説明

平版印刷方法および平版印刷装置

【課題】 デジタル画像データに対応でき、安価かつ高速で鮮明な画像の印刷物を多数枚印刷できる平版印刷方法を提供する。
【解決手段】 画像データの信号に基づき、印刷機の版胴に装着された版材上に、静電界を利用して油性インクを吐出させるインクジェット方式で直接画像を形成し刷版を作成した後に平版印刷を行う平版印刷方法において、該印刷機がフードを有することを特徴とする平版印刷方法および装置。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、印刷機上で、デジタル製版を行う平版印刷方法および平版印刷装置に関し、さらに詳細には、油性インクを使用した製版画質および印刷画質が良好な製版・印刷方法および印刷装置に関する。
【0002】
【従来の技術】平版印刷においては、印刷版の表面に画像原稿に対応してインク受容性とインク反発性の領域を設け、印刷インクをインク受容性の領域に付着させて印刷を行う。通常は印刷版の表面に、親水性および親油性(インク受容性)の領域を画像様に形成し、湿し水を用いて親水性領域をインク反発性とする。
【0003】印刷版への画像の記録(製版)は、一旦画像原稿をアナログ的またはデジタル的に銀塩写真フィルムに出力し、これを通してジアゾ樹脂や光重合性のフォトポリマー感光材料(印刷原版)を露光し、非画像部を主にアルカリ性溶液を用いて溶出除去して行うのが一般的な方法である。
【0004】近年、平版印刷方法において、最近のデジタル描画技術の向上と、プロセスの効率化の要求から、刷版上に、直接デジタル画像情報を描画するシステムが数多く提案されている。これは、CTP(Computer−to−plate)、あるいはDDPP(Digital Direct Printing Plate)と呼ばれる技術である。製版方法としては、例えばレーザーを用いて、光モードまたは熱モードで画像を記録するシステムがあり、一部は実用化され始めている。
【0005】しかし、この製版方法は、光モード、熱モードともに、一般には、レーザー記録後にアルカリ性現像液で処理して非画像部を溶解除去して製版が行われ、アルカリ性廃液が排出され、環境保全上好ましくない。
【0006】さらに印刷プロセスを効率化する手段として、画像描画を印刷機上で行うシステムがある。上記のレーザーを用いる方法もあるが、高価でかつ大きな装置となってしまう。そこで、安価でかつコンパクトな描画装置であるインクジェット法を応用したシステムが試みられている。
【0007】特開平4−97848号公報には、従来の版胴に替えて、表面部が親水性または親油性である版ドラムを設け、この上に親油性または親水性の画像をインクジェット法で形成し、印刷終了後画像を除去し、クリーニングする方法が開示されている。しかしながら、この方法では、印刷画像の除去(すなわちクリーニングのし易さ)と耐刷性とが両立し難い。また、耐刷性の高い印刷画像を版胴上に形成しようとすると、比較的高濃度の樹脂を含むインクを用いる必要があるため、印刷画像を形成するインクジェット手段において、そのインクとして樹脂溶液を用いているためノズル部分での溶媒蒸発に伴う、樹脂の固着が起こりやすく、インク吐出の安定性が低い。その結果、良好な画像が得難い。
【0008】また、特開昭64−27953号公報では、親水性の版材に親油性のワックスインクを使用してインクジェットで描画を行い、製版を行う方法が開示されている。この方法では版材は使い捨てとなるため、印刷終了後、画像の除去を行う必要はなく、吐出安定性も高いが、画像がワックスで形成されるため画像部の機械的強度が弱く、かつ版材の親水性表面との密着性が不足するため耐刷性は低い。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の問題点に着目してなされたものであり、その目的は、第一に、現像処理が不要なデジタル対応の平版印刷方法および平版印刷装置を提供することである。第二に、安価な装置および簡便な方法で、鮮明で高画質な画像の印刷物を多数枚印刷可能とする平版印刷方法および平版印刷装置を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記目的は、下記(1)から(16)の本発明により達成される。
(1)画像データの信号に基づき、印刷機の版胴に装着された版材上に、静電界を利用して油性インクをヘッドから吐出させるインクジェット方式で直接画像を形成し刷版を作成した後に平版印刷を行う平版印刷方法において、該印刷機がフードを有することを特徴とする平版印刷方法。
(2)画像データの信号に基づき、印刷機の版胴に装着された版材上に、静電界を利用して油性インクをヘッドから吐出させるインクジェット描画装置を有するインクジェット方式で直接画像を形成し刷版を作成した後に平版印刷を行う平版印刷装置において、該印刷機がフードを有することを特徴とする平版印刷装置。
(3)前記油性インクが、固有電気抵抗値109Ωcm以上かつ誘電率3.5以下の非水溶媒中に、少なくとも常温で固体かつ疎水性の樹脂粒子を分散したものである上記(1)または(2)の平版印刷方法および平版印刷装置。
【0011】(4)該インクの定着装置を有する上記(1)〜(3)の平版印刷方法および平版印刷装置。
(5)版材への描画前及び/又は描画中に版材表面に存在する埃を除去する手段を有する上記(1)〜(4)のいずれかの平版印刷方法および平版印刷装置。
(6)版材への描画時には、版材の装着された版胴の回転により、主走査を行う上記(1)〜(5)のいずれかの平版印刷方法および平版印刷装置。
(7)インクジェット描画装置はシングルヘッド、あるいはマルチヘッドからなり、ヘッドを版胴の軸方向に摺動する事により副走査を行う上記(1)〜(6)の平版印刷方法および平版印刷装置。
(8)インクジェット描画装置は版胴の幅と略同じ長さを有するフルラインヘッドからなる上記(1)〜(6)の平版印刷方法および平版印刷装置。
【0012】(9)インクジェット描画装置のヘッドにインクを供給する手段を有する上記(1)〜(8)のいずれかに記載の平版印刷方法および平版印刷装置。
(10)インクジェット描画装置のヘッドにインクを供給する手段を有するとともに、該ヘッドからインクを回収する手段を有し、両手段によりインク循環を行う上記(1)〜(9)のいずれかに記載の平版印刷方法および平版印刷装置。
(11)該油性インクを格納するインクタンク内に攪拌手段を有する上記(1)〜(10)のいずれかに記載の平版印刷方法および平版印刷装置。
(12)該油性インクを格納するインクタンク内にインクの温度を制御する手段を有する上記(1)〜(11)のいずれかに記載の平版印刷方法および平版印刷装置。
【0013】(13)インク濃度を制御する手段を有する上記(1)〜(12)のいずれかに記載の平版印刷方法および平版印刷装置。
(14)インクジェット記録ヘッドは版胴から離接可能に設けられ、版材への描画時以外は版胴から該記録ヘッドを離す手段を有する上記(1)〜(13)のいずれかに記載の平版印刷方法および平版印刷装置。
(15)平版印刷時に発生する紙粉を除去する手段を有する上記(1)〜(14)のいずれかに記載の平版印刷方法および平版印刷装置。
(16)少なくとも製版終了後にインクジェット記録ヘッドのクリーニングを行うクリーニング手段を有する上記(1)〜(15)のいずれかに記載の平版印刷方法および平版印刷装置。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明は、印刷機の版胴上に設けられた版材(印刷原版)上に、油性インクを静電界によって吐出するインクジェット法で画像を形成することを特徴とする。
【0015】本発明の平版印刷方法および装置に用いるインクジェット方法は、絶縁性溶媒中に少なくとも常温で固体かつ疎水性の樹脂粒子を分散した高抵抗を有するインクを使用し、このインクに吐出位置で静電界を利用することにより、該樹脂粒子の凝集物を該吐出位置に形成し、さらに静電手段により該凝集物を吐出させることによる。具体的には、例えば、WO93/11866号公報等に記載の方法を適用することができる。この方法を平版印刷に適用すると、樹脂粒子は高濃度化した凝集物として吐出されることにより、版材に印字されたドットの膜厚が十分に得られる。これにより、記録媒体である版材上では十分な耐刷性を有する耐刷性を有する凝集樹脂粒子の画像が形成されることになる。さらに、樹脂粒子は高濃度化した凝集物として吐出され、吐出液滴中に含まれる溶媒成分が少なく、インクの乾きが速くなるため版上でのドットのニジミが抑えられ、高精細な画像が形成される。また、本発明に用いるインクジェット方法では吐出したインキ滴の大きさは吐出位置および電極の形状、電界印加条件によって決まり、吐出ノズル径あるいはスリット幅を小さくすることなく、小さなインキ滴が得られ、電界印加条件を制御することにより版材上でのドット径をコントロールすることができる。したがってヘッドのインク詰まりの問題なしに、耐刷性のある微小な画像のコントロールが可能となる。このように、本発明によれば、鮮明な印刷物が多数枚印刷することが可能となる。
【0016】本発明のインクジェット方式は、静電界を利用して行われ、インクに強い電界を作用させて吐出させることが好ましい。電界強度が十分でないと良好な吐出性が得られない場合があるため、約1×105 V/cm以上が適当である。他方、あまりに高すぎるとドット分裂やサテライトの発生が生じ、画質が低下する傾向があるため、約1×108 V/cm以下が適当である。より好ましくは、2×105 V/cm〜5×108 V/cmの範囲である。
【0017】本発明の平版印刷方法を実施するのに用いられる機上描画平版印刷装置の一構成例を以下に示す。図1、図2は、機上描画単色片面平版印刷装置の全体構成図である。図3は、本機上描画平版印刷装置の制御部、インク供給部、ヘッド離接機構を含めた描画部の概略構成例である。また図4〜図10は、図1、図2及び図11の機上描画平版印刷装置が具備するインクジェット記録装置を説明するためのものである。また、図11は本発明に係る機上描画4色片面平版印刷装置の全体構成例である。
【0018】まずは図1に示す機上描画単色片面平版印刷機の全体構成図を用いて本発明による印刷工程について説明する。図1に示されるように、機上描画平版印刷装置1(以下単に「印刷装置」ともいう)は、全体をフードFで覆われており、その内部に版胴11、ブランケット胴12および圧胴13を一つずつ有し、少なくとも平版印刷を行う際には版胴11に対して転写用のブランケット胴12が圧接するように配置され、ブランケット胴12にはこれに転写された印刷インキ画像を印刷紙Pに転移させるための圧胴13が圧接するように配置されている。フードFは吸気口Iと排気口Oを有し、該吸気口、及び排気口Oには防塵フィルターを取り付けている。フード内には強制的に吸排気を行わせるためにファン等を設けることが望ましい。また後述するインクに使用される溶媒蒸気をフード外部に出さないように除去装置を取り付けてもよく、これにより溶媒蒸気を外部に排出することなく、臭気発生などの問題のない使い勝手のよい印刷装置とすることができる。また図1では印刷装置全体をフードFで覆っているが、フードは図2の様に印刷装置の一部のみを覆う形でもよく、特に限定されるものではない。
【0019】版胴11は、通常金属製であり、その表面は耐摩耗性を強化するために例えばクロムメッキが施されているが、後述のようにその表面に断熱材を有してもよい。一方、版胴11は静電界吐出において、吐出ヘッド電極の対極となるためアースされることが好ましい。また版材の基体の絶縁性が高い場合には基体上に導電層を設けることが好ましく、この場合にはこの導電層から版胴にアースを取る手段を設けることが望ましい。さらに前述のように版胴上に断熱材を設ける場合にも、版材からアースを取る手段を設けることにより、描画は容易になる。この場合には公知の導電性を有するブラシ、板バネ、ローラ等の手段を使用できる。
【0020】さらに、印刷装置1はインクジェット記録装置2を有し、これにより、画像データ演算制御部21より送られてくる画像データに対応して、版胴11上に装着された版材9上に油性インクを吐出し画線部を形成する。
【0021】また、印刷装置1には版材9上の親水部(非画像部)に湿し水を供給する湿し水供給装置3が設置されている。図1には湿し水供給装置3の代表例としてモルトン給水方式の装置を示しているが、湿し水供給装置3としてはその他にシンフロ給水方式、連続給水方式等公知の装置が使用できる。さらに、印刷装置1は、印刷インキ供給装置4、および版材9上に描画された油性インク画像を強固にするための定着装置5を有する。必要によって版材9表面の親水性強化の目的で必要に応じて用いる版面不感脂化装置6を設置してもよい。また、印刷装置1は、版材への描画前及び/又は描画中に版材表面に存在する埃を除去する手段10を有する。これにより、製版中にヘッドと版材の間に入った埃を伝ってインクが版材上に付着することを有効に防止し、良好な製版が得られる。埃除去手段としては公知の吸引除去、吹き飛ばし除去、静電除去等の非接触法の他、ブラシ、ローラー等による接触法が使用でき、本発明では望ましくはエアー吸引、またはエアーによる吹き飛ばしのいずれか、あるいはそれらを組み合わせて使用される。この場合には、通常給紙装置に使用されるエアーポンプをこの用途に流用することもできる。
【0022】さらに、印刷に供する版材9を版胴11上に自動的に供給する自動給版装置7、および印刷終了後の版材9を版胴11上から自動的に取り除く自動排版装置8を設置してもよく、印刷機の補助装置として公知であるこの装置を有する印刷機として、例えばハマダVS34A、B452A(ハマダ印刷機械(株))、トーコー8000PFA(東京航空計器(株))、リョービ3200ACD、3200PFA(リョービイマジスク(株))、AMSIS Multi5150FA(日本エーエム(株))、オリバー266EPZ(桜井グラフィックシステムズ(株))、シノハラ66IV/IVP(篠原商事(株))などがある。さらにブランケット洗浄装置14を設置してもよい。これらの装置7、8、14を用いることで、印刷操作がより簡便となり、また印刷時間の短縮が図られることから、本発明の効果をより一層高められる。また圧胴13の近傍に、紙粉発生防止装置15を設置してもよく、これにより版材上に付着する紙粉を防止できる。紙粉発生防止装置15としては湿度コントロール、エアや静電力による吸引などの方法を使用することができる。
【0023】画像データ演算制御部21は、画像スキャナ、磁気ディスク装置、画像データ伝送装置等からの画像データを受け、色分解を行うと共に、分解されたデータに対して適当な画素数、階調数に分割演算する。さらに、インクジェット記録装置2が有するインクジェット吐出ヘッド22(図3参照。後に詳述する。)を用いて油性インク画像を網点化して描くために、網点面積率の演算も行う。
【0024】また、後述するように、画像データ演算制御部21は、インクジェットヘッド22の移動、油性インクの吐出タイミングを制御すると共に、必要に応じて版胴11、ブランケット胴12、圧胴13等の動作タイミングの制御も行う。
【0025】図1、及び一部図3を参照して印刷装置1による刷版の作成工程を以下に説明する。
【0026】まず、版胴11に自動給版装置7を用いて版材9を装着する。この時、公知の版尻くわえ装置、エア吸引装置などによる機械的方法、あるいは静電的な方法等により版材は版胴上に密着固定され、これにより版尻がばたついて描画時にインクジェット記録装置2に接触し破損する事を防止できる。またインクジェット記録装置の描画位置周辺のみで版材を版胴に密着させる手段を配し、少なくとも描画を行う時にはこれを作用させることによって版材がインクジェット記録装置に接触する事を防止することもできる。具体的には例えば版胴描画位置の上流、及び下流に押さえローラを配する等の方法がある。また版を固定する過程で、版尻がインク供給ローラに接触しないようにする手段を設けることによって、版面の汚れを防止でき損紙を減らすことができる。具体的には押さえローラあるいはガイド、静電吸着などが有効である。
【0027】磁気ディスク装置等からの画像データは、画像データ演算制御部21に与えられ、画像データ演算制御部21は、入力画像データに応じて油性インクの吐出位置、その位置における網点面積率の演算を行う。これらの演算データは一旦バッファに格納される。画像データ演算制御部21は、版胴11を回転させ、吐出ヘッド22をヘッド離接装置31により版胴11と近接された位置に近づける。吐出ヘッド22と版胴11上の版材9表面との距離は、付き当てローラのような機械的距離制御、あるいは光学的距離検出器からの信号によるヘッド離接装置の制御により、描画中、所定距離に保たれる。かかる距離制御により、版材の浮きなどによりドット径が不均一になったり、特に印刷機に振動が加わった際などにもドット径が変化したりせず、良好な製版を得ることができる。
【0028】吐出ヘッド22としてはシングルヘッド、マルチヘッド、あるいはフルラインヘッドを使用することができ、版胴11の回転により主走査を行う。複数の吐出部を有するマルチヘッド、あるいはフルラインヘッドの場合には吐出部の配列方向は軸方向に設置する。さらにシングルヘッドあるいはマルチヘッドの場合には、画像データ演算制御部21により版胴11一回転毎にヘッド22を版胴の軸方向に移動して、上記演算により得られた吐出位置および網点面積率で油性インクを版胴11に装着した版材9に吐出する。これにより、版材9には、印刷原稿の濃淡に応じた網点画像が油性インクで描画される。この動作は、版材9上に印刷原稿一色分の油性インク画像が形成され刷版ができるあがるまで続く。一方、吐出ヘッド22が版胴の幅と略同じ長さを有するフルラインヘッドである場合には、版胴が一回転することによって版材9上に印刷原稿一色分の油性インク画像が形成され刷版ができあがる。この様に版胴回転により主走査を行うことにより、主走査方向の位置精度を高め、高速描画を行うことができる。
【0029】ついで吐出ヘッド22を保護するために吐出ヘッド22は、版胴11と近接された位置から離れるように退避させられる。この時、吐出ヘッド22のみに離接してもよいが、吐出ヘッド22とヘッド副走査手段32を一緒に離接、あるいは吐出ヘッド22とインク供給部24とヘッド副走査手段32全てを一緒に離接する事もできる。また吐出ヘッド22とインク供給部24とヘッド副走査手段32と共に、定着装置5、埃除去装置10にもそれぞれ離接手段を設け、退避可能とすることにより、通常印刷にも対応できる。
【0030】この離接手段は描画時以外は記録ヘッドを版胴に対し少なくとも500μm以上離すように動作する。離接動作はスライド式にしても良いし、ある軸に固定されたアームでヘッドを固定し、軸まわりにアームを動かし振り子状に移動しても良い。このように非描画時にヘッドを退避させることにより、ヘッドを物理的破損あるいは汚染から保護し、長寿命化を達成することができる。
【0031】また、形成された油性インク画像は、定着装置5で加熱等により強化される。インクの定着手段としては、加熱定着、溶媒定着、フラッシュ露光定着などの公知の手段が使用できる。加熱定着ではハロゲンランプ照射、あるいはヒーターを利用した熱風定着、ヒートロール定着が一般的である。この場合には定着性を高めるために、版胴を加熱しておく、版材を予め加熱しておく、熱風を当てながら描画を行う、版胴を断熱材でコートする、定着時のみ版胴から版材を離して、版材のみを加熱する、等の手段を単独、あるいは組み合わせてとることが有効である。溶媒定着ではメタノール、酢酸エチル等のインク中の樹脂成分を溶解しうる溶媒を噴霧し、余分な溶媒蒸気は回収する。またキセノンランプ等を使用してのフラッシュ定着は電子写真トナーの定着法として公知であり、定着を短時間に行えるという利点がある。なお、少なくとも吐出ヘッド22による油性インク画像形成から、定着装置5による定着までの行程では、湿し水供給装置3、印刷インキ供給装置4、及びブランケット胴12は版胴上の版材9には接触しないように保たれることが望ましい。
【0032】刷版形成後の印刷工程は、公知の平版印刷方法と同様である。すなわち、この油性インク画像が描画された版材9に、印刷インキおよび湿し水を与え印刷画像を形成し、この印刷インキ画像を版胴11と共に回転しているブランケット胴12上に転写し、ついでブランケット胴12と圧胴13との間を通過する印刷用紙P上にブランケット胴12上の印刷インキ画像を転移させることで一色分の印刷が行われる。印刷終了後の版材9は、自動排版装置8により版胴11から取り除かれ、ブランケット胴12上のブランケットはブランケット洗浄装置14により洗浄され、次の印刷可能な状態となる。
【0033】次に、インクジェット記録装置2について説明する。図3に示されるように、本平版印刷装置に使用される描画部は、インクジェットヘッド2、インク供給部24からなる。インク供給部24はさらにインクタンク25、インク供給装置26、インク濃度制御手段29を有し、インクタンク内には攪拌手段27、インク温度管理手段28を含む。インクはヘッド内を循環させてもよく、この場合、インク供給部は回収循環機能も有する。攪拌手段27はインクの固形成分の沈殿・凝集を抑制し、インクタンクの清掃の必要性が低減される。攪拌手段としては回転羽、超音波振動子、循環ポンプが使用でき、これらの中から、あるいは組み合わせて使用される。インク温度管理手段28は、まわりの温度変化によりインクの物性が変化し、ドット径が変化したりすることなく高画質な画像が安定して形成できる様に配置される。インクの温度制御手段としてはインクタンク内にヒーター、ペルチェ素子などの発熱素子、あるいは冷却素子を、該タンク内の温度分布を一定にするように攪拌手段と共に配し、温度センサ、例えばサーモスタット等により制御するなど公知の方法が使用できる。なおインクタンク内のインク温度は15℃以上60℃以下が望ましく、より好ましくは20℃以上50℃以下である。またタンク内の温度分布を一定に保つ攪拌手段は前記のインクの固形成分の沈殿・凝集の抑制を目的とする攪拌手段と共用してもよい。
【0034】また本印刷装置では高画質な描画を行うためインク濃度制御手段29を有することが好ましい。これによりインク中の固形分濃度の低下による版上での滲みの発生や印刷画像の飛びやカスレ、あるいは固形分濃度の上昇による版上のドット径の変化などを有効に抑制することができる。インク濃度は光学的検出、電導度測定、粘度測定などの物性測定、あるいは描画枚数による管理等により行う。物性測定による管理を行う場合にはインクタンク内、あるいはインク流路内に、光学検出器、電導度測定器、粘度測定器を単独、あるいはそれらを組み合わせて設け、その出力信号により、また描画枚数による管理を行う場合には、製版枚数、及び頻度によりインクタンクへ図示されない補給用濃縮インクタンクあるいは希釈用インクキャリアタンクからの液供給を制御する。
【0035】画像データ演算制御部21は前述のように、入力画像データの演算、またヘッド離接装置31、あるいはヘッド副走査手段32によりヘッドの移動を行うほかに、版胴に設置したエンコーダー30からのタイミングパルスを取り込み、そのタイミングパルスに従って、ヘッドの駆動をおこなう。これにより、副走査方向の位置精度を高められる。また、インクジェット記録装置による描画を行う際に版胴の駆動は印刷時の駆動手段とは異なる高精度な駆動手段を使用することによっても副走査方向の位置精度を高められ、その際にはブランケット胴、圧胴その他から機械的に切り離して、版胴のみを駆動させることが望ましい。具体的には、例えば高精度モータからの出力を高精度ギア、あるいはスチールベルト等により減速して版胴のみを駆動させる方法などがある。高画質描画を行う際にはこの様な手段を単独、あるいは複数組み合わせて使用する。
【0036】次に、吐出ヘッドについて図4〜図10を使用して説明する。但し、本発明の内容は以下に限定されるものではない。
【0037】図4、図5はインクジェット記録装置に備えられているヘッドの一例である。ヘッド22は、絶縁性基材からなる上部ユニット221と下部ユニット222とで挟まれたスリットを有し、その先端は吐出スリット22aとなっており、スリット内には吐出電極22bが配置され、インク供給装置から供給されたインク23がスリット内に満たされた状態になっている。絶縁性基材としては例えば、プラスチック、ガラス、セラミックスなどが適用できる。また吐出電極22bは、絶縁性基材からなる下部ユニット222上にアルミニウム、ニッケル、クロム、金、白金などの導電性材料を真空蒸着、スパッタ、あるいは無電界メッキを行い、この上にフォトレジストを塗布し、所定の電極パターンのマスクを介してフォトレジストを露光し、現像して吐出電極22bのフォトレジストパターンを形成したのち、これをエッチングして形成する方法、あるいは機械的に除去する方法、あるいはそれらを組み合わせた方法など公知の方法により形成される。
【0038】ヘッド22では、画像のパターン情報のデジタル信号に従って、吐出電極22bに電圧が印加される。図4に示されるように、吐出電極22bに対向する形で対向電極となる版胴11が設置されており、対向電極となる版胴11上には版材9が設けられている。電圧の印加により、吐出電極22bと、対向電極となる版胴11との間には回路が形成され、ヘッド22の吐出スリット22aから油性インク23が吐出され対向電極となる版胴11上に設けられた版材9上に画像が形成される。
【0039】吐出電極22bの幅は、高画質の画像形成を行うためにその先端はできるだけ狭いことが好ましい。具体的な数値は条件等によって異なるが、通常5〜100μmの先端幅の範囲で用いられる。例えば先端が20μm幅の吐出電極22bを用い、吐出電極22bと対向電極となる版胴11の間隔を1.0mmとして、この電極間に3KVの電圧を0.1ミリ秒印加することで40μmのドットを版材9上に形成することができる。
【0040】さらに図6、図7はそれぞれ、他の吐出ヘッドの例のインク吐出部近傍の断面概略図、前面概略図を示すものである。図中22は吐出ヘッドで、この吐出ヘッド22は漸減形状をした第1の絶縁性基材33を有している。上記第1の絶縁性基材33には第2の絶縁性基材34が離間対向して設けられ、この第2の絶縁性基材34の先端部には斜面部35が形成されている。上記第1、第2の絶縁性基材はたとえば、プラスチック、ガラス、セラミックスなどで形成されている。上記第2の絶縁性基材34の斜面部35と鋭角をなす上面部36には吐出部に静電界を形成する静電界形成手段として複数の吐出電極22bが設けられている。これら複数の吐出電極22bの先端部は上記上面部36の先端近傍まで延長され、かつ、その先端部は上記第1の絶縁性基材33よりも前方に突き出され吐出部を形成している。上記第1および第2の絶縁性基材33、34間には前記吐出部へのインク23の供給手段としてインク流入路37が形成され、前記第2の絶縁性基材34の下部側にはインク回収路38が形成されている。上記吐出電極22bは、第2の絶縁性基材34上にアルミニウム、ニッケル、クロム、金、白金などの導電性材料を用い、前述と同様、公知の方法により形成される。個々の電極22bは電気的には互いに絶縁状態となるように構成されている。
【0041】吐出電極22bの先端が絶縁性基材33の先端より突き出す量は2mm以下が好ましい。この突き出し量が上記範囲にて好ましい理由は、突き出し量が大きすぎるとインクメニスカスが吐出部先端まで届かず、吐出しにくくなったり、記録周波数が低下するためである。また上記第1および第2の絶縁性基材33、34間のスペースは0.1〜3mmの範囲が好ましい。このスペースが上記範囲にて好ましい理由は、スペースが狭すぎるとインクの供給がしにくくなり吐出しにくくなったり、記録周波数が低下したりするためであり、スペースが広すぎるとメニスカスが安定せず吐出が不安定になるためである。
【0042】上記吐出電極22bは画像データ演算制御部21に接続され、記録を行う際には画像情報に基づき吐出電極に電圧印加を行うことにより該吐出電極上のインクが吐出し、吐出部と対向配置された図示されない版材上に描画が行われる。上記インク流入路37のインク滴吐出方向と逆方向は、図示しないインク供給装置の送インク手段に接続されている。上記第2の絶縁性基材34の吐出電極形成面の反対面にはバッキング39が離間対向して設けられ、両者間にはインク回収路38が設けられている。前記インク回収路38のスペースは0.1mm以上が望ましい。このスペースが上記範囲にて好ましい理由は、スペースが狭すぎるとインクの回収がしにくくなり、インク漏れを起こしたりするためである。また前記インク回収路38は図示しないインク供給装置のインク回収手段に接続されている。
【0043】吐出部上での均一なインクフローを必要とする場合には吐出部と前記インク回収部の間に溝40を設けてもよい。図7は吐出ヘッドのインク吐出部近傍の前面概略図を示しているが、第2の絶縁性基材34の斜面には吐出電極22bとの境界近傍からインク回収路38に向かって複数の溝40が設けられている。この溝40は、上記吐出電極22bの配列方向に複数並んでおり、毛細管力により吐出電極22b側の開口部からインクを各溝40に導き、導かれたインクをインク回収路38に排出する機能を有する。また、溝40は、その開口径に応じた毛細管力により一定量の吐出電極先端近傍のインクを吸引する。このため、吐出電極先端近傍に一定の液厚を有するインクフローを形成する機能を有している。溝40の形状は毛細管力が働く範囲であればよいが、特に望ましくは幅は10〜200μm、深さは10〜300μmの範囲である。また溝40はヘッド全面にわたって均一なインクフローを形成できるように必要数設けられる。
【0044】吐出電極22bの幅は、高画質の画像形成、例えば印字を行うためにその先端はできるだけ狭いことが好ましい。具体的な数値は、条件等によって異なるが、通常5〜100μmの先端幅の範囲で用いられる。
【0045】また本発明を実施するのに用いられる吐出ヘッドの他の例を図8から図9に示す。図8は説明のためヘッドの一部分のみを示した概略図である。記録ヘッド22は図8に示すようにプラスチック、セラミック、ガラス等の絶縁性材料から作成されたヘッド本体41とメニスカス規制板42、42′からなる。図中、22bは吐出部に静電界を形成するために電圧印加を行う吐出電極である。さらにヘッドから規制板42、42′を取り除いた図9によりヘッド本体について詳述する。
【0046】ヘッド本体41にはヘッド本体のエッジに垂直に、インクを循環させるためのインク溝43が複数設けてある。このインク溝43の形状は均一なインクフローを形成できるように毛細管力が働く範囲に設定されていればよいが、特に望ましくは幅は10〜200μm、深さは10〜300μmである。インク溝43の内部には吐出電極22bが設けられている。この吐出電極22bは、絶縁性材料からなるヘッド本体40上にアルミニウム、ニッケル、クロム、金、白金などの導電性材料を使って、上述の装置実施例の場合と同様な公知の方法により、インク溝43内全面に配置してもよいし、一部分のみに形成してもよい。なお吐出電極間は電気的に隔離されている。隣り合う2つのインク溝は1つのセルを形成し、その中心にある隔壁44の先端部には吐出部45、45′を設けている。吐出部45、45′では隔壁は他の隔壁部分44に比べ薄くなっており、尖鋭化されている。このようなヘッド本体は絶縁性材料ブロックの機械加工、エッチング、あるいはモールディング等公知の方法により作成される。吐出部での隔壁の厚さは望ましくは5〜100μmであり、尖鋭化された先端の曲率半径は5〜50μmの範囲であることが望ましい。なお吐出部は45′の様に先端をわずかに面取りされていてもよい。図中には2つのセルのみを示しているが、セルの間は隔壁46で仕切られ、その先端部47は吐出部45、45′よりも引っ込むように面取りされている。このヘッドに対し、図示されないインク供給装置の送インク手段によりI方向からインク溝を通してインクを流し、吐出部にインクを供給する。さらに図示されないインク回収手段により余剰なインクはO方向に回収され、その結果、吐出部には常時、新鮮なインクが供給される。この状態で、吐出部に対向する形で設けられ、その表面に版材を保持した図示されない版胴に対して吐出電極に画像情報に応じて電圧印加することにより、吐出部からインクが吐出され版材上に画像が形成される。
【0047】さらに吐出ヘッドの他の実施例について図1010を用いて説明する。図10に示すように、吐出ヘッド22は、略矩形板状の一対の支持部材50、50′を有している。これらの支持部材50、50′は、絶縁性を有する1〜10mmの厚さの板状のプラスチック、ガラス、セラミック等から形成され、それぞれの一方の面には、記録解像度に応じて互いに平行に延びた複数の矩形の溝51、51′(図示せず)が形成されている。各溝51、51′は、幅10〜200μm、深さ10〜300μmの範囲であることが望ましく、その内部全体あるいは一部に吐出電極22bが形成されている。このように、支持部材50、50′の一面に複数の溝51、51′を形成することにより、各溝51の間には、複数の矩形の隔壁52が必然的に設けられる。各支持部材50、50′は、溝51、51′を形成していない面を対向させるように組合わされる。つまり、吐出ヘッド22は、その外周面上にインクを流通させるための複数の溝を有する。各支持部材50、50′に形成された溝51、51′は、吐出ヘッド22の上端53を介して1対1に対応して連結され、各溝が連結された矩形部分54は、吐出ヘッド22の上端53より所定距離(50〜500μm)だけ後退している。つまり、各矩形部分54の両側には、各支持部材50、50′の各隔壁52の上端55が矩形部分54より突出するように設けられている。そして、各矩形部分54から、前述したような絶縁性材料からなるガイド突起56が突出されて設けられ吐出部を形成している。
【0048】上記のように構成された吐出ヘッド22にインクを循環させる場合、一方の支持部材50の外周面に形成された各溝51を介して各矩形部分54にインクを供給し、反対側の支持部材50′に形成された各溝51′を介して排出する。この場合、円滑なインクの流通を可能とするため、吐出ヘッド22を所定角度で傾斜させている。つまり、インクの供給側(支持部材50)が上方に位置し、インクの排出側(支持部材50′)が下方に位置するように吐出ヘッド22が傾斜されている。このように、吐出ヘッド22にインクを循環させると、各矩形部分54を通過するインクが各突起56に沿って濡れ上がり、矩形部分54、突起56の近くにインクメニスカスが形成される。そして、各矩形部分54にてそれぞれ独立したインクメニスカスが形成された状態で、吐出部に対向する形で設けられ、その表面に版材を保持した図示されない版胴に対して吐出電極22bに画像情報に基づき電圧を印加することにより、吐出部からインクが吐出され版材上に画像が形成される。尚、各支持部材50、50′の外周面上に溝を覆うカバーを設けることにより、各支持部材50、50′の外周面に沿ったパイプ状のインク流路を形成し、このインク流路によりインクを強制的に循環させてもよい。この場合、吐出ヘッド22を傾斜させる必要はない。
【0049】図4〜図10で上述したヘッド22は必要に応じてクリーニング手段などのメンテナンス装置を含むこともできる。例えば休止状態が続く様な場合や、画質に問題が発生した場合には、インク溶媒のみを循環させる、インク溶媒のみを供給、あるいは循環させながら吐出部を吸引する、吐出ヘッド先端を柔軟性を有するハケ、ブラシ、布等で拭う、などの手段を単独、あるいは組み合わせて行うことにより、吐出ヘッド内でのインクの固形化などを有効に防止することができ、良好な描画状態を維持できる。また吐出ヘッドを溶媒蒸気を充満させたカバー内に入れておく、等の方法も有効であり、これらの方法を単独、あるいは組み合わせて使用できる。
【0050】つぎに本発明の具体例として機上描画複色片面平版印刷機について説明する。図11は、機上描画4色片面平版印刷機の全体構成例である。図11に示されるように、該4色片面印刷装置は基本的に図1に示した単色片面印刷装置の版胴11、ブランケット胴12、圧胴13を印刷用紙Pの同じ面に印刷が行われるように4個づつ有するような構造である。尚、図示はしていないが、図中Kで示す印刷用紙の隣接圧胴間での受け渡しには、公知の渡し胴方式などを使用する。詳細な説明は省くが図11の例から容易にわかるように、その他の複色片面印刷装置も基本的に単色片面印刷装置の版胴11、ブランケット胴12、圧胴13を印刷用紙Pの同じ面に印刷が行われるように複数個づつ有するような構造であり、版胴に1色分の版のみを作成する場合には印刷する色数分だけ版胴、ブランケット胴を有する。一方、版胴に複数色の版を形成する場合には、印刷する色数を一版胴上の版数で割った値だけ版胴、ブランケット胴が必要となる。例えば版胴上に2色分の版材を作成した場合には、版胴、ブランケット胴を2つづつ有する印刷機により片面3色あるいは4色印刷が可能となる。また圧胴は版胴と同数でもよいが、幾つかの版胴、ブランケット胴で一つの圧胴を共有してもよい。版胴には必要に応じて必要色分の印刷が終わるまで印刷用紙を保持しておく手段を設置する。
【0051】一方、機上描画複色両面平版印刷機として本発明を実施する場合には、上述した印刷機に公知の印刷用紙反転手段を設けるか、図1に示した単色片面印刷装置の版胴11、ブランケット胴12を印刷用紙Pの両面に印刷が行われるように複数個有するような構造であり、版胴に1色分の版のみを作成する場合には印刷用紙の両面に印刷するのに必要な色数分だけ版胴、ブランケット胴を有する。一方、上述のように版胴に複数色の版を作成する場合には、版胴、ブランケット胴の数は減らすことができる。また幾つかの版胴、ブランケット胴で一つの圧胴を共有した場合には圧胴の数も減らすことができる。版胴には必要に応じて必要色分の印刷が終わるまで印刷用紙を保持しておく手段を設置する。詳細については上述の機上描画複色片面平版印刷機の例により容易に理解できるため省略する。
【0052】また機上描画平版印刷機の別の例としてはブランケット胴1つあたり版胴を二つ有し、一方で印刷を行っている際、もう一方の版胴で描画を行う事もできる。この場合には描画を行っている版胴の駆動は機械的にブランケットから独立される事が望ましい。これにより、印刷機を休止させることなく、描画を行うことが可能になる。なお容易に理解されるように、これは機上描画複色片面平版印刷機、機上描画複色両面平版印刷機にも適用することができる。なお、図11の場合も含め全ての場合において、図1の場合と同様、適宜、フードを取り付けることができる。
【0053】次に、本発明に用いられる版材(印刷原版)について説明する。印刷原版としては、アルミニウム、クロムメッキを施した鋼板などの金属版が挙げられる。特に砂目立て、陽極酸化処理により表面の保水性および耐摩耗性が優れるアルミニウム版が好ましい。より安価な版材として、耐水性を付与した紙、プラスチックフィルム、プラスチックをラミネートした紙などの耐水性支持体上に画像受理層を設けた版材が使用できる。設けられる画像受理層の厚さは5〜30μmの範囲が適当である。
【0054】画像受理層としては、無機顔料と結着剤からなる親水性層、あるいは不感脂化処理によって親水化が可能になる層を用いることができる。
【0055】親水性の画像受理層に用いられる無機顔料は、クレー、シリカ、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、硫酸バリウムなどを用いることができる。また結着剤としてはポリビニルアルコール、澱粉、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カゼイン、ゼラチン、ポリアクリル酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリメチルエーテル−無水マレイン酸共重合体等の親水性結着剤が使用できる。また、必要に応じて耐水性を付与するメラミンホルマリン樹脂、尿素ホルマリン樹脂、その他架橋剤を添加してもよい。
【0056】一方、不感脂化処理をして用いる画像受理層としては、例えば酸化亜鉛と疎水性結着剤を用いる層が挙げられる。
【0057】本発明に供される酸化亜鉛は、例えば日本顔料技術協会編「新版顔料便覧」19頁、(株)誠文堂、(1968年刊)に記載のように、酸化亜鉛、亜鉛華、湿式亜鉛華あるいは活性亜鉛華として市販されているもののいずれでもよい。即ち、酸化亜鉛は、出発原料および製造方法により、乾式法としてフランス法(間接法)、アメリカ法(直接法)および湿式法と呼ばれるものがあり、例えば正同化学(株)、堺化学(株)、白水化学(株)、本荘ケミカル(株)、東邦亜鉛(株)、三井金属工業(株)等の各社から市販されているものが挙げられる。
【0058】また結着剤として用いる樹脂として、具体的には、塩化ビニル一酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−メタクリレート共重合体、メタクリレート共重合体、アクリレート共重合体、酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、エポキシエステル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。画像受理層における樹脂の含有量は、樹脂/酸化亜鉛の重量比で示して9/91〜20/80とすることが好ましい。
【0059】酸化亜鉛の不感脂化は、従来よりこの種の不感脂化処理液として、フェロシアン塩、フェリシアン塩を主成分とするシアン化合物含有処理液、アンミンコバルト錯体、フィチン酸およびその誘導体、グアニジン誘導体を主成分としたシアンフリー処理液、亜鉛イオンとキレートを形成する無機酸あるいは有機酸を主成分とした処理液、あるいは水溶性ポリマーを含有した処理液等が知られている。例えば、シアン化合物含有処理液として、特公平44−9045号、同46−39403号、特開昭52−76101号、同57−107889号、同54−117201号等に記載のものが挙げられる。
【0060】以下に本発明に用いられる油性インクについて説明する。本発明に供される油性インクは、特に限定されるものではないが、一般に、電気抵抗109Ωcm以上かつ誘電率3.5以下の非水溶媒中に、少なくとも常温で固体かつ疎水性の樹脂粒子を分散してなるものが好適に使用される。
【0061】油性インクの表面張力は、特に限定されるものではないが、一般に35dyne/cm以下のものが使用され、好ましくは35dyne/cm以下で15dyne/cm以上、より好ましくは30dyne/cm以下で16dyne/cm以上である。表面張力が上記範囲内にあると、吐出性が低くくなりすぎず、また、ヘッドからインクがこぼれ出にくく、安定性が向上する。油性インクの粘度も、特に限定されるものではないが、一般に15cP以下のものが使用され、好ましくは15cP以下で0.4cP以上、より好ましくは10cP以下で0.5cP以上のものが使用される。粘度が上記範囲内にあると、吐出性が低くなりにくく、また、ヘッドからインクがこぼれ出にくくなり、安定性が向上する。また、油性インクの粒子荷電分配率(インク全体の荷電のうち粒子についている荷電の割合をいう。)も、特に限定されるものではないが、一般に10%以上のものが使用され、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上が適当である。粒子荷電分配率が上記範囲内にあると、凝集物が生成され易く、耐刷性が改善される。なお、粒子荷電分配率は、(インク全体の電導度−インクを遠心分離(15000rpmで30分)した上澄みの電導度)÷インク全体の電導度×100%で定義される。上記粒子荷電分配率の値は、測定周波数1kHz/印加電圧5Vで電導度を測定して得られたものである。
【0062】本発明に用いる電気抵抗109Ωcm以上、かつ誘電率3.5以下の非水溶媒として好ましくは直鎖状もしくは分岐状の脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、または芳香族炭化水素、およびこれらの炭化水素のハロゲン置換体がある。例えはヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、デカン、イソデカン、デカリン、ノナン、ドデカン、イソドデカン、シクロヘキサン、シクロオクタン、シクロデカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、アイソパーC、アイソパーE、アイソパーG、アイソパーH、アイソパーL(アイソパー;エクソン社の商品名)、シェルゾール70、シェルゾール71(シェルゾール;シェルオイル社の商品名)、アムスコOMS、アムスコ460溶剤(アムスコ;スピリッツ社の商品名)、シリコーンオイル等を単独あるいは混合して用いる。なお、このような非水溶媒の電気抵抗の上限値は1016Ωcm程度であり、誘電率の下限値は1.9程度である。
【0063】用いる非水溶媒の電気抵抗を上記範囲とするのは、電気抵抗が低くなると、インクの電気抵抗が適正にならず、電界によるインクの吐出が悪くなるからであり、誘電率を上記範囲とするのは、誘電率が高くなるとインク中で電界が緩和されやすくなり、これによりインクの吐出が悪くなりやすくなるからである。
【0064】上記の非水溶媒中に、分散される樹脂粒子としては、35℃以下の温度で固体で非水溶媒との親和性のよい疎水性の樹脂の粒子であればよいが、更にそのガラス転移点が−5℃〜110℃もしくは軟化点33℃〜140℃の樹脂(P)が好ましく、より好ましくはガラス転移点10℃〜100℃もしくは軟化点38℃〜120℃であり、さらに好ましくはガラス転移点15℃〜80℃、もしくは軟化点38℃〜100℃である。
【0065】このようなガラス転移点もしくは軟化点の樹脂を用いることによって、印刷原版の画像受理層表面と樹脂粒子との親和性が増し、また印刷原版上での樹脂粒子同士の結合が強くなるので、画像部と画像受理層との密着性が向上し、耐刷性が向上する。これに対し、ガラス転移点もしくは軟化点が低くなっても高くなっても画像受理層表面と樹脂粒子の親和性が低下したり、樹脂粒子同士の結合が弱くなってしまう。
【0066】樹脂(P)の重量平均分子量Mwは、1×103 〜1×106 であり、好ましくは5×103 〜8×105 、より好ましくは1×104 〜5×105 である。
【0067】このような樹脂(P)として具体的には、オレフィン重合体および共重合体(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリレート共重合体、エチレン−メタクリレート共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体等)、塩化ビニル共重合体(例えば、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体等)、塩化ビニリデン共重合体、アルカン酸ビニル重合体および共重合体、アルカン酸アリル重合体および共重合体、スチレンおよびその誘導体の重合体ならびに共重合体(例えばブタジエン酸−スチレン共重合体、イソプレン−スチレン共重合体、スチレン−メタクリレート共重合体、スチレン−アクリレート共重合体等)、アクリロニトリル共重合体、メタクリロニトリル共重合体、アルキルビニルエーテル共重合体、アクリル酸エステル重合体および共重合体、メタクリル酸エステル重合体および共重合体、イタコン酸ジエステル重合体および共重合体、無水マレイン酸共重合体、アクリルアミド共重合体、メタクリルアミド共重合体、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ケトン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコン樹脂、アミド樹脂、水酸基およびカルボキシル基変性ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ウレタン樹脂、ロジン系樹脂、水素添加ロジン樹脂、石油樹脂、水素添加石油樹脂、マレイン酸樹脂、テルペン樹脂、水素添加テルペン樹脂、クロマン−インデン樹脂、環化ゴム−メタクリル酸エステル共重合体、環化ゴム−アクリル酸エステル共重合体、窒素原子を含有しない複素環を含有する共重合体(複素環として例えば、フラン環、テトラヒドロフラン環、チオフェン環、ジオキサン環、ジオキソフラン環、ラクトン環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、1,3−ジオキセタン環等)、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0068】本発明で使用される油性インクにおける分散された樹脂粒子の含有量は、インク全体の0.5〜20wt%とすることが好ましい。含有量が少なくなるとインクと印刷原版の画像受理層との親和性が得られにくくなって良好な画像が得られなくなったり、耐刷性が低下したりするなどの問題が生じやすくなり、一方、含有量が多くなると均一な分散液が得られにくくなったり、吐出ヘッドでのインクの目詰まりが生じやすく、安定なインク吐出が得られにくいなどの問題がある。
【0069】本発明に供される油性インク中には、前記の分散樹脂粒子とともに、製版後の版を検版する等のために着色成分として色材を含有させることが好ましい。色材としては、従来から油性インク組成物あるいは静電写真用液体現像剤に用いられている顔料および染料であればどれでも使用可能である。
【0070】顔料としては、無機顔料、有機顔料を問わず、印刷の技術分野で一般に用いられているものを使用することができる。具体的には、例えば、カーボンブラック、カドミウムレッド、モリブデンレッド、クロムイエロー、カドミウムイエロー、チタンイエロー、酸化クロム、ビリジアン、チタンコバルトグリーン、ウルトラマリンブルー、プルシアンブルー、コバルトブルー、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、スレン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、チオインジゴ系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料、等の従来公知の顔料を特に限定することなく用いることができる。
【0071】染料としては、アゾ染料、金属錯塩染料、ナフトール染料、アントラキノン染料、インジゴ染料、カーボニウム染料、キノンイミン染料、キサンテン染料、アニリン染料、キノリン染料、ニトロ染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料、フタロシアニン染料、金属フタロシアニン染料、等の油溶性染料が好ましい。これらの顔料および染料は、単独で用いてもよいし、適宜組み合わせて使用することも可能であるが、インク全体に対して0.01〜5重量%の範囲で含有されることが望ましい。
【0072】これらの色材は、分散樹脂粒子とは別に色材自身を分散粒子として非水溶媒中に分散させてもよいし、分散樹脂粒子中に含有させてもよい。含有させる場合、顔料などは分散樹脂粒子の樹脂材料で被覆して樹脂被覆粒子とする方法などが一般的であり、染料などは分散樹脂粒子の表面部を着色して着色粒子とする方法などが一般的である。
【0073】本発明で使用される非水溶媒中に、分散された樹脂粒子、更には着色粒子等を含めて、これらの粒子の平均粒径は0.05μm〜5μmが好ましい。より好ましくは0.1μm〜1.0μmであり、更に好ましくは0.1μm〜0.5μmの範囲である。この粒径はCAPA−500(堀場製作所(株)製商品名)により求めたものである。
【0074】本発明に用いられる非水系分散樹脂粒子は、従来公知の機械的粉砕方法または重合造粒方法によって製造することができる。機械的粉砕方法としては、必要に応じて、樹脂粒子とする材料を混合し、溶融、混練を経て従来公知の粉砕機で直接粉砕して、微粒子とし、分散ポリマーを併用して、更に湿式分散機(例えばボールミル・ペイントシェーカー、ケデイミル、ダイノミル等)で分散する方法、樹脂粒子成分となる材料と、分散補助ポリマー(または被覆ポリマー)を予め混練して混練物とした後粉砕し、次に分散ポリマーを共存させて分散する方法等が挙げられる。具体的には、塗料または静電写真用液体現像剤の製造方法を利用することができ、これらについては、例えば、植木憲二監訳「塗料の流動と顔料分散」共立出版(1971年)、「ソロモン、塗料の科学」、「Paint and Surface Coating Theory and Practice」、原崎勇次「コーティング工学」朝倉書店(1971年)、原崎勇次「コーティングの基礎科学」槇書店(1977年)等の成書に記載されている。
【0075】また、重合造粒法としては、従来公知の非水系分散重合方法が挙げられ、具体的には、室井宗一監修「超微粒子ポリマーの最新技術」第2章、CMC出版(1991年)、中村孝一編「最近の電子写真現像システムとトナー材料の開発・実用化」第3章、(日本科学情報(株)1985年刊)、K.E.J.Barrett「Dispersion Polymerization in Organic Media」John Wiley(1975年)等の成書に記載されている。
【0076】通常、分散粒子を非水溶媒中で分散安定化するために、分散ポリマーを併用する。分散ポリマーは非水溶媒に可溶性の繰り返し単位を主成分として含有し、かつ平均分子量が、重量平均分子量Mwで1×103〜1×106が好ましく、より好ましくは5×103〜5×105の範囲である。
【0077】本発明に供される分散ポリマーの好ましい可溶性の繰り返し単位として、下記一般式(I)で示される重合成分が挙げられる。
【0078】
【化1】


【0079】一般式(I)において、X1は−COO−、−OCO−または−O−を表す。Rは、炭素数10〜32のアルキル基またはアルケニル基を表し、好ましくは炭素数10〜22のアルキル基またはアルケニル基を表し、これらは直鎖状でも分岐状でもよく、無置換のものが好ましいが、置換基を有していてもよい。具体的には、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコサニル基、ドコサニル基、デセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基、リノレル基等が挙げられる。
【0080】a1およびa2は、互いに同じでも異なっていてもよく、好ましくは水素原子、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子等)、シアノ基、炭素数1〜3のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等)、−COO−Z1または−CH2COO−Z1〔Z1は、水素原子または置換されていてもよい炭素数22以下の炭化水素基(例えば、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、脂環式基、アリール基等)を表す〕を表す。
【0081】Z1は、具体的には、水素原子のほか、炭化水素基を表し、好ましい炭化水素基としては、炭素数1〜22の置換されてもよいアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘプチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコサニル基、ドコサニル基、2−クロロエチル基、2−ブロモエチル基、2−シアノエチル基、2−メトキシカルボニルエチル基、2−メトキシエチル基、3−ブロモプロピル基等)、炭素数4〜18の置換されてもよいアルケニル基(例えば、2−メチル−1−プロペニル基、2−ブテニル基、2−ペンテニル基、3−メチル−2−ペンテニル基、1−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、4−メチル−2−ヘキセニル基、デセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基、リノレル基等)、炭素数7〜12の置換されてもよいアラルキル基(例えば、ベンジル基、フェネチル基、3−フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、2−ナフチルエチル基、クロロベンジル基、ブロモベンジル基、メチルベンジル基、エチルベンジル基、メトキシベンジル基、ジメチルベンジル基、ジメトキシベンジル基等)、炭素数5〜8の置換されてもよい脂環式基(例えば、シクロヘキシル基、2−シクロヘキシルエチル基、2−シクロペンチルエチル基等)、および炭素数6〜12の置換されてもよい芳香族基(例えば、フェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、オクチルフェニル基、ドデシルフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、ブトキシフェニル基、デシルオキシフェニル基、クロロフェニル基、ジクロロフェニル基、ブロモフェニル基、シアノフェニル基、アセチルフェニル基、メトキシカルボニルフェニル基、エトキシカルボニルフェニル基、ブトキシカルボニルフェニル基、アセトアミドフェニル基、プロピオアミドフェニル基、ドデシロイルアミドフェニル基等)が挙げられる。
【0082】分散ポリマーにおいて一般式(I)で示される繰り返し単位とともに、他の繰り返し単位を共重合成分として含有してもよい。他の共重合成分としては、一般式(I)の繰り返し単位に相当する単量体と共重合可能な単量体よりなるものであればいずれの化合物でもよい。
【0083】分散ポリマーにおける一般式(I)で示される重合体成分の存在割合は、好ましくは50重量%以上であり、より好ましくは60重量%以上である。これらの分散ポリマーの具体例としては、実施例で使用されている分散安定用樹脂(Q−1)等が挙げられ、また市販品(ソルプレン1205、旭化成(株)製)を用いることもできる。
【0084】分散ポリマーは、前記の樹脂(P)粒子を乳化物(ラテックス)等として製造するときには重合に際し予め添加しておくことが好ましい。分散ポリマーを用いるときの添加量はインク全体に対し0.05〜4重量%程度とする。
【0085】本発明で使用される油性インク中の分散樹脂粒子および着色粒子(あるいは色材粒子)、好ましくは正荷電または負荷電の検電性粒子である。これら粒子に検電性を付与するには、湿式静電写真用現像剤の技術を適宜利用することで達成可能である。具体的には、前記の「最近の電子写真現像システムとトナー材料の開発・実用化」139〜148頁、電子写真学会編「電子写真技術の基礎と応用」497〜505頁(コロナ社、1988年刊)、原崎勇次「電子写真」16(No.2)、44頁(1977年)等に記載の検電材料および他の添加剤を用いることで行なわれる。
【0086】具体的には、例えば、英国特許第893429号、同第934038号、米国特許第1122397号、同第3900412号、同第4606989号、特開昭60−179751号、同60−185963号、特開平2−13965号等に記載されている。上述のような荷電調節剤は、担体液体である分散媒1000重量部に対して0.001〜1.0重量部が好ましい。更に所望により各種添加剤を加えてもよく、それら添加物の総量は、油性インクの電気抵抗によってその上限が規制される。即ち、分散粒子を除去した状態のインクの電気抵抗が109Ωcmより低くなると良質の連続階調像が得られ難くなるので、各添加物の添加量を、この限度内でコントロールすることが必要である。
【0087】
【実施例】以下に実施例を示して、本発明を詳細に説明するが、本発明の内容がこれらに限定されるものではない。まず、インク用樹脂粒子(PL)の製造例について示す。
【0088】樹脂粒子(PL−1)の製造例1下記構造の分散安定用樹脂(Q−1)10g、酢酸ビニル100gおよびアイソパーH384gの混合溶液を窒素気流下攪拌しながら温度70℃に加温した。重合開始剤として2,2′−アゾビス(イソバレロニトリル)(略称A.I.V.N.)0.8gを加え、3時間反応した。開始剤を添加して20分後に白濁を生じ、反応温度は88℃まで上昇した。更に、この開始剤0.5gを加え、2時間反応した後、温度を100℃に上げ2時間攪拌し未反応の酢酸ビニルを留去した。冷却後200メッシュのナイロン布を通し、得られた白色分散物は重合率90%で平均粒径0.23μmの単分散性良好なラテックスであった。粒径はCAPA−500(堀場製作所(株)製)で測定した。
【0089】
【化2】


【0090】上記白色分散物の一部を、遠心分離機(回転数1×104r.p.m.、回転時間60分)にかけて、沈降した樹脂粒子分を、捕集・乾燥した。樹脂粒子分の重量平均分子量(Mw:ポリスチレン換算GPC値)は2×105、ガラス転移点(Tg)は38℃であった。
【0091】実施例1まず、油性インクを作成した。
<油性インク(IK−1)の作成>ドデシルメタクリレート/アクリル酸共重合体(共重合比;95/5重量比)を10g、ニグロシン10gおよびシェルゾール71の30gをガラスビーズとともにペイントシェーカー(東洋精機(株)製)に入れ、4時間分散し、ニグロシンの微小な分散物を得た。インク用樹脂粒子の製造例1で製造した樹脂粒子(PL−1)60g(固体分量として)、上記ニグロシン分散物を2.5g、およびオクテン−半マレイン酸ヘキサデシルアミド共重合体0.08gをアイソパーGの1リットルに希釈することにより黒色油性インクを作成した。
【0092】次に、機上描画平版印刷装置(図1および図3参照)のインクジェット記録装置に上記のように作成した油性インク(IK−1)2リットルをインクタンクに充填した。ここでは吐出ヘッドとして図3に示す900dpi、64チャンネルマルチヘッドを使用した。インク温度管理手段として投げ込みヒータと攪拌羽をインクタンク内に設け、インク温度は30℃に設定し、攪拌羽を30rpmで回転しながらサーモスタットで温度コントロールした。ここで攪拌羽は沈降・凝集防止用の攪拌手段としても使用した。またインク流路を一部透明とし、それを挟んでLED発光素子と光検知素子を配置し、その出力シグナルによりインクの希釈液(アイソパーG)あるいは濃縮インク{上記インク(IK−1)の固形分濃度を2倍に調整したもの}投入による濃度管理を行った。
【0093】版材として、砂目立ておよび陽極酸化処理を施した0.12mm厚みのアルミ板を、版胴に設けた機械的装置により版尻もくわえて装着した。湿し水供給装置、印刷インク供給装置、ブランケット胴を版材に接触しないように離し、エアーポンプ吸引により版材表面の埃除去を行った後、吐出ヘッドを描画位置まで版材に近づけ、印刷すべき画像データを画像データ演算制御部に伝送し、版胴を回転させながら64チャンネル吐出ヘッドを摺動させることにより、アルミ版上に油性インクを吐出して画像を形成した。この際、インクジェットヘッドの吐出電極の先端幅は10μmとし、光学的ギャップ検出装置による出力によりヘッドと版材の距離は1mmに保った。また吐出の際にはバイアス電圧として2.5KVの電圧を常時印加しておき、吐出を行う際には500Vのパルス電圧をさらに重畳し、そのパルス電圧は0.2ミリ秒から0.05ミリ秒の範囲で256段階で変化させることでドットの面積を変化させながら描画を行った。埃による描画不良等は全く見られず、また外気温の変化、製版数の増加によってもドット径変化等による画像劣化は全く見られず、良好な製版が可能であった。
【0094】さらにキセノンフラッシュ定着装置(ウシオ電機(株)製、発光強度200J/パルス)による加熱により画像を強固にし、刷版を作成した。インクジェットヘッドを保護するためにインクジェット記録装置を副走査手段ごと版胴と近接した位置から50mm退避させ、その後、前述のようにして、通常の平版印刷方法により印刷用紙への印刷を行った。すなわち、印刷インキおよび湿し水を与え印刷画像を形成し、この印刷インキ画像を版胴と共に回転しているブランケット胴上に転写し、ついでブランケット胴と圧胴との間を通過する印刷用コート紙上にブランケット胴上の印刷インキ画像を転移させた。
【0095】得られた印刷物は通し枚数一万枚後でも印刷画像に飛びやカスレがなく極めて鮮明な画像であった。また製版終了後10分間、ヘッドにアイソパーGを供給し、ヘッド開口部からアイソパーGを滴らせてクリーニングした後、アイソパーGの蒸気を充満させたカバーにヘッドを格納しておくことにより、3ヶ月の間、保守作業の必要なしに、良好な印刷物を作製できた。
【0096】実施例2図2の印刷装置を基に、攪拌手段として循環ポンプを用い、図6、図8及び図10に示すタイプの600dpiフルラインインクジェットヘッドを配置した。ここではポンプを使用し、このポンプと吐出ヘッドのインク流入路、そして吐出ヘッドのインク回収路とインクタンクの間にそれぞれインク溜を設け、それらの静水圧差によりインク循環を行い、インク温度管理手段としてはヒータと上述のポンプを使用し、インク温度は35℃に設定し、サーモスタットでコントロールした。ここで循環ポンプは沈殿・凝集防止用の攪拌手段としても使用した。またインク流路に電導度測定装置を配置し、その出力シグナルによりインクの希釈あるいは濃縮インク投入による濃度管理を行った。版材として、上述のアルミ板を、平版印刷装置の版胴に同様に装着した。ナイロン製回転ブラシにより版材表面の埃除去を行った後、印刷すべき画像データを画像データ演算制御部に伝送し、版胴を回転させながらフルラインヘッドで描画させることにより、アルミ版上に油性インクを吐出して画像を形成した。埃による描画不良等は全く見られず、また外気温の変化、製版数の増加によってもドット径変化等による画像劣化は全く見られず、良好な製版が可能であった。
【0097】また製版した版で印刷物を行ったところ、通し枚数一万枚後でも印刷画像に飛びやカスレがなく極めて鮮明な画像であった。また製版終了後にヘッドにアイソパーGの循環を行うことによりクリーニングした後、アイソパーGを含ませた不織布をヘッド先端に接触させクリーニングを行ったところ、3ヶ月の間、保守作業の必要なしに、良好な印刷物を作製できた。
【0098】実施例3次に、全体にフードをかぶせた機上描画4色片面平版印刷装置(図11参照)のインクジェット記録装置に、吐出ヘッドとして図8に示すフルラインヘッドを使用し、テフロン製の付き当てローラによるギャップ調整(ギャップ0.8mm)を行った。ここでは4色分の製版を同時に行うため、フードには吸・排気口に加え、インク溶媒除去装置を取り付けた以外は実施例1と同様の操作を行い、5000枚の製版を行った。その結果、埃による描画不良、外気温の変化による影響は全く見られず、インク溶媒による臭気も全くなかった。製版数の増加によって、ドット径に多少の変化が見られたが、影響はない範囲内だった。また製版した版は、前述と同様のフラッシュ定着の他、ヒートロール定着(日立金属(株)製、消費電力1.2kW)、ハロゲンランプ照射(ウシオ電機(株)製QIR、消費電力1.5kW)、酢酸エチル噴霧による定着も行った。
【0099】ヒートロール定着、ハロゲンランプ照射の際には版面温度95℃で20秒間加熱が行われるようにし、酢酸エチル噴霧の場合には噴霧量が1g/m2 程度になるようにした。結果、通し枚数1万枚後でも印刷画像に飛びやカスレがなく極めて鮮明なフルカラー印刷物が得られた。特にヒートロール、あるいはハロゲンランプによる定着では版胴のまわりに断熱材(PETフィルム)を巻いておくことで定着時間を大幅に短くできた。なおその場合には導電性ブラシ(槌屋製サンダーロン、抵抗約10-1Ωcm)接触によりアルミニウム基体の接地を行った。
【0100】実施例4実施例1のアルミニウム版に替わりに、以下に示す表面に親水性の画像受理層を設けた紙版材を用いた以外は実施例1と同じ操作を行った。基体として坪量100g/m2の上質紙を用い、基体の両面にカオリンと、ポリビニルアルコール、SBRラテックスおよびメラミン樹脂の樹脂成分とを主成分とする耐水性層を設けた紙支持体上に下記組成で下記のようにして調製した分散液Aを乾燥後塗布量として6g/m2となるように画像受理層を設けて紙版材とした。
【0101】
分散液A ゼラチン(和光純薬一級品) 3g コロイダルシリカ(日産化学製;スノーテックスC、20%水溶液) 20g シリカゲル(富士シリシア化学製;サイリシア#310) 7g 硬膜剤(パラホルムアルデヒド) 0.4g 蒸留水 100gをガラスビーズとともにペイントシェーカーで10分間分散した。
【0102】一方、印刷用紙として上質紙を使用したところ、3千枚印刷時に一部紙粉によるベタのつぶれ不良が発生したため、給紙部付近にエア吸引ポンプを紙粉防止装置として設置し、印刷を行った。その結果、印刷不良は発生せず、得られた印刷物は、通し枚数五千枚後でも飛びやカスレがなく極めて鮮明な画像であった。ただし通し枚数五千枚後では、A3画像の縦方向で0.1mmの伸びが認められた。
【0103】実施例5実施例1のアルミ版の替わりに、以下に示す表面に不感脂化処理により親水化が可能になる画像受理層を設けた版材を用い、刷版作成後に版面不感脂化処理装置を用いて非画像部を親水化し、描画の際に導電性板バネ(燐青銅製)接触により版材導電層の接地をとり、版材に熱風を当てることにより定着を行った以外は実施例1と同じ操作を行った。
【0104】基体として坪量100g/m2の上質紙を用い、基体の両面にポリエチレンフィルムを20μmの厚みにラミネートし耐水性とした紙支持体上に下記組成で下記のようにして調製した導電層用塗料を片面に塗布し、乾燥後塗布量として10g/m2 となるようにし、さにその上に分散液Bを乾燥後塗布量として15g/m2となるように画像受理層を設けて版材とした。
【0105】・導電層用塗料;カーボンブラック(30%水溶液)5.4部、クレー(50%水溶液)54.6部、SBRラテックス(固形分50%、Tg25℃)36部、メラミン樹脂(固形分80%、スミレッツレジンSR−13)4部を混合し、全体の固形分が25%となるように水を加えて塗料とした。
【0106】・分散液B;乾式酸化亜鉛100g、下記構造の結着樹脂(B−1)3g、結着樹脂(B−2)17g、安息香酸0.15gおよびトルエン155gの混合物を湿式分散機ホモジナイザー(日本精機(株)製)を用いて回転数6,000rpmで8分間分散した。
【0107】
【化3】


【0108】得られた印刷物は、通し枚数五千枚でも印刷画像に飛びやカスレがなく極めて鮮明な画像であった。
【0109】
【発明の効果】本発明によれば、鮮明な画像の印刷物を多数枚印刷することができる。また印刷機上で直接デジタル画像データに対応した刷版が安定して高画質に作成でき、安価で高速の平版印刷が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に用いるフードを有する機上描画平版印刷装置の一例を模式的に示す全体構成図である。
【図2】本発明に用いるフードを有する機上描画平版印刷装置の他の例を模式的に示す全体構成図である。
【図3】本発明に用いる機上描画平版印刷装置の描画部の一例を模式的に示す構成図である。
【図4】本発明に用いるインクジェット記録装置に備えられるヘッドの一例を示す概略構成図である。
【図5】図4のインク吐出部近傍の断面概略図である。
【図6】本発明に用いるインクジェット記録装置に備えられる他のヘッドの一例におけるインク吐出部近傍の断面概略図である。
【図7】図6のインク吐出部近傍の前面概略図である。
【図8】本発明に用いるインクジェット記録装置に備えられる他のヘッドの一例の要部を示す概略構成図である。
【図9】図8のヘッドから規制板を取り除いたヘッドの概略構成図である。
【図10】本発明に用いるインクジェット記録装置に備えられる他のヘッドの一例の要部を示す概略構成図である。
【図11】本発明に用いる複色機の一例として、機上描画4色片面平版印刷機を模式的に示す全体構成図である。
【符号の説明】
1 機上描画平版印刷装置
2 インクジェット記録装置
3 湿し水供給装置
4 印刷インキ供給装置
5 定着装置
6 版面不感脂化装置
7 版材自動給版装置
8 版材自動排版装置
9 版材(印刷原版)
10 埃除去装置
11 版胴
12 ブランケット胴
13 圧胴
14 ブランケット洗浄装置
15 紙粉発生防止装置
21 画像データ演算制御部
22 吐出ヘッド
221 上部ユニット
222 下部ユニット
22a 吐出スリット
22b 吐出電極
23 油性インク
24 インク供給部
25 インクタンク
26 インク供給装置
27 攪拌装置
28 インク温度管理手段
29 インク濃度制御手段
30 エンコーダー
31 ヘッド離接装置
32 ヘッド副走査手段
33 第1の絶縁性基材
34 第2の絶縁性基材
35 第2の絶縁性基材の斜面図
36 第2の絶縁性基材の上面図
37 インク流路
38 インク回収路
39 バッキング
40 溝
41 ヘッド本体
42、42′メニスカス規制版
43 インク溝
44 隔壁
45、45′吐出部
46 隔壁
47 隔壁先端部
50、50′支持部材
51、51′溝
52 隔壁
53 上端部
54 矩形部分
55 隔壁の上端
56 ガイド突起
F フード
I 吸気口
O 排気口
P 印刷紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】 画像データの信号に基づき、印刷機の版胴に装着された版材上に、静電界を利用して油性インクをヘッドから吐出させるインクジェット方式で直接画像を形成し刷版を作成した後に平版印刷を行う平版印刷方法において、該印刷機がフードを有することを特徴とする平版印刷方法。
【請求項2】 前記油性インクが、固有電気抵抗値109Ωcm以上かつ誘電率3.5以下の非水溶媒中に、少なくとも常温で固体かつ疎水性の樹脂粒子を分散したものである請求項1に記載の平版印刷方法。
【請求項3】 画像データの信号に基づき、印刷機の版胴に装着された版材上に、静電界を利用して油性インクをヘッドから吐出させるインクジェット描画装置を有するインクジェット方式で直接画像を形成し刷版を作成した後に平版印刷を行う平版印刷装置において、該印刷機がフードを有することを特徴とする平版印刷装置。
【請求項4】 前記油性インクが、固有電気抵抗値109Ωcm以上かつ誘電率3.5以下の非水溶媒中に、少なくとも常温で固体かつ疎水性の樹脂粒子を分散したものである請求項3に記載の平版印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図7】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2000−326476(P2000−326476A)
【公開日】平成12年11月28日(2000.11.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−135893
【出願日】平成11年5月17日(1999.5.17)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】