希土類磁石の製造方法
【課題】HDDR処理を用いて希土類磁石を製造する際に、従来よりも高い磁化を実現できる製造方法を提供する。
【解決手段】R2Fe14B粉末を作成する工程;
上記R2Fe14B粉末に水素化分解処理を施してNdH2、Fe、Fe2Bの3相に分解する工程;
上記3相の粉末に別のR2Fe14B粉末を混合する工程;
得られた混合粉末を磁場中で圧粉成形する工程;
次いで加圧成形する工程;および
脱水素再結合処理を行なう工程
を含むことを特徴とする希土類磁石の製造方法。
【解決手段】R2Fe14B粉末を作成する工程;
上記R2Fe14B粉末に水素化分解処理を施してNdH2、Fe、Fe2Bの3相に分解する工程;
上記3相の粉末に別のR2Fe14B粉末を混合する工程;
得られた混合粉末を磁場中で圧粉成形する工程;
次いで加圧成形する工程;および
脱水素再結合処理を行なう工程
を含むことを特徴とする希土類磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁化が向上した希土類磁石をHDDR法によって製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ネオジム磁石(Nd2Fe14B)で代表される希土類磁石は、磁束密度が高く極めて強力な永久磁石として種々の用途に用いられており、優れた磁気特性を得るために、微細な結晶粒径を確保する製造方法が採られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、HDDR法を用いて細粒化を行なうR−Fe−B希土類磁石の製造方法が開示されている。すなわち、Nd2Fe14Bの圧粉体を高温でのHD処理(hydrogenation-decomposition:水素化・相分解)によりNdH2、Fe、Fe2Bに分解し、DR処理(desorption-recombination:脱水素化・再結合)により、再びNd2Fe14Bに再結合させる。これにより結晶粒径が数百nmに微細化して高い保磁力を実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2008/065903
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、HDDR処理を用いて希土類磁石を製造する際に、上記従来の方法よりも高い磁化を実現できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、下記の工程:
R2Fe14B粉末を作成する工程;
上記R2Fe14B粉末に水素化分解処理を施してNdH2、Fe、Fe2Bの3相に分解する工程;
上記3相の粉末に別のR2Fe14B粉末を混合する工程;
得られた混合粉末を磁場中で圧粉成形する工程;
次いで加圧成形する工程;および
脱水素再結合処理を行なう工程
を含むことを特徴とする希土類磁石の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、水素化分解(HD)処理後、磁場中圧粉成形し、更に加圧成形した後に、脱水素(DR)処理する。磁場中圧粉成形と次の加圧成形により、添加粉末Nd2Fe14Bの結晶方位の影響を受ける範囲内に存在する分解相NdH2、Fe、Fe2Bの量が増加し、脱水素(DR)処理時の異方化効果が大きくなり、磁化が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明による加圧成形時の荷重と飽和磁化との関係を示す。
【図2】本発明による加圧成形後の嵩密度と飽和磁化との関係を示す。
【図3】本発明による加圧成形後の嵩密度と脱水素時間との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のプロセスを従来のプロセスと比較して説明する。
本発明:HD処理→混合→磁場中圧粉(配向)→加圧成形(配向促進)→DR処理
従来 :HD処理――――――――――――――――――――――――→DR処理
【0010】
すなわち、従来は下記のプロセスであった。
(1)Nd2Fe14B粉末を作成
(2)水素化分解(HD):Nd2Fe14B→[NdH2、Fe、Fe2B]
(3)脱水素再結合(DR):[NdH2、Fe、Fe2B]→Nd2Fe14B(微細化)
NdH2、Fe2B、Feの結晶方位がバラバラになっているため、最終的に製造されるNdFeB磁石の結晶方位もバラバラで配向が弱い。すなわち、異方性が低く大きな磁化が得られない。
【0011】
これに対して、本発明では、下記のプロセスを行なう。
(1)Nd2Fe14B粉末を作成
(2)水素化分解(HD):Nd2Fe14B→[NdH2、Fe、Fe2B]
(3)Nd2Fe14B粉末と混合:[NdH2、Fe、Fe2B]+Nd2Fe14B
(4)磁場中圧粉(配向)
(5)加圧成形(配向促進)
(6)脱水素再結合(DR):[NdH2、Fe、Fe2B]→Nd2Fe14B(微細化)
【0012】
工程(1)において希土類磁石組成の粉末作成し、工程(2)においてこれを水素化分解して3相[NdH2、Fe、Fe2B]とするまでは従来と同じである。
【0013】
本発明の特徴は、工程(3)(4)(5)にある。
工程(3)においてNd2Fe14Bの水素化分解(HD)により相分解したNdH2、Fe、Fe2Bの粉末に、Nd2Fe14Bの粉末を添加してから、工程(4)において混合粉末を磁場中で圧粉する圧粉配向を行なった後に、工程(5)で加圧成形して配向を更に促進させる。ただし、工程(4)の磁場中圧粉による配向および工程(5)の加圧成形による配向促進の「配向」および「配向促進」が実際に起きるのは、最後の工程(6)における脱水素再結合(DR)の過程である。
【0014】
すなわち、工程(6)において脱水素再結合(DR)の際に生成される再結合核の結晶方位が、工程(3)で混合したNd2Fe14B相との相互作用で揃うことにより「配向」が起きる。しかし、HD処理により相分解した状態で、一つの粉末粒子内にNdH2、Fe、Fe2Bの3相が共存しており、添加したNd2Fe14Bの粉末と混合されても、Nd2Fe14Bの周囲でその方位の影響を受ける範囲内にこれら3相が均一に分散せず、結局、DR処理時にNd2Fe14Bの影響を受けずに残る分解相が多くなる。そのため、異方性を十分に高めることができず、磁化の大きな向上を得るには、更に配向促進が必要である。
【0015】
そこで、工程(5)において更に加圧成形することにより、添加粉末Nd2Fe14Bの結晶方位の影響を受ける範囲内に存在する分解相NdH2、Fe、Fe2Bの量が増加し、工程(6)において脱水素再結合(DR)処理時の異方化効果が大きくなり、磁化が大幅に向上する。
【0016】
本発明において、工程(5)の加圧成形は、静水圧加圧により行なうことが望ましい。その際に荷重は2.94kN〜5.88kNとする。荷重が2.94kN未満であると成形が不十分であり、例えば冷間静水圧加圧(CIP)装置から崩さずに取り出すのが困難である。荷重が5.88kNを超えると粉末粒子同士の接触によって、添加したNd2Fe14B粉末粒子が割れてペレット内のNd2Fe14B粒子の向きにバラツキが生じるため、再結合後の異方性が低下してしまい配向が不十分になり飽和磁化が低下する。
【0017】
ここで規定した荷重は、荷重負荷面積0.0314m2の使用装置の場合であり、荷重値は装置に依存する。装置に依存しない単位荷重負荷面積当たりの圧力は、下記式により換算される。
換算式: 圧力値=[荷重値]/[上記荷重負荷面積値]
したがって、上記荷重範囲2.94kN〜5.88kNは圧力範囲0.094MPa〜0.187MPaと換算される。
【0018】
上記加圧成形は、一軸加圧で行なってもよい。その場合、荷重範囲は20kN〜50kNとする。下限値および上限値の限定理由は、上記静水圧加圧について説明した理由と同じである。
【0019】
ここで規定した荷重は、荷重負荷面積4.98×10−5m2の使用装置の場合であり、荷重値は装置に依存する。装置に依存しない単位荷重負荷面積当たりの圧力は、下記式により換算される。
換算式: 圧力値=[荷重値]/[上記荷重負荷面積値]
したがって、上記荷重範囲20kN〜50kNは圧力範囲402MPa〜1005MPaと換算される。
【実施例】
【0020】
〔実施例1〕
本発明により下記の手順および条件にてNd2Fe14B希土類磁石を作製した。
(1)Nd2Fe14B合金の作製
Nd2Fe14B組成に応じた配合でNd、FeB、Feの各試薬(高純度化学社製)を秤量し、アーク溶解して合金インゴットを得た。
上記インゴットに、Ar雰囲気中にて、昇温速度200℃/時間で1000℃に加熱して20時間保持し、降温速度200℃/時間で室温まで冷却した。
カッターミルおよび乳鉢などにより粉砕して、粒径50〜100μmのNd2Fe14B粉末を得た。
【0021】
(2)水素化分解(HD)処理
上記のNd2Fe14B粉末を真空容器に装入し、真空度1×10−7MPaに真空引きしながら、昇温速度25℃/分で850℃に加熱して水素雰囲気0.5気圧で1時間保持した後、炉冷で室温まで冷却した。
【0022】
(3)混合処理
上記HD処理後の3相分解粉末3gに、Nd2Fe14B粉末1gを添加し、ボールミル(FRITSCH社製遊星型ボールミル)にて400rpmで60分間混合した。
【0023】
(4)磁場中配向圧粉
得られた混合粉末をペレット作製冶具に装入し、1000Oeの磁場を印加しながら手動にてプレスした。荷重は1kNであった。その際、ペレットの縦横長さが同程度の方が、次の加圧成形において高い静水圧を負荷できるので好ましい。これにより、添加したNd2Fe14B粉末の磁化容易軸と印加磁場方向が平行になるようにNd2Fe14B粉末粒子が回転する。
【0024】
(5)加圧成形
得られたペレットを4個用い、冷間静水圧加圧装置(CIP)でそれぞれ0.3ton(2.94kN)、0.6ton(5.88kN)、1ton(9.8kN)、2ton(19.6kN)の荷重を負荷して成形した。
荷重負荷面積は0.0314m2であったので、圧力換算するとそれぞれ0.094MPa、0.187MPa、0.312MPa、0.624MPaであった。
【0025】
(6)脱水素再結合(DR)処理
加圧成型した試料を真空容器に装入し、真空度1×10−9MPaに真空引きしながら、昇温速度25℃/分で750℃に加熱し、放出水素量を水上捕集で測定し、水素放出が無くなった時点で加熱を停止し、炉冷で室温まで冷却した。
【0026】
〔実施例2〕
上記(5)加圧成形を一軸加圧で行なった以外は実施例1と同様な手順および条件でNd2Fe14B希土類磁石を作製した。
<加圧成形条件>
加圧様式:一軸加圧
負荷荷重:10kN、20kN
圧力換算:201MPa、402MPa (荷重負荷面積=4.98×10−5m2)
【0027】
〔比較例〕
実施例1とほぼ同一条件(*)で(1)Nd2Fe14B合金の作製、(2)水素化分解(HD)処理、(6)脱水素再結合(DR)処理を行なってNd2Fe14B希土類磁石を作製した。
(*)実施例1と異なる条件
(2)HD処理において、水素雰囲気1気圧で4時間保持。
(6)DR処理において、加熱温度850℃。
【0028】
<磁気特性の評価>
実施例1、2、比較例のDR処理後の試料を乳鉢で粉砕して粉末試料とし下記の試験に供した。
粉末試料を粉末測定用ケース内に液体状に溶かしたパラフィンと共に装入した。
試料に磁場20000Oeを印加しながら再度パラフィンを温めて溶かし、試料を配向させた。すなわち、液状パラフィン中にある粉末試料の磁化容易軸と印加磁場方向とが平行になるように試料粉末粒子が回転する。
振動式磁束計(VSM)により磁化曲線を測定した。測定結果を図1にまとめて示す。
【0029】
図1から、本発明による実施例1、2共に従来法による比較例に比べて飽和磁化が向上していることが分かる。更に、本発明の実施例1、2の間で、加圧成形の荷重様式により大きな差が認められる。すなわち、加圧成形を一軸加圧で行なった実施例2に比べて、加圧成形を静水圧加圧で行なった実施例1は、飽和磁化の増加が非常に大きい。
【0030】
一軸加圧(実施例2)の場合、10kNの荷重では試料ペレット内での加圧状態にバラツキが避けられないため、添加混合したNd2Fe14B粉末の影響を受ける部分と受けない部分とが存在し、磁化の向上が小さい。
【0031】
静水圧加圧(実施例1)の場合、2.94kNの荷重でも試料ペレットに対して等方的に圧力が負荷されるため、試料ペレット内での加圧状態にバラツキが少なく、添加混合したNd2Fe14B粉末による磁化向上効果がペレット全体に亘って均一に有効に現れたため、磁化が顕著に向上したものと考えられる。荷重5.88kN以上で磁化が減少しているのは、過大な荷重を負荷されたペレット内で、添加Nd2Fe14B粒子が割れてしまい、磁場中圧粉配向(5)で揃えた結晶方位が維持されず、ペレット内における異方性(配向度)が低下したためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、HDDR処理を用いて希土類磁石を製造する際に、従来よりも高い磁化を実現できる製造方法が提供される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁化が向上した希土類磁石をHDDR法によって製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ネオジム磁石(Nd2Fe14B)で代表される希土類磁石は、磁束密度が高く極めて強力な永久磁石として種々の用途に用いられており、優れた磁気特性を得るために、微細な結晶粒径を確保する製造方法が採られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、HDDR法を用いて細粒化を行なうR−Fe−B希土類磁石の製造方法が開示されている。すなわち、Nd2Fe14Bの圧粉体を高温でのHD処理(hydrogenation-decomposition:水素化・相分解)によりNdH2、Fe、Fe2Bに分解し、DR処理(desorption-recombination:脱水素化・再結合)により、再びNd2Fe14Bに再結合させる。これにより結晶粒径が数百nmに微細化して高い保磁力を実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2008/065903
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、HDDR処理を用いて希土類磁石を製造する際に、上記従来の方法よりも高い磁化を実現できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、下記の工程:
R2Fe14B粉末を作成する工程;
上記R2Fe14B粉末に水素化分解処理を施してNdH2、Fe、Fe2Bの3相に分解する工程;
上記3相の粉末に別のR2Fe14B粉末を混合する工程;
得られた混合粉末を磁場中で圧粉成形する工程;
次いで加圧成形する工程;および
脱水素再結合処理を行なう工程
を含むことを特徴とする希土類磁石の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、水素化分解(HD)処理後、磁場中圧粉成形し、更に加圧成形した後に、脱水素(DR)処理する。磁場中圧粉成形と次の加圧成形により、添加粉末Nd2Fe14Bの結晶方位の影響を受ける範囲内に存在する分解相NdH2、Fe、Fe2Bの量が増加し、脱水素(DR)処理時の異方化効果が大きくなり、磁化が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明による加圧成形時の荷重と飽和磁化との関係を示す。
【図2】本発明による加圧成形後の嵩密度と飽和磁化との関係を示す。
【図3】本発明による加圧成形後の嵩密度と脱水素時間との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のプロセスを従来のプロセスと比較して説明する。
本発明:HD処理→混合→磁場中圧粉(配向)→加圧成形(配向促進)→DR処理
従来 :HD処理――――――――――――――――――――――――→DR処理
【0010】
すなわち、従来は下記のプロセスであった。
(1)Nd2Fe14B粉末を作成
(2)水素化分解(HD):Nd2Fe14B→[NdH2、Fe、Fe2B]
(3)脱水素再結合(DR):[NdH2、Fe、Fe2B]→Nd2Fe14B(微細化)
NdH2、Fe2B、Feの結晶方位がバラバラになっているため、最終的に製造されるNdFeB磁石の結晶方位もバラバラで配向が弱い。すなわち、異方性が低く大きな磁化が得られない。
【0011】
これに対して、本発明では、下記のプロセスを行なう。
(1)Nd2Fe14B粉末を作成
(2)水素化分解(HD):Nd2Fe14B→[NdH2、Fe、Fe2B]
(3)Nd2Fe14B粉末と混合:[NdH2、Fe、Fe2B]+Nd2Fe14B
(4)磁場中圧粉(配向)
(5)加圧成形(配向促進)
(6)脱水素再結合(DR):[NdH2、Fe、Fe2B]→Nd2Fe14B(微細化)
【0012】
工程(1)において希土類磁石組成の粉末作成し、工程(2)においてこれを水素化分解して3相[NdH2、Fe、Fe2B]とするまでは従来と同じである。
【0013】
本発明の特徴は、工程(3)(4)(5)にある。
工程(3)においてNd2Fe14Bの水素化分解(HD)により相分解したNdH2、Fe、Fe2Bの粉末に、Nd2Fe14Bの粉末を添加してから、工程(4)において混合粉末を磁場中で圧粉する圧粉配向を行なった後に、工程(5)で加圧成形して配向を更に促進させる。ただし、工程(4)の磁場中圧粉による配向および工程(5)の加圧成形による配向促進の「配向」および「配向促進」が実際に起きるのは、最後の工程(6)における脱水素再結合(DR)の過程である。
【0014】
すなわち、工程(6)において脱水素再結合(DR)の際に生成される再結合核の結晶方位が、工程(3)で混合したNd2Fe14B相との相互作用で揃うことにより「配向」が起きる。しかし、HD処理により相分解した状態で、一つの粉末粒子内にNdH2、Fe、Fe2Bの3相が共存しており、添加したNd2Fe14Bの粉末と混合されても、Nd2Fe14Bの周囲でその方位の影響を受ける範囲内にこれら3相が均一に分散せず、結局、DR処理時にNd2Fe14Bの影響を受けずに残る分解相が多くなる。そのため、異方性を十分に高めることができず、磁化の大きな向上を得るには、更に配向促進が必要である。
【0015】
そこで、工程(5)において更に加圧成形することにより、添加粉末Nd2Fe14Bの結晶方位の影響を受ける範囲内に存在する分解相NdH2、Fe、Fe2Bの量が増加し、工程(6)において脱水素再結合(DR)処理時の異方化効果が大きくなり、磁化が大幅に向上する。
【0016】
本発明において、工程(5)の加圧成形は、静水圧加圧により行なうことが望ましい。その際に荷重は2.94kN〜5.88kNとする。荷重が2.94kN未満であると成形が不十分であり、例えば冷間静水圧加圧(CIP)装置から崩さずに取り出すのが困難である。荷重が5.88kNを超えると粉末粒子同士の接触によって、添加したNd2Fe14B粉末粒子が割れてペレット内のNd2Fe14B粒子の向きにバラツキが生じるため、再結合後の異方性が低下してしまい配向が不十分になり飽和磁化が低下する。
【0017】
ここで規定した荷重は、荷重負荷面積0.0314m2の使用装置の場合であり、荷重値は装置に依存する。装置に依存しない単位荷重負荷面積当たりの圧力は、下記式により換算される。
換算式: 圧力値=[荷重値]/[上記荷重負荷面積値]
したがって、上記荷重範囲2.94kN〜5.88kNは圧力範囲0.094MPa〜0.187MPaと換算される。
【0018】
上記加圧成形は、一軸加圧で行なってもよい。その場合、荷重範囲は20kN〜50kNとする。下限値および上限値の限定理由は、上記静水圧加圧について説明した理由と同じである。
【0019】
ここで規定した荷重は、荷重負荷面積4.98×10−5m2の使用装置の場合であり、荷重値は装置に依存する。装置に依存しない単位荷重負荷面積当たりの圧力は、下記式により換算される。
換算式: 圧力値=[荷重値]/[上記荷重負荷面積値]
したがって、上記荷重範囲20kN〜50kNは圧力範囲402MPa〜1005MPaと換算される。
【実施例】
【0020】
〔実施例1〕
本発明により下記の手順および条件にてNd2Fe14B希土類磁石を作製した。
(1)Nd2Fe14B合金の作製
Nd2Fe14B組成に応じた配合でNd、FeB、Feの各試薬(高純度化学社製)を秤量し、アーク溶解して合金インゴットを得た。
上記インゴットに、Ar雰囲気中にて、昇温速度200℃/時間で1000℃に加熱して20時間保持し、降温速度200℃/時間で室温まで冷却した。
カッターミルおよび乳鉢などにより粉砕して、粒径50〜100μmのNd2Fe14B粉末を得た。
【0021】
(2)水素化分解(HD)処理
上記のNd2Fe14B粉末を真空容器に装入し、真空度1×10−7MPaに真空引きしながら、昇温速度25℃/分で850℃に加熱して水素雰囲気0.5気圧で1時間保持した後、炉冷で室温まで冷却した。
【0022】
(3)混合処理
上記HD処理後の3相分解粉末3gに、Nd2Fe14B粉末1gを添加し、ボールミル(FRITSCH社製遊星型ボールミル)にて400rpmで60分間混合した。
【0023】
(4)磁場中配向圧粉
得られた混合粉末をペレット作製冶具に装入し、1000Oeの磁場を印加しながら手動にてプレスした。荷重は1kNであった。その際、ペレットの縦横長さが同程度の方が、次の加圧成形において高い静水圧を負荷できるので好ましい。これにより、添加したNd2Fe14B粉末の磁化容易軸と印加磁場方向が平行になるようにNd2Fe14B粉末粒子が回転する。
【0024】
(5)加圧成形
得られたペレットを4個用い、冷間静水圧加圧装置(CIP)でそれぞれ0.3ton(2.94kN)、0.6ton(5.88kN)、1ton(9.8kN)、2ton(19.6kN)の荷重を負荷して成形した。
荷重負荷面積は0.0314m2であったので、圧力換算するとそれぞれ0.094MPa、0.187MPa、0.312MPa、0.624MPaであった。
【0025】
(6)脱水素再結合(DR)処理
加圧成型した試料を真空容器に装入し、真空度1×10−9MPaに真空引きしながら、昇温速度25℃/分で750℃に加熱し、放出水素量を水上捕集で測定し、水素放出が無くなった時点で加熱を停止し、炉冷で室温まで冷却した。
【0026】
〔実施例2〕
上記(5)加圧成形を一軸加圧で行なった以外は実施例1と同様な手順および条件でNd2Fe14B希土類磁石を作製した。
<加圧成形条件>
加圧様式:一軸加圧
負荷荷重:10kN、20kN
圧力換算:201MPa、402MPa (荷重負荷面積=4.98×10−5m2)
【0027】
〔比較例〕
実施例1とほぼ同一条件(*)で(1)Nd2Fe14B合金の作製、(2)水素化分解(HD)処理、(6)脱水素再結合(DR)処理を行なってNd2Fe14B希土類磁石を作製した。
(*)実施例1と異なる条件
(2)HD処理において、水素雰囲気1気圧で4時間保持。
(6)DR処理において、加熱温度850℃。
【0028】
<磁気特性の評価>
実施例1、2、比較例のDR処理後の試料を乳鉢で粉砕して粉末試料とし下記の試験に供した。
粉末試料を粉末測定用ケース内に液体状に溶かしたパラフィンと共に装入した。
試料に磁場20000Oeを印加しながら再度パラフィンを温めて溶かし、試料を配向させた。すなわち、液状パラフィン中にある粉末試料の磁化容易軸と印加磁場方向とが平行になるように試料粉末粒子が回転する。
振動式磁束計(VSM)により磁化曲線を測定した。測定結果を図1にまとめて示す。
【0029】
図1から、本発明による実施例1、2共に従来法による比較例に比べて飽和磁化が向上していることが分かる。更に、本発明の実施例1、2の間で、加圧成形の荷重様式により大きな差が認められる。すなわち、加圧成形を一軸加圧で行なった実施例2に比べて、加圧成形を静水圧加圧で行なった実施例1は、飽和磁化の増加が非常に大きい。
【0030】
一軸加圧(実施例2)の場合、10kNの荷重では試料ペレット内での加圧状態にバラツキが避けられないため、添加混合したNd2Fe14B粉末の影響を受ける部分と受けない部分とが存在し、磁化の向上が小さい。
【0031】
静水圧加圧(実施例1)の場合、2.94kNの荷重でも試料ペレットに対して等方的に圧力が負荷されるため、試料ペレット内での加圧状態にバラツキが少なく、添加混合したNd2Fe14B粉末による磁化向上効果がペレット全体に亘って均一に有効に現れたため、磁化が顕著に向上したものと考えられる。荷重5.88kN以上で磁化が減少しているのは、過大な荷重を負荷されたペレット内で、添加Nd2Fe14B粒子が割れてしまい、磁場中圧粉配向(5)で揃えた結晶方位が維持されず、ペレット内における異方性(配向度)が低下したためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、HDDR処理を用いて希土類磁石を製造する際に、従来よりも高い磁化を実現できる製造方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程:
R2Fe14B粉末を作成する工程;
上記R2Fe14B粉末に水素化分解処理を施してNdH2、Fe、Fe2Bの3相に分解する工程;
上記3相の粉末に別のR2Fe14B粉末を混合する工程;
得られた混合粉末を磁場中で圧粉成形する工程;
次いで加圧成形する工程;および
脱水素再結合処理を行なう工程
を含むことを特徴とする希土類磁石の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、上記加圧成形を静水圧加圧により行なうことを特徴とする希土類磁石の製造方法。
【請求項3】
請求項2において、上記静水圧加圧を圧力0.094〜0.187MPaで行なうことを特徴とする希土類磁石の製造方法。
【請求項4】
請求項1において、上記加圧成形を一軸加圧により行なうことを特徴とする希土類磁石の製造方法。
【請求項5】
請求項4において、上記一軸加圧を圧力402〜1005MPaで行なうことを特徴とする希土類磁石の製造方法。
【請求項1】
下記の工程:
R2Fe14B粉末を作成する工程;
上記R2Fe14B粉末に水素化分解処理を施してNdH2、Fe、Fe2Bの3相に分解する工程;
上記3相の粉末に別のR2Fe14B粉末を混合する工程;
得られた混合粉末を磁場中で圧粉成形する工程;
次いで加圧成形する工程;および
脱水素再結合処理を行なう工程
を含むことを特徴とする希土類磁石の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、上記加圧成形を静水圧加圧により行なうことを特徴とする希土類磁石の製造方法。
【請求項3】
請求項2において、上記静水圧加圧を圧力0.094〜0.187MPaで行なうことを特徴とする希土類磁石の製造方法。
【請求項4】
請求項1において、上記加圧成形を一軸加圧により行なうことを特徴とする希土類磁石の製造方法。
【請求項5】
請求項4において、上記一軸加圧を圧力402〜1005MPaで行なうことを特徴とする希土類磁石の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図2】
【図3】
【公開番号】特開2013−16628(P2013−16628A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148192(P2011−148192)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]