説明

導電性部材及びこの導電性部材を用いたプロセスカートリッジ及びこのプロセスカートリッジを用いた画像形成装置

【課題】経時にわたって使用されても、安定した抵抗値を維持し、不均一な放電による画像不良が発生しない優れた導電性部材を提供することにある。
【解決手段】 本発明の導電性部材は、導電性支持体70と、導電性支持体70に形成された電気抵抗調整層71と、電気抵抗調整層71と像担持体61が一定の空隙Gを保持するように像担持体61と当接して電気抵抗調整層71の両端部に形成された電気抵抗調整層71とは異なる材質の空隙保持部材72からなるものにおいて、電気抵抗調整層71がエーテル基を有する熱可塑性樹脂と、有機ホスホニウム塩及び含フッ素有機アニオン塩とからなる樹脂組成物により構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性部材及びこの導電性部材を用いた帯電部材及びこの帯電部材を用いたプロセスカートリッジ及びこのプロセスカートリッジを用いた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複写機、レーザービームプリンタ、ファクシミリ等の電子写真方式の画像形成装置には、感光体ドラム(像担持体)に対して帯電処理を行う帯電部材や、感光体ドラム上のトナーに対して転写処理を行う転写部材として導電性部材が用いられている。
【0003】
図1は画像形成装置の模式図を示したものであり、画像形成装置1は、静電潜像が形成される像担持体としての感光体ドラム4と、感光体ドラム4に対して帯電処理を行う帯電部材としての帯電ローラ2と、感光体ドラム4の静電潜像にトナー5を付着させる現像ローラ6と、感光体ドラム4上のトナー像を記録紙Sに転写処理する転写ローラ7と、転写処理後の感光体ドラム4をクリーニングするクリーニングブレード8とを備えている。なお、9は感光体上に残留したトナーがクリーニング部材により除去された排トナー、10は現像装置、11はクリーニング装置を示す。また、図1では、他の電子写真プロセスにおいて通常必要な機能ユニットは、省略されている。
【0004】
帯電ローラ2はパワーパック(図示を略す)より電源供給を受け、感光体ドラム4を所望の電位に帯電させる。この感光体ドラム4は図示を略す駆動機構により矢印A方向に回転する。表面電位計(図示を略す)はその回転方向に沿って帯電ローラ2の直後に設けられ、感光体ドラム4の表面4aの電位を測定する。
【0005】
現像ローラ6は帯電した感光体ドラム4にトナーを付着させ、転写ローラ7は感光体ドラム4に付着したトナーを記録紙Sに転写する。クリーニングブレード8は感光体ドラム4に残留したトナーを除去し、感光体ドラム4をクリーニングする。
【0006】
この画像形成装置1による画像形成過程では、まず、帯電ローラ2により感光体ドラム4の表面4aが負の高電位に帯電される。続いて、その表面4aが露光される。この露光Lにより表面4aの各電位が受光量に応じた電位分布となり、これにより、静電潜像がその表面4aに形成される。
【0007】
感光体ドラム4が回転して、その表面4aの静電潜像が形成された部分が現像ローラ6を通過すると、表面4aには電位分布に応じたトナーが付着して静電潜像がトナー像として可視化される。このトナー像は所定のタイミングで給送される記録紙Sに転写ローラ7により転写され、記録紙Sは図示を略す定着ユニットに向かって矢印B方向に搬送される。
【0008】
一方、転写後、感光体ドラム4は、表面4aに残留するトナーがクリーニングブレード8により除去されてクリーニングされると共に、図示を略すクエンチングランプにより電荷が除去されて次回の作像処理に移行する。
【0009】
画像形成装置1における一般的な帯電方式として帯電ローラ2を感光体ドラム4に接触させる接触帯電方式が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0010】
しかしながら、接触帯電方式からなる帯電ローラ2を用いた場合には、以下に掲げるような問題がある。
(1)帯電ローラの構成物質が帯電ローラから染み出して感光体ドラムの表面に固着し、この固着が進行すると、感光体ドラムの表面に帯電ローラの跡が残る。
(2)帯電ローラ2に交流電圧を印加した際に、感光体ドラムに接触している帯電ローラが振動して帯電音が起こる。
(3)感光体ドラムの表面のトナーが帯電ローラに固着して帯電性能が低下する。特に、帯電ローラにおいて(1)の染み出しが生じると、トナーが一層固着し易くなる。
(4)帯電ローラを構成している物質が感光体に固着し易い。
(5)感光体ドラムを長期間駆動しないと、帯電ローラに永久変形が生じる。
【0011】
このような問題に対処するために、帯電ローラ2を感光体ドラム4に接触するのではなく近接させる近接帯電方式が考案されている(特開平3−240076号公報等)。この近接帯電方式は、帯電ローラ2と感光体ドラム4との最近接距離(以下、空隙という)が50μm〜300μmとなるように両者を対向させ、帯電ローラ2に電圧を印加して感光体ドラム4の帯電を行うものである。
【0012】
近接帯電方式では帯電ローラ2と感光体ドラム4とが接触していないので、接触帯電方式で問題となる「帯電ローラの構成物質の感光体ドラムへの固着」、及び「長期間の不使用により生じる帯電ローラの永久変形」は問題とはならない。また、「トナーの固着による帯電ローラの帯電性能の低下」についても、帯電ローラに固着するトナーが少なくなるため、近接帯電方式が優れている。
【0013】
近接帯電方式に使用される帯電ローラの要求特性は、接触帯電方式に使用される帯電ローラのそれとは異なる。接触帯電方式で一般的に用いられている帯電ローラは、芯金の周囲に加硫ゴム等の弾性体が被覆された構成になっている。
【0014】
接触帯電方式では感光体を均一に帯電させるため、感光体に対して帯電ローラが均一に接触することが必要とされるからである。
【0015】
これに対して、近接帯電方式において、このような弾性体で形成された帯電ローラを使用した場合に、以下の不具合が生じる。
(1)感光体−帯電ローラ間の空隙を形成させるために、帯電ローラ両端の非画像領域にスペーサ等の空隙保持部材を介在させて、近接させる必要があるが、弾性体で形成された帯電ローラの場合、弾性体の変形により空隙を均一に保つことが困難である。その結果、帯電電位変動やそれに起因する画像ムラが発生する。
(2)弾性体を形成する加硫ゴム材料は、経時変化してへたり、変形が生じやすく、そのため経時変化により空隙が変動する。
【0016】
この不具合を解消するために、非弾性体である熱可塑性樹脂を用いることが考えられる。これにより、感光体と帯電ローラとの間の空隙を均一にすることが可能となる。帯電ローラによる感光体ドラムの表面の帯電メカニズムは、帯電ローラと感光体ドラムとの間の微小放電によるパッシェンの法則に従った放電であることが知られている。感光体ドラムを所定の帯電電位に保持する機能を得るためには、熱可塑性樹脂の電気抵抗値を半導電性領域(106Ωcm〜109Ωcm程度)に制御する必要がある。
【0017】
電気抵抗値を制御する方法としては、熱可塑性樹脂中にカーボンブラック等の導電性顔料を分散させる方法が知られている。しかし、導電性顔料を用いて電気抵抗調整層を半導電性領域に設定しようとすると、電気抵抗値のばらつきが大きくなるので、部分的に帯電不良が起こるか、又は、電子伝導により局所放電(リーク放電)が発生し、画像欠陥を発生させるという問題がある。
【0018】
一方、電気抵抗値を制御するための別の手段として、イオン導電性材料を用いるこが考えられる。
【0019】
イオン導電性材料はマトリックス樹脂中に分子レベルで分散するため、導電性顔料が分散するものに比べて抵抗値のばらつきが小さく、部分的な帯電不良は画像品質的に問題とならない。しかしながら、電解質塩のような低分子量のイオン導電性材料はマトリックス樹脂の表面にブリードアウトしやすい性質があり、帯電ローラ表面へブリードアウトした場合にトナーの固着を発生させてしまい、画像不良の不具合を引き起こす。
【0020】
そのブリードアウトを避けるためには、高分子型のイオン導電性材料を使用することが考えられる。この場合、イオン導電性材料がマトリックス樹脂中に分散固定化され、表面へのブリードアウトが起こり難い。高分子型のイオン導電材料としてはポリアミド系エラストマー等が使用されているが、高分子型のみでは抵抗調整層の抵抗値が高く半導電性領域に制御することができないため、電解質塩を加えることにより導電性を付与する手段が用いられている。
【0021】
このような電解質塩としては、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸リチウム等の過塩素酸塩が多く用いられている。しかしながら、過塩素酸ナトリウムの場合は、イオン解離した際に、空気中の水分と反応して、強アルカリ性の水酸化ナトリウムを生じ、経時で樹脂を劣化させ、(ソルベント)クラックが発生するという問題が発生した。
【0022】
クラックを防止するためには強アルカリ性物質を生じない、他の電解質塩を使用することが考えられる。そこで、有機ホスホニウム塩を添加することにより、強アルカリ性物質を生じないため、経時で樹脂が劣化せず、クラックが発生しないことが分かった。
【0023】
なお、本発明に係わる導電性部材に類似の技術として、特許文献4ないし特許文献9がある。
【0024】
特許文献4に開示のものは、導電性芯材上にゴム層が成形されている導電性ゴムローラであって、ゴム層がニトリル含量15〜43重量%のアクリロニトリルブタジエンゴムを75〜99.5重量部、ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル三元共重合体を25〜0.5重量部含有し、さらにハロゲンを含有する四級アンモニウム塩または四級ホスホニウム塩を0.1〜4.0重量部含有する発泡体で構成されている。
【0025】
特許文献5に開示のものは、(A)ポリウレタン系、ポリアミド系及びポリエステル系熱可塑性エラストマーからなる群から選ばれた重合体、及び(B)分子内に燐原原子を結合した少なくとも3個のフェニル基を有する四級ホスホニウム塩を含有する重合体組成物により形成されたイオン導電性チューブを、弾性層上に被覆してなる構成である。
【0026】
特許文献6に開示のものは、非エーテル系ポリウレタン、カーボンブラック及びビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムからなる組成物を成型してなるものである。
【0027】
特許文献7に開示のものは、ポリウレタンフォームが、有機ポリイソシアネート、ポリオール、触媒、整泡剤、導電性付与物質を分散混合させたポリウレタンフォーム形成性組成物を、不活性ガスを機械的攪拌によって混合分散させて後、発泡硬化させてなり、導電性付与物質がカリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド又はリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドのいずれか一方又は両方を含むイオン性導電剤を含み、導電性ロールのアスカーl硬度がC5°〜C80°、抵抗値が1×104〜1×108Ωであり、ポリウレタンフォームの密度が0.1〜0.8g/cm3である。
【0028】
特許文献8に開示のものは、高分子型イオン導電材料としてポリエーテルエステルアミド含有化合物が分散した熱可塑性樹脂組成物からなる抵抗調整層を有する近接帯電方式の帯電部材である。
【0029】
特許文献9に開示のものは、導電性支持体と、その周面に設置された電気抵抗調整層と、その端面に固着される空隙保持部材とを備え、空隙保持部材の外周面は、感光体と当接したときに一定間隔の空隙が形成されるように抵抗調整層の外周面に対して高低差が設けられ、かつ抵抗調整層と隣接する空隙保持部材の端部が、感光体の外表面に当接しないように加工されている。
【特許文献1】特開昭63−149668号公報
【特許文献2】特開平1−2111779号公報
【特許文献3】特開平1−267667号公報
【特許文献4】特開2006-85006号公報
【特許文献5】特開2002-311687号公報
【特許文献6】特開2005-275412号公報
【特許文献7】特開2005-121982号公報
【特許文献8】特開2002-132019号公報
【特許文献9】特開2005-91818号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
しかしながら、有機ホスホニウム塩のみを添加するだけでは、電気抵抗調整層の抵抗値の電圧依存性が小さく、実際の市販の装置(実機)上で印加される高電圧状態での抵抗値が高くなるため、低温低湿環境において、不均一な放電が発生し、画像不良となるという問題点があることがわかった。
【0031】
そこで、有機ホスホニウム塩に加え、含フッ素有機アニオン塩を添加することにより、さらに、抵抗の絶対値を低下させて、抵抗値の電圧依存性が小さくても、低温低湿環境において不均一な放電が発生しないことを見出した。
【0032】
一方、過塩素酸塩の場合は、電気抵抗調整層の抵抗値の電圧依存性が大きいため、経時使用の通電で電解質塩の分極による抵抗値の上昇が大きく、長期にわたって使用すると、不均一な放電が発生することが分かった。
【0033】
とくに、帯電ローラに連続的に高電圧を印加して帯電ローラを使用した場合、使用初期の抵抗値に対して経時的使用後の電気抵抗調整層の抵抗値が大幅に変化するという問題点が存在することがわかった。
【0034】
これに対して、有機ホスホニウム塩と含フッ素有機アニオン塩を用いた場合は、抵抗値の電圧依存性が小さいため、通電による抵抗上昇が小さく、長期にわたって使用されても、不均一な放電が発生しないことを見出した。
【0035】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、経時にわたって使用されても、安定した抵抗値を維持し、不均一な放電による画像不良が発生しない優れた導電性部材及びこれを用いたプリセスカートリッジ及び画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0036】
請求項1に記載の発明は、導電性支持体と、該導電性支持体の表面に形成された電気抵抗調整層と、該電気抵抗調整層と像担持体が一定の空隙を保持するように前記像担持体と当接して該電気抵抗調整層の両端部に形成された電気抵抗調整層とは異なる材質の空隙保持部材からなる導電性部材において、該電気抵抗調整層がエーテル基を有する熱可塑性樹脂と、有機ホスホニウム塩及び含フッ素有機アニオン塩とからなる樹脂組成物により構成されていることを特徴とする導電性部材である。
【0037】
請求項2に記載の発明は、前記有機ホスホニウム塩及び含フッ素有機アニオン塩の配合比率が、樹脂組成物全体に対して0.01〜10重量%であることを特徴とする請求項1に記載の導電性部材である。
【0038】
請求項3に記載の発明は、前記含フッ素有機アニオン塩は、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム、およびトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドリチウムから選ばれた塩であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の導電性部材である。
【0039】
請求項4に記載の発明は、前記エーテル基を有する熱可塑性樹脂が少なくともポリエーテルエステルアミド、ポリエーテル/ポリオレフィンブロックポリマーを含有する化合物であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の導電性部材である。
【0040】
請求項5に記載の発明は、前記エーテル基を有する熱可塑性樹脂と、該エーテル基を有する熱可塑性樹脂よりも高硬度の熱可塑性樹脂と、前記エーテル基を有する熱可塑性樹脂と、該エーテル基を有する熱可塑性樹脂よりも高硬度の熱可塑性樹脂との双方に親和性を有するグラフトコポリマーとを溶融混練して前記樹脂塑性物を構成することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の導電性部材である。
【0041】
請求項6に記載の発明は、前記グラフトコポリマーが、主鎖にポリカーボネート樹脂を有して側鎖にアクリロニトリル-スチレン-グリシジルメタクリレート共重合体を有するグラフトコポリマーであることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の導電性部材である。
【0042】
請求項7に記載の発明は、前記電気抵抗調整層の表面にトナーの付着を防止する表面層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の導電性部材である。
【0043】
請求項8に記載の発明は、前記表面層が、アクリル樹脂、アクリルシリコン樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂及びポリビニルブチラール樹脂のいずれか一つを含む樹脂組成物からなることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の導電性部材である。
【0044】
請求項9に記載の発明は、前記表面層が導電剤が分散した樹脂組成物からなることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の導電性部材である。
【0045】
請求項10に記載の発明は、前記電気抵抗調整層は、前記導電性支持体を心軸とする円筒形状であることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の導電性部材である。
【0046】
請求項11に記載の発明は、直流に交流を重畳した電圧を印加して使用することを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の導電性部材である。
【0047】
請求項12に記載の発明は、導電性支持体と、該導電性支持体の表面に形成された電気抵抗調整層と、該電気抵抗調整層と像担持体が一定の空隙を保持するように前記像担持体と当接して該電気抵抗調整層の両端部に形成された電気抵抗調整層とは異なる材質の空隙保持部材からなる帯電部材において、該電気抵抗調整層がエーテル基を有する熱可塑性樹脂と、有機ホスホニウム塩及び含フッ素有機アニオン塩とからなる樹脂組成物により構成されていることを特徴とする帯電部材である。
【0048】
請求項13に記載の発明は、請求項12に記載の帯電部材を有することを特徴とするプロセスカートリッジである。
【0049】
請求項14に記載の発明は、請求項13に記載のプロセスカートリッジを有することを特徴とする画像形成装置である。
【発明の効果】
【0050】
請求項1に記載の発明によれば、電気抵抗調整層の抵抗値を容易に半導電性領域に制御可能し、低温低湿環境において、不均一な放電による画像不良を防止することができる。また、通電時の電解質塩の分極による電気抵抗値の上昇が小さいため、導電性部材が長期にわたって使用されても不均一な放電の発生を防止することができる。
【0051】
請求項2に記載の発明によれば、電気抵抗調整層の抵抗値と加工性との両立化を図ることができる。
【0052】
請求項3に記載の発明によれば、導電性の高いリチウム塩を用いることにより、より低い電気抵抗値を得ることができる。
【0053】
請求項4に記載の発明によれば、電気抵抗値のばらつき、ブリードアウトを防止し、電気抵抗値の環境依存性が小さく、各環境下において優れた電気特性を得ることができる。
【0054】
請求項5に記載の発明によれば、グラフトコポリマーを相溶化剤として作用させて両熱可塑性樹脂の相溶性が高まり、電気抵抗調整層の機械加工性が向上する。
【0055】
請求項6に記載の発明によれば、グラフトコポリマーを相溶化剤として作用させることにより、使用時の電気的・機械的ストレスや経時又は環境変化に伴う体積変動によりウェルド部分に発生するクラックを効果的に抑制することができる。
【0056】
請求項7に記載の発明によれば、経時的使用の際に、トナー及びトナー添加剤等が導電性部材の表面に付着して、空隙量及び電気特性が変化することを防止することができる。
【0057】
請求項8に記載の発明によれば、表面層の非粘着性を容易に確保することができる。
【0058】
請求項9に記載の発明によれば、表面層に要求される電気抵抗値を容易に得ることができる。
【0059】
請求項10に記載の発明によれば、導電性部材を回転させて使用することにより、同一箇所からの連続放電による導電性部材表面の劣化を防止することができるため、通電ストレスによる表面の化学的劣化を低減することができ、ひいては、導電性部材の長寿命化を図ることができる。
【0060】
請求項11に記載の発明によれば、直流に交流を重畳した電圧を印加することにより、被帯電体への均一帯電が可能となるので、高画質化を図ることができる。
【0061】
請求項12に記載の発明によれば、長期間にわたって、優れた画像品質を得ることができる帯電部材を提供できる。
【0062】
請求項13に記載の発明によれば、長期間にわたって優れた画像品質が得られる近接帯電方式のプロセスカートリッジを提供することができる。
【0063】
請求項14に記載の発明によれば、長期間にわたって、優れた画像品質が得られる近接帯電方式の画像形成装置とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0064】
以下に、本発明に係わる導電性部材及びこの導電性部材を用いたプロセスカートリッジ及びこのプロセスカートリッジを用いた画像形成装置
の発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【実施例】
【0065】
図2は本発明に係わる導電性部材を用いたプロセスカートリッジの概略図である。
【0066】
ここで、プロセスカートリッジとは、少なくとも、像担持体61と帯電装置62とクリーニング装置63とを含み、場合によってはクリーニング64を含む。このプロセスカートリッジは画像形成装置に着脱自在である。
【0067】
像担持体61の表面61aは画像形成領域が非接触で配置された帯電部材により一様に帯電され、画像(潜像)形成後に現像によって可視化され、トナー像が記録媒体に転写される。記録媒体に転写されずに像担持体上に残ったトナーは、補助クリーニング部材63dによって回収される。
【0068】
その後、像担持体61の表面61aへのトナー及びトナー構成材料の付着を防止するために、固体潤滑剤63aを塗布部材63bで像担持体上に一様に塗布し滑剤層を形成する。その後、クリーニング部材63cで補助クリーニング部材63dで回収しきれなかったトナーを回収し、排トナー回収部へ搬送する。補助クリーニング部材63dは、ローラ形状、ブラシ形状があり、固体潤滑剤としては、ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸金属塩類、ポリテトラフルオロエチレン等、像担持体上の摩擦係数を低減して、非粘着性を付与できるものであれば良い。クリーニング部材63cはシリコン、ウレタン等のゴムによるブレード、ポリエステル等の繊維によるファーブラシ等が挙げられる。
【0069】
帯電装置62は、帯電部材65の汚染を除去するためのクリーニング部材66を備える。クリーニング部材66の形状は、ローラ状、パッド形状でもよいが、本発明ではローラ形状とした。クリーニング部材66は、帯電装置62の図示を略すハウジングに設けられる軸受に嵌合され、回転可能に軸支される。
【0070】
クリーニング部材66は、帯電部材65に当接して、外周面をクリーニングする。帯電部材65の表面にトナー、紙粉、部材の破損物等の異物が付着すると、電界が異物部分に集中するために優先的に放電が生ずる異常放電を起こす。
【0071】
逆に、電気的絶縁性の異物が広い範囲に付着すると、その部分では放電が生じないために、像担持体61に帯電斑が生ずる。このために、帯電装置62には帯電部材65の表面をクリーニングするクリーニング部材66を設けることが好ましい。クリーニング部材66としては、ポリエステル等の繊維によるブラシ、メラミン樹脂等の多孔質(スポンジ)のようなものを用いることができる。クリーニング部材66は、帯電部材65に連れ回り、線速差を持って回転、離間して間欠等の形式で回転させても良い。
【0072】
また、帯電装置62は、帯電部材65に電圧を印加する電源を備える。電圧としては、直流電圧だけでも良いが、直流電圧と交流電圧を重畳した電圧が好ましい。帯電部材65の層構成が不均一な部分がある場合には、直流電圧のみを印加すると像担持体61の表面電位が不均一になることがある。重畳した電圧では、帯電部材65の表面が等電位となり、放電が安定して像担持体61を均一に帯電させることができる。重畳する電圧における交流電圧は、ピ−ク間電圧を像担持体61の帯電開始電圧の2倍以上にすることが好ましい。
【0073】
帯電開始電圧とは、帯電部材65に直流のみを印加した場合に像担持体61が帯電され始めるときの電圧の絶対値である。これにより、像担持体61から帯電部材65への逆放電が生じ、そのならし効果で像担持体61をより安定した状態で均一に帯電させることができる。また、交流電圧の周波数は像担持体61の周速度(プロセススピード)の7倍以上であることが望ましい。7倍以上の周波数にすることにより、モアレ画像が(目視)認識できなくなる。
【0074】
この実施例では、補助クリーニング部材63dはブラシローラ、滑剤はステアリン酸亜鉛をブロック状に形成し、塗布部材であるブラシローラに、バネ等の加圧部材で加圧することにより、塗布ローラで固体潤滑剤ブロックから削り取った固体潤滑剤を像担持体へ塗布するような構成である。クリーニング部材63dはウレタンブレードを用いカウンター方式とした。また、帯電部材65のクリーニング部材66は、メラミン樹脂のスポンジローラを用いて、帯電部材65と連れ回りで回転させる方式とすることにより、帯電部材66の表面の汚れを良好にクリーニングできる。
【0075】
帯電部材65は図3に示すように電気抵抗調整層71と一対の空隙保持部材72とを有する。電気抵抗調整層71は導電性支持体70の外周に形成されている。一対の空隙保持部材72は電気抵抗調整層71の両端部に設けられている。電気抵抗調整層71の外周にはトナー及びトナー添加剤の付着を防止する表面層73が設けられている。
【0076】
その帯電部材65は像担持体61の表面61aに対して微小間隙Gを開けて対向されている。帯電部材65はその一対の空隙保持部材72が非画像形成領域X2に当接され、画像形成領域X1はこれによって微小間隙Gが保証される。これによって、感光層の塗布厚がばらついても微小間隙Gのばらつきを低減できる。
【0077】
帯電部材65の形状は、特に限定されず、ベルト状、ブレード板状、半円柱状でも良く、また、固定配設されていても良い。また、帯電部材65の形状が円柱状で、両端をギア又は軸受で回転可能に支持されていても良い。このように、帯電部材65は、像担持体61への最近接部から像担持体61への移動方向の上下流に漸次離間する曲面で形成されていると、像担持体61をより均一に帯電させることができる。
【0078】
像担持体61に対向する帯電部材65に先鋭な部分があると、その部分の電位が高くなるために優先的に放電が開始され、像担持体61の均一な帯電が困難になる。従って、円柱状の形状で、曲面を有することによって均一な像担持体61の帯電が可能になる。
【0079】
また、帯電部材65の放電している表面は強いストレスを受ける。放電が常に同じ面で発生すると、放電面の劣化が促進され、さらに、削り落ちることがある。そこで、帯電部材65を回転させ、帯電部材65の全面を放電面として使用できるようにすれば、早期劣化を防止でき、長期にわたって帯電ローラ65を使用できる。
【0080】
ここで、帯電部材65と像担持体61との微小間隙Gは、空隙保持部材72を用いて100μm以下、特に、5〜70μm程度の範囲にする。これにより、帯電装置62の作動時における異常画像の形成を抑えることができる。微小間隙Gが、100μm以上では、像担持体61に到達するまでの距離が長くなるので、パッシェンの法則の放電開始電圧が大きくなり、さらに、像担持体61までの放電空間が大きくなることによって、像担持体61を所定の帯電をさせるためには放電による放電生成物が多量に必要となり、これが画像形成後も放電空間に多量に残留し、像担持体61に付着して、像担持体61の経時劣化を促進する原因になる。
【0081】
また、この微小間隙Gが小さいと、像担持体61までの到達距離も短く、放電エネルギーも小さくても像担持体61を帯電させることができる。しかし、帯電部材65と像担持体61により形成される空間が狭くなり、空気の流が悪くなってしまう。そのために、放電空間で形成された放電生成物はこの空間内に滞留するために、微小間隙Gが大きい場合と同様に、画像形成後も放電空間に多量に残留し、像担持体61に付着して、像担持体61の経時劣化を促進する原因になる。
【0082】
従って、放電エネルギーを小さくして放電生成物の生成を少なくし、かつ、空気が滞留しない程度の空間を形成することが好ましい。そのために、微小間隙Gは、100μm以下であって、5〜70μmの範囲にすることが好ましい。これにより、ストリーマ放電の発生を防止し、放電生成物の生成を少なくして放電生成物が像担持体61に堆積する量を少なくして、斑点状の画像斑・像流れを防止することができる。
【0083】
ここで、像担持体61上に現像後に残留するトナーは、像担持体61に対向して設けられるクリーニング装置63によりクリーニングされるが、完全に除去するのは困難であり、極わずかのトナーがクリーニング装置63を通過し、帯電装置62へと搬送されてくる。このときに、トナーの粒径が微小間隙Gより大きいと、トナーは回転する像担持体61や帯電部材65により摺擦されて熱を帯び、帯電部材65に融着することがある。このトナーが融着した部分は、像担持体61に近くなるために優先的に放電が生ずる異常放電を起こす。従って、微小間隙Gは、画像形成装置に用いられるトナーの最大粒径よりも大きいことが好ましい。
【0084】
帯電装置の一部を構成するハウジング側板には軸受け穴(図示を略す)が形成され、帯電部材65の一対の軸受け部材75が軸受け穴に嵌合され、その帯電部材65は付勢スプリング74によって像担持体61に向けて付勢されている。
【0085】
これにより、機械的振動、芯金の偏位があっても一定の微小間隙Gを形成することができる。押圧荷重は、4〜25Nにする。好ましくは、6〜15Nにする。帯電部材65は、軸受部材75で固定されていても、回転するときの振動、帯電部材65の偏心、その表面の凹凸により微小間隙Gの大きさが変動し、微小間隙Gが適正な範囲からはずれる場合がある。
【0086】
このために、経時的には像担持体61の劣化を促進することになる。ここで、荷重とは、空隙保持部材72を通して像担持体61に加わるすべての荷重を意味する。これは、帯電部材65の両端の付勢スプリング74のバネ力、帯電部材65とクリーニング部材66の自重等により調整できる。
【0087】
荷重が小さいと、帯電部材65の回転時による変動、駆動するギア等の衝撃力による跳ね上がりを抑えることができない。荷重が大きいと、帯電部材65と嵌合する軸受部75との摩擦が大きくなり、経時的な摩耗量を大きくして変動を促進することになる。従って、荷重を4〜25N、好ましくは、6〜15Nの範囲にすることにより、微小間隙Gを適正な範囲にして、放電生成物の生成を少なくして像担持体61に堆積する量を少なくして像担持体61の寿命を延ばし、かつ、斑点状の異常画像・画像流を防止することができる。
【0088】
空隙保持部材72はこの空隙保持部材72の一部が電気抵抗調整層71と高低差を有している。微小空隙Gを形成する方法としては、電気抵抗調整層71と空隙保持部材72を切削、研削等の除去加工により同時加工することにより形成することができる。空隙保持部材72と電気抵抗調整層71とを同時加工することにより、微小空隙Gを高精度に形成することが可能となる。
【0089】
空隙保持部材72の電気抵抗調整層71と隣接する部分の高さを、電気抵抗調整層71の高さと同一若しくは低く形成することで、空隙保持部材72と像担持体61との非接触幅が確保され、帯電部材65と像担持体61との微小空隙Gを高精度にすることができる。
【0090】
このようにすることで、空隙保持部材72の電気抵抗調整層71の側端部の外表面が像担持体61に当接することを防止することができ、この側端部を介して隣接する電気抵抗調整層71が像担持体61に接触してリーク電流が発生してしまうことを防止することが可能となる。
【0091】
また、空隙保持部材72の電気抵抗調整層71側の端部を低く加工することによって、この部分を除去加工を行う際の切削刃等の逃げ代(逃げ加工)とすることができる。なお、逃げ代(逃げ加工)の形状は、空隙保持部材72の端部の外表面が像担持体61に当接しないような形状であるならばどのような形状であっても良い。
【0092】
更に、表面層73をコーティングする際のマスキングを電気抵抗調整層71と空隙保持部材72の境界で行うことは、ばらつきを考慮すると制御が難しく、段差を形成する際に、電気抵抗調整層71と同一若しくは低く形成された空隙保持部材72まで表面層73を形成することで、電気抵抗調整層71の表面に確実に表面層73を形成することができる。
【0093】
空隙保持部材72の必要な特性としては、像担持体61との微小空隙Gを環境及び長期(経時)に渡って安定して形成することであり、そのためには、吸湿性、耐摩耗性が小さい材料が望ましい。
【0094】
また、トナー及び、トナー添加剤が付着しにくいことや、像担持体(感光体)と当接し、摺動するために像担持体を摩耗させないということも重要であり、種々の条件に応じて、適宜選択されるものである。
【0095】
具体的には、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアセタール(POM)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリスチレン(PS)及びその共重合体(AS、ABS)等の汎用樹脂、ポリカーボネート(PC)、ウレタン、フッ素樹脂(PTFE)等があげられる。
【0096】
特に空隙保持部材72を確実に固定するためには、接着剤を塗布して接着することができる。また、空隙保持部材72は絶縁性材料が好ましく、体積固有抵抗で1013Ωcm以上であることが好ましい。絶縁性が必要である理由は、像担持体(感光体ともいう)とのリーク電流の発生を無くすためである。空隙保持部材72は成型加工により成形されたものである。
【0097】
電気抵抗調整層71はイオン導電による導電機構を得るために分子中にエーテル基を有する熱可塑性樹脂(A)と、有機ホスホニウム塩及び含フッ素有機アニオン塩を含有する樹脂材料より構成される。
【0098】
イオン導電性が必要な理由は、一般的にカーボンブラックのような電子導電系の導電剤を用いた場合、電荷がカーボンブラックを通して像担持体61へ放電するために、カーボンブラックの分散状態に起因した微小な放電ムラが生じやすく、高画質化の妨げとなる。
【0099】
特に高電圧印加時はこの現象が顕著となるからである。イオン導電材料としては、アルカリ金属塩、アンモニウム塩のような低分子量の塩があるが、通電のため、分極しやすくブリードアウトしやすい。そこで高分子型イオン導電材料として、ポリエーテル基を含む樹脂それ自体が高分子型イオン導電材料として用いられる。分子中にエーテル基を有することにより、エーテル結合に含まれる酸素原子等により塩が安定化され、低い電気抵抗値を得ることが可能となる。
【0100】
この構成ではマトリクスポリマー中に分子レベルで均一に分散、固定化されるので、導電性顔料を分散した組成物に見られるような分散不良に伴う抵抗値のバラツキが生じない。また高分子材料であるため、ブリードアウトが生じ難い。
【0101】
しかしながら、エーテル基を含む熱可塑性樹脂材料のみでは、導電性部材として使用するための抵抗値を得ることができないため、塩を併用することにより、低抵抗化が達成できる。ポリエーテル基を含む樹脂としてはポリエーテルエステルアミド、ポリエーテル/ポリオレフィンブロックポリマーが挙げられる。
【0102】
ポリエーテルエステルアミド、ポリエーテル/ポリオレフィンブロックポリマーについては、ポリエーテル成分とそれ以外の成分の比率を変えることにより、抵抗値と吸水性、硬度を制御している。一般的に、ポリエーテル成分の比率を高くするほど、低い抵抗値を得られるが、吸水性が高くなり硬度が低下する。
【0103】
吸水性が高い場合は、帯電部材65の環境変動が大きくなるため、像担持体61との間の微小空隙Gを高精度に保持することが出来ない。また、硬度が低下すると、機械加工により部品の高精度化を達成することが出来ない。このため、ポリエーテルエステルアミド、ポリエーテル/ポリオレフィンブロックポリマーとしては、目的の特性を得るために2成分以上をブレンドして使用することも可能である。
【0104】
塩としては、過塩素酸塩が一般的に用いられているが、イオン解離した際に水との反応により強アルカリ性物質を形成しやすい。この強アルカリ性物質により、樹脂層を劣化させ、(ソルベント)クラックが発生するため、導電性部材の耐久性が問題となる。そこで、過塩素酸塩に変わる塩として、有機ホスホニウム塩を添加することとした。有機ホスホニウム塩は、イオン解離により、強アルカリ性物質を生じることがないので、クラックは発生しない。
【0105】
有機ホスホニウム塩を添加することにより、クラックを防止することが可能となるが、有機ホスホニウム塩のみを添加するだけでは、抵抗調整層の抵抗値の電圧依存性が小さいため、実機上で印加される高電圧状態での抵抗値が高くなる。一般的に、イオン導電による導電機構では、空気中の水分が介在するため、抵抗値の環境変動が大きく、低温低湿環境では抵抗値が高くなる。有機ホスホニウム塩のみの場合、低温低湿環境での抵抗上昇により、帯電部材65として使用するために十分な抵抗値を保持することができなくなるため、不均一な放電が発生し、画像不良となる。
【0106】
具体的には、アナログハーフトーン画像を出力した場合に、白ポチとなって現れる。そのため、有機ホスホニウム塩と併せて、含フッ素有機アニオン塩を添加することとした。有機ホスホニウム塩と含フッ素有機アニオン塩を添加することにより、更に抵抗の絶対値が低下するので、抵抗値の電圧依存性が小さくても、低温低湿環境で抵抗上昇による、不均一な放電が発生しない。また、過塩素酸塩の場合は、電気抵抗調整層71の抵抗値の電圧依存性が大きいため、通電により分極しやすく、それによる抵抗上昇が大きいため、経時で不均一な放電が発生する。有機ホスホニウム塩と含フッ素有機アニオン塩の場合は、電気抵抗値の電圧依存性が小さく、通電による抵抗上昇が小さいため、長期にわたって使用されても、不均一な放電が発生しない。
【0107】
有機ホスホニウム塩としては、具体的にはエチルトリフェニルホスホニウム・テトラフルオロボレート、テトラフェニルホスホニウム・ブロマイド等の四級ホスホニウム塩が挙げられる。含フッ素有機アニオン塩としては、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオンを備えた塩が望ましい。この陰イオンを備えた塩は、フルオロ基(-F)及びスルホニル基(-SO2-)による強い電子吸引効果によって電荷が非局在化するため、陰イオンが安定なポリマー組成物中で高い解離度を示し、高いイオン導電性を実現できる。
【0108】
中でも、ビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドのアルカリ金属塩、トリス(フルオロアルキルスルホニル)メチドのアルカリ金属塩及びフルオロアルキルスルホン酸のアルカリ金属塩等は抵抗値の低下を容易に達成可能であり、望ましい。具体的には、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(Li(CF3SO22N)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドカリウム(K(CF3SO22N)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドナトリウム(Na(CF3SO22N)、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドリチウム(Li(CF3SO23C)、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドカリウム(K(CF3SO23C)、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドナトリウム(Na(CF3SO23C)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(Li(CF3SO3))、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム(K(CF3SO3))、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム(Na(CF3SO3))が挙げられる。特に、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム、およびトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドリチウムの導電度の高いリチウム塩が好ましい。
【0109】
有機ホスホニウム塩と含フッ素有機アニオン塩ではイオン解離した際のイオン半径の差が大きいため、ポリマー組成物中に分散された場合にそれぞれの導電経路に対して障害とはならず、低添加量でも十分な効果を発揮する。有機ホスホニウム塩、含フッ素有機アニオン塩は、高分子型イオン導電材料に添加して混練することにより、所定の割合に配合することが可能である。また、含フッ素有機アニオン塩を含有する高分子型イオン導電材料として、例えば三光化学工業(株)の「サンコノール」シリーズとして入手することも可能である。
【0110】
含フッ素有機アニオン塩の量としては、樹脂組成物全体中に0.01〜20重量%の割合で配合されていることが望ましい。配合量が0.01重量%より少ない場合は、低抵抗化の効果が得られない。配合量が10重量%より多い場合には、抵抗調整層の硬度低下が顕著となるため十分な加工性が得られず、切削、研削等の機械加工により部品の高精度化を達成することが出来ない。有機ホスホニウム塩の配合量に関しても、同様である。
【0111】
電気抵抗調整層71の体積固有抵抗は106〜109Ωcmであることが望ましい。109Ωcmを越えると、帯電能力や転写能力が不足してしまい、106Ωcmよりも体積固有抵抗が低いと、感光体全体への電圧集中によるリークが生じてしまう。
【0112】
また、本発明で用いられる帯電部材65は、部品の高精度化を達成するためは、切削、研削のような、機械加工が必要となる。ポリエーテルエステルアミドは従来、熱可塑性エラストマーとして用いられているため、柔らかく、機械加工しにくいという課題がある。そこで、ポリエーテルエステルアミドより硬度が高い、他の熱可塑性樹脂とブレンドすることが望ましい。
【0113】
すなわち、ポリエーテルエステルアミド(エーテル基)を相対的に多く含有する熱可塑性樹脂に、このポリエーテルエステルアミド(エーテル基)を相対的に多く含有する熱可塑性樹脂よりも高硬度の熱可塑性樹脂を追加してブレンド状態とすると共に、有機ホスホニウム塩及び含フッ素有機アニオン塩を加えて、及び、後述するグラフトコポリマー等を加えて、これらを一度に溶融混練し、樹脂組成物を形成するのが望ましい。
【0114】
硬度が高くなることにより、機械加工性が向上する。高硬度の熱可塑性樹脂(B)は特に限定されるものではないが、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリスチレン(PS)およびその共重合体(AS、ABS)等の汎用樹脂、ポリカーボネート、ポリアセタール等のエンジニアリングプラスチック等であれば、成形加工が容易であり好ましい。配合量については、エーテル基を有する熱可塑性樹脂(A)が30〜80重量%に対し、高硬度の熱可塑性樹脂(B)が20〜70重量%とすることで所望の体積抵抗率を得ることができる。
【0115】
2種以上の樹脂をブレンドする場合、樹脂同士の相溶性が悪く、適正な電気抵抗値が得られない場合がある。その場合、相溶化剤を添加することが望ましい。相溶化剤としては、熱可塑性樹脂同士の間に作用して、相溶性を上げるために用いる。このような相溶化剤としては、グラフトコポリマーが挙げられる。
【0116】
グラフトコポリマー(C)としては、主鎖にポリカーボネート樹脂を、側鎖にアクリロニトリル-スチレン-グリシジルメタクリレート共重合体を有するグラフトコポリマーを用いる。主鎖のポリカーボネート樹脂は有極性基、ジオキシ基の鎖をもつ分子構造のため、分子間引力が非常に強い。このため、力学的強度・クリープ特性などに優れ、特に衝撃強度は他プラスチックと比較してずばぬけて優れている。また比較的低吸水であるため、吸水変動に伴う体積変動が少ない。これらの特性により、グラフトコポリマーの主鎖としてポリカーボネート樹脂を使用した系では、使用時の機械的・電気的ストレス・経時や環境での体積変動によるクラックが生じ難い。
【0117】
また、側鎖に含まれるアクリロニトリル−スチレン−グリシジルメタクリレート共重合体は、アクリロニトリル成分及びスチレン成分と反応基であるグリシジルメタクリレート成分から成る。反応基のグリシジルメタクリレートは成分を溶融混練する際の加熱により、エポキシ基がエーテル基を有する熱可塑性樹脂(A)のエステル基やアミノ基と反応し、エーテル基を有する熱可塑性樹脂(A)と強固に化学的結合をする。更に、アクリロニトリル成分及びスチレン成分は、高硬度の熱可塑性樹脂(B)との相溶性が良好である。そのため、グラフトコポリマー(C)のグラフトコポリマーは、本来親和性の低いエーテル基を有する熱可塑性樹脂(A)、高硬度の熱可塑性樹脂(B)間の相溶化剤として機能し、エーテル基を有する熱可塑性樹脂(A)、高硬度の熱可塑性樹脂(B)の分散状態を均一かつ緻密化する。それにより、エーテル基を有する熱可塑性樹脂(A)、高硬度の熱可塑性樹脂(B)の分散不良に伴うウェルド部抵抗の変動や、使用時の電気的・機械的ストレスや経時・環境での体積変動により抵抗調整層のウェルド部分に発生するクラックを抑制することができる。その結果、主鎖の効果と合わせて強度的に優れた混練系の樹脂組成物を形成することができる。グラフトコポリマーの量はエーテル基を有する熱可塑性樹脂(A)、高硬度の熱可塑性樹脂(B)の合計に対して1〜15重量%に設定することで(A)(B)の相溶性を向上させ、優れた加工安定性を得ることができる。
【0118】
樹脂組成物の製造方法に関しては特に制限はなく、各材料の混合物を二軸混練機、ニーダー等で溶融混練することによって、容易に製造できる。電気抵抗調整層71の導電性支持体70への形成は、押出成形や射出成形等の手段で導電性支持体70に半導電性樹脂組成物を被覆することによって容易に行うことができる。
【0119】
導電性支持体70に電気抵抗調整層71のみを形成して帯電部材65を構成すると、電気抵抗調整層71にトナー及び、トナーの添加剤等が固着して性能低下する場合がある。このような不具合は、抵抗調整層に表面層を形成することで、防止することができる。
【0120】
表面層73の抵抗値は電気抵抗調整層71のそれよりも大きくなるように形成され、それによって感光体欠陥部への電圧集中、異常放電(リーク)を回避することができる。ただし、表面層73の抵抗値を高くしすぎると帯電能力や転写能力が不足してしまうため、表面層73と電気抵抗調整層71との抵抗値の差 以下に、実施例及び比較例について説明する。
〈実施例1〉
ステンレスからなる外径8mmの導電性支持体(以下、芯軸ともいう)70に、電気抵抗調整層71としてABS樹脂(デンカABS GR−3000、電気化学工業製)40重量部及びポリエーテルエステルアミドa(TPAE-10、富士化成工業株式会社製)42重量部及びポリエーテルエステルアミドb(TPAE-H151、富士化成工業株式会社製)18重量部の混合物100重量部に対して、ポリカーボネート−グリシジルメタクリレート−スチレン−アクリロニトリル共重合体(モディパーC L440-G、日本油脂株式会社製)4.5重量部、有機ホスホニウム塩(ETPP-FB、日本化学工業株式会社製)3重量部、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiTFS、森田化学工業株式会社製)1重量部を加え、これを220℃で溶融混練した樹脂組成物(体積固有抵抗:2×108Ωcm)を、射出成形により被覆して電気抵抗調整層71を形成した。
【0121】
次いでこの両端部に、高密度ポリエチレン樹脂(ノバテックHD HY540、日本ポリエチレン株式会社製)からなるリング状の空隙保持部材72を挿入し、芯軸70及び電気抵抗調整層71と接着した。
【0122】
次いで切削加工によって空隙保持部材72の外径(最大径)を12.12mm、電気抵抗調整層71の外径を12.00mmに同時仕上げを行なった。次いで電気抵抗調整層71の表面に、アクリルシリコン樹脂(3000VH-P、川上塗料株式会社製)、イソシアネート系硬化剤、及びカーボンブラック(全固形分に対して35重量%)からなる混合物(表面抵抗:2×109Ω)により膜厚約10μの表面層73を形成し、焼成工程を経て、導電性部材としての帯電部材65を得た。
〈実施例2〉
ステンレスからなる芯軸(外径8mm)70に、電気抵抗調整層71としてABS樹脂(デンカABS GR−3000、電気化学工業株式会社製)40重量部、ポリエーテルエステルアミド(TPAE-10HP、富士化成工業株式会社製)60重量部の混合物100重量部に対して、ポリカーボネート−グリシジルメタクリレート−スチレン−アクリロニトリル共重合体(モディパーC L440-G、日本油脂株式会社製)4.5重量部、有機ホスホニウム塩(ETPP-FB、日本化学工業株式会社製)3重量部、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiTFSI、森田化学工業株式会社製)1重量部を加え、これを220℃で溶融混練した樹脂組成物(体積固有抵抗:2×108Ωcm)を、射出成形により被覆して電気抵抗調整層71を形成した。次いで、この両端部に高密度ポリエチレン樹脂(ノバテックHD HY540、日本ポリケム株式会社製)からなるリング状の空隙保持部材72を挿入し、芯軸70及び電気抵抗調整層71と接着した。次いで、切削加工によって空隙保持部材72の外径(最大径)を12.12mm、電気抵抗調整層71の外径を12.00mmに同時仕上げを行なった。次いで、電気抵抗調整層71の表面に、アクリルシリコン樹脂(3000VH-P、川上塗料製)、イソシアネート系硬化剤、及びカーボンブラック(全固形分に対して35重量%)からなる混合物(表面抵抗:2×109Ω)により膜厚約10μの表面層73を形成し、焼成工程を経て、導電性部材65を得た。
〈実施例3〉
ステンレスからなる芯軸(外径8mm)70に、電気抵抗調整層71としてポリカーボネート樹脂(パンライト L-1255LL、帝人化成株式会社製)40重量部、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム含有ポリエーテルエステルアミド(サンコノール TBX-65、三光化学工業株式会社製)60重量部の混合物100重量部に対して、ポリカーボネート−グリシジルメタクリレート−スチレン−アクリロニトリル共重合体(モディパーC L440-G、日本油脂株式会社製)4.5重量部、有機ホスホニウム塩(BTPP-Br、日本化学工業製)5重量部を加え、これを230℃で溶融混練した樹脂組成物(体積固有抵抗:3×108Ωcm)を、射出成形により被覆して電気抵抗調整層71を形成した。
【0123】
次いで、この両端部に、高密度ポリエチレン樹脂(ノバテックHD HY540、日本ポリケム株式会社製)からなるリング状の空隙保持部材72を挿入し、芯軸70及び電気抵抗調整層71と接着した。次いで、切削加工によって空隙保持部材72の外径(最大径)を12.12mm、電気抵抗調整層71の外径を12.00mmに同時仕上げを行なった。次いで、電気抵抗調整層71の表面に、アクリルシリコン樹脂(3000VH-P、川上塗料製)、イソシアネート系硬化剤、及びカーボンブラック(全固形分に対して35重量%)からなる混合物(表面抵抗:2×109Ω)により膜厚約10μの表面層73を形成し、焼成工程を経て導電性部材65を得た。
〈実施例4〉
ステンレスからなる芯軸(外径8mm)70に、電気抵抗調整層71としてABS樹脂(デンカABS GR−0500、電気化学工業株式会社製)40重量部、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム含有ポリエーテル/ポリオレフィンブロックポリマー(サンコノール TBX-310、三光化学工業株式会社製)60重量部の混合物100重量部に対して、ポリカーボネート−グリシジルメタクリレート−スチレン−アクリロニトリル共重合体(モディパーC L440-G、日本油脂株式会社製)9重量部、有機ホスホニウム塩(ETPP-I、日本化学工業株式会社製)3重量部を加え、これを220℃で溶融混練した樹脂組成物(体積固有抵抗:4×108Ωcm)を、射出成形により被覆して電気抵抗調整層71を形成した。
【0124】
次いでこの両端部に高密度ポリエチレン樹脂(ノバテックHD HY540、日本ポリケム社製)からなるリング状の空隙保持部材72を挿入し、芯軸70及び電気抵抗調整層71と接着した。次いで、切削加工によって空隙保持部材72の外径(最大径)を12.12mm、電気抵抗調整層71の外径を12.00mmに同時仕上げを行なった。次いで、電気抵抗調整層71の表面に、アクリルシリコン樹脂(3000VH-P、川上塗料製)、イソシアネート系硬化剤、及びカーボンブラック(全固形分に対して35重量%)からなる混合物(表面抵抗:2×109Ω)により膜厚約10μの表面層73を形成し、焼成工程を経て導電性部材65を得た。
〈実施例5〉
ステンレスからなる芯軸(外径8mm)70に、電気抵抗調整層71としてHI-PS樹脂(H450、東洋スチレン株式会社製)40重量部、ポリエーテルエステルアミド(MV1041、アルケマ株式会社製)60重量部の混合物100重量部に対して、ポリカーボネート−グリシジルメタクリレート−スチレン−アクリロニトリル共重合体(モディパーC L440-G、日本油脂株式会社製)4.5重量部、有機ホスホニウム塩(ETPP-FB、日本化学工業株式会社製)6重量部、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiBETI、キシダ化学株式会社製)1重量部を加え、これを220℃で溶融混練した樹脂組成物(体積固有抵抗:3×108Ωcm)を、射出成形により被覆して電気抵抗調整層71を形成した。
【0125】
次いで、この両端部に高密度ポリエチレン樹脂(ノバテックHD HY540、日本ポリケム社株式会社製)からなるリング状の空隙保持部材72を挿入し、芯軸70及び電気抵抗調整層71と接着した。次いで、切削加工によって空隙保持部材72の外径(最大径)を12.12mm、電気抵抗調整層71の外径を12.00mmに同時仕上げを行なった。次いで、電気抵抗調整層71の表面に、アクリルシリコン樹脂(3000VH-P、川上塗料株式会社製)、イソシアネート系硬化剤、及びカーボンブラック(全固形分に対して35重量%)からなる混合物(表面抵抗:2×109Ω)により膜厚約10μの表面層73を形成し、焼成工程を経て、導電性部材65を得た。
〈比較例1〉
ABS樹脂(デンカABS GR−3000、電気化学工業株式会社製)40重量部及び過塩素酸ナトリウム含有ポリエーテルエステルアミド(IRGASTAT P18、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)60重量部の混合物を、溶融混練を行わずにステンレスからなる芯軸(外径8mm)70に射出成形により被覆させて電気抵抗調整層71を形成した。
【0126】
次いで、この両端部に、ポリアセタール樹脂(ジュラコン SW01、ポリプラスチックス株式会社製)からなるリング状の空隙保持部材72を挿入し、芯軸70及び電気抵抗調整層71と接着した。次いで、切削加工によって空隙保持部材72の外径(最大径)を12.12mm、電気抵抗調整層71の外径を12.00mmに同時仕上げを行なった。次いで、電気抵抗調整層71の表面に、アクリルシリコン樹脂(3000VH-P、川上塗料株式会社製)、イソシアネート系硬化剤、及びカーボンブラック(全固形分に対して35重量%)からなる混合物(表面抵抗:2×109Ω)により膜厚約10μの表面層73を形成し、焼成工程を経て導電性部材65を得た。
〈比較例2〉
ABS樹脂(デンカABS GR−0500、電気化学工業株式製)40重量部、ポリエーテルエステルアミド(ペバックス5533、アルケマ製)60重量部、有機ホスホニウム塩(ETPP-I、日本化学工業製)3重量部の混合物を、溶融混練を行わずにステンレスからなる芯軸(外径8mm)70に押出成形により被覆させて電気抵抗調整層71を形成した。
【0127】
次いで、この両端部にポリアミド樹脂(ノバミッド1010C2、三菱エンジニアリングプラスチックス社製)からなるリング状の空隙保持部材72を挿入し、芯軸70及び電気抵抗調整層71と接着した。次いで、切削加工によって空隙保持部材72の外径(最大径)を12.12mm、電気抵抗調整層71の外径を12.00mmに同時仕上げを行なった。次いで、電気抵抗調整層71の表面に、アクリルシリコン樹脂(3000VH-P、川上塗料株式会社製)、イソシアネート系硬化剤、及びカーボンブラック(全固形分に対して35重量%)からなる混合物(表面抵抗:2×109Ω)により膜厚約10μの表面層73を形成し、焼成工程を経て導電性部材65を得た。
〈比較例3〉
ABS樹脂(テクノABS 170、テクノポリマー株式会社製)40重量部、ブロック型熱可塑性エラストマー(ペレスタットNC6321、三洋化成工業製)60重量部の混合物を、ステンレスからなる芯軸(外径8mm)70に射出成形により被覆させて電気抵抗調整層71を形成した。次いで、切削加工によって電気抵抗調整層71の外径を12.00mmに仕上げた。次いで、電気抵抗調整層71の表面に、アクリルシリコン樹脂(3000VH-P、川上塗料製)、イソシアネート系硬化剤、及びカーボンブラック(全固形分に対して35重量%)からなる混合物(表面抵抗:2×109Ω)により膜厚約10μの表面層73を形成した。次いで、この両端部の周囲に一液性エポキシ配合樹脂接着剤(2202、スリーボンド株式会社製)により厚さ50μmのテープ状部材(ダイタックPF025−H、大日本インキ社会社製)を貼り付けて導電性部材65を得た。
〈比較例4〉
ABS樹脂(テクノABS 110、テクノポリマー株式会社製)40重量部、ブロック型熱可塑性エラストマー(ペレスタット300、三洋化成工業製)60重量部の混合物100重量部に対して、過塩素酸リチウム2重量部を配合した組成物を、ステンレスからなる芯軸(外径8mm)70に押出成形により被覆させて電気抵抗調整層71を形成した。
【0128】
次いで、切削加工によって電気抵抗調整層71の外径を12.00mmに仕上げた。次いで、この両端部に、ポリアセタール樹脂(ジュラコン YF10、ポリプラスチックス株式会社製)からなるリング状の空隙保持部材72を挿入し、芯軸70及び電気抵抗調整層71と接着した。次いで、電気抵抗調整層71の表面に、アクリルシリコン樹脂(3000VH-P、川上塗料株式会社製)、イソシアネート系硬化剤、及びカーボンブラック(全固形分に対して35重量%)からなる混合物(表面抵抗:2×109Ω)により膜厚約10μmの表面層73を形成し、焼成工程を経て導電性部材65を得た。
【0129】
下記の表1は実施例1〜実施例5と比較例1〜比較例4の成分構成を示している。
【0130】
【表1】

【0131】
実施例及び比較例の導電性部材65を低温低湿環境(10℃相対湿度15%)の環境下に1日間放置後、導電性部材65の電気抵抗測定(初期値)を行った。次に、画像形成装置を改造した加速試験装置を用いて、23℃、相対湿度50%の評価環境下で導電性部材(帯電ローラ)の通紙無し状態での通電空回し試験を24時間(30,000枚の複写に相当)行ない、通電後のローラを低温低湿環境(10℃相対湿度15%)に1日間放置後、通電前と同様にローラの電気抵抗測定(連続通電後の測定)を行なった。次に、画像形成装置を使用して、低温低湿環境(10℃相対湿度15%)で画像評価を行った。この際、帯電ローラに印加する電圧はDC=-700V、AC Vpp=2.7kV (周波数=3kHz)とした。
【0132】
試験結果が表2及び図4に示されている。
【0133】
【表2】

【0134】
図4は、通電時間に対する導電性部材65の抵抗値の経時変化量がグラフとして示されている。この図4において、横軸は通電時間であり、縦軸は電気抵抗値変化量であり、初期抵抗値に対する24時間後の電気抵抗変化量が示されている。この図4から、各実施例1〜実施例5の導電性部材(帯電ローラ)65は通電前後で電気抵抗変化がほとんどみられないことが読み取れる。これに対して、比較例1〜比較例4の導電性部材(帯電ローラ)65は通電前後で電気抵抗変化が実施例1〜実施例5の導電性部材(帯電ローラ)65に較べてはるかに大きいことが読み取れる。なお、この電気抵抗変化量は対数値として示されている。
【0135】
また、表2から、実施例1ないし実施例5の帯電ローラ65の初期抵抗値は、比較例1ないし比較例4の帯電ローラ65の初期抵抗値よりも若干低いことが見てとれる。なお、この抵抗測定は、テスターの端子を電気抵抗調整層71の長手方向両端にあてて100Vの電圧を印加して測定したものであり、対数値である。例えば、5.40は5.40×108Ωを意味する。すなわち、各抵抗値のオーダーは全て同じである。
【0136】
一方、抵抗変化量については、実施例1ないし実施例5の値が比較例1ないし比較例4の値に対して平均的に約2分の1程度小さいことが見てとれる。
【0137】
更に、各実施例1〜実施例5の導電性部材(帯電ローラ)65を用いた画像形成装置では、画像評価でも良好な画像が得られた。
【0138】
これに対して、比較例1ないし比較例4の導電性部材(帯電ローラ)65は24時間連続通電後の抵抗上昇が大きくなったため、不均一放電による画像不良が発生した。比較例1−4のうち、特に電気抵抗値の高い比較例3のローラでは画像出力が出来なかった。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】一般的な画像形成装置の構成を示した概略図である。
【図2】プロセスカートリッジの構成を示した概略図である。
【図3】本発明に係わる導電性部材と感光体ドラムとの対向関係を示す説明図である。
【図4】本発明に係わる導電性部材及び比較例の電気抵抗変化特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0140】
70…導電性支持体
71…電気抵抗調整層
73…表面保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体と、該導電性支持体の表面に形成された電気抵抗調整層と、該電気抵抗調整層と像担持体が一定の空隙を保持するように前記像担持体と当接して該電気抵抗調整層の両端部に形成された電気抵抗調整層とは異なる材質の空隙保持部材からなる導電性部材において、該電気抵抗調整層がエーテル基を有する熱可塑性樹脂と、有機ホスホニウム塩及び含フッ素有機アニオン塩とからなる樹脂組成物により構成されていることを特徴とする導電性部材。
【請求項2】
前記有機ホスホニウム塩及び含フッ素有機アニオン塩の配合比率が、樹脂組成物全体に対して0.01〜10重量%であることを特徴とする請求項1に記載の導電性部材。
【請求項3】
前記含フッ素有機アニオン塩は、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム、およびトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドリチウムから選ばれた塩であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の導電性部材。
【請求項4】
前記エーテル基を有する熱可塑性樹脂が少なくともポリエーテルエステルアミド、ポリエーテル/ポリオレフィンブロックポリマーを含有する化合物であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の導電性部材。
【請求項5】
前記エーテル基を有する熱可塑性樹脂と、該エーテル基を有する熱可塑性樹脂よりも高硬度の熱可塑性樹脂と、前記エーテル基を有する熱可塑性樹脂と、該エーテル基を有する熱可塑性樹脂よりも高硬度の熱可塑性樹脂との双方に親和性を有するグラフトコポリマーとを溶融混練して前記樹脂塑性物を構成することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の導電性部材。
【請求項6】
前記グラフトコポリマーが、主鎖にポリカーボネート樹脂を有して側鎖にアクリロニトリル-スチレン-グリシジルメタクリレート共重合体を有するグラフトコポリマーであることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の導電性部材。
【請求項7】
前記電気抵抗調整層の表面にトナーの付着を防止する表面層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の導電性部材。
【請求項8】
前記表面層が、アクリル樹脂、アクリルシリコン樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂及びポリビニルブチラール樹脂のいずれか一つを含む樹脂組成物からなることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の導電性部材。
【請求項9】
前記表面層が導電剤が分散した樹脂組成物からなることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の導電性部材。
【請求項10】
前記電気抵抗調整層は、前記導電性支持体を心軸とする円筒形状であることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の導電性部材。
【請求項11】
直流に交流を重畳した電圧を印加して使用することを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の導電性部材。
【請求項12】
導電性支持体と、該導電性支持体の表面に形成された電気抵抗調整層と、該電気抵抗調整層と像担持体が一定の空隙を保持するように前記像担持体と当接して該電気抵抗調整層の両端部に形成された電気抵抗調整層とは異なる材質の空隙保持部材からなる帯電部材において、該電気抵抗調整層がエーテル基を有する熱可塑性樹脂と、有機ホスホニウム塩及び含フッ素有機アニオン塩とからなる樹脂組成物により構成されていることを特徴とする帯電部材。
【請求項13】
請求項12に記載の帯電部材を有することを特徴とするプロセスカートリッジ。
【請求項14】
請求項13に記載のプロセスカートリッジを有することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−224739(P2008−224739A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58793(P2007−58793)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】