説明

差動装置に対するドライブシャフトの連結構造

【課題】ピニオンシャフトの在庫を大幅に少なくし得る差動装置に対するドライブシャフトの連結構造を提供する。
【解決手段】ドライブシャフト2のスプライン外嵌合部23の長さ方向の途中部にスプライン外嵌合部23よりも深溝の環状溝24を設け、環状溝24内にストッパーリング12を設け、環状溝24に対応させて、サイドギア4のスプライン内嵌合部33の長さ方向の途中部に、ストッパーリング12が嵌合可能な環状切欠部34を設け、スプライン内嵌合部33にストッパーリング12を退避姿勢に縮径させる挿入用テーパ面35を設け、スプライン内嵌合部33Lにストッパーリング12を退避姿勢に縮径させる抜取用テーパ面36を設け、スプライン内嵌合部33Rにストッパーリング12に当接して、ドライブシャフト2の挿入側への移動を係止する係止面37を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動装置に対するドライブシャフトの連結構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の差動装置に対して左右のドライブシャフトを連結する連結構造として、左右のドライブシャフトの端部にスプライン軸を設け、差動装置の左右1対のサイドギアにスプライン孔を設け、ドライブシャフトのスプライン軸をサイドギアのスプライン孔にスプライン嵌合させるとともに、サイドギアに対してドライブシャフトを抜け止めするため、ドライブシャフトの端部にサイドギアに係合可能なストッパーリングを固定したり、ドライブシャフトの端部に楔状ねじを締結したりして、サイドギアとドライブシャフトとを連結するように構成したものが知られている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0003】
ところが、特許文献1、2に記載の連結構造では、ストッパーリングや楔状ねじの組付け作業がデファレンシャルケース内での煩雑な作業になるという問題があった。そこで、前記サイドギアにスプライン嵌合するドライブシャフトのスプライン外嵌合部の長さ方向の途中部に該スプライン外嵌合部よりも深溝の環状溝を設け、前記環状溝に内嵌されるストッパーリングであって、前記スプライン外嵌合部内に配置される係合姿勢と、前記スプライン外嵌合部よりも環状溝の奥部内へ縮径した退避姿勢とにわたって拡縮可能なCリングからなるストッパーリングを設け、前記スプライン内嵌合部におけるドライブシャフトの挿入開始側端部にストッパーリングを退避姿勢に縮径させる挿入用テーパ面を設け、前記スプライン内嵌合部のドライブシャフトの挿入開始側とは反対側端部にドライブシャフトの抜取方向への操作時にストッパーリングを退避姿勢に縮径させる抜取用テーパ面を設けたものが提案され、実用化されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0004】
この特許文献3記載の連結構造では、差動装置に対するドライブシャフトの組み付け時には、ドライブシャフトのスプライン外嵌合部をサイドギアのスプライン内嵌合部に挿入してスプライン嵌合させたときに、ストッパーリングが挿入用テーパ面で内側に押されて縮径し、縮径状態でサイドギアのスプライン歯の先端部上を摺動しながら、スプライン歯の反対側の端部から離脱するまで挿入され、スプライン歯から離脱することで元の直径に復帰する。そして、この状態では、ストッパーリングがサイドギアの抜取用テーパ面に乗り上がろうとするときの操作抵抗により、ドライブシャフトをサイドギアから容易には抜取ることができないことになり、ドライブシャフトをサイドギアに対して安定性良く連結することができる。一方、差動装置の交換などのため、ドライブシャフトをサイドギアから抜取るときには、前記操作抵抗よりも大きな力でドライブシャフトを引き抜き操作することで、ストッパーリングがサイドギアの抜取用テーパ面で案内されて縮径し、ドライブシャフトを抜取ることができる。
【0005】
一方、差動装置として、片側の車輪のみが空転しようとしたときに、クラッチ手段を介して他方の車輪に対しても十分な回転力が伝達されるようになした差動制限機能を有する差動装置(リミテッドスリップデファレンシャル)が、例えば片側の車輪が氷や雪、ぬかるみ等に乗って該車輪が空転し、他方の車輪に対して十分に回転力が伝達されなくなることを防止したり、旋回や急発進時等における車体の尻振り現象を防止したりするために広く採用されている(例えば、特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−324847号公報
【特許文献2】特開2007−292121号公報
【特許文献3】特開2006−348963号公報
【特許文献4】特開2004−3680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記特許文献3記載の連結構造では、ドライブシャフトをサイドギアに嵌合させた状態で、ドライブシャフトの先端部の差動装置の中央部側への移動は、サイドギアに一体的に設けたスリーブの端部とドライブシャフトの先端近傍部の段差部で受け止めているが、純正以外の差動装置では、サイドギアにスリーブを有さないものも多く、そのような差動装置では、ピニオンギアを枢支するピニオンシャフトの中央部の中央部にドライブシャフトの端部を当接させて、ドライブシャフトの軸方向の移動を規制している。しかし、ドライブシャフトの長さが車種毎に異なることから、ドライブシャフトの先端部とピニオンシャフトの中央部間に隙間が形成されないように、ピニオンシャフトとして中央部の厚さの異なるものを複数種類用意する必要があり、ピニオンシャフトの在庫点数が増えて、在庫管理が煩雑になったり、在庫保管のため大きなスペースが必要になったりするという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、ドライブシャフトの長さが異なる場合でも、ピニオンシャフトとして中央部の厚さの異なるものを用いることなく、ドライブシャフトの軸方向の移動を規制でき、ピニオンシャフトの在庫を大幅に少なくし得る差動装置に対するドライブシャフトの連結構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、ドライブシャフトの差動装置の中央部側への移動をサイドギアで規制することで、ピニオンシャフトとして中央部の厚さの異なるものを用いることなく、ドライブシャフトの軸方向の移動を規制できるという発想を得て、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明に係る第1の差動装置に対するドライブシャフトの連結構造は、差動装置に組み込まれる1対のサイドギアにドライブシャフトをそれぞれスプライン嵌合して連結する差動装置に対するドライブシャフトの連結構造であって、前記サイドギアにスプライン嵌合するドライブシャフトのスプライン外嵌合部の長さ方向の途中部に該スプライン外嵌合部よりも深溝の環状溝を設け、前記環状溝に内嵌されるストッパーリングであって、前記スプライン外嵌合部に対応する径方向位置に配置される係合姿勢と、前記スプライン外嵌合部の形成範囲よりも環状溝の奥部内へ縮径した退避姿勢とにわたって拡縮可能なCリングからなるストッパーリングを設け、前記環状溝に対応させて、前記ドライブシャフトにスプライン嵌合するサイドギアのスプライン内嵌合部の長さ方向の途中部に、前記係合姿勢のストッパーリングが嵌合可能な環状切欠部を設け、前記スプライン内嵌合部におけるドライブシャフトの挿入開始側端部にストッパーリングを退避姿勢に縮径させる挿入用テーパ面を設け、前記環状切欠部よりもドライブシャフトの抜取方向前側のスプライン内嵌合部のうちの前記環状切欠部に対面する端部にストッパーリングを退避姿勢に縮径させる抜取用テーパ面を設け、前記環状切欠部よりもドライブシャフトの挿入方向前側のスプライン内嵌合部のうちの前記環状切欠部に対面する端部にストッパーリングに当接して、ドライブシャフトの挿入側への移動を係止する係止面を設けたものである。
【0011】
この第1の連結構造では、差動装置に対するドライブシャフトの組み付け時には、ドライブシャフトのスプライン外嵌合部をサイドギアのスプライン内嵌合部に挿入してスプライン嵌合させたときに、ドライブシャフトのストッパーリングがサイドギアの挿入用テーパ面で内側に押されて退避姿勢に縮径し、この退避姿勢の状態でサイドギアのスプライン歯の先端部上を摺動して、サイドギアの環状切欠部に対応する位置まで移動したときに、ストッパーリングが元の径に復帰して環状切欠部に嵌合する。そして、この状態で、差動装置からのドライブシャフトの引き抜き方向への移動は、ストッパーリングが環状切欠部の抜取用テーパ面に乗り上がろうとするときの操作抵抗により規制され、また差動装置の中央部側へのドライブシャフトの移動は、ストッパーリングが環状切欠部の係止面に当接することで規制されることになり、ドライブシャフトは、サイドギアに対して相対回転不能で且つ軸方向に移動しないように連結されることになる。一方、差動装置の交換などのため、ドライブシャフトをサイドギアから抜取るときには、前記操作抵抗よりも大きな力でドライブシャフトを引き抜き操作することで、ストッパーリングがサイドギアの抜取用テーパ面で案内されて縮径し、ドライブシャフトを抜取ることができる。
【0012】
このように、この第1の連結構造では、差動装置の中央部側へのドライブシャフトの移動をサイドギアで係止できるので、ドライブシャフトの長さが異なる場合でも、ピニオンギアのピニオンシャフトとして中央部の厚さの異なるものを用いることなく、ドライブシャフトの軸方向の移動を規制でき、ピニオンシャフトの在庫を大幅に少なくできる。しかも、ドライブシャフトに環状溝を形成して、環状溝にストッパーリングを嵌合するという構成は、従来の連結構造においても採用されているものなので、ドライブシャフト側には何ら加工を行うことなく、サイドギアに対してのみ係止面を設けるという簡単な加工により、ピニオンシャフトの在庫を大幅に少なくできることになる。
【0013】
本発明に係る第2の差動装置に対するドライブシャフトの連結構造は、差動装置に組み込まれる1対のサイドギアにドライブシャフトをそれぞれスプライン嵌合して連結する差動装置に対するドライブシャフトの連結構造であって、前記ドライブシャフトがスプライン嵌合するサイドギアのスプライン内嵌合部の長さ方向の途中部に該スプライン内嵌合部よりも深溝の環状溝を設け、前記環状溝に内嵌されるストッパーリングであって、前記スプライン内嵌合部に対応する径方向位置に配置される係合姿勢と、前記スプライン内嵌合部の形成範囲よりも環状溝の奥部内へ拡径した退避姿勢とにわたって拡縮可能なCリングからなるストッパーリングを設け、前記環状溝に対応させて、前記サイドギアにスプライン嵌合するドライブシャフトのスプライン外嵌合部の長さ方向の途中部に、前記係合姿勢のストッパーリングが嵌合可能な環状切欠部を設け、前記サイドギアに対するドライブシャフトの挿入開始側端部においてスプライン外嵌合部にストッパーリングを退避姿勢に拡径させる挿入用テーパ面を設け、前記環状切欠部よりもドライブシャフトの抜取方向後側のスプライン外嵌合部のうちの前記環状切欠部に対面する端部にストッパーリングを退避姿勢に拡径させる抜取用テーパ面を設け、前記環状切欠部よりもドライブシャフトの挿入方向後側のスプライン外嵌合部のうちの前記環状切欠部に対面する端部にストッパーリングに当接して、ドライブシャフトの挿入側への移動を係止する係止面を設けたものである。
【0014】
この第2の連結構造は、第1の連結構造においてドライブシャフトに設けていた環状溝及びストッパーリングをサイドギア側に設け、サイドギアに設けていた環状切欠部をドライブシャフト側に設けたものである。
【0015】
この第2の連結構造では、差動装置に対するドライブシャフトの組み付け時には、ドライブシャフトのスプライン外嵌合部をサイドギアのスプライン内嵌合部に挿入してスプライン嵌合させたときに、サイドギアのストッパーリングがドライブシャフトの挿入用テーパ面で外側に押されて退避姿勢に拡径し、この退避姿勢の状態でドライブシャフトのスプライン歯の先端部上を摺動して、ドライブシャフトの環状切欠部に対応する位置まで移動したときに、ストッパーリングが元の径に復帰して環状切欠部に嵌合する。そして、この状態で、差動装置からのドライブシャフトの引き抜き方向への移動は、ストッパーリングが環状切欠部の抜取用テーパ面に乗り上がろうとするときの操作抵抗により規制され、また差動装置の中央部側へのドライブシャフトの移動は、ストッパーリングが環状切欠部の係止面に当接することで規制されることになり、ドライブシャフトは、サイドギアに対して相対回転不能で且つ軸方向に移動しないように連結されることになる。一方、差動装置の交換などのため、ドライブシャフトをサイドギアから抜取るときには、前記操作抵抗よりも大きな力でドライブシャフトを引き抜き操作することで、ストッパーリングがドライブシャフトの抜取用テーパ面で案内されて拡径し、ドライブシャフトを抜取ることができる。
【0016】
このように、この第2の連結構造では、差動装置の中央部側へのドライブシャフトの移動をサイドギアで係止できるので、第1の連結構造と同様に、ドライブシャフトの長さが異なる場合でも、ピニオンギアのピニオンシャフトとして中央部の厚さの異なるものを用いることなく、ドライブシャフトの軸方向の移動を規制でき、ピニオンシャフトの在庫を大幅に少なくできる。しかも、サイドギア及びドライブシャフトに対する簡単な加工により、ピニオンシャフトの在庫を大幅に少なくできることになる。
【0017】
ここで、前記第1及び第2の連結構造において、差動装置にクラッチ手段を介して両サイドギアに回転力を伝達可能な差動制限手段を備えさせることが好ましい実施の形態である。差動制限手段を備えた差動装置では、ピニオンシャフトがドライブシャフトで押されると、クラッチ手段が作動して、不必要に差動制限状態になることが考えられるので、サイドギアでドライブシャフトの軸方向の移動を規制することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る第1及び第2の差動装置に対するドライブシャフトの連結構造によれば、差動装置の中央部側へのドライブシャフトの移動をサイドギアで係止できるので、ドライブシャフトの長さが異なる場合でも、ピニオンギアのピニオンシャフトとして中央部の厚さの異なるものを用いることなく、ドライブシャフトの軸方向の移動を規制でき、ピニオンシャフトの在庫を大幅に少なくできる。
【0019】
しかも、第1の連結構造によれば、ドライブシャフトに環状溝を形成して、環状溝にストッパーリングを嵌合するという構成は、従来の連結構造においても採用されているものなので、ドライブシャフト側には何ら加工を行うことなく、サイドギアに対してのみ係止面を設けるという簡単な加工により、ピニオンシャフトの在庫を大幅に少なくできることになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】差動装置の横断面図(図2のI-I線断面図)
【図2】図1のII-II線断面図
【図3】プレッシャーリング及びそれに組み付けられる部材の正面図
【図4】サイドギア及びドライブシャフトの分解状態での横断面図
【図5】(a)〜(c)はサイドギアに対するドライブシャフトの組立方法の説明図
【図6】(a)〜(c)はサイドギアに対するドライブシャフトの組立方法の拡大説明図
【図7】他の連結構造のサイドギア及びドライブシャフトの分解状態での横断面図
【図8】(a)〜(c)はサイドギアに対するドライブシャフトの組立方法の拡大説明図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
先ず、差動装置について説明する。
図1〜図4に示すように、差動装置1は、左右のドライブシャフト2を回転中心としてエンジンからの駆動力により回転するデフケース3と、左右のドライブシャフト2の軸端に相対回転不能にそれぞれ設けた左右1対のサイドギア4と、左右のサイドギア4の外周側をそれぞれ覆うようにして、デフケース3内に車軸方向に移動自在で且つ相対回転不能に設けた左右1対のプレッシャーリング5と、左右のプレッシャーリング5間に軸端を保持させてドライブシャフト2と直交状に設けたピニオンシャフト6と、左右のサイドギア4に噛合するピニオンシャフト6に回転自在に設けた少なくとも1対のピニオンギア7と、両プレッシャーリング5の車軸方向両側に配置した1組のクラッチ手段8であって、デフケース3に車軸方向に移動自在で且つ相対回転不能に内嵌した第1クラッチ板8aと、サイドギア4のスリーブ部4aに車軸方向に移動自在で且つ相対回転不能に外嵌した第2クラッチ板8bとを有し、両クラッチ板8a、8bを交互に配置して両クラッチ板8a、8b間の摩擦により、デフケース3とサイドギア4との相対回転を制限することで左右のドライブシャフト2の差動を制限可能なクラッチ手段8と、両プレッシャーリング5間のクリアランス9が狭くなる方向へ両プレッシャーリング5を付勢するバネ部材10a及びシャフト10bを有する付勢手段10と、ピニオンシャフト6の軸部6aに形成したカム部11a及び両プレッシャーリング5に形成したカム溝11bとを有する操作手段11であって、差動時におけるピニオンシャフト6とデフケース3間の相対回転トルクの増大に応じて、両プレッシャーリング5間のクリアランス9が増大する方向へ、付勢手段10の付勢力に抗してプレッシャーリング5を操作し、クラッチ手段8を作動させる操作手段11と、を備えた周知の構成のものである。なお、プレッシャーリング5とクラッチ手段8と付勢手段10と操作手段11などから、差動制限手段が構成されている。
【0022】
ただし、本発明は、前述以外の構成の差動制限装置を備えた差動装置に対しても適用できるし、差動制限手段を備えていない一般的な構成の差動装置に対しても適用できるし、FR車用の差動装置1に対してもFF車用の差動装置に対しても適用できるし、電磁石でクラッチ手段を操作するように構成した差動装置に対しても適用できる。
【0023】
次に、差動装置1に対するドライブシャフト2の連結構造20について説明する。
図4〜図6に示すように、連結構造20について説明すると、左右のドライブシャフト2の差動装置1側の端部にはスプライン軸部21が形成され、スプライン軸部21には左右方向に延びる複数のスプライン外歯22が周方向に一定間隔おきに外側へ向けて突出形成され、これら複数のスプライン外歯22によりスプライン軸部21の外周部にはスプライン外嵌合部23が形成されている。サイドギア4の中央部にはドライブシャフト2のスプライン軸部21がスプライン嵌合するスプライン孔31が左右方向に貫通形成され、スプライン孔31には左右方向に延びる複数のスプライン内歯32が周方向に一定間隔おきに内側へ向けて突出形成され、これら複数のスプライン内歯32によりサイドギア4の内周部にはスプライン内嵌合部33が形成されている。ドライブシャフト2はそのスプライン軸部21をサイドギア4のスプライン孔31にスプライン嵌合することで、サイドギア4に相対回転不能に連結されている。なお、スプライン外歯22及びスプライン内歯32の個数や断面形状や高さは任意に設定可能である。
【0024】
ドライブシャフト2のスプライン外嵌合部23の前端近傍部には環状溝24が設けられ、環状溝24にはCリングからなるストッパーリング12がドライブシャフト2の軸方向に移動しないように内嵌装着されている。ストッパーリング12の自然状態における金属線の中心直径は、スプライン外歯22の歯先の外径よりもやや小さく設定され、環状溝24の深さは、スプライン外歯22の高さにストッパーリング12の金属線の直径を加えた以上の深さに設定され、ストッパーリング12は、弾力性を有するバネ鋼などで構成され、スプライン外嵌合部23に対応する径方向位置に配置される図5(a)、図6(a)に図示の自然状態と、スプライン外嵌合部23の形成範囲よりも環状溝24の奥部内へ縮径した図5(b)、図6(b)に図示の退避姿勢とにわたって拡縮可能に構成されている。ドライブシャフト2のスプライン外嵌合部23の各スプライン外歯22の先端部には、サイドギア4のスプライン内嵌合部33への挿入作業性を向上するために、挿入用テーパ面25が形成されている。なお、スプライン外嵌合部23に対する環状溝24の形成位置は、スプライン外嵌合部23の途中部であれば任意の位置に設定できる。
【0025】
サイドギア4のスプライン内嵌合部33のピニオンシャフト6側の端部近傍部にはストッパーリング12が嵌合可能な環状切欠部34が環状溝24に対応させて形成され、この環状切欠部34の深さはスプライン内歯32の高さと略同じに設定され、ストッパーリング12は、環状切欠部34に嵌合した図5(c)、図6(c)に図示の係合姿勢において、図5(a)、図6(a)に図示の自然状態と同径或いはやや縮径するように構成されている。スプライン内嵌合部33におけるドライブシャフト2の挿入開始側端部(スプライン内嵌合部33の左端部)には、ドライブシャフト2の挿入作業性を向上するとともに、ストッパーリング12を退避姿勢に縮径させるために挿入用テーパ面35が形成されている。環状切欠部34よりもドライブシャフト2の抜取方向前側(図4では左側)のスプライン内嵌合部33Lの各スプライン内歯32Lのうちの環状切欠部34に対面する端部にはストッパーリング12を退避姿勢に縮径させる抜取用テーパ面36が設けられ、環状切欠部34よりもドライブシャフト2の挿入方向前側(図4のでは右側)のスプライン内嵌合部33Rの各スプライン内歯32Rのうちの環状切欠部34に対面する端部にはストッパーリング12に当接して、ドライブシャフト2の挿入側への移動を係止する係止面37が設けられている。
【0026】
挿入用テーパ面35の傾斜角度θ1は、サイドギア4にドライブシャフト2をスプライン嵌合させるときに、ストッパーリング12を比較的容易に退避姿勢に縮径できるように、サイドギア4の回転中心線に対して45°以下に設定することが好ましく、抜取用テーパ面36の傾斜角度θ2は、ドライブシャフト2を大きな力で抜き操作したときに、ストッパーリング12を退避姿勢に縮径できるように、30°〜45°に設定することが好ましい。また、係止面37の傾斜角度θ3は、ドライブシャフト2がピニオンシャフト6側へ移動しないように、サイドギア4の回転中心線に対して例えば90°±30°に設定することが好ましい。
【0027】
この連結構造20では、差動装置1に対するドライブシャフト2の組み付け時には、図5(a)、図6(a)に示すように、ドライブシャフト2のスプライン外嵌合部23をサイドギア4のスプライン内嵌合部33に挿入してスプライン嵌合させたときに、図5(b)、図6(b)に示すように、ドライブシャフト2のストッパーリング12がサイドギア4の挿入用テーパ面35で内側に押されて退避姿勢に縮径し、この退避姿勢の状態でサイドギア4のスプライン内歯32の先端部上を摺動して、サイドギア4の環状切欠部34に対応する位置まで移動したときに、図5(c)、図6(c)に示すように、ストッパーリング12が元の径に復帰して環状切欠部34に嵌合する。そして、この状態で、差動装置1からのドライブシャフト2の引き抜き方向への移動は、ストッパーリング12が環状切欠部34の抜取用テーパ面36に乗り上がろうとするときの操作抵抗により規制され、また差動装置1の中央部側へのドライブシャフト2の移動は、ストッパーリング12が環状切欠部34の係止面37に当接することで規制されることになり、ドライブシャフト2は、サイドギア4に対して相対回転不能で且つ軸方向に移動しないように連結されることになる。一方、差動装置1の交換などのため、ドライブシャフト2をサイドギア4から抜取るときには、前記操作抵抗よりも大きな力でドライブシャフト2を引き抜き操作することで、ストッパーリング12をサイドギア4の抜取用テーパ面36で案内して縮径させ、ドライブシャフト2を抜取ることができる。
【0028】
このように、この第1の連結構造20では、差動装置1の中央部側へのドライブシャフト2の移動をサイドギア4で係止できるので、ドライブシャフト2の長さが異なる場合でも、ピニオンギア7のピニオンシャフト6として中央部の厚さの異なるものを用いることなく、ドライブシャフト2の軸方向への移動を規制でき、ピニオンシャフト6の在庫を大幅に少なくできる。しかも、ドライブシャフト2に環状溝24を形成して、環状溝24にストッパーリング12を嵌合させるという構成は、従来の連結構造においても採用されているものなので、ドライブシャフト2側には何ら加工を行うことなく、サイドギア4に対してのみ係止面37を設けるという簡単な加工により、ピニオンシャフト6の在庫を大幅に少なくできることになる。
【0029】
次に、前記連結構造20Aの構成を部分的に変更した他の実施の形態について説明する。
この連結構造20Aは、前記連結構造20におけるサイドギア4側にストッパーリング12Aが内嵌される環状溝34Aを形成し、ドライブシャフト2側にストッパーリング12Aが嵌合可能な環状切欠部24Aを設けたものである。
【0030】
具体的には、図7、図8に示すように、左右のドライブシャフト2Aの差動装置1側の端部にはスプライン軸部21Aが形成され、スプライン軸部21Aには左右方向に延びる複数のスプライン外歯22Aが周方向に一定間隔おきに外側へ向けて突出形成され、これら複数のスプライン外歯22Aによりスプライン軸部21Aの外周部にはスプライン外嵌合部23Aが形成されている。サイドギア4Aの中央部にはドライブシャフト2Aのスプライン軸部21Aがスプライン嵌合するスプライン孔31Aが左右方向に貫通形成され、スプライン孔31Aには左右方向に延びる複数のスプライン内歯32Aが周方向に一定間隔おきに内側へ向けて突出形成され、これら複数のスプライン内歯32Aによりサイドギア4Aの内周部にはスプライン内嵌合部33Aが形成されている。ドライブシャフト2Aはそのスプライン軸部21Aをサイドギア4Aのスプライン孔31Aにスプライン嵌合することで、サイドギア4Aに相対回転不能に連結されている。なお、スプライン外歯22A及びスプライン内歯32Aの個数や断面形状や高さは任意に設定可能である。
【0031】
サイドギア4Aのスプライン内嵌合部33Aのピニオンシャフト6側の端部近傍部には環状溝34Aが設けられ、環状溝34AにはCリングからなるストッパーリング12Aがスプライン内嵌合部33Aの軸心方向に移動しないように内嵌装着されている。ストッパーリング12Aの自然状態における金属線の中心直径は、スプライン内歯32Aの歯先の内径よりも大きく設定され、環状溝34Aの深さは、スプライン内歯32Aの高さにストッパーリング12Aの金属線の直径を加えた以上の深さに設定され、ストッパーリング12Aは、弾力性を有するバネ鋼などで構成され、スプライン内嵌合部33Aに対応する径方向位置に配置される図8(a)に図示の自然状態と、スプライン内嵌合部33Aの形成範囲よりも環状溝34Aの奥部内へ拡径した図8(b)に図示の退避姿勢とにわたって拡縮可能に構成されている。サイドギア4Aのスプライン内嵌合部33Aの各スプライン内歯32Aの先端部には、ドライブシャフト2Aのスプライン外嵌合部23Aの挿入作業性を向上するために、挿入用テーパ面35Aが形成されている。なお、スプライン内嵌合部33Aに対する環状溝34Aの形成位置は、スプライン内嵌合部33Aの途中部であれば任意の位置に形成することができる。
【0032】
ドライブシャフト2Aのスプライン外嵌合部23Aの挿入方向先端部側の端部近傍部にはストッパーリング12Aが嵌合可能な環状切欠部24Aが環状溝34Aに対応させて形成され、この環状切欠部24Aの深さはスプライン外歯22Aの高さと略同じに設定され、ストッパーリング12Aは、環状切欠部24Aに嵌合した図8(c)に図示の係合姿勢において、図8(a)に図示の自然状態と同径或いはやや拡径するように構成されている。スプライン外嵌合部23Aにおけるドライブシャフト2Aの挿入開始側端部(スプライン外嵌合部23Aの右端部)には、ドライブシャフト2Aの挿入作業性を向上するとともに、ストッパーリング12Aを退避姿勢に拡径させるために挿入用テーパ面25Aが形成されている。環状切欠部24Aよりもドライブシャフト2Aの抜取方向後側(図7では右側)のスプライン外嵌合部23ARの各スプライン外歯22ARのうちの環状切欠部24Aに対面する端部にはストッパーリング12Aを退避姿勢に拡径させる抜取用テーパ面26Aが設けられ、環状切欠部24Aよりもドライブシャフト2Aの挿入方向後側(図7では左側)のスプライン外嵌合部23ALの各スプライン外歯22ALのうちの環状切欠部24Aに対面する端部にはストッパーリング12Aに当接して、ドライブシャフト2Aの挿入側への移動を係止する係止面27Aが設けられている。挿入用テーパ面25Aの傾斜角度θA1と抜取用テーパ面26Aの傾斜角度θA2と係止面27Aの傾斜角度θA3とは、前記実施の形態の挿入用テーパ面25の傾斜角度θ1と抜取用テーパ面26の傾斜角度θ2と係止面27の傾斜角度θ3とそれぞれ同様に設定されている。
【0033】
この連結構造20Aでは、差動装置1に対するドライブシャフト2Aの組み付け時には、ドライブシャフト2Aのスプライン外嵌合部23Aをサイドギア4Aのスプライン内嵌合部33Aに挿入してスプライン嵌合させて、ドライブシャフト2Aの挿入用テーパ面25Aがサイドギア4Aのストッパーリング12Aに当接すると、図8(b)に示すように、サイドギア4Aのストッパーリング12Aがドライブシャフト2Aの挿入用テーパ面25Aで外側に押されて退避姿勢に拡径し、この退避姿勢の状態でドライブシャフト2Aの先端側のスプライン外歯22ALを乗り越えて、図8(c)に示すように、ドライブシャフト2Aの環状切欠部24Aに対応する位置まで移動したときに、ストッパーリング12Aが元の径に復帰して環状切欠部24Aに嵌合する。そして、この状態で、差動装置1からのドライブシャフト2Aの引き抜き方向への移動は、ストッパーリング12Aが環状切欠部24Aの抜取用テーパ面26Aに乗り上がろうとするときの操作抵抗により規制され、また差動装置1の中央部側へのドライブシャフト2Aの移動は、ストッパーリング12Aが環状切欠部24Aの係止面27Aに当接することで規制されることになり、ドライブシャフト2Aは、サイドギア4Aに対して相対回転不能で且つ軸方向に移動しないように連結されることになる。一方、差動装置1の交換などのため、ドライブシャフト2Aをサイドギア4Aから抜取るときには、前記操作抵抗よりも大きな力でドライブシャフト2Aを引き抜き操作することで、ストッパーリング12Aがドライブシャフト2Aの抜取用テーパ面26Aで案内されて拡径し、ドライブシャフト2Aを抜取ることができる。
【0034】
このように、この連結構造20Aでは、差動装置1の中央部側へのドライブシャフト2Aの移動をサイドギア4Aで係止できるので、ドライブシャフト2Aの長さが異なる場合でも、ピニオンギア7のピニオンシャフト6として中央部の厚さの異なるものを用いることなく、ドライブシャフト2Aの軸方向の移動を規制でき、ピニオンシャフト6の在庫を大幅に少なくできる。しかも、サイドギア4A及びドライブシャフト2Aに対する簡単な加工により、ピニオンシャフト6の在庫を大幅に少なくできることになる。
【0035】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲においてその構成を変更し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0036】
1 差動装置 2 ドライブシャフト
3 デフケース 4 サイドギア
4a スリーブ部 5 プレッシャーリング
6 ピニオンシャフト 6a 軸部
7 ピニオンギア 8 クラッチ手段
8a クラッチ板 8b クラッチ板
9 クリアランス 10 付勢手段
10a バネ部材 10b シャフト
11 操作手段 11a カム部
11b カム溝 12 ストッパーリング
20 連結構造 21 スプライン軸部
22 スプライン外歯 23 スプライン外嵌合部
24 環状溝 25 挿入用テーパ面
31 スプライン孔 32 スプライン内歯
32L スプライン内歯 32R スプライン内歯
33 プライン内嵌合部 33L スプライン内嵌合部
33R スプライン内嵌合部 34 環状切欠部
35 挿入用テーパ面 36 抜取用テーパ面
37 係止面
2A ドライブシャフト 4A サイドギア
12A ストッパーリング
20A 連結構造 21A スプライン軸部
22A スプライン外歯 22AL スプライン外歯
22AR スプライン外歯 23A スプライン外嵌合部
23AL スプライン外嵌合部 23AR スプライン外嵌合部
24A 環状切欠部 25A 挿入用テーパ面
26A 抜取用テーパ面 27A 係止面
31A スプライン孔 32A スプライン内歯
33A スプライン内嵌合部 34A 環状溝
35A 挿入用テーパ面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
差動装置に組み込まれる1対のサイドギアにドライブシャフトをそれぞれスプライン嵌合して連結する差動装置に対するドライブシャフトの連結構造であって、
前記サイドギアにスプライン嵌合するドライブシャフトのスプライン外嵌合部の長さ方向の途中部に該スプライン外嵌合部よりも深溝の環状溝を設け、
前記環状溝に内嵌されるストッパーリングであって、前記スプライン外嵌合部に対応する径方向位置に配置される係合姿勢と、前記スプライン外嵌合部の形成範囲よりも環状溝の奥部内へ縮径した退避姿勢とにわたって拡縮可能なCリングからなるストッパーリングを設け、
前記環状溝に対応させて、前記ドライブシャフトにスプライン嵌合するサイドギアのスプライン内嵌合部の長さ方向の途中部に、前記係合姿勢のストッパーリングが嵌合可能な環状切欠部を設け、
前記スプライン内嵌合部におけるドライブシャフトの挿入開始側端部にストッパーリングを退避姿勢に縮径させる挿入用テーパ面を設け、
前記環状切欠部よりもドライブシャフトの抜取方向前側のスプライン内嵌合部のうちの前記環状切欠部に対面する端部にストッパーリングを退避姿勢に縮径させる抜取用テーパ面を設け、
前記環状切欠部よりもドライブシャフトの挿入方向前側のスプライン内嵌合部のうちの前記環状切欠部に対面する端部にストッパーリングに当接して、ドライブシャフトの挿入側への移動を係止する係止面を設けた、
ことを特徴とする差動装置に対するドライブシャフトの連結構造。
【請求項2】
差動装置に組み込まれる1対のサイドギアにドライブシャフトをそれぞれスプライン嵌合して連結する差動装置に対するドライブシャフトの連結構造であって、
前記ドライブシャフトがスプライン嵌合するサイドギアのスプライン内嵌合部の長さ方向の途中部に該スプライン内嵌合部よりも深溝の環状溝を設け、
前記環状溝に内嵌されるストッパーリングであって、前記スプライン内嵌合部に対応する径方向位置に配置される係合姿勢と、前記スプライン内嵌合部の形成範囲よりも環状溝の奥部内へ拡径した退避姿勢とにわたって拡縮可能なCリングからなるストッパーリングを設け、
前記環状溝に対応させて、前記サイドギアにスプライン嵌合するドライブシャフトのスプライン外嵌合部の長さ方向の途中部に、前記係合姿勢のストッパーリングが嵌合可能な環状切欠部を設け、
前記サイドギアに対するドライブシャフトの挿入開始側端部においてスプライン外嵌合部にストッパーリングを退避姿勢に拡径させる挿入用テーパ面を設け、
前記環状切欠部よりもドライブシャフトの抜取方向後側のスプライン外嵌合部のうちの前記環状切欠部に対面する端部にストッパーリングを退避姿勢に拡径させる抜取用テーパ面を設け、
前記環状切欠部よりもドライブシャフトの挿入方向後側のスプライン外嵌合部のうちの前記環状切欠部に対面する端部にストッパーリングに当接して、ドライブシャフトの挿入側への移動を係止する係止面を設けた、
ことを特徴とする差動装置に対するドライブシャフトの連結構造。
【請求項3】
クラッチ手段を介して両サイドギアに回転力を伝達可能な差動制限手段を備えた請求項1又は2記載の差動装置に対するドライブシャフトの連結構造。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−107729(P2012−107729A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258608(P2010−258608)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(300011047)株式会社オーエス技研 (3)
【Fターム(参考)】