説明

差圧センサの異常診断装置

【課題】差圧センサの圧力導入ホースの異常の有無を診断可能な差圧センサの異常診断装置を提供する。
【解決手段】内燃機関の排気通路に備えられたDPFと、前記DPFの前後の差圧を検出するための差圧センサと、を備えた排気浄化装置における前記差圧センサの異常の有無を診断するための差圧センサの異常診断装置において、前記DPFの前後の温度に基づいて前記DPFの異常判定を行う第1の判定手段と、前記第1の判定手段による判定結果、及び、前記差圧センサによって検出される差圧検出値に基づいて前記差圧センサの異常判定を行う第2の判定手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気系に備えられパティキュレートフィルタの前後の差圧を検出するための差圧センサの異常の有無を診断するための差圧センサの異常診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両等に搭載される内燃機関の排気系には、排気に含まれる煤等の粒子状物質(以下、「PM(Particulate Material)」と称する。)を捕集するためのパティキュレートフィルタ(以下、「DPF(Diesel Particulate Filter)」と称する。)が備えられている。DPFに捕集されるPMが増え続けると、DPFに目詰まりを生じて、出力低下による燃費の悪化やDPFの溶損等の原因となるおそれがある。そのため、DPFに捕集されたPMを燃焼させてDPFを再生する制御が、あらかじめ定められた時期ごとに実行されるようになっている。
【0003】
DPFの捕集量を計る指標として、差圧センサを用いて検知可能なDPFの前後の差圧を見る方法がある。かかる方法においては、差圧が所定の閾値に到達したときに、DPFにおけるPMの捕集量が所定程度に達していると判断して、再生制御を実行開始するようになっている。
【0004】
この差圧センサが故障していると、DPFの再生制御を適切な時期に実行することができなくなることから、差圧センサの故障を精度よく検知可能な差圧センサの故障検知システムが提案されている。具体的には、DPF上流の圧力と大気圧との差圧及び/又はDPF下流の圧力と大気圧との差圧を測定可能であり、排気流量変更手段を全開にしてDPFに流入する排気流量を変化させるとともに、この時のDPF上流の圧力と大気圧との差圧の変化量又はDPF下流の圧力と大気圧との差圧の変化量に基づいて、差圧センサの故障を検知するようにした差圧センサの故障検知システムが開示されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−111409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、DPFの前後の差圧を見るために用いられる差圧センサは、DPFよりも上流側の排気通路及び下流側の排気通路それぞれに圧力導入ホースを接続することによって取り付けられている。この圧力導入ホースが排気通路との接続箇所から抜けていたり、圧力導入ホースが破損して大気開放されていたりすると、差圧を正確に検出することができない。
【0007】
特許文献1に記載された差圧センサの故障検知システムは、DPFよりも上流側の圧力導入ホース又は下流側の圧力導入ホースに大気圧を導入するとともに、排気流量を変化させることで差圧センサの故障を検知するものであるが、各圧力導入ホースが、排気通路との接続箇所から抜けていたり破損していたりしている場合には、そのような異常を検知することができないという問題があった。
【0008】
本発明の発明者らはこのような問題にかんがみて、DPF前後の温度に基づくDPFの異常判定結果と差圧センサの検出値とを用いて差圧センサの異常の有無を診断することによりこのような課題を解決できることを見出し、本発明を完成させたものである。すなわち、本発明は、差圧センサの圧力導入ホースの異常の有無を診断可能な差圧センサの異常診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、内燃機関の排気通路に備えられたDPFと、前記DPFの前後の差圧を検出するための差圧センサと、を備えた排気浄化装置における前記差圧センサの異常の有無を診断するための差圧センサの異常診断装置において、前記DPFの前後の温度に基づいて前記DPFの異常判定を行う第1の判定手段と、前記第1の判定手段による判定結果、及び、前記差圧センサによって検出される差圧検出値に基づいて前記差圧センサの異常判定を行う第2の判定手段と、を備えることを特徴とする差圧センサの異常診断装置が提供され、上述した課題を解決することができる。
【0010】
すなわち、本発明の差圧センサの異常診断装置は、DPFの異常判定結果と差圧センサによる差圧検出値とに基づいて差圧センサの異常の有無を診断することとしているため、圧力導入ホースに異常を生じている場合には、DPFの異常判定結果に応じた適切な差圧検出値が出力されなくなるため、差圧センサの圧力導入ホースの異常の有無を適切に判定することを可能にすることができる。
【0011】
また、本発明の差圧センサの異常診断装置において、前記第2の判定手段は、前記第1の判定手段の判定結果が異常なし、かつ、前記差圧検出値が所定の上限閾値以上のときに、前記DPFよりも下流側の排気通路に接続される前記差圧センサの圧力導入ホースに異常ありと判定することが好ましい。
【0012】
このような判定を行うことにより、DPFよりも下流側の排気通路に接続される圧力導入ホースの抜けや破損等を検知することができる。
【0013】
また、本発明の差圧センサの異常診断装置において、前記第2の判定手段は、前記第1の判定手段の判定結果が異常なし、かつ、前記差圧検出値が所定の下限閾値以下のときに、前記DPFよりも上流側の排気通路に接続される前記差圧センサの圧力導入ホースに異常ありと判定することが好ましい。
【0014】
このような判定を行うことにより、DPFよりも上流側の排気通路に接続される圧力導入ホースの抜けや破損等を検知することができる。
【0015】
また、本発明の差圧センサの異常診断装置において、前記第2の判定手段は、前記第1の判定手段の判定結果が異常あり、かつ、前記差圧検出値が正常範囲のときに、前記DPFよりも上流側又は下流側の排気通路に接続される前記差圧センサの圧力導入ホースに異常ありと判定することが好ましい。
【0016】
このような判定を行うことにより、DPFに異常を生じている場合であっても、DPFよりも上流側又は下流側のいずれかの圧力導入ホースの抜けや破損等を検知することができる。
【0017】
また、本発明の差圧センサの異常診断装置において、前記圧力導入ホースが大気開放状態となっている異常を想定し、排気流量に応じて、前記上限閾値、前記下限閾値又は前記正常範囲を設定することが好ましい。
【0018】
このように上限閾値、下限閾値、又は正常範囲を設定することにより、診断時の内燃機関の運転状態に応じて適切に差圧センサの異常の有無を判定することができる。
【0019】
また、本発明の差圧センサの異常診断装置において、前記第1の判定手段は、前記DPFよりも上流側の排気温度が変化した場合に、前記DPFよりも上流側の排気温度と下流側の排気温度との差が所定の温度差閾値未満のときに前記DPFに異常ありと判定することが好ましい。
【0020】
このようにDPFの異常判定を行うことにより、差圧センサの信頼性に依存せずにDPFの異常判定を行うことができ、結果的に、差圧センサの異常判定の信頼性を高めることができる。
【0021】
また、本発明の差圧センサの異常診断装置において、前記第1の判定手段は、前記DPFよりも上流側の排気温度が変化した場合に、前記DPFよりも下流側の排気温度が前記上流側の排気温度の変化度合いに到達するまでの時間が所定の時間閾値未満のときに前記DPFに異常ありと判定することが好ましい。
【0022】
このようにDPFの異常判定を行うことによっても、差圧センサの信頼性に依存せずにDPFの異常判定を行うことができ、結果的に、差圧センサの異常判定の信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施の形態にかかる差圧センサの異常診断装置が備えられる内燃機関の排気系の構成について説明するために示す図である。
【図2】本実施の形態にかかる差圧センサの異常診断装置としての電子制御装置の構成を機能的に示すブロック図である。
【図3】本実施の形態にかかる差圧センサの異常診断装置によって実行される異常診断方法の一例を説明するためのフローチャート図である。
【図4】DPFの異常判定方法の一例を説明するためのフローチャート図である。
【図5】下流ホースの異常の有無の判定方法の一例を説明するためのフローチャート図である。
【図6】上流ホースの異常の有無の判定方法の一例を説明するためのフローチャート図である。
【図7】DPFの異常判定方法の概略について説明するために示す図である。
【図8】DPFの異常判定方法の別の例を説明するためのフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明にかかる差圧センサの異常診断装置に関する実施の形態について、図面に基づいて具体的に説明する。
なお、それぞれの図中において同じ符号が付されているものは、特に説明がない限り同一の構成要素を示しており、適宜説明が省略されている。
【0025】
図1は、本実施の形態にかかる差圧センサの異常診断装置が備えられる内燃機関の排気系の構成について説明するために示す図である。図2は、本実施の形態にかかる差圧センサの異常診断装置としての電子制御装置の構成を機能的に示すブロック図である。図3は、本実施の形態にかかる差圧センサの異常診断装置によって実行される異常診断方法の一例を説明するためのフローチャート図である。図4は、DPFの異常判定方法の一例を説明するためのフローチャート図である。図5は、下流ホースの異常の有無の判定方法の一例を説明するためのフローチャート図である。図6は、上流ホースの異常の有無の判定方法の一例を説明するためのフローチャート図である。図7は、DPFの異常判定方法の概略について説明するために示す図である。
【0026】
1.内燃機関の排気系の全体的構成
図1において、内燃機関1は、代表的にはディーゼルエンジンであって、複数の燃料噴射弁5を備えるとともに、排気を流通させる排気管3が接続されている。燃料噴射弁5は電子制御装置30によって通電制御されるものであり、電子制御装置30は、機関回転数やアクセル操作量、その他の情報に基づいて燃料噴射量を演算するとともに、算出された燃料噴射量に基づいて燃料噴射弁5の通電時期及び通電時間を求めて、燃料噴射弁5の通電制御を実行するようになっている。
【0027】
内燃機関1に接続された排気管3には排気浄化装置10が設けられている。排気浄化装置10は、排気管3の上流側から順に備えられたDPF12とNOX浄化触媒13とを有している。また、排気浄化装置10は、DPF12の前後の差圧を検出するための差圧センサ15を備えている。差圧センサ15のセンサ信号は電子制御装置30に入力されるようになっている。
【0028】
DPF12は、排気中に含まれる煤等のPMを捕集する機能を有するフィルタである。DPF12は、代表的にはハニカム構造を有するフィルタが用いられるが、このようなフィルタに限定されない。このDPF12は、PMの捕集量が増大して目詰まりを生じないように、所定の時期に、PMを燃焼(酸化)させる再生制御が行われるようになっている。
【0029】
NOX浄化触媒13は、排気中に含まれるNOX(窒素酸化物)を還元して浄化する機能を有する触媒である。代表的には、排気の空燃比が燃料リーンの状態でNOXを吸蔵する一方、空燃比が燃料リッチになったときにNOXを放出して、NOXとHC(未燃燃料)との反応を促進させるNOX吸蔵触媒や、アンモニアやHC等の還元剤を吸着するとともに、流入するNOXを選択的に還元剤と反応させる選択還元触媒が挙げられる。ただし、NOX浄化触媒13の種類や位置等については、特に限定されるものではない。
【0030】
差圧センサ15は、DPF12の上流側の排気圧力と下流側の排気圧力との差圧を検出するために用いられる。差圧センサ15には、DPF12よりも上流側の排気通路7に接続された上流側圧力導入ホース(以下、「上流ホース」と称する。)17を介して上流側の排気圧力が導入される。また、差圧センサ15には、DPF12よりも下流側の排気通路9に接続された下流側圧力導入ホース(以下、「下流ホース」と称する。)19を介して下流側の排気圧力が導入される。
【0031】
本実施の形態においては、DPF12の下流側にNOX浄化触媒13が備えられており、内燃機関1の運転中におけるDPF12の下流側の排気圧力は、DPF12の上流側の排気圧力よりも低いものの、大気圧よりも高い圧力を示すようになっている。
【0032】
本実施の形態にかかる差圧センサの異常診断装置において、差圧センサ15を用いて検出される差圧の情報は、DPF12におけるPMの捕集量の推定に用いられるとともに、上流ホース及び下流ホースの異常診断にも用いられる。
【0033】
2.電子制御装置(差圧センサの異常診断装置)
(1)装置の構成
図2は、電子制御装置30の構成のうち、差圧センサ15の異常診断に関連する部分を機能的なブロックで表したものである。この電子制御装置30が差圧センサ15の異常診断装置としての機能を有している。
【0034】
電子制御装置30は、公知のマイクロコンピュータを中心に構成されたものであり、差圧検知手段31と、第1の判定手段33と、第2の判定手段35とを備えている。具体的に、これらの各手段は、マイクロコンピュータによるプログラムの実行によって実現されるものとなっている。
【0035】
また、図示しないものの、電子制御装置30には、RAMやROM等の記憶素子からなる記憶手段等が備えられている。記憶手段には、制御プログラム及び種々の演算マップがあらかじめ記憶されるとともに、上記した各手段による演算結果等が書き込まれるようになっている。
【0036】
差圧検知手段31は、差圧センサ15のセンサ信号に基づいて、DPF12の前後の差圧検出値ΔPを求めるように構成されている。本実施の形態にかかる電子制御装置30において、差圧検知手段31は、上流側の排気圧力から下流側の排気圧力を差し引いた圧力差を検知可能に構成されており、正の値だけでなく負の値も検知可能になっている。
【0037】
第1の判定手段33は、DPF12よりも上流側の排気温度Tuと下流側の排気温度Tdに基づいて、DPF12の異常の有無を判定するように構成されている。DPF12の異常とは、DPF12の過燃焼による溶損や、物理的なダメージによるDPF12の貫通、DPF12の未装着等の異常状態を指す。上流側の排気温度Tuは、排気温度センサを用いて検出したり、内燃機関1の運転状態等に基づいて演算によって推定したりすることができる。下流側の排気温度Tdは、排気温度センサを用いて検出することができる。
【0038】
第2の判定手段35は、差圧検出値ΔPと、第1の判定手段33の判定結果A1とに基づいて、差圧センサ15の上流ホース17及び下流ホース19の異常の有無を判定するように構成されている。
【0039】
(2)フローチャート
次に、電子制御装置30によって実行される差圧センサの異常診断のルーチンについて、図3〜図6のフローチャート図に基づいて説明する。このルーチンは、内燃機関1の運転中において所定の時期ごとに実行されるようになっていてもよいし、内燃機関1が1回始動されるごとに1回の割合で実行されるようになっていてもよい。
【0040】
まず、図3のフローチャート図のステップS1において、電子制御装置30は、DPF12の異常判定を行う。図4は、DPF12の異常判定の一例を具体的に示すフローチャート図である。
【0041】
図4のステップS11において、電子制御装置30は、DPF12の上流側の排気温度Tuが変化中であるか否かを判別する。排気温度Tuが変化中であるか否かは、例えば、上流側の排気温度Tuを継続的に検出するとともに、単位時間当たりの温度変化率が所定値以上となっているか否かや、内燃機関1の運転状態が急激に変化しているか否かを判別することによって判定することができる。温度が上昇している場合であっても下降している場合であっても構わない。
【0042】
このステップS11は、DPF12が正常であるならば、上流側の排気温度Tuと下流側の排気温度Tdとの温度差が所定程度大きくなる状況となっていることを確認するためのステップとなっている。上述の具体的な判定方法の例における閾値や条件は、あらかじめ実験等によって求められる最適値とすることができる。ただし、ステップS11における具体的な判定方法は、上述の例に限定されない。
【0043】
このような判定方法によって、上流側の排気温度Tuが変化中であると判定されるまでステップS11の判別が繰り返され、ステップS11でYesと判定された場合に、ステップS12に進む。ステップS12において、電子制御装置30は、上流側の排気温度Tuと下流側の排気温度Tdとの差分の絶対値が所定の温度差閾値ΔT1未満であるか否かを判別する。
【0044】
このステップS12は、現在の排気の状況に応じて、上流側の排気温度Tuと下流側の排気温度Tdとの差分が適切に大きくなっているか否かを判別するためのステップとなっている。温度差閾値ΔT1は、直前の排気温度Tu,Tdと現在の排気の状況とから想定される温度差を考慮して最適な値とすることができる。あるいは、ステップS11における上流側の排気温度Tuの変化の判別において、ある一定の差分が生じるような温度変化を条件とすれば、温度差閾値ΔT1を一定の値に設定することができる。
【0045】
ステップS12においてYesと判定される場合には、上流側の排気温度Tuと下流側の排気温度Tdとの温度差が大きくなる状況であるにもかかわらず、温度差が大きくなっていないことから、電子制御装置30は、ステップS13に進んでDPF12の異常発生を知らせるフラグを立ててDPF12の異常判定を終了する。一方、ステップS12においてNoと判定される場合には、現在の排気の状況に応じて、上流側の排気温度Tuと下流側の排気温度Tdとの温度差が大きくなっていることから、電子制御装置30は、ステップS14に進んでDPF12の異常発生を知らせるフラグを下ろした状態としてDPF12の異常判定を終了する。
【0046】
図7は、図4のフローチャート図の例によるDPF12の異常判定の概略を説明するために示す図である。図7(a)は、DPF12の異常を生じていない場合において、DPF12の上流側の排気温度Tuが変化したときの下流側の排気温度Tdの変化について、通常運転領域とDPF再生運転領域とに分けて示している。また、図7(b)は、DPF12の異常を生じている場合において、DPF12の上流側の排気温度Tuが変化したときの下流側の排気温度Tdの変化について、通常運転領域とDPF再生運転領域とに分けて示している。
【0047】
図7(a)に示すように、DPF12に異常を生じていない場合には、DPF12の上流側と下流側とが貫通状態ではなく、DPF12の熱伝達の遅れによって、上流側の排気温度Tuが変化してから下流側の排気温度Tdが変化するまでに遅れが発生する。したがって、上流側の排気温度Tuが変化している期間において、ある時期の上流側の排気温度Tuと下流側の排気温度Tdとを比較すると、大きな温度差が生じていることが分かる。
【0048】
これに対して、図7(b)に示すように、DPF12に異常を生じている場合には、上流側の排気温度Tuが変化するのとほぼ同時に下流側の排気温度Tdも変化する。したがって、上流側の排気温度Tuが変化している期間において、ある時期の上流側の排気温度Tuと下流側の排気温度Tdとを比較しても、大きな温度差が生じていないことが分かる。
【0049】
したがって、図4の例では、上流側の排気温度Tuが変化しているときの上流側の排気温度Tuと下流側の排気温度Tdとの差分が温度差閾値ΔT1未満であるか否かを判別することで、DPF12の異常発生の有無を判定するようになっている。
【0050】
図3に戻り、DPF12の異常判定を終了すると、電子制御装置30は、ステップS2において、差圧センサ15のセンサ値に基づいて差圧検出値ΔPを求めた後、ステップS3において、差圧センサ15の異常判定を実行する。
【0051】
図5及び図6は、差圧センサ15の異常判定の一例を具体的に示すフローチャート図であり、図5が、下流ホース19の異常の有無を判定するためのフローチャート図を示し、図6が、上流ホース17の異常の有無を判定するためのフローチャート図を示している。
【0052】
まず、下流ホース19の異常の有無を判定する場合には、図5のステップS21において、電子制御装置30は、DPF12の異常を生じているか否かを判別する。具体的には、DPF12の異常発生を知らせるフラグが立っているか否かによって判定が行われる。
【0053】
ステップS21においてNoと判定された場合には、ステップS25に進み、電子制御装置30は、差圧検出値ΔPが所定の上限閾値ΔPH以上となっているか否かを判別する。この上限閾値ΔPHは、DPF12の異常を生じていない状態において、下流ホース19に大気圧が導入されていないかを判別するために設定される閾値である。上限閾値ΔPHは、上流側の排気圧力に影響を及ぼす排気流量Fgに応じて選択されるように、あらかじめ実験等によって求められて記憶される。
【0054】
ステップS25でYesと判定される場合には、DPF12の異常を生じておらず、正常な差圧が検出されるはずの状況において、差圧検出値ΔPが著しく大きくなっていることから、下流ホース19が、抜けや破損によって大気開放状態となっていると推定される。そのため、電子制御装置30は、ステップS23に進んで下流ホース19の異常発生を知らせるフラグを立てて、下流ホース19の異常の有無の判定を終了する。
【0055】
一方、ステップS25でNoと判定される場合には、現在の状況に応じて適切な差圧検出値ΔPが示されていることから、電子制御装置30は、ステップS24に進んで下流ホース19の異常発生を知らせるフラグを下ろした状態として、下流ホース19の異常の有無の判定を終了する。
【0056】
また、ステップS21においてYesと判定された場合には、ステップS22に進み、電子制御装置30は、差圧検出値ΔPと差圧基準値ΔP0との差の絶対値が閾値α以下となっているか否かを判別する。この差圧基準値ΔP0は、DPF12の異常を生じていないと仮定した場合に想定される差圧の値であって、排気流量Fgに応じて選択されるように、あらかじめ実験等によって求められて記憶されている。また、閾値αは、許容誤差を考慮して最適な値に設定することができる。
【0057】
ステップS22でYesと判定される場合には、DPF12の異常を生じており、差圧が生じにくい状況であるにもかかわらず、想定値に近い差圧検出値ΔPが検知されていることから、下流ホース19が、抜けや破損によって大気開放状態となっていると推定される。そのため、電子制御装置30は、ステップS23に進んで下流ホース19の異常発生を知らせるフラグを立てて、下流ホース19の異常の有無の判定を終了する。
【0058】
一方、ステップS22でNoと判定される場合には、現在の状況に応じて適切な差圧検出値ΔPが示されていることから、電子制御装置30は、ステップS24に進んで下流ホース19の異常発生を知らせるフラグを下ろした状態として、下流ホース19の異常の有無の判定を終了する。
【0059】
次に、上流ホース17の異常の有無を判定する場合には、図6のステップS31において、電子制御装置30は、DPF12の異常を生じているか否かを判別する。具体的には、DPF12の異常発生を知らせるフラグが立っているか否かによって判定が行われる。
【0060】
ステップS31においてNoと判定された場合には、ステップS35に進み、電子制御装置30は、差圧検出値ΔPが所定の下限閾値ΔPL以下となっているか否かを判別する。この下限閾値ΔPLは、DPF12の異常を生じていない状態において、上流ホース17に大気圧が導入されていないかを判別するために設定される閾値である。下限閾値ΔPLは、上流側だけでなく下流側の排気圧力に影響を及ぼす排気流量Fgに応じて選択されるように、あらかじめ実験等によって求められて記憶されている。
【0061】
ステップS35でYesと判定される場合には、DPF12の異常を生じておらず、正常な差圧が検出されるはずの状況において、差圧検出値ΔPが著しく小さくなっていることから、上流ホース17が、抜けや破損によって大気開放状態となっていると推定される。そのため、電子制御装置30は、ステップS33に進んで上流ホース17の異常発生を知らせるフラグを立てて、上流ホース17の異常の有無の判定を終了する。
【0062】
一方、ステップS35でNoと判定される場合には、現在の状況に応じて適切な差圧検出値ΔPが示されていることから、電子制御装置30は、ステップS34に進んで上流ホース17の異常発生を知らせるフラグを下ろした状態として、上流ホース17の異常の有無の判定を終了する。
【0063】
また、ステップS31においてYesと判定された場合には、ステップS32に進み、電子制御装置30は、差圧検出値ΔPが所定の異常時閾値ΔPL´以下となっているか否かを判別する。この異常時閾値ΔPL´は、DPF12に異常を生じていることを想定して、上流ホース17に大気圧が導入されていないかを判別するために設定される閾値である。異常時閾値ΔPL´は、DPF12に異常を生じていることを想定して、排気圧力に影響を及ぼす排気流量Fgに応じて選択されるように、あらかじめ実験等によって求められて記憶される。
【0064】
ステップS32でYesと判定される場合には、DPF12の異常を生じており、差圧が生じにくい状況であるにもかかわらず、想定値に近い差圧検出値ΔPが検知されていることから、上流ホース17が、抜けや破損によって大気開放状態となっていると推定される。そのため、電子制御装置30は、ステップS33に進んで上流ホース17の異常発生を知らせるフラグを立てて、上流ホース17の異常の有無の判定を終了する。
【0065】
一方、ステップS32でNoと判定される場合には、現在の状況に応じて適切な差圧検出値ΔPが示されていることから、電子制御装置30は、ステップS34に進んで上流ホース17の異常発生を知らせるフラグを下ろした状態として、上流ホース17の異常の有無の判定を終了する。
【0066】
なお、下流ホース19の異常の判定と上流ホース17の異常の判定を行う順序については特に限定されない。また、下流ホース19又は上流ホース17のうちのいずれか一方の異常の判定のみを行うようにしてもよい。
【0067】
3.本実施の形態による効果
以上説明した本実施の形態にかかる差圧センサの異常診断装置としての電子制御装置30は、DPF12の異常判定結果と差圧センサ15による差圧検出値ΔPとに基づいて差圧センサ15の下流ホース19及び上流ホース17あるいはいずれか一方の異常の有無を診断することとしている。そのため、圧力導入ホースに異常を生じている場合には、DPF12の異常判定結果に応じた差圧検出値ΔPが適切に出力されなくなるため、差圧センサ15の圧力導入ホースの異常の有無を適切に判定することを可能にすることができる。
【0068】
また、本実施の形態にかかる電子制御装置30によれば、DPF12の異常判定の結果が異常なし、かつ、差圧検出値ΔPが上限閾値ΔPH以上のときに、DPF12よりも下流側の排気通路9に接続される下流ホース19に異常ありと判定することとしているため、下流ホース19の抜けや破損等を確実に検知することができる。
【0069】
また、本実施の形態にかかる電子制御装置30によれば、DPF12の異常判定の結果が異常なし、かつ、差圧検出値ΔPが下限閾値ΔPL以下のときに、DPF12よりも上流側の排気通路7に接続される上流ホース17に異常ありと判定することとしているため、上流ホース17の抜けや破損等を確実に検知することができる。
【0070】
また、本実施の形態にかかる電子制御装置30によれば、DPF12の異常判定の結果が異常あり、かつ、差圧検出値ΔPと差圧基準値ΔP0との差の絶対値が閾値α以下であるときに、DPF12よりも上流ホース17又は下流ホース19に異常ありと判定することとしているため、DPF12の異常を生じている場合であっても、上流ホース17又は下流ホース19の抜けや破損等を確実に検知することができる。
【0071】
また、本実施の形態にかかる電子制御装置30によれば、判別を行う際の上限閾値ΔPH及び下限閾値ΔPL、さらには、差圧検出値ΔPが正常範囲を示しているか否かを判断する基準となる差圧基準値ΔP0を、上流ホース17又は下流ホース19が大気開放状態となっていることを想定して、排気流量Fgに応じて設定することとしているため、診断時の内燃機関1の運転状態に応じて適切に上流ホース17又は下流ホース19の異常の有無を判定することができる。
【0072】
また、本実施の形態にかかる電子制御装置30によれば、DPF12よりも上流側の排気温度Tuが変化した場合に、DPF12よりも上流側の排気温度Tuと下流側の排気温度Tdとの差の絶対値が所定の温度差閾値ΔT1未満のときにDPF12に異常ありと判定することとしているため、差圧センサ15の信頼性に依存せずにDPF12の異常判定を行うことができ、結果的に、差圧センサ15の異常判定の信頼性を高めることができる。
【0073】
4.変形例
以上説明した本実施の形態にかかる差圧センサの異常診断装置は、本発明の一態様を示すものであってこの発明を限定するものではなく、実施の形態は本発明の範囲内で任意に変更することが可能である。本実施の形態にかかる差圧センサの異常診断装置は、例えば、以下のように変更することができる。
【0074】
(1)本実施の形態において説明した内燃機関1の排気系を構成する各構成要素や、電子制御装置30の設定値、設定条件はあくまでも一例であって、任意に変更することが可能である。
【0075】
(2)本実施の形態にかかる差圧センサの異常診断装置においては、上流側の排気温度Tuが変化しているある時点での、上流側の排気温度Tuと下流側の排気温度Tdとの温度差に基づいてDPF12の異常判定を行うこととしているが、上流側の排気温度Tuが変化してある温度TuAになってから、下流側の排気温度Tdが当該温度TuAになるまでの時間差に基づいてDPF12の異常判定を行うこともできる。すなわち、図7(a)〜(b)に示すように、DPF12に異常を生じている場合には、上流側の排気温度Tuと下流側の排気温度Tdとの変化の遅れがなくなることから、この時間差によってDPF12の異常判定をすることもできる。
【0076】
図8は、時間差によってDPF12の異常判定を行う例を具体的に示すフローチャート図である。この例では、まずステップS41において、電子制御装置はDPFの上流側の排気温度Tuが変化中であるか否かを判別する。具体的な判定方法は、図4のステップS11の場合と同様とすることができる。Yesと判定されるまでステップS41が繰り返され、ステップS41においてYesと判定された場合には、ステップS42に進み、電子制御装置はそのときの上流側の排気温度Tu0と、開始時間TIstartとを読み込み記憶する。
【0077】
次いで、ステップS43において、電子制御装置はDPFの下流側の排気温度Tdが記憶した排気温度Tu0に到達したか否かを判別する。そして、下流側の排気温度Tdが記憶した排気温度Tu0に到達すると(Yes判定)、ステップS44に進み、電子制御装置はそのときの終了時間TIendを読み込み記憶する。次いで、ステップS45において、電子制御装置は、開始時間TIstartと終了時間TIendとの時間差が所定の時間差閾値ΔTIthre未満であるか否かを判別する。時間差閾値ΔTIthreは、DPF12の熱伝達効率や、異常状態のレベル等を考慮して最適な値とすることができる。
【0078】
ステップS45においてYesと判定される場合には、上流側の排気温度Tuと下流側の排気温度Tdとの温度変化の時間差が大きくなる状況であるにもかかわらず、時間差が生じていないことから、電子制御装置は、ステップS46に進んでDPFの異常発生を知らせるフラグを立ててDPFの異常判定を終了する。一方、ステップS45においてNoと判定される場合には、現在の排気の状況に応じて、上流側の排気温度Tuと下流側の排気温度Tdとの温度変化の時間差が生じていることから、電子制御装置は、ステップS47に進んでDPFの異常発生を知らせるフラグを下ろした状態としてDPFの異常判定を終了する。
【0079】
このようにDPFの異常判定を実行することによっても、差圧センサの信頼性に依存せずにDPFの異常判定を行うことができ、結果的に差圧センサの異常判定の信頼性を高めることができる。
【0080】
(3)本実施の形態にかかる差圧センサの異常診断装置よる異常診断のルーチンは、DPF12の再生制御が実行された後、すなわち、DPF12におけるPMの捕集量が少ない状態で実行されることが好ましい。PMの捕集量が少ない状態であれば、PMの捕集量を考慮しないで差圧検出値ΔPが適切な値を示しているか否かを判定することができるため、より正確に上流ホース17又は下流ホース19の異常を判定することができる。
【符号の説明】
【0081】
1:内燃機関、3:排気管、5:燃料噴射弁、7:上流側排気通路、9:下流側排気通路、10:排気浄化装置、12:パティキュレートフィルタ(DPF)、13:NOX浄化触媒、15:差圧センサ、17:上流側圧力導入ホース(上流ホース)、19:下流側圧力導入ホース(下流ホース)、30:電子制御装置(差圧センサの異常診断装置)、31:差圧検出手段、33:第1の判定手段、35:第2の判定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に備えられたパティキュレートフィルタと、前記パティキュレートフィルタの前後の差圧を検出するための差圧センサと、を備えた排気浄化装置における前記差圧センサの異常の有無を診断するための差圧センサの異常診断装置において、
前記パティキュレートフィルタの前後の温度に基づいて前記パティキュレートフィルタの異常判定を行う第1の判定手段と、
前記第1の判定手段による判定結果、及び、前記差圧センサによって検出される差圧検出値に基づいて前記差圧センサの異常判定を行う第2の判定手段と、
を備えることを特徴とする差圧センサの異常診断装置。
【請求項2】
前記第2の判定手段は、前記第1の判定手段の判定結果が異常なし、かつ、前記差圧検出値が所定の上限閾値以上のときに、前記パティキュレートフィルタよりも下流側の排気通路に接続される前記差圧センサの圧力導入ホースに異常ありと判定することを特徴とする請求項1に記載の差圧センサの異常診断装置。
【請求項3】
前記第2の判定手段は、前記第1の判定手段の判定結果が異常なし、かつ、前記差圧検出値が所定の下限閾値以下のときに、前記パティキュレートフィルタよりも上流側の排気通路に接続される前記差圧センサの圧力導入ホースに異常ありと判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の差圧センサの異常診断装置。
【請求項4】
前記第2の判定手段は、前記第1の判定手段の判定結果が異常あり、かつ、前記差圧検出値が正常範囲のときに、前記パティキュレートフィルタよりも上流側又は下流側の排気通路に接続される前記差圧センサの圧力導入ホースに異常ありと判定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の差圧センサの異常診断装置。
【請求項5】
前記圧力導入ホースが大気開放状態となっている異常を想定し、排気流量に応じて、前記上限閾値、前記下限閾値又は前記正常範囲を設定することを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の差圧センサの異常診断装置。
【請求項6】
前記第1の判定手段は、前記パティキュレートフィルタよりも上流側の排気温度が変化した場合に、前記パティキュレートフィルタよりも上流側の排気温度と下流側の排気温度との差が所定の温度差閾値未満のときに前記パティキュレートフィルタに異常ありと判定することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の差圧センサの異常診断装置。
【請求項7】
前記第1の判定手段は、前記パティキュレートフィルタよりも上流側の排気温度が変化した場合に、前記パティキュレートフィルタよりも下流側の排気温度が前記上流側の排気温度の変化度合いに到達するまでの時間が所定の時間閾値未満のときに前記パティキュレートフィルタに異常ありと判定することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の差圧センサの異常診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−2366(P2013−2366A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134568(P2011−134568)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】