説明

導電性重合体の被覆を持つ物品およびその製造方法

【課題】銅または銅合金の層および導電性重合体の層を持ち、プリント配線基板として、又はプリント配線基板の製造に特に適している被覆品を提供する。
【解決手段】 (i)少なくとも1つの非導電性基層、(ii)少なくとも1つの銅および/または銅合金層、および(iii)少なくとも1種の導電性重合体を含有する層を持つ被覆品。この被覆品は、銅または銅合金層(ii)が、基層(i)と導電性重合体を含有する層(iii)との間に位置することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅または銅合金の層および導電性重合体の層を持ち、プリント配線基板として、又はプリント配線基板の製造に特に適している被覆品に関する。
【背景技術】
【0002】
銅は、最も広範に使用されている我々の時代の金属材料の一つである。銅は宝石に準ずる程度に貴重な金属であるが、この材料は容易に酸化でき、この性質は銅の使用特性に悪影響を与えることが多い。これ自身目に見える形で現れるだけでなく、特に実際の技術的不利益も引き起こす。後にはんだ付け法で組み立てられるプリント配線基板の被覆時や、導体として用いられる銅線、または銅管に特定の問題が発生する。微粒銅粉末は、酸化から保護されない限り製造も使用もほとんど不可能である。
【0003】
銅には通常、鉄や鋼のような保護被覆を設けない。このような保護被覆はラッカの場合、数層で適用しなければならないことが多い。代わりに、銅腐食に対する防御として、例えばイミダゾール類、ベンゾイミダゾール類、ベンゾトリアゾール類、チオ尿素、およびイミダゾール−2−チオンのような、銅と錯体を形成する物質が主として用いられる。
【0004】
そのような有機錯化剤は明らかに安価で、加工しやすいが、多くの欠点を示す。したがって、イミダゾール類またはベンゾイミダゾール類を含む配合は蟻酸を含有することが多く、他の有機酸を含有することもあり、それらは不快な臭気があり、腐食性があり、毒性の面で不利益を与える。さらに、熱安定性が低い。
【0005】
したがって、プリント配線基板の製造において腐食からの防護のため、銅は例えば金、銀またはスズなどの他の金属で被覆することが多い。これにより、酸化により極めて短時間に失われる、銅接点と銅めっきされたドリル穴のはんだ付け性が保持される。
【0006】
普通のはんだ付け可能な最終表面と、それらの技術面、経済面、環境面、毒性面の長所と短所の全体像は、"Alternative Technologies for Surface Finishing‐Cleaner Technology for Printed Wired Board Manufacturers", EPA, Office of Pollution Prevention and Toxics, June 2001, EPA 744-R-01-001に開示されている。
【0007】
一般に、金属被覆はプリント配線基板に極めて適しているが、多くの欠点も示す。金による被覆は金価格が高いので高価であるだけでなく、金層の適用に特殊な工程も必要とする。例えば、金はいわゆる水平プラントでは化学的に適用できず、垂直プラントでしか適用できないが、これには高い処理費用が追加される。
【0008】
銀の適用は再現性が低く、必要なプラントは調整が困難である。
【0009】
スズは、例えばオルメコン社のオルメコンCSN−プロセスにおけるような有機金属の助けを借りて適用されるとき、特に技術的、経済的観点から明らかに申し分がない。しかしながら、その沈着には原則として数分かかり、高い処理能力を保証するには相当する大型のプラントが必要となる。
【0010】
EP0807190B1からは金属蒸着材料の製造方法が知られている。この方法においては、金属蒸着される材料がはじめに固有導電性重合体で被覆され、次に固有導電性重合体は還元により活性化され、最後に金属が非電気化学的に適用され、被覆された材料は金属のイオンの溶液と接触される。この方法は、スズを銅上に沈着させるのに特に適しており、プラスチック面の金属蒸着にも特に適している。
【0011】
EP0407492B1は、基板を固有導電性重合体の薄層で被覆する方法を開示している。この方法においては、例えばポリアニリンが準安定分散液から基板上に非電気化学的に沈着される。基板としては、なかんずく金、プラチナ、鉄、銅、アルミニウムのような金属が述べられている。銀よりも貴でない金属の場合、導電性重合体の層は金属酸化物層の形成をもたらし、とりわけ防蝕に適しているはずである。
【0012】
EP0656958B1は、鉄、鋼、銅およびアルミニウムなどの防蝕された金属材料の製造方法に関する。この方法においては、固有導電性重合体の層が金属材料上に適用され、その後、被覆された材料が酸素含有水でパッシベーション(表面安定化処理)される。導電性重合体の適用だけでは充分な防蝕が保証されないので、金属材料はパッシベーション後に防蝕被覆を施されるのが好ましいことが指摘されている。導電性重合体は防蝕被覆の適用前に再び除去できる。
【0013】
【特許文献1】欧州特許第0807190号明細書
【特許文献2】欧州特許第0407492号明細書
【特許文献3】欧州特許第0656958号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第0700573号明細書
【非特許文献1】"Alternative Technologies for Surface Finishing‐Cleaner Technology for Printed Wired Board Manufacturers", EPA, Office of Pollution Prevention and Toxics, June 2001, EPA 744-R-01-001
【非特許文献2】Wessling et al., Eur. Phys. J. E 2, 2000, 207-210
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、銅または銅合金の層を持つ被覆品であって、一方では銅または銅合金が有効に酸化から守られ、他方では銅または銅合金のはんだ付け性が貯蔵中に失われることを防止する被覆品を利用可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的は、以下を持つ被覆品により達成される:
(i) 少なくとも1つの非導電性基層、
(ii) 少なくとも1つの銅および/または銅合金層、および
(iii) 少なくとも1種の導電性重合体を含有する層。
【0016】
この被覆品は、銅または銅合金層(ii)が基層(i)と導電性重合体を含有する層(iii)との間に位置することを特徴とする。
【0017】
本発明による解決策は、現在の技術水準では予測しようがないほど、導電性重合体による被覆だけで銅を酸化と腐食から有効に守ることができる、という点で驚くべきことである。銅と銅合金のはんだ付け性を保持することについては改善が予期されないのは確実であった。現在の技術水準によると、導電性重合体の層は、銀より貴でない金属の表面上に薄い金属酸化物の層を形成させる。しかしながら、そのような酸化物層の形成は、銅のはんだ付け性を失わせる実質的な原因である。
【0018】
層(iii)の厚さは1μm未満であることが好ましい。これは、層が厚いほど大きい効果が得られるであろう、という一般の期待に反する。層(iii)の厚さは少なくとも約10nmであることが好ましい。特に好ましいのは500nm未満、特に好ましくは200nm未満の層厚さである。
【0019】
この層は少なくとも1種の導電性重合体を含有しており、これは有機金属の形態で用いられるのが好ましい。この物質群からの様々な物質の組み合わせが使用できる。本発明の枠内では、別記しない限り、重合体は有機重合体を意味するものと解される。
【0020】
“固有導電性重合体”とも呼ばれる電気伝導性重合体または導電性重合体は、小さい分子化合物(単量体)から構成され、重合により少なくとも低重合体となり、したがって化学結合により結合された少なくとも3つの単量体単位を含有し、中立(非導電)状態で共役n−電子系を示し、酸化、還元またはプロトン付加(“ドーピング”と呼ばれることが多い)により導電性のイオン型に変換できる物質を意味するものと解される。導電性は少なくとも10-7S/cmであり、通常は105S/cm未満である。
【0021】
ドーピング剤としては、例えばヨウ素、過酸化物、ルイス酸およびプロトン酸が酸化によるドーピングの場合に用いられ、例えばナトリウム、カリウム、カルシウムが還元によるドーピングの場合に用いられる。
【0022】
導電性重合体は化学的に組成が極めて多様であることができる。単量体としては、例えばアセチレン、ベンゼン、ナフタレン、ピロール、アニリン、チオフェン、フェニレンスルフィド、ペリナフタレンその他、およびスルホアニリン、エチレンジオキシチオフェン、チエノ−チオフェンその他のようなそれらの誘導体、およびそれらのアルキルまたはアルコキシ誘導体、またはスルホネート、フェニル、その他側基のような他の側基を持つ誘導体が有用である。上記の単量体の組み合わせも単量体として使用できる。そのためには、例えばアニリンおよびフェニレンスルフィドが結合されて、次にこれらのA−B二量体が単量体として用いられる。目的に応じ、例えばピロール、チオフェンまたはアルキルチオフェン類、エチレンジオキシチオフェン、チエノ−チオフェン、アニリン、フェニレンスルフィドその他が互いにA−B構造に結合でき、次に低重合体または重合体に変換できる。
【0023】
ほとんどの導電性重合体は温度の上昇と共に導電性が多かれ少なかれ高度に増大し、これにより、それらが非金属導体と判る。他の導電性重合体は、温度の上昇と共に導電性が低下することから、少なくとも室温に近い温度範囲において金属の挙動を示す。金属挙動を認識するさらに別の方法は、低温(ほぼ0Kまで低下)での温度に対する導電性のいわゆる“還元活性化エネルギー”をプロットすることである。導電性への金属貢献を行う導体は、低温で曲線の正の勾配を示す。そのような物質は“有機金属”と呼ばれている。
【0024】
有機金属はそれ自体知られている。Wessling et al., Eur. Phys. J. E 2, 2000, 207-210によると、非金属導体の状態から少なくとも部分的金属導体への遷移は、固有導電性重合体の合成の完了後に一段摩擦または分散処理により実施できる。その方法技術の基礎はEP0700573Aに記載されている。このように、分散処理により導電性も増大し、用いた導電性重合体の化学組成は有意に変化しない。
【0025】
好ましい固有導電性重合体は上述の通りであるが、特に以下が例示できる:ポリアニリン(PAni)、ポリチオフェン(PTh)、ポリ(3、4−エチレンジオキシチオフェン類)(PEDT)、ポリジアセチレン、ポリアセチレン(PAc)、ポリピロール(PPy)、ポリイソチアナフテン(PITN),ヘテロアリーレン基が例えばチオフェン、フランまたはピロールであり得るポリヘテロアリーレンビニレン(PArV)、ポリ−p−フェニレン(PpP)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリペリナフタレン(PPN)、ポリフタロシアニン(PPc)その他、およびそれらの誘導体(例えば単量体が側鎖または側基で置換されて形成されたもの)、それらの共重合体、およびそれらの物理的混合物。特に好ましいのはポリアニリン(PAni)、ポリチオフェン(PTh)、ポリピロール(PPy)、ポリ(3、4−エチレンジオキシチオフェン類)(PEDT)、ポリチエノ−チオフェン(PTT)、およびそれらの誘導体とそれらの混合物である。もっとも好ましいのはポリアニリンである。
【0026】
層(iii)は、1種または数種の導電性重合体および/または有機金属から専らなることができるか、又は1種以上の導電性重合体と非導電性成分のような他の物質との混合物を含有することができる。変法によると、層(iii)は、導電性重合体/有機金属(または数種の組み合わせ)と非導電性重合体との混合物である重合体配合物を含有する。非導電性重合体として特に適しているのは、水溶性または水分散性重合体、特に、ポリスチレン−スルホン酸、ポリアクリル酸エステル類、ポリビニルブチレート類、ポリビニル−ピロリドン類、ポリビニルアルコール類、およびそれらの混合物である。導電性および非導電性重合体は1:1.5〜1:20の割合で用いるのが好ましい。
【0027】
層(iii)はさらに添加剤、特に、粘度調整剤、流動補助剤、乾燥補助剤、光沢改良剤、艶消剤およびそれらの混合物を、好ましくは層(iii)の質量を基準にして各0.10〜5重量%の濃度で含有することもできる。層(iii)は層(iii)の質量を基準にして5〜98重量%、特に15〜40重量%の導電性重合体を含有するのが好ましい。
【0028】
導電性重合体(類)/有機金属(類)と銅を錯化することができるような錯化剤との組み合わせが有利なことがあると判明している。好ましい錯化剤は、イミダゾール類、ベンゾイミダゾール類、またはこれに匹敵する錯化剤、例えばベンゾトリアゾール類、チオ尿素、イミダゾール−2−チオン、およびそれらの混合物であって、比較的良好な熱安定性を特徴とするものである。
【0029】
基層(i)として、プリント配線基板技術で用いられる全ての材料が適しており、特に、エポキシドおよびエポキシド複合体、テフロン、シアン酸エステル、セラミックス、セルロースおよびセルロース複合体、例えば、カード用厚紙等、これらの物質に基づく材料、軟質基層、例えばポリイミドに基づくものである。基層は0.1〜3mmの層厚さを持つことが好ましい。
【0030】
銅層または銅合金層(ii)は5〜210μm、特に15〜35μmの厚さを持つことが好ましい。
【0031】
層(ii)と層(iii)との間には、さらに金属または合金層(iv)を位置させることができる。層(iv)は銀、スズ、金、パラジウムまたはプラチナを含有するのが好ましい。好ましい態様によると、層(iv)は主として、すなわち、層(iv)の質量を基準にして50重量%より多い、1種または数種の上記金属を含有する。上記金属は、特に銅との合金として存在できる。他の好ましい態様によると、層(iv)は純粋な形態か又は合金の形態をした上記金属から専らなる。層(iv)は10〜800nmの層厚さを持つのが好ましい。層(iv)は、このような金属または合金だけでなく、有機成分を層(iv)の総質量を基準にして好ましくは1〜80重量%の濃度で含有することができる(金属含量20〜99重量%)。好ましい有機成分は導電性重合体または有機金属、またはチオ尿素やベンゾトリアゾール類のような有機銅錯化剤である。
【0032】
本発明に係る被覆品はプリント配線基板の製造に特に適しており、この被覆品は基板とも呼ばれるプリント配線基板であることが好ましい。これらは、穴を持つ可能性がある電気部品の組み立てに用いられる薄板である。これらの穴は、例えば、それらの板の上面と下面との接続、はんだの供給、又ははんだ付けをさらに行うための部品の導線の収容に役立つ。
【0033】
本発明に係る被覆品、特にプリント配線基板の製造には、
(1) 銅または銅含有合金の層を基層の表面上に適用し;
(2) 工程(1)で製造した層を構造化し;
(3) 構造化した銅または銅合金層上に少なくとも1種の導電性重合体を含有する層を適用する。
【0034】
この方法の好ましい態様に従うと、工程(1)の後、銅または銅合金層(ii)を脱脂、洗浄する。このためには、物品を通常の市販の酸性または塩基性洗浄剤で処理するのが好ましい。硫酸およびクエン酸をベースにした洗浄剤、例えばオルメコン社の洗浄剤ACL7001等、が好ましい。物品を約2分間45℃の洗浄浴に放置し、その後水で洗うのが好ましい。
【0035】
さらに、工程(1)の後、または洗浄後、銅または銅合金層(ii)を酸化的に前処理する、例えば、表面をH22または無機過酸化物でエッチングにより前処理することが好ましい。適当なエッチング液は市販されており、例えば、オルメコン社の過酸化水素含有溶液エッチ7000である。物品は約2分間30℃のエッチング液に放置するのが好ましい。
【0036】
工程(1)で製造された層はリソグラフィーまたはエッチング法により構造化するのが好ましく、これによりランドパターンが作られる。現在、工程(1)と工程(2)は、構造化されたCu導体トラックの直接適用または同様の方法に置き換えることも可能である。
【0037】
工程(2)の後、必要であればドリル穴(“穴”)を作り、その後これらの穴に銅めっきする。
【0038】
上記方法の個々の工程の実施は、それ自体当業者に知られている。好ましくは、水洗いの後、物品を室温で液状の分散剤に分散させた導電性重合体(類)または有機金属(類)の分散液で処理することにより、物品に層(iii)を適用する。この際、この分散液による処理は、例えば物品を当該分散液に浸漬するか、またはこの分散液を物品に塗布することにより行う。導電性重合体または重合体類はコロイド状の分散媒に含有されているのが好ましい。物品は室温で1分間分散液と接触させるのが好ましい。非導電性重合体や添加剤のような追加の成分は分散媒に溶解できるか、または分散媒にコロイド状に存在できる。分散媒としては、有機溶媒、好ましくは水と混和する有機溶媒、水、およびそれらの混合物が適している。水と混和する好ましい溶媒は、アルコール類、特に沸点が100℃より高く好ましくは250℃より低いアルコール類である。物品に分散液を塗布した後、塗布した物品を緩徐に乾燥し、必要であれば、所望の層厚さが得られるまで分散液をさらに塗布する。塗布に適した分散液の製造と使用は現在の技術水準から知られている。例えばEP0407492B1を参照のこと。
【0039】
水と水性溶媒は分散媒として好ましい。これらは、排出物の点で、またはんだ止めラッカのぬれを起こさないため、有利であるばかりでなく、良好な結果をもたらすことも判っている。これは、銅上の酸化過程は水性環境では特に速やかに進行するという点で驚くべきことであった。はんだ止めラッカは、組立工程中、はんだにより濡らされてはならないプリント配線基板の領域を遮蔽するのに用いられる。はんだ止めラッカは導電性重合体により濡らされてはならない。濡らされれば、接点間に短絡が起きると思われるからである。
【0040】
好ましくは、蟻酸を含有しない分散液が用いられるが、他の酸および/または緩衝剤を分散液に含有させることができる。
【0041】
特に適している分散液が市場で入手できる。例えば、ポリアニリンをベースにした分散液で、ポリアニリン−ポリスチレンスルホン酸配合物の水中分散液、例えば、オルメコン社の製品D1012や、ポリアニリン−ポリビニルピロリドンの水中分散液、例えば、オルメコン社の製品D1021である。
【0042】
好ましくは0.1〜45重量%、特に好ましくは5〜35重量%の固有導電性重合体を含有する重合体配合物を純粋の固有導電性重合体の代わりに使用することも可能である。これらの重合体配合物は、固有導電性重合体だけでなく、他の重合体、共重合体または重合体混合物、例えばポリアミド類、ポリエステル類、ポリエチレンオキシドのようなポリエーテル類、例えば酢酸ビニルアクリル酸ブチルのような水性共重合体ラテックス類、または他の共重合体ラテックス類および/またはポリビニルアルコール類も含有する。特に好ましい他の重合体はポリアミド類である。
【0043】
本発明に係る被覆品は、長期間貯蔵後に良好にはんだ付けできるだけでなく、数回はんだ付けできる、すなわち、多段はんだ付け法、いわゆるリフロー法で使用できる、ことを特に特徴としている。この点で、本発明に係る被覆品により、金属最終表面を持つプリント配線基板にはんだ付け特性および老化特性を有意に近似させることができ、この被覆品は、はんだ付け性が損なわれることなく最長12ヶ月貯蔵でき、貯蔵後も数回はんだ付け可能である。これと対照的に、はんだ付け性を維持するために銅錯化剤のみ、いわゆる“OSP”(有機はんだ付け性保存剤)、で処理した従来のプリント配線基板は、原則として3〜6ヶ月貯蔵しただけで既にはんだ付け性を失い、もちろん多段リフロー法にも適さない。プリント配線基板は、はんだ付け角度が90°未満、好ましくは60°以下であればリフロー法に特に適しているとみなされる。OSPとしては、蟻酸および/または酢酸を含有する、例えばベンゾトリアゾール系の酸性水性配合物が主に用いられている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、本発明を線図により非限定的実施態様でさらに説明する。図1は試験設計を持つプリント配線基板を示す。
【0045】
実施例1〜2:被覆プリント配線基板の製造
エポキシ樹脂複合体プリント配線基板を、洗浄浴において45℃で2分間硫酸およびクエン酸をベースにした通常の市販洗浄剤(ACL7001,オルメコン社)を用いて洗浄・脱脂した。このプリント配線基板は試験設計(図1参照)を持ち、この試験設計は試験機関およびプリント配線基板メーカのものと一致し、実際のプリント配線基板構造を模したものであった。これらの基板は、はんだ付け性が測定可能で、評価可能であった。次に、プリント配線基板を室温の水道水で水洗いし、その後、H22含有エッチング液(エッチ7000,オルメコン社)で2分間30℃で処理した。エッチング後、基板を再び室温の水道水で水洗いし、その後、表1に示した導電性有機重合体で被覆した。そのためには、基板を、当該重合体の水性分散液に室温で1分間浸漬した。その後、プリント配線基板を45〜75℃で乾燥した。
【0046】
【表1】

【0047】
分散液1は固形分1.25重量%であり、分散液2は固形分1.25重量%であったが、分散液2における固形分は、固形分の質量を基準にして銅錯化剤を6重量%含有した。
【0048】
実施例3〜4:被覆プリント配線基板の製造(比較例)
実施例1〜2と同様に、プリント配線基板をベンゾトリアゾール系の通常の市販品(グリコートタフエース F2(LX),四国社,日本,実施例3;およびエンテックプラスCu 106A,エンソンOMI社,オランダ,実施例4)によりそれぞれの取扱説明書にしたがい被覆した。
【0049】
実施例5:はんだ付け角度の測定
実施例1〜4で製造したプリント配線基板の幾つかを促進老化法に付した。この方法においては、幾つかの基板を100℃で1時間貯蔵し、その他の基板は144℃で4時間貯蔵した。新たに作製した基板と100℃または144℃で老化させた基板のはんだ付け角度(濡れ角度: NF A 89 400 PまたはANSI−J−STD 003 I.E.C. 68−2−69の基準に準拠)を通常の市販メニスコグラフ計(ST60型,メトロンエレック社)で測定した。この装置は、濡れ力を時間の関数として測定し、その数値を通常の手順ではんだ付け角度に換算するものである(説明書を参照)。いずれの場合も、はんだ付け角度をリフローサイクルなしと、リフローサイクル2回の後と、リフローサイクル3回の後に測定した。リフローサイクルは、繰返しのはんだ付け操作のシミュレーションに役立ち、HA 06 ホット−エア/クォーツ リフロー オーブン(C.I.F./アセレック社、フランス)で実施した。この装置は温度プロフィールにより
多数回のはんだ付けをシミュレートする。
【0050】
はんだ付け角度の測定結果は表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
表2の結果から、はんだ付け角度は老化の進行と共に、特にはんだ付けが反復されると共に、増大することが判る。本発明に係るプリント配線基板、および現在の技術水準でのプリント配線基板について1回目のはんだ付け操作におけるはんだ付け角度は、2度目の老化工程を実施した後も依然として匹敵する程度にあるが、時に90°の臨界値を超えるはんだ付け角度の大幅な増加(実施例3)が、2回目のはんだ付け操作における対照基板で既に認められる。3回目のはんだ付け操作においては、両対照基板のはんだ付け角度はどちらも90°より大きく、93°と96°であり、表面の濡れが悪くはんだ付け性が不十分であることを示している。これと対照的に、本発明に係る基板では、155℃で4時間貯蔵後のはんだ付け角度は2回目のはんだ付け操作から3回目のはんだ付け操作に移行しても増加が認められないので、これらの基板は老化状態にあっても繰返しのはんだ付け操作に無条件に適している。
【0053】
実施例6: 被覆プリント配線基板の製造
試験設計(図1)のエポキシ樹脂複合体Cuプリント配線基板を、洗浄浴において45℃で2分間硫酸およびクエン酸をベースにした通常の市販洗浄剤(ACL7001,オルメコン社)を用いて実施例1にしたがい洗浄・脱脂した。次に、プリント配線基板を室温で3回(<1分間)水道水で水洗いし、その後、H22含有エッチング液(マイクロエッチ MET7000,濃度:2容量%,オルメコン社)で2分間35℃で処理した。エッチング後、基板を再び室温で3回(<1分間)水道水で水洗いし、その後、導電性ポリアニリン(PA,濃度:0.5%有機金属)の水性分散液で被覆した。そのためには、基板を、この分散液に35℃で約3分間浸漬した。その後、プリント配線基板を脱イオン水(50℃)で3回(<0.5分間)水洗いし、充分に乾燥させた。この処理の後、プリント配線基板には厚さ100〜200nmの薄く均一で平坦な透明被覆があった。次に、実施例5に記載した方法ではんだ付け角度を測定した。結果を表3に示す。従来法でスズ(Sn)を被覆したプリント配線基板を対照とした。
【0054】
この結果から、本発明に係る被覆基板のはんだ付け性はスズ被覆基板のはんだ付け性と同等であることがわかる。
【0055】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】試験設計を持つプリント配線基板を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i) 少なくとも1つの非導電性基層、
(ii) 少なくとも1つの銅および/または銅合金層、および
(iii) 少なくとも1種の導電性重合体を含有する層
を持つ被覆品において、
前記銅または銅合金層(ii)が、前記基層(i)と前記導電性重合体を含有する層(iii)との間に位置する
ことを特徴とする被覆品。
【請求項2】
請求項1において、
前記層(iii)が、10nm〜1μmの層厚さをもつ
被覆品。
【請求項3】
請求項2において、
前記層(iii)が、500nm未満の層厚さをもつ
被覆品。
【請求項4】
請求項3において、
前記層(iii)が、200nm未満の層厚さをもつ
被覆品。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、
前記層(iii)が、少なくとも1種の非導電性成分と少なくとも1種の導電性重合体とを含有する
被覆品。
【請求項6】
請求項5において、
前記層(iii)が、前記層(iii)の質量を基準にして5重量%〜98重量%の導電性重合体を含有する
被覆品。
【請求項7】
請求項5又は6において、
前記非導電性成分が重合体である
被覆品。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかにおいて、
前記層(iii)が、少なくとも1種の錯化剤を含有する
被覆品。
【請求項9】
請求項8において、
前記錯化剤が、ベンゾイミダゾール類、イミダゾール類、ベンゾトリアゾール類、チオ尿素、イミダゾール−2−チオン類、およびそれらの混合物から選ばれる
被覆品。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかにおいて、
前記導電性重合体が、ポリアニリン(PAni)、ポリチオフェン(PTh)、ポリピロール(PPy)、ポリ(3、4−エチレンジオキシチオフェン類)(PEDT)、ポリチエノ−チオフェン(PTT)、それらの誘導体、およびそれらの混合物から選ばれる
被覆品。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかにおいて、
少なくとも1種の導電性重合体を含有する重合体配合物が前記導電性重合体として用いられる
被覆品。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかにおいて、
前記基層(i)が、エポキシド、エポキシド複合体、テフロン、シアン酸エステル、セラミック、セルロース、セルロース複合体、カード用厚紙、および/またはポリイミドを含有する
被覆品。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかにおいて、
前記基層(i)が、0.1〜3mmの層厚さを持つ
被覆品。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかにおいて、
前記層(ii)が、5〜210μmの層厚さを持つ
被覆品。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかにおいて、
前記層(ii)と前記層(iii)との間に位置する金属または合金層(iv)をさらに持つ
被覆品。
【請求項16】
請求項15において、
前記層(iv)が、銀、スズ、金、パラジウムまたはプラチナを含有する
被覆品。
【請求項17】
請求項15又は16において、
前記層(iv)が、10〜800nmの層厚さを持つ
被覆品。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれかにおいて、
プリント配線基板の形態にある
被覆品。
【請求項19】
請求項18の被覆品を製造する方法であって、
(1) 銅または銅含有合金の層を基層の表面上に適用し;
(2) 工程(1)で製造した前記層を構造化し;
(3) 前記構造化した銅または銅合金層上に少なくとも1種の導電性重合体を含有する層を適用する
方法。
【請求項20】
請求項19において、
工程(1)の後、前記銅または銅合金層(ii)を洗浄に付す
方法。
【請求項21】
請求項19又は20において、
工程(1)の後、または前記洗浄後、前記銅または銅合金層(ii)を酸化的前処理に付

方法。
【請求項22】
室温で液状で導電性重合体を含有する分散媒を含有する分散液の、プリント配線基板の防蝕および/またははんだ付け性の喪失防止への使用。
【請求項23】
請求項22において、
前記分散液が、非導電性成分、錯化剤、粘度調整剤、流動補助剤、乾燥補助剤、光沢改良剤、艶消剤、およびそれらの混合物から選ばれる少なくとも1種の成分をさらに含有する
使用。
【請求項24】
請求項22又は23において、
前記分散媒が、水、水と混和する有機溶媒、またはそれらの混合物を含有する
使用。

【図1】
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【公開番号】特開2006−44233(P2006−44233A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−183260(P2005−183260)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(504224957)オルメコン・ゲーエムベーハー (10)
【Fターム(参考)】