説明

射出成形体

【課題】耐熱性および良好な外観を有する射出成形体を提供する。
【解決手段】射出成形体は、D乳酸の割合が0.1%以上、3.0%以下である乳酸系樹脂(A)と、300℃、1.2kg荷重において測定したメルトフローレートが10以上、50以下である芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)と、屈折率が2.0以上である無機微粒子(C)とからなる樹脂組成物を用いてなる。ここで、芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)の占める割合が10質量%以上、50質量%未満であり、無機微粒子(C)の占める割合が0.1質量%以上、10質量%以下である。また、射出成形体を構成する乳酸系樹脂(A)の相対結晶化度χc(A)と、乳酸系樹脂(A)の結晶化熱量ΔHc(A)と、結晶融解熱量ΔHm(A)とは、 χc(A)={ΔHm(A)−ΔHc(A)}/ΔHm(A)≧0.90 の関係を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は良好な外観を有し、かつ、耐熱性の向上した射出成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは今や日常生活、産業等のあらゆる分野において広く浸透しており、全世界のプラスチックの年間生産量が約1億トンにも達している。この生産されたプラスチックの大半は使用後廃棄されており、これが地球環境を乱す原因の一つとして認識されるようになった。そのため、廃棄されても地球環境に悪影響を与えない材料が求められている。
【0003】
また、通常のプラスチックの原料である石油等は枯渇性資源であるので、再生可能資源の活用が求められている。例えば、植物原料プラスチックは、再生可能な非枯渇性資源を利用して得られるので、石油等枯渇性資源の節約を図ることができ、しかも、使用後は生分解して自然に戻り、優れたリサイクル性を備えている。
【0004】
植物原料プラスチックの中でも乳酸系樹脂は、澱粉の発酵により得られる乳酸を原料とし、化学工学的に量産可能であり、かつ、透明性、剛性、耐熱性等に優れている。そのため、特に乳酸系樹脂は、ポリスチレンやポリエチレンテレフタレートの代替材料として、フィルム包装材や、家電、OA機器、自動車部品等の射出成形分野において注目されている。
【0005】
しかしながら乳酸系樹脂は高い耐熱性が要求される分野での使用には耐熱性が十分ではなく、これまで様々な改良が検討されてきた。例えば非植物系樹脂をブレンドする手法として、特開2004−250549号公報には、ポリ乳酸系樹脂にポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂等の他の樹脂を配合して耐熱性を改良した手法が開示されているが、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂等は流動開始温度が高くて成形温度が乳酸系樹脂の分解温度(230℃)以上になるので、成形時に樹脂の分解が生じやすい。また、この手法により得られた成形体では、無荷重状態において耐熱性が要求されるプラスチック等の耐熱性評価方法として採用されているヒートサグ試験(自重による変形温度を測定)では良好な結果が得られるが、家電、OA機器、自動車部品等における耐熱性の評価方法として一般的に採用されている荷重たわみ温度の測定では耐熱性の向上効果はほとんど見られない。
【0006】
また、特開平07−109413号公報には芳香族ポリカーボネート樹脂とポリ乳酸からなる真珠光沢を有する樹脂組成物、特開平11−140292号公報にはポリ乳酸とポリカーボネートとを含むポリ乳酸系樹脂組成物、特開2005−48066号公報には50質量%以上の芳香族ポリカーボネート樹脂とポリ乳酸と無機充填材とからなる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、特開2005−48067号公報には50質量%以上の芳香族ポリカーボネート樹脂とポリ乳酸と衝撃改良剤とからなる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、さらに、特開2005−60637号公報にはポリ乳酸と、ポリ乳酸のガラス転移温度より高いガラス転移温度を有する非晶性樹脂とを含む樹脂組成物が開示されているが、かかる公報に記載の技術でも乳酸系樹脂を分解させずに成形を行い、耐熱性が向上した成形体を得ることは非常に難しかった。
【0007】
【特許文献1】特開2004−250549号公報
【特許文献2】特開平07−109413号公報
【特許文献3】特開平11−140292号公報
【特許文献4】特開2005−48066号公報
【特許文献5】特開2005−48067号公報
【特許文献6】特開2005−60637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、耐熱性を向上させ、かつ、外観の改良を実現することができる射出成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の射出成形体は、D乳酸の割合が0.1%以上、3.0%以下である乳酸系樹脂(A)と、日本工業規格 JIS K7210に基づき、300℃、1.2kg荷重において測定したメルトフローレートが10以上、50以下である芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)と、屈折率が2.0以上である無機微粒子(C)とからなる樹脂組成物であり、前記乳酸系樹脂(A)、前記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)および前記無機微粒子(C)の合計質量中に占める芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)の占める割合が10質量%以上、50質量%未満であり、合計質量中に占める前記無機微粒子(C)の割合が0.1質量%以上、10質量%以下であり、かつ、射出成形体を構成する乳酸系樹脂(A)の相対結晶化度χc(A)と、前記乳酸系樹脂(A)の結晶化熱量ΔHc(A)と、結晶融解熱量ΔHm(A)とが、次式 χc(A)={ΔHm(A)−ΔHc(A)}/ΔHm(A)≧0.90 の関係を満たす樹脂組成物を用いてなることを特徴とする。
【0010】
本発明においては、前記無機微粒子(C)が、酸化チタン、チタン酸鉛、チタン酸カリウム、酸化ジルコニウム、硫化亜鉛、酸化アンチモン、及び、酸化亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1つであることができる。
【0011】
本発明においては、前記樹脂組成物を用いて形成された射出成形体を、前記乳酸系樹脂(A)のガラス転移温度Tg(A)以上、前記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)のガラス転移温度Tg(B)以下の温度で熱処理することが好ましい。
【0012】
本発明においては樹脂組成物にさらに結晶化促進剤を配合することができ、該結晶化促進剤の占める割合が射出成形体の形成に用いられる樹脂組成物100質量部に対して0.1質量部以上、10質量部以下であることが好ましい。
【0013】
本発明においては樹脂組成物にさらに加水分解防止剤を配合することができる。この加水分解防止剤は、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、酸無水物、オキサゾリン化合物、および、カルボジイミド化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましく、該加水分解防止剤の占める割合は射出成形体の形成に用いられる樹脂組成物100質量部に対して0.1質量部以上、10質量部以下であることが好ましい。これらの加水分解防止剤を配合することにより、耐久性をさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、良好な外観を有し、かつ、耐熱性が向上した射出成形体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について説明する。
本発明の射出成形体は、D乳酸の割合が0.1%以上、3.0%以下である乳酸系樹脂(A)と、300℃、1.2kg荷重におけるメルトフローレートが10以上、50以下である芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)と、屈折率が2.0以上である無機微粒子(C)とを含有する樹脂組成物を用いて形成されたものである。
【0016】
(乳酸系樹脂)
本発明に用いられる乳酸系樹脂は、構造単位がL−乳酸であるポリ(L−乳酸)、構造単位がD−乳酸であるポリ(D−乳酸)、構造単位がL−乳酸及びD−乳酸であるポリ(DL−乳酸)や、これらの混合体である。但し、乳酸系樹脂のD−乳酸の構成割合は0.1%以上、3.0%以下であることが必要であり、0.5%以上、2.0%以下であることが好ましい。すなわち、乳酸系樹脂のL乳酸(L体)とD乳酸(D体)の構成比は、L体:D体=99.9:0.1〜97.0:3.0であることが必要である。D体の構成割合が0.1%未満では生産性が悪くなり、3.0%を超えると成形体の耐熱性が得られにくくなって用途が制限されることがある。
【0017】
乳酸系樹脂の重合法としては、縮合重合法、開環重合法等の公知の方法を採用することができる。例えば、縮合重合法では、L−乳酸又はD−乳酸、あるいはこれらの混合物を直接脱水縮合重合して任意の組成を有する乳酸系樹脂を得ることができる。
【0018】
また、開環重合法では、適当な触媒を選択し、必要に応じて重合調整剤も用いて、乳酸の環状二量体であるラクチドから乳酸系樹脂を得ることができる。ラクチドには、L−乳酸の二量体であるL−ラクチド、D−乳酸の二量体であるD−ラクチド、さらにL−乳酸とD−乳酸からなるDL−ラクチドがあり、これらを必要に応じて混合して重合することにより、任意の組成、結晶性を有する乳酸系樹脂を得ることができる。
【0019】
さらに、耐熱性を向上させる等の必要に応じて、乳酸系樹脂の本質的な性質を損なわない範囲で、例えば、乳酸系樹脂成分を90質量%以上含有する範囲内で、少量の共重合成分を添加することができる。少量の共重合成分としては、テレフタル酸のような非脂肪族ジカルボン酸及び/又はビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物のような非脂肪族ジオール等を用いることができる。
さらにまた、分子量増大を目的として、少量の鎖延長剤、例えば、ジイソシアネート化合物、エポキシ化合物、酸無水物等を使用することもできる。
【0020】
乳酸系樹脂は、さらに、乳酸及び/又は乳酸以外のα−ヒドロキシカルボン酸等の他のヒドロキシカルボン酸単位との共重合体であっても、脂肪族ジオール及び/又は脂肪族ジカルボン酸との共重合体であってもよい。
他のヒドロキシカルボン酸単位としては、乳酸の光学異性体(L−乳酸に対してはD−乳酸、D−乳酸に対してはL−乳酸)、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシカプロン酸等の2官能脂肪族ヒドロキシ−カルボン酸やカプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類が挙げられる。
【0021】
乳酸系樹脂に共重合される脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール,1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。また、上記脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸及びドデカン二酸等が挙げられる。
【0022】
本発明に使用される乳酸系樹脂は、重量平均分子量が5万〜40万の範囲であることが好ましく、更に好ましくは10万〜25万である。乳酸系樹脂の重量平均分子量が5万より小さい場合には、機械物性や耐熱性等の実用物性がほとんど発現されず、40万より大きい場合には、溶融粘度が高すぎて成形加工性に劣ることがある。
【0023】
本発明に好ましく使用される乳酸系樹脂の代表的なものとしては、三井化学(株)製の「レイシア」シリーズ、Nature Works LLC社製の「Nature Works」シリーズ等が商業的に入手されるものとして挙げられる。
【0024】
(芳香族ポリカーボネート系樹脂)
本発明に用いられる芳香族ポリカーボネート系樹脂は、主成分がポリカーボネートであり、例えばポリカーボネートを90質量%以上含むものをいう。ポリカーボネート樹脂としては、フェノールとアセトンから合成されるビスフェノールAを用いて界面重合法、エステル交換法、ピリジン法等によって製造されるもの、ビスフェノールAとジカルボン酸誘導体、例えば、テレ(イソ)フタル酸ジクロリド等との共重合により得られるポリエステルカーボネート、ビスフェノールAの誘導体、例えば、テトラメチレンビスフェノールA等の重合により得られるもの等が挙げられる。本発明においては、芳香族ポリカーボネート系樹脂として、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製の「ユーピロン」シリーズ、住友ダウ(株)製の「カリバー」シリーズ等が商業的に入手可能なものとして挙げられる。
【0025】
本発明に用いられる芳香族ポリカーボネート系樹脂は、日本工業規格 JIS K7210に基づき、300℃、1.2kg荷重において測定したメルトフローレートが10以上、50以下であることが必要であり、15以上、30以下であることが好ましい。芳香族ポリカーボネート系樹脂のメルトフローレートが10未満である場合、すなわち、芳香族ポリカーボネート系樹脂の分子量が高い場合には、成形温度を高く(乳酸系樹脂の分解温度以上)設定しなければならず、成形時に乳酸系樹脂の分解が生じることがある。一方、芳香族ポリカーボネート系樹脂のメルトフローレートが50より高い場合、すなわち、芳香族ポリカーボネート系樹脂の分子量が低い場合には、芳香族ポリカーボネート系樹脂の耐衝撃性が著しく低下するため、得られた成形体の耐衝撃性が低下する恐れがある。
【0026】
(無機微粒子)
本発明に用いられる無機微粒子は、屈折率が2.0以上であることが必要である。乳酸系樹脂に芳香族ポリカーボネート系樹脂を配合した樹脂組成物から射出成形体を形成すると真珠光沢を生じるが、屈折率が2.0以上の無機微粒子を配合することによって真珠光沢を消失させることができる。これは、2.0未満の無機微粒子では、無機微粒子による光の拡散、散乱が不十分であるため、真珠光沢を消失させることができないからである。なお、近年においては、デザインの多様化や意匠性の向上等の観点から、真珠光沢を有さない射出成形体が要求される場合があり、本願発明はかかる用途に好適である。
本発明における無機微粒子の屈折率は、フィラー研究会編「フィラー活用辞典(大成社)」より求められる。
【0027】
本発明に用いられる屈折率が2.0以上の無機微粒子としては、酸化チタン、チタン酸鉛、チタン酸カリウム、酸化ジルコニウム、硫化亜鉛、酸化アンチモン、酸化亜鉛等が挙げられる。外観の改良を効率よく行うことができるので、酸化チタンを用いることが好ましい。
【0028】
上記乳酸系樹脂(A)、上記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)、および、上記無機微粒子(C)の配合量は、乳酸系樹脂(A)、芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)、および、無機微粒子(C)の混合物中に占める芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)の割合が10質量%以上、50質量%未満であることが必要であり、20質量%以上、40質量%未満であることが好ましい。芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)の配合量が10質量%より少ないと耐熱性の向上効果が得られず、50質量%以上では流動性が低下するので、成形温度が高くなって乳酸系樹脂の分解等が生じたり、成形性の低下が生じる。
【0029】
また、乳酸系樹脂(A)、芳香族ポリエステル系樹脂(B)、および、無機微粒子(C)の混合物中に占める無機微粒子(C)の割合は0.1質量%以上、10質量%未満であり、0.5質量%以上、5質量%未満であることが好ましい。無機微粒子(C)の配合量が0.1質量%より少ないと外観の改良効果が得られにくく、10質量%以上では光の拡散、散乱が過度に生じるため、射出成形体の色調が制限される場合がある。
【0030】
本発明においては、得られた射出成形体を構成する乳酸系樹脂(A)の相対結晶化度χc(A)と、乳酸系樹脂(A)の結晶化熱量ΔHc(A)と、結晶融解熱量ΔHm(A)がχc(A)={ΔHm(A)−ΔHc(A)}/ΔHm(A)≧0.90であることが必要である。例えば、乳酸系樹脂(A)、芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)、および、無機微粒子(C)を用いてなる射出成形体に好適に熱処理を施すことにより上記条件を満足することができる。相対結晶化度χc(A)が0.90以上となるように射出成形体に熱処理を施せば、耐熱性を大幅に向上させることができる。相対結晶化度χc(A)が0.90未満では、芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)を配合することによる耐熱性向上効果がほとんど発現されない。
【0031】
(結晶化促進剤)
本発明においては、射出成形体の結晶化速度を向上させるために結晶化促進剤を配合することができる。本発明に用いられる結晶化促進剤としては、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ジ(n−オクチル)、アジピン酸ジ(n−デシル)、アジピン酸ジブチルジグリコール、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2−エチルヘキシル)、アゼライン酸ジ(n−ヘキシル)、アゼライン酸ジ(2−エチルヘキシル)、ドデカンジオン酸ジ(2−エチルヘキシル)、クエン酸アセチルトリブチル等の脂肪酸エステル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)等のフタル酸エステル、またはトリメリット酸トリ(2−エチルヘキシル)等のトリメリット酸エステル、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マーガリン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘニン酸、モンタン酸等の脂肪酸、ステアリン酸アミド、ラウリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等のモノアミド、エチレンビスラウリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスパルミチン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド等のビスアミド、タルク、カオリン、炭酸カルシウム、ベントナイト、マイカ、セリサイト、ガラスフレーク、黒鉛、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、硫酸バリウム、ホウ酸亜鉛、含水ホウ酸カルシウム、アルミナ、マグネシア、ウォラストナイト、ゾノトライト、セピオライト、ウィスカー、ガラス繊維、ガラスフレーク、金属粉末、ビーズ、シリカバルーン、シラスバルーン等の無機フィラーが挙げられる。
【0032】
結晶化促進剤の配合量は、本発明の射出成形体を形成するために使用される樹脂組成物100質量部に対して結晶化促進剤を0.1質量部以上、10質量部以下配合することが好ましく、1質量部以上、5質量部以下配合することがより好ましい。結晶化促進剤を0.1質量部以上、10質量部以下の範囲内で配合することにより、成形性、耐熱性、耐衝撃性等の機械物性を損なうことなく結晶化速度を向上させることができる。
【0033】
(加水分解防止剤)
本発明においては、射出成形体の耐久性をさらに向上させるために加水分解防止剤を配合することができる。本発明に用いられる加水分解防止剤としては、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、酸無水物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物等が挙げられるが、これらの中ではカルボジイミド化合物を用いることが特に好ましい。
【0034】
本発明に用いられるカルボジイミド化合物としては、下記一般式に示す基本構造を有するものが好ましいものとして挙げられる。

−(N=C=N−R−)n−

ただし、式中、Rは有機系結合単位を示し、例えば、脂肪族、脂環族又は芳香族であることができる。nは1以上の整数を示し、通常は1〜50の間で適宜決められる。nが2以上の場合に、2以上のRは同一でも異なっていてもよい。
【0035】
具体的には、例えば、ビス(ジプロピルフェニル)カルボジイミド、ポリ(4,4'−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(メチル−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)等、及び、これらの単量体がカルボジイミド化合物として挙げられる。これらのカルボジイミド化合物は、単独、又は、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0036】
カルボジイミド化合物の具体例としては、ラインケミー社製の「スタバクゾール」シリーズ、日清紡績(株)製の「カルボジライト」シリーズ等を挙げることができる。
【0037】
加水分解防止剤の配合量は、本発明の射出成形体を形成するために用いられる樹脂組成物100質量部に対して加水分解防止剤を0.1質量部以上、10質量部以下配合することが好ましく、1質量部以上、5質量部以下配合することがより好ましい。加水分解防止剤を0.1質量部以上配合することにより、耐久性の向上効果を望むことができ、また、10質量部以下配合することにより、加水分解防止剤による軟質化、あるいは過度の分子量向上により、粘度が上昇して成形性に問題が生じることもない。
【0038】
本発明の射出成形体を形成するために用いられる樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、熱安定剤、抗酸化剤、難燃剤、UV吸収剤、光安定剤、顔料、染料等の添加剤を配合することができる。
【0039】
次に、本発明の射出成形体を形成する方法について説明する。
乳酸系樹脂(A)、芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)、無機微粒子(C)、および、必要に応じて、その他の添加剤等の各原料を、同一の射出成形機に投入して直接混合して射出成形することにより射出成形体を形成することができる。あるいは、ドライブレンドした原料を、二軸押出機を用いてストランド形状に押出してペレットを作製しておき、このペレットを再度射出成形機に入れて射出成形することにより成形体を形成することができる。なお、乳酸系樹脂は、溶融成形時に加水分解を起しやすいので、あらかじめ乾燥するか、真空ベント押出し工程を経ることが好ましい。
【0040】
いずれの方法を採用するにしても、原料の分解による分子量の低下を考慮する必要があるが、各原料を均一に混合させるためには後者を選択することが好ましい。例えば、乳酸系樹脂(A)、芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)、及び、無機微粒子(C)、また、必要に応じて、その他の添加剤等を、十分に乾燥させて水分を除去した後、二軸押出機を用いて溶融混合し、ストランド形状に押出してペレットを作製する。なお、乳酸系樹脂はL−乳酸構造とD−乳酸構造の組成比によって融点が変化すること、乳酸系樹脂と芳香族ポリカーボネート系樹脂との混合割合、また更に、その他の添加剤等を配合する場合には更にこの混合割合によって、混合樹脂の融点が変化すること等を考慮して、溶融押出温度を適宜選択することが好ましい。実際には180℃〜230℃の温度範囲が通常選択される。
【0041】
上記方法によって作成されたペレットを十分に乾燥させて水分を除去した後、下記に示す方法を用いて射出成形体が形成される。
【0042】
射出成形方法としては、例えば、熱可塑性樹脂を成形する場合に一般的に採用される射出成形法、ガスアシスト成形法、射出圧縮成形法等の射出成形法を採用することができる。また、その他目的に合わせて、上記の方法以外でもインモールド成形法、ガスプレス成形法、2色成形法、サンドイッチ成形法、PUSH−PULL、SCORIM等を採用することもできる。ただし、射出成形法はこれらに限定されるものではない。
【0043】
用いられる射出成形装置は、一般的な射出成形機、ガスアシスト成形機、射出圧縮成形機等と、これらの成形機に用いられる成形用金型及び付帯機器、金型温度制御装置、原料乾燥装置等から構成される。成形条件は射出シリンダー内での樹脂の熱分解を避けるため、溶融樹脂温度が180℃〜220℃の範囲で成形することが好ましい。
【0044】
射出成形体を非晶状態で得る場合には、成形サイクル(型閉〜射出〜保圧〜冷却〜型開〜取出)の冷却時間を短くするため、金型温度はできるだけ低温に設定することが好ましい。金型温度は一般的には15℃〜55℃であり、チラーを用いることも望ましい。しかし、後結晶化時の成形体の収縮や反り、変形を抑えるためにはこの範囲内の高温側に設定することが有利である。
【0045】
次いで、金型内で、または/および、金型から取り出した後に結晶化処理を施す。生産性の観点からいえば、射出成形体を形成する樹脂の結晶化速度が遅い場合には、金型から取り出した後に結晶化処理を行うことが好ましく、結晶化速度が速い場合には、金型内で結晶化させることが好ましい。
【0046】
加熱した金型内に溶融樹脂を充填した後、一定時間金型内で保持することにより、金型内で結晶化させることができる。金型温度としては80℃〜130℃であることが好ましく、さらに好ましくは90℃〜120℃であり、冷却時間としては、1〜300秒であることが好ましく、さらに好ましくは5〜30秒である。金型温度が80℃〜130℃、冷却時間が1〜300秒において金型内で結晶化処理を行えば、射出成形体の耐熱性をさらに向上させることができる。
【0047】
金型から成形体を取り出した後に結晶化処理を施す場合には、乳酸系樹脂(A)のガラス転移温度Tg(A)以上、芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)のガラス転移温度Tg(B)以下の温度で熱処理を施すことが好ましい。例えば、熱処理温度が60〜130℃であることが好ましく、70〜100℃であることがさらに好ましい。熱処理温度が60℃以上であれば結晶化が進行し、また、熱処理温度が130℃以下であれば、成形体の冷却時に変形や収縮が生じることもない。熱処理時間は成形体を形成する材料の組成、熱処理温度等によって適宜決められることが好ましいが、例えば、熱処理温度が70℃の場合には熱処理時間が15分〜5時間であることが好ましい。また、熱処理温度が130℃の場合には熱処理時間が10秒〜30分であることが好ましい。
【0048】
結晶化処理方法としては、成形体形成用の樹脂組成物等を予め加熱された金型に入れて射出成形し、金型内で結晶化させる方法や、射出成形後に金型の温度を上昇させて金型内で結晶化させる方法、あるいは、射出成形体を非晶状態で金型から取り出した後、熱風、蒸気、温水、遠赤外線ヒーター、IHヒーター等で結晶化させる方法等が挙げられる。このとき、射出成形体は固定しなくてもよいが、射出成形体の変形を防止するためには、金型、樹脂型などで射出成形体を固定することが好ましい。また、生産性を考慮して、梱包した状態で熱処理を行うこともできる。
【0049】
このようにして形成された本発明の成形体は、優れた耐熱性及び耐衝撃性を備えているので、高い耐熱性が要求される分野での使用が可能である。例えば、家電、OA機器、自動車部品等の中でも特に高い耐熱性及および耐衝撃性が要求される用途に好適である。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。なお、各実施例及び各比較例は以下に示す方法で評価を行った。
【0051】
(1)流動開始温度
日本工業規格 JIS K−7210に基づいて、(株)島津製作所製の細管式レオメータCFT−500D/100Dを用い、3.9MPa加圧下で測定対象の樹脂(サンプル)を2℃/分で昇温し、直径1mm、長さ20mmの細管から押出し、樹脂が細管から押出され始める温度を測定した。流動開始温度が180℃以下を合格とした。
【0052】
(2)相対結晶化度:χc(A)
日本工業規格 JIS K−7121に基づいて、射出成形体から約10mgのサンプルを削り出し、パーキンエルマー社製のDSC−7を用い、10℃/分の速度にて30℃から200℃まで昇温測定を行い、得られたサーモグラムより乳酸系樹脂の結晶化熱量ΔHc(A)、結晶融解熱量ΔHm(A)を読み取った。得られた値を下記式に代入し、相対結晶化度χc(A)を算出した。相対結晶化度χc(A)が0.90以上を合格とした。

χc(A)={ΔHm(A)−ΔHc(A)}/ΔHm(A)
【0053】
(3)荷重たわみ温度
日本工業規格 JIS K−7191に基づき、長さ120mm×幅11mm×厚さ3mmの試験片を作製し、東洋精器社製のS−3Mを用いて荷重たわみ温度の測定を行った。測定は、エッジワイズ方向、試験片に加える曲げ応力が1.80MPaの条件で行った。荷重たわみ温度が70℃以上を合格とした。
【0054】
(4)外観
長さ120mm×幅11mm×厚さ3mmの試験片(板材)を作製し、板材表面に真珠光沢が認められるか否かを肉眼で観察した。板材表面に真珠光沢が明らかに認められるものを記号「×」で表示し、真珠光沢が認められないものを記号「〇」で表示した。
【0055】
(実施例1)
乳酸系樹脂として、Nature Works LLC社製のNature Works 4032D(D乳酸の割合:1.4%、重量平均分子量:20万)を用い、芳香族ポリカーボネート系樹脂として、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製のユーピロン S−3000(メルトフローレート:16)を用い、無機微粒子として、ナカライテスク社製の酸化チタン(屈折率:2.76)を用いた。Nature Works 4032Dと、ユーピロン S−3000と、酸化チタンとを質量比で80:20:2の割合でドライブレンドした後、三菱重工(株)製の40mmφの小型同方向二軸押出機を用いて220℃でコンパウンドし、ペレット形状にした。得られたペレットを東芝機械(株)製の射出成形機 IS50E(スクリュー径25mm)を用い、荷重たわみ温度の測定用試験片および外観評価用試験片として長さ120mm×幅11mm×厚さ3mmの試験片を射出成形した。ただし、主な成形条件は以下に示す通りである。
【0056】
1)温度条件:シリンダー温度(220℃) 金型温度(30℃)
2)射出条件:射出圧力(115MPa) 保持圧力(55MPa)
3)計量条件:スクリュー回転数(65rpm) 背圧(15MPa)
【0057】
次に、得られた射出成形体をベーキング試験装置(大栄科学精器製作所製のDKS−5S)内に静置し、100℃で1時間熱処理を行った。
【0058】
また、得られたペレットを用いて流動開始温度の測定を行い、得られた射出成形体(測定用試験片)について荷重たわみ温度の測定と外観評価、および、相対結晶化度の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0059】
(比較例1)
実施例1において、得られた射出成形体に熱処理を施さなかった以外は実施例1と同様にして射出成形体を作製した。また、得られた射出成形体について、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0060】
(実施例2)
実施例1において、乳酸系樹脂、芳香族ポリカーボネート系樹脂、および、無機微粒子の配合割合を、Nature Works 4032Dと、ユーピロン S−3000と、酸化チタンとを質量比で70:30:2に変更した以外は実施例1と同様にして射出成形体を作製した。得られた射出成形体について、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0061】
(比較例2)
実施例2において、得られた射出成形体に熱処理を施さなかった以外は実施例2と同様にして射出成形体を作製した。また、得られた射出成形体について、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0062】
(実施例3)
実施例1において、乳酸系樹脂、芳香族ポリカーボネート系樹脂、および、無機微粒子の配合割合を、Nature Works 4032Dと、ユーピロン S−3000と、酸化チタンとを質量比で60:40:2に変更した以外は実施例1と同様にして、熱処理された射出成形体を作製した。得られた射出成形体について、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0063】
(比較例3)
実施例3において、得られた射出成形体に熱処理を施さなかった以外は実施例3と同様にして射出成形体を作製した。また、得られた射出成形体について、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0064】
(実施例4)
実施例1おいて、屈折率が2.0以上の無機微粒子の種類を酸化チタンからチタン酸カリウム(「ティスモD」、屈折率2.68、大塚化学(株)製)に変更し、乳酸系樹脂と芳香族ポリカーボネート系樹脂とチタン酸カリウムとの配合量を、質量比で、乳酸系樹脂:芳香族ポリカーボネート系樹脂:チタン酸カリウム=70:30:2の割合に変更した以外は実施例1と同様にしてペレット、さらには射出成形体を作製した。得られたペレットについて流動開始温度の測定を行い、また、得られた射出成形体について実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0065】
(実施例5)
実施例1において、芳香族ポリカーボネート系樹脂を、ユーピロンS−3000から三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製のユーピロンS−2000(メルトフローレート:12)に変更し、乳酸系樹脂、芳香族ポリカーボネート系樹脂、および、無機微粒子の配合割合を、Nature Works 4032Dと、ユーピロン S−2000と、酸化チタンとを質量比で70:30:2に変更した以外は実施例1と同様にして、熱処理された射出成形体を作製した。得られた射出成形体について、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0066】
(実施例6)
実施例1において、芳香族ポリカーボネート系樹脂を、ユーピロンS−3000から三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製のユーピロンH−3000(メルトフローレート:30)に変更し、乳酸系樹脂、芳香族ポリカーボネート系樹脂、および、無機微粒子の配合割合を、Nature Works 4032Dと、ユーピロン H−3000と、酸化チタンとを質量比で70:30:2に変更した以外は実施例1と同様にして、熱処理された射出成形体を作製した。得られた射出成形体について、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0067】
(比較例4)
実施例1において、芳香族ポリカーボネート系樹脂と無機微粒子とを使用しなかった以外は実施例1と同様にして射出成形体を作製した。すなわち、Nature Works 4032Dのみを用いて射出成形体を作製した。得られた射出成形体について、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0068】
(比較例5)
実施例1において、乳酸系樹脂と無機微粒子とを使用しなかった以外は実施例1と同様にして射出成形体を作製した。すなわち、ユーピロン S−3000のみを用いて射出成形体を作製した。得られた射出成形体について、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。ただし、ユーピロン S−3000は非晶性の樹脂であるので、熱処理、および、結晶化度の測定は行っていない。
【0069】
(比較例6)
実施例1において、無機微粒子を、酸化チタンから日本タルク(株)製のミクロエースL1(タルク、屈折率:1.56)に変更し、乳酸系樹脂、芳香族ポリカーボネート系樹脂、および、無機微粒子の配合割合を、Nature Works 4032Dと、ユーピロン S−3000と、ミクロエースL1とを質量比で70:30:2に変更した以外は実施例1と同様にして、熱処理された射出成形体を作製した。得られた射出成形体について、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0070】
(比較例7)
実施例1において、乳酸系樹脂、芳香族ポリカーボネート系樹脂、および、無機微粒子の配合割合を、Nature Works 4032Dと、ユーピロン S−3000と、酸化チタンとを質量比で30:70:2に変更した以外は実施例1と同様にして、熱処理された射出成形体を作製した。得られた射出成形体について、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0071】
(比較例8)
実施例1において、芳香族ポリカーボネート系樹脂を、ユーピロン S−3000から帝人化成(株)製のパンライト L−1250(メルトフローレート:8)に変更し、乳酸系樹脂、芳香族ポリカーボネート系樹脂、および、無機微粒子の配合割合を、Nature Works 4032Dと、パンライト L−1250と、酸化チタン(屈折率:2.76)とを質量比で60:40:2に変更した以外は実施例1と同様にして射出成形体を作製しようと試みた。ところが、220℃ではポリカーボネートの粘度が高すぎたためペレットを形成することができなかった。一方、押出機の設定温度を260℃まで上昇させると、Nature Works 4032Dの分解が生じてペレットを作製することはできなかった。
【0072】
【表1】

【0073】
表1から明らかなように、D−乳酸の構成割合が所定の範囲内のポリ乳酸系重合体と、所定のメルトフローレートを有する芳香族ポリカーボネート系樹脂と、屈折率が2.0以上である無機微粒子とを配合した樹脂組成物を用いてなる実施例1〜6の射出成形体は、χc(A)が0.90以上であり、流動開始温度が180℃以下の合格品であった。また、実施例1〜6の射出成形体は荷重たわみ温度が70℃以上であり、優れた耐熱性および成形性を有するものであった。さらにまた、実施例1〜6の射出成形体は外観評価において優れていた。
【0074】
一方、表1から明らかなように、χc(A)が本発明外である比較例1〜3は荷重たわみ温度が70℃未満であり、また比較例1〜3を対応する実施例1、2、3とそれぞれ比較すれば明白であるが、実施例1〜実施例3より耐熱性がかなり劣ったものとなっていた。また、芳香族ポリカーボネート系樹脂の配合量が50質量%以上である比較例5、7は流動開始温度が180℃以上となった。すなわち、比較例1〜7の射出成形体は、成形性、耐熱性、および、外観のいずれかの評価において劣った結果を示すものであった。また、比較例8の結果から、メルトフローレートの低い芳香族ポリカーボネート系樹脂では、乳酸系樹脂の物性を低下させる結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の射出成形体は、流動開始温度がポリ乳酸の分解温度以下であり、耐熱性に優れているため、家電、OA機器、自動車部品、その他一般的な成形品として幅広く用いることが可能である。また、本発明によれば、真珠光沢を有さない表面を実現することができるので、真珠光沢を示さない表面が求められる製品等に特に好適に使用されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
D乳酸の割合が0.1%以上、3.0%以下である乳酸系樹脂(A)と、日本工業規格 JIS K7210に基づき、300℃、1.2kg荷重において測定したメルトフローレートが10以上、50以下である芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)と、屈折率が2.0以上である無機微粒子(C)とからなる樹脂組成物であり、前記乳酸系樹脂(A)、前記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)および前記無機微粒子(C)の合計質量中に占める芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)の占める割合が10質量%以上、50質量%未満であり、合計質量中に占める前記無機微粒子(C)の割合が0.1質量%以上、10質量%以下であり、かつ、射出成形体を構成する乳酸系樹脂(A)の相対結晶化度χc(A)と、前記乳酸系樹脂(A)の結晶化熱量ΔHc(A)と、結晶融解熱量ΔHm(A)とが、次式 χc(A)={ΔHm(A)−ΔHc(A)}/ΔHm(A)≧0.90 の関係を満たす樹脂組成物を用いてなることを特徴とする射出成形体。
【請求項2】
前記無機微粒子(C)が、酸化チタン、チタン酸鉛、チタン酸カリウム、酸化ジルコニウム、硫化亜鉛、酸化アンチモン、及び、酸化亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1記載の射出成形体。
【請求項3】
前記樹脂組成物を用いて形成された射出成形体を、前記乳酸系樹脂(A)のガラス転移温度Tg(A)以上、前記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)のガラス転移温度Tg(B)以下の温度で熱処理することを特徴とする請求項1又は2記載の射出成形体。
【請求項4】
前記樹脂組成物がさらに結晶化促進剤を含有し、該結晶化促進剤の占める割合が射出成形体の形成に用いられる樹脂組成物100質量部に対して0.1質量部以上、10質量部以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の射出成形体。
【請求項5】
前記樹脂組成物がさらに加水分解防止剤を含有し、該加水分解防止剤がエポキシ化合物、イソシアネート化合物、酸無水物、オキサゾリン化合物、および、カルボジイミド化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つであり、該加水分解防止剤の占める割合が射出成形体の形成に用いられる樹脂組成物100質量部に対して0.1質量部以上、10質量部以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の射出成形体。

【公開番号】特開2007−182501(P2007−182501A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−1472(P2006−1472)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】