説明

射出成形機の制御方法

【課題】 成形品の良否に対して相関性の高い樹脂圧力を得るとともに、制御方法の変更により容易に実施可能にする。成形品の良否に関する有効利用性の高いデータ(樹脂圧力)を得る。
【解決手段】 計量工程Smの終了後に、サックバック処理Ssを行うとともに、監視のための樹脂圧力Prを検出するに際し、計量工程Smの終了後、サックバック処理Ssの開始を遅延させるとともに、予め設定した所定のインターバル時間Tiの経過後に樹脂圧力Prを検出し、この後、サックバック処理Ssを開始させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計量工程の終了後に、サックバック処理を行うとともに、監視のための樹脂圧力を検出する際に用いて好適な射出成形機の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、射出成形機では、歩留まりの向上及び生産効率の向上を図るため、成形中の動作物理量を検出し、検出した動作物理量が予め設定した許容範囲にあるか否かを監視することにより間接的に成形品の良否判別を行っている。
【0003】
従来、このような監視対象に用いる動作物理量の一つとして、成形品質量と密接に関係する計量工程の終了から射出工程を開始するまでの間の樹脂圧力が知られており、この樹脂圧力を用いて良否判別を行う制御装置としては、既に、本出願人が提案した特許文献1で開示される射出成形機の制御装置が知られている。同文献1により開示される制御装置は、射出工程の開始前における樹脂圧力の大きさに基づいて良否判別を行う良否判別手段を備える制御装置であって、特に、計量工程終了から射出工程開始までの監視区間における異なる二個所の樹脂圧力を検出する樹脂圧力検出手段と、これら樹脂圧力間の差分値を求める差分値演算手段と、この差分値が許容範囲にあるか否かを判別する良否判別手段を設けたものであり、この場合、監視区間における異なる個所の樹脂圧力として五個所の樹脂圧力、即ち、計量工程終了時の樹脂圧力,サックバック処理中の樹脂圧力,サックバック処理終了時の樹脂圧力,サックバック処理終了時から射出工程開始直前までの間における樹脂圧力,射出工程開始直前の樹脂圧力,が利用される。
【特許文献1】特開2007−83431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述した従来における射出成形機の制御装置は、次のような解決すべき課題が存在した。
【0005】
第一に、樹脂圧力を検出する監視区間の個所(タイミング)は、射出成形機の通常の成形動作を前提に設定していたため、成形品の良否に対して相関性の高い樹脂圧力を得る観点からは、通常の成形動作に基づく水準を超えることができない。即ち、成形品の良否と相関性の高い樹脂圧力を確保する観点から成形動作を変更したような場合、より信頼性及び正確性の高い良否判別が可能になることも考えられ、成形動作を含めた技術的な観点からは更なる改善の余地があった。
【0006】
第二に、計量工程終了から射出工程開始までの監視区間で検出される樹脂圧力は、良否判別に利用されるものの、検出したデータ(樹脂圧力)をより広く有効に利用する観点からは不十分となる。即ち、検出した樹脂圧力の情報に基づき成形品の良品率を高めるための解析や制御、或いは制御系(判別処理)の簡略化などに利用することができれば、より有益となり、データの有効利用を図る観点からも更なる改善の余地があった。
【0007】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した射出成形機の制御方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る射出成形機Mの制御方法は、上述した課題を解決するため、計量工程Smの終了後に、サックバック処理Ssを行うとともに、監視のための樹脂圧力Prを検出するに際し、計量工程Smの終了後、サックバック処理Ssの開始を遅延させるとともに、予め設定した所定のインターバル時間Tiの経過後に樹脂圧力Prを検出し、この後、サックバック処理Ssを開始させるようにしたことを特徴とする。
【0009】
この場合、発明の好適な態様により、計量工程Smの終了後、少なくとも樹脂圧力Prの検出が終了するまでは、スクリュ2に対する位置決め制御を行うことができる。また、樹脂圧力Prは、成形に係わる良否判別処理(S7)に利用することができる。一方、インターバル時間Tiの長さは、樹脂の種類及び/又は成形品の種類に対応して設定することができるとともに、インターバル時間Tiは、樹脂圧力Prと成形品重量Wの相関係数Cが所定値以上となる時間、望ましくは、1.0〔秒〕以上に設定することができる。
【発明の効果】
【0010】
このような手法による本発明に係る射出成形機Mの制御方法によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0011】
(1) 計量工程Smの終了後、予め設定した所定のインターバル時間Tiの経過後に樹脂圧力Prを検出し、この後、サックバック処理Ssを行うようにしたため、成形品の良否に対して相関性の高い樹脂圧力Prを得ることができるとともに、制御方法の変更により容易に実施することができる。
【0012】
(2) 成形品の良否に関する有効利用性の高いデータ(樹脂圧力Pr)を得ることができるため、例えば、検出した樹脂圧力Prの情報に基づき成形品の良品率を高めるための解析や制御、或いは制御系(判別処理)の簡略化など、より広く有益に利用することができる。
【0013】
(3) 好適な態様により、計量工程Smの終了後、少なくとも樹脂圧力Prの検出が終了するまで、スクリュ2に対する位置決め制御を行うようにすれば、樹脂圧力Prの検出に対して無用な誤差要因を排除できるため、正確性かつ安定性の高い検出を行うことができる。
【0014】
(4) 好適な態様により、樹脂圧力Prを、成形に係わる良否判別処理(S7)に利用すれば、成形品の良否に対して相関性の高い樹脂圧力Prを確保できるため、信頼性(正確性)の高い良否判別処理を行うことができる。
【0015】
(5) 好適な態様により、インターバル時間Tiの長さを、樹脂の種類及び/又は成形品の種類に対応して設定するようにすれば、良否判別処理の信頼性及び成形サイクル時間をバランスさせた的確なインターバル時間Tiを設定することができる。
【0016】
(6) 好適な態様により、インターバル時間Tiを、樹脂圧力Prと成形品重量Wの相関係数Cが所定値以上となる時間、望ましくは、1.0〔秒〕以上に設定すれば、成形品の良否に相関性の高い樹脂圧力Prを確実かつ安定に検出することができ、良否判別処理の信頼性をより高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明に係る最良の実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0018】
まず、本実施形態に係る制御方法を実施できる射出成形機Mの構成について、図2及び図3を参照して説明する。
【0019】
図2に示す射出成形機Mは、型締装置を除いた射出装置Miのみを示す。射出装置Miは、離間して配した射出台11と駆動台12を備え、この射出台11の前面に加熱筒13の後端が支持される。加熱筒13は、前端に射出ノズル14を、後部に当該加熱筒13に成形材料を供給するホッパ15をそれぞれ備えるとともに、加熱筒13の内部にはスクリュ2を挿通させる。一方、射出台11と駆動台12間には、四本のタイバー17…を架設し、このタイバー17…にスライドブロック18をスライド自在に装填する。スライドブロック18の前端には、被動プーリ19を一体に有するロータリブロック20を回動自在に支持し、このロータリブロック20の中央にスクリュ2の後端を結合する。さらに、スライドブロック18の側面には、スクリュ回転用のサーボモータ21を取付け、このサーボモータ21の回転シャフトに固定した駆動プーリ22と被動プーリ19間に、無端タイミングベルト23を架け渡してスクリュ回転用の駆動機構を構成する。なお、21eはサーボモータ21の回転数を検出するロータリエンコーダであり、サーボモータ21の後端に付設される。
【0020】
また、スライドブロック18の後部には、ナット部25を同軸上一体に設けるとともに、駆動台12に回動自在に支持されたボールねじ部26の前側をナット部25に螺合させることにより、ボールねじ機構24を構成する。さらに、駆動台12から後方に突出したボールねじ部26の後端には、被動プーリ27を取付けるとともに、駆動台12に取付けた支持盤28には、スクリュ進退用のサーボモータ29を取付け、このサーボモータ29の回転シャフトに固定した駆動プーリ30と被動プーリ27間に、無端タイミングベルト31を架け渡してスクリュ進退用の駆動機構を構成する。29eはサーボモータ29の回転数を検出するロータリエンコーダであり、サーボモータ29の後端に付設される。
【0021】
一方、射出成形機Mの全体の制御を司るコンピュータ機能を有する成形機コントローラ32を備え、各種シーケンス制御を含む制御処理及び演算処理を実行するとともに、特に、本発明に係る制御方法を実行するための制御プログラム(処理プログラム)を格納する。この成形機コントローラ32の出力ポートには、サーボモータ21及び29を接続するとともに、成形機コントローラ32の入力ポートには、ロータリエンコーダ21e及び29eを接続する。また、ロータリブロック20とスライドブロック18間にはロードセル3を組付け、このロードセル3は、成形機コントローラ32の入力ポートに接続する。このロードセル3により、スクリュ2に加わる圧力、即ち、樹脂圧力Prを検出することができる。
【0022】
図3に、成形機コントローラ32の具体的なブロック構成を示す。なお、同図は、主に圧力制御系Upを示す。図3において、29は上述したサーボモータを示すとともに、Mmはこのサーボモータ29により駆動するスクリュ2及びボールねじ機構24を含む射出機構を示す。サーボモータ29はサーボアンプ33の出力部に接続するとともに、サーボアンプ33の入力部は切換機能部34を介して圧力制御部35の出力部に接続する。上述したロードセル3は処理部(演算部)36の入力部に接続するとともに、ロータリエンコーダ29eはサーボアンプ33及び処理部36に接続する。処理部36の出力部は、判別部37及び圧力制御部35にそれぞれ接続する。
【0023】
また、5は設定部であり、各種設定値を設定するとともに、設定した各設定値を、それぞれ対応する圧力制御部35,判別部37,処理部36及び後述するタイマ部4に付与する。この設定部5では、計量工程の終了後から樹脂圧力Prを検出するまでの時間、即ち、インターバル時間Tiを設定することができる。インターバル時間Tiの長さは、樹脂及び成形品の一方又は双方の種類に対応して任意に設定することができ、このインターバル時間Tiは、後述するように、樹脂圧力Prと成形品重量Wの相関係数Cが所定値以上となる時間、望ましくは、1.0〔秒〕以上に設定できる。さらに、4はタイマ部であり、少なくともインターバル時間Tiを計時し、インターバル時間Tiの計時が終了したなら、その結果を処理部36に付与する機能を有する。その他、Uvは速度制御部40及び速度指令部41を含む速度制御系を示し、速度制御系Uvによる速度制御時には、切換機能部34が切換えられることにより、サーボアンプ33に速度制御部40が接続される。
【0024】
次に、本実施形態に係る射出成形機Mの制御方法について、図1〜図8を参照して説明する。
【0025】
本実施形態に係る制御方法の基本的な手法は、図4に示すように、計量工程Smの終了後、サックバック処理Ssの開始を遅延させるとともに、予め設定した所定のインターバル時間Tiの経過後に樹脂圧力Prを検出し、この後、サックバック処理Ssを開始させるようにしたものである。
【0026】
最初に、本実施形態に係る制御方法の有効性を検証する実験結果について、図5〜図8を参照して説明する。
【0027】
図5は、計量工程の終了後、サックバック処理を行うことなく、そのまま放置した場合における時間〔秒〕の経過に対する樹脂圧力Pr〔MPa〕を測定した結果を示す。この場合、計量工程の終了後、スクリュ2に対しては位置決め制御を行うことにより計量工程の終了位置を維持するとともに、樹脂圧力Pr〔MPa〕の測定はロードセル3を用いた。また、四種類の樹脂に対して実験を行い、図5中、(a)はポリプロピレン(PP)、(b)はポリブチレンテレフタレート(PBT)、(c)はポリカーボネート(PC)、(d)はポリスチレン(GPPS)の結果を示す。なお、図5中、(a)〜(d)において、Tmは計量工程区間(計量時間)、teは計量工程の終了時点、Tisは計量工程の終了後における放置区間を示す。図5(a)〜(d)のいずれの場合も成形回数100回分を重ね描きしたものである。
【0028】
図5の結果から明らかなように、いずれの樹脂であっても、計量工程の終了直後の樹脂圧力Prは、ほとんどをバラツキを示さないが、時間が経過するに従って、樹脂圧力Prのバラツキが大きくなる傾向を示すとともに、樹脂の種類によって固有の変化を示す。即ち、この現象は、計量工程の終了後、そのまま放置した場合、時間の経過に従って樹脂圧力Prに係わるバラツキ要因が顕在化することを意味している。
【0029】
図6は、計量工程の終了後、図5に示す4.0〔秒〕の経過時点tsにおける樹脂圧力Pr〔MPa〕及びこのときの成形品重量W〔g〕に関するデータ、特に、「最大」,「最小」,「レンジ」,「平均」,「σ(標準偏差)」,「成形品重量Wのバラツキ(6CV又はR/A)」,「C(成形品重量Wと樹脂圧力Prの相関係数)」のデータである。この場合、6CVは、((6×σ)/平均)×100〔%〕により、R/Aは、(レンジ/平均)×100〔%〕により求めた値である。また、比較例(参考例)として、良否判別に利用される他の物理量(監視対象)である「計量時間(可塑化時間)Tm〔s〕」と計量トルクFm〔N・m〕(平均値)」についても樹脂圧力Prと並行して測定した。なお、成形(試料成形品)には、一般に試験等で使用するバーフロー金型を用いるとともに、4.0〔秒〕の経過時点tsで樹脂圧力Pr〔MPa〕を検出したなら直後にサックバック処理を行い、この後は、通常の成形工程を経て成形品の成形を行った。
【0030】
図6の結果から明らかなように、樹脂圧力Prと成形品重量W間においては高い相関性(相関係数C)を得た。即ち、図6中、(a)PPの相関係数Cは0.87、(b)PBTの相関係数Cは0.82、(c)PCの相関係数Cは0.93となり、いずれも0.8以上の高い相関係数Cを得た。他方、樹脂圧力Prに対する比較例として測定した計量時間Tmと成形品重量W間、及び計量トルクFmと成形品重量W間においては、いずれも低い相関性(相関係数C)であった。即ち、計量時間Tmと成形品重量W間の場合、図6中、(a)PPの相関係数Cは−0.55、(b)PBTの相関係数Cは−0.22、(c)PCの相関係数Cは−0.48となり、また、計量トルクFmと成形品重量W間の場合、図6中、(a)PPの相関係数Cは0.70、(b)PBTの相関係数Cは0.69、(c)PCの相関係数Cは0.47であった。このように、成形品重量Wとの相関性(相関係数C)を見た場合、樹脂圧力Prは、他の監視対象である計量時間Tmと計量トルクFmよりも高い相関性を示すことが確認できる。
【0031】
なお、図6中、(d)GPPSは、樹脂圧力Prと成形品重量W間の相関係数Cが0.27の低い値となる。この理由は、6CV(バラツキ)が小さく、既に高い品質が確保されていることを意味している。これに対して、図6中、(a)〜(c)は、いずれも6CV(バラツキ)が大きくて必ずしも品質が十分でないことを意味し、結果的に相関係数Cが高くなる。したがって、図6(d)は、樹脂圧力Prのバラツキを小さくすれば、成形品質を高めることができることを意味しており、樹脂圧力Prを監視すれば、最適な成形条件を容易に設定できるなど、成形品の良否に関する有効利用性の高いデータ(樹脂圧力Pr)を得ることができる。このように、得られるデータ(樹脂圧力Pr)は、基本的に品質との相関性が高いため、検出した樹脂圧力Prの情報に基づき成形品の良品率を高めるための解析や制御、或いは制御系(判別処理)の簡略化、例えば、樹脂圧力Pr単独で十分な良否判別処理が可能になるなど、より広く有益に利用することができる。
【0032】
図7は、樹脂圧力Prと成形品重量W間の相関係数Cを、計量工程の終了後の異なる経過時間で求めたデータであり、また、図8は、成形品重量Wの標準偏差σ〔g〕を、計量工程の終了後の異なる経過時間で求めたデータである。この場合、経過時間は、0.0〔秒〕,1.0〔秒〕,5.0〔秒〕を設定するとともに、樹脂にはPPを用いた。なお、図6の場合と同様に、成形(試料成形品)には、バーフロー金型を用いるとともに、各経過時間0.0〔秒〕,1.0〔秒〕,5.0〔秒〕の経過時点で樹脂圧力Pr〔MPa〕を検出したなら直後にサックバック処理を行い、この後は、通常の成形工程を経て成形品の成形を行った。図7の結果から明らかなように、樹脂圧力Prと成形品重量W間の相関係数Cは、経過時間が長くなるに従って相関係数Cが高くなり、1.0〔秒〕を経過すれば、相関係数Cは0.5以上となる。また、図8は、異なる経過時間による品質への影響を確認することができ、同図は、経過時間を設定することによりサックバック処理を遅延させても成形品の品質には悪影響を与えないことを示している。
【0033】
よって、本実施形態に係る制御方法は、これらの検証結果に基づいて、計量工程Smの終了後、サックバック処理Ssの開始を遅延させるとともに、所定のインターバル時間Tiの経過後に樹脂圧力Prを検出するようにしたものである。このため、本実施形態に係る制御方法では、予め、設定部5にインターバル時間Tiを設定する。インターバル時間Tiの長さは、図5及び図6を考慮し、樹脂及び成形品の一方又は双方の種類に対応して任意に設定することができる。この場合の設定は、樹脂の種類や成形品の種類に応じて選択できる異なるインターバル時間Tiを設定してもよいし、想定される樹脂の種類及び成形品の種類を考慮し、共有できる一つのインターバル時間Tiを設定してもよい。インターバル時間Tiの長さを、樹脂の種類及び/又は成形品の種類に対応して設定するようにすれば、良否判別処理の信頼性及び成形サイクル時間をバランスさせた的確なインターバル時間Tiを設定することができる。
【0034】
また、インターバル時間Tiには、樹脂圧力Prと成形品重量Wの相関係数Cが所定値以上となる時間、望ましくは、1.0〔秒〕以上に設定できる。図7及び図8を考慮すれば、インターバル時間Tiを1.0〔秒〕以上に設定すれば、相関係数Cは0.5以上となり、インターバル時間Tiを設定する際の目安とすることができる。なお、インターバル時間Tiが長くなった場合、成形サイクル時間が長くなり、生産性の低下を招く虞れもあるため、インターバル時間Tiは、通常、1.0〜5.0〔秒〕程度に設定することが望ましい。したがって、本実施形態に係る制御方法は、冷却時間(冷却工程)を長く設定する肉厚製品の成形に好適である。このように、インターバル時間Tiを、樹脂圧力Prと成形品重量Wの相関係数Cが所定値以上となる時間、望ましくは、1.0〔秒〕以上に設定すれば、成形品の良否に相関性の高い樹脂圧力Prを確実かつ安定に検出することができ、良否判別処理の信頼性をより高めることができる。
【0035】
次に、射出成形機Mの具体的な制御方法について、図2〜図8を参照しつつ図1に示すフローチャートに従って説明する。
【0036】
今、射出装置Miでは計量工程Sm(図4)が行われているものとする(ステップS1)。計量工程Smではサーボモータ21の作動によりスクリュ2が回転し、ホッパ15から供給された成形材料は、加熱筒13の内部で可塑化溶融され、スクリュ2の前方に蓄積計量される。また、溶融樹脂の蓄積計量によりスクリュ2が後退し、予め設定した計量終了位置に達したならスクリュ2の回転を停止させることにより計量工程Smを終了させる(ステップS2)。計量工程Smの終了によりスクリュ2の前後方向位置は終了位置に位置決め制御されるとともに、スクリュ2の回転方向位置も固定(ロック)される(ステップS3)。スクリュ2に対する位置決め制御は、計量工程Smの終了後、少なくとも後述する樹脂圧力Prの検出が終了するまで行われる。このようなスクリュ2に対する位置決め制御を行うようにすれば、樹脂圧力Prの検出に対して無用な誤差要因を排除できるため、正確性かつ安定性の高い検出を行うことができる。
【0037】
一方、計量工程Smの終了によりタイマ部4による計時が行われる(ステップS4)。なお、計量工程Smの終了により、通常はサックバック処理が行われるが、本実施形態に係る制御方法では、この時点でのサックバック処理は行わない。タイマ部4では予め設定したインターバル時間Tiの計時が行われる。したがって、タイマ部4による計時が終了すれば、樹脂圧力Prの検出が行われる(ステップS5,S6)。樹脂圧力Prは、ロードセル3により継続的に検出され、処理部36に付与されるため、樹脂圧力Prの検出は、処理部36に付与された検出信号のサンプリングにより行われる。この場合のサンプリング(樹脂圧力Prの検出)は、一回でもよいし、複数回行うことにより平均してもよい。平均した値を用いることにより、誤差要因を排除した、より正確な樹脂圧力Prを得ることができる。
【0038】
そして、検出された樹脂圧力Prは判別部37に付与される。判別部37には、設定部5により予め設定された基準値(許容範囲)が付与されているため、検出した樹脂圧力Prが基準値を外れていないか否かが判別される良否判別処理が行われる(ステップS7)。この際、許容範囲を外れていれば、成形機コントローラ32は所定の不良処理を行う。これに対して、許容範囲にあれば、不良処理を行うことなく正常動作が継続する。なお、不良処理としては、例えば、不良信号を出力し、不良発生アラームを作動させたり、該当する成形品を不良品コンテナに排出するように、シュータを切換える処理が行われる。このように、検出した樹脂圧力Prを、成形に係わる良否判別処理に利用すれば、成形品の良否に対して相関性の高い樹脂圧力Prを確保できるため、信頼性(正確性)の高い良否判別処理を行うことができる。
【0039】
他方、上述した樹脂圧力Prの検出(ステップS6)が行われたなら、直後にサックバック処理Ss(図4参照)を開始させる(ステップS8)。したがって、サックバック処理Ssは、樹脂圧力Prが検出されるまで遅延される。サックバック処理Ssは、サーボモータ29を作動させ、スクリュ2を僅かに後退させることにより、樹脂圧力Prを低下させる処理である。これにより、計量工程Sm終了後におけるドローリングが防止される。サックバック処理Ssの終了により、次回の計量工程Smが開始するまでの残りの工程(残工程)が行われる(ステップS9,S10)。即ち、サックバック処理Ssが終了したなら、並行して行われている冷却工程Sc,この後の型開工程So,突出し工程(離型工程),型締工程,射出工程が行われる。そして、次回の計量工程Smの開始時点になったなら計量工程Smが行われる(ステップS11,S1…)。
【0040】
よって、このような本実施形態に係る制御方法によれば、計量工程Smの終了後、サックバック処理Ssの開始を遅延させるとともに、予め設定した所定のインターバル時間Tiの経過後に樹脂圧力Prを検出し、この後、サックバック処理Ssを開始させるようにしたため、成形品の良否に対して相関性の高い樹脂圧力Prを得ることができる。しかも、制御方法の変更により容易に実施することができる。
【0041】
以上、最良の実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,手法等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。例えば、サックバック処理Ssは、インターバル時間Tiの経過後、樹脂圧力Prを検出した直後に行う場合を示したが、サックバック処理Ssに対して所定の遅延時間を設定し、この遅延時間に従って樹脂圧力Prの検出及びサックバック処理Ssを行ってもよい。また、インターバル時間Tiや遅延時間は、成形サイクルに対応させて自動で設定(変更)できるようにしてもよく、具体的には、冷却工程Scの冷却時間タイマの設定値に連動させて自動設定されるようにしてもよい。さらに、樹脂圧力Prの検出に際しては、ロードセル3以外の各種圧力検出手段を利用することができる。なお、樹脂圧力Prは良否判別処理のみならず、例示した利用形態を含む各種監視に利用できる。他方、射出成形機Mは、電動式射出成形機を例示したが油圧式射出成形機にも同様に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の最良の実施形態に係る制御方法に基づく成形工程の処理手順を示すフローチャート、
【図2】同制御方法を実施できる射出成形機の一部断面平面構成図、
【図3】同射出成形機における成形機コントローラの要部ブロック構成図、
【図4】同制御方法に基づく成形工程の一部を示す工程説明図、
【図5】計量工程終了後における時間の経過に対する樹脂圧力の変化特性図、
【図6】計量工程終了後における図5に示す4.0〔秒〕の経過時点における樹脂圧力及びこのときの成形品重量に関するデータ表、
【図7】計量工程終了後の異なる経過時間に対する樹脂圧力と成形品重量間の相関係数の変化特性図、
【図8】計量工程終了後の異なる経過時間に対する成形品重量の標準偏差の変化特性図、
【符号の説明】
【0043】
M:射出成形機,Sm:計量工程,Ss:サックバック処理,Pr:樹脂圧力,Ti:インターバル時間,2:スクリュ,(S7):良否判別処理,W:成形品重量,C:相関係数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
計量工程の終了後に、サックバック処理を行うとともに、監視のための樹脂圧力を検出する射出成形機の制御方法において、前記計量工程の終了後、前記サックバック処理の開始を遅延させるとともに、予め設定した所定のインターバル時間の経過後に前記樹脂圧力を検出し、この後、前記サックバック処理を開始させることを特徴とする射出成形機の制御方法。
【請求項2】
前記計量工程の終了後、少なくとも前記樹脂圧力の検出が終了するまでは、スクリュに対する位置決め制御を行うことを特徴とする請求項1記載の射出成形機の制御方法。
【請求項3】
前記樹脂圧力は、成形に係わる良否判別処理に利用することを特徴とする請求項1記載の射出成形機の制御方法。
【請求項4】
前記インターバル時間の長さは、樹脂の種類及び/又は成形品の種類に対応して設定することを特徴とする請求項1記載の射出成形機の制御方法。
【請求項5】
前記インターバル時間は、前記樹脂圧力と成形品重量の相関係数が所定値以上となる時間を設定することを特徴とする請求項1又は4記載の射出成形機の制御方法。
【請求項6】
前記インターバル時間は、1.0〔秒〕以上に設定することを特徴とする請求項1,4又は5記載の射出成形機の制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−5985(P2010−5985A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−170147(P2008−170147)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000227054)日精樹脂工業株式会社 (293)
【Fターム(参考)】