説明

建物用の窓枠およびこれを備えた窓

【課題】窓の下枠の段差部を、少なくとも非常時に容易かつ迅速になくすことができる建物用の窓枠およびこれを備えた窓を提供する。
【解決手段】建物に設けられる窓枠10であって、床面6に設けた収納溝18に上下動可能に配置される下枠20と、下枠20を上下動させる昇降手段22とを備え、下枠20が上動すると、床面6に下枠20による段差部24を形成する一方、下動すると、収納溝18に収納されて床面6に下枠20による段差部24を形成しないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物用の窓枠およびこれを備えた窓に関し、特に火災などの非常時に、室内から室外に避難するのに適した建物用の窓枠およびこれを備えた窓に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療福祉施設である病院のような建物においては、病室(居室)の外にバルコニーを設けるのが一般的である(例えば、特許文献1〜3参照)。バルコニーは、外気に開放されており、火災時の煙が溜まることがない恒常的に安全な場所とされている。このため、病室からバルコニーに避難できれば、火災時の避難安全性は患者(居室者)にとって著しく向上することになる。
【0003】
一方、病室や居室に設けるバリアフリー対応の窓に関して、例えば、特許文献4〜7の窓が知られている。
【0004】
【特許文献1】特開平7−4083号公報
【特許文献2】特開平10−25912号公報
【特許文献3】特開平10−220041号公報
【特許文献4】特開2004−353434号公報
【特許文献5】特開2005−42324号公報
【特許文献6】特開2005−232764号公報
【特許文献7】特開2005−232952号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、図3に示すように、病室2(居室)とバルコニー4との間に設けた上枠14と下枠20と左右の縦枠16と窓ガラス12とからなる窓の下枠20には、雨水や埃等の浸入を防止する目的から、床面6から上方にわずかに突き出た段差部24が通常設けてある。この段差部24は、車椅子やストレッチャーを利用する患者、松葉杖や介助を必要とする患者、さらには高齢者などの災害弱者が病室2からバルコニー4に避難する際の障害となることがある。例えば、出火室となった病室2から車椅子の患者がバルコニー4に避難する際に、段差部24を乗り越えるために時間を費やし、緊急時の避難を迅速に行えないおそれがある。
【0006】
他方、窓の下枠20の段差部24をなくしてバリアフリーにする方式も一部の行政規制で強制されている。しかし、こうした方式は、重要な機能である平常時の防水性を無視することになるため、不満の声も多く、現実的ではないといった問題がある。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、窓の下枠の段差部を、少なくとも非常時に容易かつ迅速になくすことができる建物用の窓枠およびこれを備えた窓を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に係る建物用の窓枠は、建物に設けられる窓枠であって、床面に設けた収納溝に上下動可能に配置される下枠と、前記下枠を上下動させる昇降手段とを備え、前記下枠が上動すると、前記床面に前記下枠による段差部を形成する一方、下動すると、前記収納溝に収納されて前記床面に前記下枠による段差部を形成しないことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項2に係る建物用の窓枠は、上述した請求項1において、前記昇降手段は、前記収納溝内に設けられ、空気の供給により膨張して前記下枠を上動させる一方、排出により収縮して前記下枠を下動させる可撓性袋体と、前記袋体内に空気を供給または排出する孔とを含んで構成されることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項3に係る建物用の窓枠は、上述した請求項2において、前記孔の開閉を操作する操作部を、立位姿勢にある操作者の手の届く位置に配置したことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項4に係る窓は、上述した請求項1〜3のいずれか一つに記載の建物用の窓枠と、この窓枠に装着した窓ガラスとを備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項5に係る窓は、上述した請求項4において、建物躯体に固定した上枠をさらに備え、前記下枠が下動すると、前記上枠と前記窓ガラスとの間に室内外を連通する火災時の排煙に供することができる開口を形成する一方、前記下枠は前記収納溝に収納されて前記床面に前記下枠による段差部を形成しないことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項6に係る窓は、上述した請求項4または請求項5において、バルコニーと病室とを隔てて設置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、建物に設けられる窓枠であって、床面に設けた収納溝に上下動可能に配置される下枠と、前記下枠を上下動させる昇降手段とを備え、前記下枠が上動すると、前記床面に前記下枠による段差部を形成する一方、下動すると、前記収納溝に収納されて前記床面に前記下枠による段差部を形成しないので、少なくとも非常時に昇降手段で下枠を下動し収納溝に収納することで、段差部を容易かつ迅速になくすことができる。このため、居室外への避難を、段差部が常にある窓枠を通過する場合に比べて容易かつ迅速に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明に係る建物用の窓枠およびこれを備えた窓の好適な実施の形態を病院の建物を例にとり詳細に説明する。図1は、本発明に係る建物用の窓枠およびこれを備えた窓の平常時における図であり、(a)は正面図、(b)は(a)のA−A線に沿った側断面図である。図2は、本発明に係る建物用の窓枠およびこれを備えた窓の火災時における図であり、(a)は正面図、(b)は(a)のA−A線に沿った側断面図である。
【0016】
図1および図2に示すように、本発明に係る窓100は、病室2とバルコニー4とを隔てて設置した掃き出し窓であり、本発明の建物用の窓枠10と、窓枠10に引違い状に装着した窓ガラス12とを備える。
【0017】
窓枠10は、上枠14および左右の縦枠16と、床面6に設けた凹状の収納溝18に上下動可能に配置した下枠20と、下枠20を上下動させる昇降手段としての上下移動装置22とから構成される。下枠20の上面には、上方に突き出る段差部24が設けてある。
【0018】
上下移動装置22は、収納溝18内に配置した可撓性袋体としてのゴム製チューブ26と、このチューブ26内に空気を出し入れする孔としての空気出入口28とから構成される。チューブ26は、空気出入口28から空気を入れることによって膨らみ、空気を抜くことによって萎むことが可能な構造であり、平常時は空気を充填した状態にされ、火災時は空気を抜いた状態にされる。
【0019】
チューブ26は、下枠20の下面と収納溝18の底面に挟まれるようにして下枠20の延在方向に配置してある。平常時においてチューブ26内に空気を充填させると、チューブ26は下枠20を押し上げ、これにより下枠20に設けた段差部24は全て床面6より上に現れた状態となる。この場合、窓ガラス12の上縁12aは、上枠14に密着する。一方、火災時にチューブ26から空気を抜くと、下枠20は重力の作用で下方に移動し、これに伴って段差部24と窓ガラス12も下がる。段差部24を収納溝18に収納すると、上枠14と窓ガラス上縁12aとの間に、室内外を連通する開口30を作り出すことができ、この開口30を排煙口のようにして病室2内の煙を外部に排出することが可能である。
【0020】
空気出入口28は、チューブ26内に空気を入れるための孔であり、図示しない空気入れ等を連結することが可能な構造としてある。また、空気出入口28に図示しない回転キャップを設けてもよく、この場合、火災時にこのキャップを回して外すことによって、チューブ26から瞬時に空気を抜くことができる。こうした空気出入口28は、病室2内の所望の位置に配置することが可能であるが、避難行動や空気を抜く操作を行い易いように、例えば立位姿勢にある操作者の手の届き易い窓100のやや高い位置に設けるのが好ましい。こうすることで、火災時に看護師等が簡単かつ迅速に操作することができる。
【0021】
なお、空気出入口28とチューブ26とを連通する空気連通管32は、外部から見えないように、左右の縦枠16などの窓枠10内に配置することができる。また、上下移動装置22のチューブ26は、ゴム製であることから収納溝18と良く密着し、平常時(空気充填時)には、水等の液体が浸入しにくい構造となっている。
【0022】
窓枠10は、窓ガラス12と段差部24の周囲を取り囲むように構成してある。上枠14および下枠20には、窓ガラス12を左右に動かすための図示しない公知のレールが設けてあり、上枠14におけるレールは、上下移動装置22による下枠20および窓ガラス12の上下移動の際に窓ガラス12が外れないように、窓ガラス12と一体に上下する構造としてある。また、左右の縦枠16にも図示しない公知のレールが設けてあり、これにより、窓ガラス12と段差部24と下枠20とを真っ直ぐ上下に動かすことが可能となっている。なお、下枠20の上下の移動が容易なように、左右の縦枠16の下枠20と接する箇所に図示しないローラー等を設けることも可能である。また、窓ガラス12や段差部24も下枠20と同様に上下に移動するため、左右の縦枠16と接するところにローラー等を設け、容易に上下動可能なようにしてもよい。
【0023】
上記の本発明の構成を採用することにより、窓の下枠20の段差部24は、平常時には床面6上に現れて防水性等の機能を発揮する一方、火災時にはチューブ26から空気を抜き段差部24を床面6下に移動させることで、段差部24を床面6上から容易かつ迅速になくすことができる。このため、病室からの患者の避難は、窓枠に段差部24が常時ある場合に比べて極めて容易となる。なかでも、車椅子利用者等が看護師の助けを借りずに単独で避難可能である。また、ストレッチャーの移動や松葉杖を使う患者の避難もし易くなる。
【0024】
これにより、人数が少なく、しかも作業項目が多い状況にある病院の看護師等にとって、患者の避難に関わる火災時の負担を大きく低減できる。したがって、病院の避難安全性が高まると同時に、病院の非常時管理体制が容易となる。
【0025】
また、上下移動装置22によって窓ガラス12の上方に形成される開口30は、火災時に排煙の用に供することができるのみならず、平常時における室内の換気にも活用することができる。この開口30は高い位置に形成されるため、窓ガラス12を開けて換気する通常の場合と異なり、窓ガラス12を閉じた状態で行え、看護師等が目を離した隙に患者がバルコニー4に出てしまう心配がないという効果も期待することができる。
【0026】
上記の実施形態においては、建物として病院の場合を例にとり説明したが、本発明の建物用の窓枠およびこれを備えた窓は、病院に限らず、福祉施設等の災害弱者を抱える施設などの建物にも適用可能であることは言うまでもない。
【0027】
以上説明したように、本発明によれば、建物に設けられる窓枠であって、床面に設けた収納溝に上下動可能に配置される下枠と、下枠を上下動させる昇降手段とを備え、下枠が上動すると、床面に下枠による段差部を形成する一方、下動すると、収納溝に収納されて床面に下枠による段差部を形成しないので、少なくとも非常時に昇降手段で下枠を下動し収納溝に収納することで、段差部を容易かつ迅速になくすことができる。このため、居室外への避難を、段差部が常にある窓枠を通過する場合に比べて容易かつ迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る建物用の窓枠およびこれを備えた窓の平常時における一例を示す図であり、(a)は正面図、(b)は(a)のA−A線に沿った側断面図である。
【図2】本発明に係る建物用の窓枠およびこれを備えた窓の火災時における一例を示す図であり、(a)は正面図、(b)は(a)のA−A線に沿った側断面図である。
【図3】従来の建物用の窓枠およびこれを備えた窓の一例を示す図であり、(a)は正面図、(b)は(a)のA−A線に沿った側断面図である。
【符号の説明】
【0029】
2 病室
4 バルコニー
6 床面
10 建物用の窓枠
12 窓ガラス
14 上枠
16 縦枠
18 収納溝
20 下枠
22 上下移動装置
24 段差部
26 チューブ
28 空気出入口
30 開口
32 空気連通管
100 窓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物に設けられる窓枠であって、床面に設けた収納溝に上下動可能に配置される下枠と、前記下枠を上下動させる昇降手段とを備え、前記下枠が上動すると、前記床面に前記下枠による段差部を形成する一方、下動すると、前記収納溝に収納されて前記床面に前記下枠による段差部を形成しないことを特徴とする建物用の窓枠。
【請求項2】
前記昇降手段は、前記収納溝内に設けられ、空気の供給により膨張して前記下枠を上動させる一方、排出により収縮して前記下枠を下動させる可撓性袋体と、前記袋体内に空気を供給または排出する孔とを含んで構成されることを特徴とする請求項1に記載の建物用の窓枠。
【請求項3】
前記孔の開閉を操作する操作部を、立位姿勢にある操作者の手の届く位置に配置したことを特徴とする請求項2に記載の建物用の窓枠。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一つに記載の建物用の窓枠と、この窓枠に装着した窓ガラスとを備えることを特徴とする窓。
【請求項5】
建物躯体に固定した上枠をさらに備え、前記下枠が下動すると、前記上枠と前記窓ガラスとの間に室内外を連通する火災時の排煙に供することができる開口を形成する一方、前記下枠は前記収納溝に収納されて前記床面に前記下枠による段差部を形成しないことを特徴とする請求項4に記載の窓。
【請求項6】
バルコニーと病室とを隔てて設置したことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の窓。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−127021(P2010−127021A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303895(P2008−303895)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】