説明

太陽電池用透明導電膜およびその製造方法

【課題】低抵抗、高透過率、適切な表面凹凸をもつ透明導電膜およびその製造方法を提供する。
【課題手段】基板に形成された微細な結晶粒の第1層と、第1層に積層された大きな結晶粒の第2層とを備え、基板の面方向における微細な結晶粒の幅が50nm以下で、第1層の厚さが200nm以下であり、第2層の厚さが300nm以上である透明導電膜によって、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池に用いる透明導電膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光発電を行なうための太陽電池としては、結晶Si系太陽電池、薄膜Si系太陽電池、CIGS(Cu−In−Ga−Se四元系合金)膜などを利用した化合物半導体系太陽電池、有機薄膜を利用した有機系太陽電池などがある。その中で薄膜Si太陽電池は、材料が安価で、光電変換効率も比較的高いことから利用範囲が急速に拡大している。
【0003】
この薄膜Si系太陽電池は、基板(ガラスなど)、金属電極層、p型Si層、n型Si層、透明電極層を基本の構成要素とする。各層は、主にCVDやスパッタリングなどの真空成膜法で形成する。この中で、透明電極層としてはSnO系(FTO:F添加SnOなど)、In系(ITO:SnO添加Inなど)、ZnO系(AZO:Al添加ZnOなど)などの透明導電膜が用いられる。
【0004】
光電変換効率を上げるには、発電層であるSiのp/n接合部に多くの光が到達するように透明導電膜の透過率を高めると同時に、発生した電荷(電子またはホール)をロスなく集電できるよう、透明導電膜の抵抗を低くすることが必要となる。それに加えて、入射した光を逃がさずに閉じ込めて効率良く発電に利用するために、透明導電膜の表面に凹凸を形成することも求められる。
【0005】
そのような高透過率、低抵抗であり、かつ、適切な表面凹凸を持つ膜として、これまでに、特許文献1〜5に示すような透明導電膜が知られている。
【0006】
特許文献1には、ハロゲン(Clなど)をドープしたSnO膜であって所定の凹凸組織面を有するものを透光性電気接触とし、光電変換効率を向上した光検知器が記載されている。
【0007】
特許文献2には、基体上に、複数の山部と複数の平坦部の表面にミクロの多数の凸部を連続して有するFTO膜(FをドープしたSnO膜)を設け、光電変換効を向上した光電変換素子が記載されている。
【0008】
特許文献3には、200℃以下でのMOCVD法(有機金属気相法)により、基板上に表面凹凸構造の制御されたZnO透明電極を形成し、シリコン系薄膜光電変換装置の効率を改善する方法が記載されている。
【0009】
透明導電膜の抵抗を下げるためには、ZnO系やIn系の透明導電膜をスパッタリング法で形成すれば良いが、通常、スパッタリング法は300℃以下の低温プロセスで行なう。そのため、透明導電膜における結晶の成長が十分ではなく、表面の凹凸が大きくならないという問題がある。その問題を解決するために、種々の方法で、表面凹凸を大きくする工夫がなされている。
【0010】
例えば、特許文献4には、スパッタリングで酸化亜鉛からなる透明導電膜を形成した後に、酸又はアルカリ溶液でのエッチングを行なって透明電極の表面に凹凸を形成する方法が記載されている。特許文献5には、ガラス基板の表面に0.1〜1μmの絶縁性微粒子を形成した後に、その上に透明導電膜を形成して、凹凸のある透明電極を得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公平6−12840号公報
【特許文献2】国際公開第2003/036657パンフレット
【特許文献3】特開2000−252501号公報
【特許文献4】特開平11−233800号公報
【特許文献5】特開2003−243676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところが、特許文献1に記載のようなSnO系の透明導電膜は、ZnO系やIn系の透明導電膜と比べると抵抗率(シート抵抗と膜厚をかけた値)が大きい。このため、ZnO系等の透明導電膜と同程度のシート抵抗を得るためには、膜を厚くしなければならず、光の吸収が大きくなり透過率が下がってしまう。一方、ZnO系等の透明導電膜と同程度の膜厚にすれば、好ましい光の吸収率、透過率が得られるが、シート抵抗は上がってしまう。
【0013】
また、特許文献2に記載のようなFTO膜も、ZnO系やIn系の透明導電膜と比べると抵抗率が高く、SnO系の透明導電膜と同様の問題がある。
【0014】
さらに、特許文献1、2とも、透明導電膜の形成にCVD法を用いるが、CVD法は、通常500℃程度の温度で実施されるため、それより低温で実施されるスパッタリング法などと比べると、加熱・冷却に時間がかかり、生産コストが高くなる。また、CVD法では、成膜チャンバーや真空装置以外に、成膜ガスの処理などに付加的な設備が必要なため、全体の設備費がスパッタリング法等と比べて高価になる。さらに、CVD法では、十分に抵抗の低い膜を得られない。
【0015】
また、特許文献3に開示された発明では、MOCVD法を用いているので、200℃以下の低温で膜の形成を行なうことができるが、MOCVD法はCVD法の1種であるから、特許文献1,2と同様の欠点があった。
【0016】
特許文献4、5に開示された方法を用いれば、低抵抗で表面凹凸が大きな透明導電膜が得られるが、化学エッチングや絶縁性微粒子形成のプロセスをスパッタリングの前後に追加するため、生産コストが高い。
【0017】
以上のように、従来の技術では、低抵抗、高透過率で適切な表面凹凸をもつ透明導電膜を、低温で工程数の少ないプロセスで得ることができなかった。
【0018】
そこで、本発明が解決しようとする技術的課題、すなわち、本発明の目的は、低抵抗、高透過率、適切な表面凹凸をもつ透明導電膜およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記目的を達成するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、以下の知見を得た。
【0020】
通常、例えば、AZOのようなZnO系透明導電膜は、抵抗が低くなる(例えば、膜厚1μmで抵抗率5×10−4Ω・cm)成膜条件で、連続してスパッタリングを実施して形成される。しかし、そのようにして形成された膜は、幅の狭い柱状組織を有し、基板に対し(001)配向の結晶粒で構成され、表面の凹凸が十分でない。
【0021】
これは、成膜初期に表面エネルギーの大きい(001)面が積み重なってできる結晶核が高密度で形成され、互いに結合することなく、幅の狭い緻密な結晶のまま成長することによる。
【0022】
これに対し、本発明者らは、成膜初期において、(001)以外の配向の結晶核を生成させることで、結晶粒を大きくし膜表面に適切な凹凸を形成できることを見出した。
【0023】
すなわち、成膜初期に(001)以外の配向(以下、所定配向と略記することがある)の結晶核を生成させると、その後の成膜において、所定配向の結晶粒を幅の広い結晶に成長させ、大きな結晶粒とすることで膜表面に凹凸を形成することができる。
【0024】
これは、結晶核の(001)面の原子の面密度が大きく、成膜初期においては安定して形成され易いが、成長する際は、他の格子面と比べて成長速度が遅くなることによる。即ち、所定配向を持った結晶核が成膜初期に形成されると、所定配向の結晶粒の成長が促進される一方、(001)配向の結晶粒の成長が抑制され、所定配向の結晶粒のみが幅の広い大きな結晶として成長し、その結果、膜表面に大きな凹凸を形成することができるのである。
【0025】
しかしながら、前記のいずれの成膜方法も、従来用いられてきた膜の抵抗率を最小とする成膜条件とは異なるものであり、膜の抵抗率が増大する。
【0026】
そこで、本発明者らは、さらに検討を重ね、成膜初期は前記の条件でシード層(第1層)を形成し、その後は従来の成膜条件で膜を形成することにより、低抵抗で表面凹凸の大きな膜が形成できることを見出した。
【0027】
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであって、
(1)本発明の透明導電膜は、基板に形成された微細な結晶粒の第1層と、前記第1層に積層された大きな結晶粒の第2層とを備え、前記基板の面方向における前記微細な結晶粒の幅が50nm以下で、前記第1層の厚さが200nm以下であり、前記第2層の厚さが300nm以上であることを特徴とする。
【0028】
このような構成を備えた本発明の透明導電膜は、低抵抗、高透過率で、適切な表面凹凸を備えたものとなる。
【0029】
すなわち、本発明の透明導電膜は、結晶粒が大きい第2層を設けることにより、適切な表面凹凸が形成されるとともに、透明導電膜全体としての抵抗を低くすることができ、膜を厚くしなくても低抵抗であるため、高い透過率を備えたものとなる。
【0030】
ここで、第1層における微細な結晶粒の幅は、50nmを超えると、粒間に隙間が生じ、膜の緻密性が悪くなるため、50nm以下とした。なお、第1層における微細な結晶粒の幅は、結晶性を良くするため、5nm以上であることが好ましい。第1層における微細な結晶粒の幅は、10〜50nmであることがより好ましく、20〜40nmであることがさらに好ましい。
【0031】
なお、ここで規定する第1層における微細な結晶粒の幅は、第1層の基板側の端部において、線分法により測定した値を意味するものとする。
【0032】
また、第1層の膜の厚さが200nmを超えると、透明導電膜全体の抵抗が高くなるため、200nm以下とした。なお、第1層の厚さは、単位胞が形成される前に第2層が形成されると第2層単層の膜特性となってしまうため、単位胞が形成できる0.5nm以上であることが好ましい(ZnOのC軸方向の単位胞の長さ:0.52nm)。第1層の厚さは、透明導電膜全体をより低抵抗にするため、できるだけ薄くするのが好ましいが、アイランド状の膜から連続な膜になる5nm以上あることがより好ましく、10〜20nmであることがさらに好ましい。
【0033】
さらに、第2層の厚さが300nm未満であると、十分に大きい結晶粒を形成することができず、適切な表面凹凸が形成されないため、300nm以上とした。なお、第2層の厚さは、光の吸収を低下させ透過率を増加させるため、2000nm以下であることが好ましい。第2層の厚さは、できるだけ大きな結晶粒とするために、400nm以上とすることがより好ましく、500nm以上とすることがさらに好ましい。
【0034】
なお、ここで規定する第1層および第2層の厚さは、平均値を意味するものとする。
【0035】
第1層と第2層の境界は、例えば、断面SEM観察を行なって得られる観察写真により決定する。
【0036】
第2層の結晶粒の幅は、第1層の結晶粒の幅よりも広ければよく、特に限定されないが、例えば、第2層表面の最も深い谷の底を通り基板と平行なラインを設定し、線分法により測定した幅で、50nm以上であることが好ましい。ここで、第2層の結晶粒の幅が50nm未満であると、適切な表面凹凸とならないおそれがあるためである。第2層の結晶粒の幅は、100nm以上であることがより好ましく、200nm以上であることがさらに好ましい。
【0037】
なお、透明導電膜の表面凹凸としては、例えば、光の閉じ込め効果を得る観点から、表面粗さにおける最大高低差PVが130nm以上、平均粗さRaが13nm以上であることが好ましい。また、透明導電膜の抵抗は、例えば、抵抗率で8×10−4Ω・cm以下であることが好ましい。さらに、透明導電膜の透過率は、例えば、波長400〜1000nmの平均値で、83%以上であることが好ましい。
【0038】
このような特性を有する透明導電膜を太陽電池に適用すれば、良好な光電変換効率を得ることができる。
(2)本発明の透明導電膜の製造方法は、(1)に記載の透明導電膜の製造方法であって、スパッタリング法を用い、抵抗率の小さい膜が得られる酸素導入流量で前記第2層を形成する2次成膜工程と、前記2次成膜工程の前に実施され、前記2次成膜工程と異なる酸素導入流量で前記第1層を形成する1次成膜工程と、を備えることを特徴とする。
(3)本発明の他の透明導電膜の製造方法は、(1)に記載の透明導電膜の製造方法であって、スパッタリング法を用い、抵抗率の小さい膜が得られる成膜圧力で前記第2層を形成する2次成膜工程と、前記2次成膜工程の前に実施され、前記2次成膜工程と異なる成膜圧力で前記第1層を形成する1次成膜工程と、を備えることを特徴とする。
(4)本発明の他の透明導電膜の製造方法は、スパッタリング法を用い、抵抗率の小さい膜が得られる成膜温度で前記第2層を形成する2次成膜工程と、前記2次成膜工程の前に実施され、前記2次成膜工程と異なる成膜温度で前記第1層を形成する1次成膜工程と、を備えることを特徴とする。
(5)本発明の他の透明導電膜の製造方法は、スパッタリング法を用い、抵抗率の小さい膜が得られるスパッタリングパワーで前記第2層を形成する2次成膜工程と、前記2次成膜工程の前に実施され、前記2次成膜工程と異なるスパッタリングパワーで前記第1層を形成する1次成膜工程と、を備えることをすることを特徴とする。
(6)本発明の他の透明導電膜の製造方法は、スパッタリング法を用い、抵抗率の小さい膜が得られるターゲット−基板間距離で前記第2層を形成する2次成膜工程と、前記2次成膜工程の前に実施され、前記2次成膜工程と異なるターゲット−基板間距離で前記第1層を形成する1次成膜工程と、を備えることをすることを特徴とする。
【0039】
このような本発明の透明導電膜の製造方法によれば、1次成膜工程において、膜の抵抗が最小となる従来の成膜条件と異なる酸素導入流量、成膜圧力、成膜温度、スパッタリングパワーまたはターゲット−基板間距離で成膜をすることにより、所定配向の結晶核を有する第1層が形成される。その後、2次成膜工程において、抵抗率の小さい膜が得られる酸素導入流量、成膜圧力、成膜温度、スパッタリングパワーまたはターゲット−基板間距離で成膜することによって、所定配向の結晶粒を横幅の広い結晶に成長させた第2層が形成される。これにより、化学エッチングや絶縁性微粒子形成等の特殊なプロセスを追加することなく、スパッタリングのみによって、低抵抗、高透過率で、適切な表面凹凸を備えた透明導電膜を形成することができる。
【0040】
なお、2次成膜工程における、抵抗率の小さい膜が得られる酸素導入流量は、例えば、AZOの場合、スパッタガス圧:0.3〜0.5Paにおいて0.1〜0.3sccmである。
【0041】
また、1次成膜工程における酸素導入流量は、例えば、AZOの場合、スパッタガス圧:0.3〜0.5Paにおいて0sccm以上0.1sccm未満、または0.3sccmを超え100sccm以下である。
【0042】
なお、2次成膜工程における、抵抗率の小さい膜が得られる成膜圧力は、例えば、AZOの場合、0.3〜0.5Paである。
【0043】
また、1次成膜工程における成膜圧力は、例えば、AZOの場合、0.1Pa以上0.3Pa未満、または0.5Paを超え50Pa以下である。
【0044】
なお、2次成膜工程における、抵抗率の小さい膜が得られる成膜温度は、例えば、AZOの場合、180〜300℃である。
【0045】
また、1次成膜工程における成膜温度は、例えば、AZOの場合、0℃以上180℃未満、または300℃を超え500℃以下である。
【0046】
なお、2次成膜工程における、抵抗率の小さい膜が得られるスパッタリングパワーは、例えば、AZO(4インチターゲット)の場合、150〜300Wである。
【0047】
また、1次成膜工程におけるスパッタリングパワーは、例えば、AZOの場合、10W以上150W未満、または300Wを超え1000W以下である。
【0048】
なお、2次成膜工程における、抵抗率の小さい膜が得られるターゲット−基板間距離は、例えば、AZOの場合、50〜100mmである。
【0049】
また、1次成膜工程におけるターゲット−基板間距離は、例えば、AZOの場合、30mm以上50mm未満、または100mmを超え300mm以下である。
【発明の効果】
【0050】
本発明の透明導電膜の製造方法によれば、化学エッチングや絶縁性微粒子形成等の特殊なプロセスを追加することなく、スパッタリングのみによって、低抵抗、高透過率、適切な表面凹凸をもつ透明導電膜を得ることができる。本発明の透明導電膜を太陽電池に用いることにより、光電変換効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態に係るZnO系透明導電膜の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
本発明の一実施形態の透明導電膜の製造方法は以下のとおりである。
【0053】
本実施形態の成膜装置としては、スパッタリング装置を用いる。
【0054】
スパッタリング方式は、DCスパッタリング法、RFスパッタリング法、またはこれらを組みあわせたDC+RFスパッタリング法などが使用可能である。
【0055】
スパッタリングガスとしては、例えばArガスなどの不活性ガスを使用する。必要に応じて、酸化性ガスや還元性ガスを導入してもよい。
【0056】
スパッタリングターゲットとしては、ZnOにAlを加えたAZO焼結ターゲット、ZnOにGaを加えたGZO焼結ターゲットなどを用いる。Al、Gaの濃度は、形成される膜の抵抗率を下げるため、それぞれ0.2〜3.0wt%、0.5〜6.0wt%がよい。
【0057】
基板としては、例えば、ガラス、樹脂などを使用し、基板ホルダーに取り付けて、固定、または回転させながらスパッタ成膜を行う。
【0058】
透明導電膜を形成するにあたり、まず、低抵抗の膜が得られる成膜条件を、酸素導入流量、成膜圧力、成膜温度、スパッタリングパワー、ターゲット−基板間距離の各パラメーターを変化させて求める。
【0059】
その条件(低抵抗化条件)が決まった後に、以下のようにして、本発明の透明導電膜の形成を行なう。
【0060】
まず、1次成膜工程として、低抵抗化条件と異なる初期成膜条件(酸素導入流量、成膜圧力、成膜温度、スパッタリングパワー、ターゲット−基板間距離のいずれか1つ以上を、低抵抗化条件から変更した条件)で、200nm以下の成膜をし、基板の面方向における結晶粒の幅が50nm以下である第1層を形成する。
【0061】
その後に、低抵抗化条件で、300nm以上の成膜をして第2層を形成する。
【0062】
このようにして、微細な結晶粒の第1層と大きな結晶粒の第2層とを備えた透明導電膜が得られる。
【実施例】
【0063】
次に、本発明の透明導電膜の形成に係る実施例1〜5および比較例1〜4について説明する。
<各種条件の検討>
DCマグネトロンスパッタ装置を用いて、下記の共通条件において、酸素導入流量、成膜温度、成膜圧力、スパッタリングパワー、ターゲット−基板間距離の条件を変化させた成膜を実施し、透明導電膜の抵抗率が最小となる低抵抗化条件を求めた。
【0064】
共通条件は、下に示すとおりである。
【0065】
スパッタリング装置:DCマグネトロンスパッタ装置
ターゲット:AZOZnO+2wt%Al燒結ターゲット、燒結密度98.5%
使用基板:50mm×50mm×1mmt 無アルカリガラス
磁界強度:1000Gauss(ターゲット直上、垂直成分)
到達真空度:<5×10−5Pa
スパッタリングガス:Ar、ガス流量100sccm
低抵抗化条件の特定のため、酸素導入流量は0〜10sccm、成膜温度は室温〜500℃、成膜圧力は0.1〜1.0Pa、スパッタリングパワーは50〜1000W、ターゲット−基板間距離は30〜150mmの間で変化させ、成膜を実施した。膜厚は1μmとし、成膜時間はそれぞれの条件で成膜速度を求めて、その膜厚となるよう設定した。
【0066】
その結果、酸素導入流量:0.2sccm、成膜温度:200℃、成膜圧力:0.4Pa、スパッタリングパワー:200W、ターゲット−基板間距離:60mmの条件で、透明導電膜の抵抗率は最小となり、2.3×10−4Ω・cmの値が得られた。この条件を、共通条件も含めて低抵抗化条件とし、後述の各実施例・比較例の2次成膜工程は、本条件で実施することとした。
<実施例1〜5・比較例3>
以下の表1に記載の条件と、前述の共通条件により、1次成膜工程を実施し、第1層を形成した。その後、前述の低抵抗化条件により、2次成膜工程を実施し、表1に記載した厚さの第2層を形成して透明導電膜を得た。
<比較例1>
低抵抗化条件により、1000nmの透明導電膜を形成した。
<比較例2>
成膜圧力を1Paに変更した以外は、比較例1と同様にして1000nmの透明導電膜を形成した。
<比較例4>
CVD装置内において、500℃に加熱した無アルカリガラス基板(50mm×50mm×1mmt)の上に、塩化第二スズ、水、メタノールとフッ化水素を導入し、厚さ1000nmの透明導電膜(FTO膜)を形成した。
<評価>
各実施例・比較例の透明導電膜について、SEM:走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製のSU8000)を用いて断面SEM観察を行なった。
【0067】
その結果 いずれの実施例においても、得られた透明導電膜は、微細な結晶粒の第1層と、第1層に積層された大きな結晶粒の第2層とを備え、第1層の微細な結晶粒の幅は50nm以下であり、第1層の厚さは200nm以下であり、第2層の厚さは300nm以上であることが分かった。
【0068】
断面SEM観察により評価した、第1層の微細な結晶粒の幅を、表1に示す。
【0069】
なお、断面SEMの測定は、加速電圧2kV、エミッション電流10μA、WD(作動距離)1.6mm、倍率10万倍の条件で実施した。結晶粒の幅は、第1層の基板側の端部において、線分法により測定した。
【0070】
また、各実施例・比較例の透明導電膜について、抵抗率、透過率、表面凹凸の最大高低差PV (Peak−Valley、表面凹凸の最大高低差)、平均粗さRaを測定した。
【0071】
抵抗率は、膜厚測定(アルバック社製の膜厚計、DEKTAKを使用)とシート抵抗測定(三菱化学社製の抵抗測定器、RORESTERを使用)を実施し、両測定データから算出した。
【0072】
透過率(400〜1000nmの平均値)は、分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製の分光光度計、U4100を使用)により測定した。
【0073】
PV、Raは、AFM:原子間力顕微鏡(セイコーインスツル社製の原子間力顕微鏡、SPI4000を使用)により測定した。
【0074】
これらの評価の結果を表1に示す。
【0075】
また、各実施例・比較例の透明導電膜付き基板を用いて、簡易的に薄膜Si太陽電池セルを作製し、光電変換効率を求めた。
【0076】
薄膜Si太陽電池セルの作製は、各実施例・比較例の透明導電膜の上に、CVD装置を用いてアモルファスのp型Si(ボロン(B)ドープ)、n型Si(リン(P)ドープ)を順に形成し、さらにその上にスパッタ法により裏面電極としてのITOとAgを順に形成することにより行なった。
【0077】
光電変換効率はソーラーシミュレータおよびI−Vトレーサー(英弘精機社製の太陽電池性能評価システムを使用)を用いて測定した。その光電変換効率の値を表1に示す。
【0078】
【表1】

表1に示すとおり、実施例の膜を用いて作製した太陽電池の変換効率は、比較例の膜を用いて作製した場合よりも大きくなることが確認できた。
【0079】
なお、本発明は前記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の透明導電膜は、低抵抗、高透過率で、適切な表面凹凸を備える。この透明導電性膜を太陽電池に用いれば、光電変換効率にすぐれた太陽電池を得ることができる。また、本発明の透明導電膜の製造方法によれば、化学エッチングや絶縁性微粒子形成等の特殊なプロセスを追加することなく、スパッタリングのみによって、前記透明導電膜を生産性よく得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に形成された微細な結晶粒の第1層と、前記第1層に積層された大きな結晶粒の第2層とを備え、
前記基板の面方向における前記微細な結晶粒の幅が50nm以下で、前記第1層の厚さが200nm以下であり、前記第2層の厚さが300nm以上であることを特徴とする透明導電膜。
【請求項2】
請求項1に記載の透明導電膜の製造方法であって、スパッタリング法を用い、抵抗率の小さい膜が得られる酸素導入流量で前記第2層を形成する2次成膜工程と、前記2次成膜工程の前に実施され、前記2次成膜工程と異なる酸素導入流量で前記第1層を形成する1次成膜工程と、を備えることを特徴とする透明導電膜の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の透明導電膜の製造方法であって、スパッタリング法を用い、抵抗率の小さい膜が得られる成膜圧力で前記第2層を形成する2次成膜工程と、前記2次成膜工程の前に実施され、前記2次成膜工程と異なる成膜圧力で前記第1層を形成する1次成膜工程と、を備えることを特徴とする透明導電膜の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の透明導電膜の製造方法であって、スパッタリング法を用い、抵抗率の小さい膜が得られる成膜温度で前記第2層を形成する2次成膜工程と、前記2次成膜工程の前に実施され、前記2次成膜工程と異なる成膜温度で前記第1層を形成する1次成膜工程と、を備えることを特徴とする透明導電膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の透明導電膜の製造方法であって、スパッタリング法を用い、抵抗率の小さい膜が得られるスパッタリングパワーで前記第2層を形成する2次成膜工程と、前記2次成膜工程の前に実施され、前記2次成膜工程と異なるスパッタリングパワーで前記第1層を形成する1次成膜工程と、を備えることを特徴とする透明導電膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の透明導電膜の製造方法であって、スパッタリング法を用い、抵抗率の小さい膜が得られるターゲット−基板間距離で前記第2層を形成する2次成膜工程と、前記2次成膜工程の前に実施され、前記2次成膜工程と異なるターゲット−基板間距離で前記第1層を形成する1次成膜工程と、を備えることを特徴とする透明導電膜の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−188711(P2012−188711A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54071(P2011−54071)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】