説明

導電性接着剤およびそれを用いた部材の接続方法

【課題】樹脂に導電フィラーを含有してなるものであって金属製の両部材を接続する導電性接着剤において、両部材の表面に形成された金属酸化膜を適切に還元し、両部材と導電フィラーとの接触導通を十分に確保しやすくする。
【解決手段】導電性接着剤30中の樹脂31には、電子部品10の部品電極11および回路基板20の基板電極21の表面に形成された金属酸化膜を還元する還元剤33が含有されており、還元剤33は、樹脂31の硬化温度よりも低い融点を有し、少なくとも1個以上の水酸基を有する物質、たとえばアミノフェネチルアルコールよりなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂に導電フィラーを含有してなるものであって金属製の両部材を接続するときに使用される導電性接着剤、および、そのような導電性接着剤による部材の接続方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、はんだ接続に替わる接続方法として、導電性接着剤を用いた接続方法が採用されてきている。この導電性接着剤は、一般に表面が金属よりなる第1の部材と表面が金属よりなる第2の部材とを接続するときに使用される接着剤であり、樹脂に導電フィラーを含有してなり、樹脂を加熱して硬化させることにより両部材を接続するものである。
【0003】
このような導電性接着剤による接続は、Pbを使用しないため環境問題に対応できること、洗浄を廃止できること、コストをセーブできること等のメリットを有する。
【0004】
しかしながら、一般的に使用されているエポキシ系樹脂にAgフィラーを充填したタイプの導電性接着剤では、はんだで使用されているSn系の電極材質に対して、良好な接続信頼性を得ることができない。
【0005】
たとえば、Sn電極の3216型チップコンデンサをエポキシ系導電性接着剤で接続した場合、接続抵抗が数十mΩ〜数Ωという接続異常が生じる。これはSn電極表面の酸化膜により、導電性接着剤中のフィラーとの接触導通が十分でないためである。
【0006】
ここで、従来では、導電性接着剤としてのAgペースト中に、トリメチロールプロパンを含ませることにより、このトリメチロールプロパンによって、電子部品や基板における電極の表面の酸化膜を還元するようにしたものが提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−126726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1は、還元力が十分でないことや、ボイドの異常発生、保存安定性が不十分であるため、Sn電極部品との良好な導電性を得られない、という問題がある。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、樹脂に導電フィラーを含有してなるものであって金属製の両部材を接続する導電性接着剤において、両部材の表面に形成された金属酸化膜を適切に還元し、両部材と導電フィラーとの接触導通を十分に確保しやすくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明においては、導電性接着剤(30)中の樹脂(31)には、第1および第2の部材(11、21)の表面に形成された金属酸化膜を還元する還元剤(33)が含有されており、還元剤(33)は、樹脂(31)の硬化温度よりも低い融点を有し、少なくとも1個以上の水酸基を有する物質よりなることを特徴としている。
【0010】
本発明は、本発明者の行った実験検討の結果、創出されたものであり、還元剤(33)を、樹脂(31)の硬化温度よりも低い融点を有し、少なくとも1個以上の水酸基を有する物質よりなるものとすれば、両部材(11、21)の表面に形成された金属酸化膜を適切に還元でき、両部材(11、21)と導電フィラー(32)との接触導通を十分に確保しやすくできる。
【0011】
ここで、請求項2に記載の発明のように、樹脂(31)の硬化温度が150℃以下である場合、還元剤(33)は、50℃〜120℃の範囲で樹脂の硬化温度よりも低い融点を有するものであることが好ましい。
【0012】
還元剤(33)の融点を50℃〜120℃の範囲とするのは、還元剤(33)は融点以上で上記金属酸化膜と還元反応を起こすことから、常温では還元剤(33)を不活性に維持し、常温から加熱して硬化温度に達するまでの温度にて反応活性となるようにするためである。
【0013】
さらに、このような還元剤(33)としては、請求項3に記載の発明のように、アミノフェネチルアルコールであることが好ましい。アミノフェネチルアルコールは、樹脂の硬化前にて大きな還元力を発揮する。
【0014】
また、導電性接着剤中のボイド発生防止や還元剤の保存安定性を考慮すれば、請求項4に記載の発明のように、当該導電性接着剤中における還元剤(33)としてのアミノフェネチルアルコールの含有量は、2〜4重量%であることが好ましい。
【0015】
請求項5に記載の発明は、表面が金属よりなる第1の部材(11)と表面が金属よりなる第2の部材(21)との間に、樹脂(31)に導電フィラー(32)を含有してなる導電性接着剤(30)を介在させ、樹脂(31)を加熱して硬化させることにより両部材(11、21)の接続を行う導電性接着剤による部材の接続方法についてなされたものである。
【0016】
そして、請求項6では、導電性接着剤(30)として、樹脂(31)の硬化温度よりも低い融点を有し且つ少なくとも1個以上の水酸基を有する物質よりなり、両部材(11、21)の表面に形成された金属酸化膜を還元する還元剤(33)が樹脂(31)に含有されたものを用いることを特徴としている。
【0017】
本発明によっても、両部材(11、21)の表面に形成された金属酸化膜を適切に還元でき、両部材(11、21)と導電フィラー(32)との接触導通を十分に確保しやすくできる。
【0018】
そして、この製造方法においては、請求項6に記載の発明のように、樹脂(31)は、その硬化温度が150℃以下であり、還元剤(33)は、50℃以上120℃以下の範囲で樹脂の硬化温度よりも低い融点を有するものを用いることができ、さらに、請求項7に記載の発明のように、そのような還元剤(33)としては、アミノフェネチルアルコールを用いることができ、請求項8に記載の発明のように、導電性接着剤中における還元剤(33)としてのアミノフェネチルアルコールの含有量を、2重量%以上4重量%以下にすることができる。
【0019】
また、請求項9に記載の発明では、第1の部材(11)と第2の部材(21)との間に導電性接着剤(30)を介在させた後、樹脂(31)の硬化温度よりも低く還元剤(33)の融点よりも高い温度にて導電性接着剤(30)を加熱し、続いて樹脂(31)の加熱による硬化を行うことを特徴としている。それによれば、還元剤(33)の還元力を発揮しやすくでき、好ましい。
【0020】
なお、特許請求の範囲およびこの欄で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各図相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、説明の簡略化を図るべく、図中、同一符号を付してある。
【0022】
図1(a)は、本発明の実施形態に係る導電性接着剤30を用いた電子装置S1の概略断面構成を示す図であり、(b)は、(a)中の導電性接着剤30の硬化前の状態を示す拡大図である。なお、図1(b)においては、導電性接着剤30中の樹脂31は点ハッチング、導電フィラー32は片側斜線ハッチングされた細長楕円形、還元剤33は導電フィラー32よりも小さい白丸にて、それぞれ模式的に示してある。
【0023】
回路基板20の上に電子部品10が搭載され、回路基板20の電極21と電子部品10の電極11とが導電性接着剤30を介して電気的に接続されている。なお、電子部品10の電極11を部品電極11、回路基板20の電極21を基板電極21ということにし、部品電極11は第1の部材として、基板電極21は第2の部材として構成されている。
【0024】
回路基板20は、セラミック基板やプリント基板、あるいはリードフレームなどを採用することができ、特に限定されるものではない。
【0025】
基板電極21は、回路基板20の一面に形成されており、表面が金属よりなる。そのような金属としては、たとえば、Agを含むAg系金属、Auを含むAu系金属、Niを含むNi系金属、Snを含むSn系金属、Cuを含むCu系金属が挙げられ、基板電極21は、これら金属材料を用いた厚膜やめっきなどにより構成されたものである。ここでは、基板電極21はAgよりなるものとする。
【0026】
電子部品10としては、コンデンサや抵抗、半導体素子などの表面実装部品を採用することができる。図1に示される例では、電子部品10はチップコンデンサを用いた例として示してある。
【0027】
また、部品電極11は、基板電極21と同じく、表面がAg系金属、Au系金属、Ni系金属、Sn系金属、Cu系金属などの金属よりなるが、本実施形態では、部品電極11はSn系の卑金属電極である。このようなSn系の卑金属電極としての部品電極11としては、Sn、SnCu、SnBi、SnCuなどの金属などが挙げられる。ここでは、部品電極11は、めっきされたSn電極が用いられている。
【0028】
導電性接着剤30は、主剤、硬化剤、硬化触媒などを含有する高分子である樹脂31と導電フィラー32とからなる。樹脂31の使用材料は、高純度で低吸水率となる硬化物となる、耐熱性のある硬化物となるといった特徴を発現するもので、作業性・ペースト適性も考慮し選択したものである。
【0029】
このような電子装置S1は、回路基板20上に電子部品10を搭載し、基板電極21上に導電性接着剤30を介して部品電極11を接触させ、導電性接着剤30を加熱して樹脂31を硬化することによって、電子部品10と回路基板20とを接続することにより製造される。
【0030】
本実施形態の導電性接着剤30について、さらに具体的に述べることとする。この導電性接着剤30における樹脂31としては、エポキシ系樹脂が挙げられるが、この樹脂31には、樹脂31の硬化前にて両電極11、21の表面に形成された金属酸化膜を還元する還元剤33が含有されている。そこで、樹脂31としては、硬化の反応開始温度が後述する還元剤33の融点よりも高いエポキシ樹脂が好ましい。
【0031】
具体的に、還元剤としてアミノフェネチルアルコール(融点:108℃)を使用したときには、樹脂31の主剤には、トリフェノールメタンエポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂が挙げられ、硬化剤には、固形の芳香族アミンまたは、ヒドラジド及びそれらの混合物が挙げられ、硬化触媒には、イミダゾール系または脂肪族アミン系の触媒が挙げられる。
【0032】
さらに、好ましくは、硬化剤にはジアミノジエチルジフェニルメタン、硬化触媒には2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールが挙げられる。このような成分よりなる樹脂31は一般的なものであり、硬化温度が150℃もしくはそれ未満のものである。
【0033】
また、導電フィラー32は、金属のフィラーであり、その形状は燐片粉または球状粉及びそれらの混合である。また、上記電極11、21の表面がSnを含有する金属である場合には、導電フィラー32の材質としては、Snとの自然電位差が0.9以下のものが望ましい。
【0034】
そのような導電フィラー32を構成する金属としては、たとえば、Ag、AgSn、AgPd等のAg系金属、Cu、CuNi等のCu系金属、Ni系金属、Au、さらにはSn、Bi、In、Zn等を含む低融点金属などが挙げられる。また、芯材及び当該芯材表面にコーティングされたコーティング材よりなるフィラーであってもよく、その場合には、当該芯材およびコーティング材として、これら金属の中から選択された金属を用いてもよい。
【0035】
また、導電フィラー32のサイズについては、たとえば長径が1〜100μm程度のものであり、導電フィラー32の導電性接着剤30全体に占める含有量は、たとえば75〜95wt%程度のものである。
【0036】
さらには、導電フィラー32としては、上記した構成のフィラーの周囲に、さらにナノサイズ(1〜100nm)のAg粒子をコーティングした150℃以下で融着機能を発現するフィラーであってもよい。この場合、導電性接着剤30の硬化時にフィラー同士およびフィラーと電極との融着が起こり、強固な熱経路および導電経路を形成するうえで好ましい。
【0037】
樹脂31に添加される還元剤33は、上述したが、樹脂31の硬化前にて両電極11、21の表面に形成された金属酸化膜を還元するものである。本実施形態の還元剤33は、樹脂31の硬化温度(たとえば150℃)よりも低い融点を有し、少なくとも1個以上の水酸基を有する物質よりなる。ここで、導電性接着剤30全体に占める還元剤33の含有量は、一般的な還元剤と同様、0.1〜10wt%であることが好ましい。
【0038】
そのような還元剤33としては、アミノフェネチルアルコール、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ヒドロキノン、o−アミノフェノール、m−アミノフェノール、P−アミノフェノール、ピロガロール、ベンゾトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、アスコルビン酸、亜りん酸トリメチル、亜りん酸トリエチル、りん酸トリアリル、アセチルアセトン、8−キノリノール、カルボヒドラジド、デカメチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、エリトリトール、リビトール、アジピン酸、2−ブロモカプロン酸、6−ブロモカプロン酸、2−ピリジンカルボン酸、o−アミノ安息香酸、m−アミノ安息香酸、p−アミノ安息香酸、スベリン酸、マロン酸、コハク酸、3,5−ジメチルピラゾール、o−ベンゾイル安息香酸、m−ベンゾイル安息香酸、p−ベンゾイル安息香酸、o−ブロモ安息香酸、m−ブロモ安息香酸、p−ブロモ安息香酸、ピリジンHClなどが挙げられる。
【0039】
具体的には、還元剤33は、融点が50℃〜120℃であり且つ少なくとも1個以上の−OH基をもつアルコール系物質である。この還元剤33の融点が50〜120℃であることは、本実施形態のように、樹脂31の硬化温度が150℃以下である場合に有効である。
【0040】
還元剤33の融点を50℃〜120℃の範囲とするのは、還元剤33は、当該還元剤の融点以上となったときに上記金属酸化膜と還元反応を起こすことを考慮したものである。常温で還元剤33が反応活性であると、保存安定性が悪いため、常温では還元剤33を反応不活性状態に維持する。
【0041】
一方、導電性接着剤30の硬化時には、常温から硬化温度に達するまでの温度にて還元剤33が反応活性となることが必要である。このことから、樹脂31の硬化温度が150℃以下である場合には、還元剤33の融点を50℃〜120℃の範囲で樹脂31の硬化温度以下にすれば、適切な還元力の発揮、および、保存安定性に優れた還元剤33が実現できる。
【0042】
さらに好ましい還元剤33の融点は、100〜120℃であり、そのようなものとしては、アミノフェネチルアルコールが挙げられる。また、還元剤33は非常に活性が高く、樹脂31中の他成分と反応しやすいため、導電性接着剤30中の還元剤33の含有量が多すぎると、導電性接着剤30中にボイドが発生しやすく、また、還元剤33の保存安定性が悪化しやすい。
【0043】
そして、還元剤33としてアミノフェネチルアルコールを用いる場合には、導電性接着剤30中におけるアミノフェネチルアルコールの含有量を2〜4wt%とすることが望ましい。2〜4wt%ならば、上記ボイドの防止および保存安定性の確保の両立が実現できることを確認している。
【0044】
上述したように、導電性接着剤30は導電性接着剤30中の導電フィラー32と電極11、21との接触、及び導電フィラー32同士が接触することにより、導電性を得ているが、そのため、例えばSn系電極部品の場合は電極表面の酸化膜が阻害して、十分な導通を得ることができない。
【0045】
しかしながら、上記した本実施形態の導電性接着剤30であれば、配合された還元剤33がSn酸化膜を還元することにより、導電フィラー32がSn電極である部品電極11と良好な接触導通を得ることができる。たとえば、3216型のチップコンデンサやチップ抵抗の場合、その接続抵抗が数mΩ〜10mΩとなり、電子回路上、十分な低接続抵抗を確保することができる。
【0046】
また、はんだと比べて低温で加熱処理可能であるという一般的な導電性接着剤の利点を損なわないためには、本実施形態においても、導電性接着剤30は150℃以下で硬化する必要があり、そのためには、還元剤33の還元発揮温度すなわち還元剤33の融点は150℃より十分低い必要がある。
【0047】
この還元剤33の融点と還元力との関係について、実験検討した結果を図2に示す。部品電極11として表面がSnよりなるもの、基板電極21として表面がAgよりなるものを用い、上記図1(b)に示されるように、これら両電極11、21間に導電性接着剤30を介在させ、導電性接着剤30を硬化させた後、電極11、21間の抵抗を測定した。ここで、導電性接着剤の硬化は150℃で行った。
【0048】
続いて、さらに200℃で20分保持した後、再度、電極11、21間の抵抗を測定した。そして、硬化直後の抵抗値と200℃保持後の抵抗値とを比較し、抵抗変化量を求めた。このような抵抗変化量の測定を、導電性接着剤30中の還元剤33を変えたものついてn=8で行った。ここで、導電性接着剤30中における還元剤33の含有量は、1wt%とした。その結果を図2に示す。
【0049】
図2では、還元剤33としては、2−ブロモカプロン酸(融点:4℃)、トリエタノールアミン(融点:20℃)、トリメチロールプロパン(融点:59℃)、アミノフェネチルアルコール(融点:108℃)、o−ベンゾイル安息香酸(融点:128℃)、マロン酸(融点:134℃)、2−ピリジンカルボン酸(融点:136℃)、スベリン酸(融点:141℃)、o−アミノ安息香酸(融点:145℃)、ピリジンHCl(融点:145℃)、アジピン酸(融点:151℃)が挙げられ、これらについて測定された上記抵抗変化量が示されている。
【0050】
そして、図2には、上記抵抗変化量の測定がなされた導電性接着剤30中の還元剤33の融点と、当該抵抗変化量との関係が示されている。なお、還元剤を含有しない導電性接着剤30についても上記抵抗変化量を測定したが、その値については図2中「未添加」として示してある。
【0051】
図2に示される結果から、融点が130℃以下の還元剤33の方が、130℃以上のものよりも、上記抵抗変化量が小さく、比較的安定な接続状態になりやすい傾向にあることがわかった。
【0052】
また、上記抵抗変化量は、5mΩ以下程度であれば、実用上、問題ないレベルであり、図2に示される結果から、このレベルを十分に満足し最も抵抗変化量が小さい還元剤33としては、融点が108℃であるアミノフェネチルアルコールおよび融点が59℃であるトリメチロールプロパンが挙げられる。
【0053】
つまり、この図2によれば、還元剤33の融点としてはトリメチロールプロパンの融点である59℃からアミノフェネチルアルコールの融点である108℃までが好ましい範囲である。さらに、アミノフェネチルアルコールとトリメチロールプロパンは、エポキシ樹脂とのなじみも良好であった。
【0054】
そこで、アミノフェネチルアルコールとトリメチロールプロパンについて、さらに還元力の比較検討を行った。図3は、この検討方法の手順を示す図である。図3(a)に示されるように、SnよりなるSnプレート100の上に還元剤33としてのアミノフェネチルアルコール、トリメチロールプロパンを塗布する。Snプレート100の表面には自然に酸化Sn膜が形成されている。
【0055】
そして、このものを、大気雰囲気にて150℃で熱処理した後、還元剤33を拭き取る。その後、図3(b)に示されるように、Snプレート100の表面をXPS分析(X線光電子分光法)することによって、Snプレート100の表面に存在するSnの割合を求める。
【0056】
図4は、図3に示される方法による分析結果を示す図であり、Snプレート100の表面からのエッチング深さ(単位:nm、SnO2換算)と、酸化Snに対するSn量(単位:%)との関係を示す図である。当該エッチング深さはSnプレート100の表面から内部に向かう深さであり、当該Sn量は、そのエッチング深さにおいて存在するSnの割合であり、当該Sn量が大きいほど、還元力が強いことを表す。
【0057】
測定は、アミノフェネチルアルコール、トリメチロールプロパンのそれぞれについて、n=2で行った。また、比較のために、還元処理を行わない、すなわち還元剤33を塗布しないSnプレート100についても同様の測定を行った。そして、図4には、これらアミノフェネチルアルコール、トリメチロールプロパン、および「還元処理なし」についての測定結果が示されている。
【0058】
図4に示されるように、アミノフェネチルアルコール、トリメチロールプロパンともに、還元力を有するが、これら2材料では、アミノフェネチルアルコールの方が、還元力が強いことがわかる。つまり、本発明者の実験検討によれば、融点が108℃であるアミノフェネチルアルコールは、150℃で処理されて最も大きな還元性を発揮する還元剤であるといえる。
【0059】
このように、本実施形態では、部品電極11と基板電極21との間に導電性接着剤30を介在させ、樹脂31を加熱・硬化させることにより両電極11、21の接続を行うが、上記還元剤33を含有する導電性接着剤30を用いることにより、この樹脂31の加熱時に、樹脂31の硬化温度以下の温度にて還元剤33による電極11、21表面の金属酸化膜の還元を行う。
【0060】
ここで、還元剤33を配合した導電性接着剤30を加熱・硬化する際には、好ましくは、樹脂硬化前の還元時間を長く確保した方が、還元効果が大きい。つまり、硬化プロファイルとしては、還元剤33の融点よりも、たとえば数℃〜10℃高く樹脂の硬化温度よりは低い温度で、いったん保持してから、エポキシ樹脂の硬化温度まで上げた方がより良好な還元効果を得ることができる。
【0061】
なお、金属酸化膜は、部品電極11、基板電極21の両表面に存在していなくてもよく、いずれか一方のみに存在していればよい。この場合、当該一方のみに存在する金属酸化膜に対して上記した本実施形態の還元剤33による効果が発揮される。
【0062】
また、この還元剤33による金属酸化膜の除去は、上述したようなフィラーの周囲にナノサイズのAg粒子をコーティングした融着性を具備する導電フィラー32を用いた場合にも、導電フィラー32と電極11、21との融着性向上の効果をもたらすことが期待される。
【0063】
(他の実施形態)
上記実施形態では、第1の部材である部品電極11の表面がSnであり、第2の部材である基板電極21の表面がAgである例を示したが、部品電極11の表面がSn以外の金属であって基板電極21の表面がSnであってもよく、また両電極11、21の表面がSnでもよい。上述したように、Snは酸化膜が形成されやすいが、上記した導電性接着剤30を採用することで適切に酸化膜の還元・除去が行える。
【0064】
また、上記実施形態では、電子部品10としてチップコンデンサを用い、これを回路基板20の上に搭載した例を示したが、表面が金属よりなる第1の部材と表面が金属よりなる第2の部材とを導電性接着剤を介して接続するものであれば、上記実施形態に限定されるものではない。たとえば、第1の部材および第2の部材としては、次の図5に示されるものであってもよい。
【0065】
図5(a)、(b)、(c)、(d)は、導電性接着剤30により接続された第1の部材および第2の部材の種々の例を示す概略断面図である。ここで、図5(a)から(d)の各例において、回路基板20は、上記同様に、セラミック基板やプリント基板、あるいはリードフレームなどを採用することができ、基板電極21は、その表面がAg系金属、Au系金属、Ni系金属、Sn系金属、Cu系金属などよりなる。
【0066】
図5(a)では、電子部品10はバンプよりなる部品電極11を有する。この部品電極11が第1の部材、基板電極21が第2の部材として構成され、両部材11、21は導電性接着剤30により接続されている。この電子部品10としては、フリップチップやCSP(チップサイズパッケージ)等のフェイスダウンチップ、BGA(ボールグリッドアレイ)などであり、バンプとしては、Snを含むはんだバンプや、Au等のスタッドバンプが挙げられる。
【0067】
図5(b)では、電子部品10は、ワイヤ40により基板20に実装されたワイヤボンドタイプのベアチップICであり、部品電極11は、このベアチップICの裏面電極である。この裏面電極の材質としては、Sn系、Au系、Ag系、Cu系、Ni系の各金属が挙げられる。そして、この部品電極11が第1の部材、基板電極21が第2の部材として構成され、両部材11、21は導電性接着剤30により接続されている。
【0068】
図5(c)では、回路基板20上の2個の基板電極21の一方が第1の部材、他方が第2の部材として構成され、両部材21、21は導電性接着剤30により接続されている。つまり、導電性接着剤30は、配線間や電極間の導通を確保するためのジャンパー材料として適用されている。
【0069】
図5(d)では、部品50と回路基板20とがコネクタ60を介して導通しており、コネクタ60と部品50との間、および、コネクタ60と基板電極21との間が、導電性接着剤30により接続されている。コネクタ60の表面の材質はSn系、Au系、Ag系、Cu系、Ni系の各金属が挙げられる。この場合、導電性接着剤30を介して接続されている両部材の一方が第1の部材、他方が第2の部材となる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】(a)は本発明の実施形態に係る電子装置の概略断面図であり、(b)は(a)中の導電性接着剤の硬化前の状態を示す拡大図である。
【図2】還元剤の融点と抵抗変化量との関係を示す図である。
【図3】還元力の検討方法の手順を示す図である。
【図4】Snプレートの表面からのエッチング深さと酸化Snに対するSn量との関係を示す図である。
【図5】導電性接着剤により接続された第1の部材および第2の部材の種々の例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0071】
10 電子部品
11 部品電極
20 回路基板
21 基板電極
30 導電性接着剤
31 樹脂
32 導電フィラー
33 還元剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が金属よりなる第1の部材(11)と表面が金属よりなる第2の部材(21)とを接続するときに使用される接着剤であって、樹脂(31)に導電フィラー(32)を含有してなり、前記樹脂(31)を加熱して硬化させることにより前記両部材(11、21)の接続を行う導電性接着剤において、
前記樹脂(31)には、前記両部材(11、21)の表面に形成された金属酸化膜を還元する還元剤(33)が含有されており、
前記還元剤(33)は、前記樹脂(31)の硬化温度よりも低い融点を有し、少なくとも1個以上の水酸基を有する物質よりなることを特徴とする導電性接着剤。
【請求項2】
前記樹脂(31)は、その硬化温度が150℃以下であり、前記還元剤(33)は、50℃以上120℃以下の範囲で前記樹脂の硬化温度よりも低い融点を有するものであることを特徴とする請求項1に記載の導電性接着剤。
【請求項3】
前記還元剤(33)は、アミノフェネチルアルコールであることを特徴とする請求項2に記載の導電性接着剤。
【請求項4】
当該導電性接着剤中における前記還元剤(33)としての前記アミノフェネチルアルコールの含有量は、2重量%以上4重量%以下であることを特徴とする請求項3に記載の導電性接着剤。
【請求項5】
表面が金属よりなる第1の部材(11)と表面が金属よりなる第2の部材(21)との間に、樹脂(31)に導電フィラー(32)を含有してなる導電性接着剤(30)を介在させ、
前記樹脂(31)を加熱して硬化させることにより前記両部材(11、21)の接続を行う導電性接着剤による部材の接続方法において、
前記導電性接着剤(30)として、前記樹脂(31)の硬化温度よりも低い融点を有し且つ少なくとも1個以上の水酸基を有する物質よりなる還元剤(33)が前記樹脂(31)に含有されたものを用い、
前記樹脂(31)の加熱においては、前記還元剤(33)によって前記樹脂(31)の硬化温度以下の温度で前記両部材(11、21)の表面に形成された金属酸化膜を還元することを特徴とする導電性接着剤による部材の接続方法。
【請求項6】
前記樹脂(31)は、その硬化温度が150℃以下であり、
前記還元剤(33)は、50℃以上120℃以下の範囲で前記樹脂の硬化温度よりも低い融点を有するものであることを特徴とする請求項5に記載の導電性接着剤による部材の接続方法。
【請求項7】
前記還元剤(33)は、アミノフェネチルアルコールであることを特徴とする請求項6に記載の導電性接着剤による部材の接続方法。
【請求項8】
当該導電性接着剤中における前記還元剤(33)としての前記アミノフェネチルアルコールの含有量は、2重量%以上4重量%以下であることを特徴とする請求項7に記載の導電性接着剤による部材の接続方法。
【請求項9】
前記第1の部材(11)と前記第2の部材(21)との間に前記導電性接着剤(30)を介在させた後、
前記樹脂(31)の硬化温度よりも低く前記還元剤(33)の融点よりも高い温度にて前記導電性接着剤(30)を加熱し、
続いて前記樹脂(31)の加熱による硬化を行うことを特徴とする請求項5ないし8のいずれか1つに記載の導電性接着剤による部材の接続方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−298951(P2009−298951A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−156253(P2008−156253)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(591252862)ナミックス株式会社 (133)
【Fターム(参考)】