説明

廃プラスチックの処理方法

【課題】廃プラスチックに付着した易分解性有機物の腐敗を抑制し、廃プラスチックをセメント焼成用燃料として利用する方法を提供する。
【解決手段】易分解性有機物付着廃プラスチックに生石灰含有粉体を混合し、該易分解性有機物に含まれる水分と生石灰の反応熱で滅菌するとともに、反応による水分除去と生成した消石灰の高pH環境により易分解性有機物の腐敗を抑制し、廃プラスチックをセメント焼成用燃料として利用するまでの常温保管を可能にする易分解性有機物付着廃プラスチックの処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、易分解性有機物が付着した廃プラスチックを燃料利用するための処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品リサイクル法の施行により、廃食品を飼料・肥料に変換することが進められているが、廃食品と分離された容器包装プラスチックには食品残渣等の易分解性有機物が付着している。また、食品類の小売業や、レストランなどでも易分解性有機物が付着した廃プラスチックを排出している。さらに、家庭から排出される一般廃棄物の中には、同様な廃プラスチックが多く含まれる。この種の廃プラスチックの多くは、単純な焼却または埋立て処分されている。しかし、廃プラスチックは石炭・重油に相当する熱量を有し、単純な焼却や埋立ては、資源の有効利用の観点から望ましくない。
【0003】
易分解性有機物が付着した廃プラスチックを再資源化しようとする場合に、収集、保管の過程で、付着した易分解性有機物が腐敗し、汚水や臭気、さらにはハエなどの害虫が発生する。密閉容器に入れて保管する場合には、腐敗によって発生したガスにより容器が膨張して破れるなどして、汚水や臭気などの漏れを十分に防ぐことはできない。また、腐敗を抑制するために冷暗所に保管し、保管庫を換気または脱臭する方法もあるが、嵩高いために大きな容積を必要とし、多くのエネルギーを消費するため望ましい方法ではない。
【0004】
また、易分解性有機物が付着した廃プラスチックを再資源化するためには、分別、洗浄、乾燥などの工程が必要であるが、洗浄により発生する汚水や、乾燥その他の作業に伴う臭気を処理する必要があり、多大なコストを要する。しかし、このような工程を経て得られるプラスチックは高価な有価物にはならない。また、廃プラスチックのガス化、油化、コークス代替利用などの付加価値技術が開発されているが、採算性が見合わないのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、廃プラスチックに付着した易分解性有機物の腐敗を抑制し、廃プラスチックをセメント焼成用燃料として利用する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の易分解性有機物付着廃プラスチックの処理方法は、易分解性有機物付着廃プラスチックに生石灰含有粉体を混合し、該易分解性有機物の腐敗を抑制することを最も主要な特徴とする。
【0007】
また、本発明は、生石灰含有粉体を混合した易分解性有機物付着廃プラスチックをセメント焼成用の原料および/または燃料の一部として用いることを含む。該廃プラスチックは、セメント焼成工程の仮焼炉および/または窯尻に投入することができる。また、該廃プラスチックを破砕して、仮焼炉および/または窯前のバーナーから投入することもできる。さらに、該廃プラスチックを選別機に投入し、余剰な生石灰含有粉体を除去した後に、破砕して前記バーナーから投入してもよい。
【0008】
また、本発明は、生石灰含有粉体として、セメント焼成工程の途中から分取されたセメント焼成中間品を用いることができる。さらに、生石灰含有粉体として、セメント焼成設備の塩素バイパス装置(特許文献:特開昭62−252349号公報)によってセメント焼成工程から抽気されたガスから分級器によって分離回収された粗粉分を用いることもできる。
【0009】
なお、本明細書中、「易分解性有機物」というときは、食品残渣や厨芥など主に生物由来の含水率の高い(概ね50質量%以上)有機物で、常温で腐敗し易いものをいい、煮汁や果汁なども含む概念である。したがって食塩等の無機塩類が混在したものも含まれる。
【特許文献1】特開昭62−252349号公報
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、廃プラスチックをセメント焼成用の燃料の一部として利用するまでの保管やハンドリングに際して、該廃プラスチックに付着した易分解性有機物の腐敗を抑制することができるので、汚水や臭気の処理のためのエネルギーやコストを必要としないという利点がある。また、本発明の処理方法に用いる生石灰含有粉体は、セメント原料の一部として利用できるものであり、特に、セメント焼成工程の途中から分取されたセメント焼成中間品や塩素バイパス装置から分離回収された粗粉分を用いる場合には、成分調整を行うことなくセメント焼成工程に投入できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態について、説明する。
本発明の処理方法の対象となる易分解性有機物付着廃プラスチックとしては、例えば小売店舗から排出された販売期限切れ弁当や惣菜などを、プラスチック製容器ごと破砕し、振動篩いで食品部分と分離されたプラスチックを挙げることができる。
【0012】
易分解性有機物付着廃プラスチックに生石灰含有粉体を混合すると、廃プラスチックに付着する易分解性有機物に含まれる水分と生石灰が反応し、以下の反応により水分を消費し、また水和反応熱により過剰の水分を蒸発させる。水和に伴う反応熱で滅菌した後、さらに生成した消石灰の高pH環境と水分活性の減少により、雑菌の繁殖を抑え、腐敗を抑制できる。
CaO + H2O → Ca(OH)2
【0013】
本発明の混合に用いる混合装置としては、数cm〜数十cmの固形物と粉体を混合できるものであれば、特に限定されるものではないが、例えば掻き揚げ用の羽根を内設するロータリーミキサーや、強制撹拌機構を備えたパドルミキサー、プロシェアミキサーなどを挙げることができる。本発明の処理を行った混合物は、易分解性有機物の腐敗が抑えられるため、常温で1週間以上保管することが可能である。
【0014】
本発明において生石灰含有粉体とは、生石灰を成分とし、易分解性有機物付着廃プラスチックに付着した水分と反応して消石灰を生成するものである。生石灰含有粉体は、生石灰を20質量%以上、好ましくは40質量%以上含有するものがよく、生石灰以外の成分がセメントの製造及び品質に悪影響を与えないものであれば、特に限定されない。具体的には生石灰、仮焼ドロマイト、セメント焼成工程の途中の、例えばサスペンションプレヒーターから採取されるセメント焼成中間品、およびセメント焼成設備で広く用いられている塩素バイパス装置から分離回収された粗粉分などが挙げられる。セメント焼成設備のサスペンションプレヒーターでは、セメント原料は最下段のサイクロンに達するまでに850〜900℃に加熱され、セメント焼成中間品に含有される石灰分のほぼすべてが生石灰となる。サスペンションプレヒーターの最下段のサイクロンから分取されるセメント焼成中間品の生石灰の含有量は概ね40〜65質量%である。また、セメント焼成工程からアルカリ金属塩化物を分離するために広く用いられる塩素バイパス装置では、ロータリーキルンの窯尻付近から約1,000℃のガスの一部が抽気され、抽気ガスが600〜700℃に冷却された後に、分級器に導かれて、ガス中の粗粉分(粒径が概ね10μm以上)が分離回収される。この粗粉分はセメント焼成工程からガスとともに取り出されたセメント焼成中間品であり、生石灰の含有量は概ね45〜70質量%である。セメント焼成設備のサスペンションプレヒーターや塩素バイパス装置から分取または分離回収されるセメント焼成中間品は、そのまま成分調整を行うことなく、セメント焼成工程に、セメント原料の一部として投入できるものであるので、本発明の処理方法の生石灰含有粉体として用いることは特に好ましい。さらに、塩素バイパス装置から分離回収される粗粉分は、分離回収後にセメント焼成キルンに戻されるものを転用するもので、分離回収のための新たな装置の設置を必要とせず、特に有利である。
【0015】
易分解性有機物付着廃プラスチックと生石灰含有粉体との混合割合は、水分と生石灰との反応後の易分解性有機物の含水率が30質量%以下となるように調整する。易分解性有機物付着廃プラスチックに付着した水分量および、生石灰含有粉体に含まれる生石灰の含有量に依存するが、易分解性有機物付着廃プラスチック100質量部に対して、生石灰含有粉体を5〜100質量部、実用的には10〜50質量部が好ましい。生石灰含有粉体の混合量が少ない場合は、反応熱による滅菌および易分解性有機物中の水分の除去が不十分になり、廃プラスチックの保管中の腐敗を十分に抑えられないおそれがある。生石灰含有粉体の混合量が過剰の場合は、経済的に非効率なだけでなく、未反応の生石灰が保管中に空気中の水分と反応して蓄熱し、廃プラスチックの熱分解を生じ、さらには火災を生じる危険がある。また、廃プラスチックに付着する易分解性有機物が多い場合には、本発明の処理をする前に振動篩いなどにより廃プラスチックと易分解性有機物を分離することが望ましい。
【0016】
本発明の混合処理を行った廃プラスチックは、易分解性有機物に含まれる水分との反応により石灰分の大半が消石灰になった生石灰含有粉体とともに、必要に応じて他の調整成分を加えて、セメント焼成設備の仮焼炉および/または窯尻に投入され、セメント焼成工程で熱利用される、またはセメント焼成原料の一部として利用され、セメントクリンカになる。廃プラスチックをセメント焼成設備の仮焼炉および/または窯尻に投入する手段は、固形物の搬入手段であれば、特に限定されないが、例えばホッパーによる直接投入や、プッシャー、スクリューフィーダー等の機械的投入などを挙げることができる。
【0017】
また、本発明の混合処理を行った廃プラスチックを概ねの質量が60mg以下となるように破砕し、セメント焼成設備の仮焼炉および/または窯前のバーナーからセメント焼成用燃料の一部として投入することができる。廃プラスチックを吹き込むためのバーナーは、主燃料のバーナーとは独立したノズルを主燃料バーナーの近傍に設置してもよい。また、主燃料バーナーと一体化した複合バーナーによって、吹き込むこともできる(例えば特許文献:特開2000−310410号公報に記載の方法)。廃プラスチックの破砕手段は、特に限定されないが、例えば2軸カッターを備える破砕機を挙げることができる。また、加熱溶融造粒機を用いてもよい。加熱溶融造粒機を用いる場合には、易分解性有機物に含まれる水分との反応により石灰分の大半が消石灰になった生石灰含有粉体が、溶融造粒の核となるとともに、造粒機の器壁に廃プラスチックが溶着するのを防ぐ働きをする。なお、前記破砕機の磨耗が激しい場合には、廃プラスチックを破砕する前に、振動篩などの選別機によって、余剰な生石灰含有粉体を分離除去してもよい。
【特許文献2】特開2000−310410号公報
【実施例】
【0018】
(実施例)
易分解性有機物付着廃プラスチック:
小売店舗から排出された販売期限切れ弁当および惣菜を、プラスチック製容器ごと破砕し、振動篩いでプラスチックと食品部分を分離した。プラスチック部分に付着した食品残渣等の易分解性有機物は、易分解性有機物付着廃プラスチックのうちの30質量%で、その易分解性有機物の含水率は80質量%であった。すなわち、易分解性有機物付着廃プラスチックのうちの水分量は、24質量%であった。
生石灰含有粉体:
セメント焼成設備のサスペンションプレヒーター最下段から分取されたセメント焼成中間品および、塩素バイパス装置で分離回収された粗粉分を準備した。サスペンションプレヒーターから分取のセメント焼成中間品および塩素バイパス分離粗粉分の生石灰含有量は、各々60質量%、64質量%であった。
混合、保管:
上記のとおり準備した易分解性有機物付着廃プラスチック100kgに対して、生石灰含有粉体(セメント焼成中間品または塩素バイパス粗粉分)を20kg加え、プロシェアミキサーで3分間混合し自然冷却の後、これをフレコン袋に詰め、倉庫内に常温(約25℃)で保管した。セメント焼成中間品、塩素バイパス粗粉分のどちらを用いた場合にも、1週間経過後も特別な変化は認められなかった。
【0019】
(比較例1)
実施例に用いたものと同じ易分解性有機物付着廃プラスチック100kgをそのままフレコン袋に詰め、実施例と同様に倉庫内に常温(約25℃)で保管した。2日目から腐敗臭が発生し、3日目からは、ハエの大量発生が認められた。
【0020】
(比較例2)
実施例に用いた塩素バイパス粗粉分に水を噴霧し、石灰分を消化した後、乾燥したものを生石灰含有粉体の代わりに用いた以外は実施例と同様にして、フレコン袋を倉庫内に常温(約25℃)で保管した。5日目から腐敗臭が発生した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
易分解性有機物付着廃プラスチックに生石灰含有粉体を混合し、該易分解性有機物の腐敗を抑制することを特徴とする易分解性有機物付着廃プラスチックの処理方法。
【請求項2】
生石灰含有粉体を混合した易分解性有機物付着廃プラスチックをセメント焼成用の原料および/または燃料の一部として用いることを特徴とする請求項1に記載の易分解性有機物付着廃プラスチックの処理方法。
【請求項3】
生石灰含有粉体を混合した易分解性有機物付着廃プラスチックをセメント焼成工程の仮焼炉および/または窯尻に投入することを特徴とする請求項2に記載の易分解性有機物付着廃プラスチックの処理方法。
【請求項4】
生石灰含有粉体を混合した易分解性有機物付着廃プラスチックを破砕し、該破砕物をセメント焼成工程の仮焼炉および/または窯前のバーナーから投入することを特徴とする請求項2に記載の易分解性有機物付着廃プラスチックの処理方法。
【請求項5】
生石灰含有粉体を混合した易分解性有機物付着廃プラスチックを選別機に投入し、余剰な生石灰含有粉体を除去した後、該易分解性有機物付着廃プラスチックを破砕することを特徴とする請求項4に記載の易分解性有機物付着廃プラスチックの処理方法。
【請求項6】
生石灰含有粉体として、セメント焼成工程の途中から分取されたセメント焼成中間品を用いることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の易分解性有機物付着廃プラスチックの処理方法。
【請求項7】
生石灰含有粉体として、セメント焼成設備の塩素バイパス装置によってセメント焼成工程から抽気されたガスから分級機によって分離回収された粗粉分を用いることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の易分解性有機物付着廃プラスチックの処理方法。

【公開番号】特開2007−244957(P2007−244957A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−69557(P2006−69557)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】