説明

平版印刷版原版および平版印刷方法

【課題】赤外線レーザーにより画像記録が可能であり、実用的なエネルギー量で良好な印刷物を多数得ることができ、機上現像性および耐刷性に優れ、特に汚れ性が良化した平版印刷版原版およびそれを用いた平版印刷方法を提供する。
【解決手段】支持体上に、下塗り層、印刷インキ、湿し水またはこれらの両方により除去可能な画像記録層をこの順に有する平版印刷版原版であり、該下塗り層がキレート剤を含有することを特徴とする平版印刷版原版、および、該平版印刷版原版を印刷機に装着した後に赤外線レーザーで画像様に露光し、または、赤外線レーザーで画像様に露光した後に印刷機へ装着し、次いで印刷インキと湿し水とを供給して前記画像記録層の赤外線未露光部分を除去し、印刷する平版印刷方法。該下塗り層が基板吸着性基、重合性基、および親水性基を有するポリマーを含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷版原版およびその製造方法に関する。詳しくは、コンピュータ等のデジタル信号に基づいて赤外線レーザーを走査することにより直接製版することができる、いわゆるダイレクト製版可能な平版印刷版原版、および該平版印刷版原版を用いる平版印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、平版印刷版は、印刷過程でインキを受容する親油性の画像部と、湿し水を受容する親水性の非画像部とからなる。平版印刷は、水と油性インキが互いに反発する性質を利用して、平版印刷版の親油性の画像部をインキ受容部、親水性の非画像部を湿し水受容部(インキ非受容部)として、平版印刷版の表面にインキの付着性の差異を生じさせ、画像部のみにインキを着肉させた後、紙などの被印刷体にインキを転写して印刷する方法である。
この平版印刷版を作製するため、従来、親水性の支持体上に親油性の感光性樹脂層(画像記録層)を設けてなる平版印刷版原版(PS版)が広く用いられている。通常は、平版印刷版原版を、リスフィルムなどの原画を通した露光を行った後、画像記録層の画像部となる部分を残存させ、それ以外の不要な画像記録層をアルカリ性現像液または有機溶剤によって溶解除去し、親水性の支持体表面を露出させて非画像部を形成する方法により製版を行って、平版印刷版を得ている。
【0003】
従来の平版印刷版原版の製版工程においては、露光の後、不要な画像記録層を現像液などによって溶解除去する工程が必要であるが、このような付加的に行われる湿式処理を不要化または簡易化することが課題の一つとして挙げられている。特に、近年、地球環境への配慮から湿式処理に伴って排出される廃液の処分が産業界全体の大きな関心事となっているので、上記課題の解決の要請は一層強くなってきている。
【0004】
これに対して、簡易な製版方法の一つとして、画像記録層の不要部分の除去を通常の印刷工程の中で行えるような画像記録層を用い、露光後、印刷機上で画像記録層の不要部分を除去し、平版印刷版を得る、機上現像と呼ばれる方法が提案されている。
機上現像の具体的方法としては、例えば、湿し水、インキ溶剤または湿し水とインキとの乳化物に溶解しまたは分散することが可能な画像記録層を有する平版印刷版原版を用いる方法、印刷機のローラ類やブランケットとの接触により、画像記録層の力学的除去を行う方法、湿し水、インキ溶剤などの浸透によって画像記録層の凝集力または画像記録層と支持体との接着力を弱めた後、ローラ類やブランケットとの接触により、画像記録層の力学的除去を行う方法が挙げられる。
なお、本発明においては、特別な説明がない限り、「現像処理工程」とは、印刷機以外の装置(通常は自動現像機)を使用し、液体(通常はアルカリ性現像液)を接触させることにより、平版印刷版原版の非画像部となる部分の画像記録層を除去し、親水性支持体表面を露出させる工程を指し、「機上現像」とは、印刷機を用いて、液体(通常は印刷インキおよび/または湿し水)を接触させることにより、平版印刷版原版の非画像部となる部分の画像記録層を除去し、親水性支持体表面を露出させる方法および工程を指す。
【0005】
しかしながら、従来の紫外線や可視光を利用する画像記録方式の画像記録層を用いた場合、露光後も画像記録層が定着しないため、例えば、印刷機に装着するまでの間に、露光後の平版印刷版原版を完全に遮光状態または恒温条件で保存するといった、手間のかかる方法を採る必要があった。
【0006】
一方、近年、画像情報をコンピュータで電子的に処理し、蓄積し、出力する、デジタル化技術が広く普及してきており、このようなデジタル化技術に対応した新しい画像出力方式が種々実用されるようになってきている。これに伴い、レーザー光のような高収斂性の輻射線にデジタル化された画像情報を担持させて、その光で平版印刷版原版を走査露光し、リスフィルムを介することなく、直接平版印刷版を製造するコンピュータ・トゥ・プレート技術が注目されてきている。したがって、このような技術に適応した平版印刷版原版を得ることが重要な技術課題の一つとなっている。
【0007】
上述したように、近年、製版作業の簡素化、乾式化および無処理化は、地球環境への配慮とデジタル化への適合化との両面から、従来にも増して、強く望まれるようになってきている。
【0008】
近年におけるレーザーの発展は目覚ましく、特に波長760〜1200nmの赤外線を放射する半導体レーザーおよび固体レーザーは、高出力かつ小型のものを容易に入手することができるようになってきたことから、デジタル化技術に組み込みやすい走査露光による平版印刷版の製造方法として、これらの高出力レーザーを画像記録手段として用いる方法が極めて有用になっている。
【0009】
従来の製版方法では、感光性の平版印刷版原版に対して、低照度から中照度で像様露光を行い、画像記録層における光化学反応による像様の物性変化によって画像記録を行う。これに対して、上述した高出力レーザーを用いる方法では、露光領域に極短時間に大量の光エネルギーを照射して、光エネルギーを効率的に熱エネルギーに変換させ、その熱により、画像記録層において化学変化、相変化、形態または構造の変化等の熱変化を起こさせ、その変化を画像記録に利用する。したがって、画像情報はレーザー光等の光エネルギーによって入力されるが、画像記録は光エネルギーに加えて熱エネルギーによる反応も加味された状態で行われる。通常、このような高パワー密度露光による発熱を利用した記録方式はヒートモード記録と呼ばれ、光エネルギーを熱エネルギーに変えることは光熱変換と呼ばれる。
【0010】
ヒートモード記録を用いる製版方法の大きな長所は、室内照明のような通常の照度レベルの光では画像記録層が感光しないこと、および、高照度露光によって記録された画像の定着が必須ではないことにある。つまり、ヒートモード記録に用いられる平版印刷版原版は、露光前には室内光により感光してしまうおそれがなく、露光後には画像の定着が必須ではない。したがって、例えば、高出力レーザーを用いた露光により不溶化または可溶化する画像記録層を用い、露光した画像記録層を像様にして平版印刷版とする製版工程を機上現像で行えば、露光後、たとえ室内の環境光に暴露されても、画像が影響を受けないような印刷システムが可能となる。よって、ヒートモード記録を利用すれば、機上現像に好適に用いられる平版印刷版原版を得ることも可能となると期待される。
【0011】
この赤外線レーザーで画像記録をする機上現像型の平版印刷版原版として、例えば、特許文献1には、親水性結合剤中に疎水性熱可塑性重合体粒子を分散させた像形成層を親水性支持体上に設けた平版印刷版原版が記載されている。この特許文献1には、上記平版印刷版原版を赤外線レーザーにより露光して、疎水性熱可塑性重合体粒子を熱により合体させて画像を形成させた後、印刷機のシリンダー上に取り付け、湿し水および/またはインキにより機上現像することが可能である旨記載されている。
このように微粒子の単なる熱融着による合体で画像を形成させる方法は、良好な機上現像性を示すものの、画像強度(支持体との密着性)が極めて弱く、耐刷性が不十分であるという問題を有していた。
【0012】
また、特許文献2および3には、親水性支持体上に、重合性化合物を内包するマイクロカプセルを含む平版印刷版原版が記載されている。
さらに、特許文献4には、支持体上に、赤外線吸収剤とラジカル重合開始剤と重合性化合物とを含有する感光層を設けた平版印刷版原版が記載されている。
このように重合反応を用いる方法は、重合体微粒子の熱融着により形成される画像部に比べ、画像部の化学結合密度が高いため画像強度が比較的良好であるという特徴を有するが、機上現像性/耐刷性/汚れ性の両立のため下塗り層を設ける必要があった。
【0013】
この目的に用いられる下塗り層として、親水性を付与した水溶性樹脂が用いられることは一般に知られており、特許文献5には、基板吸着性基、重合性基、親水性基を持つポリマー下塗り層を設けた機上現像型の平版印刷版原版が記載されている。
しかしながら機上現像型の平版印刷版原版において、これらの下塗り層を設けても、非画像部の汚れ性はまだ十分ではなく、機上現像性/耐刷性/汚れ性の両立は不十分であった。
【0014】
【特許文献1】特許第2938397号明細書
【特許文献2】特開2001−277740号公報
【特許文献3】特開2001−277742号公報
【特許文献4】特開2002−287334号公報
【特許文献5】特開2005−125749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであって、赤外線レーザーにより画像記録が可能であり、実用的なエネルギー量で良好な印刷物を多数得ることができ、機上現像性および耐刷性に優れ、特に汚れ性が良化した平版印刷版原版およびそれを用いた平版印刷方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、機上現像型平版印刷版原版の下塗り層に用いられる構成成分に着目して鋭意研究した結果、下塗り層にキレート剤を添加することで、上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0017】
1.支持体上に、下塗り層と、印刷インキおよび/または湿し水により除去可能な画像記録層とをこの順に有する平版印刷版原版であり、該下塗り層にキレート剤を含有することを特徴とする平版印刷版原版。
2.キレート剤が1分子中に少なくとも2つの金属吸着性基を有するキレート剤であることを特徴とする前記1に記載の平版印刷版原版。
3.前記下塗り層が基板吸着性基、重合性基、および親水性基を有するポリマーを含有することを特徴とする前記1または2に記載の平板印刷版原版。
4.前記画像記録層が(A)赤外線吸収剤、(B)重合開始剤、および(C)重合性化合物を含有することを特徴とする前記1〜3のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
5.前記支持体がアルミニウムを含有することを特徴とする前記1〜4のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
6.前記キレート剤が少なくとも1つの窒素原子を含むこと特徴とする前記1〜5のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
7.前記キレート剤が少なくとも1つの親水性基を持つことを特徴とする前記1〜6のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
8.前記親水性基がヒドロキシル基であることを特徴とする前記1〜7のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
9.前記キレート剤が下記一般式(I)または(II)で表される化合物であることを特徴とする前記1〜5のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
【0018】
【化1】

【0019】
一般式(I)および(II)中、R1、R2、R4、R5、R6およびR7は、それぞれ独立に単結合または炭素数1〜3の直鎖アルキレン基である。R3は2価の有機基であり、R8は3価の有機基である。Xはメチン(−CH<)またはアミン(−N<)である。Y1〜Y6はそれぞれ独立に金属吸着性基を表し、Aは水素原子または親水基を表す。
【0020】
10.前記キレート剤がサリチル酸誘導体およびその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする前記1〜5のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
11.前記キレート剤が、下記一般式(III)で表される化合物であることを特徴とする前記10記載の平版印刷版原版。
【0021】
【化2】

【0022】
一般式(III)中、Xは酸素原子または硫黄原子を表す。M1およびM2はそれぞれ独立に、H、Li、Na、K、Rb、Cs、1/2Mg、1/2Ca、1/2Sr、1/2Ba、1/2Zn、および含窒素カチオンから選ばれる1種を表す。R1、R2、R3、およびR4は任意の置換基を表し、R1とR2、R2とR3、およびR3とR4はそれぞれ互いに結合して環状構造を形成してもよい。
【0023】
12.前記画像記録層が、さらに (D) 重合性反応基を有すポリマー微粒子を含有することを特徴とする前記1〜11のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
13.前記1〜12のいずれか一項に記載の平版印刷版原版を、印刷機に装着した後に赤外線レーザーで画像様に露光し、または、赤外線レーザーで画像様に露光した後に印刷機へ装着し、次いで印刷インキと湿し水とを供給して前記画像記録層の赤外線未露光部分を除去し、印刷する平版印刷方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、赤外線レーザーにより画像記録が可能であり、実用的なエネルギー量で良好な印刷物を多数得ることができ、機上現像性および耐刷性に優れ、特に汚れ性が良化した平版印刷版原版およびそれを用いた平版印刷方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下本発明を詳細に説明する。
〔下塗り層〕
本発明の平版印刷版原版において画像記録層と支持体との間に設けられる下塗り層は、キレート剤を含有することを特徴とする。
このような下塗り層によって、特に汚れ性が良化し、機上現像性/耐刷性/汚れ性の両立を図ることができる。
【0026】
<キレート剤>
本発明の下塗り層に使用されるキレート剤とは、1分子中の2つ以上の官能基により金属と錯結合する化合物である。該官能基が金属吸着性基であることが好ましい。本発明のキレート剤は1分子中に2つ以上の金属吸着性基を含有することがより好ましく、2つ以上の金属吸着性基を含有することで支持体上の、特に金属が露出して親水性が損なわれた箇所に、より吸着しやすくなり汚れ性が向上する。支持体の金属としては、特にアルミニウムであることが好ましく、キレート剤の金属吸着基としては、アルミニウムに吸着する官能基が好ましく用いられる。
【0027】
本発明の金属吸着性基としては、酸基またはカチオン性基が好ましい。
酸基は、酸解離定数(pKa)が7以下であることが好ましい。酸基の例は、フェノール性ヒドロキシル基、−COOH、−SO3H、−OSO3H、−PO32、−OPO32、およびCOCH2COCH3を含む。なかでも−COOHが特に好ましい。またこれら酸基は、酸基の塩であってもよい。塩としては、金属塩および含窒素カチオンの塩が挙げられる。金属塩は、Li、Na,K、Rb、Cs、Mg、Ca,Sr、BaおよびZnから選ばれる金属の塩が好ましい。含窒素カチオンの詳細については後述する。また、カチオン性ポリマーが対イオンであっても良い。
金属吸着性基としてのカチオン性基は、オニウム基であることが好ましい。オニウム基の例は、アンモニウム基、ホスホニウム基、アルソニウム基、スチボニウム基、オキソニウム基、スルホニウム基、セレノニウム基、スタンノニウム基、ヨードニウム基を含む。アンモニウム基、ホスホニウム基およびスルホニウム基が好ましく、アンモニウム基およびホスホニウム基がさらに好ましく、アンモニウム基が最も好ましい。
【0028】
本発明のキレート剤の具体例としてカルボキシル基を有する化合物(以下、適宜「カルボン酸化合物」と称する。)が挙げられる。カルボン酸化合物は、1分子中に少なくとも1個のカルボキシル基を有するが、1分子中に2個以上のカルボキシル基を有するものがより好ましい。
【0029】
1個のカルボキシル基を有するカルボン酸化合物は、カルボキシル基の他に、別の金属吸着性基か、アルコール性ヒドロキシル基、メルカプト基、アミノ基、カルボニル基など、カルボキシル基よりは弱いが金属への配位性のある官能基を有することが好ましい。具体例としては、グリコール酸、チオグリコール酸、乳酸、β−ヒドロキシプロピオン酸、グルコン酸、ピルビン酸、アセト酢酸、サリチル酸、5−スルホサリチル酸、β−アラニン、フェニルアラニン、N−エチルグリシン等を挙げることができる。
2個のカルボキシル基を有するカルボン酸化合物の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フタル酸、3−スルホフタル酸、4−スルホフタル酸、2−スルホテレフタル酸、3−ヒドロキシフタル酸、4−ヒドロキシフタル酸、酒石酸、リンゴ酸、ジピコリン酸、クエン酸、等が挙げられる。
【0030】
これらの中でも、3−スルホフタル酸、4−スルホフタル酸、2−スルホテレフタル酸等の芳香族環に2つ以上のカルボキシル基と1つのスルホ基を有する化合物、5−スルホサリチル酸のように芳香族環にヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホ基を有する化合物、4−ヒドロキシフタル酸、シュウ酸、酒石酸、リンゴ酸、およびジピコリン酸がより好ましく、特に好ましくは、3−スルホフタル酸、4−スルホフタル酸等のスルホフタル酸、5−スルホサリチル酸、および4−ヒドロキシフタル酸である。
【0031】
また、下記具体例で例示されるような3個以上のカルボキシル基を有し、炭素、水素以外の元素を含む他の官能基を有さない低分子の有機化合物も、カルボン酸化合物として好ましい。
これらの具体例としては例えば、プロパン−1,2,3−トリカルボン酸、ブタン−1,2,3−トリカルボン酸、ブタン−1,2,4−トリカルボン酸、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、2−カルボキシメチルプロパン−1,3−ジカルボン酸、ペンタン−1,2,3−トリカルボン酸、ペンタン−1,2,4−トリカルボン酸、ペンタン−1,2,5−トリカルボン酸、ペンタン−1,3,4−トリカルボン酸、ペンタン−2,3,4−トリカルボン酸、ペンタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、ペンタン−1,2,3,5−テトラカルボン酸、2−カルボキシメチルブタン−1,3−ジカルボン酸、2−カルボキシメチルブタン−1,4−ジカルボン酸、3−カルボキシメチルブタン−1,2−ジカルボン酸、3−カルボキシメチルブタン−1,2,4−トリカルボン酸、2,2−ジカルボキシメチルプロパン−1,3−ジカルボン酸、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸、ヘミメリット酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸等が挙げられる。
これらの中でも、特に好ましいものは、炭素数が5以下のアルキル基に3個以上のカルボキシル基が置換したものであり、最も好ましいものはプロパン−1,2,3−トリカルボン酸である。
【0032】
この他に、2−ホスホノブタン−1,2,3−トリカルボン酸のような3個以上のカルボキシル基を有し、ヘテロ元素を含む他の官能基を有する化合物も好ましいものとして挙げられる。
【0033】
また、本発明に用いられるキレート剤の別の好ましい例としては、下記式(I)または(II)で表される化合物が挙げられる。
【0034】
【化3】

【0035】
上式においてR1、R2、R4、R5、R6およびR7は、それぞれ独立に単結合または炭素数1〜3の直鎖アルキレン基である。R3は2価の有機基であり、直鎖または分岐アルキレン基およびアリレン基が好ましく、炭素数としては1〜10が好ましく、1〜8がより好ましく、1〜6が最も好ましい。R8は3価の有機基であり、炭素数としては1〜10が好ましく、1〜8がより好ましく、1〜6が最も好ましい。また、この有機基は置換基を有してもよく、置換基同士が結合して環状構造を形成していてもよく、有機鎖中にヘテロ原子を有してもよい。Xはメチン(−CH<)またはアミン(−N<)であり、好ましくはアミンである。アミンを含む場合には親水性が高まり、汚れ性向上効果が大きくなる。
【0036】
式(I)および(II)中のY1〜Y6はそれぞれ独立に金属吸着性基を表す。金属吸着性基としては、酸基またはカチオン性基が好ましい。具体例としては、カルボン酸化合物の金属吸着基について前述した酸基またはカチオン性基の具体例と同じものが挙げられる。またカチオン性ポリマーが対イオンであるものであっても良い。
【0037】
式(I)および(II)中のAは水素原子または親水性基を表す。親水性基としては、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボキシレート基、ヒドロキシエチル基、ポリオキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ポリオキシプロピル基、アミノ基、アミノエチル基、アミノプロピル基、アンモニウム基、アミド基、カルボキシメチル基、スルホ基、リン酸基等が好適に挙げられる。なかでもヒドロキシル基が最も好ましい。
【0038】
上式(I)および(II)で表されるキレート剤は、Y1〜Y6を除いた部分の親疎水性を表す物性値CLogPが、3〜−4であることが好ましく、1〜−3.5であることがさらに好ましく、−1〜−3であることが最も好ましい。なお、CLogP 値は、CS ChemDrawを用いて計算でき、正の値で疎水性、負の値の場合は親水性を表す。
以下に、式(I)および(II)で表されるキレート剤の具体例を挙げるが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0039】
【化4】

【0040】
また、本発明で用いられるキレート剤の別の好ましい例として、サリチル酸誘導体およびその塩が挙げられる。サリチル酸誘導体およびその塩は、下記一般式(III)で表される化合物であることが好ましい。
【0041】
【化5】

【0042】
一般式(III)中、Xは酸素原子または硫黄原子を表す。M1およびM2はそれぞれ独立に、H、Li、Na、K、Rb、Cs、1/2Mg、1/2Ca、1/2Sr、1/2Ba、1/2Zn、および含窒素カチオンから選ばれる1種を表す。なかでも、H、Li、Na、K、1/2Znおよび含窒素カチオンが溶解性の観点で好ましく、H、Li、Na、Kおよび含窒素カチオンが環境負荷軽減の観点でより好ましく、H、Na、Kおよび含窒素カチオンが製造コストの点で特に好ましい。
1、R2、R3およびR4は水素原子または任意の置換基を表し、R1とR2、R2とR3、およびR3とR4はそれぞれ互いに結合して環状構造を形成してもよい。
【0043】
一般式(III)中、R1〜R4としては、水素原子、アミノ基、ジアルキルアミノ基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルキル基、ニトロ基、アルコキシ基、アリール基、アリールチオ基、アルキルチオ基、ホルミル基、−SO3M基(Mは、前述のM1と同様の基を表す)、およびメルカプト基が好ましく、水素原子、アミノ基、ジアルキルアミノ基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルキル基、ニトロ基、アルコキシ基、アリール基、アリールチオ基、アルキルチオ基、−SO3M基およびメルカプト基がより好ましく、水素原子、アミノ基、ジアルキルアミノ基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルキル基、ニトロ基、アルコキシ基、アリール基、アリールチオ基、アルキルチオ基および−SO3M基が特に好ましい。
使用する系によっては、溶解性、現像性、耐刷性、微小点状汚れ、等の観点で、R1〜R4としてアミノ基以外の置換基が好ましい場合がある。
【0044】
1〜R4はさらに置換基を有していてもよい。置換基としては、アルキル基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、アリール基、アルコキシ基およびアミノ基が好ましく、アルキル基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、アリール基およびアルコキシ基がより好ましく、アルキル基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子およびアリール基が特に好ましい。
1〜R4の置換基は、さらに同様の置換基で置換されていてもよい。
【0045】
本発明のキレート剤としては、一般式(III)のサリチル酸系構造がR1〜R4の基を連結基として、いわゆるビス型構造など複数個結合したものでもよい。連結基としては、−S−、アルキレン基、アルキレンオキシ基が好ましく、なかでも、−S−、−CH2−、−CH2CH2−、−CH2CH2CH2−、−CH2CH2CH2CH2−、が好ましく、−S−、−CH2−、−CH2CH2−、−CH2CH2CH2−、がより好ましく、−S−、−CH2−、−CH2CH2−、が特に好ましい。
【0046】
また、R1とR2、R2とR3、およびR3とR4はそれぞれ互いに結合して形成する環状構造としては、例えば、芳香環、シクロアルキル環が挙げられ、なかでも全体としてナフタレン環を形成するベンゼン環が好ましい。
【0047】
1〜R4で表される基がアルキルキの場合、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、シクロブチル基、n−アミル基、i−アミル−基、sec−アミル基、t−アミル基、neo−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、i−ヘキシル基、sec−ヘキシル基、t−ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロペンチル基、シクロプロピルメチル基、シクロヘキシルメチル基、シクロブチルメチル基、直鎖または分岐のヘプチル基、シクロペンチルエチル基、直鎖または分岐のオクチル基、直鎖または分岐のノニル基、および直鎖または分岐のデシル基が好ましく、この中でも、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、シクロブチル基、n−アミル基、i−アミル−基、sec−アミル基、t−アミル基、neo−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、i−ヘキシル基、sec−ヘキシル基、t−ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、直鎖または分岐のヘプチル基、シクロペンチルエチル基、および直鎖または分岐のオクチル基がより好ましく、この中でも、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、シクロブチル基、n−アミル基、i−アミル−基、sec−アミル基、t−アミル基、neo−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、i−ヘキシル基、sec−ヘキシル基、t−ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、および直鎖または分岐のオクチル基が特に好ましい。
【0048】
1〜R4で表される基がアリール基の場合、アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニレニル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、アントラセニル基、アンスラキノニル基、およびピレニル基が好ましく、なかでも、フェニル基、ナフチル基、ビフェニレニル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、およびアントラセニル基がより好ましく、この中でも、フェニル基、ナフチル基、ビフェニレニル基、およびフルオレニル基が特に好ましい。
【0049】
以下に、一般式(III)で表される化合物の具体例を示すが、一般式(III)で表される化合物は、下記の例に限定されるわけではない。
【0050】
【化6】

【0051】
【化7】

【0052】
【化8】

【0053】
【化9】

【0054】
本発明のキレート剤が酸基の含窒素カチオン塩である場合、含窒素カチオンとしては、第4級アンモニウムカチオンおよびアミンの水素付加体であるカチオンであれば特には限定されない。第4級アンモニウムカチオンとしては、例えば、テトラメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラプロピルアンモニウムカチオン、メチルトリブチルアンモニウムカチオン、テトラブチルアンモニウムカチオン、コリン型カチオン(ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムカチオン)、等が好ましく、なかでも、テトラメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラプロピルアンモニウムカチオン、テトラブチルアンモニウムカチオンおよびコリン型カチオンがより好ましく、その中でも、テトラメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラプロピルアンモニウムカチオンおよびコリン型カチオンが特に好ましい。
【0055】
アミンの水素付加体であるカチオンとしては、トリエチルアミンの水素付加体カチオン、トリプロピルアミンの水素付加体カチオン、トリブチルアミンの水素付加体カチオン、ピリジンおよびピリジン誘導体の水素付加体カチオン、および下記の含窒素化合物の水素付加体カチオン(ここでのカチオンは、下記含窒素化合物がプロトネーションされ、カチオンの状態となったものを指す。)、が好ましい。
【0056】
【化10】

【0057】
なかでも、トリエチルアミンの水素付加体カチオン、トリプロピルアミンの水素付加体カチオン、ピリジンおよびピリジン誘導体の水素付加体カチオンがより好ましく、トリエチルアミンの水素付加体カチオンおよびトリプロピルアミンの水素付加体カチオンが特に好ましい。
【0058】
一般式(III)のM1およびM2が含窒素カチオンであるとき、該含窒素カチオンはカチオン性ポリマーであってもよい。
カチオン性ポリマーは、任意の構造を有していてよいが、繰り返し単位としてアンモニウム構造を有する構造単位を含むポリマーが好ましい。ここでいうアンモニウム構造とは、鎖状(例えば、アルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、トリアルキルアンモニウム、テトラアルキルアンモニウム)であっても、環状(例えば、ピリジニウム、イミダゾリニウムなど)であってもよい。
カチオン性ポリマーは、付加重合体、重縮合体、重付加体、開環重合体であっても、特に限定なく使用できるが、付加重合体であることが好ましい。
【0059】
上記カチオン性ポリマーは、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有することがより好ましい。
【0060】
【化11】

【0061】
一般式(1)中、R11は水素原子または置換基を表す。L1は二価の連結基を表し、R12、R13およびR14は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。
【0062】
11について説明する。一般式(1)中、R11は水素原子または置換基を表す。好ましくは、水素原子、アルキル基、アリール基、置換カルボニル基、置換オキシ基、ヘテロ環基またはハロゲン原子を表し、さらに好ましくは、水素原子、アルキル基またはハロゲン原子を表し、特に好ましくは水素原子またはアルキル基を表す。
【0063】
11で表されるアルキル基は、炭素原子数が1から20までの直鎖状、分岐状または環状のアルキル基を好ましい例として挙げることができる。これらの中でも、炭素原子数1から12までの直鎖状のアルキル基、炭素原子数3から12までの分岐状のアルキル基、および炭素原子数5から10までの環状のアルキル基がより好ましい。その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、および2−ノルボルニル基、などが挙げられる。
【0064】
11で表されるアリール基は、好ましくは炭素原子数が5から20、さらに好ましくは炭素原子数が6〜18、特に好ましくは炭素数6〜12の置換または無置換アリール基を表す。R11で表されるアリール基はさらに置換基を有していてもよい。
好ましい例としては、フェニル基、4−メチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、4−クロロフェニル基、4−(ジメチルアミノ)基1―ナフチル基、2−ナフチル基、ビフェニル基、キシリル基、メシチル基、クメニル基、ブロモフェニル基、クロロメチルフェニル基、ヒドロキシフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、フェノキシフェニル基、アセトキシフェニル基、ベンゾイロキシフェニル基、メチルチオフェニル基、フェニルチオフェニル基、メチルアミノフェニル基、ジメチルアミノフェニル基、アセチルアミノフェニル基、カルボキシフェニル基、メトキシカルボニルフェニル基、エトキシフェニルカルボニル基、フェノキシカルボニルフェニル基、N−フェニルカルバモイルフェニル基、シアノフェニル基、スルホフェニル基、スルホナトフェニル基、ホスホノフェニル基、ホスホナトフェニル基、などが挙げられる。
【0065】
11で表されるヘテロ環基は、3〜8員環であることが好ましく、3〜6員環であることがさらに好ましく、5〜6員環であることが特に好ましい。また、ヘテロ環を構成するヘテロ原子の種類としては、窒素原子、酸素原子または硫黄原子を含むことが好ましい。R11で表されるヘテロ環基はさらに置換基を有していてもよい。
好ましい例としては、ピロール環基、フラン環基、チオフェン環基、ベンゾピロール環基、ベンゾフラン環基、ベンゾチオフェン環基、ピラゾール環基、イソキサゾール環基、イソチアゾール環基、インダゾール環基、ベンゾイソキサゾール環基、ベンゾイソチアゾール環基、イミダゾール環基、オキサゾール環基、チアゾール環基、ベンズイミダゾール環基、ベンズオキサゾール環基、ベンゾチアゾール環基、ピリジン環基、キノリン環基、イソキノリン環基、ピリダジン環基、ピリミジン環基、ピラジン環基、フタラジン環基、キナゾリン環基、キノキサリン環基、アシリジン環基、フェナントリジン環基、カルバゾール環基、プリン環基、ピラン環基、ピペリジン環基、ピペラジン環基、モルホリン環基、インドール環基、インドリジン環基、クロメン環基、シンノリン環基、アクリジン環基、フェノチアジン環基、テトラゾール環基、トリアジン環基、などが挙げられる。
【0066】
11で表される置換カルボニル基は、(R15−CO−)で表される基が好ましい。R15は水素原子または置換基を表す。R11の好ましい例としては、ホルミル基、アシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、カルバモイル基、N−アルキルカルバモイル基、N,N−ジアルキルカルバモイル基、N−アリールカルバモイル基、N,N−ジアリールカルバモイル基、N−アルキル−N'−アリールカルバモイル基が挙げられる。これらにおけるアルキル基、アリール基としては前述のアルキル基、置換アルキル基、並びにアリール基、置換アリール基として示したものを挙げることができる。これらの内、さらに好ましい置換カルボニル基としては、ホルミル基、アシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、カルバモイル基、N−アルキルカルバモイル基、N,N−ジアルキルカルバモイル基、N−アリールカルバモイル基が挙げられ、特に好ましいものとしては、ホルミル基、アシル基、アルコキシカルボニル基並びにアリーロキシカルボニル基が挙げられる。
11の好ましい具体例としては、ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基、カルボキシル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、ジメチルアミノフェニルエテニルカルボニル基、メトキシカルボニルメトキシカルボニル基、N−メチルカルバモイル基、N−フェニルカルバモイル基、N,N−ジエチルカルバモイル基、モルホリノカルボニル基等が挙げられる。
【0067】
11で表される置換オキシ基としては、(R16O−)で表される基が好ましい。R16は水素原子または置換基を表す。好ましい置換オキシ基としては、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、N−アルキルカルバモイルオキシ基、N−アリールカルバモイルオキシ基、N,N−ジアルキルカルバモイルオキシ基、N,N−ジアリールカルバモイルオキシ基、N−アルキル−N−アリールカルバモイルオキシ基、アルキルスルホキシ基、アリールスルホキシ基、ホスホノオキシ基、ホスホナトオキシ基を挙げることができる。これらにおけるアルキル基、並びにアリール基としては前述のアルキル基、置換アルキル基並びに、アリール基、置換アリール基として示したものを挙げることができる。R11で表される置換オキシ基がアシルオキシ基を表すときのアシル基の具体例としては、前述のR11が置換カルボニル基を表すときの例を挙げることができる。これらの置換基の中では、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシルオキシ基、アリールスルホキシ基がより好ましい。
好ましい置換オキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブチルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ドデシルオキシ基、ベンジルオキシ基、アリルオキシ基、フェネチルオキシ基、カルボキシエチルオキシ基、メトキシカルボニルエチルオキシ基、エトキシカルボニルエチルオキシ基、メトキシエトキシ基、フェノキシエトキシ基、メトキシエトキシエトキシ基、エトキシエトキシエトキシ基、モルホリノエトキシ基、モルホリノプロピルオキシ基、アリロキシエトキシエトキシ基、フェノキシ基、トリルオキシ基、キシリルオキシ基、メシチルオキシ基、メシチルオキシ基、クメニルオキシ基、メトキシフェニルオキシ基、エトキシフェニルオキシ基、クロロフェニルオキシ基、ブロモフェニルオキシ基、アセチルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、ナフチルオキシ基、フェニルスルホニルオキシ基、ホスホノオキシ基、ホスホナトオキシ基等が挙げられる。
【0068】
11で表されるハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子であることが好ましく、フッ素原子、塩素原子、臭素原子であることがさらに好ましく、フッ素原子、塩素原子、臭素原子であることが特に好ましい。
【0069】
11で表される基が置換可能な場合は、さらに置換基を有していてもよい。置換基の種類としては、置換可能な基であれば任意のものを選択できるが、例えば、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルジチオ基、アリールジチオ基、アミノ基、N−アルキルアミノ基、N,N−ジアルキルアミノ基、N−アリールアミノ基、N,N−ジアリールアミノ基、N−アルキル−N−アリールアミノ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、N−アルキルカルバモイルオキシ基、N−アリールカルバモイルオキシ基、N,N−ジアルキルカルバモイルオキシ基、N,N−ジアリールカルバモイルオキシ基、N−アルキル−N−アリールカルバモイルオキシ基、アルキルスルホキシ基、アリールスルホキシ基、アシルチオ基、アシルアミノ基、N−アルキルアシルアミノ基、N−アリールアシルアミノ基、ウレイド基、N'−アルキルウレイド基、N',N'−ジアルキルウレイド基、N'−アリールウレイド基、N',N'−ジアリールウレイド基、N'−アルキル−N'−アリールウレイド基、N−アルキルウレイド基、N−アリールウレイド基、N'−アルキル−N−アルキルウレイド基、N'−アルキル−N−アリールウレイド基、N',N'−ジアルキル−N−アルキルウレイド基、N',N'−ジアルキル−N−アリールウレイド基、N'−アリール−N−アルキルウレイド基、N'−アリール−N−アリールウレイド基、N',N'−ジアリール−N−アルキルウレイド基、N',N'−ジアリール−N−アリールウレイド基、N'−アルキル−N'−アリール−N−アルキルウレイド基、N'−アルキル−N'−アリール−N−アリールウレイド基、
【0070】
アルコキシカルボニルアミノ基、アリーロキシカルボニルアミノ基、N−アルキル−N−アルコキシカルボニルアミノ基、N−アルキル−N−アリーロキシカルボニルアミノ基、N−アリール−N−アルコキシカルボニルアミノ基、N−アリール−N−アリーロキシカルボニルアミノ基、ホルミル基、アシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、カルバモイル基、N−アルキルカルバモイル基、N,N−ジアルキルカルバモイル基、N−アリールカルバモイル基、N,N−ジアリールカルバモイル基、N−アルキル−N−アリールカルバモイル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルホ基(−SO3H)およびその共役塩基基(スルホナト基と称す)、アルコキシスルホニル基、アリーロキシスルホニル基、スルフィナモイル基、N−アルキルスルフィナモイル基、N,N−ジアルキルスルフィイナモイル基、N−アリールスルフィナモイル基、N,N−ジアリールスルフィナモイル基、N−アルキル−N−アリールスルフィナモイル基、スルファモイル基、N−アルキルスルファモイル基、N,N−ジアルキルスルファモイル基、N−アリールスルファモイル基、N,N−ジアリールスルファモイル基、N−アルキル−N−アリールスルファモイル基、
【0071】
ホスホノ基(−PO32)およびその共役塩基基(ホスホナト基と称する。)、ジアルキルホスホノ基(−PO3(alkyl)2)「alkyl=アルキル基、以下同」、ジアリールホスホノ基(−PO3(aryl)2)「aryl=アリール基、以下同」、アルキルアリールホスホノ基(−PO3(alkyl)(aryl))、モノアルキルホスホノ基(−PO3(alkyl))およびその共役塩基基(アルキルホスホナト基と称する。)、モノアリールホスホノ基(−PO3H(aryl))およびその共役塩基基(アリールホスホナト基と称する。)、ホスホノオキシ基(−OPO32)およびその共役塩基基(ホスホナトオキシ基と称す)、ジアルキルホスホノオキシ基(−OPO3H(alkyl)2)、ジアリールホスホノオキシ基(−OPO3(aryl)2)、アルキルアリールホスホノオキシ基(−OPO3(alkyl)(aryl))、モノアルキルホスホノオキシ基(−OPO3H(alkyl))およびその共役塩基基(アルキルホスホナトオキシ基と称する。)、モノアリールホスホノオキシ基(−OPO3H(aryl))およびその共役塩基基(アリールホスホナトオキシ基と称する。)、シアノ基、ニトロ基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、ヘテロ環基、シリル基、等が挙げられる。
【0072】
これらの基は、さらに組み合わされて複合置換基を形成していてもよい。また、これらの基の中でR11として特に好ましいものは、水素原子、または、メチル基である。
【0073】
12、R13およびR14について説明する。R12、R13およびR14は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。好ましくは、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基を表し、さらに好ましくは、水素原子、アルキル基、を表し、特に好ましくはアルキル基を表す。
【0074】
12、R13およびR14がアルキル基を表すとき、好ましい例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、sec−ペンチル基、t−ペンチル基、neo−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、i−ヘキシル基、sec−ヘキシル基、t−ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロペンチル基、シクロプロピルメチル基、シクロヘキシルメチル基、シクロブチルメチル基、直鎖または分岐のヘプチル基、シクロペンチルエチル基、直鎖または分岐のオクチル基、直鎖または分岐のノニル基、直鎖または分岐のデシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基などを挙げることができ、さらに好ましい例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、sec−ペンチル基、t−ペンチル基、neo−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、i−ヘキシル基、sec−ヘキシル基、t−ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、直鎖または分岐のヘプチル基、シクロペンチルエチル基、直鎖または分岐のオクチル基、を挙げることができ、特に好ましい例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、sec−ペンチル基、t−ペンチル基、neo−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、i−ヘキシル基、sec−ヘキシル基、t−ヘキシル基、シクロヘキシル基を挙げることができる。
【0075】
12、R13およびR14で表される基は、置換基を有していてもよい。置換基としては置換可能な任意の基を選択することができるが、好ましい例としては、トリフルオロメチル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、メトキシ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、ビニル基、ジメチルアミノ基、アリール基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などを挙げることができ、さらに好ましい例としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、メトキシ基、ヒドロキシル基、ビニル基、ジメチルアミノ基、フェニル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などを挙げることができ、特に好ましい例としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、メトキシ基、ヒドロキシル基、ビニル基、フェニル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などを挙げることができる。これらの基はさらに同様の置換基で置換されていてもよい。
12、R13およびR14で表される基が置換基を有するときの好ましい例としては、ベンジル基、4−メチルベンジル基、3−メチルベンジル基、2−メチルベンジル基、4−メトキシベンジル基、3−メトキシベンジル基、2−メトキシベンジル基、4−ジメチルアミノベンジル基、3,5−ジメチルベンジル基、3,4,5−トリメチルベンジル基、4−フェニルベンジル基、4−フェノキシベンジル、などを挙げることができる。
さらに好ましい例としては、ベンジル基、4−メチルベンジル基、3−メチルベンジル基、2−メチルベンジル基、4−メトキシベンジル基、3−メトキシベンジル基、2−メトキシベンジル基、4−ジメチルアミノベンジル基、3,5−ジメチルベンジル基、などを挙げることができる。
特に好ましい例としては、ベンジル基、4−メチルベンジル基、3−メチルベンジル基、2−メチルベンジル基、4−メトキシベンジル基、3−メトキシベンジル基、2−メトキシベンジル基、4−ジメチルアミノベンジル基、などを挙げることができる。
【0076】
12、R13およびR14で表される基は、全て同一でも、全て異なっていても、3つのうち二つが同一でもよく、任意の組合せを選択できる。R12、R13およびR14はいずれも好ましくは炭素数1〜20、さらに好ましくは炭素数1〜10、特に好ましくは炭素数1〜8のアルキル基であることが好ましい。R12、R13およびR14はすべて同一であっても、異なっていてもよい。
本発明において、R12、R13およびR14で表される基の好ましい組合せの例としては、(メチル基、メチル基、および、メチル基の組合せ)、(メチル基、メチル基、および、エチル基の組合せ)、(メチル基、メチル基、および、プロピル基の組合せ)、(メチル基、メチル基、および、イソプロピル基の組合せ)、(メチル基、メチル基、および、ブチル基の組合せ)、(メチル基、メチル基、および、イソブチル基の組合せ)、(メチル基、メチル基、および、ペンチル基の組合せ)、(メチル基、メチル基、および、ヘキシル基の組合せ)、(メチル基、メチル基、および、ベンジル基の組合せ)(エチル基、エチル基、および、メチル基の組合せ)、(エチル基、エチル基、および、メチル基の組合せ)、(エチル基、エチル基、および、エチル基の組合せ)、(エチル基、エチル基、および、プロピル基の組合せ)、(エチル基、エチル基、および、イソプロピル基の組合せ)、(エチル基、エチル基、および、ブチル基の組合せ)、(エチル基、エチル基、および、イソブチル基の組合せ)、(エチル基、エチル基、および、ペンチル基の組合せ)、(エチル基、エチル基、および、ヘキシル基の組合せ)、(エチル基、エチル基、および、ベンジル基の組合せ)などを挙げることができる。
12、R13およびR14で表される基のさらに好ましい組合せの例としては、(メチル基、メチル基、および、メチル基の組合せ)、(メチル基、メチル基、および、エチル基の組合せ)、(メチル基、メチル基、および、プロピル基の組合せ)、(メチル基、メチル基、および、イソプロピル基の組合せ)、(メチル基、メチル基、および、ブチル基の組合せ)、(メチル基、メチル基、および、イソブチル基の組合せ)、(メチル基、メチル基、および、ペンチル基の組合せ)、(メチル基、メチル基、および、ヘキシル基の組合せ)、(メチル基、メチル基、および、ベンジル基の組合せ)などを挙げることができる。
12、R13およびR14で表される基の特に好ましい組合せの例としては、(メチル基、メチル基、および、メチル基の組合せ)、(メチル基、メチル基、および、エチル基の組合せ)、(メチル基、メチル基、および、プロピル基の組合せ)、(メチル基、メチル基、および、イソプロピル基の組合せ)、(メチル基、メチル基、および、ブチル基の組合せ)、(メチル基、メチル基、および、イソブチル基の組合せ)、(メチル基、メチル基、および、ペンチル基の組合せ)などを挙げることができる。
【0077】
12、R13およびR14がアリール基、またはヘテロ環基を表すとき、好ましい例としては、それぞれ前述のR11の好ましい例を挙げることができる。
【0078】
1について説明する。L1は単結合または二価の連結基を表す。
1が二価の連結基である場合、1から60個までの炭素原子、0個から10個までの窒素原子、0個から50個までの酸素原子、1個から100個までの水素原子、および0個から20個までの硫黄原子から構成されるものであることが好ましい。
より具体的には、下記の2価の基、または、これらが適宜組み合わされて構成される基を挙げることができる。
【0079】
【化12】

【0080】
1で表される2価の連結基のより好ましい例としては、下記構造式で表される2価の基を挙げることができる。
【0081】
【化13】

【0082】
本発明のアンモニウム構造を有する繰り返し単位は、下記一般式(3)、(4)または(5)で表される構造を有することがさらに好ましい。
【0083】
【化14】

【0084】
一般式(3)、(4)および(5)中、R11、R12、R13、ならびにR14は、一般式(1)中のR11、R12、R13、ならびにR14と同義である。また、Lは、一般式(1)中のL1と同義である。
【0085】
本発明のアンモニウム基を有する繰り返し単位としては、上記一般式(1)のようなカチオン性ポリマーが附加重合体である場合の繰り返し単位のほかに、カチオン性ポリマーが重縮合体(例えば、ポリエステル)、重付加体(例えばポリウレタン)あるいは開環重合体である場合のモノマー単位の側鎖にアンモニウム基を導入したものも好ましいものとして挙げられる。カチオン性ポリマーがポリウレタンの場合は、ジイソシアネートまたはジオール由来の構造単位の側鎖にアンモニウム基を導入した構造単位、例えば、アンモニウム基を側鎖に有するジオール由来の構造単位などを好ましい例として挙げることができる。
【0086】
本発明で用いられるカチオン性ポリマーに含まれるアンモニウム構造を有する構成単位は、単一の種類のみで構成されていても、複数の種類から構成されていてもよい。
【0087】
本発明で用いられるカチオン性ポリマーは、画像強度などの諸性能を向上させる目的で、本発明の効果を損なわない限りにおいて、さらに、共重合成分を含んでいてもよい。 好ましい共重合成分の構造としては、下記一般式(2)で表されるものを挙げることができる。
【0088】
【化15】

【0089】
一般式(2)において、R21は水素原子または置換基を表す。R22は置換基を表す。
21の好ましい例としては、一般式(1)におけるR11の好ましい例を挙げることができる。R22の好ましい例としては、エステル基、アミド基、シアノ基、またはアリール基が挙げられる。なかでも、エステル基、アミド基、または置換基を有してよいフェニル基が好ましい。
フェニル基の置換基としては、一般式(1)のR12〜R14の置換基として挙げたもの、およびアルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、アセトキシメチル基などが挙げられる。また、フェニル基の置換基がさらに置換基を有してもよい。
【0090】
一般式(2)で表される共重合成分としては、例えば、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、N−置換アクリルアミド類、N−置換メタクリルアミド類、N,N−2置換アクリルアミド類、N,N−2置換メタクリルアミド類、スチレン類、アクリロニトリル類、メタクリロニトリル類などが挙げられる。好ましくは、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、N−置換アクリルアミド類、N−置換メタクリルアミド類、N,N−2置換アクリルアミド類、N,N−2置換メタクリルアミド類、スチレン類、などが挙げられる。
【0091】
具体的には、例えば、アルキルアクリレート(該アルキル基の炭素原子数は1〜20のものが好ましい)等のアクリル酸エステル類、(例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸−t−オクチル、クロルエチルアクリレート、2,2−ジメチルヒドロキシプロピルアクリレート、5−ヒドロキシペンチルアクリレート、トリメチロールプロパンモノアクリレート、ペンタエリヌリトールモノアクリレート、グリシジルアクリレート、ベンジルアクリレート、メトキシベンジルアクリレート、フルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレートなど)、アリールアクリレート(例えば、フェニルアクリレートなど)、アルキルメタクリレート(該アルキル基の炭素原子は1〜20のものが好ましい)等のメタクリル酸エステル類(例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、アミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、クロルベンジルメタクリレート、オクチルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクゾレート、5−ヒドロキシペンチルメタクリレート、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、トリメチロールプロパンモノメタクリレート、ペンタエリスリトールモノメタクリレート、グリシジルメタクリレート、フルフリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレートなど)、アリールメタクリレート(例えば、フェニルメタクリレート、クレジルメタクリレート、ナフチルメタクリレートなど)、スチレン、アルキルスチレン等のスチレン(例えば、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、ヘキシルスチレン、シクロヘキシルスチレン、デシルスチレン、ベンジルスチレン、クロルメチルスチレン、トリフルオルメチルスチレン、エトキシメチルスチレン、アセトキシメチルスチレンなど)、アルコキシスチレン(例えば、メトキシスチレン、4−メトキシ−3−メチルスチレン、ジメトキシスチレンなど)、ハロゲンスチレン(例えば、クロルスチレン、ジクロルスチレン、トリクロルスチレン、テトラクロルスチレン、ペンタクロルスチレン、プロムスチレン、ジブロムスチレン、ヨードスチレン、フルオルスチレン、トリフルオルスチレン、2−ブロム−4−トリフルオルメチルスチレン、4−フルオル−3−トリフルオルメチルスチレンなど)、アクリロニトリル、メタクリロニトリルアクリル酸、カルボン酸を含有するラジカル重合性化合物(アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、p−カルボキシルスチレン、およびこれらの酸基の金属塩、アンモニウム塩化合物等)が挙げられる。
【0092】
また、一般式(2)の構造単位は、ポリアルキレンオキシ基を構造単位内に有していることが好ましい。ポリアルキレンオキシ基の例としては、-O-(CH2CH2-O-)n-R23、-O-(CH(CH3)CH2 -O-)n -R23、-O-(CH2CH(CH3)-O-) n -R23、で表される基が例示される。ここで、nは好ましくは1〜10、より好ましくは1〜6、さらに好ましくは1〜4、特に好ましくは1〜2の数を示す。ここにおいて、nは単一であっても複数の種類の混合物であってもよく、混合物である場合、nは平均値を表す。また、R23は好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは1〜20、さらに好ましくは炭素数1〜10、特に好ましくは炭素数1〜10の置換基を表す。
【0093】
23の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、sec−ペンチル基、t−ペンチル基、neo−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、i−ヘキシル基、sec−ヘキシル基、t−ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロペンチル基、シクロプロピルメチル基、シクロヘキシルメチル基、シクロブチルメチル基、直鎖または分岐のヘプチル基、シクロペンチルエチル基、直鎖または分岐のオクチル基、直鎖または分岐のノニル基、直鎖または分岐のデシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基などを挙げることができ、さらに好ましい例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、sec−ペンチル基、t−ペンチル基、neo−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、i−ヘキシル基、sec−ヘキシル基、t−ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、直鎖または分岐のヘプチル基、シクロペンチルエチル基、直鎖または分岐のオクチル基、を挙げることができ、特に好ましい例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、n−ヘキシル基、直鎖または分岐のオクチル基、を挙げることができる。
【0094】
本発明で用いられるカチオン性ポリマーは、さらに、エチレン性不飽和基を側鎖に有していてもよい。ここでいうエチレン性不飽和基とは、置換または無置換のエチレン基を有する既知の任意の基を表し、好ましい例としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、アリル基、ビニル基、アクリロニトリル基、メタクリロニトリル基、マレイン酸構造、マレイミド構造、シンナム酸構造などを挙げることができる。
エチレン性不飽和基と主鎖との間は、任意の連結基を介して結合していてもよいが、好ましい例として、一般式(1)のL1で表される連結基を挙げることができる。
【0095】
本発明で用いられるカチオン性ポリマーにおいて、アンモニウム構造を有する構造単位と一般式(2)で表される構造単位との比率は特に限定されないが、好ましくはモル比で1:99〜99:1、より好ましくは5:95〜95:5、より好ましくは、5:95〜80:20である。これらの範囲で、耐刷性を維持しつつ、着肉性と機上現像性に優れる本発明の効果が顕著である。
また、エチレン性不飽和基を側鎖に有する構造単位は、アンモニウム構造を有する構造単位と一般式(2)で表される構造単位との合計に対して、好ましくはモル比で1:99〜50:50、より好ましくは1:99〜30:70、より好ましくは、1:99〜20:80である。これらの範囲で、着肉性と機上現像性に優れる本発明の効果が顕著であるとともに、耐刷性を向上することが可能である。
【0096】
本発明で用いられるカチオン性ポリマーは、本発明の効果を確保できる範囲内で、さらに、他の共重合成分を含有してもよい。本発明で用いることができる他の共重合成分としては、二元以上の共重合が可能名モノマーであれば特に限定されないが、クロトン酸、マレイン酸、(無水)マレイン酸、部分エステル化マレイン酸、部分アミド化マレイン酸、ビニル基を有する芳香族炭化水素環類、ビニル基を有するヘテロ芳香族環類(ビニルイミダゾール、ビニルトリアゾール、ビニルカルバゾール類、ビニルピロリドンなど)、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)クロトンニトリル、各種ベンゾイルオキシエチレン類、各種アセトキシエチレン類、ビニルケトン類、ビニルエーテル類などが挙げられる。
共重合するモノマーの種類数は特には限定されないが、1〜12種が好ましく、1〜8種がより好ましく、1〜5種が特に好ましい。
【0097】
本発明で用いられるカチオン性ポリマーは、下記の測定方法で求められる還元比粘度(単位:CSt/g/ml)の値で、5〜120の範囲のものが好ましく、10〜110の範囲のものががより好ましく、15〜100の範囲のものが特に好ましい。
【0098】
−還元比粘度の測定方法−
30%ポリマー溶液3.33g(固形分として1g)を、20mlのメスフラスコに秤量し、N−メチルピロリドンでメスアップする。この溶液をウベローデ還元粘度管(粘度計定数=0.010cSt/s)に入れ、30℃にて流れ落ちる時間を測定し、計算式(「動粘度」=「粘度計定数」×「液体が細管を通る時間(秒)」)を用いて定法により算出した。
【0099】
以下に、本発明で用いられるカチオン性ポリマーの具体例を示すが、本発明で用いられるカチオン性ポリマーは、下記の例に限定されるわけではなく、印刷版原版作製のための塗布液成分との組み合わせで、適宜、構造および添加量を変化させて用いることができる。また、用いるカチオン性ポリマーは、1種であってもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0100】
【化16】

【0101】
【化17】

【0102】
【化18】

【0103】
【化19】

【0104】
【化20】

【0105】
【化21】

【0106】
【化22】

【0107】
【化23】

【0108】
【化24】

【0109】
【化25】

【0110】
下塗り層塗布液へのキレート剤の添加量は、下塗り層塗布液の全固体質量の10〜90質量%が好ましく、10〜80質量%がさらに好ましく、30〜70質量%が最も好ましい。
【0111】
<基板吸着性基、重合性基、および親水性基を有するポリマー>
本発明の平版印刷版原版下塗り層は、上記キレート剤の他に、さらに、基板吸着性基、重合性基、および親水性基を有するポリマーを含有することが好ましい。
基板吸着性基、重合性基、および親水性基を有するポリマーとしては、吸着性基を有するモノマー、親水性基を有するモノマー、および重合性反応基(架橋性基)を有するモノマーを共重合した高分子樹脂を挙げることができる。
【0112】
上記高分子樹脂の必須成分の一つは、基板(親水性支持体表面)への吸着性基である。親水性支持体表面への吸着性の有無に関しては、例えば以下のような方法で判断できる。
試験化合物を易溶性の溶媒に溶解させた塗布夜を作製し、その塗布夜を乾燥後の塗布量が30mg/m2となるように支持体上に塗布・乾燥させる。次に試験化合物を塗布した支持体を、易溶性溶媒を用いて十分に洗浄した後、洗浄除去されなかった試験化合物の残存量を測定して支持体吸着量を算出する。ここで残存量の測定は、残存化合物量を直接定量してもよいし、洗浄液中に溶解した試験化合物量を定量して算出してもよい。化合物の定量は、例えば蛍光X線測定、反射分光吸光度測定、液体クロマトグラフィー測定などで実施できる。支持体吸着性がある化合物は、上記のような洗浄処理を行っても1mg/m2以上残存する化合物である。
【0113】
親水性支持体表面への吸着性基は、親水性支持体表面に存在する物質(例えば、金属、金属酸化物)あるいは官能基(例えば、ヒドロキシル基)と、化学結合(例えば、イオン結合、水素結合、配位結合、分子間力による結合)を引き起こすことができる官能基である。吸着性基は、酸基またはカチオン性基が好ましい。
酸基およびカチオン性基の具体例は、キレート剤の金属吸着性基の項で述べた酸基およびカチオン性基の具体例と同じものが挙げられる。
【0114】
吸着性基を有するモノマーの特に好ましい例としては、下記式(U1)または(U2)で表される化合物が挙げられる。
【0115】
【化26】

【0116】
上式において、R1、R2およびR3は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子または炭素原子数が1乃至6のアルキル基である。R1、R2およびR3は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数が1乃至6のアルキル基であることが好ましく、水素原子または炭素原子数が1乃至3のアルキル基であることがさらに好ましく、水素原子またはメチルであることが最も好ましい。R2およびR3は、水素原子であることが特に好ましい。Zは、親水性支持体表面に吸着する官能基である。
【0117】
式(U1)において、Xは、酸素原子(−O−)またはイミノ(−NH−)である。Xは、酸素原子であることがさらに好ましい。
式(U1)において、Lは、2価の連結基である。Lは、2価の脂肪族基(アルキレン基、置換アルキレン基、アルケニレン基、置換アルケニレン基、アルキニレン基、置換アルキニレン基)、2価の芳香族基(アリレン基、置換アリレン基)または2価のヘテロ環基であるか、あるいはそれらと、酸素原子(−O−)、硫黄原子(−S−)、イミノ(−NH−)、置換イミノ(−NR−、Rは脂肪族基、芳香族基またはヘテロ環基)またはカルボニル(−CO−)との組み合わせであることが好ましい。
【0118】
脂肪族基は、環状構造または分岐構造を有していてもよい。脂肪族基の炭素原子数は、1乃至20が好ましく、1乃至15がさらに好ましく、1乃至10が最も好ましい。脂肪族基は、不飽和脂肪族基よりも飽和脂肪族基の方が好ましい。脂肪族基は、置換基を有していてもよい。置換基の例は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、芳香族基およびヘテロ環基を含む。
【0119】
芳香族基の炭素原子数は、6乃至20が好ましく、6乃至15がさらに好ましく、6乃至10が最も好ましい。芳香族基は、置換基を有していてもよい。置換基の例は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、脂肪族基、芳香族基およびヘテロ環基を含む。
ヘテロ環基は、ヘテロ環として5員環または6員環を有することが好ましい。ヘテロ環に他のヘテロ環、脂肪族環または芳香族環が縮合していてもよい。ヘテロ環基は、置換基を有していてもよい。置換基の例は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、オキソ(=O)、チオ(=S)、イミノ(=NH)、置換イミノ基(=N−R、Rは脂肪族基、芳香族基またはヘテロ環基)、脂肪族基、芳香族基およびヘテロ環基を含む。
【0120】
Lは、複数のポリオキシアルキレン構造を含む二価の連結基であることが好ましい。ポリオキシアルキレン構造は、ポリオキシエチレン構造であることがさらに好ましい。言い換えると、Lは、−(OCH2CH2)n−(nは、2以上の整数)を含むことが好ましい。
式(U2)において、Yは炭素原子または窒素原子である。Y=窒素原子でY上にLが連結し四級ピリジニウム基になった場合、それ自体が吸着性を示す事からZは必須ではなく、Z=Hでもよい。Lは式(U1)の場合と同じ2価の連結基または単結合を表す。
【0121】
吸着性の官能基については、前述した通りである。
以下に、式(U1)または(U2)で表される代表的な化合物の例を示す。
【0122】
【化27】

【0123】
本発明に用いることができる下塗り用高分子樹脂の親水性基としては、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボキシレート基、ヒドロキシエチル基、ポリオキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ポリオキシプロピル基、アミノ基、アミノエチル基、アミノプロピル基、アンモニウム基、アミド基、カルボキシメチル基、スルホ基、リン酸基等が好適に挙げられる。なかでも高親水性を示すスルホ基が好ましい。スルホ基を有するモノマーの具体例としては、メタリルオキシベンゼンスルホン酸, アリルオキシベンゼンスルホン酸 , アリールスルホン酸、ビニルスルホン酸、p-スチレンスルホン酸、メタリルスルホン酸、アクリルアミドt-ブチルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、(3−アクリロイルオキシプロピル)ブチルスルホン酸のナトリウム塩、アミン塩が挙げられる。なかでも親水性能および合成の取り扱いから2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム塩が好ましい。
【0124】
本発明の下塗り層用の水溶性高分子樹脂は、重合性反応基を有すことが好ましい。重合性反応基によって画像部との密着の向上が得られる。下塗り層用の高分子樹脂に架橋性を持たせるためには、エチレン性不飽和結合等の架橋性官能基を高分子の側鎖中に導入したり、高分子樹脂の極性置換基と対荷電を有する置換基とエチレン性不飽和結合を有する化合物で塩構造を形成させたりして導入することができる。
【0125】
分子の側鎖中にエチレン性不飽和結合を導入するためのモノマーの例としては、アクリル酸またはメタクリル酸のエステルまたはアミドのモノマーであって、エステルまたはアミドの残基(−COORまたはCONHRのR)がエチレン性不飽和結合を有するモノマーを挙げることができる。
【0126】
エチレン性不飽和結合を有する残基(上記R)の例としては、−(CH2)nCR1=CR23、−(CH2O)nCH2CR1=CR23、−(CH2CH2O)nCH2CR1=CR23、−(CH2)nNH−CO−O−CH2CR1=CR23、−(CH2)n−O−CO−CR1=CR23、および(CH2CH2O)2−X(式中、R1〜R3はそれぞれ、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アルコキシ基もしくはアリールオキシ基を表し、R1とR2またはR3とは互いに結合して環を形成してもよい。nは、1〜10の整数を表す。Xは、ジシクロペンタジエニル残基を表す。)を挙げることができる。
エステル残基の具体例としては、−CH2CH=CH2(特公平7−21633号公報に記載されている。)、−CH2CH2O−CH2CH=CH2、−CH2C(CH3)=CH2、−CH2CH=CH−C65、−CH2CH2OCOCH=CH−C65、−CH2CH2NHCOO−CH2CH=CH2、およびCH2CH2O−X(式中、Xはジシクロペンタジエニル残基を表す。)が挙げられる。
アミド残基の具体例としては、−CH2CH=CH2、−CH2CH2O−Y(式中、Yはシクロヘキセン残基を表す。)、−CH2CH2OCO−CH=CH2が挙げられる。
【0127】
下塗り層用高分子樹脂中の重合性反応基の含有量(ヨウ素滴定によるラジカル重合可能な不飽和二重結合の含有量)は、高分子樹脂1g当たり、好ましくは0.1〜10.0mmol、より好ましくは1.0〜7.0mmol、最も好ましくは2.0〜5.5mmolである。この範囲で、良好な感度と汚れ性の両立、および良好な保存安定性が得られる。
【0128】
下塗り層用の高分子樹脂は、質量平均モル質量が5000以上であるのが好ましく、1万〜30万であるのがより好ましく、また、数平均モル質量が1000以上であるのが好ましく、2000〜25万であるのがより好ましい。多分散度(質量平均モル質量/数平均モル質量)は、1.1〜10であるのが好ましい。
下塗り層用の高分子樹脂は、ランダムポリマー、ブロックポリマー、グラフトポリマー等のいずれでもよいが、ランダムポリマーであるのが好ましい。
【0129】
<下塗り層の形成>
下塗り用高分子樹脂は単独で用いても2種以上を混合して用いてもよく、キレート剤も単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。下塗り層用塗布液は、上記下塗り用の高分子樹脂とキレート剤を有機溶媒(例えばメタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトンなど)および/または水に溶解して得られる。下塗り層用塗布液には、赤外線吸収剤を含有させることもできる。
下塗り層塗布液を支持体に塗布する方法としては、公知の種々の方法を用いることができる。例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布等を挙げることができる。
下塗り層の塗布量(固形分)は、0.1〜100mg/m2であるのが好ましく、1〜50mg/m2であるのがより好ましい。
【0130】
〔画像記録層〕
本発明の画像記録層は印刷インキおよび/または湿し水により除去可能な画像記録層であり、(A)赤外線吸収剤と、(B)重合開始剤と、(C)重合性化合物を含有することが好ましい。このような画像記録層を有する平版印刷版原版は、赤外線の照射により画像記録層の露光部が硬化して疎水性(親油性)領域を形成し、かつ、印刷開始時に未露光部が湿し水、インキまたは湿し水とインキとの乳化物によって支持体上から速やかに除去される。以下、画像記録層の各構成成分について説明する。
【0131】
<(A)赤外線吸収剤>
本発明の平版印刷版原版を、760〜1200nmの赤外線を発するレーザーを光源により画像形成する場合には、通常、赤外線吸収剤を用いることが必須である。赤外線吸収剤は、吸収した赤外線を熱に変換する機能と赤外線により励起して後述する重合開始剤(ラジカル発生剤)に電子移動/エネルギー移動する機能を有する。本発明において使用される赤外線吸収剤は、波長760〜1200nmに吸収極大を有する染料または顔料である。
【0132】
染料としては、市販の染料および例えば「染料便覧」(有機合成化学協会編集、昭和45年刊)等の文献に記載されている公知のものが利用できる。具体的には、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレート錯体等の染料が挙げられる。
好ましい染料としては、例えば、特開昭58−125246号、特開昭59−84356号、特開昭60−78787号等の公報に記載されているシアニン染料、特開昭58−173696号、特開昭58−181690号、特開昭58−194595号等の公報に記載されているメチン染料、特開昭58−112793号、特開昭58−224793号、特開昭59−48187号、特開昭59−73996号、特開昭60−52940号、特開昭60−63744号等の公報に記載されているナフトキノン染料、特開昭58−112792号公報等に記載されているスクワリリウム色素、英国特許第434,875号明細書記載のシアニン染料等を挙げることができる。
【0133】
また、米国特許第5,156,938号明細書記載の近赤外吸収増感剤も好適に用いられ、また、米国特許第3,881,924号明細書記載の置換されたアリールベンゾ(チオ)ピリリウム塩、特開昭57−142645号公報(米国特許第4,327,169号明細書)記載のトリメチンチアピリリウム塩、特開昭58−181051号、同58−220143号、同59−41363号、同59−84248号、同59−84249号、同59−146063号、同59−146061号の各公報に記載されているピリリウム系化合物、特開昭59−216146号公報記載のシアニン色素、米国特許第4,283,475号明細書に記載のペンタメチンチオピリリウム塩等や特公平5−13514号、同5−19702号の各公報に開示されているピリリウム化合物も好ましく用いられる。また、染料として好ましい別の例として米国特許第4,756,993号明細書中に式(I)および(II)として記載されている近赤外吸収染料を挙げることができる。
また、本発明の赤外線吸収色素の好ましい他の例としては、以下に例示するような特開2002−278057号公報に記載の特定インドレニンシアニン色素が挙げられる。
【0134】
【化28】

【0135】
これらの染料のうち特に好ましいものとしては、シアニン色素、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、ニッケルチオレート錯体、インドレニンシアニン色素が挙げられる。さらに、シアニン色素やインドレニンシアニン色素が好ましく、特に好ましい一つの例として下記一般式(i)で示されるシアニン色素が挙げられる。
【0136】
【化29】

【0137】
一般式(i)中、X1は、水素原子、ハロゲン原子、−NPh2、X2−L1または以下に示す基を表す。ここで、X2は酸素原子、窒素原子、または硫黄原子を示し、L1は、炭素原子数1〜12の炭化水素基、ヘテロ原子を有する芳香族環、ヘテロ原子を含む炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。なお、ここでヘテロ原子とは、窒素原子、硫黄原子、酸素原子、ハロゲン原子、セレン原子を示す。Xa-は後述するZa-と同様に定義され、Raは、水素原子、アルキル基、アリール基、置換または無置換のアミノ基、ハロゲン原子より選択される置換基を表す。
【0138】
【化30】

【0139】
1およびR2は、それぞれ独立に、炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。記録層塗布液の保存安定性から、R1およびR2は、炭素原子数2個以上の炭化水素基であることが好ましく、さらに、R1とR2とは互いに結合し、5員環または6員環を形成していることが特に好ましい。
【0140】
Ar1およびAr2は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示す。好ましい芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環およびナフタレン環が挙げられる。また、好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素原子数12個以下のアルコキシ基が挙げられ、炭素原子数12個以下の炭化水素基、炭素原子数12個以下のアルコキシ基が最も好ましい。Y1およびY2は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、硫黄原子または炭素原子数12個以下のジアルキルメチレン基を示す。R3およびR4は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下の炭化水素基を示す。好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、カルボキシル基、スルホ基が挙げられ、炭素原子数12個以下のアルコキシ基が最も好ましい。R5、R6、R7およびR8は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数12個以下の炭化水素基を示す。原料の入手性から、好ましくは水素原子である。また、Za-は、対アニオンを示す。ただし、一般式(i)で示されるシアニン色素が、その構造内にアニオン性の置換基を有し、電荷の中和が必要ない場合にはZa-は必要ない。好ましいZa-は、記録層塗布液の保存安定性から、ハロゲンイオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、およびスルホン酸イオンであり、特に好ましくは、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、およびアリールスルホン酸イオンである。
【0141】
本発明において、好適に用いることのできる一般式(i)で示されるシアニン色素の具体例としては、特開2001−133969公報の段落番号[0017]から[0019]に記載されたものを挙げることができる。
また、特に好ましい他の例としてさらに、前記した特開2002−278057号公報に記載の特定インドレニンシアニン色素が挙げられる。
【0142】
本発明において使用される顔料としては、市販の顔料およびカラーインデックス(C.I.)便覧、「最新顔料便覧」(日本顔料技術協会編、1977年刊)、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)、「印刷インキ技術」CMC出版、1984年刊)に記載されている顔料が利用できる。
【0143】
顔料の種類としては、黒色顔料、黄色顔料、オレンジ色顔料、褐色顔料、赤色顔料、紫色顔料、青色顔料、緑色顔料、蛍光顔料、金属粉顔料、その他、ポリマー結合色素が挙げられる。具体的には、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレンおよびペリノン系顔料、チオインジゴ系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料、染付けレーキ顔料、アジン顔料、ニトロソ顔料、ニトロ顔料、天然顔料、蛍光顔料、無機顔料、カーボンブラック等が使用できる。これらの顔料のうち好ましいものはカーボンブラックである。
【0144】
これら顔料は表面処理をせずに用いてもよく、表面処理を施して用いてもよい。表面処理の方法には、樹脂やワックスを表面コートする方法、界面活性剤を付着させる方法、反応性物質(例えば、シランカップリング剤、エポキシ化合物、ポリイソシアネート等)を顔料表面に結合させる方法等が考えられる。上記の表面処理方法は、「金属石鹸の性質と応用」(幸書房)、「印刷インキ技術」(CMC出版、1984年刊)および「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)に記載されている。
【0145】
顔料の粒径は0.01μm〜10μmの範囲にあることが好ましく、0.05μm〜1μmの範囲にあることがさらに好ましく、特に0.1μm〜1μmの範囲にあることが好ましい。この範囲で、顔料分散物の画像記録層塗布液中での良好な安定性と画像記録層の良好な均一性が得られる。
【0146】
顔料を分散する方法としては、インキ製造やトナー製造等に用いられる公知の分散技術が使用できる。分散機としては、超音波分散器、サンドミル、アトライター、パールミル、スーパーミル、ボールミル、インペラー、デスパーザー、KDミル、コロイドミル、ダイナトロン、3本ロールミル、加圧ニーダー等が挙げられる。詳細は、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)に記載されている。
【0147】
これらの赤外線吸収剤は、他の成分と同一の層に添加してもよいし、別の層を設けそこへ添加してもよいが、ネガ型平版印刷版原版を作製した際に、画像記録層の波長760nm〜1200nmの範囲における極大吸収波長での吸光度が、反射測定法で0.3〜1.2の範囲にあるように添加する。好ましくは、0.4〜1.1の範囲である。この範囲で、画像記録層の深さ方向での均一な重合反応が進行し、良好な画像部の膜強度と支持体に対する密着性が得られる。
画像記録層の吸光度は、画像記録層に添加する赤外線吸収剤の量と画像記録層の厚みにより調整することができる。吸光度の測定は常法により行うことができる。測定方法としては、例えば、アルミニウム等の反射性の支持体上に、乾燥後の塗布量が平版印刷版として必要な範囲において適宜決定された厚みの画像記録層を形成し、反射濃度を光学濃度計で測定する方法、積分球を用いた反射法により分光光度計で測定する方法等が挙げられる。
【0148】
<(B)重合開始剤>
本発明に用いられる重合発生剤としては、光、熱あるいはその両方のエネルギーによりラジカルを発生し、重合性の不飽和基を有する化合物の重合を開始、促進する化合物を示す。本発明に使用できる重合発生剤としては、公知の熱重合開始剤や結合解離エネルギーの小さな結合を有する化合物、光重合開始剤などを使用することができ、本発明において好適に用いられるラジカルを発生する化合物は、熱エネルギーによりラジカルを発生し、重合性の不飽和基を有する化合物の重合を、開始、促進させる化合物を指す。本発明に係る熱ラジカル発生剤としては、公知の重合開始剤や結合解離エネルギーの小さな結合を有する化合物などを、適宜、選択して用いることとができる。また、ラジカルを発生する化合物は、単独または2種以上を併用して用いることができる。
【0149】
ラジカルを発生する化合物としては、例えば、有機ハロゲン化物、カルボニル化合物、有機過酸化物、アゾ系重合開始剤、アジド化合物、メタロセン化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、有機ホウ酸塩化合物、ジスルホン化合物、オキシムエステル化合物、オニウム塩化合物、が挙げられる。
【0150】
上記有機ハロゲン化物としては、具体的には、若林等、「Bull Chem.SocJapan」42、2924(1969)、米国特許第3,905,815号明細書、特公昭46−4605号、特開昭48−36281号、特開昭55−32070号、特開昭60−239736号、特開昭61−169835号、特開昭61−169837号、特開昭62−58241号、特開昭62−212401号、特開昭63−70243号、特開昭63−298339号の各公報、M.P.Hutt"Jurnal of Heterocyclic Chemistry"1(No3),(1970)」筆に記載の化合物が挙げられ、特に、トリハロメチル基が置換したオキサゾール化合物およびS−トリアジン化合物が挙げられる。
【0151】
より好適には、すくなくとも一つのモノ、ジ、またはトリハロゲン置換メチル基がs−トリアジン環に結合したs−トリアジン誘導体、具体的には、例えば、2,4,6−トリス(モノクロロメチル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(ジクロロメチル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2―n−プロピル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(α,α,β−トリクロロエチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(3,4−エポキシフェニル)−4、6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−クロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−〔1−(p−メトキシフェニル)−2,4−ブタジエニル〕−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−スチリル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−i−プロピルオキシスチリル)−4、6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−トリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−ナトキシナフチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−フェニルチオ−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−ベンジルチオ−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(ジブロモメチル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−メトキシ−4,6−ビス(トリブロモメチル)−s−トリアジン等が挙げられる。
【0152】
上記カルボニル化合物としては、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、2−メチルベンゾフェノン、3−メチルベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、4−ブロモベンゾフェノン、2−カルボキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、α−ヒドトキシ−2−メチルフェニルプロパノン、1−ヒドロキシ−1−メチルエチル−(p−イソプロピルフェニル)ケトン、1−ヒドロキシ−1−(p−ドデシルフェニル)ケトン、2−メチル(4'−(メチルチオ)フェニル)−2−モルホリノ−1−プロパノン、1,1,1−トリクロロメチル−(p−ブチルフェニル)ケトン等のアセトフェノン誘導体、チオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン誘導体、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジエチルアミノ安息香酸エチル等の安息香酸エステル誘導体等を挙げることができる。
【0153】
上記アゾ化合物としては例えば、特開平8−108621号公報に記載のアゾ化合物等を使用することができる。
【0154】
上記有機過酸化物としては、例えば、トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(tert−ブチルパーオキシ)ブタン、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−オキサノイルパーオキサイド、過酸化こはく酸、過酸化ベンゾイル、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジメトキシイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、tert−ブチルパーオキシアセテート、tert−ブチルパーオキシピバレート、tert−ブチルパーオキシネオデカノエート、tert−ブチルパーオキシオクタノエート、tert−ブチルパーオキシラウレート、ターシルカーボネート、3,3',4,4'−テトラ−(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3',4,4'−テトラ−(t−ヘキシルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3',4,4'−テトラ−(p−イソプロピルクミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、カルボニルジ(t−ブチルパーオキシ二水素二フタレート)、カルボニルジ(t−ヘキシルパーオキシ二水素二フタレート)等が挙げられる。
【0155】
上記メタロセン化合物としては、特開昭59−152396号公報、特開昭61−151197号公報、特開昭63−41484号公報、特開平2−249号公報、特開平2−4705号公報、特開平5−83588号公報記載の種々のチタノセン化合物、例えば、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−フェニル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,6−ジフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,4−ジ−フルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,4,6−トリフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,5,6−テトラフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニ−1−イル、ジ−メチルシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,6−ジフルオロフェニ−1−イル、ジ−メチルシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,4,6−トリフルオロフェニ−1−イル、ジ−メチルシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,5,6−テトラフルオロフェニ−1−イル、ジ−メチルシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニ−1−イル、特開平1−304453号公報、特開平1−152109号公報記載の鉄−アレーン錯体等が挙げられる。
【0156】
上記ヘキサアリールビイミダゾール化合物としては、例えば、特公平6−29285号公報、米国特許第3,479,185号、同第4,311,783号、同第4,622,286号等の各明細書記載の種々の化合物、具体的には、2,2'−ビス(o−クロロフェニル)−4,4',5,5'−テトラフェニルビイミダゾール、2,2'−ビス(o−ブロモフェニル))4,4',5,5'−テトラフェニルビイミダゾール、2,2'−ビス(o,p−ジクロロフェニル)−4,4',5,5'−テトラフェニルビイミダゾール、2,2'−ビス(o−クロロフェニル)−4,4',5,5'−テトラ(m−メトキシフェニル)ビイジダゾール、2,2'−ビス(o,o'−ジクロロフェニル)−4,4',5,5'−テトラフェニルビイミダゾール、2,2'−ビス(o−ニトロフェニル)−4,4',5,5'−テトラフェニルビイミダゾール、2,2'−ビス(o−メチルフェニル)−4,4',5,5'−テトラフェニルビイミダゾール、2,2'−ビス(o−トリフルオロフェニル)−4,4',5,5'−テトラフェニルビイミダゾール等が挙げられる。
【0157】
上記有機ホウ酸塩化合物としては、例えば、特開昭62−143044号、特開昭62−150242号、特開平9−188685号、特開平9−188686号、特開平9−188710号、特開2000−131837号、特開2002−107916号の各公報、特許第2764769号明細書、特開2002−116539号公報、および、Kunz,Martin"Rad Tech'98.Proceeding April 19−22,1998,Chicago"等に記載される有機ホウ酸塩、特開平6−157623号公報、特開平6−175564号公報、特開平6−175561号公報に記載の有機ホウ素スルホニウム錯体あるいは有機ホウ素オキソスルホニウム錯体、特開平6−175554号公報、特開平6−175553号公報に記載の有機ホウ素ヨードニウム錯体、特開平9−188710号公報に記載の有機ホウ素ホスホニウム錯体、特開平6−348011号公報、特開平7−128785号公報、特開平7−140589号公報、特開平7−306527号公報、特開平7−292014号公報等の有機ホウ素遷移金属配位錯体等が具体例として挙げられる。
【0158】
上記ジスルホン化合物としては、特開昭61−166544号公報、特開2003−328465号公報等に記載の化合物が挙げられる。
【0159】
上記オキシムエステル化合物としては、J.C.S. Perkin II (1979 )1653-1660)J.C.S.Perkin II (1979)156-162、Journal of Photopolymer Science andTechnology(1995)202-232、特開2000−66385号公報記載の化合物、特開2000−80068号公報記載の化合物、具体的には下記の構造式で示される化合物が挙げられる。
【0160】
【化31】

【0161】
上記オニウム塩化合物としては、例えば、S.I.Schlesinger,Photogr.Sci.Eng.,18,387(1974)、T.S.Bal et al,Polymer,21,423(1980)に記載のジアゾニウム塩、米国特許第4,069,055号明細書、特開平4−365049号公報等に記載のアンモニウム塩、米国特許第4,069,055号、同4,069,056号の各明細書に記載のホスホニウム塩、欧州特許第104、143号、米国特許第339,049号、同第410,201号の各明細書、特開平2−150848号、特開平2−296514号の各公報に記載のヨードニウム塩、欧州特許第370,693号、同390,214号、同233,567号、同297,443号、同297,442号、米国特許第4,933,377号、同161,811号、同410,201号、同339,049号、同4,760,013号、同4,734,444号、同2,833,827号、独国特許第2,904,626号、同3,604,580号、同3,604,581号の各明細書に記載のスルホニウム塩、J.V.Crivello et al,Macromolecules,10(6),1307(1977)、J.V.Crivello et al,J.Polymer Sci.,Polymer Chem.Ed.,17,1047(1979)に記載のセレノニウム塩、C.S.Wen et al,Teh,Proc.Conf.Rad.Curing ASIA,p478 Tokyo,Oct(1988)に記載のアルソニウム塩等のオニウム塩等が挙げられる。
【0162】
特に反応性、安定性の面から上記オキシムエステル化合物あるいはジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩が好適なものとして挙げられる。本発明において、これらのオニウム塩は酸発生剤ではなく、イオン性のラジカル重合開始剤として機能する。
本発明において好適に用いられるオニウム塩は、下記一般式(RI−I)〜(RI−III)で表されるオニウム塩である。
【0163】
【化32】

【0164】
式(RI−I)中、Ar11は置換基を1〜6有していてもよい炭素数20以下のアリール基を表し、好ましい置換基としては炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルキニル基、炭素数1〜12のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアリーロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキルアミノ基、炭素数1〜12のジアルキルアミノ基、炭素数1〜12のアルキルアミド基またはアリールアミド基、カルボニル基、カルボキシル基、シアノ基、スルホニル基、炭素数1〜12のチオアルキル基、炭素数1〜12のチオアリール基が挙げられる。Z11-は1価の陰イオンを表し、ハロゲンイオン、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、テトラフルオロボレートイオン、スルホン酸イオン、スルフィン酸イオン、チオスルホン酸イオン、硫酸イオンであり、安定性の面から過塩素酸イオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、テトラフルオロボレートイオン、スルホン酸イオン、スルフィン酸イオンが好ましい。
【0165】
式(RI−II)中、Ar21およびAr22は各々独立に置換基を1〜6有していてもよい炭素数20以下のアリール基を表し、好ましい置換基としては炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルキニル基、炭素数1〜12のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアリーロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキルアミノ基、炭素数1〜12のジアルキルアミノ基、炭素数1〜12のアルキルアミド基またはアリールアミド基、カルボニル基、カルボキシル基、シアノ基、スルホニル基、炭素数1〜12のチオアルキル基、炭素数1〜12のチオアリール基が挙げられる。Z21-は1価の陰イオンを表し、ハロゲンイオン、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、テトラフルオロボレートイオン、スルホン酸イオン、スルフィン酸イオン、チオスルホン酸イオン、硫酸イオンであり、安定性、反応性の面から過塩素酸イオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、テトラフルオロボレートイオン、スルホン酸イオン、スルフィン酸イオン、カルボン酸イオンが好ましい。
【0166】
式(RI−III)中、R31、R32およびR33は各々独立に置換基を1〜6有していてもよい炭素数20以下のアリール基またはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基を表し、好ましくは反応性、安定性の面から、アリール基であることが望ましい。好ましい置換基としては炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルキニル基、炭素数1〜12のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアリーロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキルアミノ基、炭素数1〜12のジアルキルアミノ基、炭素数1〜12のアルキルアミド基またはアリールアミド基、カルボニル基、カルボキシル基、シアノ基、スルホニル基、炭素数1〜12のチオアルキル基、炭素数1〜12のチオアリール基が挙げられる。Z31-は1価の陰イオンを表し、ハロゲンイオン、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、テトラフルオロボレートイオン、スルホン酸イオン、スルフィン酸イオン、チオスルホン酸イオン、硫酸イオンであり、安定性、反応性の面から過塩素酸イオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、テトラフルオロボレートイオン、スルホン酸イオン、スルフィン酸イオン、カルボン酸イオンが好ましい。より好ましいものとして特開2001−343742号公報記載のカルボン酸イオン、特に好ましいものとして特開2002−148790号公報記載のカルボン酸イオンが挙げられる。
以下に、本発明において重合開始剤として好適に用いられるオニウム塩の例を挙げるが、本発明はこれら制限されるものではない。
【0167】
【化33】

【0168】
【化34】

【0169】
【化35】

【0170】
【化36】

【0171】
【化37】

【0172】
【化38】

【0173】
【化39】

【0174】
【化40】

【0175】
これらの重合開始剤は、画像記録層を構成する全固形分に対し0.1〜50質量%、好ましくは0.5〜30質量%、特に好ましくは1〜20質量%の割合で添加することができる。この範囲で、良好な感度と印刷時の非画像部の良好な汚れ難さが得られる。これらの重合開始剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、これらの重合開始剤は他の成分と同一の層に添加してもよいし、別の層を設けそこへ添加してもよい。
【0176】
<(C)重合性化合物>
本発明に用いることができる重合性化合物は、少なくとも一個のエチレン性不飽和二重結合を有する付加重合性化合物であり、末端エチレン性不飽和結合を少なくとも1個、好ましくは2個以上有する化合物から選ばれる。このような化合物群は当該産業分野において広く知られるものであり、本発明においてはこれらを特に限定無く用いることができる。これらは、例えばモノマー、プレポリマー、すなわち2量体、3量体およびオリゴマー、またはそれらの混合物ならびにそれらの共重合体などの化学的形態をもつ。モノマーおよびその共重合体の例としては、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸など)や、そのエステル類、アミド類が挙げられ、好ましくは、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アミン化合物とのアミド類が用いられる。また、ヒドロキシル基やアミノ基、メルカプト基等の求核性置換基を有する不飽和カルボン酸エステルあるいはアミド類と単官能もしくは多官能イソシアネート類あるいはエポキシ類との付加反応物、および単官能もしくは、多官能のカルボン酸との脱水縮合反応物等も好適に使用される。また、イソシアネート基や、エポキシ基等の親電子性置換基を有する不飽和カルボン酸エステルあるいはアミド類と単官能もしくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との付加反応物、さらにハロゲン基や、トシルオキシ基等の脱離性置換基を有する不飽和カルボン酸エステルあるいはアミド類と単官能もしくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との置換反応物も好適である。また、別の例として、上記の不飽和カルボン酸の代わりに、不飽和ホスホン酸、スチレン、ビニルエーテル等に置き換えた化合物群を使用することも可能である。
【0177】
脂肪族多価アルコール化合物と不飽和カルボン酸とのエステルのモノマーの具体例としては、アクリル酸エステルとして、エチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、テトラメチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリ(アクリロイルオキシプロピル)エーテル、トリメチロールエタントリアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ソルビトールトリアクリレート、ソルビトールテトラアクリレート、ソルビトールペンタアクリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、トリ(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ポリエステルアクリレートオリゴマー、イソシアヌール酸EO変性トリアクリレート等がある。
【0178】
メタクリル酸エステルとしては、テトラメチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ソルビトールトリメタクリレート、ソルビトールテトラメタクリレート、ビス〔p−(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕ジメチルメタン、ビス−〔p−(メタクリルオキシエトキシ)フェニル〕ジメチルメタン等がある。
【0179】
イタコン酸エステルとしては、エチレングリコールジイタコネート、プロピレングリコールジイタコネート、1,3−ブタンジオールジイタコネート、1,4−ブタンジオールジイタコネート、テトラメチレングリコールジイタコネート、ペンタエリスリトールジイタコネート、ソルビトールテトライタコネート等がある。クロトン酸エステルとしては、エチレングリコールジクロトネート、テトラメチレングリコールジクロトネート、ペンタエリスリトールジクロトネート、ソルビトールテトラジクロトネート等がある。イソクロトン酸エステルとしては、エチレングリコールジイソクロトネート、ペンタエリスリトールジイソクロトネート、ソルビトールテトライソクロトネート等がある。マレイン酸エステルとしては、エチレングリコールジマレート、トリエチレングリコールジマレート、ペンタエリスリトールジマレート、ソルビトールテトラマレート等がある。
【0180】
その他のエステルの例として、例えば、特公昭51−47334号、特開昭57−196231号の各公報記載の脂肪族アルコール系エステル類や、特開昭59−5240号、特開昭59−5241号、特開平2−226149号の各公報記載の芳香族系骨格を有するもの、特開平1−165613号公報記載のアミノ基を含有するもの等も好適に用いられる。さらに、前述のエステルモノマーは混合物としても使用することができる。
【0181】
また、脂肪族多価アミン化合物と不飽和カルボン酸とのアミドのモノマーの具体例としては、メチレンビス−アクリルアミド、メチレンビス−メタクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−アクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−メタクリルアミド、ジエチレントリアミントリスアクリルアミド、キシリレンビスアクリルアミド、キシリレンビスメタクリルアミド等がある。その他の好ましいアミド系モノマーの例としては、特公昭54−21726記載のシクロへキシレン構造を有すものを挙げることができる。
【0182】
また、イソシアネートとヒドロキシル基の付加反応を用いて製造されるウレタン系付加重合性化合物も好適であり、そのような具体例としては、例えば、特公昭48−41708号公報中に記載されている1分子に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物に、下記一般式(A)で示されるヒドロキシル基を含有するビニルモノマーを付加させた1分子中に2個以上の重合性ビニル基を含有するビニルウレタン化合物等が挙げられる。
【0183】
CH2=C(R4)COOCH2CH(R5)OH (A)
(ただし、R4およびR5は、HまたはCH3を示す。)
【0184】
また、特開昭51−37193号、特公平2−32293号、特公平2−16765号の各公報に記載されているようなウレタンアクリレート類や、特公昭58−49860号、特公昭56−17654号、特公昭62−39417号、特公昭62−39418号の各公報記載のエチレンオキサイド系骨格を有するウレタン化合物類も好適である。さらに、特開昭63−277653号、特開昭63−260909号、特開平1−105238号の各公報に記載される、分子内にアミノ構造やスルフィド構造を有する付加重合性化合物類を用いることによっては、非常に感光スピードに優れた光重合性組成物を得ることができる。
【0185】
その他の例としては、特開昭48−64183号、特公昭49−43191号、特公昭52−30490号、各公報に記載されているようなポリエステルアクリレート類、エポキシ樹脂とアクリル酸もしくはメタクリル酸を反応させたエポキシアクリレート類等の多官能のアクリレートやメタクリレートを挙げることができる。また、特公昭46−43946号、特公平1−40337号、特公平1−40336号、各公報記載の特定の不飽和化合物や、特開平2−25493号公報記載のビニルホスホン酸系化合物等も挙げることができる。また、ある場合には、特開昭61−22048号公報記載のペルフルオロアルキル基を含有する構造が好適に使用される。さらに日本接着協会誌vol.20、No.7、300〜308ページ(1984年)に光硬化性モノマーおよびオリゴマーとして紹介されているものも使用することができる。
【0186】
これらの付加重合性化合物について、その構造、単独使用か併用か、添加量等の使用方法の詳細は、最終的な平版印刷版原版の性能設計にあわせて任意に設定できる。例えば、次のような観点から選択される。
感度の点では1分子あたりの不飽和基含量が多い構造が好ましく、多くの場合、2官能以上が好ましい。また、画像部すなわち硬化膜の強度を高くするためには、3官能以上のものがよく、さらに、異なる官能数・異なる重合性基(例えばアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン系化合物、ビニルエーテル系化合物)のものを併用することで、感度と強度の両方を調節する方法も有効である。
また、画像記録層中の他の成分(例えばバインダーポリマー、開始剤、着色剤等)との相溶性、分散性に対しても、付加重合化合物の選択・使用法は重要な要因であり、例えば、低純度化合物の使用や、2種以上の併用により相溶性を向上させうることがある。
付加重合性化合物は、画像記録層中の不揮発性成分に対して、好ましくは5〜80質量%、さらに好ましくは25〜75質量%の範囲で使用される。また、これらは単独で用いても2種以上併用してもよい。そのほか、付加重合性化合物の使用法は、酸素に対する重合阻害の大小、解像度、かぶり性、屈折率変化、表面粘着性等の観点から適切な構造、配合、添加量を任意に選択でき、さらに場合によっては下塗り、上塗りといった層構成・塗布方法も実施しうる。
【0187】
<(D)重合性反応基を有すポリマー微粒子>
本発明においては、上記の画像記録層構成成分(A)〜(C)の他に、(D)重合性反応基を有すポリマー微粒子を含有することが好ましい。
本発明の画像記録層に用いられる重合性反応基を有するポリマー微粒子としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、またはアリル基を有するモノマーをポリマー鎖中に導入させたものを挙げることができる。これらの官能基のポリマー微粒子への導入は、重合時に行ってもよいし、重合後に高分子反応を利用して行ってもよい。
【0188】
重合時に導入する場合は、これらの重合性反応基を有するモノマーを乳化重合、懸濁重合、あるいはウレタン化などの重縮合反応させることが好ましい。必要に応じて、重合性反応基をもたないモノマーを共重合成分として加えてもかまわない。
【0189】
そのような官能基を有するモノマーの具体例として、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、ビニルメタクリレート、ビニルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、2−イソシアネートエチルメタクリレート、2−イソシアネートエチルアクリレート、2−アミノエチルメタクリレート、2−アミノエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、2官能アクリレート、2官能メタクリレートなどを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0190】
重合反応性官能基の導入を重合後に行う場合に用いる高分子反応としては、例えば、国際公開第96−034316号パンフレットに記載されている高分子反応を挙げることができる。
【0191】
上記の重合性反応基を有するポリマー微粒子は、ポリマー微粒子同士が熱により合体してもよい。またその表面は親水性で、水に分散するものが特に好ましい。ポリマー微粒子表面を親水性にするには、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどの親水性ポリマーあるいはオリゴマー、または親水性低分子化合物をポリマー微粒子表面に吸着させてやればよいが、その方法はこれらに限定されるものではない。このポリマー微粒子の平均粒径は、0.01〜10μmが好ましいが、その中でも0.05〜2μmがさらに好ましく、特に0.1〜1μmが最適である。平均粒径が大き過ぎると解像度が悪く、また小さ過ぎると経時安定性が悪くなってしまう。
【0192】
また、重合性反応基を有するポリマー微粒子の形態として、重合性反応基を有する化合物との共有結合を形成せずとも、重合性反応基を有する化合物を内包したマイクロカプセルやミクロゲルであってもよい。
【0193】
すなわち、本発明においては上記の画像記録層構成成分(A)〜(C)および後述のその他構成成分を画像記録層に含有させる方法として、いくつかの態様を用いることができる。一つは、例えば、特開2002−287334号公報に記載のごとく、該構成成分を適当な溶媒に溶解して塗布する分子分散型画像記録層である。もう一つの態様は、例えば、特開2001−277740号公報、特開2001−277742号公報に記載のごとく、該構成成分の全てまたは一部をマイクロカプセルに内包させて画像記録層に含有させるマイクロカプセル型画像記録層である。さらに。マイクロカプセル型画像記録層において、該構成成分は、マイクロカプセル外にも含有させることもできる。ここで、マイクロカプセル型画像記録層は、疎水性の構成成分をマイクロカプセルに内包し、親水性構成成分をマイクロカプセル外に含有することが好ましい態様である。より良好な機上現像性を得るためには、画像記録層は、マイクロカプセル型画像記録層であることが好ましい。
【0194】
本発明に用いられる重合性反応基を有するポリマー微粒子の形態としてのマイクロカプセルまたはミクロゲルは、重合性反応基を有する化合物を内包する。この重合性反応基を有する化合物としては、前述の(C)重合性化合物に記載の化合物を限定なく使用することが出来る。
【0195】
画像記録層構成成分をマイクロカプセル化する方法としては、公知の方法が適用できる。例えばマイクロカプセルの製造方法としては、米国特許第2800457号、同第2800458号明細書にみられるコアセルベーションを利用した方法、米国特許第3287154号の各明細書、特公昭38−19574号、同42−446号の各公報にみられる界面重合法による方法、米国特許第3418250号、同第3660304号明細書にみられるポリマーの析出による方法、米国特許第3796669号明細書に見られるイソシアナートポリオール壁材料を用いる方法、米国特許第3914511号明細書に見られるイソシアナート壁材料を用いる方法、米国特許第4001140号、同第4087376号、同第4089802号の各明細書にみられる尿素―ホルムアルデヒド系または尿素ホルムアルデヒド−レゾルシノール系壁形成材料を用いる方法、米国特許第4025445号明細書にみられるメラミン−ホルムアルデヒド樹脂、ヒドロキシセルロース等の壁材を用いる方法、特公昭36−9163号、同51−9079号の各公報にみられるモノマー重合によるin situ法、英国特許第930422号、米国特許第3111407号明細書にみられるスプレードライング法、英国特許第952807号、同第967074号の各明細書にみられる電解分散冷却法などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0196】
本発明に用いられる好ましいマイクロカプセル壁は、3次元架橋を有し、溶剤によって膨潤する性質を有するものである。このような観点から、マイクロカプセルの壁材は、ポリウレア、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、およびこれらの混合物が好ましく、特に、ポリウレアおよびポリウレタンが好ましい。また、マイクロカプセル壁に、上記重合性反応基を有する化合物を導入してもよい。
【0197】
上記のマイクロカプセルの平均粒径は、0.01〜10μmが好ましいが、0.05〜2μmがさらに好ましく、0.1〜1μmが特に好ましい。平均粒径が大き過ぎると解像度が悪く、また小さ過ぎると経時安定性が悪くなってしまう。
このようなマイクロカプセルは、カプセル同志が熱により合体してもよいし、合体しなくともよい。
【0198】
<バインダーポリマー>
本発明の画像記録層には、画像記録層の皮膜形成性を向上させるためバインダーポリマーを用いることができる。バインダーポリマーは従来公知のものを制限なく使用でき、皮膜性を有するポリマーが好ましい。このようなバインダーポリマーの例としては、アクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、メタクリル樹脂、ポリスチレン系樹脂、ノボラック型フェノール系樹脂、ポリエステル樹脂、合成ゴム、天然ゴムが挙げられる。
バインダーポリマーは、画像部の皮膜強度を向上するために、架橋性を有していてもよい。バインダーポリマーに架橋性を持たせるためには、エチレン性不飽和結合等の架橋性官能基を高分子の主鎖中または側鎖中に導入すればよい。架橋性官能基は、共重合により導入してもよい。
分子の主鎖中にエチレン性不飽和結合を有するポリマーの例としては、ポリ−1,4−ブタジエン、ポリ−1,4−イソプレン等が挙げられる。
分子の側鎖中にエチレン性不飽和結合を有するポリマーの例としては、アクリル酸またはメタクリル酸のエステルまたはアミドのポリマーであって、エステルまたはアミドの残基(−COORまたはCONHRのR)がエチレン性不飽和結合を有するポリマーを挙げることができる。
【0199】
エチレン性不飽和結合を有する残基(上記R)の例としては、−(CH2 n CR1 =CR2 3 、−(CH2 O)n CH2 CR1 =CR2 3 、−(CH2 CH2 O)n CH2 CR1 =CR2 3 、−(CH2 n NH−CO−O−CH2 CR1 =CR2 3 、−(CH2 n −O−CO−CR1 =CR2 3 および(CH2 CH2 O)2 −X(式中、R1 〜R3 はそれぞれ、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アルコキシ基もしくはアリールオキシ基を表し、R1 とR2 またはR3 とは互いに結合して環を形成してもよい。nは、1〜10の整数を表す。Xは、ジシクロペンタジエニル残基を表す。)を挙げることができる。
エステル残基の具体例としては、−CH2 CH=CH2 (特公平7−21633号公報に記載されている。)、−CH2 CH2 O−CH2 CH=CH2 、−CH2 C(CH3 )=CH2 、−CH2 CH=CH−C6 5 、−CH2 CH2 OCOCH=CH−C6 5 、−CH2 CH2 −NHCOO−CH2 CH=CH2 およびCH2 CH2 O−X(式中、Xはジシクロペンタジエニル残基を表す。)が挙げられる。
アミド残基の具体例としては、−CH2 CH=CH2 、−CH2 CH2 −Y(式中、Yはシクロヘキセン残基を表す。)、−CH2 CH2 −OCO−CH=CH2 が挙げられる。
【0200】
架橋性を有するバインダーポリマーは、例えば、その架橋性官能基にフリーラジカル(重合開始ラジカルまたは重合性化合物の重合過程の生長ラジカル)が付加し、ポリマー間で直接にまたは重合性化合物の重合連鎖を介して付加重合して、ポリマー分子間に架橋が形成されて硬化する。または、ポリマー中の原子(例えば、官能性架橋基に隣接する炭素原子上の水素原子)がフリーラジカルにより引き抜かれてポリマーラジカルが生成し、それが互いに結合することによって、ポリマー分子間に架橋が形成されて硬化する。
【0201】
バインダーポリマー中の架橋性基の含有量(ヨウ素滴定によるラジカル重合可能な不飽和二重結合の含有量)は、バインダーポリマー1g当たり、好ましくは0.1〜10.0mmol、より好ましくは1.0〜7.0mmol、最も好ましくは2.0〜5.5mmolである。この範囲で、良好な感度と良好な保存安定性が得られる。
【0202】
また、画像記録層未露光部の機上現像性向上の観点から、バインダーポリマーは、インキおよび/または湿し水に対する溶解性または分散性が高いことが好ましい。インキに対する溶解性または分散性を向上させるためには、バインダーポリマーは、親油的な方が好ましく、湿し水に対する溶解性または分散性を向上させるためには、バインダーポリマーは、親水的な方が好ましい。このため、本発明においては、親油的なバインダーポリマーと親水的なバインダーポリマーを併用することも有効である。
【0203】
親水的なバインダーポリマーとしては、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボキシレート基、ヒドロキシエチル基、ポリオキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ポリオキシプロピル基、アミノ基、アミノエチル基、アミノプロピル基、アンモニウム基、アミド基、カルボキシメチル基、スルホ基、リン酸基等の親水性基を有するものが好適に挙げられる。
【0204】
具体例として、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、デンプン誘導体、カルボキシメチルセルロースおよびそのナトリウム塩、セルロースアセテート、アルギン酸ナトリウム、酢酸ビニル−マレイン酸コポリマー類、スチレン−マレイン酸コポリマー類、ポリアクリル酸類およびそれらの塩、ポリメタクリル酸類およびそれらの塩、ヒドロキシエチルメタクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシエチルアクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシピロピルメタクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシプロピルアクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシブチルメタクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシブチルアクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ポリエチレングリコール類、ヒドロキシプロピレンポリマー類、ポリビニルアルコール類、加水分解度が60モル%以上、好ましくは80モル%以上である加水分解ポリビニルアセテート、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、アクリルアミドのホモポリマーおよびコポリマー、メタクリルアミドのホモポリマーおよびポリマー、N−メチロールアクリルアミドのホモポリマーおよびコポリマー、ポリビニルピロリドン、アルコール可溶性ナイロン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパンとエピクロロヒドリンとのポリエーテル等が挙げられる。
【0205】
バインダーポリマーは、質量平均モル質量が5000以上であるのが好ましく、1万〜30万であるのがより好ましく、また、数平均モル質量が1000以上であるのが好ましく、2000〜25万であるのがより好ましい。多分散度(質量平均モル質量/数平均モル質量)は、1.1〜10であるのが好ましい。
【0206】
バインダーポリマーは、従来公知の方法により合成することができる。合成する際に用いられる溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、エチレンジクロリド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、メタノール、エタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、2−メトキシエチルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、トルエン、酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、ジメチルスルホキシド、水が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上混合して用いられる。
バインダーポリマーを合成する際に用いられるラジカル重合開始剤としては、アゾ系開始剤、過酸化物開始剤等の公知の化合物を用いることができる。
【0207】
バインダーポリマーの含有量は、画像記録層の全固形分に対して、5〜90質量%であり、5〜80質量%であるのが好ましく、10〜70質量%であるのがより好ましい。この範囲で、良好な画像部の強度と画像形成性が得られる。
また、(C)重合性化合物とバインダーポリマーは、質量比で0.5/1〜4/1となる量で用いるのが好ましい。
【0208】
<界面活性剤>
本発明において、画像記録層には、印刷開始時の機上現像性を促進させるため、および、塗布面状を向上させるために界面活性剤を用いるのが好ましい。界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。界面活性剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0209】
本発明に用いられるノニオン界面活性剤は、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、グリセリン脂肪酸部分エステル類、ソルビタン脂肪酸部分エステル類、ペンタエリスリトール脂肪酸部分エステル類、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレン化ひまし油類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸部分エステル類、脂肪酸ジエタノールアミド類、N,N−ビス−2−ヒドロキシアルキルアミン類、ポリオキシエチレンアルキルアミン、トリエタノールアミン脂肪酸エステル、トリアルキルアミンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体が挙げられる。
【0210】
本発明に用いられるアニオン界面活性剤は、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、脂肪酸塩類、アビエチン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、アルカンスルホン酸塩類、ジアルキルスルホ琥珀酸エステル塩類、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルフェノキシポリオキシエチレンプロピルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルスルホフェニルエーテル塩類、N−メチル−N−オレイルタウリンナトリウム塩、N−アルキルスルホコハク酸モノアミド二ナトリウム塩、石油スルホン酸塩類、硫酸化牛脂油、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、アルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、アルキルリン酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステル塩類、スチレン/無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、オレフィン/無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物類が挙げられる。
【0211】
本発明に用いられるカチオン界面活性剤は、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、アルキルアミン塩類、第四級アンモニウム塩類、ポリオキシエチレンアルキルアミン塩類、ポリエチレンポリアミン誘導体が挙げられる。
本発明に用いられる両性界面活性剤は、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、カルボキシベタイン類、アミノカルボン酸類、スルホベタイン類、アミノ硫酸エステル類、イミタゾリン類が挙げられる。
【0212】
なお、上記界面活性剤の中で、「ポリオキシエチレン」とあるものは、ポリオキシメチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン等の「ポリオキシアルキレン」に読み替えることもでき、本発明においては、それらの界面活性剤も用いることができる。
【0213】
さらに好ましい界面活性剤としては、分子内にパーフルオロアルキル基を含有するフッ素系界面活性剤が挙げられる。このようなフッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル等のアニオン型;パーフルオロアルキルベタイン等の両性型;パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩等のカチオン型;パーフルオロアルキルアミンオキサイド、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキル基および親水性基を含有するオリゴマー、パーフルオロアルキル基および親油性基を含有するオリゴマー、パーフルオロアルキル基、親水性基および親油性基を含有するオリゴマー、パーフルオロアルキル基および親油性基を含有するウレタン等のノニオン型が挙げられる。また、特開昭62−170950号、同62−226143号および同60−168144号の各公報に記載されているフッ素系界面活性剤も好適に挙げられる。
【0214】
界面活性剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
界面活性剤の含有量は、画像記録層の全固形分に対して、0.001〜10質量%であるのが好ましく、0.01〜5質量%であるのがより好ましい。
【0215】
<着色剤>
本発明では、さらに必要に応じてこれら以外に種々の化合物を添加してもよい。例えば、可視光域に大きな吸収を持つ染料を画像の着色剤として使用することができる。具体的には、オイルイエロー#101、オイルイエロー#103、オイルピンク#312、オイルグリーンBG、オイルブルーBOS、オイルブルー#603、オイルブラックBY、オイルブラックBS、オイルブラックT−505(以上オリエント化学工業(株)製)、ビクトリアピュアブルー、クリスタルバイオレット(CI42555)、メチルバイオレット(CI42535)、エチルバイオレット、ローダミンB(CI145170B)、マラカイトグリーン(CI42000)、メチレンブルー(CI52015)等、および特開昭62−293247号に記載されている染料を挙げることができる。また、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、カーボンブラック、酸化チタン等の顔料も好適に用いることができる。
これらの着色剤は、画像形成後、画像部と非画像部の区別がつきやすいので、添加する方が好ましい。なお、添加量は、画像記録材料全固形分に対し、0.01〜10質量%の割合である。
【0216】
<焼き出し剤>
本発明の画像記録層には、焼き出し画像生成のため、酸またはラジカルによって変色する化合物を添加することができる。このような化合物としては、例えばジフェニルメタン系、トリフェニルメタン系、チアジン系、オキサジン系、キサンテン系、アンスラキノン系、イミノキノン系、アゾ系、アゾメチン系等の各種色素が有効に用いられる。
【0217】
具体例としては、ブリリアントグリーン、エチルバイオレット、メチルグリーン、クリスタルバイオレット、ベイシックフクシン、メチルバイオレット2B、キナルジンレッド、ローズベンガル、メタニルイエロー、チモールスルホフタレイン、キシレノールブルー、メチルオレンジ、パラメチルレッド、コンゴーフレッド、ベンゾプルプリン4B、α−ナフチルレッド、ナイルブルー2B、ナイルブルーA、メチルバイオレット、マラカイトグリーン、パラフクシン、ビクトリアピュアブルーBOH[保土ケ谷化学(株)製]、オイルブルー#603[オリエント化学工業(株)製]、オイルピンク#312[オリエント化学工業(株)製]、オイルレッド5B[オリエント化学工業(株)製]、オイルスカーレット#308[オリエント化学工業(株)製]、オイルレッドOG[オリエント化学工業(株)製]、オイルレッドRR[オリエント化学工業(株)製]、オイルグリーン#502[オリエント化学工業(株)製]、スピロンレッドBEHスペシャル[保土ケ谷化学工業(株)製]、m−クレゾールパープル、クレゾールレッド、ローダミンB、ローダミン6G、スルホローダミンB、オーラミン、4−p−ジエチルアミノフェニルイミノナフトキノン、2−カルボキシアニリノ−4−p−ジエチルアミノフェニルイミノナフトキノン、2−カルボキシステアリルアミノ−4−p−N,N−ビス(ヒドロキシエチル)アミノ−フェニルイミノナフトキノン、1−フェニル−3−メチル−4−p−ジエチルアミノフェニルイミノ−5−ピラゾロン、1−β−ナフチル−4−p−ジエチルアミノフェニルイミノ−5−ピラゾロン等の染料やp,p',p"−ヘキサメチルトリアミノトリフェニルメタン(ロイコクリスタルバイオレット)、Pergascript Blue SRB(チバガイギー社製)等のロイコ染料が挙げられる。
【0218】
上記の他に、感熱紙や感圧紙用の素材として知られているロイコ染料も好適なものとして挙げられる。具体例としては、クリスタルバイオレットラクトン、マラカイトグリーンラクトン、ベンゾイルロイコメチレンブルー、2−(N−フェニル−N−メチルアミノ)−6−(N−p−トリル−N−エチル)アミノ−フルオラン、2−アニリノ−3−メチル−6−(N−エチル−p−トルイジノ)フルオラン、3,6−ジメトキシフルオラン、3−(N,N−ジエチルアミノ)−5−メチル−7−(N,N−ジベンジルアミノ)−フルオラン、3−(N−シクロヘキシル−N−メチルアミノ)−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−(N,N−ジエチルアミノ)−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−(N,N−ジエチルアミノ)−6−メチル−7−キシリジノフルオラン、3−(N,N−ジエチルアミノ)−6−メチルー7−クロロフルオラン、3−(N,N−ジエチルアミノ)−6−メトキシ−7−アミノフルオラン、3−(N,N−ジエチルアミノ)−7−(4−クロロアニリノ)フルオラン、3−(N,N−ジエチルアミノ)−7−クロロフルオラン、3−(N,N−ジエチルアミノ)−7−ベンジルアミノフルオラン、3−(N,N−ジエチルアミノ)−7,8−ベンゾフロオラン、3−(N,N−ジブチルアミノ)−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−(N,N−ジブチルアミノ)−6−メチル−7−キシリジノフルオラン、3−ピペリジノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ピロリジノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3,3−ビス(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3,3−ビス(1−n−ブチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3,3−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド、3−(4−ジエチルアミノ−2−エトキシフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4−ザフタリド、3−(4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、などが挙げられる。
【0219】
酸またはラジカルによって変色する染料の好適な添加量は、それぞれ、画像記録層固形分に対して0.01〜10質量%の割合である。
【0220】
<重合禁止剤>
本発明の画像記録層には、画像記録層の製造中または保存中において(C)ラジカル重合性化合物の不要な熱重合を防止するために、少量の熱重合防止剤を添加するのが好ましい。
熱重合防止剤としては、例えば、ハイドロキノン、p−メトキシフェノール、ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ピロガロール、t−ブチルカテコール、ベンゾキノン、4,4′−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2′−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩が好適に挙げられる。熱重合防止剤の添加量は、画像記録層の全固形分に対して、約0.01〜約5質量%であるのが好ましい。
【0221】
<高級脂肪酸誘導体等>
本発明の画像記録層には、酸素による重合阻害を防止するために、ベヘン酸やベヘン酸アミドのような高級脂肪酸誘導体等を添加して、塗布後の乾燥の過程で画像記録層の表面に偏在させてもよい。高級脂肪酸誘導体の添加量は、画像記録層の全固形分に対して、約0.1〜約10質量%であるのが好ましい。
【0222】
<可塑剤>
本発明の画像記録層は、機上現像性を向上させるために、可塑剤を含有してもよい。
可塑剤としては、例えば、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジオクチルフタレート、オクチルカプリルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジトリデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジアリルフタレート等のフタル酸エステル類;ジメチルグリコールフタレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、トリエチレングリコールジカプリル酸エステル等のグリコールエステル類;トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート等のリン酸エステル類;ジイソブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジメチルセバケート、ジブチルセバケート、ジオクチルアゼレート、ジブチルマレエート等の脂肪族二塩基酸エステル類;ポリグリシジルメタクリレート、クエン酸トリエチル、グリセリントリアセチルエステル、ラウリン酸ブチル等が好適に挙げられる。
可塑剤の含有量は、画像記録層の全固形分に対して、約30質量%以下であるのが好ましい。
【0223】
<無機微粒子>
本発明の画像記録層は、画像部の硬化皮膜強度向上および非画像部の機上現像性向上のために、無機微粒子を含有してもよい。
無機微粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化チタン、炭酸マグネシウム、アルギン酸カルシウムまたはこれらの混合物が好適に挙げられる。これらは光熱変換性でなくても、皮膜の強化、表面粗面化による界面接着性の強化等に用いることができる。
無機微粒子は、平均粒径が5nm〜10μmであるのが好ましく、0.5μm〜3μmであるのがより好ましい。上記範囲であると、画像記録層中に安定に分散して、画像記録層の膜強度を十分に保持し、印刷時の汚れを生じにくい親水性に優れる非画像部を形成することができる。
上述したような無機微粒子は、コロイダルシリカ分散物等の市販品として容易に入手することができる。
無機微粒子の含有量は、画像記録層の全固形分に対して、40質量%以下であるのが好ましく、30質量%以下であるのがより好ましい。
【0224】
<低分子親水性化合物>
本発明の画像記録層は、機上現像性向上のため、親水性低分子化合物を含有してもよい。親水性低分子化合物としては、例えば、水溶性有機化合物としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコール類およびそのエーテルまたはエステル誘導体類、グリセリン、ペンタエリスリトール等のポリヒドロキシ類、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンモノエタノールアミン等の有機アミン類およびその塩、トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等の有機スルホン酸類およびその塩、フェニルホスホン酸等の有機ホスホン酸類およびその塩、酒石酸、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、グルコン酸、アミノ酸類等の有機カルボン酸類およびその塩等が上げられる。
【0225】
<画像記録層の形成>
本発明の画像記録層は、必要な上記各成分を溶剤に分散、または溶かして塗布液を調製し、塗布される。ここで使用する溶剤としては、エチレンジクロライド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、ジメトキシエタン、乳酸メチル、乳酸エチル、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラメチルウレア、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチルラクトン、トルエン、水等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。これらの溶剤は、単独または混合して使用される。塗布液の固形分濃度は、好ましくは1〜50質量%である。
本発明の画像記録層は、同一または異なる上記各成分を同一または異なる溶剤に分散、または溶かした塗布液を複数調製し、複数回の塗布、乾燥を繰り返して形成することも可能である。
【0226】
また塗布、乾燥後に得られる支持体上の画像記録層塗布量(固形分)は、用途によって異なるが、一般的に0.3〜3.0g/m2が好ましい。この範囲で、良好な感度と画像記録層の良好な皮膜特性が得られる。
塗布する方法としては、種々の方法を用いることができる。例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布等を挙げられる。
【0227】
〔保護層〕
本発明の平版印刷版原版においては、画像記録層における傷等の発生防止、酸素遮断、高照度レーザー露光時のアブレーション防止のため、必要に応じて、画像記録層の上に保護層を設けることができる。
本発明においては、通常、露光を大気中で行うが、保護層は、画像記録層中で露光により生ずる画像形成反応を阻害する大気中に存在する酸素、塩基性物質等の低分子化合物の画像記録層への混入を防止し、大気中での露光による画像形成反応の阻害を防止する。したがって、保護層に望まれる特性は、酸素等の低分子化合物の透過性が低いことであり、さらに、露光に用いられる光の透過性が良好で、画像記録層との密着性に優れ、かつ、露光後の機上現像処理工程で容易に除去することができるものであるのが好ましい。
このような特性を有する保護層については、以前より種々検討がなされており、例えば、米国特許第3、458、311号明細書および特公昭55−49729号公報に詳細に記載されている。
【0228】
保護層に用いられる材料としては、例えば、比較的、結晶性に優れる水溶性高分子化合物が挙げられる。具体的には、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、酸性セルロース類、ゼラチン、アラビアゴム、ポリアクリル酸等の水溶性ポリマーが挙げられる。なかでも、ポリビニルアルコール(PVA)を主成分として用いると、酸素遮断性、現像除去性等の基本的な特性に対して最も良好な結果を与える。ポリビニルアルコールは、保護層に必要な酸素遮断性と水溶性を与えるための未置換ビニルアルコール単位を含有する限り、一部がエステル、エーテルまたはアセタールで置換されていてもよく、一部が他の共重合成分を有していてもよい。
【0229】
ポリビニルアルコールの具体例としては、71〜100モル%加水分解された重合度300〜2400の範囲のものが好適に挙げられる。具体的には、例えば、(株)クラレ製のPVA−105、PVA−110、PVA−117、PVA−117H、PVA−120、PVA−124、PVA−124H、PVA−CS、PVA−CST、PVA−HC、PVA−203、PVA−204、PVA−205、PVA−210、PVA−217、PVA−220、PVA−224、PVA−217EE、PVA−217E、PVA−220E、PVA−224E、PVA−405、PVA−420、PVA−613、L−8が挙げられる。
【0230】
保護層の成分(PVAの選択、添加剤の使用等)、塗布量等は、酸素遮断性および現像除去性のほか、カブリ性、密着性、耐傷性等を考慮して適宜選択される。一般には、PVAの加水分解率が高いほど(すなわち、保護層中の未置換ビニルアルコール単位含有率が高いほど)、また、膜厚が厚いほど、酸素遮断性が高くなり、感度の点で好ましい。また、製造時および保存時に不要な重合反応、画像露光時の不要なカブリおよび画線の太り等を防止するためには、酸素遮断性が高くなりすぎないことが好ましい。従って、25℃、1気圧下における酸素透過性Aが0.2≦A≦20(ml/m2・day)であることが好ましい。
【0231】
本発明の保護層の好ましい態様として、特開平11−38633号公報等に記載の無機質の層状化合物を含有させた保護層を挙げることができる。無機質の層状化合物と上記バインダーと組み合わせによって良好な酸素遮断性を得ることができる。本発明において用いられる無機質層状化合物とは、薄い平版状の形状を有する粒子であり、例えば、
【0232】
一般式 A(B,C)2-5410(OH,F,O)2
【0233】
〔ただし、AはK,Na,Caの何れか、BおよびCはFe(II),Fe(III),Mn,Al,Mg,Vの何れかであり、DはSiまたはAlである。〕で表される天然雲母、合成雲母等の雲母群、式3MgO・4SiO・H2Oで表されるタルク、テニオライト、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、リン酸ジルコニウムなどが挙げられる。
【0234】
上記雲母群においては、天然雲母としては白雲母、ソーダ雲母、金雲母、黒雲母および鱗雲母が挙げられる。また、合成雲母としては、フッ素金雲母KMg3(AlSi310)F2、カリ四ケイ素雲母KMg2.5Si410)F2等の非膨潤性雲母、およびNaテトラシリリックマイカNaMg2.5(Si410)F2、NaまたはLiテニオライト(Na,Li)Mg2Li(Si410)F2、モンモリロナイト系のNaまたはLiヘクトライト(Na,Li)1/8Mg2/5Li1/8(Si410)F2等の膨潤性雲母等が挙げられる。さらに合成スメクタイトも有用である。
【0235】
本発明においては、上記の無機質の層状化合物の中でも、合成の無機質の層状化合物であるフッ素系の膨潤性雲母が特に有用である。
【0236】
本発明で使用する無機質の層状化合物の形状としては、拡散制御の観点からは、厚さは薄ければ薄いほどよく、平面サイズは塗布面の平滑性や活性光線の透過性を阻害しない限りにおいて大きいほどよい。従って、アスペクト比は20以上であり、好ましくは100以上、特に好ましくは200以上である。なお、アスペクト比は粒子の長径に対する厚さの比であり、たとえば、粒子の顕微鏡写真による投影図から測定することができる。アスペクト比が大きい程、得られる効果が大きい。
【0237】
本発明で使用する無機質の層状化合物の粒子径は、その平均長径が0.3〜20μm、好ましくは0.5〜10μm、特に好ましくは1〜5μmである。また、該粒子の平均の厚さは、0.1μm以下、好ましくは、0.05μm以下、特に好ましくは、0.01μm以下である。例えば、無機質の層状化合物のうち、代表的化合物である膨潤性合成雲母のサイズは厚さが1〜50nm、面サイズが1〜20μm程度である。
【0238】
このようにアスペクト比が大きい無機質の層状化合物の粒子を保護層に含有させると、塗膜強度が向上し、また、酸素や水分の透過を効果的に防止しうるため、変形などによる保護層の劣化を防止する。
【0239】
無機質の層状化合物の保護層に含有される量は、保護層の全固形分量に対し、好ましくは5質量%〜55質量%、より好ましくは10質量%〜40質量%である。5質量%以上とすることで、耐接着性に対して効果が認められ、55質量%以下であれば塗膜形成性が良好で十分な感度が得られる。複数種の無機質の層状化合物を併用した場合でも、これらの無機質層状化合物の合計量が上記の質量%であることが好ましい。
【0240】
保護層に用いる無機質層状化合物の分散は、例えば、下記のようにして行われる。まず、水100質量部に先に無機質層状化合物の好ましいものとして挙げた膨潤性の層状化合物を5〜10質量部添加し、充分水になじませ、膨潤させた後、分散機にかけて分散する。
ここで用いる分散機としては、機械的に直接力を加えて分散する各種ミル、大きな剪断力を有する高速攪拌型分散機、高強度の超音波エネルギーを与える分散機等が挙げられる。具体的には、ボールミル、サンドグラインダーミル、ビスコミル、コロイドミル、ホモジナイザー、ティゾルバー、ポリトロン、ホモミキサー、ホモブレンダー、ケディミル、ジェットアジター、毛細管式乳化装置、液体サイレン、電磁歪式超音波発生機、ポールマン笛を有する乳化装置等が挙げられる。上記の方法で分散した無機質層状化合物の5〜10質量%の分散物は高粘度あるいはゲル状であり、保存安定性は極めて良好である。この分散物を用いて保護層塗布液を調製する際には、水で希釈し、充分攪拌した後、バインダー溶液と配合して調製するのが好ましい。
【0241】
保護層の他の組成物として、グリセリン、ジプロピレングリコール等を水溶性高分子化合物に対して数質量%相当量添加して可撓性を付与することができ、また、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤;アルキルアミノカルボン酸塩、アルキルアミノジカルボン酸塩等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等の非イオン界面活性剤を(共)重合体に対して数質量%添加することができる。保護層の膜厚は、0.1〜5μmが適当であり、特に0.2〜2μmが好適である。
【0242】
また、画像部との密着性、耐傷性等も平版印刷版原版の取り扱い上、極めて重要である。すなわち、水溶性高分子化合物を含有するため親水性である保護層を、画像記録層が親油性である場合に、画像記録層に積層すると、接着力不足による保護層のはく離が生じやすく、はく離部分において、酸素による重合阻害に起因する膜硬化不良等の欠陥を引き起こすことがある。
【0243】
これに対して、画像記録層と保護層との間の接着性を改良すべく、種々の提案がなされている。例えば、特開昭49−70702号公報には、主にポリビニルアルコールからなる親水性ポリマー中に、アクリル系エマルション、水不溶性ビニルピロリドン−ビニルアセテート共重合体等を20〜60質量%混合させ、画像記録層上に積層することにより、十分な接着性が得られることが記載されている。
【0244】
このように調製された保護層塗布液を、支持体上に備えられた画像記録層の上に塗布し、乾燥して保護層を形成する。塗布溶剤はバインダーとの関連において適宜選択することができるが、水溶性ポリマーを用いる場合には、蒸留水、精製水を用いることが好ましい。保護層の塗布方法は、特に制限されるものではなく、米国特許第3,458,311号明細書または特公昭55−49729号公報に記載されている方法など公知の方法を適用することができる。具体的には、例えば、ブレード塗布法、エアナイフ塗布法、グラビア塗布法、ロールコーティング塗布法、スプレー塗布法、ディップ塗布法、バー塗布法等が挙げられる。
【0245】
保護層の塗布量としては、乾燥後の塗布量で、0.01〜10g/m2 の範囲であることが好ましく、0.02〜3g/m2 の範囲がより好ましく、最も好ましくは0.02〜1g/m2の範囲である。
【0246】
さらに、保護層には、他の機能を付与することもできる。例えば、露光に用いられる赤外線の透過性に優れ、かつ、それ以外の波長の光を効率よく吸収しうる、着色剤(例えば、水溶性染料)の添加により、感度低下を引き起こすことなく、セーフライト適性を向上させることができる。
【0247】
〔支持体〕
本発明の平版印刷版原版に用いられる支持体は、金属支持体であることが好ましい。例えば、金属板(例えば、アルミニウム、亜鉛、銅等)、金属がラミネートまたは蒸着された紙またはプラスチックフィルム(例えば、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール等)が挙げられる。なかでも、寸法安定性がよく、比較的安価であるアルミニウム板が好ましい。
【0248】
アルミニウム板は、純アルミニウム板、アルミニウムを主成分とし、微量の異元素を含む合金板、または、アルミニウムもしくはアルミニウム合金の薄膜にプラスチックがラミネートされているものである。アルミニウム合金に含まれる異元素には、ケイ素、鉄、マンガン、銅、マグネシウム、クロム、亜鉛、ビスマス、ニッケル、チタン等がある。合金中の異元素の含有量は10質量%以下であるのが好ましい。本発明においては、純アルミニウム板が好ましいが、完全に純粋なアルミニウムは精錬技術上製造が困難であるので、わずかに異元素を含有するものでもよい。アルミニウム板は、その組成が特定されるものではなく、公知公用の素材のものを適宜利用することができる。
【0249】
支持体の厚さは0.1〜0.6mmであるのが好ましく、0.15〜0.4mmであるのがより好ましい。
【0250】
アルミニウム板を使用するに先立ち、粗面化処理、陽極酸化処理等の表面処理を施すのが好ましい。表面処理により、親水性の向上および画像記録層と支持体との密着性の確保が容易になる。アルミニウム板を粗面化処理するに先立ち、所望により、表面の圧延油を除去するための界面活性剤、有機溶剤、アルカリ性水溶液等による脱脂処理が行われる。
【0251】
アルミニウム板表面の粗面化処理は、種々の方法により行われるが、例えば、機械的粗面化処理、電気化学的粗面化処理(電気化学的に表面を溶解させる粗面化処理)、化学的粗面化処理(化学的に表面を選択溶解させる粗面化処理)が挙げられる。
機械的粗面化処理の方法としては、ボール研磨法、ブラシ研磨法、ブラスト研磨法、バフ研磨法等の公知の方法を用いることができる。また、アルミニウムの圧延段階において凹凸を設けたロールで凹凸形状を転写する転写法も用いてもかまわない。
電気化学的粗面化処理の方法としては、例えば、塩酸、硝酸等の酸を含有する電解液中で交流または直流により行う方法が挙げられる。また、特開昭54−63902号公報に記載されているような混合酸を用いる方法も挙げられる。
【0252】
粗面化処理されたアルミニウム板は、必要に応じて、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の水溶液を用いてアルカリエッチング処理を施され、さらに、中和処理された後、所望により、耐摩耗性を高めるために陽極酸化処理を施される。
【0253】
アルミニウム板の陽極酸化処理に用いられる電解質としては、多孔質酸化皮膜を形成させる種々の電解質の使用が可能である。一般的には、硫酸、塩酸、シュウ酸、クロム酸またはそれらの混酸が用いられる。それらの電解質の濃度は電解質の種類によって適宜決められる。
陽極酸化処理の条件は、用いられる電解質により種々変わるので一概に特定することはできないが、一般的には、電解質濃度1〜80質量%溶液、液温5〜70℃、電流密度5〜60A/dm2、電圧1〜100V、電解時間10秒〜5分であるのが好ましい。形成される陽極酸化皮膜の量は、1.0〜5.0g/m2であるのが好ましく、1.5〜4.0g/m2であるのがより好ましい。この範囲で、良好な耐刷性と平版印刷版の非画像部の良好な耐傷性が得られる。
【0254】
本発明で用いられる支持体としては、上記のような表面処理をされ陽極酸化皮膜を有する基板そのままでもよいが、上層との接着性、親水性、汚れ難さ、断熱性などの一層改良のため、必要に応じて、特開2001−253181号や特開2001−322365号の各公報に記載されている陽極酸化皮膜のマイクロポアの拡大処理、や封孔処理および親水性化合物を含有する水溶液に浸漬する表面親水化処理などを適宜選択して行うことができる。もちろん、これら拡大処理、封孔処理はこれらに記載のものに限られたものではなく従来公知の何れも方法も行うことができる。例えば、封孔処理としては、蒸気封孔のほかフッ化ジルコン酸の単独処理、フッ化ナトリウムによる処理、塩化リチウムを添加した蒸気封孔でも可能である。
【0255】
本発明に用いられる封孔処理は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができるが、なかでも、無機フッ素化合物を含有する水溶液による封孔処理、水蒸気による封孔処理および熱水による封孔処理が好ましい。以下にそれぞれ説明する。
【0256】
<1>無機フッ素化合物を含有する水溶液による封孔処理
無機フッ素化合物を含有する水溶液による封孔処理に用いられる無機フッ素化合物としては、金属フッ化物が好適に挙げられる。
具体的には、例えば、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化ジルコン酸ナトリウム、フッ化ジルコン酸カリウム、フッ化チタン酸ナトリウム、フッ化チタン酸カリウム、フッ化ジルコン酸アンモニウム、フッ化チタン酸アンモニウム、フッ化チタン酸カリウム、フッ化ジルコン酸、フッ化チタン酸、ヘキサフルオロケイ酸、フッ化ニッケル、フッ化鉄、フッ化リン酸、フッ化リン酸アンモニウムが挙げられる。なかでも、フッ化ジルコン酸ナトリウム、フッ化チタン酸ナトリウム、フッ化ジルコン酸、フッ化チタン酸が好ましい。
【0257】
水溶液中の無機フッ素化合物の濃度は、陽極酸化皮膜のマイクロポアの封孔を十分に行う点で、0.01質量%以上であるのが好ましく、0.05質量%以上であるのがより好ましく、また、耐汚れ性の点で、1質量%以下であるのが好ましく、0.5質量%以下であるのがより好ましい。
【0258】
無機フッ素化合物を含有する水溶液は、さらに、リン酸塩化合物を含有するのが好ましい。リン酸塩化合物を含有すると、陽極酸化皮膜の表面の親水性が向上するため、機上現像性および耐汚れ性を向上させることができる。
【0259】
リン酸塩化合物としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の金属のリン酸塩が好適に挙げられる。
具体的には、例えば、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸一アンモニウム、リン酸一カリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸カルシウム、リン酸水素アンモニウムナトリウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸マグネシウム、リン酸第一鉄、リン酸第二鉄、リン酸二水素ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸鉛、リン酸二アンモニウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸リチウム、リンタングステン酸、リンタングステン酸アンモニウム、リンタングステン酸ナトリウム、リンモリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウムが挙げられる。なかでも、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウムが好ましい。
無機フッ素化合物とリン酸塩化合物の組み合わせは、特に限定されないが、水溶液が、無機フッ素化合物として、少なくともフッ化ジルコン酸ナトリウムを含有し、リン酸塩化合物として、少なくともリン酸二水素ナトリウムを含有するのが好ましい。
【0260】
水溶液中のリン酸塩化合物の濃度は、機上現像性および耐汚れ性の向上の点で、0.01質量%以上であるのが好ましく、0.1質量%以上であるのがより好ましく、また、溶解性の点で、20質量%以下であるのが好ましく、5質量%以下であるのがより好ましい。
【0261】
水溶液中の各化合物の割合は、特に限定されないが、無機フッ素化合物とリン酸塩化合物の質量比が、1/200〜10/1であるのが好ましく、1/30〜2/1であるのがより好ましい。
また、水溶液の温度は、20℃以上であるのが好ましく、40℃以上であるのがより好ましく、また、100℃以下であるのが好ましく、80℃以下であるのがより好ましい。
また、水溶液は、pH1以上であるのが好ましく、pH2以上であるのがより好ましく、また、pH11以下であるのが好ましく、pH5以下であるのがより好ましい。
無機フッ素化合物を含有する水溶液による封孔処理の方法は、特に限定されず、例えば、浸漬法、スプレー法が挙げられる。これらは単独で1回または複数回用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なかでも、浸漬法が好ましい。浸漬法を用いて処理する場合、処理時間は、1秒以上であるのが好ましく、3秒以上であるのがより好ましく、また、100秒以下であるのが好ましく、20秒以下であるのがより好ましい。
【0262】
<2>水蒸気による封孔処理
水蒸気による封孔処理は、例えば、加圧または常圧の水蒸気を連続的にまたは非連続的に、陽極酸化皮膜に接触させる方法が挙げられる。
水蒸気の温度は、80℃以上であるのが好ましく、95℃以上であるのがより好ましく、また、105℃以下であるのが好ましい。
水蒸気の圧力は、(大気圧−50mmAq)から(大気圧+300mmAq)までの範囲(1.008×105 〜1.043×105 Pa)であるのが好ましい。
また、水蒸気を接触させる時間は、1秒以上であるのが好ましく、3秒以上であるのがより好ましく、また、100秒以下であるのが好ましく、20秒以下であるのがより好ましい。
【0263】
<3>熱水による封孔処理
水蒸気による封孔処理は、例えば、陽極酸化皮膜を形成させたアルミニウム板を熱水に浸漬させる方法が挙げられる。
熱水は、無機塩(例えば、リン酸塩)または有機塩を含有していてもよい。
熱水の温度は、80℃以上であるのが好ましく、95℃以上であるのがより好ましく、また、100℃以下であるのが好ましい。
また、熱水に浸漬させる時間は、1秒以上であるのが好ましく、3秒以上であるのがより好ましく、また、100秒以下であるのが好ましく、20秒以下であるのがより好ましい。
【0264】
前記親水化処理としては、米国特許第2,714,066号、同第3,181,461号、同第3,280,734号および同第3,902,734号の各明細書に記載されているようなアルカリ金属シリケート法がある。この方法においては、支持体をケイ酸ナトリウム等の水溶液で浸漬処理し、または電解処理する。そのほかに、特公昭36−22063号公報に記載されているフッ化ジルコン酸カリウムで処理する方法、米国特許第3,276,868号、同第4,153,461号および同第4,689,272号の各明細書に記載されているようなポリビニルホスホン酸で処理する方法等が挙げられる。
【0265】
支持体は、中心線平均粗さが0.10〜1.2μmであるのが好ましい。この範囲で、画像記録層との良好な密着性、良好な耐刷性と良好な汚れ難さが得られる。
【0266】
〔バックコート層〕
支持体に表面処理を施した後または下塗り層を形成させた後、必要に応じて、支持体の裏面にバックコート層を設けることができる。
バックコート層としては、例えば、特開平5−45885号公報に記載されている有機高分子化合物、特開平6−35174号公報に記載されている有機金属化合物または無機金属化合物を加水分解および重縮合させて得られる金属酸化物からなる被覆層が好適に挙げられる。なかでも、Si(OCH34、Si(OC254、Si(OC374、Si(OC494等のケイ素のアルコキシ化合物を用いるのが、原料が安価で入手しやすい点で好ましい。
【0267】
〔平版印刷方法〕
本発明の平版印刷版原版を用いる平版印刷方法においては、平版印刷版原版を赤外線レーザーで画像様に露光する。本発明に用いられる赤外線レーザーは、特に限定されないが、波長760〜1200nmの赤外線を放射する固体レーザーおよび半導体レーザーが好適に挙げられる。赤外線レーザーの出力は、100mW以上であるのが好ましい。また、露光時間を短縮するため、マルチビームレーザーデバイスを用いるのが好ましい。1画素あたりの露光時間は、20マイクロ秒以内であるのが好ましい。また、照射エネルギー量は、10〜300mJ/cm2であるのが好ましい。
【0268】
本発明の平版印刷方法においては、平版印刷版原版を赤外線レーザーで画像様に露光した後、何らの現像処理工程を経ることなく油性インキと水性成分とを供給して印刷する。具体的には、平版印刷版原版を赤外線レーザーで露光した後、現像処理工程を経ることなく印刷機に装着して印刷する方法、平版印刷版原版を印刷機に装着した後、印刷機上において赤外線レーザーで露光し、印刷する方法等が挙げられる。
【0269】
平版印刷版原版を赤外線レーザーで画像様に露光した後、湿式現像処理工程等の現像処理工程を経ることなく水性成分と油性インキとを供給して印刷すると、機上現像型の平版印刷版原版の場合は、画像記録層の露光部においては、露光により硬化した画像記録層が、親油性表面を有する油性インキ受容部を形成する。一方、未露光部においては、供給された水性成分および/または油性インキによって、未硬化の画像記録層が溶解しまたは分散して除去され、その部分に親水性の表面が露出する。その結果、水性成分は露出した親水性の表面に付着し、油性インキは露光領域の画像記録層に着肉し、印刷が開始される。無処理型の平版印刷版原版の場合は、未露光部は親水性表面であり、露光部が親油性表面に変換されているので、水性成分および/または油性インキを供給すると未露光部に水性成分が付着し、露光部に選択的に油性インキが着き、そのまま印刷が可能となる。ここで、最初に版面に供給されるのは、水性成分でもよく、油性インキでもよいが、本発明の機上現像型の平版印刷版原版では、水性成分が未露光部の画像記録層により汚染されることを防止する点で、最初に油性インキを供給するのが好ましい。水性成分および油性インキとしては、通常の平版印刷用の、湿し水と印刷インキが用いられる。このようにして、平版印刷版原版はオフセット印刷機上で機上現像され、そのまま多数枚の印刷に用いられる。
【実施例】
【0270】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0271】
[実施例1〜36および比較例1〜7]
1−1.平版印刷版原版(1)〜(16)の作製
【0272】
(1)支持体の作製
厚み0.3mmのアルミニウム板(材質1050)の表面の圧延油を除去するため、10質量%アルミン酸ソーダ水溶液を用いて50℃で30秒間、脱脂処理を施した後、毛径0.3mmの束植ナイロンブラシ3本とメジアン径25μmのパミス−水懸濁液(比重1.1g/cm3)を用いアルミ表面を砂目立てして、水でよく洗浄した。この板を45℃の25質量%水酸化ナトリウム水溶液に9秒間浸漬してエッチングを行い、水洗後、さらに60℃で20質量%硝酸に20秒間浸漬し、水洗した。この時の砂目立て表面のエッチング量は約3g/m2であった。
【0273】
次に、60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、硝酸1質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)、液温50℃であった。交流電源波形は、電流値がゼロからピークに達するまでの時間TPが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電流密度は電流のピーク値で30A/dm2、補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。
硝酸電解における電気量はアルミニウム板が陽極時の電気量175C/dm2であった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0274】
次に、塩酸0.5質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)、液温50℃の電解液にて、アルミニウム板が陽極時の電気量50C/dm2の条件で、硝酸電解と同様の方法で、電気化学的な粗面化処理を行い、その後、スプレーによる水洗を行った。この板を15質量%硫酸(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)を電解液として電流密度15A/dm2で2.5g/m2の直流陽極酸化皮膜を設けた後、水洗、乾燥した。
その後、非画像部の親水性を確保するため、1.5質量%3号ケイ酸ソーダ水溶液を用いて70℃で12秒間、シリケート処理を施した。Siの付着量は7mg/m2であった。その後、水洗して、支持体を得た。この基板の中心線平均粗さ(Ra)を直径2μmの針を用いて測定したところ、0.51μmであった。
【0275】
さらに下記下塗り液(1)〜(16)を乾燥塗布量が表1記載の塗布量になるように塗布して、以下の実験に用いる支持体を作製した。
【0276】
下塗り液(1)〜(16)
・下記の下塗り化合物(1) 0.01g
・表1記載のキレート剤 0.008 g
・メタノール 9.00g
・蒸留水 1.00g
【0277】
【化41】

【0278】
(2)画像記録層の形成
上記下塗り層を有する支持体上に、下記組成の画像記録層塗布液(1)をバー塗布した後、100℃60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量1.0g/m2の画像記録層を形成した。画像記録層塗布液(1)は下記感光液(1)およびミクロゲル液(1)を塗布直前に混合し攪拌することにより得た。
【0279】
感光液(1)
・下記のバインダーポリマー(1) 0.162g
・下記の赤外線吸収剤(1) 0.030g
・下記の重合開始剤(1) 0.162g
・重合性化合物(アロニックスM215、東亞合成(株)製) 0.385g
・下記のフッ素系界面活性剤(1) 0.044g
・メチルエチルケトン 1.091g
・1−メトキシ−2−プロパノール 8.609g
【0280】
ミクロゲル液(1)
・下記の通り合成したミクロゲル(1) 2.640g
・蒸留水 2.425g
【0281】
【化42】

【0282】
【化43】

【0283】
【化44】

【0284】
【化45】

【0285】
(ミクロゲル(1)の合成)
油相成分として、トリメチロールプロパンとキシレンジイソシアナート付加体(三井武田ケミカル(株)製、タケネートD−110N)10g、ペンタエリスリトールトリアクリレート(日本化薬(株)製、SR444)3.15g、およびパイオニンA−41C(竹本油脂(株)製)0.1gを酢酸エチル17gに溶解した。水相成分としてPVA−205の4質量%水溶液40gを調製した。油相成分および水相成分を混合し、ホモジナイザーを用いて12,000rpmで10分間乳化した。得られた乳化物を、蒸留水25gに添加し、室温で30分攪拌後、50℃で3時間攪拌した。このようにして得られたミクロゲル液の固形分濃度を、15質量%になるように蒸留水を用いて希釈した。平均粒径は0.2μmであった。
【0286】
(3)保護層の形成
上記画像記録層上に、さらに下記組成の保護層塗布液(1)をバー塗布した後、125℃、75秒でオーブン乾燥して保護層(乾燥塗布量0.15g/m2)を形成して平版印刷版原版(1)〜(16)を得た。
【0287】
保護層塗布液(1)
・下記の通り調製した無機粒子分散液(1) 1.5g
・ポリビニルアルコール(ポバールPVA105) 0.05g
・ノニオン系界面活性剤 0.01g
(商品名:EMALEX710、日本エマルジョン(株)製)
・イオン交換水 6.0g
【0288】
(無機粒子分散液(1)の調製)
イオン交換水193.6gに合成雲母ソマシフME−100(コープケミカル(株)製)6.4gを添加し、ホモジナイザーを用いて平均粒径(レーザー散乱法)が3μmになるまで分散した。得られた分散無機粒子のアスペクト比は100以上であった。
【0289】
1−2.平版印刷版原版(17)〜(19)の作製
上記平版印刷版原版(1)の作製に記載の下塗り液(1)を下記の下塗り液(18)に変更した以外は平版印刷版原版(1)の作製と同様にして比較例の平版印刷版原版(17)〜(19)を得た。
【0290】
下塗り液(18)
・上記の下塗り化合物(1) 0.017g
・メタノール 9.00g
・蒸留水 1.00g
【0291】
1−3.平版印刷版原版(20)の作製
上記平版印刷版原版(1)の作製に記載の下塗り層を設けなかった以外は平版印刷版原版(1)の作製と同様にして比較例の平版印刷版原版(20)を得た。
【0292】
1−4.平版印刷版原版(21)〜(25)の作製
上記平版印刷版原版(1)の作製に記載の下塗り液(1)を下記の下塗り液(21)〜(25)に変更した以外は平版印刷版原版(1)の作製と同様にして平版印刷版原版(21)〜(25)を得た。
【0293】
下塗り液(21)〜(25)
・上記の下塗り化合物(1) 0.01g
・表3記載のキレート剤 0.008 g
・メタノール 9.00g
・蒸留水 1.00g
【0294】
1−5.平版印刷版原版(26)〜(36)の作製
下塗り液に用いるキレート剤を表5記載のものに代えた以外は平版印刷版原版(1)〜(16)の作製と同様にして、平版印刷版原版(26)〜(36)を作製した。
【0295】
2.平版印刷版原版の露光と印刷・評価
得られた平版印刷版原版(1)〜(36)を赤外線半導体レーザー搭載の富士フイルム(株)製Luxel PLATESETTER T−6000IIIにて、外面ドラム回転数1000rpm、レーザー出力70%、解像度2400dpiの条件で画像露光露光した。露光画像には20μmのFM網点を含むようにした。
この得られた露光済み原版を現像処理することなく、ハイデルベルグ社製印刷機SOR−Mのシリンダーに取り付けた。湿し水(IF−102(富士フイルム(株)製)/水=4/96(容量比))とTRANS−G(N)墨インキ(大日本インキ化学工業(株)製)とを用い、湿し水とインキを供給した後、毎時6,000枚の印刷速度で印刷を行った。この時、非画像部に、インキが転写しない状態になるまでに要した印刷用紙の枚数を機上現像性として評価した。その際、非画像部の汚れ性を目視で評価した。また、本発明の効果確認のため、平版印刷版原版(1)〜(36)を露光前に、強制過酷条件として、温度60℃、相対湿度50%の状態で二日保存し、その後同様の工程を行ったものに関しても非画像部の汚れ性を評価した。
さらに印刷を続け、印刷枚数を増やしていくと徐々に画像記録層が磨耗しインキ受容性が低下するため、印刷用紙におけるインキ濃度が低下した。インキ濃度(反射濃度)が印刷開始時よりも0.1低下したときの印刷枚数により、耐刷性を評価した。これらの結果を表2、表4および表6に示す。
【0296】
【表1】

【0297】
<下塗り層に添加したキレート剤> [ ]内はClogP値
・キレート剤(1):例示化合物(K−1)[0.945](和光純薬(株)製)
・キレート剤(2):例示化合物(K−2)[0.614](東京化成(株)製)
・キレート剤(3):例示化合物(K−3)[2.207](関東化学(株)製)
・キレート剤(4):フタル酸 [2.142](東京化成(株)製)
・キレート剤(5):例示化合物(K−5)[-0.748](東京化成(株)製)
・キレート剤(6):例示化合物(K−6)[-1.98](東京化成(株)製)
・キレート剤(7):例示化合物(K−7)[-6.470]
・キレート剤(8):例示化合物(K−8)[-1.795](和光純薬(株)製)
・キレート剤(9):例示化合物(K−9)[-2.150](キレスト(株)製)
・キレート剤(10):例示化合物(K−10)[-1.884](和光純薬(株)製)
・キレート剤(11):例示化合物(K−11)[-2.150](キレスト(株)製)
・キレート剤(12):例示化合物(K−12)[-2.274](キレスト(株)製)
・キレート剤(13):例示化合物(K−13)[-2.975](和光純薬(株)製)
・キレート剤(14):例示化合物(K−14)[-1.905](キレスト(株)製)
・キレート剤(15):DL−リンゴ酸 [-0.759](和光純薬(株)製)
・キレート剤(16):DL−酒石酸 [-2.113](和光純薬(株)製
【0298】
【表2】

【0299】
【表3】

【0300】
【表4】

【0301】
【表5】

【0302】
【化46】

【0303】
【表6】

【0304】
表2、表4および表6の結果から明らかなように、本発明によれば、機上現像性および耐刷性に優れ、特に汚れ性が良化し、実用的なエネルギー量で良好な印刷物を多数得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、下塗り層と、印刷インキおよび/または湿し水により除去可能な画像記録層とをこの順に有する平版印刷版原版であり、該下塗り層にキレート剤を含有することを特徴とする平版印刷版原版。
【請求項2】
キレート剤が1分子中に少なくとも2つの金属吸着性基を有するキレート剤であることを特徴とする請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項3】
前記下塗り層が基板吸着性基、重合性基、および親水性基を有するポリマーを含有することを特徴とする請求項1または2に記載の平板印刷版原版。
【請求項4】
前記画像記録層が(A)赤外線吸収剤、(B)重合開始剤、および(C)重合性化合物を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
【請求項5】
前記支持体がアルミニウムを含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
【請求項6】
前記キレート剤が少なくとも1つの窒素原子を含むこと特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
【請求項7】
前記キレート剤が少なくとも1つの親水性基を持つことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
【請求項8】
前記親水性基がヒドロキシル基であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
【請求項9】
前記キレート剤が下記一般式(I)または(II)で表される化合物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
【化1】

一般式(I)および(II)中、R1、R2、R4、R5、R6およびR7は、それぞれ独立に単結合または炭素数1〜3の直鎖アルキレン基である。R3は2価の有機基であり、R8は3価の有機基である。Xはメチン(−CH<)またはアミン(−N<)である。Y1〜Y6はそれぞれ独立に金属吸着性基を表し、Aは水素原子または親水基を表す。
【請求項10】
前記キレート剤がサリチル酸誘導体およびその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
【請求項11】
前記キレート剤が、下記一般式(III)で表される化合物であることを特徴とする請求項10記載の平版印刷版原版。
【化2】

一般式(III)中、Xは酸素原子または硫黄原子を表す。M1およびM2はそれぞれ独立に、H、Li、Na、K、Rb、Cs、1/2Mg、1/2Ca、1/2Sr、1/2Ba、1/2Zn、および含窒素カチオンから選ばれる1種を表す。R1、R2、R3、およびR4は任意の置換基を表し、R1とR2、R2とR3、およびR3とR4はそれぞれ互いに結合して環状構造を形成してもよい。
【請求項12】
前記画像記録層が、さらに (D) 重合性反応基を有すポリマー微粒子を含有することを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の平版印刷版原版を、印刷機に装着した後に赤外線レーザーで画像様に露光し、または、赤外線レーザーで画像様に露光した後に印刷機へ装着し、次いで印刷インキと湿し水とを供給して前記画像記録層の赤外線未露光部分を除去し、印刷する平版印刷方法。

【公開番号】特開2009−154517(P2009−154517A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−25227(P2008−25227)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】