説明

媒質に照射を行う装置及び方法

媒質に照射を行う方法は、媒質中で散乱され且つ媒質中のある位置で周波数変調される電磁波を媒質に照射することと、変調された電磁波と参照波との間の干渉により生成される干渉パターンに対応する情報を取得することと、取得された情報に基づいて、媒質に照射される位相共役波を発生することとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、媒質に照射を行う装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この出願は、2009年9月24日に出願された米国特許出願第12/566592号の優先権を主張するものであり、その内容は本願の一部をなすものである。
【0003】
光の散乱は、散乱過程が主として起こる散乱媒質の内部を可視化すること、或いははそのような媒質を通してイメージングすることが困難、或いは場合によっては不可能である本質的な原因の1つである。これは、散乱光が媒質中を通過する際に直線的に伝播しないためであり、散乱光が不規則な軌跡をたどることによって、光の方向性並びにそれに関連する情報は失われてしまう。従って、散乱又は拡散した光を検出することによって、そのような散乱媒質に関する詳細な内部情報を抽出することは困難である。例えば、生体組織を扱う医療分野への光の適用において、生体組織を光が通過際に生じる散乱のために、検出された散乱光から内部情報を得ることは困難である。
【0004】
更に、例えば光線力学的療法において異常組織の治療を行うために、或いは、意図的に無秩序にさせたランダム物質を用い、従来は得ることができなかった特有の有望な機能を実現させるためなどで、散乱媒質中の目標位置に光エネルギーを集中させることが要求され、そのような需要が多くなっている。
【0005】
散乱媒質中のある一点に光を集光させること、又は散乱媒質を通して光を集光させることは、つい最近まで実現されていなかった。しかし、近年、入射光の波面を最適化することによって散乱効果を抑制する技術が提案された。
【0006】
米国特許出願公開第2009/0009834号には、散乱媒質を透過した散乱光の波面をホログラフィック記録材料により記録し、記録された波面の位相とは実質的に逆の位相を有する位相共役波を発生することができる位相共役光技術が開示されている。位相共役波は、散乱媒質に入射し、且つ散乱媒質を通して可視化できるような構成で発生される。
【0007】
弾性光散乱は決定論的時間可逆過程であるので、位相共役光は、散乱媒質中の軌跡を逆方向にたどり、元の入射点まで戻ることができる。米国特許出願公開第2009/0009834号に開示される方法は、この原理を使い、効果的に散乱を抑制し、且つ散乱媒質から得られる画像の空間分解能を向上させている。
【0008】
しかし、米国特許出願公開第2009/0009834号で開示されている位相共役光を用いた手法では、散乱媒質を通過した背後で、元々入射光が入射した領域媒質に光を集光させることのみが示されている。従って、この方法では、散乱媒質内部の任意の特定位置に光を集光させることはできない。しかし、米国特許出願公開第2009/0009834号は、更にその位相共役光の手法を用いれば、媒質内部で強い前方散乱を発生させるいくつかの特定の散乱体に光を照射させることができると示唆している。
【0009】
しかし、この状況は、媒質の散乱特性が非常に小さく、従って、媒質中での散乱は、その強い散乱体が位置している数少ない特定個所でのみ散乱が生じると想定できる場合に限られる。更に、イメージング又は治療などの別の用途でこの集光効果を利用できるようにするためには、それらの特定箇所(場所)がわかっていなければならない。
【0010】
生体組織を含む散乱の強い媒質などでは、この状況は多くの場合現実的ではない。例えば、強い散乱媒質の内部で多重散乱が生じると、どの散乱体が支配的で、且つ前方散乱を引き起こしているのか特定することは極めて困難である(場合によっては、散乱は前方散乱ではないかもしれない)。従って、位相共役光を用いて、多重散乱過程でたどった経路を元の散乱体の位置まで逆方向にたどり、且つ照明することは困難である。そのような多重散乱過程は、例えば、媒質中に散乱体が非常に多く存在することによって引き起こされる。
【0011】
更に、媒質内部の「強い散乱体」の位置は通常わからないので、仮に「強い散乱体」付近に光を集光させたとしても、位相共役光がそのような散乱媒質内部のどこに再伝播して光を集光したか、その正確な場所を特定することは非常に難しい。
【0012】
従って、散乱媒質において位相共役光を用いる場合には、これらの点を考慮する必要がある。
【発明の概要】
【0013】
本発明の実施形態は、媒質に照射を行う装置及び方法を提供する。
【0014】
本発明の一側面としての装置は、電磁波を放射する電磁波源を含み、媒質中で散乱される電磁波を媒質に照射する第1の照射ユニットと、媒質中のある特定の位置で電磁波の周波数を変調するために媒質へ超音波を照射する超音波装置と、変調された電磁波と参照波との間の干渉により生成される干渉パターンに対応する情報を記録するために参照波をホログラフィック材料に照射する第2の照射ユニットとを含む。第1の照射ユニットは、ホログラフィック材料に情報が記録された後、媒質中の前記位置を照射する再構成波が発生するように、ホログラフィック材料を照射するように構成される。
【0015】
本発明の別の側面としての装置は、媒質中で散乱される電磁波を媒質に照射するための第1の電磁波源を含む第1の照射ユニットと、媒質中のある特定の位置で電磁波の周波数を変調するために媒質へ超音波を照射する超音波装置と、変調された電磁波と参照波との間の干渉により生成される干渉パターンに対応する情報を記録するために参照波をホログラフィック材料に照射する第2の照射ユニットと、ホログラフィック材料が媒質中の前記位置を照射する再構成波が発生するように、ホログラフィック材料を照射する第2の電磁波源を含む第3の照射ユニットとを含む。
【0016】
本発明の別の側面としての方法は、媒質中で散乱され且つ媒質中のある特定の位置で周波数変調される電磁波を媒質に照射することと、変調された電磁波と参照波との間の干渉により生成される干渉パターンに対応する情報を取得することと、取得された情報に基づいて、媒質を照射する位相共役波を発生することとを含む。
【0017】
本発明の別の側面としての装置は、媒質中で散乱される電磁波を媒質に照射するために電磁波を放射する電磁波源を含む照射装置と、媒質中のある特定の位置で電磁波の周波数を変調する変調器と、変調された電磁波と参照波との間の干渉により生成される干渉パターンに対応する情報を取得する検出器と、取得された情報に基づいて、媒質に照射される位相共役波を発生する発生器とを含む。
【0018】
本発明の更なる特徴は、添付の図面を参照して以下の例示的な実施形態の説明を読むことにより明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A】図1Aは、散乱媒質中の多重散乱光を示す図である。
【図1B】図1Bは、散乱媒質中の周波数シフト光の「再放射」を示す図である。
【図1C】図1Cは、散乱媒質中の光の集光を示す図である。
【図2A】図2Aは、第1のステップ(記録プロセス)の構成を示す図である。
【図2B】図2Bは、第2のステップ(照射のための再生プロセス)の構成を示す図である。
【図3A】図3Aは、例示的な実施形態における第1のステップの構成を示す図である。
【図3B】図3Bは、例示的な実施形態における第2のステップの構成を示す図である。
【図4】図4は、別の例示的な実施形態の構成を示す図である。
【図5】図5は、例示的な操作フローを示す図である。
【図6】図6は、別の例示的な実施形態の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、添付の図面を参照して本発明に係る実施形態を説明する。
【0021】
図1Aは、散乱媒質101内部の光の多重散乱及びある特定位置102を示す。特定位置102において、入射光100の周波数は変調さる。散乱粒子199を含む散乱媒質101に入射光100が入射すると、光100は、媒質101内部を伝播する間に多重に散乱され、最終的には散乱光103として媒質101の表面から射出する。このとき、入射光100の一部は位置102に到達し、その位置102で周波数変調される。例えば、位置102において入射光100の周波数を変調するために超音波を使用することができる。あるいは、超音波の代わりに媒質中の局所位置で入射光の周波数を変調できる手段も利用可能である。
【0022】
音響光学イメージング又は超音波変調トモグラフィと呼ばれる技術において、散乱媒質101に超音波が照射された場合、媒質の屈折率の変調、加えて、散乱媒質101中の散乱体の変位が、印加された超音波の周波数で誘起される。超音波が照射された領域である媒質101中の位置102に、入射光100の一部が到達すると、その光の位相は超音波の周波数により変調され、その結果、その光の周波数がシフトされる。
【0023】
図1Bは、媒質101中における相互作用(周波数シフト)された光104の発生及び伝播を示す。相互作用された光104の周波数は、超音波の周波数によりシフト(変調)される。従って、この光104の周波数は、入射光100や、超音波の変調を受けていない散乱光103の周波数とは異なる。超音波照射領域である位置102から発生した周波数がシフトされた光(周波数シフト光)104は、多重散乱を受けつつ伝播し続け、媒質101から射出する。
【0024】
別の視点から見ると、散乱媒質101中の超音波照射領域102に、周波数が入射光とは異なる光を発生する別の光源が存在するかのように考えることができる。この周波数シフト光104は、明らかに超音波照射領域102から発生する。
【0025】
この周波数シフト光104に対応する波面が記録され、且つその位相共役光105によって再生されると、この位相共役光は、その軌跡をたどって位置102に向かうように再伝播し、図1Cに示されるように位置102に到達する。位相共役光(或いは、再構成波、位相共役波)を実現するために、ホログラフィを使用することができる。ホログラフィにおいて、変調光と参照波との干渉により生成された干渉パターンをホログラフィック材料に記録することができる。或いは、干渉パターンは、CCDセンサ及びCMOSセンサなどの光検出器により検出されてもよい。光検出器により干渉パターンを検出する技術は、デジタルホログラフィとも呼ばれ、位相共役波は、取得した干渉パターンに対応する情報に基づいて生成される。例えば、干渉パターンがホログラフィック材料に記録される場合、本明細書の後半で説明されるように、位相共役波はポンプ光により生成される。これに対し、CCDなどのアレイセンサにより情報が取得される場合、位相共役波は、第4の実施形態で説明されるように、空間光変調器などの発生器を使用して発生される。
【0026】
散乱媒質中に光を集光させる照射方法は、一般的に2つのステップを含む。第1のステップは記録ステップであり、第2のステップは再生(再構成)ステップである。
【0027】
図2Aは、第1のステップの構成を示す概略図である。コヒーレント光源200から放射された光は、ビームスプリッタ201により入射光211及び参照光212に分割される。通常、光源200より放射される光の波長は、可視光(可視光線)から近赤外線(近赤外線光線)の範囲を用いる。例えば、400nm〜1,500nmなどの約380nm〜約2,500nmの範囲の波長を放射する電磁波源が光源200として使用する。
【0028】
音響光学素子(AOM)202及び204などの外部変調器は、それぞれ個別の周波数で駆動され、その2つのAOMの周波数差が超音波システム207により印加される超音波の周波数とほぼ等しくなるように調整される。例えば、AOM202の周波数がf(=70MHz)であり且つ超音波の周波数がf(=2MHz)である場合、AOM204の周波数fは、f+f(=72MHz)となる。入射光211はAOM202を通過し且つ参照光束212はAOM204を通過する。
【0029】
或いはこの2つのAOMの変調周波数を調整する別の方法として、AOM202を入射光211の光路ではなく参照光212の光路に配置してもよい。この場合、参照光212は2つのAOMを通過するのに対し、入射光211はAOMを通過しない。第1のAOMの周波数は、例えば、f=−70MHzに設定し、且つ第2のAOMの周波数は、f+f=2MHz、すなわち、f+fが超音波の周波数f(=2MHz)と同等になるようにf=+72MHzに設定してもよい。あるいは、2つのAOMは、これと同一の周波数設定で、参照光212の光路ではなく入射光211の光路に配置されてもよい。
【0030】
超音波装置207は、超音波を媒質に照射し、超音波集束領域208を形成する。超音波集束領域208のサイズ及び位置は事前に決定されていてもよい。また、縦方向(超音波伝搬方向)に小さな集束領域を実現するためにパルス超音波を照射することも可能である。超音波のパルス幅は、超音波集束領域208のサイズ及び、散乱媒質209中の超音波の速度に応じて設定される。更に、ストロボ照射を用い、光源200からの光の照射のタイミングを、集光させる領域に超音波パルスが到達したタイミングと同期させ、超音波パルスがその集光させる位置にいる期間、光を照射させてもよい。媒質209中のある特定位置に集光領域を設定するために、集束超音波を用いることができる。
【0031】
可動ミラー203は、入射光211が散乱媒質209に入射するように、制御され且つ調整される。第1の照射ユニットは、媒質209を照射するための光源200を含み、光源200の出力を制御するためのオプションのコントローラを含むシステムを備えてもよい。散乱媒質209内部では、入射光211は多重散乱され、その散乱光の一部は超音波集束領域208に到達し、その領域208で超音波との相互作用が引き起こされる。
【0032】
超音波集束領域208から、光と超音波との相互作用の結果、周波数シフト光が再放射される。周波数シフト光、及び非周波数シフト光が少なくとも一部は後方に散乱され、入射光211が入射した媒質209の表面から射出される。媒質209の表面から射出される信号光は、散乱波面210として示されている。周波数シフトされた信号光による散乱波面は、入射光211が入射した場所とは異なる位置からも射出される。この散乱波面210はホログラフィック材料206に入射する。
【0033】
AOM204により周波数シフト光と同一の周波数を有するように調整された参照光212は、ミラー205により反射されてホログラフィック材料206に照射される。第2の照射ユニットは、ホログラフィック材料206を照射するためのミラー205などの光学系を備えていてもよい。
【0034】
相互作用光(周波数シフト光)及び非相互作用光(非周波数シフト光)の双方を含む信号光と参照光212と干渉により、ホログラフィック材料206の内部で干渉縞が形成される。この干渉縞は主に2つの成分から構成される。一つは、非周波数シフト光と参照光212との間の干渉成分で、もう一方は、周波数シフト光と参照光212との間の干渉成分である。
【0035】
異なる周波数の光により形成される前者の干渉成分は、ビート周波数の速度で移動し、そのビート周波数は超音波装置207に印加される周波数と同じである。通常、この速度は非常に速いので、干渉縞は平均化され、ホログラフィック材料206の内部に記録されない。一方、同一の周波数の光により形成される後者の干渉成分は、ホログラフィック材料206の内部に静止した静的な干渉パターン(ホログラム)を形成する。
【0036】
ここで、非周波数シフト光を排除し、周波数シフト光を効率的に回収してホログラムを形成するために、バンドパスフィルタを用いてもよい。例えば、ファブリ‐ペロ干渉計、又は低温冷却のスペクトルホールバーニング結晶などが挙げられる。また、ホログラフィック材料206の代わりにCCDセンサ又はCMOSセンサなどのアレイセンサを使用して、干渉パターンによる情報を取得してもよい。
【0037】
以上より、局所的な超音波集束領域208から発生する周波数シフト光によって、静的なホログラムがホログラフィック材料206に形成される。つまり、参照光と周波数シフト光との干渉に対応する情報をホログラフィック材料206に記録することができる。
【0038】
位相共役光は時間可逆的に、記録プロセスにおける軌跡をたどって再伝播することができるので、このようにして記録された波面の位相共役は、超音波集束領域208に戻るように伝播することができる。つまり、周波数シフト光の位相共役である入射光(再生光)は散乱媒質209中の局所領域208に集光される。
【0039】
図2Bは、局所領域208に照射を行うための再生ステップである第2のステップの構成を示す概略図である。
【0040】
図2Bに示されるように、光源200により放射された光は、最終的には、参照光212の方向に対して実質的に逆の方向からポンプ光213としてホログラフィック材料206を照射する。あるいは、第3の実施形態で説明されるように、光源200の代わりにポンプ光を供給する別の光源を用いることもできる。第1の照射ユニットは、ホログラフィック材料に情報が記録された後、散乱媒質209を通過することなくホログラフィック材料に照射するように構成される。ポンプ光213は連続波又はパルス波であってもよい。
【0041】
このポンプ光は、ホログラフィック材料206の内部で記録波面の位相共役波210’を発生させる。位相共役波210'は、散乱媒質209に向かって伝播し、媒質209に入射する。この位相共役波210’は、記録ステップにおいて散乱媒質209内部でたどった軌跡に沿って再伝播し、超音波集束領域208まで戻ることができる。結果として、この局所領域208は位相共役光210'により集光される。つまり、ホログラフィック材料によって、媒質中の当該局所領域を照射する再構成波を発生し、その再構成波は、媒質209中の局所領域208の位置へ伝播する位相共役波から構成される。さらに、再構成波の強度を制御するコントローラがあって、再構成波の強度が超音波による変調光210を得るために使用される入射光211の強度とは異なるように、再構成波の強度を制御してもよい。コントローラは、例えば、再構成波が変調光210を得るために使用される入射光211の強度より小さく、或いは大きくなるように、光の強度を調整する。さらに、媒質からの信号を検出するために、光検出器、或いは超音波検出器、若しくはその両方を用いることができる。この検出器を用いて、再構成波による媒質209の照射に応じて媒質209から発生される信号を利用して、断層影画像(トモグラフィーイメージ)を形成することも可能である。このようにこの検出器は、このようなトモグラフィーイメージを生成する、画像生成ユニットであってもよい。
【0042】
超音波集束領域208の特性(例えば、領域のサイズ、形状、位置)は、超音波装置207及びその制御ユニット(図示せず)により制御可能である。この特徴は、実用面において極めて重要となる。つまり、ある特定の局所領域へ再伝播することが可能な位相共役波を発生させ、散乱媒質内部のその局所領域は制御することができる。多重散乱光を扱うイメージングにおいて、本実施形態を照射装置又は照射方法のいずれかとして適用することにより、出力画像の信号対雑音比(SNR)を向上させることができる。更に、本実施形態は、散乱媒質中で光を集光させることにより、同イメージング手法の測定深度を向上させることも可能である。この照射方法は、様々な種類のイメージング手法及び散乱媒質中で光を集中させることが要求される他のいろいろな装置に適用可能である。また、ポンプ光213のエネルギーは、ホログラムを形成するために使用される記録時の光のエネルギーより低くなるように任意に調整されてもよい。
【0043】
ここで、散乱媒質は、例えば、生体組織又は他の何らかの混濁媒質又は無秩序なランダム物質であってもよい。
【0044】
ホログラフィック材料206は、従来の乳濁液、あるいはニオブ酸リチウム、ヒ化ガリウム、BSO(酸化ビスマスケイ素)などのフォトリフラクティブ結晶、又は、例えば米国特許第6,653,421号公報に記載されるフォトリフラクティブポリマーであってもよい。更に、後に示されるデジタルホログラフィ技術も適用可能である。
【0045】
周波数シフト光の強度は、位相共役波を発生するためのホログラムを生成するのに十分大きく、この強度は、媒質の位置及び散乱媒質209中における超音波集束領域208のサイズによって決まる。また、散乱媒質209の比較的深い位置に光を集光させる一つの手段として、最初は、比較的浅い領域に超音波集束領域を設定して、ホログラムを形成するための周波数シフト光が相対的に容易に検出されるように、超音波集束領域208を設定してもよい。
【0046】
次のステップとして、超音波集束領域208を少しだけ媒質中の深い位置に設定し、そこでまだ検出可能な周波数シフト光を検出する。しかし、入射される再生光は光を集光するのに十分なほどには最適化されていないが、通常の照射よりもよい集光効果が期待できる。ここで新たにホログラムが形成された後、入射する位相共役波を散乱媒質中のこの新たなポイントに集光することができる。このステップを繰り返すことにより、散乱媒質中の比較的深い位置に焦点を設定することができる。
【0047】
或いは、ホログラムを形成するのに十分大きなサイズの超音波集束領域から始めて、その超音波集束領域を所定の大きさまで徐々に縮小するようにステップを繰り返すことで、散乱媒質中の深い位置に焦点を設定してもよい。
【0048】
更に、例えば、本実施形態を使用して、異常組織領域をイメージングする(モニタする)、又は治療するような医療分野へ適用する場合、X線、MRI、超音波、或いは他の何らかの診断結果など、他のモダリティにより提供される事前情報を利用することにより、超音波集束位置をその異常領域に設定することも可能である。
【0049】
以下に、本発明の第1の実施形態に係る照射装置及び照射方法を説明する。図3A及び図3Bは、記録ステップ(図3A)及び再生ステップ(図3B)の例示的な構成をそれぞれ示す概略図である。
【0050】
第1の実施形態は音響光学イメージング技術を含む。図3Aに示されるように、レーザー300から放射された光は、ビームスプリッタ301により入射光314及び参照光315に分割される。入射光314はAOM302に入射し且つ参照光315はAOM305に入射する。この2つのAOMの周波数は、通常、それぞれ50MHz〜80MHzであり、両者の周波数がわずかに異なり、その差が超音波システム311に印加される約1〜数十MHzの範囲の周波数に等しい。このAOMの役割は、先に説明した役割と同一である。
【0051】
レンズシステム303は入射光314の大きさを制御し、可動ミラー304は散乱媒質312の表面上における入射点を制御する。入射光314が散乱媒質312に入射すると、光は媒質312の内部で多重散乱される。
【0052】
音響的に媒質312に整合された超音波システム311は、散乱媒質312中のある特定位置に、通常数mmの大きさのフォーカス領域313を形成するように操作される。超音波システム311は、例えば、リニアアレイ探触子を含む。従って、アレイ探触子を用いた電子フォーカスによって、散乱媒質312の内部の任意の位置に超音波集束領域313を生成する。あるいは、円形凹形面超音波トランスデューサや音響レンズを用いたトランスデューサを機械的に走査して、超音波集束領域313を所望の位置に配置してもよい。トランスデューサとしては、圧電現象を利用するトランスデューサ、光の共振を利用するトランスデューサ、容量の変化を利用するトランスデューサなどが利用可能である。
【0053】
入射光314の少なくとも一部は超音波集束領域313に到達し、そこで超音波と相互作用する。相互作用を受けた光の一部は元の方向に反射されて、周波数シフト光316として散乱媒質312から射出する。射出された散乱光は、レンズシステム310によって、フォトリフラクティブ結晶などの動的ホログラムデバイス307に集められる。
【0054】
例えば、フォトリフラクティブ結晶は、十分な回折効率を得るために数mm〜数cmの範囲の大きさで、数百μm以上の厚さを有するニオブ酸リチウムを用いてもよい。
【0055】
周波数シフト光316と同一の周波数を有する参照光315は、ミラー306を介してフォトリフラクティブ結晶307を照射し、参照光と周波数シフト光316とが干渉する。その結果、周波数シフト光の波面は、フォトリフラクティブ結晶307に静的な屈折率格子として記録される。
【0056】
ホログラムの形成後に引き続きフォトリフラクティブ結晶307を参照光315が照射することにより、参照光は順方向ポンプ光として作用する。順方向ポンプ光315は、フォトリフラクティブ結晶307の中で成形された屈折率格子により回折される。この回折光及びフォトリフラクティブ結晶307を透過した周波数シフト光316は互いに干渉し、例えば、米国特許出願第2008/0037367号公報に開示されるように、集光レンズシステム308を介して、この干渉を光検出器309で検出できる。光検出器309に関しては、光電子増倍管(PMT)又はアバランシェフォトダイオード(APD)などの単一のセンサを用いることができる。あるいは、CCD又はCMOSなどのマルチセンサを用いてもよい。光検出器309は、ホログラフィック材料をモニタするために使用することも可能である。
【0057】
ホログラムが形成されると、光検出器309からの出力が増加し、ホログラムの形成後、その出力信号は増加しない。従って、この出力信号をモニタすることにより、フォトリフラクティブ結晶307内のホログラムの形成を確認できる。
【0058】
その一方で、図3Bに示されるように、可動ミラー304が角度を変えることで、入射光317が順方向ポンプ光315の方向とは実質的に逆の方向からフォトリフラクティブ結晶307に入射する。この入射光317は逆方向ポンプ光として作用し、フォトリフラクティブ結晶307中に刻まれた波面の位相共役(位相共役波)が発生する。この位相共役光318はレンズシステム310を介して伝播し、散乱媒質312に入射する。
【0059】
位相共役光318は、散乱媒質312中を超音波集束領域313までその軌跡を再伝播することができるので、より多くの光がこの超音波集束領域313に入射して、超音波との相互作用を引き起こすことができる。従って、図3Bに示すように、この局所領域313からより多くの周波数シフト光316が再放射され、フォトリフラクティブ結晶307を介してレンズシステム308、310及び光検出器309によって検出される。その結果、音響光学イメージングの信号である周波数シフト光の強度を向上させることができる。
【0060】
ここで、上記の測定処理を通して、超音波システム311は超音波を送信し続けて集束領域313を形成し、参照光315が順方向ポンプ光としてフォトリフラクティブ結晶307を照射し続けてもよい。同時に、位相共役光318を発生させるために、逆方向ポンプ光317は、ポンプ光315とは逆の方向からフォトリフラクティブ結晶307を照射し続けてもよい。
【0061】
この種の動的ホログラフィを用いた手法において、フォトリフラクティブ結晶307に刻まれたホログラムは、周波数シフト波面の変化に応じて自己適応的に対応して変化する。この適応変化するホログラムによって、媒質312内部でわずかに散乱が変化しても、逆方向ポンプ光317により発生する位相共役光318は光を集光することができる。特に生体組織の場合、主に生体活動によって、散乱体の位置などの散乱条件は、時間の経過に伴い変化する。したがって、再生ステップにおける周波数シフト光の波面と記録ステップにおける波面とが異なるような場合、この動的ホログラムによる自己適応性は、位相共役を発生するに際して効果的である。
【0062】
図3Aの入射光314又は位相共役光318の強度はモニタされ、且つ光が散乱媒質に入射する手前でその強度を調整することができる(図3A及び図3Bには図示せず)。例えば散乱媒質が生体組織である場合、安全性を考慮してレーザー300の出力を最大許容露光量以下に保ちつつ、ホログラムを形成するため、光検出器309で確認しながら十分な周波数シフト光が得られるように、レーザー300の出力を確保して制御することができる。
【0063】
更に、このシステムは記録プロセスと再生プロセスとで光の強度を変化させてもよい。例えば、ホログラムを形成するのに十分な周波数シフト光316を取得するために、最初は比較的強い強度の光を放射してホログラムを形成する。次の再生ステップでは、集光効果によって十分なSNR(信号対雑音比)を保持しつつ電力消費を抑えるために、比較的強度を抑えた逆方向ポンプ光317を用いて位相共役光318を発生させてもよい。
【0064】
更に、散乱媒質312の内部の超音波集束領域313は走査されてもよく、各位置の領域に対して上記の処理が順次実行されることにより、例えば、米国特許第6,957,096号公報に記載されるような媒質312内部の吸収及び散乱などの光学特性の分布を得ることもできる。画像生成ユニット(図示せず)は、対応する集束領域313の位置に応じて、それらの光学特性をマッピングすることにより、光学特性の3次元空間分布を生成することも可能である。また、再構成波の照射に応答して媒質から出力される信号を検出するために、光検出器が使用されてもよい。
【0065】
更に、上述の処理は、レーザー光源300の複数の所望の波長を使用し、必要に応じてフォトリフラクティブ結晶307を変えて実行されてもよく、医療応用において、散乱媒質312が生体組織である場合、上述の処理は、散乱媒質312の構成要素、例えば、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビン、水、脂肪、コラーゲンなどの成分比率や、媒質312の酸素飽和度などの機能情報を取得することも可能である。ここで、先行技術文献である2004年5月18日発行のSfez他の米国特許第6,738,653号公報及び2008年2月14日発行のGross他の米国特許出願公開第2008/0037367号は、本明細書に余すところなく完全に述べられているものとして全体の内容が本願の開示の一部として取り込まれる。
【0066】
次に、本発明の第2の実施形態に係る照射装置及び照射方法を説明する。本実施形態の撮像システムの構成は、散乱媒質312の周囲に光検出器が追加されること(図示せず)を除いて、図3A及び図3Bに示される第1の実施形態における撮像システムの構成と同一である。第2の実施形態の撮像システムは、拡散光トモグラフィ(DOT)と呼ばれる技術を含む。
【0067】
フォトリフラクティブ結晶307にホログラムが形成されるまでは、第1の実施形態のフローと同一である。フォトリフラクティブ結晶307にホログラムが形成されると、逆方向ポンプ光317はフォトリフラクティブ結晶307を照射し、位相共役光(位相共役波を含む)318を発生させる。この時、DOT測定を実行するために超音波システム311は停止されてもよい。
【0068】
この位相共役光318が散乱媒質312に入射すると、位相共役光318は超音波集束領域313まで戻り、更に、元の入射点まで戻る。散乱媒質312の周囲に適切に配置された光検出器は、媒質から射出される散乱光を検出する。DOTにおいて使用される技術を利用しつつ、超音波集束領域313の位置を制御することにより、散乱媒質312中の光の伝播経路を制限又は減少させることが可能である。従って、この撮像システムは、DOTにおける課題の1つである不良設定問題を緩和するのに有効となる。本実施形態で説明しているように、散乱媒質のある1点に光が集光される場合、集光照射に応答して媒質から出力される信号を比較的容易に解析することができる。
【0069】
入射光点を変化させながら上記の測定プロセスを繰り返すことにより、本システムは、DOTと同様に、吸収などの光学特性の内部分布を画像再構成するために必要なデータを取得することができる。画像形成システム(図示せず)は、測定データに基づいて画像再構成を行い、媒質312内部の吸収特性及び散乱特性の分布に関する3次元画像を生成する。
【0070】
第1の実施形態の場合と同様に、測定を複数の波長で実行してスペクトル情報を取得し、生体組織の機能情報を抽出することも可能である。
【0071】
ここで、照射ステップでパルスレーザーを使用し且つ時間相関光子計数システム(図示せず)を使用することにより時間領域測定(time-domain法)を実行すること、又はレーザー300の出力の強さを変調し且つ例えばロックイン検出システム(図示せず)を使用することにより周波数領域測定(frequency-domain法)を実行することが可能である。先行技術文献である1995年8月15日発行のTsuchiyaの米国特許第5,441,054号公報、1995年12月19日発行のTsuchiyaの米国特許第5,477,051号公報、1996年5月21日発行のTsuchiyaの米国特許第5,517,987号公報及び1995年6月13日発行のTromberg他の米国特許第5,424,843号公報は、本明細書に余すところなく完全に述べられているものとして全体の内容が本願の開示の一部として取り込まれる。
【0072】
本発明の第3の実施形態に係る照射装置及び照射方法を説明する。図4は、本実施形態に係る照射装置を有する撮像システムの例示的な構成を示す概略図である。本実施形態のシステムは、組み合わされた2つのシステム、すなわち音響光学イメージングシステム及び光音響イメージングシステムを含む。
【0073】
レーザー源400(第1の照射ユニットの一部としての第1の電磁波源)から光が放射され、ビームスプリッタ401により入射光415及び参照光416に分割される。AOM402及びAOM405は、先に既に説明したように周波数を調整するという同じ役割を果たす。入射光415は光学系406を介して散乱媒質409に入射する。
【0074】
超音波装置を含む超音波システム407は、散乱媒質409と音響的に整合されていて、散乱媒質409内部の超音波集束領域408について、サイズ及び位置について制御する。局所ボリューム408から発生する周波数シフト光417の少なくとも一部は、散乱媒質409から射出し且つフォトリフラクティブ素子410に入射し、ミラー403及び404(第2の照射ユニットの一部)から反射された参照光416と干渉することによりホログラムを形成する。
【0075】
フォトリフラクティブ素子410の中でホログラムが形成されている間、第1の実施形態に関して先に説明したのと同様にホログラムの形成を確認するために、周波数シフト光である音響光学信号418は、集光レンズ系411を介して光検出器412によりモニタされてもよい。この時点で、この周波数シフト光信号はメモリ(図示せず)に格納され、後に画像を再構成するために使用される。
【0076】
ホログラムの作成が完了した後、光音響イメージングのためのパルスレーザー源414(第2の電磁波源)を備える第3の照射ユニットは、数ナノ秒のパルス光を放射する。パルス光は、参照光416とは実質的に逆の方向からフォトリフラクティブ素子410を照明し、それにより、フォトリフラクティブ素子410に刻まれた周波数シフト波面の位相共役が発生される。位相共役光(位相共役波を含む)419は、散乱媒質409に戻るように伝播する。
【0077】
光音響信号を検出するために、超音波システム407は、送信モードで使用された焦点設定を変更することなく送信モードから受信モードへ動作モードを変更することができる。
【0078】
入射位相共役光419は、散乱媒質409中の局所領域408まで軌跡を再伝播することができるので、この入射光419は、光音響イメージングにおける測定領域である局所領域408に集光できる。
【0079】
局所領域408で吸収された光のエネルギーにより、局所的な温度上昇を引き起こされ、その結果、この局所領域の体積が膨張し、音響波(光音響信号)が発生される。式(1)によれば、光音響信号Pは、その位置における局所的な吸収係数μ及び光フルエンス率Φに比例する。
【0080】
P=ΓμΦ (1)
式中、Γはグリュナイゼン係数(熱-音響変換効率)である。
【0081】
従って、光フルエンス率が大きくなれば、より大きな光音響信号が発生される。入射位相共役光419は局所領域408に集光できるので、この局所領域408からより大きな光音響信号が発生される。局所領域408を受信モードでフォーカスするように設定されている超音波システム407は、その領域408から発生された光音響信号を検出する。或いは、その代わりに又はそれに加えて、再構成波419による照射に応じて散乱媒質409から出力される信号を検出するために、別の超音波検出器が設けられてもよい。
【0082】
図5は、このシステムの例示的な動作フローを示す。まず、S500において、集束領域のサイズ又は位置などの超音波システム407のフォーカスに関するパラメータ条件が設定され、次に、超音波システム407は、パルス超音波を送信し、集束領域408を形成する。S501において、レーザー400は光を放射する。
【0083】
S502において、音響光学イメージングにより、音響光学信号(周波数シフト光)が光検出器412でモニタされ、S503において、光検出器412は、ホログラムの作成が完了したか否かを確認する。S502及びS503の処理は、ホログラムの作成が確認されるまで繰り返されてもよい。更に、ホログラムの完成後にS504へ進む前に、音響光学信号が格納されてもよい。
【0084】
ホログラムが形成された後、S504において、レーザー400の動作は停止され且つ超音波システム407の動作モードは送信モードから受信モードに変更される。その後、S505において位相共役光419を発生するために、レーザー414は、フォトリフラクティブ素子410に向かって参照光416と実質的に逆の方向にパルス光を放射する。S506において、光音響信号は超音波システム407により検出される。
【0085】
これは例示的な基本動作フローであり、光音響イメージングの測定位置を変更する必要がある場合、超音波システムは、フォーカス位置を変更し、S500に戻って、フロー全体(S500〜S506)を繰り返してもよい。
【0086】
測定に続いて画像生成処理を実行することも可能である。画像生成ユニット(図示せず)は、上記のデータを使用することにより3次元画像を再構成してもよい。画像生成ユニットは、光音響測定により得られた吸収信号を超音波集束領域408の位置に従ってマッピングする。この時、S503で格納された音響光学信号が読み出され、散乱分布画像を同様に生成する。光音響信号は吸収特性に感度がよく、音響光学信号は散乱特性に感度がよいので、2つの測定結果を組み合わせることにより吸収分布画像及び散乱分布画像を生成できる。
【0087】
更に、S500の前にもう1つステップを追加することが可能である。すなわち、超音波システム407からパルス超音波が送信され、反射波として作用する超音波エコーが超音波システム407により受信されてもよい。この超音波エコー測定は、パルス超音波が送信される方向を散乱媒質409に対して変えながら実行されてもよく、それにより、散乱媒質409の内部に関する構造データが取得される。超音波エコー測定により取得された構造データを利用することにより、例えば、超音波集束領域408を、エコー画像の中で特徴的な差が見られる位置に設定することができる。
【0088】
あるいは、S503で取得され且つ格納された音響光学信号を解析することにより、光音響イメージングの測定点を選択することも可能である。まず最初に、光音響システムにより測定されるべき領域を特定するために、音響光学イメージングシステムが使用されてもよい。音響光学信号で顕著な変化が見られた場合、光音響イメージング用のレーザー414はパルス光を放射する。あるいは、超音波集束領域408を決定する際に、特徴的な領域を探し出すために音響光学イメージングシステムの代わりに、光音響イメージングシステムを使用することも可能である。
【0089】
本実施形態の撮像システムは、図3A及び図3Bに示される構成によって実現されてもよい。その場合、光源ユニット300は、少なくとも2つの異なるレーザーから光を放射する。一方のレーザーは音響光学システムのレーザーであって、他方は光音響システムのパルスレーザーであってもよい。それらのレーザーは、記録ステップと再生ステップとの間で互いに切り替えられてもよい。
【0090】
このように光音響イメージングの測定領域に光を集光することにより、光音響イメージングの測定深度及びSNRを向上することが可能である。先行技術文献である1983年5月31日発行のBowenの米国特許第4,385,634号公報、1998年11月24日発行のOraevsky他の米国特許第5,840,023号公報及び1998年2月3日発行のKrugerの米国特許第5,713,356号公報は、本明細書に余すところなく完全に述べられているものとして全体の内容が本願の開示の一部として取り込まれる。診断のためにより鮮明な画像又はより有用な画像を得るために、音響光学イメージングシステム及び光音響イメージングシステムの2つのシステムの組み合わせを含むイメージングシステムが実現されてもよい。
【0091】
本発明の第4の実施形態に係る照射装置及び照射方法を説明する。図6は、ランダム散乱物質中の特定の位置へ光を送るための光照射装置の例示的な構成を示す概略図である。
【0092】
レーザー源600を備える照射装置から放射された光は、ビームスプリッタ601により入射光616及び参照光617に分割される。レンズシステム606は、物質607を照射するために入射光616を拡大する。参照光617の周波数を調整可能にするように、参照光617の光路にAOM603及び604と、ミラー602及び613とが配置される。
【0093】
超音波システム609を備える変調器は、物質609に音響的に整合され且つ超音波を照射する。物質607の中に、超音波システム609により超音波集束領域608が形成される。
【0094】
先に既に説明したように、集束領域608から発生した周波数シフト光619の一部は、物質607の表面から射出し、CCDセンサ612を備える検出器までレンズシステム610及びビームスプリッタ611を介して誘導される。この場合、CMOSセンサ又はイメージインテンシファイアを有するエリアセンサ、あるいはEMCCD(電子増倍CCD)も適用可能である。参照光617は、ミラー605により反射されてCCD612に到達し、最終的には、CCD612における参照光617と周波数シフト光619との間の干渉に基づくホログラムを形成する。
【0095】
このシステムには処理ユニット(図示せず)が設けられる。この処理ユニットは、デジタルホログラフィ技術を利用して、位相共役(位相共役波)と同等の再構成光を発生するために、liquid crystal on silicon(LCOS)などの空間光変調器(SLM)614を備えた発生器を制御する。
【0096】
周波数シフト光の干渉像は、位相シフトデジタルホログラフィ技術により得られてもよい。CCDE612の面に、非周波数シフト光、周波数シフト光及び参照光が入射している。参照光の周波数(f)は、例えば、下記の式に従って、AOM603及び604を調整することにより調整される。
【0097】
=f+f+f/N (2)
式中、fは非シフト光の周波数であり、fは超音波の周波数であり、fはCCD612のフレームレートであり且つNは位相シフト方法の測定回数である。CCD612はローパスフィルタとして作用するので、主に周波数シフト光619と参照光617との間の干渉像の成分が干渉縞を生成し、この成分は時間の経過に伴ってゆっくりと変化するため、CCD612が干渉像(デジタルホログラム)を効率よく検出できる。
【0098】
デジタルホログラムの画素ごとに検出される周波数シフト光の位相を、位相シフト法により計算することによって、位相分布が得られる。処理ユニットは、デジタルホログラムにより得られた位相分布に従ってSLM614の各画素の位相値を設定する。この時、CCD612とSLM614との間の光路長差や、又は他のシステムエラーは校正され、位相値が補正されてもよい。あるいは、CCD612及びSLM614は、物質607の射出面からそれらの素子までの光路長が同一になるように配置されてもよい。
【0099】
SLM614は、レーザー615により放射される光の位相を変調する。この位相変調により、位相共役と同等である再構成光618が発生され、再構成光618は、物質607中の超音波集束領域608まで軌跡を再伝播して戻ることができる。SLM614により生成される再構成光618は、物質607に照射されるように構成される。物質内部の画像を生成するために装置が使用される場合、先に他の実施形態で説明したように、再構成光618による物質の照射の結果、物質から出力される信号を検出して、画像を形成してもよい。
【0100】
CCD612がSLM614より多くの数の画素を有する場合、CCD612とSLM614の画素数が等しくなり且つそれらの画素が互いに対応するように、CCD612はビニングを実行してもよい。
【0101】
更に、再構成光の特性を向上させるために、デジタルホログラフィで使用される他の何らかのデジタル技術が適用されてもよい。
【0102】
第4の実施形態において説明した照射装置は、生体組織の光線力学的療法などの治療又は処置にも適用可能である。第5の実施形態のシステムの構成は、図6に示される構成と同一であってもよい。
【0103】
デジタルホログラムが形成され且つSLM614がそのデジタルホログラムに従って位相変調を実行可能な状態になった後、レーザー615は、デジタルホログラムを形成するために使用されるレーザー600から放射される光と比較して相対的に高い強度を有する光を放射してもよい。レーザー615の光出力は、治療に応じて制御されてもよい。
【0104】
更に、治療又は処置の目的に応じて多くの種類のレーザーが適用可能である(例えば、フェムト秒パルスからピコ秒、ナノ秒、マイクロ秒など)。
【0105】
SLM614によって位相が制御される治療用の再構成光618は、超音波集束領域608に到達し、治療が必要とされる組織領域に光エネルギーを供給することができる。超音波集束領域608の位置は、他の診断結果を参照することにより設定されてもよい。
【0106】
本発明に係る実施形態を使用することにより、エネルギー密度の高い光を特定の場所に効率よく、損傷を抑えて供給することが可能である。
【0107】
以上説明した実施形態は、組織の異常などの生化学的情報を取得するために、化学プローブ(分子)を使用する蛍光イメージングにも適用可能であり、例えば蛍光プローブが配置される場所に超音波集束領域を設定することができる。照射のための再生ステップは先に説明したステップと同一であってもよい。また、化学プローブの場所が特定されていない場合、一度に1箇所ずつ照射して、単純に散乱媒質の内部で超音波集束領域を走査してもよい。蛍光プローブが配置されている位置に光を集光させることにより、例えば腫瘍などのターゲットの高コントラスト画像を得ることができる。
【0108】
既に説明したように、本発明に係る実施形態は、種々の光イメージング又は治療、あるいは散乱媒質内部の制御可能な特定の場所に光を集中させることを目的とする装置に適用可能である。
【0109】
本発明に係る実施形態を例示的な実施形態を参照して説明したが、本発明が上述の実施形態に限定されないことを理解すべきである。添付の特許請求の範囲の範囲は、そのような変形並びに同等の構造及び機能をすべて含むように最も広い意味での解釈とみなされるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を放射する電磁波源を含み、媒質中で散乱される前記電磁波を前記媒質に照射する第1の照射ユニットと、
前記媒質中のある特定位置で前記電磁波の周波数を変調するために前記媒質へ超音波を送信する超音波装置と、
前記変調された電磁波と参照波との間の干渉により生成される干渉パターンに対応する情報を記録するために参照波をホログラフィック材料に照射する第2の照射ユニットとを備え、
前記第1の照射ユニットは、前記情報が前記ホログラフィック材料に記録された後、前記媒質中の前記位置で前記媒質に照射される再構成波を前記ホログラフィック材料が発生するように、前記ホログラフィック材料に照射を行うように構成されることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記再構成波は、前記媒質中の前記位置に向かって進む位相共役波であることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記ホログラフィック材料は、前記再構成波を生成するように、前記参照波の方向に対して実質的に逆の方向から照射がなされることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項4】
前記再構成波の強度が前記変調された電磁波を得るために使用される前記電磁波の強度とは異なるように前記再構成波の強度を制御するコントローラを更に備えることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項5】
前記電磁波源は可視光線又は近赤外線を発生することを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項6】
前記ホログラフィック材料をモニタする光検出器を更に備えることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項7】
前記再構成波による前記媒質の照射に応答して前記媒質から出力される信号を検出する光検出器を更に備えることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項8】
前記再構成波による前記媒質の照射に応答して前記媒質から出力される信号を検出する超音波検出器を更に備えることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項9】
前記第1の照射ユニットは、前記ホログラフィック材料にパルス波を照射することを特徴とする請求項8記載の装置。
【請求項10】
前記再構成波による前記媒質の照射に応答して前記媒質から出力される信号を使用して断層撮影画像を形成する画像形成ユニットを更に備えることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項11】
媒質中で散乱される電磁波を媒質に照射するための第1の電磁波源を含む第1の照射ユニットと、
前記媒質中のある特定位置で前記電磁波の周波数を変調するために前記媒質に向かって超音波を送信する超音波装置と、
前記変調された電磁波と参照波との間の干渉により生成される干渉パターンに対応する情報を記録するために参照波をホログラフィック材料に照射する第2の照射ユニットと、
前記ホログラフィック材料が前記媒質中の前記位置で前記媒質に照射される再構成波を発生するように、前記ホログラフィック材料に照射を行うための第2の電磁波源を含む第3の照射ユニットと、
を備えることを特徴とする装置。
【請求項12】
前記再構成波は、前記媒質中の前記位置へ進む位相共役波であることを特徴とする請求項11記載の装置。
【請求項13】
前記ホログラフィック材料は、前記第3の照射ユニットにより前記参照波の方向に対して実質的に逆の方向から、照射がなされることを特徴とする請求項11記載の装置。
【請求項14】
前記再構成波の強度が前記変調された電磁波を得るために使用される前記電磁波の強度とは異なるように前記再構成波の強度を制御するコントローラを更に備えることを特徴とする請求項11記載の装置。
【請求項15】
前記第1の照射ユニットは、可視光線又は近赤外線を発生する電磁波源であることを特徴とする請求項11記載の装置。
【請求項16】
前記ホログラフィック材料をモニタする光検出器を更に備えることを特徴とする請求項11記載の装置。
【請求項17】
前記再構成波による前記媒質の照射に応答して前記媒質から出力される信号を検出する検出器を更に備えることを特徴とする請求項11記載の装置。
【請求項18】
前記再構成波による前記媒質の照射に応答して前記媒質から出力される信号を使用して断層撮影画像を形成する画像形成ユニットを更に備えることを特徴とする請求項11記載の装置。
【請求項19】
媒質に照射を行う方法であって、
媒質中で散乱され且つ前記媒質中のある特定位置で周波数変調される電磁波を前記媒質に照射することと、
前記変調された電磁波と参照波との間の干渉により生成される干渉パターンに対応する情報を取得することと、
前記取得された情報に基づいて、前記媒質を照射する位相共役波を発生することと、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項20】
前記再構成波の強度は、前記変調された電磁波を得るために使用される前記電磁波の強度とは異なることを特徴とする請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記電磁波の周波数は超音波により変調されることを特徴とする請求項19記載の方法。
【請求項22】
前記変調された電磁波の周波数は、前記参照波の周波数と等しいことを特徴とする請求項19記載の方法。
【請求項23】
前記電磁波の波長は380nm〜2500nmの範囲であることを特徴とする請求項19記載の方法。
【請求項24】
前記情報は、ホログラフィック材料を使用することにより取得されることを特徴とする請求項19記載の方法。
【請求項25】
前記情報は、デジタルホログラフィ技術を使用することにより取得されることを特徴とする請求項19記載の方法。
【請求項26】
前記位相共役波による前記媒質の照射に応答して前記媒質から出力される信号を検出することと、前記検出された信号を使用して断層撮影画像を形成することとを更に備えることを特徴とする請求項19記載の方法。
【請求項27】
前記情報が記録されている間に前記ホログラフィック材料をモニタすることを更に備えることを特徴とする請求項24記載の方法。
【請求項28】
前記媒質中の前記位置を深くしていくことを更に備えることを特徴とする請求項19記載の方法。
【請求項29】
電磁波を放射する電磁波源を含み、媒質中で散乱される前記電磁波を前記媒質に照射する照射装置と、
前記媒質中のある特定位置で前記電磁波の周波数を変調する変調器と、
前記変調された電磁波と参照波との間の干渉により生成される干渉パターンに対応する情報を取得する検出器と、
前記取得された情報に基づいて、前記媒質に照射される位相共役波を発生する発生器と、
を備えることを特徴とする装置。
【請求項30】
前記変調器は超音波装置を備えることを特徴とする請求項29記載の装置。
【請求項31】
前記検出器はCCDセンサ又はCMOSセンサを備えることを特徴とする請求項29記載の装置。
【請求項32】
前記発生器は、前記位相共役波を形成する空間光変調器を備えることを特徴とする請求項29記載の装置。
【請求項33】
前記装置は、音響光学イメージングシステムを光音響イメージングシステムと組み合わせるように構成されることを特徴とする請求項29記載の装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−505110(P2013−505110A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−530949(P2012−530949)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【国際出願番号】PCT/US2010/049404
【国際公開番号】WO2011/037844
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】