説明

帯電防止性積層シート及びその製造方法

【課題】 基材シートと導電性被覆層との密着性が高く、前記被覆層の剥離や破断による帯電防止性能の低下が抑制された積層シートを提供する。
【解決手段】 熱可塑性樹脂で構成された基材シートの少なくとも一方の面に、導電性ポリマーで構成された被覆層が形成された積層シートであって、前記被覆層を、(i)ポリチオフェン系重合体及びポリ陰イオンを含有し、かつ水性溶媒に溶解又は分散可能な導電性ポリマーと、(ii)水性溶媒に溶解又は分散可能なバインダー樹脂(ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂及び(メタ)アクリル系樹脂など)とで構成し、前記基材シートの表面が、水に対する接触角50〜85°を有している。前記熱可塑性樹脂は、アクリル系単量体を構成単位として含有するビニル系重合体、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを構成単位として含有する透明なゴム変性スチレン系樹脂であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止性及び導電性を有する積層シート、特にさらに成形に供するのに有用な熱可塑性樹脂シート、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トレーやキャリアテープなどの電子部品包装用成形体は、ポリスチレンを始めとする汎用の熱可塑性樹脂シートを真空成形法などの成形方法で成形された成形体が多く使用されている。しかし、これらの樹脂で形成された成形体は、静電気を帯電し易い。静電気が帯電すると、環境粉塵(環境的に存在する粉塵)が付着したり、電子部品の種類によっては破壊が生じる。これらの問題を解決するために、成形体を帯電防止処理する方法が提案されているが、なかでも、帯電防止剤として界面活性剤を練り込んだり、コーティングする方法が一般的である。例えば、特開昭63−105061号公報(特許文献1)には、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などのポリエチレンと、帯電防止剤とを含む帯電防止特性を有する熱可塑性樹脂組成物及びこの樹脂組成物を用いたフィルムが開示されている。
【0003】
しかし、界面活性剤は低湿度下での帯電防止性能が低い。また、界面活性剤は水溶性であるため、耐水性も低い。特に、小型の電子部品を収納するキャリアテープなどの電子部品包装用成形体の場合には、部品収納後、カバーテープを接着し放置すると、カバーテープが剥がれ易い。
【0004】
一方、成形体を帯電防止処理する方法としては、導電性を有するカーボンブラックなどの導電剤を練り込んで、導電性を付与する方法も行われている。例えば、特開平9−76423号公報(特許文献2)には、ポリスチレン系樹脂で構成されたシート基材の両面に、ポリスチレン系樹脂、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、カーボンブラック及びオレフィン系樹脂で構成された導電性樹脂組成物を積層した導電性複合シートが開示されている。
【0005】
しかし、成形品のトリミング加工及びその後の過程で、断面からカーボンブラックを含む粉が発生し易く、また、電子部品の擦れ(摩擦)によりカーボンブラック粉が発生しやすい。特に、小型の電子部品を収納するキャリアテープなどの電子部品包装用成形体にカーボンブラックを含有させると、内容物が容易に確認できない。
【0006】
これらの問題に対して、導電ポリマーの水系コーティング剤を塗布することより、熱可塑性樹脂シートに導電性を付与する方法が提案されている。例えば、特開2003−48284号公報(特許文献3)には、基材ポリマーフィルムと帯電防止塗布層から成る帯電防止性ポリマーフィルムであって、帯電防止塗布層が、ポリチオフェン及び界面活性剤を含有する水性塗布液を塗布して形成され、ポリチオフェンに対する界面活性剤の重量比が0.1以上であり、上記水性塗布液が10重量%未満のポリマーバインダー及び10重量%未満の有機溶媒を含有する帯電防止性ポリマーフィルムが開示されている。この文献3では、バインダー及び有害な有機溶媒を含有しない水系の導電性コーティング剤を基材に塗布することにより、透明で安価な帯電防止性シートが調製されている。さらに、この文献には、基材ポリマーフィルムとして、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアセタール、ポリカーボネートが例示され、なかでも、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルが好ましいと記載されている。また、上記文献3には、水性塗布液にポリマーバインダーを使用すると、基材ポリマーフィルム上に導電性ポリチオフェンの塗膜が不連続になることが記載されている。特開2002−60736号公報(特許文献4)には、ポリチオフェンとポリ陰イオンとを含む導電性ポリマー、アミド結合又は水酸基を有する室温で液体の水溶性化合物、及び自己乳化型ポリエステル樹脂水分散体を含有する水系の帯電防止コーティング用組成物が開示されている。上記文献4には、前記組成物をコーティングする基材としては、ポリエステル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、フェノール樹脂、ABS樹脂などのプラスチックのシート、不織布などが例示されている。
【0007】
しかし、熱可塑性樹脂シートに水系のコーティング剤を塗布すると、コーティング剤の密着性が不十分であったり、シートに対する塗膜の追従性の低さに起因して、成形に伴って塗膜の破断が発生し、導電性が急激に損なわれたりする。また、熱可塑性樹脂シートの表面をコロナ処理して親水化する方法も提案されているが、別工程が必要であるため、簡便性が低く、加エコストも高くなる。
【特許文献1】特開昭63−105061号公報(請求項1)
【特許文献2】特開平9−76423号公報(請求項1)
【特許文献3】特開2003−48284号公報(請求項1、段落番号[0012]及び[0027]、実施例)
【特許文献4】特開2002−60736号公報(請求項1、段落番号[0043])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、基材シートと導電性被覆層との密着性が高く、成形加工に伴う前記被覆層の剥離や破断による帯電防止性能の低下が抑制された積層シート及びその製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、コロナ放電処理などの表面処理を行わなくとも、基材シートと導電性被覆層との密着性の高い積層シート及びその製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、帯電防止性能が高く、安全かつ簡便に製造できる積層シート及びその製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明の別の目的は、機械的特性、耐水性及び透明性が高い帯電防止性積層シート及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、水に対する接触角が一定の範囲にある熱可塑性樹脂シートの表面に、水性溶媒に可溶な導電性ポリマーと水溶性又は水分散性バインダー樹脂とを含む被覆層を形成すると、基材シートと導電性被覆層との密着性を向上でき、さらに延伸や成形加工に供しても、被覆層の剥離や破断を防止して、帯電防止性能が低下するのを抑制できることを見いだし、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明の帯電防止性積層シートは、熱可塑性樹脂で構成された基材シートの少なくとも一方の面に、導電性ポリマーで構成された被覆層が形成された積層シートであって、前記被覆層は、(i)ポリチオフェン系重合体及びポリ陰イオンを含有し、かつ水性溶媒に溶解又は分散可能な導電性ポリマーと、(ii)水性溶媒に溶解又は分散可能なバインダー樹脂とで構成されており、前記基材シートの表面が、水に対する接触角50〜85°を有している。前記導電性ポリマーは、下記式(1)で表されるチオフェン単位を有し、かつ陽イオンの形態のポリチオフェン系重合体と、アニオン性重合体とを含有してもよい。
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を示す。R1及びR2は互いに結合して、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいアルキリデン基、又は置換基を有していてもよいシクロアルキレン基を形成してもよい)
前記バインダー樹脂は、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、スチレン系樹脂及びハロゲン原子含有ビニル系樹脂(特に、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂及び(メタ)アクリル系樹脂)から選択された少なくとも一種で構成してもよい。前記バインダー樹脂は、スルホン酸基及びカルボキシル基から選択された少なくとも一種の酸基を有していてもよい。固形分換算で、バインダー樹脂の割合は、導電性ポリマー100重量部に対して50〜3000重量部程度であってもよい。
【0016】
基材シートを構成する熱可塑性樹脂は、スチレン系樹脂(例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル及びアクリロニトリルから選択された少なくとも一種のアクリル系単量体を構成単位として含有するスチレン系樹脂など)であってもよい。前記熱可塑性樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを構成単位として含有する透明なゴム変性スチレン系樹脂であり、積層シートの厚み1.0mmにおいて、全光線透過率は70〜95%程度、かつヘーズは2〜30%程度であってもよい。
【0017】
前記積層シートは、150%延伸したとき、1×104〜1×1012Ω/□程度の表面固有抵抗値を有していてもよい。
【0018】
本発明には、熱可塑性樹脂で構成された基材シートの少なくとも一方の面に、導電性ポリマーを含有する水性組成物をコーティングして被覆層を形成する積層シートの製造方法であって、水に対する接触角50〜85°である前記基材シートの表面に、(i)ポリチオフェン系重合体及びポリ陰イオンを含有し、かつ水性溶媒に溶解又は分散可能な前記導電性ポリマーと、(ii)水性溶媒に溶解又は分散可能なバインダー樹脂とを含む前記水性組成物を塗布し、前記帯電防止性積層シートを製造する方法も含まれる。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、基材シートの水に対する接触角を制御するので、熱可塑性樹脂で構成された基材シートに水性の導電性コーティング剤組成物(特にバインダー樹脂を含む水性の導電性コーティング剤組成物)を塗布しても、基材シートと導電性被覆層との密着性が高く、延伸又は成形工程や、保存又は輸送工程においても、前記被覆層の剥離や破断による帯電防止性能の低下を抑制できる。特に、コロナ放電処理などの表面処理を施さなくとも、基材シートと導電性被覆層との密着性を向上できるため、簡便であり、加工コスト的にも有利である。また、本発明では、有機溶媒を使用する必要がないため、このような密着性及び帯電防止性が高い積層シートを、人体に安全でかつ環境的に負荷も少なく製造できる。さらに、本発明の積層シートは、機械的特性、耐水性及び透明性も高い。そのため、前記積層シートは、電子部品用途における成形体、特に、帯電防止性や透明性が要求される電子部品包装用成形体などを成形するのに適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の帯電防止性積層シートは、熱可塑性樹脂で構成された基材シートの少なくとも一方の面に、導電性ポリマーで構成された被覆層が形成されている。
【0021】
[基材シート]
基材シートを構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂、ビニル系重合体(付加重合系樹脂)、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、セルロース誘導体などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの熱可塑性樹脂のうち、被覆層との密着性や成形性、機械的特性などの点から、ビニル系重合体(例えば、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ビニルアルコール系樹脂など)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのアルキレンアリレート単位を有するホモ又はコポリエステル系樹脂など)、ポリアミド系樹脂(例えば、ポリアミド6、ポリアミド66などの脂肪族ポリアミド、ポリアミドMXD−6などの芳香族ポリアミドなど)が好ましい。これらの熱可塑性樹脂は、導電性ポリマーで構成された被覆層との密着性の点から、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、アクリロニトリルなどのアクリル系単量体を構成単位として含有するビニル系重合体であってもよい。なかでも、透明性や成形性の点から、スチレン樹脂が好ましい。
【0022】
スチレン系樹脂は、芳香族ビニル単量体を主構成単位として形成される単独又は共重合体である。スチレン系樹脂を形成するための芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、アルキル置換スチレン(例えば、ビニルトルエン、ビニルキシレン、p−エチルスチレン、p−イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレンなど)、ハロゲン置換スチレン(例えば、クロロスチレン、ブロモスチレンなど)、α位にアルキル基が置換したα−アルキル置換スチレン(例えば、α−メチルスチレンなど)などが例示できる。これらの芳香族ビニル単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの単量体のうち、通常、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンなど、特にスチレンが使用される。
【0023】
前記芳香族ビニル単量体は、共重合可能な単量体と組み合わせて使用してもよい。共重合可能な単量体としては、例えば、不飽和多価カルボン酸又はその酸無水物(例えば、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸又はその酸無水物など)、イミド系単量体[例えば、マレイミド、N−アルキルマレイミド(例えば、N−C1-4アルキルマレイミド等)、N−シクロアルキルマレイミド(例えば、N−シクロヘキシルマレイミドなど)、N−アリールマレイミド(例えば、N−フェニルマレイミドなど)などのN−置換マレイミド]、アクリル系単量体[例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシルなどの(メタ)アクリル酸C1-20アルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロへキシル、 (メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシC2-4アルキルエステル、アクリロニトリルなどのシアン化ビニル系モノマーなど]などが例示できる。これらの共重合可能な単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。全単量体中の共重合可能な単量体の使用量は、通常、1〜50モル%、好ましくは3〜40モル%、さらに好ましくは5〜30モル%程度の範囲から選択できる。
【0024】
スチレン系樹脂は、ゴム変性スチレン系樹脂であってもよい。ゴム変性スチレン系樹脂は、耐衝撃性及び緩衝性を改善するために使用され、共重合(グラフト重合、ブロック重合等)等により、前記スチレン系樹脂で構成されたマトリックス中にゴム状重合体が粒子状に分散した重合体であってもよく、通常、ゴム状重合体の存在下、少なくとも芳香族ビニル単量体を、慣用の方法(塊状重合、塊状懸濁重合、溶液重合、乳化重合など)で重合することにより得られるグラフト共重合体(ゴムグラフトポリスチレン系重合体)である。
【0025】
ゴム状重合体としては、例えば、ジエン系ゴム[ポリブタジエン(低シス型又は高シス型ポリブタジエン)、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、イソブチレン−イソプレン共重合体、スチレン−イソブチレン−ブタジエン系共重合ゴムなど]、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリルゴム(ポリアクリル酸C2-8アルキルエステルを主成分とする共重合エラストマーなど)、エチレン−α−オレフィン系共重合体[エチレン−プロピレンゴム(EPR)など]、エチレン−α−オレフィン−ポリエン共重合体[エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)など]、ウレタンゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム、水添ジエン系ゴム(水素化スチレン−ブタジエン共重合体、水素化ブタジエン系重合体など)などが挙げられる。なお、前記共重合体はランダム又はブロック共重合体であってもよく、ブロック共重合体には、AB型、ABA型、テーパー型、ラジアルテレブロック型の構造を有する共重合体等が含まれる。これらのゴム状重合体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0026】
好ましいゴム状重合体は、共役1,3−ジエン又はその誘導体の重合体、特にジエン系ゴム[ポリブタジエン(ブタジエンゴム)、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体など]である。
【0027】
ゴム変性スチレン系樹脂において、ゴム状重合体の含有量は、3〜80重量%(例えば、4〜70重量%)、好ましくは5〜60重量%(例えば6〜55重量%)、さらに好ましくは7〜50重量%(特に7〜30重量%)程度である。ゴム状重合体の含有量が少なすぎると、耐衝撃性の改良効果が充分でなく、ゴム状重合体の含有量が多すぎると、剛性が低下する。
【0028】
スチレン系樹脂で構成されたマトリックス中に分散するゴム状重合体の形態は、特に限定されず、サラミ構造、コア/シェル構造、オニオン構造などであってもよい。
【0029】
分散相を構成するゴム状重合体の粒子径は、例えば、体積平均粒子径0.5μm以上(例えば、0.5〜30μm)、好ましくは0.5〜10μm、さらに好ましくは0.5〜7μm(特に0.5〜5μm)程度の範囲から選択できる。また、ゴム状重合体のグラフト率は、5〜150%、好ましくは10〜150%程度である。
【0030】
スチレン系樹脂(ゴム変性スチレン系樹脂の場合はマトリックス樹脂)の重量平均分子量は、10,000〜1,000,000、好ましくは50,000〜500,000、さらに好ましくは100,000〜500,000程度である。
【0031】
スチレン系樹脂としては、具体的には、ポリスチレン(GPPS)、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、アクリロニトリル−スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体(SMA樹脂)などの非ゴム含有スチレン系樹脂(ゴム成分を含有しないスチレン系樹脂や非ゴム強化スチレン系樹脂など)や、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(ABS樹脂)、α−メチルスチレン変性ABS樹脂、イミド変性ABS樹脂、スチレン−メタクリル酸メチル−ブタジエン共重合体(MBS樹脂)、ゴム成分X(アクリルゴム、塩素化ポリエチレン、エチレン−プロピレンゴム(EPDM)、エチレン−酢酸ビニル共重合体など)にアクリロニトリルAとスチレンSとがグラフト重合したAXS樹脂などのゴム変性スチレン系樹脂が挙げられる。これらのスチレン系樹脂は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0032】
これらのスチレン系樹脂の中でも、密着性を高める点から、アクリル系単量体を構成単位として含有するスチレン系樹脂が好ましい。アクリル系単量体としては、芳香族ビニルと共重合可能なアクリル系単量体として例示したアクリル系単量体が使用できる。これらのアクリル系単量体のうち、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル[(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸C1-4アルキルエステル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシC2-4アルキルエステルなど]、(メタ)アクリロニトリルなどのシアン化ビニル系モノマーなどが好ましい。これらのアクリル系単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて含まれていてもよい。特に、HIPSやABS樹脂などのゴム変性スチレン系樹脂において、透明性及び被覆層との密着性を向上させるために、メタクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステルをスチレン系樹脂の構成単位として含有させてもよい。さらに、GPPSやMBS樹脂などの親水性の低いスチレン系樹脂において、被覆層との密着性を向上させるために、アクリロニトリルなどのシアン化ビニルやアクリル酸2−ヒドロキシエチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルを構成単位として含有させてもよい。なお、以下の例において、スチレン系樹脂の構成単位として、アクリル系単量体(例えば、メタクリル酸メチル)を含有するスチレン系樹脂(例えば、HIPS)を、メタクリル酸メチル変性HIPSと表記することもある。
【0033】
アクリル系単量体を構成単位として含有する非ゴム含有スチレン系樹脂としては、例えば、AS樹脂、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、アクリロニトリル−スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、SMA樹脂などが挙げられる。また、アクリル系単量体を構成単位として含有するゴム変性スチレン系樹脂としては、例えば、メタクリル酸メチル変性HIPS(透明HIPS)、ABS樹脂、メタクリル酸メチル変性ABS樹脂(透明ABS樹脂)、α−メチルスチレン変性ABS樹脂、イミド変性ABS樹脂、MBS樹脂、アクリロニトリル変性MBS樹脂、AXS樹脂、メタクリル酸メチル変性AXS樹脂などが挙げられる。これらのスチレン系樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのスチレン系樹脂のうち、被覆層との密着性の点から、アクリロニトリルを構成単位として含有するスチレン系樹脂(例えば、ABS樹脂、AS樹脂など)や、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを構成単位として含有するゴム変性スチレン系樹脂(例えば、透明HIPS、MBS樹脂、メタクリル酸メチル変性ABS樹脂など)、特に、透明性及び被覆層との密着性に優れる点から、(メタ)アクリル酸C1-4アルキルエステルを構成単位として含有する透明なゴム変性スチレン系樹脂(例えば、透明HIPSや透明ABS樹脂など)が好ましい。
【0034】
また、前記スチレン系樹脂は、被覆層との密着性を向上させるために、アクリル系単量体を構成単位として含有するビニル系重合体[例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂など]とアロイ化して用いてもよい。スチレン系樹脂と、前記ビニル系重合体との割合(重量比)は、例えば、前者/後者=99/1〜30/70、好ましくは95/5〜50/50、さらに好ましくは90/10〜60/40程度である。
【0035】
また、前記スチレン系樹脂は、透明性や機械的特性を向上させるために、他の熱可塑性樹脂(例えば、ビスフェノールA型ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂など)とアロイ化して用いてもよい。スチレン系樹脂と、他の熱可塑性樹脂との割合(重量比)は、例えば、前者/後者=99/1〜30/70、好ましくは95/5〜50/50、さらに好ましくは90/10〜60/40程度である。
【0036】
さらに、被覆層との密着性や耐衝撃性などの機械的特性を向上させる点からは、前記スチレン系樹脂(例えば、ゴム変性スチレン系樹脂や、アクリル系単量体を構成単位として含有する透明なゴム変性スチレン樹脂など)を、スチレン−ジエン系ブロック共重合体と組み合わせて用いてもよい。スチレン−ジエン系ブロック共重合体としては、例えば、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)などのスチレン−ブタジエン共重合体、水添スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−イソプレン共重合体、水添スチレン−イソプレン共重合体(SEP)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)、水添スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SEPS)などが例示できる。これらのスチレン−ジエン系ブロック共重合体のうち、特に、スチレン−ブタジエンブロック共重合体が好ましく用いられる。ブロック共重合体において、末端ブロックは、スチレン又はジエンのいずれで構成してもよい。
【0037】
スチレン−ジエン系ブロック共重合体の構造としては、リニア(直鎖状)型(AB型、ABA型等)、星型(ラジアルテレブロック型など)、テーパー型などが挙げられる。これらのうち、リニア型や星型でAB型のブロック共重合体が好ましく使用できる。スチレン−ジエン系ブロック共重合体としては、スチレンとジエン成分とのジブロック、トリブロック、テトラブロック共重合体などが例示できる。これらのうち、トリブロック共重合体、特にスチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)ブロック共重合体が好ましい。
【0038】
共重合体を構成するスチレンとジエン成分との割合(重量比)は、スチレン/ジエン成分=10/90〜80/20、好ましくは20/80〜75/25、さらに好ましくは30/70〜70/30(特に30/70〜50/50)程度である。
【0039】
スチレン系樹脂とスチレン−ジエン系ブロック共重合体との割合(重量比)は、前者/後者=99.9/0.1〜1/99程度の範囲から選択でき、各種特性のバランスから、前者/後者=99/1〜50/50、好ましくは97/3〜70/30、さらに好ましくは95/5〜80/20程度である。
【0040】
本発明では、基材シートの表面の水に対する接触角を50〜85°程度の範囲にすることにより、被覆層との接着性を改善する。基材シート表面の水に対する接触角は、好ましくは55〜83°、さらに好ましくは60〜80°(特に65〜80°)程度であってもよい。本発明において、水に対する接触角は、温度25℃、湿度50%RH条件下で、25℃の蒸留水を用いて測定できる。シート表面の接触角が低すぎると、シートのブロッキングなどが発生し、一方、シート表面の接触角が高すぎると、導電性ポリマーで構成された被覆層との接着力が低くなり、延伸において塗膜が破断されて導電性が低下し易い。基材シートの接触角は、慣用の表面処理(例えば、コロナ放電処理、高周波処理など)によって調整してもよい。簡便性及び密着性の点から、基材を構成する熱可塑性樹脂の種類や配合を選択することにより調整するのが好ましい。
【0041】
基材シートは単層シートであってもよく、複数の樹脂層が積層された積層シートであってもよい。基材シートの厚みは、用途に応じて適当に選択でき、例えば、10μm〜5mm、好ましくは30μm〜3mm、さらに好ましくは50μm〜1mm程度である。容器成形に利用する場合、基材シートの厚みは、例えば、50μm〜5mm、好ましくは100μm〜3mm、さらに好ましくは150μm〜2mm(特に200μm〜1.5mm)程度であってもよい。
【0042】
[被覆層]
本発明の積層シートの被覆層は、(i)ポリチオフェン系重合体及びポリ陰イオンを含有し、水性溶媒に溶解又は分散可能な導電性ポリマーと、(ii)水性溶媒に溶解又は分散可能なバインダー樹脂とで構成されている。
【0043】
(i)導電性ポリマー
(a)ポリチオフェン系重合体
ポリチオフェン系重合体は、チオフェン骨格[通常、ポリ(チオフェン−2,5−ジイル)単位]を有しており、導電性(特に、低湿度下での帯電防止性)、化学的安定性、及び透明性に優れている。また、ポリチオフェン系重合体は、水性溶媒中で、陽イオンの形態を有する。
【0044】
前記チオフェン骨格に対応するチオフェンは、置換体(通常、3位及び/又は4位の置換体)であってもよい。置換チオフェンとしては、例えば、モノアルキルチオフェン(例えば、3−メチルチオフェン、3−エチルチオフェン、3−プロピルチオフェン、3−ヘキシルチオフェンなどのC1-10アルキル−チオフェンなど)、3,4−ジヒドロキシチオフェン、ジアルコキシチオフェン(例えば、3,4−ジメトキシチオフェン、3,4−ジエトキシチオフェン、3,4−ジプロポキシチオフェンなどのジC1-6アルコキシ−チオフェンなど)、アルキレンジオキシチオフェン(例えば、3,4−エチレンジオキシチオフェン、3,4−プロピレンジオキシチオフェンなどのC2-4アルキレンジオキシチオフェンなど)、アルキリデンジオキシチオフェン(例えば、3,4−メチレンジオキシチオフェンなどのC1-4アルキリデンジオキシチオフェンなど)、シクロアルキレンジオキシチオフェン[例えば、3,4−(1,2−シクロヘキシレン)ジオキシチオフェンなどのC5-12シクロアルキレン−ジオキシチオフェンなど]などが挙げられる。なお、アルキレンジオキシチオフェン及びシクロアルキレンジオキシチオフェンは、アルキレン基及びシクロアルキレン基が、さらに、メチル基やエチル基などのC1-12アルキル基やフェニル基などのC5-12アリール基などで置換されていてもよい。これらのチオフェン又は置換チオフェンは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。また、ポリチオフェン系重合体は、チオフェン単位とビニレン単位とを有する共重合体であってもよい
これらのチオフェン及び置換チオフェンのうち、通常、チオフェン、3−ヘキシルチオフェンなどのモノアルキルチオフェンの他、ジアルコキシチオフェン、アルキレンジオキシチオフェン、アルキリデンジオキシチオフェン、シクロアルキレンジオキシチオフェンなどが使用される。ジアルコキシチオフェン、アルキレンジオキシチオフェン、アルキリデンジオキシチオフェン及びシクロアルキレンジオキシチオフェンに対応するチオフェン単位は、例えば、下記式(1)で表わすことができる。
【0045】
【化2】

【0046】
(式中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を示す。R1及びR2は互いに結合して、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいアルキリデン基、又は置換基を有していてもよいシクロアルキレン基を形成してもよい)
1及びR2で表されるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、t−ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-4アルキル基が挙げられる。R1及びR2が互いに結合して形成されるアルキレン基としては、例えば、エチレン、プロピレン、トリメチレン、2,3−ブチレン、1,4−ブチレン、ヘキシレン、オクチレン、デシレン、ドデシレンなどの直鎖状又は分岐鎖状C2-12アルキレン基などが挙げられる。R1及びR2が互いに結合して形成されるアルキリデン基としては、例えば、メチレン、エチリデン、ブチリデン基などのC1-12アルキリデン基などが挙げられる。R1及びR2が互いに結合して形成されるシクロアルキレン基としては、1,2−シクロペンチレン、1,2−シクロヘキシレン、1,3−シクロヘキシレン基などのC5-12シクロアルキレン基(好ましくは1,2−C5-8シクロアルキレン基など)などが挙げられる。
【0047】
1及びR2の前記置換基としては、メチル、エチル、イソプロピル、ブチル、ヘキシル基などのアルキル基(C1-12アルキル基、好ましくはC1-6アルキル基など);ヒドロキシアルキル基(ヒドロキシエチル基などのヒドロキシC1-4アルキル基など);シクロヘキシル基などのシクロアルキル基(C5-8シクロアルキル基など);フェニル基などのアリール基(C6-10アリール基など);アラルキル基(ベンジル基などのC6-10アリール−C1-4アルキル基など);ヒドロキシル基;ハロゲン原子などが挙げられる。R1及び/又はR2で表される前記アルキル基、アルキレン基、アルキリデン基及びシクロアルキレン基は、このような置換基を1つ有していてもよく、同種又は異種の前記置換基を複数個有していてもよい。
【0048】
1及びR2の結合により形成される上記の基のうち、アリール基などの置換基を有していてもよいアルキリデン基(C1-6アルキリデン基など)及びアルキレン基(エチレン、トリメチレン基などのC2-8アルキレン基など)、アルキル基などの置換基を有していてもよいシクロアルキレン基が好ましい。また、隣接する2つの炭素原子上(例えば、1,2−位、2,3−位、3,4−位など)に、前記式(1)における酸素原子と結合する結合手を有する基、例えば、エチレン、フェニルエチレン、プロピレン、2,3−ブチレン、1,2−ヘキシレン、1,2−オクチレン、1,2−デシレン、1,2−ドデシレンなどの置換基を有していてもよいアルキレン基;1,2−シクロヘキシレン基などの1,2−シクロアルキレン基なども好ましい。なお、これらの基のうち、1,2−アルキレン基や1,2−シクロアルキレン基は、例えば、対応するα−オレフィン類又はシクロアルケン(例えば、エテン、プロペン、ヘキセン、オクテン、デセン、ドデセン及びスチレン)を臭素化して得られる1,2−ジブロモ体から誘導可能である。
【0049】
前記チオフェン及び置換チオフェン(チオフェン化合物)のうち、3,4−ジエトキシチオフェンなどの3,4−ジアルコキシ−チオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェンなどのアルキレンジオキシチオフェン、3,4−メチレンジオキシチオフェンなどのアルキリデンジオキシチオフェン、3,4−(1,2−シクロヘキシレン)ジオキシチオフェンなどのシクロアルキレンジオキシチオフェンなどが好ましい。チオフェン化合物としては、特に、成形性や導電性などの点から、前記式(1)においてR1及びR2の結合により形成される基が、メチレン基などのC1-4アルキリデン基、エチレン及びトリメチレン基などのC2-4アルキレン基(特にエチレン基)であるチオフェン、すなわち、3,4−C1-4アルキリデンジオキシチオフェン(特に3,4−メチレンジオキシチオフェンなどの3,4−C1-2アルキリデンジオキシチオフェン)、3,4−C2-4アルキレンジオキシチオフェン(3,4−エチレンジオキシチオフェンなど)が好ましい。
【0050】
ポリチオフェン系重合体としては、具体的には、ポリチオフェン、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ[3,4−(1,2−シクロヘキシレン)ジオキシチオフェン]、ポリチエニレンビニレンなどが例示できる。
【0051】
なお、ポリチオフェン系重合体は、必要により、他の慣用の導電性ポリマー、例えば、ポリピロール系重合体(例えば、ポリピロールなど)、ポリアニリン系重合体(例えば、ポリアニリンなど)などの水性溶媒に溶解又は分散可溶な導電性ポリマーと組み合わせて用いてもよい。
【0052】
(b)ポリ陰イオン
ポリ陰イオンとしては、多価カルボン酸(トリメリット酸、ピロメリット酸などのトリカルボン酸、ベンゼンテトラカルボン酸などのテトラカルボン酸など)などの化合物であってもよいが、通常、アニオン性重合体(ポリマー状カルボン酸類、ポリマー状スルホン酸類など)が使用できる。ポリ陰イオンは、前記ポリチオフェン系重合体と複合体(複合化合物)を形成してもよい。また、ポリチオフェン系重合体の重合工程で、ポリ陰イオン(アニオン性重合体など)の存在下、重合(酸化重合)を行うことにより、ポリチオフェン系重合体とポリ陰イオンとが共存した導電性ポリマーを形成してもよい。
【0053】
アニオン性重合体としては、例えば、ポリマー状カルボン酸類[カルボキシル基又はその塩を有する重合体、例えば、不飽和カルボン酸((メタ)アクリル酸などのビニルカルボン酸、マレイン酸などの不飽和ポリカルボン酸など)の単独又は共重合体(例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸−無水マレイン酸共重合体、(メタ)アクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体などの(メタ)アクリル酸系単独又は共重合体;ポリマレイン酸などの不飽和ポリカルボン酸の単独又は共重合体など)、不飽和カルボン酸と他の共重合性単量体((メタ)アクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸エステル、スチレンなどの芳香族ビニル化合物など)との共重合体、及びこれらの塩など]、ポリマー状スルホン酸類(スルホン酸基又はその塩を有する重合体、例えば、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸などの不飽和スルホン酸の単独又は共重合体(ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸など)、不飽和スルホン酸と前記例示の他の共重合性単量体との共重合体、及びこれらの塩など)、カルボキシル基及びスルホン酸基又はそれらの塩を有する重合体[例えば、(メタ)アクリル酸−スチレンスルホン酸共重合体など]などが挙げられる。前記アニオン性重合体の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、トリエチルアミンなどのアルキルアミン、アルカノールアミンなどの有機アミン塩などが挙げられる。これらのポリ陰イオンは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。前記ポリ陰イオンのうち、スルホン酸基を有する重合体、例えば、ポリスチレンスルホン酸などが好ましい。
【0054】
ポリ陰イオンのうち、ポリマー(アニオン性重合体)の数平均分子量Mnは、例えば、1000〜2,000,000、好ましくは2000〜1,000,0000、さらに好ましくは2000〜500,000程度である。
【0055】
ポリ陰イオンの割合は、ポリチオフェン系重合体100重量部に対して、例えば、10〜2000重量部、好ましくは30〜1000重量部、さらに好ましくは50〜500重量部(特に100〜300重量部)程度である。
【0056】
本発明では、被覆層が水性のコーティング剤として前記接触角を有する基材シートの表面に塗布されるため、導電性ポリマーは、後述する水性溶媒と組み合わせて用いられ、この水性溶媒に可溶又は分散可能(通常、可溶性)である。
【0057】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、水性溶媒(後述する水性溶媒)に溶解又は分散可能である限り、特に制限されず、種々のバインダー樹脂、例えば、ラジカル重合系バインダー樹脂、縮重合系バインダー樹脂、及び重付加系バインダー樹脂の他、セルロース系樹脂[アルキルセルロース(メチルセルロースなど)、ヒドロキシアルキルセルロース(ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなど)、カルボキシメチルセルロースなどのセルロースエーテル類など]、多糖類又はその誘導体(デンプン、アミロース、アミロペクチン、プルラン、カードラン、ザンタン、キチン、キトサンなど)などのいずれも使用できる。
【0058】
前記バインダー樹脂としては、ビニルアルコール系樹脂などを用いてもよいが、通常、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、スチレン系樹脂、ハロゲン原子含有ビニル系樹脂などが使用できる。バインダー樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0059】
バインダー樹脂は、通常、水性溶媒に溶解又は分散性の基(親水性基、例えば、カルボキシル基、酸無水物基、燐酸基、スルホン酸基、硫酸基などの酸基;アミノ基又は置換アミノ基、アンモニウム塩基などの塩基性基;ポリオキシエチレンユニットなどのポリオキシC2-4アルキレン基など)を有している。バインダー樹脂は、これらの官能基を一種又は複数種有していてもよい。バインダー樹脂は、上記官能基のうち、酸基(特に、カルボキシル基、酸無水物基、スルホン酸基、及びこれらの塩(金属塩、アミン塩、アンモニウム塩など)基など)を有する場合が多い。
【0060】
(i)ポリエステル系樹脂
ポリエステル系樹脂としては、ポリカルボン酸成分とポリオール成分との重縮合、オキシカルボン酸又はラクトンの重縮合、またはこれらの単量体成分の重縮合などにより得られるホモポリエステル又はコポリエステルが挙げられる。ポリエステル系樹脂は、通常、これらの単量体成分の少なくとも一部として、前記酸基を有する単量体成分、例えば、酸基を有するポリオール、酸基を有するポリカルボン酸(スルホン酸基を有するポリカルボン酸、トリカルボン酸以上のポリカルボン酸又はその無水物(トリカルボン酸、テトラカルボン酸、又はその無水物など)など)、酸基を有するオキシカルボン酸(ヒドロキシポリカルボン酸、スルホン酸基を有するオキシカルボン酸など)、酸基を有するラクトン(カルボキシラクトン、ラクトンスルホン酸など)の多官能性単量体(親水性基を有する単量体)を用いた重縮合により得られるホモ又はコポリエステルである。
【0061】
このような多官能性単量体のうち、前記酸基を有するポリオールとしては、カルボキシル基を有するポリオール[カルボキシル基を有するジオール、例えば、2,2−ジメチロール酢酸、2,2−ジメチロール乳酸などのジヒドロキシカルボン酸(ジメチロールC2-10アルカンカルボン酸又はジヒドロキシC2-10アルカンカルボン酸など)など]などが挙げられる。また、酸基を有するポリカルボン酸としては、スルホン酸基を有するポリカルボン酸[5−スルホイソフタル酸、5−スルホイソフタル酸モノナトリウム塩などのスルホン酸基又はその塩(金属塩など)基を有する芳香族ポリカルボン酸(芳香族ジカルボン酸など)など]、トリカルボン酸以上のポリカルボン酸又はその無水物[トリメリット酸、ピロメリット酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸などのトリカルボン酸;ベンゼンテトラカルボン酸などのテトラカルボン酸;又はこれらの無水物(無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸など)など]などが挙げられる。これらの多官能性単量体において、前記酸基は塩(金属塩、アミン塩、アンモニウム塩など)を形成していてもよい。
【0062】
これらの多官能性単量体成分の割合は、ポリエステル系樹脂を構成する単量体成分全体に対して、例えば、5〜100モル%、好ましくは10〜80モル%、さらに好ましくは20〜70モル%程度であってもよい。
【0063】
ポリエステル系樹脂は、通常、前記多官能性単量体とともに、慣用のポリエステル系樹脂の単量体成分(前記単量体成分)を用いて得られるコポリエステルである場合が多い。このような単量体成分のうち、前記ポリカルボン酸成分としては、通常、ジカルボン酸、例えば、脂肪族ジカルボン酸(例えば、コハク酸、アジピン酸などのC4-26ジカルボン酸)、脂環式ジカルボン酸(例えば、ヘキサヒドロフタル酸などのC8-12ジカルボン酸)、芳香族ジカルボン酸[C8-16ジカルボン酸、例えば、アレーンジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸など)、ビスフェニル−ジカルボン酸(4,4′−ビフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4′−ジカルボン酸、ジフェニルアルカンジカルボン酸(4,4′−ジフェニルメタンジカルボン酸など)、4,4′−ジフェニルケトンジカルボン酸など)]、又はこれらの誘導体(例えば、低級アルキルエステル、アリールエステル、酸無水物などのエステル形成可能な誘導体)などが挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。これらのジカルボン酸のうち、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸が好ましい。
【0064】
前記単量体成分のうち、ポリオール成分としては、通常、ジオール、例えば、脂肪族ジオール[例えば、アルキレングリコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオールなどのC2-10アルキレングリコールなど)、ポリアルキレングリコール(例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリC2-4アルキレングリコールなど)など]、脂環族ジオール(例えば、1,4−シクロヘキサンジオールなどのC5-8シクロアルカンジオール;1,4−シクロヘキサンジメタノールなどのC5-6シクロアルカンジC1-2アルカノール;水添ビスフェノールAなどの水添ビスフェノールなど)、芳香族ジオール(例えば、ハイドロキノンなどのジヒドロキシC6-10アレーン;ビフェノール、ビスフェノール類などのビス(ヒドロキシアレーン)又はそのC2-3アルキレンオキシド付加体;キシリレングリコールなど)を併用してもよい。これらのジオール成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。さらに、必要に応じて、トリオール以上のポリオール(例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなど)を併用してもよい。好ましいジオール成分には、C2-6アルキレングリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオールなどのC2-8アルキレングリコール)、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどが含まれる。
【0065】
前記単量体成分のうち、オキシカルボン酸には、例えば、オキシ安息香酸、オキシナフトエ酸、4−カルボキシ−4′−ヒドロキシビフェニル、ヒドロキシフェニル酢酸、グリコール酸、乳酸、オキシカプロン酸などのオキシカルボン酸又はこれらの誘導体などが含まれる。前記単量体成分のうち、ラクトンには、プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(例えば、ε−カプロラクトンなど)などのC3-12ラクトンなどが含まれる。
【0066】
好ましいポリエステル系樹脂には、テレフタル酸及び/又はイソフタル酸などの芳香族カルボン酸と、アルキレングリコール(C2-4アルキレングリコールなど)と、前記多官能性単量体(特に、トリカルボン酸、テトラカルボン酸などのポリカルボン酸、スルホン酸基含有ジカルボン酸)との重縮合により得られるコポリエステルが含まれる。前記ポリエステル系樹脂には、例えば、特開2002−60736号公報に記載の自己乳化型ポリエステル樹脂も含まれる。
【0067】
ポリエステル系樹脂は、慣用の方法、例えば、エステル交換、直接エステル化法などにより製造できる。
【0068】
(ii)ポリウレタン系樹脂
ポリウレタン系樹脂としては、例えば、ジイソシアネート成分と、ジオール成分と、必要により多価アミン類などの鎖伸長剤との反応により得られるポリウレタン系樹脂などが例示できる。ポリウレタン系樹脂は、通常、これらの単量体成分の少なくとも一部として、親水性基を有する単量体成分を用いた反応により得られるポリウレタン系樹脂であってもよい。
【0069】
親水性基を有する単量体成分には、カルボキシル基を有するジオール成分[前記ポリエステル樹脂の項で例示のカルボキシル基を有するポリオール(ジオールなど)など]又は多価アミン類、スルホン酸基を有するジオール成分又は多価アミン類、リン酸基を有するジオール成分などが含まれる。
【0070】
前記スルホン酸基を有するジオール成分としては、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸などが挙げられる。前記リン酸基を有するジオール成分としては、例えば、2,3−ジヒドロキシプロピルフェニルホスフェートなどが挙げられる。
【0071】
前記カルボキシル基を有する多価アミン類としては、例えば、リジン、アルギニンなどのジアミノカルボン酸などが挙げられる。前記スルホン酸基を有する多価アミン類としては、例えば、1,3−フェニレンジアミン−4,6−ジスルホン酸、ジアミノブタンスルホン酸、3,6−ジアミノ−2−トルエンスルホン酸、2,4−ジアミノ−5−トルエンスルホン酸などが挙げられる。
【0072】
これらの親水性基を有する単量体成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。親水性基を有する単量体成分の割合は、ポリウレタン系樹脂を構成する単量体成分全体に対して、例えば、5〜100モル%、好ましくは10〜80モル%、さらに好ましくは20〜70モル%程度であってもよい。
【0073】
ジイソシアネート成分としては、慣用のポリウレタン系樹脂で用いられるジイソシアネートが使用でき、例えば、芳香族ジイソシアネート(例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、トルイジンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネートなど)、芳香脂肪族ジイソシアネート(例えば、キシリレンジイソシアネートなど)、脂環式ジイソシアネート(例えば、イソホロンジイソシアネートなど)、脂肪族ジイソシアネート(例えば、プロピレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、ブチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなど)などが例示できる。ジイソシアネート成分は、アダクト体であってもよく、必要によりトリフェニルメタントリイソシアネートなどのポリイソシアネート成分と併用してもよい。ジイソシアネート成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0074】
ジオール成分としても、同様に、慣用のジオール成分、例えば、前記ポリエステル系樹脂の項で例示されたポリオール成分の他、ポリエステルジオール[前記ジオール成分又はポリエーテルジオールと、ジカルボン酸又はその反応性誘導体(低級アルキルエステル、酸無水物)との反応生成物や、ラクトンからの誘導体など]、ポリカーボネートジオール[例えば、前記低分子量ジオールとジアルキルカーボネート(ジメチルカーボネートなどのジC1-6アルキルカーボネートなど)との反応生成物など]などが例示できる。ポリエステルジオールにおいて、ジカルボン酸及びラクトンとしては、例えば、前記ポリエステル系樹脂の項で例示されたジカルボン酸及びラクトンなどが使用できる。ジカルボン酸は、必要により、トリメリット酸などの多価カルボン酸と併用してもよい。
【0075】
これらのジオール成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。ジオール成分は、必要により、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどのポリオールと併用してもよい。これらのジオール成分のうち、柔軟性の点から、脂肪族ポリエステルポリオールが好ましく、水分散性の点からは、ポリエーテルポリオールが好ましい。ジオール成分としてポリエーテルポリオールを用いた場合には、必ずしも親水性基を有する単量体成分は必須でなくてもよい。さらに、ポリエステルポリオールのジオール成分及び/又はジカルボン酸成分として、前記親水性基を有する単量体成分を用いることにより、親水性基を導入したポリエステルポリオールとしてもよい。
【0076】
ウレタン系樹脂は、必要により多価アミン類などの鎖伸長剤又は架橋剤で、架橋又は変性されていてもよい。例えば、前記多価アミン類によって変性されたポリウレタン尿素樹脂であってもよく、前記多価アミン類を鎖伸長剤として使用して、ウレタン系樹脂を熱可塑性エラストマーとしてもよい。熱可塑性ウレタン系エラストマーとしては、例えば、脂肪族ポリエーテルやポリエステルをソフトセグメントとし、短鎖グリコールのポリウレタン単位をハードセグメントとするエラストマーなどが例示できる。
【0077】
多価アミン類としては、例えば、ヒドラジン、脂肪族ジアミン(例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミンなど)、芳香族アミン(例えば、フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミンなど)、脂環族ジアミン[例えば、水添キシリレンジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、イソホロンジアミンなど]などが挙げられる。これらの多価アミン類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0078】
これらのウレタン系樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0079】
好ましいウレタン系樹脂には、前記親水性単量体成分が導入されたポリエステル型ウレタン系樹脂やポリエーテル型ウレタン系樹脂などが含まれる。
【0080】
(iii)ポリアミド系樹脂
ポリアミド系樹脂としては、ポリアミン成分とポリカルボン酸との重縮合、アミノカルボン酸の重縮合、ラクタムの開環重合、またはこれらの単量体成分の重縮合などにより得られるホモポリアミド又はコポリアミドが挙げられる。ポリアミド系樹脂は、通常、これらの単量体成分の少なくとも一部として、親水性基を有する単量体成分を用いた重縮合により得られるホモ又はコポリアミドである。
【0081】
親水性基を有する単量体成分には、スルホン酸基を有するポリカルボン酸又は多価アミン類、トリカルボン酸以上のポリカルボン酸又はその無水物、トリアミン以上の多価アミン類などが挙げられる。
【0082】
スルホン酸基を有するポリカルボン酸としては、前記ポリエステル系樹脂の項で例示されたスルホン酸基を有するポリカルボン酸が使用できる。スルホン酸基を有する多価アミン類としては、前記ポリウレタン系樹脂の項で例示されたスルホン酸基を有する多価アミン類が使用できる。ポリカルボン酸としては、前記ポリエステル系樹脂の項で例示されたポリカルボン酸が使用できる。多価アミン類としては、前記ポリウレタン系樹脂の項で例示された多価アミン類が使用できる。これらの親水性基を有する単量体成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの親水性基を有する単量体成分の割合は、ポリアミド系樹脂樹脂を構成する単量体成分全体に対して、例えば、5〜100モル%、好ましくは10〜80モル%、さらに好ましくは20〜70モル%程度であってもよい。
【0083】
ポリアミン成分としては、慣用のポリアミド系樹脂で用いられるジアミン成分が使用でき、例えば、脂肪族ジアミン[テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ドデカンジアミンなどのC4-16アルキレンジアミン(好ましくはC6-12アルキレンジアミン)など]、芳香族ジアミン(メタキシリレンジアミンやフェニレンジアミンなど)、脂環族ジアミン(ジアミノシクロヘキサンなどのジアミノC5-12シクロアルカンなど)が挙げられる。これらのポリアミン成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのポリアミン成分の中でも、ヘキサメチレンジアミンやドデカンジアミンなどの脂肪族ジアミンが汎用される。
【0084】
ポリカルボン酸成分としては、例えば、前記ポリエステル系樹脂の項で例示されたジカルボン酸成分などを使用できる。これらのポリカルボン酸は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのポリカルボン酸の中でも、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸が汎用される。
【0085】
ラクタムとしては、例えば、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどの炭素数4〜20(好ましくは炭素数4〜16)程度のラクタムなどが挙げられる。アミノカルボン酸としては、例えば、ω−アミノウンデカン酸などの炭素数4〜20(好ましくは炭素数4〜16)程度のアミノカルボン酸などが挙げられる。
【0086】
(iv)ポリイミド系樹脂
ポリイミド系樹脂としては、ポリアミン成分とテトラカルボン酸との重縮合により得られるホモポリイミド又はコポリイミドが挙げられる。ポリイミド系樹脂は、通常、これらの単量体成分の少なくとも一部として、親水性基を有する単量体成分を用いた重縮合により得られるホモ又はコポリイミドである。ポリイミド樹脂は熱可塑性であってもよく熱硬化性であってもよい。
【0087】
親水性基を有する単量体成分には、前記ポリアミド系樹脂と同様に、スルホン酸基を有するポリカルボン酸又は多価アミン類、トリカルボン酸以上のポリカルボン酸又はその無水物、トリアミン以上の多価アミン類などが挙げられる。親水性基を有する単量体成分の割合は、ポリイミド系樹脂を構成する単量体成分全体に対して、例えば、5〜100モル%、好ましくは10〜80モル%、さらに好ましくは20〜60モル%程度であってもよい。
【0088】
ジアミン成分としては、前記ポリアミド系樹脂の項で例示のジアミン類の他、ジ(アミノフェニル)エーテル、2,2−ビス(3,4−ジアミノフェニル)プロパンなどのビス(ジアミノフェニル)アルカンなどが例示できる。ジアミン類は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0089】
テトラカルボン酸としては、例えば、ピロメリット酸又はその無水物、ビフェニルテトラカルボン酸又はその無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸又はその無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパンなどのビス(ジカルボキシフェニル)アルカン又はその無水物、2,2−ビス(3,4−カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンなどのビス(カルボキシフェニル)フルオロアルカン、ビスマレイミドなどが例示できる。これらのポリカルボン酸類は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0090】
(v)ビニル系樹脂
ビニル系樹脂としては、(v-1)(メタ)アクリル系樹脂、(v-2)ビニルエステル系樹脂、(v-3)スチレン系樹脂、(v-4)ハロゲン原子含有ビニル系樹脂などが例示できる。これらのビニル系樹脂としては、少なくとも前記酸基(例えば、カルボキシル基、酸無水物基、スルホン酸基、燐酸基など)を有する重合性単量体を構成モノマーとして含む重合体であればよく、例えば、前記酸基を有する重合性単量体の単独又は共重合体、前記酸基を有する重合性単量体と共重合性単量体との共重合体などが挙げられる。
【0091】
前記酸基を有する重合性単量体としては、重合性カルボン酸類[(メタ)アクリル酸、クロトン酸などの重合性モノカルボン酸類、イタコン酸モノブチル、マレイン酸モノブチルなどの重合性多価カルボン酸の部分エステル類、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸などの重合性多価カルボン酸類又はその無水物など]、燐酸基含有単量体[2−ホスホオキシエチル(メタ)アクリレートなどの燐酸基含有(メタ)アクリル系単量体;ホスホオキシアシッドホスホオキシエチル(メタ)アクリレートなどのアシッドホスホオキシアルキル(メタ)アクリレート類など]、スルホン酸基含有重合性単量体[3−クロロ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのスルホン酸基含有(メタ)アクリルアミド;ビニルスルホン酸などのアルケニルスルホン酸;スチレンスルホン酸などのビニル芳香族スルホン酸;スルホアルキル(メタ)アクリレート、例えば、2−スルホエチル(メタ)アクリレートなどのスルホC2-6アルキル(メタ)アクリレートなど]などが例示できる。これらの酸基含有重合性単量体は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。カルボキシル基、酸無水物基及び/又はスルホン酸基を有する重合性単量体などが好ましい。
【0092】
酸基含有重合性単量体の使用量は、通常、ビニル系樹脂を構成する単量体全体に対して3〜80モル%、好ましくは5〜70モル%(例えば、10〜60モル%)、さらに好ましくは15〜50モル%(例えば、20〜40モル%)程度であってもよい。
【0093】
共重合可能な重合性単量体類としては、例えば、芳香族ビニル単量体[スチレン、ビニルトルエンなどのアルキルスチレン、クロロスチレンなどのハロゲン化スチレンなど]、(メタ)アクリル酸アルキルエステル類[(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸C1-10アルキルエステル;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシC1-10アルキルエステルなど]、グリシジル基含有ビニル単量体(グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテルなど)、ビニルエステル系単量体[有機酸ビニルエステル類、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニルなどのC2-20脂肪族カルボン酸ビニルエステル、安息香酸ビニルなどの芳香族カルボン酸ビニルエステルなど]、重合性ニトリル類又はシアン化ビニル類[(メタ)アクリロニトリルなど]、オレフィン類[エチレン、プロピレンなどのα−C2-10オレフィンなど]、ハロゲン含有単量体類[塩素原子を有する単量体類(塩化ビニル、塩化ビニリデンなど)、フッ素原子を有するビニル単量体類(フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、含フッ素アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル類など)など]、メチロール基やN−アルコキシメチル基を有する重合性単量体[N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなど]、シリル基又はアルコキシシリル基を有する重合性単量体[2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジメトキシメチルシランなどの(メタ)アクリロイルオキシアルキルアルコキシシラン類など]などが例示できる。これらの共重合性単量体は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0094】
(v-1)(メタ)アクリル系樹脂
前記ビニル系樹脂(v)のうち、(メタ)アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル系単量体を主たる構成モノマー(例えば、50モル%以上)として含んでいればよく、(メタ)アクリル系単量体及び共重合性単量体のうち、少なくとも一方が酸基を有していればよい。(メタ)アクリル系樹脂としては、例えば、前記酸基を有する(メタ)アクリル系単量体[(メタ)アクリル酸、スルホアルキル(メタ)アクリレート、スルホン酸基含有(メタ)アクリルアミドなど]の単独又は共重合体、前記酸基を有していてもよい(メタ)アクリル系単量体と酸基を有する他の重合性単量体[他の重合性カルボン酸、重合性多価カルボン酸又は無水物、ビニル芳香族スルホン酸など]及び/又は前記共重合性単量体[例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、芳香族ビニル単量体など]との共重合体、前記酸基を有する他の重合体単量体と(メタ)アクリル系共重合性単量体[例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリルなど]との共重合体などが挙げられる。
【0095】
これらの(メタ)アクリル系樹脂のうち、少なくとも(メタ)アクリル酸を含む重合体、例えば、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル重合体(アクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体など)、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル−スチレン共重合体(アクリル酸−メタクリル酸メチル−スチレン共重合体など)などが好ましい。
【0096】
(v-2)ビニルエステル系樹脂
ビニルエステル系樹脂としては、前記酸基を有する重合性単量体(例えば、(メタ)アクリル酸、ビニルスルホン酸など)と、前記ビニルエステル系単量体と、必要により他の共重合性単量体(α−オレフィン類など)との共重合体などが挙げられる。
【0097】
(v-3)スチレン系樹脂
スチレン系樹脂としては、スチレン系単量体を主たる構成モノマー(例えば、40モル%以上)として含んでいればよく、スチレン系単量体(芳香族ビニル系単量体)及び共重合性単量体のうち、少なくとも一方が酸基を有していればよい。スチレン系樹脂としては、例えば、前記酸基を有するスチレン系単量体(スチレンスルホン酸などのビニル芳香族スルホン酸など)の単独又は共重合体、前記酸基を有していてもよいスチレン系単量体と、酸基を有する他の重合性単量体[(メタ)アクリル酸などの重合性カルボン酸、重合性多価カルボン酸又は無水物、ビニルスルホン酸など]及び/又は前記共重合性単量体[例えば、芳香族ビニル単量体、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリロニトリルなど]との共重合体、前記酸基を有する他の重合体単量体と前記芳香族ビニル系単量体との共重合体などが挙げられる。
【0098】
スチレン系樹脂において、スチレン系単量体(又は芳香族ビニル系単量体)の割合は、樹脂を構成するモノマー全体に対して、好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは60モル%以上であってもよい。
【0099】
前記スチレン系樹脂のうち、例えば、ポリスチレンスルホン酸、スチレン−(メタ)アクリル酸系共重合体(例えば、スチレン−アクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体など)などが挙げられる。
【0100】
(v-4)ハロゲン原子含有ビニル系樹脂
ハロゲン原子含有ビニル系樹脂としては、例えば、前記酸基を有する重合性単量体(例えば、(メタ)アクリル酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸など)と、ハロゲン原子を有する共重合性単量体[例えば、前記ハロゲン化スチレン、塩素原子を有する単量体類、フッ素原子を有するビニル系単量体類などの前記ハロゲン含有単量体類など]と、必要により他の共重合性単量体(前記ビニルエステル系単量体、(メタ)アクリロニトリルなど)との共重合体が挙げられる。
【0101】
これらの樹脂のうち、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂及び(メタ)アクリル系樹脂から選択された少なくとも一種が好ましい。
【0102】
バインダー樹脂の割合(固形分換算)は、導電性ポリマー(ポリチオフェン系重合体とポリ陰イオンとの総量)(固形分換算)100重量部に対して50〜3000重量部、好ましくは100〜3000重量部(例えば、100〜2500重量部)、さらに好ましくは200〜2000重量部程度である。
【0103】
被覆層には、さらに界面活性剤が含まれていてもよい。界面活性剤としては、例えば、アニオン性界面活性剤(例えば、ドデカンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルスルホン酸塩や、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩など、フルオロラウリン酸ナトリウムなどのフルオロ脂肪酸塩、パーフルオロラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのパーフルオロアルキルベンゼンスルホン酸塩など)、カチオン性界面活性剤(例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライドなどのテトラアルキルアンモニウム塩など)、ノニオン性界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンオクチルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンパーフルオロラウリルエーテルなど)、両性界面活性剤(例えば、ジメチルラウリルカルボキシベタインなどのアルキルベタインなど)などが挙げられる。これらの界面活性剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0104】
界面活性剤の割合は、ポリチオフェン系重合体100重量部に対して、例えば、1〜5000重量部、好ましくは10〜3000重量部、さらに好ましくは30〜2000重量部(特に500〜1000重量部)程度である。
【0105】
なお、被覆層は、必要により架橋剤などにより架橋されていてもよい。
【0106】
被覆層には、種々の添加剤、例えば、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、水溶性高分子、充填剤、架橋剤、カップリング剤、着色剤、難燃剤、滑剤、ワックス、防腐剤、粘度調整剤、増粘剤、レベリング剤、消泡剤などが含まれていてもよい。
【0107】
被覆層の厚みは、例えば、0.01〜300μm、好ましくは0.05〜100μm、さらに好ましくは0.1〜30μm(特に0.1〜10μm)程度である。
【0108】
[積層シート及びその製造方法]
本発明の積層シートは、前記基材シートと、この基材シートの少なくとも一方の面(片面又は両面)を被覆する被覆層とで構成されている。この被覆層は、前記導電性ポリマー及び前記バインダー樹脂を含有する水性組成物のコーティングにより形成されるにも拘わらず、基材シートに対して高い密着性を有する。また、基材シートとして、前述の透明性の高い熱可塑性樹脂を用いると、高い密着性及び帯電防止性を有し、かつ透明性の高い積層シートが得られる。このような積層シートの全光線透過率(JIS K 7150に準拠した全光線透過率)は、積層シートの厚み1.0mmのとき、例えば、70〜95%、好ましくは75〜95%、さらに好ましくは80〜95%程度である。また、積層シートのヘーズ(JIS K 7150に準拠したヘーズ)は、積層シートの厚み1.0mmのとき、例えば、2〜30%、好ましくは2〜30%、さらに好ましくは2〜15%程度である。
【0109】
積層シートの厚みは、例えば、50μm〜5mm、好ましくは100μm〜3mm、さらに好ましくは150μm〜2mm(特に200μm〜1.5mm)程度である。
【0110】
基材シートは、樹脂成分を必要に応じてタンブラー、スーパーミキサーなどを用いて混合した後、そのままシート押出機に供給して形成してもよいし、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、単軸もしくは二軸押出し機等によって溶融混練してペレット化した後、シート押出機に供給して形成してもよい。シートの成形方法としては、例えば、エキストルージョン法[ダイ(フラット状、T状(Tダイ)、円筒状(サーキュラダイ)等)法、インフレーション法等]などの押出成形法、テンター方式、チューブ方式、インフレーション方式などによる延伸法等が挙げられる。樹脂シートは、未延伸であってもよく、延伸(一軸延伸、二軸延伸等)してもよい。
【0111】
本発明では、前記被覆層は、水性液状組成物(単に水性組成物と称する場合がある)を、前記接触角を有する基材シートの表面にコーティングすることにより形成される。水性組成物における水性溶媒は、水単独であってもよく、水と親水性溶媒(特に水混和性溶媒)[例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトンなど)、ニトリル類(アセトニトリルなど)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなど)、カルビトール類など]との混合溶媒であってもよい。前記親水性溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。前記水性溶媒のうち、水単独、又は水とアルコール類との混合溶媒を用いるのが好ましい。なお、前記導電性ポリマーと前記バインダー樹脂とを含む水性組成物は、例えば、ナガセケムテックス(株)から、商品名「デナトロン」などとして入手可能である。
【0112】
水性組成物中における導電性ポリマーの濃度は、例えば、0.01〜5重量%、好ましくは0.05〜3重量%、さらに好ましくは0.1〜2重量%(特に0.3〜1重量%)程度である。水性組成物における固形分濃度は、0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜8重量%、さらに好ましくは0.5〜6重量%(特に1〜5重量%)程度である。
【0113】
水性組成物の塗布量(乾燥後の塗布量)は、例えば、10〜5000mg/m2(例えば、50〜4500mg/m2)程度の広い範囲から選択でき、通常、70〜4000mg/m2、好ましくは100〜3000mg/m2(例えば、120〜2000mg/m2)、さらに好ましくは150〜500mg/m2程度であってもよい。
【0114】
積層シートは、前記基材シートの少なくとも一方の面に前記被覆層の塗布液(前記水性組成物)を塗布又は被覆(コーティング)して被覆層を形成することにより製造できる。前記被覆層の塗布液の塗布には、慣用の塗布手段、例えば、スプレー、ロールコーター、グラビアロールコーター、ナイフコーター、ディップコーターなどが利用できる。なお、必要であれば、前記被覆層の塗布液は複数回に亘り塗布してもよい。前記被覆層の塗布液を基材シートに塗布した後、通常、塗布層を乾燥することにより被覆層を形成できる。
【0115】
積層シートは、後処理工程(二次成形工程など)に連続的に供してもよいが、通常、ロール状に巻き取り、後処理工程に供する場合が多い。このような巻き取りによりベタツキや白化を抑制でき、積層シートの透明性、光沢などを損うことがない。
【0116】
このようにして得られる本発明の積層シートは、成形性に優れるとともに、基材と被覆層との密着性に優れるため、二次加工(成形や延伸加工など)に供しても、基材シートの延伸又は変形等に効率よく追従(又は追随)して、被覆層が破断することがない。そのため、二次加工後も、基材シート表面が、均一な被覆層で覆われており、高い帯電防止性を有している。
【0117】
積層シートの表面固有抵抗値は、例えば、1×103〜1×1013Ω/□、好ましくは1×104〜1×1012Ω/□、さらに好ましくは1×105〜1×1011Ω/□(例えば、1×106〜1×1010Ω/□)程度である。また、積層シートの表面固有抵抗値は、積層シートを150%延伸したとき、例えば、1×104〜1×1012Ω/□、好ましくは1×105〜5×1011Ω/□、さらに好ましくは1×106〜1×1011Ω/□(例えば、1×107〜5×1010Ω/□)程度である。
【0118】
積層シートは、慣用の熱成形法、例えば、圧空成形(押出圧空成形、熱板圧空成形、真空圧空成形など)、自由吹込成形、真空成形、折り曲げ加工、マッチド・モールド成形、熱板成形などにより二次成形可能である。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明の積層シートは、帯電防止性や成形性、種々の機械的特性に優れるとともに、低湿度下での帯電防止性や耐水性、透明性や基材シートと被覆層との密着性などにも優れている。そのため、前記積層シートは、例えば、各種包装用成形体又は容器用途(電子部品搬送用の成形品も含む)、例えば、トレー、キャリアテープ、マガジンなどの他、半導体や電子部品の包装用成形体用途(大型電子部品包装用成形品も含む)などに有用である。
【実施例】
【0120】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた基材シートにおける各成分の略号の内容、及び各評価項目の評価方法は以下の通りである。
【0121】
[基材シートの各成分]
透明HIPS:透明耐衝撃性ポリスチレン(大日本インキ化学工業(株)製、クリアパクトTI−300S)
ABS:ABS樹脂(ダイセルポリマー(株)製、セビアン500SF)
HIPS:耐衝撃性ポリスチレン(東洋スチレン(株)製、E640)
[水性組成物]
C−1:ナガセケムテックス(株)製、「デナトロン」♯3020
C−2:ナガセケムテックス(株)製、「デナトロン」♯3027
C−3:C−1の水性組成物から、バインダー樹脂を除いた水性組成物(ナガセケムテックス(株)製)
なお、上記水性組成物は、表1に示す所定の固形分含量になるように、80重量%エタノール水溶液で稀釈して用いた。
【0122】
[接触角]
自動接触角計(協和界面化学(株)製、CA−Z)を用いて、25℃、50%RH環境下で、25℃の蒸留水(和光純薬工業(株)製)をシート表面に滴下し、10秒後の接触角を測定した。
【0123】
[表面抵抗値]
表面抵抗計[三菱化学(株)製、ハイレスターUP(MCP−HT450)]を用いて、JIS K7194に準じて表面抵抗値を測定した。測定条件は2種類の環境下(23℃、50%RHの条件下及び23℃、20%RHの低湿度条件下)で12時間放置後、シートの表面抵抗値を測定した。
【0124】
なお、表面抵抗値の測定は、(i)実施例及び比較例で得られた未延伸の積層シート、(ii)各積層シートを、シート面積が150%になるような延伸倍率(縦横同倍率)(具体的には、縦100mm×横100mmの積層シートを縦122mm×横122mmのサイズに延伸)で、同時二軸延伸した延伸シート、及び(iii)未延伸の積層シートを用いて、縦15cm、横15cm及び深さ2cmの電子部品包装用成形体を真空成形し、成形体の底部について測定を行った。積層シートの二軸延伸には、(株)岩本製作所製高分子フィルム二軸延伸装置BIX−702−Sを用いた。
【0125】
[透明性]
積層シートの透明性について、JIS K7150に準じて、オートマチックヘーズメーター(東京電色(株)製、TC−H3DPK)を用いて、全光線透過率およびヘーズ値を測定した。不透明なシートに関しては、表中では「−」と記載した。
【0126】
[密着性]
基材シートに対するコーティング剤(被覆層)の密着性は、積層シートの被覆層上にセロハンテープ(ニチバン(株)製)を接着して、ただちに剥離した。積層シート上の剥離部分の表面抵抗値を測定し、下記の基準で上記密着性を評価した。
【0127】
○:テープ剥離後の表面抵抗値/テープ接着前の表面抵抗値=103未満
×:テープ剥離後の表面抵抗値/テープ接着前の表面抵抗値=103以上。
【0128】
実施例1〜5
表1に示す熱可塑性樹脂をT−ダイからシート状に押出し、冷却ロールにて冷却後、ロール状に巻き取り、基材シート(厚み1000μm)を作製した。得られた基材シートに、グラビアコーターを用いて、表1に示す水性組成物を乾燥後の重量が表1に示す重量となるような塗布量で塗布し、乾燥させることにより、積層シートを製造した。
【0129】
なお、実施例5では、水性組成物の塗布に先立って、基材シートの両面を、ライン速度20m/分、20W/m2の条件で、コロナ放電処理した。比較例1では、バインダー樹脂を含まないコーティング剤を用い、比較例2では、水に対する接触角が大きい基材シートを用いた。
【0130】
結果を表1に示す。
【0131】
【表1】

【0132】
表1から明らかなように、実施例の積層シートでは、比較例に比べて、帯電防止性、特に延伸後の帯電防止性が高く、基材シートと被覆層との密着性も高い。また、実施例1〜3の積層シートでは透明性も高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂で構成された基材シートの少なくとも一方の面に、導電性ポリマーで構成された被覆層が形成された積層シートであって、前記被覆層が、(i)ポリチオフェン系重合体及びポリ陰イオンを含有し、かつ水性溶媒に溶解又は分散可能な導電性ポリマーと、(ii)水性溶媒に溶解又は分散可能なバインダー樹脂とで構成されており、前記基材シートの表面が、水に対する接触角50〜85°を有する帯電防止性積層シート。
【請求項2】
導電性ポリマーが、下記式(1)
【化1】

(式中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を示す。R1及びR2は互いに結合して、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいアルキリデン基、又は置換基を有していてもよいシクロアルキレン基を形成してもよい)
で表されるチオフェン単位を有し、かつ陽イオンの形態のポリチオフェン系重合体と、アニオン性重合体とを含有する請求項1記載のシート。
【請求項3】
バインダー樹脂が、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、スチレン系樹脂及びハロゲン原子含有ビニル系樹脂から選択された少なくとも一種で構成されている請求項1記載のシート。
【請求項4】
バインダー樹脂が、スルホン酸基及びカルボキシル基から選択された少なくとも一種の酸基を有しており、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂及び(メタ)アクリル系樹脂から選択された少なくとも一種で構成されている請求項1記載のシート。
【請求項5】
固形分換算で、バインダー樹脂の割合が、導電性ポリマー100重量部に対して50〜3000重量部である請求項1記載のシート。
【請求項6】
熱可塑性樹脂がスチレン系樹脂である請求項1記載のシート。
【請求項7】
スチレン系樹脂が、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル及びアクリロニトリルから選択された少なくとも一種のアクリル系単量体を構成単位として含有するスチレン系樹脂である請求項6記載のシート。
【請求項8】
熱可塑性樹脂が、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを構成単位として含有する透明なゴム変性スチレン系樹脂であり、厚み1.0mmにおいて、全光線透過率が70〜95%であり、かつヘーズが2〜30%である請求項1記載のシート。
【請求項9】
150%延伸したとき、表面固有抵抗値が1×104〜1×1012Ω/□である請求項1記載のシート。
【請求項10】
熱可塑性樹脂で構成された基材シートの少なくとも一方の面に、導電性ポリマーを含有する水性組成物をコーティングして被覆層を形成する積層シートの製造方法であって、水に対する接触角50〜85°である前記基材シートの表面に、(i)ポリチオフェン系重合体及びポリ陰イオンを含有し、かつ水性溶媒に溶解又は分散可能な前記導電性ポリマーと、(ii)水性溶媒に溶解又は分散可能なバインダー樹脂とを含む前記水性組成物を塗布し、請求項1記載の帯電防止性積層シートを製造する方法。

【公開番号】特開2006−198805(P2006−198805A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−10638(P2005−10638)
【出願日】平成17年1月18日(2005.1.18)
【出願人】(000214250)ナガセケムテックス株式会社 (173)
【Fターム(参考)】