説明

帯電電位測定プローブ及びこのプローブを用いた帯電電位分布測定システムと帯電電位分布測定装置

【課題】電子部品などの測定対象の電位分布をより精細に、より高速で且つ視覚的に得ることにより、帯電の影響を容易に評価できる帯電分布測定システムを提供する。
【解決手段】帯電電位検出部分が直径0.5mm以下のプローブを用い、帯電電位を測定するプローブの検出部及び回路を最適化することにより、より微小領域の帯電電位の測定を可能にし、プローブを二次元に走査することにより、高分解能の帯電電位分布を短時間で測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は取り扱われる物体、特に電子部品の表面に発生する静電気を微小範囲で測定し、測定した表面上の帯電電位分布を視覚的に表示する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の搬送は、いわゆる電子包材と呼ばれるキャリアテープやトレーといったものに収納されて行われる。そして、この搬送途中に電子包材との接触・摩擦等により電子部品は帯電する。電子包材は、導電化や帯電防止処理を施してあるので、アースを取ることにより帯電電荷は見かけ上消失するが、絶縁物で覆われている電子部品の帯電電荷は無くならない。そして、この表面に帯電した電荷により、電子部品の破壊や実装不良といった問題が引き起こされる。
【0003】
また、搬送中以外に、電子部品の製造工程や実装工程においても、周囲のなんらかの物体との接触・摩擦等により、同様に電子部品は帯電する。この電子部品の帯電の原因や影響を調べるためには、電子部品の帯電の大きさや表面の帯電分布を測定することが重要である。
【0004】
電子部品表面の帯電分布を測定する方法については、既に提案されている(例えば特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開平9−243692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1では帯電電位を測定するプローブについての言及は無く、また市販の帯電電位測定プローブの最小測定領域は、たかだか直径1mmの円内の領域である。一方、電子部品のサイズは、年々小さくなってきており、これらの電子部品の帯電分布を、より精密に測定するためには、より微小領域の帯電電位を測定することができる帯電電位測定プローブが必要となる。
【0007】
また、特許文献1では、二次元での電位測定はステップで行っているので、より精度を高く、即ちステップを小さくすると、それに応じて測定時間が大変長くなる問題がある。
【0008】
本発明は、上記の問題を解消するためになされたもので、電子部品といった測定対象の電位分布をより精細に、より高速で且つ視覚的に得ることにより、帯電の影響を容易に評価できる帯電分布測定システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のうち請求項1にかかるものは、帯電電位検出部分が直径0.5mm以下であり、微小領域の帯電電位を測定することを特徴とする帯電電位測定プローブである。
【0010】
本発明のうち請求項2にかかるものは、請求項1にかかる帯電電位測定プローブを測定対象上に二次元に走査し帯電分布を視覚的に表示する帯電電位分布測定システムである。
【0011】
本発明のうち請求項3にかかるものは、上記請求項2に係る発明において、帯電電位測定プローブと測定対象との距離を0.5mm以下で測定することを特徴とする帯電電位分布測定システムである。
【0012】
本発明のうち請求項4にかかるものは、上記請求項3に係る発明において、初段の入力バイアス電流が小さいオペアンプ及び入力抵抗が大きい抵抗を用いたボルテージフォロア回路と次段の0入力の時に発生する電圧を引き算消去するためのDA変換ボードからなる帯電電位の増幅回路を有する事を特徴とする帯電電位分布測定システムである。
【0013】
本発明のうち請求項5にかかるものは、上記請求項4に係る発明において、時定数が一方向の走査時間の100倍以上である帯電電位の増幅回路を有する事を特徴とする帯電電位分布測定システムである。
【0014】
本発明のうち請求項6にかかるものは、上記請求項3〜5のいずれかに係る発明において、一方向の走査後に必ず基準電位部の測定を行い、基準電位からのずれを次の走査でDA変換ボードからの入力で補正することを特徴とする帯電電位分布測定システムである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、帯電電位を測定するプローブとして直径が0.5mm以下のプローブを用い、該プローブの検出部及び回路を最適化することにより、より微小領域の帯電電位を測定することができ、そしてこのプローブを二次元に走査することにより、高分解能の帯電電位分布を短時間で測定することができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は本発明にかかる帯電電位分布測定システムの構成を例示する概念図である。また、図2は本発明の帯電電位分布測定システムによる帯電電位分布測定装置の構成を例示する模式図である。
【0017】
金属など導電性の材料で形成された試料ホルダー2は接地されており、その上に電子部品を固定する。帯電電位測定プローブ1はZ軸に固定されることによって電子部品と所定の間隔が保たれる。電子部品の種類によってその厚さは様々であるので、Z軸方向の調整を行うことで、帯電電位測定プローブ1と電子部品との間隔を任意に設定することができる。
【0018】
試料ホルダー2は、テーブル移動ドライバ4によって制御されて、XY平面を移動する。従って、帯電電位測定プローブ1と電子部品との間に所定の間隔が保たれつつ、相対的には帯電電位測定プローブ1の測定領域が電子部品の上を走査することができる。XY軸のテーブル移動ドライバ4の制御はパーソナルコンピュータ7によって行われ、試料ホルダー2の移動量等の制御指令が処理される。
【0019】
帯電電位測定プローブ1はAD変換ボード5を介してパーソナルコンピュータ7に接続されており、走査中の電位の測定結果がパーソナルコンピュータ7に送られる。パーソナルコンピュータ7は試料ホルダー2の移動量と電位の測定結果に基づいて、電子部品表面の電位分布をパーソナルコンピュータ7のディスプレイ上へ視覚的に表示する処理を行う。
【0020】
この際、帯電電位測定プローブ1と試料ホルダー2に固定された電子部品との相対的な移動が直線で走査され、連続的に電位測定が行われる。またこの際、一方向の走査後に必ず基準電位部の測定を行い、基準電位からのずれを次の走査でDA変換ボード6からの入力で補正する。ここでいう基準電位部とは、具体的には接地した試料ホルダー2上を走査する部分のことを示す。
【0021】
図3に帯電電位測定プローブ1の概観と構成を示す。電位の検出部は、プローブ1先端の銅線8部分がビニール9で被覆されている。この銅線8に入ってくる電気力線の量の測定を行う。より微小領域の測定を行うためには、検出部面積、即ち銅線8の断面積が小さい方が良い。しかし、検出部面積が小さ過ぎると測定感度が小さくなる。従って、銅線8の直径は0.5mm以下、好ましくは0.08〜0.5mmが良く、更に好ましくは0.12〜0.2mmが良い。
【0022】
また、より微小領域の測定を行うためには、帯電電位測定プローブ1と測定対象物である電子部品との間隔を小さくすることも有効である。しかし、間隔を小さくしすぎると、電子部品表面の静電気が、帯電分布測定プローブ1へ放電が生じてしまうため、帯電電位が測定できない。また、電子部品の表面の凹凸や平滑度も影響する。従って、帯電電位測定プローブ1と電子部品との間隔は0.5mm以下、好ましくは0.2〜0.5mmが良い。
【0023】
図4に帯電電位測定プローブ1の帯電電位検出のための増幅回路を示す。増幅回路は、初段のボルテージフォロワ回路には、入力バイアス電流が小さいオペアンプを用い、入力抵抗には大きな抵抗を用いて時定数を大きくすることにより、連続電位測定が可能となり、大幅に測定時間を短縮することができる。
【0024】
ボルテージフォロア回路内のコンデンサ10の容量は、より微小な電圧を測定するためには小さい方が良い。しかし、容量が小さすぎると電位検出部の浮遊容量の変化の影響を受ける。従って、コンデンサ10の容量は好ましくは10〜1000pFが良く、更に好ましくは50〜200pFが良い。
【0025】
帯電電位測定の操作中の誤差を低減するために、測定時間に対して時定数は十分大きく取る必要がある。時定数はコンデンサ5との組み合わせによって決まるが、抵抗11は好ましくは1TΩ〜2TΩが良く、時定数は一方向の走査時間の100倍以上が良い。
【0026】
一段目の入力バイアス電流が抵抗11とで作る電圧降下を打ち消すために、次段でDA変換ボード6からの電圧で引き算消去する回路をつけている。また、同時に一方向の走査中のドリフト等の変動も、走査後に必ず基準電位部の測定を行うことにより、この回路で補正することができる。
【0027】
図5は、電子包材の一種であるキャリアテープ12に電子部品であるLED13が収納されている様子を示す模式図であり、(a)は上から見た図、(b)は断面図である。図5に示すように、キャリアテープ12のポケット部にLED13が収納されている。運搬時には、キャリアテープ12の上にふたの役割を果たすカバーテープがシールされる。図5はカバーテープを剥離した後の状態である。
【実施例】
【0028】
[実施例]
図5に示す、LED(測定面の大きさ1.6×0.8mm)13がキャリアテープに収納された状態のものを、本発明の帯電電位分布測定システムによる装置で測定した。この時、検出部の銅線8の直径は0.16mmであり、帯電電位測定プローブ1とLED13との距離は0.2mmである。増幅回路内のコンデンサ10は100pF、抵抗11は1.5TΩであり、この時の時定数は150秒である。試料ホルダー2の走査の速度は、一方向への距離は5mmに対して時間1.5秒である。得られた結果を図6の等高線グラフに示した。等高線は、負極性を実線で正極性を点線で示している。等高線を色分けすることにより視覚的に表示でき、帯電分布状態がわかりやすい。
【0029】
測定したLED13の測定面の大きさは1.6mm×0.8mmであるが、帯電電位分布測定結果は、LED13の形を反映した四角形となり、LED13表面の帯電に分布があることが見てとれる。
【0030】
従って、LED13が搬送中にカバーテープと接触・摩擦することにより、帯電していることを確認することができた。
【0031】
[比較例]
比較として市販の電位計(トレック社製モデル541、検出部直径1mm)を用いて実施例で測定したLED13より大きいLED(測定面の大きさ3.2mm×1.6mm)について、帯電電位測定プローブ1とLED13との距離を0.5mmとして測定した。結果を図7に示した。測定結果は、帯電電位分布が円状であり、LED13の形が反映されていない。これは、市販の電位計の測定領域がLED13の大きさと同等以上であるためであり、この結果ではLED13表面の帯電電位分布を精度良く測定しているとは言えない。
【0032】
本発明により、電子部品等の表面に発生する静電気を微小範囲で測定でき、測定結果を数値だけではなく、色分け表示や3次元グラフのように視覚的に表示できるので、帯電電位分布から電子部品等の帯電の状態が分かり、静電気によるトラブルの解析が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の帯電電位分布測定システムの概念図である。
【図2】本発明の帯電電位分布測定装置の概念図である。
【図3】本発明の帯電電位測定プローブの概念図である。
【図4】本発明の帯電電位測定プローブの増幅回路図である。
【図5】LEDが収納されたキャリアテープの概念図である。
【図6】本発明の帯電電位測定システムを用いた測定結果の等高線図である。
【図7】市販の帯電電位測定システムを用いた測定結果の等高線図である。
【符号の説明】
【0034】
1 帯電電位測定プローブ
2 試料ホルダー
3 テーブル移動ドライバ
4 テーブル移動ドライバ
5 AD変換ボード
6 DA変換ボード
7 パーソナルコンピュータ
8 銅線
9 ビニール
10 コンデンサ
11 抵抗
12 キャリアテープ
13 LED

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯電電位検出部分が直径0.5mm以下であり、微小領域の帯電電位を測定することを特徴とする帯電電位測定プローブ。
【請求項2】
請求項1に記載の帯電電位測定プローブを測定対象上に二次元に走査し帯電分布を視覚的に表示することを特徴とする帯電電位分布測定システム。
【請求項3】
帯電電位測定プローブと測定対象との距離を0.5mm以下で測定することを特徴とする請求項2記載の帯電電位分布測定システム。
【請求項4】
初段の入力バイアス電流が小さいオペアンプ及び入力抵抗が大きい抵抗を用いたボルテージフォロア回路と次段の0入力の時に発生する電圧を引き算消去するためのDA変換ボードからなる帯電電位の増幅回路を有する事を特徴とする請求項3記載の帯電電位分布測定システム。
【請求項5】
時定数が一方向の走査時間の100倍以上である帯電電位の増幅回路を有する事を特徴とする請求項4記載の帯電電位分布測定システム。
【請求項6】
一方向の走査後に必ず基準電位部の測定を行い、基準電位からのずれを次の走査でDA変換ボードからの入力で補正することを特徴とする請求項3〜5いずれか一項記載の帯電電位分布測定システム。
【請求項7】
請求項2〜6のいずれか一項記載の帯電電位測定システムによることを特徴とする帯電電位分布測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−76213(P2008−76213A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−255477(P2006−255477)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】