説明

延伸積層フィルム

【課題】本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、長尺で巻取り可能であり、接着性が改善され、偏光板や液晶表示装置の材料として有用なフィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】熱可塑性樹脂からなるA層と、脂環式ポリオレフィン樹脂からなるB層とを、少なくとも1枚ずつ積層してなるフィルムであって、熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTgA(℃)、脂環式ポリオレフィン樹脂のガラス転移温度TgB(℃)を、延伸積層フィルムの平均厚みをT(μm)、A層の全平均厚みをTS(μm)、A層の面配向係数をPとしたとき、a)TgA+10(℃)≦TgB(℃)であり、b)0.03*T<TS<0.1*Tであり、c)P≦1.0*10-3であることを特徴とする延伸積層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
液晶表示装置には、液晶セルの複屈折による位相差を補償するために位相差フィルムが広く用いられている。これまで、様々な構成の位相差フィルムが提案されてきたが、透明樹脂を延伸により配向させて得られる延伸フィルムが広く用いられてきた。該延伸フィルムとしては、耐熱性等に優れるポリカーボネート樹脂からなるフィルムが挙げられるが、特に、耐熱性に優れ、吸湿性が低く、光弾性定数が小さい脂環式ポリオレフィン樹脂からなるフィルムが近年注目を浴びている。
【0002】
しかしながら、脂環式ポリオレフィン樹脂からなる延伸フィルムは従来の材料に対し接着性に劣るという欠点があった。特に偏光板の保護フィルムと位相差フィルムを兼ねる用途においては偏光子のPVAとの接着強度が劣ることは大きな問題であった(特許文献1参照)。
【0003】
かかる問題に対し、脂環式ポリオレフィンフィルムの表面に対してコロナ処理を行ったり接着剤を改良したりすることにより解決が試みられてきたが(特許文献2参照)、未だ接着強度の改善は不十分である。
【0004】
【特許文献1】特開平8−43812号公報
【特許文献2】特開2005−70140号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、接着性が改善され、偏光板や液晶表示装置の材料として有用なフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を改善するために鋭意研究を重ねた結果、特定のガラス転移温度、及び配向度を持つ樹脂層を積層してなり、かつ、厚みの調整された延伸積層フィルムを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明によれば下記のものが提供される。
〔1〕 熱可塑性樹脂からなるA層と、脂環式ポリオレフィン樹脂からなるB層とを、少なくとも1枚ずつ積層してなる延伸積層フィルムであって、
熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTgA(℃)、脂環式ポリオレフィン樹脂のガラス転移温度TgB(℃)を、延伸積層フィルムの平均厚みをT(μm)、A層の全平均厚みをTS(μm)、A層の面配向係数をPとしたとき、
a)TgA+10(℃)≦TgB(℃)であり、
b)0.03×T<TS<0.1×Tであり、
c)P≦1.0×10-3である、
ことを特徴とする延伸積層フィルム。
〔2〕 前記TgAが、100〜125(℃)であることを特徴とする〔1〕に記載の延伸積層フィルム。
〔3〕 前記TgBが、130(℃)以上であることを特徴とする〔1〕または〔2〕に記載の延伸積層フィルム。
〔4〕 前記脂環式ポリオレフィン樹脂が、主鎖に脂環構造を有するポリオレフィン樹脂であることを特徴とする〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の延伸積層フィルム。
〔5〕 前記熱可塑性樹脂が、脂環構造を有するポリオレフィン樹脂であることを特徴とする〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の延伸積層フィルム。
〔6〕 A層−B層−A層の順番に積層してなることを特徴とする〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の延伸積層フィルム。
〔7〕 〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の延伸積層フィルムと、偏光膜とを積層してなる偏光板。
〔8〕 〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の延伸積層フィルムを備えてなる液晶表示装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、厚みムラが小さく長尺で巻取り可能であり、接着性が顕著に改善された延伸積層フィルムが提供される。係る本発明の延伸積層フィルムは、偏光板、液晶表示装置のほか、各種光学材料として利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の延伸積層フィルムは、熱可塑性樹脂からなるA層と、脂環式ポリオレフィン樹脂からなるB層とを積層してなるフィルムである。ここで脂環式ポリオレフィン樹脂とは、その繰り返し構造中に脂環構造を含有するポリオレフィン樹脂である。脂環構造はポリオレフィンの主鎖、側鎖のいずれに存在していても良いが、その中でも、機械強度、耐熱性などの観点から、主鎖に脂環構造を含有するポリオレフィン樹脂が好ましい。
【0009】
上記の脂環構造を含有するポリオレフィン樹脂の脂環構造としては、飽和脂環炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和脂環炭化水素(シクロアルケン)構造などが挙げられるが、機械強度、耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造やシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造が最も好ましい。脂環構造を構成する炭素原子数には、格別な制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲であるときに、機械強度、耐熱性、及びフィルムの成形性の特性が高度にバランスされ、好適である。本発明に使用される脂環式ポリオレフィン樹脂中の脂環構造を含有してなる繰り返し単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式ポリオレフィン樹脂中の脂環構造を有する繰り返し単位の割合がこの範囲にあると、本発明の延伸積層フィルムの透明性および耐熱性が向上する。
【0010】
脂環式ポリオレフィン樹脂としては、ノルボルネン系樹脂、単環の環状オレフィン系樹脂、環状共役ジエン系樹脂、ビニル脂環式炭化水素系樹脂、及び、これらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系樹脂は、透明性と成形性が良好なため、好適に用いることができる。脂環式ポリオレフィン樹脂は、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0011】
ノルボルネン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との開環共重合体又はそれらの水素化物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との付加共重合体又はそれらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環(共)重合体水素化物(水素添加物)は、透明性、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、特に好適に用いることができる。
【0012】
ノルボルネン構造を有する単量体としては、ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、およびこれらの化合物の誘導体(例えば、環に置換基を有するもの)などを挙げることができる。ここで、置換基としては、例えばアルキル基、アルキレン基、極性基などを挙げることができる。また、これらの置換基は、同一または相異なって複数個が環に結合していてもよい。ノルボルネン構造を有する単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
極性基の種類としては、ヘテロ原子、またはヘテロ原子を有する原子団などが挙げられる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、ハロゲン原子などが挙げられる。極性基の具体例としては、カルボキシル基、カルボニルオキシカルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシル基、オキシ基、エステル基、シラノール基、シリル基、アミノ基、ニトリル基、スルホン基などが挙げられる。
【0014】
ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な他の単量体としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどのモノ環状オレフィン類およびその誘導体;シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエンなどの環状共役ジエンおよびその誘導体;などが挙げられる。
【0015】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との開環共重合体は、単量体を公知の開環重合触媒の存在下に(共)重合することにより得ることができる。
【0016】
ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどの炭素数2〜20のα−オレフィンおよびこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセンなどのシクロオレフィンおよびこれらの誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエンなどの非共役ジエンなどが挙げられる。これらの単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。
【0017】
ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との付加共重合体は、単量体を公知の付加重合触媒の存在下に重合することにより得ることができる。
【0018】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環共重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の水素添加物、およびノルボルネン構造を有する単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加重合体の水素添加物は、これらの重合体の溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素添加触媒を添加し、炭素−炭素不飽和結合を好ましくは90%以上水素添加することによって得ることができる。
【0019】
ノルボルネン系樹脂の中でも、繰り返し単位として、X:ビシクロ〔3.3.0〕オクタン−2,4−ジイル−エチレン構造と、Y:トリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカン−7,9−ジイル−エチレン構造とを有し、これらの繰り返し単位の含有量が、ノルボルネン系樹脂の繰り返し単位全体に対して90重量%以上であり、かつ、Xの含有割合とYの含有割合との比が、X:Yの重量比で100:0〜40:60であるものが好ましい。このような樹脂を用いることにより、本発明の延伸積層フィルムを長期的に寸法変化がなく、光学特性の安定性に優れるものとすることができる。
【0020】
本発明に用いる脂環式ポリオレフィン樹脂の分子量は使用目的に応じて適宜選定されるが、溶媒としてシクロヘキサン(樹脂が溶解しない場合はトルエン)を用いるゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレン(溶媒がトルエンのときはポリスチレン換算)の重量平均分子量(Mw)で、通常10,000〜100,000、好ましくは15,000〜80,000、より好ましくは20,000〜50,000である。重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、フィルムの機械的強度および成型加工性が高度にバランスされ好適である。
【0021】
脂環式ポリオレフィン樹脂の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は特に制限されないが、通常1.0〜10.0、好ましくは1.1〜4.0、より好ましくは1.2〜3.5の範囲である。
【0022】
本発明に用いる脂環式ポリオレフィン樹脂は、光弾性係数の絶対値が10×10-12Pa-1以下であることが好ましく、7×10-12Pa-1以下であることがより好ましく、4×10-12Pa-1以下であることが特に好ましい。光弾性係数Cは、複屈折をΔn、応力をσとしたとき、
C=Δn/σ
で表される値である。脂環式ポリオレフィン樹脂の光弾性係数が10×10-12Pa-1を超えると、本発明の延伸積層フィルムの面内レターデーションのバラツキが大きくなるおそれがある。
【0023】
本発明の延伸積層フィルムにおいては、上述の脂環式ポリオレフィン樹脂からなるB層に加え、熱可塑性樹脂からなるA層が含まれる。ここで熱可塑性樹脂としては、各種の熱可塑性樹脂を挙げることができ、例えば、脂環式ポリオレフィン樹脂、ポリエチレンやポリプロピレン等の鎖状オレフィン系重合体、トリアセチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリレート、ポリエステルサルホン、変性アクリルポリマー等が挙げられる。これらの中でも、透明性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性の観点から脂環構造を有するポリオレフィン樹脂が好ましく、中でも、主鎖に脂環構造を有するポリオレフィン樹脂が特に好ましい。なお、A層に好ましく用いる脂環構造を有するポリオレフィン樹脂の具体例としては、上述の脂環構造を有するポリオレフィン樹脂(B層に用いる樹脂として例示したもの)(但し、下述のように、TgA+10(℃)≦TgB(℃)を満たすもの)を挙げることができる。
【0024】
本発明の延伸積層フィルムにおいて、熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTgA(℃)、脂環式ポリオレフィン樹脂のガラス転移温度をTgB(℃)としたときに、TgAとTgBの差が10℃以上あることが必要であり、中でも15℃以上であると良い。すなわち、TgA+10(℃)≦TgB(℃)であり、特にTgA+15(℃)≦TgB(℃)であることが好ましい。ガラス転移温度の差が10℃未満では得られる延伸積層フィルムの接着性が不十分となる。また、TgAは100〜125℃であることが好ましい。100℃未満では耐熱性が不足する可能性があり、125℃を超えると得られる延伸積層フィルムの接着性が不十分となるおそれがある。さらに、TgBは130℃以上であることが好ましく、130〜160℃の範囲にあることが特に好ましい。130℃未満では耐熱性の不足を招く可能性があり、160℃を超えると加工が困難になるおそれがある。
【0025】
本発明における延伸積層フィルムの面内の平均レターデーション(Re)及び厚み方向の平均レターデーション(Rth)は、一般的には、Reで50〜200nm程度であり、Rthで100〜300nm程度であるが、用いられる表示装置の設計によってこの範囲内での最適値が選択される。
【0026】
本発明における延伸積層フィルムの平均厚み(T(μm))は、機械的強度などの観点から、好ましくは30〜90μm、さらに好ましくは40〜80μmである。
また、巾方向の厚みムラは巻取りの可否に影響を与えるため、好ましくはレンジで3nm以下、より好ましくは2nm以下とすることができる。
【0027】
本発明の延伸積層フィルム中の残留揮発性成分の含有量は特に制約されないが、好ましくは0.1重量%以下、より好ましくは0.05重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下である。残留揮発性成分の含有量が0.1重量%を超えると、経時的にフィルムの光学特性が変化するおそれがある。揮発性成分の含有量を上記範囲にすることにより、寸法安定性が向上し、ReやRthの経時変化を小さくすることができ、さらには本発明の延伸積層フィルムを有する偏光板や液晶表示装置の劣化を抑制でき、長期的にディスプレイの表示を安定で良好に保つことができる。
【0028】
揮発性成分は、フィルム中に微量含まれる分子量200以下の物質であり、例えば、残留単量体や溶媒などが挙げられる。揮発性成分の含有量は、フィルム中に含まれる分子量200以下の物質の合計として、フィルムをガスクロマトグラフィーにより分析することにより定量することができる。
【0029】
本発明の延伸積層フィルムの飽和吸水率は好ましくは0.03重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下、特に好ましくは0.01重量%以下である。飽和吸水率が上記範囲であると、ReやRthの経時変化を小さくすることができ、さらには本発明の延伸積層フィルムを有する偏光板や液晶表示装置の劣化を抑制でき、長期的にディスプレイの表示を安定で良好に保つことができる。
【0030】
飽和吸水率は、フィルムの試験片を一定温度の水中に一定時間、浸漬し、増加した質量の浸漬前の試験片質量に対する百分率で表される値である。通常は、23℃の水中に24時間、浸漬して測定される。
本発明の延伸積層フィルムにおける飽和吸水率は、例えば前記熱可塑性樹脂及び/又は前記脂環式ポリオレフィン樹脂中の極性基の量を減少させることにより、前記値に調節することができるが、好ましくは、極性基を持たない樹脂であることが望まれる。
【0031】
本発明における延伸積層フィルムは、上述の熱可塑性樹脂からなるA層と脂環式ポリオレフィン樹脂からなるB層とを、少なくとも1枚ずつ積層するものであれば良い。2層構造の積層フィルムに限定されず、3層またはそれ以上の層構成からなる積層フィルムであってもよい。中でも、A層を最表層とする層構成が好ましく、特に、A層−B層(芯層)−A層の順番に積層してなるものが好ましい。A層とB層とは、接着層を介して接しているものであってもよいが、直接に触れて接しているものであることが好ましい。
本発明において、A層の全平均厚みTsはフィルムの平均厚みをTとした時に0.03×T<Ts<0.1×Tの関係を満たす事が必要である。Ts≧0.1×Tでは延伸の際にフィルムの幅方向厚み斑が悪化し好ましくない。またTs≧0.03Tでは接着強度の顕著な上昇が見られないので好ましくない。
【0032】
本発明の延伸積層フィルムにおいて、A層は、その面配向係数Pが、1.0×10-3以下であることが好ましく、0.5×10-3以下であることがより好ましい。ここで、面配向係数とは、フィルム内の分子鎖の配向状態を示す指標であり、A層の屈折率、すなわち、面内最大屈折率nx、nxに直行する方向の屈折率ny、及び厚み方向の屈折率nzから、以下の式に従って算出される数値である。
P=(nx+ny)/2−nz
本発明において、Pが1.0×10-3を超える場合には、A層の配向が過度となり、得られる延伸積層フィルムの接着性が低下するので好ましくない。
【0033】
本発明の延伸積層フィルムは、Reのバラツキが10nm以内、好ましくは5nm以内、さらに好ましくは2nm以内である。Reのバラツキを、上記範囲にすることにより、液晶表示装置用の位相差フィルムとして用いた場合に表示品質を良好なものにすることが可能になる。ここで、Reのバラツキは、光入射角0°(入射光線と本発明の延伸積層フィルム表面が直交する状態)の時のReを積層体の幅方向に測定したときの、そのReの最大値と最小値との差である。
【0034】
本発明の延伸積層フィルムは長尺状であることが好ましい。長尺状とは、フィルムの幅方向に対し少なくとも5倍程度以上の長さを有するものを言い、好ましくは10倍もしくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻回されて保管または運搬される程度の長さを有するものを言う。
【0035】
本発明の延伸積層フィルムは、前記熱可塑性樹脂からなる層と前記脂環式ポリオレフィン樹脂からなる層とを積層してなる未延伸積層フィルムを延伸して得られたものであることが好ましい。
【0036】
前記未延伸フィルムを成形する方法は、特に制限されないが、共押出成形方法、ドライラミネーション等のフィルムラミネーション成形方法、及びコーティング成形方法などの公知の方法が適宜利用され得る。中でも、共押出成形方法が好ましい。
共押出成形法には、フラットなダイを用いたフラットダイ共押出成形法や、円筒形のダイを用いた共インフレーション成形法などなどがあるが、フラットダイ共押出成形法が好ましい。フラットダイ共押出成形法は、樹脂を押出機で加熱溶融後、フラットダイから共押し出しし、連続的にフィルム形状の成形品を得る方法である。フラットダイとしては、樹脂の分配流路の構造別に、Tダイ、コートハンガーダイ、フィッシュテールダイなどが挙げられる。押出機は樹脂を加熱混練して、一定押出量でダイよりフィルム形状で溶融体を押し出す。通常押出機とダイとの間にスクリーンやフィルタを入れて、ゲルや異物を除去することが好ましい。また使用される樹脂は、押出機に投入する前に乾燥し、水や揮発性溶剤の含有量を減らしておくことがフィッシュアイや気泡の発生を防止する上で好ましい。
【0037】
本発明の延伸積層フィルムを製造する際の延伸方法としては、特に制限はなく、従来公知の方法を適用し得る。具体的には、ロール間の周速の差を利用して縦方向に一軸延伸する方法、テンターを用いて横方向に一軸延伸する方法等の一軸延伸法;固定するクリップの間隔が開かれて縦方向の延伸と同時にガイドレールの広がり角度により横方向に延伸する同時二軸延伸法や、ロール間の周速の差を利用して縦方向に延伸した後にその両端部がクリップ把持してテンターを用いて横方向に延伸する逐次二軸延伸法などの二軸延伸法;が挙げられる。
【0038】
縦方向に延伸する方法としては、ロール間でのIR加熱方式、フロート方式等が上げられるが、本発明のフィルムの用途に求められる光学的な均一性を得るためには後者が好適である。延伸条件に特に制限はないが、延伸温度としてはTgB〜TgB+20℃の範囲で、延伸倍率としては1.1〜3.0倍の範囲にて所望の光学特性を得るために調整すればよい。
【0039】
横方向に延伸する方法としては、テンター法が挙げられる。この場合も延伸条件に特に制限はないが、延伸温度としてはTgB〜TgB+20℃の範囲で、延伸倍率としては1.3〜5.0倍、好ましくは1.5〜4.0倍の範囲にて所望の光学特性を得るために調整すればよい。5.0以上の倍率は設備に過大な負荷がかかり現実的な値ではない。また1.3倍以下の倍率での延伸は幅方向厚みムラの悪化を招き好ましくない。
【0040】
本発明の延伸積層フィルムにおける製膜では巾方向厚みムラの制御のため延伸ゾーンにおいて巾方向に温度差がつくような製膜をすることも可能である。延伸ゾーンにおいて巾方向の温度差をつけるにはノズルの開度を巾方向で調整したり、IRヒーターを巾方向に並べて加熱制御したりするなど公知の手法を用いることができ、これと上述のレールパターン組み合わせにより、より厚みムラの制御された延伸積層フィルムを得ることが可能となる。
【0041】
本発明の偏光板は、偏光膜の少なくとも片面に本発明の延伸積層フィルムを積層させてなる。偏光膜には、ポリピニルアルコールや部分ホルマール化ポリビニルアルコール等の従来に準じた適宜なビニルアルコール系ポリマーよりなるフィルムに、ヨウ素や二色性染料等よりなる二色性物質による染色処理、延伸処理、架橋処理等の適宜な処理を適宜な順序や方式で施したもので、自然光を入射させると直線偏光を透過する適宜なものを用いることができる。特に、光透過率や偏光度に優れるものが好ましい。偏光膜の厚さは、5〜80μmが一般的であるが、これに限定されない。
【0042】
積層形態としては、本発明の延伸積層フィルムを偏光膜の両面に積層させても片面に積層させてもよく、また積層数にも特に限定はなく、2枚以上積層させてもよい。また、積層手法としては、必須手法ではないが、接着剤を用いて積層させることができる。延伸積層フィルムと偏光膜との間に本発明の特性を損なわない範囲で他の部材を介在させることもできる。
【0043】
偏光膜の片側又は両側には、偏光膜の保護を目的として、適宜の接着層を介して保護フィルムが接着されていてもよい。保護フィルムとしては、適宜な透明フィルムを用いることができる。中でも、透明性や機械的強度、熱安定性や水分遮蔽性等に優れる樹脂を有するフィルム等が好ましく用いられる。その樹脂の例としては、トリアセチルセルロースの如きアセテート重合体、脂環構造を有する重合体、ポリオレフィン重合体、ポリカーボネート重合体、ポリエチレンテレフタレートの如きポリエステル重合体、ポリ塩化ビニル重合体、ポリスチレン重合体、ポリアクリロニトリル重合体、ポリスルホン重合体、ポリエーテルスルホン重合体、ポリアミド重合体、ポリイミド重合体、アクリル重合体等があげられる。
【0044】
本発明の延伸積層フィルムと偏光膜が接する構成の場合は、延伸積層フィルムを偏光膜の保護フィルムとして兼用することができる。延伸積層フィルムを偏光膜の保護フィルムとして兼用することにより、保護フィルム一層を省いて液晶表示装置を薄型化するとともに、偏光膜の耐久性を向上することができる。
【0045】
本発明の延伸積層フィルムは、容易に製造が可能で、複屈折の高度な補償が可能なので、それ単独あるいは他の部材と組み合わせて、位相差板や視野角補償フィルムとして、液晶表示装置、有機EL表示装置、プラズマ表示装置、FED(電界放出)表示装置、SED(表面電界)表示装置などに広く応用が可能である。液晶表示装置としては、例えば、インプレーンスイッチング(IPS)モード、バーチカルアラインメント(VA)モード、マルチドメインバーチカルアラインメント(MVA)モード、コンティニュアスピンホイールアラインメント(CPA)モード、ハイブリッドアラインメントネマチック(HAN)モード、ツイステッドネマチック(TN)モード、スーパーツイステッドネマチック(STN)モード、オプチカルコンペンセイテッドベンド(OCB)モードなどを挙げることができる。
【0046】
本発明の液晶表示装置において、液晶表示装置の形成に際しては、例えばプリズムアレイシート、レンズアレイシート、光拡散板、バックライトや輝度向上フィルム等の適宜な部品を適宜な位置に1層又は2層以上配置することができる。バックライトとしては、冷陰極管、水銀平面ランプ、発光ダイオード、ELなどが挙げられる。
【実施例】
【0047】
本発明を、実施例及び比較例を示しながら、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
本実施例における評価は、以下の方法によって行う。
【0048】
(1)樹脂のガラス転移温度
セイコーインスツルメンツ製DSC6220を用いて樹脂ペレットのガラス転移温度を測定した。条件はサンプル重量10mg、昇温速度20℃/minとした。
【0049】
(2)各層の厚み
エポキシ樹脂に包埋したフィルムを大和光機(株)製ミクロトームRV−240を用いて30μm厚みにスライスしオリンパス製偏光顕微鏡BX51を用いて観察し各層の厚みを決定した。
【0050】
(3)厚みムラ
(株)ミツトヨ製スナップゲージID547−301を用いて巾方向に5cm間隔で厚みを測定し平均値を求める。次に最大値−最小値の値を厚みムラとした。
【0051】
(4)配向係数P
メトリコン社製プリズムカプラ屈折率計Model2010を用いて波長590nmでの屈折率nx、ny、nzを測定し以下式に従って面配向係数を算出した。
P=(nx+ny)/2−nz
ここでnxは面内最大屈折率、nyはnxに直行する方向の屈折率、nzは厚み方向の屈折率を表している。
【0052】
(5)剥離強度
得られた延伸フィルムを偏光フィルム(偏光膜)と常法によって貼りあわせ、25mmの幅に裁断して90度剥離試験を実施し以下の基準で延伸フィルムと偏光フィルムとの間の剥離強度を評価した。
◎・・・材破壊が先に発生して試験不能
○・・・剥離強度3.0N以上
×・・・剥離強度3.0N未満
【0053】
(実施例1〜3)
芯層用樹脂(B層)としてノルボルネン系樹脂であるZEONOR1420(ガラス転移温度137℃)、最表層用樹脂(A層)としてZEONOR1020(ガラス転移温度104℃)(共に日本ゼオン(株)製)のペレットを100℃で5時間乾燥した後、それぞれ別々の押出し機に供給した。樹脂は押出し機内で溶融された後、ポリマーパイプ及びポリマーフィルターを経てフィードブロック内で合流しTダイからキャスティングドラム上にシート状に押出されて冷却され厚み140μmの未延伸フィルム(1)を得た。(1)はそのまま連続してフローティング方式の縦延伸装置に供給され表に示す条件で縦延伸を行った後、さらに連続してテンターに供給された。テンター内は表に示す温度、延伸倍率で進行方向に対し直角方向に延伸を施され最終的に表に示す2軸延伸フィルム(2)を1300mmの巾で得た。得られたフィルムは上記の巾で均一なものであった。
【0054】
得られた2軸延伸フィルムは特開2005−70140号公報の実施例1にしたがって偏光フィルムと貼り合せ反対面にはトリアセチルセルロースを貼合して偏光板(3)を得た。偏光板(3)の剥離試験結果は良好であった。
【0055】
(比較例1)
未延伸フィルムとしてZEONOR1420(日本ゼオン(株)製)単層品を用いたところ剥離強度が低下した。
【0056】
(比較例2)
実施例1に対し表層厚みをアップさせたものは厚みムラが悪化し、ロール巻取りに支障を生じた。
【0057】
(比較例3)
実施例1に対し表層厚みをダウンさせたものは剥離強度が不足していた。
【0058】
(比較例4)
表層樹脂としてZEONEX330R(日本ゼオン(株)製:ガラス転移温度124℃)を用い表層の面配向係数Pを1.1×10-3とした所、剥離強度が低下した。
【0059】
(比較例5)
表層樹脂としてZEONEX480R(日本ゼオン(株)製:ガラス転移温度135℃)を用いたところ表層の面配向係数Pが1.4×10-3となり、剥離強度が低下した。
【0060】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなるA層と、脂環式ポリオレフィン樹脂からなるB層とを、少なくとも1枚ずつ積層してなる延伸積層フィルムであって、
熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTgA(℃)、脂環式ポリオレフィン樹脂のガラス転移温度TgB(℃)を、延伸積層フィルムの平均厚みをT(μm)、A層の全平均厚みをTS(μm)、A層の面配向係数をPとしたとき、
a)TgA+10(℃)≦TgB(℃)であり、
b)0.03×T<TS<0.1×Tであり、
c)P≦1.0×10-3である、
ことを特徴とする延伸積層フィルム。
【請求項2】
前記TgAが、100〜125(℃)であることを特徴とする請求項1に記載の延伸積層フィルム。
【請求項3】
前記TgBが、130(℃)以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の延伸積層フィルム。
【請求項4】
前記脂環式ポリオレフィン樹脂が、主鎖に脂環構造を有するポリオレフィン樹脂であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の延伸積層フィルム。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂が、脂環構造を有するポリオレフィン樹脂であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の延伸積層フィルム。
【請求項6】
A層−B層−A層の順番に積層してなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の延伸積層フィルム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の延伸積層フィルムと、偏光膜とを積層してなる偏光板。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の延伸積層フィルムを備えてなる液晶表示装置。

【公開番号】特開2007−245551(P2007−245551A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−72546(P2006−72546)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】