説明

射出成形機の型締力設定方法

【課題】 バリ不良の発生しない必要最小限の適正型締力を設定する際の確実性及び信頼性を高めるとともに、より的確な適正型締力を自動化により容易に設定する。
【解決手段】 最大型締力(100〔%〕)から所定の大きさを順次低下させた型締力(100〔%〕,80〔%〕,70〔%〕…)により順次型締めして試し成形を行うとともに、射出工程における型締圧Pcを検出し、この型締圧Pcの変化に係わる複数の異なるモニタ要素(Pc,Pcd,Pcr)を監視することにより、少なくとも一つのモニタ要素に所定の閾値を越える変化が生じたなら当該変化が生じたときの型締力に対して所定の大きさだけ増加させた型締力を適正型締力Fsとして設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、型締装置により金型を型締めする際における最大型締力よりも小さい任意の型締力を設定する際に用いて好適な射出成形機の型締力設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、射出成形機は金型に対して型締めを行う型締装置を備えている。この種の型締装置では、例えば、型締装置における最大型締力により高圧型締めを行えば、バリ不良等の発生しない安全な型締めを行うことができるが、反面、金型に過大な型締力が付加されるため、金型の早期劣化や消費エネルギの無用な増加を招くとともに、ガス抜け不足によるウェルドマーク,焼け,黒条等のキャビティ表面の汚れや痛みの発生及びこれらに対する修復処理が必要となる。したがって、金型の必要最小限となる適正な型締力により型締めを行うことができれば、金型に付加される過大な型締力を回避でき、もって、金型の長寿命化,消費エネルギの低減,生産の中断回避等を図ることができる。
【0003】
従来、このような適正な型締力を設定するための型締力設定方法としては、既に、本出願人が提案した特許文献1に開示される射出成形機の型締力設定方法が知られている。同文献1に開示される型締力設定方法は、型締装置に取付けた金型に対する型締力を設定する射出成形機の型締力設定方法であって、型締力を、最大となる型締力から順次1/N(N>1)に変化させるとともに、各型締力による仮成形を行い、仮成形時における可動型の開きを、当該可動型を加圧する駆動モータの逆回転量により検出し、可動型の開きを検出したなら、順次M倍(1<M<N)に変化させる処理を行い、可動型が開いた後、最初に開かなくなった型締力又はこの型締力に所定の余裕を付加した型締力を求め、求めた型締力を正規の型締力として設定するものである。
【特許文献1】特許第3833140号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述した従来における射出成形機の型締力設定方法は、次のような解決すべき課題が存在した。
【0005】
第一に、監視するモニタ要素が単一、即ち、可動型の開き(型位置)のみの監視となるため、適正な型締力を設定する際の確実性、更には信頼性を確保しにくい。この場合、より確実性の高い物理量(モニタ要素)を選定することも有効であるが、基本的には単一の物理量変化を監視するため、確実性及び信頼性を確保する観点からは更なる改善の余地があった。
【0006】
第二に、金型の開きを検出するため、適正な型締力を求める観点からは不十分となる。即ち、金型の開きはバリ不良が発生した状態を意味し、バリ不良の発生する前の適正な型締力を求めるための情報としては必ずしも適切なものとはいえない。したがって、バラツキ等を考慮した場合、付加する余裕(型締力)も大きくならざるを得ないなど、適正(的確)な型締力を設定する観点からも更なる改善の余地があった。
【0007】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した射出成形機の型締力設定方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するため、型締装置Mcにより金型2を型締めする際における最大型締力よりも小さい任意の型締力を設定する射出成形機Mの型締力設定方法において、最大型締力(100〔%〕)から所定の大きさを順次低下させた型締力(100〔%〕,80〔%〕,70〔%〕…)により順次型締めして試し成形を行うとともに、型締圧センサ6により射出工程における型締圧Pcを検出し、この型締圧Pcの変化に係わる複数の異なるモニタ要素(Pc,Pcd,Pcr)を監視することにより、少なくとも一つのモニタ要素に所定の閾値を越える変化が生じたなら当該変化が生じたときの型締力に対して所定の大きさだけ増加させた型締力を適正型締力Fsとして設定するようにしたことを特徴とする。
【0009】
この場合、発明の好適な態様により、型締装置Mcは、型締シリンダ8により金型2の型締めを行う油圧式の直圧型締装置に適用することが望ましい。また、複数の異なるモニタ要素には、型締圧Pc,型締圧Pcの時間に対する微分値Pcd,型締圧Pcの時間に対する減少率Pcrを含ませることができる。したがって、所定の閾値を越える変化としては、型締圧Pcが、型締完了時の型締圧Pcoに対して所定のオフセット値を加えた第一閾値Pcs以上となる変化,微分値Pcdが、所定の大きさの第二閾値Pcds以上となる変化,減少率Pcrが、型締完了から射出充填開始までの区間で計測した型締圧の時間に対する減少率に対して所定のオフセット値を加えた第三閾値Pcrs以下となる変化を、それぞれ適用することができる。なお、微分値Pcdには、型締圧Pcを直接微分した微分値又は最小二乗法を用いて微分した微分値を利用できる。一方、所定の大きさだけ増加させた型締力には、直前に設定した型締力を用いることができる。また、最大型締力から順次低下させる型締力に対して、低下させる際の限界値Fdを設定し、当該限界値Fdに達しても所定の閾値を越える変化が生じないときは、限界値Fdを適正型締力Fsとして設定することができる。なお、型締圧Pcに係わる検出信号Dpnに対しては、フィルタ処理部7によりノイズを除去するフィルタリングを行うことが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
このような手法による本発明に係る射出成形機Mの型締力設定方法によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0011】
(1) 射出工程における型締圧Pcを検出し、この型締圧Pcの変化に係わる複数の異なるモニタ要素(Pc,Pcd,Pcr)を監視することにより、少なくとも一つのモニタ要素に所定の閾値を越える変化が生じたなら当該変化が生じたときの型締力に対して所定の大きさだけ増加させた型締力を適正型締力Fsとして設定するようにしたため、バリ不良の発生しない必要最小限の適正型締力Fsを設定する際の確実性及び信頼性をより高めることができるとともに、より的確な適正型締力Fsを自動化により容易に設定することができる。
【0012】
(2) 好適な態様により、型締装置Mcに、型締シリンダ8により金型2の型締めを行う油圧式の直圧型締装置を適用すれば、射出工程において型締シリンダ8から油がリークすることに基づく型締圧Pcの時間に対する減少率Pcrをモニタ要素として利用することができる。
【0013】
(3) 好適な態様により、複数の異なるモニタ要素に、型締圧Pc,型締圧Pcの時間に対する微分値Pcd,型締圧Pcの時間に対する減少率Pcrを含ませれば、実質的には一つの検出要素を三つ(複数)の異なるモニタ要素に利用することができるため、構成の簡易化、更には低コスト化に寄与できる。
【0014】
(4) 好適な態様により、微分値Pcdには、型締圧Pcを直接微分した微分値又は最小二乗法を用いて微分した微分値を利用できるため、検出される型締圧Pcの挙動に応じて、より効果のある微分法を選択することができる。
【0015】
(5) 好適な態様により、所定の大きさだけ増加させた型締力として、直前に設定した型締力を用いれば、バリ不良の発生を回避できることを既に確認できている直前の型締力を利用して適正型締力Fsを容易かつ的確に設定することができる。
【0016】
(6) 好適な態様により、最大型締力(100〔%〕)から順次低下させる型締力(100〔%〕,80〔%〕…)に対して、低下させる際の限界値Fdを設定し、当該限界値Fdに達しても所定の閾値を越える変化が生じないときに、限界値Fdを適正型締力Fsとして設定するようにすれば、実際の成形品質(成形品の厚さや重量等)や省エネルギ効果等の他の要因を反映させた適切な型締力を設定できる。
【0017】
(7) 好適な態様により、型締圧Pcに係わる検出信号Dpnに対して、フィルタ処理部7によりノイズを除去するフィルタリングを行うようにすれば、ノイズの除去された正確な型締圧Pcを得ることができ、適正型締力Fsのより的確で安定した設定に寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明に係る最良の実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0019】
まず、本実施形態に係る型締力設定方法を実施できる射出成形機Mの構成について、図3及び図4を参照して説明する。
【0020】
図3において、Mは射出成形機であり、射出装置Miと型締装置Mcを備える。射出装置Miは、前端に射出ノズル21を有し、後部に材料供給用のホッパ22を有する加熱筒23を備え、この加熱筒23にはスクリュ24を内蔵する。また、加熱筒23の後部には射出シリンダ25及び計量モータ(オイルモータ)26を配し、この射出シリンダ25及び計量モータ26は油圧ポンプ及び各種切換バルブを含む油圧回路本体27に接続する。一方、型締装置Mcは、不図示の機台に設置した固定盤3cと、この固定盤3cに対して離間して設置した型締シリンダ8を備える。固定盤3cと型締シリンダ8間には四本のタイバー29…を架設し、このタイバー29…に可動盤3mをスライド自在に装填する。したがって、可動盤3mにはタイバー29…が挿通する軸受孔部を有する。さらに、可動盤3mの裏面には型締シリンダ8から突出するラム8rの先端を結合する。そして、固定盤3cにより固定型2cを支持するとともに、可動盤3mにより可動型2mを支持し、この固定型2cと可動型2mが金型2を構成する。型締シリンダ8と可動盤3mに内蔵する突出しシリンダ30は油圧回路本体27に接続する。
【0021】
他方、41は成形機コントローラを示す。成形機コントローラ41はコンピュータ機能を有するコントローラ本体43を備え、このコントローラ本体43は、各種制御処理及び演算処理等を実行するCPUや各種データ等を記憶可能なメモリを内蔵するとともに、後述する本実施形態に係る型締力設定方法を実現する制御プログラム43pを格納する。なお、44はコントローラ本体43に付属する設定部(操作パネル)であり、各種設定を行うことができる。この設定部44は、付属するディスプレイに表示され、タッチパネル方式により構成される。
【0022】
一方、成形機コントローラ41には、本実施形態に係る型締力設定方法の実施に用いる型締圧センサ(圧力センサ)6を接続する。型締圧センサ6は、型締シリンダ8の後油室の油圧を検出可能に接続する。型締圧センサ6から得る検出信号Dpnは、ノイズを除去するフィルタ処理部7を介してコントローラ本体43に供給する。フィルタ処理部7によるフィルタリングには、移動平均又は移動最小二乗法を用いることができる。これにより、フィルタ処理部7から得るノイズの除去された検出信号Dpが型締圧Pcとして検出される。このように、型締圧センサ6から得る検出信号Dpnに対して、フィルタ処理部7によりノイズを除去するフィルタリングを行うようにすれば、ノイズの除去された正確な型締圧Pcを得ることができ、適正型締力Fsのより的確で安定した設定に寄与できる。また、成形機コントローラ41には型位置センサ4を接続する。型位置センサ4は、可動盤3mの外面3mfに取付けた超音波センサ等を利用した測距センサ部4sと固定盤3cの外面3cfに取付けた被検出プレート部4pの組合わせにより構成する。このような型位置センサ4は、平均値を得る観点から異なる複数の位置に複数組配設することが望ましい。また、型位置センサ4(測距センサ部4s)から得る検出信号Dxnは、ノイズを除去するフィルタ処理部5を介してコントローラ本体43に供給される。このフィルタ処理部5はフィルタ処理部7と同様に構成することができる。これにより、フィルタ処理部5から得るノイズの除去された検出信号Dxが型位置Xcとして検出、即ち、固定盤3cに対する可動盤3mの相対位置(型位置)Xcとして検出される。
【0023】
次に、このような射出成形機Mを用いた本実施形態に係る型締力設定方法について、図1〜図12を参照して説明する。
【0024】
最初に、本実施形態(本発明)に係る型締力設定方法の原理について、図4〜図6を参照して説明する。
【0025】
図5(a)〜(i)は、いずれも試し成形を行った際における型締圧Pc〔MPa〕の変化を示したものであり、特に、型締装置Mcにより金型2を型締めした後、射出装置Miから当該金型2に対して樹脂を射出充填する射出工程の時間〔秒〕に対する型締圧センサ6により検出した型締圧Pc〔MPa〕の変化特性を示し、図5(a)〜(i)はそれぞれ型締力を、100〔%〕(最大型締力),80〔%〕,70〔%〕,60〔%〕,50〔%〕,40〔%〕,30〔%〕,25〔%〕,20〔%〕に設定した場合を示す。
【0026】
図5(a)〜(d)から明らかなように、型締力が100〜60〔%〕の範囲であれば、型締力が比較的大きいため、金型2は樹脂圧によってほとんど影響を受けず、型締力は時間とともに徐々に低下する。この理由は、油圧式の直圧型締装置Mcの場合、型締シリンダ8に保持される油にリークが発生するためである。したがって、型締力が100〔%〕のときは油のリークの影響が最大となるため、時間に対する減少率Pcrも最も大きくなるとともに、型締力が低下するに従って樹脂圧の影響が現れるため、減少率Pcrは徐々に小さくなる。また、この減少率Pcrは油温が高くなるに従って大きくなる。一方、図5(e)〜(i)から明らかなように、型締力が50〜20〔%〕の範囲では樹脂圧の影響が相対的に大きくなるため、樹脂の充填とともに型締力は急激に上昇する。したがって、型締圧が所定の大きさを越えた場合には、可動型2mが開いてバリ不良が発生する。
【0027】
一方、図6(a)〜(i)は、いずれも試し成形を行った際における型位置Xc〔mm〕の変化を示したものであり、特に、型締装置Mcにより金型2を型締めした後、射出装置Miから当該金型2に対して樹脂を射出充填する射出工程の時間〔秒〕に対する型位置センサ4により検出した型位置Xc〔mm〕の変化特性を示し、図6(a)〜(i)はそれぞれ型締力を、100〔%〕(最大型締力),80〔%〕,70〔%〕,60〔%〕,50〔%〕,40〔%〕,30〔%〕,25〔%〕,20〔%〕に設定した場合を示す。
【0028】
図6(a)〜(i)から明らかなように、型締力が100〜60〔%〕の範囲であれば、型締力が比較的大きいため、金型2は樹脂圧によってほとんど影響を受けず、型位置Xcはほぼ一定となる。このときの金型2の状態を図4(a)に示す。Loは型位置センサ4に反映される可動盤3mと固定盤3cの間隔を示す。一方、図6(e)に示す型締力が50〔%〕の場合、射出充填途中から型位置Xcが閉方向(逆方向)に変化する現象が見られ、この傾向は、図6(g)に示す型締力が30〔%〕になるまで生じている。この理由は、図4(b)に示すように、金型2が閉じている状態であっても型締力が低下しているため、樹脂圧による金型2の変形が許容され、結果として、金型2の中心側が膨らみ、可動盤3m及び固定盤3cが湾曲することにより、可動盤3m及び固定盤3cの外面3mf及び3cf側が接近する方向(閉方向)に変位するものと考えられる。図4(b)中、Lsが型位置センサ4に反映される可動盤3mと固定盤3cの間隔を示し、この間隔Lsは図4(a)に示した間隔Loよりも小さくなる。さらに、図6(h),(i)に示すように、型締力が25〔%〕よりも小さくなれば、射出充填途中から型位置Xcが開方向に変化する。この理由は、図4(c)に示すように、樹脂圧が型締力よりも大きくなるため、結果として可動型2m(可動盤3m)が開方向に押されて金型2が開くためである。図4(c)中、Lmが型位置センサ4に反映される可動盤3mと固定盤3cの間隔を示し、この間隔Lmは図4(a)に示した間隔Loよりも大きくなる。
【0029】
したがって、固定盤3c及び可動盤3mの外面3cf,3mfに付設した型位置センサ4を用いれば、固定盤3cに対する可動盤3mの相対位置(型位置Xc)の検出により、金型2が開いてしまう通常の現象のみならず、樹脂圧による金型2の変形、具体的には、金型2が開く前に発生する型位置Xcが逆方向(閉方向)に変化する特異現象を検出することができ、これら金型2が開く前後の現象を監視すれば、バリ不良の発生を未然に回避できる適正型締力Fsを設定することができる。
【0030】
次に、以上の原理を利用した本実施形態に係る型締力設定方法について、順を追って説明する。
【0031】
まず、成形機コントローラ41には型締力自動設定モードを設ける。型締力自動設定モードでは、検出される型締圧Pc及び型位置Xcを監視し、バリ不良が発生する可能性を考慮した判定を行う。
【0032】
この場合、型締圧Pcに関しては、型締圧Pcの変化に係わる三つ(複数)の異なるモニタ要素を判定する。モニタ要素としては、型締圧Pc,型締圧Pcの時間に対する微分値Pcd,型締圧Pcの時間に対する減少率Pcrを用いる。このように、複数の異なるモニタ要素に、型締圧Pc,微分値Pcd,減少率Pcrを含ませれば、実質的には一つの検出要素を三つの異なるモニタ要素に利用することができるため、構成の簡易化、更には低コスト化に寄与できる。特に、型締装置Mcとして、型締シリンダ8により金型2の型締めを行う油圧式の直圧型締装置を使用するため、射出工程において型締シリンダ8から油がリークすることに基づく型締圧Pcの時間に対する減少率Pcrをモニタ要素として利用できる。また、微分値Pcdとしては、型締圧Pcを直接微分した微分値又は最小二乗法を用いて微分した微分値を利用できる。したがって、検出される型締圧Pcの挙動に応じて、より効果のある微分法を選択することができる。なお、特別な挙動がない限り最小二乗法による微分が好適である。
【0033】
このため、予め、型締圧Pcに対しては、型締完了時の型締圧Pcoに対して所定のオフセット値を加えた第一閾値Pcsを設定する。また、微分値Pcdに対しては、所定の大きさの第二閾値Pcdsを設定する。さらに、減少率Pcrに対しては、型締完了から射出充填開始までの区間で計測した型締圧の時間に対する減少率に対して所定のオフセット値を加えた第三閾値Pcrsを設定する。このような第一閾値Pcs,第二閾値Pcds及び第三閾値Pcrsに対応する各オフセット値は、予め試験等から得た固定値として設定し、又は成形品の状態等を考慮してユーザが任意に設定できる。図7〜図10に、第一閾値Pcs,第二閾値Pcds及び第三閾値Pcrsを示す。
【0034】
一方、型位置Xcに関しては、型位置Xcに対する下限閾値Xcd及び上限閾値Xcuを用いる。下限閾値Xcdは、型締完了時の型位置Xcから所定のオフセット値を減じて設定する。所定のオフセット値は、予め試験等から得た固定値として設定し、又は成形品の状態等を考慮してユーザが任意に設定できる。このような下限閾値Xcdを設定すれば、金型2が開く前、即ち、バリ不良が発生する前の状態に基づき、いわばバリ不良が発生しそうであるという第一の警報(バリ警報2)として利用することができる。また、上限閾値Xcuは、型締完了時の型位置Xcに対して所定のオフセット値を加えて設定する。所定のオフセット値は、予め試験等から得た固定値として設定し、又は成形品の状態等を考慮してユーザが任意に設定できる。このような上限閾値Xcuを設定すれば、金型2が開いた後、即ち、バリ不良が発生したという第二の警報(バリ警報3)として利用することができる。図7〜図10に、下限閾値Xcd及び上限閾値Xcuを示す。
【0035】
さらに、最大型締力(100〔%〕)から順次低下させる型締力(100〔%〕,80〔%〕…)に対して、低下させる際の限界値Fdを設定する。型締力を順次低下させ、例えば、30〔%〕まで低下させても、金型によっては、型締圧Pc,微分値Pcd,減少率Pcrが、それぞれ第一閾値Pcs,第二閾値Pcds,第三閾値Pcrsに達しない場合があるとももに、型位置Xcが、下限閾値Xcd以下に、或いは上限閾値Xcu以上のいずれにも変化しない場合がある。しかし、この場合であっても他に悪影響が生じることもあり、型締力に対して、低下させる際の限界値Fdを設定することができる。例えば、図11は最大型締力(100〔%〕)から所定の大きさを順次低下させた型締力に対する消費電力比Se〔%〕(最大型締力の消費電力に対する比率)を示すとともに、図12は最大型締力(100〔%〕)から所定の大きさを順次低下させた型締力に対する成形品の重量W〔g〕及び厚さD〔mm〕を示すが、成形品の重量W及び厚さDの場合、型締力が30〔%〕を下回れば、重量W及び厚さDは急激に変化する。したがって、この場合、限界値Fdを30〔%〕に設定することにより不安定な成形を回避できるとともに、実際の成形品質(成形品の厚さや重量等)や省エネルギ効果等の他の要因を反映させた適切な型締力を設定できる。
【0036】
次に、型締力自動設定モードの処理手順について、図1及び図2に示すフローチャート、更に図7〜図10に示す変化特性を参照して説明する。
【0037】
型締力自動設定モードでは、最大型締力(100〔%〕)から所定の大きさを順次低下させた型締力(100〔%〕,80〔%〕,70〔%〕…)により順次型締めして試し成形を行うとともに、射出工程における型締圧Pcを検出し、この型締圧Pcの変化に係わる複数の異なるモニタ要素(Pc,Pcd,Pcr)を監視することにより、少なくとも一つのモニタ要素に所定の閾値を越える変化が生じたなら当該変化が生じたときの型締力に対して所定の大きさだけ増加させた型締力を適正型締力Fsとして設定する処理を自動で行うことができる。
【0038】
以下、具体的な処理手順について、図2(図1)を参照して説明する。まず、型締力自動設定モードを使用するには、設定部(操作パネル)44から型締力自動設定モードを選択(ON)する(ステップS1)。これにより、設定されている型締力がリセットされ、型締力が100〔%〕(最大型締力)に設定される(ステップS2)。そして、型締力が100〔%〕となる型締工程が行われる(ステップS3,S4)。一方、型締工程が終了することにより安定化工程に移行する(ステップS5)。図7は、型締力が100〔%〕に設定されたときの時間〔秒〕に対する型締圧Pc〔%〕(減少率Pcrを含む)及び型位置Xc〔mm〕の変化特性を示すとともに、図8は型締力が100〔%〕に設定されたときの時間〔秒〕に対する型締圧Pcの微分値Pcdの変化特性を示す。なお、時間軸の開始点は型締完了時である。安定化工程は、図7及び図8に示す区間1となり、型締完了時から0.5〔秒〕のインターバル時間を経過させて状態を安定化させる。
【0039】
安定化工程(区間1)が終了したなら計測工程に移行する(ステップS6)。計測工程は、図7及び図8に示す区間2となり、区間1の終了時から0.5〔秒〕間にわたって各種計測を行う。具体的には、型締完了時の型締圧Pco及び型位置Xco、更に、区間2における型締圧Pcの時間に対する減少率Pcrを求めるための、経過時間,型締圧及び回数等を検出(計測)する。計測工程が終了したなら必要な演算処理を行う(ステップS7,S8)。即ち、経過時間,型締圧及び回数により型締圧Pcの時間に対する減少率Pcrを所定の演算式により求めるとともに、型締圧Pcの微分値Pcdを所定の演算式により求める。また、検出した型位置Xcoから、設定されている所定のオフセット値を減じて下限閾値Xcdを演算により求めるとともに、型位置Xcoに対して、設定されている所定のオフセット値を加えて上限閾値Xcuを演算により求める。そして、演算処理により求めたデータ及び計測工程で得られたデータはメモリに保存(設定)する(ステップS9)。
【0040】
次いで、射出工程が開始し、金型2に対する樹脂の射出充填を行うとともに、バリ発生判定処理を行う(ステップS10)。図1に、バリ発生判定処理の具体的な処理手順を示す。バリ発生判定処理では、まず、型締圧センサ6により検出された型締圧Pc(現型締圧)が第一閾値Pcs以上であるか否かを判定する(ステップS101)。この際、第一閾値Pcs以上であれば、バリ警報1を出力する(ステップS102)。次に、型位置センサ4により検出された型位置Xc(現型位置)が下限閾値Xcd以下になったか否かを判定する(ステップS103)。この際、下限閾値Xcd以下になった場合にはバリ警報2を出力する(ステップS104)。また、検出された型位置Xc(現型位置)が上限閾値Xcu以上になったか否かを判定する(ステップS105)。この際、上限閾値Xcu以上になった場合にはバリ警報3を出力する(ステップS106)。次に、検出された型締圧Pcに対する微分値Pcdを求め、この微分値Pcdが第二閾値Pcds以上であるか否かを判定する(ステップS107)。この際、第二閾値Pcds以上であれば、バリ警報4を出力する(ステップS108)。また、型締圧Pcの減少率Pcrが第三閾値Pcrs以下であるか否かを判定する(ステップS109)。この際、第三閾値Pcrs以下であれば、バリ警報5を出力する(ステップS110)。以上のバリ発生判定処理は、射出工程が終了するまで一定周期毎に継続して行う(ステップS111)。
【0041】
射出工程(バリ発生判定処理)が終了したなら、バリ警報の出力有無に対するチェックを行う(ステップS11)。図7及び図8に示す型締力が100〔%〕(最大型締力)の場合、型締圧Pcは第一閾値Pcs未満を維持し、型位置Xcは下限閾値Xcdを越え、かつ上限閾値Xcu未満の状態を維持し、微分値Pcdは第二閾値Pcds未満を維持し、減少率Pcrは第三閾値Pcrsを越えない状態を維持している。いずれの場合もバリ警報の出力は無い。したがって、設定する型締力を一段下げて80〔%〕に設定する(ステップS12)。そして、この際、設定した型締力が限界値Fdに達していなければ、型締力が80〔%〕となる型締工程を行い、試し成形を実行するとともに、バリ発生判定処理を行う(ステップS13,S3…S13)。この結果、いずれの判定においてもバリ警報の出力が無いときは、型締力を70〔%〕,60〔%〕,50〔%〕…と順次低下させて同様の処理を繰り返して行う。
【0042】
一方、バリ警報1〜バリ警報5の一つでも出力したときは、直前の型締力を適正型締力Fsとして設定する(ステップS11,S15)。例えば、図9及び図10は、型締力を30〔%〕に設定したときの状態を示すが、この場合、図9に示すように、型締圧Pcは第一閾値Pcs以上となるため、バリ警報1を出力する。また、型位置Xcは上限閾値Xcu未満の状態を維持しているが、下限閾値Xcd以下となるため、バリ警報2を出力する。さらに、減少率Pcrは第三閾値Pcrs以下となるため、バリ警報5を出力する。他方、図10に示すように、微分値Pcdは第二閾値Pcds以上となるため、バリ警報4を出力する。結局、型締圧Pcに関しては、三つのバリ警報1,4,5が出力するとともに、型位置Xcに関しては、一つのバリ警報2が出力する。したがって、この場合には、これ以降の試し成形は行わず、直前の型締力(例示の場合、40〔%〕)を適正型締力Fsとして設定する。したがって、例示の場合には、10〔%〕の増加分が型締力の30〔%〕に加えられ、40〔%〕が設定されることになる。このように、所定の大きさだけ増加させた型締力として、直前に設定した型締力を用いれば、バリ不良の発生を回避できることを既に確認できている直前の型締力を利用して適正型締力Fsを容易かつ的確に設定することができる。これにより、一連の設定処理が終了し、型締力自動設定モードはOFFとなる(ステップS16)。
【0043】
また、限界値Fdが設定されているため、例えば、限界値Fdが40〔%〕であれば、型締力が40〔%〕まで低下した時点で、これ以降の試し成形は行わず、限界値Fdの40〔%〕を適正型締力Fsとして設定する(ステップS13,S14)。このように、最大型締力(100〔%〕)から順次低下させる型締力(100〔%〕,80〔%〕…)に対して、低下させる際の限界値Fdを設定し、当該限界値Fdに達しても所定の閾値を越える変化が生じないときは、限界値Fdを適正型締力Fsとして設定する。この場合も設定終了により型締力自動設定モードはOFFとなる(ステップS16)。
【0044】
よって、このような本実施形態に係る型締力設定方法によれば、射出工程における型締圧Pcを検出し、この型締圧Pcの変化に係わる複数の異なるモニタ要素(Pc,Pcd,Pcr)を監視することにより、少なくとも一つのモニタ要素に所定の閾値を越える変化が生じたなら当該変化が生じたときの型締力に対して所定の大きさだけ増加させた型締力を適正型締力Fsとして設定するようにしたため、バリ不良の発生しない必要最小限の適正型締力Fsを設定する際の確実性及び信頼性をより高めることができるとともに、より的確な適正型締力Fsを自動化により容易に設定することができる。
【0045】
以上、最良の実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値.手法(手順)等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。例えば、最大型締力は、型締装置Mcの能力を表すものではなく、定格型締力等を含む通常使用する型締力の意味である。また、所定の大きさだけ増加させた型締力として、直前に設定した型締力を用いる場合を示したが、予め設定した所定の固定値を加算して増加させたり所定の倍率を乗じて増加させてもよい。一方、実施形態は、型位置Xcに対する判定を含めた場合を例示したが、型位置Xcに対する判定は含めなくても同様に実施可能である。なお、例示した射出成形機Mは、直圧型締装置Mcを備える油圧式射出成形機であるが、電動式射出成形機であっても同様に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の最良の実施形態に係る型締力設定方法におけるバリ発生判定処理を具体的に示すフローチャート、
【図2】同型締力設定方法の処理手順を説明するためのフローチャート、
【図3】同型締力設定方法を実施できる射出成形機の構成図、
【図4】同型締力設定方法の原理を説明するための型締装置の模式図、
【図5】同型締力設定方法の原理を説明するための異なる型締力毎に示した時間に対する型締圧の変化特性図、
【図6】同型締力設定方法の原理を説明するための異なる型締力毎に示した時間に対する型位置の変化特性図、
【図7】同型締力設定方法を型締力100〔%〕で実施した際における時間に対する型締圧及び型位置の変化特性図、
【図8】同型締力設定方法を型締力100〔%〕で実施した際における時間に対する型締圧の微分値の変化特性図、
【図9】同型締力設定方法を型締力30〔%〕で実施した際における時間に対する型締圧の変化特性図、
【図10】同型締力設定方法を型締力30〔%〕で実施した際における時間に対する型締圧の微分値の変化特性図、
【図11】設定する型締力を順次低下させた際における型締力に対する消費電力比の変化特性図、
【図12】設定する型締力を順次低下させた際における型締力に対する成形品の重量及び厚さの変化特性図、
【符号の説明】
【0047】
2:金型,6:型締圧センサ,7:フィルタ処理部,8:型締シリンダ,M:射出成形機,Mc:型締装置,Pc:型締圧,Pcd:微分値,Pcr:減少率,Pco:型締完了時の型締圧,Pcs:第一閾値,Pcds:第二閾値,Pcrs:第三閾値,Dpn:検出信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
型締装置により金型を型締めする際における最大型締力よりも小さい任意の型締力を設定する射出成形機の型締力設定方法において、最大型締力から所定の大きさを順次低下させた型締力により順次型締めして試し成形を行うとともに、型締圧センサにより射出工程における型締圧を検出し、この型締圧の変化に係わる複数の異なるモニタ要素を監視することにより、少なくとも一つのモニタ要素に所定の閾値を越える変化が生じたなら当該変化が生じたときの型締力に対して所定の大きさだけ増加させた型締力を適正型締力として設定することを特徴とする射出成形機の型締力設定方法。
【請求項2】
前記型締装置は、型締シリンダにより金型の型締めを行う油圧式の直圧型締装置であることを特徴とする請求項1記載の射出成形機の型締力設定方法。
【請求項3】
前記複数の異なるモニタ要素には、型締圧,型締圧の時間に対する微分値,型締圧の時間に対する減少率を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の射出成形機の型締力設定方法。
【請求項4】
前記所定の閾値を越える変化は、前記型締圧が、型締完了時の型締圧に対して所定のオフセット値を加えた第一閾値以上となる変化であることを特徴とする請求項1,2又は3記載の射出成形機の型締力設定方法。
【請求項5】
前記所定の閾値を越える変化は、前記微分値が、所定の大きさの第二閾値以上となる変化であることを特徴とする請求項1,2又は3記載の射出成形機の型締力設定方法。
【請求項6】
前記微分値は、前記型締圧を直接微分した微分値又は最小二乗法を用いて微分した微分値であることを特徴とする請求項5記載の射出成形機の型締力設定方法。
【請求項7】
前記所定の閾値を越える変化は、前記減少率が、型締完了から射出充填開始までの区間で計測した型締圧の時間に対する減少率に対して所定のオフセット値を加えた第三閾値以下となる変化であることを特徴とする請求項1,2又は3記載の射出成形機の型締力設定方法。
【請求項8】
前記所定の大きさだけ増加させた型締力には、直前に設定した型締力を用いることを特徴とする請求項1記載の射出成形機の型締力設定方法。
【請求項9】
前記最大型締力から順次低下させる型締力に対して、低下させる際の限界値を設定し、当該限界値に達しても前記所定の閾値を越える変化が生じないときは、前記限界値を前記適正型締力として設定することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の射出成形機の型締力設定方法。
【請求項10】
前記型締圧に係わる検出信号に対して、フィルタ処理部によりノイズを除去するフィルタリングを行うことを特徴する請求項1〜9のいずれかに記載の射出成形機の型締力設定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2010−111006(P2010−111006A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285420(P2008−285420)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000227054)日精樹脂工業株式会社 (293)
【Fターム(参考)】