説明

導電ペースト及びそれを用いたセラミック配線基板

【目的】 1000℃以下で焼成可能なガラスセラミックからなる基板に、密着強度、ハンダ耐熱性、基板との焼成マッチングに優れ、導体損失を低減した表層導体を同時焼成にて形成したセラミック配線基板を提供する。
【構成】 ガラスセラミックからなる未焼成のセラミックグリーンシート上に、銀および白金からなる導電成分と、モリブデン、タングステン、二酸化マンガン、二酸化ケイ素、酸化銅からなるフィラー成分とを含む導電ペーストを用いて表層配線を形成した後、1000℃以下の温度にて前記の未焼成のセラミックグリーンシートと前記銀/白金表層配線とを同時焼成したセラミック配線基板。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ガラスセラミックからなるセラミック配線基板等に用いられる導電ペースト及びそれを用いたセラミック配線基板に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、電子機器の小型化・高性能化に伴い、電子部品や配線基板に要求される小型化や電気的特性への要求は厳しくなりつつある。従来より、電子部品や配線基板を小型化する方法としては、配線や絶縁層を順次印刷・焼成していく印刷多層技術や、導電ペーストで配線を印刷形成したセラミックグリーンシートを積層して同時焼成する多層配線化技術がある。
【0003】しかし、同時焼成による多層配線化技術では、絶縁体としてアルミナやチタン酸鉛等の焼成温度が1000℃以上のセラミック材料を用いるため、配線材料にはタングステンやパラジウムといった融点が1000℃以上の高融点金属を用いる必要があった。これらの高融点金属は導体抵抗が高いため、導体中を流れる電気信号の損失(いわゆる導体損失)が大きいといった欠点があり、電気特性への市場の要求を満たすことができなくなってきている。
【0004】そこで近年は、更なる市場の要求特性に応えるために、導体抵抗が低い銀、金、銅等を導体材料に使用可能で、かつ、1000℃以下で焼成可能な低温焼成材料を用いた配線基板や電子部品が種々開発されている。特に銀は導体抵抗が低く、銅と異なり酸化雰囲気中でも焼成可能なことから、はやくから低温焼成材料との同時焼成技術が検討・開発されており、その結果、セラミック配線基板の電気的特性は向上した。
【0005】しかし、銀はハンダにくわれやすかったり、銀イオンがマイグレーションして配線間が短絡する、といった信頼性の問題があるため、そのまま銀を配線基板の表層配線として用いることはできなかった。基板のハンダ実装時や集積回路チップ実装時に発生するハンダくわれ対策として、一般には銀配線の表面にニッケルメッキ等を施すが、酸やアルカリ等の薬液による前処理が導体の基板への密着強度を下げたり、メッキ工程の追加によるコスト高といった問題をもたらす。
【0006】銀導体のハンダくわれや銀イオンのマイグレーションを解決するためには、銀に耐熱性の高いパラジウム又は白金を添加した銀/パラジウム導体又は銀/白金導体を用いるのが有効である。銀/パラジウムは、パラジウム濃度が5〜30%の組成において、銀/白金は、白金濃度が0.1〜5%の組成において、厚膜法によるポストファイヤメタライズとしてよく用いられている。尚、「厚膜法によるポストファイヤ」とは、焼成済みの基板に導電ペーストを印刷して配線を形成した後、基板の焼成温度以下の温度で導体を焼き付けることをいう。
【0007】厚膜法によるポストファイヤにて表層配線を形成する技術としては、以下のような例がある。特開平4−88067号公報には、銀/パラジウムにマンガンの酸化物と酸化クロムとガラスフリットを添加した導電ペーストが開示されている。それによって、表層配線の高温エージング後の密着強度やハンダぬれ性を向上する効果が得られている。特公平6−50705号公報には、銀に二酸化ケイ素とガラスフリットを添加した導電ペーストが開示されている。それによって、表層配線の密着強度やハンダくわれ性を向上する効果が得られている。特公平5−14363号公報には、銀に酸化ビスマスと酸化銅と二酸化マンガンとガラスフリットを添加した導電ペーストが開示されている。それによって、表層配線の密着強度やハンダくわれ性を向上する効果が得られている。しかし、これらはいずれも厚膜法によるポストファイヤであるため、その分工数が増えてコスト高になる。また、ガラスフリットは焼成中に軟化して導体粒子間に溜まるため、ハンダに導体表面を一層くわれるとガラスの浮いた導体層が露出してハンダをはじく問題がある。更には、銀/パラジウムは導体抵抗が高いため表層配線において電気信号の導体損失が大きい問題がある。
【0008】コスト低減をするために、銀系表層配線を基板と同時焼成で形成する技術が検討された。上記の厚膜法と異なり、同時焼成法による例はあまり多く見られない。特開平9−198919号公報及び特開平9−74256号公報には、銀に五酸化二バナジウムを添加した導電ペーストを用いて、表層配線の密着強度やハンダぬれ性や基板の反りを改善した基板が開示されている。また、特公平5−74166号公報には、銀、パラジウム、白金等の貴金属にモリブデン、タングステンを添加した導電ペーストが開示されている。表層配線のハンダぬれ性を改善する効果が得られている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】表層配線の導体抵抗を下げ、且つ、耐ハンダ特性を向上させたセラミック配線基板を得る目的で、単に銀/白金のみを用いて表層配線を形成しても、■.配線導体の初期密着強度が低い、■.150℃の高温下放置によるエージング試験による強度劣化が著しい、■.260℃の高温ハンダによる耐熱試験によるハンダくわれが発生する、■.同時焼成時に基板と銀/白金導体との焼成タイミングのミスマッチによる基板の反りが発生する、といった様々な問題が発生する。
【0010】上記■及び■の原因は以下のように推察される。すなわち、基板と銀/白金導体との接合が、焼成中に基板から銀/白金導体へ熱拡散したガラス成分によってのみ行われているため、機械的或いは熱的な作用によりガラス接合構造が容易に破壊されるからである。また、同時焼成に用いる導体ペーストにガラスフリットを添加すると、焼成時に配線導体上にガラスが浮いてしまうため、ガラスフリットレスにする必要がある。したがって、機械的或いは熱的な作用により容易に破壊されない接合構造を形成する添加物が必要となる。
【0011】上記■の原因は以下のように推察される。すなわち、銀に耐熱性の高い白金を添加して耐熱性を向上させたとはいえ、単にそれだけでは260℃の高温下での銀のハンダ中への拡散を抑制することができないからである。したがって、銀のハンダ中への拡散を抑制する効果を有する添加物が必要となる。
【0012】上記■の原因は以下のように推察される。すなわち、銀の粒成長自体は200〜300℃程度の低温域から進行しているため、軟化点が500℃以上のガラスセラミックからなる基板の焼成収縮とタイミングを合致することが難しいからである。したがって、銀の焼成収縮のタイミングを基板の焼成収縮に近づける効果を有する添加物が必要となる。
【0013】本発明は、上記従来の諸問題を解決するものであり、表層配線に銀/白金を用いて未焼成のセラミックと同時焼成しても、配線導体の初期密着強度、ハンダぬれ性、高温放置エージングによる劣化特性、260℃のハンダ耐熱性、基板の反りといった評価項目に優れた特性が得られる導電ペーストとそれを用いたセラミック配線基板を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】請求項1は、銀/白金100重量部に対して二酸化マンガンを0.2〜1重量部、酸化銅を0.2〜1重量部、二酸化ケイ素を0.3〜1重量部、モリブデン及びタングステンの金属粉末を3〜5.6重量部含有することを特徴とする導電ペーストを要旨とする。
【0015】該導電ペーストが奏する具体的な効果は以下のようである。■.二酸化マンガンの添加により表層配線の260℃の高温下でのハンダ耐熱性を向上できる。■.二酸化ケイ素の添加により表層配線の150℃高温放置エージング特性を向上できる。■.酸化銅の添加により表層配線の初期密着強度を向上できる。■.モリブデン及びタングステンの金属粉末の添加により基板の反りを低減できる。■.ガラスフリットを一切含まないため、ハンダぬれ性が良好である。
【0016】請求項2は、銀/白金100重量部に対して二酸化マンガンを0.2〜1重量部、酸化銅を0.2〜1重量部、BET法による比表面積が50m2/g以上で、且つ、1次粒子の平均径が5〜50mμmで、且つ、純度が99.8%以上の二酸化ケイ素を0.3〜1重量部、モリブデン及びタングステンの金属粉末を3〜5.6重量部含有することを特徴とする導電ペーストを要旨とする。
【0017】該導電ペーストが奏する具体的な効果は以下のようである。■.二酸化マンガンの添加により表層配線の260℃の高温下でのハンダ耐熱性を向上できる。■.所定の物性値を有する微粉末状の二酸化ケイ素の添加により表層配線の150℃高温放置エージング特性をより効果的に向上できる。150℃高温放置エージング時においては、ハンダ(例えば、錫/鉛共晶ハンダ)に含まれる錫が銀/白金の粒界を移行して、配線部と絶縁部のガラスフリットによるガラス接合界面をアタックして、ガラス接合構造を破壊するため、エージング特性が劣化することが知られている。そこで、所定の物性値を有する微粉末状の二酸化ケイ素を用いることで、錫の移行を抑制し、150℃高温放置エージング特性をより効果的に向上できる。■.酸化銅の添加により表層配線の初期密着強度を向上できる。■.モリブデン及びタングステンの金属粉末の添加により基板の反りを低減できる。■.ガラスフリットを一切含まないため、ハンダぬれ性が良好である。
【0018】請求項3は、ホウケイ酸鉛系ガラスをガラス主成分とするガラスセラミックからなる絶縁部と、銀を主成分とする配線部からなるセラミック配線基板であって、該配線部の少なくとも一部が、銀/白金100重量部に対して二酸化マンガンを0.2〜1重量部含有する銀/白金で構成されることを特徴とするセラミック配線基板を要旨とする。
【0019】銀/白金100重量部に対して二酸化マンガンを0.2〜1重量部含有する銀/白金で構成される配線部を有するセラミック配線基板は、配線部の信頼性とコスト低減に優れるメリットがある。また、ガラスフリットを一切含まないため、ハンダぬれ性を良好にできる。ホウケイ酸鉛系ガラスをガラス主成分とするガラスセラミックは焼成時の収縮挙動が比較的安定しており、配線導体との焼成収縮差をあわせ込みやすいメリットがある。特には、ガラスの軟化点が650〜780℃の範囲にあるホウケイ酸鉛系ガラスをガラス主成分とするガラスセラミックが好ましい。
【0020】請求項4は、ホウケイ酸鉛系ガラスをガラス主成分とするガラスセラミックからなる絶縁部と、銀を主成分とする配線部からなるセラミック配線基板であって、該配線部の少なくとも一部が、銀/白金100重量部に対して二酸化マンガンを0.2〜1重量部、酸化銅を0.2〜1重量部、二酸化ケイ素を0.3〜1重量部、モリブデン及びタングステンの金属粉末を3〜5.6重量部含有する導電ペーストを用いて形成したセラミック配線基板を要旨とする。
【0021】銀/白金に二酸化マンガン、二酸化ケイ素、酸化銅、モリブデン及びタングステンの金属粉末を添加した導電ペーストを用いてホウケイ酸鉛系ガラスをガラス主成分とするガラスセラミックからなる未焼成基板上に配線を形成し、同時焼成することで、配線導体の初期密着強度、高温放置エージングによる劣化特性、260℃のハンダ耐熱性、基板の反りといった諸問題を解決し、信頼性とコスト低減に優れたセラミック配線基板を提供できる。ホウケイ酸鉛系ガラスをガラス主成分とするガラスセラミックは焼成時の収縮挙動が比較的安定しており、配線導体との焼成収縮差をあわせ込みやすいメリットがある。特には、ガラスの軟化点が650〜780℃の範囲にあるホウケイ酸鉛系ガラスをガラス主成分とするガラスセラミックが好ましい。
【0022】請求項5は、ホウケイ酸鉛系ガラスをガラス主成分とするガラスセラミックからなる絶縁部と、銀を主成分とする配線部からなるセラミック配線基板であって、該配線部の少なくとも一部が、銀/白金100重量部に対して二酸化マンガンを0.2〜1重量部、酸化銅を0.2〜1重量部、BET法による比表面積が50m2/g以上で、且つ、1次粒子の平均径が5〜50mμmで、且つ、純度が99.8%以上の二酸化ケイ素を0.3〜1重量部、モリブデン及びタングステンの金属粉末を3〜5.6重量部含有する導電ペーストを用いて形成したことを特徴とするセラミック配線基板を要旨とする。
【0023】銀/白金に二酸化マンガン、所定の物性値を有する微粉末状の二酸化ケイ素、酸化銅、モリブデン及びタングステンの金属粉末を添加した導電ペーストを用いてホウケイ酸鉛系ガラスをガラス主成分とするガラスセラミックからなる未焼成基板上に配線を形成し、同時焼成することで、配線導体の初期密着強度、高温放置エージングによる劣化特性、260℃のハンダ耐熱性、基板の反りといった諸問題を解決し、信頼性とコスト低減に優れたセラミック配線基板を提供できる。特には、所定の物性値を有する微粉末状の二酸化ケイ素の添加により、表層配線の150℃高温放置エージング特性をより効果的に向上できる。ホウケイ酸鉛系ガラスをガラス主成分とするガラスセラミックは焼成時の収縮挙動が比較的安定しており、配線導体との焼成収縮差をあわせ込みやすいメリットがある。特には、ガラスの軟化点が650〜780℃の範囲にあるホウケイ酸鉛系ガラスをガラス主成分とするガラスセラミックが好ましい。
【0024】請求項3乃至請求項5にいうセラミック配線基板の例としては、積層型のLCフィルタ、カプラ(方向性結合器)、ローパスフィルタ内蔵カプラ、電力分配器、バラン(平衡−不平衡変換素子)、ミキサーモジュール基板、PLLモジュール基板、VCO(電圧制御形発振器)、TCXO(温度補償形水晶発振器)等のいわゆる電子部品が挙げられる。通常の共晶ハンダを用いた実装工程を経ても十分な信頼性を有するセラミック配線基板が得られる。鉛レスの高融点ハンダを用いたハンダ実装工程にも十分対応可能である。
【0025】上記電子部品以外の適用例としては、フリップチップ接続方式の集積回路チップを電気的に接続するための電極パッド群を備えたセラミック配線基板が挙げられる。具体的には、C4(Controlled Collapse Chip Connection)法を用いた、いわゆるC4パッケージ、CSP(Chip Size Package)等が挙げられる。これらのパッケージに抵抗、コンデンサ、インダクタのうち少なくとも1つを一体化してモジュール化したものであっても良い。集積回路チップの接続に、通常の共晶ハンダを用いた実装工程を経ても十分な信頼性を有するセラミック配線基板が得られる。また、鉛レスの高融点ハンダ、或いは金スズを用いた集積回路チップ実装工程にも十分対応可能である。
【0026】
【実施例】以下に、実施例によって本発明を詳しく説明する。尚、本発明の実施の形態は以下に記載する構成にのみ限定されるものではない。
【0027】(1)セラミックグリーンシートの製作以下の方法により、セラミック配線基板用のセラミックグリーンシートの製作を行なった。
【0028】セラミック原料として、軟化点が678℃のホウケイ酸鉛ガラス粉末(組成:SiO2(49%)、Al23(5%)、B23(5%)、Na2O(2.5%)、K2O(1.5%)、CaO(5%)、PbO(32%))と市販のα−アルミナ粉末(住友化学製 Al−S43A)を用意した。有機バインダーとしては、メタクリル酸エチル系のアクリル樹脂を用意した。
【0029】次に、アルミナ製のポットに、上記のガラス粉末とアルミナ粉末とを重量比で1:1、総量で1kgとなるように秤量して入れた。さらに溶剤としてMEK(メチルエチルケトン)を200g、上記のアクリル樹脂を100g、可塑剤としてDOP(ジオクチルフタレート)を50g、分散剤を5g、上記のポットに入れ、10時間混合した。こうしてセラミックグリーンシート成形用のスラリーを得た。このスラリーを用いて、公知のドクターブレード法を用いてシート厚み0.4mmのセラミックグリーンシートを得た。
【0030】(2)銀/白金導電ペーストの製作導電成分として、銀粉末(平均粒径3μm)98重量部と白金粉末(平均粒径0.2μm)2重量部、バインダー成分として、エチルセルロース5重量部とブチルカルビトール15重量部と、二酸化マンガン(平均粒径1μm)、酸化銅(平均粒径1μm)と、二酸化ケイ素(BET法による比表面積380m2/g、1次粒子の平均径7mμm、純度が99.8%以上)、セラミックグリーンシートに用いたホウケイ酸鉛系ガラスフリット(平均粒径2.5μm)、モリブデン(平均粒径2.5μm)及びタングステン(平均粒径0.6μm)とを表1及び表2に記載の量比で配合し、これらの混合物を三本ロールミルを用いて混練して導電ペーストを調製した。
【0031】(3)評価基板の製作上記(1)で製作したセラミックグリーンシートを4枚積層圧着し、積層体を製作した。積層体の最上層に上記(2)で製作した導電ペーストを用いて、焼成後に2mm□になる所定の大きさで表層配線をスクリーン印刷法にて形成した。その後、大気雰囲気中で最高保持温度840℃で焼成を行った。得られた評価基板の寸法は、50mm□×厚み1.35mmであった。一基板上には、2mm□×厚み20μmの表層配線が100個形成されている。
【0032】(4)基板の反りの測定上記(3)で製作した評価基板の銀/白金配線に発生するうねり量を、表面粗度計を用いて測定し、基板の「反り」として評価した。具体的には、表面粗度計を用いて表層配線上を評価基板の対角線に沿ってトレースして得られた凹凸量から表層配線の厚みを差し引いた数値をいう。反りの値としては、40μm未満のものを合格とした。表1においては実測値を示した。表2においては40μm未満の合格したものを「○」で示した。結果を表1及び表2に併記した。
【0033】(5)ハンダぬれ性試験上記(3)で製作した評価基板を230℃に加熱・溶融した錫/鉛共晶ハンダ浴に5秒間浸漬し、表層導体上にハンダをのせた。銀/白金配線の面積に対するハンダの面積比を画像処理機を用いて求めた。銀/白金配線の面積に対するハンダの面積比が95%以上のものを合格とした。結果を表1及び表2に併記した。
【0034】(6)ハンダ耐熱試験上記(3)で製作した評価基板を260℃に加熱・溶融した錫/鉛共晶ハンダ浴に10秒間浸漬し、表層導体上にハンダをのせる作業を繰り返し行い、1回目、3回目、5回目の浸漬後のハンダぬれの状態を確認した。ハンダが十分にぬれた状態を合格として「○」、配線がハンダにくわれてなくなった状態を不合格として「×」とした。3回以上もったものを合格とした。結果を表1及び表2に併記した。
【0035】(7)密着強度試験上記(3)で製作した評価基板を230℃に加熱・溶融した錫/鉛共晶ハンダ浴に5秒間浸漬し、表層導体上にハンダをのせた。ハンダののった表層配線に直径0.5mmのニッケルメッキ付き銅線をハンダ付けし、基板面の法線方向に20mm/分の速度でリードプルテスターで引っ張り、表層導体と基板間での破断発生時の強度を初期強度として測定した。残りの評価基板を大気雰囲気中で150℃に加熱した恒温槽に入れてエージングを行った。50時間経過後及び500時間経過後にそれぞれ取り出し、初期強度と同様にリードプルテスターで引っ張り、表層導体と基板間での破断発生時の強度を測定した。尚、初期強度は3.9kgf/2mm□以上、エージング50時間経過後の密着強度は2.2kgf/2mm□以上、エージング500時間経過後の密着強度は1.0kgf/2mm□以上が合格である。結果を表1及び表2に併記した。
【0036】
【表1】


【0037】
【表2】


【0038】表1は、請求項2に記載の発明に対応する結果である。本発明の実施例である試料番号2乃至試料番号6及び試料番号16の結果を見ると、反りが36μm以下、ハンダぬれ性が95〜100%、ハンダ耐熱性が3〜5回、初期密着強度が3.94〜4.43kgf/2mm□、エージング50時間後の密着強度が2.28〜2.88kgf/2mm□、エージング500時間後の密着強度が1.05〜1.28kgf/2mm□と、全ての項目において十分合格レベルであった。
【0039】一方、二酸化マンガンの添加量が0.1重量部の比較例である試料番号1を見ると、反りが40μm、ハンダ耐熱性が1回、初期密着強度が3.58kgf/2mm□、エージング50時間後の密着強度が2.10kgf/2mm□、エージング500時間後の密着強度が0.86kgf/2mm□と、合格基準を下回る結果となった。二酸化マンガンの添加量が0.2重量部未満では十分な特性が得られないことがわかる。
【0040】また、二酸化マンガンの添加量が1.2重量部の比較例である試料番号7を見ると、ハンダぬれ性が70%で不合格で、他の評価項目は合格であった。これは二酸化マンガンの添加量が1.0重量部を越えると表層配線上に二酸化マンガンが浮いてハンダぬれ性を低下させたものと推察される。
【0041】ガラスフリット添加した比較例である試料番号8乃至試料番号11をみると、ハンダぬれ性が30〜75%、ハンダ耐熱性がすべて1回目で不合格と、特にハンダ関係で劣る結果となった。表層配線上にガラスフリットが浮きあがっているため、ハンダぬれ性やハンダ耐熱性が著しく劣化したものと推察される。
【0042】酸化ビスマスを添加した比較例である試料番号12乃至試料番号14をみると、添加量が増えるにつれてハンダぬれ性やハンダ耐熱性が劣化していくことがわかる。酸化ビスマスは二酸化マンガンと異なり、表層配線上に浮きあがりやすいものと推察される。また、エージング500時間後の密着強度も1.0kgf/2mm□未満であり、エージング劣化も大きいことがわかる。
【0043】尚、試料番号15乃至試料番号17は、二酸化マンガン添加系に対するモリブデン及びタングステンの添加量の影響を調べたものである。添加量が3重量部以下の試料番号15を見ると、反りが130μmとかなり大きくなっている。モリブデン及びタングステンの添加量の効果は主に反りに利いていることが分かる。一方、添加量が5.6重量部以上の試料番号17を見ると、エージング500時間後の密着強度が1.0kgf/2mm□未満である。添加量が必要以上に多いと、エージング劣化に利いてくることがわかる。
【0044】表2は、請求項1及び請求項3に記載の発明に対応する結果である。実施例である試料番号18乃至試料番号22及び試料番号24乃至試料番号26を見ると、反りが40μm未満、ハンダぬれ性が95〜100%、ハンダ耐熱性が3〜5回、初期密着強度が4.35〜4.89kgf/2mm□、エージング50時間後の密着強度が3.11〜3.76kgf/2mm□、エージング500時間後の密着強度が1.35〜2.24kgf/2mm□と、全ての項目において十分合格レベルであった。
【0045】尚、実施例である試料番号24乃至試料番号26と比較例である試料番号27は、酸化銅の添加量の影響を調べた結果である。酸化銅の添加量が増えるにつれてハンダぬれ性及びハンダ耐熱性が劣化していくことがわかる。全ての特性を合格するには、酸化銅の添加量は1.0重量部以下にする必要があることがわかる。
【0046】試料番号23は、二酸化ケイ素の添加量が1.0重量部を越える比較例である。ハンダぬれ性が75%、ハンダ耐熱性が1回と、ハンダ関係の特性が劣る結果となった。これは、二酸化ケイ素の添加量が1.0重量部を越えると表層配線の上に二酸化ケイ素が浮いた状態となってハンダ特性を劣化させるものと推察される。
【0047】試料番号28乃至試料番号30は、ガラスフリットを添加した比較例である。ガラスフリットの添加量が増えるにつれて、やはりハンダぬれ性及びハンダ耐熱性が劣化していくことがわかる。尚、エージング500時間後の密着強度もかなり劣化しているが、これはガラスフリットによるガラス結合層がエージング時の加熱によって強度劣化を促進したものと推察される。
【0048】試料番号31乃至試料番号35は白金添加量を0〜5重量部の間で変化させた結果である。白金無添加の比較例である試料番号31では、ハンダぬれ性及びハンダ耐熱性について大きく劣る結果となった。一方、白金添加量が0.1〜5重量部の実施例である試料番号32乃至試料番号35では、全ての評価項目において良好な結果を示した。ハンダ特性については、耐熱性の高い白金を添加した効果が如実に表れている。尚、白金添加量を5重量部以上にしない理由は、銀/白金の焼成温度が銀と比較して100℃以上上がってしまい焼けなくなるからである。また、高価な白金を多く用いることによるコスト高も問題となる。したがって、白金添加量は通常0.1〜5重量部、特性上及びコスト上のバランスを考えると、0.5〜3重量部の範囲が好ましい。
【0049】本発明の導電ペーストを用いたセラミック配線基板を応用してマイクロ波回路チップを作成することができる。
【0050】次に、本発明を適用したマイクロ波回路チップの一例としてのローパスフィルタ内蔵カプラと、それを構成するインダクタンス回路及びキャパシタンス回路について説明する。
【0051】図1は、携帯電話機に用いられるローパスフィルタ内蔵カプラを示す概略図である。図1に示すように、ローパスフィルタ内蔵カプラ10は、8層の絶縁基板12を積層して構成される。各絶縁基板12は、上記実施例1の絶縁基板の表面などに必要な回路要素を形成したものである。ローパスフィルタ内蔵カプラ10のサイズは、長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.3mmである。図1は概略図であり、縦方向の縮尺と横方向の縮尺とは同一でなないことに留意されたい。ローパスフィルタ内蔵カプラ10の両側面に形成された6つの凹部11には、1つの層の回路要素と他の層の回路要素とを電気的に接続するための層間導体としての配線13が設けられている。配線13は、本発明の導電ペーストを用いて形成した銀/白金で構成されている。尚、配線13以外の内層導体は銀から構成されている。導体抵抗をより低く抑えて、伝送ロスを低減する趣旨である。
【0052】図2(a)及び図2(b)は、図1に示すローパスフィルタ内蔵カプラの積層基板のうち、インダクタンス回路が設けられた基板とキャパシタンス回路が設けられた基板とを示す図である。
【0053】図2(a)に示す絶縁基板12aには、インダクタンス回路14a及び14bと、層間導体としてのバイアホール導体16と、該バイアホール導体16と電気的に接続されたコンタクト領域18とが形成されている。図2(b)に示す絶縁基板12bには、キャパシタンス回路20a、20b及び20cが形成され、絶縁基板12cには、キャパシタンス回路22が形成されている。
【0054】図2(a)に示すインダクタンス回路14a及び14bと、コンタクト領域18とは、絶縁基板12aの上に積層される絶縁基板の回路要素と電気的に接続され、バイアホール導体16は、絶縁基板12aの下に積層される絶縁基板の回路要素と電気的に接続される。図2(b)に示すキャパシタンス回路20a、20b及び20cとキャパシタンス回路22との間で形成される静電容量により、キャパシタンスが形成される。
【0055】次に、上述のローパスフィルタ内蔵カプラ10の製造方法を、図3を参照して説明する。図3は、図2(b)に示す絶縁基板12cを9個取りするセラミックグリーンシートの平面図である。グリーンシート30の上面には、キャパシタンス回路を形成するための銀ペーストからなる回路パターン32がスクリーン印刷により形成されている。図3において、点線34は各絶縁基板を形成する際の切断線を示している。この点線34に沿って、図1に示す凹部11を形成するための通孔36がパンチにより打ち抜かれている。
【0056】各絶縁基板12に図2(a)及び図2(b)に示すような必要な回路パターンを形成したものを8層積層し、次に、通孔36の内壁面に本発明の銀/白金導電ペーストをスクリーン印刷法で印刷する。次に、図3に示す点線34に沿って切断を行う。次に、絶縁基板を構成するグリーンシート及び回路パターンを構成する銀/白金導電ペーストを同時に焼成する。これにより、図1に示すローパスフィルタ内蔵カプラが得られる。
【0057】図4は、本発明が適用されたパワーアンプを示す一部切欠断面図である。図4に示すように、パワーアンプ40は、4層の絶縁基板42a〜42dを積層して構成されるが、積層基板41の中央部にはキャビティ44が設けられている。キャビティ44の領域における絶縁基板42c、42dは2層構造をなしている。このキャビティ44を規定する絶縁基板42b上には、集積回路が作りつけられた半導体チップ46が本発明の銀/白金導体を介して金/錫ロー材を用いて搭載されている。キャビティ44を取り囲むステップ部48と半導体チップ46とは、ボンディングワイヤ50により電気的に接続されている。最上層である第4層の絶縁基板42d上には、抵抗等のチップ部品52が本発明の銀/白金導体を介してハンダ実装により取り付けられている。積層基板41の内部には、銀からなる配線層54やバイアホール導体56が設けられている。
【0058】次に、上記パワーアンプの製造方法について説明するが、はじめに、該パワーアンプに用いられる積層基板の製造方法について説明する。
【0059】上述の実施例1と同様に、グリーンシート(厚み0.15mm)を作成し、100mm×100mmの大きさに切断したものを準備する。各層のグリーンシートには、内層用の回路パターンを銀の導電ペースト、表層用の回路パターンを本発明の銀/白金の導電ペーストを用いてスクリーン印刷法によりマトリックス状に印刷し、また、下から3層目及び4層目となるシートには、ステップ部48及びキャビティ44を形成するための通孔をマトリックス状に形成する。次に、回路パターンが印刷されたグリーンシートを積層して、グリーンシートと回路を形成する銀及び/又は白金導電ペーストを同時焼成する。焼成した大型積層基板を図6〜図8に示す。
【0060】図6に示すように、大型積層基板60は、互いに直交するX方向及びY方向に拡がる多数のチップ領域62からなり、点線で示す切断線64で切断することにより、1つの積層基板60から多数個のパワーアンプ用基板を作ることができる。
【0061】図7は、図6に示す線VII−VIIに沿った断面図である。図7に示すように、縁部を除く積層基板の長さは63mmであり、1つのチップ領域の長さは7mmである。また、積層基板60全体の長さは75mmである。
【0062】図8は、図7に示す部分Sの拡大図である。図8に示すように、積層基板60は、層La、Lb、Lc及びLdからなる。各層には、金属配線、パッド等を形成するために銀メタライズ層が設けられる。層Laの下面には、本発明の銀/白金メタライズ層が設けられ、上面には銀メタライズ層が設けられる。層Lb、層Lc及び層Ldの上面には本発明の銀/白金メタライズ層が設けられる。また、層Laの下面と、層Lb、Lc及びLdの露出部には、メタライズ層を覆うようにして絶縁のためのセラミックコートが形成される。このように、積層基板60は、銀及び/又は白金のメタライズ層が設けられた絶縁基板を、複数枚積層したものを焼成したものであるが、上述したように、絶縁基板の組成を本発明の範囲内とすることにより、該絶縁基板が導体層と物性的にマッチングするため、上記のような大型積層基板60を作成しても焼成後の積層基板に反りや変形は殆どない。
【0063】次に、集積回路及びチップ部品を実装し、図示しない電磁シールド用メタルキャップが取り付けられる。その後、図6に示す点線64で切断する。これにより、1つの基板から多数のパワーアンプ部品が得られる。
【0064】図4に示すパワーアンプは、図5に示す従来のパワーアンプに比べて小型化している。これは、従来のパワーアンプ用基板は1層の基板410からなるので、基板表面にしか配線及び回路要素を設けることができないため、大きな面積が必要であったためである。本発明が適用された積層基板では基板内部に配線及び必要であれば回路要素を設けることができるため、従来よりもコンパクトなパワーアンプが得られる。
【0065】以上のように、本発明の銀/白金メタライズ層を有する積層基板は、大型であっても反りや変形がないことが特徴である。たとえば、上記75mm×75mmの4層の大型積層基板60における焼成後の反りは40μm以下である。従って、このような大型の積層基板を用いて、パワーアンプを高い生産効率で作ることができる。また、パワーアンプを小型化することができる。
【0066】なお、上記実施例では、本発明が適用される回路構成として、ローパスフィルタ内蔵カプラとパワーアンプについて説明したが、本発明はローパスフィルタ、ハイパスフィルタ等のフィルタ回路、その他のマイクロ波回路に応用することができる。
【0067】尚、本発明の実施の形態は、上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採り得ることはいうまでもない。
【0068】
【発明の効果】以上のように、本発明の導電ペーストを用いれば、ホウケイ酸鉛系ガラスをガラス主成分とするガラスセラミックからなる基板に、密着強度、ハンダ耐熱性、基板との焼成マッチングに優れ、導体損失を低減した表層配線を容易に同時焼成にて形成することができる。かかる導電ペーストを用いたセラミック配線基板は、ハンダ実装等の実装工程で優れた信頼性を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例が適用された、携帯電話に用いられるローパスフィルタ内蔵カプラを示す概略図である。
【図2】図1に示すローパスフィルタ内蔵カプラの積層基板を示す斜視図であり、(a)は、インダクタンス回路が設けられた基板を示し、(b)は、キャパシタンス回路が設けられた基板を示す。
【図3】図2(b)に示す絶縁基板を9個取りするセラミックグリーンシートの平面図である。
【図4】本発明が適用されたパワーアンプを示す一部切り欠き断面図である。
【図5】従来のパワーアンプの側面図である。
【図6】本発明が適用された大型積層基板を示す斜視図である。
【図7】図6に示す線VII−VIIに沿う断面図である。
【図8】図7に示す領域Sの拡大図である。
【符号の説明】
10−−−ローパスフィルタ内蔵カプラ
12,12a,12b,12c−−−絶縁基板
13−−−銀/白金導体
14a,14b−−−インダクタンス回路
20a,20b,20c−−−キャパシタンス回路
22−−−キャパシタンス回路
30−−−グリーンシート
32−−−回路パターン
34−−−切断線
40−−パワーアンプ
41−−−積層基板
42a,42b,42c,42d−−−絶縁基板
54−−−銀配線層
56−−−バイアホール銀導体
60−−−大型積層基板
62−−−チップ領域
64−−−切断線

【特許請求の範囲】
【請求項1】 銀/白金100重量部に対して二酸化マンガンを0.2〜1重量部、酸化銅を0.2〜1重量部、二酸化ケイ素を0.3〜1重量部、モリブデン及びタングステンの金属粉末を3〜5.6重量部含有することを特徴とする導電ペースト。
【請求項2】 銀/白金100重量部に対して二酸化マンガンを0.2〜1重量部、酸化銅を0.2〜1重量部、BET法による比表面積が50m2/g以上で、且つ、1次粒子の平均径が5〜50mμmで、且つ、純度が99.8%以上の二酸化ケイ素を0.3〜1重量部、モリブデン及びタングステンの金属粉末を3〜5.6重量部含有することを特徴とする導電ペースト。
【請求項3】 ホウケイ酸鉛系ガラスをガラス主成分とするガラスセラミックからなる絶縁部と、銀を主成分とする配線部からなるセラミック配線基板であって、該配線部の少なくとも一部が、銀/白金100重量部に対して二酸化マンガンを0.2〜1重量部含有する銀/白金で構成されることを特徴とするセラミック配線基板。
【請求項4】 ホウケイ酸鉛系ガラスをガラス主成分とするガラスセラミックからなる絶縁部と、銀を主成分とする配線部からなるセラミック配線基板であって、該配線部の少なくとも一部が、銀/白金100重量部に対して二酸化マンガンを0.2〜1重量部、酸化銅を0.2〜1重量部、二酸化ケイ素を0.3〜1重量部、モリブデン及びタングステンの金属粉末を3〜5.6重量部含有する導電ペーストを用いて形成したことを特徴とするセラミック配線基板。
【請求項5】 ホウケイ酸鉛系ガラスをガラス主成分とするガラスセラミックからなる絶縁部と、銀を主成分とする配線部からなるセラミック配線基板であって、該配線部の少なくとも一部が、銀/白金100重量部に対して二酸化マンガンを0.2〜1重量部、酸化銅を0.2〜1重量部、BET法による比表面積が50m2/g以上で、且つ、1次粒子の平均径が5〜50mμmで、且つ、純度が99.8%以上の二酸化ケイ素を0.3〜1重量部、モリブデン及びタングステンの金属粉末を3〜5.6重量部含有する導電ペーストを用いて形成したことを特徴とするセラミック配線基板。

【図1】
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【図2】
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【図8】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2001−143527(P2001−143527A)
【公開日】平成13年5月25日(2001.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−248536
【出願日】平成11年9月2日(1999.9.2)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】