定着装置及び画像形成装置
【課題】ウォームアップ時間やファーストプリント時間が短くて、装置を高速化した場合であっても定着不良等が生じることなく、小サイズの記録媒体を連続的に定着した場合や装置が突発的に駆動停止した場合等であっても金属部材や定着ベルトの過昇温が確実に抑止される、定着装置及び画像形成装置を提供する。
【解決手段】定着ベルト21を介して加圧回転体31に圧接してニップ部を形成する固定部材26と、ニップ部を除く位置で定着ベルト21の内周面に対向するように固設されて定着ベルト21を加熱するパイプ状の金属部材22と、を備える。金属部材22は、感温磁性体で形成され、金属部材22の内周面と定着ベルト21の外周面とにそれぞれ対向するように配設された励磁部材25から発生される交番磁界によって電磁誘導加熱される。
【解決手段】定着ベルト21を介して加圧回転体31に圧接してニップ部を形成する固定部材26と、ニップ部を除く位置で定着ベルト21の内周面に対向するように固設されて定着ベルト21を加熱するパイプ状の金属部材22と、を備える。金属部材22は、感温磁性体で形成され、金属部材22の内周面と定着ベルト21の外周面とにそれぞれ対向するように配設された励磁部材25から発生される交番磁界によって電磁誘導加熱される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複写機、プリンタ、ファクシミリ、又は、それらの複合機等の画像形成装置と、そこに設置される定着装置と、に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、複写機、プリンタ等の画像形成装置において、ウォームアップ時間やファーストプリント時間が短くて、装置を高速化した場合であっても定着不良が生じにくい定着装置が知られている(例えば、特許文献1等参照。)。
【0003】
詳しくは、特許文献1の図6等の定着装置は、定着部材としての定着ベルト、定着ベルトの内周面に対向するように固設された略パイプ状の金属部材(加熱部材)、金属部材を電磁誘導加熱するために定着ベルトの外周面に対向するように配設された誘導加熱部(加熱手段)、定着ベルトに圧接してニップ部を形成する加圧ローラ(加圧回転体)、等で構成されている。
そして、誘導加熱部によって電磁誘導加熱された金属部材によって定着ベルトが加熱されて、ニップ部に向けて搬送された記録媒体上のトナー像がニップ部にて熱と圧力とを受けて記録媒体上に定着されることになる。
【0004】
一方、特許文献2等には、所定方向に回転する筒状の加熱部材の表裏面を挟むように励磁部材を設置して、励磁部材の交番電流を供給することによって加熱部材を電磁誘導加熱する定着装置が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1等の定着装置は、金属部材や定着ベルトの加熱効率が飛躍的に向上するものの、小サイズの記録媒体を連続的に通紙した場合や、紙詰まり等により装置が突発的に駆動停止した場合に、金属部材や定着ベルトの一部又は全部が過昇温することがあった。そして、このような問題が生じると、金属部材や定着ベルトに熱的破損が生じてしまったり、定着画像にオフセット等の異常画像が生じてしまったりする可能性があった。
【0006】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、ウォームアップ時間やファーストプリント時間が短くて、装置を高速化した場合であっても定着不良等が生じることなく、小サイズの記録媒体を連続的に定着した場合や装置が突発的に駆動停止した場合等であっても金属部材や定着ベルトの過昇温が確実に抑止される、定着装置及び画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の請求項1記載の発明にかかる定着装置は、所定方向に走行してトナー像を加熱して溶融するとともに、可撓性を有する無端状の定着ベルトと、前記定着ベルトの内周面側に固設されて、当該定着ベルトを介して加圧回転体に圧接して記録媒体が搬送されるニップ部を形成する固定部材と、前記ニップ部を除く位置で前記定着ベルトの内周面に対向するように固設されて前記定着ベルトを加熱するとともに、加熱手段によって電磁誘導加熱されるパイプ状の金属部材と、を備え、前記金属部材は、その一部又は全部が感温磁性体で形成され、前記加熱手段を、前記金属部材の内周面の一部と前記定着ベルトの外周面の一部とにそれぞれ隙間を空けて対向するように配設されるとともに、交番電流が印加されて交番磁界を発生させる励磁部材としたものである。
【0008】
また、請求項2記載の発明にかかる定着装置は、前記請求項1に記載の発明において、前記金属部材は、少なくとも前記励磁部材に対向する部分の厚さが、当該金属部材の温度が当該金属部材が有するキュリー点以下であるときの前記交番電流の周波数に対応した浸透深さに対して3倍以上の厚さとなるように形成されたものである。
【0009】
また、請求項3記載の発明にかかる定着装置は、前記請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記金属部材は、前記励磁部材に対向する部分の厚さが、それ以外の部分の厚さよりも厚くなるように形成されたものである。
【0010】
また、請求項4記載の発明にかかる定着装置は、前記請求項1〜請求項3のいずれかに記載の発明において、前記金属部材は、ニッケル、鉄、クロムの合金からなるものである。
【0011】
また、請求項5記載の発明にかかる定着装置は、前記請求項1〜請求項4のいずれかに記載の発明において、前記定着ベルトは、前記励磁部材によって発生される前記交番磁界によって電磁誘導加熱される発熱層を具備したものである。
【0012】
また、請求項6記載の発明にかかる定着装置は、前記請求項5に記載の発明において、前記発熱層は、その層厚が前記交番電流の周波数が30kHzのときの浸透深さよりも小さくなる金属材料で形成されたものである。
【0013】
また、請求項7記載の発明にかかる定着装置は、前記請求項1〜請求項6のいずれかに記載の発明において、前記励磁部材は、前記ニップ部に対して前記定着ベルトの走行方向上流側の位置で、前記定着ベルト及び前記金属部材を1回又は複数回挟むように離間して巻回されたものである。
【0014】
また、請求項8記載の発明にかかる定着装置は、前記請求項1〜請求項7のいずれかに記載の発明において、前記金属部材の内周面側に固設されて前記固定部材に当接して当該固定部材を補強する補強部材をさらに備えたものである。
【0015】
また、この発明の請求項9記載の発明にかかる画像形成装置は、請求項1〜請求項8のいずれかに記載の定着装置を備えたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、金属部材の内周面の一部と定着ベルトの外周面の一部とにそれぞれ隙間を空けて対向する励磁部材によって、その一部又は全部が感温磁性体で形成された金属部材を電磁誘導加熱するように構成している。これにより、ウォームアップ時間やファーストプリント時間が短くて、装置を高速化した場合であっても定着不良等が生じることなく、小サイズの記録媒体を連続的に定着した場合や装置が突発的に駆動停止した場合等であっても金属部材や定着ベルトの過昇温が確実に抑止される、定着装置及び画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の実施の形態1における画像形成装置を示す全体構成図である。
【図2】図1の画像形成装置に設置された定着装置を示す構成図である。
【図3】図2の定着装置を幅方向にみた図である。
【図4】ニップ部の近傍を示す拡大図である。
【図5】励磁部材の近傍を示す斜視図である。
【図6】金属部材に作用する磁力線を示す概略図である。
【図7】温度がキュリー点以下であるときに金属部材に生じる渦電流の状態を示す模式図である。
【図8】温度がキュリー点以上であるときに金属部材に生じる渦電流の状態を示す模式図である。
【図9】金属部材の材質が異なるときの、定着ベルトの昇温特性を示すグラフである。
【図10】金属部材の温度がキュリー点以下であるときの、金属部材の厚さ/浸透深さと発熱効率との関係を示すグラフである。
【図11】定着ベルトにおける発熱層の有無による、定着ベルトの昇温特性を示すグラフである。
【図12】この発明の実施の形態2における定着装置の一部を示す構成図である。
【図13】別の形態の定着装置の一部を示す図である。
【図14】金属部材の肉厚部の範囲が異なるときの、定着ベルトの昇温特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0019】
実施の形態1.
図1〜図11にて、この発明の実施の形態1について詳細に説明する。
まず、図1にて、画像形成装置全体の構成・動作について説明する。
図1に示すように、本実施の形態1における画像形成装置1は、タンデム型カラープリンタである。画像形成装置本体1の上方にあるボトル収容部101には、各色(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)に対応した4つのトナーボトル102Y、102M、102C、102Kが着脱自在(交換自在)に設置されている。
ボトル収容部101の下方には中間転写ユニット85が配設されている。その中間転写ユニット85の中間転写ベルト78に対向するように、各色(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)に対応した作像部4Y、4M、4C、4Kが並設されている。
【0020】
各作像部4Y、4M、4C、4Kには、それぞれ、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kが配設されている。また、各感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの周囲には、それぞれ、帯電部75、現像部76、クリーニング部77、除電部(不図示である。)等が配設されている。そして、各感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上で、作像プロセス(帯電工程、露光工程、現像工程、転写工程、クリーニング工程)がおこなわれて、各感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上に各色の画像が形成されることになる。
【0021】
感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kは、不図示の駆動モータによって図1中の時計方向に回転駆動される。そして、帯電部75の位置で、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面が一様に帯電される(帯電工程である。)。
その後、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面は、露光部3から発せられたレーザ光Lの照射位置に達して、この位置での露光走査によって各色に対応した静電潜像が形成される(露光工程である。)。
【0022】
その後、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面は、現像装置76との対向位置に達して、この位置で静電潜像が現像されて、各色のトナー像が形成される(現像工程である。)。
その後、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面は、中間転写ベルト78及び第1転写バイアスローラ79Y、79M、79C、79Kとの対向位置に達して、この位置で感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上のトナー像が中間転写ベルト78上に転写される(1次転写工程である。)。このとき、感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上には、僅かながら未転写トナーが残存する。
【0023】
その後、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面は、クリーニング部77との対向位置に達して、この位置で感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上に残存した未転写トナーがクリーニング部77のクリーニングブレードによって機械的に回収される(クリーニング工程である。)。
最後に、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面は、不図示の除電部との対向位置に達して、この位置で感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上の残留電位が除去される。
こうして、感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上でおこなわれる、一連の作像プロセスが終了する。
【0024】
その後、現像工程を経て各感光体ドラム上に形成した各色のトナー像を、中間転写ベルト78上に重ねて転写する。こうして、中間転写ベルト78上にカラー画像が形成される。
ここで、中間転写ユニット85は、中間転写ベルト78、4つの1次転写バイアスローラ79Y、79M、79C、79K、2次転写バックアップローラ82、クリーニングバックアップローラ83、テンションローラ84、中間転写クリーニング部80、等で構成される。中間転写ベルト78は、3つのローラ82〜84によって張架・支持されるとともに、1つのローラ82の回転駆動によって図1中の矢印方向に無端移動される。
【0025】
4つの1次転写バイアスローラ79Y、79M、79C、79Kは、それぞれ、中間転写ベルト78を感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kとの間に挟み込んで1次転写ニップを形成している。そして、1次転写バイアスローラ79Y、79M、79C、79Kに、トナーの極性とは逆の転写バイアスが印加される。
そして、中間転写ベルト78は、矢印方向に走行して、各1次転写バイアスローラ79Y、79M、79C、79Kの1次転写ニップを順次通過する。こうして、感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上の各色のトナー像が、中間転写ベルト78上に重ねて1次転写される。
【0026】
その後、各色のトナー像が重ねて転写された中間転写ベルト78は、2次転写ローラ89との対向位置に達する。この位置では、2次転写バックアップローラ82が、2次転写ローラ89との間に中間転写ベルト78を挟み込んで2次転写ニップを形成している。そして、中間転写ベルト78上に形成された4色のトナー像は、この2次転写ニップの位置に搬送された記録媒体P上に転写される。このとき、中間転写ベルト78には、記録媒体Pに転写されなかった未転写トナーが残存する。
その後、中間転写ベルト78は、中間転写クリーニング部80の位置に達する。そして、この位置で、中間転写ベルト78上の未転写トナーが回収される。
こうして、中間転写ベルト78上でおこなわれる、一連の転写プロセスが終了する。
【0027】
ここで、2次転写ニップの位置に搬送された記録媒体Pは、装置本体1の下方に配設された給紙部12から、給紙ローラ97やレジストローラ対98等を経由して搬送されたものである。
詳しくは、給紙部12には、転写紙等の記録媒体Pが複数枚重ねて収納されている。そして、給紙ローラ97が図1中の反時計方向に回転駆動されると、一番上の記録媒体Pがレジストローラ対98のローラ間に向けて給送される。
【0028】
レジストローラ対98に搬送された記録媒体Pは、回転駆動を停止したレジストローラ対98のローラニップの位置で一旦停止する。そして、中間転写ベルト78上のカラー画像にタイミングを合わせて、レジストローラ対98が回転駆動されて、記録媒体Pが2次転写ニップに向けて搬送される。こうして、記録媒体P上に、所望のカラー画像が転写される。
【0029】
その後、2次転写ニップの位置でカラー画像が転写された記録媒体Pは、定着部20の位置に搬送される。そして、この位置で、定着ベルト21及び加圧ローラ31による熱と圧力とにより、表面に転写されたカラー画像が記録媒体P上に定着される。
その後、記録媒体Pは、排紙ローラ対99のローラ間を経て、装置外へと排出される。排紙ローラ対99によって装置外に排出された被転写Pは、出力画像として、スタック部100上に順次スタックされる。
こうして、画像形成装置における、一連の画像形成プロセスが完了する。
【0030】
次に、図2〜図6にて、画像形成装置本体1に設置される定着装置20の構成・動作について詳述する。
図2〜図4に示すように、定着装置20は、定着部材としての定着ベルト21(ベルト部材)、固定部材26、金属部材22(金属熱伝導体)、補強部材23、加熱手段としての励磁部材25(コイル部)、加圧回転体としての加圧ローラ31、温度センサ40、断熱部材27、ステー部材28、等で構成される。
【0031】
ここで、定着ベルト21は、薄肉で可撓性を有する無端状ベルトであって、図2中の矢印方向(反時計方向)に回転(走行)する。定着ベルト21は、内周面(固定部材26との摺接面である。)側から、基材層21a、弾性層、離型層が順次積層されていて、その全体の厚さが1mm以下に設定されている。
定着ベルト21の基材層21aは、層厚が30〜50μmであって、ニッケル、ステンレス等の金属材料やポリイミド等の樹脂材料で形成することができる。
【0032】
なお、本実施の形態1では、定着ベルト21の基材層21aに、励磁部材25によって電磁誘導加熱される発熱層としての機能を持たせている。具体的に、本実施の形態1では、定着ベルト21の基材層21a(発熱層)として、厚さが40μmの非磁性ステンレスに厚さが10μmの銅をメッキ処理したものを用いている。
基材層21a(発熱層)としては、励磁部材25により発生される交番磁界によって渦電流が発生しやすく電磁誘導加熱に適した電気伝導性の良い金属材料が好適である。電磁誘導加熱に適した金属材料としては、一般的に電気的抵抗が高いものが知られているが、低抵抗の金属材料であっても金属部材22を薄層化することにより発熱層21aの実質的な抵抗値を任意に設定して発熱層21aの発熱量を調整することができる。具体的に、基材層21a(発熱層)の材料としては、銀、アルミニウム、マグネシウム等や、磁性体であるニッケルや磁性ステンレス等を用いることもできる。
【0033】
定着ベルト21の弾性層は、層厚が100〜300μmであって、シリコーンゴム、発泡性シリコーンゴム、フッ素ゴム、等のゴム材料で形成されている。弾性層を設けることで、ニップ部における定着ベルト21表面の微小な凹凸が形成されなくなり、記録媒体P上のトナー像Tに均一に熱が伝わりユズ肌画像の発生が抑止される。なお、本実施の形態1では、定着ベルト21の弾性層として、層厚が200μmのシリコーンゴムを用いている。
定着ベルト21の離型層は、層厚が10〜50μmであって、PFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリイミド、ポリエーテルイミド、PES(ポリエーテルサルファイド)、等の材料で形成されている。離型層を設けることで、トナーT(トナー像)に対する離型性(剥離性)が担保される。
【0034】
また、定着ベルト21の直径は15〜120mmになるように設定されている。なお、本実施の形態1では、定着ベルト21の内径が30mmに設定されている。
定着ベルト21の内部(内周面側)には、固定部材26、金属部材22、補強部材23、断熱部材27、ステー部材28、等が固設されている。また、定着ベルト21の外周面の一部と、金属部材22の内周面の一部と、にそれぞれ隙間を空けて対向するように、励磁部材25(コイル部)が配設されている(図5をも参照できる。)。また、図示は省略するが、定着ベルト21と金属部材22との間には、潤滑剤が介在(塗布)されている。
ここで、固定部材26は、定着ベルト21の内周面に摺接するように固定されている。そして、固定部材26が定着ベルト21を介して加圧ローラ31に圧接することで、記録媒体Pが搬送されるニップ部が形成される。図3を参照して、固定部材26は、その幅方向両端部が定着装置20の側板43に固定支持されている。
なお、励磁部材25や固定部材26の構成については、後でさらに詳しく説明する。
【0035】
図2を参照して、金属部材22(金属熱伝導体)は、ニップ部を除く位置で定着ベルト21の内周面に対向するように形成され、ニップ部の位置では断熱部材27を介して固定部材26を保持するように形成された略円筒体である。図3を参照して、金属部材22は、その幅方向両端部が定着装置20の側板43に固定支持されている。また、金属部材22の両端には、定着ベルト21の寄り(幅方向の移動である。)を制限するためのフランジ29が挿設されている。
そして、略パイプ状に形成された金属部材22は、感温磁性体で形成されていて、励磁部材25(コイル部)により生成される交番磁界によって電磁誘導加熱されて定着ベルト21を加熱する(熱を伝える。)。すなわち、金属部材22が励磁部材25によって直接的に電磁誘導加熱されて、金属部材22を介して定着ベルト21が間接的に加熱されることになる。
ここで、本実施の形態1では、定着ベルト21にも発熱層21aを設けているため、定着ベルト21(発熱層21a)自体も、励磁部材25により生成される交番磁界によって直接的に電磁誘導加熱されることになる。したがって、定着ベルト21の加熱効率がさらに向上することになる。
【0036】
金属部材22の材料としては、ニッケル、鉄、クロム、又は、それらの合金等の磁性導電性材料を用いることができる。
本実施の形態1では、金属部材22の材料として、キュリー点が定着可能温度以上であって300度以下となる感温磁性体を用いている。具体的に、金属部材22の材料は、ニッケル、鉄、クロムの合金であって、各材料の添加量と加工条件とを調整することで所望のキュリー点(本実施の形態1では、250度に設定されている。)を得ることができる。また、本実施の形態1において、金属部材22の肉厚は0.5mmに設定されている。
このように、金属部材22のキュリー点を定着ベルト21の定着温度近傍に設定することで、励磁部材25による電磁誘導によって金属部材22や定着ベルト21が過昇温する不具合が抑止されることになる。
【0037】
なお、本実施の形態1では、金属部材22の全部を感温磁性体で形成したが、金属部材22の一部のみを感温磁性体で形成することもできる。具体的に、金属部材22を感温磁性体からなる層を含む多層構造体にすることもできる。例えば、金属部材22の表裏層を感温磁性体で形成して、中間層をアルミニウム、鉄、ステンレス等の高熱伝導性材料で形成することもできる。このような場合には、定着ベルト21を周方向にわたって、より効率良く加熱することができる。
【0038】
そして、本実施の形態1では、加熱状態にある金属部材22によって定着ベルト21がニップ部を除く位置で全体的に加熱されて、加熱された定着ベルト21の表面から記録媒体P上のトナー像Tに熱が加えられることになる。
なお、励磁部材25の出力制御は、定着ベルト21表面に対向するサーミスタ等の温度センサ40によるベルト表面温度の検知結果に基いておこなわれる。また、このような励磁部材25の出力制御によって、定着ベルト21の温度(定着温度)を所望の温度に設定することができる。
【0039】
図5及び図6等を参照して、加熱手段としての励磁部材25(コイル部)は、ループ状に形成された励磁コイルであって、高周波電源50に接続されている。
ここで、励磁部材25は、定着ベルト21の表面(外周面)及び金属部材22の裏面(内周面)を挟むように配設されている。換言すると、定着ベルト21及び金属部材22の一部が、ループ状の励磁部材25のループ内に挟入されている。
励磁部材部25は、定着ベルト21及び金属部材22に対して平行に幅方向に延設されている。励磁部材25の幅方向の一端は内周面側と外周面側とを結ぶ折返し部になっていて、他端には高周波電源50が接続されている。そして、高周波電源50から、10k〜1MHz(好ましくは、10k〜300kHzである。)の交番電流が励磁部材25に印加される。
詳しくは、高周波電源50から励磁部材25に10kHz〜1MHzの高周波交番電流を流すことで、図6に示すように、励磁部材25のループ内に磁力線が双方向に交互に切り替わるように形成される。このように交番磁界が形成されることで、金属部材22の温度がキュリー点以下である場合に、定着ベルト21の発熱層21aと、金属部材22の表裏面と、に渦電流が生じて、定着ベルト21の発熱層21aと金属部材22とのそれぞれの電気抵抗によってジュール熱が発生して、誘導加熱される。また、定着ベルト21は、発熱した金属部材22からの伝熱によっても加熱される。
【0040】
ここで、高周波電源50から供給される交番電流の周波数が高くなるほど励磁部材25による電磁誘導加熱の加熱効率は大きくなるが、電源の大型化、高コスト化が生じてしまう。したがって、本実施の形態1では、電源の小型化、低コスト化のため、高周波電源50による使用周波数帯を20k〜40kHzとして、主に30kHzの交番電流を励磁部材25に印加している。
【0041】
また、図6を参照して、本実施の形態1において、励磁部材25は、ニップ部上流側(ニップ部に対して定着ベルト21の走行方向上流側である。)の位置に配設されている。これにより、励磁部材25によって電磁誘導加熱された定着ベルト21が速やかにニップ部に移動して、記録媒体P上のトナー像を加熱することになる。したがって、定着ベルト21の熱が空気中に放熱されにくくなり、定着ベルト21の加熱効率が向上する。
なお、本実施の形態1における励磁部材25は、図5に示すように、定着ベルト21及び金属部材22を1回だけ挟むように離間して巻回されたものとした。これに対して、励磁部材25を、定着ベルト21及び金属部材22を複数回挟むように離間して巻回されたものとすることもできる。
【0042】
このように、本実施の形態1における定着装置20は、定着ベルト21の一部のみが局所的に加熱されるのではなく、励磁部材25との対向位置が電磁誘導加熱された後に周方向にわたって伝熱された状態の金属部材22によって定着ベルト21が周方向にわたってほぼ全体的に加熱されることになるために、装置を高速化した場合であっても定着ベルト21が充分に加熱されて定着不良の発生を抑止することができる。すなわち、比較的簡易な構成で効率よく定着ベルト21を加熱できるために、ウォームアップ時間やファーストプリント時間が短縮化されるとともに、装置の小型化が達成される。
【0043】
ここで、略パイプ状の金属部材22は、定着ベルト21の内周面(ニップ部を除く位置である。)にクリアランスをあけて対向するように固設されている。定着ベルト21と金属部材22とのクリアランス量δ(ニップ部を除く位置のギャップである。)は、0mmより大きく1mm以下に設定されている(0mm<δ≦1mmである。)。これにより、金属部材22と定着ベルト21とが摺接する面積が大きくなって定着ベルト21の磨耗が加速する不具合を抑止するとともに、金属部材22と定着ベルト21とが離れ過ぎて定着ベルト21の加熱効率が低下する不具合を抑止することができる。さらに、金属部材22が定着ベルト21に近設されることで、可撓性を有する定着ベルト21の円形姿勢がある程度維持されるため、定着ベルト21の変形による劣化・破損を軽減することができる。
また、金属部材22と定着ベルト21とが摺接しても定着ベルト21の磨耗が軽減されるように、定着ベルト21の内周面には、双方の部材21、22の間にはフッ素グリスやシリコーンオイル等の潤滑剤が塗布されている。
なお、本実施の形態1では、金属部材22の断面形状が略円形になるように形成したが、金属部材22の断面形状が多角形になるように形成することもできる。
【0044】
ここで、本実施の形態1では、ニップ部を形成する固定部材26の強度を補強する補強部材23が、定着ベルト21の内周面側に固設されている。図3を参照して、補強部材23は、幅方向の長さが固定部材26と同等になるように形成されていて、その幅方向両端部が定着装置20の側板43に固定支持されている。そして、補強部材23が固定部材26及び定着ベルト21を介して加圧ローラ31に当接することで、ニップ部において固定部材26が加圧ローラ31の加圧力を受けて大きく変形する不具合を抑止している。なお、本実施の形態1において、補強部材23は、金属部材22の内部を概ね2つの空間に分けるように配設された板状部材である。
この補強部材23は、上述した機能を満足するために、ステンレスや鉄等の機械的強度が高い金属材料で形成することが好ましい。なお、本実施の形態1では、補強部材23の材料として、励磁コイル25による交番磁界を受けても加熱されにくい、非磁性ステンレス(SUS304)を用いている。
【0045】
図2を参照して、ニップ部の位置で定着ベルト21の外周面に当接する加圧回転体としての加圧ローラ31は、外径が30mmであって、中空構造の芯金32上に弾性層33(層厚が3mm程度である。)を形成したものである。加圧ローラ31(加圧回転体)の弾性層33は、発泡性シリコーンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の材料で形成されている。なお、弾性層33の表層にPFA、PTFE等からなる薄肉の離型層を設けることもできる。加圧ローラ31は定着ベルト21に圧接して、双方の部材間に所望のニップ部を形成する。また、図3を参照して、加圧ローラ31には不図示の駆動機構の駆動ギアに噛合するギア45が設置されていて、加圧ローラ31は図2中の矢印方向(時計方向)に回転駆動される。また、加圧ローラ31は、その幅方向両端部が定着装置20の側板43に軸受42を介して回転自在に支持されている。なお、加圧ローラ31の内部に、ハロゲンヒータ等の熱源を設けることもできる。
【0046】
なお、加圧ローラ31の弾性層33を発泡性シリコーンゴム等のスポンジ状の材料で形成した場合には、ニップ部に作用する加圧力を減ずることができるために、金属部材22に生じる撓みをさらに軽減することができる。さらに、加圧ローラ31の断熱性が高められて、定着ベルト21の熱が加圧ローラ31側に移動しにくくなるために、定着ベルト21の加熱効率が向上する。
また、本実施の形態1では、定着ベルト21の直径が加圧ローラ31の直径とほぼ同等になるように形成したが、定着ベルト21の直径が加圧ローラ31の直径よりも小さくなるように形成することもできる。その場合、ニップ部における定着ベルト21の曲率が加圧ローラ31の曲率よりも小さくなるために、ニップ部から送出される記録媒体Pが定着ベルト21から分離され易くなる。
【0047】
図4を参照して、定着ベルト21の内周面に摺接する固定部材26は、ベース層26b上に表面層26aが形成されたものである。固定部材26は、加圧ローラ31との対向面(摺接面)が、加圧ローラ31の曲率にならうように凹状に形成されている。これにより、記録媒体Pは加圧ローラ31の曲率にならうようにニップ部から送出されるために、定着工程後の記録媒体Pが定着ベルト21に吸着して分離しないような不具合を抑止することができる。
なお、本実施の形態1では、ニップ部を形成する固定部材26の形状を凹状に形成したが、ニップ部を形成する固定部材26の形状を平面状に形成することもできる。すなわち、固定部材26の摺接面(加圧ローラ31に対向する面である。)が平面形状になるように形成することができる。これにより、ニップ部の形状が記録媒体Pの画像面に対して略平行になって、定着ベルト21と記録媒体Pとの密着性が高まるために定着性が向上する。さらに、ニップ部の出口側における定着ベルト21の曲率が大きくなるために、ニップ部から送出された記録媒体Pを定着ベルト21から容易に分離することができる。
【0048】
また、固定部材26のベース層26bを形成する材料としては、加圧ローラ31による加圧力を受けても大きく撓むことがないように、ある程度剛性のある材料で形成されている。なお、本実施の形態1では、ベース層26bの材料として、厚さが1.5mm程度のアルミニウムを用いている。
金属板を曲げ加工することにより形成する略パイプ状の金属部材22は、その肉厚を薄くすることができるために、ウォームアップ時間を短縮することができる。しかし、金属部材22自身の剛性は小さくなっているため、加圧ローラ31の加圧力に抗しきれずに、撓んだり、変形することがある。パイプ状の金属部材22が変形してしまうと所望のニップ幅が得られずに、定着性が低下するという問題が生じる。これに対して、本実施の形態1では、薄肉の金属部材22とは別に高剛性の固定部材26を設置してニップ部を形成しているために、そのような問題が生じるのを未然に防止することができる。
【0049】
また、固定部材26の表面層26aは、フッ素ゴム等の低摩擦弾性材料で形成されている。このような表面層26aを設けることにより、固定部材26と定着ベルト21との摺接によって双方の部材21、26が磨耗する不具合が軽減されるとともに、双方の部材21、26の間に所望のニップ部が形成されることになる。なお、本実施の形態1では、表面層26aの厚さが1.5〜2mm程度に設定されている。
また、固定部材26の表面層26aに、予め潤滑剤を含浸させることもできる。これにより、固定部材26は、定着ベルト21に当接する面に潤滑剤が保持された状態になり、双方の部材21、26が磨耗する不具合がさらに軽減される。
【0050】
また、本実施の形態1では、固定部材26と金属部材22との間に断熱部材27を設置している。詳しくは、固定部材26と金属部材22との間であって、固定部材26の摺接面を除く面を覆うように断熱部材27が設置されている。断熱部材27の材料としては、断熱性に優れたスポンジゴムや、空包を有するセラミック、等を用いることができる。
本実施の形態1では、定着ベルト21と金属部材22とがほぼ全周にわたって近接しているため、加熱待機時(プリント動作待機時)においても定着ベルト21を周方向に温度ムラなく加熱できる。したがって、プリント要求を受けた後、速やかにプリント動作をおこなうことができる。このとき、従来のオンデマンド方式の定着装置(例えば、特許第2884714号公報参照。)では、ニップ部で加熱待機時に加圧ローラを変形させたまま熱を与えてしまうと、加圧ローラのゴムの材質によっては、熱劣化を起こして加圧ローラの寿命が短くなってしまったり、加圧ローラに圧縮永久ひずみが発生してしまったりする(ゴムの圧縮永久ひずみは、ゴムの変形に加熱が加わることにより増大する。)。そして、加圧ローラに圧縮永久ひずみが発生すると、加圧ローラの一部が凹んだ状態になり、所望のニップ幅が得られないため、定着不良が発生したり、回転時に異音が生じたりする。
これに対して、本実施の形態1では、固定部材26と金属部材22との間に断熱部材27が設置されているために、加熱待機時に金属部材22の熱が固定部材26に達しにくくなる。したがって、加熱待機時に加圧ローラ31が変形した状態で高温加熱される不具合が軽減されて、上述の問題が生じるのを抑止することができる。
【0051】
さらに、固定部材26と定着ベルト21との摩擦抵抗を低減するために双方の部材間に塗布された潤滑剤は、ニップ部における高圧条件に加えて高温条件による使用によって劣化して、定着ベルト21のスリップ等の不具合が生じてしまう可能性がある。
これに対して、本実施の形態1では、固定部材26と金属部材22との間に断熱部材27が設置されているために、金属部材22の熱がニップ部の潤滑剤に達しにくくなる。したがって、潤滑剤の高温による劣化が軽減されて、上述の問題が生じるのを抑止することができる。
【0052】
また、本実施の形態1では、固定部材26と金属部材22との間に断熱部材27が設置されているために、固定部材26が断熱されて、ニップ部では積極的に定着ベルト21は加熱されないことになる。そのため、ニップ部に送入された記録媒体Pの温度がニップ部から送出されるときには低くなる。すなわち、ニップ部出口では、記録媒体P上に定着されたトナー像の温度が低くなって、トナーの粘性が低下して、定着ベルト21に対するトナー接着力が小さくなった状態で、記録媒体Pは定着ベルト21から分離される。したがって、定着工程直後の記録媒体Pが定着ベルト21に巻き付いてジャムになる不具合が防止されるとともに、定着ベルト21に対するトナー固着も抑制される。
【0053】
また、本実施の形態1では、図4を参照して、固定部材26が挿設された金属部材22の凹部22aを内周面側から保持するステー部材28が設置されている。
略パイプ状の金属部材22は、0.1mm厚のステンレスからなる平板に曲げ加工を施して形成したものである。したがって、ステンレス板を曲げ加工によって所望のパイプ形状に加工しようとしても、そのままでは、スプリングバックによって径が大きくなる方向に開いてしまい所望のパイプ形状を形成することができない。そして、金属部材22がスプリングバックによって開いてしまうと、定着ベルト21の内周面に接触してしまい定着ベルト21を傷つけたり、定着ベルト21との接触ムラによる定着ベルト21の加熱ムラが生じたりしてしまう。本実施の形態1では、このような不具合が生じるのを抑止するために、金属部材22の開口部が形成された凹部22a(曲げ部)をステー部材28で固定することによって、金属部材22のスプリングバックによる変形を抑止している。具体的には、スプリングバック力に抗するように曲げ加工が施された金属部材22の形状を保持しながら、金属部材22の内周面側からステー部材28を凹部22aに圧入する。
【0054】
上述したように、金属板を曲げ加工することにより形成する略パイプ状の金属部材22は、その肉厚を薄くすることができるために、ウォームアップ時間を短縮することができる。しかし、金属部材22自身の剛性は小さくなっているため、加圧ローラ31の加圧力が金属部材22に作用すると、その加圧力に抗しきれずに、撓んだり、変形してしまう。そして、パイプ状の金属部材22が変形してしまうと所望のニップ幅が得られずに、定着性が低下するという問題が生じてしまう。これに対して、本実施の形態1では、薄肉の金属部材22に凹部22a(固定部材26が挿設されている部分である。)をニップ部から離れるように設けて、加圧ローラ31の加圧力が金属部材22に直接的に作用しないように構成しているために、そのような問題が生じるのを未然に防止することができる。
【0055】
以下、上述のように構成された定着装置20の通常時の動作について簡単に説明する。
装置本体1の電源スイッチが投入されると、高周波電源50から励磁部材25に交番電流が供給されるとともに、加圧ローラ31の図2中の矢印方向の回転駆動が開始される。これにより、加圧ローラ31との摩擦力によって、定着ベルト21も図2中の矢印方向に従動(回転)する。
その後、給紙部12から記録媒体Pが給送されて、2次転写ローラ89の位置で、記録媒体P上に未定着のカラー画像が担持(転写)される。未定着画像T(トナー像)が担持された記録媒体Pは、不図示のガイド板に案内されながら図2の矢印Y10方向に搬送されて、圧接状態にある定着ベルト21及び加圧ローラ31のニップ部に送入される。
そして、金属部材22(及び、発熱層21a)によって加熱された定着ベルト21による加熱と、補強部材23によって補強された固定部材26と加圧ローラ31との押圧力とによって、記録媒体Pの表面にトナー像Tが定着される。その後、ニップ部から送出された記録媒体Pは、矢印Y11方向に搬送される。
【0056】
以上説明したように、本実施の形態1における定着装置20は、金属部材22の内周面の一部と定着ベルト21の外周面の一部とにそれぞれ隙間を空けて対向する励磁部材25によって、感温磁性体で形成された金属部材22が電磁誘導加熱されるように構成している。これにより、上述した定着工程において、金属部材22の温度がキュリー点を超えた場合には、金属部材22の発熱が制限されることになる。すなわち、励磁部材25によって加熱された金属部材22の温度がキュリー点を超えた場合には、金属部材22が磁性を失うことにより、定着ベルト21の発熱層21aと金属部材22の発熱が制限される。そして、定着ベルト21の発熱層21aと金属部材22のジュール熱の発生量が低下して、定着ベルト21や金属部材22の過昇温が抑止される。
このような自己温度制御能力は、本実施の形態1のように定着ベルト21と金属部材22とに対して励磁部材25をループ状に配設した場合、金属部材22の片側(例えば、内周面側である。)に励磁部材を配設した場合に比べて、特に高くなる。
【0057】
以下、「自己温度制御能力」に関して、図6〜図8を用いて詳しく説明する。
図6は励磁コイル25の近傍を示す断面図であって、図7及び図8は、金属部材22、定着ベルト21、励磁部材25を幅方向にみた断面模式図である。各図中の破線矢印は、励磁コイル25に交番電流が流れたときに発生する磁力線を示している。
図6に示すように、励磁部材25は、定着ベルト21の外周面と金属部材22の内周面とを挟むように配設されている。これにより、図7に示すように、定着ベルト21の外周面に対向する励磁部材25と、金属部材22の内周面に対向する励磁部材25と、には、互いに逆向きのコイル電流Hが常に流れることになる。したがって、定着ベルト21及び金属部材22を挟む双方の励磁部材25によって発生される磁力線B1、B2も互いに逆の方向に回転する。そして、金属部材22の表面と裏面とには、逆向きの渦電流A1、A2が流れて、表裏面の双方でジュール損による発熱が生じることになる。また、定着ベルト21の発熱層21aには、金属部材22の表面と同じ向きの渦電流A3が流れて、ジュール損による発熱が生じることになる。
【0058】
ここで、交番電流によって生じる交番磁束が金属部材22(又は、発熱層21a)に誘導する渦電流は、金属部材22(又は、発熱層21a)の表面に近くなるほど大きくなって、表面から離れるにつれて指数関数的に小さくなる。金属部材22(又は、発熱層21a)が磁性体である場合には、誘導される渦電流はさらに金属部材22(又は、発熱層21a)の表面に集中する。
また、渦電流が表面における電流密度の0.368倍に減少した位置における表面からの深さを電流の浸透深さδと呼ぶ。なお、浸透深さδは次式で求まる。
δ=503・〔ρ/(μf)〕1/2 …式(1)
上式(2)において、ρは金属部材22(又は、発熱層21a)の体積抵抗率(Ω・m)であり、μは金属部材22(又は、発熱層21a)の比透磁率であり、fは金属部材22(又は、発熱層21a)を励磁する交番電流の周波数(Hz)である。
浸透深さより金属部材22(又は、発熱層21a)の表面から遠い位置に流れる渦電流は、金属部材22(又は、発熱層21a)の表面近傍のものと比較して、非常に小さく誘導加熱にほとんど影響を与えない。金属部材22(又は、発熱層21a)の厚さが浸透深さ以上であれば、金属部材22(又は、発熱層21a)の表面から進入した磁束は金属部材22(又は、発熱層21a)の内部でエネルギーを消失して、金属部材22(又は、発熱層21a)をほとんど透過することができなくなる。
【0059】
本実施の形態1では、金属部材22の材料として感温磁性体を用いている。この感温磁性体の浸透深さは、感温磁性体の温度がキュリー点以下であって交番電流の周波数が30kHzのとき、式(1)より約0.06mmとなる。なお、感温磁性体の比透磁率は、常温の初透磁率を真空の透磁率で割ることにより算出した。
本実施の形態1では、金属部材22の厚さを0.5mmに設定している。そのため、交番電流の周波数が30kHzであって、金属部材22の温度がキュリー点以下であれば、図7に示すように、金属部材22の表面と裏面とに流れる渦電流はそれぞれ金属部材22の表面から0.06mm程度の位置に集中して、互いの渦電流が干渉することなく金属部材22は誘導加熱されることになる。
【0060】
これに対して、金属部材22の温度がキュリー点以上(比透磁率が1となる。)であって交番電流の周波数が30kHzのとき、金属部材22(感温磁性体)の浸透深さは、式(1)より約2mmとなる。このとき、図8に示すように、ループ状の励磁コイル25によって発生される交番磁束は、厚さ0.5mmの金属部材22を貫いて干渉してしまう。そのため、金属部材22に流れる渦電流A1、A2は相殺されて、金属部材22の発熱量が著しく低下してしまう。
このように、定着ベルト21の外周面と金属部材22の内周面とを挟むように励磁部材25を配設することで、非常に高い自己温度制御能力と発熱効率とを得ることができる。
【0061】
ここで、本実施の形態1において、定着ベルト21の発熱層21aは、その層厚が交番電流の周波数が30kHzのときの浸透深さよりも小さくなる金属材料で形成されている。具体的に、定着ベルト21の発熱層21aとして、厚さが40μmの非磁性ステンレス(SUS304)に厚さが10μmの銅をメッキ処理したものを用いている。銅の浸透深さとSUS304の浸透深さとは、交番電流の周波数が30kHzのとき、式(1)より、それぞれ、約0.38mm、約2.46mmになるため、上述した関係が成立することになる。そして、このような関係が成立することにより、磁束は発熱層21aを透過して、発熱層21aの全体に渦電流が流れることになる。
【0062】
上述したメカニズムにより、定着装置20が自己温度制御されるためには、金属部材22(感温磁性体)の温度がキュリー点以上であるときに、定着ベルト21及び金属部材22を挟むように配設された励磁部材25により発生する交番磁束が金属部材22を貫いて干渉する必要がある。したがって、金属部材22の外周面側に配置される発熱層21aは、その浸透深さが、発熱層21aの層厚よりも大きくて、磁束が発熱層21aを透過しなければならない。すなわち、定着ベルト21の発熱層21aの層厚が、その浸透深さよりも大きいと、磁束が金属部材22まで充分に透過しないため、金属部材22の自己温度制御特性が損なわれてしまうことになる。
【0063】
また、本実施の形態1では、定着ベルト21に発熱層21aを設けているため、励磁部材25からの投入エネルギーの一部によって定着ベルト21が直接的に加熱されることになり、定着ベルト21の加熱効率がさらに向上する。したがって、装置のウォームアップ時間、ファーストプリント時間がさらに短縮化されることになる。
【0064】
図9は、本実施の形態1における定着装置20において、金属部材22の材質が異なるときの、ウォームアップ時における定着ベルト21の昇温特性(時間と定着ベルト21の表面温度との関係)を示すグラフである。
図9において、グラフQ1は金属部材22を感温磁性体で形成した場合(本実施の形態1における構成である。)の昇温特性を示し、グラフQ0は金属部材22をSUS430(磁性ステンレスであって、感温磁性体ではない材料である。)で形成した場合の昇温特性を示す。ウォームアップ時の昇温特性は、定着ベルト21がトナーを溶融するのに必要な温度(本実施の形態1では、160℃である。)に達する昇温時間が短いほど良く、ユーザーにとって使いやすい画像形成装置ということになる。
グラフQ0に示すように、自己温度制御能力のない金属部材を用いた場合には、励磁部材25に電力を供給しつづけると、定着ベルト21の温度が160℃(定着設定温度)を超えても昇温を続ける。これに対して、グラフQ1に示すように、自己温度制御能力のある金属部材22を用いた場合には、励磁部材25に電力を供給しつづけても、金属部材22(感温磁性体)の温度がキュリー(250℃)まで昇温すると、それ以上温度が上がらない。そのため、定着ベルト21の温度は、減少した金属部材22(感温磁性体)の発熱量と、定着ベルト21の放熱量と、がつりあう温度(本実施の形態1では、約230℃である。)で一定となる。このように、金属部材22自体の自己温度制御能力によって、温度制御をおこなうための制御装置を別に設けなくても、金属部材22や定着ベルト21の過昇温を防止することができる。
【0065】
ここで、本実施の形態1における金属部材22は、少なくとも励磁部材25に対向する部分の厚さが、金属部材22の温度が金属部材22が有するキュリー点以下であるときの交番電流の周波数に対応した浸透深さに対して3倍以上の厚さとなるように形成されている。これは、先に図7、図8にて説明した自己温度制御能力のメカニズムにより、金属部材22の厚さが誘導加熱の効率に影響を与えるとの、本願発明者の推測に基づくものである。
【0066】
図10は、金属部材22の温度がキュリー点以下であるときの、金属部材22の厚さ/浸透深さと、発熱効率と、の関係を示すグラフ(実験結果)である。
図10に関わる実験では、本実施の形態1における定着装置20において、感温磁性体からなる金属部材22の厚さを変化させて、周波数30kHzの一定電圧を励磁部材25に印加したときの、金属部材22及び発熱層21aの発熱量Qを測定している。図10において、横軸は金属部材22の厚さを浸透深さ(0.06mm)で割った倍率(金属部材の厚さ/浸透深さ)を示し、縦軸は金属部材22の厚さが0.06mmのときの金属部材22及び発熱層21aの発熱量Q1を基準とした発熱量の増減率((Q−Q1)/Q1×100)を示す。
【0067】
図10に示す実験結果から、感温磁性体である金属部材22の温度がキュリー点以下であるとき、金属部材22の厚さが3倍より薄くなると、発熱量が急激に低下することがわかる。これは、金属部材22の温度がキュリー点以下であるのに、金属部材22の厚さが薄すぎるため、金属部材22の内部を流れる定着ベルト21の外側の励磁部材25の磁束(コイル磁束)に誘導された渦電流と、金属部材22内側の励磁部材25の磁束(コイル磁束)に誘導された渦電流と、が相殺されるためである。
本実施の形態1において、装置のウォームアップ時間やファーストプリント時間が短縮化するためには、金属部材22の温度がキュリー点以下であるときの加熱効率が重要になる。上述したように、周波数30kHzで誘導加熱をおこなうとき、金属部材22の厚さは浸透深さの3倍以上にすることで、装置の加熱効率を確実に向上させることができる。また、周波数が30kHzにおいて浸透深さが小さな金属部材22(例えば、浸透深さが0.15mm以下のもの)を用いることで、熱容量の小さな定着装置を提供することができる。すなわち、金属部材22の浸透深さが小さければ小さいほど、金属部材22の厚さを薄くすることができることになる。
【0068】
以上説明したように、本実施の形態1では、金属部材22及び定着ベルト21を挟むようにループ状の励磁部材25を配設するとともに、金属部材22の厚さを最適化しているため、金属部材22における発熱効率と自己温度制御性とが高まり、小サイズの記録媒体を連続的に定着した場合や装置が突発的に駆動停止した場合等であっても、金属部材22(又は定着ベルト21)の過昇温を確実に抑止することができる。
【0069】
なお、本実施の形態1における定着装置20は、定着ベルト21に発熱層21aを設けて、励磁部材25からの投入エネルギーの一部によって定着ベルト21を直接的に加熱している。これに対して、定着ベルト21に発熱層21aを設けずに金属部材22のみを電磁誘導加熱する場合であっても、充分に高い自己温度制御能力を得ることができる。
【0070】
図11は、定着ベルト21における発熱層21aの有無による、ウォームアップ時における定着ベルト21の昇温特性(時間と定着ベルト21の表面温度との関係)を示すグラフである。
図11において、グラフS1は定着ベルト21に発熱層21aを設けた場合(本実施の形態1における構成である。)の昇温特性を示し、グラフS0は定着ベルト21に発熱層21aを設けなかった場合(発熱層の代わりにポリイミドからなる基材層を設けている。)の昇温特性を示す。
図11に示す実験結果から、定着ベルト21に発熱層21aを設けることにより、昇温特性が向上していることがわかる。具体的に、定着ベルト21の表面温度が定着設定温度(160℃)まで昇温する時間は、発熱層21aを設けなかった場合が15秒であったのに対して、発熱層21aを設けた場合が10秒であった。
また、発熱層21aを設けた場合には定着ベルト21が230℃で一定となったのに対して、発熱層21aを設けなかった場合には定着ベルト21が220℃で一定となった。これは、定着ベルト21が発熱層21aを有さない場合には、定着ベルト21の加熱は金属部材22からの伝熱によるものだけであるのに対して、定着ベルト21に発熱層21aが形成されている場合には、定着ベルト21の加熱が金属部材22からの伝熱に加えて、誘導加熱による直接的なものがあるためである。特に、定着装置20を低温状態から昇温させる場合(例えば、室温状態から装置を立ち上げる場合である。)には、定着ベルト21(発熱層21a)を誘導加熱で直接的に加熱する効果が顕著になる。
【0071】
以上説明したように、本実施の形態1においては、金属部材22の内周面の一部と定着ベルト21の外周面の一部とにそれぞれ隙間を空けて対向する励磁部材25によって、感温磁性体で形成された金属部材22を電磁誘導加熱するように構成している。これにより、ウォームアップ時間やファーストプリント時間が短くて、定着装置20(画像形成装置1)を高速化した場合であっても定着不良等が生じることなく、小サイズの記録媒体Pを連続的に定着した場合や定着装置20が突発的に駆動停止した場合等であっても金属部材22や定着ベルト21の過昇温を確実に抑止することができる。
【0072】
実施の形態2.
図12〜図14にて、この発明の実施の形態2について詳細に説明する。
図12は、実施の形態2における定着装置の一部を示す構成図である。また、図13は、別の形態の定着装置の一部を示す図である。さらに、図14は、金属部材の22肉厚部の範囲が異なるときの、定着ベルト21の昇温特性を示すグラフである。
本実施の形態2における定着装置は、金属部材22において励磁部材25に対向する部分の厚さt1がそれ以外の部分の厚さt2よりも厚くなるように形成されている点が、金属部材22が周方向にわたって一定の肉厚で形成されている前記実施の形態1のものと相違する。
【0073】
本実施の形態2における定着装置20も、前記実施の形態1のものと同様に、定着ベルト21、固定部材26、金属部材22、補強部材23、励磁部材25(加熱手段)、加圧ローラ31(加圧回転体)、温度センサ40、断熱部材27、ステー部材28、等で構成される。そして、金属部材22はその一部又は全部が感温磁性体で形成され、ループ状の励磁部材25が金属部材22の内周面と定着ベルト21の外周面とに対向するように配設されている。
【0074】
ここで、本実施の形態2における定着装置20の金属部材22は、図12に示すように、励磁部材25に対向する部分(破線で囲んだ部分である。)の厚さt1が、それ以外の部分の厚さt2よりも厚くなるように形成されている。
具体的に、励磁部材25に対向する部分(肉厚部)の厚さt1は0.5mmに設定され、励磁部材25に対向しない部分(薄肉部)の厚さt2は0.1mmに設定されている。また、図12に示すように、金属部材22における肉厚部の周方向の長さW0は、対向する内側の励磁部材25の周方向の長さにほぼ一致するように設定されている。なお、図12(又は、図13)において、肉厚部の厚さt1と、薄肉部の肉厚t2と、は、見易さのため比例尺で図示していない。
このように、励磁部材25による交番磁界が及ぶ範囲(肉厚部)は金属部材22の肉厚を浸透深さの3倍以上に設定することで自己温度制御性を確保し、励磁部材25による交番磁界が及ばない範囲(薄厚部)は金属部材22の肉厚をなるべく薄くして熱容量を小さく設定することで伝熱性を確保している。これにより、自己温度制御性と、全体の加熱効率と、の両者を良好化することができる。
【0075】
以下、詳しく説明する。
前記実施の形態1の図10にて説明したように、感温磁性体である金属部材22の厚さを浸透深さの3倍以上に設定することで、金属部材22の温度がキュリー点以下のときの加熱効率を高くすることができる。しかし、金属部材22の厚さを厚くすると、金属部材22の熱容量が増加するため、ウォームアップ時の昇温特性が低下してしまう。
本願発明者は、金属部材22の厚さが誘導加熱の加熱効率に影響を与える範囲が、励磁部材25の近傍に限られるのではと推測した。そして、その推測に基いて、金属部材22の厚さを厚くする範囲を変化させて、発熱量Qを計測する実験をおこなった。
【0076】
実験は、図12に示す本実施の形態2における金属部材22と、図13(A)〜(C)に示す金属部材22(肉厚部の周方向の範囲を変更したものである。)と、を用いた4種類の定着装置20について、ウォームアップ時における定着ベルト21の昇温特性(時間と定着ベルト21の表面温度との関係)を調べたものであって、その実験結果を図14に示している。
ここで、図13(A)に示す金属部材22は、肉厚部(t1=0.5mm)の範囲が、周方向全域となるように形成されている。また、図13(B)に示す金属部材22は、肉厚部(t1=0.5mm)の範囲W1が、対向する内側の励磁部材25の周方向の長さに対して充分に長くなるように形成されている。また、図13(C)に示す金属部材22は、肉厚部(t1=0.5mm)の範囲W2が、対向する内側の励磁部材25の周方向の長さに対して充分に短くなるように形成されている。なお、図13(B)及び図13(C)に示す金属部材22は、いずれも、図12のものと同様に薄肉部の肉厚t2が0.1mmに設定されている。
【0077】
また、図14において、グラフR0は図12に示す金属部材22を用いた場合の昇温特性を示し、グラフR1は図13(A)に示す金属部材22を用いた場合の昇温特性を示し、グラフR2は図13(B)に示す金属部材22を用いた場合の昇温特性を示し、グラフR3は図13(C)に示す金属部材22を用いた場合の昇温特性を示す。
図14の実験結果から、図12に示す金属部材22を用いた場合が最も昇温特性が良好で、以下、図13(B)に示す金属部材22を用いた場合、図13(A)に示す金属部材22を用いた場合、図13(C)に示す金属部材22を用いた場合の順に昇温特性が低下していく。特に、図13(C)に示す金属部材22を用いた場合には、他のものに比べて昇温特性の低下の程度が大きくなってしまう。
具体的に、図12に示す金属部材22を用いた場合のウォームアップ時間は6秒、図13(B)に示す金属部材22を用いた場合のウォームアップ時間は8秒、図13(A)に示す金属部材22を用いた場合のウォームアップ時間は10秒、図13(C)に示す金属部材22を用いた場合のウォームアップ時間は30秒であった。
【0078】
先に図7及び図8で説明したように、感温磁性体である金属部材22の温度がキュリー点以下であるとき、金属部材22の内部を流れる、定着ベルト21の外側のコイル磁束に誘導された渦電流と、金属部材22の内側のコイル磁束に誘導された渦電流と、が相殺されなければ、良好な加熱をおこなうことができる。したがって、図12に示す金属部材22のように、励磁部材25が生成する交番磁界により発熱する部分のみ、渦電流が相殺しないように、金属部材22の厚さを浸透深さの3倍以上に設定すれば良いことになる。
図12、図13(A)、図13(B)の金属部材22のように、少なくとも、励磁部材25(内側の励磁部材25である。)に対向する金属部材22の部分の肉厚を厚く設定することで、上述した渦電流の相殺による加熱効率の低下は解消される。しかし、渦電流の相殺が起こらなければ、金属部材22全体の熱容量が小さいほど、金属熱部材22の昇温時間は短くなるため、図14に示すような実験結果となる。一方、図13(C)の金属部材22を用いた場合には、励磁部材25(内側の励磁部材25である。)に対向する金属部材22の部分の肉厚がすべて厚く設定されていないため、肉厚が充分に確保されていない部分で、渦電流の相殺が発生して加熱効率が低下してしまい、図14に示すような実験結果となる。
【0079】
このような結果から、金属部材22において、少なくとも励磁部材25に対向する部分の厚さが、浸透深さ(金属部材22の温度がキュリー点以下であるときの交番電流の周波数に対応した浸透深さである。)に対して3倍以上の厚さとなるように形成することで、自己温度制御性が良好で、全体の加熱効率も良好になることがわかる。
特に、本実施の形態2における定着装置20は、金属部材22の肉厚部の範囲W0が必要充分な範囲に設定され、それ以外の部分が低熱容量化のため薄肉部となっているため、上述した効果が最大限発揮されることになる。
なお、本実施の形態2における定着装置20において、肉厚部が形成された金属部材22は一体成型されたものである必要はなく、例えば、肉厚がt2の板状部材(円筒状部材)に肉厚が(t1−t2)の板状部材を重ね合わせて肉厚部を形成することもできる。
【0080】
以上説明したように、本実施の形態2においても、前記実施の形態2と同様に、金属部材22の内周面の一部と定着ベルト21の外周面の一部とにそれぞれ隙間を空けて対向する励磁部材25によって、感温磁性体で形成された金属部材22を電磁誘導加熱するように構成している。これにより、ウォームアップ時間やファーストプリント時間が短くて、定着装置20(画像形成装置1)を高速化した場合であっても定着不良等が生じることなく、小サイズの記録媒体Pを連続的に定着した場合や定着装置20が突発的に駆動停止した場合等であっても金属部材22や定着ベルト21の過昇温を確実に抑止することができる。
【0081】
なお、前記各実施の形態では、定着ベルトとして複層構造の定着ベルト21を用いたが、定着ベルトとしてポリイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、金属等からなる無端状の定着フィルムを用いることもできる。そして、その場合にも、前記各実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0082】
なお、本発明が前記各実施の形態に限定されず、本発明の技術思想の範囲内において、前記各実施の形態の中で示唆した以外にも、前記各実施の形態は適宜変更され得ることは明らかである。また、前記構成部材の数、位置、形状等は前記各実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好適な数、位置、形状等にすることができる。
【符号の説明】
【0083】
1 画像形成装置本体(装置本体)、
20 定着装置、
21 定着ベルト(定着部材)、
21a 発熱層、
22 金属部材(加熱部材)、
23 補強部材、
25 励磁部材(加熱手段)、
26 固定部材、
31 加圧ローラ(加圧回転体)、 P 記録媒体。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0084】
【特許文献1】特許2009−3410号公報
【特許文献2】特許2007−17723号公報
【技術分野】
【0001】
この発明は、複写機、プリンタ、ファクシミリ、又は、それらの複合機等の画像形成装置と、そこに設置される定着装置と、に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、複写機、プリンタ等の画像形成装置において、ウォームアップ時間やファーストプリント時間が短くて、装置を高速化した場合であっても定着不良が生じにくい定着装置が知られている(例えば、特許文献1等参照。)。
【0003】
詳しくは、特許文献1の図6等の定着装置は、定着部材としての定着ベルト、定着ベルトの内周面に対向するように固設された略パイプ状の金属部材(加熱部材)、金属部材を電磁誘導加熱するために定着ベルトの外周面に対向するように配設された誘導加熱部(加熱手段)、定着ベルトに圧接してニップ部を形成する加圧ローラ(加圧回転体)、等で構成されている。
そして、誘導加熱部によって電磁誘導加熱された金属部材によって定着ベルトが加熱されて、ニップ部に向けて搬送された記録媒体上のトナー像がニップ部にて熱と圧力とを受けて記録媒体上に定着されることになる。
【0004】
一方、特許文献2等には、所定方向に回転する筒状の加熱部材の表裏面を挟むように励磁部材を設置して、励磁部材の交番電流を供給することによって加熱部材を電磁誘導加熱する定着装置が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1等の定着装置は、金属部材や定着ベルトの加熱効率が飛躍的に向上するものの、小サイズの記録媒体を連続的に通紙した場合や、紙詰まり等により装置が突発的に駆動停止した場合に、金属部材や定着ベルトの一部又は全部が過昇温することがあった。そして、このような問題が生じると、金属部材や定着ベルトに熱的破損が生じてしまったり、定着画像にオフセット等の異常画像が生じてしまったりする可能性があった。
【0006】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、ウォームアップ時間やファーストプリント時間が短くて、装置を高速化した場合であっても定着不良等が生じることなく、小サイズの記録媒体を連続的に定着した場合や装置が突発的に駆動停止した場合等であっても金属部材や定着ベルトの過昇温が確実に抑止される、定着装置及び画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の請求項1記載の発明にかかる定着装置は、所定方向に走行してトナー像を加熱して溶融するとともに、可撓性を有する無端状の定着ベルトと、前記定着ベルトの内周面側に固設されて、当該定着ベルトを介して加圧回転体に圧接して記録媒体が搬送されるニップ部を形成する固定部材と、前記ニップ部を除く位置で前記定着ベルトの内周面に対向するように固設されて前記定着ベルトを加熱するとともに、加熱手段によって電磁誘導加熱されるパイプ状の金属部材と、を備え、前記金属部材は、その一部又は全部が感温磁性体で形成され、前記加熱手段を、前記金属部材の内周面の一部と前記定着ベルトの外周面の一部とにそれぞれ隙間を空けて対向するように配設されるとともに、交番電流が印加されて交番磁界を発生させる励磁部材としたものである。
【0008】
また、請求項2記載の発明にかかる定着装置は、前記請求項1に記載の発明において、前記金属部材は、少なくとも前記励磁部材に対向する部分の厚さが、当該金属部材の温度が当該金属部材が有するキュリー点以下であるときの前記交番電流の周波数に対応した浸透深さに対して3倍以上の厚さとなるように形成されたものである。
【0009】
また、請求項3記載の発明にかかる定着装置は、前記請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記金属部材は、前記励磁部材に対向する部分の厚さが、それ以外の部分の厚さよりも厚くなるように形成されたものである。
【0010】
また、請求項4記載の発明にかかる定着装置は、前記請求項1〜請求項3のいずれかに記載の発明において、前記金属部材は、ニッケル、鉄、クロムの合金からなるものである。
【0011】
また、請求項5記載の発明にかかる定着装置は、前記請求項1〜請求項4のいずれかに記載の発明において、前記定着ベルトは、前記励磁部材によって発生される前記交番磁界によって電磁誘導加熱される発熱層を具備したものである。
【0012】
また、請求項6記載の発明にかかる定着装置は、前記請求項5に記載の発明において、前記発熱層は、その層厚が前記交番電流の周波数が30kHzのときの浸透深さよりも小さくなる金属材料で形成されたものである。
【0013】
また、請求項7記載の発明にかかる定着装置は、前記請求項1〜請求項6のいずれかに記載の発明において、前記励磁部材は、前記ニップ部に対して前記定着ベルトの走行方向上流側の位置で、前記定着ベルト及び前記金属部材を1回又は複数回挟むように離間して巻回されたものである。
【0014】
また、請求項8記載の発明にかかる定着装置は、前記請求項1〜請求項7のいずれかに記載の発明において、前記金属部材の内周面側に固設されて前記固定部材に当接して当該固定部材を補強する補強部材をさらに備えたものである。
【0015】
また、この発明の請求項9記載の発明にかかる画像形成装置は、請求項1〜請求項8のいずれかに記載の定着装置を備えたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、金属部材の内周面の一部と定着ベルトの外周面の一部とにそれぞれ隙間を空けて対向する励磁部材によって、その一部又は全部が感温磁性体で形成された金属部材を電磁誘導加熱するように構成している。これにより、ウォームアップ時間やファーストプリント時間が短くて、装置を高速化した場合であっても定着不良等が生じることなく、小サイズの記録媒体を連続的に定着した場合や装置が突発的に駆動停止した場合等であっても金属部材や定着ベルトの過昇温が確実に抑止される、定着装置及び画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の実施の形態1における画像形成装置を示す全体構成図である。
【図2】図1の画像形成装置に設置された定着装置を示す構成図である。
【図3】図2の定着装置を幅方向にみた図である。
【図4】ニップ部の近傍を示す拡大図である。
【図5】励磁部材の近傍を示す斜視図である。
【図6】金属部材に作用する磁力線を示す概略図である。
【図7】温度がキュリー点以下であるときに金属部材に生じる渦電流の状態を示す模式図である。
【図8】温度がキュリー点以上であるときに金属部材に生じる渦電流の状態を示す模式図である。
【図9】金属部材の材質が異なるときの、定着ベルトの昇温特性を示すグラフである。
【図10】金属部材の温度がキュリー点以下であるときの、金属部材の厚さ/浸透深さと発熱効率との関係を示すグラフである。
【図11】定着ベルトにおける発熱層の有無による、定着ベルトの昇温特性を示すグラフである。
【図12】この発明の実施の形態2における定着装置の一部を示す構成図である。
【図13】別の形態の定着装置の一部を示す図である。
【図14】金属部材の肉厚部の範囲が異なるときの、定着ベルトの昇温特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0019】
実施の形態1.
図1〜図11にて、この発明の実施の形態1について詳細に説明する。
まず、図1にて、画像形成装置全体の構成・動作について説明する。
図1に示すように、本実施の形態1における画像形成装置1は、タンデム型カラープリンタである。画像形成装置本体1の上方にあるボトル収容部101には、各色(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)に対応した4つのトナーボトル102Y、102M、102C、102Kが着脱自在(交換自在)に設置されている。
ボトル収容部101の下方には中間転写ユニット85が配設されている。その中間転写ユニット85の中間転写ベルト78に対向するように、各色(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)に対応した作像部4Y、4M、4C、4Kが並設されている。
【0020】
各作像部4Y、4M、4C、4Kには、それぞれ、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kが配設されている。また、各感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの周囲には、それぞれ、帯電部75、現像部76、クリーニング部77、除電部(不図示である。)等が配設されている。そして、各感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上で、作像プロセス(帯電工程、露光工程、現像工程、転写工程、クリーニング工程)がおこなわれて、各感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上に各色の画像が形成されることになる。
【0021】
感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kは、不図示の駆動モータによって図1中の時計方向に回転駆動される。そして、帯電部75の位置で、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面が一様に帯電される(帯電工程である。)。
その後、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面は、露光部3から発せられたレーザ光Lの照射位置に達して、この位置での露光走査によって各色に対応した静電潜像が形成される(露光工程である。)。
【0022】
その後、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面は、現像装置76との対向位置に達して、この位置で静電潜像が現像されて、各色のトナー像が形成される(現像工程である。)。
その後、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面は、中間転写ベルト78及び第1転写バイアスローラ79Y、79M、79C、79Kとの対向位置に達して、この位置で感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上のトナー像が中間転写ベルト78上に転写される(1次転写工程である。)。このとき、感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上には、僅かながら未転写トナーが残存する。
【0023】
その後、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面は、クリーニング部77との対向位置に達して、この位置で感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上に残存した未転写トナーがクリーニング部77のクリーニングブレードによって機械的に回収される(クリーニング工程である。)。
最後に、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面は、不図示の除電部との対向位置に達して、この位置で感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上の残留電位が除去される。
こうして、感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上でおこなわれる、一連の作像プロセスが終了する。
【0024】
その後、現像工程を経て各感光体ドラム上に形成した各色のトナー像を、中間転写ベルト78上に重ねて転写する。こうして、中間転写ベルト78上にカラー画像が形成される。
ここで、中間転写ユニット85は、中間転写ベルト78、4つの1次転写バイアスローラ79Y、79M、79C、79K、2次転写バックアップローラ82、クリーニングバックアップローラ83、テンションローラ84、中間転写クリーニング部80、等で構成される。中間転写ベルト78は、3つのローラ82〜84によって張架・支持されるとともに、1つのローラ82の回転駆動によって図1中の矢印方向に無端移動される。
【0025】
4つの1次転写バイアスローラ79Y、79M、79C、79Kは、それぞれ、中間転写ベルト78を感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kとの間に挟み込んで1次転写ニップを形成している。そして、1次転写バイアスローラ79Y、79M、79C、79Kに、トナーの極性とは逆の転写バイアスが印加される。
そして、中間転写ベルト78は、矢印方向に走行して、各1次転写バイアスローラ79Y、79M、79C、79Kの1次転写ニップを順次通過する。こうして、感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上の各色のトナー像が、中間転写ベルト78上に重ねて1次転写される。
【0026】
その後、各色のトナー像が重ねて転写された中間転写ベルト78は、2次転写ローラ89との対向位置に達する。この位置では、2次転写バックアップローラ82が、2次転写ローラ89との間に中間転写ベルト78を挟み込んで2次転写ニップを形成している。そして、中間転写ベルト78上に形成された4色のトナー像は、この2次転写ニップの位置に搬送された記録媒体P上に転写される。このとき、中間転写ベルト78には、記録媒体Pに転写されなかった未転写トナーが残存する。
その後、中間転写ベルト78は、中間転写クリーニング部80の位置に達する。そして、この位置で、中間転写ベルト78上の未転写トナーが回収される。
こうして、中間転写ベルト78上でおこなわれる、一連の転写プロセスが終了する。
【0027】
ここで、2次転写ニップの位置に搬送された記録媒体Pは、装置本体1の下方に配設された給紙部12から、給紙ローラ97やレジストローラ対98等を経由して搬送されたものである。
詳しくは、給紙部12には、転写紙等の記録媒体Pが複数枚重ねて収納されている。そして、給紙ローラ97が図1中の反時計方向に回転駆動されると、一番上の記録媒体Pがレジストローラ対98のローラ間に向けて給送される。
【0028】
レジストローラ対98に搬送された記録媒体Pは、回転駆動を停止したレジストローラ対98のローラニップの位置で一旦停止する。そして、中間転写ベルト78上のカラー画像にタイミングを合わせて、レジストローラ対98が回転駆動されて、記録媒体Pが2次転写ニップに向けて搬送される。こうして、記録媒体P上に、所望のカラー画像が転写される。
【0029】
その後、2次転写ニップの位置でカラー画像が転写された記録媒体Pは、定着部20の位置に搬送される。そして、この位置で、定着ベルト21及び加圧ローラ31による熱と圧力とにより、表面に転写されたカラー画像が記録媒体P上に定着される。
その後、記録媒体Pは、排紙ローラ対99のローラ間を経て、装置外へと排出される。排紙ローラ対99によって装置外に排出された被転写Pは、出力画像として、スタック部100上に順次スタックされる。
こうして、画像形成装置における、一連の画像形成プロセスが完了する。
【0030】
次に、図2〜図6にて、画像形成装置本体1に設置される定着装置20の構成・動作について詳述する。
図2〜図4に示すように、定着装置20は、定着部材としての定着ベルト21(ベルト部材)、固定部材26、金属部材22(金属熱伝導体)、補強部材23、加熱手段としての励磁部材25(コイル部)、加圧回転体としての加圧ローラ31、温度センサ40、断熱部材27、ステー部材28、等で構成される。
【0031】
ここで、定着ベルト21は、薄肉で可撓性を有する無端状ベルトであって、図2中の矢印方向(反時計方向)に回転(走行)する。定着ベルト21は、内周面(固定部材26との摺接面である。)側から、基材層21a、弾性層、離型層が順次積層されていて、その全体の厚さが1mm以下に設定されている。
定着ベルト21の基材層21aは、層厚が30〜50μmであって、ニッケル、ステンレス等の金属材料やポリイミド等の樹脂材料で形成することができる。
【0032】
なお、本実施の形態1では、定着ベルト21の基材層21aに、励磁部材25によって電磁誘導加熱される発熱層としての機能を持たせている。具体的に、本実施の形態1では、定着ベルト21の基材層21a(発熱層)として、厚さが40μmの非磁性ステンレスに厚さが10μmの銅をメッキ処理したものを用いている。
基材層21a(発熱層)としては、励磁部材25により発生される交番磁界によって渦電流が発生しやすく電磁誘導加熱に適した電気伝導性の良い金属材料が好適である。電磁誘導加熱に適した金属材料としては、一般的に電気的抵抗が高いものが知られているが、低抵抗の金属材料であっても金属部材22を薄層化することにより発熱層21aの実質的な抵抗値を任意に設定して発熱層21aの発熱量を調整することができる。具体的に、基材層21a(発熱層)の材料としては、銀、アルミニウム、マグネシウム等や、磁性体であるニッケルや磁性ステンレス等を用いることもできる。
【0033】
定着ベルト21の弾性層は、層厚が100〜300μmであって、シリコーンゴム、発泡性シリコーンゴム、フッ素ゴム、等のゴム材料で形成されている。弾性層を設けることで、ニップ部における定着ベルト21表面の微小な凹凸が形成されなくなり、記録媒体P上のトナー像Tに均一に熱が伝わりユズ肌画像の発生が抑止される。なお、本実施の形態1では、定着ベルト21の弾性層として、層厚が200μmのシリコーンゴムを用いている。
定着ベルト21の離型層は、層厚が10〜50μmであって、PFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリイミド、ポリエーテルイミド、PES(ポリエーテルサルファイド)、等の材料で形成されている。離型層を設けることで、トナーT(トナー像)に対する離型性(剥離性)が担保される。
【0034】
また、定着ベルト21の直径は15〜120mmになるように設定されている。なお、本実施の形態1では、定着ベルト21の内径が30mmに設定されている。
定着ベルト21の内部(内周面側)には、固定部材26、金属部材22、補強部材23、断熱部材27、ステー部材28、等が固設されている。また、定着ベルト21の外周面の一部と、金属部材22の内周面の一部と、にそれぞれ隙間を空けて対向するように、励磁部材25(コイル部)が配設されている(図5をも参照できる。)。また、図示は省略するが、定着ベルト21と金属部材22との間には、潤滑剤が介在(塗布)されている。
ここで、固定部材26は、定着ベルト21の内周面に摺接するように固定されている。そして、固定部材26が定着ベルト21を介して加圧ローラ31に圧接することで、記録媒体Pが搬送されるニップ部が形成される。図3を参照して、固定部材26は、その幅方向両端部が定着装置20の側板43に固定支持されている。
なお、励磁部材25や固定部材26の構成については、後でさらに詳しく説明する。
【0035】
図2を参照して、金属部材22(金属熱伝導体)は、ニップ部を除く位置で定着ベルト21の内周面に対向するように形成され、ニップ部の位置では断熱部材27を介して固定部材26を保持するように形成された略円筒体である。図3を参照して、金属部材22は、その幅方向両端部が定着装置20の側板43に固定支持されている。また、金属部材22の両端には、定着ベルト21の寄り(幅方向の移動である。)を制限するためのフランジ29が挿設されている。
そして、略パイプ状に形成された金属部材22は、感温磁性体で形成されていて、励磁部材25(コイル部)により生成される交番磁界によって電磁誘導加熱されて定着ベルト21を加熱する(熱を伝える。)。すなわち、金属部材22が励磁部材25によって直接的に電磁誘導加熱されて、金属部材22を介して定着ベルト21が間接的に加熱されることになる。
ここで、本実施の形態1では、定着ベルト21にも発熱層21aを設けているため、定着ベルト21(発熱層21a)自体も、励磁部材25により生成される交番磁界によって直接的に電磁誘導加熱されることになる。したがって、定着ベルト21の加熱効率がさらに向上することになる。
【0036】
金属部材22の材料としては、ニッケル、鉄、クロム、又は、それらの合金等の磁性導電性材料を用いることができる。
本実施の形態1では、金属部材22の材料として、キュリー点が定着可能温度以上であって300度以下となる感温磁性体を用いている。具体的に、金属部材22の材料は、ニッケル、鉄、クロムの合金であって、各材料の添加量と加工条件とを調整することで所望のキュリー点(本実施の形態1では、250度に設定されている。)を得ることができる。また、本実施の形態1において、金属部材22の肉厚は0.5mmに設定されている。
このように、金属部材22のキュリー点を定着ベルト21の定着温度近傍に設定することで、励磁部材25による電磁誘導によって金属部材22や定着ベルト21が過昇温する不具合が抑止されることになる。
【0037】
なお、本実施の形態1では、金属部材22の全部を感温磁性体で形成したが、金属部材22の一部のみを感温磁性体で形成することもできる。具体的に、金属部材22を感温磁性体からなる層を含む多層構造体にすることもできる。例えば、金属部材22の表裏層を感温磁性体で形成して、中間層をアルミニウム、鉄、ステンレス等の高熱伝導性材料で形成することもできる。このような場合には、定着ベルト21を周方向にわたって、より効率良く加熱することができる。
【0038】
そして、本実施の形態1では、加熱状態にある金属部材22によって定着ベルト21がニップ部を除く位置で全体的に加熱されて、加熱された定着ベルト21の表面から記録媒体P上のトナー像Tに熱が加えられることになる。
なお、励磁部材25の出力制御は、定着ベルト21表面に対向するサーミスタ等の温度センサ40によるベルト表面温度の検知結果に基いておこなわれる。また、このような励磁部材25の出力制御によって、定着ベルト21の温度(定着温度)を所望の温度に設定することができる。
【0039】
図5及び図6等を参照して、加熱手段としての励磁部材25(コイル部)は、ループ状に形成された励磁コイルであって、高周波電源50に接続されている。
ここで、励磁部材25は、定着ベルト21の表面(外周面)及び金属部材22の裏面(内周面)を挟むように配設されている。換言すると、定着ベルト21及び金属部材22の一部が、ループ状の励磁部材25のループ内に挟入されている。
励磁部材部25は、定着ベルト21及び金属部材22に対して平行に幅方向に延設されている。励磁部材25の幅方向の一端は内周面側と外周面側とを結ぶ折返し部になっていて、他端には高周波電源50が接続されている。そして、高周波電源50から、10k〜1MHz(好ましくは、10k〜300kHzである。)の交番電流が励磁部材25に印加される。
詳しくは、高周波電源50から励磁部材25に10kHz〜1MHzの高周波交番電流を流すことで、図6に示すように、励磁部材25のループ内に磁力線が双方向に交互に切り替わるように形成される。このように交番磁界が形成されることで、金属部材22の温度がキュリー点以下である場合に、定着ベルト21の発熱層21aと、金属部材22の表裏面と、に渦電流が生じて、定着ベルト21の発熱層21aと金属部材22とのそれぞれの電気抵抗によってジュール熱が発生して、誘導加熱される。また、定着ベルト21は、発熱した金属部材22からの伝熱によっても加熱される。
【0040】
ここで、高周波電源50から供給される交番電流の周波数が高くなるほど励磁部材25による電磁誘導加熱の加熱効率は大きくなるが、電源の大型化、高コスト化が生じてしまう。したがって、本実施の形態1では、電源の小型化、低コスト化のため、高周波電源50による使用周波数帯を20k〜40kHzとして、主に30kHzの交番電流を励磁部材25に印加している。
【0041】
また、図6を参照して、本実施の形態1において、励磁部材25は、ニップ部上流側(ニップ部に対して定着ベルト21の走行方向上流側である。)の位置に配設されている。これにより、励磁部材25によって電磁誘導加熱された定着ベルト21が速やかにニップ部に移動して、記録媒体P上のトナー像を加熱することになる。したがって、定着ベルト21の熱が空気中に放熱されにくくなり、定着ベルト21の加熱効率が向上する。
なお、本実施の形態1における励磁部材25は、図5に示すように、定着ベルト21及び金属部材22を1回だけ挟むように離間して巻回されたものとした。これに対して、励磁部材25を、定着ベルト21及び金属部材22を複数回挟むように離間して巻回されたものとすることもできる。
【0042】
このように、本実施の形態1における定着装置20は、定着ベルト21の一部のみが局所的に加熱されるのではなく、励磁部材25との対向位置が電磁誘導加熱された後に周方向にわたって伝熱された状態の金属部材22によって定着ベルト21が周方向にわたってほぼ全体的に加熱されることになるために、装置を高速化した場合であっても定着ベルト21が充分に加熱されて定着不良の発生を抑止することができる。すなわち、比較的簡易な構成で効率よく定着ベルト21を加熱できるために、ウォームアップ時間やファーストプリント時間が短縮化されるとともに、装置の小型化が達成される。
【0043】
ここで、略パイプ状の金属部材22は、定着ベルト21の内周面(ニップ部を除く位置である。)にクリアランスをあけて対向するように固設されている。定着ベルト21と金属部材22とのクリアランス量δ(ニップ部を除く位置のギャップである。)は、0mmより大きく1mm以下に設定されている(0mm<δ≦1mmである。)。これにより、金属部材22と定着ベルト21とが摺接する面積が大きくなって定着ベルト21の磨耗が加速する不具合を抑止するとともに、金属部材22と定着ベルト21とが離れ過ぎて定着ベルト21の加熱効率が低下する不具合を抑止することができる。さらに、金属部材22が定着ベルト21に近設されることで、可撓性を有する定着ベルト21の円形姿勢がある程度維持されるため、定着ベルト21の変形による劣化・破損を軽減することができる。
また、金属部材22と定着ベルト21とが摺接しても定着ベルト21の磨耗が軽減されるように、定着ベルト21の内周面には、双方の部材21、22の間にはフッ素グリスやシリコーンオイル等の潤滑剤が塗布されている。
なお、本実施の形態1では、金属部材22の断面形状が略円形になるように形成したが、金属部材22の断面形状が多角形になるように形成することもできる。
【0044】
ここで、本実施の形態1では、ニップ部を形成する固定部材26の強度を補強する補強部材23が、定着ベルト21の内周面側に固設されている。図3を参照して、補強部材23は、幅方向の長さが固定部材26と同等になるように形成されていて、その幅方向両端部が定着装置20の側板43に固定支持されている。そして、補強部材23が固定部材26及び定着ベルト21を介して加圧ローラ31に当接することで、ニップ部において固定部材26が加圧ローラ31の加圧力を受けて大きく変形する不具合を抑止している。なお、本実施の形態1において、補強部材23は、金属部材22の内部を概ね2つの空間に分けるように配設された板状部材である。
この補強部材23は、上述した機能を満足するために、ステンレスや鉄等の機械的強度が高い金属材料で形成することが好ましい。なお、本実施の形態1では、補強部材23の材料として、励磁コイル25による交番磁界を受けても加熱されにくい、非磁性ステンレス(SUS304)を用いている。
【0045】
図2を参照して、ニップ部の位置で定着ベルト21の外周面に当接する加圧回転体としての加圧ローラ31は、外径が30mmであって、中空構造の芯金32上に弾性層33(層厚が3mm程度である。)を形成したものである。加圧ローラ31(加圧回転体)の弾性層33は、発泡性シリコーンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の材料で形成されている。なお、弾性層33の表層にPFA、PTFE等からなる薄肉の離型層を設けることもできる。加圧ローラ31は定着ベルト21に圧接して、双方の部材間に所望のニップ部を形成する。また、図3を参照して、加圧ローラ31には不図示の駆動機構の駆動ギアに噛合するギア45が設置されていて、加圧ローラ31は図2中の矢印方向(時計方向)に回転駆動される。また、加圧ローラ31は、その幅方向両端部が定着装置20の側板43に軸受42を介して回転自在に支持されている。なお、加圧ローラ31の内部に、ハロゲンヒータ等の熱源を設けることもできる。
【0046】
なお、加圧ローラ31の弾性層33を発泡性シリコーンゴム等のスポンジ状の材料で形成した場合には、ニップ部に作用する加圧力を減ずることができるために、金属部材22に生じる撓みをさらに軽減することができる。さらに、加圧ローラ31の断熱性が高められて、定着ベルト21の熱が加圧ローラ31側に移動しにくくなるために、定着ベルト21の加熱効率が向上する。
また、本実施の形態1では、定着ベルト21の直径が加圧ローラ31の直径とほぼ同等になるように形成したが、定着ベルト21の直径が加圧ローラ31の直径よりも小さくなるように形成することもできる。その場合、ニップ部における定着ベルト21の曲率が加圧ローラ31の曲率よりも小さくなるために、ニップ部から送出される記録媒体Pが定着ベルト21から分離され易くなる。
【0047】
図4を参照して、定着ベルト21の内周面に摺接する固定部材26は、ベース層26b上に表面層26aが形成されたものである。固定部材26は、加圧ローラ31との対向面(摺接面)が、加圧ローラ31の曲率にならうように凹状に形成されている。これにより、記録媒体Pは加圧ローラ31の曲率にならうようにニップ部から送出されるために、定着工程後の記録媒体Pが定着ベルト21に吸着して分離しないような不具合を抑止することができる。
なお、本実施の形態1では、ニップ部を形成する固定部材26の形状を凹状に形成したが、ニップ部を形成する固定部材26の形状を平面状に形成することもできる。すなわち、固定部材26の摺接面(加圧ローラ31に対向する面である。)が平面形状になるように形成することができる。これにより、ニップ部の形状が記録媒体Pの画像面に対して略平行になって、定着ベルト21と記録媒体Pとの密着性が高まるために定着性が向上する。さらに、ニップ部の出口側における定着ベルト21の曲率が大きくなるために、ニップ部から送出された記録媒体Pを定着ベルト21から容易に分離することができる。
【0048】
また、固定部材26のベース層26bを形成する材料としては、加圧ローラ31による加圧力を受けても大きく撓むことがないように、ある程度剛性のある材料で形成されている。なお、本実施の形態1では、ベース層26bの材料として、厚さが1.5mm程度のアルミニウムを用いている。
金属板を曲げ加工することにより形成する略パイプ状の金属部材22は、その肉厚を薄くすることができるために、ウォームアップ時間を短縮することができる。しかし、金属部材22自身の剛性は小さくなっているため、加圧ローラ31の加圧力に抗しきれずに、撓んだり、変形することがある。パイプ状の金属部材22が変形してしまうと所望のニップ幅が得られずに、定着性が低下するという問題が生じる。これに対して、本実施の形態1では、薄肉の金属部材22とは別に高剛性の固定部材26を設置してニップ部を形成しているために、そのような問題が生じるのを未然に防止することができる。
【0049】
また、固定部材26の表面層26aは、フッ素ゴム等の低摩擦弾性材料で形成されている。このような表面層26aを設けることにより、固定部材26と定着ベルト21との摺接によって双方の部材21、26が磨耗する不具合が軽減されるとともに、双方の部材21、26の間に所望のニップ部が形成されることになる。なお、本実施の形態1では、表面層26aの厚さが1.5〜2mm程度に設定されている。
また、固定部材26の表面層26aに、予め潤滑剤を含浸させることもできる。これにより、固定部材26は、定着ベルト21に当接する面に潤滑剤が保持された状態になり、双方の部材21、26が磨耗する不具合がさらに軽減される。
【0050】
また、本実施の形態1では、固定部材26と金属部材22との間に断熱部材27を設置している。詳しくは、固定部材26と金属部材22との間であって、固定部材26の摺接面を除く面を覆うように断熱部材27が設置されている。断熱部材27の材料としては、断熱性に優れたスポンジゴムや、空包を有するセラミック、等を用いることができる。
本実施の形態1では、定着ベルト21と金属部材22とがほぼ全周にわたって近接しているため、加熱待機時(プリント動作待機時)においても定着ベルト21を周方向に温度ムラなく加熱できる。したがって、プリント要求を受けた後、速やかにプリント動作をおこなうことができる。このとき、従来のオンデマンド方式の定着装置(例えば、特許第2884714号公報参照。)では、ニップ部で加熱待機時に加圧ローラを変形させたまま熱を与えてしまうと、加圧ローラのゴムの材質によっては、熱劣化を起こして加圧ローラの寿命が短くなってしまったり、加圧ローラに圧縮永久ひずみが発生してしまったりする(ゴムの圧縮永久ひずみは、ゴムの変形に加熱が加わることにより増大する。)。そして、加圧ローラに圧縮永久ひずみが発生すると、加圧ローラの一部が凹んだ状態になり、所望のニップ幅が得られないため、定着不良が発生したり、回転時に異音が生じたりする。
これに対して、本実施の形態1では、固定部材26と金属部材22との間に断熱部材27が設置されているために、加熱待機時に金属部材22の熱が固定部材26に達しにくくなる。したがって、加熱待機時に加圧ローラ31が変形した状態で高温加熱される不具合が軽減されて、上述の問題が生じるのを抑止することができる。
【0051】
さらに、固定部材26と定着ベルト21との摩擦抵抗を低減するために双方の部材間に塗布された潤滑剤は、ニップ部における高圧条件に加えて高温条件による使用によって劣化して、定着ベルト21のスリップ等の不具合が生じてしまう可能性がある。
これに対して、本実施の形態1では、固定部材26と金属部材22との間に断熱部材27が設置されているために、金属部材22の熱がニップ部の潤滑剤に達しにくくなる。したがって、潤滑剤の高温による劣化が軽減されて、上述の問題が生じるのを抑止することができる。
【0052】
また、本実施の形態1では、固定部材26と金属部材22との間に断熱部材27が設置されているために、固定部材26が断熱されて、ニップ部では積極的に定着ベルト21は加熱されないことになる。そのため、ニップ部に送入された記録媒体Pの温度がニップ部から送出されるときには低くなる。すなわち、ニップ部出口では、記録媒体P上に定着されたトナー像の温度が低くなって、トナーの粘性が低下して、定着ベルト21に対するトナー接着力が小さくなった状態で、記録媒体Pは定着ベルト21から分離される。したがって、定着工程直後の記録媒体Pが定着ベルト21に巻き付いてジャムになる不具合が防止されるとともに、定着ベルト21に対するトナー固着も抑制される。
【0053】
また、本実施の形態1では、図4を参照して、固定部材26が挿設された金属部材22の凹部22aを内周面側から保持するステー部材28が設置されている。
略パイプ状の金属部材22は、0.1mm厚のステンレスからなる平板に曲げ加工を施して形成したものである。したがって、ステンレス板を曲げ加工によって所望のパイプ形状に加工しようとしても、そのままでは、スプリングバックによって径が大きくなる方向に開いてしまい所望のパイプ形状を形成することができない。そして、金属部材22がスプリングバックによって開いてしまうと、定着ベルト21の内周面に接触してしまい定着ベルト21を傷つけたり、定着ベルト21との接触ムラによる定着ベルト21の加熱ムラが生じたりしてしまう。本実施の形態1では、このような不具合が生じるのを抑止するために、金属部材22の開口部が形成された凹部22a(曲げ部)をステー部材28で固定することによって、金属部材22のスプリングバックによる変形を抑止している。具体的には、スプリングバック力に抗するように曲げ加工が施された金属部材22の形状を保持しながら、金属部材22の内周面側からステー部材28を凹部22aに圧入する。
【0054】
上述したように、金属板を曲げ加工することにより形成する略パイプ状の金属部材22は、その肉厚を薄くすることができるために、ウォームアップ時間を短縮することができる。しかし、金属部材22自身の剛性は小さくなっているため、加圧ローラ31の加圧力が金属部材22に作用すると、その加圧力に抗しきれずに、撓んだり、変形してしまう。そして、パイプ状の金属部材22が変形してしまうと所望のニップ幅が得られずに、定着性が低下するという問題が生じてしまう。これに対して、本実施の形態1では、薄肉の金属部材22に凹部22a(固定部材26が挿設されている部分である。)をニップ部から離れるように設けて、加圧ローラ31の加圧力が金属部材22に直接的に作用しないように構成しているために、そのような問題が生じるのを未然に防止することができる。
【0055】
以下、上述のように構成された定着装置20の通常時の動作について簡単に説明する。
装置本体1の電源スイッチが投入されると、高周波電源50から励磁部材25に交番電流が供給されるとともに、加圧ローラ31の図2中の矢印方向の回転駆動が開始される。これにより、加圧ローラ31との摩擦力によって、定着ベルト21も図2中の矢印方向に従動(回転)する。
その後、給紙部12から記録媒体Pが給送されて、2次転写ローラ89の位置で、記録媒体P上に未定着のカラー画像が担持(転写)される。未定着画像T(トナー像)が担持された記録媒体Pは、不図示のガイド板に案内されながら図2の矢印Y10方向に搬送されて、圧接状態にある定着ベルト21及び加圧ローラ31のニップ部に送入される。
そして、金属部材22(及び、発熱層21a)によって加熱された定着ベルト21による加熱と、補強部材23によって補強された固定部材26と加圧ローラ31との押圧力とによって、記録媒体Pの表面にトナー像Tが定着される。その後、ニップ部から送出された記録媒体Pは、矢印Y11方向に搬送される。
【0056】
以上説明したように、本実施の形態1における定着装置20は、金属部材22の内周面の一部と定着ベルト21の外周面の一部とにそれぞれ隙間を空けて対向する励磁部材25によって、感温磁性体で形成された金属部材22が電磁誘導加熱されるように構成している。これにより、上述した定着工程において、金属部材22の温度がキュリー点を超えた場合には、金属部材22の発熱が制限されることになる。すなわち、励磁部材25によって加熱された金属部材22の温度がキュリー点を超えた場合には、金属部材22が磁性を失うことにより、定着ベルト21の発熱層21aと金属部材22の発熱が制限される。そして、定着ベルト21の発熱層21aと金属部材22のジュール熱の発生量が低下して、定着ベルト21や金属部材22の過昇温が抑止される。
このような自己温度制御能力は、本実施の形態1のように定着ベルト21と金属部材22とに対して励磁部材25をループ状に配設した場合、金属部材22の片側(例えば、内周面側である。)に励磁部材を配設した場合に比べて、特に高くなる。
【0057】
以下、「自己温度制御能力」に関して、図6〜図8を用いて詳しく説明する。
図6は励磁コイル25の近傍を示す断面図であって、図7及び図8は、金属部材22、定着ベルト21、励磁部材25を幅方向にみた断面模式図である。各図中の破線矢印は、励磁コイル25に交番電流が流れたときに発生する磁力線を示している。
図6に示すように、励磁部材25は、定着ベルト21の外周面と金属部材22の内周面とを挟むように配設されている。これにより、図7に示すように、定着ベルト21の外周面に対向する励磁部材25と、金属部材22の内周面に対向する励磁部材25と、には、互いに逆向きのコイル電流Hが常に流れることになる。したがって、定着ベルト21及び金属部材22を挟む双方の励磁部材25によって発生される磁力線B1、B2も互いに逆の方向に回転する。そして、金属部材22の表面と裏面とには、逆向きの渦電流A1、A2が流れて、表裏面の双方でジュール損による発熱が生じることになる。また、定着ベルト21の発熱層21aには、金属部材22の表面と同じ向きの渦電流A3が流れて、ジュール損による発熱が生じることになる。
【0058】
ここで、交番電流によって生じる交番磁束が金属部材22(又は、発熱層21a)に誘導する渦電流は、金属部材22(又は、発熱層21a)の表面に近くなるほど大きくなって、表面から離れるにつれて指数関数的に小さくなる。金属部材22(又は、発熱層21a)が磁性体である場合には、誘導される渦電流はさらに金属部材22(又は、発熱層21a)の表面に集中する。
また、渦電流が表面における電流密度の0.368倍に減少した位置における表面からの深さを電流の浸透深さδと呼ぶ。なお、浸透深さδは次式で求まる。
δ=503・〔ρ/(μf)〕1/2 …式(1)
上式(2)において、ρは金属部材22(又は、発熱層21a)の体積抵抗率(Ω・m)であり、μは金属部材22(又は、発熱層21a)の比透磁率であり、fは金属部材22(又は、発熱層21a)を励磁する交番電流の周波数(Hz)である。
浸透深さより金属部材22(又は、発熱層21a)の表面から遠い位置に流れる渦電流は、金属部材22(又は、発熱層21a)の表面近傍のものと比較して、非常に小さく誘導加熱にほとんど影響を与えない。金属部材22(又は、発熱層21a)の厚さが浸透深さ以上であれば、金属部材22(又は、発熱層21a)の表面から進入した磁束は金属部材22(又は、発熱層21a)の内部でエネルギーを消失して、金属部材22(又は、発熱層21a)をほとんど透過することができなくなる。
【0059】
本実施の形態1では、金属部材22の材料として感温磁性体を用いている。この感温磁性体の浸透深さは、感温磁性体の温度がキュリー点以下であって交番電流の周波数が30kHzのとき、式(1)より約0.06mmとなる。なお、感温磁性体の比透磁率は、常温の初透磁率を真空の透磁率で割ることにより算出した。
本実施の形態1では、金属部材22の厚さを0.5mmに設定している。そのため、交番電流の周波数が30kHzであって、金属部材22の温度がキュリー点以下であれば、図7に示すように、金属部材22の表面と裏面とに流れる渦電流はそれぞれ金属部材22の表面から0.06mm程度の位置に集中して、互いの渦電流が干渉することなく金属部材22は誘導加熱されることになる。
【0060】
これに対して、金属部材22の温度がキュリー点以上(比透磁率が1となる。)であって交番電流の周波数が30kHzのとき、金属部材22(感温磁性体)の浸透深さは、式(1)より約2mmとなる。このとき、図8に示すように、ループ状の励磁コイル25によって発生される交番磁束は、厚さ0.5mmの金属部材22を貫いて干渉してしまう。そのため、金属部材22に流れる渦電流A1、A2は相殺されて、金属部材22の発熱量が著しく低下してしまう。
このように、定着ベルト21の外周面と金属部材22の内周面とを挟むように励磁部材25を配設することで、非常に高い自己温度制御能力と発熱効率とを得ることができる。
【0061】
ここで、本実施の形態1において、定着ベルト21の発熱層21aは、その層厚が交番電流の周波数が30kHzのときの浸透深さよりも小さくなる金属材料で形成されている。具体的に、定着ベルト21の発熱層21aとして、厚さが40μmの非磁性ステンレス(SUS304)に厚さが10μmの銅をメッキ処理したものを用いている。銅の浸透深さとSUS304の浸透深さとは、交番電流の周波数が30kHzのとき、式(1)より、それぞれ、約0.38mm、約2.46mmになるため、上述した関係が成立することになる。そして、このような関係が成立することにより、磁束は発熱層21aを透過して、発熱層21aの全体に渦電流が流れることになる。
【0062】
上述したメカニズムにより、定着装置20が自己温度制御されるためには、金属部材22(感温磁性体)の温度がキュリー点以上であるときに、定着ベルト21及び金属部材22を挟むように配設された励磁部材25により発生する交番磁束が金属部材22を貫いて干渉する必要がある。したがって、金属部材22の外周面側に配置される発熱層21aは、その浸透深さが、発熱層21aの層厚よりも大きくて、磁束が発熱層21aを透過しなければならない。すなわち、定着ベルト21の発熱層21aの層厚が、その浸透深さよりも大きいと、磁束が金属部材22まで充分に透過しないため、金属部材22の自己温度制御特性が損なわれてしまうことになる。
【0063】
また、本実施の形態1では、定着ベルト21に発熱層21aを設けているため、励磁部材25からの投入エネルギーの一部によって定着ベルト21が直接的に加熱されることになり、定着ベルト21の加熱効率がさらに向上する。したがって、装置のウォームアップ時間、ファーストプリント時間がさらに短縮化されることになる。
【0064】
図9は、本実施の形態1における定着装置20において、金属部材22の材質が異なるときの、ウォームアップ時における定着ベルト21の昇温特性(時間と定着ベルト21の表面温度との関係)を示すグラフである。
図9において、グラフQ1は金属部材22を感温磁性体で形成した場合(本実施の形態1における構成である。)の昇温特性を示し、グラフQ0は金属部材22をSUS430(磁性ステンレスであって、感温磁性体ではない材料である。)で形成した場合の昇温特性を示す。ウォームアップ時の昇温特性は、定着ベルト21がトナーを溶融するのに必要な温度(本実施の形態1では、160℃である。)に達する昇温時間が短いほど良く、ユーザーにとって使いやすい画像形成装置ということになる。
グラフQ0に示すように、自己温度制御能力のない金属部材を用いた場合には、励磁部材25に電力を供給しつづけると、定着ベルト21の温度が160℃(定着設定温度)を超えても昇温を続ける。これに対して、グラフQ1に示すように、自己温度制御能力のある金属部材22を用いた場合には、励磁部材25に電力を供給しつづけても、金属部材22(感温磁性体)の温度がキュリー(250℃)まで昇温すると、それ以上温度が上がらない。そのため、定着ベルト21の温度は、減少した金属部材22(感温磁性体)の発熱量と、定着ベルト21の放熱量と、がつりあう温度(本実施の形態1では、約230℃である。)で一定となる。このように、金属部材22自体の自己温度制御能力によって、温度制御をおこなうための制御装置を別に設けなくても、金属部材22や定着ベルト21の過昇温を防止することができる。
【0065】
ここで、本実施の形態1における金属部材22は、少なくとも励磁部材25に対向する部分の厚さが、金属部材22の温度が金属部材22が有するキュリー点以下であるときの交番電流の周波数に対応した浸透深さに対して3倍以上の厚さとなるように形成されている。これは、先に図7、図8にて説明した自己温度制御能力のメカニズムにより、金属部材22の厚さが誘導加熱の効率に影響を与えるとの、本願発明者の推測に基づくものである。
【0066】
図10は、金属部材22の温度がキュリー点以下であるときの、金属部材22の厚さ/浸透深さと、発熱効率と、の関係を示すグラフ(実験結果)である。
図10に関わる実験では、本実施の形態1における定着装置20において、感温磁性体からなる金属部材22の厚さを変化させて、周波数30kHzの一定電圧を励磁部材25に印加したときの、金属部材22及び発熱層21aの発熱量Qを測定している。図10において、横軸は金属部材22の厚さを浸透深さ(0.06mm)で割った倍率(金属部材の厚さ/浸透深さ)を示し、縦軸は金属部材22の厚さが0.06mmのときの金属部材22及び発熱層21aの発熱量Q1を基準とした発熱量の増減率((Q−Q1)/Q1×100)を示す。
【0067】
図10に示す実験結果から、感温磁性体である金属部材22の温度がキュリー点以下であるとき、金属部材22の厚さが3倍より薄くなると、発熱量が急激に低下することがわかる。これは、金属部材22の温度がキュリー点以下であるのに、金属部材22の厚さが薄すぎるため、金属部材22の内部を流れる定着ベルト21の外側の励磁部材25の磁束(コイル磁束)に誘導された渦電流と、金属部材22内側の励磁部材25の磁束(コイル磁束)に誘導された渦電流と、が相殺されるためである。
本実施の形態1において、装置のウォームアップ時間やファーストプリント時間が短縮化するためには、金属部材22の温度がキュリー点以下であるときの加熱効率が重要になる。上述したように、周波数30kHzで誘導加熱をおこなうとき、金属部材22の厚さは浸透深さの3倍以上にすることで、装置の加熱効率を確実に向上させることができる。また、周波数が30kHzにおいて浸透深さが小さな金属部材22(例えば、浸透深さが0.15mm以下のもの)を用いることで、熱容量の小さな定着装置を提供することができる。すなわち、金属部材22の浸透深さが小さければ小さいほど、金属部材22の厚さを薄くすることができることになる。
【0068】
以上説明したように、本実施の形態1では、金属部材22及び定着ベルト21を挟むようにループ状の励磁部材25を配設するとともに、金属部材22の厚さを最適化しているため、金属部材22における発熱効率と自己温度制御性とが高まり、小サイズの記録媒体を連続的に定着した場合や装置が突発的に駆動停止した場合等であっても、金属部材22(又は定着ベルト21)の過昇温を確実に抑止することができる。
【0069】
なお、本実施の形態1における定着装置20は、定着ベルト21に発熱層21aを設けて、励磁部材25からの投入エネルギーの一部によって定着ベルト21を直接的に加熱している。これに対して、定着ベルト21に発熱層21aを設けずに金属部材22のみを電磁誘導加熱する場合であっても、充分に高い自己温度制御能力を得ることができる。
【0070】
図11は、定着ベルト21における発熱層21aの有無による、ウォームアップ時における定着ベルト21の昇温特性(時間と定着ベルト21の表面温度との関係)を示すグラフである。
図11において、グラフS1は定着ベルト21に発熱層21aを設けた場合(本実施の形態1における構成である。)の昇温特性を示し、グラフS0は定着ベルト21に発熱層21aを設けなかった場合(発熱層の代わりにポリイミドからなる基材層を設けている。)の昇温特性を示す。
図11に示す実験結果から、定着ベルト21に発熱層21aを設けることにより、昇温特性が向上していることがわかる。具体的に、定着ベルト21の表面温度が定着設定温度(160℃)まで昇温する時間は、発熱層21aを設けなかった場合が15秒であったのに対して、発熱層21aを設けた場合が10秒であった。
また、発熱層21aを設けた場合には定着ベルト21が230℃で一定となったのに対して、発熱層21aを設けなかった場合には定着ベルト21が220℃で一定となった。これは、定着ベルト21が発熱層21aを有さない場合には、定着ベルト21の加熱は金属部材22からの伝熱によるものだけであるのに対して、定着ベルト21に発熱層21aが形成されている場合には、定着ベルト21の加熱が金属部材22からの伝熱に加えて、誘導加熱による直接的なものがあるためである。特に、定着装置20を低温状態から昇温させる場合(例えば、室温状態から装置を立ち上げる場合である。)には、定着ベルト21(発熱層21a)を誘導加熱で直接的に加熱する効果が顕著になる。
【0071】
以上説明したように、本実施の形態1においては、金属部材22の内周面の一部と定着ベルト21の外周面の一部とにそれぞれ隙間を空けて対向する励磁部材25によって、感温磁性体で形成された金属部材22を電磁誘導加熱するように構成している。これにより、ウォームアップ時間やファーストプリント時間が短くて、定着装置20(画像形成装置1)を高速化した場合であっても定着不良等が生じることなく、小サイズの記録媒体Pを連続的に定着した場合や定着装置20が突発的に駆動停止した場合等であっても金属部材22や定着ベルト21の過昇温を確実に抑止することができる。
【0072】
実施の形態2.
図12〜図14にて、この発明の実施の形態2について詳細に説明する。
図12は、実施の形態2における定着装置の一部を示す構成図である。また、図13は、別の形態の定着装置の一部を示す図である。さらに、図14は、金属部材の22肉厚部の範囲が異なるときの、定着ベルト21の昇温特性を示すグラフである。
本実施の形態2における定着装置は、金属部材22において励磁部材25に対向する部分の厚さt1がそれ以外の部分の厚さt2よりも厚くなるように形成されている点が、金属部材22が周方向にわたって一定の肉厚で形成されている前記実施の形態1のものと相違する。
【0073】
本実施の形態2における定着装置20も、前記実施の形態1のものと同様に、定着ベルト21、固定部材26、金属部材22、補強部材23、励磁部材25(加熱手段)、加圧ローラ31(加圧回転体)、温度センサ40、断熱部材27、ステー部材28、等で構成される。そして、金属部材22はその一部又は全部が感温磁性体で形成され、ループ状の励磁部材25が金属部材22の内周面と定着ベルト21の外周面とに対向するように配設されている。
【0074】
ここで、本実施の形態2における定着装置20の金属部材22は、図12に示すように、励磁部材25に対向する部分(破線で囲んだ部分である。)の厚さt1が、それ以外の部分の厚さt2よりも厚くなるように形成されている。
具体的に、励磁部材25に対向する部分(肉厚部)の厚さt1は0.5mmに設定され、励磁部材25に対向しない部分(薄肉部)の厚さt2は0.1mmに設定されている。また、図12に示すように、金属部材22における肉厚部の周方向の長さW0は、対向する内側の励磁部材25の周方向の長さにほぼ一致するように設定されている。なお、図12(又は、図13)において、肉厚部の厚さt1と、薄肉部の肉厚t2と、は、見易さのため比例尺で図示していない。
このように、励磁部材25による交番磁界が及ぶ範囲(肉厚部)は金属部材22の肉厚を浸透深さの3倍以上に設定することで自己温度制御性を確保し、励磁部材25による交番磁界が及ばない範囲(薄厚部)は金属部材22の肉厚をなるべく薄くして熱容量を小さく設定することで伝熱性を確保している。これにより、自己温度制御性と、全体の加熱効率と、の両者を良好化することができる。
【0075】
以下、詳しく説明する。
前記実施の形態1の図10にて説明したように、感温磁性体である金属部材22の厚さを浸透深さの3倍以上に設定することで、金属部材22の温度がキュリー点以下のときの加熱効率を高くすることができる。しかし、金属部材22の厚さを厚くすると、金属部材22の熱容量が増加するため、ウォームアップ時の昇温特性が低下してしまう。
本願発明者は、金属部材22の厚さが誘導加熱の加熱効率に影響を与える範囲が、励磁部材25の近傍に限られるのではと推測した。そして、その推測に基いて、金属部材22の厚さを厚くする範囲を変化させて、発熱量Qを計測する実験をおこなった。
【0076】
実験は、図12に示す本実施の形態2における金属部材22と、図13(A)〜(C)に示す金属部材22(肉厚部の周方向の範囲を変更したものである。)と、を用いた4種類の定着装置20について、ウォームアップ時における定着ベルト21の昇温特性(時間と定着ベルト21の表面温度との関係)を調べたものであって、その実験結果を図14に示している。
ここで、図13(A)に示す金属部材22は、肉厚部(t1=0.5mm)の範囲が、周方向全域となるように形成されている。また、図13(B)に示す金属部材22は、肉厚部(t1=0.5mm)の範囲W1が、対向する内側の励磁部材25の周方向の長さに対して充分に長くなるように形成されている。また、図13(C)に示す金属部材22は、肉厚部(t1=0.5mm)の範囲W2が、対向する内側の励磁部材25の周方向の長さに対して充分に短くなるように形成されている。なお、図13(B)及び図13(C)に示す金属部材22は、いずれも、図12のものと同様に薄肉部の肉厚t2が0.1mmに設定されている。
【0077】
また、図14において、グラフR0は図12に示す金属部材22を用いた場合の昇温特性を示し、グラフR1は図13(A)に示す金属部材22を用いた場合の昇温特性を示し、グラフR2は図13(B)に示す金属部材22を用いた場合の昇温特性を示し、グラフR3は図13(C)に示す金属部材22を用いた場合の昇温特性を示す。
図14の実験結果から、図12に示す金属部材22を用いた場合が最も昇温特性が良好で、以下、図13(B)に示す金属部材22を用いた場合、図13(A)に示す金属部材22を用いた場合、図13(C)に示す金属部材22を用いた場合の順に昇温特性が低下していく。特に、図13(C)に示す金属部材22を用いた場合には、他のものに比べて昇温特性の低下の程度が大きくなってしまう。
具体的に、図12に示す金属部材22を用いた場合のウォームアップ時間は6秒、図13(B)に示す金属部材22を用いた場合のウォームアップ時間は8秒、図13(A)に示す金属部材22を用いた場合のウォームアップ時間は10秒、図13(C)に示す金属部材22を用いた場合のウォームアップ時間は30秒であった。
【0078】
先に図7及び図8で説明したように、感温磁性体である金属部材22の温度がキュリー点以下であるとき、金属部材22の内部を流れる、定着ベルト21の外側のコイル磁束に誘導された渦電流と、金属部材22の内側のコイル磁束に誘導された渦電流と、が相殺されなければ、良好な加熱をおこなうことができる。したがって、図12に示す金属部材22のように、励磁部材25が生成する交番磁界により発熱する部分のみ、渦電流が相殺しないように、金属部材22の厚さを浸透深さの3倍以上に設定すれば良いことになる。
図12、図13(A)、図13(B)の金属部材22のように、少なくとも、励磁部材25(内側の励磁部材25である。)に対向する金属部材22の部分の肉厚を厚く設定することで、上述した渦電流の相殺による加熱効率の低下は解消される。しかし、渦電流の相殺が起こらなければ、金属部材22全体の熱容量が小さいほど、金属熱部材22の昇温時間は短くなるため、図14に示すような実験結果となる。一方、図13(C)の金属部材22を用いた場合には、励磁部材25(内側の励磁部材25である。)に対向する金属部材22の部分の肉厚がすべて厚く設定されていないため、肉厚が充分に確保されていない部分で、渦電流の相殺が発生して加熱効率が低下してしまい、図14に示すような実験結果となる。
【0079】
このような結果から、金属部材22において、少なくとも励磁部材25に対向する部分の厚さが、浸透深さ(金属部材22の温度がキュリー点以下であるときの交番電流の周波数に対応した浸透深さである。)に対して3倍以上の厚さとなるように形成することで、自己温度制御性が良好で、全体の加熱効率も良好になることがわかる。
特に、本実施の形態2における定着装置20は、金属部材22の肉厚部の範囲W0が必要充分な範囲に設定され、それ以外の部分が低熱容量化のため薄肉部となっているため、上述した効果が最大限発揮されることになる。
なお、本実施の形態2における定着装置20において、肉厚部が形成された金属部材22は一体成型されたものである必要はなく、例えば、肉厚がt2の板状部材(円筒状部材)に肉厚が(t1−t2)の板状部材を重ね合わせて肉厚部を形成することもできる。
【0080】
以上説明したように、本実施の形態2においても、前記実施の形態2と同様に、金属部材22の内周面の一部と定着ベルト21の外周面の一部とにそれぞれ隙間を空けて対向する励磁部材25によって、感温磁性体で形成された金属部材22を電磁誘導加熱するように構成している。これにより、ウォームアップ時間やファーストプリント時間が短くて、定着装置20(画像形成装置1)を高速化した場合であっても定着不良等が生じることなく、小サイズの記録媒体Pを連続的に定着した場合や定着装置20が突発的に駆動停止した場合等であっても金属部材22や定着ベルト21の過昇温を確実に抑止することができる。
【0081】
なお、前記各実施の形態では、定着ベルトとして複層構造の定着ベルト21を用いたが、定着ベルトとしてポリイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、金属等からなる無端状の定着フィルムを用いることもできる。そして、その場合にも、前記各実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0082】
なお、本発明が前記各実施の形態に限定されず、本発明の技術思想の範囲内において、前記各実施の形態の中で示唆した以外にも、前記各実施の形態は適宜変更され得ることは明らかである。また、前記構成部材の数、位置、形状等は前記各実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好適な数、位置、形状等にすることができる。
【符号の説明】
【0083】
1 画像形成装置本体(装置本体)、
20 定着装置、
21 定着ベルト(定着部材)、
21a 発熱層、
22 金属部材(加熱部材)、
23 補強部材、
25 励磁部材(加熱手段)、
26 固定部材、
31 加圧ローラ(加圧回転体)、 P 記録媒体。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0084】
【特許文献1】特許2009−3410号公報
【特許文献2】特許2007−17723号公報
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に走行してトナー像を加熱して溶融するとともに、可撓性を有する無端状の定着ベルトと、
前記定着ベルトの内周面側に固設されて、当該定着ベルトを介して加圧回転体に圧接して記録媒体が搬送されるニップ部を形成する固定部材と、
前記ニップ部を除く位置で前記定着ベルトの内周面に対向するように固設されて前記定着ベルトを加熱するとともに、加熱手段によって電磁誘導加熱されるパイプ状の金属部材と、
を備え、
前記金属部材は、その一部又は全部が感温磁性体で形成され、
前記加熱手段は、前記金属部材の内周面の一部と前記定着ベルトの外周面の一部とにそれぞれ隙間を空けて対向するように配設されるとともに、交番電流が印加されて交番磁界を発生させる励磁部材であることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記金属部材は、少なくとも前記励磁部材に対向する部分の厚さが、当該金属部材の温度が当該金属部材が有するキュリー点以下であるときの前記交番電流の周波数に対応した浸透深さに対して3倍以上の厚さとなるように形成されたことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記金属部材は、前記励磁部材に対向する部分の厚さが、それ以外の部分の厚さよりも厚くなるように形成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記金属部材は、ニッケル、鉄、クロムの合金からなることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の定着装置。
【請求項5】
前記定着ベルトは、前記励磁部材によって発生される前記交番磁界によって電磁誘導加熱される発熱層を具備したことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の定着装置。
【請求項6】
前記発熱層は、その層厚が前記交番電流の周波数が30kHzのときの浸透深さよりも小さくなる金属材料で形成されたことを特徴とする請求項5に記載の定着装置。
【請求項7】
前記励磁部材は、前記ニップ部に対して前記定着ベルトの走行方向上流側の位置で、前記定着ベルト及び前記金属部材を1回又は複数回挟むように離間して巻回されたことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の定着装置。
【請求項8】
前記金属部材の内周面側に固設されて前記固定部材に当接して当該固定部材を補強する補強部材をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載の定着装置。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれかに記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項1】
所定方向に走行してトナー像を加熱して溶融するとともに、可撓性を有する無端状の定着ベルトと、
前記定着ベルトの内周面側に固設されて、当該定着ベルトを介して加圧回転体に圧接して記録媒体が搬送されるニップ部を形成する固定部材と、
前記ニップ部を除く位置で前記定着ベルトの内周面に対向するように固設されて前記定着ベルトを加熱するとともに、加熱手段によって電磁誘導加熱されるパイプ状の金属部材と、
を備え、
前記金属部材は、その一部又は全部が感温磁性体で形成され、
前記加熱手段は、前記金属部材の内周面の一部と前記定着ベルトの外周面の一部とにそれぞれ隙間を空けて対向するように配設されるとともに、交番電流が印加されて交番磁界を発生させる励磁部材であることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記金属部材は、少なくとも前記励磁部材に対向する部分の厚さが、当該金属部材の温度が当該金属部材が有するキュリー点以下であるときの前記交番電流の周波数に対応した浸透深さに対して3倍以上の厚さとなるように形成されたことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記金属部材は、前記励磁部材に対向する部分の厚さが、それ以外の部分の厚さよりも厚くなるように形成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記金属部材は、ニッケル、鉄、クロムの合金からなることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の定着装置。
【請求項5】
前記定着ベルトは、前記励磁部材によって発生される前記交番磁界によって電磁誘導加熱される発熱層を具備したことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の定着装置。
【請求項6】
前記発熱層は、その層厚が前記交番電流の周波数が30kHzのときの浸透深さよりも小さくなる金属材料で形成されたことを特徴とする請求項5に記載の定着装置。
【請求項7】
前記励磁部材は、前記ニップ部に対して前記定着ベルトの走行方向上流側の位置で、前記定着ベルト及び前記金属部材を1回又は複数回挟むように離間して巻回されたことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の定着装置。
【請求項8】
前記金属部材の内周面側に固設されて前記固定部材に当接して当該固定部材を補強する補強部材をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載の定着装置。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれかに記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−180400(P2011−180400A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44966(P2010−44966)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
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