通信バス10の終端抵抗13,14下流側(図中下側)は、第3通信ノード3や第4通信ノード4内に存在するバイアス補正回路25内のプルアップ抵抗40,41の作用で、電位が2.5Vに補正される。
【0032】
これにより、通信バス10は、終端抵抗13,14の上流側と下流側との電位差が1Vとなり、第3通信ノード3と第4通信ノード4内の受信回路23は正しく論理判定できず、論理不安定な状態となる。このように、第1通信ノード1に接続される第2ライン12aが断線している場合において、第1通信ノード1が信号を送信をすると、通信バス10に影響を与えて論理不安定な状態を作り出し、受信側の第3通信ノード3や第4通信ノード4において誤動作を引き起こす可能性がある。なお、以上は第2ライン12aが断線した場合について説明したが、第1ライン11aが断線した場合にも同様に、第1通信ノード1が信号を送信をすると、通信バス10に影響を与えて論理不安定な状態を作り出し、第3通信ノード3や第4通信ノード4での誤動作を引き起こす可能性がある。
【0033】
図7は、以上のような状態における多重通信システムを仮想的な等価回路として示したものである。この図7において、抵抗51,52,53,54は通信バス10に接続される抵抗を等価的に示したものであり、通信バス10の2本の電線(第1ライン11および第2ライン12)をそれぞれ抵抗51,52および抵抗53,54の組み合わせにより2.5Vに保持するように動作する。第1通信ノード1が送信する場合は、断線のために送信回路22のトランジスタ28の動作のみが有効となるため、終端抵抗13,14の上流側(図中上側)ではトランジスタ28がオンすることにより3.5Vの電位となり、終端抵抗13,14の下流側(図中下側)ではトランジスタ29の作動の影響を受けないため、抵抗53,54の作用で2.5Vとなる。その結果、第3通信ノード3、第4通信ノード4に内蔵されるそれぞれの受信回路23は、通信バス10の2本の電線(第1ライン11および第2ライン12)の電位差が1Vであるため不安定な状況となり、誤動作を引き起こす可能性がある。図8は、この場合の受信信号の波形(第1ライン11c,11dの電圧値及び第2ライン11c,11dの電圧値)の例を示したものであり、論理不安定な状態となっていることが分かる。
【0034】
以上のような通信バス10の故障時における通信ノードの受信不良(誤動作)を防止するために、本実施形態の多重通信システムでは、各通信ノード1,2,3,4に受信判断回路26とバイアス補正禁止回路27とを設け、受信判断回路26によって通信バス10の断線等の故障が検出されたときには、バイアス補正禁止回路27によって、バイアス補正回路25の動作を禁止するようにしている。
【0035】
ここで、上述した例と同様に、第1通信ノード1に接続されている第2ライン12aに断線が生じた場合を例に挙げて、受信判断回路26とバイアス補正禁止回路27の動作について説明する。
【0036】
まず、受信判断回路26は、受信回路23によって受信された信号の信号IDと予め記憶しておいた受信すべき信号の信号IDとを比較して、受信信号に欠落が生じていないかどうかを判定する。そして、受信信号に欠落が生じている場合には、バイアス補正禁止回路27に対して、信号IDの欠落があることを通知する。信号IDの欠落を通知されたバイアス補正禁止回路27は、電流検出回路24の動作を無効とするような信号を出力する。その結果、バイアス補正回路25内のスイッチ38,39がオフの状態に維持されることとなり、バイアス補正回路25によるバイアスレベルの補正は禁止される。
【0037】
図9は、以上のような受信判断回路26およびバイアス補正禁止回路27の動作時における多重通信システムを仮想的な等価回路として示したものである。この図9において、抵抗55,56は通信バス10に接続される抵抗を等価的に示したものであり、通信バス10の2本の電線(第1ライン11および第2ライン12)をそれぞれ抵抗55および抵抗56にて接地している。
【0038】
第1通信ノード1が信号を送信する場合は、断線のために送信回路22のトランジスタ28の動作のみが有効となるため、終端抵抗13,14の上流側(図中上側)ではトランジスタ28がオンとなることにより3.5Vの電位となる。一方、終端抵抗13,14の下流側(図中下側)では、トランジスタ29の作動の影響を受けないため、トランジスタ28からの電流が終端抵抗13,14および抵抗56に流れ込むことによって、電圧は3.5V−αとなる。ここで、αの値に関しては、等価抵抗値により決まる電圧降下分であるが微小な電圧であり、論理判定の際には無視できる値である。したがって、第3通信ノード3内の受信回路23や、第4通信ノード4内の受信回路23では、第1通信ノード1から送信された信号に対しては全て電位差のない状態と判定し論理値[1]とすることにより、第1通信ノード1からの信号の送信はないものとみなすことができる。その結果、第1の通信ノード1からの送信によって第3通信ノード3や第4通信ノード4に悪影響を及ぼし、これら第3通信ノード3や第4通信ノード4が誤動作を起こすといった不都合を抑制することができる。
【0039】
図10は、この場合の受信信号の波形(第1ライン11c,11dの電圧値及び第2ライン11c,11dの電圧値)及び受信信号の論理値の例を示したものである。この図10に示すように、第1通信ノード1に接続された第2ライン12aの故障時に、第1通信ノード1内の受信判断回路26が故障を検出してバイアス補正禁止回路27がバイアス補正回路25によるバイアスレベルの補正を禁止することによって、差動電圧は殆ど0Vとなって常に論理値[1]と判定できることが分かる。
【0040】
以上詳細に説明したように、本実施形態の多重通信システムによれば、通信バス10が正常な状態のときにこの通信バス10に接続された何れかの通信ノードの電源がオフされている場合には、バイアス補正回路25を動作させることによって、電源がオフされている通信ノードへのリーク電流の流れ込みによるバイアス電圧の低下を補正して、通信バス10のバイアスレベルを正常な値に維持することができる。また、本実施形態の多重通信システムによれば、通信バス10を構成する第1ライン11または第2ライン12に断線等の故障が発生したときには、受信判断回路26がこの通信バス10の故障を検出してバイアス補正禁止回路27がバイアス補正回路25によるバイアス補正を禁止するようにしているので、バイアス補正によって通信バス10が不安定な状態となって受信側の通信ノードに誤動作を招くといった不都合を未然に防止することができる。
【0041】
(第2の実施形態)
次に、本発明を適用した第2の実施形態の多重通信システムについて説明する。図11は本実施形態の多重通信システムの構成図である。本実施形態の多重通信システムは、上述した第1の実施形態における受信判定回路26とバイアス補正禁止回路27とを別の回路で実現したものである。なお、その他の構成および基本的な動作は上述した第1の実施形態と同様であるので、以下、本発明に特徴的な部分についてのみ説明し、第1の実施形態と同様の部分については図中同一の符号を付して説明を省略する。
【0042】
本実施形態の多重通信システムでは、図11に示すように、第1の実施形態における受信判定回路26に代えて、第1電圧比較器60および第2電圧比較器61が設けられており、また、第1の実施形態におけるバイアス補正禁止回路27に代えて、判定回路62が設けられている。なお、本実施形態の多重通信システムにおいても、通信ノード1,2,3,4の内部構成は共通とされており、第1電圧比較器60や第2電圧比較器61、判定回路62は、各通信ノード1,2,3,4それぞれの内部に設けられている。
【0043】
第1電圧比較器60は、通信バス10の第1ライン11aの電圧を基準電圧Vref1と比較することで、第1ライン11aに生じた断線等の故障を検出する。また、第2電圧比較器60は、通信バス10の第2ライン12aの電圧を基準電圧Vref2と比較することで、第2ライン12aに生じた断線等の故障を検出する。また、判定回路62は、第1電圧比較器60や第2電圧比較器61による比較判定の結果、第1ライン11aまたは第2ライン12aに断線等の故障が生じていることが検出された場合に、電流検出回路24の動作が無効となるような信号を出力して、バイアス補正回路25によるバイアスレベルの補正を禁止する。
【0044】
以上のように構成される本実施形態の多重通信システムでは、第1電圧比較器60に接続される基準電圧Vref1は第1ライン11aの信号に対して電位の変化を検出できる値に設定されており、また、第2電圧比較器61に接続される基準電圧Vref2は第2ライン12aの信号に対して電位の変化を検出できるように設定されている。そして、通信バス10が正常な状態では、これら第1電圧比較器60と第2電圧比較器61の出力論理は一致しており、判定回路62は、バイアス補正回路25によるバイアス補正を継続させるように動作する。一方、第1ライン11aまたは第2ライン12aに断線等の故障が発生した場合には、第1電圧比較器60と第2電圧比較器61の出力論理は異なるため、判定回路62が、電流検出回路24の動作が無効となるような信号を出力して、バイアス補正回路25によるバイアスレベルの補正を禁止する。
【0045】
以上のように、本実施形態の多重通信システムによれば、通信バス10が正常な状態のときにこの通信バス10に接続された何れかの通信ノードの電源がオフされている場合には、上述した第1の実施形態の多重通信システムと同様に、バイアス補正回路25を動作させることによって、電源がオフされている通信ノードへのリーク電流の流れ込みによるバイアス電圧の低下を補正して、通信バス10のバイアスレベルを正常な値に維持することができる。また、本実施形態の多重通信システムによれば、通信バス10を構成する第1ライン11または第2ライン12に断線等の故障が発生したときには、第1電圧比較器60や第2電圧比較器61による比較判定でこの通信バス10の故障を検出して、判定回路62がバイアス補正回路25によるバイアス補正を禁止するようにしているので、バイアス補正によって通信バス10が不安定な状態となって受信側の通信ノードに誤動作を招くといった不都合を未然に防止することができる。
【0046】
なお、以上説明した各実施形態の多重通信システムは本発明の一適用例であり、本発明が以上の例に限定されるものではなく、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば具体的な回路構成などにおいて種々の変更が可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明を適用した第1の実施形態の多重通信システムを示す構成図である。
【図2】通信バスが正常なときの受信信号の波形及び受信信号の論理値の例を示す図である。
【図3】第2の通信ノードの電源がオフされているときに、第2通信ノードにリーク電流が流れる様子を示す図である。
【図4】電源オフ状態の第2通信ノードにリーク電流が流れたことに起因してバイアスレベルが低下した状態における信号波形の例を示す図である。
【図5】バイアス補正回路を動作させることによって通信バスのバイアスレベルを補正する様子を示す図である。
【図6】通信バスを構成する第2ラインに断線が生じたときにバイアス補正回路を動作させた場合の様子を示す図である。
【図7】通信バスを構成する第2ラインに断線が生じたときにバイアス補正回路を動作させた場合の多重通信システムを仮想的な等価回路として示した図である。
【図8】通信バスを構成する第2ラインに断線が生じたときにバイアス補正回路を動作させた場合の受信信号の波形の例を示す図である。
【図9】受信判断回路およびバイアス補正禁止回路の動作時における多重通信システムを仮想的な等価回路として示した図である。
【図10】受信判断回路およびバイアス補正禁止回路が動作した場合の受信信号の波形及び受信信号の論理値の例を示す図である。
【図11】本発明を適用した第2の実施形態の多重通信システムを示す構成図である。
【符号の説明】
【0048】
1 第1通信ノード
2 第2通信ノード
3 第3通信ノード
4 第4通信ノード
10 通信バス
11(11a,11b,11c,11d) 第1ライン
12(12a,12b,12c,12d) 第2ライン
13,14 終端抵抗
21 バイアス回路
22 送信回路
23 受信回路
24 電流検出回路
25 バイアス補正回路
26 受信判断回路
27 バイアス補正禁止回路
60 第1電圧比較器
61 第2電圧比較器
62 判定回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の通信装置と、
第1の電線と第2の電線との2本の電線によって構成され、前記複数の通信装置を接続する通信バスと、
前記第1の電線および第2の電線に流れる電流の状態を検出する電流検出回路と、
前記電流検出回路によって検出された検出信号に基づいて、前記通信バスのバイアスレベルを補正するバイアス補正回路とを備え、
前記通信バスを構成する第1の電線と第2の電線との電位差によって、前記複数の通信装置間で信号を伝送する多重通信システムにおいて、
前記第1の電線と第2の電線との何れかの故障を検出する電線故障検出手段と、
前記電線故障検出手段によって前記第1の電線または第2の電線の故障が検出されたときに、前記バイアス補正回路による補正動作を禁止するバイアス補正禁止手段とが設けられていること
を特徴とする多重通信システム。
【請求項2】
前記電線故障検出手段は、前記通信バスを流れるはずの信号IDを予め記憶しており、この記憶した信号IDと実際に前記通信バスを流れた信号の信号IDとを比較することで、前記故障を検出すること
を特徴とする請求項1に記載の多重通信システム。
【請求項3】
前記電線故障検出手段は、前記第1の電線および第2の電線の電圧を基準電圧と比較することで、前記故障を検出すること
を特徴とする請求項1に記載の多重通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−246365(P2006−246365A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−62586(P2005−62586)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】