説明

導電性フロック

【課題】導電性フロックを静電気植毛する際に飛昇性を向上させ、印字耐久性を向上させることが可能なブラシを与える導電性フロックを提供することを課題とする。
【解決手段】導電性カーボンを10〜40重量%含有したポリアミド繊維であり、灰分量が1〜7重量%付与したことを特徴とする導電性フロック。前記導電性フロックには導電性カーボンを含有したポリアミド繊維に対し、電気陰性度が1.7以下の金属からなる金属酸化物が0.01〜1重量%含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真記録方式の乾式複写機やファクシミリ、プリンター等に用いられる導電性フロックおよび導電ブラシに関する。詳しくは、静電気植毛加工にて作成する導電ブラシに用いる導電性フロックおよびそれを用いた導電ブラシに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真複写機等に静電潜像形式に重要な要素の帯電部および感光体に残った残トナーや電荷を除去するためのクリーニング部、トナーに電荷を付与する供給部には導電性のローラーが多く使用されている。しかし、近年高画質化やカラー用途が増加しており、トナー粒子の小粒化が進んでいる。この小粒化したトナーを用いると、シリコーンやポリウレタンで構成された導電性のローラーでは、ローラーの表面の気泡にトナーが入り込みローラー表面が硬くなったり、トナーが融着してなるトナーフィルミングによりローラー表面の抵抗値が高くなる問題があった。このため、ローラー表面に導電性のファイバーを植毛させた導電性ブラシが特許文献1、特許文献2、特許文献3に提案されている。しかし、導電性ファイバーとして繊維にポリピロール等の導電性高分子を被膜させた繊維を用いた場合、使用していくうちに導電性高分子の被膜が脱落し、繊維表面の抵抗値が高くなる問題があった。また、導電性ファイバーとして導電性物質を練り込んだ導電繊維を静電気植毛する場合は、導電性繊維固有の抵抗値によりフロックの抵抗値が低くなり飛昇性が悪くなるため、フロック表面の漏洩抵抗を高くする必要がある(非特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−335316
【特許文献2】特開平10−123821号公報
【特許文献3】特開2004−70006号公報
【非特許文献1】“静電気学会誌”1992年、第16巻、第5号、p.389−395
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、導電性フロックを静電気植毛する際に飛昇性を向上させ、印字耐久性を向上させることが可能なブラシを与える導電性フロックを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上述した本発明の目的は、以下の(1)の構成を有する本発明にかかる導電性フロックとすることにより達成される。
【0005】
(1)導電性カーボンを10〜40重量%含有したポリアミド繊維からなり、電着処理剤を付与してなる導電性フロックであり、導電性フロックの灰分量が1〜7重量%であることを特徴とする導電性フロック。
【0006】
(2)導電性カーボンを含有したポリアミド繊維中、電気陰性度が1.7以下の金属からなる金属酸化物を0.01〜1重量%含有することを特徴とする(1)記載の導電性フロック。
【0007】
(3)電着処理剤が有機珪素を含むことを特徴とする(1)または(2)のいずれか記載の導電性フロック。
【0008】
(4)導電性フロックに付与されている電着処理剤がコロイダルシリカとアルミナゾルの混合剤であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか記載の導電性フロック。
【0009】
(5)(1)〜(4)のいずれか記載の導電性フロックを静電気植毛加工にて作成された導電ブラシ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下に説明するとおり、優れた飛昇性を有する導電性フロックを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の導電性フロックについてさらに詳細に説明する。
【0012】
本発明でいうフロックとは、静電気植毛に用いられる部材で、短繊維に電着処理を施した繊維のことを言う。
【0013】
本発明を構成するポリアミドは、いわゆる炭化水素基が主鎖にアミド結合を介して連結された高分子量体であって、主としてポリカプロアミド、もしくはポリヘキサメチレンアジパミドからなるポリアミドである。ここでいう主としてとは、ポリカプロアミドではポリカロアミドを構成するε−カプロラクタム単位とし、ポリヘキサメチレンアジパミドではポリヘキサメチレンアジパミドを構成するヘキサメチレンジアンモニウムアジペート単位として80モル%以上であることをいい、さらに好ましくは90モル%以上である。特にポリカプロアミド、ポリヘキサメチレンアジパミドが好ましい。導電性カーボンの分散性の観点から、ポリカプロアミドが特に好ましい。
【0014】
本発明の導電性フロック中の導電性カーボンの含有量は10〜40重量%が必要である。導電性カーボンの含有量が10重量%未満であると、ポリアミド繊維の比抵抗値が高くなり、導電性がなくなり電荷を付与できないため導電性ブラシとして機能しない。また、導電性カーボンの含有量が40重量%を超えるとポリアミド繊維の製造において曳糸性が低下し、製造が困難となる。好ましくは15〜35重量%である。
【0015】
ここで用いる導電性カーボンは、例えばアセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラックなど導電性を有する粉末体であれば特に制限はないが、粉末粒子の大きさが小さく、比較的均一である点で、ファーネスブラックが好ましい。粒子が大きいと、紡糸時の濾過圧上昇の抑制や、紡糸時の糸切れ、繊維の強度の向上を考慮すると、2μm以下のものを用いることが好ましい。また、大日本インキ化学工業製の導電性カーボンブラック粒子分散ナイロンペレット”CARBOREX NYRON YT-01”のように、すでに顔料メーカーで分散調合ナイロンペレット中の導電性カーボン粒子を用いても良い。
【0016】
ポリアミドマルチフィラメント内の導電性カーボンを含有せしめる方法としては、ポリアミドペレットへ導電性カーボンをブレンドし溶融する方法、ポリアミドペレットへ高濃度の導電性カーボンを含有するマスタペレットをブレンドし溶融する方法、溶融状態のポリアミドへ導電性カーボンを添加し混練する方法、溶融状態のポリアミドへ溶融状態の高濃度の導電性カーボンを含有するポリアミドを混練する方法などが挙げられる。
【0017】
本発明の導電性フロックは、導電性カーボンを含有したポリアミド繊維中、電気陰性度が1.7以下の金属からなる金属酸化物を含有することが好ましい。この金属酸化物の含有量は、導電性カーボンを含有したポリアミド繊維中0.01〜1重量%であることが好ましい。
【0018】
本発明において電気陰性度が1.7以下の金属からなる金属酸化物を含有することにより、静電気植毛時に飛昇性が向上する。飛昇性が向上する理由は明確ではないが、電気陰性度が1.7以下の金属酸化物はイオン結合であるために高電圧を掛けた場合、金属酸化物が電荷を得やすくなるため、金属酸化物を含有している導電性フロックも電荷を得やすくなり飛昇性が向上すると考えられる。金属酸化物の添加量が0.01重量%未満では、静電気植毛において、高電圧を掛けた場合、金属酸化物が得られる電荷が少ないため飛昇性は向上しない。金属酸化物の添加量が1重量%を超えると、ポリアミド繊維の製造において連続して生産する際の濾過圧の上昇が高くなり、紡糸パックの交換周期が早くなり、作業性が低下する。
【0019】
ここで、電気陰性度とは、分子内の原子が電子を引き寄せる能力である。具体的には、異種の原子同士が化学結合しているとする。このとき、各原子における電子の電荷分布は、当該原子が孤立していた場合と異なる分布をとる。これは結合の相手の原子からの影響によるものであり、原子の種類により電子を引きつける強さに違いが存在するためである。この電子を引きつける強さは、原子の種類ごとの相対的なものとして、その尺度を決めることができる。この尺度のことを電気陰性度と言う。電気陰性度は原子固有の値であり、その尺度を決める方法は色々あるが、ポーリングによる電気陰性度(「化学便覧基礎編」改訂3版、II-589、丸善株式会社)の値を使用した。
【0020】
ここで用いる電気陰性度が1.7以下の金属からなる金属酸化物は、例えば、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マンガン、酸化クロム、酸化カルシウム、酸化スカンジウム、酸化バナジウム、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化カドニウム、酸化インジウム、酸化ランタン、酸化ハフニウムなどが挙げられる。中でも微粒子の製造が容易で、ポリアミド繊維との分散性が良好な酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛がより好ましい。
【0021】
電気陰性度が1.7以下の金属からなる金属酸化物の粒径はポリアミド繊維への分散性の点から5μm以下が好ましい。5μmを超えるとポリアミド繊維の製造において連続して生産する際の濾過圧の上昇が高くなり、紡糸パックの交換周期が早くなり、作業性が低下する。
【0022】
本発明を構成する電気陰性度が1.7以下の金属からなる金属酸化物を、導電性カーボンを含有したポリアミド繊維に含有せしめる方法としては、導電性カーボンを含有したポリアミドペレットへ金属酸化物をブレンドし溶融する方法、ポリアミドペレットへ高濃度の金属酸化物を含有するマスタペレットをブレンドし溶融する方法、溶融状態のポリアミドへ金属酸化物を添加し混練する方法、ポリアミドの重合前あるいは重合中の段階で原料あるいは反応系へ金属酸化物を添加する方法などが挙げられるが、両者が均一に混ざればいかなる方法でも良い。
【0023】
本発明の導電性フロックを構成する繊維の製造方法は、特に限定はしないが、例えば、溶融紡糸による製造方法について、二工程法(未延伸糸を一旦巻き取った後に延伸する方法)、一工程である高速紡糸法(紡糸速度を4000m/分以上のように高速として実質的に延伸工程を省略する方法、POYの製造)、高速紡糸延伸法(紡糸−延伸工程を連続して行う方法)等がある。中でも、二工程法が好ましく、導電性カーボンを含有したポリアミド樹脂を溶融し、口金吐出孔から吐出し、冷却、給油の後、1000m/分以下の速度で一旦巻き取り未延伸糸を得る。得られた未延伸糸を、延伸倍率2.5〜3.5、熱延伸温度100〜190℃で巻き取り、比抵抗値が(温度20℃、湿度30%RH)103〜108Ωcmの延伸糸(ポリアミド長繊維)を得る。なお、上記において比抵抗値は導電性ポリアミド長繊維を1000デシテックスの束状にして、測定糸長10cmとして、65%RHの湿度で18時間以上放置し、振動容量型超絶縁計で電気抵抗を測定し、糸長および糸重量から比抵抗値を算出した。上記比抵抗値は導電性カーボン濃度により変化し、導電性カーボン濃度が高いと比抵抗値が低くなり、導電性カーボン濃度が低いと比抵抗値が高くなる。得られたポリアミド長繊維を、トウ(連続フィラメントの収束)の形態とした後、80〜98℃の熱水で30〜60分間熱処理を行い、ギロチンカッターなどのカッティングマシンにより短繊維とする。製造工程中の熱水処理は、導電性カーボンを含有したポリアミド長繊維を収縮させ、電気抵抗値のバラツキを小さくするばかりでなく、導電性フロックおよび導電ブラシとした後に、経時による抵抗値の変化を小さくする効果がある。また、短繊維のカット面はカッティングマシン構造や刃物と繊維の関係により決定されるが、導電性カーボンを含有したポリアミド繊維と刃物が直角に接触し、繊維軸に対して直角にカットされることが好ましい。さらに、後述するが、フロックの飛昇性の点から、導電性フロックとしての短繊維にねじれや湾曲がないことが好ましい。
【0024】
本発明の導電性フロックは、基材に接着剤を塗布して、静電気を利用して植毛される。静電気植毛は、高電圧による電界に微少な物体が介在するとき、電気的影響を受ける。この電気的影響とは、その微少な物体が荷電して一方の極から他方の極に吸引されることである。すなわち、金属に直流高圧を印可するとき、その間には電界(E)が生じる。この電界の大きさは、電圧(V)とその距離(d)であるとき、E=V/dの関係を持ち、この電界内に存在する小物体の電荷(q)は、吸引力(F)=Eqで与えられる力を受けて引っ張られる。フロックはこの小物体のことを言う。静電気植毛では、正電極が高圧極、負電極が接地極(アース極)と呼ばれ、電界の大きさは高圧発生器によって所定の電圧Vを与える。静電気植毛は、極間・極面に並行に基材を置き、両極間飛昇中に接着剤が塗布された基材にフロックが基材に対して直角に突き刺さる。そのため、フロックの電荷(q)により飛昇性が決まるのである。
【0025】
本発明の導電性フロック上記導電性カーボンを含有したポリアミド繊維に電着処理剤を付与したものである。電着処理剤の付与量は導電性フロックの灰分量を指標にすると、1〜7重量%であることが必要である。灰分量とは、JISが定める化学繊維ステープル試験法の灰分法(JIS L 1015(1999))により算出される。
【0026】
電着処理剤とは、静電気植毛を行うため、電荷を持たせるための処理剤であり、具体的には、短繊維が電界内において良好な飛昇効果を持たせるために電気的に作用する処理剤である。電着処理剤の付与が1重量%未満の場合、導電性カーボンを含有したポリアミド繊維固有の抵抗値により導電性フロックの表面抵抗値が低く飛昇性が悪くなる。電着処理剤の付与が7重量%を超えると、電着処理時の乾燥工程において結晶が析出し、静電気植毛時に植毛室壁面に結晶が付着し金属腐食を起こしたり、また接着剤のゲル化を促進したりして、導電性フロックの接着強度を極端に低下させる問題が発生する。好ましくは、3〜5重量%である。
【0027】
本発明の導電性フロックを構成する電着処理剤は、例えば、タンニン酸や塩化ナトリウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸ソーダー、炭酸ジルコニウムなどの無機塩類や、アニオン活性剤、ノニオン活性剤などの界面活性剤や、コロイダルシリカなどの有機珪素、アルミナゾルなどが挙げられるが、電着処理剤に無機塩類や帯電防止効果のある界面活性剤を用いると、導電ブラシとして用いた場合、乾式複写機やプリンター等では感光体やトナーの表面処理剤は有機成分で形成させているため、成分によっては表面を変質し、印字の品質が悪く場合がある。このため、感光体やトナーの表面処理剤と反応しないこと、さらには電気伝導度、誘電率、分離性の点から、有機珪素やアルミナゾルが好ましい。
【0028】
本発明の導電性フロックの電着処理は、特に限定しないが、例えば、短繊維状にカットされたポリアミド短繊維を、バインダーで希釈した電着処理剤の水溶液に浸し電着処理する。また、電着処理剤の水溶液は、水溶液の粘度や電着処理の効率から30〜100g/Lを用いる事が好ましい。
【0029】
電着処理剤は有機珪素を含むことが好ましく、中でもコロイダルシリカが好ましい。コロイダルシリカは特に水への分散性に優れるため、短繊維への均一な電着処理が容易である。また、コロイダルシリカはポリアミドの水酸基と特異的に結合するために、摩擦による脱落が少ないからである。
【0030】
また、電着処理剤は有機珪素のみの水溶液でもよいが、さらには、コロイダルシリカとアルミナゾルの混合水溶液を付与することがより好ましい。コロイダルシリカとアルミナゾルは、混合性が良く、高電圧をかけた時に、高い電荷を得やすく、かつフロックの分離性に優れた導電性フロックを得ることができるからである。また、比抵抗値が10Ωcm未満の導電性カーボンを含有したポリアミド繊維を使用する場合、高電圧をかけても通電し電荷が得られず飛昇性が低下するが、コロイダルシリカとアルミナゾルの混合水溶液を付与ことにより、フロック表面の抵抗値が10〜10Ωcmとなり、飛昇性が向上する。コロイダルシリカとアルミナゾルを混合する方法は、粘度の上昇を抑え均一な分散が得られることから、コロイダルシリカとアルミナゾルをそれぞれ水溶液とした状態で混合することが好ましい。また、混合する比率は、均一な分散が得られ、かつフロック表面の抵抗値を目標の抵抗値とできることから、コロイダルシリカとアルミナゾルが6:1〜3:1が好ましい。
【0031】
電着処理を施した導電性フロックは、回転式の脱水機を用いて脱水後、100〜130℃で30〜60分乾燥後、篩いを実施し繊維長を一定の長さに揃える。
【0032】
本発明の導電性フロックの繊維長は、フロック製品同士が絡み合わずに、また、導電性ブラシとしプリンターに使用したときの、均一帯電が可能な0.1〜5mmが好ましい。
【0033】
本発明の導電性フロックの直径は、導電性フロックと基材に塗布した接着剤層に投錨する力と静電気植毛加工した時の植毛密度の関係から10〜60μmであることが好ましい。
【0034】
本発明の導電ブラシとは、前記導電性フロックを静電気植毛加工にて作成された導電ブラシであり、静電気除去や、電荷の付与、ゴミなどを除去する用途に用いられる。
【0035】
本発明の導電ブラシは、前記導電性フロックを静電気植毛加工にて作成することで、導電ブラシの周長の抵抗値が均一となり、特に電子写真記録方式の乾式複写機用ブラシとして良好な性能を発揮する。電子写真記録方式の乾式複写機用ブラシとは非接触コロナ放電にかわって感光体に接触帯電させる印加ブラシや、感光体上に残存した電荷およびトナーを除去するクリーニングブラシ、感光体へのトナーの吸着を促進させるために、トナーカートリッジ内でトナーに電荷を与えるトナー供給ブラシ、感光体に供給したトナーを印刷用紙に転写させるために、印刷用紙に逆電荷を付与する転写ブラシである。いずれも円柱の金属棒である芯材に接着材を塗布し、10K〜50KVの電圧を掛け静電気植毛により導電性フロックを植毛し、乾燥、除毛、シャーリングを行い、ブラシに仕立てる。金属棒である芯材は導電性があれば特に限定しないが、好ましくはステンレスが用いられる。接着剤は特に限定しないが、例えば、アクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、合成ゴムおよび天然ゴム等を主成分とし、好ましくはアクリルが用いられる。また、接着剤には導電性カーボン等導電性を有する物質を含有させ、導電性を有する接着剤が好ましい。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は、以下の
方法を用いた。
【0037】
A.金属酸化物添加量
エスアイアイ・テクノロジー製のシーケンシャル型ICP発行分光分析装置を用いて、導電性カーボンを含むポリアミド繊維(電着処理剤未付与)の試料0.1gを硝酸、硫酸および過塩素酸で加熱分解し、硫酸白煙が生じるまで加熱濃縮した後、希硝酸で溶解して定容とした。この溶液についてICP発光分光分析法で金属を測定し、試料中の含有量および酸化物換算値を求めた。
【0038】
B.灰分量
JISが定める化学繊維ステープル試験法、JIS L 1015(1999)、灰分法で測定し、次の(1)式で算出した。
Dn=M−K (1)
Dn:電着処理剤の付着量の指標となる灰分量(%)
M:灰分測定値(%)
K:上記Aで測定した試料中の金属酸化物由来の金属量(%)
C.飛昇性
Erich Schenk製のFlock Motion Tester SPG(アップメソッド方式:飛昇距離15cm)を用いて、電圧20KVを掛けた時に導電性フロック5gが全て飛昇する時間を測定し、飛昇する時間が速い程飛昇性が良く、次の基準で評価した。
◎:10〜20秒未満○:20〜30秒未満
△:30〜40秒未満
×:40秒以上。
【0039】
D.電着処理剤の結晶析出量
導電性フロック50gを40メッシュの金属金網で30分間篩いに掛け、下記(1)式から算出し、次の基準で評価した。
○:0〜0.1%未満
△:0.1〜0.5%未満
×:0.5%以上
S=(F0−F1)/F0 (1)
F0:篩い前の導電性フロック重量(g)
F1:篩い後の導電性フロック重量(g)。
【0040】
E.ポリアミド繊維の比抵抗値
超絶縁抵抗計(川口電気製 TERAOHMMETER R-503)を用いてポリアミド繊維試長10cm間に100(V)の電圧を掛け、温度20℃、湿度30%RHの条件下での電気抵抗値(Ω/cm)を測定し、下式(1)から算出した。
RS=R×D/(10×L×SG)×10−5 (2)
RS:比抵抗(Ωcm)
R:電気抵抗値(Ω)
D:10000m当たりの糸重量
L:試長(cm)
SG:糸密度(g/cm)。
【0041】
F.導電性フロックの抵抗値
絶縁計(東亜電気製 INSULATIONテスター)を用いて導電性フロック試料10gを円筒シリンダーに均一に押入し、次に(を用いて電気抵抗値(Ω)を測定することにより行った。
【0042】
G.ポリアミド繊維の紡糸糸切れ
280℃で溶融し、1口金当たり1糸条の丸孔口金より吐出量約40gで吐出し、冷却、給油後、速度800m/minにて巻取りを実施した。これを1t紡糸した時の糸切れ回数を次の基準で評価した。
○:3回/t未満
△:4〜8回/t未満
×:8回/t以上。
【0043】
H.印刷耐久性
電子写真学会が発行するテストチャートを複写し、1枚目と20000枚印字した後の印刷状態(かすれ、スジ)を比較し、下記の、次の基準で10人が評価した。
10点:差異なし(かすれもスジもない)
5点:やや差異が見られる(目立たないが、かすれ、スジがある。)
1点:差異が見られる(かすれ、スジが明確に観察される。)
これを10人分合計した点数で次の基準で分類した。
◎:75点以上
○:50点以上75点未満
△:25点以上50点未満
×:25点未満。
【0044】
I.98%硫酸相対粘度
(a)ポリアミド繊維試料を秤量し、98重量%濃硫酸に試料濃度(C)が1g/100mlとなるように溶解する。
(b)(a)項の溶液をオストワルド粘度計にて25℃での落下秒数(T1)を測定する。
(c)試料を溶解していない98重量%濃硫酸の25℃での落下秒数(T2)を(2)項と同様に測定する。
(d)試料の98%硫酸相対粘度(ηr)を下式により算出する。測定温度は25℃とする。
(ηr)=(T1/T2)+{1.891×(1.000−C)}。
【0045】
J.平均粒径
透過型電子顕微鏡の映像から測定した。
【0046】
K.導電ブラシ抵抗値
ステンレス金属板4上にブラシ(芯材に静電気植毛された導電性フロック1)を置き、芯材2に片側25gのおもり3を両側に載せ、抵抗計5(TOAKDD社製 SM−8213)を用いて10V印可した時の抵抗値を測定した。
【0047】
実施例1
98%硫酸相対粘度2.7のナイロン6に、平均粒径0.035μmの導電性ファーネスブラックを添加量20重量%となるように練り込み導電性ナイロン6ペレットを製造した。金属酸化物として電気陰性度が1.2の酸化マグネシウム(協和化学工業社製 MF−30)粉末を導電性ナイロン6中0.04重量%になるよう粉末ブレンドし、溶融温度280℃で溶融し、孔径0.3mmの丸孔口金から吐出し、冷却させた後、紡糸油剤を水で希釈し糸条付着量が0.7%となるように給油し、引取速度800m/分で未延伸糸を巻取った。この時の紡糸糸切れは1回/tで、○であった。つづいて温度25℃、絶対湿度16.6g/m 3 の環境下で48時間未延伸糸をエージングした後、延伸機の供給ローラ速度200m/分、熱板温度170℃、延伸ローラ速度500m/分で延伸し、続いてダウンツイスターを用いて導電性ナイロン6長繊維に15t/mのヨリを掛け190デシテックス30フィラメント導電性ナイロン6長繊維を得た。得られポリアミド長繊維の比抵抗値は1010 Ωcmであった。
【0048】
得られた導電性ナイロン6長繊維を1周3mのカセ採り機を用いて、3万回カセ採りを行い、トウの形態とした後、98℃の熱水で30分間熱処理を行い、ギロチンカッターにて繊維長1.5mm短繊維状にカットし導電性ナイロン6短繊維を得た。
得られた導電性ナイロン6短繊維に、電着処理剤として、コロイダルシリカ(日産化学工業株式会社製 スノーテックス−O)50g/L水溶液とアルミナゾル(日産化学工業株式会社製 アルミナゾル−100)50g/L水溶液を混合比6:1の割合で混合した40℃の水溶液に30分に浸し、電着加工を施した。次に、120℃で5分間乾燥後、40メッシュの金網で篩いを実施し導電性フロック(単糸直径34μm)を得た。得られた導電性フロックの抵抗値は10Ωであり、灰分量は4%であった。また、飛昇性は15秒であり◎であった。
【0049】
次に円柱のステンレス製金属棒である芯材に導電性カーボンを含有したアクリル樹脂の接着剤を塗布し、2万Vの電圧を掛け、ダウンメソッドにより静電気植毛を行い、乾燥、除毛、シャーリングの工程を得てブラシに仕立てた。得られた導電ブラシの抵抗値は10Ωであった。得られたブラシを電子写真記録方式の乾式複写機用のトナー供給ブラシに組み込み2万枚のテストチャートを複写した結果、画像品位は◎であった。
【0050】
実施例2
98%硫酸相対粘度が2.7のナイロン6に、平均粒径0.035μmの導電性ファーネスブラックを添加量25重量%となるように練り込み導電性ナイロン6ペレットにした以外は、実施例1と同様にポリアミド長繊維、導電性フロック、ブラシを作成した。その結果を表1に示す。
【0051】
実施例3
導電性ファーネスブラックを添加量30重量%となるように練り込み導電性ナイロン6ペレットにした以外は、実施例1と同様にポリアミド長繊維、導電性フロック、ブラシを作成した。その結果を表1に示す。
【0052】
実施例4
導電性ファーネスブラックを添加量25重量%となるように練り込み導電性ナイロン6ペレットにした以外は、実施例1と同様にポリアミド長繊維、繊維長1.5mm短繊維状にカットした導電性ナイロン6短繊維を得た。
得られた導電性ナイロン6短繊維に、電着処理剤として、コロイダルシリカ30g/L水溶液とアルミナゾル30g/L%水溶液を6:1の割合で混合した水溶液で実施例1と同様に電着加工を施し、導電性フロック、ブラシを作成した。その結果を表1に示す。
【0053】
実施例5 導電性ファーネスブラックを添加量25重量%となるように練り込み導電性ナイロン6ペレットにした以外は、実施例1と同様にポリアミド長繊維、繊維長1.5mm短繊維状にカットした導電性ナイロン6短繊維を得た。
【0054】
得られた導電性ナイロン6短繊維に、電着処理剤として、コロイダルシリカ100g/L水溶液とアルミナゾル100%を6:1の割合で混合した水溶液を実施例1と同様に電着加工を施し、導電性フロック、ブラシを作成した。その結果を表1に示す。
【0055】
実施例6
酸化マグネシウム粉末を導電性ナイロン6中0.005重量%になるよう粉末ブレンドした以外は実施例2と同様にポリアミド長繊維、導電性フロック、ブラシを作成した。その結果を表1に示す。
【0056】
実施例7
酸化マグネシウム粉末を導電性ナイロン6中2重量%になるよう粉末ブレンドした以外は実施例2と同様にポリアミド長繊維、導電性フロック、ブラシを作成した。その結果を表1に示す。
【0057】
実施例8
金属酸化物として電気陰性度が1.6の酸化亜鉛粉末を導電性ナイロン6中0.04重量%に粉末ブレンドとした以外は実施例2と同様にポリアミド長繊維、導電性フロック、ブラシを作成した。その結果を表1に示す。
【0058】
実施例9
金属酸化物として電気陰性度が1.5の酸化アルミニウム粉末を導電性ナイロン6中0.04重量%に粉末ブレンドとした以外は実施例2と同様にポリアミド長繊維、導電性フロック、ブラシを作成した。その結果を表1に示す。
【0059】
実施例10
金属酸化物として電気陰性度が1の酸化カルシウム粉末を導電性ナイロン6中0.04重量%に粉末ブレンドとした以外は実施例2と同様にポリアミド長繊維、導電性フロック、ブラシを作成した。その結果を表1に示す。
【0060】
実施例11
実施例2の繊維長1.5mm短繊維状にカットした導電性ナイロン6短繊維を、電着処理剤としてコロイダルシリカ50g/L%水溶液とした以外は実施例2と同様に導電性フロック、ブラシを作成した。その結果を表1に示す。
【0061】
実施例12
実施例2の繊維長1.5mm短繊維状にカットした導電性ナイロン6短繊維を、電着処理剤としてアルミナゾル50g/L%水溶液とした以外は実施例2と同様に導電性フロック、ブラシを作成した。その結果を表1に示す
実施例14
金属酸化物を含有しないとした以外は実施例2と同様にポリアミド長繊維、導電性フロック、ブラシを作成した。その結果を表1に示す。
【0062】
実施例14
金属酸化物として電気陰性度が1.8の酸化鉄粉末を導電性ナイロン6中0.04重量%に粉末ブレンドとした以外は実施例2と同様にポリアミド長繊維、導電性フロック、ブラシを作成した。その結果を表2に示す。
【0063】
比較例1
導電性ファーネスブラックを添加量5重量%となるように練り込み導電性ナイロン6ペレットにした以外は、実施例1と同様にポリアミド長繊維、導電性フロック、ブラシを作成した。その結果を表2に示す。
【0064】
比較例2
導電性ファーネスブラックを添加量45重量%となるように練り込み導電性ナイロン6ペレットにした以外は、実施例1と同様にポリアミド長繊維、導電性フロック、ブラシを作成した。その結果を表2に示す。
【0065】
比較例3
実施例2の繊維長1.5mm短繊維状にカットした導電性ナイロン6短繊維を、電着処理剤としてコロイダルシリカ水溶液10g/Lとアルミナゾル水溶液10g/Lを6:1の割合で混合した水溶液とした以外は実施例1と同様に導電性フロック、ブラシを作成した。その結果を表2に示す。
【0066】
比較例4
実施例2の繊維長1.5mm短繊維状にカットした導電性ナイロン6短繊維を、電着処理剤としてコロイダルシリカ水溶液100g/Lとアルミナゾル水溶液100g/Lを6:1の割合で混合した水溶液とした以外は実施例1と同様に導電性フロック、ブラシを作成した。その結果を表2に示す。
【0067】
比較例5
実施例2の繊維長1.5mm短繊維状にカットした導電性ナイロン6短繊維を、電着処理剤としてタンニン酸50g/L水溶液とした以外は実施例2と同様に導電性フロック、ブラシを作成した。その結果を表2に示す。
【0068】
表1、表2に示すように、実施例1〜14の導電性カーボンを10〜40重量%含有したポリアミド長繊維は、比抵抗値が10〜1010Ωcmとなり導電性ブラシとして適正な抵抗値が得られる。また、実施例1〜14の灰分量を1〜7重量%付与した導電性フロックは飛昇性に優れ、電着処理剤の結晶析出が少なく静電気植毛加工に優れることが解る。また、実施例1〜14の導電ブラシは印字耐久性に優れることが解る。
【0069】
これに対し、導電性カーボンを5重量%含有したポリアミド長繊維(比較例1)は、導電ブラシとしたときのブラシ抵抗値が1010Ωと高いため、トナーの供給ができず印字不能であった。導電性カーボンを45重量%含有したポリアミド長繊維(比較例2)は、紡糸糸切れが30回/tと操業性が低く生産に耐えうるものではない。
【0070】
また、電着処理剤にタンニン酸を用いた導電性フロック(比較例5)は、タンニン酸によってトナーの表面処理剤が変質し、印字耐久評価が×であった。
また、金属酸化物として電気陰性度が1.8の酸化鉄を用いた導電性カーボンを含有したポリアミド長繊維から構成される導電性フロック(実施例14)は、飛昇性が26秒とやや遅くなっていることが解る。
【0071】
電着処理剤として、コロイダルシリカとアルミナゾルから構成される混合液の濃度が低いもの(比較例3)は、飛昇性が45秒と長く、静電気植毛加工にて時間が掛かり、生産に耐えうる物ではない。コロイダルシリカとアルミナゾルから構成される混合液の濃度が高いもの(比較例4)は、電着処理剤の結晶析出量が0.8%と多く、導電ブラシとした場合、フロックの接着強度が低く、印字耐久性が悪くなるのである。
【0072】
さらに、コロイダルシリカ単体(実施例12)、アルミナゾル単体(実施例13)は導電性フロックの抵抗値が10Ωとなり飛昇性が25〜28秒とやや遅くなっている。すなわち、導電フロックの表面抵抗値が高いために、高電圧を掛けても導電性フロックに付与させる電荷量が低いため、飛昇力が弱く飛昇性が悪くなるのである。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、電子写真記録方式の乾式複写機やファクシミリ、プリンター等に用いられる導電性フロックに関する。詳しくは、静電気植毛加工にて作成する導電ブラシに用いる導電性フロックに関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の導電ブラシの測定方法を示す概略図である。
【符号の説明】
【0077】
1 芯材に静電気植毛された導電性フロック
2 芯材
3 おもり
4 ステンレス金属板
5 抵抗計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性カーボンを10〜40重量%含有したポリアミド繊維からなり、電着処理剤を付与してなる導電性フロックであり、導電性フロックの灰分量が1〜7重量%であることを特徴とする導電性フロック。
【請求項2】
導電性カーボンを含有したポリアミド繊維中、電気陰性度が1.7以下の金属からなる金属酸化物を0.01〜1重量%含有することを特徴とする請求項1記載の導電性フロック。
【請求項3】
電着処理剤が有機珪素を含むことを特徴とする請求項1または2記載の導電性フロック。
【請求項4】
電着処理剤がコロイダルシリカとアルミナゾルの混合剤であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の導電性フロック。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の導電性フロックを静電気植毛加工にて作成された導電ブラシ。

【図1】
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【公開番号】特開2009−244471(P2009−244471A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89378(P2008−89378)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】