説明

多量体接合体

本発明は、多量体物質、およびこの多量体物質と生物活性物質とで形成される多量体接合体に関する。前記多量体接合体は、前記非修飾の生物学的物質と比較して、生体内でより長い寿命を持ち、そして、より高い親和性を持つ。さらに本発明は、前記接合体を含む医薬品組成物または診断組成物、およびその製造方法に関する。本発明はさらに、特定の結合パートナーの検出、測定、分離および/または単離のための前記接合体の使用、ならびに、前記特定の結合パートナーが、直接、または、間接的に関与する疾患の診断、予防および治療のための前記接合体の使用を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多量体物質(multimeric agent)、およびこの多量体物質と生物活性物質(biologically active agent)とで形成される多量体接合体に関する。前記多量体接合体は、前記非修飾の生物学的物質と比較して、生体内でより長い寿命を持ち、そして、より高い親和性を持つ。
【0002】
さらに本発明は、前記接合体を含む医薬品組成物あるいは診断組成物、ならびにその製造方法に関する。本発明はさらに、特定の結合パートナーの検出、測定、分離および/または単離のための前記接合体の使用、ならびに、前記特定の結合パートナーが、直接、または、間接的に関与する疾患の診断、予防および治療のための前記接合体の使用を提供する。
【背景技術】
【0003】
医学物質としての、または、産業や科学に適用する生物工学的な製品としてのバイオ医薬品の発展は、過去数十年の間に急速に前進した。ペプチド、タンパク質、核酸または小分子の種類から選ばれる多数の生物活性物質が、同定または開発され、あるいはすでに市場に出回っている。
【0004】
治療学の開発のための商業的関心は、主としてTNF、VEGFまたはEGFのような成長因子とそれらのレセプターに対して寄せられてきた。さらに、抗体、抗体断片、抗体様分子、および、足場タンパク質(scaffold proteins)のような、抗原結合活性を有する生物活性物質が、重要性を増している。
【0005】
ポリクローナル抗体の製造は一般に知られている。詳細なプロトコルは、例えば、非特許文献1および2でみることができる。さらに、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の精製と濃縮に関するいくつかの技術が周知である(非特許文献3)。
【0006】
モノクローナル抗体の製造もまた、一般に知られている。例としては、ハイブリドーマ法(非特許文献4)、トリオーマ(trioma)技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(非特許文献5)、ヒトモノクローナル抗体製造のためのEBVハイブリドーマ技術(非特許文献6)が挙げられる。
【0007】
前記成果と可能性が抗体によってもたらされるが、ある不利点により、実用が制限される場合がある。
【0008】
よって、これらを十分量提供することが課題となっている。
【0009】
機能的抗体の製造は、真核生物細胞培養システムで行われるが、これは、多大なコストを必要とする方法である。
【0010】
さらに、前記抗体分子の、サイズが大きいことによる組織浸透力の低さ、ならびに血清中での滞留時間の長さ(血液クリアランスの遅さ)は、それぞれ、多くの治療への応用を妨げている。
【0011】
scFvまたはFabフラグメント(上記参照)のような抗体のより小さな断片は、バクテリア中で調製でき、よって基本的に低コストであるが、この組み換え型生産の収率は、それらの好ましからぬ折りたたみの特性と、いくつかのジスルフィド結合の形成が必要とされることから、所望のレベルより低くなっている。
【0012】
さらに、組み換え型抗体断片は、親抗体と比較して、安定性が劣り、かつ結合活性が低いことがしばしばである。
【0013】
そのような制限を回避するために、他のタンパク質への抗体結合の原理、すなわち、保護されたタンパク質足場に局在する高頻度可変性の表面露出領域を利用した結合を適用する試みがなされてきた(Skerra, 2000)。これは、本質的に可変であるループが、人工の結合特性を生み出すために変化することを意味する。この目的のために、通常、リポカリン(Beste et al., 1999)またはフィブロネクチンタイプIIIドメイン(Koide et al., 1998)のような天然結合タンパク質が起始点として使用されているが、これは、それらの結合部位が、その修飾によって天然物とは異なるリガンドを認識できる柔軟な「ループ」構造から、抗体形成と類似する方法で形成されるからである。
【0014】
いわゆるアプタマーと呼ばれるDNA由来結合分子の他に、さらに別の抗体の代替物として、「ユビキチン様タンパク質」のタンパク質スーパーファミリーに属するタンパク質、特に、ユビキチン様折りたたみモチーフ有するもの、および前記ユビキチン様折りたたみモチーフをそれぞれ有するその断片または融合タンパク質、からなる群から選ばれる結合分子が挙げられる。特許文献1は、「ユビキチン様タンパク質」、すなわち、ユビキチン様の折り目を持つタンパク質の、このスーパーファミリーに属する修飾タンパク質に関するものである。前記修飾の結果、タンパク質は、修飾前にはなかった所定の結合パートナーに対する結合親和性を有するようになる。特許文献1の内容は、引用により本明細書に組み込まれる。
【0015】
足場から派生した結合分子に関し、タンパク質の表面露出領域の少なくとも1つにおいて、タンパク質の表面で連続する領域を形成しているアミノ酸の修飾による結合タンパク質が、元の折りたたみモチーフを維持していた以前には存在しなかった所定の結合パートナーに対する結合親和性を有することが好ましいことが実証されている。
【0016】
要約すると、抗体またはアプタマーに代替可能なものが、このように、抗体様の結合挙動を有するタンパク質群であることがわかった。
【0017】
しかしながら、急速な腎排泄、または難溶性、または免疫原性、または天然のヒト抗体と比べて低減した結合親和性および/もしくは結合活性のいずれかによる、抗体、抗体断片および足場タンパク質のような抗体様の分子の治療的用途における重大な制限が依然として存在する。
【0018】
この理由から、通常、50,000ドルトンよりもずっと低い分子量を有する抗原結合タンパク質の薬理学的特性を改善する多くの試みがなされてきた。レビューは、非特許文献7で発表されている。
【0019】
PEG化、すなわち生物活性物質へのポリエチレングリコール(すなわちPEG)の共有結合が、多数のタンパク質と抗体断片に対し、これらの免疫原性を低減し、血漿中におけるこれらの循環時間を延ばすために適用されている(非特許文献8)。しかしながら、多くの場合、PEG化はデュアルブロッキングメカニズムによってターゲット会合速度の低減を引き起こす(非特許文献9)。チャップマン、APは、種々の抗体または抗体断片のPEG化の分岐効果について、詳細な概要を提供している(非特許文献10)。
【0020】
抗体様断片の半減期と結合活性を増大するさらなるアプローチは、2以上のこのような物質を、分子間ジスルフィド架橋、ペプチドリンカーまたは化学架橋剤を導入することによって多量体化することであった。化学的に架橋された組み換え型抗体断片による改善された腫瘍ターゲティングが、二量体および三量体Fabフラグメントに関し、単量体Fabと比較して実演された。しかしながら、この方法によってFabフラグメントの半減期を改善することはできなかった(非特許文献11)。
【0021】
多量体化およびPEG化は、治療用抗体の薬物動態特性を調整するための有用な戦略であり、それらを組み合わせて使用することにより、腫瘍ターゲティングをさらに改善することができる(非特許文献12)。しかしながら、その後の架橋および抗原結合物質のPEG化のプロセスは複雑であり、従って、収率とコストに関して不利が生じることが避けられなかった。
【0022】
従って、単一の多量体物質中で多量体化とPEG化を組み合わせる試みがなされてきた。このことについては、いくつかのアプローチが発表されている。
【0023】
特許文献2は、生体分子と結合する、改善された循環半減期、増加した結合活性、増加した親和性、または多機能性を有する薬学的に有用な新規組成物と、その使用方法に関するものである。少なくとも二つの標的結合部位と共有結合する有機部位を含んでいる疑似抗体であって、前記標的結合部位が、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物(peptidomimetic)、特定の標的とされた生物学的分子と結合する非ペプチド分子からなる群から選ばれる擬似抗体が開示されている。このような疑似抗体の構造の一例は、単一のPEG部位によって結合されている、いくつかの標的結合分子を有する多量体構造を示す。
【0024】
特許文献3は、複雑な枝分かれ構造を有する高分子量多機能ポリエチレングリコール誘導体に関するものである。特許文献3の合成スキーム1および2、ならびに請求項1から、そのような分子のコア構造が、活性化PEGを、2−アミノ−1,3−プロパンジオールまたは1,3−ジアミノ−2−プロパノールのようなヘテロ三官能性分子と反応させて得られたものであることは明らかである。このように、そのような多官能ポリエチレングリコール誘導体の使用は、制限される。
【0025】
特許文献4により、いわゆる原子価プラットホーム分子(valency platform molecules)が高分子量のポリエチレングリコール部位を含むことが知られており、その生物活性分子との接合体、および、それらの調製方法もまた知られている。前記高分子量ポリエチレングリコール部位は、例えば、22,000ドルトンを超える分子量を有し、例えば、少なくとも40,000ドルトンの分子量を有する。一実施形態において、原子価プラットホーム分子を含む組成物であって、前記分子が約1.2未満の多分散性を有する組成物が提供されている。糖類、多糖類、アミノ酸、ポリアミノ酸、核酸または脂質のような、前記原子価プラットホーム分子と生物活性分子との接合体も提供されている。このように、この引用文献は、比較的低分子量生物活性物質の半減期の延長に有用な高分子量PEG試薬を記載しているに過ぎない。しかしながら、そのような高分子量PEG試薬は、抗体または抗体様のタンパク質のような生物活性結合分子の結合活性を向上させるには適当でない。
【0026】
特許文献5は、2つのポリマー残基(例えば、ポリエチレングリコールに由来した)を、生物活性分子(例えば、全部の抗体もしくはその機能的に活性な断片または誘導体)に由来する2つ、3つ、または、4つの残基に結合させることのできる分岐分子足場を記載しており、後者は加水分解的に安定な結合によって前記足場に結合している。
【0027】
特許文献6は、少なくとも2つの標的結合部位に共有結合する有機部位からなる擬似抗体であって、前記標的結合性部位がタンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物、特定の標的生体分子と結合する非ペプチド分子からなる群から選ばれる擬似抗体を提供している。前記擬似抗体は、インビトロ、インサイツおよび/またはインビボで、特定のリガンドに影響を及ぼすかもしれない。
【0028】
リジン残基等のアミノ酸を分岐単位(branching unit)として使用するいくつかの多量体物質が発表されている。Galande,A.K.らは、マルチプル抗原ペプチド(MAP)システムをコア分岐単位として用いて多量体イメージングプローブを調製した(非特許文献13)。このような多量体物質の用途は、特殊な用途に限られている。Berna,M.らは、多数のリジン残基をPEGと反応させることによって、単分散PEG−デンドロンを調製した(非特許文献14)。しかしながら、リジン残基数の増加にしたがい、ペプチド結合の数が増加する。これらのペプチド結合は、ペプチダーゼによる加水分解、さらに免疫系による認識の影響を受けやすく、これにより望ましくない副作用を生じるおそれがある。さらにまた、アミノ酸とペプチドは、通常、微生物製造工程を伴って調製される。よって、これらの基本的な物質は、毒素等の微生物物質によって汚染される危険性を有している。
【0029】
PEG化されたポリアミドアミン(PAMAM)をベースとする多量体物質が、Yang,H.とLopina,S.T.によって発表されている(非特許文献15)。PAMAMは、通常、30よりも多い遊離アミノ基を有し、その結果、多数の生物活性分子の多量体化にのみ有用である。さらに、PAMAMをベースとする生物活性分子に関しては、結合部位の数が定まった均一な品質を得ることはほとんど不可能であろう。
【0030】
中心コアユニットとしてグリセリンまたはペンタエリスリトール等の多価アルコールをベースとする多数の多量体ホモ官能性PEG分子が発表されている。このような多量体ホモ官能性PEG分子は、ウィリアムソンエーテル合成または前記中心単位のヒドロキシル基のエトキシ化のいずれかによって調製される。双方の合成ストラテジーとも、PEGと中心分岐部位(central branching moiety)との間をエーテル結合する。関連特許を以下に挙げる。
【0031】
特許文献7は、例えばPEG等の非タンパク質ポリマーを含む分子であって、少なくとも3つのタンパク質がそれに結合したものを規定している。中心非タンパク質ポリマーの構造は、実施例1で開示されるように、ポリグリセリン(Shearwater Polymers社)をベースとする。非タンパク質ポリマーの構造の詳細の関しては、特許文献8に言及する。
【0032】
Shearwater社の特許文献8は、ホモ官能性の多量体非ペプチド性ポリマーが、N−マレイミド部位の窒素と直接結合したものを開示している。その分岐単位は、グリセリン、グリセリンオリゴマー、ペンタエリスリトール、ソルビトールおよびリジンからなる群から選ばれる。後者は、二価または三価の多量体物質の調製にのみ適している。他のすべての分岐単位は、4つの腕をもつ10KDaのPEGマレイミドの調製のために、上述の反応を必要とし、特許文献8の実施例4において図示されるようにエーテル結合で終結する。
【0033】
特許文献9は、ペンタエリスリトールを中心分岐単位としてウィリアムソンエーテル合成によって調製された、デンドリマータイプの巨大分子を開示している。そのような合成の収率は、比較的低く、このアプローチは商業的用途にはあまり魅力的ではない。
【0034】
Steinらは、Shearwater polyme社製の8本の腕を持つ分岐アミノPEGを使用した複数のペプチドの接合体(multiple-peptide conjugates)の調製を発表した(非特許文献16)。後者は、ポリグリセリン(polygycerol)のエトキシ化によって調製される(詳細は、Shearwater社の製品カタログを参照されたい。また、特許文献8にも言及する。
【0035】
前記で引用したポリアルコールベースの多量体物質に関する文献は、すべて、構造的に決定される重大な不利点を有する。
a)ウィリアムソンエーテル合成では、本質的に均一な多量体物質を得られるが、その反応の収率は非常に低く、このアプローチを商業的用途において魅力のないものにしている。
b)エトキシ化によれば、最終産物が高収率で得られるが、重合プロセスのために、結果として得られる多量体物質には、通常、好ましくない著しい品質のばらつきが見られ、さらに、規定の低分子量で得ることはできない。
【0036】
四つの生物学的な結合分子の多量体化が、理論的には、四官能PEGの使用によって達成され得るという上記の成果にもかかわらず、それは実用的な選択肢ではない。なぜなら、製薬学的用途に適した均質な四官能PEGは、容易に入手できないからである。(非特許文献17)。
【0037】
要約すると、均一な品質、可変的なリンカー長および規定数の反応性基を持ち、さらに、溶解性の増加、分子量の調整および生物活性分子との接合体の結合活性の改善をすることが可能な、結合部位を4つ以上有する多量体物質に対する需要は依然として大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0038】
【特許文献1】WO2004/106368
【特許文献2】US2003/0211078
【特許文献3】WO03/093346
【特許文献4】US2005/0175620
【特許文献5】WO2005/061005
【特許文献6】WO03049684
【特許文献7】WO03/033028
【特許文献8】WO01/62827
【特許文献9】WO95/25763
【非特許文献】
【0039】
【非特許文献1】Green et al, Production of Polyclonal Antisera, in Immunochemical Protocols (Manson, editor), pages 1-5(Humana Press 1992)
【非特許文献2】Coligan et al, Production of Polyclonal Antisera in Rabbits, Rats, Mice and Hamsters, in Current Protocols In Immunology, section 2.4.1(1992)
【非特許文献3】Coligan et al, Unit 9, Current Protocols in Immunology, Wiley Interscience, 1994
【非特許文献4】Kohler and Milstein, 1975, Nature, 256:495-497, Coligan et al., section 2.5.1-2.6.7; and Harlow et al., Antibodies: A Laboratory Manual, page 726(Cold Spring Harbor Pub. 1988)
【非特許文献5】Kozbor et al., 1983, Immunology Today 4:72
【非特許文献6】Cole, et al., 1985, in Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp.77-96).
【非特許文献7】Nature Biotechnology Volume 21, Number 4, 2006: 1126-36 or Nature Reviews Immunology, Vol 6, 2006: 343-357.
【非特許文献8】CANCER BIOTHERAPY & RADIOPHARMACEUTICALS, Volume 21, Number 4, 2006: 285-304
【非特許文献9】Mol Pharmacol, Volume 68, 2005: 1439-1454
【非特許文献10】Advanced Drug Delivery Reviews, Volume 54, 2002: 531-545
【非特許文献11】Cancer Res. (1994); 54 (23):6176-85
【非特許文献12】JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY VOL. 281, NO. 46, pp.35186-35201, November 17, 2006
【非特許文献13】J. Med. Chem, Vol. 49, 2006: 4715-4720
【非特許文献14】Biomacromolecules, Vol. 7, No. 1, 2006: 146-153
【非特許文献15】J. Biomed. Mat. Res. A, Vol. 76, No. 2, 2006:398-407
【非特許文献16】Bioconjugate Chem. Vol 14, No. 1, 2003: 86-92
【非特許文献17】J Immunol. Methods 2006 Vol 310 (1-2): 100-16
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0040】
したがって、本発明の目的は、多量体物質および前記多量体物質から得られる多量体接合体であって、例えば、腎排出が減少し、これにより、前記接合体のインビボでの投与量が単量体結合分子と比較して少なくて済むなど、インビボ特性が改良された多量体物質および多量体接合体を提供することである。本発明のさらに別の目的は、単量体結合分子の結合活性と比較してより高い結合活性を示している接合体を含む多量体結合物質を提供することである。さらに、本発明の目的は、それらの物質および構成物の製造方法、ならびに後者のインビトロ用途、例えば、対応する結合パートナーの決定、分離および/もしくは単離での使用、または、インビボ用途、例えば、対応する結合パートナーが、直接、または、間接的に関与する疾患の診断、予防および治療における使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0041】
これらの目的は、独立請求項の主題によって達成される。好ましい実施形態は、従属する請求項において述べられる。
【発明の効果】
【0042】
活性物質、特に生物活性物質を多量体化することができる、明確に定義された多価ポリマー試薬の需要が高まっている。本発明は、その需要を満たすものである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】その標的ヒトTNFαに対する単量体Affilin 8A7の結合の濃度依存ELISA(丸)。コントロールとして、BSAに対する結合をプロットした(四角)。
【図2】ヒトTNFαに対する単量体(四角)および四量体(丸)のAffilin 8A7の結合の濃度依存ELISA。コントロールとして、BSAに対する結合(三角形)およびマイクロタイタープレートに対する結合(菱形)をプロットした。
【図3】ヒトTNFαに対する四量体Affilin 8A7(四角)および四量体ユビキチン野生型(丸)の結合の濃度依存ELISA。
【図4】TNFαに対する四量体19H2 Affilinの結合の濃度依存ELISA。前記四量体の一つのアームに11個のPEGユニットを含む構成(A)は、23個のPEGユニットを含む四量体について検出されたものと同一のKD値を示す。
【図5】TNFαに対する八量体19H2 Affilinの結合の濃度依存ELISA。KD(Kd)値は、単量体から、二量体、四量体および八量体となるに応じて増加する。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明によると、驚くべきことに、そのような多量体物質において使用される比較的短いポリマー鎖が、すでに、結合活性に相当な増加をもたらすかもしれないことがわかった。よって、本発明の多量体接合体は、驚くべきことに、対応する結合パートナーに対し、劇的に増加した結合活性を示した。例えば、四量体接合体(四量体化されたPEG化された結合分子を含む)は、単量体のPEG化された結合分子と比較して、少なくとも30倍を超える結合活性効果の増加が起こった。さらにまた、驚くべきことに、小さい合成出発物質が、本発明の多量体物質を非常に効率的な収束合成で調製するために使用できることがわかった。
【0045】
要約すると、本接合体は、インビボおよびインビトロ用途で利用可能な、予想外の改良された結合特性を示す。
【0046】
[発明の詳細な説明]
第1の態様によれば、本発明は、下記式の多量体物質を提供する。
Z−(X−Pol−Y)
ここで、Zは、分枝していることが好ましいホモ多官能炭化水素であり、1から50の炭素原子を有し、ヘテロ原子を含んでいてもよい。
Xは、炭素原子数1〜15、好ましくは2〜10、より好ましくは3〜5の炭化水素リンカーであり、ヘテロ原子を含んでいてもよく、ZとPolとの間に安定な結合を形成することができる。
Polは、水溶性の、無毒性のポリマーである。
Yは、生物活性物質にカップリングすることのできるカップリング試薬であり、
nは、4〜20、好ましくは4〜15、より好ましくは4〜8の整数である。
【0047】
Zは、好ましくは、オリゴアミン、オリゴカルボン酸、オリゴチオール、オリゴアルケン、オリゴアルキン、オリゴヒドラジン、オリゴアジドから選択される。
【0048】
なお、Zは、ペプチド性のおよびアミノ酸の化合物などの天然化合物からは、選択されないことが好ましい。それらの化合物を用いることによって、反応混合物に不純物が導入され、望まれない影響を引き起こすことがわかった。実用において、これは生成物の収率の減少、品質のばらつき、および微生物の毒素による汚染を意味するであろう。したがって、Zは、化学的に純粋な合成開始物質からの合成によって調製されることが好ましく、よって、合成材料である。
【0049】
さらに別の好ましい実施態様において、Zはノン キラルである。それらの化合物を用いることによって、前記多量体物質の接合体が、キラルである薬品とジアステレオ異性体を形成することができることがわかった。前記薬品が低分子量を有する場合、このことは特別重要である。そのようなジアステレオ異性体は異なる物理化学的特性があって、インビボでのそれらの活性に関してしばしば異なる薬理学的特性を示す。したがって、ジアステレオ異性体は医薬品において非常に望まれていない。
【0050】
なお、これらの化合物のグループは、多量体物質の合成においてZとして用いられる出発物質に該当し、最終化合物であるZ−(X−Pol−Y)中のZの正確な化学構造を必ずしも反映しているというわけではない。例えば、Zがオリゴアミンの場合、Xは、最終的に合成された構造Z−(X−Pol−Y)において、例えばアミドリンカー(下記で定義される)であってもよい。
【0051】
特に好ましいのはオリゴアミンであり、前記オリゴアミンは、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミン、テトラエチレンペンタミン、ビス(2−アミノプロピル)−アミンのようなプロピレンアミン、1,4,7−トリアザシクロノナン、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカンのような環状ポリアミン、N〜1,N〜1〜−ビス(2−アミノエチル)−1,2−エタンジアミンのような星形ポリアミン、ポリリジンおよびスペルミン等であり、好ましくはペンタエリスリチルテトラアミンである。
【0052】
Zとしてのさらに別のホモ多官能性炭化水素は、オリゴカルボン酸、オリゴチオール、オリゴアルケン、オリゴアルキン、オリゴアジドである。
【0053】
好ましい実施形態において、Xはアミド結合、エステル結合、チオエーテル結合、トリアゾール結合、ウレア結合、C−C結合、またはウレタン結合からなる群から選択され、好ましくは、トリアゾール結合、アミド結合、またはエステル結合である。本発明によれば、アミド結合が最も好ましい(Zとして用いる上記の好ましいオリゴアミンと一致していること)。
【0054】
本発明の多量体物質において、Polは、好ましくは分子量が10,000Da未満、より好ましくは2,000Da未満、最も好ましくは1,000Da未満のポリマーであり、換言すると、150Daと10,000Daの間の範囲内にあることが好ましい。この範囲は、以下の理由から重要である。
【0055】
Polの分子量が150Da未満であると、特に、大きい生体分子が多量体物質とカップリングする場合に立体障害(sterical hinderance)が起こるかもしれない。したがって、本発明の観点からは、Polの分子量の低い範囲は150Daであることが好ましい。
【0056】
なお、特に2,000未満の分子量を有するPolが好ましいが、これは、技術的見地から、このようなポリマーは、本質的には均一の長さで、すなわち、「非分散の」品質で得ることができるためである。それらの非分散のポリマーは、最終産物の優れた特徴と品質という結果をもたらす。
【0057】
上限を10,000Da未満とすることは、製品コストが上昇し、反応時間が増加し、そして、最も重要な点として、多量体物質と結合する個々の生物活性物質が、この場合、単一分子のように挙動することから推奨される。あるいは、換言すると、Polが10,000を超える場合には、結合活性をそれほど増加させることはできない。
【0058】
好ましい実施形態において、Polはポリエチレングリコール(PEG)である。PEG化された分子を用いることによって、PEGの顕著な特徴、例えば、無毒性、ならびに、腎臓濾過バリアを通過させないことで接合体の体外への排出を減らすように調整した分子量を全接合体に付与することが可能であるといった特徴を利用してもよい。
【0059】
さらに別の実施態様において、Polは、非分散あるいは低分散である。あるいは、換言すると、これは本質的に分子量の分布がない分子、すなわち、多分散ではない分子を含んでいる。
【0060】
分散度の尺度となるものは、多分散指数(PDI)であるが、これは、所与のポリマーサンプルにおける分子量の分布を意味するものである。上記のように、算出されたPDIは、重量平均分子量を数平均分子量で割った値である。それは、ポリマーのバッチにおける個々の分子量の分布を示す。PDIは、常に1より大きい値を有するが、ポリマー鎖が理想的なガウス分布(=単分散)に近づくと、PDIは1に近づく。それに対し、エチレングリコール単位数が正確に規定されたPEGを、例えば、置換クロマトグラフィー(US6245238)によって単離することにより、2000未満のPEGを非分散の品質で得てもよい。
【0061】
本発明によると、nは4〜20の整数であり、好ましくは4〜15であり、より好ましくは4〜8である。このように、nの下限は、4と定義される。実質的な結合活性の増加で終結するために、この数は重要であると考えられる。n=2あるいは3である多量体が使われる場合、結合活性はかなり低くなるだろう。他方、nが大きくなればなるほど、多量体物質を製造するプロセスはより複雑になる。nが20を超える多量体では、製造コストが高くなりすぎ、反応速度が遅くなりすぎ、そして、物質Zが十分な均一性で得られる(すなわち、多分散とはならないこと)とは非常に考えにくい。nは4〜8、4〜7、4〜6または4〜6の範囲であってもよい。さらに、nは、4、5、6、7または8であってもよい。
【0062】
好ましい実施態様において、Yはそれぞれ独立して、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、グアニジン基、カルボニル基、ヒドロキシル基、ヒドラジン基、アルキン基、ヘテロ環、C−求核剤基、C−求電子剤基、リン酸もしくは硫酸と結合し得る化合物のグループ、または、金属とキレートもしくは錯体を形成し得る化合物のグループ、または、プラスチック、金、銅もしくはシリコンのような表面との結合に入り得る化合物のグループから選ばれる。
【0063】
Yは、続いて多量体物質を、生物工学的な、あるいは、合成された生成物、ならびに、天然物および技術的な生成物にカップリングする機能を果たす。すなわち、本発明における前記化合物は、活性化された官能性のYを含むことが好ましい。前記活性化型において、Yはそれぞれ独立して、(O−アルキル)、−OSOCHCF(トレシル)、(O−アリール)−アジド、(O−アルキル)−アジド、O−アルキン−CO−Q、マレイミジル、−O−CO−ニトロフェニルまたはトリクロロフェニル、−S−S−アルキル、−S−S−アリール、−SO−アルケニル(ビニルスルフォン)、または、−ハロゲン(Cl、BrまたはI)からなる群から選択されることが好ましい。ここで、Qはそれぞれ独立して、H、O−アリール、O−ベンジル、O−N−サクシンイミド、O−N−スルホサクシンイミド、O−N−フタルイミド、O−N−グルタルイミド、O−N−テトラヒドロフタルイミド、N−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド、ヒドロキシベンゾトリアゾールおよびヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾールからなる群から選択される。Yは、−CO−Q基であることが好ましい。Bioconjugate Chem. 1995, 6, 150-165に掲載されたZalipsky, S.によるレビューは、起こり得る活性化について優れた概要を与えている。このレビューは全て、引用により本明細書に組み込まれる。
【0064】
活性化官能基は、本発明における前記化合物が生物活性化合物と共有結合することを可能にし、それによって非常に望ましく安定な接合体を形成する。前記結合分子との結合は、活性分子中の好適な基、例えば、分子に導入されているシステイン残基によって達成されることが好ましい。
【0065】
なお、一実施形態において、本発明の前記多量体物質は、Yが同じである化合物のみを有する。この種の活性化の一例を、四量体に関して以下に示している。しかしながら、本発明は、また、異なるタイプのY活性化、すなわち、上記のグループから独立に選択される、異なる基であるYが、一つの多量体分子中において用いられる実施態様を提供している。
【0066】
本発明の多量体物質は、例えば、下記に示す構造を有する。
【化1】

または、
【化2】

【0067】
第2の態様において、本発明は、多量体接合体を提供する。ここで、上記で説明した多量体物質は、Y成分を経由して生物活性物質とカップリングされる。
【0068】
この生物活性物質は、治療または診断に関連するペプチド、タンパク質、核酸または小分子から独立に選択されることが好ましい。したがって、本発明の文脈において、接合体は同一の生物活性物質を含んでいてもよく、あるいは、これに代わる例として、1以上の異なる独立して選択された生物活性物質を含んでいてもよい。
【0069】
一例として、前記生物活性物質は、TNF、VEGFまたはEGFのような成長因子またはそれらのレセプターから選択されてもよい。好ましい実施形態において、生物活性物質は、抗体、抗体断片、抗体様分子、および、足場タンパク質(scaffold proteins)のように、抗原結合活性を有する。
【0070】
本発明の文脈において使用される「結合活性」という用語は、ある分子が、特定の標的分子に対して結合親和性を有するということを意味する。
【0071】
より正確には、前記物質は、生物学的受容体であってもよく、好ましくはGタンパク質共役型受容体(GPCR;例えば、ヒトGLP−1受容体、ヒトPTH受容体)、または、EGF受容体、HER2、HER3、VEGF/R1−4、Ep−CAM、または、それについてのリガンドまたはドメイン、腫瘍マーカー(前立腺特異的膜抗原(PSMA))、サイトカイン(腫瘍壊死因子α(TNF−a)、腫瘍壊死因子β(TNF−β))、インターロイキン(例えば、IL−2、IL−6、IL−11、IL−12)、成長因子(例えば、NGF(神経成長因子)およびそのプロ−フォーム、ProNGF、BMPs、EGF、MIA、MIA−2、FGF、血管内皮増殖因子(VEGF)、PDGF、PlGF、IGFs)、キナーゼ、インテグリン(例えば、糖タンパク質レセプター IIb/IIIa (GPIIb/IIIa))、HSA(ヒト血清アルブミン)、F4フィンブリン、TおよびB細胞抗原であり、好ましくは、CD4、CD11、CD14、CD16、CD20、CD22、CD25、CD34、CD47、CD56、CD83、CD154、CTLA−4、免疫グロブリンまたはその部分であり、例えば、全抗体(例えば、免疫グロブリンG、E、M)、例えば、ヒト免疫グロブリンM若しくは抗原結合部位の領域における抗体のセグメントのFc部分、または、糖(Lewis Y、Lewis X)、例えばマイコトキシンといった毒素、または、例えばヒドロコルチゾンといったホルモンである。
【0072】
さらに別の例は、活性物質ととの組み合わせである。標的物質の例としては、例えば、飽和または不飽和オメガ−アミノカルボキシエステルのようなアミノカルボキシエステル、色素、蛍光標識、抗生物質、副溝または主溝のバインダー、ビオチンラジカル、ストレプトアビジンラジカル、インターカレートラジカル、アルキル化ラジカル、ステロイド、脂質、ポリアミン、葉酸、受容体刺激薬または受容体遮断薬、酵素阻害薬、ペプチド、抗体若しくは抗体断片、アミノ糖、糖類、または、例えば、ガラクトース、グルコースもしくはマンノースといったオリゴ糖、アンチセンスポリマー、修飾された表面、界面活性剤、または、複合体物質が挙げられる。
【0073】
抗体が使用される場合、この抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、合成抗体からなる群から選ばれてもよい。
【0074】
前記抗体は、さらに、毒性の、および/または、検出可能な薬剤と結合されることもできる。
【0075】
「抗体」という用語は、本明細書中では、エピトープと選択的に結合する一定の能力を有しているインタクトな抗体ならびに抗体断片について使用される。このような断片は、Fab,F(ab‘)およびFv抗体断片を含むが、これらに制限されない。「エピトープ」という用語は、抗体の抗原結合部位が結合できる抗原のいかなる抗原決定因子も意味する。エピトープ決定因子は、通常、分子の化学的に活性な表面基(例えば、アミノ酸または糖の残基)からなり、そして、通常、三次元構造ならびに特異的な物性を示す。
【0076】
上記のように、ポリクローナル抗体の製造は一般に知られている。詳細なプロトコルは、例えば、グリーンらのProduction of Polyclonal Antisera(Immunochemical Protocols(Manson,editor),pages1−5(Humana Press 1992))およびColiganらのProduction of Polyclonal Antisera in Rabbits, Rats, Mice and Hamsters(Current Protocols In Immunology,section2.4.1(1992))に見ることができる。加えて、専門家は、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の精製および濃縮に関するいくつかの技術に精通している(Coliganら、Unit9,Current Protocols in Immunology,Wiley Interscience, 1994)。
【0077】
モノクローナル抗体の製造は、同様に一般に知られている。例としては、ハイブリドーマ(融合雑種腫瘍細胞)メソッド(KohlerおよびMilstein、1975、Nature, 256:495−497、Coliganら、section 2.5.1 - 2.6.7; and Harlowら、Antibodies: A Laboratory Manual, page 726 (Cold Spring Harbor Pub. 1988).)、トリオーマ(trioma)技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozborら、1983、Immunology Today 4:72)、ヒトモノクローナル抗体製造のためのEBVハイブリドーマ技術(Coleら、1985、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp. 77-96において)を含む。
【0078】
抗体またはアプタマーの好ましい代替物は、抗体様の結合挙動を有する一群のタンパク質である。このようなタンパク質は、クリスタリン、熱ショックタンパク質、冷ショックタンパク質、β−へリックスタンパク質、リポカリン、セルチン(certins)、フィブロネクチンまたは転写制御因子からなる群から選ばれることが好ましく、あるいは、GFP、NGF、テンダミスタット(tendamistat)またはリゾチームである。
【0079】
特に、クリスタリンは、特に、眼水晶体の構造タンパク質であるガンマ−クリスタリンのような、優性のβシート構造を有する新規の結合分子の設計のための結合タンパク質または開始タンパク質として役立つだろう。前記クリスタリンは、脊椎動物、げっ歯類、鳥類または魚類に由来することが好ましく、アルファ−、ベータ−またはガンマ−クリスタリンから選ばれることがより好ましく、最も好ましいのは、ガンマ−II−クリスタリンタンパク質である。
【0080】
この点について、US10/030,605の開示について言及するが、この開示は引用により本明細書に組み込まれる。
【0081】
抗体またはアプタマーのさらなる代替物として、「ユビキチン様タンパク質」のタンパク質スーパーファミリーに属するタンパク質、特に、ユビキチン様折りたたみモチーフ有するもの、および前記ユビキチン様折りたたみモチーフをそれぞれ有するその断片または融合タンパク質、からなる群から選ばれる結合分子が挙げられる。WO2004/106368は、「ユビキチン様タンパク質」、すなわち、ユビキチン様の折り目を持つタンパク質の、このスーパーファミリーに属する修飾タンパク質に関するものである。前記修飾の結果、タンパク質は、修飾前にはなかった所定の結合パートナーに対する結合親和性を有するようになる。WO2004/106368の内容は、引用により本明細書に組み込まれる。
【0082】
結合タンパク質の両方の群に関し、タンパク質の表面露出領域の少なくとも1つにおいて、タンパク質の表面で連続する領域を形成しているアミノ酸の修飾による結合タンパク質が、元の折りたたみモチーフを維持していた以前には存在しなかった所定の結合パートナーに対する結合親和性を有することが好ましいことが実証されている。
【0083】
さらに別の実施態様において、本発明の接合体の全体サイズは、分子の腎排出が著しく減速されるものとしている。これは、全分子量が50,000Da未満の接合体を提供することによって達成され得る。したがって、このサイズの接合体を使用することにより、長期にわたって活性を有する長時間循環型の化合物を提供することができる。このタイプの接合体は、患者の慢性疾患の治療に好ましく使用される。
【0084】
代替の実施態様として、比較的短期間の活性を提供し、よって、特に、急性疾患の治療に適した接合体を提供するために、前記全サイズを50,000Da未満に設定してもよい。
【0085】
本発明の多量体接合体は、それが由来する非修飾の生物活性物質と比較して結合活性の増加を示すことが好ましい。上記のように、単量体分子の結合活性は、本発明の接合体構造を使用することで、約30倍に増強され得る。
【0086】
第3の態様において、本発明は、先行する請求項の一以上に記載の多量体接合体と、少なくとも1つの補助物質および/または希釈剤とを含む医薬品組成物または診断組成物を提供する。
【0087】
本発明によって修飾および選択されたタンパク質は、よって、幅広い応用が可能である。これらは、医薬の分野のみならず、分析の分野、栄養および食品産業、栄養補助食品、化粧品、医療や医療以外の診断や分析などの分野においても使用することが可能である。当然ながら、使用分野は、選択された結合パートナーのタイプによって決まる。
【0088】
ヒトおよび動物を対象とした医学的治療および予防の分野において、薬学的に有効な医薬品は、それ自体が公知である方法によって調製できる。生薬の調合(galenic preparation)に応じ、これらの組成物は、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、経皮的に、または、他の投与方法によって投与され得る。薬学的調合物のタイプは、治療すべき疾患、疾患の重症度、治療すべき患者、および医療分野における当業者に公知の他の要因に左右される。前記投与は、注射もしくは点滴によって非経口的な(parentally)投与、吸入による投与、または従来使用されている他の方法による投与のいずれであってもよい。
【0089】
前記組成物は、治療上有効な薬物用量を含むように構成される。投与量は、治療される生物、疾患のタイプ、患者の年齢および体重、ならびにそれ自体公知であるさらなる要因によって決定される。
【0090】
前記組成物は、それ自体公知である補助物質を含むことができる。これらは、例えば、安定化剤、界面活性剤、塩、緩衝剤、着色剤等を含む。
【0091】
医薬品組成物は、液体製剤の形態、クリーム、局所または経皮投与用のローション、エアロゾル、粉末の形態、エマルジョンまたはリポソーム製剤の形態であってもよい。前記組成物は、無菌、非発熱性、かつ等浸透圧性であることが好ましく、薬学的に在来の許容可能な、それ自体公知である添加物を含む。さらに、合衆国薬局方の規則に言及する。
【0092】
第4の態様において、本発明は、安定な結合を形成し、かつ、Z−(X−Pol−Y)を得るため、ホモ多官能物質Zと、ホモまたはヘテロ官能性ポリマーX−Pol−Yとを反応させることにより、先に規定した多量体物質を製造する方法を提供する。
【0093】
なお、この反応は、単にX−Pol−YをZへと重合させることにより実施してもよいし、あるいは、これに代わる例として、以下に概説するような収束合成により実施してもよい。
【0094】
収束合成は、多段階の化学合成の効率の向上を目的とするストラテジーである。線形合成において、各反応ステップ:A→B→C→Dごとに、全収率は急速に低下する。収束合成において、反応スキームは以下のとおりでもよい。A→B;C→D;B+D→Eでは、全収率が大きく高まる。前記収束反応は、特に、複合分子の合成の分野において有利であり、よって、特に本方法で使用してもよい。
【0095】
さらに別の態様では、本発明は、先に規定した多量体接合体を製造する方法に関する。前記方法は次の工程を含む。
− 先に規定した生物活性物質および多量体物質をともに、適した溶媒に可溶化する工程、
− 本明細書中に規定の多量体物質Z−(X−Pol−Y)nを、同一の溶媒中で前記生物活性物質と反応させる工程、および
− 前記多量体接合体を精製し、実質的に均質な製剤とする工程。
【0096】
この方法に用いられる前記溶媒は、前記生物活性物質および前記多量体物質の両方を溶解できるものであることが好ましい。前記溶媒は、極性または非極性の溶媒から選択してもよいが、これらに限定されず、例えば、DMF、DMSO、アルコール、ジクロロメタン、クロロホルム、THF、DMA、エチルアセテート等の有機溶剤、または、ホウ酸、炭酸、トリス、リン酸、酢酸、クエン酸またはギ酸等の水性緩衝系から選択してもよい。
【0097】
前記方法の第一の工程において、前記生物活性物質は、溶媒中に0.1から25mg/mlの濃度、より好ましくは1から10mg/mlのd濃度となるように可溶化することが好ましい。前記溶媒は、3から12の間のpH、好ましくは4から10の間のpH、より好ましくは5から9の間のpHを有し、緩衝塩の全濃度は、250mM未満であり、好ましくは10から150mMの間であり、より好ましくは50から100mMの間である。前記溶媒は、塩、安定剤、変性剤、および還元または酸化剤などの添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0098】
好ましくは、多量体物質Z−(X−Pol−Y)は、生物活性物質溶液に、生物活性物質が多量体化されるモル量になるように、1:nあるいはそれ未満のモル比で添加される。
【0099】
工程2における反応溶液は、例えば、適切な攪拌または振とうによって、持続的に均質化される。そして、−20℃から50℃の間の温度、好ましくは0℃から37℃の間の温度、より好ましくは4℃から25℃の間の温度で保持される。
【0100】
前記方法の最終の工程において、前記多量体接合体は、重量で90%を超える、好ましくは重量で95%を超える純度で実質的に均質な製剤に精製される。好ましくは、前記精製は、クロマトグラフ、沈殿、または、透析もしくはクロスフロー濾過といったサイズ排除によって行われる。
【0101】
さらに別の態様は、上記の方法によって得られる多量体物質および多量体接合体を提供する。
【0102】
本発明の前記多量体接合体は、対応する結合パートナーが、直接、または、間接的に関与する疾患の診断、予防および治療のために使用される。
【0103】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、以下の実施例は、先の記載に基づいて本発明の実用性を示すに過ぎない。本発明の完全な開示に関しては、本願および添付書類に引用した文献も参照されるが、これら文献の全内容は、引用により本願に組み込まれる。
【0104】
本発明は、さらに以下の例示と図によって説明される。図は、以下を示している:
【0105】
図1:その標的ヒトTNFαに対する単量体Affilin 8A7の結合の濃度依存ELISA(丸)。コントロールとして、BSAに対する結合をプロットした(四角)。
図2:ヒトTNFαに対する単量体(四角)および四量体(丸)のAffilin 8A7の結合の濃度依存ELISA。コントロールとして、BSAに対する結合(三角形)およびマイクロタイタープレートに対する結合(菱形)をプロットした。
図3:ヒトTNFαに対する四量体Affilin 8A7(四角)および四量体ユビキチン野生型(丸)の結合の濃度依存ELISA。
図4:TNFαに対する四量体19H2 Affilinの結合の濃度依存ELISA。前記四量体の一つのアームに11個のPEGユニットを含む構成(A)は、23個のPEGユニットを含む四量体について検出されたものと同一のKD値を示す。
図5:TNFαに対する八量体19H2 Affilinの結合の濃度依存ELISA。KD(Kd)値は、単量体から、二量体、四量体および八量体となるに応じて増加する。
【実施例】
【0106】
[本発明の多量体物質の実施例]
多量体物質の最終的な構造と活性化からは独立して、一般的な合成ストラテジーは収束しており、以下のとおりである。中心ホモ官能性あるいは中心ヘテロ官能性分岐/コアユニットZから開始し、ホモ官能性あるいはヘテロ官能性PEG Polは、効率的なカップリング化学に適用するコアユニットの近端部と反応する。第2のステップでは、前記PEG部位の前記近端部は、活性化され、グループYとなる。好ましい実施形態において、反応ステップ1で使用されるホモ官能性またはヘテロ官能性PEG Pol (Pol)は、すでに、1つの近端部で反応官能基Yまたは被保護反応性官能基Y*を有する。一般的な手順としては、異なる反応性グループYを導入したポリアミンから開始するものを記述する。これらの一般的な反応は、オリゴアミンではないZに基づく多量体物質に容易に転移されるかもしれない。
【0107】
本発明によると、オリゴアミンは、多量体物質を形成するために、ヘテロ二官能性あるいはホモ二官能性のPEGと反応するコア構造として使用されてもよい。ペンタエリスリチルテトラアミンコア構造はHayesらによって記述されている(Tetrahedron 2003, 59, 7983-7996)ように合成できる。代替のオリゴアミンは、スペルミン、例えばジエチレントリアミンなどのオリゴエチレンアミン、あるいは、例えばビス(2−アミノプロピル)−アミンなどのオリゴプロピレンアミンのグループから選択することができる。さらに、オリゴアミンは、例えばサイクレンなどの複素環式オリゴアミンのメンバーであってもよい。PEG化試薬の観点から多量体物質中のスペーサーとして使われるPEG単位は、大抵の場合市販されており、さもなければ、前記PEG単位は、ポリ(エチレングリコール)あるいはその誘導体である主要な物質から開始して合成することができる。そのようなPEG単位の合成は、化学者にはよく知られている。
【0108】
その高収率のために、アミド化反応は、ペプチド化学において長い間知られてきた。したがって、好ましい実施形態において、アミン核とPEGユニットは、アミド化工程において結合される。PEGユニットは、その近端部において、活性化官能基Yとともに活性化される。基本的に、Yは制限されない。多くの例がバイオ医薬品の修飾の分野においてよく知られており、他でも発表されている。
【0109】
[アルデヒド基の導入]
アルデヒド官能基は、還元的なアミノ化および可逆的なシッフ塩基形成による生物学的物質の接合にそれぞれ使用することができる。様々な方法がアルデヒドの導入に使用できる。市販のヘテロ二官能性のPEGを主要な出発物質として使用する事が最も好ましい。
【0110】
中心コアユニットZとこれらのPEGを反応させた後、前記アルデヒド官能基は、Swern、または、Pfitzner−Moffat 酸化(活性化DMSOに基づいた方法)、またはTEMPO酸化といった特異的な酸化方法を用いてPEG鎖のヒドロキシル末端を直接酸化することにより導入される。安定性の理由から、アルデヒド基とPEGユニットの近端部との間に比較的長い炭素鎖を持つアルデヒドを使用することが最も好ましい。これらのアルデヒドは例えば、プロピオンアルデヒト、ブチルアルデヒド、または、アルド−カルボン酸(例えば、6−アルドヘプタン酸)の誘導体であってもよい。さらなる実施形態では、PEG鎖のヒドロキシル末端は、ハロゲンまたはアセタール保護アルデヒドのスルホネート誘導体でアルキレート化されている(US5990237、 US5252714)。その他のアプローチとしては、アミノPEG誘導体とのアミド化反応を介したオメガ−アルドカルボン酸誘導体の導入がある。
【0111】
あるいは、アルデヒド基は、オリゴアミンをNHS活性化PEG−アルデヒド誘導体と反応させることで、直接導入されてもよい。この場合、アルデヒド基は、保護されていなくてもよく、アセタール保護がなされていてもよい。アセタール保護基は、オリゴアルデヒドを形成するために酸触媒によって除去されてもよいし、わずかに酸性の条件下で進行する還元的アミノ化の間にインサイツ切断によって除去されてもよい。
【0112】
[アジド基の導入]
アジド官能基は、例えばオリゴアミンをNHS活性化PEG−アジド誘導体と反応させることで容易に導入できる。このようなPEGのアジド誘導体は、HO−PEG−酸のヒドロキシル基を対応するアジドに転換することによって調製できる。このような方法は、化学者によく知られている。
【0113】
[マレイミドとして活性化した多量体物質の形成のための一般的な方法:]
MAL−PEG−NHS(5.4mmol)ジクロロメタン(90mL)溶液に、オリゴアミン(1.4mmol、500mg/ml)DMSO(c=500mg/mL)溶液とトリエチルアミン(100μL)を加える。反応混合物は、その後、20−25℃で、48時間攪拌される。前記攪拌処理の後、反応混合物は、ジクロロメタン/水(50mL/50mL)混合物で希釈される。その後、有機相を分離し、溶媒を真空中で除去する。カラムクロマトグラフィーによって精製することで、無色の濃い油、あるいは、白色の固体として最終生成物を得る(収率:50−80%)。
【0114】
[アルデヒドとして活性化した多量体物質の形成のための一般的な方法(実施例5参照):]
[Oligoolformation:]
HO−PEG−NHS(2.21mmol)のジクロロメタン(20mL)溶液に、オリゴアミン(1mL;0.55mmol)のDMSO(c=75mg/mL)溶液を加える。反応混合物は、その後、20−25℃において、12時間攪拌される。前記攪拌処理の後、溶媒は減圧下で除去される。カラムクロマトグラフィーによって精製することで、無色の濃い油として最終生成物(実施例3)を得る(収率:50%)。
【0115】
[酸化:]
−78℃(ドライアイス浴)で、乾燥ジクロロメタン(30mL)とDMSO(500μL)の混合物に、オキサリルクロリド溶液(1.1mL;2M ジクロロメタン中、2mmol:5.5eq)を10分以内に加える。反応混合物は、−78℃で、さらに15分間攪拌される。その後、オリゴール(実施例3、0.37mmol)ジクロロメタン(8mL)溶液を、−78℃で15分以内に加える。さらに−78℃で40分間攪拌したのち、トリエチルアミン(700μL)を加える。反応混合物は、−78℃でさらに2時間攪拌される。その後、反応混合物は25℃に加熱され、溶媒は真空中で除去される。カラムクロマトグラフィーによって精製することで、無色の濃い油として最終生成物(実施例4)を得る(収率:50%)。
【0116】
[実施例1]
【化3】

【0117】
MALDI−MS:m/z:3134.6[M+H];3156.8[M+Na];3172.8[M+K]
H−NMR(400MHz,CDCl):δ=2.42−2.52(16H);2.93(8H);3.37−3.41(8H);3.48−3.54(8H);3.55−3.69(176H);3.71−3.77(8H);3.79−3.84(8H);6.48(4H);6.67(8H);7.63−7.67(4H).
13C−NMR(100.6MHz,CDCl):δ=34.42;34.58;37.41;38.61;39.31;45.41;67.25;69.77;70.24;70.34;70.56;70.62(OCHシグナル);134.29;169.87;170.57;172.82.
【0118】
[実施例2]
【化4】

【0119】
MALDI−MS:m/z:5269.79[M+Na]
H−NMR(400MHz,CDCl):δ=2.42−2.52(16H);2.82(8H);3.37−3.41(8H);3.48−3.54(8H);3.55−3.64(368H);3.71−3.75(8H);3.79−3.83(8H);6.58(4H);6.68(8H);7.63−7.67(4H).
13C−NMR(100.6MHz,CDCl):δ=34.44;34.59;37.42;38.64;39.31;45.42;67.27;69.82;70.23;70.35;70.63(OCH−シグナル);134.29;169.89;170.58;172.82.
【0120】
[実施例3]
【化5】

【0121】
MALDI−MS:m/z:3170.69[M+Na]
【0122】
[実施例4]
【化6】

【0123】
MALDI−MS:m/z:2986.84[M+H];3008.84[M+Na];3024.81[M+K]
【0124】
[実施例5]
【化7】

【0125】
MALDI−MS:m/z:2978.74[M+H];3000.75[M+Na];3016.71[M+K]
H−NMR(300MHz,CDCl):δ=1.63−1.66(16H);2.17−2.22(8H);2.41−2.52(16H);2.79−2.83(8H);3.40−3.48(8H);3.50−3.55(8H);3.56−3.68(176H);3.70−3.76(8H);6.50(4H);7.65(4H);9.73(4H).
13C−NMR(75.4MHz,CDCl):δ=21.69;25.16;36.06;37.41;39.35;41.03;43.68;45.41;67.26;69.91;69.96;70.26;70.34;70.62;172.82;202,38.
【0126】
[実施例6(アジド)]
【化8】

【0127】
[実施例7(アルキン)]
【化9】

【0128】
[実施例8(pNPC−エステル)]
【化10】

【0129】
Affilin 8A7による実施例:
本発明で述べた多量体手段を使用して、Affilin分子に基づくユビキチンの四量体が作られてきた。国際公開番号WO2004/106368の特許出願によると、ヒトTNFαに親和性を有するAffilin 8A7はコンビナトリアルユビキチンライブラリから選択された。ファージディスプレイによる3ラウンドの親和性濃縮の後、変異体8A7は、人工結合部位内のコンセンサス配列をとる。従って、前記変異体は、さらなる特性化のために選択され、そして、発現と精製の後、所定の標的ヒトTNFαとの結合は、ELISAによって測定された。 図1は、8A7単量体のTNFαとの特異的結合シグナル濃度依存を示す。弱いが特異的な相互作用は、3μMの見かけ解離定数(KD)で検出できた。
【0130】
ユビキチン足場自体、あるいは多量体物質が、TFNαと非特異的な親和性を有しているかを試験するために、ユビキチン四量体をコントロールとして生成した。マレイミド活性化四量体PEG分子の8A7および野生型ユビキチンとの特異的な結合を確実にするために、表面露出のセリン57側鎖は、オーバーラップ伸長ライゲーションを用いて、DNAレベルでシステインと置換された。第1のPCRは10μlのPwoバッファー(10x、Roche)、2μlのdNTP(10mM、Roche)、1μlのF1プライマー(100μM)、1μlのSPWS57Crevプライマー(100mM)、1μlのテンプレート(8A7またはユビキチン pET20b+中、1:5希釈)、1μlのPwoポリメラーゼ(250U、Roche)および84μlのRNA分解酵素遊離水を含む。第2のPCRは10μlのPwoバッファー(10x、Roche)、2μlのdNTPs(10mM、Roche)、1μlのSPWS57Cfwプライマー(100μM)、1μlのpET20b+rev_help プライマー(100μM)、1μlのテンプレート(8A7またはユビキチン pET20b+中、1:5希釈)、1μlのPwoポリメラーゼ(250U、Roche)および84μlのRNA分解酵素遊離水を含む。いずれのPCRも、以下のプロトコルで実行された。94℃で1分間変性し、続いて、変性(94℃、30秒)、アニーリング(65℃、45秒)、および伸長(72℃、40秒)を25サイクル実行した。25サイクルの後、最終伸長ステップは、5分間(72℃)行われた。このようにして得られたPCR断片は、PCR精製キット(Quiagen、Hilden)を用いて精製された。いずれの断片も、10μlのPwoバッファー(10x、Roche)、2μlのdNTP(10mM、Roche)、1μlのF1プライマー(100μM)、1μlのWUBIFlagXhoIrevプライマー(100μM)、2μlのPCR1からのテンプレート、2μlのPCR2からのテンプレート、1μlのPwoポリメラーゼ(250U、Roche)、および81μlのRNA分解酵素遊離水を含む最終のPCRにおいて使用された。このPCRは、すでに上記で記載したPCRプログラムを用いて実行された。PCRの後、生成物は、PCR精製キット(Quiagen)を用いて精製され、そして、XbaIおよびXhoIで消化された。消化は以下のように行った。8μlのPCR断片(第3のPCR)、1μlのXhoI(Promega)、1μlのXbaI(Promega)、2μlのBSA(10x、Promega)、2μlのバッファーH(Roche)および6μlのRNA分解酵素遊離水の混合物を、37℃で3時間インキュベートした。pET20b+ベクター(Novagen)もまた、XbaI/XhoI(2μlのXhoI(Promega)、2μlのXbaI(Promega)、2μlのBSA(10x、Promega)、2μlのバッファーH(Roche)、6μlのpET20b+ベクターおよび6μlのRNA分解酵素遊離水)で消化された。前記混合物もまた、37℃で3時間インキュベートした。消化されたPCR断片とベクターは、ゲル抽出法で精製された。前記PCR断片は2%NuSieveアガロースゲルを用いて実行され、そして、前記ベクターは0.6%SeaKemアガロースゲル(いずれもBMAから)を用いて分離された。断片はゲルから切り離され、DNAはゲル抽出キット(Quiagen)を用いて抽出された。精製された断片は、ライゲーション反応において使用された(3μlのPCR断片、1μlのpET20b+ベクター(XbaI/XhoIで切断されたもの)、1μlのT4リガーゼ(Promega)、2μlのT4リガーゼバッファー(Promega)および13μlのRNA分解酵素遊離水)。ライゲーションは、6℃で一晩インキュベートし、それから、MinEluteクリーンアップキット(Quiagen)を用いて精製した。精製されたベクターはエレクトロポレーションを経てNova blue セルの形質転換に使用された。エレクトロポレーションの後、前記セルは、100μg/mlのアンピシリンを含むLB−アガー(LB/Amp)の上に蒔き、そして37℃で一晩インキュベートした。
【0131】
DNA配列解析は、セリン57のシステインへの正確な置換を示した(添付参照)。8A7およびユビキチンの発現のために、クローンは、前培養物をLB/Ampで1:100に希釈し、600nmにおける光学濃度(OD600)が0.5になるまで200rpmおよび37℃で培養物を攪拌することによって、1.5Lの振とうフラスコ中で培養された。発現は、IPTGの添加によって誘発された(最終濃度1mM)。培養は、30℃および200rpmで4時間続けた。バクテリア細胞を、4℃、6000×gで20分間の遠心分離によって回収された。細胞ペレットは、ベンゾナーゼおよびリゾチームを含むNPI−20バッファー30ml中で懸濁させた。細胞は、氷上での超音波処理(3×20秒)によって破壊された。可溶性タンパク質を含む上澄みは、懸濁液を4℃、40000×gで30分間の遠心分離をした後に得られた。いずれのタンパク質も、6ヒスチジン残基に融合しており、RTでのアフィニティークロマトグラフィーによって精製された。Ni−アガロース(5ml、GE Healthcare)の1つのカラムは、5mMのメルカプトエタノール(β−ME)を含む50mlのNPI−20と平衡した。可溶性タンパク質を含む上澄みは、前記カラムに投与され、続いて、NPI−20(β−ME、50ml)で洗浄された。結合タンパク質を、直線上の勾配で、100mlで50%NPI−500(β−ME)まで溶出させた。フラクションは、SDS−PAGEにより、それらの濃度によって分析された。好適なフラクションは貯蔵され、10mMのDTEを含むPBS(pH7.4)と平衡なゲル濾過カラム(Superdex75、1.6×60cm、GE Healthcare)にフローレート1ml/minで投与された。精製されたタンパク質は、貯蔵され、カップリングバッファー(50mMリン酸、pH7.0)と平衡な2×5mlのHitrap Desaltingカラム(GE Healthcare)に投与された。そして、マレイミド活性化四量体PEG分子(請求項8、実施例1による)を、タンパク質:PEGのモル比4:1で加えた。前記混合物は、25℃で2時間インキュベートされ、その後、反応は、β−MEを、25℃で30分間、最終濃度が100mMになるよう加えることによって停止された。50mMの酢酸バッファー(pH5.0)で1:5に希釈後、混合物のpH値は、酢酸を用いて5.0に設定された。そして、タンパク質はResource S カラム(1ml、GE Healthcare)に投与された。反応していない単量体タンパク質および対応する四量体は、それから、0から1MのNaCl(50mM酢酸バッファー、pH5.0)の直線上の塩勾配を用いて溶出させた。四量体の純度は、rpHPLC分析およびゲル電気泳動によって証明された。正確な四量体の分子量は、MALDI分析を用いて確認された。
【0132】
8A7(単量体および四量体)および四量体ユビキチンのヒトTNFαとの結合は、濃度依存ELISAによって測定された。単量体または四量体のどちらの精製量の増加も、ヒトTNFα、BSAおよびPBSでコートされたNUNC−medisorpプレートに適用された。ウェルあたり50μl(10μg/ml)の抗原の被覆は、4℃で一晩実施される。PBS、0.1%のTween20 pH7.4(PBST)でプレートを洗浄した後、ウェルはブロッキング溶液(PBS PH7.4;3%BSA;0.5% Tween20)を用いて、37℃で2時間ブロックされた。ウェルは、さらにPBSTで3回洗浄された。その後、異なる濃度の単量体および四量体の8A7 Affilinおよび四量体ユビキチンタンパク質は、ウェルにおいてRTで1時間インキュベートされた(50μl容量)。ウェルをPBSTで洗浄した後、抗FLAG POD接合体(Sigma)は 、PBSTに1:2000の希釈度で加えられた。プレートは、300μlのバッファーPBST/ウェルで3回洗浄された。50μlのTMB基質溶液(KEM−EN−Tec)は、各ウェルに加えられ、15分間インキュベートされた。前記反応は、ウェルあたり0.2MのHSOを50μl加えることによって停止した。ELISAプレートは、TECAN Sunrise ELISA−Readerを用いて読み取った。吸光度の測定は、リファレンス波長として620nm用いて、450nmにおいて行った。図2は、四量体8A7のヒトTNFαとの特異的な結合を、100nMの見かけのKD値で明瞭に示している。単量体と比較して、親和性は30の因子によって増加した。ユビキチン四量体のTNFαとの結合は、検出できなかった(図3)。
【0133】
配列は以下の通りである:

F1プライマー:
5’-ggagaccacaacggtttccctctagaaataattttgtttaactttaagaaggagatatacatatg

SPWS57Crevプライマー:
5’-cacaaagagtgcggccatcttccagttgcttgcctgcccagatgagcc

SPWS57Cfwプライマー:
5’-ggaagatggccgcactctttgtgactacaacatc

pET20b+rev helpプライマー:
5’-gggaagaaagcgaaaggagcgg

WUBIFlagXhoIrevプライマー:
5’-ccattccacctcgagacctttatcatcatcatctttgtaatcgccgccacgcagacgcagc

8A7(S57C)DNA配列:
ATGCGGATCTTTGTGGTTACCCTGaCCGGCAAGACCATCACTCTGGAGGTGGAGCCCAGTGACACCATCGAAAATGTGAAGGCCAAGATCCAAGATAAAGAAGGCATTCCCCcCGAcCAGcAGAGGCTCATCTGGgCAGGCAAGCAACTaGAAGATGGCCGCACTCTTTGTGACTACAACATCCTGAAGACTGGTCCTCTGCACCTGGtCCtCCGCCTGAGGGGCGGCGaTTACAAAGATGATGATGATAAAGGTCTcGaGcACCACCACCACCACCACTGATAA

8A7(S57C)アミノ酸配列:
MRIFVVTLTGKTITLEVEPSDTIENVKAKIQDKEGIPPDQQRLIWAGKQLEDGRTLCDYNILKTGPLHLVLRLRGGDYKDDDDKGLEHHHHHH

ユビキチン(S57C)DNA配列:
ATGCAGATCTtCGTGAAGACCCTGACCGGCAAGACCATCACTCTGGAGGTGGAGCCCAGTGACACCATCGAAAATGTGAAGGCCAAGATCCAAGATAAAGAAGGCATTCCCCCCGACCAGCAGAGGCTCATCTGGGCAGGCAAGCAACTGGAAGATGGCCGCACTCTTTGTGACTACAACATCCAGAAAGAGTCGACCCTGCACCTGGTCCTCCGCCTGAgGGGCGGCGATTACAAAGATGATGATGATAAAGGTCTCGaGCACCACCACCACCACCACTGATAA

ユビキチン(S57C)アミノ酸配列:
MQIFVKTLTGKTITLEVEPSDTIENVKAKIQDKEGIPPDQQRLIWAGKQLEDGRTLCDYNIQKESTLHLVLRLRGGDYKDDDDKGLEHHHHHH
【0134】
Affilin19H2による実施例:
Affilin(19H2)に基づくその他のユビキチンは、次の式の物質を用いて四量体化された。
【化11】

【0135】
ZとYとの間のリンカーアームにおいて、11および23のPEGユニットを有する。発現、精製およびカップリング、ならびに四量体の精製は、前述の8A7 Affilinと同様に行われた。ELISAは両方の四量体(PEG11およびPEG23リンカー)の、その標的分子TNFα(TNFa)との結合を検出するために使用された。図4は、両方とも見かけのKD値が3.7nMを示し、リンカー長が四量体の結合活性に影響しないことを示している。
【0136】
遺伝的に生成した二量体の四量体化(単量体の八量体化)もまた、二量体単独と同様に行われ、試験された。この目的のために、前記19H2 Affilinは、標準的なPCR技術を使用して二量体化された。両方の19H2分子間のリンカーの配列もまた、挿入された。このリンカーは、二重のGly4Ser標準リンカーであった。そのようなホモ二量体内で二番目の19H2分子は、マレイミド活性化四量体PEG(11)分子(上記式参照)との二量体の選択的結合について、57位(セリンからシステイン)における置換を生じる。発現、精製、カップリングおよび結合の分析は、前記単量体と同様に行われた。図5は、19H2 Affilinの単量体、二量体、四量体および八量体の、TNFα(TNFa)との結合特性の比較を示す。図5に示すように、八量体が最良の結合特性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式で表される多量体物質。

Z−(X−Pol−Y)

ここで、
Zは、分枝していることが好ましいホモ多官能炭化水素であり、1から50の炭素原子を有し、ヘテロ原子を含んでいてもよく、
Xは、炭素原子数1〜15、好ましくは2〜10、より好ましくは3〜5の炭化水素リンカーであり、ヘテロ原子を含んでいてもよく、ZとPolとの間に安定な結合を形成することができ、
Polは、水溶性の、無毒性のポリマーであり、
Yは、生物活性物質にカップリングすることのできるカップリング試薬であり、
nは、4〜20、好ましくは4〜15、より好ましくは4〜8の整数である。
【請求項2】
Xが、アミド結合、エステル結合、チオエーテル結合、トリアゾール結合、ウレア結合、C−C結合、またはウレタン結合からなる群から選択され、好ましくは、トリアゾール結合、アミド結合、またはエステル結合である請求項1記載の多量体物質。
【請求項3】
Zが、オリゴアミン、オリゴカルボン酸、オリゴチオール、オリゴアルケン、オリゴアルキン、オリゴヒドラジンから選択される請求項1または2記載の多量体物質。
【請求項4】
Polが、分子量10,000Da未満、好ましくは2,000Da未満、より好ましくは1,000Da未満、特に好ましくは500Daと10,000Daの間のポリマーである請求項1から3の一つ以上に記載の多量体物質。
【請求項5】
Polがポリエチレングリコール(PEG)である請求項1から4の一つ以上に記載の多量体物質。
【請求項6】
Polが非分散である請求項1から5の一つ以上に記載の多量体物質。
【請求項7】
各Yが、それぞれ独立して、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、グアニジン基、カルボニル基、ヒドロキシル基、ヒドラジン基、アルキン基、ヘテロ環、C−求核剤基、C−求電子剤基、リン酸もしくは硫酸と結合し得る化合物のグループ、または、金属とキレートもしくは錯体を形成し得る化合物のグループ、または、プラスチック、金、銅もしくはシリコンのような表面との結合に入り得る化合物のグループから選択される請求項1から6の一つ以上に記載の多量体物質。
【請求項8】
下記の構造を有する請求項1から5の一つ以上に記載の多量体物質。
【化1】

【化2】

【請求項9】
八量体が、遺伝的に生成した二量体の四量化により生成される請求項1から8の一つ以上に記載の多量体物質。
【請求項10】
請求項1から9の一つ以上に記載の多量体物質がY成分を経由して生物活性物質とカップリングした多量体接合体。
【請求項11】
治療または診断に関連するペプチド、タンパク質、核酸または小分子から独立に選択される請求項10記載の多量体接合体。
【請求項12】
前記各生物活性物質が、それぞれ独立して、TNF、VEGFもしくはEGFのような成長因子またはそれらのレセプターから選択される請求項10または11記載の多量体接合体。
【請求項13】
前記生物活性物質が、抗体、抗体断片、抗体様分子、および、足場タンパク質(scaffold proteins)のように、抗原結合活性を有する請求項10から12の一つ以上に記載の多量体接合体。
【請求項14】
前記生物活性物質が、ガンマ−クリスタリンタンパク質から選択される請求項11記載の多量体接合体。
【請求項15】
前記生物活性物質が、「ユビキチン様タンパク質」のタンパク質スーパーファミリーに属し、かつ、各々ユビキチン様折りたたみモチーフを有するタンパク質、および、各々ユビキチン様折りたたみモチーフを有するそれらの断片または融合タンパク質からなる群から選択される請求項11記載の多量体接合体。
【請求項16】
タンパク質の表面で連続する領域を形成しているアミノ酸の修飾による前記生物活性物質が、タンパク質の表面露出領域の少なくとも1つにおいて、元の折りたたみモチーフを維持していた以前には存在しなかった所定の結合パートナーに対する結合親和性を有する請求項14または15記載の多量体接合体。
【請求項17】
前記接合体の全体サイズは、分子の腎排出が著しく減速されるものである請求項10から16の一つ以上に記載の多量体接合体。
【請求項18】
前記接合体は、それが由来する非修飾の生物活性物質と比較して結合活性の増加を示す請求項10から17の一つ以上に記載の多量体接合体。
【請求項19】
請求項1から18の一つ以上に記載の多量体接合体と、少なくとも1つの補助物質および/または希釈剤とを含む医薬品組成物または診断組成物。
【請求項20】
安定な結合を形成し、かつ、Z−(X−Pol−Y)nを得るため、ホモ多官能物質Zと、ホモまたはヘテロ官能性ポリマーX−Pol−Yとを反応させることにより、請求項1から9に記載の多量体物質を製造する方法。
【請求項21】
前記反応を、収束合成により行う請求項20記載の方法。
【請求項22】
生物活性物質および請求項に記載の多量体物質をともに、適した溶媒に可溶化する工程、
請求項20または21で得られた多量体物質Z−(X−Pol−Y)nを、前記生物活性物質と同一の溶液中で前記生物活性物質と反応させる工程、および
前記多量体接合体を精製し、実質的に均質な製剤とする工程、
を含む、請求項10から18に記載の多量体接合体の製造方法。
【請求項23】
前記溶媒は、前記生物活性物質および前記多量体物質の両方を溶解できるものである請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記生物活性物質を、前記溶媒中に0.1から25mg/mlの濃度、好ましくは1から10mg/mlのd濃度となるように可溶化する請求項22または23記載の方法。
【請求項25】
前記溶媒が、3から12の間のpH、好ましくは4から10の間のpH、より好ましくは5から9の間のpHを有する請求項22から24に記載の方法。
【請求項26】
前記溶媒における緩衝塩の全濃度は、250mM未満であり、好ましくは10から150mMの間であり、より好ましくは50から100mMの間である請求項25記載の方法。
【請求項27】
前記溶媒が、塩、安定剤、変性剤、および還元または酸化剤などの添加剤をさらに含無請求項22から26に記載の方法。
【請求項28】
前記多量体物質Z−(X−Pol−Y)nが、前記生物活性物質溶液に、前記生物活性物質が多量体化されるモル量になるように、1:nあるいはそれ未満のモル比で添加される請求項22から27に記載の方法。
【請求項29】
前記反応溶液を持続的に均質化し、かつ、0℃から50℃の間の温度、好ましくは4℃から37℃の間の温度、より好ましくは4℃から25℃の間の温度で保持する請求項22から28の一つ以上に記載の方法。
【請求項30】
前記多量体接合体を、重量で90%を超える、好ましくは重量で95%を超える純度で実質的に均質な製剤に精製する請求項22から29の一つ以上に記載の方法。
【請求項31】
前記精製を、クロマトグラフ、沈殿、または、透析もしくはクロスフロー濾過といったサイズ排除によって行う請求項30記載の方法。
【請求項32】
請求項20または21記載の方法によって得られる多量体物質。
【請求項33】
請求項22から30の一つ以上に記載の方法によって得られる多量体接合体。
【請求項34】
対応する結合パートナーが、直接、または、間接的に関与する、疾患の診断、予防および治療のための、請求項10から18または33の一つ以上に記載の多量体接合体の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−519182(P2010−519182A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−548698(P2009−548698)
【出願日】平成20年2月11日(2008.2.11)
【国際出願番号】PCT/EP2008/051598
【国際公開番号】WO2008/096012
【国際公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【出願人】(501139870)シル プロテインズ ゲーエムベーハー (7)
【氏名又は名称原語表記】Scil Proteins GmbH
【住所又は居所原語表記】Heinrich−Damerow−Str. 01, D−06120, Halle, Germany
【Fターム(参考)】