説明

少なくとも2つの円筒状工作物を多数のウェハに同時に切断するための方法

【課題】マルチワイヤソーでの切断時に、分離プレートの挿入時やマウンティングプレートからの分離及び個別化時のウェハの損傷を回避する方法を提供する。
【解決手段】インゴットをギャング長さ(刃部の幅)LGを有するワイヤソーによって同時に多数のウェハに同時に切断する。工作物の長さをLi、工作物間を識別する分離プレート挿入スペースなどを考慮した工作物間の最小間隔をAminとすると、
[数1]


を満足し、かつ右辺ができるだけ大きくなるように同時に切断する工作物の組み合わせを選定する。次に工作物の間隔A(A≧Amin)が下式を満たすように決めてマウンティングプレート11に固定する。
[数2]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2つの円筒状工作物をマルチワイヤソーによって多数のウェハに同時に切断するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチワイヤソーは例えば、半導体材料、例えばシリコンの円筒状の単結晶又は多結晶工作物を一回の作業ステップにおいて多数のウェハに同時に切断するために使用される。円筒状の半導体材料、例えば単結晶ロッドから半導体ウェハを製造することは、切断方法に大きな要求を課す。切断方法の目的は概して、それぞれの切断された半導体ウェハが、できるだけ平坦でかつ互いに平行に位置する2つの面を有するべきであるということである。マルチワイヤソーのスループットは方法の経済的な可能性のためにも極めて重要である。
【0003】
スループットを増大するために、複数の工作物がマルチワイヤソーに同時に締め付けられ、一回の作業ステップにおいて切断されることが提案されてきた。米国特許第6119673号明細書は、相前後して同軸に配置された複数の円筒状工作物を同時に切断することが記載されている。このために慣用のマルチワイヤソーが使用され、切断バーにおいてそれぞれが接着された複数の工作物が所定の間隔を置いて共通のマウンティングプレートに同軸状に固定され、このマウンティングプレート共にマルワイヤソーに締め付けられ、同時に切断される。これは、工作物の数に対応する、マウンティングプレートに依然として固定された多数のウェハのスタックを生ぜしめる。切断の後、様々なスタックのウェハが混在されないように、ウェハのスタックの間の空間に分離プレートが緩く配置される。これは、様々な工作物から製造されたウェハは概して異なる形式でさらに処理されかつ/又は工作物はウェハが提供される顧客によって指定された異なる特性を有するので、極めて重要である。したがって、特定の顧客又は特定の注文のための工作物から製造された全てのウェハは、一緒にさらに処理されるが、他の工作物から製造されたウェハとは別個に処理されることを保証する必要がある。
【0004】
様々なウェハスタックが分離プレートによって分離された後、マウンティングプレートは湯の容器に浸漬され、切断バーを介してマウンティングプレートに結合されたウェハはマウンティングプレートの下方に垂れ下がる。湯はウェハと切断バーとの間のセメント結合を融解し、分離されたウェハは容器の底部に配置されたウェハキャリヤに落下する。引き続きウェハキャリヤに収容された様々なウェハスタックは、前もって導入された分離プレートによって互いから分離されている。
【0005】
ウェハの様々なスタックを分離するための米国特許第6119673号明細書に開示された方法の欠点は、ウェハスタックが横方向に傾斜しないように固定されておらず(米国特許6119673号明細書の図8(C)に示されているように)、切断の後の極めて鋭いエッジが結果的に破損するということである。さらに、この出願に記載された方法による分離ディスクの配置は極めて困難である。なぜならば、分離ディスクは不安定な分離されたウェハスタックの間に挿入され、ウェハスタックが上方からウェハキャリヤへ下降させられながらその位置に保持されなければならないからである。分離ディスクがこのプロセスの間にウェハスタックと接触すると、ウェハは切断バーから壊れて離れ、比較的高いところからウェハキャリヤへ落下し、ひいては損傷を受けたり破壊されたりする。
【0006】
米国特許第6802928号明細書には、同じ断面を備えるダミー片が、切断される工作物の端面に接着され、工作物と一緒に切断され、廃棄される方法が記載されている。これは、形成されるウェハが、切断の最終段階の間に工作物の2つの端部において拡開するのを阻止し、ひいてはウェハジオメトリを改善するためである。この方法の決定的な欠点は、マルチワイヤソーの寸法によって制限されるギャング長さの一部が、「使用されない」ダミー片を切断するために使用され、ひいては所望のウェハの実際の製造のために利用可能ではないということである。さらに、ダミー片の提供、取扱い及び接着は極めて面倒である。両方とも、方法の経済的な能力の著しい低減につながる。
【0007】
マルチワイヤソーにおいて複数の工作物を同時に切断するための米国特許第6119673号明細書に記載された方法においても、マルチワイヤソーのギャング長さはしばしば最適に利用されることができない。なぜならば、切断される工作物は、これらの工作物が製造される形式に応じて極めて異なる長さを有するからである。この問題は特に、工作物が単結晶半導体材料から成る場合に生じる。なぜならば、公知の結晶引上げ法は、結晶のある使用可能な長さのみを可能にするか又は、結晶引上げ法を制御するために結晶を切断しかつ結晶の様々な位置において試験標本を製造する必要があるからである。さらに、(ほとんどの部分のために、ウェハが製造される結晶によって既に規定されている)種々異なる特性を備えた様々なタイプの半導体ウェハは通常複数の顧客のために同じプラントにおいて製造され、この場合、様々な異なる配達締切日に従う必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6119673号明細書
【特許文献2】米国特許第6802928号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、マルチワイヤソーの利用可能なギャング長さの利用を改善することである。分離プレートの挿入時のウェハの損傷又はマウンティングプレートからの分離及び個別化時のウェハエッジの損傷を回避することも目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下のステップ:
a)不等式
【0011】
【数1】

【0012】
が満たされかつ同時に不等式の右側ができるだけ大きくなるように、互いに異なる長さを備える工作物のストックからn≧2の数の工作物を選択し、この場合、i=1...nを備えるLiが、選択された工作物の長さを表し、Aminが、所定の最小間隔を表しており、
b)関係
【0013】
【数2】

【0014】
が満たされるように選択された、工作物の間の間隔A≧Aminを個々に維持しながら、n個の工作物を長手方向で連続的にマウンティングプレートに固定し、
c)工作物が固定されたマウンティングプレートをマルチワイヤソーに締め付け、
d)n個の工作物を、該工作物の長手方向軸線に対して垂直に、マルチワイヤソーによってせん断する
を含む、少なくとも2つの円筒状工作物を、ギャング長さLGを有するマルチワイヤソーによって多数のウェハに同時に切断する第1の方法に関する。
【0015】
本発明は、以下のステップ:
a)互いに異なる長さを備える工作物のストックからn≧2の数の工作物を選択し、
b)工作物の間の間隔を個々に維持しながら、n個の工作物を長手方向で連続的にマウンティングプレート11に固定し、
c)工作物が固定されたマウンティングプレート11をマルチワイヤソーに締め付け、
d)マウンティングプレート11に固定されたウェハ12のn個のスタック121,122,123を形成するために、n個の工作物を、該工作物の長手方向軸線に対して垂直に、マルチワイヤソーによって切断し、
e)マウンティングプレート11に固定されたウェハ12をウェハキャリヤ13に挿入し、該ウェハキャリヤが、マウンティングプレート11から離れて位置するウェハ円周の少なくとも2つの個所においてそれぞれのウェハを支持し、
f)少なくとも1つの分離片15を、ウェハ12の2つの隣接するスタック121,122,123の間の空間のそれぞれに導入し、分離片15をウェハキャリヤ13に固定し、
g)ウェハ12とマウンティングプレート11との間の結合を解放し、
i)それぞれの個々のウェハ12をウェハキャリヤ13から連続的に取り外す
を含む、少なくとも2つの円筒状工作物をマルチワイヤソーによって多数のウェハに同時に切断する第2の方法にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】異なる長さの工作物から製造されたウェハのための幾何学的パラメータ「ワープ」の統計的評価を示す図である。
【図2】本発明による第2の方法のステップe)において上方からウェハキャリヤに挿入される、ウェハの複数のスタックを備えたマウンティングプレートを示している(ウェハに関して側面図で)。
【図3】ウェハキャリヤに挿入された、複数のウェハスタックを備えたマウンティングプレートと、本発明による第2の方法のステップf)における分離片の提供とを示している。
【図4】本発明による第2の方法のステップg)においてウェハとマウンティングプレートとの間の結合を解放するために、液体で満たされた容器に浸漬された、図3の配列を示している。
【図5】ウェハキャリヤによって支持されたウェハスタックからのマウンティングプレートの取外しを示している。
【図6】分離プレートの導入を示している。
【図7】本発明による第2の方法のステップi)におけるウェハキャリヤからのウェハの個々の取外しを示している。
【図8】ウェハキャリヤからの分離プレートの取外しを示している。
【図9】ウェハキャリヤからの分離プレートの取外しを示している。
【図10】分離片が固定された空のウェハキャリヤを示している。
【図11】図7に対応するがウェハに関する正面図における、ウェハキャリヤからの分離プレートの取外しを示している。
【図12】ウェハキャリヤの2つのロッドを備えた、本発明による分離片の実施形態を示しており、ロッドに分離片が取り付けられる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明による第1の方法の好適な実施形態の説明
この方法では、工作物は、マルチワイヤソーのギャング長さLGが最適に利用されるように、異なる長さを備えた工作物のストックから選択される。したがって、マルチワイヤソーの能力がより開発され、生産性が著しく増大される。
【0018】
慣用のマルチワイヤソーが本発明による方法において使用される。これらのマルチワイヤソーの基本的な構成部材は、マシンフレームと、前送り装置と、平行ワイヤ区分を含むギャングから成る切断ツールとを含む。工作物は概してマウンティングプレートに固定され、マウンティングプレートと共にマルチワイヤソーに締め付けられる。
【0019】
一般的に、マルチワイヤソーのワイヤギャングは、少なくとも2つ(及び選択的に3つ、4つ又はそれ以上)のワイヤガイドロールの間に締め付けられた多数の平行なワイヤ区分によって形成されており、ワイヤガイドロールは、回転することができかつ少なくとも1つのワイヤガイドロールが駆動されるように取り付けられている。ワイヤ区分は概して、ロールシステムの周囲にらせん状に案内されておりかつストックロールからレシーバロール上に繰り出される1つの有限ワイヤに属している。ギャング長さという用語は、ワイヤガイドロールの軸線に対して平行でかつワイヤ区分に対して垂直な方向で、最初のワイヤ区分から最後のワイヤ区分までを測定したワイヤギャングの長さをいう。
【0020】
切断プロセスの間、前送り装置はワイヤ区分と工作物との互いに反対向きの相対移動を生ぜしめる。この前送り移動の結果、切断懸濁液が提供されるワイヤは、工作物を介して平行な切断溝を形成するように働く。「スラリ」とも呼ばれる切断懸濁液は、液体中に懸濁された例えば炭化ケイ素の硬質材料粒子を含む。しっかりと結合された硬質材料粒子を備えた切断ワイヤも使用されることができる。この場合、切断懸濁液は提供される必要はない。ワイヤ及び工作物を過熱から保護しかつ同時に工作物切りくずを切断溝から除去する液体冷却潤滑剤を付加することだけが必要である。
【0021】
円筒状の工作物は、マルチワイヤソーによって処理されることができるあらゆる材料、例えばシリコン等の多結晶又は単結晶半導体材料から成る。単結晶シリコンの場合には、工作物は概して、実質的に円筒状の1つのシリコン結晶を、数センチメートルから数十センチメートルの長さを備える結晶片に切断することによって製造される。結晶片の最小長さは概して5cmである。工作物、例えばシリコンから成る結晶片は概して極めて異なる長さを有するが同じ断面を有する。「円筒状」という用語は、工作物が円形の断面を有さなければならないことを意味すると解釈されるべきではない。むしろ、工作物は、あらゆる一般化された柱体を有することができるが、円形断面を備える工作物への発明の適用が好適である。一般化された柱体は、閉鎖した準線曲線を備えた柱面と、2つの平行な平面、すなわち柱体の底面とによって区切られたボディである。
【0022】
ステップa)
本発明による第1の方法のステップa)において、工作物の数n≧2が、好適には同じ断面を備える工作物の利用可能なストックから選択される。工作物のストックは、異なる長さの多数の工作物を含むが、これは、同じ長さの複数の工作物の存在を排除しない。工作物は、不等式(1)を満たすように選択される。これは、選択された工作物iの長さLiと、マウンティングプレートに工作物を固定する場合に維持される、工作物の各対の間の確立された最小間隔Aminとの合計が、ギャング長さLGを越えないことを意味する。最小間隔は自由に規定可能であり、ゼロであってもよい。より大きな最小間隔は自動的にマルチワイヤソーのギャング長さの劣悪な利用につながるので、最小間隔はゼロに近いのが好ましい。この条件を考慮して、工作物は、不等式(1)の右側ができるだけ大きくなり、工作物を切断する場合にギャング長さができるだけ利用されるようにストックから選択される。
【0023】
工作物は好適には不等式
【0024】
【数3】

【0025】
を満たすように選択され、この場合、Lminは、ギャング長さLGよりも小さな所定の最小長さを表している。この実施形態によれば、長さは工作物を選択する場合にこの最小長さよりも小さいべきではない。最小長さLminは好適には、Lmin≧0.7・LG、好適にはLmin≧0.75・LG、特に好適にはLmin≧0.8・LG、Lmin≧0.85・LG、Lmin≧0.9・LG、又はLmin≧0.95・LGであるようにギャング長さLGに対して確立される。
【0026】
工作物の極めて大きなストックが通常利用可能であるので、工作物の選択を、ストックにおける全ての工作物の長さへのアクセスを有するコンピュータによって行うことが好都合でありひいては好適である。例えば、コンピュータは、EDPサポートされたストックマネジメントシステムに接続されており、このシステムに、全てのストックインプット及びアウトプットプロセスが工作物の特性(長さ及びタイプ)と共に記録されており、したがって、いかなる時にも現在のストック状況を知っている。工作物の選択のための全てのルールが実行されるプログラムがコンピュータにおいて動作する。
【0027】
ステップb)
ステップb)において、n個の選択された工作物は、不等式(2)が満たされるように選択された、工作物の間の間隔A≧Aminをそれぞれ維持しながらマウンティングプレートに長手方向に関して連続的に固定される。つまり、間隔Aは、一方では少なくとも2つの工作物の間の所定の最小間隔Aminに対応するが、他方では工作物の長さLiと、工作物の間の間隔Aとの合計がギャング長さLGを越えないような大きさになるように選択されるべきである。「長手方向に関して連続的に」という表現は必ずしも工作物の同軸の配列を意味しないが、これが好適である。それにもかかわらず、工作物は、工作物の長手方向軸線が同じ直線上に位置しないように配置されることができる。「連続的に」とは単に、2つの隣接する円筒状の工作物の側面ではなく底面が互いに対面するということを表している。
【0028】
工作物は好適にはマウンティングプレートに直接に固定されるのではなく、その代わりにまずいわゆる切断バー又は切断ベースに固定される。工作物は、概して接着によって切断バーに固定される。好適には、各工作物は、各々の切断バーに個々に接着される。工作物が固定された切断バーは引き続き例えば接着又はねじ留めによってマウンティングプレートに固定される。
【0029】
ステップc),d)
引き続き、工作物が固定されたマウンティングプレートはステップc)においてマルチワイヤソーに締め付けられ、ステップd)において工作物は同時にかつそれらの長手方向軸線に対して実質的に垂直にウェハに切断される。マルチワイヤソーのギャング長さはこの場合、ステップa)において行われた工作物の選択に従って最適に利用され、このことはスループット、ひいては経済的能力を増大させる。
【0030】
本発明による第1の方法の好適な実施形態において、ステップa)において工作物を選択する場合、様々な顧客によって設定された配達締切が考慮される。より早期の締切が設定されているウェハの製造のために使用されることができる工作物が好適にはステップa)において選択される。
【0031】
配達締切までの時間が所定の最小時間よりも短い場合には、ステップa)における不等式(1)はもはや絶対的に満たされる必要はない。この場合、配達締切に従うことは、ギャング長さの最適な利用よりも優先される。
【0032】
別の好適な選択肢は、最も早期の配達締切を備えるまだ処理されていないオーダーを完了するために要求される工作物を常に最初に選択することにある。ギャング長さが最良の形式で使用されるように別の工作物が引き続き選択される。
【0033】
上述のように、工作物のストックは、結晶をその長手方向軸線に対して垂直に、長さLiを備えた少なくとも2つの工作物に切断することによって製造され、これらの工作物はストックに加えられる。工作物の長さは、ステップd)において使用されるマルチワイヤソーのギャング長さLGを越えるべきではない。本発明による第1の方法の別の好適な実施形態において、ウェハのワープに関する個々のオーダにおいて確立された仕様は、円筒状結晶のストックから工作物のストックを製造する場合に既に考慮されている。パラメータ「ワープ」は、SEMI規格M1−1105に規定されている。概して、越えられるべきではないウェハのワープのための最大値は、顧客からのそれぞれのオーダに対して特定される。この最大値は、顧客ごとに異なり、オーダごとに異なる。したがって、常に、満たすことが容易なワープ仕様を有するオーダと、要求の厳しいワープ仕様を有するオーダとがある。特に、好適な実施形態にしたがって、仕様に従いながら後者のオーダを満たすために、ワープのための低い最大値を有するオーダに割り当てられる結晶は、できるだけ長い工作物に切断される。ステップd)において使用されるマルチワイヤソーのギャング長さLGに対する工作物の長さLiは、好適にはこの場合にLG/2<Li≦LGの関係を満たす。
【0034】
300mmの直径を有するシリコンウェハに関しては、図1は、ワープの平均値及び分布は、切断された結晶片の長さに依存する形式を表している。図1の左側部分は、13297枚のウェハのバッチ1の統計的評価を表しており、これらのウェハは、250mm以下の長さの結晶片から製造された。平均ワープは25.5μmであり、標準偏差は7.2μmである。図の右側部分は、33128枚のウェハのバッチ2のための統計を表しており、これらのウェハは345mm以上の長さの結晶片から製造された。この場合、ワープの平均値は23.3μmでしかなく、標準偏差は7.3μmである。より長い工作物から製造されたウェハは平均してより小さなワープによって区別され、ダミー片は、工作物の端面に接着される必要はない。この理由から、特に、要求の厳しいワープ仕様を有するオーダの場合、結晶を切断することによって工作物を製造する場合に工作物の最大長さを保証することが好都合である。
【0035】
このルールが全てのオーダに適用されるとすると、その効果は、大きな長さを備えたあまりに多くの工作物がストックに加えられることになり、ステップa)における選択のために、ステップb)において長い工作物と共に共通のマウンティングプレートに固定されかつステップd)において一回の作業ステップでウェハに切断されることができる利用できる工作物が少なすぎる。このような手段は平均して達成されるワープを改善するが、それと同時にマルチワイヤソーの能力はもはや最適に利用されない。したがって、この実施形態によれば、(比較的達成するのが容易な)ワープのための高い最大値を備えるオーダに割り当てられる結晶は、比較的短い工作物に切断される。ステップd)において使用されるマルチワイヤソーのギャング長さLGに対するこれらの工作物の長さLは好適にはLi<LG/2の関係を満たす。極めて要求が厳しいわけではないワープ仕様を有する前記オーダのために、できるだけ長い工作物を製造することは必要ない。それと同時に、この手段は、ステップa)において要求の厳しいワープ仕様を有するオーダのための長い工作物と組み合わされることができかつ、マルチワイヤソーのギャング長さを最適に利用するために別のステップにおいてその工作物と一緒に処理されることができる、十分な数の短い片が常に利用可能であることを保証する。
【0036】
つまり、この実施形態は、要求の厳しいワープ仕様を有するオーダのために、比較的低いレベルにおける幾何学的パラメータ「ワープ」の狭い分布を有する多数のウェハを製造することを可能にする。それと同時に、ワープの改善は、マルチワイヤソーのギャング長さを最適に利用するためにその他のオーダのためには故意に排除される。
【0037】
本発明による第2の方法の好適な実施形態の説明
本発明による第2の方法を、以下に図2から図12までを参照に以下に詳細に説明する。図面は単に方法の好適な実施形態を表している。
【0038】
米国特許6119673号明細書に記載された方法とは対照的に、本発明は、ウェハキャリヤ13にしっかりと固定可能な分離片15によって混在しないように保護し、これらの分離片は、ステップf)において、好適には横方向にウェハスタック121,122,123の間に挿入され、次いでウェハキャリヤ13に固定される。このようにして安定化されたウェハスタック121,122,123は選択的にクリーニングされる。ウェハ12とマウンティングプレート11との間の結合は引き続き解放され、分離片15はウェハスタック121,122,123を横方向傾斜しないように支持する。
【0039】
この方法は、異なる工作物から製造された、異なるオーダのためのウェハ12の混合又は混在を回避する。さらに、ウェハ12のスタック121,122,123は、ステップg)及びi)において、横方向傾斜、ひいては敏感なウェハエッジへの損傷に対して確実に保護されている。
【0040】
ステップa)〜d)
ステップa)において、少なくとも2つの工作物が工作物のストックから選択される。選択は、本発明による第1の方法のステップa)について説明したように行われる。この場合、ステップa)における間隔Aminは、少なくとも分離片15の厚さに、選択的に分離プレート17の厚さ(このような分離プレートが使用されているならば)を加えたものに相当し、分離片及び分離プレートが間隔に導入されることができるように選択されている。ステップb)〜d)も好適には、本発明による第1の方法のように行われる。
【0041】
ステップe)
ステップe)において、マウンティングプレート11に固定されたウェハ12はウェハキャリヤ13内に配置され、ウェハキャリヤ13は、マウンティングプレートから離れて位置したウェハ円周の少なくとも2つの個所においてそれぞれのウェハを支持する(図2)。ウェハキャリヤ13は例えば複数の円筒状ロッド131の配列として設計されており(4つのロッドの配列が図2に表されているが、そのうちの2つだけが示されている)、これらのロッドがウェハ12をその円周において下方から支持する。ロッド131は端部において2つのプレート状の端部片132によって一緒に保持されている。ウェハキャリヤ13は、例えば、マウンティングプレート11が端部片132の上端部に配置されることができるように設計されている。ロッド131は好適には、特定の間隔を置いて側面の周囲に延びた、独国特許出願公開第10210021号明細書によるV字形溝を有している。図3は、スタック121,122及び123において存在する切断されたウェハ12を備えたマウンティングプレート11を挿入した後の状態を示している。図示された実施形態において、ウェハ12はマウンティングプレート11に直接に結合されているのではなく、ウェハスタック121,122,123に対応する切断バー141,142,143に結合されている。
【0042】
ステップf)
ステップf)(図3)において、分離片15が、2つのスタック121,122,123それぞれの間の空間のそれぞれに導入される。分離片(図12)は、ウェハスタック121,122,123が横方向で支持されるようにウェハキャリヤ13に固定されることができるように設計されている。例えば、分離片15は、図示されたようなウェハキャリヤ13を使用する場合、分離片が一方の端部において少なくとも1つの結合装置151によってウェハキャリヤ13のロッド13に結合されることができるように設計されている。結合装置151は、例えば、図示したように、ロッド13に嵌合されることができる、はさみ状の弾性的なクリップ状結合装置として構成されていることができる。しかしながら、全く異なる結合装置、例えばねじ留め可能なクランプによる固定も考えられる。いずれの場合にも、分離片15の形状はウェハキャリヤ13の形状に適応させられるべきであり、分離片の形状はいかなる特定の制限をも受けない。好適には、しかしながら、分離片15は、ウェハスタック121,122,123を横方向で有効に支持することができるように、垂直方向に比較的大きな範囲を有する(「垂直」とは、分離片15がウェハキャリヤ13に結合されている状態をいう)。分離片は、好適には、幾何学的に安定で、生じる温度(例えばステップg)において)と、分離片と接触する化学物質(例えばステップg)において)とに耐えることができる材料から形成されている。
【0043】
ステップg)
ステップg)において、ウェハ12とマウンティングプレート11との間の結合が解放される。図示された好適な実施形態において、切断バー141,142,143を介してマウンティングプレート11に固定されたウェハ12を備えたウェハキャリヤ13は、図4に示されたように、液体で満たされた容器16に収容される。液体が、ウェハ12と切断バー141,142,143との間の接着剤を溶解する。水溶性接着剤の場合、液体は水、好適には湯である。切断バー141,142,143を備えたマウンティングプレート11は引き続き除去され(図5)、ウェハキャリヤ13は容器16から取り出される。スタック121,122,123として存在するウェハ12はここでは、ロッド131によって下方から支持されており、横方向で分離片15によって固定されている。これは、ウェハ12の横方向傾斜と、ウェハエッジの破損とを防止する。それと同時に、分離片15は異なる工作物から形成されたウェハスタック121,122,123の間の境界を分離する。したがって、異なる工作物から形成されたウェハの混合又は混在が、方法のその後の経過において回避される。
【0044】
選択的なステップh)
ステップg)とi)との間に、付加的なステップh)が好適には行われ、このステップh)において、固定された分離片15に加えて、少なくとも1つの分離片17がウェハ12の2つの隣接するスタック121,122,123の間のそれぞれの空間に導入される(図6)。分離片17はウェハ12とは異なる。分離片は、ウェハキャリヤ13のロッド131上に自由に起立し、ロッドに固定されない。分離プレート17は好適には、センサ183によってウェハ12から自動的に識別されることができるように構成されている(図11)。円形の部分171の他に、図6に示されたような分離プレート17の実施形態は、円形の面から突出していてかつセンサ183によって認識されることができる部分172を有している。それにもかかわらず、分離プレートをその材料特性によって認識することも考えられる。
【0045】
分離プレート17は好適には、幾何学的に安定していてかつ生じる温度及び分離プレートと接触する化学物質に耐えることができる材料から形成されている。
【0046】
ステップi)
ステップi)においては、ウェハは、例えば真空吸着装置181によってウェハキャリヤ13から個々に取り出される。取出しのために要求される、ウェハ12への横方向アクセスを得るために、ウェハキャリヤ13の端部片132の少なくとも1つは、適切な開口(例えば垂直なスロット)を有しており、この開口を通って真空吸着装置が横方向にウェハ12へ移動させられることができる。択一的に、端部片132の少なくとも1つが2つの部分に設計されており、この場合、上側部分が取り外されることができる。このことは、図6、図7及び図10に示されている。ウェハ12の個々の取出し(図7)は、図7に示されているように、手作業で又は好適にはロボット182によって行われる。ウェハキャリヤ13から取り出された後、ウェハ12は、別の処理、例えばクリーニングに直接に送られるか、又はまずはカセットに挿入される。ウェハの取出しの時、ウェハスタック121,122,123の間の境界は、分離片15を用いて(又は、選択的なステップh)において取り付けられた分離片17を用いて)容易に認識されることができ、異なる工作物から形成されたウェハ12の別個のさらなる処理又は貯蔵によって保存されることができる。
【0047】
ロボット182(図7、図8、図9、図11)による自動的な個々の取外しの場合、図示された分離プレート17は、円形の面171から突出した部分172を用いてセンサ183によって容易に認識されることができる(図11)。分離プレート17は好適には同様に、真空吸着装置181によってロボット182によって取り外され、ウェハ12とは別個に貯蔵される。次のスタック122,123のウェハ12(図8、図9)は第1のスタック121のウェハと同様に取り外され、例えば個々に別のカセットに挿入される。図10は、ロッド131に固定された分離片15を備えた、完全に空になったウェハキャリヤ13を示している。
【符号の説明】
【0048】
11 マウンティングプレート、 12 ウェハ、 13 ウェハキャリヤ、 121,122,123 スタック、 131 ロッド、 132 端部片、 141,142,143 切断バー、 15 分離片、 151 結合装置、 16 容器、 17 分離プレート、 171 円形の部分、 172 突出した部分、 181 真空吸着装置、 182 ロボット、 183 センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの円筒状工作物を、ギャング長さLGを有するマルチワイヤソーによって多数のウェハに同時に切断する方法において、以下のステップ:
a)不等式
【数1】

が満たされかつ同時に不等式の右側ができるだけ大きくなるように、互いに異なる長さを備える工作物のストックからn≧2の数の工作物を選択し、この場合、i=1...nを備えるLiが、選択された工作物の長さを表し、Aminが、所定の最小間隔を表しており、
b)関係
【数2】

が満たされるように選択された、工作物の間の間隔A≧Aminを個々に維持しながら、n個の工作物を長手方向で連続的にマウンティングプレートに固定し、
c)工作物が固定されたマウンティングプレートをマルチワイヤソーに締め付け、
d)n個の工作物を、該工作物の長手方向軸線に対して垂直に、マルチワイヤソーによって切断する
を含むことを特徴とする、少なくとも2つの円筒状工作物を、ギャング長さLGを有するマルチワイヤソーによって多数のウェハに同時に切断する方法。
【請求項2】
前記ステップa)が、不等式
【数3】

が満たされるように行われ、この場合、Lminは、ギャング長さLGよりも小さな所定の最小長さを表している、請求項1記載の方法。
【請求項3】
min≧0.7・LGである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
より早期の配達締切が設定されているウェハの製造のために使用されることができる工作物が、好適にはステップa)において選択される、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記配達締切までの時間が所定の最小時間よりも小さい場合には、ステップa)における不等式(1)はもはや絶対的に満たされる必要はない、請求項4記載の方法。
【請求項6】
最も早期の配達締切を有するまだ処理されていないオーダを完了するために要求される工作物が、それぞれの場合に第1の工作物として選択され、不等式(1)の右側ができるだけ大きくなるように別の工作物が引き続き選択される、請求項4記載の方法。
【請求項7】
ステップa)における工作物の選択が、ストックにおける全ての工作物の長さへのアクセスを有するコンピュータによって行われる、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
工作物のストックが、円筒状の結晶のストックから、それぞれの結晶を、該結晶の長手方向軸線に対して垂直に、ステップd)において使用されるマルチワイヤソーのギャング長さLGよりも小さい長さLiを備える少なくとも2つの工作物に切断することによって製造され、それぞれの結晶が1つ又は2つ以上のオーダに割り当てられており、それぞれのオーダのためのウェハのワープに対して、越えられてはならない最大値が規定されており、
ケース1)において、ワープのための低い最大値を備えるオーダに割り当てられた結晶が、できるだけ長い工作物に切断され、
ケース2)において、ワープのための高い最大値を備えるオーダに割り当てられた結晶が、比較的短い工作物に切断される、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記ケース1)における工作物の長さLiに、LG/2<Li≦LGの関係が当てはまる、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記ケース2)における工作物の長さLiに、Li<LG/2の関係が当てはまる、請求項8又は9記載の方法。
【請求項11】
少なくとも2つの円筒状工作物をマルチワイヤソーによって多数のウェハに同時に切断する方法において、以下のステップ:
a)互いに異なる長さを備える工作物のストックからn≧2の数の工作物を選択し、
b)工作物の間の間隔を個々に維持しながら、n個の工作物を長手方向で連続的にマウンティングプレート(11)に固定し、
c)工作物が固定されたマウンティングプレート(11)をマルチワイヤソーに締め付け、
d)マウンティングプレート(11)に固定されたウェハ(12)のn個のスタック(121,122,123)を形成するために、n個の工作物を、該工作物の長手方向軸線に対して垂直に、マルチワイヤソーによって切断し、
e)マウンティングプレート(11)に固定されたウェハ(12)をウェハキャリヤ(13)に挿入し、該ウェハキャリヤが、マウンティングプレート(11)から離れて位置するウェハ円周の少なくとも2つの個所においてそれぞれのウェハを支持し、
f)少なくとも1つの分離片(15)を、ウェハ(12)の2つの隣接するスタック(121,122,123)の間の空間のそれぞれに導入し、分離片(15)をウェハキャリヤ(13)に固定し、
g)ウェハ(12)とマウンティングプレート(11)との間の結合を解放し、
i)それぞれの個々のウェハ(12)をウェハキャリヤ(13)から連続的に取り外す
を含むことを特徴とする、少なくとも2つの円筒状工作物をマルチワイヤソーによって多数のウェハに同時に切断する方法。
【請求項12】
ウェハ(12)のスタック(121,122,123)の間の境界がステップi)において分離片(15)の位置を用いて認識され、スタック(121,122,123)のウェハ(12)が、他のスタック(121,122,123)のウェハ(12)とは別個にさらに処理される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
ステップg)とi)との間に付加的なステップh)が行われ、該ステップh)において、少なくとも1つの分離プレート(17)が、ウェハ(12)の2つの隣接するスタック(121,122,123)の間の空間のそれぞれに、該空間に固定された分離片(15)に加えて、導入され、前記分離プレートがウェハ(12)とは異なるかつウェハキャリヤ(13)に固定されない、請求項11記載の方法。
【請求項14】
ウェハ(12)のスタック(121,122,123)の間の境界が、ステップi)において分離プレート(17)の位置を用いて認識され、スタック(121,122,123)のウェハ(12)が、他のスタック(121,122,123)のウェハ(12)とは別個にさらに処理される、請求項13記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2012−109622(P2012−109622A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−48088(P2012−48088)
【出願日】平成24年3月5日(2012.3.5)
【分割の表示】特願2007−277509(P2007−277509)の分割
【原出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(599119503)ジルトロニック アクチエンゲゼルシャフト (223)
【氏名又は名称原語表記】Siltronic AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】