説明

工具折損検出機能を有する工作機械を制御する数値制御装置

【課題】ワークの形状に合わせて工具が折損した場合に即座に折損が判断できる機械を制御する数値制御装置を提供すること。
【解決手段】少なくとも素材形状情報および切り込み量を指定した加工プログラムに基づいて工具パスを生成し主軸および可動軸を有する工作機械を制御する数値制御装置10において、サーボモータ19またはスピンドルモータ22の負荷を検出する電流検出器24,26と、サーボモータ19の位置を検出する位置・速度検出器25と、電流検出器24,26により検出された負荷電流値が無負荷状態であるか否か判断し、負荷電流値が無負荷状態と判断されたとき、実行中の工具パス指令を読み込み、前記素材形状情報、前記工具パス指令、およびサーボモータ19の位置情報に基づき、工具位置が素材形状の内側か外側かを求め、内側であると判別された場合に工具折損と判断する工具折損検出機能を有する工作機械の数値制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具折損検出機能を有する工作機械を制御する数値制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドリル、エンドミルなどの工具は切削作業中に折損するおそれがある。工具折損を検出する従来技術としては以下の文献に開示される技術がある。
特許文献1には、タップ加工サイクルにおける工具折損検出を行っているものがあるが、スピンドルの回転方向が変化した後の無負荷状態を捉えた場合を工具折損と判断する技術が開示されている。
【0003】
特許文献2には、スピンドルの負荷電流値を検出して基準電流値と比較し、基準電流値よりも小さいと判別された加工単位の回数が複数回連続した場合に工具が折損したと判別する技術が開示されている。
特許文献3には、設定された測定区間でZ軸モータの負荷を検出し、実加工値と無負荷時基準値との差から実負荷評価値を算出し、実負荷評価値と評価基準値とを比較し、工具の異常の有無を検出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平1−32023号公報
【特許文献2】特開平7−328896号公報
【特許文献3】特開平10−286743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ワークを加工する加工方法として、同種の加工サイクルを繰り返し実行する加工方法がある。図1は加工サイクルの1つである平面加工サイクルを説明する図である。工具はワークの外部領域にある切削開始点から切削動作を開始し、工具パスに従って加工送りがなされワークの外部領域にある切削終了点まで移動する。図1に示されるように、切削開始点とワークと工具経路の交点LC、ワークと工具経路の交点RCと切削終了点までの区間はエアカット領域と呼ばれる。エアカット領域では工具はワークを切削していないので無負荷状態にある。
【0006】
背景技術で説明した工具折損検出方法を、図1に示されるような加工サイクル中の工具折損検出に適用しようとした場合以下のような問題がある。
特許文献1に開示される技術では、スピンドルの回転方向が変化した後の無負荷状態を捉えるため、タップ加工サイクル以外には適用できない。
特許文献2に開示される技術では、負荷電流値が基準電流値より小さいと複数回連続して判断された場合に工具折損と判断しているため、実際に工具が折損し、制御装置が折損と判断するまでに時間がかかる。また、エアカット部を工具が折損したと誤検出してしまう可能性がある。
【0007】
特許文献3に開示される技術では、事前に負荷を測定する区間の設定が必要であり、手間がかかる。
そこで本発明は、上記従来技術の課題を解決し、ワークの加工領域内でワークを実際に加工しているときに工具が折損した場合に、即座に工具折損が判断できる工作機械を制御する数値制御装置、および工具折損を判断できるパーソナルコンピュータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、少なくとも素材形状データおよび加工条件を指定した加工プログラムに基づいて工具パス指令を生成し主軸および可動軸を有する工作機械を制御する数値制御装置において、前記主軸および前記可動軸の駆動装置の少なくとも一方の負荷電流値を検出する負荷検出手段と、前記可動軸の位置を検出する位置検出手段と、前記負荷検出手段により検出された負荷電流値が無負荷状態であるか否かを判断する無負荷状態判別手段と、前記無負荷状態判別手段により前記負荷電流値が無負荷状態と判断されたとき、前記素材形状データ、前記工具パス指令、および前記位置検出手段により検出された可動軸の位置データに基づき、工具位置が素材形状の内側か外側かを判別する内外判別手段と、前記内外判別手段により工具位置が素材形状の内側であると判別された場合に工具折損として処理する工具折損処理手段と、を備えたことを特徴とする工具折損検出機能を有する工作機械を制御する数値制御装置である。
【0009】
請求項2に係る発明は、素材形状データをコメント情報として含み工具パス指令を記述したISO形式の加工プログラムに基づいて主軸および可動軸を有する工作機械を制御する数値制御装置において、前記主軸および前記可動軸の駆動装置の少なくとも一方の負荷電流値を検出する負荷検出手段と、前記可動軸の位置を検出する位置検出手段と、前記負荷検出手段により検出された負荷電流値が無負荷状態であるか否かを判断する無負荷状態判別手段と、前記無負荷状態判別手段により前記負荷電流値が無負荷状態と判断されたとき、前記素材形状データ、前記工具パス指令、および前記位置検出手段により検出された可動軸の位置データに基づき、工具位置が素材形状の内側か外側かを判別する内外判別手段と、前記内外判別手段により工具位置が素材形状の内側であると判別された場合に工具折損として処理する工具折損処理手段と、を備えたことを特徴とする工具折損検出機能を有する工作機械を制御する数値制御装置である。
【0010】
請求項3に係る発明は、少なくとも素材形状データおよび加工条件を指定した加工プログラムに基づいて工具パス指令を生成し主軸および可動軸を有する工作機械を制御する数値制御装置、または素材形状データをコメント情報として含み工具パス指令を記述したISO形式の加工プログラムに基づいて主軸および可動軸を有する工作機械を制御する数値制御装置のいずれか1つに接続するパーソナルコンピュータにおいて、該パーソナルコンピュータは、前記数値制御装置から、前記素材形状データ、前記工具パス指令、前記主軸および前記可動軸の駆動装置の少なくとも一方の負荷電流値、および前記可動軸の位置データを受信する手段と、前記負荷電流値が無負荷状態であるか否かを判断する無負荷状態判別手段と、前記無負荷状態判別手段により前記負荷電流値が無負荷状態と判断されたとき、前記素材形状データ、前記工具パス指令、および前記位置データに基づき、工具位置が素材形状の内側か外側かを判別する内外判別手段と、前記内外判別手段により工具位置が素材形状の内側であると判別された場合に工具折損として処理する工具折損処理手段と、を備えたことを特徴とする工具折損検出機能を有するパーソナルコンピュータである。
【0011】
請求項4に係る発明は、前記内外判別手段により工具位置が素材形状の外側であると判別された場合にエアカットであるとして出力するエアカット状態出力手段を備えたことを特徴とする請求項1または2のいずれか1つに記載の工具折損検出機能を有する工作機械を制御する数値制御装置である。
請求項5に係る発明は、前記内外判別手段により工具位置が素材形状の外側であると判別された場合にエアカットであるとして出力するエアカット状態出力手段を備えたことを特徴とする請求項3に記載の工具折損検出機能を有するパーソナルコンピュータである。
請求項6に係る発明は、加工途中の素材形状データを作成する作成手段と、前記作成手段により作成された加工途中の素材形状データを格納する格納手段と、前記内外判別手段は、元の素材形状データに替えて前記格納手段に格納された加工途中の素材形状データを用いて、工具位置が素材形状の内側か外側かを判別することを特徴とする請求項1、2、または4のいずれか1つに記載の工具折損検出機能を有する工作機械を制御する数値制御装置である。
請求項7に係る発明は、加工途中の素材形状データを作成する作成手段と、前記作成手段により作成された加工途中の素材形状データを格納する格納手段と、前記内外判別手段は、元の素材形状データに替えて前記格納手段に格納された加工途中の素材形状データを用いて、工具位置が素材形状の内側か外側かを判別することを特徴とする請求項3または5のいずれか1つに記載の工具折損検出機能を有するパーソナルコンピュータである。
請求項8に係る発明は、前記素材形状および前記加工条件の指定は数値制御装置に備わった入力手段から対話型プログラムデータとして指定することを特徴とする請求項1、2、4、または6のうちの何れか1つに記載の工具折損検出機能を有する工作機械を制御する数値制御装置である。
請求項9に係る発明は、前記素材形状および前記加工条件の指定は数値制御装置に備わった入力手段またはパーソナルコンピュータに備わった入力手段から対話型プログラムデータとして指定することを特徴とする請求項3、5、または7の何れか1つに記載の工具折損検出機能を有するパーソナルコンピュータである。
請求項10に係る発明は、前記加工条件は、パラメータで指定することを特徴とする請求項1、2、4、6、または8のいずれか1つに記載の工具折損検出機能を有する工作機械を制御する数値制御装置である。
請求項11に係る発明は、前記加工条件は、パラメータで指定することを特徴とする請求項3、5、7、または9のいずれか1つに記載の工具折損検出機能を有するパーソナルコンピュータである。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、ワークの加工領域内でワークを実際に加工しているときに工具が折損した場合に、即座に工具折損が判断できる工作機械を制御する数値制御装置、および工具折損を判断できるパーソナルコンピュータを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】平面加工サイクルを説明する図である。
【図2】加工サイクルを説明する図である。
【図3】平面加工サイクルの加工プログラム例を説明する図である。
【図4】本発明を実施する数値制御装置の要部ブロック図である。
【図5】工具位置が素材形状の内側か外側のいずれにあるかを判定する方法の一例である。
【図6】本発明の工具折損検出方法のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【図7】本発明の工具折損検出方法のアルゴリズムを示すフローチャートで、切削中状態とエアカット状態とを区別するフローチャートである。
【図8】本発明の工具折損検出方法のアルゴリズムを示すフローチャートで、素材形状データを加工途中の素材形状データとして更新する実施形態のフローチャートである。
【図9】パーソナルコンピュータを用いて工具折損を検出する実施形態を説明する図である。
【図10】本発明のパーソナルコンピュータを用いて工具折損を検出する処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【図11】本発明のパーソナルコンピュータを用いて工具折損を検出する処理のアルゴリズムを示すフローチャートで、切削中状態とエアカット状態とを区別するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面とともに説明する。
まず、本発明の工具折損機検出機能を有する工作機械を制御する数値制御装置により実行される加工サイクルを説明する。
図2は、加工サイクルを説明する図である。図2に示されるような素材形状の上面を削り取る平面加工を例にとり、加工サイクルを説明する。通常は、平面加工を行うための工具の動き(工具パス)を、G2桁コード(G01〜G03、・・・)を用いて加工プログラムAに示されるように1つ1つNC指令としてプログラム(以下、「ISOプログラム」という。)し、そのプログラムを実行することにより平面加工を行う。
【0015】
これに対し、加工サイクルは、加工プログラムBに示されるように特殊なコード(例えば、G1020・・・)を使い、1つのサイクル動作としてプログラムし、そのプログラムを実行することにより平面加工を行う。G1020・・・の引数によりA切削方向、E送り速度等を指定し、G1200・・・の引数により素材形状データを指定することにより、数値制御装置の内部でそれら引数データを元に、サイクル動作に含まれる個々の工具パス指令をNC指令として計算し指令する。
【0016】
素材形状データおよび工具パス指令は、後述するように数値制御装置を構成する記憶装置に格納される。本発明ではこの素材形状データおよび工具パス指令を活用し、工具折損検出を行う。
【0017】
ここで、加工サイクルのプログラムとして、平面加工サイクルのプログラムの一例を説明する。(1)は加工種別ブロックであり平面加工(荒加工)を表す。(2)〜(7)は素材形状ブロックであり形状を指定している。
<加工プログラム例>
G1020T5.L5.F600.E300.I100.W1.C1.M2.A1.B4.Z2.; ・・・・(1)
G1200T1.H10.V100.B0.A1.; ・・・・(2)
G1201H100.V100.K1.C100.L0.M0.; ・・・・(3)
G1201H90.V0.K6.C90.D0.L0.M0.; ・・・・(4)
G1201H0.V0.K5.C0.L0.M0.; ・・・・(5)
G1201H10.V100.K2.C10.D100.L0.M0.; ・・・・(6)
G1206; ・・・・(7)
以下、(1)〜(7)の符号の概略を説明する。
上記(1)のそれぞれの符号を説明する。「1020」は荒切削のデータを入力することを意味する。「L」は工具径方向切り込み量で次回の切削パスとの工具径方向の切り込み量を意味する。「F」は工具径方向送り速度で工具径方向に切削する時の送り速度を意味する。「E」は工具軸方向送り速度で工具軸方向に切り込む時の送り速度を意味する。
【0018】
上記(2)のそれぞれの符号を説明する。「1200」は開始点のデータを入力することを意味する。「H」は開始点座標Xで任意形状の開始点のX軸座標値である。「V」は開始点座標Yで任意形状の開始点のY軸座標値である。
上記(3)〜(6)のそれぞれの符号を説明する。「1201」は直線のデータを入力することを意味する。「H」は終点座標(X軸)で直線終点のX軸座標値を意味する。「V」は終点座標(Y軸)で直線終点のY軸座標値を意味する。(7)の「G1206」は任意形状の入力終了を意味する。
【0019】
図3を上記加工プログラム例と対応して説明する。素材形状は上記加工プログラム例で指定された形状である。(2)で開始点P1、(3)で直線P1→P2、(4)で直線P2→P3、(5)で直線P3→P4、(6)で直線P4→P1が入力され、素材形状が設定される。
加工条件としては、切り込み量、クリアランス、工具直径、切削方法、切削方向、切り込み方向などを意味する。これらの加工条件はサイクル加工において通常設定されているものであり、本発明を実現するために新たな加工条件を設定するものではない。
なお、上述の加工プログラムにおいて、素材形状データや加工条件を加工プログラムに直接指定しているが、素材形状データや加工条件の指定を、数値制御装置の記憶装置に予め設定した加工条件データをパラメータとして設定するようにしてもよい。パラメータで設定することは従来から行われている設定方法である。あるいは、後述する入力機器15(図4参照)を用いて入力した対話型プログラムデータにより指定することによってもよい。
また上記加工プログラムでは素材形状データや加工条件を指定されていたが、図2のプログラムAに示されるように工具パスが既にプログラム中に指定されている加工プログラムに対しても本発明を適応できる。
ISOプログラムには素材形状のデータは通常必要ないが、素材形状をコメント文としてプログラム中に記載しておき、素材形状に関するコメント文を解釈することにより、加工条件データや加工条件を指定する加工プログラムと同様に本発明を適用できる。
【0020】
次に、本発明の工具折損機検出機能を有する工作機械を制御する数値制御装置について説明する。
図4は、本発明の数値制御装置の要部ブロック図である。CPU11は数値制御装置10を全体的に制御するプロセッサである。CPU11はバス23を介してROM,RAM,不揮発性メモリなどで構成されるメモリ12、PMC(プログラマブル・マシン・コントローラ)13、液晶表示器で構成される表示器14、キーボード等の各種指令やデータを入力するための入力機器15、外部記憶媒体やホストコンピュータ等に接続されるインタフェース16、工作機械の各軸制御回路17(図では3軸分を備えた例を示している)、スピンドル制御回路20に接続されている。CPU11は、メモリ12を構成するROM(図示省略)に格納されたシステムプログラムを、バス23を介して読み出し、該システムプログラムに従って数値制御装置全体を制御する。メモリ12を構成するROMには、本発明と関係して工具折損を検出する後述する処理プログラムが格納されている。
【0021】
PMC13は数値制御装置10に内蔵されたシーケンスプログラムで制御対象物の加工機の補助装置に信号を出力し、または該補助装置からの信号を入力し制御する。また、数値制御装置で制御される加工機の本体に配備された操作盤の各種スイッチ等の信号を受け、必要な信号処理をした後、CPU11に渡す。
【0022】
X軸、Y軸、およびZ軸の各軸(3軸)の軸制御回路17はCPU11から各軸に補間分配された移動指令量を受けて、各軸の指令をサーボアンプ18に出力する。サーボアンプ18はこの指令を受けて、工作機械の各軸のサーボモータ19を駆動する。各軸のサーボモータ19は位置・速度検出器25を内蔵し、この位置・速度検出器25からの位置・速度フィードバック信号を軸制御回路17にフィードバックし、位置・速度のフィードバック制御を行う。
【0023】
また、サーボアンプ18からサーボモータ19に出力される駆動電流も電流検出器24により検出され、軸制御回路17にフィードバックされ電流(トルク)制御がなされる。モータに流れる駆動電流とモータにかかる負荷トルクとは概略一致するので、この実施形態ではこのサーボモータ19に流れる駆動電流を検出する電流検出器24によって負荷検出手段を構成する。
【0024】
スピンドル制御回路20は主軸回転指令を受け、スピンドルアンプ21にスピンドル速度信号を出力する。スピンドルアンプ21はスピンドル速度信号を受けて、スピンドルモータ22を指令された回転速度で回転させる。又、ポジションコーダ27で主軸の回転速度を検出しスピンドル制御回路20にフィードバックし、速度制御を行う。
【0025】
さらに、スピンドルモータ22に流れる駆動電流を検出する電流検出器26からの電流フィードバック信号を受けて、電流ループ制御を行い、スピンドルモータ22の回転速度を制御する。このスピンドルモータ22に加わる負荷と駆動電流とはほぼ比例するから、この実施形態では、電流検出器26でスピンドルモータ22に加わる負荷を検出する負荷検出手段を構成する。
【0026】
この実施形態では、スピンドルモータ22に工具が取り付けられ、該工具の折損を検出するものとする。ワークは可動軸のX軸、Y軸のサーボモータ19で駆動されるテーブルに取り付けられる。また、X軸、Y軸と直交するZ軸方向に対して主軸を移動させるZ軸のサーボモータ19によって工具をワークに対して相対的に移動させることができる。
【0027】
そして、数値制御装置10は、加工サイクル指令による加工プログラムを解釈し実行する機能を備えている。この機能自体は周知の事項である。数値制御装置10のプロセッサ(CPU)11は、加工サイクル指令による加工プログラムを解析し、加工プログラムで指定されているサイクル加工用の素材形状データをメモリ12(RAM)に格納し、該素材形状情報をサイクル加工するための加工経路を計算し工具パス指令に変換し、該変換した工具パス指令をメモリ12を構成するRAMに格納する処理を行う。また、メモリ12を構成するRAMは、現在実行中の加工サイクルの工具パス指令がどの指令であるかの指標を記憶し、さらに、サーボモータ19からの位置のフィードバック信号に基づいて工具の現在位置を求める現在位置レジスタを備えている。
以上は加工サイクルによって工作機械を制御する数値制御装置の説明であって、従来技術と相違しない。
【0028】
次に、数値制御装置10において実行される工具折損検出機能を実現する工具折損の検出原理について図5を用いて説明する。図5は、工具位置が素材形状の内側か外側のいずれにあるかを判定する方法の一例である。
【0029】
数値制御装置10のメモリ12(RAM)には、サイクル加工プログラムを解析することによって、素材形状データおよび工具パス指令であるNC指令が格納される。メモリ12に格納されている形状データが図5に示される素材形状データであり、現在実行中の工具パス指令が図5に示されるものであるとする。工具パス指令と素材形状データとの重なる線分データ(以下「重畳線分データ」という)を求める。図5では、工具パス指令と線分P1,P4との交点LCと工具パス指令と線分P2,P3との交点RCまでの線分が、前記重畳線分データである。
【0030】
一方、工具位置データは工具パス始点から移動を開始し、工具パス終点まで移動する。そうすると、工具位置データは素材形状データと前記重畳線分データの区間で重なる。この重畳線分データの区間では工具はワークを加工中であることから、各軸のサーボモータや主軸のスピンドルモータは無負荷状態とはならない。しかし、工具折損が発生すると、無負荷状態となる。本発明は、各軸のサーボモータや主軸のスピンドルモータの負荷情報とワークの素材形状データと工具位置データを利用して工具折損を検出するものである。
【0031】
図6は、数値制御装置10のメモリ12を構成するROMに格納されている工具折損を検出するプログラムのアルゴリズムを示すフローチャートである。以下各ステップにしたがって説明する。
●[ステップSA1]プロセッサ(CPU11)は加工サイクルが開始されたか否か判断し、加工が開始されるとステップSA2へ移行する。
●[ステップSA2]駆動装置の負荷データを読み込む。具体的には、各可動軸のサーボモータ19、または主軸のスピンドルモータ22の負荷データを読み込む。サーボモータ19の負荷データは電流検出器24により検出される電流値、スピンドルモータ22の負荷データは電流検出器26により検出される電流値を用いる。
●[ステップSA3]ステップSA2で読み込まれた負荷データをあらかじめ設定された基準値と比較して無負荷状態であるか否か判断し、無負荷状態である場合にはステップSA4へ移行し、無負荷状態でない場合にはステップSA10へ移行する。
●[ステップSA4]素材形状データを読み込む。より具体的には、加工プログラムを解析しメモリ12を構成するRAMに格納されている素材形状データを読み込む。
●[ステップSA5]実行中の工具パス指令を読み込む。より具体的には、メモリ12を構成するRAMに各加工経路を示すNC指令として格納されている現在実行中の工具パス指令を読み出す。
【0032】
●[ステップSA6]実行中の工具パス指令と素材形状データとが重なる重畳線分データを求める。
●[ステップSA7]工具位置データを読み込む。より具体的には、工具の位置は各軸の位置を表す現在位置データであるので、メモリ12を構成するRAMの現在位置レジスタに格納されている現在位置データを読み込む。各サーボモータ19に取り付けられている位置・速度検出器25からの位置フィードバック信号によって各軸の位置を特定する現在位置データが得られる。
【0033】
●[ステップSA8]工具位置データはステップSA6で求めた重畳線分データ上にあるか否か判断し、線分上にあればステップSA9へ移行し、線分上になければステップSA10へ移行する。より具体的には、ステップSA7で読み込まれた工具位置データは、ステップSA6で算出された重畳線分データ上にあるか否か判断し、重畳線分データ上にあればステップSA9へ移行し、線分データ上になければステップSA10へ移行する。
●[ステップSA9]工具折損として異常発生処理を実行する。異常発生処理としては、表示器14に表示したり、図示省略した警告灯に警告を出力したり、機械の動作を停止し、図示省略した工具交換装置に工具交換指令を出力し、工具交換を行うようにする。
●[ステップSA10]工具折損ではないとして正常信号を出力する。正常信号は表示器14に工具は正常であることを表示するためなどに用いられる。
●[ステップSA11]加工サイクルは終了か否か判断し、終了でない場合にはステップSA2へ戻り処理を継続する。
【0034】
図7は、本発明の工具折損検出方法のアルゴリズムを示すフローチャートで、切削中状態とエアカット状態とを区別するフローチャートである。このフローチャートでは、図6のフローチャートで工具折損ではないとして「正常信号を出力(ステップSA10)」を、さらに2つの状態に分けた。1つはステップSB10として切削中状態の信号を出力し、もう1つはエアカット状態の信号を出力(ステップSB11)である。
ステップSB1〜ステップSB9は、図6に示すフローチャートに示すステップSA1〜SA9の各ステップに対応し、ステップSB12は図6に示すフローチャートのステップSA11に対応するので、説明を省略する。
【0035】
図8は、本発明の工具折損検出方法のアルゴリズムを示すフローチャートで、素材形状データを加工途中の素材形状データとして更新する実施形態のフローチャートである。素材形状の加工済みの領域内を経由して加工サイクルを実行する場合もある。この場合、素材形状データから加工済みの領域のデータを除外しておかないと、誤って工具折損と判断してしまう。図8に示す処理のフローチャートはこのような問題点を解決することができる。
ステップSA’1〜ステップSA’11の各ステップの処理は、図6に示すフローチャートの各ステップに対応する。ステップSA’12の処理として、ステップSA’5で読み込んだ実行中の工具パス指令は、ステップSA’12の段階では実行済みの工具パス指令であるから、ステップSA’4で読み込んだ素材形状データから前記実行済みの工具パス指令に基づき削り取られた領域データを更新し加工途中の素材形状データを作成し、素材形状データとしてメモリに格納する。
なお、本フローチャートの最初の処理サイクルでは、加工プログラムなどにより指定された素材形状データを読み込み、2回目のからの処理サイクルではステップSA’12で更新した素材形状データを読み込む構成とすれば、加工プログラムなどにより指定された素材形状データに影響を及ぼすことはない。
本発明の実施形態により、加工サイクルでエアカット領域、加工領域、エアカット領域と連続する加工経路において、エアカット領域における無負荷状態を工具折損と誤って検出することを防止できる工具折損検出機能を有する数値制御装置を実現できる。
【0036】
また、上記本発明の実施形態では、工具折損検出機能を有する工作機械を制御する数値制御装置として説明したが、パーソナルコンピュータ(図9参照)で工具折損の判別処理を実行することも可能である。その場合には、パーソナルコンピュータ30は、数値制御装置10のインタフェース16を介して、素材形状データ、工具パス指令、主軸あるいは可動軸の負荷データ、工具位置データをパーソナルコンピュータ30のインタフェース33を介して受信する。受信したデータはメモリ32に格納され、パーソナルコンピュータ30のプロセッサ(CPU31)により工具折損の検出処理を実行する。検出処理の結果は表示器34に表示するとともに、数値制御装置10に送信される。数値制御装置10はパーソナルコンピュータ30から工具折損を検出した信号を受け取った場合には、加工作業の停止、工具交換などの処理を実行する。なお、パーソナルコンピュータ30は入力手段36を備えており素材形状や加工条件を対話型プログラムデータとして指定するために入力手段36から入力するようにしてもよい。
図10および図11は、パーソナルコンピュータを用いて工具折損を検出する処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。図10のフローチャートは図6のフローチャートに対応し、図11のフローチャートは図7のフローチャートに対応する。
図10および図11では、加工サイクル実行中であるか否かの情報、素材形状データ、負荷データ、工具パス指令、及び工具位置データを数値制御装置10から読み込むことを意味する。また、ステップSC9(図10)およびステップSD9(図11)の工具折損として異常発生処理の内容として、数値制御装置10への工具折損発生の情報を通知することを含む。
【符号の説明】
【0037】
10 数値制御装置
11 CPU
12 メモリ
13 PMC
14 表示器
15 入力機器
16 インタフェース
17 軸制御回路
18 サーボアンプ
19 サーボモータ
20 スピンドル制御回路
21 スピンドルアンプ
22 スピンドルモータ
23 バス
24 電流検出器
25 位置・速度検出器
26 電流検出器
27 ポジションコーダ
30 パーソナルコンピュータ
LC 左交点
RC 右交点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも素材形状データおよび加工条件を指定した加工プログラムに基づいて工具パス指令を生成し主軸および可動軸を有する工作機械を制御する数値制御装置において、
前記主軸および前記可動軸の駆動装置の少なくとも一方の負荷電流値を検出する負荷検出手段と、
前記可動軸の位置を検出する位置検出手段と、
前記負荷検出手段により検出された負荷電流値が無負荷状態であるか否かを判断する無負荷状態判別手段と、
前記無負荷状態判別手段により前記負荷電流値が無負荷状態と判断されたとき、
前記素材形状データ、前記工具パス指令、および前記位置検出手段により検出された可動軸の位置データに基づき、工具位置が素材形状の内側か外側かを判別する内外判別手段と、
前記内外判別手段により工具位置が素材形状の内側であると判別された場合に工具折損として処理する工具折損処理手段と、
を備えたことを特徴とする工具折損検出機能を有する工作機械を制御する数値制御装置。
【請求項2】
素材形状データをコメント情報として含み工具パス指令を記述したISO形式の加工プログラムに基づいて主軸および可動軸を有する工作機械を制御する数値制御装置において、
前記主軸および前記可動軸の駆動装置の少なくとも一方の負荷電流値を検出する負荷検出手段と、
前記可動軸の位置を検出する位置検出手段と、
前記負荷検出手段により検出された負荷電流値が無負荷状態であるか否かを判断する無負荷状態判別手段と、
前記無負荷状態判別手段により前記負荷電流値が無負荷状態と判断されたとき、
前記素材形状データ、前記工具パス指令、および前記位置検出手段により検出された可動軸の位置データに基づき、工具位置が素材形状の内側か外側かを判別する内外判別手段と、
前記内外判別手段により工具位置が素材形状の内側であると判別された場合に工具折損として処理する工具折損処理手段と、
を備えたことを特徴とする工具折損検出機能を有する工作機械を制御する数値制御装置。
【請求項3】
少なくとも素材形状データおよび加工条件を指定した加工プログラムに基づいて工具パス指令を生成し主軸および可動軸を有する工作機械を制御する数値制御装置、または素材形状データをコメント情報として含み工具パス指令を記述したISO形式の加工プログラムに基づいて主軸および可動軸を有する工作機械を制御する数値制御装置のいずれか1つに接続するパーソナルコンピュータにおいて、
該パーソナルコンピュータは、
前記数値制御装置から、前記素材形状データ、前記工具パス指令、前記主軸および前記可動軸の駆動装置の少なくとも一方の負荷電流値、および前記可動軸の位置データを受信する手段と、
前記負荷電流値が無負荷状態であるか否かを判断する無負荷状態判別手段と、
前記無負荷状態判別手段により前記負荷電流値が無負荷状態と判断されたとき、
前記素材形状データ、前記工具パス指令、および前記位置データに基づき、工具位置が素材形状の内側か外側かを判別する内外判別手段と、
前記内外判別手段により工具位置が素材形状の内側であると判別された場合に工具折損として処理する工具折損処理手段と、
を備えたことを特徴とする工具折損検出機能を有するパーソナルコンピュータ。
【請求項4】
前記内外判別手段により工具位置が素材形状の外側であると判別された場合にエアカットであるとして出力するエアカット状態出力手段を備えたことを特徴とする請求項1または2のいずれか1つに記載の工具折損検出機能を有する工作機械を制御する数値制御装置。
【請求項5】
前記内外判別手段により工具位置が素材形状の外側であると判別された場合にエアカットであるとして出力するエアカット状態出力手段を備えたことを特徴とする請求項3に記載の工具折損検出機能を有するパーソナルコンピュータ。
【請求項6】
加工途中の素材形状データを作成する作成手段と、
前記作成手段により作成された加工途中の素材形状データを格納する格納手段と、
前記内外判別手段は、元の素材形状データに替えて前記格納手段に格納された加工途中の素材形状データを用いて、工具位置が素材形状の内側か外側かを判別することを特徴とする請求項1、2、または4のいずれか1つに記載の工具折損検出機能を有する工作機械を制御する数値制御装置。
【請求項7】
加工途中の素材形状データを作成する作成手段と、
前記作成手段により作成された加工途中の素材形状データを格納する格納手段と、
前記内外判別手段は、元の素材形状データに替えて前記格納手段に格納された加工途中の素材形状データを用いて、工具位置が素材形状の内側か外側かを判別することを特徴とする請求項3または5のいずれか1つに記載の工具折損検出機能を有するパーソナルコンピュータ。
【請求項8】
前記素材形状および前記加工条件の指定は数値制御装置に備わった入力手段から対話型プログラムデータとして指定することを特徴とする請求項1、2、4、または6のうちの何れか1つに記載の工具折損検出機能を有する工作機械を制御する数値制御装置。
【請求項9】
前記素材形状および前記加工条件の指定は数値制御装置に備わった入力手段またはパーソナルコンピュータに備わった入力手段から対話型プログラムデータとして指定することを特徴とする請求項3、5、または7の何れか1つに記載の工具折損検出機能を有するパーソナルコンピュータ。
【請求項10】
前記加工条件は、パラメータで指定することを特徴とする請求項1、2、4、6、または8のいずれか1つに記載の工具折損検出機能を有する工作機械を制御する数値制御装置。
【請求項11】
前記加工条件は、パラメータで指定することを特徴とする請求項3、5、7、または9のいずれか1つに記載の工具折損検出機能を有するパーソナルコンピュータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2010−186374(P2010−186374A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30869(P2009−30869)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】