説明

密閉型圧縮機

【課題】連通孔から吐出された冷媒ガスが、オイルを巻き上げ、オイルと一緒に密閉型圧縮機の外部へ吐出されるのを低減する密閉型圧縮機を提供することを目的とする。
【解決手段】底部に潤滑油を貯留する密閉容器1内に電動機部3と圧縮機構部2とを備え、圧縮機構部2は、シリンダ9と、シリンダ9の電動機部3側に配設された上軸受け6と、シリンダ9の反電動機部3側に配設された下軸受け8とを備え、上軸受け6上に配設されたバルブカバー5は電動機部3側に開口部5dを有し、開口部5dから冷媒ガスを密閉容器1内に吐出する密閉型圧縮機であって、バルブカバー5の開口部5dは、電動機部3側方向にテーパ状に広がる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気調和装置や冷蔵庫等の冷凍機器に使用される密閉型圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の密閉型圧縮機としては図4のように密閉容器1に圧縮機構部2と電動機部3を有し、密閉容器1内には圧縮機構部2の摺動部を潤滑するためのオイル4が封入され、密閉容器底部に貯留される。下軸受け8に設けられた吐出孔8aから圧縮機構部で圧縮された冷媒ガスが下軸受け8とバルブカバー5によって構成された閉空間に吐出され、下軸受け8とシリンダ9と上軸受け6に設けられた連通孔10を通って密閉容器1内に冷媒ガスが吐出され、電動機部3の固定子3aに設けられた切り欠き部3dを通って吐出管7に送出される。
【0003】
この従来の構成において例えば、オイルが上軸受け6の上端に滞留している場合等、バルブカバー5より吐出された冷媒がオイルを巻き上げて、噴霧状になり、冷媒の流れに乗って、電動機の固定子3aに設けられた切り欠き部3dを通って、吐出管7に送出されるため、オイル吐出量が多くなる可能性があった。この課題を解決する従来の技術として、図4に示すように吐出パイプ11を設置することによりオイルを密閉容器内に巻き上げないようにする技術があった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−239713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の構成では、上軸受け6に吐出パイプ11を別部品として取り付ける必要があり、部品点数の増加により材料コストの増大、また取り付けの工数増加による製造コストの増大といった課題があった。また、電動機の回転数を自在に変化できるインバータータイプの圧縮機においては、冷媒循環量の増加と共に吐出ガスの流速が上昇し、より多くのオイルを密閉容器に巻き上げてしまうという課題があった。
【0006】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、バルブカバーの開口部から吐出される冷媒ガスの流速を低下させることにより、オイルを巻き上げることなく冷媒を圧縮機構部から吐出できる密閉型圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記従来の課題を解決するために、本発明にかかる密閉型圧縮機は、底部に潤滑油を貯留する密閉容器内に電動機部と圧縮機構部とを備え、前記圧縮機構部は、シリンダと、前記シリンダの前記電動機部側に配設された上軸受けと、前記シリンダの反電動機部側に配設された下軸受けとを備え、前記上軸受け上に配設されたバルブカバーは前記電動機部側に開口部を有し、前記開口部から冷媒ガスを前記密閉容器内に吐出する密閉型圧縮機であって、前記バルブカバーの開口部は、前記電動機部側方向にテーパ状に広がる構成としたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の密閉型圧縮機は、圧縮機が高速運転をしている場合においても、バルブカバー
の開口部から吐出される冷媒ガスの流速を低下させることができる。これにより、オイルを巻き上げることなく冷媒を圧縮機構部から吐出でき、オイル吐出量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態1における密閉型圧縮機の断面図
【図2】本発明の実施の形態1におけるバルブカバーと上軸受けの拡大断面図
【図3】本発明の実施の形態6における密閉型圧縮機の断面図
【図4】従来の密閉型圧縮機の断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の密閉型圧縮機は、底部に潤滑油を貯留する密閉容器内に電動機と圧縮機構部を備え、前記圧縮機構部は、シリンダと、前記シリンダの前記電動機側に配設された上軸受けと、前記シリンダの反電動機側に配設された下軸受けとを備え、前記上軸受け上に配設されたバルブカバーは前記電動機側に開口部を有し、前記開口部から冷媒ガスを前記密閉容器内に吐出する密閉型圧縮機であって、前記バルブカバーの開口部は、前記電動機側方向にテーパ状に広がる。
【0011】
これにより、圧縮機が高速運転をしている場合においても、バルブカバーの開口部から吐出される冷媒ガスの流速を低下させることができる。これにより、オイルを巻き上げることなく冷媒を圧縮機構部から吐出でき、オイル吐出量を低減することができる。
【0012】
ある実施形態において、冷媒ガスは、塩素を含まないHCFCもしくはHFCから選択される少なくとも1種のガスとする。
【0013】
ある実施形態において、冷媒ガスは、二酸化炭素、アンモニアおよびヘリウムからなる群から選択される少なくとも1種のガスとする。
【0014】
ある実施形態において、潤滑油は、ナフテン油、パラフィン油、アルキルベンゼン油の天然物もしくは天然物由来のオイル、またはポリエーテル系油もしくはポリオールエステル系油の合成オイル、または天然物もしくは天然物由来のオイルと合成オイルとの混合オイルとする。
【0015】
ある実施形態において、潤滑油は、銅不活性化剤、硫黄系極圧添加剤、ハロゲン系極圧添加剤、りん系極圧添加剤、有機金属化合物系極圧添加剤、およびこれらの組み合わせからなる極圧添加剤が添加されている。
【0016】
ある実施形態において、圧縮機構部は2つの圧縮室を有し、2つの圧縮室から各々吐出された冷媒ガスが各々別の経路を通じて密閉容器内にと出される。
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
【0018】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施形態1における密閉型圧縮機の断面図である。本発明にかかる密閉型圧縮機は、密閉容器1内に圧縮機構部2と電動機部3を収納し、密閉容器1底部には圧縮機構部2の摺動部を潤滑するためのオイル4が貯留され、圧縮された冷媒ガスが吐出管7から吐出される構成である。シリンダ9から上軸受け6側に吐出された冷媒ガスは、上軸受け6に設けられた吐出孔(図示せず)から上軸受け6とバルブカバー5によって構成された閉空間に吐出され、バルブカバー5と上軸受け6のボス部とで形成された開口部5
dを通って密閉容器1内に吐出される。
【0019】
図2に本発明におけるバルブカバー5と上軸受け6を組み合わせた状態の拡大断面図を示す。バルブカバー5の開口部5dにはテーパ形状の円筒状突起5aが設置されており、上軸受け6のボス部との隙間には冷媒ガスの流路方向に沿って狭部5bと広部5cが形成されている。閉空間に吐出された冷媒ガスが密閉容器1に吐出される過程において、冷媒ガスは狭部5bを通過する際に閉空間の断面積が小さくなるため一旦流速が上昇する。しかしその後テーパ状に形成された円筒状突起5aに沿って広部5cを通過する際には、閉空間の断面積の増加に伴い流速が低下する。当該作用により、圧縮機が高速運転をしている場合においても冷媒ガスの流速を十分に低下させた状態で開口部5dから吐出できる。
【0020】
これにより、密閉容器1内、特に、開口部5dの縁に付着しているオイルを巻き上げることなく、密閉容器1からのオイル吐出量を低減できる。なお、狭部5bにおいて一旦面積が減少しているため、バルブカバー5の本来の機能である吐出ガスによる騒音低減効果を損なうことはない。
【0021】
(実施の形態2)
実施の形態1にかかる密閉型圧縮機において、圧縮される冷媒ガスに塩素を含まない代替冷媒(例えばHFC冷媒)を用いることができる。圧縮される冷媒ガスが塩素を含まない代替冷媒を用いた場合には、摺動部の表面に耐摩耗性の塩化鉄層を形成しない。そのため、密閉容器内にオイルを確保しておく必要が特に高いが、本発明により密閉容器外へオイル吐出量を低減できるので、摺動部の信頼性を確保することができる。
【0022】
(実施の形態3)
実施の形態1にかかる密閉型圧縮機において、圧縮されるガスが二酸化炭素のような自然冷媒の場合、圧縮機から吐出されるガスは高圧にする必要がある。摺動部の負荷耐力も大きなものが必要となるため、密閉容器内にオイルを確保しておく必要が特に高い。本発明により密閉容器外へオイル吐出量を低減できるので、摺動部の信頼性を確保することができる。
【0023】
(実施の形態4)
通常、密閉型圧縮機には、使用する冷媒ガスや圧縮機構部2に用いられる材質によって様々な種類のオイルが使用されている。本実施の形態は、圧縮機で主に用いられているナフテン油、パラフィン油、アルキルベンゼン油などの天然物あるいは天然物由来のオイル、およびポリエーテル系油、ポリオールエステル系油などの合成オイル、または上記天然物あるいは天然物由来のオイルと合成オイルの混合オイルなどにも適用することが可能となる。
【0024】
(実施の形態5)
機械的特性を上げるために、実施の形態4にかかるオイルに種々の添加剤を加えることがある。本実施の形態では、ベンゾトリアゾールなどの銅不活性化剤、硫黄系極圧添加剤、ハロゲン系極圧添加剤、りん系極圧添加剤、有機金属化合物系極圧添加剤、およびこれらの組み合わせからなる極圧添加剤などを有効量配合した圧縮機にも適用することも可能である。
【0025】
(実施の形態6)
図3は本発明の第6の実施の形態における圧縮機の断面図である。本発明は、バルブカバー5と上軸受け6との隙間より冷媒ガスを吐出する方式の圧縮機であれば適用が可能であるため、シリンダを2個備えた2ピストン型の圧縮機に適用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
以上のように、本発明にかかる密閉型圧縮機は、簡素な構造で、安価でかつ確実にオイル吐出量を低減することが可能となるので、空気調和装置や冷蔵庫等の冷凍機器の用途にも適用できる。
【符号の説明】
【0027】
1 密閉容器
2 圧縮機構部
3 電動機部
4 オイル
5 バルブカバー
5a 円筒状突起
5b 狭部
5c 広部
5d 開口部
6 上軸受け
7 吐出管
8 下軸受け
9 シリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部に潤滑油を貯留する密閉容器内に電動機部と圧縮機構部とを備え、前記圧縮機構部は、シリンダと、前記シリンダの前記電動機部側に配設された上軸受けと、前記シリンダの反電動機部側に配設された下軸受けとを備え、前記上軸受け上に配設されたバルブカバーは前記電動機部側に開口部を有し、前記開口部から冷媒ガスを前記密閉容器内に吐出する密閉型圧縮機であって、
前記バルブカバーの開口部は、前記電動機部側方向にテーパ状に広がる密閉型圧縮機。
【請求項2】
前記冷媒ガスは、塩素を含まないHCFCもしくはHFCから選択される少なくとも1種のガスである請求項1に記載の密閉型圧縮機。
【請求項3】
前記冷媒ガスは、二酸化炭素、アンモニアおよびヘリウムからなる群から選択される少なくとも1種のガスである請求項1に記載の密閉型圧縮機。
【請求項4】
前記潤滑油は、ナフテン油、パラフィン油、アルキルベンゼン油の天然物もしくは天然物由来のオイル、またはポリエーテル系油もしくはポリオールエステル系油の合成オイル、または前記天然物もしくは天然物由来のオイルと前記合成オイルとの混合オイルである請求項1に記載の密閉型圧縮機。
【請求項5】
前記潤滑油は、銅不活性化剤、硫黄系極圧添加剤、ハロゲン系極圧添加剤、りん系極圧添加剤、有機金属化合物系極圧添加剤、およびこれらの組み合わせからなる極圧添加剤が添加されている請求項1に記載の密閉型圧縮機。
【請求項6】
前記圧縮機構部は2つの圧縮室を有し、前記2つの圧縮室から各々吐出された冷媒ガスが各々別の経路を通じて密閉容器内に吐出される請求項1〜5のいずれか1項に記載の密閉型圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−112366(P2012−112366A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264554(P2010−264554)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】