説明

干渉計およびそれを備えたフーリエ変換分光器

【課題】平板型のBSを用いた小型、安価な構成で、BSで発生するゴースト光の影響を抑えながら、干渉強度の高い良好な干渉光を得る。
【解決手段】干渉計では、レーザ光源から出射されたレーザ光を平板型のBSで2光束に分離し、それぞれを別々の反射光学素子で反射させた後、BSに再度入射させて干渉させる。干渉光は、BSからレーザ光源とは異なる方向に出射され、光検出器にて検出される。BSは、平板状の基板と、上記基板の表面に形成される反射透過膜と、上記基板の裏面に形成される反射防止膜とを有している。上記基板の反射透過膜が形成された面でのレーザ光の反射率および透過率をそれぞれRbおよびTbとし、上記基板の反射防止膜が形成された面でのレーザ光の反射率をRaとすると、以下の条件式(1)および(2)を満足する。すなわち、(1)1.5<Rb/Tb<20、(2)Ra<0.03である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振幅分割型の干渉計と、その干渉計を備えたフーリエ変換分光器とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、入射光をビームスプリッタ(以下、BSとも称する)で2光束に分離し、各光束をそれぞれ移動鏡および固定鏡にて反射させた後、BSに再度入射させて合成し、干渉させる、いわゆる振幅分割型の干渉計が広く知られている。上記のBSとしては、例えば、直角プリズムを貼り合わせたキューブ型のタイプ(第1のタイプ;特許文献1参照)、ウェッジ型(楔型)のプリズムを貼り合わせたタイプ(第2のタイプ;特許文献2参照)、単一の平行平板で構成されるタイプ(第3のタイプ;特許文献3、4参照)など、様々なタイプのものが使用されている。
【0003】
第3のタイプのBSは、第1および第2のタイプのBSに比べて、小型で製造コストが安いという長所があり、小型の干渉計には好適である。この第3のタイプのBSは、平板状の透光性基板の表面に反射透過膜(BS膜)をコートし、上記基板の裏面に反射防止膜(AR膜)をコートして形成される。上記のBS膜やAR膜は、例えば誘電体の多層膜、金属薄膜、またはそれらのハイブリッド膜などで構成される。以下、BSの上記基板において、BS膜が形成された面のことをBSコート面とも称し、AR膜が形成された面のことをARコート面とも称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−48046号公報(図1等参照)
【特許文献2】特開平4−290935号公報(請求項1、図1等参照)
【特許文献3】特開平6−50847号公報(図1等参照)
【特許文献4】特開平11−94515号公報(図1等参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、第3のタイプのBSにおいては、AR膜の設計をいくら工夫しても、ARコート面での反射を完全に防止することは困難であり、BSに光が入射したときに、その一部がARコート面で反射され、不要光となる。光源としてレーザ光源を用いた場合、レーザ光は可干渉距離が長く、しかも、ARコート面での反射光(ゴースト光)は、BSコート面で分離、合成される正規の光とは異なる光路長を持つ。このため、レーザ光をBSに入射させる構成では、ARコート面での反射光が一方のミラー(例えば移動鏡)を介してBSに再度戻ってきたときに、他方のミラー(例えば固定鏡)側の光と不要な干渉を起こし、結果的に、正規光の干渉強度が低下して良好な干渉光を得ることができなくなる。
【0006】
なお、BSの基板の厚さを増大させれば、BSコート面で正規に反射される正規光とARコート面で反射されるゴースト光とで光路を大きくずらすことができ、遮光部材を用いてゴースト光を除去することが可能となるが、これでは結果的にBSが大型化するため、好ましくはない。
【0007】
なお、第3のタイプのBSを用いる構成で、BSでの干渉光が光源側に戻る構成(特許文献4参照)では、光源からBSに向かうレーザ光と、BSから光源側に向かって出射される干渉光とを分離するための別のビームスプリッタを光路中に配置する必要が生じ、コストが増大するため、好ましくはない。
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、平板型のBSを用いた小型、安価な構成で、BSで発生するゴースト光の影響を抑えながら、干渉強度の高い良好な干渉光を得ることができる干渉計と、その干渉計を備えたフーリエ変換分光器とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の干渉計は、レーザ光源から出射されたレーザ光を平板型のビームスプリッタで2光束に分離し、前記2光束のそれぞれを別々の反射光学素子で反射させた後、前記ビームスプリッタに再度入射させて干渉させ、前記ビームスプリッタから前記レーザ光源とは異なる方向に出射される干渉光を光検出器にて検出する干渉計であって、前記ビームスプリッタは、平板状の基板と、前記基板の表面に形成され、前記レーザ光を反射および透過によって分離するための反射透過膜と、前記基板の裏面に形成され、前記レーザ光の反射を防止するための反射防止膜とを有しており、以下の条件式(1)および(2)を満足することを特徴としている。すなわち、
1.5<Rb/Tb<20 ・・・(1)
Ra<0.03 ・・・(2)
ただし、
Rb:前記基板の前記反射透過膜が形成された面での前記レーザ光の反射率
Tb:前記基板の前記反射透過膜が形成された面での前記レーザ光の透過率
Ra:前記基板の前記反射防止膜が形成された面での前記レーザ光の反射率
である。
【0010】
前記各反射光学素子の一方は、前記ビームスプリッタで分離された2光束の光路差を変化させるために移動する移動鏡で構成されており、前記ビームスプリッタは、前記移動鏡の位置測定のために前記レーザ光源から出射される前記レーザ光を2光束に分離して前記各反射光学素子に導き、前記各反射光学素子からの反射光を合成して干渉させてもよい。
【0011】
前記ビームスプリッタは、被測定光を2光束に分離して前記各反射光学素子に導き、前記各反射光学素子からの反射光を合成して干渉させてもよい。この場合、本発明の干渉計は、以下の条件式(3)をさらに満足することが望ましい。すなわち、
0.21<Rbm・Tbm ・・・(3)
ただし、
Rbm:前記基板の前記反射透過膜が形成された面での前記被測定光の平均反射率
Tbm:前記基板の前記反射透過膜が形成された面での前記被測定光の平均透過率
である。
【0012】
前記各反射光学素子の他方は、固定鏡で構成されていてもよい。この場合、本発明の干渉計は、以下の条件式(4)をさらに満足することが望ましい。すなわち、
0.0≦d/Dm<0.45 ・・・(4)
ただし、
d :前記レーザ光の中心光線の前記固定鏡での入射位置と、
前記被測定光の中心光線の前記固定鏡での入射位置との距離
Dm:前記固定鏡での入射位置における前記被測定光の光束径
である。
【0013】
本発明の干渉計は、以下の条件式(5)をさらに満足することが望ましい。すなわち、
0.01<Dn/Dm<1.0 ・・・(5)
ただし、
Dn:前記固定鏡での入射位置における前記レーザ光の光束径
である。
【0014】
本発明の干渉計において、前記レーザ光源から出射されたレーザ光は、前記各反射光学素子に対して斜めに入射することが望ましい。
【0015】
本発明のフーリエ変換分光器は、上述した本発明の干渉計を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
条件式(1)の下限を下回ると、正規光に対するゴースト光の強度比が大きくなりすぎて、ゴースト光の影響を抑えることが困難になる。逆に、条件式(1)の上限を上回ると、2光束の分岐比が大きすぎて、入射光の強度に対して干渉光の強度が極端に低下する。また、条件式(2)の上限を上回ると、ゴースト光が多く発生し、ゴースト光の強度が大きくなるため、条件式(1)を満足することが困難となる。したがって、条件式(1)および(2)を満足することにより、平板型のBSを用いた小型、安価な構成で、BSで発生するゴースト光の影響を抑えながら、干渉強度の高い良好な干渉光を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の一形態に係る干渉計の概略の構成を示す説明図である。
【図2】上記干渉計における正規光の光路を示す説明図である。
【図3】上記干渉計におけるゴースト光の光路を示す説明図である。
【図4】上記干渉計におけるゴースト光の他の光路を示す説明図である。
【図5】上記干渉計におけるレーザ光のBSコート面での分岐比と、(ゴースト光強度/正規光強度)との関係をシミュレーションした結果を示す説明図である。
【図6】本発明の他の実施の形態に係る分光器の概略の構成を示す説明図である。
【図7】上記分光器の干渉計で用いられるBSのBSコート面の分光特性を広帯域で示す説明図である。
【図8】上記分光特性を狭帯域で示す説明図である。
【図9】上記BSのARコート面の分光特性を広帯域で示す説明図である。
【図10】上記分光特性を狭帯域で示す説明図である。
【図11】上記干渉計の他の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔実施の形態1〕
本発明の実施の一形態について、図面に基づいて説明すれば以下の通りである。
【0019】
(干渉計の構成)
図1は、本実施形態の干渉計1の概略の構成を示す説明図である。干渉計1は、いわゆる振幅分割型の干渉計であり、レーザ光源11と、コリメート光学系12と、BS13と、移動鏡14と、固定鏡15と、補償板16と、集光光学系17と、光検出器18とを有している。
【0020】
レーザ光源11は、移動鏡14の位置測定のための光源であり、例えば波長660nmの単色のレーザ光を出射する半導体レーザで構成されている。なお、レーザ光源11は、He−Neレーザで構成されてもよいが、小型化の点では半導体レーザを用いることが望ましい。また、レーザ光の波長は、上記の660nmに限定されるわけではなく、630nm付近の赤色の波長であってもよいし、400nm付近の青色の波長であってもよい。
【0021】
コリメート光学系12は、レーザ光源11から出射されたレーザ光を平行光に変換する光学系であり、本実施形態では、コリメートレンズで構成されている。コリメートレンズとしては、収差を小さくできる点で非球面レンズを用いることが望ましい。また、被測定光の波長域が広く、色収差が問題になる場合には、材質の異なる複数のレンズを使ってコリメート光学系12を構成し、色収差を補正することも可能である。なお、コリメート光学系12は、色収差の発生しない反射光学系で構成されてもよい。このような反射光学系としては、例えば放物面ミラーや球面ミラー等を用いることができる。
【0022】
BS13は、レーザ光源11から出射されたレーザ光を透過および反射によって2光束に分離し、それぞれを移動鏡14および固定鏡15に導く一方、移動鏡14および固定鏡15で反射された各光を合成し、干渉光としてレーザ光源11とは異なる方向に出射するものであり、本実施形態では、平板型のビームスプリッタで構成されている。なお、BS13の詳細な構成については後述する。
【0023】
移動鏡14および固定鏡15は、BS13からの入射光を反射させて再度BS13に入射させる反射光学素子をそれぞれ構成している。移動鏡14は、図示しない駆動機構により、BS13に近づく方向およびBS13から遠ざかる方向に移動する。これにより、BS13で分離された2光束、すなわち、移動鏡14側の光束と固定鏡15側の光束との光路差を変化させることができる。
【0024】
なお、移動鏡14と固定鏡15の位置を入れ替えても構わない。また、移動鏡14および固定鏡15は、コーナーキューブで構成されてもよい。
【0025】
補償板16は、BS13の厚み分の光路長、および光がBS13を透過する際の屈折による光路シフトを補正するための基板である。なお、干渉計1の組み方次第では、補償板16を不要とすることもできる。
【0026】
集光光学系17は、BS13にて合成されて出射された光を集光して光検出器18に導く光学系であり、例えば集光レンズで構成されている。なお、集光光学系17は、反射光学系で構成されてもよい。
【0027】
光検出器18は、BS13から集光光学系17を介して入射する干渉光を検出するセンサである。なお、レーザ光源11と光検出器18の位置を入れ替えても構わない。
【0028】
上記の構成において、レーザ光源11から出射されたレーザ光は、コリメート光学系12によってコリメート光に変換された後、BS13に入射し、BS13での透過および反射によって2光束に分離される。分離された一方の光束(例えば反射光束)は移動鏡14で反射され、他方の光束(例えば透過光束)は補償板16を透過した後、固定鏡15で反射され、それぞれ元の光路を逆戻りしてBS13に再度入射して合成され、干渉光としてレーザ光源11とは異なる方向に出射される。干渉光は、集光光学系17で集光されて光検出器18に入射し、そこで干渉光の強度が検出される。
【0029】
ここで、移動鏡14の移動により、BS13と移動鏡14との間の光路長と、BS13と固定鏡15との間の光路長との差が変化する。これにより、干渉光の強度が変化し、例えば上記光路長の差がレーザ光の波長の整数倍のときには、干渉光の強度が最大となる。このように、干渉光の強度は移動鏡14の位置に応じて変化するので、光検出器18にて干渉光の強度変化を検出することにより、移動鏡14の位置を求めることが可能となる。
【0030】
(BSの詳細)
次に、上記したBS13の詳細について説明する。本実施形態では、BS13は、平板状で透光性の基板13aと、反射透過膜(BS膜)13bと、反射防止膜(AR膜)13cとで構成されている。
【0031】
BS膜13bは、基板13aの表面に形成され、レーザ光および後述する被測定光を反射および透過によって分離するための光学薄膜である。BS膜13bは、例えば誘電体の多層膜、金属薄膜、またはそれらのハイブリッド膜などで構成されるが、本実施形態では、高屈折率材料と低屈折率材料とを交互に積層した多層膜で構成されている。
【0032】
また、AR膜13cは、基板13aの裏面に形成され、レーザ光および被測定光の反射を防止するための光学薄膜である。このAR膜13cも、例えば誘電体の多層膜、金属薄膜、またはそれらのハイブリッド膜などで構成されるが、本実施形態では、高屈折率材料と低屈折率材料とを交互に積層した多層膜で構成されている。
【0033】
ここで、以下での説明の便宜上、BS13において、BS膜13bが形成された基板13aの面のことをBSコート面と称し、AR膜13cが形成された基板13aの面のことを、ARコート面と称する。そして、BSコート面で所定の分岐比(透過率:反射率)で分離される2光束を正規光と称し、ARコート面で反射される不要光をゴースト光と称する。
【0034】
本実施形態では、以下の条件式(1)および(2)を満足している。すなわち、
1.5<Rb/Tb<20 ・・・(1)
Ra<0.03 ・・・(2)
ただし、
Rb:BSコート面でのレーザ光の反射率
Tb:BSコート面でのレーザ光の透過率
Ra:ARコート面でのレーザ光の反射率
である。
【0035】
条件式(1)および(2)は、平板型のBS13で発生するゴースト光の影響を抑えながら、良好な干渉光を得るための条件を規定している。すなわち、条件式(1)の下限を下回ると、正規光に対するゴースト光の強度比が大きくなりすぎて、ゴースト光の影響を抑えることが困難になる。逆に、条件式(1)の上限を上回ると、2光束の分岐比が大きすぎて、入射光の強度に対して干渉光の強度が極端に低下する。また、条件式(2)の上限を上回ると、ARコート面での反射によってゴースト光が多く発生し、ゴースト光の強度が大きくなるため、条件式(1)を満足することが困難となる。
【0036】
したがって、条件式(1)および(2)を満足することにより、平板型のBS13を用いた小型、安価な構成で、ゴースト光の強度を小さくしつつ、ゴースト光の影響を抑えながら、干渉強度の高い良好な干渉光を得ることができる。
【0037】
以下、ゴースト光の影響を抑えながら良好な干渉光が得られる理由について、より詳しく説明する。
【0038】
図2は、干渉計1における正規光の光路を示しており、図3および図4は、干渉計1におけるゴースト光の光路を示している。なお、ARコート面で多数回反射されるゴースト光も実際には存在するが、AR膜13cの反射率は小さいため、このようなゴースト光はほとんど無視できる。そこで、ここでは、ARコート面での反射が1回までのゴースト光を考えることにする。
【0039】
図2において、BS13と移動鏡14との間の正規光の光路をaとし、BS13と固定鏡15との間の正規光の光路をbとする。また、図3において、BS13と移動鏡14との間のゴースト光の光路をcとし、BS13と固定鏡15との間のゴースト光の光路をdとする。同様に、図4において、BS13と移動鏡14との間のゴースト光の光路をeとし、BS13と固定鏡15との間のゴースト光の光路をfとする。
【0040】
また、Rb、Tb、Raについては上記の定義を引用し、ARコート面でのレーザ光の透過率をTaとする。そして、上記各光路a、b、c、d、e、fにおける光の強度をそれぞれ、Ea、Eb、Ec、Ed、Ee、Efとすると、強度Ea〜Efは、以下のように表される。ただし、BS13に入射する光の強度をA(W)とする。なお、各光路図には補償板16が図示されているが、ここでは、補償板16での反射は無視した。
Ea=A・Ta・Rb・Ta・Ta・Tb
=A・Tb・Rb・Ta
Eb=A・Ta・Tb・Rb
Ec=A・Ra・Ta・Tb
Ed=A・Ta・Tb・Tb・Ra・Tb=A・Ta・Tb・Ra
Ee=A・Ta・Rb・Ra・Rb・Ta・Ta・Tb
=A・Tb・Rb・Ta・Ra
Ef=A・Ta・Rb・Ra・Tb・Rb
=A・Tb・Rb・Ta・Ra
となる。
【0041】
干渉光の強度は、厳密には上記各光路の強度の単純な和とはならないが、ここでは計算を簡略化するために、上記各光路の強度の単純な和で考える。したがって、正規光の強度およびゴースト光の強度は、以下のように考えることができる。
正規光の強度=Ea+Eb
ゴースト光の強度=Ec+Ed+Ee+Ef
【0042】
図5は、Rb/Tbと、(ゴースト光強度/正規光強度)との関係をシミュレーションした結果を示している。なお、ここでは、Tb+Rb=1、Ta+Ra=1、Ra=0.02とした。同図より、Rb/Tb=4.6付近で、(ゴースト光強度/正規光強度)の値が最小となることがわかる。また、同図より、Rb/Tb=1.5のとき、(ゴースト光強度/正規光強度)の値は、約0.031であり、Rb/Tb=1のときの(ゴースト光強度/正規光強度)の値(約0.035)よりも確実に低い。また、Rb/Tbの値が4.6よりも増大しても、(ゴースト光強度/正規光強度)の値は約0.03に近づきつつあり、0.035よりも増大しないが、Rb/Tbの値が1から離れすぎると、BSコート面での2光束の分岐比が大きすぎて、干渉光の強度が大きく低下することがわかっている。
【0043】
したがって、条件式(1)および(2)を満足することにより、平板型のBS13で発生するゴースト光の影響を抑えながら、干渉強度の高い良好な干渉光を得ることができると言える。
【0044】
なお、以上では、Ra=0.02として説明したが、Raの値が小さいほど、ARコート面での透過光に対する反射光の割合が少なくなり、ARコート面で発生するゴースト光自体が低減されるので望ましい。
【0045】
以上の点を考慮すると、ゴースト光の影響をより低減できる点、および干渉光の強度低下を確実に回避できる点では、以下の条件式(1a)および(2a)を満足することがより望ましいと言える。すなわち、
2<Rb/Tb<10 ・・・(1a)
Ra<0.02 ・・・(2a)
である。また、以下の条件式(1b)および(2b)を満足することがさらに望ましい。すなわち、
2.5<Rb/Tb<5 ・・・(1b)
Ra<0.015 ・・・(2b)
である。
【0046】
なお、上述の各条件式を満足するようなBS膜13bおよびAR膜13cの具体的な膜構成については、後述する実施の形態2で説明するBSの膜構成をそのまま適用することができる。
【0047】
なお、本実施形態では、BS13は、ARコート面側がレーザ光源11側となり、BSコート面側が固定鏡15側となるように配置されているが、ARコート面およびBSコート面の位置関係が逆であっても、上記した各条件式を満足することにより、本実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0048】
なお、以上では、ゴースト光の補償板16での反射を無視して説明したが、補償板16での反射が問題となる場合には、例えば、BS13と補償板16との距離を離して、補償板16における正規光の透過位置とゴースト光の反射位置とをずらし、補償板16で反射されるゴースト光を遮光板で除去することにより、ゴースト光の影響をなくすことが可能である。
【0049】
なお、補償板16は、BS13を構成する基板の屈折率の、波長による違いを補償するものであるため、レーザ光のような単色性の高い光を出射する光源を用いる場合は、補償板16を配置しなくても構わない。
【0050】
〔実施の形態2〕
本発明の他の実施の形態について、図面に基づいて説明すれば以下の通りである。なお、以下での説明の便宜上、実施の形態1と同一の構成には同一の部材番号を付記し、その説明を省略する。本実施形態では、実施の形態1の干渉計1を適用可能なフーリエ変換分光器(以下、単に分光器と称する)について説明する。
【0051】
(分光器の構成)
図6は、本実施形態の分光器の概略の構成を示す説明図である。この分光器は、干渉計1と、演算部2と、出力部3とを有している。演算部2は、干渉計1の後述する光検出器26から出力される信号のサンプリング、A/D変換およびフーリエ変換を行い、被測定光に含まれる波長のスペクトル、すなわち、波数(1/波長)ごとの光の強度を示すスペクトルを生成する。つまり、演算部2は、被測定側の干渉光の検知信号に基づいて、波長ごとの光の強度を示すスペクトルを生成するスペクトル生成部として機能する。出力部3は、演算部2にて生成されたスペクトルを出力(例えば表示)する。
【0052】
干渉計1は、参照光学系10と、被測定光学系20とを有して構成されている。参照光学系10は、実施の形態1で示した、レーザ光源11と、コリメート光学系12と、BS13と、移動鏡14と、固定鏡15と、補償板16と、集光光学系17と、光検出器18とを有して構成されている。一方、被測定光学系20は、参照光学系10と構成を一部共有しており、上記のBS13、移動鏡14、固定鏡15および補償板16に加えて、さらに、被測定光源21と、コリメート光学系22と、光路合成用BS23と、光路分離用BS24と、集光光学系25と、光検出器26とを有している。なお、図6では、参照光学系10におけるレーザ光(参照光とも称する)の光路を破線で示し、被測定光学系20における被測定光の光路を実線で示している。
【0053】
被測定光源21は、近赤外光を被測定光として出射するものであり、光源単独で構成されるか、または光源と光ファイバとを結合したファイバ結合光学系で構成されている。ファイバ結合光学系を用いた場合、光源からの光を光ファイバに入射させて所望の位置(図6の被測定光源21の位置)まで導光することが可能となる。なお、上記したレーザ光源11についても、レーザ光源と光ファイバとを結合したファイバ結合光学系で構成し、レーザ光源からのレーザ光を光ファイバに入射させて所望の位置(図6のレーザ光源11の位置)まで導光するようにしてもよい。
【0054】
コリメート光学系22は、被測定光源21から出射される被測定光を平行光に変換してBS13に導く光学系であり、例えばコリメータレンズで構成されている。なお、コリメート光学系22を非球面レンズや複数レンズで構成したり、反射光学系で構成してもよい点は、コリメート光学系12と同様である。
【0055】
光路合成用BS23は、被測定光をほぼ透過させ、参照光をほぼ反射させる光学特性を有し、これらの光の光路を合成するビームコンバイナである。光路分離用BS24は、被測定光をほぼ透過させ、参照光をほぼ反射させる光学特性を有し、これらの光の光路を分離するビームスプリッタである。光路合成用BS23および光路分離用BS24は、ともに、平板状の透光性基板の表面に反射透過膜(BS膜)をコートし、上記基板の裏面に反射防止膜(AR膜)をコートして形成される。なお、上記のBS膜やAR膜は、例えば誘電体の多層膜、金属薄膜、またはそれらのハイブリッド膜などで構成される。
【0056】
集光光学系25は、光路分離用BS24を透過した被測定光(干渉光)を集光して光検出器26に導く光学系であり、例えば集光レンズで構成されている。なお、集光光学系17は、反射光学系で構成されてもよい。光検出器26は、集光光学系25を介して入射した被測定光を受光してインターフェログラム(干渉パターン)を検出するセンサである。
【0057】
分光器の参照光学系10では、レーザ光源11から出射されたレーザ光は、コリメート光学系12を介して光路合成用BS23に入射し、そこで反射されてBS13に入射し、2光束に分離される。分離された一方の光束は、移動鏡14で反射され、他方の光束は補償板16を透過した後、固定鏡15で反射され、それぞれ元の光路を逆戻りしてBS13に入射してそこで再度合成され、参照干渉光として、レーザ光源11に戻る方向とは異なる方向に出射される。上記の参照干渉光は、光路分離用BS24にて反射され、集光光学系17を介して光検出器18に入射する。光検出器18では、移動鏡14の移動に伴って変化する参照干渉光の強度が検出され、これによって移動鏡14の位置が検出される。
【0058】
一方、分光器の被測定光学系20では、被測定光源21から出射された被測定光は、コリメート光学系22によって平行光に変換された後、光路合成用BS23を透過してBS13に入射し、BS13での透過および反射によって2光束に分離される。分離された一方の光束は移動鏡14で反射され、他方の光束は補償板16を通過した後、固定鏡15で反射され、それぞれ元の光路を逆戻りしてBS13で重ね合わせられ、被測定干渉光として、被測定光源21に戻る方向とは異なる方向に出射され、試料(図示せず)に照射される。試料を透過(または反射)した光は、光路分離用BS24を透過し、集光光学系25にて集光されて光検出器26に入射し、そこでインターフェログラムとして検出される。
【0059】
演算部2では、上記した参照光学系10における移動鏡14の位置検出に基づき、光検出器26からの検出信号(インターフェログラム)をサンプリングし、A/D変換およびフーリエ変換することにより、波数ごとの光の強度を示すスペクトルが生成される。上記のスペクトルは、出力部3にて出力(例えば表示)され、このスペクトルに基づき、試料の特性(材料、構造、成分量など)を分析することが可能となる。
【0060】
なお、ここでは、光路合成用BS23をコリメート光学系12・22の光射出側に配置し、参照光学系10と被測定光学系20とで別々のコリメート光学系12・22を配置した構成としているが、単一のコリメート光学系を光路合成用BS23の光射出側に配置し、参照光学系10と被測定光学系20とで単一のコリメート光学系を共有する構成としてもよい。同様に、単一の集光光学系を光路分離用BS24の光入射側に配置し、参照光学系10と被測定光学系20とで単一の集光光学系を共有する構成としてもよい。
【0061】
なお、参照光学系10においてレーザ光源11と光検出器18の位置を入れ替えてもよいし、被測定光学系20において被測定光源21と光検出器26の位置を入れ替えてもよい。また、参照光学系10のレーザ光源11および光検出器18の位置と、被測定光学系20の被測定光源21と光検出器26の位置とを入れ替えてもよい。
【0062】
なお、フーリエ変換型の分光器の場合、一般に、被測定光の波長域は広く(例えば近赤外の波長域)、補償板16の有無により、測定されるインターフェログラムの形状は変化するが、移動鏡14側の光路長と固定鏡15側の光路長との差がほぼゼロとなる点を中心に移動鏡14を両側に移動させれば、インターフェログラムを測定することは可能であり、このインターフェログラムをフーリエ変換すればスペクトルを算出することができる。したがって、補償板16が光路中にあってもなくても、インターフェログラムを測定することは可能であるので、スペクトルを算出する分光器においては、補償板16の配置を省略することも可能である。
【0063】
(BSの分光特性について)
次に、本実施形態の干渉計1に適用されるBS13の分光特性について説明する。図7および図8は、上記干渉計1で用いられるBS13のBSコート面の分光特性を示す説明図であり、図7は上記分光特性を広帯域(波長500〜3000nm)で示したものであり、図8は上記分光特性を狭帯域(波長600〜700nm)で示したものである。また、図9および図10は、BS13のARコート面の分光特性を示す説明図であり、図9は上記分光特性を広帯域(波長500〜3000nm)で示したものであり、図10は上記分光特性を狭帯域(波長600〜700nm)で示したものである。なお、BS13への入射角は、レーザ光および被測定光ともに30度とした。また、各図面において、反射率、透過率は、S偏光とP偏光との平均値をとって示した。
【0064】
表1は、図7および図8の分光特性を実現するBS膜13bの具体的な膜構成を示し、表2は、図9および図10の分光特性を実現するAR膜13cの具体的な膜構成を示している。なお、BS13の基板13aには、例えば合成石英(屈折率1.46)を用いた。また、BS膜13bおよびAR膜13cは、低屈折率材料と高屈折率材料との2種類の誘電体を用い、これらを交互に積層することによりそれぞれ形成した。なお、低屈折率材料としては、例えばSiO(屈折率1.47)を用い、高屈折率材料としては、例えばNb(屈折率2.3)を用いた。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
本実施形態では、レーザ光の波長を660nm、被測定光の最短波長を900nm、被測定光の最長波長を2600nmに設定した。図7および図8より、波長660nmでのBSコート面でのレーザ光の反射率Rbは0.807(80.7%)であり、透過率Tbは0.193(19.3%)である。この場合、Rb/Tb=4.2であり、上述した条件式(1)を満足していることがわかる。また、図9および図10より、波長660nmでのARコート面でのレーザ光の反射率Raは0.006(0.6%)であり、上述した条件式(2)も満足していることがわかる。
【0068】
よって、このような分光特性を有するBS13を用いることにより、平板型のBS13で発生するゴースト光の影響を抑えながら、干渉強度の高い良好な干渉光を得ることができると言える。特に、本実施形態では、上述した条件式(1a)、(1b)、(2a)、(2b)をさらに満足しており、ゴースト光の影響を確実に低減することができる。その結果、本実施形態の干渉計1を備えた分光器においては、移動鏡14の位置測定を高精度に行って、分光分析を高精度に行うことができる。
【0069】
また、例えば、BS13で合成された光(干渉光)がレーザ光源11側に戻る構成では、移動鏡14側の光は、レーザ光源11から移動鏡14に向かう光路中で、BS13にて1回反射され、移動鏡14から光検出器18に向かう光路中で、BS13にて1回反射される。また、固定鏡15側の光は、レーザ光源11から固定鏡15に向かう光路中で、BS13を1回透過し、固定鏡15から光検出器18に向かう光路中で、BS13を1回透過する。つまり、BS13で分離、合成される2光束のうちの一方は、BS13で2回反射し(透過回数は0)、他方の光束はB13を2回透過する(反射回数は0)。
【0070】
このように、BS13での反射回数および透過回数が2光束で異なると、BS13でのレーザ光の透過率と反射率との比が50:50からずれたときに、最終的に2光束の強度に差が生じ、干渉光のコントラストが低下する。また、BS13からレーザ光源11側に戻る干渉光を光検出器18に入射させるためには、レーザ光源11とBS13との間の光路中に、光路分離用のBSをさらに設けることが必要となり、部品点数の増大によるコスト増大および装置の大型化を招く。
【0071】
これに対して、本実施形態のように、BS13で合成された光(干渉光)がレーザ光源11とは異なる方向に出射される構成では、移動鏡14側の光は、レーザ光源11から移動鏡14に向かう光路中で、BS13にて1回反射され、移動鏡14から光検出器18に向かう光路中で、BS13を1回透過する。また、固定鏡15側の光は、レーザ光源11から固定鏡15に向かう光路中で、BS13を1回透過し、固定鏡15から光検出器18に向かう光路中で、BS13にて1回反射される。つまり、BS13で分離、合成される2光束は、BS13での反射回数および透過回数がともに同じとなる。
【0072】
したがって、BS13でのレーザ光の透過率と反射率との比が50:50からずれていても、最終的に2光束の強度はほぼ同程度となり、干渉光がレーザ光源11側に戻る構成に比べて、干渉光のコントラストの低下を回避することができる。また、レーザ光源11とBS13との間の光路中に、光路分離用のBSを設けなくても済むので、部品点数の増大によるコスト増大および装置の大型化を回避することもできる。
【0073】
また、本実施形態では、BS13は、移動鏡14の位置測定のためにレーザ光源11から出射されるレーザ光を2光束に分離して移動鏡14および固定鏡15にそれぞれ導き、移動鏡14および固定鏡15からの各反射光を合成して干渉させている。単色性が高く、可干渉距離の長いレーザ光は、移動鏡14の移動に伴って一定の周期で良好な干渉強度変化を起こすため、移動鏡14の正確な位置測定が必要な分光器には好適である。このように、BS13が移動鏡14の位置測定のためのレーザ光を2光束に分離し、合成するための光学素子として使用される場合、BS13にてゴースト光が発生すると、これがノイズとなって、移動鏡14の位置測定を正確に行うことができなくなる。
【0074】
しかし、本実施形態では、条件式(1)および(2)を満足するBS13を用いることによって、BS13で発生するゴースト光の影響を抑えながら、干渉強度の高い干渉光を得ることができるので、移動鏡14の正確な位置測定が可能となり、分光器での分光分析の精度を向上させることができる。
【0075】
また、BS13は、被測定光源21からの被測定光を2光束に分離して移動鏡14および固定鏡15に導き、移動鏡14および固定鏡15からの反射光を合成して干渉させている。この場合、以下の条件式(3)をさらに満足することが望ましい。すなわち、
0.21<Rbm・Tbm ・・・(3)
ただし、
Rbm:BSコート面での被測定光の平均反射率
Tbm:BSコート面での被測定光の平均透過率
である。
【0076】
本実施形態のように、BS13が、移動鏡14の位置測定のためのレーザ光を2光束に分離し、合成する機能と、被測定光を2光束に分離し、合成する機能とを兼ね備えていることにより、干渉計1ひいては分光器をコンパクトに構成することができる。このとき、Rbm・Tbmの値は、理論的にはRbm=Tbm=0.5のとき最大(0.25)となるが、条件式(3)の下限(0.21)を下回ると、被測定光の干渉強度が小さくなりすぎて好ましくはない。条件式(3)を満足することにより、被測定光の干渉強度の低下を抑えることができる。
【0077】
ちなみに、本実施形態では、被測定光の波長域(900〜2600nm)でのBSコート面での平均反射率Rbmは0.535(53.5%)であり、上記波長域での平均透過率Tbmは0.465(46.5%)である。したがって、Rbm・Tbm=0.249>0.21であり、条件式(3)を満足している。
【0078】
なお、以下の条件式(3a)をさらに満足すれば、被測定光の干渉強度の低下を確実に抑えることができる点で望ましい。すなわち、
0.23<Rbm・Tbm ・・・(3a)
である。本実施形態での上記のRbm・Tbmの値(0.249)は、条件式(3a)も満足しており、被測定光の干渉強度の低下を確実に抑えることができる。
【0079】
(他の条件式について)
ところで、レーザ光と被測定光とで、光学系内で通過する位置のずれが大きくなると、光学系の誤差(例えば、BS13、移動鏡14、固定鏡15等の光学素子の面形状誤差や位置設定の誤差)に起因して、レーザ光と被測定光とで光路長に大きな差が発生する。つまり、移動鏡14の移動によって生じる本来の光路長差とは別に、光学系の誤差に起因する光路長差が生じる。この場合、移動鏡14の位置を正確に測定することが困難となり、移動鏡14の位置測定に基づく分光分析を高精度で行うことが困難となる。
【0080】
そこで、本実施形態の干渉計1および分光器では、以下の条件式(4)を満足している。すなわち、
0.0≦d/Dm<0.45 ・・・(4)
ただし、
d :レーザ光の中心光線の固定鏡での入射位置と、
被測定光の中心光線の固定鏡での入射位置との距離(mm)
Dm:固定鏡での入射位置における被測定光の光束径(mm)
である。なお、光束径Dmは、被測定光において、最大強度の1/e以上となる部分の光束径(直径)とする。
【0081】
条件式(4)は、レーザ光と被測定光とで、光学系の誤差による光路差が生じるのを抑えるための条件を規定している。つまり、条件式(4)の上限を上回ると、レーザ光と被測定光とで、光学系内で通過する位置のずれが大きくなり、光学系の誤差に起因して、レーザ光と被測定光とで光路長に大きな差が発生する。
【0082】
条件式(4)を満足することにより、レーザ光と被測定光とは光学系内のほぼ同じ位置を通過することになり、光学系の誤差に起因して光路長に差が生じるのを抑えることができる。その結果、光学系の誤差の影響をできるだけ抑えて、移動鏡14の位置を正確に測定し、分光分析を高精度で行うことが可能となる。
【0083】
ちなみに、本実施形態では、d=0.0mm、Dm=5.0mmより、d/Dm=0.0mmとなっており、条件式(4)を満足している。
【0084】
なお、以下の条件式(4a)をさらに満足すれば、光学系の誤差に起因して光路長に差が生じるのを確実に抑えることができる点で望ましい。すなわち、
0.0≦d/Dm<0.3 ・・・(4a)
である。本実施形態での上記のd/Dmの値(0.0)は、条件式(4a)も満足しており、光学系の誤差に起因して光路長に差が生じるのを確実に抑えることができる。
【0085】
また、本実施形態の干渉計1および分光器では、以下の条件式(5)をさらに満足している。すなわち、
0.01<Dn/Dm<1.0 ・・・(5)
ただし、
Dn:固定鏡での入射位置におけるレーザ光の光束径(mm)
である。なお、光束径Dnは、レーザ光において、最大強度の1/e以上となる部分の光束径(直径)とする。
【0086】
条件式(5)は、レーザ光と被測定光とで、両者の受ける光学系の誤差の影響を同程度に揃えるための条件を規定している。つまり、条件式(5)の下限を下回ると、レーザ光は、光束径が小さくなりすぎて、光学系内の局所的な誤差の影響(例えば固定鏡の面精度による影響)を受けやすくなる。逆に、条件式(5)の上限を上回ると、レーザ光は、光束径が大きくなりすぎて(被測定光の光束径よりも大きくなって)、この場合も光学系の誤差の影響(例えば固定鏡の傾きによる影響)を受けやすくなる。
【0087】
したがって、条件式(5)を満足することにより、レーザ光と被測定光とで、両者の受ける光学系の誤差の影響を同程度に揃えることが可能となる。
【0088】
ちなみに、本実施形態では、Dn=2.0mm、Dm=5.0mmより、Dn/Dm=0.4mmとなっており、条件式(5)を満足している。
【0089】
なお、以下の条件式(5a)をさらに満足すれば、レーザ光と被測定光とで、両者の受ける光学系の誤差の影響を確実に同程度に揃えることができる点で望ましい。すなわち、
0.1<Dn/Dm<0.8 ・・・(5a)
である。本実施形態での上記のDn/Dmの値(0.4)は、条件式(5a)も満足しており、レーザ光と被測定光とで、両者の受ける光学系の誤差の影響を確実に同程度に揃えることができる。
【0090】
(干渉計の他の構成について)
図11は、本実施形態の分光器に適用可能な干渉計1の他の構成を示す説明図である。この干渉計1では、コリメート光学系12を反射光学系で構成し、参照光学系10と被測定光学系20とでコリメート光学系12を共有しているとともに、集光光学系17を反射光学系で構成し、参照光学系10と被測定光学系20とで集光光学系17を共有している。そして、レーザ光源11を被測定光源21の横に配置し、レーザ光の光軸を被測定光の光軸に対して傾け、レーザ光を移動鏡14および固定鏡15に対して斜めに入射させている。これに伴い、参照光学系10の光検出器18を被測定光学系20の光検出器26の横に配置し、レーザ光および被測定光の各干渉光の強度を、光検出器18・26でそれぞれ測定できる構成としている。
【0091】
なお、光検出器18の位置に光ファイバを配置し、レーザ光の干渉光を光ファイバに入射させ、その光ファイバで干渉光を光検出器18に導光することも可能である。同様に、光検出器26の位置に光ファイバを配置し、被測定光の干渉光を光ファイバに入射させ、その光ファイバで干渉光を光検出器26に導光することも可能である。
【0092】
図6で示したような、レーザ光が移動鏡14や固定鏡15に対して垂直に入射する構成では、レーザ光が移動鏡14や固定鏡15で反射された後、レーザ光源11側に戻り、レーザ光の出力が不安定になることがある。しかし、図11に示すように、レーザ光を移動鏡14や固定鏡15に対して斜めに入射させることにより(破線の光路参照)、移動鏡14や固定鏡15からの反射光がレーザ光源11に入射するのを回避することができ、レーザ光源11の発振波長を安定させることができる。なお、光アイソレータを光路中に挿入してレーザ光源11への戻り光の入射を阻止するようにしてもよい。
【0093】
また、図11の構成では、参照光学系10と被測定光学系20とで光路を合成、分離するための光学部材(図6の光路合成用BS23、光路分離用BS25に相当する部材)が不要であるので、装置をさらにコンパクトに構成することができる。
【0094】
なお、上述した各実施の形態で説明した構成を適宜組み合わせて、干渉計1ひいては分光器を実現することも勿論可能である。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の干渉計は、例えばフーリエ変換分光器に利用可能である。
【符号の説明】
【0096】
1 干渉計
11 レーザ光源
13 BS(ビームスプリッタ)
13a 基板
13b BS膜(反射透過膜)
13c AR膜(反射防止膜)
14 移動鏡(反射光学素子)
15 固定鏡(反射光学素子)
18 光検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源から出射されたレーザ光を平板型のビームスプリッタで2光束に分離し、前記2光束のそれぞれを別々の反射光学素子で反射させた後、前記ビームスプリッタに再度入射させて干渉させ、前記ビームスプリッタから前記レーザ光源とは異なる方向に出射される干渉光を光検出器にて検出する干渉計であって、
前記ビームスプリッタは、
平板状の基板と、
前記基板の表面に形成され、前記レーザ光を反射および透過によって分離するための反射透過膜と、
前記基板の裏面に形成され、前記レーザ光の反射を防止するための反射防止膜とを有しており、
以下の条件式(1)および(2)を満足することを特徴とする干渉計;
1.5<Rb/Tb<20 ・・・(1)
Ra<0.03 ・・・(2)
ただし、
Rb:前記基板の前記反射透過膜が形成された面での前記レーザ光の反射率
Tb:前記基板の前記反射透過膜が形成された面での前記レーザ光の透過率
Ra:前記基板の前記反射防止膜が形成された面での前記レーザ光の反射率
である。
【請求項2】
前記各反射光学素子の一方は、前記ビームスプリッタで分離された2光束の光路差を変化させるために移動する移動鏡で構成されており、
前記ビームスプリッタは、前記移動鏡の位置測定のために前記レーザ光源から出射される前記レーザ光を2光束に分離して前記各反射光学素子に導き、前記各反射光学素子からの反射光を合成して干渉させることを特徴とする請求項1に記載の干渉計。
【請求項3】
前記ビームスプリッタは、被測定光を2光束に分離して前記各反射光学素子に導き、前記各反射光学素子からの反射光を合成して干渉させ、
以下の条件式(3)をさらに満足することを特徴とする請求項2に記載の干渉計;
0.21<Rbm・Tbm ・・・(3)
ただし、
Rbm:前記基板の前記反射透過膜が形成された面での前記被測定光の平均反射率
Tbm:前記基板の前記反射透過膜が形成された面での前記被測定光の平均透過率
である。
【請求項4】
前記各反射光学素子の他方は、固定鏡で構成されており、
以下の条件式(4)をさらに満足することを特徴とする請求項3に記載の干渉計;
0.0≦d/Dm<0.45 ・・・(4)
ただし、
d :前記レーザ光の中心光線の前記固定鏡での入射位置と、
前記被測定光の中心光線の前記固定鏡での入射位置との距離
Dm:前記固定鏡での入射位置における前記被測定光の光束径
である。
【請求項5】
以下の条件式(5)をさらに満足することを特徴とする請求項4に記載の干渉計;
0.01<Dn/Dm<1.0 ・・・(5)
ただし、
Dn:前記固定鏡での入射位置における前記レーザ光の光束径
である。
【請求項6】
前記レーザ光源から出射されたレーザ光は、前記各反射光学素子に対して斜めに入射することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の干渉計。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の干渉計を備えていることを特徴とするフーリエ変換分光器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−132881(P2012−132881A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287413(P2010−287413)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】