説明

定着装置および画像形成装置

【課題】剥離部材の耐久性を増大させるとともに、定着画像の画質を向上させることができる定着装置を提供すること、また、該定着装置を備えた画像形成装置を提供すること。
【解決手段】
本発明の定着装置は、熱源を有する定着ローラと、該定着ローラに圧接される加圧ローラと、定着ローラの軸方向かつ定着ニップ部の記録媒体搬送方向下流側に、定着ローラに近接して配設される剥離部材とを備えている。剥離部材は、基材と、該基材の表面側に設けられた被膜とを有するものであり、被膜は、下記式(I)で示される含ケイ素化合物の加水分解縮合物を含む材料で構成されたものである。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置および画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真法を用いる画像形成装置においては、紙等の記録媒体上に転写されたトナー像を定着させる定着装置として、定着ローラと加圧ローラとからなる一対のローラのニップ部に、トナー像が転写された用紙を通過させて、定着ローラによる加熱と二つのローラによる加圧とによりトナー像を用紙に融着させる定着装置が広く用いられている。
一般に、この定着装置においては、記録媒体に融着したトナー像が定着ローラに接触するので定着ローラとしては離型性のよいフッ素系樹脂を表面に形成したローラが使用されている。しかし、このような定着ローラを使用しても、溶融したトナーは軟らかくかつ粘性が高いため定着ローラ表面に付着し易く用紙(記録媒体)が定着ローラに巻き付いてしまう恐れがある。
【0003】
上記のような問題点を解決する目的で、樹脂シートまたは金属シートを基材とし、該基材表面および定着ローラに接触する端縁にフッ素系樹脂層を塗装或いは貼付けにより形成した剥離部材を、定着ローラの回転方向下流側に定着ローラに接触するように配置する提案がなされている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、上記のような定着装置においては、剥離部材を定着ローラに接触させているために、硬質のフッ素系樹脂層により定着ローラを傷つけてしまうという問題を有している。また、フッ素系樹脂は、耐摩耗性に劣るため、比較的短期間でフッ素系樹脂層が摩耗し、基材が露出してしまい、トナーが固着したり、画像すじが発生してしまうという問題を有している。特に、フッ素系樹脂層が塗装により形成されたものである場合、フッ素系樹脂層中に気泡や異物が含まれ易く、これにより、印字不良が発生し易くなるという問題点があった。
【0004】
また、従来においては、定着ローラと加圧ローラとが上下にかつ縦方向に配置されるのが一般的であり、両者のニップ部から排出される記録媒体は重力により定着ローラから離れる方向に力が作用するため、記録媒体が剥離部材によって剥離される度合いは少ない。しかしながら、定着ローラと加圧ローラを略水平状態に配置する場合には、記録媒体は定着ローラ側に巻きつき易くなり、記録媒体は必ず剥離部材に当接されることになり、その使用頻度が増大するため、剥離部材の耐久性をいかにして向上させるかが課題となる。
【0005】
特に、フルカラー画像の定着においては、白黒画像の定着時よりも多量のトナーが重ねて転写されたトナー像を定着しなければならず、剥離時に大きな剥離力が必要であり、剥離部材の耐久性が課題となっている。また、光沢のあるカラー画像の場合には、定着後のトナー画像表面の平滑性をだすことが要求され、そのためにはトナーを十分に加熱溶融して低粘度化させた後に、画像表面を平らにならすことが必要であり、ますます大きな剥離力を必要とするとともに、剥離部材に画像表面を平らにならす機能を保持させることが課題となっている。
【0006】
【特許文献1】特開平11−184300号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、剥離部材の耐久性を増大させるとともに、定着画像の画質を向上させることができる定着装置を提供すること、また、該定着装置を備えた画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の定着装置は、熱源を有する定着ローラと、該定着ローラに圧接される加圧ローラと、前記定着ローラの軸方向かつ定着ニップ部の記録媒体搬送方向下流側に、前記定着ローラに近接して配設される剥離部材とを備え、
前記剥離部材は、基材と、該基材の表面側に設けられた被膜とを有するものであり、
前記被膜は、下記式(I)で示される含ケイ素化合物の加水分解縮合物を含む材料で構成されたものであることを特徴とする。
【化1】

(ただし、式(I)中、Zは、式:−(C2k)O−(前記式中、kは1〜6の整数である)で表わされる単位を含み、分岐を有しない直鎖状のパーフルオロポリアルキレンエーテル構造を有する2価の基であり、R、R’は、それぞれ独立に炭素原子数1〜8の一価炭化水素基であり、X、Yは、それぞれ独立に加水分解性基またはハロゲン原子であり、l、pは、ぞれぞれ独立に1〜5の整数であり、m、nは、それぞれ独立に0〜2の整数であり、a、bは、それぞれ独立に2または3である。)
これにより、剥離部材の耐久性を増大させるとともに、定着画像の画質を向上させることができる定着装置を提供することができる。
【0009】
本発明の定着装置では、前記加圧ローラに近接して配設される剥離部材を備えていることが好ましい。
これにより、加圧ローラ等への記録媒体の巻き付き等を効果的に防止することができる。
本発明の定着装置では、前記加圧ローラ側の剥離部材の先端は、定着ローラ側の剥離部材の先端よりも記録媒体搬送方向下流側に配置されていることが好ましい。
これにより、定着ローラ側の剥離部材の先端と、加圧ローラ表面との間のギャップをより確実に常時一定にすることができる。
【0010】
本発明の定着装置では、前記加圧ローラ側の剥離部材は、基材と、該基材の表面側に設けられ、上記式(I)で示される含ケイ素化合物の加水分解縮合物を含む材料で構成された被膜とを有するものであることが好ましい。
これにより、加圧ローラに溶融したトナーが付着するのを防止し、紙等の記録媒体が加圧ローラに巻き付くのを効果的に防止することができるとともに、記録媒体に形成された印刷部に悪影響を与えるのを効果的に防止することができる。また、剥離部材の耐久性を向上させることができる。
【0011】
本発明の定着装置では、前記基材は、先端部にエッジを有するものであることが好ましい。
これにより、万が一、被膜が摩耗してしまった場合等においても、トナーの固着や画像すじの発生を防ぐことができる。また、その結果、剥離部材の耐久性を向上させることができる。
【0012】
本発明の定着装置では、前記基材と前記被膜との間に、主として無機系酸化物で構成された中間層が設けられていることが好ましい。
これにより、基材と被膜との密着性を特に優れたものとすることができ、剥離部材の耐久性、信頼性を特に優れたものとすることができる。
本発明の定着装置では、前記被膜は、前記含ケイ素化合物を、前記中間層上に真空蒸着させた後に、加水分解縮合させることにより形成されたものであることが好ましい。
これにより、被膜の膜厚の均一性を特に高いものとすることができるとともに、被膜の膜厚が比較的小さい場合であっても、厚さのばらつきを十分に小さいものとすることができる。その結果、基材の特性をより効果的に発揮させつつ、被膜を有することによる効果を得ることができる。
【0013】
本発明の定着装置では、前記被膜は、前記含ケイ素化合物を含むコーティング剤、または、前記含ケイ素化合物と該含ケイ素化合物の部分加水分解縮合物とを含むコーティング剤を、前記中間層上に塗布した後に、加水分解縮合させることにより形成されたものであることが好ましい。
これにより、剥離部材の製造工程において、容易かつ確実に被膜を形成することができる。また、膜厚の比較的大きい被膜であっても、容易に形成することができ、剥離部材の耐久性を特に高いものとすることができる。
【0014】
本発明の定着装置では、前記コーティング剤が、前記含ケイ素化合物、または前記含ケイ素化合物と該含ケイ素化合物の部分加水分解縮合物との混合物:100重量部に対して、加水分解触媒を0.01〜5重量部含むものであることが好ましい。
これにより、耐摩耗性、潤滑性、基材との密着性等の特性を特に優れたものとすることができる。
【0015】
本発明の定着装置では、前記式(I)中のZが、下記式(II)で示されるものであることが好ましい。
【化2】

(ただし、式(II)中、qは1以上の整数である。)
これにより、耐摩耗性、潤滑性、基材との密着性等の特性を特に優れたものとすることができる。
【0016】
本発明の定着装置では、前記一般式(I)中のZが、下記式(III)で示されるものであることが好ましい。
【化3】

(ただし、式(III)中、r、sは、それぞれ独立に1以上の整数であり、かつr+sは、10〜100の整数であり、該式中の繰り返し単位(OC)および(OCF)の配列はランダムである)
これにより、耐摩耗性、潤滑性、基材との密着性等の特性を特に優れたものとすることができる。
【0017】
本発明の定着装置では、前記式(I)中のXおよびYは、それぞれ独立にメトキシ基、エトキシ基、イソプロペノキシ基、または塩素原子であることが好ましい。
これにより、耐摩耗性、潤滑性、基材との密着性等の特性を特に優れたものとすることができる。
本発明の定着装置では、前記被膜の厚さが0.1nm〜5μmであることが好ましい。
これにより、基材との密着性を十分に高いものとしつつ、耐摩耗性、潤滑性等の特性を特に優れたものとすることができる。
【0018】
本発明の定着装置では、前記定着ローラと前記加圧ローラとが略水平状態で配設されていることが好ましい。
これにより、紙等の記録媒体の搬送経路を短縮でき、省スペース化が可能となる。
本発明の画像形成装置は、本発明の定着装置を備えたことを特徴とする。
これにより、長期間にわたって優れた画質の画像を形成することができる画像形成装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の定着装置および画像形成装置の好適な実施形態を添付図面に基づいて説明する。
[画像形成装置]
まず、本発明の画像形成装置の構成について説明する。
図1は、本発明の定着装置を備えた本発明の画像形成装置の全体構成図である。
【0020】
画像形成装置1の装置本体2内には、感光体ドラムで構成される像担持体3が配設されている。この像担持体3は、図示しない駆動手段によって図示矢印方向に回転駆動される。像担持体3の周囲には、その回転方向に沿って、像担持体3を一様に帯電するための帯電装置4と、像担持体3上に静電潜像を形成するための露光装置5と、静電潜像を現像するためのロータリー現像装置6と、像担持体3上に形成された単色のトナー像を一次転写するための中間転写装置7とが配設されている。
【0021】
ロータリー現像装置6は、イエロー用現像装置6Y、マゼンタ用現像装置6M、シアン用現像装置6Cおよびブラック用現像装置6Kが支持フレーム8に装着され、支持フレーム8は図示しない駆動モータにより回転駆動される構成になっている。これらの複数の現像装置6Y、6C、6M、6Kは、像担持体3の1回転毎に選択的に一つの現像装置の現像ローラ6aが像担持体3に対向するように回転移動するようにされている。なお、各現像装置6Y、6C、6M、6Kには各色のトナーが収納されたトナー収納部が形成されている。
【0022】
中間転写装置7は、駆動ローラ9および従動ローラ10と、両ローラにより図示矢印方向に駆動される中間転写ベルト11と、中間転写ベルト11の裏面で像担持体3に対向して配設された一次転写ローラ12と、中間転写ベルト11上の残留トナーを除去する転写ベルトクリーナ13と、駆動ローラ9に対向して配設され、中間転写ベルト11に形成された4色フルカラー像を記録媒体(紙等)上に転写するための二次転写ローラ14とを有している。
装置本体2の底部には給紙カセット15が配設され、給紙カセット15内の記録媒体は、ピックアップローラ16、記録媒体搬送路17、二次転写ローラ14、定着装置19を経て排紙トレイ20に搬送されるように構成されている。
【0023】
次に、上記のような構成の画像形成装置の作用について説明する。
図示しないコンピュータからの画像形成信号が入力されると、像担持体3、現像装置6の現像ローラ6aおよび中間転写ベルト11が回転駆動し、先ず、像担持体3の外周面が帯電装置4によって一様に帯電され、一様に帯電された像担持体3の外周面に、露光装置5によって第1色目(例えばイエロー)の画像情報に応じた選択的な露光がなされ、イエローの静電潜像が形成される。
【0024】
像担持体3上に形成された潜像位置には、イエロー用現像装置6Yが回動してその現像ローラ6aが当接し、これによってイエローの静電潜像のトナー像が像担持体3上に形成され、次に、像担持体3上に形成されたトナー像は一次転写ローラ12により中間転写ベルト11上に転写される。このとき、二次転写ローラ14は中間転写ベルト11から離間されている。
【0025】
上記の処理が画像形成信号の第2色目、第3色目、第4色目に対応して、像担持体3と中間転写ベルト11の1回転による潜像形成、現像、転写が繰り返され、画像形成信号の内容に応じた4色のトナー像が中間転写ベルト11上において重ねられて転写される。そして、このフルカラー画像が二次転写ローラ14に達するタイミングで、記録媒体が搬送路17から二次転写ローラ14に供給され、このとき、二次転写ローラ14が中間転写ベルト11に押圧されるとともに二次転写電圧が印加され、中間転写ベルト11上のフルカラートナー像が記録媒体上に転写される。そして、この記録媒体上に転写されたトナー像は定着装置19により加熱加圧され定着される。中間転写ベルト11上に残留しているトナーは転写ベルトクリーナ13によって除去される。
【0026】
なお、両面印刷の場合には、定着装置19を出た記録媒体は、その後端が先端となるようにスイッチバックされ、両面印刷用搬送路23を経て、二次転写ローラ14に供給され、中間転写ベルト11上のフルカラートナー像が記録媒体上に転写され、再び定着装置19により加熱加圧され定着される。
定着装置19は、熱源を有する定着ローラ21とこれに圧接される加圧ローラ22とを有し、定着ローラ21と加圧ローラ22の軸を結ぶ線は水平線からθの角度を有するように配置されている。なお、0°≦θ≦30°である。
【0027】
[定着装置]
以下、本発明の定着装置について、詳細に説明する。
図2〜図7は、図1の定着装置19の詳細を示し、図2は、図1に示す定着装置の一部破断面を示す斜視図であり、図3は、図2の要部断面図であり、図4は、図2に示す剥離部材の斜視図であり、図5は、剥離部材の取付状態を示す側面図であり、図6は、図2の定着装置を上面から見た正面図であり、図7は、剥離部材の断面図である。
【0028】
図2および図6において、ハウジング24内には定着ローラ21が回動自在に装着され、定着ローラ21の一端には駆動ギヤ28が連結されている。そして、定着ローラ21に対向して加圧ローラ22が回動自在に装着されている。加圧ローラ22の軸方向長さは定着ローラ21のそれよりも短く、その空いたスペースに軸受25が設けられ、加圧ローラ22の両端は軸受25により支持されている。軸受25には加圧レバー26が回動可能に設けられ、加圧レバー26の一端とハウジング24間には加圧スプリング27が配設され、これにより加圧ローラ22と定着ローラ21が加圧されるように構成されている。
【0029】
図3に示すように、定着ローラ21は、内部にハロゲンランプ等の熱源21aを有する金属製の筒体21bと、筒体21bの外周に設けられたシリコンゴム等で構成された弾性層21cと、弾性層21cの表面に被覆されたフッ素ゴム、フッ素樹脂(例えばパーテトラフロロエチレン(PTFE))等の材料で構成された表層(図示せず)と、筒体21bに固定された回転軸21dとを有している。
【0030】
加圧ローラ22は、金属製の筒体22bと、筒体22bに固定された回転軸22dと、回転軸22dを軸支持する軸受25と、筒体22bの外周に設けられたシリコンゴム等で構成された弾性層22cと、弾性層22cの表面に被覆されたフッ素ゴム、フッ素樹脂(例えばパーテトラフロロエチレン(PTFE))等の材料で構成された表層(図示せず)とを有している。定着ローラ21の弾性層21cの厚みは、加圧ローラ22の弾性層22cの厚みより極端に小さくし、これにより加圧ローラ22側が凹状にへこむようなニップ部Nが形成されている。
【0031】
図2および図3に示すように、ハウジング24の両側面には、支持軸29、30が設けられており、この支持軸29、30にそれぞれ定着ローラ21側の剥離部材31と加圧ローラ22側の剥離部材32が回動自在に装着されている。これにより、定着ローラ21と加圧ローラ22の軸方向でニップ部の記録媒体搬送方向下流側に剥離部材31、32が配設されることになる。
【0032】
定着ローラ21側の剥離部材31は、図4および図5に示すように、プレート状の剥離部31aと、剥離部31aの後方で定着ローラ21側にL字状に折曲された折曲部31bと、剥離部31aの両側端で下方向に折曲された支持片31cと、支持片31cに形成された嵌合穴31dと、剥離部31aの両側端前方に延設されたガイド部31eとを有している。
【0033】
剥離部31aは、ニップ部Nの出口に向けて傾斜するように配置され、剥離部31aの先端は定着ローラ21に非接触でかつ近接されている。支持片31cの嵌合穴31dには、図3で説明した支持軸29が嵌合されている。ガイド部31eは、スプリング33によりハウジング24に付勢され、これによりガイド部31eの先端は定着ローラ21に当接されており、その結果、剥離部31aの先端と定着ローラ21表面との間のギャップが常時一定になるようにされている。
【0034】
加圧ローラ22側の剥離部材32は、定着ローラ21側の剥離部材と同様の形状であるが、図2および図3に示すように、剥離部32aの先端は剥離部31aの先端よりも記録媒体搬送方向下流側に配置されている。また、ガイド部32eの先端は加圧ローラ22の軸受25の周面にP点で当接されており、これにより、剥離部32aの先端と加圧ローラ22表面との間のギャップが常時一定になるようにされている。
【0035】
ところで、従来の定着ローラ21と加圧ローラ22の配置は、定着ローラ21と加圧ローラ22が上下にかつ縦方向に配置されるのが一般的であり、両者のニップ部から排出される記録媒体は重力により定着ローラ21から離れる方向に力が作用するため、記録媒体が剥離部材によって剥離される度合いは少ない。しかし、図1に示すように、定着ローラ21と加圧ローラ22を略水平状態に配置すると、記録媒体は定着ローラ21側に巻きつき易くなり、ニップ部Nから排出される記録媒体は必ず剥離部材31に当接されることになり、その使用頻度が従来方式と比較して極めて高いという特徴を有している。そのため、剥離部材の耐久性をいかにして向上させるかが課題となっている。特に、フルカラー画像の定着においては、白黒画像の定着時よりも多量のトナーが重ねて転写されたトナー像を定着しなければならず、剥離時に大きな剥離力が必要であり、また、定着後のトナー画像表面の平滑性をだすことが要求され、そのためにはトナーを十分に加熱溶融して低粘度化させた後に、画像表面を平らにならすことが必要であり、ますます大きな剥離力を必要とするとともに、剥離部材に画像表面を平らにならす機能を保持させることが求められており、剥離部材の耐久性が非常に大きな課題となっている。
そこで、本発明では、剥離部材として、基部と、該基部の表面側に設けられ、下記式(I)で示される含ケイ素化合物の加水分解縮合物を含む材料で構成された被膜とを有するものを用いることとした。
【0036】
【化4】

(ただし、式(I)中、Zは、式:−(C2k)O−(前記式中、kは1〜6の整数である)で表わされる単位を含み、分岐を有しない直鎖状のパーフルオロポリアルキレンエーテル構造を有する2価の基であり、R、R’は、それぞれ独立に炭素原子数1〜8の一価炭化水素基であり、X、Yは、それぞれ独立に加水分解性基またはハロゲン原子であり、l、pは、ぞれぞれ独立に1〜5の整数であり、m、nは、それぞれ独立に0〜2の整数であり、a、bは、それぞれ独立に2または3である。)
【0037】
このような被膜(表面層)を有する剥離部材は、定着ローラに溶融したトナーが付着するのを防止し、紙等の記録媒体が定着ローラに巻き付くのを効果的に防止することができるとともに、被膜の耐摩耗性、(基材との)密着性にも優れ、長期間にわたって安定した特性を発揮することができる(耐久性に優れる)。また、上記のような被膜は、優れた潤滑性(摺動性)を有しているため、記録媒体に定着されたトナー(高温状態のトナー)と接触した場合においても、記録媒体に形成された印刷部に悪影響を与えることが効果的に防止されている。また、万が一、剥離部材が定着ローラの周面等の周面に接触した場合であっても、定着ローラ等に傷が付くこと等が効果的に防止されている。ところで、一般に、潤滑性(摺動性)に優れる物質は、表面エネルギーが小さく、基材(ワーク)上に成膜しようとしても、基材との密着性を十分に高めるのが困難であるが、本発明では、上記のような含ケイ素化合物を付与した後に加水分解縮合反応を行うことにより、基材の密着性を優れたものとしつつ、潤滑性(摺動性)も優れたものとすることができる。また、このような加水分解縮合反応により生成される加水分解縮合物は、前記Xの加水分解および縮合反応によって生じる3次元構造の硬化物であり、また、式(I)で示される含ケイ素化合物は両末端に加水分解性の官能基またはハロゲン原子を有しているため、基材との密着性(特に、本実施形態では、中間層を介した基材との密着性)は特に優れたものとなる。なお、以下の説明では、定着ローラ21側の剥離部材31について説明するが、加圧ローラ22側の剥離部材32も同様な構成を有していてもよい。これにより、上述した効果は更に顕著なものとして発揮される。
【0038】
上述したように、式(I)中のZ(Z基)は、式:−(C2kO)−(式中、kは1〜6、好ましくは1〜4の整数である)で表わされる単位を含み、分岐を有しない直鎖状のパーフルオロポリアルキレンエーテル構造を有する2価の基であるが、式(I)中のm、nがいずれも0である場合、前記式(I)中のO(酸素原子)に結合するZ基の末端は、酸素原子ではない。
このZ基としては、例えば、下記式(II)、(III)で示されるものが挙げられる。Z基がこれらの式で表されるものである場合、前述したような効果はさらに顕著なものとして発揮される。ただし、Z基は、これらに限定されるものではない。
【0039】
【化5】

(ただし、式中、qは1以上、好ましくは1〜50、より好ましくは10〜40の整数である。)
【0040】
【化6】

(式中、r、sは、それぞれ独立に1以上、好ましくは1〜50、より好ましくは10〜40の整数であり、かつr+sは、10〜100、好ましくは20〜90、より好ましくは40〜80の整数であり、該式中の繰り返し単位(OC)および(OCF)の配列はランダムである)
また、上述したように、X、Yは、それぞれ独立に加水分解性基またはハロゲン原子である。
【0041】
前記加水分解性基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基、エトキシエトキシ基等のアルコキシアルコキシ基、アリロキシ基、イソプロペノキシ等のアルケニルオキシ基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチルカルボニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等のアシロキシ基、ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基、ジエチルケトオキシム基、シクロペンタノキシム基、シクロヘキサノキシム基等のケトオキシム基、N−メチルアミノ基、N−エチルアミノ基、N−プロピルアミノ基、N−ブチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N−シクロヘキシルアミノ基等のアミノ基、N−メチルアセトアミド基、N−エチルアセトアミド基、N−メチルベンズアミド基等のアミド基、N,N−ジメチルアミノオキシ基、N,N−ジエチルアミノオキシ基等のアミノオキシ基等を挙げることができる。
【0042】
また、前記ハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
これらの中でも、上記X、Yとしては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロペノキシ基および塩素原子よりなる群から選択されるものであるのが好ましい。これにより、前述したような効果はさらに顕著なものとして発揮される。
【0043】
上記Rは、炭素原子数1〜8、好ましくは1〜3の一価炭化水素基である。上記Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基等が挙げられる。これらの中でもメチル基が好ましい。これにより、前述したような効果はさらに顕著なものとして発揮される。
【0044】
また、前述したように、前記m、nは、それぞれ独立に0〜2の整数であるが、好ましくは1である。また、前記l、pは、それぞれ独立に1〜5の整数であるが、好ましくは、3である。
前記aおよびbは、それぞれ独立に2または3であるが、加水分解および縮合反応性、被膜(表面層)313の密着性の観点から、3であることが好ましい。
【0045】
また、上記含ケイ素化合物(式(I)で示される含ケイ素化合物)の分子量は、特に制限されないが、安定性、取扱い易さ等の点から、数平均分子量で500〜20,000であるのが好ましく、1000〜10,000であるのがより好ましい。
なお、式(I)で示される含ケイ素化合物は、1種単独で用いられるものであってもよいし、異なる構造を有する2種以上(異なる構造を有する2種以上の式(I)で示される含ケイ素化合物)を組み合わせても用いてもよい。
【0046】
上記のような含ケイ素化合物の加水分解縮合物を含む材料で構成された被膜313の厚さは、特に限定されないが、0.1nm〜5μmであるのが好ましく、1〜100nmであるのがより好ましい。被膜313の厚さが前記範囲内の値であると、前述したような効果はさらに顕著なものとして発揮される。これに対し、被膜313の厚さが前記下限値未満であると、被膜313を設けることによる効果が十分に発揮されない可能性がある。また、被膜313の厚さが前記上限値を超えると、被膜313の密着性が低下し、界面剥離等が生じ易くなる傾向を示す。
【0047】
また、被膜313は、その表面粗さRaが、0.05〜1.0μmであるのが好ましく、0.08〜0.6μmであるのがより好ましく、0.1〜0.4μmであるのがさらに好ましい。表面粗さRaが前記範囲内の値であると、トナーの付着等をより効果的に防止することができる。
また、被膜313は、その表面粗さRzが、1〜10μmであるのが好ましく、2.5〜8.5μmであるのがより好ましく、4〜7μmであるのがさらに好ましい。表面粗さRaが前記範囲内の値であると、トナーの付着等をより効果的に防止することができる。
【0048】
剥離部材の基材311の構成材料は、特に限定されないが、例えば、ニッケル、アルミニウム、鉄、銅等の金属やこれらのうち少なくとも1種を含む合金(例えば、ステンレス鋼)、ポリエステル、ポリイミド等の樹脂等が挙げられる。この中でも、ステンレス鋼を用いた場合には、十分な成形性を確保しつつ、剥離部材の機械的安定性(形状の安定性)を特に優れたものとすることができる。
【0049】
また、本実施形態では、被膜313は、中間層312を介して、基材311上に設けられている。すなわち、本実施形態では、基材311と被膜313との間に中間層312が設けられている。このような中間層312を設けることにより、例えば、被膜313の密着性を特に優れたものとすることができる。
中間層312は、いかなる材料で構成されたものであってもよいが、主としてSiO、ZrO、Al、Y、TiO等の無機系酸化物で構成されたものであるのが好ましく、主として二酸化ケイ素で構成されたものであるのがより好ましい。これにより、基材311、被膜313との密着性を特に優れたものとすることができる。
中間層312の厚さは、特に限定されないが、10〜500nmであるのが好ましく、50〜200nmであるのがより好ましい。
【0050】
また、図7(A)に示すように、本実施形態においては、基材311は、先端部にエッジ(角部)Eを有するものであり、その表面側に、中間層312、被膜313が積層されている。このような構成により、万が一、図7(B)に示すように、被膜313が摩耗してしまった場合等であっても、記録媒体はエッジEで線接触するだけのため、トナーの固着や画像すじの発生を防ぐことができ、その分だけ剥離部材31の耐久性を向上させることができる。このようなエッジEは、機械的研磨、電解研磨、エッチング等の精密仕上げ加工を施すことにより、容易かつ確実に形成することができる。
【0051】
[剥離部材の製造方法]
次に、剥離部材の製造方法について説明する。
まず、剥離部材の形状に対応する形状の基材311を用意する。
このような基材311は、例えば、板材に対して、折り曲げ、孔開け等の加工を施すことにより得られたものであってもよいし、例えば、各種成形方法(例えば、金属材料の場合には、鋳造、鍛造等、樹脂材料の場合には、あっつく成形、射出成形等)により、直接所望の形状となるように成形されたものであってもよい。なお、このような場合であっても、研磨等の仕上げ加工を施してもよい。
【0052】
上記のようにして用意される基材311は、剥離部における表面粗さRaが、0.1〜2μmであるのが好ましく、0.1〜1μmであるのがより好ましく、0.1〜0.5μmであるのがさらに好ましい。これにより、容易かつ確実に、被膜313の表面粗さRaを前述したような範囲内の値にすることができ、トナーの付着等をより効果的に防止することができる。
【0053】
上記のようにして用意される基材311は、剥離部における表面粗さRzが、1〜12μmであるのが好ましく、1〜9μmであるのがより好ましく、4〜8μmであるのがさらに好ましい。これにより、容易かつ確実に、被膜313の表面粗さRzを前述したような範囲内の値にすることができ、トナーの付着等をより効果的に防止することができる。
上記のような表面粗さは、例えば、必要に応じて研磨等の処理が施した基材311に対し、ショットブラスト、サンドブラスト、液体ブラスト等のブラスト処理等を施すことにより、容易かつ確実に実現することができる。
次に、基材311の表面に中間層312を形成する。
【0054】
中間層312の形成方法は、特に限定されないが、例えば、電解めっき、浸漬めっき、無電解めっき等の湿式めっき法、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式めっき法、溶射、スピンコート、カーテンフローコート、ロールコート、スプレーコート、流し塗り、刷毛塗り、ディッピング、静電塗装、電着塗装等の各種塗布法等が挙げられる。特に、中間層312が無機酸化物で構成されるものである場合、真空蒸着が好ましい。これにより、比較的膜厚の小さな中間層312を均一な厚さで形成することができる。
【0055】
なお、中間層312の形成に先立ち、基材311に対しては、アルカリ洗浄、酸洗浄、水洗、有機溶剤洗浄等の洗浄処理、ボンバード処理、エッチング処理等の処理を施してもよい。これにより、例えば、基材311と中間層312との密着性の向上などを図ることができる。
次に、被膜313を形成する。
【0056】
被膜313の形成方法は、特に限定されないが、例えば、中間層312上に、含ケイ素化合物を含むコーティング剤を塗布した後に加水分解および縮合させる方法(方法A)、直接中間層312上に含ケイ素化合物を用いた真空蒸着を行う方法(方法B)等が挙げられる。方法Aを採用した場合、容易かつ確実に被膜313を形成することができる。また、膜厚の比較的大きい被膜313であっても、容易に形成することができ、剥離部材の耐久性を特に高いものとすることができる。また、方法Bを採用した場合、膜厚の均一性の高い被膜313を容易かつ確実に形成することができる。また、方法Bでは、膜厚の比較的小さい被膜313でも十分均一に形成することができる。その結果、基材311の特性をより効果的に発揮させつつ、被膜313を有することによる効果を得ることができる。なお、方法Bを採用した場合、通常、真空蒸着を行う際に、含ケイ素化合物の加水分解および縮合反応を進行させることができるため、成膜後、別途、加水分解反応、縮合反応を行うための処理を省略または簡略化することができる。
【0057】
特に、含ケイ素化合物を含む塗布剤を塗布する方法(方法A)の場合、含ケイ素化合物が流体であればそのまま使用してもよいが、適当な液性媒体(例えば、溶媒、分散媒等)に希釈、分散して用いてもよい。液性媒体を用いる場合、1種単独でも2種以上の混合物であってもよい。
使用できる液性媒体としては、例えば、パーフルオロヘプタン、パーフルオロオクタン等のフッ素変性脂肪族炭化水素系物質、1,3−ジ(トリフルオロメチル)ベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン等のフッ素変性芳香族炭化水素系物質、メチルパーフルオロブチルエーテル、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)等のフッ素変性エーテル系物質、パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリペンチルアミン等のフッ素変性アルキルアミン系物質、石油ベンジン、ミネラルスピリッツ、トルエン、キシレン等の炭化水素系物質、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系物質等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、含ケイ素化合物の溶解性、塗布対象面の濡れ性等の点で、フッ素変性された物質が好ましく、特に、1,3−ジ(トリフルオロメチル)ベンゼン、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)、パーフルオロトリブチルアミンが好ましい。
【0058】
塗布方法としては、例えば、刷毛塗り、ディッピング、スピンコート、カーテンフローコート、ロールコート、スプレーコート、流し塗り、静電塗装、電着塗装等の各種塗布法を採用することができる。処理方法によって最適な処理温度は異なるが、例えば、刷毛塗り、ディッピングの場合は、20〜120℃の範囲で行うのが好ましい。処理湿度条件としては、加湿下で行うことが加水分解および縮合反応を促進する上で好ましいが、使用する含ケイ素化合物の種類、添加剤の使用等によって処理条件は異なるため、その都度最適な条件とすることが好ましい。なお、例えば、方法Bのように、含ケイ素化合物を真空蒸着した場合についても、必要に応じて、上記と同様にして、加水分解および縮合反応を進行させるための処理を施してもよい。
【0059】
また、上記塗布により形成された塗膜は、(液性媒体を用いた場合には、液性媒体の蒸発後に)大気中の水分により、加水分解されて本発明の被膜を形成するが、必要に応じて、コーティング剤に、加水分解性の官能基またはハロゲン原子の加水分解反応を促進するため、触媒を添加してもよい。前記触媒としては、例えば、ジブチル錫ジメトキシド、ジラウリン酸ジブチル錫等の有機錫化合物、テトラn−ブチルチタネート等のチタン含有有機化合物、酢酸、メタンスルホン酸等の有機酸、硫酸等の無機酸等が挙げられ、これら空選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、特に、酢酸、テトラn−ブチルチタネート、ジラウリン酸ジブチル錫が好ましい。前記触媒を添加する場合、その添加量は、特に制限されないが、含ケイ素化合物100重量部に対して0.01〜5重量部であるのが好ましく、0.1〜1重量部であるのがより好ましい。このような割合で触媒を含むことにより、優れた特性の被膜をより効率良く形成することができる。
【0060】
また、コーティング剤中には、例えば、前記含ケイ素化合物の部分加水分解縮合物が含まれていてもよい。
以上、本発明の定着装置および画像形成装置について、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
例えば、定着装置、画像形成装置を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。
【0061】
また、前述した実施形態では、剥離部材は、基材と被膜との間に中間層を有するものとして説明したが、このような中間層はなくてもよい。また、基材と被膜との間には、2層以上の中間層が設けられていてもよい。
また、剥離部材の表面には、保護層等が設けられていてもよい。これにより、例えば、剥離部材の保管時等に、剥離部材の構成材料が劣化したり、傷ついたりするのを効果的に防止することができる。なお、保護層は、このような機能を有するものに限定されない。また、このような保護層は、定着装置の使用時(組み立て時)に、除去されるものであってもそうでなくてもよい。
【0062】
また、前述した実施形態で説明したような剥離部材の構成(基材と被膜とを有する構成、更には、基材と被膜との間に中間層を有する構成)は、例えば、他の部材に対しても好適に適用することができる。例えば、前述したような剥離部材の構成は、定着ローラの表面を構成する離型層、定着ローラのリング部、シャフト部、現像ローラの表面層等にも好適に適用することができる。
【0063】
また、本発明では、定着装置を構成する剥離部材のうち少なくとも1つが上述したような構成を有するものであれば良く、加圧ローラ側の剥離部材のみが上述したような構成を有していてもよい。このように、定着装置が複数の剥離部材を有する場合、定着ローラ側の剥離部材、加熱ローラ側の剥離部材のうち少なくとも一方が、前述したような構成(基部と被膜とを有する構成)を有するものであればよいが、少なくとも、定着ローラ側の剥離部材が前述したような構成を有しているのが好ましい。これにより、本発明による効果が、より確実に発揮される。
【実施例】
【0064】
(実施例1)
まず、図4に示すような形状を有するステンレス鋼(SUS301)製の基材を用意した。
次に、この基材の表面に、液体ブラストにより微小な凹凸を形成した。液体ブラストは、ローラ搬送機により搬送されてくる基材に対して、エメリー粉を水に分散して得られたスラリー状の物質を、高圧で噴射することにより行った。その後、十分な洗浄を行うことにより、研削粉を除去し、さらに、乾燥を行った。上記のような処理が施された基材は、表面粗さRaが0.26μmであり、表面粗さRzが5.9μmであった。
【0065】
次に、この基材の表面に、二酸化ケイ素で構成される中間層を形成した。中間層の形成は、真空蒸着により行った。このようにして形成された中間層の厚さは、100nmであった。
次に、中間層の表面に、下記式(IV)で示される含ケイ素化合物を用いた真空蒸着を行い、当該願ケイ素化合物の加水分解縮合物で構成された被膜を形成した。なお、この含ケイ素化合物の数平均分子量は、3500であった。
【0066】
【化7】

(ただし、式(IV)中、qは10〜40の整数である。)
このようにして形成された被膜は、その厚さが10nmであり、表面粗さRaが0.26μmであり、表面粗さRzが5.9μmであった。
また、上記と同様にして加圧ローラ側の剥離部材を作製し、これらを用いて、図2、3、5、6に示すような定着装置を製造し、更に、この定着装置を用いて、図1に示すような画像形成装置を製造した。
【0067】
なお、定着ローラは、その直径が30mmで、シリコンゴム(硬度JISA5°)で構成された厚さ1mmの弾性層と、PFAで構成された厚さ40μmの表層とを備えるものであり、加圧ローラは、その直径が35mmであり、シリコンゴム(硬度JISA10°)で構成された厚さ6mmの弾性層と、PFAで構成された厚さ40μmの表層とを備えるものであった。定着ニップ出口と剥離部31a先端の距離を6.5mm、定着ニップ幅を8mm、定着温度を175℃、紙搬送速度を215mm/秒、ローラ圧接加重を31kgfに設定した。
【0068】
(実施例2)
被膜の形成に用いる含ケイ素化合物として、下記式(V)で示されるものを用い、基材上への含ケイ素化合物の付与を、含ケイ素化合物を含むコーティング剤を塗布することにより行った以外は、前記実施例1と同様にして剥離部材(定着ローラ側の剥離部材および加圧ローラ側の剥離部材)を製造した。
【0069】
【化8】

(ただし、式(V)中、r、sは、それぞれ独立に20〜30の整数であり、かつr+sは、40〜60の整数であり、該式中の繰り返し単位(OC)および(OCF)の配列はランダムである)
なお、この含ケイ素化合物の数平均分子量は、5000であった。
コーティング剤としては、含ケイ素化合物:100重量部、酢酸:0.5重量部、1,3−ジ(トリフルオロメチル)ベンゼン:500重量部の混合物を用いた。
【0070】
また、コーティング剤の塗布は、ディッピングにより行った。また、ディッピング時における基材およびコーティング液の温度は、25℃であった。
その後、減圧加熱環境下で1,3−ジ(トリフルオロメチル)ベンゼンの除去を行い、更に、80%RH、80℃の雰囲気中で90分放置することにより、含ケイ素化合物の加水分解縮合反応を進行させ、上記含ケイ素化合物の加水分解縮合物で構成された被膜を形成した。このようにして形成された被膜は、その厚さが15nmであり、表面粗さRaが0.27μmであり、表面粗さRzが6.1μmであった。
【0071】
また、上記のようにして得られた剥離部材(定着ローラ側の剥離部材および加圧ローラ側の剥離部材)を用いて、前記実施例1と同様にして定着装置、画像形成装置を製造した。
(実施例3)
被膜の形成に用いる含ケイ素化合物として、下記式(VI)で示されるものを用いた以外は、前記実施例2と同様にして剥離部材(定着ローラ側の剥離部材)を製造した。
【0072】
【化9】

(ただし、式(VI)中、qは40〜50の整数である。)
なお、この含ケイ素化合物の数平均分子量は、8000であった。
また、形成された被膜は、その厚さが20nmであり、表面粗さRaが0.2μmであり、表面粗さRzが4.8μmであった。
また、加圧ローラ側の剥離部材として、ステンレス鋼(SUS301)で構成されたものを用意した。
また、上記のようにして得られた定着ローラ側の剥離部材と、加圧ローラ側の剥離部材とを用いて、前記実施例1と同様にして定着装置、画像形成装置を製造した。
【0073】
(実施例4)
被膜の形成に先立ち、中間層を形成しなかった以外は、前記実施例3同様にして剥離部材(定着ローラ側の剥離部材)を製造し、この剥離部材を用いて、前記実施例3と同様にして定着装置、画像形成装置を製造した。なお、被膜についての表面粗さRaは0.27μmであり、表面粗さRzは5.8μmであった。
【0074】
(比較例1)
中間層および被膜の形成を行わなかった以外は、前記実施例1と同様にして剥離部材(定着ローラ側の剥離部材および加圧ローラ側の剥離部材)を製造した。
また、上記のようにして得られた剥離部材(定着ローラ側の剥離部材および加圧ローラ側の剥離部材)を用いて、前記実施例1と同様にして定着装置、画像形成装置を製造した。
【0075】
(比較例2)
基材の表面に、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン)で構成される表面層を形成した以外は、前記比較例1と同様にして剥離部材を製造した。
なお、表面層の形成は、ポリテトラフルオロエチレンを含む塗料(ダイキン工業製、商品名「ポリフロン」)をエアスプレーにて膜厚が約40μmになるように塗装し、90℃で赤外線乾燥した後、380℃で焼成することにより行った。また、形成された表面層の厚さは、30μmであった。なお、表面層についての表面粗さRaは0.9μmであり、表面粗さRzは8.2μmであった。
また、上記のようにして得られた剥離部材を用いて、前記実施例1と同様にして定着装置、画像形成装置を製造した。
【0076】
[評価]
[1]画像すじ(初期および耐久印字(8万枚印字)後)
前記各実施例および各比較例の画像形成装置を用いて、全面ベタ画像を印字し、剥離部での擦り跡である「すじ」について、目視による観察を行い、以下の4段階の基準に従い評価した。
◎:すじの発生が全く認められない。
○:すじの発生がほとんど認められない。
△:すじの発生がわずかに認められる。
×:すじの発生が顕著に認められる。
【0077】
[2]耐摩耗性
前記各実施例および各比較例の画像形成装置について、耐久印字(8万枚印字)後の剥離部を顕微鏡で観察し、被膜(表面層)の摩耗状態を以下の4段階の基準に従い評価した。
◎:被膜の摩耗が全く認められない。
○:被膜の摩耗がほとんど認められない。
△:被膜の摩耗がわずかに認められるが、中間層、基材の露出は認められない。
×:被膜の摩耗がはっきりと認められ、中間層、基材の露出が認められる。
【0078】
[3]トナー固着(耐久印字後)
前記各実施例および各比較例の画像形成装置について、耐久印字(8万枚印字)後の剥離部材を目視で観察し、ナーの固着状態を以下の4段階の基準に従い評価した。
◎:トナーの固着が全く認められない。
○:トナーの固着がほとんど認められない。
△:トナーの固着がわずかに認められる。
×:トナーの固着が顕著に認められる。
これらの結果を表1にまとめて示す。
【0079】
【表1】

【0080】
表1から明らかなように、本発明では、剥離部材の耐摩耗性に優れ、耐久印字後においても、剥離部材等へのトナーの固着や印字された記録媒体でのすじ等は、認められなかった。これらの結果から、本発明では、優れた耐久性が得られることが分かる。
これに対し、比較例では、満足な結果が得られなかった。すなわち、各比較例では、いずれも、印字された記録媒体においてすじが発生しており、剥離部材へのトナーの固着も認められた。また、フッ素系樹脂で構成された表面層を有する比較例2においては、耐久印字後における表面層の摩耗が顕著で耐久性に劣っていた。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の定着装置を備えた本発明の画像形成装置の全体構成図である。
【図2】図1に示す定着装置の一部破断面を示す斜視図である。
【図3】図2の要部断面図である。
【図4】図2に示す剥離部材の斜視図である。
【図5】図2に示す剥離部材の取付状態を示す側面図である。
【図6】図2の定着装置を上面から見た正面図である。
【図7】剥離部材の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0082】
1…画像形成装置 2…装置本体 3…像担持体 4…帯電装置 5…露光装置 6…ロータリー現像装置 6Y…イエロー用現像装置 6M…マゼンタ用現像装置 6C…シアン用現像装置 6K…ブラック用現像装置 6a…現像ローラ 7…中間転写装置 8…支持フレーム 9…駆動ローラ 10…従動ローラ 11…中間転写ベルト 12…一次転写ローラ 13…転写ベルトクリーナ 14…二次転写ローラ 15…給紙カセット 16…ピックアップローラ 17…記録媒体搬送路 19…定着装置 20…排紙トレイ 21…定着ローラ 21a…熱源 21b…筒体 21c…弾性層 21d…回転軸 22…加圧ローラ 22b…筒体 22c…弾性層 22d…回転軸 23…両面印刷用搬送路 24…ハウジング 25…軸受 26…加圧レバー 27…加圧スプリング 28…駆動ギヤ 29、30…支持軸 31…剥離部材 31a…剥離部 31b…折曲部 31c…支持片 31d…嵌合穴 31e…ガイド部 311…基材 312…中間層 313…被膜(表面層) 32…剥離部材 32a…剥離部3 32e…ガイド部 33…スプリング N…ニップ部(定着ニップ部) E…エッジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源を有する定着ローラと、該定着ローラに圧接される加圧ローラと、前記定着ローラの軸方向かつ定着ニップ部の記録媒体搬送方向下流側に、前記定着ローラに近接して配設される剥離部材とを備え、
前記剥離部材は、基材と、該基材の表面側に設けられた被膜とを有するものであり、
前記被膜は、下記式(I)で示される含ケイ素化合物の加水分解縮合物を含む材料で構成されたものであることを特徴とする定着装置。
【化1】

(ただし、式(I)中、Zは、式:−(C2k)O−(前記式中、kは1〜6の整数である)で表わされる単位を含み、分岐を有しない直鎖状のパーフルオロポリアルキレンエーテル構造を有する2価の基であり、R、R’は、それぞれ独立に炭素原子数1〜8の一価炭化水素基であり、X、Yは、それぞれ独立に加水分解性基またはハロゲン原子であり、l、pは、ぞれぞれ独立に1〜5の整数であり、m、nは、それぞれ独立に0〜2の整数であり、a、bは、それぞれ独立に2または3である。)
【請求項2】
前記加圧ローラに近接して配設される剥離部材を備えている請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記加圧ローラ側の剥離部材の先端は、定着ローラ側の剥離部材の先端よりも記録媒体搬送方向下流側に配置されている請求項2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記加圧ローラ側の剥離部材は、基材と、該基材の表面側に設けられ、上記式(I)で示される含ケイ素化合物の加水分解縮合物を含む材料で構成された被膜とを有するものである請求項2または3に記載の定着装置。
【請求項5】
前記基材は、先端部にエッジを有するものである請求項1ないし4のいずれかに記載の定着装置。
【請求項6】
前記基材と前記被膜との間に、主として無機系酸化物で構成された中間層が設けられている請求項1ないし5のいずれかに記載の定着装置。
【請求項7】
前記被膜は、前記含ケイ素化合物を、前記中間層上に真空蒸着させた後に、加水分解縮合させることにより形成されたものである請求項6に記載の定着装置。
【請求項8】
前記被膜は、前記含ケイ素化合物を含むコーティング剤、または、前記含ケイ素化合物と該含ケイ素化合物の部分加水分解縮合物とを含むコーティング剤を、前記中間層上に塗布した後に、加水分解縮合させることにより形成されたものである請求項6に記載の定着装置。
【請求項9】
前記コーティング剤が、前記含ケイ素化合物、または前記含ケイ素化合物と該含ケイ素化合物の部分加水分解縮合物との混合物:100重量部に対して、加水分解触媒を0.01〜5重量部含むものである請求項8に記載の定着装置。
【請求項10】
前記式(I)中のZが、下記式(II)で示されるものである請求項1ないし9のいずれかに記載の定着装置。
【化2】

(ただし、式(II)中、qは1以上の整数である。)
【請求項11】
前記一般式(I)中のZが、下記式(III)で示されるものである請求項1ないし10のいずれかに記載の定着装置。
【化3】

(ただし、式(III)中、r、sは、それぞれ独立に1以上の整数であり、かつr+sは、10〜100の整数であり、該式中の繰り返し単位(OC)および(OCF)の配列はランダムである)
【請求項12】
前記式(I)中のXおよびYは、それぞれ独立にメトキシ基、エトキシ基、イソプロペノキシ基、または塩素原子である請求項1ないし11のいずれかに記載の定着装置。
【請求項13】
前記被膜の厚さが0.1nm〜5μmである請求項1ないし12のいずれかに記載の定着装置。
【請求項14】
前記定着ローラと前記加圧ローラとが略水平状態で配設されている請求項1ないし13のいずれかに記載の定着装置。
【請求項15】
請求項1ないし14のいずれかに記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−113133(P2006−113133A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−297919(P2004−297919)
【出願日】平成16年10月12日(2004.10.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】