説明

射出成形用加飾シート、加飾成形品、及び射出成形同時加飾方法

【課題】 シート表面及び内面の凹凸による視覚的な凹凸模様の立体意匠感を表現する。また、真空成形してもその意匠感が消失しない様にする。また、その意匠感が消失しない加飾成形品、射出成形同時加飾方法を提供する。
【解決手段】 透明樹脂基材シート1の裏面に光輝性層2を積層し、表面は高光沢領域Hと低光沢領域Lとに区画され、厚みは高光沢領域で厚く低光沢領域で薄くすることで、高光沢領域及び低光沢領域に対応した凹凸模様を視覚的に発現させる。この基材シートの厚薄で、高光沢領域は裏面方向に凸なる凸出部pとなっている。この基材シートは結晶性樹脂と非結晶性樹脂の2層で融点と軟化温度が特定関係のものがより良い。この加飾シートを被着体に積層したのが加飾成形品である。射出成形同時加飾方法は、この加飾シートを用いて予備成形有りで樹脂成形物の被着体に積層一体化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹凸模様の立体意匠感を有する加飾シートと、それを用いた加飾成形品、及び該加飾成形品を成形する射出成形同時加飾方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被着体として樹脂成形物の表面に加飾シートを積層一体化することで加飾した加飾成形品が各種用途で使用されている。この様な加飾成形品を得る代表的な方法に、樹脂成形物の成形と同時に加飾シートを積層一体化する方法として射出成形同時加飾方法がある(特許文献1、特許文献2、等参照)。
【0003】
また、射出成形同時加飾方法において、加飾成形品の表面に例えば木目導管溝等の凹凸模様を設けて立体意匠感を付与する場合には、例えば、次の(1)〜(4)の様にしていた。
(1)射出成形型のキャビティ面に賦形用の凹凸模様を設けておいて、射出成形後の加飾成形品の表面(加飾シート表面)に凹凸模様を賦形する。
(2)加飾シートの基材シートにアクリル系樹脂等の熱可塑性樹脂の樹脂シートを用いて、該基材シートに熱圧を加えるエンボス加工を施して凹凸模様を賦形しておいた加飾シートを使用する。
(3)スクリーン印刷等による印刷で凹凸模様を表現する。
(4)紫外線硬化性樹脂等の硬化性樹脂のインキによる盛上げ印刷によって、加飾シートに凹凸模様を付与しておく。例えば、電離放射線硬化性樹脂インキを、ロール凹版(賦形版、成形版胴等とも呼ぶ)の少なくとも凹部に充填させると共に該インキに樹脂シートを接触させ、該インキが樹脂シートとロール凹版との間に保持されている状態で電離放射線を照射して該インキを硬化させた後、樹脂シートをロール凹版から剥離する事で、樹脂シート上に該インキの硬化物からなる凹凸模様を付与する(特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭50−19132号公報
【特許文献2】特公昭43−27488号公報
【特許文献3】特開昭57−87318号公報
【特許文献4】特公昭57−22755号公報
【特許文献5】特公昭63−50066号公報
【特許文献6】特開平7−32476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記(1)〜(4)の如き方法では、次の様な欠点があった。すなわち、(1)の成形品の射出成形時にエンボスを施す方法では、エンボス面が成形品表面に限定されてしまう。従って、内部に凹凸模様を付与できない。しかも、射出成形型のキャビティ面を賦形型として凹凸面にしておく必要があることから、凹凸模様の意匠を変更するときは、成形品の形状が同じであっても、高価な射出成形型ごと交換しなければならず、凹凸模様を自由に変えることが出来なかった。
次に、(2)の基材シートに熱可塑性樹脂シートを用いる場合では、成形品の立体面を加飾する為に、射出成形工程に先立ち真空成形工程にて加飾シートを予備成形する時の熱によって、エンボスされた凹凸模様の凹凸形状が戻ってしまうという問題があった。
次に、(3)のスクリーン印刷等の印刷手法によって凹凸模様を賦形する場合では、インキの転移量に限度があり且つそれが少ない為に、エンボスによる凹凸模様ほど立体感が得られない。
そして、(4)のロール凹版等を使用した紫外線硬化性樹脂等による盛上げ印刷による場合では、上記(3)の印刷手法に比べて、より立体感に優れた凹凸模様を賦形できる。しかし、一般的に樹脂シート側から紫外線を照射して凹凸模様を硬化形成する関係上、樹脂シートに透明シートを使用しないと凹凸模様を付与できない。また、加飾シートに通常の印刷による装飾層を形成する場合、印刷よりも前に凹凸模様を付与すると、その凹凸模様によって印刷時に印刷抜けという印刷不良が発生し易かった。
【0006】
すなわち、本発明の課題は、凹凸模様の立体意匠感を有する加飾シートを提供することである。更に好適には、加飾シートを真空成形等で熱成形しても、シート表面及び内面に設けた凹凸で表現される凹凸模様の立体意匠感が消失し難い加飾シートを提供することである。また、この様な加飾シートを用いた加飾成形品を提供することである。また、この様な加飾成形品が容易に得られる射出成形同時加飾方法を提供することであり、その真空成形による予備成形、更には射出成形後に於いても、加飾シート段階の凹凸模様の立体意匠感が消失しない加飾方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明の加飾シートは、透明樹脂基材シートの裏面に光輝性層を積層して成り、透明樹脂基材シートの表面は、周囲に比べて相対的に光沢の高い高光沢領域と周囲に比べて相対的に光沢の低い低光沢領域とに区画され、しかも、透明樹脂基材シートの厚みは、高光沢領域に於いては相対的に厚く、且つ低光沢領域に於いて相対的に薄く形成されて成り、高光沢領域及び低光沢領域に対応した凹凸模様を視覚的に発現させている構成とした。
【0008】
この様な構成とすることで、(低光沢とする為に表面に微小凹凸があっても該微小凹凸よりも大きな凹凸は無い様な)平坦な表面でも、表面の高低光沢領域と、それと位置同調したシート内部の凹凸とによって、凹凸模様を視覚的に感じさせる立体意匠感が得られる。
【0009】
また、本発明の加飾シートは、上記構成に於いて、透明樹脂基材シートと光輝性層との間に、光輝性層の光輝性を完全には隠蔽しない程度の装飾層を有する構成とした。この様な構成とすることで、より高意匠にできる。
【0010】
また、本発明の加飾シートは、上記いずれかの構成に於いて、光輝性層の裏面に、熱可塑性樹脂から成る裏打シートを積層して成る構成とした。この様な構成とすることで、用途、成形性、意匠性等の点で、裏打シート無しでは加飾シート全体としてのシート総厚が不十分である場合に、この裏打シートで加飾シート総厚を賄うことができる。また、加飾シート裏面側の層が、加飾シートの被着体である樹脂成形物等との密着性が不十分である場合に、該樹脂成形物等の被着体との密着性の良い樹脂で裏打シートを構成して、密着性の向上もできる。
【0011】
また、本発明の加飾シートは、上記いずれかの構成に於いて、透明樹脂基材シートの裏面に於いて、該基材シート表面の高光沢領域に対応した部分が、裏面方向に向かって凸になっている構成とした。この構成は、透明樹脂基材シートの厚みを表面の高光沢領域を低光沢領域よりも相対的に厚くする為の、具体的構成の一例を明示した構成である。この様な構成とすることで、高光沢領域の表面部分を裏面方向に向かって凸、つまり表面がシート外側に向かって凹の形状でも、視覚的に凹凸模様を感じさせる立体意匠感が得られる。
【0012】
また、本発明の加飾シートは、上記いずれかの構成に於いて、透明樹脂基材シートが、表面側に位置する第1透明樹脂基材シート、及び裏面側に位置する第2透明樹脂基材シートの2層の積層体から成り、第1透明樹脂基材シートは結晶性樹脂から成り、且つ第2透明樹脂基材シートは非結晶性樹脂から成り、第1透明樹脂基材シートの融点は第2透明樹脂基材シートの軟化温度よりも大である構成とした。この様な構成とすることで、射出成形同時加飾法等、加飾シートが加熱成形される用途では、表面の微小凹凸の有無として付与される高光沢領域及び低光沢領域の加熱成形時の消失防止と、加飾シートの成形性(乃至は形状追従性)と言う相矛盾する両条件を容易に両立させることができる。それは、微小凹凸を含めた透明樹脂基材シートの凹凸をエンボス加工で付与したものとする場合に、エンボス加工は第1透明樹脂基材シートの融点以上の温度で行い、そして、加飾シートを真空成形等の加熱成形する用途に適用する際は、該融点未満且つ第2透明樹脂基材シートの軟化温度以上の温度で行うことで、該凹凸の維持と成形性を両立できるからである。その結果、射出成形同時加飾用途に対しては、加飾シートの真空成形工程後、更には射出成形工程後であっても、該凹凸が関与する凹凸模様の視覚的な立体意匠感が消失しない加飾シートとなる。
【0013】
そして、本発明の加飾成形品は、樹脂成形物表面に、上記いずれかの構成の加飾シートが、その透明樹脂基材シート側が表面側に位置する様にして積層されて成る構成とした。この様な構成とすることで、樹脂成形物を被着体とした加飾成形品の夫々の構成に於いて、凹凸模様を視覚的に感じさせる立体意匠感が得られる等の、上記各々の効果が得られる。
【0014】
また、本発明の加飾成形品は、上記構成に於いて、加飾シート部分の透明樹脂基材シートの高光沢領域に於いて、(該透明樹脂基材シートの)裏面側は裏面方向に向かって凸になっており、且つ表面側は平坦面になっている構成とした。この構成は、加飾シート部分に於いてその透明樹脂基材シートの厚みを表面の高光沢領域を低光沢領域よりも相対的に厚くする為の、具体的構成の一例を明示した構成である。この構成では、高光沢領域の表面部分が平坦な形状にて、凹凸模様を視覚的に感じさせる立体意匠感が得られる。
【0015】
或いはまた、本発明の加飾成形品は、前記構成に於いて、加飾シート部分の透明樹脂基材シートの高光沢領域に於いて、(該透明樹脂基材シートの)裏面側は裏面方向に向かって凸になっており、且つ表面側は表面方向に向かって凹になっている構成とした。この構成も、加飾シート部分に於いてその透明樹脂基材シートの厚みを表面の高光沢領域を低光沢領域よりも相対的に厚くする為の、具体的構成の一例を明示した構成である。この様な構成では、高光沢領域の表面部分がシート外側に向かって現実に凹没した形状と、視覚効果による擬似凹凸感とが相俟って、凹凸模様を視覚的に感じさせる立体意匠感が得られる。
【0016】
そして、本発明の射出成形同時加飾方法は、加飾シートを用いて、真空成形工程と、射出成形工程とを経て、樹脂成形物の成形と同時にその表面に加飾シートを一体化して、樹脂成形物を加飾成形品とする射出成形同時加飾方法に於いて、少なくとも、
(A)透明樹脂基材シートと光輝性層とを含む積層体を加熱し、エンボス加工により、透明樹脂基材シート表面の高光沢領域及び低光沢領域、並びに該高光沢領域と低光沢領域とに対応した透明樹脂基材シートの厚みの厚薄を形成することによって、前記いずれかの構成の加飾シートを製造する、シート作成工程、
(B)該加飾シートを加熱軟化させて、所望の成形品形状に対応する形状に真空成形する、真空成形工程、
(C)真空成形された加飾シートを、その表面側が射出成形型表面と対面する様にして、型締めした射出成形型内に装填された状態で、射出成形型内に流動状態の樹脂を射出充填して、該樹脂を固化させて、樹脂成形物表面に加飾シートを積層一体化して、前記いずれかの構成の加飾成形品を得る、射出成形工程、の各工程を此の順に行なう様にした。
【0017】
この様な構成の加飾方法とすることで、凹凸模様を視覚的に感じさせる立体意匠感を付与できる等の前記各加飾シートのそれぞれの効果が、射出成形同時加飾方法に於いて享受でき、得られる加飾成形品に於いて該効果が享受できる。
【0018】
また、本発明の射出成形同時加飾方法は、上記構成の加飾方法に於いて、工程(A)のシート作成工程に於いて、加飾シートとして、透明樹脂基材シートが表面側に位置する第1透明樹脂基材シートと裏面側に位置する第2透明樹脂基材シートとの2層の積層体から成る前記加飾シートを用い、その第1透明樹脂基材シートの融点以上の温度でエンボス加工を行ない、工程(B)の真空成形工程に於いて、第2透明樹脂基材シートの軟化温度以上であり且つ第1透明樹脂基材シートの融点未満の温度で真空成形する様にした。
【0019】
この様な構成の加飾方法とすることで、透明樹脂基材シートが特定の2層積層体からなる前記加飾シートによる効果を、確実に射出成形同時加飾方法(及びそれによって得られる加飾成形品)に於いて享受できる。従って、真空成形工程、更には射出成形工程後でも、加飾シート段階での凹凸模様の視覚的な立体意匠感が消失しない加飾成形品が確実に得られる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の加飾シートによれば、表面が平坦の場合でも、視覚的に凹凸模様を感じさせる立体意匠感が得られる。また、透明樹脂基材シート/光輝性層間に装飾層を設けれた構成とすれば、より高意匠にできる。また、光輝性層裏面に裏打シートを設けた構成とすれば、加飾シートの総厚確保や、樹脂成形物等の被着体との密着性向上等が図れる。また、表面の高光沢領域対応部分の透明樹脂基材シート裏面が裏面方向に凸になる構成とすれば(その部分の該シート厚みは他の部分よりも相対的に厚いので)、その部分の表面がたとえ凸部でも、視覚的に凹凸模様を感じさせる立体意匠感が得られる。
【0021】
また、本発明の加飾成形品によれば、凹凸模様を視覚的に感じさせる立体意匠感が得られる等の、上記加飾シートの各々の効果が得られる。
【0022】
また、本発明の射出成形同時加飾方法によれば、凹凸模様を視覚的に感じさせる立体意匠感を付与できる等の前記各加飾シートのそれぞれの効果が、射出成形同時加飾方法に於いて得られる。更に、その際、使用する加飾シートにその透明樹脂基材シートが特定の2層積層体であるものを用いれば、加飾シート段階での凹凸模様の視覚的な立体意匠感を、真空成形工程、更には射出成形工程後でも、消失しない様にして確実に加飾成形品に付与できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の加飾シートの幾つかの形態例を例示する断面図。
【図2】本発明の加飾シートの別の形態例を例示する断面図。
【図3】本発明の加飾シートの別の形態例を例示する断面図。
【図4】本発明の加飾成形品の或る形態例を例示する断面図。
【図5】透明樹脂基材シート表面の高/低光沢領域の形成とこれと位置同調した裏面の凸出部を形成する一方法(エンボス加工法)を説明する断面図。
【図6】本発明で利用し得る射出成形同時加飾方法をその一形態で説明する概念図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明を実施する為の最良の形態を説明する。
【0025】
概要:
図1は、本発明の加飾シートSについて、その基本的構成の3例を例示した断面図である。なお、各種形態の加飾シートS1、S2、S3、或いはS4等の加飾シートSn(nは整数)を総称して、単に加飾シートSとも表記する。
【0026】
先ず、図1(A)に示す加飾シートS1は、透明樹脂基材シート1の裏面に光輝性層2を設け(積層し)、前記透明樹脂基材シート1の表面は、相対的に周囲よりも低光沢(例えば艶消し)となった低光沢領域Lと、相対的に周囲よりも高光沢(例えば艶有り)となった高光沢領域H(Hf)と、によって区画されている。図1(A)の場合、高光沢領域Hの面は平坦(flat)な面となっており、これを高光沢領域Hfとして表す。更に、透明樹脂基材シート1の厚みは、相対的に、高光沢領域Hfの部分の厚みがより厚く、且つ低光沢領域Lの部分の厚みがより薄くなっている。なお且つ、高光沢領域Hfに於いて、透明樹脂基材シート1の裏面は、裏面方向に向かって凸出(表面に向かって凹没)しており、凸出部pが形成されている。
【0027】
また、透明樹脂基材シート1の表面は、低光沢領域Lに於いては平坦である。一方、高光沢領域Hに於いては、図1の各断面図に示す通り3通りある。すなわち、既に説明した図1(A)の如く平坦な場合(高光沢領域Hf)、図1(B)の如く凹形状(recess)をなす場合(高光沢領域Hr)、或いは図1(C)に示す如く凸形状(protrude)をなす場合(高光沢領域Hp)である。本発明では、これら高光沢領域Hf、Hr、Hpを総称して単に高光沢領域Hとも表記する。
【0028】
なお、「表面」、「裏面」の意味は、本明細書に於いて、「表面」とは、加飾シートSの透明樹脂基材シート1側方向(加飾シートの観察者側方向)を意味する。図1等の図に於いては上方が表面側となる。一方、「裏面」とは、加飾シートの光輝性層2側方向(加飾シートの観察者側とは反対方向。被着体方向でもある。)を意味する。図1等の図に於いては下方が裏面側となる。
【0029】
なお、本発明の加飾シートは、更に、必要に応じて、図2の如く、透明樹脂基材シート1と光輝性層2との間に装飾層3を形成したり、光輝性層2の裏面に裏打シート4を設けたり、或いは図示は省くが最裏面に被着体との接着性を付与する為に、接着剤層を設けたりすることが出来る。また、これら、装飾層3、裏打シート4、接着剤層は基本的には何れも必要に応じて設ける層であり、これらは、何れか1層のみ或いは任意の2層を組合わせて形成することが出来る。
【0030】
そして、上記の様な加飾シートSを、被着体に対する各種積層法、例えば射出成形同時加飾方法等により、樹脂成形物5の表面に積層すれば、本発明の加飾成形品Pdとなる(図4参照)。また、その積層法として好適なものとして、本発明の射出成形同時加飾方法がある。また、その射出成形同時加飾方法に於いては、加飾シートとして、その透明樹脂基材シートが特定の2層積層体としたものを採用するのが、加飾シート作成段階でエンボス加工を利用した凹凸模様の視覚的な立体意匠感を、真空成形工程、更には射出成形工程後でも、消失しない様にして確実に加飾成形品に付与できる点で、より好ましい。その場合、凹凸模様の確実な付与と加飾シート成形性を両立させる点で、より好ましくは、加飾シートはそれを作成時のエンボス加工を第1透明樹脂基材シートの融点以上で行ったシートを用い、射出成形同時加飾の真空成形工程時は第2透明樹脂基材シートの軟化温度以上且つ第1透明樹脂基材シートの融点未満の温度で行う。
【0031】
加飾シート:
先ず、加飾シートの構成から説明する。
【0032】
〔透明樹脂基材シート〕
材料 : 透明樹脂基材シート1の材料としては、透明な熱化塑性樹脂の中から、透明性、高光沢領域、低光沢領域、及びシート厚みの厚薄を付与する為のエンボス加工適性、更に、加飾シートを加熱軟化させて真空成形等の成形加工を行なう場合には該成形加工時の熱による成形適性とエンボス加工の耐久性(エンボス消失防止)との両立性等を考慮の上、適宜選定する。
【0033】
上記の様な熱可塑性樹脂の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、オレフィン系熱化塑性エラストマー等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、テレフタル酸−イソフタル酸−エチレングリコール共重合体、テレフタル酸−エチレングリコール−1,4シクロヘキサンジメタノール共重合体、ポリエステル系熱化塑性エラストマー等のポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン9、ナイロン6,6等のポリアミド樹脂、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリ3フッ化ビニリデン、エチレン−4フッ化エチレン共重合体、ポリ4フッ化エチレン等のフッ素系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。
【0034】
なお、上記アクリル系樹脂としては、例えば、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート−ブチル(メタ)アクリレート共重合体、エチル(メタ)アクリレート−ブチル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート−スチレン共重合体等の樹脂〔但し、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートの意味〕を単体又は2種以上の混合物で用いる。
【0035】
厚み : 透明樹脂基材シートの厚み(積層体構成の場合は総厚)は、50〜400μm程度である。
【0036】
添加剤 : また、透明樹脂基材シート中には、必要に応じ適宜、添加剤を添加することができる。添加剤としては、透明性、表面光沢、融点等の熱的挙動に支障を来さない範囲で、各種添加剤を適量添加し得る。例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系等の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系ラジカル補捉剤等の光安定剤、シリコーン樹脂、ワックス等の滑剤、着色剤、可塑剤、熱安定剤、抗菌剤、防黴剤、帯電防止剤等である。
【0037】
層構成 : また、透明樹脂基材シートの層構成は、単層、或いは異種の樹脂を2層以上積層した積層体の何れでも良い。但し、加飾シートを真空成形や、型内での射出成形同時加飾方法等の加熱成形工程に適用する場合は、透明樹脂基材シート1には、透明樹脂基材シートそれ自体の成形性(乃至は形状追従性)と、表面に微小凹凸の有無として付与した高光沢領域、及び低光沢領域の消失防止と云う相矛盾する両条件を両立させなければならない。
【0038】
上記両立は、賦形条件、成形条件の加減、樹脂材料の選定等で解決することも可能ではあるが、最も両条件を安定して両立出来る好ましい形態としては、図3の如く、透明樹脂基材シート1を、表面側に位置する第1透明樹脂基材シート11と、裏面側に位置する第2透明樹脂基材シート12との2層積層体とし、第1透明樹脂基材シート11を融点を有する結晶性樹脂とし、また、第2透明樹脂基材シート12を融点を持た無い非結晶性樹脂とする。しかも、第1透明樹脂基材シートの融点は第2透明樹脂基材シートの軟化温度よりも大とする。なお、軟化温度としては、VICAT軟化温度(規格DIN−ENTW.53,460規定)を指標とする。
【0039】
上記の様な特定の温度物性を有する2層積層体の透明樹脂基材シートとすることで、表面の凹凸をエンボス加工で形成する時、それも特に微小凹凸で加熱により潰れ易く注意しなければならない表面側の光沢に関係する凹凸について注目すると、第1透明樹脂基材シートの融点以上の温度でエンボス加工を行うことで、第1透明樹脂基材シートの結晶性樹脂はその結晶構造が溶けて凹凸形状が賦形されるが、エンボス加工後、温度が低下すると該樹脂は再結晶化して凹凸形状が固定され、しかも射出成形同時加飾の真空成形等の加熱成形時に加飾シートを再度加熱するときは、前記融点未満(且つ第2透明樹脂基材シートのVICAT軟化温度以上)の温度とすれば、結晶構造は維持されるので、加飾シート全体としての成形性は非結晶性樹脂とする第2透明樹脂基材シート主体で確保した上で、微小凹凸の形状は保ち易くなるのである。さらに、第2透明樹脂基材シートの裏面側の凹凸については、加飾シートを、被着体自体、或いは被着体に接着するための接着剤中に、これらが流動状態にあるうちに、加飾シート裏面側の凹凸を埋没させることにより、該裏面側の凹凸を保持することが出来る。例えば、加飾シートを、真空成形工程を経て射出成形同時加飾する場合に於いては、先ず、真空成形にて加飾シートを成形品形状に予備成形する際は、通常、加飾シート表面側が真空成形型側に押付けられるが、裏面側の凹凸は自由状態な為、裏面側の凹凸の消失は防止出来る。次いで、射出成形型中では、加飾シートは、その表面側が射出成形型面に押圧されるが、裏面側の凹凸は流動状態の射出樹脂で充填される為、該裏面側の凹凸は樹脂成形物中に保持される。
【0040】
上記の様な第1透明樹脂基材シートと第2透明樹脂基材シートとの組合せは、具体的には、射出成形同時加飾法の予備成形としての真空成形の場合、加飾シートに加わる温度は100〜170℃の範囲であるから、第2透明樹脂基材シート12としては、アクリル系樹脂(ポリメチル(メタ)アクリレートの場合、VICAT軟化温度120℃)、ポリカーボネート樹脂(VICAT軟化温度155℃)、又はポリスチレン(VICAT軟化温度103℃)等を用い、第1透明樹脂基材シート11としては、ポリフッ化ビニリデン(融点160℃以上)、ポリ4フッ化エチレン(融点327℃)、ポリ3フッ化エチレン(融点205〜220℃)等のフッ素系樹脂を用いれば、エンボス加工温度を第1透明樹脂基材シート11の融点以上の温度で行ない、真空成形温度を第1透明樹脂基材シート11の融点未満で、且つ第2透明樹脂基材シート12の軟化温度以上となる組み合わせを選択することが可能である。
【0041】
また、上記第1及び第2透明樹脂基材シートの2層積層体の樹脂の具体的な組合せ例としては、フッ素系樹脂(より具体的には例えばフッ化ビニリデン樹脂)を第1透明樹脂基材シートに用い、アクリル系樹脂を第2透明樹脂基材シートに用いた構成は、好ましい構成の一つである。フッ素系樹脂のなかでも特にフッ化ビニリデン樹脂は、コスト面で高すぎ且つ低すぎず適度な融点等の観点から好ましい。一方、アクリル系樹脂は、シート加熱時の成形適性温度範囲を広くできる傾向があり好ましく、また、耐候性や透明性に優れている点でも好ましい。
【0042】
ところで、射出成形同時加飾法の予備成形としての真空成形(真空圧空成形も包含する)時の加飾シートの加熱温度100〜170℃の詳細としては、真空成形型を射出成形型と兼用して射出成形型上で行うインライン予備成形の場合には、100〜120℃程度であり、真空成形を射出成形型とは別型で、つまり射出成形機の外で予め行うオフライン予備成形の場合には140〜170℃である。従って、これら観点より、第1透明樹脂基材シートの樹脂は、その融点が、インライン予備成形に限定するならば120℃以上、好ましくは130℃以上、オフライン予備成形も含めて考えるならば150℃以上、乃至は170℃以上となる樹脂を選定することが好ましい。
【0043】
なお、第1透明樹脂基材シートの厚みは、表面を低光沢とする為の凹凸形状の深さに応じたものとすれば良い。なお、加飾シート全体としての真空成形性は、第2透明樹脂基材シート等の他層で主体的に担う事が可能である。従って、通常、第1透明樹脂基材シートの厚みは第2透明樹脂基材シートの厚みよりも薄くする。第1透明樹脂基材シートの厚みの具体例を挙げれば10〜50μm程度である。
【0044】
一方、第2透明樹脂基材シートの方は、加飾シートとしての真空成形性を確保する為、及び透明樹脂基材シート裏面側の凹凸を出す為の層である。また、通常は、第1透明樹脂基材シートよりも主体的に加飾シートとしての総厚を担う層とする。従って、第2透明樹脂基材シートには第1透明樹脂基材シートよりも真空成形性が良い樹脂を用いる事になる。これらの点で、第2透明樹脂基材シートの厚みは、通常は、第1透明樹脂基材シートの厚みよりも厚くする。例えば、第2透明樹脂基材シートの厚みの具体例を挙げれば50〜200μm程度である。なお、第1透明樹脂基材シートの厚み及び第2透明樹脂基材シートとの厚み関係は、これに限定されるものでは無い。
【0045】
なお、第1透明樹脂基材シートと第2透明樹脂基材シートとの積層は、これら各層を樹脂シートとして用意し、両樹脂シートを接着剤を介して積層しても良いが、生産性、コスト等の点では、好ましくは、両樹脂の2層共押出しによる溶融積層、或いは一方は樹脂シートとして用意し、これに溶融押出塗工する方が良い。2層共押出し或いは溶融押出塗工では、樹脂シートとしては不可能な薄い樹脂層でも形成できる等の利点が得られる。なかでも、2層共押出しは積層シートの層間密着性の点でより好ましい。
高光沢領域と低光沢領域 : 本発明に於いて、高光沢領域Lと低光沢領域Hとは、透明樹脂基材シート1の表面の光沢を、相対的に光沢の差を有する2種の領域に区画し、両領域H、Lとによって、透明樹脂基材シート1の膜厚の厚薄、及び透明樹脂基材シート1と光輝性層2との光反射性界面の裏面凹凸による視覚的凹凸感を補強する機能を持つ。
【0046】
高光沢領域Hと低光沢領域Lとで区画されて構成される模様(この模様は視覚的な凹凸感を伴う為、凹凸模様と呼称する)としては、要求される意匠表現に応じたものとすれば良く、特に限定されるものではない。凹凸模様は、例えば、木目導管溝、木目年輪模様、砂目、梨地、ヘアライン、万線状溝、花崗岩の劈開面の凹凸模様、布目の表面テクスチュア、皮絞、文字、幾何学模様等である。特に、視覚的に凹部を表現すべき領域を、高光沢部Hに対応させ、また、視覚的に凸部を表現すべき領域を、低光沢領域Lに対応させる。なお、従来、表面の艶差模様によって擬似的な凹凸模様を感じさせる技術が知られているが、そこでは、視覚的に凹凸部を表現すべき領域を、単に表面光沢差の視覚的効果のみを応用するに留まり、本発明の如く、透明樹脂基材シート裏面の光輝性層と透明樹脂基材シートの厚み差との視覚的相互作用を用い無い為、本発明とは作用機構が異なる。その結果、高光沢領域Hが凸部、低光沢領域Lが凹部に対応する結果となり、本発明とは艶の高低が全く逆で異なる。
【0047】
高光沢領域Hと低光沢領域Lとの光沢差は、目視にてその光沢差が認識出来る程度であれば良い。通常、JIS Z8741規定の60度鏡面光沢度Gs(60°)で5以上、より好ましくは20以上とする。低光沢領域Lは高光沢領域Hよりも、微小凹凸形成によって相対的に粗面とし、また、高光沢領域Hは低光沢領域Lに比べ相対的に、表面の平滑性を高くする。例えば、例を示すと、高光沢領域Hに於いては、透明樹脂基材シート1表面の表面粗さを、JIS B0601規定の中心線平均粗さRaが1μm未満で、且つ鏡面光沢度Gs(60°)が80以上とし、又低光沢領域Lに於いては、透明樹脂基材シート1表面の中心線平均粗さRaが4μm以上で、且つ鏡面光沢度Gs(60°)が40以下とする。
【0048】
なお、以上の様な、光沢差を出す為の微小凹凸(粗面)の程度差の形成は、公知の方法、例えば、エンボス加工等によれば形成できる。
【0049】
厚み差 : 透明樹脂基材シート1の厚みは、相対的に高光沢領域Hに於いては厚く、低光沢領域Lに於いては薄くなる様に形成する。それによる厚みの差は、通常10〜100μm程度である。高光沢領域H直下の厚膜部に於いては、図1に示す如く、透明樹脂基材シート1と光輝性層2との界面(光反射性界面とも言う)は、裏面方向に凸出(膨出)して凸出部pを成す様に賦形される。この凸出部pの形状は、好ましくは、少なくとも横断面形状が裏面方向に凸になる曲線にすることが好ましい。例えば、円、楕円、放物線、双曲線、正弦曲線、楕円函数曲線、ベッセル函数曲線、サイクロイド等、乃至はこれらで近似される曲線である。縦断面形状は、裏面方向に凸になる曲線でも良いし、裏面方向に凸になる直線状等他の形状でも良い。此の様な形状で前記光反射性界面を、裏面方向に凸出させることによって、該光反射性界面は凹面鏡の如く機能して、照明光を一旦、焦点(焦線)に収束させた後、そこから発散させる。その為、凸出部pの深さ、形状がより明るく強調されて見える。これに加えて、該凸出部pの側面部には、斜方向から入射した照明光に対して陰影を生じ、凸出部の輪郭を強調する(エッジエンハンスメント)効果も奏する。更に、凸出部の直上部を高光沢領域Hとし、その周囲を相対的に低光沢領域Lとすることによって、凸出部(表面から見ると凹没部)の深さ、形状を周囲よりも強調する効果が加えられる。その結果、透明樹脂基材シート1表面が平坦、或いは少し凸出していても、視覚的には十分な凹凸感が再現される。
【0050】
高低の光沢領域と裏面凸出部の形成法 : 透明樹脂基材シート1に、上述の様な高光沢領域Hと低光沢領域L、及びこれと位置同調した裏面の凸出部pを形成する方法としては、エンボス加工法等の従来公知の賦形方法を適宜採用すれば良い。但し、透明樹脂基材シートとして、前述の如く、透明樹脂基材シートを、結晶性樹脂の第1透明樹脂基材シートと非結晶性樹脂の第2透明樹脂基材シートから構成し且つ第1透明樹脂基材シートの融点が第2透明樹脂基材シートの軟化温度よりも大とした2層積層体の構成のシートを用いる場合は、一般に、第1透明樹脂基材シート11のエンボス加工温度は第2透明樹脂基材シート12の熔融温度以上になる。その場合、両透明樹脂基材シート共、流動状態となる。この様な状況下でエンボス加工を行なう為には、例えば、次の(A)、(B)の加工方法等が可能である。また、第1透明樹脂基材シートをその融点以上に加熱し、且つ第2透明樹脂基材シートはその熔融温度未満に加熱し、エンボスするには(C)の加工方法等が可能である。なお、エンボス加工方法・機械自体は公知のものである。
【0051】
(A)両透明樹脂基材シートを枚葉シートとし、これを枚葉の熱プレス機でエンボス加工する。
(B)両透明樹脂基材シートを連続帯状シートとし、これをエンドレスベルト状のエンボス版、及びエンドレスベルト状の圧胴との間で挾持加圧し、両エンドレスベルトをシート走行速度に同期させて駆動することにより、流動状態の両透明樹脂基材シートに張力を実質的に印加しないでエンボス加工する。
(C)両透明樹脂基材シートを連続帯状シートとし、これを積層状態で輪転式のエンボス機を用いてエンボス加工する。但し、第2透明樹脂基材シート12側は加熱ドラムからの熱伝導により、第2透明樹脂基材シート12の熔融温度未満に加熱し、一方、第1透明樹脂基材シート11側は、赤外線輻射ヒータによって、表面近傍の第1透明樹脂基材シート11のみ局部的に、第1透明樹脂基材シート11の融点以上となる様に加熱して、エンボス加工する。
【0052】
更に、上記2層積層体構成の場合の形成方法として好ましい方法の1つを、図5を参照して説明する。
【0053】
先ず、各々全て平坦均一膜厚の、第1透明樹脂基材シート11、第2透明樹脂基材シート12、及び光輝性層2を用意する。此の図では、表面側の第1透明樹脂基材シート11と裏面側の第2透明樹脂基材シート12とは予め積層されており、且つ第2透明樹脂基材シート12の裏面には印刷法等により光輝性層も積層済みとなっているが、3層とも別個の層として用意し、エンボス加工と同時に積層しても良い。また、第1樹脂基材シート11は結晶性樹脂、第2透明樹脂基材シート12は非結晶性樹脂から成り、第1透明樹脂基材シート11の融点は第2透明樹脂基材シート12の軟化温度よりも大となるように選んである。
【0054】
次いで、図5(A)に示す如く、各層をゴム圧胴Cと金属エンボス版Eとの間に挿入する。ゴム圧胴Cの表面は第1透明樹脂基材シート11の表面に賦形すべき粗面に対応した粗面Frになっている。ゴム圧胴Cは、少なくとも表面はシリコーンゴム等のゴムからなるが、中心部分は鉄等の剛体の芯材から成っていても良い。又、金属エンボス版Eは鉄、銅等の金属から成り、表面には第2透明樹脂基材シート12の裏面に賦形すべき凹凸に対応した凹凸面になっている。尚、ゴム圧胴C、及び金属エンボス版Eは平板状でも円筒状でもいずれでも良い。
【0055】
そして、第1透明樹脂基材シート11、第2透明樹脂基材シート12、及び光輝性層2を加熱軟化させて、図5(B)の如く、第1透明樹脂基材シート11の表面側がゴム圧胴C側に当接し、また、光輝性層2の裏面側が金属エンボス版E側に当接する位置関係にて、ゴム圧胴Cと金属エンボス版Eとで押圧する(所謂エンボス加工)。加熱の際、第1透明樹脂基材シート11の表面側は赤外線輻射ヒータ(不図示)で加熱して、第1透明樹脂基材シート11の表面付近を融点以上に加熱する。一方、第2透明樹脂基材シート12側は加熱ドラム(不図示)からの熱伝導で加熱し、第2透明樹脂基材シート12は熔融温度に達し無いように加熱する。
【0056】
図5(B)の如く、エンボス加工の際、金属エンボス版Eの凸部epで押圧される高エンボス圧領域Bに於いては、各層とも強く押圧され、両透明樹脂基材シート11、12の厚みは相対的に薄くなる。それと同時に、ゴム圧胴C表面の粗面Frも完全に賦形され、第1透明樹脂基材シート11の表面は低光沢領域Lとなる。一方、金属エンボス版Eの凹部erで押圧される低エンボス圧領域Aに於いては、各層とも押圧は弱く、両透明樹脂基材シート11、12の厚みは相対的に厚くなる。それと同時に、ゴム圧胴C表面の粗面Frの賦形も不完全となり、第1透明樹脂基材シート11表面は高光沢領域Hとなる。そして、各層を冷却後、或いは冷却前に、ゴム圧胴Cと金属エンボス版Eとを押圧から開放することで、各層が積層、賦形されて成る、図3の如き本発明の加飾シートS5が得られる。
【0057】
〔光輝性層〕
光輝性層2は、透明樹脂基材シート1の裏面に設ける(積層する)。光輝性層の材料、及び形成方法等は、従来公知のものでよい。例えば、光輝性層は、光輝性顔料を透明な結合剤(バインダー)中に分散させた光輝性インキ層、或いは金属薄膜層等で良い。なお、光輝性インキ層のバインダーの樹脂としては、アクリル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリプロピレン、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等を用いる。光輝性顔料としては、アルミニウム、真鍮等の金属の粉末又は鱗片等の金属顔料、二酸化チタン被覆雲母の粉末又は鱗片等の真珠光沢(パール)顔料等を用いる。また、光輝性インキ層の形成法は、ロールコート、コンマコート、スリットリバースコート、カーテンフローコート等の塗工法、グラビア印刷、シルクスクリーン印刷等による全面ベタ印刷等によれば良い。また、光輝性顔料の他に着色顔料等の着色剤を添加して、着色金属光沢(カラーメタリック)としても良い。なお、光輝性インキ層の厚みは通常1〜50μm程度である。一方、金属薄膜層としては、例えば、アルミニウム、クロム、錫、インジウム等の金属を蒸着、スパッタ、無電解めっき等したもので良い。また、透明樹脂基材シート1中に着色剤を添加するか、或いは透明樹脂基材シート1と金属薄膜層との間に着色透明インキ層を設けて、光輝性層による光輝性をも着色金属光沢(カラーメタリック)としても良い。なお、金属薄膜層の厚みは通常0.1〜1μm程度である。
【0058】
〔装飾層〕
装飾層3は、より高意匠とする為に必要に応じ設ける層である。装飾層は、光輝性層2の光輝性、及びそれに基づく視覚的凹凸感を阻害し無いように、部分的に設けるか、或いは透明着色インキ等の透明性の有るものにて形成する。装飾層の形成に使用するインキとしては、公知のものの中から適宜選択使用すれば良い。例えば、インキのバインダーの樹脂としては、アクリル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリプロピレン、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等を用いる。また、インキに含有させる着色剤としては、例えば、チタン白、亜鉛華、カーボンブラック、鉄黒、弁柄、カドミウムレッド、群青、コバルトブルー、黄鉛、チタンイエロー等の無機顔料、フタロシアニンブルー、インダスレンブルー、イソインドリノンイエロー、キナクリドンレッド、ペリレンレッド等の有機顔料、或いは染料等が用いられる。なお、装飾層の絵柄は、例えば、木目模様、石目模様、砂目模様、布目模様、皮絞模様、タイル貼模様、煉瓦積模様、幾何学図形、文字、記号、或いは全面ベタ等である。また、装飾層としては、木目等の柄意匠の表現以外に、磁性体層、導電性層等の機能性層等でも良い。つまり加飾乃至は装飾とは、この様な機能性付与も包含する。
【0059】
〔裏打シート〕
裏打シート4は、主とし加飾シートとしての総厚の調整(確保)等の為に適宜設ける。また、裏打シート4は、被着体との密着性向上を図る為に設けることもできる。この様な裏打シート4は、光輝性層の裏側に熱可塑性樹脂シートを積層することで形成できる。該熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン等の各種ポリオレフィン系樹脂、塩素化ポリオレフィン系樹脂、ABS樹脂、或いは例えばポリオレフィン系樹脂とABS樹脂との混合樹脂等と異種樹脂同士の混合樹脂を、被着体の材料等に応じて適宜採用すれば良い。特に加飾シートを真空成形加工する場合は、成形性を阻害し無い様、透明樹脂基材シート、またそれが2層積層体の場合にはその第2透明樹脂基材シートと、同様の樹脂で構成することが好ましい。
【0060】
裏打シートを積層するには、予め熱可塑性樹脂シートとして用意した樹脂シートを、ウレタン樹脂等による公知の接着剤で、ドライラミネーション法等の公知の積層法で貼り合せれば良い。具体的には、例えば、透明樹脂基材シートと光輝性層との積層体の光輝性層面に対して、接着剤で熱可塑性樹脂シートを貼り合せる。なお、裏打シートの熱可塑性樹脂シートは、該熱可塑性樹脂の溶融押出塗工によって成膜と同時に積層しても良い。なお、裏打シートの厚みは、総厚確保や被着体との密着性向上等、その目的にもよるが、総厚確保を図る点では通常は20〜500μm程度である。
【0061】
また、裏打シートは、それにより被着体を隠蔽する、隠蔽性の補強機能も担うことができる。それは、光輝性層が薄膜で上記隠蔽性が不足の場合、或いは加飾シートを成形した際に、部分的に光輝性層が伸ばされて薄膜化したり、龜裂が入ったりして隠蔽性が低下することが有る。これを裏打シートで補うことが出来る。裏打シートを隠蔽性とするには、その熱可塑性樹脂中に、隠蔽性付与の為に高隠蔽性の顔料を添加すれば良い。高隠蔽性顔料としては、チタン白、カーボンブラック(墨)等が挙げられる。この場合、これに必要に応じ、適宜他の着色剤を添加しても良い。
【0062】
なお、裏打シート有無に拘わらず、加飾シートの最裏面には、必要に応じ適宜、公知の接着剤層を設けることができる。接着剤層には、例えば、アクリル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリオレフィン樹脂、ウレタン樹脂、ゴム系樹脂等が用いられる。
【0063】
〔加飾シートの被着体〕
本発明の加飾シートは、種々の被着体に積層してそれを加飾する用途に使用され得るが、その被着体としては特に制限はない。例えば、被着体の材料や形状は、任意である。例えば、その材料としては、樹脂、木質材料、金属、非金属無機材料、紙、布帛等がある。また、その形状もシート(乃至はフィルム)、板、立体物等と任意である。
【0064】
加飾成形品:
本発明の加飾成形品は、被着体として樹脂成形物の表面に、前記本発明の加飾シートが、その透明樹脂基材シート側が表面側に位置する様にして積層された構成の加飾成形品である。その際、加飾シート部分の高光沢領域に於いては、例えば、透明樹脂基材シートの裏面側は、裏面方向に向かって凸になっており、且つその部分の表面側は平坦面や、表面方向に向かって凹になっている形状等である。
【0065】
なお、前記加飾シート自体に於いては、その被着体として特に制限は無いが、該加飾シートが、その効果を奏する点で、好ましい被着体、及びそれへの積層方法は、被着体が樹脂成形物であり、積層方法は該樹脂成形物表面に対して、加飾シートを真空成形によって所望の成形品形状に予備成形した後、射出成形型内で樹脂成形物表面に加飾シートを積層一体化する、所謂射出成形同時加飾法を用いて積層する場合である。この場合、本発明の加飾シートは、シート表面が平坦乃至は略平坦であっでも視覚的効果で凹凸模様の立体意匠感が発現する為、真空成形時、射出成形時に、エンボス加工による実在の凹凸形状の消失の虞が無く、良好な凹凸模様を視覚的に付与出来る。
【0066】
上記の様な効果を特に良好に奏するのは、透明樹脂基材シート1を、表面側に位置する第1透明樹脂基材シート11、及び裏面側に位置する第2透明樹脂基材シート12の2層積層体で構成し、第1透明樹脂基材シートを結晶性樹脂で構成すると共に第2透明樹脂基材シートを非結晶性樹脂で構成し、且つ第1透明樹脂基材シートの融点を第2透明樹脂基材シートの軟化温度よりも大である様に構成した形態の加飾シートを採用した場合である。
【0067】
ここで、樹脂成形物5を被着体として、その表面に前記の如き本発明の加飾シートSを積層した構成の加飾成形品Pdの1例を、図4(A)の一部切欠断面図、及びその断面の一部拡大図を図4(B)に示す。この様な、加飾成形品の代表的製造方法の1つが、射出成形同時加飾法である。なお、図4(B)では、透明樹脂基材シート1が第1透明樹脂基材シート11と第2透明樹脂基材シート12との2層積層体構成の場合である。なお、加飾成形品の形状は、シート積層面は凹凸面等の非平面、或いは平面の立体物である。また、加飾成形品の形状は、板状(平板、曲面板等)、柱状、三次元立体物等と任意である。
【0068】
なお、樹脂成形物となる射出樹脂としては、基本的には特に制限はなく公知の樹脂で良い。製品の要求物性やコスト等に応じて選定すれば良い。熱可塑性樹脂であれば、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン系樹脂等である。また、硬化性樹脂であれば、2液硬化型の樹脂、例えば、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等の未硬化樹脂液等である。熱可塑性樹脂は加熱熔融して流動状態で射出し、また硬化性樹脂は(その未硬化物を)室温又は適宜加熱して流動状態で射出する。また、射出樹脂には、用途に応じて適宜、着色剤、充填剤、安定剤、滑剤等の公知の各種添加剤を含有させる。
【0069】
射出成形同時加飾方法:
本発明による射出成形同時加飾方法では、いわゆる射出成形同時加飾方法に対して、それに用いる加飾シートのシート作成工程(シート材料及び方法)を特定の工程とし、且つ、更により好ましくは、該シートの予備成形としての真空形成工程も特定の工程とした加飾方法である。以下、本射出成形同時加飾方法について、シート作成工程、真空成形工程、射出成形工程の順に説明する。
【0070】
〔シート作成工程〕
シート作成工程は、前述した如き加飾シートを作製して用意する工程である。従って、本発明によるシート作成工程では、加飾シートの層及びその樹脂組成と融点や軟化温度、また凹凸賦形のエンボス加工温度等を特定したシート作成工程となる。つまり、シート作成工程では、加飾シートとして、加飾成形品の状態で外側に位置させる透明樹脂基材シートと光輝性層とを少なくとも含む積層体を加熱し、エンボス加工により、透明樹脂基材シート表面の高光沢領域及び低光沢領域、並びに該高光沢領域と低光沢領域とに対応した透明樹脂基材シートの厚みの厚薄を形成して、加飾シートを用意する。その際、より好ましくは、後の特定の真空成形工程と組み合わせる構成として、透明樹脂基材シートが、表面側に位置する第1透明樹脂基材シート、及び裏面側に位置する第2透明樹脂基材シートの2層の積層体から成り、第1透明樹脂基材シートは結晶性樹脂から成り、且つ第2透明樹脂基材シートは非結晶性樹脂から成り、第1透明樹脂基材シートの融点は第2透明樹脂基材シートの軟化温度よりも大である、透明樹脂基材シートが特定の2層積層体構成の加飾シートを用意する。なお、該加飾シートの好適な具体例を挙げれば、前述の如く、第1透明樹脂基材シートがフッ化ビニリデン樹脂を含み、第2透明樹脂基材シートがアクリル系樹脂を含む構成である。
【0071】
〔真空成形工程〕
本発明では、以上の如き加飾シートを用いて、シート予備成形有りの形態で射出成形同時加飾する。その際に、該シート予備成形の為の真空成形工程にて、シート加熱温度は、透明樹脂基材シートが上記特定の2層積層体構成の加飾シートを用いる場合には、好ましくは、その第2透明樹脂基材シートの軟化温度以上であり且つ第1透明樹脂基材シートの融点未満の温度とする。これによって、シート予備成形の為の真空成形時の成形性を確保すると共に、真空成形後の凹凸形状の維持もできる様になる。
【0072】
加飾シートを予備成形する為の真空成形工程(真空圧空成形も包含する)は、大別して、真空成形型を射出成形型と兼用して該射出成形型上で真空成形を行うインライン予備成形の形態と、真空成形型は射出成形型とは別型で、つまり射出成形機の外で真空成形を行うオフライン予備成形の形態のどちらでも良い。なお、オフライン予備成形は、インライン予備成形に比べて、一般的に、加飾成形品サイズが大きい場合、シート厚みが厚い場合等に適している。
【0073】
そして、真空成形時のシート加熱温度は、通常は、インライン予備成形では100〜120℃程度、オフライン予備成形では140〜170℃程度である。従って、例えば、透明樹脂基材シートが特定の2層積層体構成の加飾シートを用いる場合では、第1透明樹脂基材シートにフッ化ビニリデン樹脂を用い、また第2透明樹脂基材シートにアクリル系樹脂を用いた構成等の加飾シートでは、通常のインライン予備成形或いはオフライン予備形成、どちらの形態にも適用できる。なお、上記予備成形温度は、一般的な温度を示すものであり、加飾シートに用いた樹脂に合わせて、上記範囲外の温度で行っても良い。
【0074】
〔射出成形工程〕
射出成形工程では、上記の如き真空成形工程によって予備成形された加飾シートを、射出成形型内に装填された状態で、雌雄一対の射出成形型を型締めした後、射出成形型のキャビティ内に流動状態の樹脂を射出し充填して固化させて、樹脂成形物の表面に加飾シートを積層一体化する工程である。そして、樹脂固化後、型開きして、目的とする加飾成形品を取出す。該加飾成形品には、前述如き加飾シートによって、凹凸模様を視覚的に感じさせる立体意匠感が付与されている。
【0075】
なお、射出成形型内に射出する射出樹脂は、通常は加熱溶融させて流動状態となっており、その温度は200℃以上に及ぶことがあるが、この様な高温の射出樹脂であっても、加飾シートが有する凹凸形状は維持することができる。つまり、射出成形時の射出樹脂の熱は、真空成形時の熱程には影響しない。例えば、射出樹脂がABS樹脂の場合、加飾シートは、射出樹脂温度は200〜240℃程度、また射出成形型の型温度は60℃程度の温度条件下に晒されるが、そのときの熱が加飾シートに加わるのは一瞬であり、真空成形工程に凹凸形状が耐えられれば、基本的には加飾成形品上では凹凸形状は残すことができるからである。
【0076】
〔その他〕
ここで、図6の概念図を用いて、いわゆる射出成形同時加飾方法について、概説しておく。なお、ここで説明する形態は、射出成形型上で真空成形工程を行うインライン予備成形の形態である。
【0077】
先ず、図6(A)の如く、射出成形型としては、射出ノズルと連通する湯道(ランナー)及び湯口(ゲート)を有する型Maと、キャビティ面に吸引孔41を有し加飾シートの真空成形工程用の予備成形型を兼用する型Mbの一対の成形型を用いる。これらの型は鉄等の金属、或いはセラミックスからなる。型開き状態に於いて両型Ma、Mb間に加飾シートSを供給し、型Mbに加飾シートSを平面視枠状のシートクランプ42で押圧する等して固定する。この際、加飾シートの(透明樹脂基材シートに対する)光輝性層側の裏面側は、図面右側の射出樹脂側となる様にする事はもちろんである。次いで、図6(B)の如く、型外部(図面では型上方)の退避位置で退避させておいたヒータ43を、適宜移動させて両型間に挿入し、ヒータ43で加飾シートを加熱軟化させる。加熱は例えば非接触の輻射加熱とするが、接触による伝導加熱でも良い。そして、吸引孔から吸引して真空成形して、加飾シートを型Mbのキャビティ面に沿わせ予備成形する。次いで、ヒータを両型間から退避させ、図6(C)の如く両型を型締めし、両型で形成されるキャビティに加熱熔融状態等の流動状態の樹脂を充填する。そして、樹脂が冷却等によって固化した後、型開きして成形物を取り出す。そして、加飾シートの不要部分は適宜トリミングすれば、図4の如く、樹脂成形物5に加飾シートSが積層され加飾された加飾成形品Pdが得られるという方法である。そして、本発明では、加飾シートによって、凹凸模様を視覚的に感じさせる立体意匠感の表現が加飾成形品でも可能となる。
【実施例1】
【0078】
図3の如き構成の加飾シートS5を次の様にして作製した。先ず、結晶性樹脂のフッ素系樹脂であるフッ化ビニリデン樹脂(融点Tm160℃)と、非結晶性樹脂であるアクリル系樹脂(VICAT軟化温度Ts118℃)とを、2層共押出しして、厚さ8μmの第1透明樹脂基材シート11と厚さ72μmの第2透明樹脂基材シート12とが積層した透明樹脂基材シート1を作製した。
【0079】
次に、上記透明樹脂基材シート1の第2透明樹脂基材シート12側の面に、アクリル系樹脂をバインダー樹脂とし、光輝性顔料としてアルミニウムの鱗片状箔片(平均粒径14μm)を添加したシルバーインキによるグラビア印刷で光輝性層2を形成し、更に、アクリル系樹脂と塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体との1:1質量比の混合樹脂からなるインキをグラビア印刷にて2回刷りして接着剤層(不図示)を形成して印刷シートとした。
【0080】
次に、前述した如き図5に示す様なエンボス加工により、フッ化ビニリデン樹脂の第1透明樹脂基材シート11の表面には、中心線平均粗さRa5μmの微小凹凸の粗面で表面から見て平坦な低光沢領域Lと、中心線平均粗さRa0.1μmの平滑面で表面から見て凹部となった高光沢領域Hとを形成した。凹部と凸部との高低差は10μであった。又、低光沢領域L、及び高光沢領域Hは各々幅が100〜200μmの細長い縞状領域であり、両領域が交互に配列することによって、全体としてヘアライン模様となっている。一方、アクリル系樹脂の第2透明樹脂基材シート12、及び光輝層2に対しては、低光沢領域Lに対向する部分に裏面から見て凹部領域を、高光沢領域Hに対向する部分に裏面から見て凸部領域を形成した。両領域の高低差は80μmであった。なお、エンボス加工時の第1透明樹脂基材シート11の表面温度は、赤外線輻射ヒータの加熱により180℃とした。また、第2透明樹脂基材シート12は、表面温度150℃の加熱金属ドラムからの伝導熱で加熱した。
【0081】
次に、上記で得た加飾シートSを、射出成形型を真空成形型と兼用するインライン予備成形の形態で射出成形同時加飾をすべく、射出成形同時加飾装置に、光輝性層側が射出成形型の雄型のゲート側を向くようにして装着して、真空成形型とする射出成形型の雌型上で、シート加熱温度120℃の条件で、加飾シートをヒータによる非接触加熱で加熱軟化させた後、射出成形型側から真空吸引して、加飾シートを該射出成形型の型形状に真空成形した。真空成形後の加飾シートについて、凹凸模様の状況を確認したところ、その凹凸形状は残っていた。
【0082】
この後、射出成形型を型締めして、ABS樹脂を射出成形した。なお、射出成形型の型温度は60℃、射出樹脂温度は240℃の条件で行った。型開き後、加飾成形品を取出し、該成形品に於ける凹凸模様の残存状況を確認したところ、加飾成形品にはその表面の微小な凹凸も含めて凹凸は残っており、凹凸模様を視覚的に感じさせる立体的意匠感が表現され、高意匠の成形品となっていた。
【0083】
〔比較例1〕
実施例1に於いて、第1透明樹脂基材シートと第2透明樹脂基材シートとを積層した2層積層体構成の透明樹脂基材シートの代わりに、アクリル系樹脂(VICAT軟化温度118℃)からなる単層で厚さ80μmの透明樹脂基材シートを用いた。この他は、実施例1と同様にして、加飾シートを作製した。そして、実施例1と同様の射出成形同時加飾方法によって、加飾成形品の作製を試みたその結果、真空成形後の加飾シートには、表面の微小な凹凸も含めて凹凸形状が消失し、凹凸模様を視覚的に感じさせる立体的意匠感が消失していた。この為、次の射出成形工程は中止した。
【符号の説明】
【0084】
1 透明樹脂基材シート
11 第1透明樹脂基材シート
12 第2透明樹脂基材シート
2 光輝性層
3 装飾層
4 裏打シート
5 樹脂成形物
41 吸引孔
42 シートクランプ
43 ヒータ
A 低エンボス圧領域
B 高エンボス圧領域
C ゴム圧胴
E 金属エンボス版
ep (エンボス版の)凸部
er (エンボス版の)凹部
Fr 粗面
H 高光沢領域
Hf 高光沢領域(平坦)
Hp 高光沢領域(凸形状)
Hr 高光沢領域(凹形状)
L 低光沢領域
Ma 射出成形型(雄型)
Mb 射出成形型(雌型)
Pd 加飾成形品
p 凸出部
S、S1〜S5 加飾シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂基材シートの裏面に光輝性層を積層して成り、透明樹脂基材シートの表面は、周囲に比べて相対的に光沢の高い高光沢領域と周囲に比べて相対的に光沢の低い低光沢領域とに区画され、しかも、透明樹脂基材シートの厚みは、高光沢領域に於いては相対的に厚く、且つ低光沢領域に於いて相対的に薄く形成されて成り、高光沢領域及び低光沢領域に対応した凹凸模様を視覚的に発現させている、加飾シート。
【請求項2】
透明樹脂基材シートと光輝性層との間に、光輝性層の光輝性を完全には隠蔽しない程度の装飾層を有する、請求項1記載の加飾シート。
【請求項3】
光輝性層の裏面に、熱可塑性樹脂から成る裏打シートを積層して成る、請求項1又は請求項2記載の加飾シート。
【請求項4】
透明樹脂基材シートの裏面に於いて、該基材シート表面の高光沢領域に対応した部分が、裏面方向に向かって凸になっている、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の加飾シート。
【請求項5】
透明樹脂基材シートが、表面側に位置する第1透明樹脂基材シート、及び裏面側に位置する第2透明樹脂基材シートの2層の積層体から成り、第1透明樹脂基材シートは結晶性樹脂から成り、且つ第2透明樹脂基材シートは非結晶性樹脂から成り、第1透明樹脂基材シートの融点は第2透明樹脂基材シートの軟化温度よりも大である、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の加飾シート。
【請求項6】
樹脂成形物表面に、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の加飾シートが、その透明樹脂基材シート側が表面側に位置する様にして積層されて成る、加飾成形品。
【請求項7】
透明樹脂基材シートの高光沢領域に於いて、裏面側は裏面方向に向かって凸になっており、且つ表面側は平坦面になっている、請求項6記載の加飾成形品。
【請求項8】
透明樹脂基材シートの高光沢領域に於いて、裏面側は裏面方向に向かって凸になっており、且つ表面側は表面方向に向かって凹になっている、請求項6記載の加飾成形品。
【請求項9】
加飾シートを用いて、真空成形工程と、射出成形工程とを経て、樹脂成形物の成形と同時にその表面に加飾シートを一体化して、樹脂成形物を加飾成形品とする射出成形同時加飾方法に於いて、少なくとも、
(A)透明樹脂基材シートと光輝性層とを含む積層体を加熱し、エンボス加工により、透明樹脂基材シート表面の高光沢領域及び低光沢領域、並びに該高光沢領域と低光沢領域とに対応した透明樹脂基材シートの厚みの厚薄を形成することによって、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の加飾シートを製造する、シート作成工程、
(B)該加飾シートを加熱軟化させて、所望の成形品形状に対応する形状に真空成形する、真空成形工程、
(C)真空成形された加飾シートを、その表面側が射出成形型表面と対面する様にして、型締めした射出成形型内に装填された状態で、射出成形型内に流動状態の樹脂を射出充填して、該樹脂を固化させて、樹脂成形物表面に加飾シートを積層一体化して、請求項6〜請求項8のいずれか1項に記載の加飾成形品を得る、射出成形工程、
の各工程を此の順に行なう射出成形同時加飾方法。
【請求項10】
工程(A)のシート作成工程に於いて、請求項5記載の加飾シートを用い、その第1透明樹脂基材シートの融点以上の温度でエンボス加工を行ない、
工程(B)の真空成形工程に於いて、第2透明樹脂基材シートの軟化温度以上であり且つ第1透明樹脂基材シートの融点未満の温度で真空成形する、請求項9記載の射出成形同時加飾方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−45938(P2012−45938A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208412(P2011−208412)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【分割の表示】特願2009−83929(P2009−83929)の分割
【原出願日】平成15年9月29日(2003.9.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】