説明

導電性膜及びその製造方法並びに導電性膜形成用銀合金スパッタリングターゲット及びその製造方法

【課題】 低抵抗かつ高反射率の特性と共に表面粗さが小さく、高い耐硫化性及び耐塩化性を兼ね備えた導電性膜およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 導電性膜が、Cu:0.1〜2.5原子%、Sb:0.1〜1.5原子%、Ga:0.5〜3原子%を含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成を有した銀合金で構成されている。この導電性膜は、表面に有機EL素子の透明導電膜が積層され、さらにその上に有機EL層を含む電界発光層が積層される有機EL素子用の反射電極膜として好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子の反射電極膜やタッチパネルの配線膜などに好適な導電性膜及びその製造方法並びに導電性膜形成用銀合金スパッタリングターゲット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、有機EL表示装置では、スイッチング素子であるTFT(薄膜トランジスタ)が配置されたTFTアクティブマトリックス基板上に、有機EL層を含む電界発光層の両側にアノード(陽極)とカソード(陰極)とを配した有機EL素子が、各画素領域に形成された構造とされている。
【0003】
有機EL素子の光の取り出し方式には、透明基板側から光を取り出すボトムエミッション方式と、基板とは反対側に光を取り出すトップエミッション方式とがあり、開口率の高いトップエミッション方式が、高輝度化に有利である。従来、トップエミッション方式の有機EL素子では、アノードの金属膜としてAlまたはAl合金やAgまたはAg合金の反射電極膜が用いられており、この反射電極膜と電界発光層との間には、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)やAZO(Aluminum doped Zinc Oxide:アルミニウム添加酸化亜鉛)等の透明導電膜が設けられている(特許文献1参照)。この透明導電膜は、仕事関数が高いという特性から正孔を有機EL層に注入するために設けられている。
【0004】
ここで、反射電極膜は、有機EL層で発光した光を効率よく反射するために、高反射率であることが望ましい。また、電極として低抵抗であることも望ましい。そのような材料として、Ag合金およびAl合金が知られているが、より高輝度の有機EL素子を得るためには、可視光反射率が高いことからAg合金が優れている。
ここで、有機EL素子への反射電極膜の形成には、スパッタリング法が採用されており、銀合金スパッタリングターゲットが用いられている(特許文献2参照)。
【0005】
また、有機EL素子用反射電極膜の他に、タッチパネルの引き出し配線などの導電性膜にも、Ag合金膜が検討されている。このような配線膜として、例えば純Agを用いるとマイグレーションが生じて短絡不良が発生しやすくなるため、Ag合金膜の採用が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−236839号公報
【特許文献2】国際公開第2002/077317号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の技術においても、以下の課題が残されている。
有機EL素子のアノードとされるAg合金膜については、反射電極として低抵抗および高反射率の特性が求められると共に、上層に形成される透明導電膜の健全性を確保するために、表面粗さが小さいことが求められる。すなわち、Ag合金膜の表面粗さが大きいとAg合金膜の凹凸により上層の透明導電膜、さらには後の工程で形成される有機EL層を含む電界発光層に欠陥を生じる。これにより有機ELパネルの生産歩留まりが低下することとなる。また、工程雰囲気中に含まれる硫黄分がAg合金膜を硫化し、硫化された領域が欠陥となり、これも歩留まり低下を生じる原因となる。
このように従来では、十分な低抵抗と高反射率とを備え、さらに小さい表面粗さおよび高い耐硫化性を有するAg合金膜を得ることができなかった。
また、有機ELパネルはスマートフォンなどタッチパネルと併用してモバイルのディスプレイとして使用されることが多く、環境からの塩素成分に加え、人体からの汗など、塩素成分の影響を受ける可能性が高い。このため、塩素に対する耐性が求められており、これは有機ELパネルの構成要素であるAg合金を使用した反射電極膜についても同様である。
さらに、タッチパネルの引き出し配線としてAg合金が使用される場合にも低抵抗、平滑性及び耐環境性(耐硫化性、耐塩化性)が求められるが、上述の通り、タッチパネルは人体に近い部分で使用されるため、特に耐塩化性が重要となる。
【0008】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、低抵抗かつ高反射率の特性と共に表面粗さが小さく、高い耐硫化性及び耐塩化性を兼ね備えた導電性膜及びその製造方法並びに導電性膜形成用銀合金スパッタリングターゲット及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、Ag合金の導電性膜に関して鋭意研究を進めた結果、Agに、適量のCu及びSb、さらにGaを添加することで、膜の耐硫化性及び耐塩化性を向上させることができることを見出した。
【0010】
したがって、本発明は、上記知見から得られたものであり、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
第1の発明に係る導電性膜は、Cu:0.1〜2.5原子%、Sb:0.1〜1.5原子%、Ga:0.5〜3原子%を含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成を有した銀合金で構成されていることを特徴とする。
この導電性膜では、Cu:0.1〜2.5原子%、Sb:0.1〜1.5原子%、Ga:0.5〜3原子%を含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成を有した銀合金で構成されているので、低抵抗かつ高反射率の特性を有しながら、含有するCuおよびSbによって小さい表面粗さと高い耐硫化性とを有し、さらにGaによって高い耐塩化性を有している。
【0011】
ここで、本発明のスパッタリングターゲットにおける金属成分元素の含有割合を上記のごとく限定した理由は、以下のとおりである。
Cu:
Cuは、表面粗さを低減すると共に耐硫化性を高める効果を有するので添加するが、0.1原子%よりも少ないとこの効果が十分でなく、一方、Cuを、2.5原子%を超えて含有させると、反射率が低下してしまうので、好ましくない。したがって、この発明のスパッタリングターゲット中に含まれる全金属成分元素に占めるCuの含有割合を0.1〜2.5原子%に定めた。
Sb:
Sbは、表面粗さを低減する効果が極めて大きく、なおかつCuよりも反射率および比抵抗を低下させる度合いが小さい。Sbが、0.1原子%よりも少ないと表面粗さの低減効果が小さくなってしまい、一方、Sbを、1.5原子%を超えて含有させると、反射率が低下してしまうので、好ましくない。したがって、この発明のスパッタリングターゲット中に含まれる全金属成分元素に占めるSbの含有割合をSb:0.1〜1.5原子%に定めた。
Ga:
Gaは、耐塩化性を高める効果を有するので添加するが、Gaが0.5原子%よりも少ないとこの効果が十分でなく、一方、3原子%を超えて含有させると、比抵抗が増大してしまうと共に反射率も低下してしまうので、好ましくない。したがって、この発明のスパッタリングターゲット中に含まれる全金属成分元素に占めるGaの含有割合を0.5〜3原子%に定めた。
【0012】
第2の発明に係る導電性膜は、第1の発明において、さらにMg:0.5〜1.5原子%を含有していると共に、GaとMgとの合計が3原子%以下であることを特徴とする。
すなわち、この導電性膜では、さらにMg:0.5〜1.5原子%を含有していると共に、GaとMgとの合計が3原子%以下であるので、Gaと共にさらに添加したMgによって高い耐塩化性を有している。
なお、このスパッタリングターゲットにおけるMgの含有割合を上記のごとく限定した理由は、以下のとおりである。
Mg:
Mgは、耐塩化性を高める効果を有するので添加するが、Mgが0.5原子%よりも少ないとこの効果が十分でなく、一方、1.5原子%を超えて含有させると、比抵抗が増大してしまうと共に反射率も低下してしまうので、好ましくない。また、GaとMgとの合計割合が3原子%を超えると、比抵抗が増大してしまうと共に反射率も低下してしまう。したがって、この発明のスパッタリングターゲット中に含まれる全金属成分元素に占めるMgの含有割合を0.5〜1.5原子%とすると共に、GaとMgとの合計が3原子%以下に定めた。
【0013】
第3の発明に係る導電性膜は、第1又は第2の発明において、表面に有機EL素子の透明導電膜が積層され、さらにその上に有機EL層を含む電界発光層が積層される有機EL素子用の反射電極膜であることを特徴とする。
すなわち、この導電性膜では、表面に有機EL素子の透明導電膜が積層されるので、小さい表面粗さにより上層の透明導電膜の健全性が確保されると共に、さらにその上の有機EL層に欠陥が生じることを防ぐことができる。また、反射電極膜の硫化による欠陥の発生を抑制し、歩留まり低下を防ぐことができると共に、塩素による影響も受け難い。
【0014】
第4の発明に係る導電性膜の製造方法は、第1から第3のいずれかの発明である導電性膜を製造する方法であって、Cu:0.1〜2.5原子%、Sb:0.1〜1.5原子%、Mg:0.5〜1.5原子%を含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成を有した銀合金で構成されたスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングすることにより成膜することを特徴とする。
すなわち、この導電性膜の製造方法では、上記発明の導電性膜と同成分組成の銀合金スパッタリングターゲットを用いてスパッタリングするので、小さい表面粗さと高い耐硫化性及び耐塩化性とを有した導電性膜を安定して得ることができる。
【0015】
また、第5の発明に係る導電性膜の製造方法は、第4の発明において、前記スパッタリングターゲットに、さらにMg:0.5〜1.5原子%を含有させると共に、GaとMgとの合計を3原子%以下にすることを特徴とする。
すなわち、この導電性膜の製造方法では、上記成分組成の銀合金スパッタリングターゲットを用いてスパッタリングすることで、上記第2の発明の導電性膜を安定して得ることができる。
【0016】
第6の発明に係る導電性膜形成用銀合金スパッタリングターゲットは、Cu:0.1〜2.5原子%、Sb:0.1〜1.5原子%、Ga:0.5〜3原子%を含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成を有した銀合金で構成されていることを特徴とする。
すなわち、この導電性膜形成用銀合金スパッタリングターゲットを用いてスパッタすることで、低い電気抵抗及び小さい表面粗さを有し、さらに高い耐硫化性及び耐塩化性を有した導電性膜を安定して得ることができる。
【0017】
第7の発明に係る導電性膜形成用銀合金スパッタリングターゲットは、第6の発明において、さらにMg:0.5〜1.5原子%を含有していると共に、GaとMgとの合計が3原子%以下であることを特徴とする。
すなわち、この導電性膜形成用銀合金スパッタリングターゲット用いてスパッタすることで、上記第2の発明である導電性膜を安定して得ることができる。
【0018】
第8の発明に係る導電性膜形成用銀合金スパッタリングターゲットの製造方法は、第6又は第7の発明の導電性膜形成用銀合金スパッタリングターゲットを作製する方法であって、Cu:0.1〜2.5原子%、Sb:0.1〜1.5原子%、Ga:0.5〜3原子%を含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成を有した溶解鋳造インゴットを、圧延する工程、機械加工する工程を、この順で行うことを特徴とする。
すなわち、この導電性膜形成用銀合金スパッタリングターゲットの製造方法では、Cu:0.1〜2.5原子%、Sb:0.1〜1.5原子%、Ga:0.5〜3原子%を含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成を有した溶解鋳造インゴットを、圧延する工程、機械加工する工程を、この順で行うことで、上記本発明のスパッタリングターゲットを得ることができる。
【0019】
第9の発明に係る導電性膜形成用銀合金スパッタリングターゲットの製造方法は、第8の発明において、前記溶解鋳造インゴットに、さらにMg:0.5〜1.5原子%を含有させると共に、GaとMgとの合計を3原子%以下にすることを特徴とする。
すなわち、この導電性膜形成用銀合金スパッタリングターゲットの製造方法では、溶解鋳造インゴットに、さらにMg:0.5〜1.5原子%を含有させると共に、GaとMgとの合計を3原子%以下にするので、第7の発明の導電性膜形成用銀合金スパッタリングターゲットを得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
本発明の導電性膜及びその製造方法によれば、膜が上記含有量範囲のCu,Sb及びGaを含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成を有した銀合金で構成されているので、低抵抗かつ高反射率の特性を有しながら、小さい表面粗さと高い耐硫化性及び耐塩化性とを兼ね備えることができる。また、本発明の導電性膜形成用銀合金スパッタリングターゲットを用いてスパッタすることで、上記特性の導電性膜を安定して得ることができる。
したがって、本発明の導電性膜を有機EL素子の反射電極膜として採用することにより、凹凸によって生じる透明導電膜および有機EL層に欠陥や硫化によって生じる欠陥の発生を抑制し、有機ELパネルの生産歩留まりを向上させることができる。また、塩素成分の影響を受け難く、良好な膜特性を維持することができる。
さらに、本発明の導電性膜をタッチパネルの引き出し配線として採用することにより、低抵抗で十分な平滑性を有すると共に良好な耐環境性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る導電性膜およびその製造方法並びに導電性膜形成用銀合金スパッタリングターゲット及びその製造方法の一実施形態において、有機EL素子の層構造を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る導電性膜およびその製造方法並びに導電性膜形成用銀合金スパッタリングターゲット及びその製造方法の一実施形態を、図1を参照しながら説明する。
【0023】
本実施形態の導電性膜は、Cu:0.1〜2.5原子%、Sb:0.1〜1.5原子%、Ga:0.5〜3原子%を含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成を有した銀合金で構成されている。
また、本実施形態の導電性膜は、必要に応じてさらにMg:0.5〜1.5原子%を含有させると共に、GaとMgとの合計を3原子%以下としたものでも構わない。
この導電性膜1は、例えば図1に示すように、表面に有機EL素子10の透明導電膜2が積層され、さらにその上に有機EL層3bを含む電界発光層3が積層される有機EL素子用の反射電極膜である。
【0024】
すなわち、この導電性膜1を備えた有機EL素子10は、成膜基板4上に形成されたアノード5と、該アノード5上に形成された有機EL層3bを含む電界発光層3と、該電界発光層3上に形成されたカソード6とを備えた有機EL素子であって、アノード5が、上記導電性膜1と、該導電性膜1と電界発光層3との間に形成された透明導電膜2とを有している。
【0025】
上記成膜基板4は、例えばTFT基板上に有機EL用素子を形成する場合、SiN膜やゲート絶縁膜となるSiO膜等の複数の絶縁膜が上部に積層されたガラス基板や耐熱性樹脂基板等の絶縁性基板が用いられる。
上記各層および膜の厚さは、例えば電界発光層3が100〜200nm、透明導電膜2が10〜20nm、導電性膜1が100nmである。
上記電界発光層3は、アノード5上にホール(正孔)輸送層3a、有機EL層3b、電子輸送層3cの順に積層された三層構造を有している。
【0026】
なお、ホール輸送層3aを構成する有機高分子材料(正孔注入・輸送材料)としては、正孔を輸送する能力を持ち、アノード5からの正孔注入効果、有機EL層3b又は発光材料に対して優れた正孔注入効果を有し、有機EL層3bで生成した励起子の電子輸送層3cへの移動を防止し、かつ薄膜形成能力の優れた化合物が好ましい。
具体的には、フタロシアニン誘導体、ナフタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、イミダゾロン、イミダゾールチオン、ピラゾリン、ピラゾロン、テトラヒドロイミダゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、ヒドラゾン、アシルヒドラゾン、ポリアリールアルカン、スチルベン、ブタジエン、ベンジジン型トリフェニルアミン、スチリルアミン型トリフェニルアミン、ジアミン型トリフェニルアミン等及びこれらの誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリシラン等の高分子、ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)、ポリアニリン/カンファースルホン酸(PANI/CSA)等に代表される導電性高分子等の高分子材料が挙げられる。
【0027】
有機EL層3bに用いる発光材料としては、例えば、4,4’−(2,2−ジフェニルビニル)ビフェニル等のオレフィン系発光材料、9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン、9,10−ビス(3,5−ジフェニルフェニル)アントラセン、9,10−ビス(9,9−ジメチルフルオレニル)アントラセン、9,10−(4−(2,2−ジフェニルビニル)フェニル)アントラセン、9,10’−ビス(2−ビフェニリル)−9,9’−ビスアントラセン、9,10,9’,10’−テトラフェニル−2,2’−ビアントリル、1,4−ビス(9−フェニル−10−アントラセニル)ベンゼン等のアントラセン系発光材料、2,7,2’,7’−テトラキス(2,2−ジフェニルビニル)スピロビフルオレン等のスピロ系発光材料、4,4’−ジカルバゾリルビフェニル、1,3−ジカルバゾリルベンゼン等のカルバゾール系発光材料、1,3,5−トリピレニルベンゼン等のピレン系発光材料に代表される低分子発光材料、ポリフェニレンビニレン類、ポリフルオレン類、ポリビニルカルバゾール類等に代表される高分子発光材料等が挙げられる。
有機EL層3bには、蛍光色素をドーピングしてもよく、燐光色素をドーピングしてもよい。
【0028】
電子輸送層3cに用いる電子注入・輸送材料としては、電子を輸送する能力を持ち、カソード6からの電子注入効果、有機EL層3b又は発光材料に対して優れた電子注入効果を有し、有機EL層3bで生成した励起子の正孔注入層への移動を防止し、かつ薄膜形成能力の優れた化合物が好ましい。具体的には、例えば、フルオレノン、アントラキノジメタン、ジフェノキノン、チオピランジオキシド、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、ペリレンテトラカルボン酸、フレオレニリデンメタン、アントラキノジメタン、アントロン等及びこれらの誘導体が挙げられる。
上記透明導電膜2は、ITOやAZO等である。
【0029】
本実施形態の導電性膜1は、Cu:0.1〜2.5原子%、Sb:0.1〜1.5原子%、Ga:0.5〜3原子%を含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成を有した銀合金で構成されたスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングすることにより成膜される。
また、必要に応じて、さらにMg:0.5〜1.5原子%を含有していると共に、GaとMgとの合計が3原子%以下である銀合金で構成されたスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングすることにより成膜される。
例えば、以下の工程によって導電性膜1が作製される。
【0030】
まず、原料として、純度99.9質量%以上のAgと、純度99.9質量%以上のCuとSbとGaとを所定の組成となるように秤量する。また、必要に応じてMgを添加する場合は、純度99.9質量%以上のMgも所定の組成となるように秤量する。
次に、Agを高真空または不活性ガス雰囲気中で溶解し、得られた溶湯に所定の含有量のCuとSbとGaとを添加する。なお、必要に応じてMgを添加する場合も、この溶湯に所定の含有量のMgを添加する。その後、真空または不活性ガス雰囲気中で溶解して、Cu:0.1〜2.5原子%、Sb:0.1〜1.5原子%、Ga:0.5〜3原子%を含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成を有した銀合金の溶解鋳造インゴットを作製する。
【0031】
ここで、Agの溶解は、雰囲気を一度真空にした後、Arで置換した雰囲気で行い、溶解後、Ar雰囲気の中でAgの溶湯にCuとSbとGaとを添加することが、Ag,Cu,Sb及びGaの組成比率を安定に得る観点から好ましい。なお、Mgを添加する際も、同様である。さらに、Cu,Sb,Ga及びMgとは予め作製したAgCu,AgSb,AgGa,AgMg等の母合金の形で添加してもよい。
【0032】
得られたインゴットを冷間圧延した後、大気中で例えば600℃、2時間保持の熱処理を施し、次いで機械加工することにより、所定寸法のスパッタリングターゲットを作製する。
このスパッタリングターゲットを無酸素銅製のバッキングプレートに半田付けし、これを直流マグネトロンスパッタ装置に装着する。
【0033】
次に、真空排気装置にて直流マグネトロンスパッタ装置内を例えば5×10−5Pa以下まで排気した後、Arガスを導入して所定のスパッタガス圧とし、続いて直流電源にてターゲットに例えば250Wの直流スパッタ電力を印加する。さらに、上記ターゲットに対向しかつ所定の間隔を設けて上記ターゲットと平行に配置した成膜基板4と上記ターゲットとの間にプラズマを発生させることで、導電性膜1を成膜基板4上に成膜する。
【0034】
このように成膜された本実施形態の導電性膜1では、Cu:0.1〜2.5原子%、Sb:0.1〜1.5原子%、Ga:0.5〜3原子%を含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成を有した銀合金で構成されているので、低抵抗かつ高反射率の特性を有しながら、含有するCuおよびSbによって小さい表面粗さと高い耐硫化性とを有し、さらにGaによって高い耐塩化性を有している。
【0035】
また、さらにMg:0.5〜1.5原子%を含有していると共に、GaとMgとの合計が3原子%以下である場合は、Gaと共にさらに添加したMgによって高い耐塩化性を有している。
【0036】
特に、表面に有機EL素子10の透明導電膜2が積層されることで、導電性膜1の小さい表面粗さにより上層の透明導電膜2の健全性が確保されると共に、さらにその上の有機EL層3bに欠陥が生じることを防ぐことができる。また、反射電極膜(導電性膜1)の硫化による欠陥の発生を抑制し、歩留まり低下を防ぐことができる。さらに、塩素成分の影響を受け難く、良好な膜特性を維持することができる。
【実施例】
【0037】
上記実施形態に基づいて成膜した導電性膜の実施例について評価した結果を、以下に説明する。
まず、導電性膜用スパッタリングターゲットを作製するため、原料として、純度99.9質量%以上のAgと、純度99.9質量%以上のCu,Sb及びGaと必要に応じてMgとを、表1に示す所定の組成となるように秤量した。次に、Agを高真空または不活性ガス雰囲気中で溶解し、得られた溶湯に所定の含有量のCu,Sb及びGaと必要に応じてMgとを添加した。その後、真空または不活性ガス雰囲気中で溶解して、Cu:0.1〜2.5原子%、Sb:0.1〜1.5原子%、Ga:0.5〜3原子%を含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成を有した銀合金の溶解鋳造インゴットを作製した。また、Mgを添加した場合は、さらにMg:0.5〜1.5原子%を含有していると共に、GaとMgとの合計が3原子%以下である銀合金の溶解鋳造インゴットを作製した。
【0038】
ここで、Agの溶解は、雰囲気を一度真空にした後、Arで置換した雰囲気で行い、溶解後、Ar雰囲気の中でAgの溶湯にCu,Sb及びGa、さらに必要に応じてMgを添加した。
得られたインゴットを冷間圧延した後、大気中で600℃、2時間保持の熱処理を施し、次いで機械加工することにより、直径152.4mm、厚さ6mmの寸法を有し、表1に示す本発明の実施例スパッタリングターゲット1〜19を作製した。
このスパッタリングターゲットを無酸素銅製のバッキングプレートに半田付けし、これを直流マグネトロンスパッタ装置に装着した。
【0039】
次に、真空排気装置にて直流マグネトロンスパッタ装置内を5×10−5Pa以下まで排気した後、Arガスを導入して0.5Paのスパッタガス圧とし、続いて直流電源にてターゲットに250Wの直流スパッタ電力を印加した。さらに、上記ターゲットに対向しかつ70mmの間隔を設けて上記ターゲットと平行に配置した直径4インチ(10.16cm)の酸化膜付きSiウエハ基板と上記ターゲットとの間にプラズマを発生させることで、導電性膜を酸化膜付きSiウエハ基板上に成膜した。
【0040】
このように本発明の導電性膜の実施例として、上記製法により、表1に示される成分組成を有する実施例1〜19の導電性膜を成膜し、各実施例とも、厚さ100nmおよび厚さ1000nmを有する2種類の試料を作製した。なお、表1に記載の実施例番号は、スパッタリングターゲットとこれにより成膜された導電性膜との両方を示し、互いに同じ成分組成である。
また、比較例として、表1に示す成分組成で比較例スパッタリングターゲット1〜8も同様に作製した。そして、これら比較例のターゲットを用いて成膜した導電性膜の比較例として、本発明の含有量範囲を超えたCu,Sb,Ga,Mgを含む成分組成のもの(比較例1〜8)を、その他の条件は本発明の実施例と同様にして、表1に示される成分組成で成膜した。
なお、導電性膜において各実施例および各比較例の成分組成は、膜厚1000nmの試料についてその組成を電子線マイクロプローブアナライザ(EPMA)により測定し、確認した。
【0041】
<導電性膜の評価>
膜厚100nmの試料について四探針法により、各実施例および各比較例の導電性膜の比抵抗を測定した。次に、原子間力顕微鏡(AFM)により、各実施例および各比較例の導電性膜の表面粗さ(Ra)を測定した。なお、Raの測定は、窒素雰囲気中250℃の温度にて10分保持する熱処理を施した後にも測定した。
【0042】
また、分光光度計により、各実施例および各比較例の導電性膜の波長550nmにおける反射率を測定した。次に、この試料を0.01wt%NaS水溶液に1時間浸漬した後、再び分光光度計により、各導電性膜の波長550nmにおける反射率を測定することで、耐硫化性指標とした。
【0043】
さらに、耐塩化性の評価としては、以下の手順で行った。まず、ガラス基板(30mm×30mm×厚さ:1.1mm)上に上記と同じ条件で100nm厚のAg合金膜を成膜した。次に、成膜したAg合金膜の膜面に5重量%のNaCl水溶液を噴霧した。噴霧は膜面から高さ20cm、基板端からの距離10cmの位置から、膜面と平行方向に行い、膜上に噴霧されたNaCl水溶液が極力自由落下して膜に付着するようにした。1分おきに噴霧を5回繰り返した後、純水ですすぎ洗浄を3回繰り返し、乾燥空気を噴射して水分を吹き飛ばし乾燥した。上記の塩水噴霧後にAg合金膜面を目視で観察し、2段階で表面の状態を評価した。
【0044】
これらの結果を表1に示す。
なお、良好と判断する評価基準としては、比抵抗が9μΩ・cm未満、成膜直後の表面粗さRaが0.8nm未満、熱処理後の表面粗さRaが0.8nm未満、成膜直後の波長550nmでの反射率が94%を超えること、NaS水溶液浸漬後の波長550nmでの反射率が55%を超えることとした。
また、耐塩化性の評価基準としては、白濁又は斑点が確認できない又は一部のみに確認できるものを良「○」とすると共に、白濁又は斑点が全面に確認できるものを不良「×」として、2段階で表面の状態を評価した。
【0045】
【表1】

【0046】
表1からわかるように、Cuの含有量が本発明の範囲よりも少ない比較例1では、耐硫化性が低く、Cuの含有量が本発明の範囲よりも多い比較例2では、反射率が低い。また、Sbの含有量が本発明の範囲よりも少ない比較例3では、成膜直後及び熱処理後の表面粗さが大きく平坦性が低く、Sbの含有量が本発明の範囲よりも多い比較例4では、反射率が低い。さらに、Gaの含有量が本発明の範囲よりも少ない比較例5では、耐塩化性が低く、Gaの含有量が本発明の範囲よりも多い比較例6では、比抵抗が高いと共に反射率が低い。さらに、Ga及びMgの合計含有量のうちGaの含有量が本発明の範囲よりも少ない比較例7では、耐塩化性が低く、Ga及びMgの合計含有量が全体で本発明の範囲よりも多い比較例8では、比抵抗が高いと共に反射率が低い。したがって、これら比較例は、反射電極膜として不十分である。
【0047】
これらに対して本発明の実施例1〜19では、いずれも比抵抗が低く電極膜として好適であると共に、表面粗さについても成膜直後および熱処理後の両方とも小さく高い平坦性を有している。また、これらの本実施例では、いずれも成膜直後およびNaS水溶液浸漬後の両方において高い反射率を得ていると共に良好な耐塩化性を得ている。
したがって、本発明の実施例は、有機EL素子の反射電極膜として好適な比抵抗、表面粗さ、反射率、耐硫化性及び耐塩化性を有している。
【0048】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態及び上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、有機EL素子の反射電極膜として本発明の導電性膜を採用しているが、本発明の導電性膜は、比抵抗が低いと共に表面粗さが小さく、さらに良好な耐環境性(耐硫化性、耐塩化性)を有しているので、タッチパネルの配線膜としても好適である。
【符号の説明】
【0049】
1…導電性膜、2…透明導電膜、3…電界発光層、4…成膜基板、5…アノード、6…カソード、10…有機EL素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu:0.1〜2.5原子%、Sb:0.1〜1.5原子%、Ga:0.5〜3原子%を含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成を有した銀合金で構成されていることを特徴とする導電性膜。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性膜において、
さらにMg:0.5〜1.5原子%を含有していると共に、GaとMgとの合計が3原子%以下であることを特徴とする導電性膜。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の導電性膜において、
表面に有機EL素子の透明導電膜が積層され、さらにその上に有機EL層を含む電界発光層が積層される有機EL素子用の反射電極膜であることを特徴とする導電性膜。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の導電性膜を製造する方法であって、
Cu:0.1〜2.5原子%、Sb:0.1〜1.5原子%、Ga:0.5〜3原子%を含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成を有した銀合金で構成されたスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングすることにより成膜することを特徴とする導電性膜の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の導電性膜の製造方法において、
前記スパッタリングターゲットに、さらにMg:0.5〜1.5原子%を含有させると共に、GaとMgとの合計を3原子%以下にすることを特徴とする導電性膜の製造方法。
【請求項6】
Cu:0.1〜2.5原子%、Sb:0.1〜1.5原子%、Ga:0.5〜3原子%を含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成を有した銀合金で構成されていることを特徴とする導電性膜形成用銀合金スパッタリングターゲット。
【請求項7】
請求項6に記載の導電性膜形成用銀合金スパッタリングターゲットにおいて、
さらにMg:0.5〜1.5原子%を含有していると共に、GaとMgとの合計が3原子%以下であることを特徴とする導電性膜形成用銀合金スパッタリングターゲット。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の導電性膜形成用銀合金スパッタリングターゲットを作製する方法であって、
Cu:0.1〜2.5原子%、Sb:0.1〜1.5原子%、Ga:0.5〜3原子%を含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成を有した溶解鋳造インゴットを、圧延する工程、機械加工する工程を、この順で行うことを特徴とする導電性膜形成用銀合金スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の導電性膜形成用銀合金スパッタリングターゲットの製造方法において、
前記溶解鋳造インゴットに、さらにMg:0.5〜1.5原子%を含有させると共に、GaとMgとの合計を3原子%以下にすることを特徴とする導電性膜形成用銀合金スパッタリングターゲットの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−62203(P2013−62203A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201331(P2011−201331)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】