説明

家電・OA機器用外装部品及び家電・OA機器

【課題】難燃性規格を満足しながらもリサイクル性、環境性、耐光性、及び耐溶剤性にも優れた家電・OA機器用外装部品及び該外装部品を用いた家電・OA機器の提供。
【解決手段】熱可塑性ポリエステル系樹脂100質量部に対して有機スルホン酸化合物、有機カルボン酸化合物及びこれらの金属塩の少なくともいずれかを0.0002〜0.8質量部含有する難燃性樹脂組成物を成形してなる家電・OA機器用外装部品である。該成形が、射出成形、ガスインジェクション成形、及びブロー成形のいずれかである態様、前記熱可塑性ポリエステル系樹脂が、ポリエチレンテレフタレート樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂を含むアロイ樹脂のいずれかである態様などが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性、リサイクル性、環境性、耐光性、及び耐溶剤性に優れた家電・OA機器用外装部品及び家電・OA機器に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の複写機、レーザープリンタ、インクジェットプリンタ、事務用印刷機等のOA機器や、テレビ、ラジオ、ステレオ、エアコン、冷蔵庫、洗濯機等の家電機器においては、高速回転部分や往復動作部分を有する内部構造部品及びユニット系動作部品が多く用いられている。これらの内部構造部品等の保護、安全性の確保、外観デザイン性の向上を図る点から外装部品が取り付けられている。このような家電・OA機器の外装部品は、コスト、外観性、量産性、形状の自由度の観点から合成樹脂で成形されており、特に成形性に優れた熱可塑性樹脂が使用されているが、該熱可塑性樹脂は熱に弱いという欠点がある。そこで、家電・OA機器の外装部品については、難燃性規格(例えばUL94規格;米国)を満たすことが求められている。
【0003】
このような家電・OA機器用外装部品の材料としては、スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル共重合体(ABS樹脂)、ポリスチレン(PS)樹脂、ABS樹脂とポリカーボネート(PC)樹脂とのアロイ樹脂などが用いられている(特許文献1及び特許文献2参照)。そして、これらの樹脂材料にハロゲン化合物を添加することにより難燃性を付与している。
しかし、前記ハロゲン化合物の添加により難燃性を付与した樹脂組成物から成形した外装部品は、サーマルリサイクルで燃焼させた場合や廃棄処置で燃焼した場合、ダイオキシンが発生するおそれがある。また、加熱燃焼無しの生活環境下の放置でもダイオキシンが発生する可能性があることが指摘されている。
【0004】
また、家電・OA機器用外装部品の成形方法としては、射出成形が一般的であり、その変形としてのガスインジェクション成形も行われている。前記射出成形は、大型になると金型作製費用が高価になるが、金型作製費用が安価なブロー成形は、従来のABS樹脂やPS樹脂の場合には適用することが困難であるため、ほとんど採用されていないのが現状である。
【0005】
また、家電・OA機器用外装部品は、大型になると合成樹脂の使用量が多くなり、部品コスト及びや金型作製費用が増大する。そこで、外装部品をリサイクル及びリユースすることが検討されているが、従来のABS樹脂及びPS樹脂等を用いた外装部品は、紫外線を含む太陽光が直接乃至間接に長期間当たると、表面が変質乃至変色しやすく、特に窓際等の日差しが多い場所に据置されたOA機器の外装カバーは変色しやすい。また、家電・OA機器用外装部品はリユース時に清掃が行われるが、ABS樹脂やPS樹脂は耐溶剤性に劣るため、清掃に使用する溶剤によっては表面シボがなくなったり、表面の色具合や光反射度合いが変化してしまい、リサイクル及びリユースはほとんど行われていないのが現状である。
【0006】
このように家電・OA機器における大型成形品である外装部品には、難燃性以外にも、リサイクル性、環境性、耐光性、及び耐溶剤性に優れていることが求められており、従来使われてきた樹脂材料ではこのような要求に充分応えられない状況になっているのが現状である。
【0007】
【特許文献1】特開平6−016918号公報
【特許文献2】特開平7−076649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであり、従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、難燃性規格を満たした上でリサイクル性、環境性、耐光性、及び耐溶剤性に優れた家電・OA機器用外装部品及び該外装部品を用いた家電・OA機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 熱可塑性ポリエステル系樹脂100質量部に対して有機スルホン酸化合物、有機カルボン酸化合物及びこれらの金属塩の少なくともいずれかを0.0002〜0.8質量部含有する難燃性樹脂組成物を成形してなることを特徴とする家電・OA機器用外装部品である。
該<1>に記載の家電・OA機器用外装部品においては、熱可塑性ポリエステル系樹脂100質量部に対して有機スルホン酸化合物、有機カルボン酸化合物及びこれらの金属塩の少なくともいずれかを0.0002〜0.8質量部含有する難燃性樹脂組成物を成形してなるので、UL94で定められた難燃性規格を満たすと共に、家電・OA機器に太陽光が直接又は間接に当たったとしても、従来のABS樹脂、PS樹脂などに比べて耐光性、環境性、耐候性、耐変色性、及び耐劣化性に優れているので、変質乃至変色することがなく、耐溶剤性にも優れているので清掃による変色乃至変質がない。また、サーマルリサイクルで燃焼させた場合や廃棄処置において燃焼が行われた場合でも、ダイオキシンを発生させることがなく、環境にやさしい。
<2> 成形が、射出成形、ガスインジェクション成形、及びブロー成形のいずれかである前記<1>に記載の家電・OA機器用外装部品である。
該<2>に記載の家電・OA機器用外装部品においては、流動性及び成形性に優れた熱可塑性ポリエステル系樹脂を用いているので、射出成形以外にも、ガスインジェクション成形、及びブロー成形により成形することができ、特に大型部品における金型作製費用を低減させることができる。
<3> 熱可塑性ポリエステル系樹脂が、ポリエチレンテレフタレート樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂を含むアロイ樹脂のいずれかである前記<1>から<2>のいずれかに記載の家電・OA機器用外装部品である。
<4> ポリエチレンテレフタレート樹脂を含むアロイ樹脂が、ポリカーボネート樹脂及びポリブチレンテレフタレート樹脂の少なくともいずれかを合計30質量%以下含有する前記<3>に記載の家電・OA機器用外装部品である。
前記<3>及び<4>のいずれかに記載の家電・OA機器用外装部品においては、ポリカーボネート樹脂(PC)又はポリブチルテレフタレート樹脂(PBT)を合計30質量%以下加えることで、外装部品の物理的特性を向上させることができる。
<5> ポリエチレンテレフタレート樹脂を含むアロイ樹脂が、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、及びポリエチレン樹脂のいずれかを1質量%以下含有する前記<3>から<4>のいずれかに記載の家電・OA機器用外装部品である。
該<5>に記載の家電・OA機器用外装部品においては、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリプロピレン樹脂(PP)、及びポリエチレン樹脂(PE)のいずれかの含有量が、それぞれ1質量%以下であるため、成形性、外観性、及び機械的強度が低下してしまうという不具合が生じない。
<6> 熱可塑性ポリエステル系樹脂が、回収された使用済み熱可塑性ポリエステル系樹脂を含む前記<1>から<5>のいずれかに記載の家電・OA機器用外装部品である。
該<6>に記載の家電・OA機器用外装部品においては、市場回収された使用済み熱可塑性ポリエステル樹脂を含んでいる。その結果、市場ではPETボトルを始めとして一般消費材として多くの分野で使用されているポリエステル系樹脂を高比率で再利用できるので、安価に提供することができる。
<7> 前記<1>から<6>のいずれかに記載の家電・OA機器用外装部品を有してなることを特徴とする家電・OA機器である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、従来における問題を解決でき、難燃性規格を満足しつつリサイクル性、環境性、耐光性、及び耐溶剤性に優れた家電・OA機器用外装部品及び該外装部品を用いた家電・OA機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(家電・OA機器用外装部品)
本発明の家電・OA機器用外装部品は、難燃性樹脂組成物を成形してなり、例えば筐体、ケース類等の外装部品として用いられる。
【0012】
<難燃性樹脂組成物>
前記難燃性樹脂組成物としては、熱可塑性ポリエステル系樹脂と、有機スルホン酸化合物、有機カルボン酸化合物及びこれらの金属塩の少なくともいずれかとを含有してなり、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
【0013】
−熱可塑性ポリエステル系樹脂−
前記熱可塑性ポリエステル系樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ポリエチレンテレフタレート樹脂、及びポリエチレンテレフタレート樹脂を含むアロイ樹脂のいずれかが特に好ましい。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0014】
前記ポリエチレンテレフタレート樹脂としては、特に制限はなく、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。該市販品としては、例えば、「三井PETJ120」(三井化学株式会社製)、クラペット(登録商標)KS750RC(株式会社クラレ製)、PET TR−8550(帝人化成株式会社製)などが挙げられる。
ここで、前記アロイ樹脂とは、(1)2種以上の樹脂を混合し、該2種以上の樹脂がミクロに混在して相溶性と非相溶性のミクロ相分離構造が形成された樹脂、(2)2種以上の樹脂が相溶性である場合には相互に相溶化した複数の樹脂、(3)2種以上の樹脂が相互に溶解しない場合でも、相溶化剤(例えば無水フタル酸等)を添加することにより、相溶化した複数の樹脂を意味する。
【0015】
前記ポリエチレンテレフタレート樹脂を含むアロイ樹脂としては、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂と、該ポリエチレンテレフタレート樹脂以外の熱可塑性樹脂(例えば、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ乳酸、ポリアリレート樹脂、アクリル樹脂等)の1種又は2種以上とのポリマーアロイが挙げられる。このようなポリエチレンフタレート樹脂を含むアロイ樹脂としては、適宜合成されたものでもよいし、市販品を用いることもできる。
前記ポリエチレンテレフタレート樹脂以外の熱可塑性樹脂の含有量は75質量%以下が好ましく、65質量%以下がより好ましい。該ポリエチレンテレフタレート樹脂以外の熱可塑性樹脂の含有量が75質量%を超えると、ポリエチレンテレフタレート樹脂以外の熱可塑性樹脂の種類にもよるが、例えばアクリル樹脂などの場合には、難燃性が得られ難くなることがある。一方、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートなどの場合には、75質量%程度の添加でも難燃性を満足することができる。
【0016】
前記ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)を含むアロイ樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)に、塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリプロピレン樹脂(PP)、及びポリエチレン樹脂(PE)のいずれかを含有させる場合には、それぞれ1質量%以下の含有量であることが好ましい。前記塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリプロピレン樹脂(PP)又はポリエチレン樹脂(PE)が各1質量%を超えて含まれると、成形性、外観性、及び機械的強度が低下してしまうことがある。
また、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)に、ポリカーボネート樹脂(PC)又はポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)を含有させることで外装部品の物理的特性を向上させることができる。この場合、前記ポリカーボネート樹脂及びポリブチレンテレフタレート樹脂の少なくともいずれかを合計30質量%以下含有することが好ましい。前記合計含有量が30質量%を超えると、かえって物理的特性が低下してしまうことがある。
【0017】
本発明の家電・OA機器用外装部品においては、市場からリサイクル回収した熱可塑性ポリエステル系樹脂を高比率で再利用することができる。具体的には、リサイクル回収した熱可塑性ポリエステル系樹脂を50質量%以上含有した樹脂を使用することができる。市場回収されたポリエステル系樹脂は安価であり、市場には多くの分野でポリエステル系樹脂が使用されており、例えばPETボトルを始めとする一般消費材として多用されている各種ポリエステル系樹脂材料の有効利用が図れる。
【0018】
なお、前記熱可塑性ポリエステル系樹脂の比重は1.33であり、従来のPS樹脂の比重1.02と比べてかなり大きい。その結果、振動減衰性が大きくなり、優れた防音性能、及び遮音性能を有する。
【0019】
−有機スルホン酸化合物又はその金属塩−
前記有機スルホン酸化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、該有機スルホン酸化合物におけるスルホン酸基以外の部分としては、脂肪族化合物、芳香族化合物、ヘテロ脂肪族化合物、ヘテロ芳香族化合物、などの骨格を有するものが挙げられる。これらの中でも、前記熱可塑性ポリエステル系樹脂に高い難燃性を付与できる点で、脂肪族化合物及び芳香族化合物のいずれかの骨格を有するものが好ましい。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、前記有機スルホン酸化合物は、天然植物から抽出されたものでもよいし、合成されたものでもよいし、あるいは天然化合物からの誘導体でもよい。
【0020】
前記脂肪族化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記熱可塑性ポリエステル系樹脂に高い難燃性を付与できる点で、オレフィン類及びモノテルペン類のいずれかが好ましい。前記オレフィン類としては、例えば、オクタエン、ノナエン、デセン、ウンデセン、ドデセン、トリデセン、などが挙げられる。該モノテルペン類としては、カンファン形が好ましく、該カンファン形のモノテルペン類としては、例えば、カンファー、ボルネオール、ボルニレン、などが挙げられる。
前記芳香族化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記熱可塑性ポリエステル系樹脂に高い難燃性を付与できる点で、アルキルベンゼン類が好ましい。該アルキルベンゼン類のアルキル基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、オクシル、ノシル、デカシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、などが挙げられる。
【0021】
前記有機スルホン酸化合物の金属塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、などが挙げられる。これらの中でも、前記熱可塑性ポリエステル系樹脂に高い難燃性を付与できる点で、アルカリ金属塩が好ましく、該アルカリ金属塩の中でも、ナトリウム塩、カリウム塩がより好ましい。これらの有機スルホン酸化合物の金属塩は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
したがって、前記オレフィン類、モノテルペン類、アルキルベンゼン類から誘導されるスルホン酸化合物、又はこれらの金属塩としては、例えば、スルホン酸デシル、カンファースルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、これらのナトリウム塩、カリウム塩、などが挙げられる。これらの中でも、環境への負荷が小さい点で、天然のカンファー(樟脳)のスルホン酸誘導体であるカンファースルホン酸が好ましい。
なお、前記有機スルホン酸化合物及び前記有機スルホン酸化合物の金属塩は、それぞれの1種又は2種以上を併用してもよい。
【0023】
−有機カルボン酸化合物又はその金属塩−
前記有機カルボン酸化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、該有機カルボン酸化合物におけるカルボキシル基以外の部分としては、前記熱可塑性ポリエステル系樹脂に高い難燃性を付与できる点から、脂肪族化合物、芳香族化合物、ヘテロ脂肪族化合物、及びヘテロ芳香族化合物のいずれかの骨格を有するものが好ましい。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、前記有機カルボン酸化合物は、天然植物から抽出されたものでもよいし、合成されたものでもよいし、あるいは天然化合物からの誘導体でもよい。
【0024】
前記脂肪族カルボン酸化合物又はヘテロ脂肪族カルボン酸化合物としては、2価以上のカルボン酸化合物が好ましい。2価のカルボン酸化合物としては、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、などが好ましく、これらの化合物には、アルキル基や水酸基などが導入されていてもよい。3価のカルボン酸化合物としては、例えばニトリロ三酢酸、アコニット酸、カンホロン酸、など好ましい。4価のカルボン酸化合物としては、例えばエチレンジオキシビスエチルアミン四酢酸などが好ましい。5価のカルボン酸化合物としては、例えば1,2,3,4,5−シクロヘキサンペンタカルボン酸などが好ましい。6価のカルボン酸化合物としては、例えば1,2,3,4,5,6−シクロヘキサンヘキサカルボン酸などが好ましい。
【0025】
前記芳香族カルボン酸化合物又はヘテロ芳香族カルボン酸化合物としては、1価以上のカルボン酸化合物が好ましい。1価のカルボン酸化合物としては、例えば安息香酸、サリチル酸、桂皮酸、などが好ましい。2価のカルボン酸化合物としては、例えばキノリンジカルボン酸、カルボキシ桂皮酸、カルボキシフェニル酢酸、ナフタレンジカルボン酸、フランジカルボン酸、などが好ましい。3価のカルボン酸化合物としては、例えばベンゼントリカルボン酸、ピリジントリカルボン酸、などが好ましい。
前記有機カルボン酸化合物の金属塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、などが挙げられる。これらの中でも、前記熱可塑性樹脂に高い難燃性を付与できる点で、アルカリ金属塩が好ましく、該アルカリ金属塩の中でも、ナトリウム塩、カリウム塩がより好ましい。これらの有機カルボン酸化合物の金属塩は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、前記難燃性樹脂組成物に対して、特に好適に用いられる有機カルボン酸化合物又はその金属塩としては、安価で入手が容易な点で、アジピン酸、サリチル酸及びこれらのナトリウム塩又はカリウム塩が好ましい。
なお、前記有機カルボン酸化合物及び前記有機カルボン酸化合物の金属塩は、それぞれの1種又は2種以上を併用してもよい。
【0026】
前記有機スルホン酸化合物、有機カルボン酸化合物及びこれらの金属塩は、熱可塑性ポリエステル系樹脂と良好な相溶性が認められ、これら熱可塑性ポリエステル系樹脂に添加しても、十分な透明性が得られる。
なお、前記有機スルホン酸化合物、有機カルボン酸化合物及びこれらの金属塩は無色透明であるが、これらを含む前記難燃性樹脂組成物は、着色剤により所望の色に着色することもできる。
また、前記有機スルホン酸化合物、有機カルボン酸化合物及びこれらの金属塩は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよいが、前記有機スルホン酸化合物と前記有機カルボン酸化合物とを併用することが、それぞれ単独で用いるよりも樹脂に極めて高い難燃性を付与できる点で好ましい。
【0027】
前記有機スルホン酸化合物、有機カルボン酸化合物及びこれらの金属塩の少なくともいずれかの含有量は、前記熱可塑性ポリエステル系樹脂100質量部に対し、0.0002〜0.8質量部が好ましく、0.0005〜0.5質量部がより好ましく、0.005〜0.1質量部が更に好ましく、0.01〜0.05質量部が特に好ましい。前記含有量が0.0002質量部未満であると、熱可塑性ポリエステル系樹脂に難燃性を十分に付与することが困難となることがあり、0.8質量部を超えると、熱可塑性ポリエステル系樹脂の分子間に前記有機スルホン酸化合物、有機カルボン酸化合物及びこれらの金属塩が多量に存在し、該熱可塑性ポリエステル系樹脂の熱的特性や機械的強度を低下させてしまうことがある。
【0028】
前記有機スルホン酸化合物、有機カルボン酸化合物及びこれらの金属塩の熱可塑性ポリエステル系樹脂中への添加方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、該有機スルホン酸化合物、有機カルボン酸化合物及びこれらの金属塩を直接該熱可塑性ポリエステル系樹脂に加えてもよいし、あるいは該有機スルホン酸化合物、有機カルボン酸化合物及びこれらの金属塩を予め高濃度に混合した混合物(マスターバッチ)を調製しておき、該マスターバッチを該熱可塑性ポリエステル系樹脂中に加えてもよい。
なお、本発明において、有機スルホン酸化合物及びその金属塩は、熱可塑性ポリエステル系樹脂等のポリマーをスルホン化するものではなく、熱可塑性ポリエステル系樹脂中に混合されている。
【0029】
−その他の成分−
前記その他の成分としては、特に制限はなく、樹脂組成物に使用される公知の添加剤の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、無機繊維、有機繊維、無機粒子、などが挙げられる。該無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、ウィスカー、などが挙げられる。該有機繊維としては、例えば、ケブラー繊維などが挙げられる。該無機粒子としては、例えば、シリカ、タルク、マイカ、ウォラストナイト、クレー、炭酸カルシウム等の鉱物などが挙げられる。
また、前記難燃性樹脂組成物には、更に必要に応じて、前記有機カルボン酸化合物又はその金属塩、前記有機スルホン酸化合物又はその金属塩以外の既存の難燃剤、難燃助剤、各種劣化防止剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤等)、抗菌剤、着色剤、などを含有することもできる。
【0030】
<成形>
前記難燃性樹脂組成物を用いた家電・OA機器用外装部品の成形方法としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、インフレーション成形、押出成形、射出成形、ガスインジェクション成形、ブロー成形、圧縮成形、トランスファ成形、カレンダー成形、スラッシュ成形、などが挙げられる。これらの中でも、射出成形、ガスインジェクション成形、ブロー成形が特に好ましい。
前記難燃性樹脂組成物に含まれる熱可塑性ポリエステル系樹脂は流動性が良く、成形性が良好なので、射出成形以外にも、ガスインジェクション成形やブロー成形にも容易に活用できる。特に、大型外装部品の射出成形用金型の作製費用は非常に高価になるので、金型作製費用が安価で済むブロー成形が採用できる点のメリットは大きい。
【0031】
本発明の家電・OA機器用外装部品は、難燃性、リサイクル性、環境性、耐光性、及び耐溶剤性のいずれも優れており、家電分野、OA分野における筐体、ケース類などの外装部品として好ましく、以下に説明する家電・OA機器に特に好適である。
【0032】
(家電・OA機器)
本発明の家電・OA機器は、本発明の前記家電・OA機器用外装部品を有してなること以外は、特に制限はなく、その形状、構造、大きさ等については適宜選択することができる。
前記OA機器としては、例えば、複写機、ファックス機、プリンタ又はこれらの複合機、インクジェットプリンタ、スキャナ、シュレッダ、パーソナルコンピュータ(パソコン)、OHP機、事務用印刷機などが好適に挙げられる。
前記家電機器としては、例えば、テレビ、ラジオ、ステレオ、エアコン、冷蔵庫、洗濯機などが挙げられる。
【0033】
ここで、図1は、OA機器の一つである電子写真方式の複写機1の概略断面図を示し、内部構造は省略してある。なお、図1中13は前側板(板金)、14は後側板(板金)、15は底板(板金)である。
図1中10は、前カバーであり、図示を省略しているヒンジ部材によって開閉可能に保持されている。11は後カバーであり、12は上カバーである。なお、図示を省略しているサイドカバーが設けられている。
これらの外装部品は複写機本体にネジで固定されている。前カバー10は開閉時の強度保持変形防止のために厚さを与えるため、内部にガスを封入しながら成形するガスインジェクション成形法で作製されている。
また、後カバー11は大型であるが高い成形寸法制度を求めないことから金型作製費用が安価なブロー成形法で作製されている。上カバー12は寸法制度と表面外観精度が求められることから射出成形法で作製されている。
このような外装部品の大きさは一般に600mm×900mmと大きいので、万一内部で異常な高熱が発生した場合にも熱を外部に伝えない機能と共に、万一外部で火災が起こっても、熱や炎を内部に伝えて異常燃焼を発生させないことが求められる。したがって前記外装部品には、UL94規格(米国)で定められた難燃性を満たすことが必要である。
【0034】
また、外装部品には、耐光性、耐候性、耐変色性、及び耐劣化性が求められる。一般にOA機器はオフィスや事務室において部屋の片隅に置かれることが多く、窓際は太陽光が直接又は間接に当たりやすい。この太陽光に含まれる紫外線は従来のABS樹脂やPS樹脂を変質乃至変色させてしまう。このような太陽光を最も受ける部品が外装カバーであり、変色は外観性を低下させてしまう。
また、外装部品には、清掃時の耐溶剤性も求められる。特に、デジタル孔版式印刷機のような事務用印刷機は、インキ付着によって外装カバーが汚れてしまうため、溶剤を用いて清掃が行われるため、耐溶剤性が必要となる。
【0035】
そこで、本発明の家電・OA機器用外装部品は、耐光性、耐候性、耐変色性、耐劣化性、及び耐溶剤性に優れていながら、難燃性に劣ることから外装部品用途にはほとんど使用されていなかった熱可塑性ポリエステル系樹脂を用いることを特徴とする。ただし、そのままではUL94に定められた難燃性規格を満足することができないので、熱可塑性ポリエステル系樹脂100質量部に対して有機スルホン酸化合物、有機カルボン酸化合物及びこれらの金属塩の少なくともいずれかを0.0002〜0.8質量部含有させることにより、難燃性を付与している。
【0036】
本発明の家電・OA機器用外装部品は、基本的にリサイクル又はリユースされることを前提にして設計されており、このような部品は大型になると樹脂の使用量が多くなるので、使用後に廃棄処理されることは望ましくない。この場合、本発明の家電・OA機器用外装部品は、難燃剤としてハロゲン化合物を含んでおらず、有機スルホン酸化合物、有機カルボン酸化合物及びこれらの金属塩の少なくともいずれかを用いているので、サーマルリサイクルで燃焼させた場合や廃棄処置において燃焼が行われた場合でも、ダイオキシンを発生させないので、リサイクル又はリユースに適し、環境性に優れたものである。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂(「三井PETJ120」;三井化学株式会社製)を除湿乾燥機(株式会社松井製作所製、PO−200型)で110℃にて10時間乾燥した後、有機スルホン酸化合物として、脂肪族スルホン酸化合物であるカンファースルホン酸(関東化学株式会社製、試薬1級、以下「CPS」と記す)を、該PET100質量部に対し表1に示す割合で添加して、ロット番号1〜3の難燃性樹脂組成物を調製した。
得られた各樹脂組成物を、タンブラー(「タンブルミキサーTM−50型」;日水加工株式会社製、8枚羽)を用いて攪拌羽回転速度300rpmで4分間、攪拌し、混合した。これを射出成形機(クロックナー社製、F−85型、型締め圧力85ton)を用いて、表1に示す厚みの試験片(成形品)を作製した。
【0039】
(実施例2)
実施例1において、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂を、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂を含むアロイ樹脂〔ポリエチレンテレフタレート(三井PETJ120、三井化学株式会社製)85質量%とポリブチレンテレフタレート(ジュラネックス(登録商標)2000、ポリプラスチック株式会社製)15質量%を混合したアロイ樹脂〕に変えた以外は、実施例1と同様にして、ロット番号4〜6の難燃性樹脂組成物を調製した。
得られた各樹脂組成物を、タンブラー(「タンブルミキサーTM−50型」;日水加工株式会社製、8枚羽)を用いて攪拌羽回転速度300rpmで4分間、攪拌し、混合した。これを射出成形機(クロックナー社製、F−85型、型締め圧力85ton)を用いて、表1に示す厚みの試験片(成形品)を作製した。
【0040】
(実施例3)
実施例1において、CPSに替えて、有機カルボン酸化合物として、脂肪族カルボン酸化合物であるアジピン酸(関東化学株式会社製、試薬1級、以下「AZA」と記す)を、PET100質量部に対し表1に示す割合で添加した以外は、実施例1と同様にして、ロット番号7〜9の難燃性樹脂組成物を調製した。
得られた各樹脂組成物を、タンブラー(「タンブルミキサーTM−50型」;日水加工株式会社製、8枚羽)を用いて攪拌羽回転速度300rpmで4分間、攪拌し、混合した。これを射出成形機(クロックナー社製、F−85型、型締め圧力85ton)を用いて、表1に示す厚みの試験片(成形品)を作製した。
【0041】
(比較例1)
実施例1において、CPSを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、ロット番号10のポリエステル樹脂組成物を調製した。これを射出成形機(クロックナー社製、F−85型、型締め圧力85ton)を用いて、表1に示す厚みの試験片(成形品)を作製した。
【0042】
(比較例2)
難燃ABS樹脂(旭化成株式会社製、スタイラック UGB10;ハロゲン化合物含有)を用い、ロット番号11のABS樹脂組成物を調製した。これを射出成形機(クロックナー社製、F−85型、型締め圧力85ton)を用いて、表1に示す厚みの試験片(成形品)を作製した。
【0043】
(比較例3)
ポリスチレン(PS)樹脂(株式会社東洋スチレン製、トーヨースチロールEJ1;ハロゲン化合物含有)を用い、ロット番号12のPS樹脂組成物を調製した。これを射出成形機(クロックナー社製、F−85型、型締め圧力85ton)を用いて、表1に示す厚みの試験片(成形品)を作製した。
【0044】
得られた各成形品及び樹脂組成物について、以下のようにして諸特性を評価した。結果を表1及び表2に示す。
【0045】
<燃焼試験>
得られた各試験片について、UL94Vの垂直燃焼試験方法に基づき、燃焼試験を行った。なお、燃焼時間は2回着火の和で、試験片5片の平均である。得られた結果を、以下の基準に従って、UL94V−0、V−1、V−2のいずれかの等級に評価した。なお、これらのいずれも満たさないものは、「不合格」とした。
−評価−
V−0:点火炎を取り除いた後の平均燃焼時間が10秒間以下、かつ全試料とも脱脂綿に着火する微粒炎を落下しない。
V−1:点火炎を取り除いた後の平均燃焼時間が30秒間以下、かつ全試料とも脱脂綿に着火する微粒炎を落下しない。
V−2:点火炎を取り除いた後の平均燃焼時間が30秒間以下、かつ脱脂綿に着火する微粒炎を落下する。
【0046】
<耐光性>
東芝株式会社製CL4型の紫外線照射装置を用い、ランプ表面より35mmの距離に各試験片(20mm×40mm×厚み2.8mm)を配置した。このときの試料表面における紫外線強度は2.6mW/cmであった。2時間照射後の試験片表面の状態を観察し、下記基準で評価した。
〔評価基準〕
○:変化なし
△:淡黄変あり
×:黄変あり
【0047】
<燃焼時のダイオキシン発生の有無>
各試験片について、熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析装置(Agilent Technologies社製、6890A/5973N型)を用いて、分析を行った。分離条件は、昇温速度20℃/minのグラジュントとし、熱分解温度は780℃とし、試料は0.5mgとした。
分析の結果、有機ハロゲン化合物が痕跡程度以上確認されたものを×、有機ハロゲン化合物が全く確認できなかったものを○と判定した。
【0048】
<色の発色性>
表1に示す各樹脂組成物について射出成形機を用い、色の発色性に差が出やすい黒色で成形して、下記基準で評価した。
〔評価基準〕
○:黒味発色性が良好である
△:若干発色性に劣る
×:くすんだ黒色で発色がよくない
【0049】
<ブロー成形への対応>
株式会社ブラコー製DAL 120Wを用いて、255℃のノズル温度で500mlのボトルをブロー成形し、下記基準で評価した。
〔評価基準〕
○:完全に成形できた
△:変形しているが容器として成形できた
×:穴等があいて不完全な容器しか成形できなかった
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
表1及び表2の結果から、熱可塑性ポリエステル系樹脂を主成分とする難燃性樹脂組成物から成形された実施例1〜3の成形品は、ABS樹脂又はPS樹脂を主成分とする樹脂組成物から成形された比較例2及び3の成形品に比べて、耐光性に優れ、変色しにくく、燃焼時のダイオキシンの発生がなく、ブロー成形可能であることが認められる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の家電・OA機器用外装部品は、難燃性規格を満たし、リサイクル性、環境性、耐光性、及び耐溶剤性にも優れており、各種家電分野・OA分野に好適に用いられる。
本発明の家電・OA機器としては、例えば複写機、ファックス機、プリンタ又はこれらの複合機、インクジェットプリンタ、スキャナ、シュレッダ、パーソナルコンピュータ(パソコン)、OHP機、事務用印刷機、テレビ、ラジオ、ステレオ、エアコン、冷蔵庫、洗濯機などが好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、本発明の家電・OA機器用外装部品を用いた電子写真方式の画像形成装置の概略断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1 電子写真方式の複写機
10 前カバー
11 後カバー
12 上カバー
13 前側板
14 後側板
15 底板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリエステル系樹脂100質量部に対して有機スルホン酸化合物、有機カルボン酸化合物及びこれらの金属塩の少なくともいずれかを0.0002〜0.8質量部含有する難燃性樹脂組成物を成形してなることを特徴とする家電・OA機器用外装部品。
【請求項2】
成形が、射出成形、ガスインジェクション成形、及びブロー成形のいずれかである請求項1に記載の家電・OA機器用外装部品。
【請求項3】
熱可塑性ポリエステル系樹脂が、ポリエチレンテレフタレート樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂を含むアロイ樹脂のいずれかである請求項1から2のいずれかに記載の家電・OA機器用外装部品。
【請求項4】
ポリエチレンテレフタレート樹脂を含むアロイ樹脂が、ポリカーボネート樹脂及びポリブチレンテレフタレート樹脂の少なくともいずれかを合計30質量%以下含有する請求項3に記載の家電・OA機器用外装部品。
【請求項5】
ポリエチレンテレフタレート樹脂を含むアロイ樹脂が、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、及びポリエチレン樹脂のいずれかを1質量%以下含有する請求項3から4のいずれかに記載の家電・OA機器用外装部品。
【請求項6】
熱可塑性ポリエステル系樹脂が、回収された使用済み熱可塑性ポリエステル系樹脂を含む請求項1から5のいずれかに記載の家電・OA機器用外装部品。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の家電・OA機器用外装部品を有してなることを特徴とする家電・OA機器。

【図1】
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【公開番号】特開2008−133387(P2008−133387A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321422(P2006−321422)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(000221937)東北リコー株式会社 (509)
【Fターム(参考)】