説明

導電ペースト

【課題】 本発明は、積層セラミックコンデンサに層間剥離(デラミネーション)や亀裂(クラック)といった構造欠陥を発生させることがなく、極めて薄い膜厚の内部電極層を形成することが可能であると共に、安価に製造することのできる導電ペーストを提供する。
【解決手段】 本発明の導電ペーストは、金属粉、バインダー樹脂及び溶剤を含有してなる導電ペーストであって、上記金属粉が亜臨界状態、臨界状態又は超臨界状態の流体によって抽出されたものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサなどの積層型電子部品の内部電極層に用いられる導電ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化の要求に応えるために、電子機器に使用される積層型電子部品の一層の小型化・高容量化が進められている。例えば、積層セラミックコンデンサにおいても、誘電体層及び内部電極層の薄膜化・多層化が進められており、誘電体層の厚さ1.5μm以下、内部電極層の厚さ1μm以下で且つ誘電体層及び内部電極層の積層数が500層以上のものが製造されるようになっている。
【0003】
このような積層セラミックコンデンサは、一般に次のような工程を経て製造される。先ず、ポリビニルブチラール樹脂やポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂などのバインダー樹脂を有機溶剤に溶解させた溶液中に可塑剤、分散剤などを添加した後、セラミック原料粉末を加え、ボールミルなどにより均一に混合し、混合時に生じた泡を除去して、一定粘度を有するセラミックスラリー組成物を得る。このセラミックスラリー組成物をドクターブレード、リバースロールコーターなどを用いて、離型処理が施されたポリエチレンテレフタレートフィルム又はSUSプレートなどの支持体上に流延成形する。そして、これを加熱することによって、セラミックスラリー組成物から有機溶剤などの揮発分を除去した後、支持体から剥離してセラミックグリーンシートを得る。
【0004】
次に、得られたセラミックグリーンシートの一面に、導電ペーストを印刷又は塗布し、これを乾燥させることによって導電ペースト層を形成する。続いて、この導電ペースト層が形成されたセラミックグリーンシートを複数枚積層し、これを加熱圧着することによって、セラミックグリーンシートと導電ペースト層とが交互に積層された積層体を得る。そして、上記積層体中に含まれるバインダー樹脂成分などを熱分解して除去する処理、いわゆる脱脂処理を行なった後、焼成して得られるセラミック焼成物の端面に外部電極を焼結する工程を経て積層セラミックコンデンサが得られる。
【0005】
従来、このような積層セラミックコンデンサの内部電極層としては、白金、パラジウム、銀−パラジウム合金などの貴金属が用いられてきた。しかし、近年はコスト低減のために、ニッケルなどの卑金属の使用が増加し、卑金属を内部電極層に用いる技術もかなり進歩してきた。既に、このような内部電極層用のニッケル粉としては、従来用いられてきたものよりも微細な、粒径0.5〜2μmのニッケル粉が使用されるようになったが、近年、内部電極層の厚さが1μm以下の積層セラミックコンデンサが求められるようになっており、それに伴って、更に粒径の小さなニッケル粉が望まれるようになっている。
【0006】
ここで、厚さ1μm以下の内部電極層を形成するためには、内部電極層の厚さと同程度の平均粒径のニッケル粉を用いればよいように思われるが、実際に内部電極層の厚さと同程度の平均粒径を有するニッケル粉によって内部電極層を形成すると、均一な導電ペースト層を形成することができず、上述のような加熱圧着時や焼成時などの加熱工程において導電ペースト層に凹凸ができてしまって、セラミックグリーンシートと導電ペースト層との間で大きな摩擦応力が発生してしまうため、得られる積層セラミックコンデンサの誘電体層と内部電極層とが層間剥離(デラミネーション)してしまったり、或いは、誘電体層に亀裂(クラック)が生じてしまう。従って、内部電極層の厚さよりも微細なニッケル粉が求められており、特に平均粒径0.1μm未満のニッケル粉が望まれている。
【0007】
更に、ニッケル粉の平均粒径が上記のような範囲内であっても、ニッケル粉に粗粒子が混入していると、セラミックグリーンシート上に導電ペースト層を形成した際に、導電ペースト層の表面に突起が形成され、このセラミックグリーンシートを積層させて加熱圧着させた際に、導電ペースト層の突起がセラミックグリーンシートを突き破って、得られる積層セラミックコンデンサに短絡不良が発生し易くなるので、粒径のばらつきが少ないニッケル粉が求められている。
【0008】
このような積層セラミックコンデンサ内部電極層用のニッケル粉の製造方法としては、特許文献1に記載されているような塩化ニッケル蒸気と水素蒸気を接触させて還元反応させることによりニッケルを生成させる気相還元法、特許文献2に記載されているようなニッケル塩とヒドラジン系還元剤とを含む水溶液からニッケルを析出させる湿式還元法などが提案されている。
【0009】
しかしながら、従来の気相還元法によるニッケル粉の製造では、確率論的に発生するニッケル粒同士の気相での衝突により、ニッケルが粒成長し、得られるニッケル粉の粒度分布が広くなってしまうので、上述のような理由で、誘電体層と内部電極層との層間剥離(デラミネーション)や誘電体層に亀裂(クラック)を発生させる原因となってしまっていた。又、粒径が0.1μm未満のニッケル粉を生成しようとする場合には、ニッケルが希薄な雰囲気下で気相還元を行なわざるを得ないため、ニッケル粉の生成速度が遅い上に、気相還元中に混入してしまう粗粉とニッケル粉とを分離するために精密な分級操作が必要となって、製造コストが高騰してしまっていた。
【0010】
一方、ニッケル溶液に還元剤を反応させる湿式還元法では、気相還元法に比べ粒径のばらつきが少ないニッケル粉を生成させやすいが、希薄なニッケル水溶液で還元反応を行う必要があるため、生成したニッケル粉を回収するためには大量の水を除去する必要があり、製造コストがかさんでしまっていた。又、湿式還元法で得られるニッケル粉は多結晶体であり、これを積層セラミックコンデンサの内部電極層に用いた場合、焼成などの加熱工程において内部電極層の体積が収縮し、誘電体層と内部電極層との層間で大きな摩擦応力が発生してしまうため、誘電体層と内部電極層とが層間剥離(デラミネーション)してしまったり、或いは、誘電体層に亀裂(クラック)が生じてしまうという問題があった。
【0011】
【特許文献1】特開平08−246001号公報
【特許文献2】特開2001−214201号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、積層セラミックコンデンサに層間剥離(デラミネーション)や亀裂(クラック)といった構造欠陥を発生させることがなく、極めて薄い膜厚の内部電極層を形成することが可能であると共に、安価に製造することのできる導電ペーストを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の導電ペーストは、金属粉、バインダー樹脂及び溶剤を含有してなる導電ペーストであって、上記金属粉が亜臨界状態、臨界状態又は超臨界状態の流体によって抽出されたものであることを特徴とする。
【0014】
本発明の導電ペーストに用いられる金属粉としては、亜臨界状態、臨界状態又は超臨界状態の流体によって抽出された金属粉に限定される。なお、「亜臨界状態」とは、任意の物質において、温度が臨界温度を下回り或いは圧力が臨界圧力を下回っているか、又は、温度が臨界温度を下回り且つ圧力が臨界圧力を下回っている状態であって、温度が臨界温度に、圧力が臨界圧力に近い状態をいう。「臨界状態」とは、任意の物質において、温度が臨界温度で且つ圧力が臨界圧力である状態をいい、「超臨界状態」とは、温度が臨界温度を超え且つ圧力が臨界圧力を超えている状態をいう。
【0015】
又、上記亜臨界状態、臨界状態又は超臨界状態の流体として用いられる液体としては、特に限定されず、例えば、水;アルコール類、エーテル類、アセトニトリル、テトラヒドロフランジメチルスルホキシドなどの極性有機溶媒;メタン、エタン、プロパンなどの液化ガスなどが挙げられ、水が好ましい。これは、水は安価に入手することができ、臨界点付近で誘電率を大きく変化させるため、温度、圧力の操作により、各物質に対する溶解度などの溶媒物性を容易にコントロールすることができるからである。
【0016】
上記導電ペーストに含有される金属粉としては、亜臨界状態、臨界状態又は超臨界状態の流体によって抽出された金属粉であれば特に限定されないが、導電ペーストの製造コストの面から卑金属粉であることが好ましく、電気抵抗が小さいことから、銅粉、ニッケル粉であることがより好ましく、ニッケル粉であることが特に好ましい。
【0017】
なお、本発明において金属とは、具体的に、元素周期律表の原子番号が3のLiから6のCまで、原子番号が11のNaから15のPまで、原子番号が19のKから34のSeまで、原子番号が37のRbから52のTeまで、原子番号が55のCsから85のAtまで及び原子番号が87のFr以上の元素をいい、卑金属とは、金属から、Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Osを除いたものをいい、具体的には、元素周期律表の原子番号が3のLiから6のCまで、原子番号が11のNaから15のPまで、原子番号が19のKから34のSeまで、原子番号が37のRbから43のTcまで、原子番号が48のCdから52のTeまで、原子番号が55のCsから75のReまで、原子番号が80のHgから85のAtまで及び原子番号が87のFr以上の元素をいう。
【0018】
ここで、上記金属粉の製造方法について説明する。先ず、溶媒となる液体に金属原料と還元性物質を加えた出発原料を調製する。続いて、この出発原料を耐圧容器に入れて、液体が、亜臨界状態、臨界状態又は超臨界状態の流体となる温度及び圧力まで加熱及び加圧し、所定時間反応させる。そして、反応終了後、耐圧容器を冷却して、該耐圧容器内から生成物を取り出し、これを吸引濾過などの方法で濾別回収することによって、金属粉が得られる。
【0019】
ここで、上記反応における反応条件は、使用する溶媒及び製造する金属に応じて適宜選択され、例えば、溶媒が水(臨界温度:374℃、臨界圧力:22MPa)の場合には、加熱温度が250〜900℃、圧力が飽和蒸気圧以上で且つ100MPa以下、反応時間が0.1秒〜5時間の条件であることが好ましく、加熱温度が250〜600℃、圧力が飽和蒸気圧以上で且つ100MPa以下、反応時間が0.1秒〜5時間の条件であることがより好ましい。
【0020】
具体的に、水を溶媒として用いる場合の亜臨界状態、臨界状態又は超臨界状態のそれぞれの状態における好ましい反応条件としては、亜臨界状態では、温度が250℃以上で且つ374℃未満、圧力が飽和蒸気圧以上で且つ100MPa以下、反応時間が0.2秒〜1時間であることが好ましく、臨界状態では、温度374℃、圧力22MPa、反応時間が0.2秒〜1時間であることが好ましく、超臨界状態では、温度が374℃より高く600℃以下、圧力が22MPaより高く100MPa以下、反応時間が0.2秒〜1時間であることが好ましい。
【0021】
又、上述のような反応条件下において、流体である水の密度が小さいと、単位体積あたりの水の存在量が少なくなって、反応が進行しにくくなることがあるので、水の密度は、0.1g/cm3 以上であることが好ましく、0.2〜0.5g/cm3 であることがより好ましい。
【0022】
上記金属粉の製造に用いる金属原料としては、特に限定されず、金属単体以外に、金属塩を用いることができる。そして、上記金属塩としては、蟻酸塩、酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、塩素化物などが挙げられ、これらの金属塩のなかでも、電子部品の内部電極層に不具合を発生させる原因となるイオン不純物を残存させにくい蟻酸塩が好ましい。
【0023】
そして、上記還元性物質としては、特に限定されず、例えば、アスコルビン酸、アルデヒド類、水素、アンモニア、蟻酸、シュウ酸、クエン酸、アミン類、アルコール類、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウムなどが挙げられ、これらの中でも亜臨界状態、臨界状態又は超臨界状態において、変性して還元性物質を生成する蟻酸、シュウ酸、クエン酸が好ましく、蟻酸がより好ましい。
【0024】
このように、金属粉を亜臨界状態、臨界状態又は超臨界状態の流体によって抽出して製造した場合、その製造工程に溶解−析出過程を含んでいることから、金属粉の粒径、結晶化度及び金属粉結晶の成長方向をコントロールすることが容易である。従って、粒径が微細で且つばらつきが少なく、結晶の方向が揃っていると共に、結晶化度の高い金属粉を得ることが可能である。更に、高温高圧の条件下で抽出を行なうため、目的の金属粉を極めて短時間で得ることができる。
【0025】
そして、本発明の導電ペーストに用いる金属粉の平均粒径は、小さいと、金属粉の表面が酸化されやすくなったり、金属粉の凝集エネルギーが高くなって分散されにくくなることがある一方、大きいと、均一な導電ペースト層を形成することができず、後述する加熱圧着時や焼成時などの加熱工程において、導電ペースト層に凹凸が生じてしまって、セラミックグリーンシートと導電ペースト層との間で摩擦応力が発生し、得られる積層セラミックコンデンサの誘電体層と内部電極層とが層間剥離(デラミネーション)してしまったり、或いは、誘電体層に亀裂(クラック)が生じてしまうことがあるので、0.01〜0.09μmであることが好ましく、0.03〜0.08μmであることがより好ましい。
【0026】
又、上記金属粉の粒度分布は、広いと、導電ペースト層を平らかに形成することができずに、導電ペースト層の表面に形成された突起がセラミックグリーンシートを破損して、得られる積層セラミックコンデンサの誘電体層に亀裂(クラック)が生じることがあるので、平均粒径の1.5倍以上の粒径を持つ粒子の数が全粒子数の20%以下であり且つ平均粒径の0.5倍以下の粒径を持つ粒子の数が全粒子数5%以下であることが好ましい。
【0027】
なお、本発明における金属粉の平均粒径及び粒度分布は、レーザ回折散乱式粒度分布測定にて測定したものをいう。
【0028】
本発明の導電ペーストに用いられるバインダー樹脂としては、得られる導電ペーストが内部電極層を形成するのに支障を生じるものとなってしまわないものであれば、特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、エチルセルロース、ポリビニルアセタール樹脂などが挙げられ、これらのなかでも、セラミックグリーンシートとの接着性に優れたポリビニルアセタール樹脂が好ましい。
【0029】
更に、上記ポリビニルアセタール樹脂としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体を加水分解して得られる変性ポリビニルアルコールをアセタール化することによって得られた変性ポリビニルアセタール樹脂がより好ましい。
【0030】
そして、上記変性ポリビニルアルコール中におけるエチレン含有量は、少ないと、導電ペースト中の金属粉の分散性が不十分になることがある一方、多いと、変性ポリビニルアルコールの水溶性が不十分になって、変性ポリビニルアルコールをアセタール化するのが困難になったり、水を溶剤として用いた場合、変性ポリビニルアセタール樹脂の溶剤への溶解性が低下して、導電ペーストの調製に支障が生じたり、導電ペーストの経時粘度安定性が悪化したりすることがあるので、1〜20モル%であることが好ましく、3〜15モル%であることがより好ましい。
【0031】
又、上記変性ポリビニルアルコールのケン化度は、低いと、変性ポリビニルアルコールの水溶性が不十分となって、変性ポリビニルアルコールをアセタール化するのが困難になったり、水を溶剤として用いた場合、変性ポリビニルアセタール樹脂の溶剤への溶解性が低下して、導電ペーストの調製に支障が生じたり、導電ペーストの経時粘度安定性が悪化したりすることがあるので、80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましい。
【0032】
なお、上記変性ポリビニルアルコールのケン化度とは、加水分解に用いたエチレン−酢酸ビニル共重合体の全エステル基数に対する変性ポリビニルアルコールの水酸基数の割合(モル%)をいう。
【0033】
そして、上記変性ポリビニルアルコールをアセタール化する方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができ、例えば、塩酸などの酸触媒の存在下で変性ポリビニルアルコール水溶液にアルデヒドを添加する方法などが挙げられる。
【0034】
更に、このようにして得られる変性ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は、小さいと、有機溶剤を溶剤として用いた場合、変性ポリビニルアセタール樹脂の溶剤への溶解性が低下して、導電ペーストの調製に支障が生じたり、導電ペーストの経時粘度安定性が悪化したりすることがある一方、大きいと、導電ペーストの塗膜強度が劣って、内部電極層に亀裂が生じてしまったり、水を溶剤として用いた場合、変性ポリビニルアセタール樹脂の溶解性が低下して、導電ペーストの調製に支障が生じることがあるので、30〜78モル%が好ましく、55〜78モル%がより好ましい。
【0035】
なお、上記変性ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度とは、変性ポリビニルアルコールの全水酸基数に対する変性ポリビニルアルコールをアセタール化した際に消失した水酸基数の割合(モル%)をいい、この値は、変性ポリビニルアセタール樹脂をDMSO−d6 (ジメチルスルホキサイド)に溶解させて、13C−NMRスペクトルを測定し、変性ポリビニルアセタール樹脂のアセタール結合中のメチン基に由来するピーク面積Sa 及び変性ポリビニルアセタール樹脂の水酸基が結合しているメチン基に由来するピーク面積Sb より下記式(1)を用いて算出することができる。
アセタール化度(モル%)=100×Sa /(Sa +Sb ) ・・・式(1)
【0036】
なお、上記変性ポリビニルアセタール樹脂の重合度は、特に限定されないが、小さいと、導電ペーストの塗膜強度が劣って、得られる積層セラミックコンデンサの内部電極層に亀裂が生じてしまうことがある一方、大きいと、導電ペーストの粘度が高くなり過ぎて、取り扱い性が悪化することがあるので、300〜2400であることが好ましく、600〜2000であることがより好ましい。
【0037】
そして、本発明の導電ペースト中におけるバインダー樹脂の含有量は、少ないと、導電ペーストのセラミックグリーンシートへの接着性が不十分となることがある一方、多いと、導電ペーストの粘度が高くなり過ぎて、取り扱い性が悪化することがあるので、導電ペーストに含有される金属粉100重量部に対して、1〜10重量部であることが好ましく、4〜8重量部であることがより好ましい。
【0038】
本発明の導電ペーストに用いられる溶剤としては、バインダー樹脂を溶解させることができると共に、積層セラミックコンデンサを作製する際に、セラミックグリーンシート中のバインダー樹脂を膨潤又は溶解させる、いわゆる「シートアタック現象」を発生させにくいものであれば特に限定されず、例えば、アルコール系、エーテル系、エステル系、炭化水素系の有機溶剤や水などが挙げられ、有機溶剤を用いるのが好ましい。なお、これらの二種以上を混合させたものを用いてもよい。
【0039】
又、本発明の導電ペースト中における上記溶剤の含有量は、少ないと、バインダー樹脂が溶解しないことがある一方、多いと、得られる導電ペーストの粘度が不足して、セラミックグリーンシート上に塗布又は印刷するのが困難になることがあるので、導電ペーストに含有される金属粉100重量部に対して、20〜300重量部であることが好ましく、80〜200重量部であることがより好ましい。
【0040】
なお、本発明の導電ペーストには、その物性を損なわない範囲内であれば、可塑剤、分散剤、界面活性剤などの添加剤が添加されていてもよい。
【0041】
更に、本発明の導電ペーストには、その物性を損なわない範囲内であれば、ガラス、アルミナ、シリカ、酸化銅、酸化マンガン、酸化チタンなどの金属酸化物、モンモリロナイトなどの無機粉末及び金属有機化合物などを、導電ペーストの印刷性、焼結性、得られる積層セラミックコンデンサの特性などを調整する目的で添加してもよい。
【0042】
次に、本発明の導電ペーストの製造方法について説明する。本発明の導電ペーストの製造方法としては、特に限定されず、上述したような金属粉、バインダー樹脂、溶剤及び必要に応じて添加する各種添加剤をブレンダーミル、3本ロールなどの各種混合機を用いて混合する方法が挙げられる。
【0043】
そして、上述のようにして製造された導電ペーストは、例えば、公知の印刷方法を用いてセラミックグリーンシート上に所望形状及び所望厚さで塗工し、乾燥させることによって導電ペースト層を形成し、しかる後、導電ペースト層が形成されたセラミックグリーンシートを複数枚積層し加熱圧着して積層体を製造し、この積層体に脱脂処理を施した上で焼成してセラミック焼成物を製造し、このセラミック焼成物に外部電極を焼結することによって積層セラミックコンデンサを製造することができる。
【発明の効果】
【0044】
本発明の導電ペーストは、亜臨界状態、臨界状態又は超臨界状態の流体によって抽出された金属粉を含有しており、この金属粉は、粒径が微細で且つばらつきが少なく、結晶の方向が揃っていると共に、結晶化度が高いので、セラミックグリーンシート上に極めて薄い薄膜層を形成させることができる。
【0045】
又、本発明の導電ペーストに含有される金属粉は、加熱した際の収縮率が小さいので、積層セラミックコンデンサなどの積層型電子部品の製造工程中に、セラミックグリーンシートとこのセラミックグリーンシート上に形成された導電ペースト層との界面において大きな応力が発生するようなことはなく、セラミックグリーンシートを焼結して得られる誘電体層と、導電ペースト層を焼結して得られる内部電極層との間に層間剥離(デラミネーション)が発生するようなことはなく、更に、誘電体層の亀裂(クラック)も殆ど発生することはない。
【0046】
更に、本発明の導電ペーストに含有される亜臨界状態、臨界状態又は超臨界状態の流体によって抽出された金属粉は、極めて短時間に製造することができ且つ製造コストが安価であることから、導電ペーストも短時間で安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
(金属粉の製造)
水1000重量部に対し蟻酸ニッケル18.4重量部及び蟻酸23.0重量部をオートクレーブ管に入れ、該オートクレーブ管を400℃に加熱した砂浴に入れて30MPaの圧力で5分間加圧した。なお、水の密度は、0.38g/cm3 であった。
【0049】
しかる後、オートクレーブ管を砂浴から取り出し、冷水浴に入れて反応を速やかに停止させ、オートクレーブ管内に析出したニッケルを吸引ろ過によって濾別回収し、ニッケル粉を得た。このニッケル粉の平均粒径及び粒度分布をレーザ回折散乱式粒度分布測定装置(Leeds & Northrup 社製 商品名:「Micro Trac HRA9320-X100型」)を用いて測定したところ、平均粒径が0.07μm、粒度分布は、平均粒径の1.5倍以上の粒径を持つ粒子の数が全粒子数の20%以下であり且つ平均粒径の0.5倍以下の粒径を持つ粒子の数が全粒子数の5%以下であった。
【0050】
(変性ポリビニルアセタールの調製)
重合度1700、エチレン含有量5モル%、ケン化度98モル%の変性ポリビニルアルコール193重量部を水2900重量部に加えて90℃で約2時間攪拌することにより溶解させた。次に、得られた水溶液を28℃まで冷却し、上記水溶液に濃度35重量%の塩酸20重量部とn−ブチルアルデヒド115重量部とを添加した後、上記水溶液を20℃まで冷却しこの温度を保持しながらアセタール化反応を行い、反応生成物を析出させた。そして、水溶液を30℃に昇温してこの温度のまま5時間保持することで反応を完了させて、常法により中和、水洗及び乾燥を行い、変性ポリビニルアセタール樹脂の白色粉末を得た。得られた変性ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度を13C−NMR(核磁器共鳴スペクトル)を用いて上述のような要領で測定したところ、変性ポリビニルアセタール樹脂は、そのブチラール化度が75モル%で、重合度が1500であった。
【0051】
(導電ペーストの調製)
上述のようにして得られたニッケル粉100重量部に対して、上記のようにして得られた変性ポリビニルアセタール樹脂6重量部と、テルピネオール60重量部、イソパラフィン30重量部を混合し、三本ロールで混練して導電ペーストを得た。
【0052】
(比較例1)
硫酸ニッケル・6水和物44.8重量部及びクエン酸・1水和物18重量部を純水80重量部に溶解して得られた水溶液を60℃に維持しながら16.7重量%の水酸化ナトリウム水溶液100重量部中にゆっくり滴下し、水酸化ナトリウム水溶液中にニッケルの水酸化物を析出させた。次に、この水酸化ナトリウム水溶液にヒドラジン・1水和物30重量部を30分間に亘って徐々に添加し、水酸化ニッケルを還元することによって、粒径が0.7μm、平均粒径の1.5倍以上の粒径を持つ粒子の数が全粒子数の40%であると共に、平均粒径の0.5倍以下の粒径を持つ粒子の数が全粒子数の5%以下であるニッケル粉を得た。そして、このようにして得られたニッケル粉を用いたこと以外は、実施例1と同じ要領で導電ペーストを調製した。
【0053】
(比較例2)
バインダー樹脂として、変性ポリビニルアセタール樹脂の代わりにエチルセルロースを用いたこと以外は、比較例1と同様にして、導電ペーストを調製した。
【0054】
次に、上記のようにして得られた導電ペーストを用いて、積層セラミックコンデンサを作製し、そのショート発生率を測定した。
【0055】
(セラミックグリーンシートの作製)
トルエン30重量部及びエタノール15重量部の混合溶剤にポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業社製 商品名「エスレックB(BH−3)」、重合度1700)10重量部を添加して攪拌溶解させ、更に、混合溶媒に可塑剤としてジブチルフタレート3重量部を加えて攪拌溶解させて樹脂溶液を得た。
【0056】
次に、上記樹脂溶液にセラミック粉末としてチタン酸バリウム(堺工業社製 商品名「BT−01」、平均粒径:0.1μm)100重量部を加え、ボールミルで48時間混合してセラミックスラリー組成物を得た。このセラミックスラリー組成物を離型処理したポリエステルフィルム上に、乾燥後の厚みが約1μmになるように塗布して、常温で1時間風乾し、熱風乾燥機を用いて80℃で3時間、120℃で2時間乾燥させてセラミックグリーンシートを得た。
【0057】
(積層セラミックコンデンサの作製)
上記のようにして得たセラミックグリーンシートの一面に、スクリーン印刷によって導電ペーストを乾燥後の厚さが約1μmになるように印刷して乾燥させ、セラミックグリーンシートの一面に導電ペースト層を形成した。
【0058】
続いて、セラミックグリーンシート100枚を、その導電ペースト層が同一方向となるように重ね合わせ、更に、最外層のセラミックグリーンシートのそれぞれに、導電ペースト層が形成されていないセラミックグリーンシートを1枚ずつ重ね合わせ、温度70℃、圧力14.7MPaで10分間に亘ってセラミックグリーンシートの重ね合わせ方向に熱圧着して積層体を得た。
【0059】
次に、この積層体を窒素雰囲気下にて昇温速度3℃/分で450℃まで昇温し、積層体を5時間に亘って450℃に保持した後、積層体を更に昇温速度5℃/分で1350℃まで昇温し、積層体を10時間に亘って1350℃に保持して、積層セラミック焼成体を得た。
【0060】
この積層セラミック焼成体にバレル研磨を施した後、銀を主成分とする外部電極用の導電ペーストを積層セラミック焼成体の両端部に塗布し焼付けて外部電極を形成することによって積層セラミックコンデンサを作製した。
【0061】
(ショート発生率の測定)
上記のようにして得られた積層セラミックコンデンサを各々1000個ずつ用意して、その静電容量をLCRメーター(ヒューレット・パッカード社製)によって測定し、積層セラミックコンデンサの全数に対する短絡不良の積層セラミックコンデンサ数の百分率を算出し、その結果を表1に示した。
【0062】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉、バインダー樹脂及び溶剤を含有してなる導電ペーストであって、上記金属粉が亜臨界状態、臨界状態又は超臨界状態の流体によって抽出されたものであることを特徴とする導電ペースト。
【請求項2】
金属粉がニッケル粉であることを特徴とする請求項1に記載の導電ペースト。
【請求項3】
バインダー樹脂がポリビニルアセタール樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の導電ペースト。
【請求項4】
ポリビニルアセタール樹脂が、エチレン含有量1〜20モル%で且つケン化度80モル%以上の変性ポリビニルアルコールをアセタール化してなる変性ポリビニルアセタール樹脂であることを特徴とする請求項3に記載の導電ペースト。

【公開番号】特開2007−294361(P2007−294361A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−123627(P2006−123627)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】