説明

導電性ダイヤモンド電極構造体及びフッ素含有物質の電解合成方法

【課題】フッ化物イオンを含有する溶融塩電解浴を用いてフッ素含有物質を電解合成するために使用する導電性ダイヤモンド電極構造体、及び、導電性ダイヤモンド電極構造体を用いてフッ素含有物質を合成する電解合成方法を提供する。
【解決手段】フッ化物イオンを含有する溶融塩電解浴を用いてフッ素含有物質を電解合成するために使用する導電性ダイヤモンド電極構造体であって、導電性電極給電体8と導電性基体の表面に導電性ダイヤモンド皮膜を坦持した導電性ダイヤモンド触媒担持体9とよりなり、導電性電極給電体8の前記電解浴に浸漬する部分に導電性ダイヤモンド触媒担持体9を着脱自在に取り付けたことを特徴とする導電性ダイヤモンド電極構造体、及び、該導電性ダイヤモンド電極構造体を陽極として用いるフッ素含有物質の電解合成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化物イオンを含有する溶融塩電解浴を用いてフッ素含有物質を電解合成するために使用する導電性ダイヤモンド電極構造体及び導電性ダイヤモンド電極構造体を用いてフッ素含有物質を合成する電解合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素ガスやNF3ガスは、KF・2HFやNH4・2HFなどのフッ化物含有溶融塩を電解質として、これを電解することによって合成されている。
【0003】
フッ化物含有溶融塩を電解質としてフッ素含有物質を合成する電解合成するための電解槽には、陽極室と陰極室が隔壁で区画された箱形の電解槽が使用され、電極下部を溶融塩に浸漬し、これらの電極は電解槽内で給電ブスバーと接続され、電解が実施されており、溶融塩に浸漬された電極部分で電極反応が進行する。
【0004】
電解質として用いられるフッ素含有溶融塩のHF蒸気圧が高いために、溶融塩の満たされていない電解槽上部は、陽極側ではHFと生成物であるフッ素ガスやNF3ガスで、陰極側ではHFと水素ガスで満たされている。
【0005】
フッ化物含有溶融塩自体の腐食性は、非常に高く、フッ素ガス、NF3ガスも腐食性や反応性が非常に高いため、電極、特に陽極は、電極反応の進行する溶融塩浸漬部においては、目的とする電極反応に対する高い触媒活性が求められる他、フッ化物含有溶融塩や生成するフッ素ガスやNF3との反応活性は低くなければならない。一方、溶融塩に浸漬されていない上部では、HFやフッ素ガス、NF3ガスに対する耐食性が高く、また、これらに対して反応性が低くなければならない。
【0006】
従来、工業電解では、陽極として炭素電極、またはニッケル電極が多く使用され、陰極には鉄やニッケルが用いられているが、陽極として実用されている炭素電極は溶融塩や充満ガスに対する耐食性の高さ、反応性の低さは充分ではなく、ニッケル電極も、溶融塩に対する耐食性の高さ、反応性の低さは充分ではない。
【0007】
炭素電極は電解の進行する溶融塩浸漬部において、生成したフッ素ガスあるいはフッ素ガス生成過程で生じるフッ素ラジカルと反応してフッ化グラファイトを形成して、陽極効果と呼ばれる通電不能状態となり、また、非浸漬部では電極内部にHFやフッ素ガスが侵入し、給電ブスバーとの接続部分などで電極破断が起こる。
このため、従来の方法においては、HFやフッ素ガスの侵入を防止して、電極破断を抑制するために、給電ブスバーとの接続部をメッキ法、或いは溶射法でニッケル被覆することなどが実施されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0008】
また、ニッケル電極では、炭素電極に見られる電極破断は発生しないものの、電解反応の進行する溶融塩浸漬部において、激しい消耗が発生している。
【0009】
また、この種電解合成方法として、炭素電極に見られる陽極効果や、ニッケル電極に見られる著しい電極消耗が発生せず、且つ、目的とする電解反応に対して高い触媒活性を示す導電性炭素質材料を基体とする導電性ダイヤモンド電極が提案されている(特許文献3参照)。
【0010】
一般に、フッ化物含有溶融塩を用いたフッ素ガスやNF3ガスの工業的な電解合成では、300×1000mm程度の炭素電極やニッケル電極が用いられている。導電性ダイヤモンド電極を用いる場合も、300×1000mm程度の大きさが必要である。導電性ダイヤモンド電極は、電極基材に化学蒸着(CVD)法や物理蒸着(PVD)法といった気相合成法によって導電性ダイヤモンド皮膜を形成することによって製造されるが、汎用される装置では、適用できる基材の大きさは概ね300×300mm以下であり、工業的な電解合成に用いられるサイズの電極の製造は困難である。
【0011】
唯一、CVD法の一つである熱フィラメントCVD法では、この大きさに対して適用できる装置が存在するが、この装置であっても、300×1000mmに対して均一な導電性ダイヤモンド皮膜を形成することは困難であり、高価となる。また、熱フィラメントCVD装置も、汎用型は概ね300mm×300mm以下を対象としている。
【0012】
導電性ダイヤモンド電極を用いてフッ素ガスやNF3ガスを合成する場合、導電性ダイヤモンド皮膜が必要な箇所は、電極反応の進行する溶融塩浸漬部のみであるが、前記CVD法やPVD法では基材全てを反応容器に挿入する必要があり、生産性向上を阻害し、また、生産コスト増を招いている。
【0013】
導電性ダイヤモンド電極は、電極反応の進行する溶融塩浸漬部において、高い触媒活性と耐食性を示す優れた材料であるが、非浸漬部ではHFやフッ素ガスの侵入を防止することはできないため、電極破断の問題は解決していない。
【0014】
電極破断の問題を解決するためには、炭素電極と同様に、給電ブスバーとの接続部をニッケルで被覆する必要がある。ニッケルを被覆するためには、一旦形成した導電性ダイヤモンド剥離する必要があり、煩雑な操作を必要とする。導電性ダイヤモンド層を形成する以前にニッケル被覆する方法では、導電性ダイヤモンド層を形成する工程において、被覆したニッケルが劣化し、実用できない。
【0015】
給電ブスバーとの接続部をニッケルで被覆した導電性ダイヤモンド電極であっても、電極破断に至る過程(劣化モード)と、溶融塩に浸漬された電極触媒の劣化モードが異なるため、両者が劣化に至る時間が異なり、これらいずれかが劣化した場合であっても、電極を交換する必要がある。両者の劣化に至る時間を同様にする様設計することは困難であり、無駄であり、劣化していない部分が再利用できることが望まれる。
【0016】
【特許文献1】特開2000−313981号公報
【特許文献2】特開昭60−221591号公報
【特許文献3】特開2006−249557号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記の従来方法においては、導電性ダイヤモンド電極を用いてフッ素ガスやNF3ガスを合成する場合、導電性ダイヤモンド皮膜が必要な箇所は、電極反応の進行する溶融塩浸漬部のみであるが、CVD法やPVD法では基材全てを反応容器に挿入する必要があり、生産性向上を阻害し、また、生産コスト増を招いている。
【0018】
しかも、電極破断に至る過程(劣化モード)と、溶融塩に浸漬された電極触媒の劣化モードが異なるため、両者が劣化に至る時間が異なり、これらいずれかが劣化した場合であっても、電極を交換する必要がある。両者の劣化に至る時間を同様にする様設計することは困難であり、無駄であり、劣化していない部分が再利用できることが望まれる。
【0019】
本発明は、上記従来の欠点を解消し、要求特性が異なる触媒部分と、給電体部分を有する導電性ダイヤモンド電極を、簡便且つ安価に構成するとともに、劣化した触媒部分、または劣化した給電体部分のいずれかを容易に交換可能とすることのできる導電性ダイヤモンド電極構造体及びフッ素含有物質の電解合成方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
そして、本発明による第1の課題解決手段は、上記目的を達成するために、導電性ダイヤモンド電極構造体において、フッ化物イオンを含有する溶融塩電解浴を用いてフッ素含有物質を電解合成するために使用する導電性ダイヤモンド電極構造体であって、導電性電極給電体と導電性基体の表面に導電性ダイヤモンド皮膜を坦持した導電性ダイヤモンド触媒担持体とよりなり、前記導電性電極給電体の前記電解浴に浸漬する部分に前記導電性ダイヤモンド触媒担持体を着脱自在に取り付けたことを特徴とする。
【0021】
また、本発明による第2の課題解決手段は、導電性ダイヤモンド電極構造体において、導電性ダイヤモンド皮膜を坦持した導電性ダイヤモンド触媒担持体が気相合成法により形成したことにある。
【0022】
また、本発明による第3の課題解決手段は、導電性ダイヤモンド電極構造体において、気相合成法が化学蒸着法としたことにある。
【0023】
また、本発明による第4の課題解決手段は、導電性ダイヤモンド電極構造体において、導電性電極給電体が、導電性炭素質材料、ニッケル、モネル合金の何れかとしたことにある。
【0024】
また、本発明による第5の課題解決手段は、導電性ダイヤモンド電極構造体において、導電性基体が、導電性炭素質材料、ニッケル、モネル合金の何れかとしたことにある。
【0025】
また、本発明による第6の課題解決手段は、導電性ダイヤモンド電極構造体において、前記導電性電極給電体の前記電解浴に浸漬する部分に前記導電性ダイヤモンド触媒担持体をビス又はボルトナットによって着脱自在に取り付けたことにある。
【0026】
また、本発明による第7の課題解決手段は、導電性ダイヤモンド電極構造体において、ビス又はボルトットが、導電性炭素質材料、ニッケル、モネル合金の何れかとしたことにある。
【0027】
また、本発明による第8の課題解決手段は、導電性電極給電体が導電性炭素質材料であって、導電性電極給電体の上端のブスバー接続部にメッキまたは溶射による金属被覆膜を形成したことにある。
【0028】
また、本発明による第9の課題解決手段は、導電性ダイヤモンド電極構造体において、導電性電極給電体の上端のブスバー接続部に形成するメッキによる金属被覆膜がニッケル及びモネル合金よりなる群より選ばれた金属を用いたことにある。
【0029】
また、本発明による第10の課題解決手段は、導電性電極給電体と導電性基体の表面に導電性ダイヤモンド皮膜を坦持した導電性ダイヤモンド触媒担持体とよりなり、前記導電性電極給電体の電解浴に浸漬する部分に前記導電性ダイヤモンド触媒担持体を着脱自在に取り付けた導電性ダイヤモンド電極構造体を、導電性ダイヤモンド触媒担持体がフッ化物イオンを含有する溶融塩電解浴中に浸漬するよう保持して電解を行い、フッ素含有物質を電解合成することを特徴とするフッ素含有物質の電解合成方法としたことにある。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、以下に列挙する効果を有するものである。
1)電極反応が進行する触媒部分にのみ導電性ダイヤモンドを担持可能となり、生産性向上、生産コスト低減に寄与する。
2)触媒部分、または給電体部分の何れか一方が劣化した場合、劣化部分のみを容易に交換可能となり、劣化していない部分を再利用できる。
3)触媒部分と給電体部分で、それぞれ適した材質、構造を選択可能となり、生産コスト低減、耐久性向上に寄与する。
4)導電性ダイヤモンド担持体を触媒部分のみに限定し、且つ分割して配置することが可能となり、工業規模の電極製造に汎用装置を利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下に、本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明に係る導電性ダイヤモンド電極構造体を用いてフッ素含有物質を電解合成するための電解槽の概略図を示したものである。1は、混合溶融塩(KF・2HF又はNH4・2HF)等よりなるフッ化物イオンを含有する溶融塩電解浴2を用いてフッ素含有物質を電解合成するための電解槽、3、4、5は、溶融塩電解浴2中に浸漬される陽極、陰極、隔壁、6は、給電ブスバー、7は、整流器を示したものである。図2は、本発明に係る導電性ダイヤモンド電極構造体の実施の1態様を示す概略図であって、陽極3として用いられる。陽極3は、導電性電極給電体8と導電性基体の表面に導電性ダイヤモンド皮膜を坦持した導電性ダイヤモンド触媒担持体9とよりなり、導電性電極給電体8が電解浴2に浸漬する部分に導電性ダイヤモンド触媒担持体9がボルトナット又はビス10等によって着脱自在に取り付けられる。電極給電体8及びボルトナット又はビス10等は、導電性炭素質材料、ニッケル、モネル合金等により構成される。陽極3は、取付孔11によって給電ブスバー6に接続される。陰極4としては、ニッケル、ステンレスなどが用いられる。陰極4も同様にして給電ブスバー6に接続される。
【0032】
図3は、導電性ダイヤモンド触媒担持体9の断面構造を示したものであり、導電性ダイヤモンド触媒担持体9は、導電性基体12の表面に導電性ダイヤモンド皮膜13を坦持したものである。導電性基体12は、導電性炭素質材料、ニッケル、モネル合金等により構成される。
【0033】
図4は、本発明に係る導電性ダイヤモンド電極構造体の第2の実施の態様を示す概略図であって、導電性電極給電体8の上部のブスバー接続部に溶射法によりニッケル等の金属被覆層14を設けたものである。従来の電極においても、図5に示すように、電極破断の問題を解決するため、炭素電極と同様に、ニッケル被覆層14が設けられているが、導電性電極給電体8上に直接、形成した導電性ダイヤモンド皮膜13を一旦、剥離した後、ニッケルを被覆する必要があり、煩雑な操作を必要とする。然るに、本発明によれば、導電性電極給電体8の上部には、導電性ダイヤモンド皮膜13がないため、これを剥離する必要がなく、導電性電極給電体8の上部のブスバー接続部にニッケル等の金属被覆層14を形成することができる。この金属被覆層14としては、ニッケルの他、錫、鉛、亜鉛、銅、銀、金、アルミニウム、鋼、モネル合金等を使用することができるが、ニッケル、モネル合金が好ましい。
【0034】
導電性基体12へ導電性ダイヤモンド皮膜13を坦持させる方法は特に限定されず、任意のものを使用できる。代表的な製造法としては、気相合成法を使用でき、気相合成法としては、CVD(化学蒸着)法、物理蒸着(PVD)法、プラズマアークジェット法を使用できる。また、CVD(化学蒸着)法としては、熱フィラメントCVD(化学蒸着)法又はマイクロ波プラズマCVD法などが使用される。
【0035】
導電性ダイヤモンド皮膜13を坦持させる場合、いずれの方法でも、ダイヤモンド原料として水素ガス及び炭素源の混合ガスが用いるが、ダイヤモンドに導電性を付与するために、原子価の異なる元素(以下、ドーパント)を微量添加する。ドーパントとしては、硼素、リンや窒素が好ましく、好ましい含有率は1〜100,000ppm、更に好ましくは100〜10,000ppmである。また、いずれのダイヤモンド製造法を用いた場合であっても、合成された導電性ダイヤモンド層は多結晶であり、ダイヤモンド層中にアモルファスカーボンやグラファイト成分が残存する。ダイヤモンド層の安定性の観点からアモルファスカーボンやグラファイト成分は少ない方が好ましく、ラマン分光分析において、ダイヤモンドに帰属する1332cm-1付近(1312〜1352cm-1の範囲)に存在するピーク強度I(D)と、グラファイトのGバンドに帰属する1580cm-1付近(1560〜1600cm-1の範囲)のピーク強度I(G)の比I(D)/I(G)が1以上であり、ダイヤモンドの含有量がグラファイトの含有量より多くなることが好ましい。
【0036】
導電性基体12へ導電性ダイヤモンド皮膜13を坦持させる方法として最も好ましい方法の一つである熱フィラメントCVD法について説明する。炭素源となるメタン、アルコール、アセトンなどの有機化合物とドーパントを水素ガスなどと共にフィラメントに供給する。フィラメントを水素ラジカルなどが発生する温度1800−2800℃に加熱し、この雰囲気内にダイヤモンドが析出する温度領域(750−950℃)になるように導電性基体を配置する。混合ガスの供給速度は反応容器のサイズに依るが、圧力は15〜760Torrであることが好ましい。
【0037】
導電性基体12の表面を研磨しておくと、導電性基体12とダイヤモンド皮膜のダイヤモンド層の密着性が向上するため好ましく、算術平均粗さRa0.1〜15μm、最大高さRz1〜100μmが好ましい。また、基体12の表面にダイヤモンド粉末を核付けすることは、均一なダイヤモンド層成長に効果がある。基体12上には通常0.001〜2μmの粒径のダイヤモンド微粒子層が析出する。該ダイヤモンド層の厚さは蒸着時間により調節することができるが、経済性の観点から1〜10μmとするのが好ましい。
導電性ダイヤモンド電極を陽極3に使用し、陰極4にニッケル、ステンレスなどを用いて、KF−2HF、NH4F−(1〜3)HFまたはNH4F−KF−HF溶融塩中で電流密度1〜100A/dm2で電気分解を行うことによって陽極からF2またはNF3を得ることができる。また、浴組成を変えることによって、他のフッ素化合物を得ることもできる。
【0038】
電解槽1の材質は、高温のフッ化水素に対する耐食性の点から、軟鋼、ニッケル合金、及びフッ素系樹脂などを使用することができる。陽極で合成されたF2またはフッ素化合物と、陰極で発生する水素ガスの混合を防止するため、陽極側と陰極側が、隔壁、隔膜などによって全部、或いは一部が区画されることが好ましい。
前述した電解浴であるKF−2HF溶融塩は酸性フッ化カリウムに無水フッ化水素ガスを吹き込むことによって、NH4F−(1〜3)HF溶融塩は一水素二フッ化アンモニウムまたは/およびフッ化アンモニウムに無水フッ化水素ガスを吹き込むことなどによって、NH4F−KF−HF溶融塩は酸性フッ化カリウムおよび一水素二フッ化アンモニウムまたは/およびフッ化アンモニウムに無水フッ化水素ガスを吹き込むことなどによって調製される。
【0039】
調製直後の電解浴中には数百ppm程度の水が混入するため、従来の炭素電極を陽極に使用した電解槽では陽極効果を抑制する目的で、0.1〜1A/dm2の低電流密度での脱水電解などによって水分除去を行なう必要があったが、本発明の導電性ダイヤモンド電極を使用した電解槽では高電流密度で脱水電解することが可能で、脱水電解を短時間で完了することができる。また、脱水電解することなく、所定の電流密度で操業を開始することもできる。
【0040】
陽極で発生したF2またはフッ素化合物に同伴する微量のHFは、顆粒状のフッ化ナトリウムを充填したカラムを通すことで除去できる。また、NF3合成の際に微量の窒素、酸素及び一酸化二窒素が副生するが、このうち一酸化二窒素は水とチオ硫酸ナトリウムを通過させることで除去し、酸素は活性炭により除去することができる。この様な方法でF2またはNF3に同伴する微量ガスを除去することによって高純度のF2またはNF3の合成が可能となる。
【0041】
電解中に電極消耗、及びスラッジの発生がほとんど進行しないため、電極更新、及び電解浴更新による電解停止の頻度が低減する。電解によって消費されるHF、またはHFとNH4Fの補給のみ行なえば、長期に渡る安定したF2またはNF3の合成が可能である。
【実施例】
【0042】
次に、実施例に係る実施例及び比較例を記載するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0043】
<実施例1>
1)図2に示す電極構造体を、以下の手順で作製した。
2)寸法W200×L100×T5mmの炭素材料よりなる導電性基体12の4隅にビス止め用の穴を開けた。該導電性基体12の片面を粒径1μmのダイヤモンド粒子からなる研磨剤で研磨処理した後、粒径4nmのダイヤモンド粒子を基体片面に核付けし、熱フィラメントCVD装置に設置した。
3)熱フィラメントCVD装置は、300×300mmまでの基体を設置可能な汎用的装置を使用した。
4)水素ガス中に1体積%のメタンガスと0.5ppmのトリメチルボロンガスを添加した混合ガスを、10リットル/minの速度でCVD装置内に流しながら、装置内圧力を75Torrに保持し、フィラメントに電力を印加して温度2400℃に昇温した。このときの基体温度は860℃であった。CVD操作を8時間継続し、基体12の片面に3μmの導電性ダイヤモンド膜13を形成した導電性ダイヤモンド担持体9を作製した。
3)寸法W200×L300×T30mmの炭素基体に、切削加工と、ビス止用のタップ穴加工を行い、導電性電極給電体8を作製した。
4)当該給電体8の両面に、2)項で作製した導電性ダイヤモンド担持体9を2枚ずつ炭素製ビスで取り付け、導電性ダイヤモンド電極構造体を作製した。
5)なお、CVD装置には、寸法W200×L100×T5mmの基体を4枚設置できたので、当該電極構造体の作製に要したCVD操作は1回であった。
6)導電性電極給電体8の上部に給電ブスバー6を接続し、下端から200mmを、90℃に保持したKF・2HF系溶融塩中に浸漬した状態で陽極3とし、陰極4にニッケル板を使用して電流密度100A/dm2で定電流電解を実施した。24時間後の槽電圧は、8.0Vであり、この時の陽極発生ガスを分析したところ、発生ガスはF2で発生効率は97%であった。
7)更に同一条件で電解を継続したところ、6,000時間までは槽電圧が8.0V前後であったが、その後槽電圧が急激に上昇し、電解不能となった。
8)電解槽から電極構造体を取り出したところ、給電ブスバー接続部で炭素製給電体が破断していた。一方、導電性ダイヤモンド担持体9の劣化は認められなかった。
【0044】
<実施例2>
1)実施例1で破断した炭素製導電性電極給電体8を、図4に示すように、ブスバー接続部を溶射法によってニッケルよりなる金属被覆層14を形成した炭素製導電性電極給電体8に交換し、導電性ダイヤモンド担持体9は、引き続き使用して電極構造体を作製した。
2)実施例1と同一の電解方法、及び電解条件で定電流電解を実施したところ、24時間後の槽電圧は8.0Vであり、この時のF2ガス発生効率は97%であった。
3)更に同一条件で電解を継続したところ、6,000時間後の槽電圧は8.0Vであり、F2ガス発生効率は97%であった。
4)電解を中断し、電解槽から電極構造体を取り出したところ、導電性ダイヤモンド担持体のダイヤモンド皮膜が30%程度剥離していた。一方、ニッケル被覆した炭素給電体は破断していなかった。
【0045】
<実施例3>
1)実施例2でダイヤモンド皮膜が剥離した導電性ダイヤモンド担持体13を、実施例1と同様の方法で作製した未使用導電性ダイヤモンド担持体に交換し、ニッケルよりなる金属被覆層14を形成した電極給電体8は引き続き使用して電極構造体を作製した。
2)実施例1と同一の電解方法、及び電解条件で定電流電解を実施したところ、24時間後の槽電圧は8.0Vであり、この時のF2ガス発生効率は97%であった。
3)更に同一条件で電解を継続したところ、6,000時間後の槽電圧は8.0Vであり、F2ガス発生効率は97%であった。
【0046】
<実施例4>
1)電極給電体をニッケル製としたこと以外は実施例1と同様の方法で、電極構造体を作製した。
2)実施例1と同一の電解方法、及び電解条件で定電流電解を実施したところ、24時間後の槽電圧は7.8Vであり、この時のF2ガス発生効率は97%であった。
3)更に同一条件で電解を継続したところ、6,000時間後の槽電圧は7.8Vであり、F2ガス発生効率は97%であった。
【0047】
<実施例5>
1)電極給電体を、ブスバー接続部に溶射法によってニッケルよりなる金属被覆層14を形成した炭素製給電体8としたこと以外は実施例1と同様の方法で、電極構造体を作製した。
2)電極給電体の上部に給電ブスバーを取り付け、下端から200mmを、90℃に保持したNH4F・2HF系溶融塩中に浸漬した状態で陽極とし、陰極にニッケル板を使用して電流密度20A/dm2で定電流電解を実施した。24時間後の槽電圧は、5.8Vであり、この時の陽極発生ガスを分析したところNF3ガスを含有しており、NF3ガス発生効率は60%であった。
2)更に同一条件で電解を継続したところ、6,000時間電解後の槽電圧は5.8Vであり、NF3ガス発生効率は60%であった。
【0048】
<実施例6>
1)寸法W300×L300×T5mmの炭素基体を使用した以外は実施例1と同様の方法で導電性ダイヤモンド担持体を作製した。
2)なお、CVD装置には、寸法W300×L300×T5mmの基体を1枚設置できたので、CVD操作を4回実施し、4枚の導電性ダイヤモンド担持体を作製した。
3)実施例1と同様の加工方法で寸法300×1,000×50mmの炭素製給電体を作製し、給電ブスバー接続部を溶射法でニッケル被覆した。
4)当該給電体の両面に、2)項で作製した導電性ダイヤモンド担持体を2枚ずつ炭素製ビスで取り付け、導電性ダイヤモンド電極構造体を作製した。
5)KF・2HF商用電解槽に電極構造体を設置し、電流密度100A/dm2で定電流電解を実施した。24時間後の槽電圧は8.0Vであり、この時のF2ガス発生効率は97%であった。
6)更に同一条件で電解を継続したところ、6,000時間後の槽電圧は8.0Vであり、F2ガス発生効率は97%であった。
【0049】
<比較例1>
1)図5に示すように、寸法W200×L300×T30mmのグラファイト製電極よりなる基体の片面を、研磨処理、核付け処理し、実施例1と同一条件のCVD操作でダイヤモンド膜を形成した。更に、反対面にも同様にダイヤモンド膜を形成し、導電性ダイヤモンド電極を作製した。
2)なお、CVD装置には、寸法W200×L300×T30mmの基体を1枚設置できたので、当該電極の作製に要したCVD操作は2回であった。
3)当該電極の給電ブスバー接続部をニッケルよりなる金属被覆層14を形成するために、給電ブスバー接続部の導電性ダイヤモンド膜を剥離し、溶射法によってニッケルよりなる金属被覆層14を被覆した。
4)実施例1と同一の電解方法、及び電解条件で定電流電解を実施したところ、24時間後の槽電圧は、8.0Vであり、この時のF2ガス発生効率は97%であった。
5)更に同一条件で電解を継続したところ、10,000時間までは槽電圧が8.0V前後であったが、その後槽電圧が急激に上昇し、電解不能となった。
6)電解槽から電極を取り出したところ、給電ブスバー接続部で電極が破断していた。一方、KF・2HF溶融塩に浸漬された部分の導電性ダイヤモンド皮膜は10%程度剥離していた。
7)破断した電極から給電ブスバー接続部を切断除去後、給電ブスバーを再接続して、電極下端から10mmを、90℃に保持したKF・2HF系溶融塩中に浸漬した状態で電流密度100A/dm2で定電流電解を実施した。24時間後の槽電圧は、8.0Vであり、この時のF2ガス発生効率は97%であった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、本発明は、フッ化物イオンを含有する溶融塩電解浴を用いてフッ素含有物質を電解合成するために使用する導電性ダイヤモンド電極構造体及び導電性ダイヤモンド電極構造体を用いてフッ素含有物質を合成する電解合成方法に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る導電性ダイヤモンド電極構造体を用いてフッ素含有物質を電解合成するための電解槽の概略図。
【図2】本発明に係る導電性ダイヤモンド電極構造体の第1の実施の態様を示す概略図。
【図3】本発明に係る導電性ダイヤモンド電極構造体の導電性ダイヤモンド触媒担持体9の断面構造を示した図。
【図4】本発明に係る導電性ダイヤモンド電極構造体の第2の実施の態様を示す概略図。
【図5】従来の導電性ダイヤモンド電極構造体を示す概略図。
【符号の説明】
【0052】
1:電解槽
2:電解浴
3:陽極
4:陰極
5:隔壁
6:給電ブスバー
7:整流器
8:導電性給電体
9:導電性ダイヤモンド触媒坦持体
10:ボルトナット又はビス
11:取付孔
12:導電性基体
13:導電性ダイヤモンド皮膜
14:金属被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化物イオンを含有する溶融塩電解浴を用いてフッ素含有物質を電解合成するために使用する導電性ダイヤモンド電極構造体であって、導電性電極給電体と導電性基体の表面に導電性ダイヤモンド皮膜を坦持した導電性ダイヤモンド触媒担持体とよりなり、前記導電性電極給電体の前記電解浴に浸漬する部分に前記導電性ダイヤモンド触媒担持体を着脱自在に取り付けたことを特徴とする導電性ダイヤモンド電極構造体。
【請求項2】
導電性ダイヤモンド皮膜を坦持した導電性ダイヤモンド触媒担持体が気相合成法により形成された請求項1に記載の導電性ダイヤモンド電極構造体。
【請求項3】
気相合成法が化学蒸着法である請求項2に記載の導電性ダイヤモンド電極構造体。
【請求項4】
導電性電極給電体が、導電性炭素質材料、ニッケル、モネル合金の何れかである請求項1に記載の導電性ダイヤモンド電極構造体。
【請求項5】
導電性基体が、導電性炭素質材料、ニッケル、モネル合金の何れかである請求項1に記載の導電性ダイヤモンド電極構造体。
【請求項6】
前記導電性電極給電体の前記電解浴に浸漬する部分に前記導電性ダイヤモンド触媒担持体をビス又はボルトナットによって着脱自在に取り付けた請求項1に記載の導電性ダイヤモンド電極構造体。
【請求項7】
ビス又はボルトナットが、導電性炭素質材料、ニッケル、モネル合金の何れかである請求項6に記載の導電性ダイヤモンド電極構造体。
【請求項8】
導電性電極給電体が導電性炭素質材料であって、導電性電極給電体の上端のブスバー接続部にメッキまたは溶射による金属被覆膜が形成された請求項1に記載の導電性ダイヤモンド電極構造体。
【請求項9】
金属被覆膜を形成する金属がニッケル及びモネル合金よりなる群より選ばれた金属である請求項8に記載の導電性ダイヤモンド電極構造体。
【請求項10】
導電性電極給電体と導電性基体の表面に導電性ダイヤモンド皮膜を坦持した導電性ダイヤモンド触媒担持体とよりなり、前記導電性電極給電体の電解浴に浸漬する部分に前記導電性ダイヤモンド触媒担持体を着脱自在に取り付けた導電性ダイヤモンド電極構造体を、導電性ダイヤモンド触媒担持体がフッ化物イオンを含有する溶融塩電解浴中に浸漬するよう保持して電解を行い、フッ素含有物質を電解合成することを特徴とするフッ素含有物質の電解合成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−1877(P2009−1877A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−165167(P2007−165167)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【出願人】(390014579)ペルメレック電極株式会社 (62)
【Fターム(参考)】