説明

大麦を発酵に付したものに含まれる水不溶性成分を有効成分とするコレステロール低下促進組成物

【課題】本発明は、安全性に問題がなく、安価で比較的容易に入手可能な大麦を発酵に付したもの、好ましくは大麦焼酎蒸留残液から、煩雑な精製工程を経ず、工場規模での実生産に適した簡便な処理方法により、優れたコレステロール低下促進作用を有する組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】大麦を発酵に付したものの水不溶性成分、好ましくは大麦焼酎蒸留残液に含まれる水不溶性成分、より好ましくは大麦焼酎蒸留残液を圧搾、ろ過、遠心分離などの処理により分画して得られた水不溶性組成物、さらに好ましくは、大麦焼酎蒸留残液および大麦焼酎蒸留残液から分画して得られた水不溶性組成物をアルカリおよび/又は酵素により処理したものが優れたコレステロール低下促進作用を有することを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大麦を発酵に付したもの由来の成分を有効成分とするコレステロール低下促進作用を有する組成物に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、大麦を発酵に付したものに含まれる水不溶性成分、好ましくは大麦焼酎蒸留残液に含まれる水不溶性成分、より好ましくは大麦焼酎蒸留残液を圧搾、ろ過、遠心分離などの処理により分画して得られた水不溶性成分、さらに好ましくは、大麦焼酎蒸留残液および大麦焼酎蒸留残液から分画して得られた水不溶性成分をアルカリおよび/又は酵素により処理したものを有効成分とするコレステロールを低下させるべき疾患を治療または予防するための組成物、好ましくは、食品添加物、食品素材、飲食品、医薬品・医薬部外品および飼料の形態を有する組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
焼酎製造において副成する焼酎蒸留残液は、家畜用飼料あるいは肥料として一部で利用される場合があるが、大部分は海洋投棄、大地還元、焼却処分などにより廃棄処分されるのが一般的である。海洋投棄は焼酎蒸留残液の安価な処分方法であるが、世界的な環境問題の高まりにより、法的に規制され全面禁止されることになっている。また、大地還元も地下水や河川を汚染する問題があり、焼却処理はコスト面での問題がある。
【0003】
このようなことから、現在、多方面において焼酎蒸留残液の有効利用が検討されている。この焼酎蒸留残液には、貴重な栄養成分が含まれていることから、動物飼料(特開平8-56584号公報(特許文献1))や堆肥(特開平9-24973号公報(特許文献2))等に混合したり、あるいは調味料(特開平11-276113号公報(特許文献3))として利用されている。また、本発明者らの一人は、焼酎蒸留残液を有効利用する観点から、特許第3495429号公報(特許文献4)において、焼酎蒸留残液から飼料を製造する方法を提案している。
【0004】
特許文献1では、焼酎蒸留残液を固液分離して液体分と固体分に分け、該液体分のSS(懸濁物質:水中に分散している固形粒子分のなかで、2mm以下の径でろ紙の目にとどまる
もの)の量を100g/L以下に調整後に所定の水分まで乾燥させた前記液体分の乾燥物と
、別の方法で乾燥させた前記固体分の乾燥物を混合することにより飼料を製造する方法が記載されているが、その生理的機能性に関しての記載はない。
【0005】
ところで、生活習慣の乱れやストレス、食習慣の変化に伴い、心筋梗塞、狭心症などの冠動脈疾患や脳梗塞などの脳血管疾患の罹患者は年々増加傾向にあり、 日本人の主要な
死亡原因の一つとなっている。冠動脈疾患の要因としてはさまざまなものがあるが、高脂血症との関連性が高いとされている。なかでも高コレステロール血症は冠動脈疾患および/又は脳血管疾患発症との因果関係が多くの疫学調査で確認されている。
【0006】
ここで、特許第3661044号公報(特許文献5)には、大麦の糠に由来するコレステロール上昇抑制剤についての記載があるが、大麦の糠をそのまま使用し、肝臓のコレステロール低下を意図したものである。
【0007】
特表2004-504351号公報(特許文献6)には、コレステロール上昇を抑制させる化合物を合成する麹かび菌およびその化合物についての記載があるが、抽出及び精製を繰り返し、濃縮を行うことではじめてコレステロール上昇抑制効果が得られている。従って操作が煩雑で非効率な製法である。
【0008】
【特許文献1】特開平8-56584号公報
【特許文献2】特開平9-24973号公報
【特許文献3】特開平11-276113号公報
【特許文献4】特許第3495429号公報
【特許文献5】特許第3661044号公報
【特許文献6】特表2004-504351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、安全性に問題がなく、安価で比較的容易に入手可能な大麦を発酵に付したもの、好ましくは大麦焼酎蒸留残液から、煩雑な精製工程を経ず、工場規模での実生産に適した簡便な処理方法により、優れたコレステロール低下を促進する組成物を提供すること、好ましくはコレステロール上昇を抑制すべき疾患を治療または予防するための組成物、より具体的には食品添加物、食品素材、飲食品、医薬品・医薬部外品および飼料からなる群から選ばれる形態のものを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、大麦を発酵に付したものがコレステロール低下、特に血中のコレステロール低下に効果的であることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は
(1)大麦を発酵に付したものに含まれる水不溶性成分を有効成分とすることを特徴とするコレステロール低下促進組成物、
(2)大麦を発酵に付したものに含まれる水不溶性成分をアルカリおよび/又は酵素により処理したものを有効成分とすることを特徴とするコレステロール低下促進組成物、
(3)大麦を発酵に付したものが大麦焼酎蒸留残液である(1)又は(2)記載のコレステロール低下促進組成物、
(4)大麦を発酵に付したものに含まれる水不溶性成分が、大麦を発酵に付したものを圧搾処理した際の残渣画分、大麦を発酵に付したものをろ過処理した際の非通過画分又は大麦を発酵に付したものを遠心分離処理した際の沈殿画分からなる群より選ばれる1以上の組成物である(1)ないし (3)記載のコレステロール低下促進組成物、
(5)コレステロールを低下させるべき疾患を治療または予防することを特徴とする(1)ないし(4)のいずれかに記載のコレステロール低下促進組成物、
(6) コレステロールの合成抑制によりコレステロールを低下させるべき疾患を治療または予防することを特徴とする(1)ないし(4)のいずれかに記載のコレステロール低下促進組成物。
(7)コレステロールを低下させるべき疾患が、異常なコレステロール上昇がリスクファクターの一つとなる冠動脈疾患および/又は脳血管疾患である(5)又は(6)記載のコレステロール低下促進組成物、
(8)コレステロール低下促進組成物が、コレステロールを低下させるための食品添加物、食品素材、飲食品、医薬品・医薬部外品および飼料からなる群から選ばれる形態のものである(1)ないし(7)のいずれかに記載のコレステロール低下促進組成物、
(9)飲食品が、コレステロールを低下させるための、機能性食品、栄養補助食品または健康飲食品である(8)記載のコレステロール低下促進組成物、
(10)飼料が、コレステロールを低下させるための、家畜、家禽、ペット類の飼料または魚餌である(8)記載のコレステロール低下促進組成物、
(11)大麦を発酵に付したものから水不溶性成分を分離する工程を有し、当該水不溶性成分を有効成分とするコレステロール低下促進組成物を得ることを特徴とするコレステロール低下促進組成物の製造方法、
(12)大麦を発酵に付したものから水不溶性成分を分離する工程と、該大麦を発酵に付したものから分離した水不溶性成分をアルカリおよび/または酵素により処理する工程を特徴とするコレステロール低下促進組成物の製造方法、
(13)大麦を発酵に付したものが大麦焼酎蒸留残液である(11)又は(12)記載のコレステロール低下促進組成物の製造方法、
(14)大麦を発酵に付したものから水不溶性成分を分離する工程が、大麦を発酵に付したものを圧搾処理することにより残渣画分を得る工程、大麦を発酵に付したものをろ過処理することにより非通過画分を得る工程、又は大麦を発酵に付したものを遠心分離処理することにより沈殿画分を得る工程からなる群より選ばれる1以上の工程である(11)、(12)又は(13)記載のコレステロール低下促進組成物の製造方法、
に関する。
【0012】
本発明の発酵の対象となる大麦は、皮麦、裸麦のどちらでも良く、また二条大麦、六条大麦のどちらでも良い。更に、穀表部に色素が沈着した有色大麦でも良い。大麦の形態としては特に制限されないが、玄麦などの穀粒全体を用いることが好ましい。なお、焙煎処理や製粉処理、圧偏処理などの加工処理を加えても良い。
【0013】
大麦を発酵に付す際に、使用する微生物は特に限定されないが、酵母、乳酸菌、納豆菌、あるいは麹菌等を用いることができる。特に、大麦を発酵に付したものを調製する際の発酵工程に用いる酵母としては、ビール酵母、清酒酵母、焼酎酵母、ワイン酵母、パン酵母などがあげられるが、焼酎酵母を用いることが望ましい。
【0014】
本発明の上記組成物は、安全性に問題がなく、安価で比較的容易に入手可能な材料である大麦を発酵に付したもの、好ましくは大麦焼酎蒸留残液から、煩雑な精製工程を経ず、工場規模での実生産に適した簡便な処理方法により得られ、その生体への適用は食品添加物、食品素材、飲食物、医薬品・医薬部外品および飼料に使用することで、優れたコレステロール低下促進作用を得ることが期待できる。
【0015】
本発明の上記組成物は、コレステロール低下促進作用を有する天然物由来の活性成分を有するものであり、該活性成分に基づくコレステロール低下促進作用を応用することにより、心筋梗塞や狭心症、脳梗塞、その他様々な疾患に対して予防および安全に治療する効果を有する機能性組成物である。
【0016】
すなわち、本発明のコレステロール低下促進組成物は、コレステロールを低下させるべき疾患を治療または予防するための組成物である。コレステロールを低下させるべき疾患とは、異常なコレステロールの上昇が病態の発生のリスクファクターの一つとなっている疾患であれば、どのようなものでも対象となる。したがって、コレステロールを低下させるべき疾患は、心筋梗塞や狭心症、脳梗塞などの疾患をあげることができるが、これらのものには限定されない。
【0017】
本発明の組成物が有するコレステロール低下促進活性は、ラットに食餌と同時に本発明の組成物を給餌して、56日間飼育後の、血中コレステロール量を測定することにより調べることができる。
【0018】
また、コレステロール量の測定には、市販のキット(T-CHOカイノス;カイノス(株)
製)を用いることができる。
【0019】
本発明のコレステロール低下促進組成物は、大麦を発酵に付したもの由来の成分をコレステロール低下促進作用の有効成分とすることを特徴とする。前記大麦を発酵に付したもの由来の成分に含まれるコレステロール低下促進作用を呈する有効成分は、好ましくは大麦焼酎蒸留残液に含まれる物質である。
【0020】
大麦焼酎蒸留残液の水不溶性成分に含まれる物質は、大麦を発酵に付したものを圧搾処理した際の残渣画分(FBF)、大麦を発酵に付したものをろ過処理した際の非通過画分およ
び大麦を発酵に付したものを遠心分離処理した際の沈殿画分(FBR)からなる群より選ばれ
る1以上の組成物に含まれる物質である。
【0021】
上記の大麦焼酎蒸留残液の水不溶性成分について、図1に明示した。
大麦焼酎蒸留残液由来の水不溶性組成物を得る方法としては、スクリュープレス、フィルタープレス、薮田式諸味圧搾装置、F型諸味圧搾装置等を用いた圧搾操作、セラミック
ろ過装置、限外ろ過装置等を用いたろ過操作、デカンター連続式横型遠心分離装置およびデコーン式連続式遠心装置等を用いた遠心分離操作からなる群より選ばれる1以上の操作
により得る方法があるが、スクリュープレス、デカンター連続式横型遠心分離装置およびセラミックろ過装置を組み合わせて得る方法が好ましい。
【0022】
また、大麦焼酎蒸留残液の水不溶性組成物のコレステロール低下促進作用を高めるための方法としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア等のアルカリによる処理、或いは、グルカナーゼ、セルラーゼ、キシラナーゼ、マンナーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、キチナーゼ、N-アセチルグルコサミニダーゼ、およびβ-1、3-グルカナーゼ等の酵素による処理を挙げることができる。そうした酵素の好適な具体例としてグルカナーゼを挙げることができる。
【0023】
すなわち、大麦焼酎蒸留残液由来の水不溶性組成物は、大麦焼酎蒸留残液デカンター連続式横型遠心分離装置処理沈殿画分、大麦焼酎蒸留残液スクリュープレス圧搾残渣画分、大麦焼酎蒸留残液セラミックろ過装置処理残渣画分、大麦焼酎蒸留残液スクリュープレス搾汁画分(スクリュープレスで固液分離した際の液体画分)をセラミックろ過装置処理した際の残渣画分、前述の各画分の水酸化ナトリウム処理物、前述の各画分の水酸化カルシウム処理物、前述の各画分のグルカナーゼ(酵素)処理物からなる群より選ばれる1以上の組成物が例示される。
【0024】
大麦焼酎蒸留残液の水不溶性組成物は、下記工程により得られる。
まず、大麦麹を製造する。大麦を40%(w/w)吸水させ、40分間蒸した後、40℃まで放冷し、大麦トンあたり1kgの種麹(白麹菌)を接種し、38℃、RH95%で24時間、32℃、RH92%で20時間保持することにより、大麦麹は製造することができる。
【0025】
前記方法で製造した大麦麹に、水および焼酎酵母の培養菌体を加えて1次もろみを得、
得られた1次もろみを5日間の発酵(1段目の発酵)に付す。次いで、2次仕込みでは、上記1段目の発酵を終えた1次もろみに、水と前記方法で製造した大麦麹とを加えて11日間の発酵(2段目の発酵)に付す。発酵温度は1次仕込み、2次仕込みとも25℃とする。上記2段目の発酵を終えた2次もろみを常法により単式蒸留に付し、麹歩合100%の大麦焼酎と大麦焼酎蒸留残液を得る。
【0026】
上記で得られた大麦焼酎蒸留残液は、デカンター連続式横型遠心分離装置処理後の水不溶性沈殿画分又はスクリュープレス処理後の水不溶性圧搾残渣画分をそのまま用いても良く、また、デカンター処理後の上清又はスクリュープレス搾汁画分をセラミックろ過装置で処理した際のろ過残渣画分を使用することもできる。あるいは、前述の方法で得られた
画分をアルカリ又は酵素で処理した組成物を使用することもできる。
【0027】
上記で使用するアルカリとしては、水酸化ナトリウムや水酸化カルシウムが望ましいが、pHが12以上になるように水酸化カルシウムを加えることが最も望ましい。処理の温度としては、特に限定されるものではないが、20℃〜80℃の温度での処理が好ましい。反応時間も特に限定されないが、2時間〜24時間の処理が好ましい。
【0028】
また、上記で使用する酵素としては、細胞壁溶解系酵素が望ましいが、グルカナーゼを加えることが最も望ましい。処理の温度としては、特に限定されるものではないが、30℃〜40℃の温度での処理が好ましい。反応時間も特に限定されないが、2時間〜24時間の処
理が好ましい。
【0029】
大麦を発酵に付したものおよび/または大麦焼酎蒸留残液を含む組成物は、コレステロールを低下させるための食品添加物、食品素材、飲食品、医薬品・医薬部外品、飼料および魚餌からなる群から選ばれる形態のものである。その組成物の機能性を生かして、健康飲食品、患者用栄養飲食品を謳った食品、同様に、家畜、家禽、魚などの飼育動物のための飼料の開発が可能となった。
【0030】
本発明のコレステロールを低下させるための組成物が有する上述した機能性を生かして用いる場合は、その含量は、特に制限されないが、目的とする機能の度合い、使用態様、使用量等により適宜調整することができ、例えば0.001〜100質量%である。
【0031】
さらに、大麦を発酵に付したもの、大麦焼酎蒸留残液から容易に得ることができ、コスト面からみても、資源の有効活用という面からみても好ましい。
【0032】
本発明の組成物を食品に利用する場合、そのままの形態、オイルなどに希釈した形態、乳液状形態食、または食品業界で一般的に使用される担体を添加した形態などのものを調製してもよい。具体的には、パン・菓子類、麺類、天ぷら・フライ等の惣菜類などの一般食品の形態を挙げることができる。
【0033】
本発明の組成物を飲料に利用する場合、非アルコール飲料またはアルコール飲料がある。アルコール飲料の形態ではスピリッツ、リキュール、チューハイ、果実酒類、麦酒、発泡酒、薬用酒などの一般食品の形態を挙げることができる。
【0034】
上記飲食物は、機能性食品、栄養補助食品或いは健康食品類としても用いることができる。本発明において、コレステロール抑制剤は通常の製剤方法で製造することができ、一般的な賦形剤、希釈剤または担体とともに製剤することができ、錠剤、カプセル剤等に成形することができる。
【0035】
本発明の組成物は、家畜、家禽、ペット類の飼料用に応用することができる。例えば、ドライドッグフード、ドライキャットフード、ウェットドッグフード、ウェットキャットフード、セミモイストドックフード、養鶏用飼料、牛、豚などの家畜用飼料、魚餌に配合することができる。飼料自体は、常法に従って調製することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明は、安全性に問題がなく、安価で比較的容易に入手可能な大麦を発酵に付したもの、好ましくは大麦焼酎蒸留残液から、煩雑な精製工程を経ず、工場規模での実生産に適した簡便な処理方法により、優れたコレステロール低下促進作用、特に血中のコレステロール低下促進作用を有する組成物を提供すること、コレステロール上昇を抑制すべき疾患を治療または予防するための組成物、より具体的には食品添加物、食品素材、飲食品、医薬品・医薬部外品および飼料からなる群から選ばれる形態のものを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下に、大麦焼酎蒸留残液を材料とした各組成物を調整し、コレステロール低下促進作用について説明するが、本発明の範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0038】
[実施例1](大麦焼酎蒸留残液に由来する水不溶性組成物の調製例)
〈大麦焼酎蒸留残液スクリュープレス圧搾残渣画分(FBF)〉
85%精麦の大麦1トンを使用して麹歩合30%で大麦焼酎もろみを製造し、常法に従って
約2週間発酵/熟成させ、単式蒸留機によりアルコールを分離し、大麦焼酎蒸留残液1.5キロリットルを得た。得られた大麦焼酎蒸留残液1キロリットルを信和エンジニアリング(
株)製のスクリュープレス方式の固液分離機(スクリュープレス)を用いて圧搾処理を行い、スクリュープレス圧搾残渣画分約45kgを得た。得られたスクリュープレス圧搾残渣画分をドラムドライヤーで乾燥後、ロールミルにより粉砕し、スクリュープレス圧搾残渣画分粉末(組成物)5.3kgを得た。
【0039】
〈大麦焼酎蒸留残液スクリュープレス搾汁画分をセラミックろ過装置で処理した際の残渣画分(FBR)〉
85%精麦の大麦1トンを使用して麹歩合30%で大麦焼酎もろみを製造し、常法に従って
約2週間発酵/熟成させ、単式蒸留機によりアルコールを分離し、大麦焼酎蒸留残液1.5キロリットルを得た。得られた大麦焼酎蒸留残液1キロリットルを信和エンジニアリング(
株)製のスクリュープレス方式の固液分離機(スクリュープレス)を用いて圧搾処理を行い、スクリュープレス搾汁画分約950kgを得た。得られたスクリュープレス搾汁画分500kgを日本ポール(株)製のセラミックろ過装置で処理し、セラミックろ過処理残渣画分約120kgを得た。得られた画分をドラムドライヤーで乾燥し、大麦焼酎蒸留残液スクリ
ュープレス搾汁画分をセラミックろ過装置で処理した際の残渣画分粉末(組成物)約10kgを得た。
【0040】
表1に大麦焼酎蒸留残液に由来する水不溶性組成物の成分組成を記載したが、FBRは粗たんぱく質が多く、FBFもかなり粗たんぱく質を含んでいることがわかる。構成比をみると、FBRはFBFよりもリグニンが少なく、ヘミセルロースが多い。
【0041】
【表1】

【0042】
[実施例2](実験方法及び結果)
〈実験方法〉
4週齢のWistar系雄性ラット(日本SLC (株))を1群6匹とし、4群に分け、5日間の馴化飼育後、56日間水道水と共に実験食を自由摂取させた。実験食の成分組成を表2に示す。20%カゼインをたんぱく質源とし7%の大豆油を添加した半合成飼料とした。大麦焼酎蒸留残液スクリュープレス搾汁画分をセラミックろ過装置で処理した際の残渣画分(FBR)の添加量は5%または10%とし、大麦焼酎蒸留残液スクリュープレス圧搾残渣画分(FBF)は10%添加とした。飼育期間中、週1回尾静脈より採血を行ない、血中コレステロールの測定に供した。飼育終了前3日間の糞を採取し、胆汁酸およびコレステロールの測定に供した。飼育期間終了後、8時間絶食させたラットをエーテル麻酔下で採血し、臓器重量を測定すると共に、血清および肝臓脂質、盲腸内容物などを測定した。
【0043】
コレステロール量は、市販のキット(T-CHOカイノス;カイノス(株)製)を用いて測
定した。肝臓脂質はFolchらの方法によって抽出・精製し、総脂質を重量法により測定す
ると共に、中性脂肪、総コレステロールを市販のキット(TG-ENカイノス、T-CHOカイノス;カイノス(株)製)、リン脂質を市販のキット(リン脂質-Cテストワコー;和光純薬(株)製)を用いて測定した。糞は凍結乾燥させ、重量を測定した後、森田らの方法に準じて抽出し、胆汁酸量を測定した。コレステロール量は、抽出後、市販のキット(T-CHOカイノス;カイノス(株)製)を用いて測定した。盲腸を摘出後、内容物を含む重量を測定し、内容物の水分含量、pHを測定した。また、内容物の短鎖脂肪酸を高速液体クロマトグラフ有機酸分析システム((株)島津製作所製)により測定した。
【0044】
【表2】

【0045】
〈結果〉
表2の実験食を与えた時のラットの血漿コレステロールに及ぼす大麦焼酎蒸留残液に由
来する水不溶性組成物の影響について観察した結果を表3に示す。
【0046】
【表3】

【0047】
対照区に比して、投与開始4週間目からFBR添加区及びFBF添加区の血漿コレステロール
濃度の低下が見られ、投与開始6週間目以降は効果が安定することが確認された。FBF添加区は血中のコレステロールを低下させる傾向があり、FBR添加区は5%、10%添加区ともに対照区に対し有意に血中のコレステロールを低下させた。また、10%FBR添加区のほうが、5%添加区よりも低下の度合いが大きく、用量依存性があることが確認された。
【0048】
この結果については、図2に、対照区、5%FBR区および10%FBR区のコレステロール値の経時変化を図示した。
【0049】
表2の実験食を与えた時のラットの体重、飼料消費量、食餌率および組織重量に及ぼす
大麦焼酎蒸留残液に由来する水不溶性組成物の影響について表4に示す。
【0050】
【表4】

【0051】
FBR添加区では、盲腸重量が用量依存的に増加した。
【0052】
表2の実験食を与えた時のラットの血清パラメーターに及ぼす大麦焼酎蒸留残液に由来
する水不溶性組成物の影響について調べた結果を表5に示す。
表5を見ると、総コレステロール濃度が、対照区が105.2±4.8であるのに対して、5%FBR添加区が82.0±1.8、10%FBR添加区が72.7±4.8及び10%FBF添加区92.3±4.6であり、FBR添加区では有意に低下していることがわかる。
【0053】
【表5】

【0054】
[実施例3]
<実験方法>
4週齢のWistar系雄性ラット(日本SLC(株))を1群6匹とし、6群に分け、予備飼育後、28日間水道水と共に表6に示した飼料組成の実験食を自由摂取させた。
【0055】
飼育期間終了後、エーテル麻酔下で肝臓を摘出し、肝臓から常法によりRNAを抽出した。得られた、RNAをホルムアルデヒド法により電気泳動後、10×SSCを用いてSouthernの方法によりナイロンメンブレン(アマシャム社、ハイボンドN+)にトランスファーした。
【0056】
その後、下記の各cDNAをプローブとして、ハイブリダイゼーションを行い、FUJIX バイオ・イメージングアナライザー BAS2000IIによって32Pのカウントを測定することで、各実験食を継続的に摂食した場合のmRNAの発現量を定量した。
・HMG-CoA reductase;ハムスターcDNA
・CYP7A1;ラットcDNA
・CYP2B1/2B2;ラットcDNA
【0057】
【表6】

【0058】
<結果>
表6の実験食を与えた時の、肝臓でのHMG-CoA reductase mRNA(コレステロール合成に関与する酵素をコードしている)、CYP7A1 mRNA(コレステロールの異化代謝に関与する酵素をコードしている)及びCYP2B1/2B2 mRNA(薬物代謝酵素をコードしている)に対する影響を観察した結果を表7に示す。
【0059】
クロレトンは、高コレステロール血症の誘導剤であり、これに先に記載のFBR(大麦を発
酵に付したもの由来の成分)を添加することにより肝臓でのmRNA量がどのように変化したかを観察したものである。
【0060】
表7の結果を見ると、HMG-CoA reductase mRNAについては、FBRが2.5%摂取群あるいは5%摂取群では変化がないが、FBRを10%摂取群ではmRNAの量が減少している。HMG-CoA reductase mRNAはコレステロール合成の律速段階のものであるから、これが減少するということはコレステロールの合成が抑制されるため、血中のコレステロールの上昇が抑制され、ひいてはコレステロールが低下するということになる。
【0061】
次にコレステロールの異化代謝の律速酵素であるCYP7A1 mRNAについては、FBRが2.5%摂取群で減少し、FBRを5%摂取群、10%摂取群では、若干増加している。また、薬物代謝酵素であるCYP2B1/2B2 mRNAについては、FBRを10%摂取群で発現量が増大している。
【0062】
【表7】

【0063】
以上の結果を総合してみると、FBRを経口摂取することにより、コレステロールの合成抑制に効果を発揮し、結果的にコレステロール低下を促進するということが分かる。
なお、以上の結果を見るとFBRの添加量は10%前後が好ましいと言える。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の組成物は、安全性に問題がなく、安価で比較的容易に入手可能であり、なおかつ有史 以前から人類に欠かせない穀類で、日本の古い医学書にも記載されているなど、健康に良い食品として親しまれてきた大麦を発酵に付したもの由来の活性成分に基づくコレステロール低下促進作用を応用するものであり、機能性食品素材、機能性ペットフード及び飼料としての利用可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】大麦を発酵に付したもの(大麦焼酎蒸留残液)の機能性解析を示す図。
【図2】大麦焼酎蒸留残液に由来する水不溶性組成物のコレステロール低下促進作用を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大麦を発酵に付したものに含まれる水不溶性成分を有効成分とすることを特徴とするコレステロール低下促進組成物。
【請求項2】
大麦を発酵に付したものに含まれる水不溶性成分をアルカリおよび/又は酵素により処理したものを有効成分とすることを特徴とするコレステロール低下促進組成物。
【請求項3】
大麦を発酵に付したものが大麦焼酎蒸留残液である請求項1又は2記載のコレステロール低下促進組成物。
【請求項4】
大麦を発酵に付したものに含まれる水不溶性成分が、大麦を発酵に付したものを圧搾処理した際の残渣画分、大麦を発酵に付したものをろ過処理した際の非通過画分又は大麦を発酵に付したものを遠心分離処理した際の沈殿画分からなる群より選ばれる1以上の組成物である請求項1ないし3記載のコレステロール低下促進組成物。
【請求項5】
コレステロールを低下させるべき疾患を治療または予防することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のコレステロール低下促進組成物。
【請求項6】
コレステロールの合成抑制によりコレステロールを低下させるべき疾患を治療または予防することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のコレステロール低下促進組成物。
【請求項7】
コレステロールを低下させるべき疾患が、異常なコレステロール上昇がリスクファクターの一つとなる冠動脈疾患および/又は脳血管疾患である請求項5又は6記載のコレステロール低下促進組成物。
【請求項8】
コレステロール低下促進組成物が、コレステロールを低下させるための食品添加物、食品素材、飲食品、医薬品・医薬部外品および飼料からなる群から選ばれる形態のものである請求項1ないし7のいずれかに記載のコレステロール低下促進組成物。
【請求項9】
飲食品が、コレステロールを低下させるための、機能性食品、栄養補助食品または健康飲食品である請求項8記載のコレステロール低下促進組成物。
【請求項10】
飼料が、コレステロールを低下させるための、家畜、家禽、ペット類の飼料または魚餌である請求項8記載のコレステロール低下促進組成物。
【請求項11】
大麦を発酵に付したものから水不溶性成分を分離する工程を有し、当該水不溶性成分を有効成分とするコレステロール低下促進組成物を得ることを特徴とするコレステロール低下促進組成物の製造方法。
【請求項12】
大麦を発酵に付したものから水不溶性成分を分離する工程と、該大麦を発酵に付したものから分離した水不溶性成分をアルカリおよび/または酵素により処理する工程を特徴とするコレステロール低下促進組成物の製造方法。
【請求項13】
大麦を発酵に付したものが大麦焼酎蒸留残液である請求項11又は12記載のコレステロール低下促進組成物の製造方法。
【請求項14】
大麦を発酵に付したものから水不溶性成分を分離する工程が、大麦を発酵に付したものを圧搾処理することにより残渣画分を得る工程、大麦を発酵に付したものをろ過処理することにより非通過画分を得る工程、又は大麦を発酵に付したものを遠心分離処理することにより沈殿画分を得る工程からなる群より選ばれる1以上の工程である請求項11、12又は13記載のコレステロール低下促進組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−254464(P2007−254464A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−45589(P2007−45589)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(000177508)三和酒類株式会社 (11)
【出願人】(301016595)株式会社大麦発酵研究所 (4)
【Fターム(参考)】