説明

平版印刷版材料

【課題】自動製版もしくは自動印刷用に適したポリオレフィン樹脂被覆紙を支持体とする平版印刷版材料であって、印刷物の画質を低下させることなく印刷画像のズレが低減された平版印刷版材料を提供する。
【解決手段】原紙の両面にポリオレフィン樹脂層で被覆された支持体上に印刷画像形成層を有する平版印刷版材料において、該原紙の坪量が100〜200g/mであり、該原紙に繊維径3〜10μmの合成繊維を繊維成分の質量百分率で10〜30%を含有させることを特徴とする平版印刷版材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷版材料に関し、詳しくは原紙の両面をポリエチレン樹脂で被覆した支持体を有する平版印刷版材料に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷版は一般にアルミニウム、亜鉛等の金属板、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル等のプラスチックフィルム、紙等の支持体上に印刷画像形成層を設けた構造からなっている。これら支持体の内、金属板やプラスチックフィルムは、機械的強度等に優れ、寸法安定性が良好であり耐刷枚数が多いことから平版印刷版用支持体として使用されてきた。しかし、これらの版は高価であり、また特にプラスチックフィルムに関しては折り曲げ適性に劣るという欠点を有している。一方、紙は他の支持体に比べ、機械的強度、寸法安定性等において劣っているが、安価なために耐刷枚数が少なくても良い平版印刷版材料の支持体として使用されており、原紙の両面を樹脂で被覆したいわゆる樹脂被覆紙が種々の印刷版に使用できることが知られている。
【0003】
近年、軽印刷分野における平版印刷版材料の自動製版、自動印刷システムの普及はめざましいものがある。これらのシステムにおいて要求される平版印刷版材料としての特性は、製版工程中、カール等の形態変化が少なく搬送性が良好であること、自動カッターなどの切断が容易であること、印刷機がフック掛けで保持する型のものではフック穴を打ち抜きやすいものでなければならず、また印刷中のフック穴の破断もしくは変形が少ない程度に充分な強度を有している必要がある。さらには刷版が版胴(以下シリンダーとも称す)に対して良好な密着性を有するために、適当な可撓性を持っていなければならない。その他前処理もしくは印刷中に使用されるアルコール系有機溶剤等により、波打ち等の変形もしくは伸縮が少ないこと、さらには、画像ムラが生じないために面の平滑性も求められる。特にハロゲン化銀乳剤を塗布して作られる印刷版においては、その高い画像精度を発揮させるために、前記の特性が高度に要求される他、現像処理をして版材として画像を形成する工程において、変形、伸縮、汚染等が生じない性質を具備しなければならない。このような要求から、従来より、平版印刷版材料の支持体としては、プラスチックフィルム、あるいはプラスチックで被覆された紙、いわゆる樹脂被覆紙が好適に使用されている。中でも樹脂被覆紙はある程度の耐水性、耐伸縮性、カール性、腰、可撓性等が適当で取り扱いやすく、経済的でもあって、広く用いられる。樹脂被覆紙は通常の紙支持体と同様に安価であり、しかも紙支持体に比べ機械的強度、耐水性に優れているので優れた耐刷性が得られる。しかし、印刷機の版胴に強固に巻き付け固定され、その後多数枚の印刷が行われた場合、樹脂被覆紙を支持体とする印刷版は、紙を支持体とする印刷版ほどではないが版伸びが生じ結果として印刷ズレを生じる。樹脂被覆紙による印刷版の耐刷性を向上させる方法としては、高密度ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート等の密度が高く、強度が高い樹脂を単独又は加工性の優れた樹脂と混合して被覆する方法、又は強度の高いパルプを用いて原紙を製造する方法、紙力剤を多く配合する方法等が考えられるが、これらいずれの方法でも満足できるものではなかった。
【0004】
コロイド状アルミナを原紙中に含有させることにより、耐刷性、特に印刷時の版伸びの改良された平版印刷版支持体が特開平2−103184号公報(特許文献1)に開示されている。また、原紙に対パルプ質量%で0.2以上のグアーガムを含有し、パルプ全体に対し20質量%以上のクラフト法針葉樹材パルプを含有することにより、適当な強度を持ち、伸びが少なく、これによって充分な耐刷力を有する平版印刷版支持体が特開昭63−163358号公報(特許文献2)に開示されている。しかし、これらの方法では、若干の効果はあるものの充分満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−103184号公報
【特許文献2】特開昭63−163358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、自動製版もしくは自動印刷用に適したポリオレフィン樹脂被覆紙を支持体とする平版印刷版材料であって、印刷物の画質を低下させることなく印刷画像のズレが低減された平版印刷版材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
原紙の両面にポリオレフィン樹脂層で被覆された支持体上に印刷画像形成層を有する平版印刷版材料において、該原紙の坪量が100〜200g/mであり、該原紙に繊維径3〜10μmの合成繊維を繊維成分の質量百分率で10〜30%を含有させることを特徴とする平版印刷版材料。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、印刷物の画質を低下させることなく、印刷画像のズレが低減されたポリオレフィン樹脂被覆紙を支持体とする平版印刷版材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明である平版印刷版材料の支持体を構成する原紙の坪量は100〜200g/mである。100g/m未満であると平版印刷版材料の強度が低下することにより、印刷中にインクロールモルトンロール、ブランケット等によって繰り返し圧力変化とズリ応力が加えられ、平版印刷版材料が伸び印刷画像にズレが生じ、またフック掛け箇所の破断が生じたり、印刷画像の破壊が生じ、本発明の目的は達成されない。200g/mを超えると、剛直度が高くなりすぎるため、印刷版がシリンダーに対して良好な密着性を有した状態で版掛けすることができず印刷物にムラが生じる。
【0010】
本発明である平版印刷版材料の支持体を構成する原紙は、繊維径3〜10μmの合成繊維を含有する。繊維径が3μm未満であると、印刷中にインクロールモルトンロール、ブランケット等によって繰り返し圧力変化とズリ応力が加えられ、平版印刷版材料が伸び印刷画像にズレが生じ、本発明の目的は達成されない。繊維径が10μmを超えた場合、表面に合成繊維の形状がうき出て、印刷物の画像に乱れが生じる。合成繊維の繊維径は、合成繊維を分散し、電子顕微鏡観察により繊維を投影し、繊維の巾を測定して求めることができる。
【0011】
本発明における原紙は、上記合成繊維を繊維成分の質量百分率で10〜30%含有する。10質量%未満では、印刷中にインクロールモルトンロール、ブランケット等によって繰り返し圧力変化とズリ応力が加えられ、平版印刷版材料が伸び印刷画像にズレが生じ、本発明の目的は達成されない。また、30質量%を超えると合成繊維の割合が多くなり表面に合成繊維の形状がうき出て、印刷物の画像に乱れが生じる。
【0012】
本発明における原紙が含有する合成繊維としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、又はこれらポリマーの変成ポリマー等のホモポリマー及びコポリマーのようなポリエステル系繊維、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、又はこれらポリマーの変成ポリマー等のホモポリマー及びコポリマーのようなポリオレフィン系繊維、アクリル繊維、モダクリル繊維等のようなポリアクリロニトリル系繊維、ナイロン6、ナイロン66等のようなナイロン繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ウレタン繊維等の有機合成繊維を本発明の範囲内で単独又は任意の組み合わせで混合して用いることができる。これら合成繊維の中でも、融点が高く、原紙抄造時のドライヤー、フェルト等を汚さない等の観点から特にポリエチレンテレフタレートが好ましく用いられる。合成繊維の製造方法については特に規定はないが、一般的には溶融紡糸等で生産される。合成繊維の繊維径は製造時のノズル径、速度等によりコントロールすることができ、繊維長はギロチン、ロータリーカッター等裁断器で裁断コントロールすることが可能である。繊維長は、地合の取りやすさから5〜15mmが好ましい。
【0013】
本発明の実施に用いられる原紙は、木材パルプを主原料として含有し、木材パルプとしてはLBKP、LBSP、NBKP、NBSP、LDP、NDP等の木材パルプのいずれも用いることができるが、短繊維分の多いLBKP、NBKP、LBSP、NBSPをより多く用いることが好ましい。このような木材パルプを叩解し紙料スラリーを得た後、これに前記した合成繊維を配合した混合スラリーを後述する抄紙方法により抄紙することで原紙中に前記合成繊維を含有させることができる。また、紙料スラリー調製時に各種の添加剤を含有せしめることができる。サイズ剤として、脂肪酸金属塩又は脂肪酸、特公昭62−7534号公報に記載もしくは例示のアルキルケテンダイマー乳化物あるいはエポキシ化高級脂肪酸アミド、アルケニル又はアルキルコハク酸無水物乳化物、ロジン誘導体等、乾燥紙力増強剤として、アニオン性、カチオン性あるいは両性のポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、カチオン化澱粉、植物性ガラクトマンナン等、湿潤紙力増強剤として、ポリアミンポリアミドエピクロルヒドリン樹脂等、填料として、クレー、カオリン、炭酸カルシウム、酸化チタン等、定着剤として、塩化アルミニウム、硫酸バン土等の水溶性アルミニウム塩等、pH調節剤として、苛性ソーダ、炭酸ソーダ、硫酸等を適宜組み合せて含有せしめるのが有利である。
【0014】
また、原紙中には、各種の水溶性ポリマーもしくは親水性コロイド又はラテックス、帯電防止剤、添加剤から成る組成物をサイズプレスもしくはタブサイズプレスあるいはブレード塗工、エアーナイフ塗工等の塗工によって含有せしめることができる。水溶性ポリマーもしくは親水性コロイドとして、澱粉系ポリマー、ポリビニルアルコール系ポリマー、ゼラチン系ポリマー、ポリアクリルアミド系ポリマー、セルローズ系ポリマー等、エマルジョン、ラテックス類として、石油樹脂エマルジョン、エチレンとアクリル酸(またはメタクリル酸)とを少なくとも構成要素とする共重合体のエマルジョンもしくはラテックス、スチレン−ブタジエン系、スチレン−アクリル系、酢酸ビニル−アクリル系、エチレン−酢酸ビニル系、ブタジエン−メチルメタクリレート系共重合体及びそれらのカルボキシ変性共重合体のエマルジョンもしくはラテックス等、帯電防止剤として、塩化ナトリウム、塩化カリウム等のアルカリ金属塩、塩化カルシウム、塩化バリウム等のアルカリ土類金属塩、コロイド状シリカ等のコロイド状金属酸化物、ポリスチレンスルホン酸塩等の有機帯電防止剤等、顔料として、クレー、カオリン、炭酸カルシウム、タルク、硫酸バリウム、酸化チタン等、pH調節剤として、塩酸、リン酸、クエン酸、苛性ソーダ等、そのほか前記した着色顔料、着色染料、蛍光増白剤等の添加剤を適宜組み合わせて含有せしめるのが有利である。
【0015】
本発明の原紙の抄紙方法については、長網多筒式、短網多筒式、円網多筒式、長網円網、短網円網、コンビネーション多筒式、オントップ多筒式、ツインワイヤー多筒式などいずれの抄紙機も使用することができ、これらに限定されない。
【0016】
樹脂被覆紙の樹脂としては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等、溶融押出し塗工が可能な樹脂であればいずれでも良いが、中でもポリオレフィン樹脂を用いることが好ましい。ポリオレフィン樹脂としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテンなどのオレフィンのホモポリマー又はエチレン−プロピレン共重合体などのオレフィンの2つ以上からなる共重合体及びこれらの混合物であり、各種の密度、溶融粘度指数(メルトインデックス)のものを単独にあるいはそれらを混合して使用できる。
【0017】
また、樹脂被覆紙の樹脂中には、酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、炭酸カルシウムなどの白色顔料、ステアリン酸アミド、アラキジン酸アミドなどの脂肪酸アミド、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウムなどの脂肪酸金属塩、イルガノックス1010、イルガノックス1076などの酸化防止剤、コバルトブルー、群青、セシリアンブルー、フタロシアニンブルーなどのブルーの顔料や染料、コバルトバイオレット、ファストバイオレット、マンガン紫などのマゼンタの顔料や染料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤などの各種の添加剤を適宜組み合わせて加えるのが好ましい。
【0018】
本発明に用いられる樹脂被覆紙は、走行する原紙上に加熱溶融した樹脂を流延する、いわゆる押出コーティング法により製造され、その両面が樹脂により被覆される。樹脂を原紙に被覆する前に、原紙にコロナ放電処理、火炎処理などの活性化処理を施すことが好ましい。支持体のインク受容層が塗布される面(表面)は、その用途に応じて光沢面、マット面などを有し、特に光沢面が優位に用いられる。裏面にはカール防止の点から樹脂被覆し裏面は通常無光沢面である。また、樹脂被覆層の厚みとしては特に制限はないが、一般に5〜40μmの厚みに表裏両面にコーティングされる。
【0019】
本発明における平版印刷版材料は、印刷画像形成層を設ける側の樹脂面上に、少なくともゼラチンを含有する下引層を塗設することができる。下引層中に用いられるゼラチンとしては、石灰処理ゼラチン、酸処理ゼラチン、酵素処理ゼラチン、ゼラチン誘導体、例えば二塩基酸の無水物と反応したゼラチン等各種のものをあげることができる。また、ゼラチンと併用してポリビニルアルコール、澱粉等のその他の親水性ポリマーを用いることもできる。
【0020】
本発明における平版印刷版材料の裏樹脂層面上には、コロナ放電処理、火炎処理等の活性化処理を施した後、帯電防止等のために各種のバックコート層を塗設することができる。また、バックコート層には、特公昭52−18020号公報、特公昭57−9059号公報、特公昭57−53940号公報、特公昭58−56859号公報、特開昭59−214849号公報、特開昭58−184144号公報等に記載もしくは例示の無機帯電防止剤、有機帯電防止剤、親水性バインダー、ラテックス、硬化剤、顔料、界面活性剤等を適宜組み合わせて含有せしめることができる。
【0021】
本発明における印刷画像形成層とは、例えば特開2006―205423号公報等に記載の感熱直描型平版印刷版の感熱層、特開2008−040274号公報、特開2007−264048号公報、特開2007−256921号公報等に記載のハロゲン化銀乳剤層及び物理現像核層等、印刷画像が形成される側に設けられるすべての層を意味し、印刷画像の形成に直接関与する層及びその下引き層、保護層等の補助層を包含する。本発明におけるこれらの印刷画像形成層は、水系あるいは溶剤系塗液として支持体上に塗布されるが、水系塗布の場合には支持体の樹脂層表面をコロナ放電処理あるいは下引処理等の親水化処理をして塗布するのがよい。コロナ放電処理は塗布直前に行うのが好ましい。
【0022】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明の内容は実施例に限られるものではない。なお、部及び%は質量部、質量%を示す。
【実施例】
【0023】
広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)をそれぞれ50%の割合で混合したパルプをフリーネス(CSF)が350mlになるように叩解後、表1記載の配合率(繊維成分に対する合成繊維の割合)でパルプとポリエチレンテレフタレート繊維(繊維長はいずれも10mm)を配合し、ポリエチレンテレフタレート繊維の太さを変更して混合スラリーとした。混合スラリー100部に対して、アルキルケテンダイマー0.3%、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂1.0%、グアーガム0.6%を加え、長網式抄紙機で表1記載の原紙を抄紙した。この原紙の表面と裏面に低密度ポリエチレン(密度0.92g/cm、MI=5)を樹脂温度330℃で溶融押出塗工機を用いて20μmの厚さにコーティングした。次いで裏面にコロナ放電処理した後、シリカ粉末を含有するゼラチン水溶液を塗布した。さらに表面にコロナ放電処理した後、次の層を順次塗布し平版印刷材料を得た。
【0024】
(下塗り層及び乳剤層の作製)
上記裏塗り層とは反対面の支持体表面にコロナ放電加工後、下記下塗り液と乳剤塗布液を下塗り液が支持体側になるように両液を同時にスライドホッパーコーティング法により積層塗布した。
<下塗り液>
ゼラチン 30kg
シリカ粉末 5.0kg
「グレイスデビソン社製“SY378”:平均粒径約3.5μm」
カーボンブラック 10kg(固形分量=約32%)
スチレン−ブタジエン系ラテックス 50kg(固形分量=約48%)
「日本エイアンドエル(株)製“スマーテックス PA9281”:Tg=7℃」
PH調整剤、界面活性剤等を加え全量を450kgに調製して液を作製した。
湿分塗布量は45g/mとした。
<乳剤塗布液>
赤感の増感色素で増感された高感度塩化銀乳剤
(銀(硝酸銀換算):ゼラチン質量比=2:1)
銀(硝酸銀換算として) 12kg
エチレンジアミン四酢酸Na塩 0.1kg
チオサリチル酸 0.4kg
1−フェニル−3−ピラゾリドン 0.2kg
ホルマリン(37%水溶液) 0.8kg
PH調整剤、界面活性剤等を加え全量を150kgに調製して液を作製した。
湿分塗布量は15g/mとした。
【0025】
上記高感度塩化銀乳剤は、ヘキサクロロイリジウム(IV)酸カリウムを銀1モル当たり0.006ミリモルドープさせ、0.2モル%のKI溶液でコンバージョンを行った塩化銀乳剤で、コントロールダブルジェット法により平均粒径は約0.30μmに調整した。さらに、この乳剤を沈殿−水洗−脱水後に再溶解を行い、常法により硫黄−金増感を施した後、安定剤等を添加、その後、赤色増感色素を銀(硝酸銀換算)1g当たり3mgを添加して分光増感を行った。
【0026】
なお、硬膜剤として、裏塗り層及び下塗り層には2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−s−トリアジン塩、乳剤層にはN−メチロールエチレン尿素をそれぞれ含有させた。
【0027】
なお、上記下塗り層及び乳剤層を塗布した後、硬膜することを目的に40℃で5日間加温して、下塗り層及び乳剤層を完成させた。
【0028】
(物理現像核層の作製)
上記乳剤層の上に、下記物理現像核塗布液をファウンテン/エアドクター法にて塗布乾燥して、物理現像核層を塗設した。その後、再び40℃で5日間加温して平版印刷版材料を得た。
<物理現像核層塗布液>
硫化パラジウムゾル 10kg
ハイドロキノン 7.0kg
1−フェニル−3−ピラゾリドン 0.7kg
ポリマー 1.0kg
「アクリルアミド(97)とビニルイミダゾール(3)共重合体;平均分子量=約10万」
アルキル硫酸エステル 2.0kg
(炭素数=14,16,18の混合物、混合比14:16:18=1:1:1)
ホルマリン 1.0kg(37%水溶液)
全量を100kgに調製して液を作製した。
湿分塗布量は10g/mとした。
【0029】
上記物理現像核層塗布液に用いる硫化パラジウムゾルは予め下記構成により調製した。
<硫化パラジウムゾルの調製>
A液 塩化パラジウム 5部
12N−塩酸 40部
蒸留水 1000部
B液 硫化ソーダ 8.6部
蒸留水 1000部
A液とB液を撹拌しながら混合し、30分後にイオン交換樹脂(IR−120E,IRA−400)の充填されたカラムに通し硫化パラジウムゾルを得た。
【0030】
上記のようにして作製したそれぞれの平版印刷版材料を三菱製紙(株)製自動製版装置SDP−ECO1630を用いて製版した。製版には下記銀錯塩拡散転写現像液と下記中和液を使用し、現像条件は30℃20秒、中和条件は25℃20秒である。
【0031】
<銀錯塩拡散転写現像液>
水酸化カリウム 20g
無水亜硫酸ナトリウム 50g
2−メルカプト安息香酸 1.5g
2−メチルアミノエタノール 15g
を水に加えて1リットルに調製して液を作製した。
<中和液>
クエン酸 10g
クエン酸ナトリウム 35g
コロイダルシリカ(20%液) 5ml
エチレングリコール 5ml
を水に加えて1リットルに調製して液を作製した。
【0032】
以上の操作により作製した平版印刷版材料を半自動刷版交換装置を有するオフセット印刷機(リョービ(株)製3304HA)に装着し、下記の給湿液にて版面をくまなく拭き与え、その給湿液を用いて印刷を行った。
【0033】
<給湿液>
o−リン酸 10g
硝酸ニッケル 5g
亜硝酸ナトリウム 5g
エチレングリコール 100g
コロイダルシリカ(20%液) 28g
を水に加えて2リットルに調製して液を作製した。
【0034】
版伸び性の評価は印刷開始1枚目と10000枚目の画像のズレの距離を測定し、版全体の長さに対する相対値(%)で版伸び性の評価とした。0.2%以上の伸びでは実用上問題がある。結果を表1に示す。
【0035】
面質の評価は印刷開始1枚目の画像ムラを目視評価した。最も良いものを○、良いものを△、実用上問題のあるものを×とした。結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
比較例1では、合成繊維を配合していないことにより、版伸び性が悪く実用上問題がある。比較例2では合成繊維の繊維径が3μmより細いこと、比較例4では合成繊維の配合率が10%より少ないこと、比較例6では原紙坪量が100g/mより少ないことで版の伸びが大きく実用上問題のあるレベルである。比較例3では、合成繊維の繊維径が10μmを超えていること、比較例5では合成繊維の配合率が30%を超えていることにより、表面に繊維径上が確認でき、画像ムラが発生し実用上問題あるレベルであった。比較例7では、原紙坪量が200g/mを超えていることにより、剛直度が高くなり印刷版がシリンダーに対して良好な密着性を有していないために印刷適性が低下し画像ムラが発生した。これに対し本発明の実施例1〜7の平版印刷版材料は画像ムラが生じることなく印刷画像のズレが低減された平版印刷版材料であることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原紙の両面にポリオレフィン樹脂層で被覆された支持体上に印刷画像形成層を有する平版印刷版材料において、該原紙の坪量が100〜200g/mであり、該原紙に繊維径3〜10μmの合成繊維を繊維成分の質量百分率で10〜30%を含有させることを特徴とする平版印刷版材料。

【公開番号】特開2010−228201(P2010−228201A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76668(P2009−76668)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】