説明

密封軸受

【課題】揺動運動を行う部品を支持する目的で使用されても、外部への潤滑剤の漏出が効果的に抑制され、トルクの増大が生じ難い密封軸受を提供する。
【解決手段】内輪3の外周面の幅方向両端部が、軌道面31の両側より小径に形成され、この部分3aが、シールド9の内周部9cが対向する対向面となっている。この対向面3aに対して、フッ素系樹脂、フッ素系溶剤、および平均粒径が5〜20nmである疎水性シリカ微粒子を含有し、フッ素系樹脂の濃度が0.1質量%以上2.0質量%以下である撥油コーティング溶液で撥油処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は密封軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(HDD)等の駆動装置や、自動車や、各種動力装置の回転軸を支持するための転がり軸受としては、軸受内部に潤滑剤を封入するために、シールドやシール等の密封板を備えた密封軸受を用いることが知られている。
密封軸受では、軸受内部に封入する潤滑剤が密封板と軌道輪との間から軸受外部に漏出すると、軸受外部では漏出した潤滑剤により発塵量が増大するとともに、軸受内部では潤滑不足によりトルクが増大するという問題がある。
【0003】
そこで、特許文献1及び特許文献2では、密封軸受を構成する部材において、潤滑剤が漏出し易い部分に撥油性を持たせて、潤滑剤をはじくことにより、軸受外部への潤滑剤の漏出を抑える技術が提案されている。
特許文献1では、密封軸受において、シールドの外輪内周面に固定される側の端部(固定端)に弾性部材を設け、シールドの内輪外周面に対向配置される側の端面(自由端の面)と、この端面に対向配置される内輪外周面とのうち少なくとも一方に、撥油膜を形成して、撥油性を持たせることが提案されている。
【0004】
特許文献2では、密封軸受において、軸受内部を形成する構成部材の表面(例えば、シールドの内周面、内輪の外周面、外輪の内周面)のうち少なくともいずれかに、撥油性を持たせることが提案されている。
また、特許文献3には、固体物品の表面を超撥水処理するために用いるコーティング溶液として、アルコール、テトラアルコキシシラン、平均粒径が5〜20nmである疎水性シリカ微粒子、および水を含むコーティング溶液が記載されている。
【特許文献1】特開平11−62998号公報
【特許文献2】特開2003ー254342号公報
【特許文献3】特開2006ー232870号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特に、HDDの駆動装置を支持する転がり軸受は、揺動運動のみを行うため、回転運動を行う部品を支持する軸受と比べて潤滑剤が軌道に十分に供給され難く、境界潤滑になり易い。ところが、境界潤滑を避けるために多量の潤滑剤を封入すると、揺動運動の場合には回転運動とは異なり、遠心力等の拘束力が軸受内部の潤滑剤に作用しにくくなるため、軸受内部から潤滑剤が重力に任せて漏出しやすくなるという問題点がある。
よって、揺動運動を行う部品を支持する目的で使用される場合には、上述した特許文献1及び特許文献2に記載された密封軸受では、軸受外部への潤滑剤の漏出と潤滑不足によるトルク増大を抑制できない場合がある。
【0006】
また、特許文献3に記載されたコーティング溶液は、疎水性シリカ微粒子により形成される凹凸で固体物品の表面に固定されやすくしているが、溶剤の濃度によっては、この凹凸の効果が発揮されずに、コーティングを施した面における潤滑油の接触角が小さくなって、軸受内部から潤滑剤が漏れやすくなる場合がある。
本発明の課題は、揺動運動を行う部品を支持する目的で使用されても、外部への潤滑剤の漏出が効果的に抑制され、トルクの増大が生じ難い密封軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、内輪と外輪の間に配置された密封板を備え、軸受内部に潤滑剤が封入されている密封軸受において、前記密封板の自由端が対向または接触する内輪または外輪の対向面と、前記密封板の自由端とのいずれかまたは両方は、フッ素系樹脂、フッ素系溶剤、および平均粒径が100nm以下である疎水性シリカ微粒子を0.1質量%以上2.0質量%以下の濃度で含有し、フッ素系樹脂の濃度が0.1質量%以上2.0質量%以下である撥油コーティング溶液で撥油処理されていることを特徴とする密封軸受を提供する。
【0008】
本発明の密封軸受によれば、前記密封板の自由端が対向または接触する内輪または外輪の対向面と、前記密封板の自由端とのいずれかまたは両方は、フッ素系樹脂、フッ素系溶剤、および平均粒径が100nm以下である疎水性シリカ微粒子を0.1質量%以上2.0質量%以下の濃度で含有し、フッ素系樹脂の濃度が0.1質量%以上2.0質量%以下である撥油コーティング溶液で撥油処理されているため、これ以外の撥油コーティング溶液で撥油処理された場合と比較して、撥油処理された部分の撥油性が高くなる。したがって、本発明の密封軸受が揺動運動を行う部品を支持する目的で使用されても、外部への潤滑剤の漏出が効果的に抑制される。
【0009】
フッ素系樹脂の濃度が2.0質量%を超えると、コーティング溶液で撥油処理されて生じる被膜が厚くなり、疎水性シリカ微粒子によって形成される凹凸の効果が発揮されずに、コーティングを施した面における潤滑油の接触角が小さくなって、軸受内部から潤滑剤が漏れやすくなる。
本発明の密封軸受では、撥油処理を施した面における潤滑油の接触角が90°以上であることが好ましい。
【0010】
本発明における撥油処理方法としては、例えば、前記撥油コーティング溶液をスプレーした後に乾燥させる方法などが挙げられる。
撥油処理をするタイミングは、密封軸受の組み立て前(潤滑剤を封入する前)でもよいし、後(潤滑剤を封入した後)でもよい。
前記密封板の自由端が対向または接触する内輪または外輪の対向面と、前記密封板の自由端との両方に撥油処理をする場合には、両者が接着しないように、コーティング溶液の濃度を薄くして、形成される被膜の厚さを調整する。
撥油コーティング溶液に含まれるフッ素系樹脂としては、パーフルオロアルキルアクリレートが挙げられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の密封軸受によれば、揺動運動を行う部品を支持する目的で使用されても、外部への潤滑剤の漏出が効果的に抑制され、トルクの増大が生じ難くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
この実施形態では、密封軸受として、図1に示す呼び番号SR1810ZZのシールド付きミニチュア玉軸受(内径:7.238mm,外径:12.7mm,幅:3.267mm)を作製した。
この玉軸受は、外輪1、内輪3、玉(転動体)5、保持器7、シールド(密封板)9からなり、外輪1に、シールド9の外縁部を固定する凹部1aが形成されている。また、内輪3の外周面の幅方向両端部が、軌道面31の両側より小径に形成されている。この部分3aが、シールド9の内周部(自由端)9cが対向する対向面となっている。
【0013】
サンプルNo. 1は、外輪1の凹部1aと、内輪3の外周面の幅方向両端部(シールド対向面)3aと、シールド9の内周部9cが、コーティング溶液Aで撥油処理されている。コーティング溶液Aは、(株)NIマテリアル製のフッ素コーティング剤「INT−332」を用いてフッ素樹脂濃度が0.1質量%となるようにした後、日本アエロジル(株)製の平均粒径が12nmである疎水性シリカ微粒子「アエロジルRY200」を0.3質量%となるように添加したものである。
【0014】
サンプルNo. 1の玉軸受の組み立て方は、先ず、外輪1と内輪3の間に、玉5を保持器7に保持させながら組み込む。次に、外輪1の凹部1aと、内輪3のシールド対向面3aと、シールド9の内周部9cに、前記コーティング溶液をスプレー法で塗布して乾燥させる。次に、一方のシールド9を外輪1と内輪3の間に配置して、その外周部(固定端)を溝1aに嵌め入れる。次に、シールド9を取り付けた側を下にして、玉軸受を軸方向端面が水平となるように置き、シリンジで潤滑油としてポリαオレイン油(40℃での動粘度が48mm2 /s)を軸受内部に、軸受空間容積の15%となる量(約12.7mg)だけ注入する。最後に、上側のシールド9を取り付けてから、外輪1を内輪3に対して軽く回転させる。
【0015】
サンプルNo. 2は、外輪1の凹部1aと、内輪3の外周面の幅方向両端部(シールド対向面)3aと、シールド9の内周部9cが、コーティング溶液Bで撥油処理されている。コーティング溶液Bは、(株)NIマテリアル製のフッ素コーティング剤「INT−332」を用いてフッ素樹脂濃度が1.0質量%となるようにした後、日本アエロジル(株)製の平均粒径が12nmである疎水性シリカ微粒子「エアロジルRY200」を0.3質量%となるように添加したものである。
【0016】
サンプルNo. 2の玉軸受の組み立ては、コーティング溶液Aに代えてコーティング溶液Bを用いた以外は、サンプルNo. 1と同様にして行った。
サンプルNo. 3は、外輪1の凹部1aと、内輪3の外周面の幅方向両端部(シールド対向面)3aと、シールド9の内周部9cが、コーティング溶液Cで撥油処理されている。コーティング溶液Cは、(株)NIマテリアル製のフッ素コーティング剤「INT−332」を用いてフッ素樹脂濃度が2.0質量%となるようにした後、日本アエロジル(株)製の平均粒径が12nmである疎水性シリカ微粒子「アエロジルRY200」を0.3質量%となるように添加したものである。
【0017】
サンプルNo. 3の玉軸受の組み立ては、コーティング溶液Aに代えてコーティング溶液Cを用いた以外は、サンプルNo. 1と同様にして行った。
サンプルNo. 4は、外輪1の凹部1aと、内輪3の外周面の幅方向両端部(シールド対向面)3aと、シールド9の内周部9cが、コーティング溶液Dで撥油処理されている。コーティング溶液Dは、(株)NIマテリアル製のフッ素コーティング剤「INT−332」を用いてフッ素樹脂濃度が0.1質量%となるようにした後、日本アエロジル(株)製の平均粒径が12nmである疎水性シリカ微粒子「エアロジルRY200」を2.0質量%となるように添加したものである。
【0018】
サンプルNo. 4の玉軸受の組み立ては、コーティング溶液Aに代えてコーティング溶液Dを用いた以外は、サンプルNo. 1と同様にして行った。
サンプルNo. 5は、外輪1の凹部1aと、内輪3の外周面の幅方向両端部(シールド対向面)3aと、シールド9の内周部9cが、コーティング溶液Eで撥油処理されている。コーティング溶液Eは、(株)NIマテリアル製のフッ素コーティング剤「INT−332」を用いてフッ素樹脂濃度が2.0質量%となるようにした後、日本アエロジル(株)製の平均粒径が12nmである疎水性シリカ微粒子「エアロジルRY200」を2.0質量%となるように添加したものである。
【0019】
サンプルNo. 5の玉軸受の組み立ては、コーティング溶液Aに代えてコーティング溶液Eを用いた以外は、サンプルNo. 1と同様にして行った。
サンプルNo. 6は、外輪1の凹部1aと、内輪3の外周面の幅方向両端部(シールド対向面)3aと、シールド9の内周部9cが、コーティング溶液Fで撥油処理されている。コーティング溶液Fは、(株)NIマテリアル製のフッ素コーティング剤「INT−332」を用いてフッ素樹脂濃度が1.0質量%となるようにした後、日本アエロジル(株)製の平均粒径が50nmである疎水性シリカ微粒子を0.3質量%となるように添加したものである。
【0020】
サンプルNo. 6の玉軸受の組み立ては、コーティング溶液Aに代えてコーティング溶液Gを用いた以外は、サンプルNo. 1と同様にして行った。
サンプルNo. 7は、外輪1の凹部1aと、内輪3の外周面の幅方向両端部(シールド対向面)3aと、シールド9の内周部9cが、コーティング溶液Gで撥油処理されている。コーティング溶液Fは、(株)NIマテリアル製のフッ素コーティング剤「INT−332」を用いてフッ素樹脂濃度が1.0質量%となるようにした後、日本アエロジル(株)製の平均粒径が100nmである疎水性シリカ微粒子を0.3質量%となるように添加したものである。
【0021】
サンプルNo. 7の玉軸受の組み立ては、コーティング溶液Aに代えてコーティング溶液Gを用いた以外は、サンプルNo. 1と同様にして行った。
サンプルNo. 8の玉軸受は、外輪1の凹部1aと、内輪3の外周面の幅方向両端部(シールド対向面)3aと、シールド9の内周部9cのいずれにも、コーティング溶液による撥油処理を行わない以外は、サンプルNo. 1と同様にして組み立てた。
【0022】
サンプルNo. 9は、外輪1の凹部1aと、内輪3の外周面の幅方向両端部(シールド対向面)3aと、シールド9の内周部9cが、コーティング溶液Hで撥油処理されている。コーティング溶液Hは、(株)NIマテリアル製のフッ素コーティング剤「INT−332」を用いてフッ素樹脂濃度が0.1質量%となるようにしたものであり、疎水性シリカ微粒子を添加していないものである。
【0023】
サンプルNo. 9の玉軸受の組み立ては、コーティング溶液Aに代えてコーティング溶液Hを用いた以外は、サンプルNo. 1と同様にして行った。
サンプルNo. 10は、外輪1の凹部1aと、内輪3の外周面の幅方向両端部(シールド対向面)3aと、シールド9の内周部9cが、コーティング溶液Iで撥油処理されている。コーティング溶液Iは、(株)NIマテリアル製のフッ素コーティング剤「INT−332」を用いてフッ素樹脂濃度が2.1質量%となるようにした後、日本アエロジル(株)製の平均粒径が12nmである疎水性シリカ微粒子「アエロジルRY200」を0.3質量%となるように添加したものである。
【0024】
サンプルNo. 10の玉軸受の組み立ては、コーティング溶液Aに代えてコーティング溶液Iを用いた以外は、サンプルNo. 1と同様にして行った。
サンプルNo. 11は、外輪1の凹部1aと、内輪3の外周面の幅方向両端部(シールド対向面)3aと、シールド9の内周部9cが、コーティング溶液Jで撥油処理されている。コーティング溶液Jは、(株)NIマテリアル製のフッ素コーティング剤「INT−332」を用いてフッ素樹脂濃度が0.1質量%となるようにした後、日本アエロジル(株)製の平均粒径が12nmである疎水性シリカ微粒子「アエロジルRY200」を2.1質量%となるように添加したものである。
【0025】
サンプルNo. 11の玉軸受の組み立ては、コーティング溶液Aに代えてコーティング溶液Jを用いた以外は、サンプルNo. 1と同様にして行った。
サンプルNo. 12は、外輪1の凹部1aと、内輪3の外周面の幅方向両端部(シールド対向面)3aと、シールド9の内周部9cが、コーティング溶液Kで撥油処理されている。コーティング溶液Jは、(株)NIマテリアル製のフッ素コーティング剤「INT−332」を用いてフッ素樹脂濃度が2.0質量%となるようにした後、日本アエロジル(株)製の平均粒径が12nmである疎水性シリカ微粒子「アエロジルRY200」を2.1質量%となるように添加したものである。
【0026】
サンプルNo. 12の玉軸受の組み立ては、コーティング溶液Aに代えてコーティング溶液Kを用いた以外は、サンプルNo. 1と同様にして行った。
サンプルNo. 13は、外輪1の凹部1aと、内輪3の外周面の幅方向両端部(シールド対向面)3aと、シールド9の内周部9cが、コーティング溶液Oで撥油処理されている。コーティング溶液Oは、(株)NIマテリアル製のフッ素コーティング剤「INT−332」を用いてフッ素樹脂濃度が1.0質量%となるようにした後、日本アエロジル(株)製の平均粒径が110nmである疎水性シリカ微粒子を0.3質量%となるように添加したものである。
【0027】
サンプルNo. 13の玉軸受の組み立ては、コーティング溶液Aに代えてコーティング溶液Oを用いた以外は、サンプルNo. 1と同様にして行った。
サンプルNo. 14は、外輪1の凹部1aと、内輪3の外周面の幅方向両端部(シールド対向面)3aと、シールド9の内周部9cが、コーティング溶液Pで撥油処理されている。コーティング溶液Pは、(株)NIマテリアル製のフッ素コーティング剤「INT−332」を用いてフッ素樹脂濃度が1.0質量%となるようにした後、日本アエロジル(株)製の平均粒径が200nmである疎水性シリカ微粒子を0.3質量%となるように添加したものである。
【0028】
サンプルNo. 14の玉軸受の組み立ては、コーティング溶液Aに代えてコーティング溶液Oを用いた以外は、サンプルNo. 1と同様にして行った。
このようにして得られたNo. 1〜14の各密封軸受の質量(試験前の質量)を測定した後、軸芯が鉛直方向に向くように金属板の上に配置して回転速度3000min-1で内輪を回転させ、1カ月後に試験後の質量を測定し、試験前後の質量の差(潤滑油の漏出量)を算出した。また、炭素鋼からなる試験片に、各コーティング溶液を塗布して乾燥させた後の塗布面に(No. 8では何も塗布しない試験片に)、前記潤滑油を3μリットル滴下した時の接触角を測定した。これらの結果を下記の表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
この結果から、コーティング溶液A〜Gで撥油処理された本発明の実施例に相当するNo. 1〜7の玉軸受は、潤滑油の漏出量が0.04〜0.06mgと少なく、撥油処理された試験片での潤滑油の接触角が90〜113°となっていた。
これに対して、コーティング溶液のフッ素樹脂濃度が本発明の範囲(0.1〜2.0質量%)から外れるNo. 10と、撥油処理を行っていないNo. 8と、コーティング溶液にシリカ微粒子が含まれていないNo. 9と、シリカ微粒子の濃度が本発明の範囲(0.1〜2.0質量%)から外れるNo. 11,12と、シリカ微粒子の平均粒径が本発明の範囲(100nm以下)を外れるNo. 13,14の玉軸受は、潤滑油の漏出量が1.5〜12.0mgと多く、撥油処理された試験片での潤滑油の接触角が19〜89°となっていた。
【0031】
次に、シリカ微粒子の平均粒径が12nmで、フッ素樹脂濃度が0.1質量%で、シリカ微粒子の濃度のみが異なるコーティング溶液を用い、前記と同じミニチュア玉軸受にNo. 1と同様にしてコーティングを行って組み立てた後、前記と同じ方法で潤滑油の漏出量を測定した。その結果を図2にグラフで示す。このグラフから分かるように、コーティング溶液に含まれるシリカ微粒子の濃度を0.1質量%以上2.0質量%以下の範囲にすることで、潤滑油の漏出量を0.05mg以下に抑えることができる。
【0032】
次に、シリカ微粒子の濃度が0.3質量%で、フッ素樹脂濃度が0.1質量%で、シリカ微粒子の平均粒径のみが異なるコーティング溶液を用い、前記と同じミニチュア玉軸受にNo. 1と同様にしてコーティングを行って組み立てた後、前記と同じ方法で潤滑油の漏出量を測定した。その結果を図3にグラフで示す。このグラフから分かるように、コーティング溶液に含まれるシリカ微粒子の平均粒径が12nm〜100nmの場合、潤滑油の漏出量を0.05mg以下に抑えることができる。
【0033】
図1の密封軸受では密封板としてシールド9を用いているが、図4に示すような非接触シール19や図5に示すような接触シール29を用いてもよい。
図4の例では、芯金19aと合成樹脂製の弾性部材19bとからなる非接触シール19を用い、非接触シール19の内周部(自由端)19cには撥油処理をしていない。外輪1の凹部1bと内輪3のシールド対向面3aには撥油処理を行っている。
【0034】
図5の例では、芯金29aと合成樹脂製の弾性部材29bとからなる接触シール29を用い、接触シール29のリップ部(自由端)29cには撥油処理をしていない。外輪1の凹部1bには撥油処理を行っている。
また、図5の軸受では、内輪3の外周面の幅方向両端部が、軌道面31の両側より徐々に小さく形成された傾斜部3bと、その外側の平坦部3cとからなる。この内輪3の傾斜部3bが、接触シール29のリップ部29cが接触する対向面となっている。この傾斜部(対向面)3bに撥油処理を行っている。
【0035】
また、図6に示すように、ハウジング40と軸50との間に、軸方向に間隔を開けて2個の軸受45,47を配置する場合には、各軸受45,47の軸方向外側となる一方にそれぞれシールド9を取り付ける。そして、各軸受45,47のシールド9を取り付ける部分を、図1の場合と同様に構成する。
なお、軸受内部に封入する潤滑剤は潤滑油に限定されず、グリースであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態に相当する密封軸受であって、密封板がシールドの例を示す断面図である。
【図2】実施形態で行った試験の結果であって、コーティング溶液に含まれるシリカ微粒子の濃度と、軸受からの潤滑油の漏出量と、の関係を示すグラフである。
【図3】実施形態で行った試験の結果であって、コーティング溶液に含まれるシリカ微粒子の平均粒径と、軸受からの潤滑油の漏出量と、の関係を示すグラフである。
【図4】本発明の実施形態に相当する密封軸受であって、密封板が非接触シールの例を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態に相当する密封軸受であって、密封板が接触シールの例を示す断面図である。
【図6】本発明の実施形態に相当する密封軸受であって、ハウジングと軸との間に、軸方向に間隔を開けて2個の軸受を配置する例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 外輪
1a 凹部
3 内輪
3a シールド対向面
3b シールド対向面
31 内輪の軌道面
40 ハウジング
5 玉(転動体)
50 軸
7 保持器
9 シールド(密封板)
9c シールドの内周部(自由端)
91 非接触シール(密封板)
91c 非接触シールの内周部(自由端)
92 接触シール(密封板)
92c 接触シールのリップ部(自由端)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と外輪の間に配置された密封板を備え、軸受内部に潤滑剤が封入されている密封軸受において、
前記密封板の自由端が対向または接触する内輪または外輪の対向面と、前記密封板の自由端とのいずれかまたは両方は、フッ素系樹脂、フッ素系溶剤、および平均粒径が100nm以下である疎水性シリカ微粒子を0.1質量%以上2.0質量%以下の濃度で含有し、フッ素系樹脂の濃度が0.1質量%以上2.0質量%以下である撥油コーティング溶液で撥油処理されていることを特徴とする密封軸受。
【請求項2】
撥油処理を施した面における潤滑油の接触角が90°以上である請求項1記載の密封軸受。
【請求項3】
揺動運動を行う部品を支持する目的で使用される請求項1または2記載の密封軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−174685(P2009−174685A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−16483(P2008−16483)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】