説明

少なくとも2つのワークピースを溶接接合するための方法

【課題】少なくとも2つのワークピースを溶接接合するための方法を提供する。
【解決手段】当該方法は、第1のワークピース16の第1の表面14に接着剤12を塗布するステップと、第1のワークピースの第1の表面を第2のワークピース22の表面20に接触させるステップとを含む。次いで、第1のワークピース16および第2のワークピース22が摩擦攪拌溶接または摩擦攪拌スポット溶接され、接着剤12が硬化する。接着剤12の硬化中に2つのワークピース16および22を保持するために接合工具を用いる必要がなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
この発明は、概して、摩擦攪拌溶接に関し、より特定的には、溶接接合プロセスのために摩擦攪拌溶接を用いることに関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦攪拌溶接は、一般に、アルミニウム、マグネシウム、銅、チタンおよび鋼などのさまざまな種類の材料のために2つ以上のワークピースを接合するのに用いられる。ラップ、L型ジョイントおよびT型ジョイント構成に溶接するこの方法では、溶接ビードの大きさが小さくなり、この溶接ビードの両側にはノッチが設けられる。溶接ビードの両側に対する応力集中がより高くなるために、これらのノッチによって応力集中係数が高くなり、疲労寿命が短くなる。
【0003】
さらに、2つ以上のワークピースを摩擦攪拌溶接すると、これらのワークピース間の隙間が接着接合のようには封止されない。接着接合を用いると穴開けや留め具の取付けが不要になるので、接着接合の使用は劇的に増えてきている。留め具、融解、摩擦およびスポット溶接されたジョイントを接着接合されたジョイントに置き換えることが大いに望まれる。接着接合されたジョイントは負荷をより均一に分散させるので、結果として表面条件が滑らかになる。特に、接着接合により、留め具および溶接の位置に応力集中部がなくなる。自動車産業界では、表面仕上げを向上させ、構造減衰を増大させ、振動ノイズの原因となるスポット溶接部の破損をなくすために自動車部品に接着接合を用いてきた。しかしながら、複雑な湾曲構造を接着接合するにはかなり費用がかかってしまう。というのも、接着剤の硬化中に圧力を加えるのに専用の接合工具が必要となるからである。さらに、室温では、接着剤の硬化には数日かかる可能性がある。
【0004】
溶接接合は、溶接および接着の接合プロセスをともに用いる複合的な組立方法である。オハイオ州(Ohio)コロンバス(Columbus)にあるエジソン溶接研究所(Edison Welding
Institute)(EWI)は、レーザ溶接が伴うかまたはレーザ溶接が後に続く接着接合を用いるプロセスを開発した。レーザ溶接接合は、小型のコミュータ航空機の胴体などの小型の機体構造に用いられてきた。しかしながら、レーザ溶接接合には高価な機器が必要であり、レーザ溶接部の品質も低い。たとえば、レーザ溶接接合をアルミニウム構造に用いることは難しく、レーザ溶接接合の成功は、構造を構成するアルミニウム合金に大きく依存している。自動車産業界では、接着接合を用いるとともに鋼を融解スポット溶接してきた。しかしながら、新世代の自動車に用いられるアルミニウムの融接はかなり難しく、費用がかかってしまう。加えて、融解スポット溶接は電極を用いて上面および下面上に表面窪みを作り出すので、表面条件が不良になる。また、融接では接着剤が飛び散るので、接合品質が低下してしまう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上から分かるように、いかなる接合工具も用いることなく2つ以上のワークピースを一緒に保持し、接着剤の硬化中に圧力を加え、結果として滑らかな表面条件と、さまざまな材料のために均一に封止されたジョイントとをもたらし得る安価で有効な溶接接合プロセスが必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
この発明は、接着接合と組合された摩擦攪拌溶接によって少なくとも2つのワークピースを接合する方法を向上させることによって、上述の必要性を満たす。
【0007】
この発明の一局面においては、方法は、第1のワークピースの第1の表面に接着剤を塗布するステップと、第1のワークピースの第1の表面を第2のワークピースの表面に接触させるステップとを含む。次いで、第1のワークピースおよび第2のワークピースが摩擦攪拌溶接される。
【0008】
この発明の別の局面においては、溶接接合された構造を形成するための方法は、ペースト状または他の接着剤を第1のアルミニウムワークピースの第1の表面に塗布するステップと、第1のアルミニウムワークピースの第1の表面を第2のアルミニウムワークピースの第1の表面に接触させるステップとを含む。第1のワークピースおよび第2のワークピースは摩擦攪拌溶接または摩擦攪拌スポット溶接され、接着剤が室温またはより高い温度で硬化する。
【0009】
この発明のさらなる局面においては、航空機、自動車および他の製品において用いるために少なくとも2つのワークピースを溶接接合するための方法が提供される。当該方法は、接着剤を第1のワークピースの第1の表面に塗布するステップと、第1のワークピースの第1の表面を第2のワークピースの第1の表面に接触させるステップとを含む。次いで、第1のワークピースおよび第2のワークピースが摩擦攪拌溶接され、接着剤が硬化する。接着剤の硬化中に2つのワークピースをともに保持するのに接合工具は用いられない。この発明のこれらおよび他の特徴、局面および利点は、添付の図面、以下の説明および添付の特許請求の範囲を参照するとよりよく理解されるだろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
発明の詳細な説明
以下の詳細な説明は、この発明を実施するための現在企図される最良の形態である。この説明は、限定の意味に取られるべきではなく、単にこの発明の一般原則を例示する目的でなされる。というのも、この発明の範囲が添付の特許請求の範囲によって最も良く規定されているからである。
【0011】
この発明の方法は、航空宇宙産業界、造船および船舶産業界、鉄道産業界、自動車産業界ならびに建設産業界における応用例に好適であるが、これらには限定されない。たとえば、この発明の方法は、軍用および民間用の航空機において用いられるワークピース同士の溶接、たとえば外板の翼桁、肋材および縦通材への溶接に用いることができる。加えて、この発明の方法は、長手方向の突合せ溶接部、重ね溶接部、スポット溶接部、テーパ突合せ溶接部、および5軸輪郭溶接部を製造するのに用いられてもよい。
【0012】
この発明の方法は、接着剤の硬化中に2つ以上のワークピースをとじ合わせるかまたは保持するのに摩擦攪拌溶接を用いる。したがって、接合工具が不要となるので、接着接合プロセスがより一層手頃なものとなる。加えて、この発明の方法は、結果として、溶接された構成要素の表面品質を向上させる。というのも、摩擦攪拌溶接プロセスは、典型的には、スポット溶接に用いられる両側溶接とは異なり、一方側から溶接するからである。この発明の方法はさらに、接着接合品質を向上させ、界面応力を低下させ、サイクル時間を向上させる。
【0013】
図1を参照すると、この発明の方法に従って製造された溶接接合された構造10が示される。この発明の方法は、接着層を形成するために第1のワークピース16の第1の表面14に接着剤12を塗布するステップを含む。接着剤12は、噴霧、またはブラシ、ローラもしくはスパチュラを用いた塗布を含むがこれらに限定されない当業者に公知の任意の
方法によって、第1のワークピース16の第1の表面14に塗布され得る。接着剤12は、2つの表面を接合するのに有効ないかなる接着剤であってもよい。たとえば、この発明で用いられる好適な接着剤は、ペースト状またはフィルム状接着剤を含むが、これらに限定されない。好ましくは、接着剤12は、カリフォルニア州のベイポイント(Bay Point)にあるヘンケル社(Henkel Corporation)によって製造されるHysol(登録商標)EA9394などのペースト状接着剤である。
【0014】
第1のワークピース16の第1の表面14を第2のワークピース22の第1の表面20に接触させる。たとえば、第1のワークピース16の表面14と第2のワークピース22の表面20とは、クランプ、留め具または類似の装置を用いることによって互いに接触した状態で維持され得る。
【0015】
次いで、第1のワークピース16および第2のワークピース22は、摩擦攪拌溶接または摩擦攪拌スポット溶接される。必要に応じて、約20℃〜約200℃の温度で接着層12を硬化させてもよい。接着層12は、約1日〜約30日の期間にわたって室温で硬化させてもよい。接着剤12を硬化させるのに用いられる温度および時間の長さは、用いられる接着剤の種類に依存することとなる。従来の接着接合プロセスと同様に、接着剤を高温で硬化させる必要はない。というのも、摩擦攪拌溶接部が、表面14と20と、さらに、ワークピース16と22とを一緒に有効に保持するからである。したがって、摩擦攪拌溶接部はまた、2つ以上のワークピース16および22の保持および/または接着剤12の硬化中における圧力の印加のためにいかなる接合工具も必要としない。
【0016】
この発明において接着接合と摩擦攪拌溶接とを組合せることにより、溶接部ジョイント付近の表面条件が滑らかになり、さらに、ワークピース16と22との間におけるジョイントが均一かつ完全に封止されることとなる。従来の摩擦攪拌溶接および摩擦攪拌スポット溶接では、結果として、特に(ノッチにおける)溶接部の端縁に負荷が集中してしまう。負荷がより均一に分散されるので、摩擦攪拌溶接接合によって構造を製造することがより望ましい。さらに、摩擦攪拌溶接を単独で用いるプロセスにおいては、2つ以上のワークピース16および22が接する区域またはジョイント26が完全には封止されない。結果として、ワークピース16と22との間の区域またはジョイント26に裂け目が形成される可能性があり、当該裂け目に水分が集まってワークピースの腐食を引起すおそれがある。この問題はこの発明の方法では回避される。というのも、ワークピース16と22との間のジョイント26が、図1に図示のとおり、接着層12によって完全に封止されるからである。また、この発明の方法における接着接合を用いると、溶接されたワークピース16および22における振動およびノイズが減衰される。
【0017】
この発明の方法においては、さまざまな摩擦攪拌溶接プロセスを用いることができる。具体的には、摩擦攪拌スポット溶接、セグメント化された摩擦攪拌溶接および連続的な摩擦攪拌溶接がこの発明の方法において用いられてもよい。これらの溶接技術によって形成される溶接部の例、すなわち、(工具用出口穴のない)摩擦攪拌スポット溶接部30、(工具用出口穴のある)摩擦攪拌スポット溶接部32、セグメント化された摩擦攪拌溶接部34、および連続的な摩擦攪拌溶接部36、が図2に示される。
【0018】
連続的な摩擦攪拌溶接およびセグメント化された摩擦攪拌溶接を含む摩擦攪拌溶接のプロセス中に、特定の幾何学的形態を備えた工具が投入され、当該工具が、溶接すべき材料を通り抜ける。工具の主要な構成要素は肩部およびピン(またはプローブ)である。溶接中、当該ピンは、ジョイント線に沿って材料の中を移動するが、当該肩部は材料の表面を摩擦する。工具の肩部が表面を摩擦し、ピンが当該肩部の下で材料を混合することによって熱が発生する。この混合動作により、ジョイント線にわたって材料を移送させることが可能となる。プロセス変量には、回転および移動速度、工具設計、向き、位置、ならびに
工具鍛造負荷が含まれ得る。
【0019】
摩擦攪拌スポット溶接のプロセス中に、摩擦攪拌溶接工具が投入され、当該摩擦攪拌溶接工具は、溶接すべき材料を通り抜けることなく当該材料から引込められる。ある技術においては、摩擦攪拌スポット溶接部は、図2および図3aに図示のとおり、ワークピース16および22における工具用出口穴40で形成される。代替的には、図2および図3bに図示のとおり、ワークピース16および22に出口用穴40を残さずに摩擦攪拌スポット溶接プロセスを行ってもよい。工具用出口穴40が塞がれているこの代替的な方法の例が、シリング(Schilling)他に対する米国特許第6,722,556号に記載されている。この発明の摩擦攪拌溶接接合方法においては、上述されたものを含むいかなる摩擦攪拌スポット溶接プロセスが用いられてもよい。
【0020】
この発明の方法は、アルミニウム、鋼、銅、青銅、インコネル、鉛、マグネシウム、チタン、およびそれらの合金を含むがこれらに限定されないさまざまな材料を有効に溶接するのに用いられ得る。
【0021】
当然、上述のものがこの発明の具体的な実施例に関連し、その変形が、この発明の精神および範囲から逸脱することなく添付の特許請求の範囲において記載されるとおりになされ得ることが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の実施例に従って溶接された2つのワークピースを示す断面図である。
【図2】この発明の代替的な実施例に従って溶接された2つのワークピースを示す上面図である。
【図3a】この発明の代替的な実施例に従って用いられる摩擦攪拌スポット溶接技術によって溶接された2つのワークピースを示す断面図である。
【図3b】この発明の代替的な実施例に従って用いられる摩擦攪拌スポット溶接技術によって溶接された2つのワークピースを示す断面図である。
【符号の説明】
【0023】
10 溶接接合された構造、12 接着剤、14 第1のワークピースの第1の表面、16 第1のワークピース、20 第2のワークピースの第1の表面、22 第2のワークピース、26 ジョイント、30 (工具用出口穴のない)摩擦攪拌スポット溶接部、32 (工具用出口穴のある)摩擦攪拌スポット溶接部、34 セグメント化された摩擦攪拌溶接部、36 連続的な摩擦攪拌溶接部、40 摩擦攪拌スポット溶接の工具用出口穴。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つのワークピースを溶接接合するための方法であって、
接着剤(12)を第1のワークピース(14)の第1の表面に塗布するステップと、
前記第1のワークピース(14)の前記第1の表面を第2のワークピース(20)の第1の表面に接触させるステップと、
前記第1のワークピース(16)を前記第2のワークピース(22)に摩擦攪拌溶接するステップとを含む、方法。
【請求項2】
前記第1のワークピース(16)および前記第2のワークピース(22)は、セグメント化された摩擦攪拌溶接によって溶接される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1のワークピース(16)および前記第2のワークピース(22)は、連続的な摩擦攪拌溶接によって溶接される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1のワークピース(16)および前記第2のワークピース(22)は、摩擦攪拌スポット溶接によって溶接される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記接着剤(12)は、ペースト状接着剤およびフィルム状接着剤からなる群から選択される、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記接着剤(12)はペースト状接着剤である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1のワークピース(16)および前記第2のワークピース(22)は、アルミニウム、鋼、銅、青銅、インコネル、マグネシウム、チタンまたはそれらの合金からなる群から選択される材料を含む、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記第1のワークピース(16)および前記第2のワークピース(22)は、アルミニウム合金を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
突合せ溶接部、重ね溶接部、スポット溶接部または輪郭溶接部が、前記第1のワークピース(16)と前記第2のワークピース(22)との間に形成される、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記接着剤(12)は、ブラシ、スパチュラ、ローラまたは噴霧によって塗布される、請求項1から4のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【公開番号】特開2007−30043(P2007−30043A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−198372(P2006−198372)
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(500520743)ザ・ボーイング・カンパニー (773)
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
【Fターム(参考)】