説明

建物外壁での太陽熱集熱構造

【課題】水を熱媒体とすることで高い集熱効果を挙げることができ、特別の動力を用いることなく太陽熱の集熱により昇温した温湯を必要な場所に送り出すことができ、かつ、建物の外観を損なうことなく施工することのできる太陽熱集熱構造を提供する。
【解決手段】建物外壁における外装材8と断熱材5との間に、水を一時的に貯留できる水貯留槽10を配置する。水貯留槽10は上端で水道管23に接続し、下端は温湯出口部13および通水パイプ25を介して、建物地下の温水槽22に接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物外壁での太陽熱集熱構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自然エネルギーの有効利用が要望され、なかでも、太陽熱を利用して温湯を作り、その温湯を炊事場や風呂場で利用することが現実に行われている。特許文献1には、屋根の上に貯湯タンクと太陽熱集熱器とを配置し、水を貯湯タンクと太陽熱集熱器との間で自然循環させて昇温し、必要なときに貯湯タンクから温湯を採湯するようにした太陽熱温水器が記載されている。また、特許文献2には、屋根板の直下に空気流路を形成し、この空気流路の一端を空気取入口として開口し、屋根部で太陽熱により加熱された空気を利用して温湯を作り、また、加熱された空気を暖房等に利用するようにしたソーラーシステムハウスが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−11067号公報
【特許文献2】特開平5−79707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のように、従来の太陽熱温水器は、建物の屋根の上に集熱器を設置するようにしており、美観上からは必ずしも好ましいものではない。また、既存の建物の屋根上に、後工事として、集熱器等を取り付けるのが通常であり、荷重の制限を受けるとともに、屋根部での突起物となることから雨水による水垢や土埃などが溜まりやすく、維持管理が煩雑となっている。
【0005】
特許文献2に記載のソーラーシステムハウスのように、屋根板の直下に太陽熱集熱部となる空気流路を形成する場合は、建物の施工と並行して太陽熱利用に必要な諸装置を建物内部に取り付けることが可能であり、上記した不都合は解消できる。しかし、空気の容積比熱は水と比較して小さく、集熱効果が小さいとともに、上部に溜まる熱気を駆動ファンのような動力を用いて下位に位置する熱交換部あるいは温水槽等に運ぶ必要がある。
【0006】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたものであり、建物における太陽熱集熱構造において、水を熱媒体とすることで高い集熱効果を挙げることができ、特別の動力を用いることなく太陽熱の集熱により昇温した温湯を必要な場所に送り出すことができ、かつ、建物の外観を損なうことなく施工することのできる太陽熱集熱構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための本発明による太陽熱集熱構造は、外装材と内装材とを備えた建物外壁における太陽熱集熱構造であって、前記外装材と内装材の間には空間が形成されており、該空間には水を一時的に貯留できる水貯留槽が配置されており、該水貯留槽は水道水導入部と温湯出口部を有していることを特徴とする。
【0008】
上記の建物外壁における太陽熱集熱構造では、熱媒体は水であり、さらに水貯留槽は、建物外壁に広く照射する太陽光が有する熱を効果的に集熱することができるので、高い集熱効率を挙げることができる。また、水貯留槽は、建物の外装材と内装材の間の空間に配置されており、建物の外観が太陽熱集熱構造を構築することによって損なわれることもない。さらに、水貯留槽を含む太陽熱集熱構造に必要な部材の取り付けは、建物の施工と並行して行うことができるので、施工も容易である。
【0009】
また、水道水導入部から水貯留槽内に流入し、太陽熱によって暖められた温水は、自重により温湯出口部から排出されるので、熱媒体(温湯)の送り出し等に格別の動力を必要とせず、省エネルギー効果も達成できる。
【0010】
本発明による建物外壁での太陽熱集熱構造を備えた建物は、水貯留槽内の水が蓄熱することによって、特に夏場での建物外壁の温度上昇を緩和することができる。いわば、水貯留槽が建物内部への断熱層として機能するので、従来の建物において外装材と内装材との間に配置される断熱材層を省略することもできる。もちろん、屋内側に断熱材層を有している建物外壁を備えた建物に対しても、本発明による太陽熱集熱構造は好適に施工することができる。その場合には、水貯留槽は建物外壁を構成する外装材と前記断熱材層との間に配置されることとなる。一般に、屋内側に断熱材層を有している建物外壁の場合、外装材と断熱材層との間に通気層としての空間が設けられるが、その空間内に水貯留槽を配置することにより、建物外壁の厚さを増すことなく、本発明による建物外壁での太陽熱集熱構造を施工することができる。
【0011】
本発明において、前記水貯留槽は止水性を備えることを条件に任意の材料で作ることができる。例として、樹脂材料や金属材料が挙げられる。軽量であること、止水性が得やすいことから、樹脂材料はより好適であり、射出成形によって箱状あるいは袋状に成形された水貯留槽は特に好ましい。
【0012】
前記水貯留槽は、所定の区画内を一個の水貯留槽で覆うことのできる大きさのものであってもよく、複数個の単位水貯留槽を直列または並列に連接して構成することで、所定の区画内を覆うようにしてもよい。
【0013】
本発明による建物外壁での太陽熱集熱構造において、水道水導入部から水貯留槽内に流入した水(水道水)は、外装材を介して伝熱する太陽熱を集熱することで昇温して温湯となる。使用者は、水貯留槽内の温湯を温湯出口部から取り出して利用する。そして、取り出した水量分の水道水を、再び水道水導入部から水貯留槽内に補充する。
【0014】
その際に、水貯留槽内で太陽熱を集熱することにより作られる温湯量よりも使用される温湯量が少ない場合が起こりうる。その場合でのエネルギーの無駄をなくすために、太陽熱集熱構造は、さらに太陽熱を集熱することで昇温した温湯を貯留するための温水槽を備えることが好ましい。該温水槽は建物の床下等に設置してもよく、建物内外の任意の場所に設置してもよい。
【0015】
なお、本発明において、「建物外壁」の言葉は、建物の側壁構造だけでなく、屋根構造をも含むものとして用いている。したがって、本発明において「外装材」の言葉は屋根材をも含み、その場合、「水貯留槽」は屋根材の屋内側に配置され、内装材には屋根構造での天井板等が含まれる。建物の側壁構造部分にのみ、あるいは建物の屋根構造部分にのみ、本発明による建物外壁での太陽熱集熱構造を施工することもでき、また、その双方に施工することもできる。建物の側壁構造部分と屋根構造部分の双方に本発明による建物外壁での太陽熱集熱構造を施工する場合に、双方に配置される水貯留槽は、それぞれ独立したものであってもよく、一つの連続した形態の槽であってもよく、あるいは2つの槽が配管等を通して連通した形態のものであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、建物の外観を損なうことなく施工することのでき、かつ高い集熱効果を挙げることができる、建物外壁における太陽熱集熱構造が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による建物外壁における太陽熱集熱構造の第1の形態を説明する図。
【図2】図1に示す建物外壁における太陽熱集熱構造の断面図。
【図3】本発明による建物外壁における太陽熱集熱構造の第2の形態を示す断面図。
【図4】本発明による建物外壁における太陽熱集熱構造の第3の形態を示す断面図。
【図5】水貯留槽の2つの例を示す図。
【図6】建物外壁における太陽熱集熱構造の利用システムの一例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施の形態に基づき説明する。
[第1の形態]
図1、図2は、本発明による建物外壁における太陽熱集熱構造の第1の形態を示す。この例において、建物Aは、壁構造部分Bと屋根構造部分Cを備え、さらに床材20の下に断熱材21で周囲を囲い込んだ温水槽22を有している。そして、太陽熱集熱構造は建物Aの側壁構造部分Bを利用して施工されている。
【0019】
図において、1はコンクリート基礎であり、その上に土台2が横架され、それを利用して、所要本数の柱3と間柱4が所定間隔で立設されている。柱3と間柱4の間には、発泡ポリスチレンで代表されるようなブロック状の発泡樹脂材料からなる断熱材5が埋め込まれて断熱材層とされ、また、柱3と間柱4の屋内側には適宜の内装材6が取り付けられている。柱3および間柱4の前記内装材6と反対側の側面には、相互の間隔が一定になるようにして縦長の棒部材7・・がそれぞれ取り付けられており、それを利用して図5(a)に示す形状の水貯留槽10が、前記断熱材層の屋外側に取り付けられている。
【0020】
水貯留槽10は、内部に貯水空間Sを有しかつ止水性を備えた部材であり、この例では、ポリエチレン系樹脂を射出成形することで作られている。図5(a)に示す水貯留槽10は全体として直方体形状であり、その横幅は前記した棒部材7、7の内法間の距離に等しく、縦長さは建物の側壁の高さ程度であり、厚さは、棒部材7の厚さとほぼ等しい。水貯留槽10の両側には、前記棒部材7に固定するための固定用突起11が設けてあり、また、上端部には水道水導入口12が、下端部近傍には温湯出口部13が備えられている。一例として、水貯留槽10は、幅455mm,高さ2000〜2500mm,厚さ15〜20mm程度である。
【0021】
各柱3と間柱4の間に所要数の水貯留槽10を、棒部材7を利用して取り付け、後記する所要の配管を行った後、水貯留槽10の外側に適宜の外装材8を取り付けることで、建物外壁での太陽熱集熱構造とされる。なお、図において、9は水切りである。
【0022】
上記の建物外壁での太陽熱集熱構造における配管構造を説明する。図2に示すように、前記のようにして取り付けた水貯留槽10の上部に水道管23を配設し、各水貯留槽10の水道水導入口12を前記水道管23と接続する。また、水道管23の適所には開閉弁24を取り付ける。さらに、各水貯留槽10の温湯出口部13を通水パイプ25に接続するとともに、該通水パイプ25の他端側を前記した温水槽22内に開放する。また、通水パイプ25の温水槽22への出口部には、開閉弁26を取り付ける。
【0023】
上記の建物外壁における太陽熱集熱構造の使用に当たっては、最初に水貯留槽10内に水道水を導入する。水貯留槽10内に貯留された水道水は、太陽熱によって暖められ温湯となる。必要時に、使用者は開閉弁26を開き、水貯留槽10内の温湯を通水パイプ25から取り出して利用する。図示の例では、直接利用せずに、一旦、温水槽22内に貯留するようにしている。そして、温湯の利用により減少した水貯留槽10の水量分を、開閉弁24を開いて水道管23から補充しておく。
【0024】
図6は、上記の操作をシステム化する場合の一例を示している。この例では、水貯留槽10の下端部側に水温を測定できる温度センサ27が取り付けてあり、該温度センサ27からの温度信号が制御装置28に送られる。制御装置28は、前記した開閉弁24および開閉弁26の開閉操作を行うプログラムを内装している。
【0025】
操作の一例において、制御装置28は下流側の開閉弁26を閉じた状態で、上流側の開閉弁24を開き、水貯留槽10内に水道水を導入する。必要な場合には、水貯留槽10に空気抜きを設けておく。水貯留槽10内に貯留された水道水が太陽熱によって暖められ、予め設定した温度になったとき、制御装置28は下流側の開閉弁26を開く。それにより、水貯留槽10内の温湯は、通水パイプ25を通って、温水槽22内に流下する。次に、制御装置28は下流側の開閉弁26を閉じ、上流側の開閉弁24を開いて、水貯留槽10内に水道水を再度導入する。以下、この操作が必要回数だけ繰り返され、断熱材21を備えた温水槽22内には、使用者が直接関与することなく、所定量の温湯が貯湯される。
【0026】
使用者は、必要時に、温水槽22内に貯留されている温湯を、直接またはさらに図示しない給湯機を通して加熱した後、風呂30の湯として、あるいはシャワー31の湯として利用することができる。
【0027】
なお、必要とされる太陽熱集熱面が広い面積である場合などには、図示しないが、水貯留槽10として、複数個の単位水貯留槽を直列または並列に連接して構成した水貯留槽10を用いることが施工上容易となることもある。そのような場合に、例えば図5(b)に示すよう、先端と後端が山形をなすような形状の単位水貯留槽10Tを用いて、上下方向に直列に接続することにより、ずれのない状態で所要面積の水貯留槽10を形成することができる。
【0028】
[第2の形態]
図3は、本発明による建物外壁における太陽熱集熱構造の第2の形態を示す。この形態の太陽熱集熱構造は、建物Aの壁構造部分Bに加えて屋根構造部分Cにも、水貯留槽10と同様な構造を持つ屋根用水貯留槽10aを配置している点で、第1の形態と相違する。他の構造は第1の形態と同じであり、同じ符号を付すことで説明は省略する。
【0029】
図3に示す例において、屋根構造部分Cは、水平方向に走る天井内装材32に接するようにして天井断熱材層33を配置した構造を有しており、屋根材34の裏面に接するようにして前記した屋根用水貯留槽10aが配置されている。該屋根用水貯留槽10aと前記した壁構造部分Bに配置した水貯留槽10とは連通管35により連接されている。屋根用水貯留槽10aの上端位置には水道管23が配管されており、屋根用水貯留槽10aと水道管23とは、図示を省略する開閉弁を介して接続されている。
【0030】
この構造の太陽熱集熱構造では、建物Aの壁構造部分Bに加えて屋根構造部分Cをも太陽熱の集熱面として利用することで、より高い太陽熱集熱効果を上げることができる。
【0031】
[第3の形態]
図4は、本発明による建物外壁における太陽熱集熱構造の第3の形態を示す。この形態では、屋根構造部分Cの構成が前記第2の形態と異なっている。ここでは、傾斜した屋根材34の裏面に接するようにして屋根用水貯留槽10aが配置され、さらに該屋根用水貯留槽10aに沿うようにして屋根断熱層36が配置され、その裏面に天井内装材32が傾斜して取り付けられている。この形態では、屋根用水貯留槽10a内の水に一旦集熱された太陽熱が外部に再放熱されるのを、第2の形態のものと比較して、より完全に阻止することができ、高い熱効率が得られる。
【0032】
なお、第2および第3の形態の太陽熱集熱構造においても、第1の形態で説明した操作をシステムを適用できることは、もちろんである。
【符号の説明】
【0033】
A…建物、
B…壁構造部分、
C…屋根構造部分、
1…コンクリート基礎、
2…土台、
3,4…柱、間柱、
5…断熱材、
6…内装材、
7…縦長の棒部材、
8…外装材、
10…水貯留槽、
10a…屋根用水貯留槽、
10T…単位水貯留槽、
11…固定用突起、
12…水道水導入口、
13…温湯出口部、
20…床材、
21…断熱材、
22…温水槽、
23…水道管、
24…開閉弁、
25…通水パイプ、
26…開閉弁、
27…温度センサ、
28…制御装置、
30…風呂、
31…シャワー、
32…天井内装材、
33…天井断熱材層、
34…屋根材、
36…屋根断熱層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外装材と内装材とを備えた建物外壁における太陽熱集熱構造であって、
前記外装材と内装材の間には空間が形成されており、該空間には水を一時的に貯留できる水貯留槽が配置されており、該水貯留槽は水道水導入部と温湯出口部を有していることを特徴とする建物外壁での太陽熱集熱構造。
【請求項2】
建物外壁は屋内側に断熱材層を有しており、前記貯水槽は外装材と前記断熱材層との間に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の建物外壁での太陽熱集熱構造。
【請求項3】
水貯留槽は樹脂材料からなることを特徴とする請求項1または2に記載の建物外壁での太陽熱集熱構造。
【請求項4】
水貯留槽は複数個の単位水貯留槽が直列または並列に連接して構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の建物外壁での太陽熱集熱構造。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の建物外壁での太陽熱集熱構造であって、該太陽熱集熱構造はさらに太陽熱を集熱することで昇温した温湯を貯留するための温水槽を備えることを特徴とする建物外壁での太陽熱集熱構造。
【請求項6】
建物外壁は建物の屋根構造をも含み、そこにおいて外装材は屋根材である請求項1から5のいずれか一項に記載の建物外壁での太陽熱集熱構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−111823(P2011−111823A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270179(P2009−270179)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】