説明

干渉回避装置及び移動通信機

【課題】路側通信機からの送信信号の干渉が発生していると、当該干渉を回避することが可能となる干渉回避装置を提供する。
【解決手段】第一の路側通信機2からの送信信号を車載通信機3が受信する際に、当該送信信号が第二の路側通信機2からの送信信号と干渉するのを回避させる干渉回避装置10である。干渉の有無を判定する干渉判定部13と、この干渉判定部13による判定結果に基づいて路側通信機2からの送信信号レベルの伝搬距離特性である距離−レベル特性を変更させる特性変更部14とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、高度道路交通システム(ITS:Intelligent Transport System)に用いられる干渉回避装置及び移動通信機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通安全の促進や交通事故の防止を目的として、道路に設置されたインフラ装置からの情報を端末が受信し、この情報を活用することで車両の安全性を向上させる高度道路交通システムが検討されている(例えば、特許文献1参照)。
かかる高度道路交通システムは、主として、インフラ側の無線通信装置である複数の路側通信機と、各車両に搭載される無線通信装置である複数の車載通信機とによって構成される。
【0003】
この場合、各通信主体間で行う通信の組み合わせには、路側通信機同士が行う路路間通信と、路側通信機と車載通信機とが行う路車(又は車路)間通信と、車載通信機同士が行う車車間通信とが含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2806801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記高度道路交通システムにおいては、路路間通信をはじめ、路車間通信及び車車間通信も含め、これらの各通信の共存を図るに当たって、帯域を有効利用してどのような通信制御を行うかが重要となる。そこで、限られた周波数帯域内で路路間、路車間及び車車間の各通信を行うべく、マルチアクセス(Multiple Access)が用いられることが検討されている。
【0006】
山間部などで少数の車載通信機のみでの通信が想定される車車間通信としてのマルチアクセス方式としては、例えばCSMA(Carrier Sense Multiple Access)に代表される自律的なランダムアクセス方式を採用するのが好ましい。
一方、路側通信機が存在するエリアでは、路路間通信、路車間通信及び車車間通信が共存する。この場合、インフラ側である路側通信機の取り扱う情報の優先度が高いのが一般的であるため、車車間通信よりも路車間通信や路路間通信が優先的に行われる仕組みが必要である。
【0007】
そこで、路側通信機の情報送信を優先的に行うためには、通信に用いる周波数を一定時間ごとに時分割して路側通信機の送信専用の時間スロットを設ける、時分割多重(TDMA:Time Division Multiple Access)によるマルチアクセスが有効となる。
したがって、例えば、交差点ごとに設置された複数の路側通信機群で構成される通信システムを想定すると、各路側通信機が送信する時間スロットをTDMA方式で割り当て、残った時間スロットをCSMA方式による車車間通信に使用させるのが、合理的な通信システムになると考えられる。
【0008】
さらに、前記のようにTDMA方式で割り当てられた同一の時間スロットで、複数の路側通信機によって路車間通信が行われる場合、路側通信機それぞれから送信される送信信号同士が干渉しないように路側通信機それぞれの通信エリアが設定されている。これは、複数の路側通信機からの送信信号同士が干渉するエリアが存在していると、当該エリアに存在している移動通信機は、路側通信機からの信号を正確に受信することができず、通信が成立しなくなるためである。
【0009】
このように、路側通信機の通信エリアは、送信信号同士が干渉しないように始め設定されているが、システムの運用を継続しているうちに、例えば建物の増減等によって周囲の通信環境が変化する場合があり、この場合、路側通信機からの送信信号が想定外に広い範囲まで到達することがあり、他の路側通信機からの送信信号と干渉してしまうおそれがある。
そこで、本発明は、路側通信機からの送信信号の干渉が発生していると、当該干渉を回避することが可能となる干渉回避装置、及び、この干渉回避装置を機能させるために好ましい移動通信機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)前記目的を達成するために、本発明は、第一の路側通信機からの送信信号を移動通信機が受信する際に、当該送信信号と第二の路側通信機からの送信信号とが干渉するのを回避させる干渉回避装置であって、前記干渉の有無を判定する干渉判定部と、前記干渉判定部による判定結果に基づいて、前記路側通信機からの送信信号レベルの伝搬距離特性である距離−レベル特性を変更させる特性変更部とを備えていることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、干渉判定部によって、第一及び第二の路側通信機からの送信信号同士の干渉の有無が判定されると、この判定結果に基づいて、特性変更部は、路側通信機からの送信信号レベルの伝搬距離特性である距離−レベル特性を変更させる。なお、この距離−レベル特性の変更は、例えば、第一及び第二の路側通信機の内の一方又は双方とすることができる。
すなわち、干渉が有ると判定されると、ある位置で移動通信機が受信する路側通信機からの送信信号の受信レベルが下がるように、前記距離−レベル特性を、特性変更部によって低下させれば、当該路側通信機からの送信信号の移動通信機における受信レベルを下げることができ、発生していた干渉を回避することが可能となる。
【0012】
(2)また、ある位置に存在する移動通信機から路側通信機への無線送信の環境と、当該路側通信機から当該移動通信機への無線送信の環境とは同等であることから、前記干渉判定部は、前記距離−レベル特性を、前記移動通信機の位置と当該位置で当該移動通信機から送信された送信信号の前記路側通信機における受信レベルとに基づいて推定する構成とすることができ、この場合、干渉判定部は、推定した前記距離−レベル特性に基づいて前記干渉の有無を判定する構成とすることができる。
【0013】
(3)またこの構成において、移動通信機からの信号の送信レベル(送信出力)が可変である場合、移動通信機が一定の位置に存在していても、当該移動通信機からの送信信号の路側通信機における受信レベルは不定となる。この場合、前記干渉判定部は、前記距離−レベル特性を、更に、前記移動通信機から送信される送信信号の送信レベルの情報に基づいて推定する構成とすればよい。
これにより、干渉判定部は、移動通信機の送信レベルの情報を取得することによって、距離−レベル特性を推定することが可能となる。
【0014】
(4)また、前記干渉の有無を判定する他の手段として、前記干渉判定部は、前記距離−レベル特性を、前記移動通信機の位置と当該位置で当該移動通信機が受信した前記路側通信機からの送信信号の受信レベルとに基づいて推定し、推定した前記距離−レベル特性に基づいて前記干渉の有無を判定する構成とすることができる。
この場合、移動通信機が受信した路側通信機からの送信信号の受信レベルに基づいて、距離−レベル特性を推定し、干渉の有無を判定することから、移動通信機の位置において干渉が生じるか否かを直接的に判定する構成が得られる。
【0015】
(5)また、前記干渉の有無を判定する他の手段として、前記干渉判定部は、前記移動通信機の位置と当該位置で当該移動通信機が受信した前記路側通信機からの送信信号の受信エラー発生率との情報に基づいて、前記干渉の有無を判定する構成とすることができる。
この場合、路側通信機からの送信信号同士に干渉が生じていると、干渉エリアに存在している移動通信機では、受信エラー発生率が高くなることから、この受信エラー発生率及び、移動通信機の位置情報に基づいて、当該位置で干渉が生じているか否かを判定することができる。
【0016】
(6)また、前記干渉の有無を判定する他の手段として、前記干渉判定部は、前記第一の路側通信機の近隣にある複数の前記第二の路側通信機から送信時間が重なって送信され当該第一の路側通信機が受信した信号の受信エラー発生率に基づいて、前記干渉の有無を判定する構成とすることができる。
複数の第二の路側通信機からの送信信号を第一の路側通信機が受信する場合に、当該送信信号同士が干渉していると、当該第一の路側通信機で受信エラー発生率が高くなることから、前記構成によれば、当該第一の路側通信機の位置及びその近傍の位置で干渉が生じるか否かを判定することができる。
【0017】
(7)また、前記干渉回避装置において、前記特性変更部は、必要な通信性能を維持すべき最小の通信サービスエリアを確保できる前記距離−レベル特性の閾値を基準として、前記第一及び第二の路側通信機の内の余裕がある側を優先的に選択して前記距離−レベル特性を低下させる機能を有しているのが好ましい。
この場合、干渉が生じていて、路側通信機が有している距離−レベル特性を低下させる場合であっても、最小の通信サービスエリアを確保することが可能となる。
【0018】
(8)また、前記干渉回避装置において、前記路側通信機は、信号の送信出力を調整する出力調整部を有し、前記特性変更部は、前記干渉判定部によって干渉が有ると判定されると、前記路側通信機からの送信出力を前記出力調整部によって低下させる要求信号を生成するのが好ましい。
この場合、干渉判定部によって干渉が有ると判定されると、特性変更部は要求信号を生成し、この要求信号を路側通信機の出力調整部に与えると、当該出力調整部は送信出力を低下させることができるので、当該路側通信機における距離−レベル特性を低下させることが可能となる。
【0019】
(9)また、本発明は、路側通信機と無線通信可能である移動通信機であって、自己の位置と当該位置で受信した前記路側通信機からの送信信号の受信レベルとを取得する取得部と、前記取得部が取得した情報を、前記干渉回避装置の前記干渉判定部に与えるために、当該情報を無線送信可能な通信部とを備えていることを特徴とする。
本発明によれば、取得部が取得した自己の位置の情報と、当該位置で受信した第一及び第二の路側通信機からの送信信号の受信レベルの情報とを、通信部によって無線送信がされ、干渉回避装置の干渉判定部に与えることで、当該干渉判定部は、第一及び第二の路側通信機それぞれが有している距離−レベル特性を、移動通信機の位置(前記自己の位置)と、当該位置で移動通信機が受信した第一及び第二の路側通信機からの送信信号の受信レベルとに基づいて推定し、推定した第一及び第二の路側通信機の距離−レベル特性に基づいて、前記干渉の有無を判定することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の干渉回避装置によれば、路側通信機からの送信信号の干渉が発生していると、路側通信機が有している距離−レベル特性を低下させることで、路側通信機からの送信信号の移動通信機における受信レベルを下げることができ、発生していた干渉を回避することが可能となる。
また、本発明の移動通信機によれば、自己の位置の情報と、当該位置で受信した路側通信機からの送信信号の受信レベルの情報とを、干渉回避装置の干渉判定部に与えることが可能となり、干渉回避装置を前記のとおり機能させる際に好ましい構成となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】高度道路交通システム(ITS)の全体構成を示す概略斜視図である。
【図2】高度道路交通システムの管轄エリアの一部を示す道路平面図である。
【図3】路側通信機と車載通信機との内部構成を示すブロック図である。
【図4】(a)は、親機と子機との通信エリアを平面的に見て説明している概略説明図であり、(b)は、親機(子機)からのある距離だけ離れた任意の位置と、当該位置における親機(子機)からの送信信号の受信レベルとの関係を示しているグラフを示している。
【図5】干渉の有無の判定方法(1)及び特性変更部による処理のフロー図である。
【図6】干渉の有無の判定方法(2)及び特性変更部による処理のフロー図である。
【図7】干渉の有無の判定方法(3)及び特性変更部による処理のフロー図である。
【図8】干渉の有無の判定方法(4)及び特性変更部による処理のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔システムの全体構成〕
図1は、高度道路交通システム(ITS)の全体構成を示す概略斜視図である。図2は、この高度道路交通システムの管轄エリアの一部を示す道路平面図である。
この高度道路交通システムは、交通信号機1、路側通信機2、移動通信機としての車載通信機3(図2参照)、中央装置4及び車載通信機3を搭載した車両5等を含む。
交通信号機1と路側通信機2は、複数の交差点Ci(図例では、i=1〜12)のそれぞれに設置されており、電話回線等の通信回線7を介してルータ8に接続されている。このルータ8は交通管制センター内の中央装置4に接続されている。
【0023】
図3は、路側通信機2と車載通信機3との内部構成を示すブロック図である。本実施形態では、路側通信機2に、1つの親機2Aと複数の子機2Bとが含まれている。そして、親機2Aに、本発明の実施の形態に係る干渉回避装置10が設置されている。
【0024】
図1において、中央装置4は、自身が管轄するエリアに含まれる各交差点Ciの交通信号機1及び路側通信機2とLANを構成していて、中央装置4は、各交通信号機1及び各路側通信機2との間で双方向通信が可能である。なお、中央装置4は、交通管制センターではなく道路上に設置してもよい。
中央装置4は、ワークステーション(WS)やパーソナルコンピュータ(PC)等よりなる制御部を有しており、この制御部は、路側通信機2からの各種情報の収集・処理(演算)・記録、交通信号機1の信号機制御、及び、路側通信機2への情報提供の制御を統括的に行う。
【0025】
〔無線送信の方式等〕
図2において、この高度道路交通システムは、車載通信機3との間で無線通信が可能な複数の路側通信機2と、キャリアセンス方式で他の通信機2,3と無線通信を行う移動無線送受信機の一種である車載通信機3と備えている。各路側通信機2(親機2A,子機2B−1)は、特定の方路に広がる通信エリア(a1,a2)を有し、自身の通信エリア(a1,a2)を走行する車両5の車載通信機3との無線通信が可能である。また、各路側通信機2は、隣の交差点に設定されている他の路側通信機2とも無線通信(路路間通信)が可能である。
【0026】
各路側通信機2には、自身が無線送信するためのタイムスロットが親機2AによってTDMA方式で割り当てられており、この路側用時間帯以外の時間帯には無線送信を行わない。そして、路側用時間帯以外の時間帯は、車載通信機3のためのCSMA方式による送信時間として開放されている。
また、各路側通信機2は、自身の送信タイミングを制御するために他の路側通信機2との時刻同期機能を有している。この路側通信機2の時刻同期は、例えば、自身の時計をGPS時刻に合わせるGPS同期や、自身の時計を他の路側通信機2からの送信信号に合わせるエア同期等によって行われる。
【0027】
〔路側通信機〕
図3において、路側通信機2には、1つの親機2Aと複数の子機2Bとが含まれているが、以下において、親機2Aや子機2Bに特有の事項ではなく、これらの双方に共通する事項を説明する場合には、単に「路側通信機2」という。
路側通信機2は、無線通信のためのアンテナ20に接続された送受信回路等を有する無線通信部21と、中央装置4と双方向通信する送受信回路等を有する有線通信部22と、これらの通信制御を行うCPU等よりなる制御部23と、制御部23に接続されたROMやRAM等の記憶装置よりなる記憶部24とを備えている。記憶部24は、制御部23が実行する通信制御のためのコンピュータプログラム、各通信機2,3の通信機ID等を記憶している。
【0028】
路側通信機2の制御部23は、上記コンピュータプログラムを実行することで達成される機能部として、データ転送部23Aを備えていて、さらに、親機2Aの制御部23は、スロット生成部23Bを備えている。
また、路側通信機2の無線通信部21は、送信信号の送信出力を調整する出力調整部21Bを有している。出力調整部21Bは、無線通信部21のRF回路内に設けられている可変アッテネータとすることができ、制御部23からの制御信号によってこの可変アッテネータを調整可能であり、無線送信出力を調整することが可能となる。
【0029】
親機2Aの制御部23が有している前記スロット生成部23Bは、自装置の送信時間だけでなく、自装置が統括する管理グループに属する複数の子機2Bの送信時間についても、時間帯を割り当て、その割り当てた情報を生成する機能を有している。そして、生成した割り当て情報は、管理グループに属する各子機2Bに通知され、親機2A及び各子機2Bはその割り当て情報を自身の通信エリアにブロードキャスト送信する。
親機2A及び各子機2Bは、親機2Aが生成した割り当て情報に記された、路側通信機2用のタイムスロットで当該割り当て情報及び後述する各種情報について無線送信を行い、割り当て情報を受信した車載通信機3は、当該割り当て情報に記された、上記タイムスロット以外の時間帯で無線送信を行う。また、車載通信機3は、上記タイムスロット以外の時間帯で、後述する位置情報等の各種情報を送信する。
【0030】
路側通信機2が有しているデータ転送部23Aは、有線通信部22が受信した中央装置4や他の路側通信機2からの情報を、いったん記憶部24に一時的に記憶させ、無線通信部21を介して車載通信機3に対して送信することができる。また、データ転送部23Aは、無線通信部21が受信した車載通信機3からの情報を、いったん記憶部24に一時的に記憶させ、有線通信部22を介して中央装置4や他の路側通信機2に転送することもでき、親機2Aの場合、干渉回避装置10に転送することもできる。
【0031】
〔干渉回避装置〕
本実施形態では、干渉回避装置10は親機2Aと共に設けられている。
なお、前記のとおり、路側通信機2が無線送信を行うためにタイムスロットが割り当てられているが、同じタイムスロットで複数の路側通信機2が信号を送信する場合がある。このため、送信タイミングが少なくとも一部で時間的に重なっている路側通信機2(例えば2Aと2B−1)同士は、相互の送信信号が干渉しないように、始め通信エリアが設定されている。
【0032】
しかし、図2に示しているように、親機2Aの通信エリアa1と子機2B−1の通信エリアa2との内の一方又は双方が、例えば、道路に沿って設けられている建物の変更等が原因となって、初期設定の状態から広くなる場合がある。図2では、親機2Aの通信エリアa1と子機2B−1の通信エリアa2とが一部重なっていて、しかも、親機2Aと子機2B−1とは信号の送信タイミングが重複しているため、通信エリアa1,a2が重なっている領域(交差点C2に存在しているクロスハッチ部分)は、親機2Aからの送信信号と子機2Bからの送信信号とが干渉する干渉エリアbとなる。
そこで、干渉回避装置10は、第一の路側通信機2である親機2A(又は子機2B−1)からの送信信号を車載通信機3(図2の車両5Aに搭載されている車載通信機3−1)が受信する際に、当該送信信号が、第二の路側通信機2である子機2B−1(又は親機2A)から送信された送信信号と干渉するのを回避(軽減)させる機能を有している。
【0033】
この機能を実現させるための干渉回避装置10の構成を説明する。
図3の実施形態では干渉回避装置10は、前記無線通信部21及び前記有線通信部22を、路側通信機2と共用して有している。さらに、干渉回避装置10は、これら通信部21,22を用いて干渉回避処理の制御を行うCPU等よりなる制御部11と、この制御部11に接続されたROMやRAM等の記憶装置よりなる記憶部12とを備えている。記憶部12は、制御部11が実行する制御のためのコンピュータプログラムを記憶している。
干渉回避装置10の制御部11は、上記コンピュータプログラムを実行することで達成される機能部として、干渉判定部13と特性変更部14と有している。なお、干渉回避装置10が有している各機能部については、後に説明する。
【0034】
〔車載通信機〕
図3において、車載通信機3は、無線通信のためのアンテナ30に接続された送受信回路等を有する通信部31と、この通信部31に対する通信制御を行うプロセッサ等よりなる制御部32と、この制御部32に接続されたROMやRAM等の記憶装置よりなる記憶部33とを備えている。記憶部33は、制御部32が実行する通信制御のためのコンピュータプログラムや、各通信装置2,3の通信機ID等を記憶している。
車載通信機3は、路側通信機2及び他の車載通信機3と無線通信可能であり、キャリアセンス方式による無線通信を通信部31によって実行することができる。このために、通信部31は、所定の搬送波周波数の受信レベルを常時感知しており、その値がある閾値以上である場合は無線送信を行わず、当該閾値未満になった場合にのみ無線送信を行うようになっている。
【0035】
なお、車載通信機3の制御部32は、上記コンピュータプログラムを実行することで達成される機能部として取得部32aを有していて、取得部32aは、車両5(車載通信機3)が取得した自己の位置や速度等の各種情報を取得可能であり、また、他の車載通信機3や路側通信機2から無線通信で通信部31が受信した各種情報を取得可能である。制御部32は、取得部32aが取得した情報を、記憶部24に記憶させることができ、また、通信部31を介して外部に無線送信させることができる。
特に、取得部32aは、自己(車載通信機3)の位置と、当該位置で通信部31が受信した路側通信機2からの送信信号の受信レベルとを取得することができる。そして、通信部31は、取得部32aが取得した各種情報を(路側通信機2を介して)干渉回避装置10の干渉判定部13に与えるために、当該情報を無線送信可能である。
【0036】
車両5(車載通信機3)が取得する情報の内の、自己(車載通信機3)の位置や方向は、GPS等の車両5側のセンサ類が自律的に測定することで取得することができるが、光ビーコン等のインフラ側から取得可能な場合もある。車両5の速度は、車両5に設けられている速度センサに基づいて取得することができる。
このため、上記位置や速度等を含む車両情報を受信した他の車両5や路側通信機2において、例えば、右直衝突や出合い頭衝突等を回避するための安全運転支援制御を行うことができる。
【0037】
〔干渉回避装置の干渉判定部〕
干渉回避装置10が備えている前記干渉判定部13は、複数の路側通信機2から無線送信される送信信号が干渉するか否かを判定する機能を有している。つまり、親機2Aから無線送信される送信信号と子機2B―1から無線送信される送信信号との干渉の有無を判定する機能を有している。
図4(a)は、親機2Aの通信エリアa1と子機2B−1の通信エリアa2とを平面的に見て説明している概略説明図であり、図4(b)は、親機2Aからのある距離だけ離れた任意の位置Xと、当該位置Xにおける親機2Aからの送信信号の受信レベルPとの関係を示しているグラフK1と、子機2B−1からのある距離だけ離れた任意の位置Yと、当該位置Yにおける子機2B−1からの送信信号の受信レベルPとの関係を示しているグラフK2とを示している。
【0038】
<干渉の有無の判定方法(1)>
干渉の有無の判定方法(1)の概略を説明すると、干渉判定部13は、親機2Aが有している「距離−レベル特性」、及び、子機2B−1が有している「距離−レベル特性」を推定し、推定したこれら「距離−レベル特性」に基づいて干渉の有無を判定する。
なお、親機2A(子機2B−1)が有している「距離−レベル特性」とは、当該親機2A(子機2B−1)からの送信信号の伝搬距離特性であり、送受信間距離と信号レベルとの関係を表す。具体的には、親機2A(子機2B−1)に対する車載通信機3の位置X(位置Y)と、当該位置X(位置Y)で当該車載通信機3が受信することができる親機2A(子機2B−1)からの送信信号の受信レベルPとの関係についての特性であり、図4(b)の前記グラフK1(K2)のように表現される。
グラフK1(グラフK2)に示しているように、親機2A(子機2B−1)の距離−レベル特性は、当該親機2A(子機2B−1)から離れるにしたがって、当該親機2A(子機2B−1)からの送信信号の受信レベルPは低下する特性となっている。
【0039】
図5は、干渉判定部13による干渉の有無の判定方法(1)及び特性変更部14による処理のフロー図である。この図5に沿って、干渉の有無の判定方法(1)を説明する。
車載通信機3の制御部32は、無線送信する信号に、当該送信時における自己の位置についての情報(以下、位置情報という)を含ませることができる。
そこで、複数の車載通信機3それぞれが位置情報を含ませて信号を無線送信する(ステップS11a、ステップS11b)。親機2A及び子機2B−1の無線通信部21は、車載通信機3それぞれが送信した送信信号を受け、当該車載通信機3それぞれの位置情報と、当該位置情報が示す位置から送信された各送信信号の受信レベルの情報とを取得し、データ転送部23Aは記憶部24に記憶させる(ステップS12a、ステップS12b)。なお、受信レベルは、無線通信部21において正しく復調できた信号のレベル値とする。
【0040】
親機2Aの記憶部24に記憶させた情報は、データ転送部23Aによって干渉回避装置10の干渉判定部13へ送られる(ステップS13a)。子機2B−1の記憶部24に記憶させた情報は、データ転送部23Aによって有線通信部22を介して親機2Aにある干渉回避装置10の干渉判定部13へ送られる(ステップS13b)。
【0041】
そして、干渉判定部13は、送られた前記各情報に基づいて、親機2A及び子機2B−1それぞれが有している距離−レベル特性を推定する。すなわち、干渉判定部13は、親機2Aと無線通信した複数の車載通信機3それぞれの位置Xと、当該各位置Xで車載通信機3それぞれが送信した送信信号の親機2A(無線通信部21)における受信レベルと、に基づいて、親機2Aが有している距離−レベル特性を推定する(ステップS14)。
さらに、干渉判定部13は、子機2B−1と無線通信した複数の車載通信機3それぞれの位置Yと、当該各位置Yで車載通信機3それぞれが送信した送信信号の子機2B−1(無線通信部21)における受信レベルと、に基づいて、子機2B−1が有している距離−レベル特性を推定する(ステップS14)。
なお、このステップS14における推定の処理は、ある位置に存在する車載通信機3から親機2A(子機2B−1)への無線送信の環境と、当該親機2A(子機2B−1)から当該車載通信機3への無線送信の環境とは同等であることから、可能となる。
【0042】
そして、干渉判定部13は、推定した親機2Aの距離−レベル特性及び子機2B−1の距離−レベル特性に基づいて、干渉の有無を判定する(ステップS15)。すなわち、干渉判定部13は、図4(b)のグラフK1及びK2に示している親機2A及び子機2B−1の距離−レベル特性の情報を取得することができ、親機2Aからの送信信号の受信レベルと、子機2B−1からの送信信号の受信レベルとが共に閾値α1以上であって、かつ、受信レベルの差(DU比)が閾値α2(例えば15dB)以内にある領域Zでは、干渉が生じると判定し、干渉が生じる領域Zを干渉エリアと判定することができる。
【0043】
また、前記のとおり、親機2Aによって、路側通信機2用のタイムスロットが割り当てられていることから、干渉判定部13は、各通信機2,3からの信号送信のタイミングについての情報を、親機2Aより取得することができる。このため、干渉判定部13は、車載通信機3からの受信信号に基づいて干渉の有無を推定する際に、干渉が発生している時間の情報を取得することも可能である。
【0044】
〔干渉回避装置の特性変更部〕
そして、干渉回避装置10が備えている前記特性変更部14は、干渉判定部13による前記判定結果に基づいて、親機2A及び/又は子機2B−1が有している前記距離−レベル特性を変更させる処理を実行する(ステップS16)。なお、距離−レベル特性の変更は、親機2A及び子機2B−1の内の一方又は双方とすることができる。
【0045】
この変更の処理を具体的に説明すると、干渉判定部13によって干渉が有ると判定されると(ステップS15の「有」の場合)、親機2A及び子機2B−1の内の一方又は双方から送信された送信信号の、移動通信機3における受信レベルが下がるように、当該一方又は双方が有している距離−レベル特性を、特性変更部14によって低下させる(ステップS16)。
なお、図4(b)の場合では、二点鎖線のグラフK2で示しているように、子機2B−1の距離−レベル特性のみを低下させている。これにより、干渉が生じる領域Z(干渉エリア)であった位置に存在している移動通信機3−1において、子機2B−1から送信される送信信号の受信レベルが下がるため、発生していた干渉を回避することが可能となる。
【0046】
なお、車載通信機3は、必要に応じて自己の制御部32(図3参照)による制御によって、送信信号の送信レベル(送信出力)を調整する場合がある。このように、車載通信機3からの信号の送信レベルが可変である場合、車載通信機3が一定の位置に存在していても、親機2A及び子機2B−1における受信レベルが不定となる。
そこで、この場合であっても、距離−レベル特性を推定し(図5のステップS14)干渉の有無を判定する(ステップS15)ことができるように、車載通信機3の送信信号には、当該送信信号の送信レベルについての情報(以下、送信レベル情報という)も含めることができる。干渉判定部13は、前記位置情報と共に前記送信レベル情報を取得し、距離−レベル特性を、更に、この送信レベル情報に基づいて推定することが可能である。つまり、基準となる送信レベル情報と、取得した受信レベルの情報とを対比することで、相対的な受信レベル値や受信レベルの減衰比を求めることができ、距離−レベル特性を推定することが可能となる。
【0047】
特性変更部14によって実行される具体的な処理(ステップS16)を説明する。前記のとおり、親機2A及び子機2B−1それぞれは、信号の送信出力を調整する可変アッテネータからなる出力調整部21Bを有している。そこで、干渉判定部13によって干渉が有ると判定されると(ステップS15の「有」の場合)、特性変更部14は、親機2A及び子機2B−1の内の一方又は双方から送信される信号の送信出力を、可変アッテネータによって低下させる要求信号を生成する。そして、この特性変更部14は、生成した要求信号を、親機2Aの制御部23及び子機2B−1の制御部23の内の一方又は双方へ送信し、この要求信号を受けた制御部23は、制御信号を可変アッテネータへ出力し、送信出力を自律的に低下させる。
【0048】
なお、以上の送信出力を低下させるまでのステップの処理は、干渉を回避できるレベルとなるまで、繰り返し実行される。
さらに、特性変更部14が生成する要求信号には、送信出力を低下させる程度(低下量)についての調整量信号も含まれていて、現状の送信出力から、所定の値について送信出力を段階的に低下させることができる。
【0049】
また、図2の実施形態では、親機2及び子機2B−1は、指向性アンテナによって道路に沿った方向に通信エリアを有する構成であり、一つの交差点から延びる複数の道路それぞれに対して通信エリアを有するように、一つの交差点には、複数の指向性アンテナが設けられている。なお、図2では、四本の道路があり、一つの交差点には、四つの指向性アンテナが設けられているが、説明を容易とするために二つのみを示している。
このように、一つの交差点には指向性がそれぞれ異なる複数の指向性アンテナが設けられていて、特性変更部14が生成する要求信号には、これら複数の指向性アンテナの内の、干渉が生じていると判定された方路の指向性アンテナによる信号出力を低下させる旨の情報が含まれている。
【0050】
なお、親機2A及び子機2B−1の内の一方又は双方の距離−レベル特性を低下させる処理としては、他に、通信エリアが狭くなるようにアンテナ20の指向性やビーム幅を変更させてもよく、又は、通信エリアが狭くなるようにアンテナ20のチルト角を下げてもよい。しかし、本実施形態のように、送信出力を低下させる場合、可変アッテネータを調整すればよいことから、その処理は、指向性やビーム幅の変更やチルト角の変更する場合に比べて簡単である。
【0051】
また、前記実施形態では、特性変更部14は、親機2A及び子機2B−1の内の一方又は双方が有している距離−レベル特性を低下させる場合として説明したが、距離−レベル特性を低下させる路側通信機2は、所定の処理手順によって選択的に行われるのが好ましい。
つまり、特性変更部14は、ステップS14で推定した親機2Aの現状の距離−レベル特性と「距離−レベル特性の閾値α3」とを比較し、さらに、ステップS14で推定した子機2B−1の現状の距離−レベル特性と前記「距離−レベル特性の閾値α3」とを比較し、親機2A及び子機2B−1の内の余裕がある側を優先的に選択して距離−レベル特性を低下させる機能を有している。なお、前記「距離−レベル特性の閾値α3」は、必要な通信性能を維持すべき最小の通信サービスエリアを確保できる距離−レベル特性である。
【0052】
すなわち、図2において、例えば、子機2B−1の距離−レベル特性を低下させると、子機2B−1の通信エリアa2が狭くなって、隣りの子機2B−2との路路間通信が不能となり、必要な路路間通信の性能を維持することができなくなるおそれがある場合は、親機2Aの距離−レベル特性を低下させるように、特性変更部14は要求信号を生成し、親機2Aに送信する。なお、このためには、親機2Aと隣りの子機2B−2との路路間通信の性能は確保できる条件が必要である。
【0053】
このような処理手順によれば、送信信号同士に干渉が生じていて、いずれかの路側通信機2が有している距離−レベル特性を低下させる場合であっても、最小の通信サービスエリアを確保することができ、隣り合う路側通信機2同士の路路間通信が可能である。
なお、前記説明では、親機2Aの送信出力を低下させることで、当該親機2Aの距離−レベル特性のみを低下させる場合を説明したが、一方(親機2A)を優先的に大きく距離−レベル特性を低下させると共に、他方(子機2B−1)の距離−レベル特性も低下させてもよい。つまり、距離−レベル特性の必要な低下量を、複数の路側通信機2で分配してもよい。
【0054】
<干渉の有無の判定方法(2)>
図6は、干渉の有無の判定方法(2)及び特性変更部14による処理のフロー図である。この判定方法(2)も、干渉判定部13は、複数の路側通信機2それぞれが有している「距離−レベル特性」を推定し、推定したこれら「距離−レベル特性」に基づいて干渉の有無を判定する。
【0055】
すなわち、親機2A及び子機2B−1が通信エリアa1,a2内の各位置に存在している複数の車載通信機3に対して信号を送信し(ステップS21a、ステップS21b)、各車載通信機3が当該信号を受信すると、当該車載通信機3は当該信号の受信レベルの情報を取得する(ステップS22a、ステップS22)。なお、受信レベルは、通信部31において正しく復調できた信号のレベル値とする。
そして、各車載通信機3は、この受信レベルの情報と共に、信号を受信した際の自己の位置についての情報(以下、位置情報という)を送信信号に含ませて、親機2A及び子機2B−1に送信する(ステップS23a、ステップS23b)。
【0056】
親機2A及び子機2B−1の無線通信部21が、車載通信機3それぞれが送信した送信信号を受けると、当該送信信号に含まれていた、位置情報が示す位置で車載通信機3が受信した路側通信機2からの送信信号の受信レベルの情報と、当該位置情報とを取得し、データ転送部23Aは記憶部24に記憶させる(ステップS24a、ステップS24b)。
親機2Aの記憶部24に記憶させた情報は、データ転送部23Aによって干渉回避装置10の干渉判定部13へ送られる(ステップS25a)。子機2B−1の記憶部24に記憶させた情報は、データ転送部23Aによって有線通信部22を介して親機2Aにある干渉回避装置10の干渉判定部13へ送られる(ステップS25b)。
【0057】
そして、干渉判定部13は、送られた前記各情報に基づいて、親機2A及び子機2B−1それぞれが有している距離−レベル特性を推定する。
すなわち干渉判定部13は、親機2Aと無線通信した複数の車載通信機3それぞれの位置Xと、当該各位置Xで車載通信機3それぞれが受信した親機2Aからの送信信号の受信レベルと、に基づいて、親機2Aが有している距離−レベル特性を推定する(ステップS26)。
さらに、干渉判定部13は、子機2B−1と無線通信した複数の車載通信機3それぞれの位置Yと、当該各位置Yで車載通信機3それぞれが受信した子機2B−1からの送信信号の受信レベルと、に基づいて、子機2B−1が有している距離−レベル特性を推定する(ステップS26)。
【0058】
そして、干渉判定部13は、推定した親機2Aの距離−レベル特性及び子機2B−1の距離−レベル特性に基づいて、干渉の有無を判定する(ステップS27)。すなわち、干渉判定部13は、前記判定方法(1)と同様に、図4(b)のグラフK1及びK2に示している親機2A及び子機2B−1の距離−レベル特性の情報を取得することができ、親機2Aからの送信信号の受信レベルと、子機2B−1からの送信信号の受信レベルとが共に閾値α1以上であって、かつ、受信レベルの差(DU比)が閾値α2(例えば15dB)以内にある領域Zでは、干渉が生じると判定し、干渉が生じる領域Zを干渉エリアと判定することができる。
【0059】
そして、干渉回避装置10が備えている前記特性変更部14は、干渉判定部13による前記判定結果に基づいて、親機2A及び/又は子機2B−1が有している前記距離−レベル特性を変更させる処理を実行する(ステップS28)。この特性変更部14による処理は、前記判定方法(1)と同じである。
この判定方法(2)の場合、親機2A及び子機2B−1が、車載通信機3における受信レベルの情報を取得するためのステップが必要であるが、車載通信機3が受信した親機2A及び子機2B−1からの送信信号の受信レベルに基づいて、距離−レベル特性を推定し、干渉の有無を判定することから、干渉の有無を直接的に判定する構成が得られる。
【0060】
<干渉の有無の判定方法(3)>
図7は、干渉の有無の判定方法(3)及び特性変更部14による処理のフロー図である。この判定方法(3)を説明する。
路車間通信として、親機2A及び子機2B−1が通信エリアa1,a2内の各位置に存在している複数の車載通信機3に対して信号を送信し(ステップS31a、ステップS31b)、各車載通信機3が当該信号を受信すると、当該車載通信機3は当該信号の受信エラー発生率を求める(ステップS32a、ステップS32)。なお、受信エラーは、通信部31における復調エラーとすることができる。なお、この判定方法(3)では、親機2Aと子機2B−1との内の一方のみが機能することで、判定可能であるが、本実施形態では双方が機能する場合を説明する。
そして、各車載通信機3は、この受信エラー発生率の情報と共に、受信エラーが発生した際の自己の位置についての情報(以下、位置情報という)を送信信号に含ませて、親機2A及び子機2B−1に送信する(ステップS33a、ステップS33b)。
【0061】
親機2A及び子機2B−1の無線通信部21が、車載通信機3それぞれが送信した送信信号を受けると、当該送信信号に含まれていた、位置情報が示す位置で車載通信機3が受信した路側通信機2からの送信信号の受信エラー発生率の情報と、当該位置情報とを取得し、データ転送部23Aは記憶部24に記憶させる(ステップS34a、ステップS34b)。
親機2Aの記憶部24に記憶させた情報は、データ転送部23Aによって干渉回避装置10の干渉判定部13へ送られる(ステップS35a)。子機2B−1の記憶部24に記憶させた情報は、データ転送部23Aによって有線通信部22を介して親機2Aにある干渉回避装置10の干渉判定部13へ送られる(ステップS35b)。
【0062】
なお、路側通信機2からの送信信号同士に干渉が生じていると、干渉エリアに存在している車載通信機3では、受信エラー発生率が高くなることから、この受信エラー発生率及び、車載通信機3の位置情報に基づいて、当該位置で干渉が生じているか否かを判定することができる。
そこで、干渉判定部13は、車載通信機3の位置と、当該位置で車載通信機3が受信した親機2Aから送信された送信信号の受信エラー発生率との情報、及び/又は、車載通信機3の位置と、当該位置で車載通信機3が受信した子機2B−1から送信された送信信号の受信エラー発生率との情報を取得することで、当該情報に基づいて、各車載通信機3の位置において干渉が生じているか否かを判定する(ステップS36)。すなわち、情報として取得した受信エラー発生率が閾値α4を超えている場合、当該情報の発信源であった車載通信機3の位置で干渉が生じていると判定することができる。これにより、干渉が生じている領域を干渉エリアと判定することができる。
【0063】
そして、干渉回避装置10が備えている前記特性変更部14は、干渉判定部13による前記判定結果に基づいて、親機2A及び/又は子機2B−1が有している前記距離−レベル特性を変更させる処理を実行する(ステップS37)。この特性変更部14による処理は、前記判定方法(1)と同じである。
なお、この判定方法(3)の干渉の有無を判定するまでのステップ(S31〜S36)を、判定方法(1)又は判定方法(2)によって干渉の有無を判定する際の付加条件としてもよい。すなわち、判定方法(1)の図5のステップS15で「干渉有り」の判定と、判定方法(3)のステップS36で「干渉有り」の判定とが共にされた場合に、干渉が生じていると判定するようにしてもよい。
【0064】
<干渉の有無の判定方法(4)>
図8は、干渉の有無の判定方法(4)及び特性変更部14による処理のフロー図である。判定方法(3)では、車載通信機3における受信エラーの発生率に基づいて干渉の有無を判定したが、判定方法(4)では、路側通信機2における受信エラーの発生率に基づいて干渉の有無を判定する。
図2に示しているように、親機2A及び子機2B−1の双方の隣りに(双方の間に)、他の(第二の)子機2B−2が存在している。路路間通信として、親機2A及び子機2B−1が、子機2B−2に対して信号を送信し(図8ステップS41a、ステップS41b)、子機2B−2が信号を受信すると、当該子機2B−2は当該信号の受信エラー発生率を求める(ステップS42)。なお、受信エラーは、無線通信部21における復調エラーとすることができる。
そして、子機2B−2は、この受信エラー発生率の情報を、データ転送部23Aによって有線通信部22を介して親機2Aにある干渉回避装置10の干渉判定部13へ送る(ステップS43)。
【0065】
なお、子機2B−2において、親機2A及び子機2B−1からの送信信号によって干渉が生じていると、当該子機2B−2では受信エラー発生率が高くなることから、この受信エラー発生率及び子機2B−2の位置情報に基づいて、子機2B−2の位置及び子機2B−2の近傍の位置で干渉が生じるか否かを判定することができる。
そこで、子機2B−2の近隣にある親機2A及び子機2B−1から送信時間の一部又は全部が重なって送信され当該子機2B−2が受信した信号の受信エラー発生率を、干渉判定部13が、子機2B−2から取得することで、当該受信エラー発生率の情報に基づいて、当該子機2B−2の位置及びその近傍の位置で干渉が生じているか否かを判定する(ステップS44)。すなわち、情報として取得した受信エラー発生率が、閾値α5を超えている場合、子機2B−2の位置及びその近傍の位置では干渉が生じていると判定する。これにより、干渉が生じている領域を干渉エリアと判定することができる。
【0066】
そして、干渉回避装置10が備えている前記特性変更部14は、干渉判定部13による前記判定結果に基づいて、親機2A及び/又は子機2B−1が有している前記距離−レベル特性を変更させる処理を実行する(ステップS45)。この特性変更部14による処理は、前記判定方法(1)と同じである。
なお、判定方法(4)の干渉の有無を判定するまでのステップ(S41〜S44)を、判定方法(1)、判定方法(2)又は判定方法(3)によって干渉の有無を判定する際の付加条件としてもよい。すなわち、判定方法(1)のステップS15で「干渉有り」の判定と、判定方法(4)のステップS44で「干渉有り」の判定とが共にされた場合に、干渉が生じていると判定するようにしてもよい。
【0067】
以上の前記各実施形態の干渉回避装置10によれば、複数の路側通信機2からの送信信号の干渉が発生していると、これら複数又はこのうちの幾つかの路側通信機2が有している距離−レベル特性を低下させることで、当該距離−レベル特性を低下させた路側通信機2からの送信信号の移動通信機3における受信レベルを下げることができ、発生していた干渉を回避することが可能となる。
この結果、車載通信機3は路側通信機2からの情報を正確に受信することができ、当該車載通信機3を搭載している車両で、例えば、前方の交差点における衝突防止等の事故を未然に防ぐ安全運転支援の実行が可能となる。
【0068】
また、本発明の構成は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであっても良い。前記実施形態では、二つの路側通信機2(親機2Aと子機2B−1)の送信信号が干渉する場合を説明したが、三以上の路側通信機2の送信信号が干渉する場合でも、本発明の干渉回避装置10を適用することができる。また、親機2Aと子機2B−1との送信信号が干渉する場合を説明したが、複数の子機2Bからの送信信号が干渉する場合であってもよい。
また、図2に示しているように、アンテナを指向性アンテナとしたが、無指向性アンテナであってもよい。
また、前記実施形態では、干渉回避装置10が親機2Aと共に設けられている場合を説明したが、干渉回避装置10は通信システム内に路側通信機2と別として設けてもよい。
【符号の説明】
【0069】
2:路側通信機、 2A:親機、 2B:子機、 3:車載通信機(移動通信機)、 10:干渉回避装置、 13:干渉判定部、 14:特性変更部、 21B:出力調整部、 31:通信部、 32a:取得部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の路側通信機からの送信信号を移動通信機が受信する際に、当該送信信号と第二の路側通信機からの送信信号とが干渉するのを回避させる干渉回避装置であって、
前記干渉の有無を判定する干渉判定部と、
前記干渉判定部による判定結果に基づいて、前記路側通信機からの送信信号レベルの伝搬距離特性である距離−レベル特性を変更させる特性変更部と、を備えていることを特徴とする干渉回避装置。
【請求項2】
前記干渉判定部は、前記距離−レベル特性を、前記移動通信機の位置と当該位置で当該移動通信機から送信された送信信号の前記路側通信機における受信レベルとに基づいて推定し、推定した前記距離−レベル特性に基づいて前記干渉の有無を判定する請求項1に記載の干渉回避装置。
【請求項3】
前記干渉判定部は、前記距離−レベル特性を、更に、前記移動通信機から送信される送信信号の送信レベルの情報に基づいて推定する請求項2に記載の干渉回避装置。
【請求項4】
前記干渉判定部は、前記距離−レベル特性を、前記移動通信機の位置と当該位置で当該移動通信機が受信した前記路側通信機からの送信信号の受信レベルとに基づいて推定し、推定した前記距離−レベル特性に基づいて前記干渉の有無を判定する請求項1に記載の干渉回避装置。
【請求項5】
前記干渉判定部は、前記移動通信機の位置と当該位置で当該移動通信機が受信した前記路側通信機からの送信信号の受信エラー発生率との情報に基づいて、前記干渉の有無を判定する請求項1〜4のいずれか一項に記載の干渉回避装置。
【請求項6】
前記干渉判定部は、前記第一の路側通信機の近隣にある複数の前記第二の路側通信機から送信時間が重なって送信され当該第一の路側通信機が受信した信号の受信エラー発生率に基づいて、前記干渉の有無を判定する請求項1〜5のいずれか一項に記載の干渉回避装置。
【請求項7】
前記特性変更部は、必要な通信性能を維持すべき最小の通信サービスエリアを確保できる前記距離−レベル特性の閾値を基準として、前記第一及び第二の路側通信機の内の余裕がある側を優先的に選択して前記距離−レベル特性を低下させる機能を有している請求項1〜6のいずれか一項に記載の干渉回避装置。
【請求項8】
前記路側通信機は、信号の送信出力を調整する出力調整部を有し、
前記特性変更部は、前記干渉判定部によって干渉が有ると判定されると、前記路側通信機からの送信出力を前記出力調整部によって低下させる要求信号を生成する請求項1〜7のいずれか一項に記載の干渉回避装置。
【請求項9】
路側通信機と無線通信可能である移動通信機であって、
自己の位置と当該位置で受信した前記路側通信機からの送信信号の受信レベルとを取得する取得部と、
前記取得部が取得した情報を、請求項1に記載の干渉回避装置の前記干渉判定部に与えるために、当該情報を無線送信可能な通信部と、を備えていることを特徴とする移動通信機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−71630(P2011−71630A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219182(P2009−219182)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】