説明

床パネル構造

【課題】重量床衝撃音性能を改善しつつ、軽量化を実現することができる床パネル構造を提供すること。
【解決手段】平面形状が略正方形をなす下地材P1と、その上面にシート状の緩衝材P2を介して積層された表面材P3との複層構造体によって床パネルPが構成されている。緩衝材P2は、反毛フェルト若しくは発泡樹脂体により構成され、その固有音響抵抗Zとすると、5×10kg/(m・sec)<Z<5×10kg/(m・sec)を満たす範囲内に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床パネル構造に係り、更に詳しくは、主として遮音二重床に用いられ、重量床衝撃音性能を改善することができる床パネル構造に関する。
【0002】
従来より、コンクリート製のスラブや木製或いは鋼製の梁からなる躯体の上面側に一定の空間を形成するように床パネルを配置した二重床が知られている。この二重床は、スラブ上に複数の防振支持具或いは根太を配置し、これら防振支持具等に床パネルを支持させている。
【0003】
前記二重床においては、床パネルに歩行等の衝撃が加わると当該床パネルが変形し、発生した振動エネルギーがスラブに伝播し、階下に音として放射される。この重量床衝撃音を低減するための床パネルとしては、下地材と表面材との間にシート状のアスファルト系制振材を介在させたタイプのもの(特許文献1,2参照)が知られている。
【0004】
【特許文献1】特開平10−25884号公報
【特許文献2】特開平10−259658号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような床パネルでは、制振材自体の密度が極めて大きくなり、ひいては、床パネル全体が非常に高重量となる。具体的には、特許文献1の制振材は、面密度15kg/m以上、厚さ4〜8mm(同文献段落[0021]参照)であるため、密度1875kg/m以上となり、特許文献2の制振材は、密度2000kg/m以上(同文献段落[0017]参照)となる。このため、床パネルを支持する防振支持具やスラブ等に大きな負荷が常時付与される他、床パネルの施工時に多大な手間や負担を強いられ、施工時間や施工費用が上昇するという不都合がある。
【0006】
[発明の目的]
本発明は、このような不都合に着目して案出されたものであり、その目的は、重量床衝撃音性能を改善しつつ、床パネル全体の軽量化を図ることができる床パネル構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は、下地材に緩衝材を介して積層された表面材を有する床パネルであって、
前記緩衝材の固有音響抵抗Zとすると、
5×10kg/(m・sec)<Z<5×10kg/(m・sec)
を満たす、という構成が採用されている。
【0008】
また、本発明は、下地材に緩衝材を介して積層された表面材を有する床パネルであって、
前記緩衝材のヤング率E、密度ρとすると、
1.25×10N/m<E<5×10N/m
20×10kg/m<ρ<5×10kg/m
を満たす、という構成も採用することができる。
【0009】
本発明において、前記緩衝材は、シート状の反毛フェルト若しくは発泡樹脂材により構成されるとよい。
【0010】
また、前記下地材は、所定方向に沿って延びる複数の空間が内部に形成された中空パネルによって構成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、表面材及び下地材に木材を用いることにより、重量床衝撃音性能を良好に発揮させることができる。これは、木材の固有音響抵抗Zは約1.9×10kg/(m・sec)であり、表面材及び緩衝材の境界面と、下地材及び緩衝材の境界面とにおいて、固有音響抵抗の違いによる振動エネルギーの反射、減衰が発生することに起因するものと推考される。しかも、前述した固有音響抵抗Zの範囲内において、従来の制振材や木材より密度の小さい種々の材料を選択でき、床パネル全体の軽量化を図ることが可能となる。
【0012】
また、ヤング率E及び密度ρを前述のように設定したので、(ヤング率E×密度ρ)0.5=固有音響抵抗Zであるから、当該固有音響抵抗Zが約5×10〜5×10kg/(m・sec)となり、前述と同様の理由により重量床衝撃音を低減することができる。また、前述した従来の制振材よりも格段に軽量化が達成でき、防振支持具への負荷や施工労力を軽減することが可能となる。しかも、重量床衝撃源により加振されたときに、表面材を広い領域に亘って沈み込ませるように緩衝材が変形するようになり、これによっても、振動エネルギーを効果的に減衰させることができる。更には、床パネル上を歩いたときに、足裏に対応する領域が部分的に凹むことを回避し、歩行者にふかふかするような不快な感触を付与することもない。
【0013】
更に、シート状の反毛フェルト若しくは発泡樹脂材により緩衝材を構成した場合には、材料コストの低廉化を図ることができる他、緩衝材の切断等の加工作業も容易に行うことが可能となる。
【0014】
また、下地材を中空パネルとしたから、当該下地パネルによっても軽量化に寄与することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1には、本実施形態に係る二重床の側面図が示され、図2には、その平面図が示されている。また、図3には、図1の一部拡大図が示されている。これらの図において、コンクリート製のスラブSの上面側で空間Cを形成する所定の高さ位置に床パネルPを配置して二重床が形成されている。床パネルPは、前記スラブS上に設置された複数の防振支持具10を介してコーナー下面側で支持されている。
【0016】
前記床パネルPは、平面形状が略正方形をなす下地材P1と、その上面にシート状の緩衝材P2を介して積層された表面材P3との複層構造体によって構成されている。床パネルPの壁面W側端は、壁面W及び巾木Hに対して隙間が確保される状態で配置され、これにより、壁面Wへの固体伝播が生じないように保たれている。
【0017】
前記下地材P1は、厚みt1が約6mmとなる一対の平板部Pa,Paと、これら平板部Pa,Paによってサンドイッチされる厚みt2が約6mmの波板部Pbと、各平板部Pa,Paの間であって当該平板部Paの外周に沿って位置するフレーム部Pcとを備え、平板部Pa,Paの間に図3中紙面直交方向に延びる複数の空間Pdが内部に形成された中空パネルにより構成されている。波板部Pbの図3中上下高さ(上下厚み)t3は、約24mmに設定されている。波板部Pbは、図3中左右方向に沿って所定間隔毎に位置するとともに、略同一の傾斜角度で傾斜向きが交互に異なる方向に設けられた隔壁部Peと、隣り合う隔壁部Peの上端若しくは下端間を連結するとともに、適宜な接着剤を介して平板部Paに接着される水平壁部Pfとからなり、各空間Pdが略台形の断面形状を呈するように設けられている。ここで、平板部Paは、本実施形態では、構造用合板、パーチクルボード等が用いられる。波板部Pbは、固形物の粉やチップ等を成形材料としたプレス成形品とされる。具体的には、前記成形材料は、建築材料として、木質ストランド、ウェーハー、木粉、チップ、パーティクル、木質繊維、合成繊維等や、それらを組み合わせたものにバインダーを付着させたものが用いられ、当該バインダーは、発泡性バインダー、非発泡性バインダー及びこれらの混合物の何れも採用することができる。また、下地材P1は、全体の厚みが約36mm、固有音響抵抗Zが約1.1×10〜3.7×10kg/(m・sec)のものが用いられている。ここで、例えばALC(軽量気泡コンクリート、E=2.0×10N/m、ρ=0.6×10kg/m)でZ=1.1×10kg/(m・sec)、木材の樫(E=1.5×1010N/m、ρ=0.9×10kg/m)でZ=3.7×10kg/(m・sec)等である。なお、下地材P1は中実の平板状のものを用いてもよく、この場合、下地材P1の材質は、平板部Paと同様とされる。
【0018】
前記緩衝材P2は、厚み約5〜10mmの反毛フェルトや発泡樹脂材により構成されている。前記反毛フェルトは、ウール等の天然繊維、PET樹脂等の化学繊維及びこれらの混紡を素材として例示できる。前記発泡樹脂材としては、発泡スチレン、硬質スチレンフォーム等が例示できる。
緩衝材P2の固有音響抵抗Zとすると、
5×10kg/(m・sec)<Z<5×10kg/(m・sec)
を満たす範囲内に設定される。前記固有音響抵抗Zが5×10kg/(m・sec)以下であると、緩衝材P2自体の剛性が弱くなり、床パネルに用いるには実用的でない。一方、固有音響抵抗Zが5×10kg/(m・sec)以上であると、下地材P1及び表面材P3の固有音響抵抗Zとの差が小さくなり、十分な重量床衝撃音性能を得ることが困難となる。
緩衝材P2のヤング率Eとすると、
1.25×10N/m<E<5×10N/m
を満たす範囲内に設定される。前記ヤング率Eが1.25×10N/m以下であると、緩衝材P2自体の剛性が弱くなり、床パネルに用いるには実用的でない。一方、ヤング率Eが5×10N/m以上であると、下地材P1及び表面材P3のヤング率E(又は固有音響抵抗Z)との差が小さくなり、前述と同様に、十分な重量床衝撃音性能を得ることが困難となる。ここで、例えば、合板(E=4.0〜6.0×10N/m、ρ=0.6×10kg/m)でZ=1.5〜1.9×10kg/(m・sec)、パーティクルボード(E=3.0×10N/m、ρ=1.0×10kg/m)でZ=1.7×10kg/(m・sec)等である。
緩衝材P2の密度ρとすると、
20×10kg/m<ρ<5×10kg/m
を満たす範囲内に設定される。密度ρが5×10kg/m以上であると、緩衝材P2が高重量となり、施工容易性を阻害するおそれがある。なお、上記ρの上限値(5×10kg/m)は、上記Zの上限値(5×10kg/(m・sec))と上記Eの上限値(5×10N/m)とを、後述する段落0020の式:固有音響抵抗Z=(ヤング率E×密度ρ)0.5に代入して求めたものである。同様に、上記ρの下限値(20×10kg/m)は、上記Zの下限値(5×10kg/(m・sec))と上記Eの下限値(1.25×10N/m)とを、上記式に代入して求めたものである。
【0019】
前記表面材P3は、特に限定されるものでないが、本実施形態では、厚み約12mmのフローリング材や捨て張り合板からなる。表面材P3は、固有音響抵抗Zが約1.3×10〜3.7×10kg/(m・sec)のものが用いられている。
【0020】
なお、前記ヤング率Eは、木材の試験方法(JIS Z2101:1994)又は建築用ボード類の曲げ及び衝撃試験方法(JIS A1408:2001)によって測定される。また、前記固有音響抵抗Zは、以下の式によって求められる。
固有音響抵抗Z=(ヤング率E×密度ρ)0.5
【0021】
前記防振支持具10は、図3及び図4に示されるように、床パネルPの下面側に位置する平面視略方形の受け板20と、この受け板20の中央部下面側に位置する支持脚12と、この支持脚12を支える防振弾性体13と、当該防振弾性体13の外周側に装着された錘部材14とを構えて構成されている。
【0022】
支持脚12は、上下方向に軸線が向けられたナット部材12Aと、このナット部材12Aの上端側からねじ込まれて上下方向に進退可能なボルト12Bとからなり、このボルト12Bの上端は、図示しないナットを介して前記受け板20に固定されている。
【0023】
前記防振弾性体13はゴム製であり、当該防振弾性体13は、略円盤状をなす内周弾性部21と、この内周弾性部21と一体に成形されるとともに、当該内周弾性部21と略同心円上に設けられた略円筒状の外周弾性部22とにより構成されている。内周弾性部21は、前記支持脚12のナット部材12Aを上部中央で支持する一方、下面がコンクリートスラブSとの間に空間C1を形成する高さに設けられ、上方からの衝撃に対して剪断力を受ける領域が形成されるようになっている。この内周弾性部21は、ナット部材12A回りにおいて、上方に向かうに従って次第に縮径する傾斜面となる二段階のテーパ面部を備え、下面外周側にも同様に縮径する傾斜面となるテーパ面部を備えた形状に設けられ、これにより、ナット部材12Aの支持安定性が確保されると同時に、上方から加えられる衝撃によって剪断方向に変形する時の一定の抵抗が付与されるようになっている。
【0024】
前記外周弾性部22は、その硬度が内周弾性部21の硬度よりも相対的に大きな材質により構成されている。この外周弾性部22は、その下面側が内周弾性部21の下面よりも低位置に設けられてスラブSへの設置部とされている。この外周弾性部22の外周面には、上下方向中間部に段部25が形成されており、この段部25により、外周弾性部22の上部外径が下部外径よりも小径とされている。外周弾性部22の設置部側には、前記空間C1を内外に連通させる通路29が形成され、この通路29により、内周弾性部21が剪断方向に変形したときの空間C1内の空気逃げが行われる一方、元の位置に戻るときに外気を導入して空間C1内の負圧化を防止できるようになっている。
【0025】
前記外周弾性部22の外周に設けられた錘部材14は、金属もしくは樹脂により構成されている。この錘部材14は略円筒状をなし、その下端が前記段部25に着座する状態に保たれ、これにより、防振支持具10の全体に対して上方から衝撃が加えられた時でも防振弾性体13と錘部材14との一体性が確実に保たれる。
【0026】
次に、本発明に係る効果を確認するため、以下の実施例を比較例と共に示す。
【0027】
[実施例]
床パネルP:縦900mm、横900mm
(1)下地材P1:中空パネル
厚み36mm
固有音響抵抗Z:1.9×10kg/(m・sec)
(2)緩衝材P2:反毛フェルト
厚み8mm
固有音響抵抗Z:8.0×10kg/(m・sec)
ヤング率E:3.0×10N/m
密度ρ:214kg/m
(3)表面材P3:フローリング材
厚み12mm
固有音響抵抗Z:1.9×10kg/(m・sec)
防振支持具:床パネルコーナー各1個配置
【0028】
[比較例]
床パネルは、実施例と同一の下地材P1に表面材P3を積層したものであり、緩衝材P2を有しないものとした。また、防振支持具による支持形態は、実施例と同一とした。
【0029】
図5は、実施例と比較例の結果を示したものである。これらの図表から明らかなように、重量床衝撃音性能の決定周波数となる63Hzでの床衝撃音レベルが、本発明では72dBであったに対し、比較例は75dBであった。これにより、本発明の構造が比較例に対して優れた結果となり、重量床衝撃音性能が向上していることが理解される。
【0030】
なお、前述した実施例以外の条件、例えば、防振支持具に代えて根太を床パネルPの外周に沿って配置したり、緩衝材P2を他の反毛フェルト(固有音響抵抗Z:1.8×10kg/(m・sec)、ヤング率E:1.3×10N/m、密度ρ:250kg/m)や発泡スチレン(固有音響抵抗Z:7.0×10kg/(m・sec)、ヤング率E:2.0×10N/m、密度ρ:25kg/m)により構成したりしても、前記実施例と同等の結果が得られることが期待される。
【0031】
本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。
すなわち、本発明は、特定の実施の形態に関して特に図示し、且つ、説明されているが、本発明の技術的思想及び目的の範囲から逸脱することなく、以上に述べた実施例に対し、形状、位置若しくは方向、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
従って、上記に開示した形状などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状などの限定の一部若しくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本実施形態に係る二重床の概略側断面図。
【図2】図1の概略平面図。
【図3】図1の一部を拡大した断面図。
【図4】図1の一部を拡大して示す概略斜視図。
【図5】実施例による重量床衝撃音実験結果を示す線図。
【符号の説明】
【0033】
P・・・床パネル、P1・・・下地材、P2・・・緩衝材、P3・・・表面材、Pd・・・空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地材に緩衝材を介して積層された表面材を有する床パネルであって、
前記緩衝材の固有音響抵抗Zとすると、
5×10kg/(m・sec)<Z<5×10kg/(m・sec)
を満たすことを特徴とする床パネル構造。
【請求項2】
下地材に緩衝材を介して積層された表面材を有する床パネルであって、
前記緩衝材のヤング率E、密度ρとすると、
1.25×10N/m<E<5×10N/m
20×10kg/m<ρ<5×10kg/m
を満たすことを特徴とする床パネル構造。
【請求項3】
前記緩衝材は、シート状の反毛フェルト若しくは発泡樹脂材により構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の床パネル構造。
【請求項4】
前記下地材は、所定方向に沿って延びる複数の空間が内部に形成された中空パネルにより構成されることを特徴とする請求項1,2又は3記載の床パネル構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−202333(P2008−202333A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−40781(P2007−40781)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】