説明

帯電調整剤を含有する皮膜を備えたフレーク顔料、それを含んだ粉体メタリック塗料、それを用いた塗膜およびそのフレーク顔料の製造方法

フレーク状の形状を有する基体粒子とこの基体粒子の表面を被覆する帯電調整剤を含有する皮膜とを備えるフレーク顔料と、樹脂粉体と、を含有する、粉体メタリック塗料。ここで、このフレーク顔料の帯電値と前記樹脂粉体の帯電値との間に下記の式1および式2で規定される関係が成立することが好ましい。なお、式1および式2において、Cはフレーク顔料の帯電値(μC/g)を示し、Cは樹脂粉末の帯電値(μC/g)を示す。|C−C|≦10・・・式1 10≦|C|≦40・・・式2

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体塗料用に用いられるフレーク顔料に関する。さらに詳しくは、本発明は、優れた輝度感およびメタリック感を発現および維持させる目的のために帯電値が調整された新規なフレーク顔料に関する。
【0002】
また、本発明は、上記のフレーク顔料を含有する粉体メタリック塗料に関する。さらに、本発明は、上記のフレーク顔料を含有する粉体メタリック塗料から得られる塗膜に関する。そして、本発明は、上記のフレーク顔料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
粉体塗料は、有機溶剤を使用しない低公害型塗料として、自動車部品、電化製品、家具、工作機械、事務機器、玩具などに需要が増加しつつある。粉体塗料による塗装は低公害型であるとともに、1回の塗装で形成される塗膜が厚く、従来の溶剤型塗料のように何度も重ね塗りする必要がないため、塗装時間を短縮することができる。さらに、塗料中に溶剤を含有しないため、塗膜中にピンホールを発生させることがないなどの利点も有している。上記のような特性を有する粉体塗料では、アルミニウムなどのフレーク顔料を含有しない場合には塗膜特性は良好であり、特に問題はない。
【0004】
しかし、粉体塗料をフレーク顔料を含んだメタリック塗装仕上げに適用する場合、フレーク顔料を基材に対し平行に配列させることが困難となるため色調が暗くなり、十分なメタリック感が得られないという欠点がある。そのため、このような粉体メタリック塗料の有する欠点を克服するため、各方面で多くの研究開発努力がなされてきた。
【0005】
従来開発された粉体メタリック塗料の製造方法としては、金属フレーク顔料を溶融法によりあらかじめ樹脂や着色顔料と十分混練した後、粉砕などにより粉末化するメルトブレンド法、表面に金属フレーク顔料を付着させた樹脂粉体を使用するボンデッド法、樹脂粉体とフレーク顔料を混合して塗装するドライブレンド法、などがある(たとえば、特許文献1、特許文献2、特許文献3および特許文献4参照。)。
【0006】
しかし、メルトブレンド法においては、混練工程やその後の粉砕などによる樹脂粉体の粒度調整工程でフレーク顔料の変形が生じやすい。そのため、この方法で製造された粉体メタリック塗料を塗装して得られた塗膜の外観は十分に良好なものであるとはいえない。さらに、この製造方法においては、フレーク顔料としてアルミニウム粒子を用いた場合、粉砕工程においてアルミニウムの活性な表面が露出し、発火、粉塵爆発などの危険性が高くなるという問題がある。
【0007】
ボンデッド法としては、ブラシポリッシャーによりフレーク顔料を樹脂粉体表面に付着させる方法や、フレーク顔料で被覆されたアルミナボールなどの分散メディアに樹脂粉体を接触せしめて、樹脂粉体にフレーク顔料を転写し結合させる方法などがある。この方法では、塗膜中へのフレーク顔料の導入率が安定しており、基材に付着せずに回収された粉体メタリック塗料を再使用できるというメリットがある。
【0008】
しかし、これらのボンデッド法では物理的なストレスによりフレーク顔料と樹脂粉体を圧着結合させているため、フレーク顔料の変形が生じやすく、優れたメタリック感がえられ難い。さらに、結合の強さが弱いため、樹脂粉体同士の結合(ブロッキング)が生じがたいという利点がある反面、フレーク顔料のすべてを樹脂粉体に結合させるのは困難であるため、樹脂粉体と結合しない遊離のフレーク顔料の粒子も多く残存する。
【0009】
そして、遊離のフレーク顔料が多くなれば、付着効率の差から、塗料を回収して使用する場合に樹脂粉体とフレーク顔料の配合比が変わり、塗料回収後の再使用ができなくなる。さらに、フレーク顔料としてアルミニウム粒子などの金属顔料を用いる場合には、遊離のフレーク顔料が多く存在するため、発火、粉塵爆発などの危険も高くなる。
【0010】
樹脂粉体とフレーク顔料の結合力が弱くなるのは、特にフレーク顔料の粒径が大きい場合に顕著であり、このような粒径の大きいフレーク顔料の使用により初めて達成される優れた光輝感や高い輝度は、ボンデッドアルミでは得られにくいという問題が生じる。
【0011】
ドライブレンド法では、フレーク顔料の変形は比較的生じがたいという利点がある。しかし、フレーク顔料と樹脂粉体の帯電率が異なるため、塗装時に樹脂粉体とフレーク顔料の分離現象が生じやすい。そのため、塗膜の意匠性が低下するとともに、塗布前後で粉体メタリック塗料のフレーク顔料の含有率が変化するため、遊離のフレーク顔料が多い時の上記ボンデッド法と同様に、塗料を回収して使用すると色調が変化してしまい、塗料のリサイクルが事実上不可能であるという問題点がある。またドライブレンド法ではフレーク顔料を核としたスピットと呼ばれる塗膜ブツが発生することがある。この現象は長時間の静電塗装を続けた場合アルミニウムフレークなどのフレーク顔料が静電塗装機の電極周辺に付着堆積し最終的に塊状物として塗面へ付着し塗膜ブッとなるものである。
【0012】
また、粉体塗料にアクリル系樹脂粉体を使用する場合は、上記メルトブレンド法、ボンデッド法、ドライブレンド法のいずれを採用しても、また、フレーク顔料の有無に係わらず、被塗装物への付着効率が低いため、ポリエステル系樹脂粉体を使用した場合と比べて、必要以上の塗り重ねをしないと下地を隠蔽しない。
【0013】
さらに、従来、メタリック以外の粉体塗料分野においては、複数色の異なる粉体塗料をドライブレンド法で塗装する場合の不均一な色相、まだら感不良、濃淡不良を解消するため、各色の粉体塗料の帯電値を調整する方法が開示されている(たとえば、特許文献5および特許文献6参照。)。
【0014】
しかし、このような従来の方法をメタリック粉体塗料に応用しても、不均一な色相、まだら感不良、濃淡不良などはうまく解消されず、特にアクリル系樹脂粉体を使用したメタリック粉体塗料では必要以上の塗重ねをしないとフレーク顔料が下地を隠蔽しないという問題があった。
【0015】
上記のように、粉体メタリック塗料用のフレーク顔料あるいはそれを含有した粉体メタリック塗料の製造方法には種々の方法があるが、いずれの方法をもってしても、リサイクル性に優れ、危険が少なく、色調的にもメタリック感、光輝感ともに十分満足のいくフレーク顔料、フレーク顔料と樹脂粉体を含む粉体メタリック塗料およびその塗膜は得られていない。
【特許文献1】特開昭51−137725号公報
【特許文献2】特公昭57−35214号公報
【特許文献3】特開平9−71734号公報
【特許文献4】米国特許4,138,511号明細書
【特許文献5】特開平10−72557号公報
【特許文献6】特開平11−293161号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の課題は、粉体塗料において好適に使用可能であり、かつ塗膜に優れたメタリック感および高輝度感を与えるドライブレンド用のフレーク顔料を提供することである。
【0017】
また、本発明の他の課題は、塗装時にフレーク顔料と樹脂粉体との分離現象が生じ難く、塗装前後でフレーク顔料の含有率の変化が少なく、リサイクル性に優れ、アクリル系樹脂粉体を用いた場合でも必要以上の塗重ねをすることなくアルミニウムフレークによる下地隠蔽を可能とするドライブレンド用の粉体メタリック塗料を提供することである。
【0018】
さらに、本発明の別の課題は、優れたメタリック感および高光輝感を示し、スピットブツの発生が抑制される塗膜を提供することである。
【0019】
そして、本発明のもうひとつの課題は、粉体塗料において好適に使用可能であり、かつ塗膜に優れたメタリック感および高輝度感を与えるドライブレンド用のフレーク顔料を簡便かつ低コストで製造することができるフレーク顔料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者は、上記の課題を解決するためには、ドライブレンド法で粉体メタリック塗料を塗装する場合、塗料中のフレーク顔料の含有量と付着塗膜におけるフレーク顔料の含有量とを可能な限り近づける、すなわち以下の式(3)で示される導入率を100%に近づける必要があるとの着想を得た。
【0021】
導入率(%)=付着塗膜におけるフレーク顔料の含有量/塗料配合組成でのフレーク顔料の含有量×100(%)・・・(3)
ここで、この導入率の値は、通常の場合100%になることはなく、100%未満の値を示す場合が多い。
【0022】
本発明者は、上記の導入率を100%に近づけるべく、フレーク顔料の表面を種々の方法で表面処理して導入率を測定した。その結果、特定の皮膜でアルミニウムフレークをはじめとする基体粒子を被覆することによりフレーク顔料の帯電値を樹脂粉体の帯電値にあわせた場合に、上記導入率が100%に近づくことを見出した。
【0023】
さらに、本発明者は、アクリル系樹脂粉体を使用した粉体塗料では、従来の方法では必要以上の塗重ねをしないとフレーク顔料が下地を隠蔽しない理由が、次のような仕組みであることを見出した。すなわち、アクリル系樹脂粉体は正帯電する傾向があるために、ポリエステル系樹脂粉体のような負帯電傾向の樹脂と異なり、静電塗装時にたとえばコロナ帯電方式のように塗料に高い負の印加電圧を与えた場合でも、樹脂粉体の帯電量が小さく付着効率が低下するものである。その結果として、アクリル系樹脂粉体を使用した粉体塗料では、通常の手段では必要以上の塗重ねをしないと下地を隠蔽しない。
【0024】
そして、本発明者は、このような問題の解決手段としては、フレーク顔料の帯電値を調整するだけでなく、樹脂粉体の帯電値そのものも高い負の帯電値を持つように改質することが好ましいことを見出し、本発明を完成した。
【0025】
すなわち、本発明のフレーク顔料は、フレーク状の形状を有する基体粒子と、この基体粒子の表面を被覆する帯電調整剤を含有する皮膜と、を備える、フレーク顔料である。
【0026】
ここで、この基体粒子は金属を含有する材質からなることが好ましい。
【0027】
そして、この帯電調整剤は、負帯電調整剤および/または正帯電調整剤を含有することが望ましい。また、この負帯電調整剤は、アゾCr錯体、サリチル酸Al錯体およびスルホン酸基を有する樹脂系帯電調整剤からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。さらに、この正帯電調整剤は、アジン系化合物のニグロシン、アジン系化合物のニグロシン塩基類、アジン系化合物のニグロシン誘導体、ナフテン酸の金属塩類、ナフテン酸の4級アンモニウム塩、ナフテン酸のアルキルアミド、高級脂肪酸の金属塩類、高級脂肪酸の4級アンモニウム塩、高級脂肪酸のアルキルアミドおよび樹脂系化合物の4級アンモニウム塩からなる群より選ばれる1種以上であることが望ましい。
【0028】
本発明の粉体メタリック塗料は、上記のフレーク顔料と、樹脂粉体と、を含有する、粉体メタリック塗料である。
【0029】
ここで、このフレーク顔料の帯電値とこの樹脂粉体の帯電値との間には、下記の式1および式2で規定される関係が成立することが好ましい。
【0030】
|C−C|≦10・・・式1
10≦|C|≦40・・・式2
なお、式1および式2において、Cはフレーク顔料の帯電値(μC/g)を示し、Cは樹脂粉末の帯電値(μC/g)を示す。
【0031】
本発明の塗膜は、上記の粉体メタリック塗料を基材に粉体塗装し、熱硬化させることにより得られる塗膜である。
【0032】
本発明のフレーク顔料の製造方法は、フレーク状の形状を有する基体粒子と、この基体粒子の表面を被覆する帯電調整剤を含有する皮膜と、を備える、フレーク顔料の製造方法であって、この帯電調整剤が溶解しているこの帯電調整剤に対する良溶媒中にこの基体粒子を分散させるステップと、この帯電調整剤に対する貧溶媒をこの基体粒子が分散したこの良溶媒中に添加してこの皮膜をこの基体粒子表面に析出させるステップと、を備える、フレーク顔料の製造方法である。
【0033】
また、本発明のフレーク顔料の製造方法は、フレーク状の形状を有する基体粒子と、この基体粒子の表面を被覆する帯電調整剤を含有する皮膜と、を備える、フレーク顔料の製造方法であって、重合性モノマーとこの帯電調整剤とを混合して混合物を得るステップと、この混合物から得られる共重合樹脂を含有する皮膜をこの基体粒子表面に形成するステップと、を備える、フレーク顔料の製造方法であってもよい。
【発明の効果】
【0034】
下記に示すように、帯電調整剤を含有する皮膜を備えないフレーク顔料を使用した粉体メタリック塗料の場合には、比較例1、2で示すように塗膜へのフレーク顔料の導入率が低く、塗膜輝度感が不足し、スピットの発生が見られ、下地の隠蔽性にも劣る。
【0035】
一方、下記に示すように、帯電調整剤を含有する皮膜を備えたフレーク顔料および/または帯電調整剤を含有する樹脂粉体を使用して、フレーク顔料と樹脂粉体との帯電値を調整した場合には、塗膜へのフレーク顔料の導入率が高く、粉体メタリック塗料のリサイクル性が優れ、塗膜の輝度感も十分で、スピットも発生せず、下地の隠蔽性にも優れた粉体メタリック塗料が得られる。
【0036】
よって、本発明のフレーク顔料は、粉体塗料において好適に使用可能であり、かつ塗膜に優れたメタリック感および高輝度感を与えるドライブレンド用のフレーク顔料である。
【0037】
また、本発明の粉体メタリック塗料は、塗装時にフレーク顔料と樹脂粉体との分離現象が生じ難く、塗装前後でフレーク顔料の含有率の変化が少なく、リサイクル性に優れ、アクリル系樹脂粉体を用いた場合でも必要以上の塗重ねをすることなくアルミニウムフレークによる下地隠蔽を可能とするドライブレンド用の粉体メタリック塗料である。
【0038】
さらに、本発明の塗膜は、優れたメタリック感および高光輝感を示し、スピットブツの発生が抑制される塗膜である。
【0039】
そして、本発明のフレーク顔料の製造方法は、粉体塗料において好適に使用可能であり、かつ塗膜に優れたメタリック感および高輝度感を与えるドライブレンド用のフレーク顔料を簡便かつ低コストで製造することができるフレーク顔料の製造方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、実施の形態を示して本発明をより詳細に説明する。
【0041】
<フレーク顔料およびその製造方法>
本発明のフレーク顔料は、フレーク状の形状を有する基体粒子と、この基体粒子の表面を被覆する帯電調整剤を含有する皮膜と、を備える、フレーク顔料である。
【0042】
本発明のフレーク顔料に用いるフレーク状の形状を有する基体粒子は、特に限定するものではないが、たとえばアルミニウム、亜鉛、銅、ブロンズ、ニッケル、チタン、ステンレスなどの金属を含む材質からなるフレークおよびそれらの合金フレークなどが挙げられる。そして、これらの粒子の中でも、アルミニウムフレークは金属光沢に優れており、安価な上に比重が小さいため扱いやすく、特に好適である。
【0043】
上記の基体粒子として用いるアルミニウムフレークの平均粒径は、通常1〜100μmの範囲内が好ましく、3〜60μmの範囲内であることがより好ましい。この平均粒径が100μmを超える場合は、アルミニウムフレークが塗膜表面に突き出す結果となり、塗面の平滑性あるいは鮮映性が低下する傾向があり、この平均粒径が1μm未満の場合は、メタリック感あるいは光輝感が低下する傾向がある。
【0044】
上記の基体粒子として用いるアルミニウムフレークの平均厚みは、通常0.01〜5μmの範囲内が好ましく、0.02〜2μmの範囲内であることがより好ましい。この平均厚みが5μmを超える場合は、塗面の平滑性あるいは鮮映性が低下する傾向があることに加え、製造コストアップにもつながる場合もあり、この平均厚みが0.01μm未満の場合は、強度が低下する傾向があるばかりでなく、製造工程中の加工が困難になる場合がある。
【0045】
上記の基体粒子の平均粒径は、レーザー回折法、マイクロメッシュシーブ法、コールターカウンター法などの公知の粒度分布測定法により測定された粒度分布より体積平均を算出して求められる。平均厚みについては、フレーク顔料の隠蔽力と密度より算出される。
【0046】
また、上記の基体粒子として用いるアルミニウムフレークの表面には、磨砕時に添加する磨砕助剤が吸着していてもよい。磨砕助剤としては、たとえば脂肪酸(オレイン酸、ステアリン酸)、脂肪族アミン、脂肪族アミド、脂肪族アルコール、エステル化合物などが挙げられる。これらはアルミニウムフレーク表面の不必要な酸化を抑制し、光沢を改善する効果を有する。吸着量は、アルミニウムフレーク100質量部に対し2質量部未満であることが好ましい。2質量部以上の場合は、表面光沢が低下するおそれがある。
【0047】
本発明に用いる基体粒子に多彩な色彩を付与するため、基体粒子の表面に各種着色剤、着色顔料を付着させることができる。その着色剤、着色顔料としては、特に限定するものではないが、たとえば、キナクリドン、ジケトピロロピロール、イソインドリノン、インダンスロン、ペリレン、ペリノン、アントラキノン、ジオキサジン、ベンゾイミダゾロン、トリフェニルメタンキノフタロン、アントラピリミジン、黄鉛、パールマイカ、透明パールマイカ、着色マイカ、干渉マイカ、フタロシアニン、ハロゲン化フタロシアニン、アゾ顔料(アゾメチン金属錯体、縮合アゾなど)酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄、銅フタロシアニン、縮合多環類顔料、などが挙げられる。
【0048】
本発明に用いる基体粒子に着色顔料を付着させる方法は、特に限定されないが、分散剤で着色顔料を被覆した後、非極性溶媒中で基体粒子と攪拌混合することにより、当該基体粒子に付着させる方法が好ましい。前記分散剤としては、安息香酸、安息香酸ビニル、サリチル酸、アントラニル酸、m−アミノ安息香酸、p−アミノ安息香酸、3−アミノ−4−メチル安息香酸、3,4−ジアミノ安息香酸、p−アミノサリチル酸、1−ナフトエ酸、2−ナフトエ酸、ナフテン酸、3−アミノ−2−ナフトエ酸、ケイ皮酸、アミノケイ皮酸などの芳香族カルボン酸;エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカン、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,8−ジアミノナフタレン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、ステアリルプロピレンジアミン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシランなどのアミノ化合物;アルミニウムもしくはチタニウムキレート化合物などが好適に使用される。
【0049】
同じく、本発明に用いる基体粒子に多彩な色彩を付与するため、基体粒子の表面に干渉膜などを形成することができる。その方法としては、特に限定はされないが、たとえば、金属フレークからなる基体粒子の個々の粒子表面に光干渉性酸化皮膜を形成するには、酸素量をコントロールした雰囲気中で金属フレークからなる基体粒子を300〜700℃程度に加熱することにより、表面に空気酸化皮膜を形成する方法、あるいは遷移金属などの酸化物の前駆体でフレーク状金属顔料からなる基体粒子を被覆した状態で加熱分解する方法が好ましい。
【0050】
また、本発明に用いる基体粒子に耐薬品性、耐水性あるいは耐候性を付与するため、基体粒子の表面に樹脂層が形成されたものを使用するのが好ましい。基体粒子の表面に樹脂層を形成する方法は、特に限定はされないが、基体粒子を有機溶媒中に分散したスラリーに重合性モノマーを添加し、不活性ガス雰囲気中で加熱しながらアゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイルなどの重合開始剤を添加することにより、モノマーを重合させ金属フレーク表面に重合体を析出させる方法が好ましい。
【0051】
上記の重合性モノマーとしては、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシブチル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸2−ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸オクチル、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリスアクリロキシエチルホスフェート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸、ポリブタジエン、アマニ油、大豆油、エポキシ化大豆油、エポキシ化ポリブタジエン、シクロヘキセンビニルモノオキサイド、ジビニルベンゼンモノオキサイド、などが使用可能である。
【0052】
また、本発明に用いる基体粒子として、マイカ、表面着色マイカ、ガラスフレーク、表面着色ガラスフレーク、パール、アルミナフレーク、着色アルミナフレーク、シリカフレーク、着色シリカフレーク、酸化鉄フレーク、グラファイトフレーク、ホログラム顔料フレーク、コレステリック液晶ポリマーからなるフレーク状の形状を有する基体粒子などを単独あるいは2種以上さらにはそれらを上記の金属フレークからなる基体粒子とあわせて用いてもよい。
【0053】
基体粒子の表面が帯電調整剤を含有する皮膜で被覆されたフレーク顔料の製造方法としては、幾種類かの手段が可能であり、以下に説明するが、本発明のフレーク顔料の製造方法は、これらの方法に限定されるものではない。
【0054】
一つには、通常コアセルベーション法(相分離法)と呼ばれる方法があげられる。この方法では、まず、溶剤に溶解可能な市販の帯電調整剤を溶解力の強い良溶媒に溶解した溶液を準備する。そして、その溶液の中へ被覆される基体粒子を分散させて攪拌し懸濁状態を維持する。
【0055】
さらに、その懸濁状態のスラリー中へ徐々に帯電調整剤を溶解しない貧溶媒を滴下分散することによって基体粒子の表面に帯電調整剤のコーティング皮膜が析出される。最初に帯電調整剤を溶解させる溶剤の選択は溶解される帯電調整剤の組成との兼合いで決定されるが、ここでいう溶解力の強い溶剤とは一般的には極性の高い溶剤が使用し得る。
【0056】
このような良溶媒の一例としては、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸メチルなどのエステル系溶剤やメチルエチルケトン、アセトンなどのケトン系溶剤やキシレン、ベンゼン、トルエン、クロルベンゼンなどの芳香族系溶剤やシクロヘキサン、シクロヘキサノンなどのシクロ化合物系溶剤が挙げられる。
【0057】
また、上記の基体粒子の表面に帯電調整剤を析出させるために添加する貧溶媒としては、たとえばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどのアルカン類やイソペンタン、イソヘキサン、イソヘプタン、イソオクタンなどのイソパラフィン類が挙げられる。
【0058】
そして、上記の貧溶媒を添加したのちに、さらに良溶媒を真空蒸留などの手段により留去することにより基体粒子の表面への皮膜の析出を完成させる。この方法においては、最初に使用する良溶媒は留去しやすい沸点の低い溶剤であり、貧溶媒は良溶媒の真空蒸留の条件下でも蒸発しないような沸点の高い溶剤であることが望ましい。
【0059】
実際には、良溶媒としてはあまり沸点が低い溶剤は安全性の問題があり実用上使用しづらく、50℃以上であることが実用的である。貧溶媒としては沸点が140〜210℃の範囲内のアルカンもしくはイソパラフィン系の脂肪族溶剤が使用しやすい。
【0060】
上記の基体粒子の表面の被覆に用いる帯電調整剤としては、負帯電調整剤としてアゾCr錯体、サリチル酸Al錯体およびスルホン酸基を有する樹脂系帯電調整剤などがあげられるが基体粒子のメタリック感を低下させないという意味では帯電調整剤自身が透明性に優れた物質であることが望ましく、この点でサリチル酸Al錯体、スルホン酸基を有する樹脂系帯電調整剤を使用することが望ましい。
【0061】
また、上記の基体粒子の表面の被覆に用いる帯電調整剤としては、正帯電調整剤としてアジン系化合物のニグロシン、アジン系化合物のニグロシン塩基類、アジン系化合物のニグロシン誘導体、ナフテン酸の金属塩類、ナフテン酸の4級アンモニウム塩、ナフテン酸のアルキルアミド、高級脂肪酸の金属塩類、高級脂肪酸の4級アンモニウム塩、高級脂肪酸のアルキルアミドおよび樹脂系化合物の4級アンモニウム塩などが挙げられる。これらの中でも、透明性に優れる点で上記の化合物の4級アンモニウム塩を使用することが望ましい。
【0062】
上記の帯電調整剤は正、負それぞれ単独でも使用し得るが導入率を100%に調整してきれいなメタリック感を有する仕上がりの塗面を得るには混合して使用することによって微調整しやすくなるため、混合して使用することがより好ましい。
【0063】
フレーク顔料中の基体粒子に対する帯電調整剤のコーティング量(含有量)は、帯電調整剤の種類によるが一般的には基体粒子を100質量部とした場合、0.1〜5.0質量部の範囲内であることが好ましく、0.2〜3.0質量部の範囲内であることがさらに好ましい。この含有量が0.1質量部未満では帯電調整機能が不足する傾向があり、5.0質量部を超える量の添加は基体粒子の凝集を引き起こしたり、塗膜物性を損なう恐れがある。
【0064】
本発明に用いる基体粒子の表面を帯電調整剤を含有する皮膜で被覆する他の手段としては、基体粒子の表面に耐薬品性、耐水性あるいは耐候性を付与する樹脂層を形成させる際に、この樹脂層を形成するための重合性モノマーに帯電値を調整する上記の負帯電調整剤として用いることができる化合物などを加えて、この重合性モノマーとの共重合樹脂を含有する皮膜を基体粒子の表面に三次元架橋などで形成する方法がある。
【0065】
たとえば、アクリル系樹脂層で基体粒子を被覆する場合には、負帯電特性を与える2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などを用いて従来公知の重合性モノマーとの共重合樹脂を含有する皮膜を金属フレークからなる基体粒子の表面に3次元架橋することが望ましい。
【0066】
この際、上記の重合性モノマーを溶解するのに使用する有機溶媒としてはジプロピレングリコールモノメチルエーテルもしくはプロピレングリコールモノメチルエーテルなどが適当である。この際の共重合比としては、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などの負帯電特性を与える化合物が5wt%程度になるように配合するのが適当であるが、ドライブレンドの際に使用される相手方の樹脂粉体の帯電値に合わせて調整される場合もあり、かならずしもこの限りではない。
【0067】
一方、基体粒子を被覆する皮膜に正帯電性を与える場合には、上記の重合性モノマーに対して、たとえばジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートなどを加えた組成から出発して重合した共重合樹脂を含有する皮膜をあらかじめ金属フレークからなる基体粒子上に形成させておき、生じた共重合樹脂をパラトルエンスルホン酸メチルなどのようなパラトルエンスルホン酸アルキルエステルなどで4級化することが好ましい。
【0068】
上記の4級化に使用するパラトルエンスルホン酸メチルなどの量は、共重合樹脂中に含まれるジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートなどの単位1モル当たりに1モルを使用するのが適当である。この際にも、重合性モノマーを溶解するのに使用する有機溶媒としてはジプロピレングリコールモノメチルエーテルもしくはプロピレングリコールモノメチルエーテルなどが適当である。
【0069】
そして、この際の重合開始剤としてはt−ブチルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウリロイルパーオキサイドなどの有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物を用いれば良い。
【0070】
<粉体メタリック塗料>
本発明の粉体メタリック塗料は、本発明のフレーク顔料と、樹脂粉体とを含有する。
【0071】
本発明の粉体メタリック塗料において、本発明のフレーク顔料の導入率を100%に保ち、メタリック感に優れた塗膜を得るためには、帯電調整機能を有する物質(帯電調整剤)が基体粒子の表面にコーティングされた皮膜に含有されるフレーク顔料を使用することが必要である。また、そのフレーク顔料の帯電値と樹脂粉体の帯電値とが以下の式1および2を満たすことが好ましい。
|C−C|≦10・・・式1
10≦|C|≦40・・・式2
なお、上記の式1および式2において、Cはフレーク顔料の帯電値(単位:μC/g)、Cは樹脂粉体の帯電値(単位:μC/g)を示す。
【0072】
ここで、粉体塗料を静電塗装する際に、最も一般的に使用されているコロナ帯電方式においては、塗料には−80KV程度の高電圧を印加し、被塗物は+に帯電する。一方、トリボ帯電方式では塗料は+に、被塗物は−に帯電する。
【0073】
粉体塗料用に使用される樹脂粉体の帯電値は、多くのケースで使用されるポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂では−50μC/g〜10μC/g程度の範囲を持つ。この中でも、最も多く使用されているポリエステル系樹脂粉体の帯電値は−22μC/g程度である。これに対し、粉体メタリック塗料用として一般的に使用されている表面に樹脂層を形成されたアルミニウムフレークの帯電値は−4〜−8μC/g程度であり、フレーク顔料と樹脂粉体の帯電値が式1を満たすには負帯電調整剤によるアルミニウムフレークを基体粒子とするフレーク顔料の表面の帯電値の調整が必要となる。
【0074】
式1の|C−C|の値が10μC/gを超えると、フレーク顔料と樹脂粉体の分離現象が生じ易く、塗膜の意匠性が低下するとともに、導入率が変化する傾向があるため、塗料を回収して使用すると色調が変化してしまい、塗料のリサイクルが事実上不可能であるという問題点が生じ易い。
【0075】
また、通常は塗膜の耐候性、強度、外観を考慮して粉体塗料の樹脂粉体が決定されるので、フレーク顔料の帯電値は式1を満たすべく調整されるが、粉体メタリック塗料に含有される樹脂粉体とフレーク顔料の帯電値がともに低く、ゼロに近い場合は塗料自体の被塗物への塗着効率が低下し、ロスが大きくなるのでさらに式2を満たすことが好ましい。
【0076】
この|C|の値が10μC/g未満では静電塗装時にフレーク顔料の被塗物への付着効率が低下する傾向があり、逆に40μC/gを超えると帯電調整剤コーテイング処理時にフレーク顔料の凝集を引き起こす傾向がある。
【0077】
たとえば、一般的なアクリル系樹脂粉体を使用した場合は、樹脂粉体自身が10μC/g程度フレークの帯電値を示すので、その状態では樹脂粉体の塗着効率が低下し、通常の吐出パターンでは塗着膜厚の低下をきたし、下地の隠蔽性が低下する。このような場合は式1および式2を満たすべく、フレーク顔料の帯電値の調整に加えて、樹脂粉体の帯電値そのものも高い負の帯電値を持つように改質することが好ましい。
【0078】
本発明に用いる樹脂粉末およびフレーク顔料の帯電値を測定する装置としては、ブローオフ方式、吸引方式など種々の装置が市販されているが、本発明における下記の実施例における検討は最も普及している東芝ケミカル株式会社製ブローオフ帯電量測定装置TB−200を用いて行った。これらの装置はキャリアと呼ばれるフェライトなどの粉末と測定すべき粉末試料を混合し摩擦帯電させた後、ブローオフ、吸引などの方式により分離されたファラデーケージ内のキャリアの帯電量を電気的に測定する。したがって、測定に使用する機種あるいはキャリアの種類によって帯電量の絶対値は異なるが各試料の持つ帯電値の傾向が測定条件によって逆転することは無い。
【0079】
種々の方法で作製された帯電調整剤を含有する皮膜で被覆された基体粒子からなるフレーク顔料とドライブレンドされる樹脂粉体としては、前記アクリル樹脂系粉体とポリエステル樹脂系粉体の他に、アルキド樹脂系粉体、尿素樹脂系粉体、メラミン樹脂系粉体、フェノール樹脂系粉体、エボナイト系粉体なども挙げられる。ポリエステル樹脂系粉体の中にはエポキシ樹脂で硬化させるもの、イソシアネートで硬化させるもの(ウレタン系)、プリミドで硬化させるもの(プリミド系)などがある。
【0080】
また、キナクリドン、ジケトピロロピロール、イソインドリノン、インダンスロン、ペリレン、ペリノン、アントラキノン、ジオキサジン、ベンゾイミダゾロン、トリフェニルメタンキノフタロン、アントラピリミジン、黄鉛、パールマイカ、透明パールマイカ、着色マイカ、干渉マイカ、フタロシアニン、ハロゲン化フタロシアニン、アゾ顔料(アゾメチン金属錯体、縮合アゾなど)酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄、銅フタロシアニン、縮合多環類顔料などの各種着色剤が、本発明に用いる熱硬化性の樹脂粉体に含有されていてもよい。
【0081】
これらの着色剤を含有させることにより、より鮮やかなメタリック塗装塗膜を得ることが可能となる。これらの着色剤の配合量はその種類によって異なるが、本発明のフレーク顔料の特徴が生かされ、かつ塗膜表面の平滑性あるいは鮮映性が損なわれない範囲に設定することが望ましい。
【0082】
上記の着色剤以外にも、必要に応じてベントナイト、アルミナホワイト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルクなどの各種充填剤、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウムなどの各種流動性調整剤、アクリルオリゴマー、シリコーンなどの各種流展剤、ベンゾインなどの各種発泡防止剤、更には、ワックス類、カップリング剤、酸化防止剤、磁性粉、安定剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、増粘剤、沈降防止剤などをはじめとする各種添加剤および各種機能性材料が、本発明に用いる樹脂粉体に含有されていてもよい。
【0083】
本発明に用いる樹脂粉体の平均粒径は、特に限定されないが、通常5〜100μmの範囲内にあることが好ましく、特に15〜60μmの範囲内であることがより好ましい。この平均粒径が5μm未満では、本発明のフレーク顔料と均一に混合することが困難になるとともに、凝集性が高くなるため、粉体塗装の際に均一に粉塵化できない場合がある。この平均粒径が100μmを超える場合には、塗膜表面の平滑性が阻害され、良好な外観が得られないおそれがある。
【0084】
また、本発明の粉体メタリック塗料においては、本発明に用いる樹脂粉体100質量部に対して、本発明のフレーク顔料の含有量は1質量部以上であることが好ましく、特に2質量部以上であることがより好ましい。また、この含有量は40質量部以下であることが好ましく、特に20質量部以下であることがより好ましい。この含有量が1質量部未満の場合には、十分なメタリック感および輝度感が得られないおそれがあり、基材を隠蔽するために塗膜厚を大きくしなければならない傾向がある。また、この含有量が40質量部を超える場合は、コストアップになるとともに、塗膜の平滑性が失われ、外観が悪くなる傾向がある。
【0085】
本発明の粉体メタリック塗料においては、本発明のフレーク顔料および樹脂粉体の他にも、必要に応じて着色顔料などを添加してもよい。たとえば、キナクリドンレッド、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、イソインドリノンイエロー、カーボンブラック、ペリレン、アゾレーキなどの有機顔料、酸化鉄、酸化チタン、コバルトブルー、亜鉛華、群青、酸化クロム、マイカ、黄鉛などの無機顔料が挙げられる。また、これらの着色顔料は、一種または二種以上を用いることができる。
【0086】
さらに、本発明の粉体メタリック塗料には、必要に応じて、紫外線吸収剤、静電気除去剤、分散剤、酸化防止剤、艶出し剤、界面活性剤、合成保存剤、潤滑剤、可塑剤、硬化剤、フィラー(強化材)などを添加することもできる。
【0087】
<塗膜>
本発明の塗膜は、上記の粉体メタリック塗料を基材に粉体塗装し、熱硬化させることにより得られる塗膜である。
【0088】
本発明の粉体メタリック塗料を塗装する方法としては、あらかじめ塗装表面をブラスト処理後、化成処理などの公知の処理を施した上で粉体メタリック塗料を付着させ、その後加熱硬化させることが好ましい。
【0089】
本発明の粉体メタリック塗料の被塗装材(基材)は、特に制限されないが、焼付けにより変形、変質などが発生しないものが好ましい。たとえば、公知の鉄、銅、アルミニウム、チタンなどの金属および各種合金などを含む材質からなる基材が好ましいものとして挙げられる。上記の基材の具体的な形態としては、たとえば車体、事務用品、家庭用品、スポーツ用品、建築材料、電気製品などが挙げられる。
【0090】
本発明の粉体メタリック塗料を基材表面に付着させる方法としては、流動浸漬法、静電粉体塗装法などが適用できるが、静電粉体塗装法が塗着効率に優れ、より好ましい。静電粉体塗装の方法には、コロナ放電方式、摩擦帯電方式などの公知の方法を用いることができる。
【0091】
焼付けの際の加熱温度は用いる樹脂粉体の種類に応じて適宜設定できるが、通常は120〜230℃の範囲内であることが好ましく、特に150〜230℃の範囲内であることがより好ましい。この加熱温度が120℃未満の場合には、架橋反応(硬化)が十分に進行せず、希望の塗膜物性が得られない傾向があり、この加熱温度が230℃を超えると、樹脂が黄変したり脆化するという傾向がある。
【0092】
本発明の粉体メタリック塗料を焼付けて加熱硬化させる際の加熱時間は、用いる樹脂粉体の種類および加熱温度に応じて適宜設定できるが、通常は1分間以上であることが好ましく、特に5分間以上であることがより好ましい。また、この加熱時間は、40分間以下であることが好ましく、特に30分間以下であることが好ましい。
【0093】
この加熱時間が1分間未満の場合には、架橋反応(硬化)が十分に進行せず、希望の塗膜物性が得られない傾向があり、この加熱時間が40分間を超えると、樹脂が黄変したり脆化するという傾向がある。加熱により形成された塗膜の膜厚は、限定的ではないが、通常20〜100μmの範囲内であることが好ましい。
【0094】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0095】
帯電調整剤を含有する皮膜を形成するための薬剤として、藤倉化成株式会社製、負帯電用樹脂系電荷制御剤アクリベースFCA−1001−NS 0.15gを1リットル容量のセパラブルフラスコ中で酢酸エチル240gに溶解させた溶液に、フレーク状の形状を有する基体粒子として、東洋アルミニウム株式会社製、粉体塗装用アルミ粉PCF7670A 30gを加えスラリーとして350rpmで攪拌保持し均一に分散させた。
【0096】
攪拌を保持しつつ基体粒子としてのアルミニウムフレーク上に帯電調整剤を含有する樹脂皮膜を析出させるために沸点が173〜189℃であるようなイソパラフィン溶剤(日本石油化学株式会社製 アイソゾール300)360gを約1時間の間に徐々に滴下した。さらに攪拌を保持しつつ60℃で真空乾燥して酢酸エチルのみを除去した。
【0097】
得られたスラリーをブフナーロートで乾燥させ、さらにn−ヘキサン100gで洗浄した。ヘキサンでの洗浄を3回繰り返したのち3時間真空吸引濾過し完全に乾燥させ、得られた乾燥物を105μmの目開きのスクリーンに通過させ、帯電調整機能を有するコーティング皮膜を備えるフレーク顔料、すなわちフレーク状の形状を有する基体粒子と、この基体粒子の表面を被覆する帯電調整剤を含有する皮膜とを備える本発明のフレーク顔料を得た。
【0098】
ここで使用したPCF7670AはD50=18μmのアクリル系樹脂被覆アルミニウムフレークである(金属分77%)。D50は平均粒子径であり、試料約0.1gを0.5% Triton X(UNION CARBIDE社製、界面活性剤)水溶液5gに分散させたものを、溶媒に水を使用しHoneywell社製、Microtrac 9320 X−200に滴下し、超音波で分散(40W10秒)した後、測定した値である。
【0099】
得られたフレーク顔料9gとポリエステル系粉体塗料樹脂粉体(久保孝ペイント株式会社製 Teodur PE785−900 D50=49μm)150gをドライブレンド法にて良く分散し、粉体メタリック塗料とし、コロナ放電式静電粉体塗装機(松尾産業株式会社製、商品名「MXR−100VT−mini」)を用いて印加電圧80kVで基材に塗装をした。その後190℃で20分間焼き付けることにより塗板を作製した。この塗板を使用して塗膜のフレーク状顔料に特有のメタリック感を示す尺度として輝度感β/αを測定した。
【0100】
同時にフレーク顔料の導入率を出すために塗板に付着した粉体塗料を焼付けずに塗板より掻落として1gを採取した。採取した粉体塗料樹脂をN−メチルピロリドンで溶解しさらに濾過乾燥することでフレーク顔料のみを回収した。この際乾燥を促進するためにアセトンで最終的に洗浄乾燥した。得られたフレーク顔料の重量から式3に従い導入率を重量法にて算出した。
【0101】
スピットに対する効果を確認するために前述と同様のドライブレンドによる塗料を同様の条件で1分間噴霧し続け、その後の電極に対する粉体塗料の付着状況を目視で判断し、付着量が多いものを○、若干の付着が認められるものを△、付着が少ないものを×として評価した。
【0102】
下地に対する隠蔽性は目視で判断し完全に隠蔽された状態を○、隠蔽性が不足し下地が見えている状態は×として評価した。また、これら両者の中間のような状態であって、ある程度下地を隠蔽することができるが、その隠蔽性が不十分なものは△として評価した。
【実施例2】
【0103】
帯電調整剤として藤倉化成株式会社製、負帯電用樹脂系電荷制御剤アクリベースFCA1001−NS 0.20gと藤倉化成株式会社製、正帯電用樹脂系電荷制御剤アクリベースFCA−201−PS 0.10gを使用したこと以外は、実施例1と同様の操作でフレーク顔料を得た。その後はそのフレーク顔料を用いて、実施例1と同様の方法で粉体メタリック塗料および塗膜を作製し、導入率、塗膜輝度感、スピット発生状況、下地隠蔽性を確認した。
【実施例3】
【0104】
藤倉化成株式会社製、負帯電用樹脂系電荷制御剤アクリベースFCA−1001−NSの量を0.3gとした以外は実施例1と同様の操作でフレーク顔料を得た。一方、アクリル系粉体塗料樹脂粉体(久保孝ペイント株式会社製 Teodur AC793−8689 D50=45μm)に、帯電調整剤を含有させる目的で2wt%の藤倉化成株式会社製、負帯電用樹脂系電荷制御剤アクリベース FCA1001−NSを添加し、ミキサーにて10分間混合した後に、溶融混練機にて溶融分散し、ジェットミルで微粉砕後、風力分級により平均粒子径43μmの粉体塗料樹脂粉体を得た。この帯電調整剤を含有した樹脂粉体に先ほど得られた帯電調整剤がコーティングされたフレーク顔料を配合し実施例1と同様の方法で粉体メタリック塗料および塗膜を作製し、導入率、塗膜輝度感、スピット発生状況、下地隠蔽性を確認した。
【実施例4】
【0105】
容積2リットルの四ツ口フラスコに
エポキシ化1,2ポリブタジエン 3.75g
トリメチロールプロパントリアクリレート 8.7g
アクリル酸 0.8g
ジビニルベンゼン 3.5g
2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸 0.89g
ジプロピレングリコールモノメチルエーテル 1120g
未処理アルミニウムペースト*1 141g
を装填し、窒素ガスを導入しながら充分攪拌混合した。なお、*1:東洋アルミニウム株式会社製 7670M 金属分71%である。
【0106】
系内の温度を80℃に昇温し、アゾビスイソブチルニトリルを0.6g添加し攪拌を続けながら80℃で6時間反応させた。得られたスラリー状の分散液をブフナーロートで乾燥させ、その後実施例1と同様の方法で最終的なフレーク顔料を得、実施例1と同様の方法で粉体メタリック塗料および塗膜を作製し、導入率、塗膜輝度感、スピット発生状況、下地隠蔽性を確認した。
【実施例5】
【0107】
藤倉化成株式会社製、負帯電用樹脂系電荷制御剤アクリベース FCA−1001−NSの量を0.3gとした以外は実施例1と同様の操作でフレーク顔料を得た。実施例1と同様に色調評価のための塗板を作製し、導入率の測定、スピットの評価も同様に行った。
【0108】
<比較例1>
塗料作製時に使用するアルミニウムフレークを帯電調整剤のコーティング処理をする前のPCF7670Aを使用すること以外(すなわち、帯電調整剤を含有しないフレーク顔料を用いる以外)は実施例1と同様の方法で評価を行った。
【0109】
<比較例2>
塗料作成時に使用する熱硬化性粉体塗料樹脂粉体としてアクリル系粉体塗料樹脂粉体(久保孝ペイント株式会社製 Teodur AC793−8689 D50=45μm)を使用したこと以外は比較例1と同様な方法で評価を行った。
【0110】
<その他共通の評価項目>
実施例1〜5および比較例1〜2の共通評価項目として以下の評価を行った。
【0111】
(1)塗膜の輝度感の評価
本実施例および比較例においては、塗膜の輝度感を評価パラメータβ/αを用いて評価している。ここで、フレーク顔料の基体粒子としてアルミニウムフレークを使用しており、着色顔料などを含まないシルバーメタリック調塗膜の場合には、β/α≧110が望ましい。この評価パラメータ、すなわちβ/αは次の式4
L=[β/(θ+α)]+γ・・・式4
から導かれるものである。なお、式4において、Lは分光光度計(商品名「X−Rite MA68」X−Rite社製)を用いて観測角θで測色した明度指数(L測色系(CIEが1976年に定めた均等色空間にもとづく表色系))を示し、θは観測角を示し、α、βおよびγは定数を示す。
【0112】
式4の右辺の第1項目[β/(θ+α)]は、観測角θに依存するメタリック特有の指向性散乱に対応し、第2項目γは、観測角θに依存しない等方性散乱に対応するものである。視覚輝度は指向性散乱の正反射位置(θ=0)でのL値、すなわちβ/αに良く相関するため、β/αを輝度感の評価パラメータとして使用している。
【0113】
β/αの算出に関しては、まずα、βおよびγを決定する必要がある。本発明では、まず観測角θが15度、25度、45度、75度、および110度における実測L値を測定し、それらθおよびL値の関係が式4に従うものと仮定して、最小二乗法でα、βおよびγを決定する。
【0114】
(2)帯電特性
測定すべきアルミニウムフレークを基体粒子とするフレーク顔料ないしは粉体塗料樹脂粉体とアクリルコーティングフェライトキャリア(パウダテック株式会社製 FB100)を3:97の比率で10分間、200回/分の条件で摩擦帯電させた後、東芝ケミカル株式会社製、ブローオフ粉体帯電量測定装置 TB−200を用いて帯電値(μC/g)を測定した。
【0115】
<評価結果>
表1に実施例および比較例の配合組成、表2に評価結果を示す。
【0116】
【表1】

【0117】
【表2】

【0118】
上記の表1および表2の結果より、帯電調整剤を含有する皮膜を備えないフレーク顔料を使用した粉体メタリック塗料の場合には、比較例1、2で示すように塗膜へのフレーク顔料の導入率が低く、塗膜輝度感が不足し、スピットの発生が見られ、下地の隠蔽性にも劣ることがわかる。
【0119】
一方、上記の表1および表2の結果より、帯電調整剤を含有する皮膜を備えたフレーク顔料および/または帯電調整剤を含有する樹脂粉体を使用して、フレーク顔料と樹脂粉体との帯電値を調整した場合には、塗膜へのフレーク顔料の導入率が高く、粉体メタリック塗料のリサイクル性が優れ、塗膜の輝度感も十分で、スピットも発生せず、下地の隠蔽性にも優れた粉体メタリック塗料が得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレーク状の形状を有する基体粒子と、
前記基体粒子の表面を被覆する帯電調整剤を含有する皮膜と、
を備える、フレーク顔料。
【請求項2】
前記基体粒子は金属を含有する材質からなる、請求項1に記載のフレーク顔料。
【請求項3】
前記帯電調整剤は、負帯電調整剤および/または正帯電調整剤を含有する、請求項1に記載のフレーク顔料。
【請求項4】
前記負帯電調整剤は、アゾCr錯体、サリチル酸Al錯体およびスルホン酸基を有する樹脂系帯電調整剤からなる群より選ばれる1種以上である、請求項3に記載のフレーク顔料。
【請求項5】
前記正帯電調整剤は、アジン系化合物のニグロシン、アジン系化合物のニグロシン塩基類、アジン系化合物のニグロシン誘導体、ナフテン酸の金属塩類、ナフテン酸の4級アンモニウム塩、ナフテン酸のアルキルアミド、高級脂肪酸の金属塩類、高級脂肪酸の4級アンモニウム塩、高級脂肪酸のアルキルアミドおよび樹脂系化合物の4級アンモニウム塩からなる群より選ばれる1種以上である、請求項3に記載のフレーク顔料。
【請求項6】
請求項1に記載のフレーク顔料と、
樹脂粉体と、
を含有する、粉体メタリック塗料。
【請求項7】
前記フレーク顔料の帯電値と前記樹脂粉体の帯電値との間に下記の式1および式2で規定される関係が成立する、請求項6に記載の粉体メタリック塗料。
|C−C|≦10・・・式1
10≦|C|≦40・・・式2
(式1および式2において、Cはフレーク顔料の帯電値(μC/g)を示し、Cは樹脂粉末の帯電値(μC/g)を示す。)
【請求項8】
請求項6に記載の粉体メタリック塗料を基材に粉体塗装し、熱硬化させることにより得られる塗膜。
【請求項9】
フレーク状の形状を有する基体粒子と、
前記基体粒子の表面を被覆する帯電調整剤を含有する皮膜と、
を備える、フレーク顔料の製造方法であって、
前記帯電調整剤が溶解している前記帯電調整剤に対する良溶媒中に前記基体粒子を分散させるステップと、
前記帯電調整剤に対する貧溶媒を前記基体粒子が分散した前記良溶媒中に添加して前記皮膜を前記基体粒子表面に析出させるステップと、
を備える、フレーク顔料の製造方法。
【請求項10】
フレーク状の形状を有する基体粒子と、
前記基体粒子の表面を被覆する帯電調整剤を含有する皮膜と、
を備える、フレーク顔料の製造方法であって、
重合性モノマーと前記帯電調整剤とを混合して混合物を得るステップと、
前記混合物から得られる共重合樹脂を含有する皮膜を前記基体粒子表面に形成するステップと、
を備える、フレーク顔料の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/019350
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【発行日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513272(P2005−513272)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011684
【国際出願日】平成16年8月13日(2004.8.13)
【出願人】(399054321)東洋アルミニウム株式会社 (179)
【Fターム(参考)】