説明

天体望遠鏡

【課題】 天頂以外の天体を観察するために天体望遠鏡を傾けたときに生ずる撮像素子と主焦点補正光学系の相対的な傾きを容易に調整することができ、結像性能の劣化を容易に補正することができる収差補正機能を有する天体望遠鏡を得ること。
【解決手段】 天体を結像する主鏡と、該主鏡から生ずる収差を補正する主焦点補正光学系と、結像した像を受光する撮像素子とを有する天体望遠鏡において、
該主焦点補正光学系と該結像素子は一体化して鏡筒内に収納支持されており、天頂以外の天体を観察するために該天体望遠鏡が傾いたときに生ずる該主焦点補正光学系と該撮像素子との相対的な傾き変化に起因して発生する収差を該鏡筒の姿勢を調整して補正する収差補正機構を有すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は天体望遠鏡を天頂に対して傾けて、天体を種々な観察角度で観察するとき、天体望遠鏡を構成する主鏡と、結像する像を撮像する撮像手段との相対的な位置が自重変形で変化したときの収差変動を収差補正機構で補正するようにした天体望遠鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
天体観察用の天体望遠鏡として、天体からの光束を反射結像する主鏡と、主鏡の主焦点又はその近傍に配置した屈折系と、結像した像を光電変換する撮像素子とから成る天体望遠鏡が知られている。
【0003】
天体観測において、天頂以外の観測では大気分散に起因して、各色光で結像位置が異なってきて観察される星像には、光の波長によるずれが生ずる。このような大気分散による光学性能の低下を補正するために、主鏡の焦点又はその近傍に収差補正系(主焦点補正光学系)を設けた天体望遠鏡が知られている(特許文献1)。
【0004】
特許文献1における主焦点補正光学系では、互いに分散の異なる材料で構成された一対のレンズで構成された複合レンズを光路中に設けている。そして該複合レンズをその光入出射面の曲率中心を回転中心として回転又は光軸と垂直方向に移動させることにより、大気分散の補正を行っている。
【0005】
特許文献1は、これにより、レンズ系全体の小型化を達成しつつ、主鏡より生ずる収差と大気分散による色収差の双方を良好に補正した高い光学性能を有した天体望遠鏡を開示している。
【特許文献1】特開平06−230274号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の主焦点補正光学系を用いた天体望遠鏡の視野角直径は0.5°である。近年、天体望遠鏡の更なるサーベイ能力の向上が望まれている。
【0007】
そのため、主鏡より生ずる収差の補正と、大気分散による色収差の補正を行う主焦点補正光学系に対して観察視野の広視野化及び光学性能の向上が求められている。
【0008】
広視野化及び高性能化を図ろうとすると、主焦点補正光学系を構成するレンズの数が増大してくる。主焦点補正光学系を構成するレンズのレンズ枚数が増加すると主焦点補正光学系が高重量になってくる。天体観察において、天頂以外に位置する天体の星像を追従観察する際には、主鏡及び撮像素子と主焦点補正光学系を支持する構造体(鏡筒)が天頂に対し傾く。
【0009】
一般に鏡筒内に収納した撮像素子と主焦点補正光学系は鏡筒の重心位置からの距離が異なっている。このため鏡筒が傾くと自重変形が生じ、又自重変形も撮像素子と主焦点補正光学系で異なってくる。
【0010】
このとき撮像素子と主焦点補正光学系の相対的な傾きによって偏心収差が発生すると、結像性能が大きく劣化してくる。
【0011】
このときの撮像素子の傾きを独立した駆動手段で補正する手法も考えられる。しかしながらこの手法を用いると装置全体が大型化してくる。又、主焦点補正光学系の位置を調整する方法は、主焦点補正光学系を天体望遠鏡の主焦点部分に配置しなければいけないため、主焦点補正光学系の調整は困難である。
【0012】
本発明は、天頂以外の天体を観察するために天体望遠鏡を傾けたときに生ずる撮像素子と主焦点補正光学系の相対的な傾きを容易に調整することができ、結像性能の劣化を容易に補正することができる収差補正機能を有する天体望遠鏡の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の収差補正機能を有する天体望遠鏡は、天体を結像する主鏡と、該主鏡から生ずる収差を補正する主焦点補正光学系と、結像した像を受光する撮像素子とを有する天体望遠鏡において、
該主焦点補正光学系と該結像素子は一体化して鏡筒内に収納支持されており、天頂以外の天体を観察するために該天体望遠鏡が傾いたときに生ずる該主焦点補正光学系と該撮像素子との相対的な傾き変化に起因して発生する収差を該鏡筒の姿勢を調整して補正する収差補正機構を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、天頂以外の天体を観察するために天体望遠鏡を傾けたときに生ずる撮像素子と主焦点補正光学系の相対的な傾きを容易に調整することができ、結像性能の劣化を容易に補正することができる収差補正機能を有する天体望遠鏡が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を用いて本発明の天体望遠鏡の実施例について説明する。
【0016】
本発明の天体望遠鏡は、天体の星像を結像する主鏡と、主鏡で反射した光束を結像するとともに主鏡から生ずる収差を補正する主焦点補正光学系と、主鏡と主焦点補正光学系によって結像した像を受光する撮像素子とを有している。
【0017】
主焦点補正光学系と結像素子は鏡筒内に一体化して収納支持されている。天頂以外の天体を観察するために天体望遠鏡を傾ける。このとき天体望遠鏡が傾くと主焦点補正光学系と撮像素子との相対的な傾き変化が生ずる。
【0018】
このときの傾き変化に起因して発生する収差(偏心収差)を収差補正機構で鏡筒の姿勢を調整して補正している。
【実施例1】
【0019】
図1は、実施例1の主焦点補正光学系を有する天体望遠鏡(反射望遠鏡)の要部概略図である。
【0020】
図1において、1は天体望遠鏡である。300は主鏡、100は主焦点補正光学系である。主鏡300は、凹形状の回転双曲面より成っている。主焦点補正光学系100は、主鏡300の焦点又は焦点近傍に配置され、主鏡300によって発生する収差を補正する。
【0021】
主焦点補正光学系100は大気分散による色収差を補正するための補正レンズを有している。
【0022】
天体からの光束は、図中右方から主鏡300に入射し、主鏡300で反射したあとに主焦点補正光学系100を介して像面IPに結像する。したがって、図1中で主焦点補正光学系100に対して左側が主鏡側、右側が像面側となる。
【0023】
図2は、主焦点補正光学系100の構成をより詳細に示すレンズ断面図である。主焦点補正光学系100は、互いに材料の分散が異なる一対のレンズを含む複合レンズを有している。主焦点補正光学系100は、主鏡300で発生する収差を補正するレンズL11〜L15と、大気分散を補正するレンズA11、A12を有している。
【0024】
レンズA11、レンズA12で大気分散による色収差を補正するための複合レンズ(補正レンズ)(大気分散補正用レンズ)A1を構成している。
【0025】
F1は透過波長帯域を選択するためのフィルタと撮像素子デュワーの窓材の厚みに相当する平行平面板である。C1は天体望遠鏡1の結像面に配置した撮像素子(CCD)である。レンズL11〜15は凹凸形状を適切に設定している。
【0026】
具体的にはレンズL11は曲率中心を像面側に向けたメニスカス形状の正レンズである。レンズL12は両凹形状の負レンズである。レンズL13は両凹形状の負レンズ、L14は曲率中心を像面側に向けたメニスカス形状の正レンズである。レンズL15は正レンズである。
【0027】
主焦点補正光学系100は、このように大気分散補正機能を有しながらもレンズ枚数が少なく、視野角の大きな天体望遠鏡1の一部を構成している。
【0028】
不図示の移動機構(駆動手段)で複合レンズA1を光軸と直交する方向(図の矢印方向)の成分を持つように移動させることにより、大気分散による色ずれ(色収差)を補正する。
【0029】
複合レンズA1は正レンズと負レンズより成っている。正レンズと負レンズは曲率を有する面を対向して接合又は空気層を介して配置されている。複合レンズA1の光入射面は平面又は正レンズと負レンズの対向した曲率を有する面の曲率半径の20倍以上の曲率半径の大きな面より成っている。
【0030】
図2に示す複合レンズA1は、屈折率が近く、互いに分散の異なる一対の負レンズA11と正レンズA12を、僅かの空気層を隔てて近接配置して構成している。
【0031】
具体的には、負レンズA11を構成する材料の屈折率ndが1.51633、アッベ数νdが64.2である。また、正レンズA12を構成する材料の屈折率ndが1.53172、アッベ数νdが49.0である。
【0032】
これらの光学ガラスを組み合せることで、複合レンズA1を光軸Laに対して直交する方向に移動させ所定の収差を発生させて大気分散の補正を行っている。
【0033】
また複合レンズA1は、負レンズA11と正レンズA12とを接合しても上記と同様の効果が得られる。
【0034】
なお、材料の屈折率ndはd線(587.6nm)に対する屈折率である。アッベ数νdは以下によって定義される。
【0035】
νd=(nd−1)/(nF−nC)
但し、nd:d線(587.6nm)に対する屈折率
nF:F線(486.1nm)に対する屈折率
nC:C線(656.3nm)に対する屈折率
である。
【0036】
次に、表1に実施例1の天体望遠鏡1の数値データを示す。表中、Rは光学面の近軸曲率半径、dは面間隔を表す。レンズ材料には、石英を含む3種類の光学ガラスを用いている。詳細には、石英(SILICA)は屈折率ndが1.45846、アッベ数νdが67.8てある。
【0037】
光学ガラスBSL7Yは屈折率ndが1.51633、アッベ数νdが64.2である。光学ガラスPBL1Yは屈折率ndが1.54814、アッベ数νdが45.8である。実施例中の光学ガラス名は(株)オハラのガラス名を使用したが、他社の同等品を使用してもよい。
【0038】
表中、大気分散補正用の複合レンズA1には、ADC(Atmospheric Dispersion Compensatorの意)と記している。
【0039】
本実施例の主焦点補正光学系100は全体として5つの非球面を有する。非球面形状は、光軸方向にz軸、光軸と垂直方向にh軸、光の進行方向を正とし、Rを近軸曲率半径、kを円錐係数、A〜Gを4次〜16次の非球面係数としたとき
【0040】
【数1】

【0041】
なる式で表わしている。
【0042】
また、表−1においてfは主鏡300と主焦点補正光学系100の合成焦点距離、FNOはFナンバー、ωは半画角、2ωは全画角(視野角)を表す。
【0043】

(表−1)
数値実施例1
f = 18415.7mm FNO = 2.24 2ω= 1.5°
面番号 曲率半径R 面間隔d 材質 有効径
1(主鏡) 30000.0000(非球面) 13455.0000 8200.0
2 766.0266 100.0000 SILICA 820.0
3 1442.4220(非球面) 357.5538 810.1
4 -3930.6400(非球面) 50.0000 BSL7Y 619.6
5 636.8541 345.0769 574.6

6(ADC) -22788.0000 33.8000 BSL7Y 611.0
7(ADC) 1016.3880 3.0000 611.0
8(ADC) 1000.0000 84.5000 PBL1Y 611.9
9(ADC) -36767.0000 270.2019 611.2
10 -1194.1800(非球面) 34.0000 PBL1Y 558.7
11 2039.3880 88.34707 570.6
12 486.0993(非球面) 107.0000 BSL7Y 630.4
13 4553.9720 100.0000 587.1
14 2772.1390 90.0000 SILICA 627.2
15 -11417.7800(非球面) 131.5184 612.5
16(Filter) ∞ 30.0000 SILICA 522.6
17(Filter) ∞ 20.0000 512.1
18 像面 ∞ --- --- 501.8

(非球面)
面 k A (4次) B(6次) C(8次)
1 -1.00835 0.00000 0.00000 0.00000
D(10次) E(12次) F(14次) G(16次)
0.00000 0.00000 0.00000 0.00000

面 k A (4次) B(6次) C(8次)
3 -5.4155 7.5590E-11 -2.6986E-16 1.4548E-22
D(10次) E(12次) F(14次) G(16次)
1.6180E-27 -1.4107E-32 6.0978E-38 -1.0575E-43

面 k A (4次) B(6次) C(8次)
4 0.00000 5.1374E-11 2.7418E-16 3.5105E-21
D(10次) E(12次) F(14次) G(16次)
-1.7968E-26 2.2028E-31 -1.2644E-36 2.6424E-42

面 k A (4次) B(6次) C(8次)
10 0.00000 2.1635E-09 -4.1700E-14 6.1729E-18
D(10次) E(12次) F(14次) G(16次)
-9.4864E-24 1.0464E-28 -6.9534E-34 2.0629E-39

面 k A (4次) B(6次) C(8次)
12 0.00000 -3.8482E-09 3.169E-14 -5.1942E-18
D(10次) E(12次) F(14次) G(16次)
6.9519E-23 -6.7338E-29 3.8852E-34 -9.9734E-40

面 k A (4次) B(6次) C(8次)
15 0.00000 -1.1736E-09 1.0465E-14 -3.5038E-19
D(10次) E(12次) F(14次) G(16次)
7.7030E-24 -9.6572E-29 6.5967E-34 -1.9007E-39

図3は、鏡筒200に収納保持した主焦点補正光学系100と撮像素子C1の支持概念図である。
【0044】
主焦点補正光学系100と撮像素子C1は鏡筒200に取り付けられた支持構造体H1により支持されている。
【0045】
天体望遠鏡1が天頂に対し傾き、それと共に鏡筒200が天頂に対し傾く時、主焦点補正光学系100と撮像素子C1は鏡筒200の重心位置からの距離が異なるため、相対的な傾きが発生する。
【0046】
図4は天頂角30度、波長域が570nm〜670nm、主焦点補正光学系100と撮像素子C1の相対傾きがない場合における結像性能を表す説明図である。
【0047】
横軸は像面における星像半径を視角(秒)で表した値、縦軸はその星像半径に集光するエネルギーの比率である。データは無限遠物体で画角0度、−0.375度、±0.675度、±0.75度である。
【0048】
反射望遠鏡1の使用波長は波長360nm付近から波長1100nm付近と広範囲であるが、光学性能の劣化が問題になりやすい赤フィルタの波長領域(570nm〜670nm)を代表して示している。
【0049】
主鏡300と補正光学系100の間隔は13455.0215mm、複合レンズA1の光軸と垂直方向の最大移動量は20.8mmである。各画角光線の80%のエネルギーが星像半径0.185秒以内に収まっており良好な結像性能を有している。
【0050】
図5は、主焦点補正光学系100と撮像素子C1の相対傾きがない場合の物体距離無限遠のときの横収差図である。
【0051】
図5(A)、(B)、(C)、(D)は順に画角0度、0.75度、−0.75度、0.675度のときである。
【0052】
主鏡と補正光学系の間隔は13455.0215mm、複合レンズA1の移動量は20.8mmである。
【0053】
主焦点補正光学系100と撮像素子C1の相対傾きがない場合では収差図5でも明らかなように視野1.5度の全域にわたり良好な結像性能を有している。
【0054】
図6は、天頂に対し、鏡筒200が傾いて主焦点補正光学系100と撮像素子C1の相対傾きが乗じた場合の概念図である。
【0055】
図7は、天頂角30度、波長域が570nm〜670nm時の、主焦点補正光学系100と撮像素子C1の相対傾きが20秒生じた場合における視野半径と入射エネルギーの関係を図4と同様に表す説明図である。
【0056】
横軸は像面における星像半径を視角(秒)で表した値である。縦軸はその星像半径に集光するエネルギーの比率である。データは無限遠物体で画角0度、−0.375度、±0.675度、±0.75度である。主鏡300と補正光学系100の間隔は13455.0210mm、複合レンズA1の光軸と垂直方向の移動量は20.0mmである。
【0057】
相対傾きが発生したことにより、各画角光線の80%のエネルギーが収まる星像半径は0.257秒となり、傾きがない図4の場合に比べ結像性能は劣化する。主鏡300と主焦点補正光学系100の間隔調整や複合レンズA1の移動を行っても光学性能は大きく改善しない。
【0058】
図8は、天頂角30度、波長域が570nm〜670nm時の、主焦点補正光学系100と撮像素子C1の相対傾きが20秒ある場合の物体距離無限遠のときの横収差図である。
【0059】
図8(A)、(B)、(C)、(D)は順に画角0度、0.75度、−0.75度、0.675度のときである。
【0060】
図8(B)、(C)に示すように画角0.75度ではフォーカスが合っているが、画角−0.75度ではフォーカスズレが発生していることがわかる。図6の反射望遠鏡1で結像性能が劣化した一部の要因は、撮像素子(像面)C1が傾いたことによる片ボケ(偏心収差)が発生したためである。
【0061】
本実施例では、このときの偏心収差を収差補正機構で鏡筒200の姿勢を調整して(変位させて)補正している。
【0062】
図9は、主焦点補正光学系100と撮像素子C1に相対的な傾きに対応した姿勢調整を行うときの概念図である。
【0063】
本実施例において、主焦点補正光学系100と撮像素子C1との相対的な傾き変化が生じる。このうち、撮像素子C1と主焦点補正光学系100を一体として支持する鏡筒200が自重変形に起因して発生したときの、撮像素子C1と焦点補正光学系100の相対的な傾きを、算出手段3に直接的に測定または間接的に算出する。
【0064】
そして収差補正機構2は、算出手段3からの信号に基づいて駆動手段で鏡筒100の姿勢を調整している。
【0065】
このとき鏡筒200を駆動手段で変位させて鏡筒200の姿勢を調整するときの具体的な方法は、次のとおりである。
【0066】
主焦点補正光学系100と撮像素子C1が相対的な傾きを持ったまま、鏡筒200を光軸上の一点、即ち光軸Laの上の点P1を通り、光軸Laと垂直な軸を回転軸として矢印B1の如く傾ける(回動させる)。
【0067】
次に鏡筒200を主鏡300の光軸Laに対して矢印B2の如く垂直方向の成分を持つように移動させる。
【0068】
これによって、主焦点補正光学系100と撮像素子C1との相対的な傾き変化によって生ずる偏心収差を良好に補正している。
【0069】
次に本実施例では大気分散による色収差を主焦点補正光学系100を構成する複合レンズA1によって補正している。
【0070】
具体的には、大気分散補正用の複合レンズA1を主焦点補正光学系100の光軸Lbに対して矢印B3の如く垂直な方向の成分を持つように駆動させている。主鏡300と主焦点補正光学系100の光軸La方向の間隔を調整する。尚、上記各調整の過程は順不動でもかまわない。
【0071】
図10は、天頂角30度、波長域570nm〜670nm、主焦点補正光学系100と撮像素子C1の相対傾きが20秒生じた場合に、本発明を適用したときの収差図である。鏡筒200を主鏡300の光軸Laに対し14.4秒傾け、更に鏡筒200を主鏡300の光軸Laに対して垂直方向に0.32mm駆動させた。これにより相対傾きによる収差の悪化を補正し、波長域ごとに大気分散補正用の複合レンズA1を主鏡300の光軸Laに対して垂直な方向の成分を持つように18.4mm駆動する。
【0072】
加えて主鏡300と補正光学系100の間隔を13455.018mmに調整することで良好な光学性能を有する。
【0073】
図10(A)、(B)、(C)、(D)は画角0度、0.75度、−0.675度、+0.675度である。
【0074】
本発明により画角+0.75度と画角−0.75度のフォーカスを調整し、大気分散補正の複合レンズA1で補正しきれない高画角のコマ収差を補正している。
【0075】
図11は、天頂角30度、波長域570nm〜670nm、主焦点補正光学系100と撮像素子C1の相対傾きが20秒生じた場合に、本発明を適用した場合の結像性能を表す説明図である。
【0076】
横軸は像面における星像半径を視角(秒)で表した値、縦軸はその星像半径に集光するエネルギーの比率である。
【0077】
鏡筒200を主鏡300の光軸Laに対し14.4秒傾け、更に鏡筒200を主鏡300の光軸Laに対して垂直方向に0.32mm駆動させた。これにより相対傾きによる収差の悪化を補正し、波長域ごとに大気分散補正用の複合レンズA1を主鏡300の光軸Laに対して垂直な方向の成分を持つように18.4mm駆動する。
【0078】
加えて主鏡300と補正光学系100の間隔を13455.018mmに調整することで良好な光学性能を有する。データは画角0度、±0.75度、±0.675度である。各画角光線の80%のエネルギーが視野0.20秒以内に収まっており、相対傾きのない場合と同等な結像性能を有することができる。
【0079】
以上述べた実施例1では、視野角1.5°の例について説明したが、視野角はこの値に限らず実施可能である。
【0080】
また、実施例1においては、複合レンズA1を構成するレンズの光学ガラスとしては、BSL7Y(屈折率ndが1.51633、アッベ数νdが64.2)、PBL1Y(屈折率ndが1.54814、アッベ数νdが45.8)を用いた。このときの、複合レンズA1を構成する2枚の光学ガラスは屈折率が近く、分散が異なる光学ガラスであれば適用可能である。
【0081】
また、上記の実施例においては、複合レンズA1として、両端面が曲率半径の大きな球面である複合レンズを用いて光軸に対して直交する方向に複合レンズを移動させて大気分散を補正する例を示した。
【0082】
しかし、これ以外の方式の複合レンズを用いても良い。例えば、特許文献1に記載されているように、両端面が同心球面形状である複合レンズを用いて、その曲率中心を中心として複合レンズを回転させて大気分散を補正する方式を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】実施例1の天体望遠鏡の要部概略図である。
【図2】実施例1の天体望遠鏡に用いられる主焦点補正光学系のレンズ配置を示す図である。
【図3】実施例1の主焦点補正光学系100と撮像素子C1の支持概念図である。
【図4】実施例1の天体望遠鏡における天頂角30°、波長域570〜670nm時の結像性能を表す図である。
【図5】実施例1の天体望遠鏡における天頂角30°、波長域570〜670nm時の横収差図である。
【図6】補正光学系と撮像素子の相対傾き発生時の天体望遠鏡概念図である。
【図7】実施例1の天体望遠鏡における天頂角30°、波長域570〜670nm、相対傾き20秒時の結像性能を表す図である。
【図8】実施例1の天体望遠鏡における天頂角30°、波長域570〜670nm、相対傾き20秒時の横収差図である。
【図9】本発明による姿勢調整方向を表す天体望遠鏡概念図である。
【図10】実施例1の天体望遠鏡における天頂角30°、波長域570〜670nm、相対傾き20秒時に本発明を適用した結像性能を表す図である。
【図11】実施例1の天体望遠鏡における天頂角30°、波長域570〜670nm、相対傾き20秒時に本発明を適用した横収差図である。
【符号の説明】
【0084】
1 天体望遠鏡
2 収差補正機構
3 算出手段
300 主鏡
200 鏡筒
100 補正光学系
L11 第1レンズ
L12 第2レンズ
L13 第3レンズ
L14 第4レンズ
L15 第5レンズ
A1 複合レンズ
A11 複合レンズを構成する第1レンズ
A12 複合レンズを構成する第2レンズ
F1 平行平板レンズ
C1 撮像素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天体を結像する主鏡と、該主鏡から生ずる収差を補正する主焦点補正光学系と、結像した像を受光する撮像素子とを有する天体望遠鏡において、
該主焦点補正光学系と該結像素子は一体化して鏡筒内に収納支持されており、天頂以外の天体を観察するために該天体望遠鏡が傾いたときに生ずる該主焦点補正光学系と該撮像素子との相対的な傾き変化に起因して発生する収差を該鏡筒の姿勢を調整して補正する収差補正機構を有することを特徴とする天体望遠鏡。
【請求項2】
前記収差補正機構は、前記鏡筒を前記主鏡の光軸上の一点を通り、光軸に対し垂直な軸を回転軸として回動させること、及び該鏡筒を該主鏡の光軸に対し垂直方向の成分を持つように移動させる駆動手段を有することを特徴とする請求項1の天体望遠鏡。
【請求項3】
前記主焦点補正光学系と前記撮像素子との相対的な傾き変化のうち、前記撮像素子と前記主焦点補正光学系を一体として支持する鏡筒が自重変形に起因して発生したときの、該撮像素子と該焦点補正光学系の相対的な傾きを、直接的に測定または間接的に算出する算出手段を有し、
前記収差補正機構は、該算出手段からの信号に基づいて該鏡筒の姿勢を調整していることを特徴とする請求項1又は2の天体望遠鏡。
【請求項4】
前記主焦点補正光学系は、互いに材料の分散が異なる一対のレンズを含む複合レンズを有し、該複合レンズを該主焦点補正光学系の光軸に対し垂直方向の成分を持つように変位させる駆動手段を有することを特徴とする請求項1、2又は3の天体望遠鏡。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−91597(P2010−91597A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258253(P2008−258253)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】